特許第6135324号(P6135324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135324
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】色覚補綴装置及び色覚補綴方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20170522BHJP
   A61B 3/06 20060101ALI20170522BHJP
   A61B 5/0476 20060101ALI20170522BHJP
   A61F 9/08 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61B3/10 EZDM
   A61B3/06 B
   A61B5/04 320A
   A61F9/08
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-127641(P2013-127641)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-300(P2015-300A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100148183
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 秀顕
(72)【発明者】
【氏名】小池 康晴
【審査官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−040028(JP,A)
【文献】 特開2013−011877(JP,A)
【文献】 米国特許第04564022(US,A)
【文献】 特表2007−528022(JP,A)
【文献】 特開2010−264777(JP,A)
【文献】 橋本光太郎,色の異なる点滅光刺激に対する視覚誘発脳波特性,第4回生活支援工学系学会連合大会講演予稿集,2006年 9月11日,pp. 90
【文献】 岩本 雅史,2色交互呈示法による色覚誘発脳波の研究,電子情報通信学会技術研究報告,1988年 2月19日,Vol. 87、No. 382,pp. 57-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/06
A61B 3/10
A61B 5/0476
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる色で彩色された複数の視覚オブジェクトの夫々を、前記異なる色の視覚オブジェクト毎に、一定時間点灯したのち消灯する表示を繰り返し行う視覚オブジェクト表示部と、
前記視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設された検出電極を介して電気信号として取得する脳波信号取得部と、
前記脳波信号取得部により取得された電気信号に基づいて、前記ユーザの色覚異常の形態を示す色弱形態を特定する色弱形態特定部と、
前記色弱形態特定部により特定された前記ユーザの色弱形態に基づいて、前記ユーザの色覚を補綴する色覚補綴情報を生成する色覚補綴情報生成部と、
を備える色覚補綴装置。
【請求項2】
前記色弱形態特定部は、前記異なる色の視覚オブジェクトのうちの基準となる基準視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号に基づいて、前記基準視覚オブジェクトとは異なる色の視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号の相対強度を演算し、前記相対強度に基づいて前記色弱形態を特定する請求項1に記載の色覚補綴装置。
【請求項3】
前記色弱形態特定部は、前記ユーザの脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップと、予め記憶されてある色覚異常でない者の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップとを比較して、前記ユーザの色弱形態を特定する請求項2に記載の色覚補綴装置。
【請求項4】
前記検出電極が前記ユーザの後頭部に付設される請求項1から3のいずれか一項に記載の色覚補綴装置。
【請求項5】
前記電気信号が定常性視覚誘発電位信号である請求項1から4のいずれか一項に記載の色覚補綴装置。
【請求項6】
前記色覚補綴情報は、前記ユーザにとって色覚異常対象である色を、前記ユーザが認識可能な色に変換する変換キーである請求項1から5のいずれか一項に記載の色覚補綴装置。
【請求項7】
前記色覚補綴情報生成部により生成された色覚補綴情報に基づいて、表示装置に表示する色覚が補綴された色覚補綴画像を生成する画像生成部を備える請求項1から6のいずれか一項に記載の色覚補綴装置。
【請求項8】
前記色覚補綴情報生成部により生成された色覚補綴情報が、外部記憶媒体及び通信の少なくとも一方により前記画像生成部に伝達される請求項7に記載の色覚補綴装置。
【請求項9】
前記表示装置は車両に備えられてある請求項7又は8に記載の色覚補綴装置。
【請求項10】
前記表示装置は前記ユーザの顔に装着する眼鏡型端末である請求項7から9のいずれか一項に記載の色覚補綴装置。
【請求項11】
異なる色で彩色された複数の視覚オブジェクトの夫々を、前記異なる色の視覚オブジェクト毎に、一定時間点灯したのち消灯する表示を繰り返し行う視覚オブジェクト表示工程と、
前記視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設された検出電極を介して電気信号として取得する脳波信号取得工程と、
前記脳波信号取得工程において取得された電気信号に基づいて、前記ユーザの色覚異常の形態を示す色弱形態を特定する色弱形態特定工程と、
前記色弱形態特定工程において特定された前記ユーザの色弱形態に基づいて、前記ユーザの色覚を補綴する色覚補綴情報を生成する色覚補綴情報生成工程と、
を備える色覚補綴方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認識し難い色を有するユーザの色覚を補綴する色覚補綴装置及び色覚補綴方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物は、物体から放射された光や、物体で反射された光を目で受容し、脳で信号処理することにより物体の知覚を行っている。例えば、人の目の網膜には、暗い場所で機能する桿体と明るい場所で機能する錘体との2種類の視細胞がある。錘体視細胞は3種類あり、夫々赤色、緑色、青色の光を受容する。物体の色の正確な知覚は、このような錘体視細胞の3原色(赤色、緑色、青色)の受容により実現される。しかしながら、錘体視細胞の一部又は全てを先天的に有さない人が存在する。このような人は、全種類(3種類)の錘体視細胞を有する人に比べて、先天的に色覚異常を有することとなる。また、色覚異常は、例えば白内障、視神経の損傷、心理的ストレスにより後天的にも起こり得る。このような色覚の異常を診断する手法として、色覚検査表による診断や、アノマロスコープによる診断や、特許文献1に記載の技術を用いた診断がある。
【0003】
色覚検査表による診断やアノマロスコープによる診断は、所定の指標を被験者に見せ、どのように見えるかを被験者が言うものである。このため、判定結果に被験者の主観が入ることがあるので、適切に判定できるとは言い難い。また、特許文献1に記載の色覚能力測定装置は、所定のカラーバーを被験者に見せ、白色のバーと、最初に彩色されていると認識したカラーバーとを被験者に選択させる。この選択を所定回数行って検出閾値と分散とを算出し、この検出閾値と分散とに基づいて色覚を検査する。この技術によれば、被験者が知覚できる色を適切に判定することができるが、どのように見えているかまでは特定することができない。このため、色覚検査表による診断や、アノマロスコープによる診断や、特許文献1に記載の技術は、被験者の色覚を適切に補綴するのに利用できるものではなかった。
【0004】
そこで、色覚異常を補綴する技術として下記に出展を示す特許文献2−5に記載されるものがある。特許文献2に記載の技術は、色盲の人が指示した区別できない画像部分を、区別可能とするために色相成分を変更するものである。特許文献3に記載の技術は、使用者の色覚特性に応じて、ビジュアルコンテンツを変換するものである。特許文献4に記載の技術は、色弱者が識別可能に設定された補正色を組み合わせて提示するものである。特許文献5に記載の技術は、被験者の脳活動状態を表す複数の状態ベクトルが脳計測装置により測定され、この特定結果に応じて次回に入力される目標環境ベクトルを調節するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−130304号公報
【特許文献2】特表2009−530985号公報
【特許文献3】特表2005−524154号公報
【特許文献4】特開2010−264777号公報
【特許文献5】特開2009−50474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特に後天的な色覚異常は、その強度が月日の経過に伴い変化することがある。このため、特許文献2−4に記載の技術は、色覚能力の診断結果が取得された時点から時間が経過している場合には、現在の色覚異常を適切に補綴することができないことが想定される。一方、特許文献5に記載の技術は、神経活動又は脳血流計測装置を用いて五感情報を総合的に判定し、環境調節を行うものである。このため、判定に時間を要し、利用に際し煩わしさが生じる。
【0007】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、簡便に、且つ、適切に色覚異常を補綴することが可能な色覚補綴装置及びそのような方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る色覚補綴装置の特徴構成は、異なる色で彩色された複数の視覚オブジェクトの夫々を、前記異なる色の視覚オブジェクト毎に、一定時間点灯したのち消灯する表示を繰り返し行う視覚オブジェクト表示部と、前記視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設された検出電極を介して電気信号として取得する脳波信号取得部と、前記脳波信号取得部により取得された電気信号に基づいて、前記ユーザの色覚異常の形態を示す色弱形態を特定する色弱形態特定部と、前記色弱形態特定部により特定された前記ユーザの色弱形態に基づいて、前記ユーザの色覚を補綴する色覚補綴情報を生成する色覚補綴情報生成部と、を備えている点にある。
【0009】
このような特徴構成とすれば、ユーザの色覚に起因する脳波に基づいて色弱形態を特定することができるので、ユーザの色弱形態を正確、且つ、定量的に判定することが可能となる。このため、判定結果に基づいて、そのユーザに適した色覚補綴情報を生成することができるので、ユーザが見え難い色を見え易い色に変換することができる。このように本発明によれば、簡便に、且つ、適切に色覚異常を補綴することが可能となる。
【0010】
また、前記色弱形態特定部は、前記異なる色の視覚オブジェクトのうちの基準となる基準視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号に基づいて、前記基準視覚オブジェクトとは異なる色の視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号の相対強度を演算し、前記相対強度に基づいて前記色弱形態を特定すると好適である。
【0011】
このような構成とすれば、複数の視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号を、そのユーザの脳波に基づく電気信号を基準として相対的に評価することができる。したがって、ユーザの色弱形態を適切に特定することが可能となる。
【0012】
また、前記色弱形態特定部は、前記ユーザの脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップと、予め記憶されてある色覚異常でない者の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップとを比較して、前記ユーザの色弱形態を特定すると好適である。
【0013】
このような構成とすれば、ユーザの強度マップを予め記憶されている色覚異常でない者の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップと比較するだけで良いので、双方の強度マップの差異を容易に判定することができる。したがって、ユーザが見え難い色を見落とすことなく、ユーザの色弱形態を容易に特定することが可能となる。
【0014】
また、前記検出電極が前記ユーザの後頭部に付設されると好適である。
【0015】
例えば、人の後頭葉には、大脳皮質のうちで視覚に直接関係のある視覚野がある。このため、本構成とすれば、後頭葉がある後頭部周辺に検出電極を配置することが可能となる。したがって、ユーザが視覚オブジェクトを見た際に視覚野から発せられる脳波を検出し易くできるので、ユーザ固有の色覚異常部位を特定し易くすることができる。
【0016】
また、前記電気信号が定常性視覚誘発電位信号であると好適である。
【0017】
このような構成とすれば、脳波を適切に解析してユーザの色弱形態を特定することができる。このため、ユーザ固有の色覚異常部位が定常性視覚誘発電位信号のスペクトル表示時に対応する周波数にピークとして明確に表示させることができる。したがって、ユーザの色覚を補綴する色覚補綴情報を適切に生成することが可能となる。
【0018】
また、前記色覚補綴情報は、前記ユーザにとって色覚異常対象である色を、前記ユーザが認識可能な色に変換する変換キーであると好適である。
【0019】
このような構成とすれば、色覚補綴情報を利用するデバイスが容易に色覚異常対象である色を視認可能な色に変換することが可能となる。
【0020】
また、前記色覚補綴情報生成部により生成された色覚補綴情報に基づいて、表示装置に表示する色覚が補綴された色覚補綴画像を生成する画像生成部を備えると好適である。
【0021】
このような構成とすれば、ユーザが見え難い色があったとしても、色覚補綴画像をデバイスに表示することができるので、ユーザが画像を視認し易くすることが可能となる。
【0022】
また、前記色覚補綴情報生成部により生成された色覚補綴情報が、外部記憶媒体及び通信の少なくとも一方により前記画像生成部に伝達されると好適である。
【0023】
このような構成とすれば、色覚補綴情報を他のデバイスで容易に利用することができる。したがって、ユーザの色覚について詳細な解析や診断することにも利用することができる。
【0024】
また、前記表示装置は車両に備えられてあると好適である。
【0025】
このような構成とすれば、車両の表示装置に表示される表示をユーザに見え易くすることができる。したがって、例えば表示装置に車両の周辺を表示し、周辺監視を行う場合であっても、ユーザの色覚に起因した見落としを防止できる。
【0026】
また、前記表示装置は前記ユーザの顔に装着する眼鏡型端末であると好適である。
【0027】
このような構成とすれば、ユーザが必要に応じて眼鏡型端末を装着することができるので、必要に応じて色覚補綴を行うことが可能となる。
【0028】
また、上記目的を達成するための本発明に係る色覚補綴方法の特徴構成は、異なる色で彩色された複数の視覚オブジェクトの夫々を、前記異なる色の視覚オブジェクト毎に、一定時間点灯したのち消灯する表示を繰り返し行う視覚オブジェクト表示工程と、前記視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザの脳波を、前記ユーザの頭部に付設された検出電極を介して電気信号として取得する脳波信号取得工程と、前記脳波信号取得工程において取得された電気信号に基づいて、前記ユーザの色覚異常の形態を示す色弱形態を特定する色弱形態特定工程と、前記色弱形態特定工程において特定された前記ユーザの色弱形態に基づいて、前記ユーザの色覚を補綴する色覚補綴情報を生成する色覚補綴情報生成工程と、を備えている点にある。
【0029】
このような特徴構成とすれば、上述した色覚補綴装置の特徴構成と同様に、正確、且つ、定量的にユーザの色弱形態を判定することができる。したがって、そのユーザに適した色覚補綴情報を生成することができるので、当該色覚補綴情報に基づいてユーザが見え難い色を変換することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】色覚補綴装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図2】視覚オブジェクトの表示形態を示す図である。
図3】定常性視覚誘発電位信号を示す図である。
図4】定常性視覚誘発電位信号を示す図である。
図5】定常性視覚誘発電位信号を示す図である。
図6】「P型」の相対強度及び強度マップを示した図である。
図7】「D型」の相対強度及び強度マップを示した図である。
図8】「C型」の相対強度及び強度マップを示した図である。
図9】画像生成部により生成された色覚補綴画像の例を示す図である。
図10】その他の実施形態に係る表示装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
例えば、人を例に考えた場合、上述のように錘体視細胞には赤色、緑色、青色の3種類がある。色覚健常者は「C型」(Common-Type)と称され、赤色を受容する錘体視細胞を欠失した色覚異常者は「P型」(Protanope-Type)と称され、緑色を受容する錘体視細胞を欠失した色覚異常者は「D型」(Deuteranope-Type)と称される。例えば「P型」の人は赤色が黒っぽく見えたり、「D型」の人は緑が茶色っぽく見えたりする。このように「P型」及び「D型」の人は、「C型」の人よりも色を認識し難い傾向にある。そこで、本発明に係る色覚補綴装置は、認識し難い色を有するユーザ1の色覚を補綴する機能を備えて構成される。以下、本実施形態の色覚補綴装置100について説明する。
【0032】
図1には、色覚補綴装置100の構成を模式的に示したブロック図が示される。図1に示されるように、色覚補綴装置100は、色覚診断装置200、色覚補綴情報生成部14、画像生成部15の各機能部を備えて構成される。色覚診断装置200は、後述するようにユーザ1が見え難い色を特定する装置であり、視覚オブジェクト表示部11、脳波信号取得部12、色弱形態特定部13を備えて構成される。上述した各機能部はCPUを中核部材として、色覚異常者の色覚を補綴する種々の処理を行うための上述の機能部がハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0033】
視覚オブジェクト表示部11は、異なる色で彩色された複数の視覚オブジェクトの夫々を、当該異なる色の視覚オブジェクト毎に、一定時間点灯したのち消灯する表示を繰り返し行う。異なる色とは、本実施形態では「白(波長:400−750nm)」、「赤(波長:635−700nm)」、「黄(波長:560−590nm)」、「緑(波長:490−560nm)」、「シアン(波長域の特定不可)」、「青(波長:450−490nm)」、「マゼンダ(波長域の特定不可)」の7種類をいう。視覚オブジェクトとは、被験者たるユーザ1が認識し難い色を特定するためにユーザ1に見せる画像である。本実施形態では、視覚オブジェクトは、下地(背景)が「黒」の画像の中央部に形成された四角形で囲まれた領域を上述した7種類のうちの一色を用いて塗られたものからなる。したがって、本実施形態では、視覚オブジェクトは7種類を有してなる。一定時間点灯したのち消灯する表示とは、視覚オブジェクトと「黒」の表示を所定の周期で交互に表示すること、すなわち、所定の周期で視覚オブジェクトが点滅するように表示することをいう。視覚オブジェクト表示部11は、このような点滅表示を7種類の視覚オブジェクト毎に行う。なお、視覚オブジェクトの形は円や三角形または動物の形など色々な形にすることも可能であり、係る場合、子供でもより楽しく診断を受けることが可能となる。
【0034】
図2には、視覚オブジェクト表示部11による視覚オブジェクトの表示例が示される。このような視覚オブジェクトの表示は、ユーザ1が視認可能にユーザ1の前に配置されたモニタ20に対して行われる。まず、準備期間として所定時間(例えば5秒間)の間、「黒」表示をモニタ20に行う(ステップ#01)。そして、ユーザ1が視点を定め易くするために、固視期間として、画面中央に所定の形状(例えば、白十字)を有する画面を所定時間(例えば5秒間)の間、表示する(ステップ#02)。その後、「白」の視覚オブジェクトを所定の周期(例えば20Hz)で所定時間(例えば5秒間)の間、表示する(ステップ#03)。
【0035】
その後、準備期間の「黒」表示(ステップ#04)及び固視期間の「白十字」表示を行い(ステップ#05)、「赤」の視覚オブジェクトを所定の周期(例えば20Hz)で所定時間(例えば5秒間)の間、表示する(ステップ#06)。以下、同様に、「黄」の視覚オブジェクトの点滅表示(ステップ#09)、「緑」の視覚オブジェクトの点滅表示(ステップ#12)、「シアン」の視覚オブジェクトの点滅表示(ステップ#15)、「青」の視覚オブジェクトの点滅表示(ステップ#18)、「マゼンダ」の視覚オブジェクトの点滅表示(ステップ#21)を行う。視覚オブジェクト表示部11はこのような一連の表示を行う。このような異なる色で彩色された複数の視覚オブジェクトの夫々を、当該異なる色の視覚オブジェクト毎に、一定時間点灯したのち消灯する表示を繰り返し行う工程は視覚オブジェクト表示工程と称される。
【0036】
図1に戻り、脳波信号取得部12は、視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザ1の脳波を、ユーザ1の頭部に付設された検出電極30を介して電気信号として取得する。視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザ1の脳波とは、上述した視覚オブジェクト表示部11によりモニタ20に表示された一連の視覚オブジェクトを見た際のユーザ1の脳波をいう。本実施形態では、このような脳波を検出するために、検出電極30がユーザ1の後頭部に付設される。本実施形態では、検出電極30は、ユーザ1の後頭部における視覚野周辺の3箇所に亘って付設される。視覚野とは、大脳皮質のうちで視覚に直接関係のある部分であり、後頭葉にある。検出電極30は、ユーザ1が視覚オブジェクトを見た際に視覚野から発せられる脳波を検出し易いように、後頭部に付設される。
【0037】
また、電気信号の基準電位を確定させるために、ユーザ1の頭の頂部に基準電極31が付設される。本実施形態では、検出電極30を介して取得される電気信号は、周波数分析が行われ、図3図5のような定常性視覚誘発電位信号として示される。図3は「C型」の人が、上述した7種類の視覚オブジェクトを見た際に取得された定常性視覚誘発電位であり、後頭部に付設された3つの検出電極30の電気信号の平均を示したものである。同様に、図4は「P型」の人の定常性視覚誘発電位であり、図5は「D型」の人の定常性視覚誘発電位である。
【0038】
図3図5に示される例では、上述のように視覚オブジェクト表示部11が20Hzで点滅されるので、20Hzにピークが見られる。また、逓倍の10Hz及び40Hzにおいてもピークが見られる。脳波信号取得部12は、7種類の視覚オブジェクトをユーザ1が見た際の定常性視覚誘発電位からなる電気信号を取得する。このような定常性視覚誘発電位は、後述する色弱形態特定部13に伝達される。このような視覚オブジェクトの夫々を見た際のユーザ1の脳波を、ユーザ1の頭部に付設された検出電極30を介して電気信号として取得する工程は脳波信号取得工程と称される。
【0039】
図1に戻り、色弱形態特定部13は、脳波信号取得部12により取得された電気信号に基づいて、ユーザ1の色覚異常の形態を示す色弱形態を特定する。脳波信号取得部12により取得された電気信号等は、本実施形態では上述した定常性視覚誘発電位信号である。ユーザ1の色覚異常の形態を示す色弱形態とは、上述の「P型」や「C型」をいう。もちろん、他の「型」であっても良いし、具体的に見え難い色を示すような形態とすることも可能である。
【0040】
本実施形態では、色弱形態特定部13は、異なる色の視覚オブジェクトのうちの基準となる基準視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号に基づいて、基準視覚オブジェクトとは異なる色の視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号の相対強度を演算し、当該相対強度に基づいて色弱形態を特定する。異なる色の視覚オブジェクトとは、7種類の視覚オブジェクトである。基準視覚オブジェクトとは、7種類のうちの「白」の視覚オブジェクトである。色弱形態特定部13は、このような「白」の視覚オブジェクトを見た際に取得された定常性視覚誘発電位信号の強度を基準として、他の色の視覚オブジェクトを見た際に取得された定常性視覚誘発電位信号の強度を正規化し、相対強度を演算する。このように演算して求めた相対強度の例が図6の(a)及び図7の(a)に示される。
【0041】
色弱形態特定部13は、ユーザ1の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップと、予め記憶されてある色覚異常でない者の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップとを比較して、ユーザ1の色弱形態を特定する。ユーザ1の脳波に基づく相対強度とは、図6の(a)や図7の(a)に示される。相対強度を用いて作製した強度マップとは、基準視覚オブジェクトである「白」の視覚オブジェクト以外の視覚オブジェクトを見た際の相対強度を六角形の中心と各頂点とを結ぶ軸の夫々に対してプロットしたマップである。図6の(a)の相対強度を用いて作製した強度マップが図6の(b)に示され、図7の(a)の相対強度を用いて作製した強度マップが図7の(b)に示される。
【0042】
また、予め記憶されてある色覚異常でない者の脳波に基づく相対強度とは、予め「C型」であると判っている人の脳波に基づく相対強度をいい、このような相対強度が図8の(a)に示され、また、この相対強度を用いて作製した強度マップが図8の(b)に示される。このような「C型」の強度マップは予め色弱形態特定部13に記憶されている。
【0043】
色弱形態特定部13は、このように予め記憶されている「C型」の強度マップと、被験者たるユーザ1に基づく強度マップとを比較してユーザ1の色弱形態を特定する。具体的には、図6の(b)と図8の(b)との夫々の強度マップを比較する。この場合、互いに「黄」、「緑」、「シアン」の相対強度に差異はないが、「赤」、「青」、「マゼンダ」の相対強度が低い。係る場合、色弱形態特定部13は、図6の(b)の強度マップに係るユーザ1の色弱形態を「P型」であると特定する。また、図7の(b)の場合には、互いに「黄」、「緑」の相対強度に大きな差異はないが、「シアン」、「青」、「マゼンダ」の相対強度が低く、「赤」の相対強度が大きい。係る場合、色弱形態特定部13は、図7の(b)の強度マップに係るユーザ1の色弱形態を「D型」であると特定する。色弱形態特定部13による特定結果は、後述する色覚補綴情報生成部14に伝達される。このような脳波信号取得工程により取得された電気信号に基づいて、ユーザ1の色覚異常の形態を示す色弱形態を特定する工程は色弱形態特定工程と称される。なお、図6図8の(a)には、10回分の試験にて行われたデータが含まれる。なお、色弱形態特定部13の代わりに第三者(主に医療従事者)が強度マップを視察して、ユーザの色覚異常形態を決定する構成とすることも可能である。
【0044】
色覚補綴情報生成部14は、色弱形態特定部13により特定されたユーザ1の色弱形態に基づいて、ユーザ1の色覚を補綴する色覚補綴情報を生成する。色弱形態特定部13により特定されたユーザ1の色弱形態とは、上述の「P型」や「D型」等の特定結果である。ユーザ1の色覚を補綴するとは、ユーザ1が見え難い色を見え易くすることを言う。本実施形態では、色覚補綴情報とは、ユーザ1にとって色覚異常対象である色を、ユーザ1が認識可能な色に変換する変換キーが相当する。すなわち、「P型」の場合には「黄」や「緑」に近い色に変換したり、「D型」の場合には「黄」や「緑」や「赤」に近い色に変換したりすることが示された変換コードに相当する。このような色覚補綴情報は、後述する画像生成部15に伝達される。このような色弱形態特定工程により特定されたユーザ1の色弱形態に基づいて、ユーザ1の色覚を補綴する色覚補綴情報を生成する工程は色弱形態特定工程と称される。
【0045】
画像生成部15は、色覚補綴情報生成部14により生成された色覚補綴情報に基づいて、表示装置40に表示する色覚が補綴された色覚補綴画像を生成する。本実施形態では、表示装置40は車両50に備えられ、例えば車両50の備えられたカメラにより撮像された画像を表示したり、カーナビゲーション等の道路案内を表示したりするモニタが相当する。色覚が補綴された色覚補綴画像とは、色覚異常者が見え難い色を見え易い色に変換した画像である。具体的には、色覚補綴情報で説明したように、「P型」の場合には「黄」や「緑」に近い色にし、「D型」の場合には「黄」や「緑」や「赤」に近い色にした画像である。画像生成部15は、このような色覚補綴画像を色覚補綴情報に基づいて生成する。このような色覚補綴情報生成工程により生成された色覚補綴情報に基づいて、表示装置40に表示する色覚が補綴された色覚補綴画像を生成する工程は画像生成工程と称される。
【0046】
本実施形態では、画像生成部15は表示装置40の近傍、すなわち車両50に備えられる。このため、色覚補綴情報生成部14により生成された色覚補綴情報は、通信により画像生成部15に伝達される。係る場合、CAN(Controller Area Network)等により色覚補綴情報生成部14から画像生成部15に伝達することが可能である。あるいは、車両50のキーが所謂スマートキーである場合には、色覚補綴情報をスマートキーに記憶させ、ユーザ1が車両50に乗り込んだ際にスマートキーを介して画像生成部15が色覚補綴情報を取得する構成とすることも可能である。更には、色覚補綴情報を書き込んだチップ等をユーザ1が所持し、ユーザ1が車両50に乗り込んだ際に当該チップ等を介して画像生成部15が色覚補綴情報を取得する構成とすることも可能である。もちろん、色覚補綴情報は、メモリ等の外部記憶媒体を介して画像生成部15に伝達することも可能である。このような色覚補綴情報生成部14により生成された色覚補綴情報を通信により画像生成部15に伝達する工程は色覚補綴情報伝達工程と称される。
【0047】
図9(a)にはユーザ1が見えている画像が示され、図9(b)には図9(a)の画像に対する画像生成部15により生成された色覚補綴画像が示される。図9(a)においては、ユーザ1が見え難い色に起因して領域Aと領域Bとの境界が判別し難い状態となっている。このため、ユーザ1は図9(a)の画像を見た際に、何が描かれているのかを迅速に認識することが容易ではない。しかしながら、図9(b)の色覚補綴画像では領域Aがユーザ1が見え易い色に置換され、領域Aと領域Bとの境界が判別し易くなっている。このため、ユーザ1は図9(b)の色覚補綴画像を見た際には、何が描かれているのかを迅速に認識することができる。このように本色覚補綴装置100によれば、ユーザ1が見え難い色を見え易い色に補綴することが可能となる。
【0048】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、視覚オブジェクトが7種類からなるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、「白」、「赤」、「緑」、「青」の4種類から構成しても良いし、「赤」、「緑」、「青」の3種類から構成しても良い。また、その他の色を用いて構成することも当然に可能である。
【0049】
上記実施形態では、色弱形態特定部13は、基準視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号に基づいて、基準視覚オブジェクトとは異なる色の視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号の相対強度を演算し、当該相対強度に基づいて色弱形態を特定するとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。相対強度に基づいて色弱形態を特定する構成ではなく、視覚オブジェクトを見た際に取得された電気信号の絶対値により色弱形態を特定する構成とすることも当然に可能である。
【0050】
上記実施形態では、色弱形態特定部13は、ユーザ1の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップと、予め記憶されてある色覚異常でない者の脳波に基づく相対強度を用いて作製した強度マップとを比較して、ユーザ1の色弱形態を特定するとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。強度マップを作製することなく、脳波に基づく相対強度を直接比較してユーザ1の色弱形態を特定することも当然に可能である。
【0051】
上記実施形態では、検出電極30がユーザ1の後頭部に付設されているとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。ユーザ1の後頭部以外に位置に検出電極30を付設するように構成することも当然に可能である。
【0052】
上記実施形態では、検出電極30を介して取得される電気信号が定常性視覚誘発電位信号であるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。他の信号として取得することも当然に可能である。
【0053】
上記実施形態では、色覚補綴情報がユーザ1にとって色覚異常対象である色を、ユーザ1が認識可能な色に変換する変換キーであるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。このような変換キーとして、色覚異常対象の色と変換する色とを規定する対応表とすることも可能であるし、マップとして構成することも可能である。
【0054】
上記実施形態では、色覚補綴情報生成部14により生成された色覚補綴情報に基づいて、表示装置40に表示する色覚が補綴された色覚補綴画像を生成する画像生成部15を備えるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば色覚補綴情報を画像生成部15に替えて、他のデバイスで用いる場合には画像生成部15を備えずに構成することも当然に可能である。
【0055】
上記実施形態では、画像生成部15は、表示装置40の近傍に備えられるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、画像生成部15を色覚補綴情報生成部14の近傍に装備することも当然に可能である。係る場合、色覚補綴情報生成部14から画像生成部15に色覚補綴情報が伝達され、画像生成部15から表示装置40に対して通信により色覚補綴画像を伝達する構成とすることが可能である。係る場合も、ユーザ1が見え難い色を見え易くすることが可能である。
【0056】
上記実施形態では、色覚補綴情報生成部14により生成された色覚補綴情報が、外部記憶媒体及び通信の少なくとも一方により画像生成部15に伝達されるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。色覚補綴情報が、外部記憶媒体及び通信の少なくとも一方により他のデバイスに伝達される構成とすることも当然に可能である。
【0057】
上記実施形態では、表示装置40が車両50に備えられ、カメラにより撮像された画像を表示したり、カーナビゲーション等の道路案内を表示したりするモニタであるとして説明した。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、表示装置40が、ユーザ1の顔に装着する眼鏡型端末60とすることも可能である。このような眼鏡型端末60の例が図10に示される。このような眼鏡型端末60をユーザ1が装着することにより、色覚補綴情報に基づいてユーザ1の色弱形態に応じて見え難い色を見え易い色に変換することが可能である。
【0058】
本発明は、認識し難い色を有するユーザの色覚を補綴する色覚補綴装置及び色覚補綴方法に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1:ユーザ
11:視覚オブジェクト表示部
12:脳波信号取得部
13:色弱形態特定部
14:色覚補綴情報生成部
15:画像生成部
30:検出電極
40:表示装置
60:眼鏡型端末
100:色覚補綴装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10