(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態による水素量測定装置は、腐食に伴って金属試料に侵入する水素の量を測定する。水素量測定装置は、腐食環境生成装置と、試料ホルダと、測定装置とを備える。腐食環境生成装置は、腐食環境を生成するための第1空間を有する。試料ホルダは、腐食環境生成装置に配置され、腐食環境に曝される金属試料を保持する。測定装置は、試料ホルダに接続され、金属試料に侵入する水素の量を測定する。試料ホルダは、ホルダ部と、チャンバ部とを含む。ホルダ部は、金属試料が有する第1面を腐食環境に曝しつつ、金属試料を保持する。チャンバ部は、金属試料が有し且つ第1面とは異なる第2面に接する第2空間を有する。測定装置は、真空ポンプと、検出器とを含む。真空ポンプは、第2空間を真空状態にして、第1面から金属試料に侵入する水素を第2面から放出させる。検出器は、第2面から放出される水素を検出する。
【0014】
この場合、金属試料の第1面を腐食環境に曝しながら、金属試料の第2面から放出される水素の量を測定できる。そのため、昇温脱離法による場合と比べて、腐食に伴って金属試料に侵入した水素の量を測定する精度が向上する。
【0015】
好ましくは、金属試料は、金属板である。金属板の厚さ方向で、第1面の全体が第2面に重なる。
【0016】
この場合、第1面の一部が金属板の厚さ方向で第2面に重なる場合と比べて、腐食に伴って金属試料に侵入した水素の量を測定する精度がさらに向上する。
【0017】
好ましくは、腐食環境生成装置は、制御部をさらに備える。制御部は、腐食環境を制御する。制御部は、第2面から放出される水素の量を測定装置が測定しているときに、腐食環境を変化させる。
【0018】
この場合、金属試料に侵入する水素の量が腐食環境の変化に伴ってどのように変化するかを調べることができる。
【0019】
本発明の実施の形態による水素量測定方法は、上記水素量測定装置を用いる。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図中同一又は相当部分には、同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0021】
[実施の形態]
図1を参照しながら、本発明の実施の形態による水素量測定装置10について説明する。なお、以下に示す水素量測定装置10は、あくまでも一例であって、水素量測定装置10は、以下に示すものに限定されない。
【0022】
水素量測定装置10は、腐食に伴って金属試料20に侵入する水素の量を測定する。水素量測定装置10は、腐食環境生成装置12と、試料ホルダ14と、測定装置16とを備える。
【0023】
腐食環境生成装置12は、例えば、複合サイクル腐食試験機である。腐食環境生成装置12は、第1空間18を有する。第1空間18は、例えば、腐食環境生成装置12が有する試験槽内に形成され、外部から隔離される。
【0024】
試料ホルダ14は、腐食環境生成装置12に配置され、金属試料20を保持する。このとき、金属試料20は、第1空間18に配置される。なお、本実施形態では、金属試料20は、金属板であり、円板形状を有する。
【0025】
測定装置16は、例えば、リークディテクタである。測定装置16は、試料ホルダ14に接続される。測定装置16は、金属試料20に侵入する水素の量を測定する。
【0026】
図2を参照しながら、腐食環境生成装置12について説明する。腐食環境生成装置12は、制御部22、温度調整部24、湿度調整部26及び噴霧調整部28をさらに備える。
【0027】
制御部22は、温度調整部24、湿度調整部26及び噴霧調整部28を制御する。温度調整部24は、第1空間18の温度を調整する。湿度調整部26は、第1空間18の湿度を調整する。噴霧調整部28は、金属試料20に試験溶液を噴霧する。試験溶液は、例えば、塩水である。塩水は、例えば、中性であってもよいし、酸性であってもよい。
【0028】
温度調整部24、湿度調整部26及び噴霧調整部28を制御部22が制御することにより、第1空間18に腐食環境が生成される。腐食環境は、金属試料20を腐食させるために生成される。
【0029】
制御部22は、温度調整部24、湿度調整部26及び噴霧調整部28を制御することにより、腐食環境を変化させてもよい。腐食環境は、測定装置16が金属試料20に侵入する水素の量を測定するときに変化させてもよいし、測定装置16が金属試料20に侵入する水素の量を測定していないときに変化させてもよい。
【0030】
図3を参照しながら、試料ホルダ14について説明する。試料ホルダ14は、チャンバ部30と、ホルダ部32とを備える。
【0031】
チャンバ部30は、本体34と、蓋36とを備える。本体34は、筒形状を有する。蓋36は、本体34の軸方向一端の開口を覆う。本体34の内側に、第2空間38が形成される。
【0032】
ホルダ部32は、第1ホルダ部40と、第2ホルダ部42とを備える。第1ホルダ部40は、本体34の軸方向他端に形成される。第1ホルダ部40は、第1内周面40Aと、第2内周面40Bと、段差面40Cとを備える。
【0033】
第1内周面40Aは、第2内周面40Bよりも蓋36の近くに配置される。第1内周面40Aは、本体34の軸方向に延びる。第1内周面40Aは、本体34の内周面34Aに対して、本体34の軸方向で滑らかに接続される。つまり、第1内周面40Aの径は、本体34の径と同じである。
【0034】
第2内周面40Bは、第1内周面40Aよりも蓋36から離れて配置される。第2内周面40Bは、本体34の軸方向に延びる。第2内周面40Bは、第1内周面40Aよりも大きな径を有する。
【0035】
段差面40Cは、本体34の軸方向に対して交差する方向に広がる。段差面40Cは、第1内周面40Aの軸方向他端と、第2内周面40Bの軸方向一端とを接続する。
【0036】
第2ホルダ部42は、本体34の軸方向で第1ホルダ部40に重ねて配置される。第2ホルダ部42は、円環形状を有する。つまり、第2ホルダ部42は、本体34の軸方向に延びる内周面を有する。
【0037】
第1ホルダ部40と、第2ホルダ部42との間に、金属試料20が配置される。具体的には、段差面40Cと第2ホルダ部42の軸方向一端面とにより、金属試料20の外周縁部が挟まれる。その結果、金属試料20がホルダ部32によって保持される。
【0038】
このとき、金属試料20が有する第1面20Aは、第1空間18に接する。つまり、第1面20Aは、腐食環境に曝される。本実施形態では、第1面20Aは、金属試料20の厚さ方向一方の面の一部である。
【0039】
また、金属試料20が有する第2面20Bは、第2空間38に接する。本実施形態では、第2面20Bは、金属試料20の厚さ方向他方の面の一部である。
【0040】
第1面20Aは、第2面20Bと同じ大きさを有する。本体34の軸方向から見て、第1面20Aの全体が第2面20Bに重なる。
【0041】
ホルダ部32が金属試料20を保持しているとき、第1面20Aは、例えば、鉛直方向に対して交差する方向に広がる。
【0042】
図4を参照しながら、測定装置16について説明する。測定装置16は、検出器50と、第1の真空ポンプ56と、第2の真空ポンプ60とを備える。
【0043】
検出器50は、磁場偏向型の質量分析管である。質量分析管は、イオンソースと、マグネットと、イオンコレクタとを備える。イオンソースは、フィラメントと、グリッドとを有し、質量分析管に導入されるガスをイオン化する。マグネットは、イオンソースによって生成される正イオンのうち、水素イオンのみをイオンコレクタへ導く。イオンコレクタは、水素イオンを捕集する。イオンコレクタに設けられた電流計により、イオンコレクタを流れるイオン電流が検出される。
【0044】
検出器50には、管路54が接続される。管路54には、第1の真空ポンプ56と、第2の真空ポンプ60とが設けられる。第2の真空ポンプ60は、フォアバルブ58を介して、第1の真空ポンプ56の背圧側に接続される。第1の真空ポンプ56は、複合分子ポンプである。複合分子ポンプは、例えば、ターボ分子ポンプと、ドラッグポンプとを内蔵する。第2の真空ポンプ60は、ロータリーポンプであるが、例えば、メンブレンポンプであってもよい。
【0045】
測定装置16は、排気管路62をさらに備える。排気管路62の一端は、
図1にも示すように、試料ホルダ14に接続される。排気管路62の他端は、バルブ64を介して、第2の真空ポンプ60に接続される。排気管路62には、第1の導入管路66及び第2の導入管路68が接続される。第1の導入管路66及び第2の導入管路68は、それぞれ、第1の真空ポンプ56に接続される。第1の導入管路66には、バルブ70が配置される。第2の導入管路66には、バルブ72が配置される。第1の導入管路66が第1の真空ポンプ56に接続される位置と、第2の導入管路68が第1の真空ポンプ56に接続される位置とでは、第1の真空ポンプ56の圧縮比が異なる。排気管路62には、真空計74が接続される。真空計74は、バルブ58,64,70,72の開閉を制御するために利用される。なお、図示はしていないが、排気管路62には、測定装置16の起動時に校正を行うための標準リークやベントバルブが接続される。
【0046】
続いて、水素量測定装置10を用いる水素量測定方法について説明する。水素量測定方法は、準備工程と、測定工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0047】
[準備工程]
先ず、試料ホルダ14により、金属試料20を保持する。続いて、腐食環境を第1空間18に生成する。これにより、第1面20Aが腐食環境に曝される。その結果、第1面20Aが腐食する。
【0048】
[測定工程]
第1面20Aが腐食環境に曝されているときに、第2空間38を真空状態にする。具体的には、第1の真空ポンプ56及び第2の真空ポンプ60により、第2空間38を真空状態にする。これにより、第1面20Aから金属試料20に侵入する水素が、第2面20Bから放出される。また、第2面20Bから放出される水素は、検出器50に導入され、検出器50で検出される。この検出結果を利用すれば、腐食に伴って金属試料20に侵入する水素の量を測定できる。
【0049】
水素量測定装置10においては、第1面20Aを腐食環境に曝しながら、第2面20Bから放出される水素の量を検出できる。そのため、昇温脱離法による場合と比べて、腐食に伴って金属試料20に侵入した水素の量を測定する精度が向上する。
【0050】
加えて、水素測定装置10においては、腐食に伴って金属試料20に侵入した水素の量の継時変化を精度良く測定できる。なぜなら、従来のように、複数の金属試料を複合サイクル腐食試験機内に配置し、所定時間ごとに試験機を開閉して金属試料を1つずつ取り出す必要がないからである。
【0051】
本体34の軸方向から見て、第1面20Aの全体が第2面20Bに重なる。そのため、本体34の軸方向から見て、第1面20Aの一部が第2面20Bに重なる場合と比べて、腐食に伴って金属試料20に侵入する水素の全てを検出し易くなる。
【0052】
測定装置16が第2面20Bから放出される水素の量を測定しているときに、制御部20が腐食環境を変化させてもよい。この場合、金属試料20に侵入する水素の量が腐食環境の変化に伴ってどのように変化するかを調べることができる。
【0053】
図5を参照しながら、測定装置16が第2面20Bから放出される水素の量を測定しているときに、制御部20が腐食環境を変化させる場合について説明する。
図5は、制御部20が腐食環境を変化させた場合に、測定装置16が測定した水素の量を示すグラフである。グラフの横軸は、時間を示す。グラフの縦軸は、測定した水素の量を示す。
図5に示す例では、腐食環境は、第1の腐食環境から第2の腐食環境に変化し、その後、第1の腐食環境に戻っている。第1の腐食環境では、第1空間18の温度35℃に維持しつつ、金属試料20に塩水(濃度:5%)を噴霧する。第2の腐食環境では、第1空間18の温度を60℃に維持し、且つ、湿度を25%に維持する。
【0054】
図5に示すように、第1の腐食環境から第2の腐食環境に変化すると、つまり、金属試料20に付着した塩水が乾燥すると、金属試料20が腐食し、それに伴って、金属試料20に侵入する水素の量が増えるのを確認できる。具体的には、第2の腐食環境に変化してから約4時間後に水素量がピークに達するのを確認できる。水素量は、ピークに達するまでは急激に増えるが、ピークに達した後は緩やかに減少するのを確認できる。第2の腐食環境から第1の腐食環境に戻ると、水素量が極端に少なくなるのを確認できる。
【0055】
このように、水素量測定装置10においては、測定装置16が第2面20Bから放出される水素の量を測定しているときに、制御部20が腐食環境を変化させることにより、金属試料20に侵入する水素の量が腐食環境の変化に伴ってどのように変化するかを調べることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について、詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施形態によって、何等、限定されない。
【0057】
例えば、上記実施の形態では、金属試料が平らな金属板(平板)である場合について説明したが、金属試料は平板でなくてもよい。例えば、金属試料は、金属板をプレス成形した成形体であってもよい。あるいは、筒状の金属材(例えば、円柱状の金属材を刳り貫いたもの)であってもよい。金属試料が筒状の場合、例えば、第1面は外周面であり、第2面は内周面である。金属試料において、第2面は第1面に対して平行であることが好ましい。この場合、水素量を測定する精度が向上する。また、金属試料の厚さは、水素量を測定する位置において、10mm以下であるのが好ましい。