(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135328
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ボンディング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20170522BHJP
H01L 21/603 20060101ALI20170522BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
H01L21/60 311T
H01L21/603 C
H01L21/68 N
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-129834(P2013-129834)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-5609(P2015-5609A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石井 守
(72)【発明者】
【氏名】久保田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩章
(72)【発明者】
【氏名】小倉 知之
(72)【発明者】
【氏名】淺野 友幸
【審査官】
溝本 安展
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−035840(JP,A)
【文献】
特開2003−229452(JP,A)
【文献】
特開平07−050320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
H01L 21/603
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップの突起電極とリードとを加熱して圧着するボンディング装置であって、
温度上昇に対して膨張する正膨張材料および温度上昇に対して収縮する負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスで形成されたステージと、
所定の温度に加熱され、前記ステージ上に重ね合わされた突起電極およびリードを加圧するボンディングツールと、を備え、
前記負膨張材料は、リン酸タングステン酸ジルコニウムからなり、
前記低熱膨張セラミックスのヤング率は、85GPa以上であることを特徴とするボンディング装置。
【請求項2】
前記正膨張材料は、酸化ジルコニウムまたはリン酸ジルコニウムからなることを特徴とする請求項1記載のボンディング装置。
【請求項3】
前記低熱膨張セラミックスの室温から500℃までの線膨張係数が±1ppm/℃以下であり、熱伝導率が3W/mK以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のボンディング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップの突起電極とリードとを加熱して圧着するボンディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップの上面に形成された突起電極と、実装用テープのリードとをボンディングするTAB(Tape Automated Bonding)法が知られている。TAB法では、上面に複数の突起電極が形成された半導体チップをボンディングステージに固定した後、複数の突起電極の上に実装テープのリードを重ねる。そして、上方から500℃に昇温されたボンディングツールをリードに当てて、各リードと各突起電極を圧着する。このようにすることで、各リードと各突起電極がある程度まで潰れて電気的および機械的に接続される。そして、半導体チップの持つ機能をリードを介して取り出すことが可能となる。
【0003】
上記のようなボンディングステージの材料には、フォルステライト、ジルコニアが使用される。例えば、特許文献1記載のボンディング装置は、ジルコニア製のボンディングステージを用い、ボンディングステージを予め加熱しボンディングツールとボンディングステージとの温度差を小さくしようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−50320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなボンディング装置では、ボンディングツールによりリードと突起電極とを加熱圧着している間、ボンディングツールの熱が半導体チップを介してボンディングステージ上面に伝達され、ボンディングステージ内に温度分布が生じ、ステージ上面が凸形状に変形する。このステージ変形のため、半導体チップ中央の突起電極とリードは、端部に比べて、潰れ過ぎ、隣接する突起電極同士が接触する等の半導体チップの不良が発生する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ボンディングステージの変形を抑制することにより、突起電極およびリードの潰れを均一化できるボンディング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のボンディング装置は、半導体チップの突起電極とリードとを加熱して圧着するボンディング装置であって、温度上昇に対して膨張する正膨張材料および温度上昇に対して収縮する負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスで形成されたステージと、所定の温度に加熱され、前記ステージ上に重ね合わされた突起電極およびリードを加圧するボンディングツールと、を備え、前記負膨張材料は、リン酸タングステン酸ジルコニウムからなり、前記低熱膨張セラミックスのヤング率は、85GPa以上であることを特徴としている。
【0008】
このように、ボンディングステージ材料に正膨張材料および負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスを用いることにより、ボンディング時にステージ内に温度分布が生じても、ステージの変形を低減できる。さらに、負膨張材料にリン酸タングステン酸ジルコニウムを用いることにより広い温度範囲で低熱膨張を実現でき、ボンディングステージの変形を低減できる。
【0009】
また、リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、−4.0ppm/℃であり負膨張性が大きい。したがって、正膨張材料を多く添加して低(ゼロ)熱膨張のステージ材料を設計できる。その正膨張材料に高剛性材料を選定すれば、低熱膨張以外に高剛性の特性も付与でき、そのヤング率を85GPa以上にすることができる。また、正膨張材料に低熱伝導材料を選定し、低熱伝導なステージにすることもできる。
【0010】
(2)また、本発明のボンディング装置は、前記正膨張材料が、酸化ジルコニウムまたはリン酸ジルコニウムからなることを特徴としている。
【0011】
このように、正膨張材料として、酸化ジルコニウムまたはリン酸ジルコニウムのジルコニウム化合物を選定することにより、負膨張材料との反応を特に抑制でき、複合化することができる。
【0012】
(3)また、本発明のボンディング装置は、前記低熱膨張セラミックスの室温から500℃までの線膨張係数が±1ppm/℃以下であり、熱伝導率が3W/mK以下であることを特徴としている。
【0013】
このように、ボンディングステージ材料の低熱膨張セラミックスの室温から500℃までの線膨張係数が±1ppm/℃以下であれば、ボンディング時のステージ変形が0.5μm/φ30mmとなり、突起電極とリードの潰れを均一化できる。
【0014】
さらに、ボンディングステージ材料の熱伝導率を3W/mK以下とすることにより、ボンディングツールからの熱逃げを低減できる。ボンディングツールの温度維持に必要な負荷を低減できる。
【0015】
なお、ボンディングステージ材料の線膨張係数は、負膨張材料と正膨張材料の添加割合を調整することにより設計でき、例えば負膨張材料としてリン酸タングステン酸ジルコニウムを、正膨張材料として酸化ジルコニウムを選定し、添加量をそれぞれ75vol%、25vol%とすることにより、室温から500℃までの線膨張係数を0.0ppm/℃にでき、±1ppm/℃以下に設計できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボンディング装置のステージ材料に低熱膨張セラミックスを用いることにより、突起電極およびリードの潰れを均一化でき、それらの合計高さのばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のボンディング装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(ボンディング装置の構成)
図1は、ボンディング装置を示す概略図である。ボンディング装置101は、ボンディングステージ104、ボンディングツール105および装置架台106を備えている。
図1に示すように、ボンディングステージ104は装置架台106により支持されており、ボンディングステージ104上には半導体チップ110が載置されている。
【0020】
ボンディングステージ104は、固定具により装置架台106に精度よく固定されている。ボンディングステージ104は、ボンディング前においては常温(25℃)に保たれている。なお、上面とはボンディングステージ104から見て半導体チップ側の面を指し、下面とは上面とは反対側の面を指す。半導体チップ110上に形成された突起電極111の材質は、例えばAu−Siであり、リード112の材質は例えばCu合金等である。
【0021】
このようにボンディングステージ104上に半導体チップ110が載置されている状態で、以下のようなボンディング装置101の操作により突起電極111とリード112のボンディングを行うことができる。すなわち、まず、ボンディングに先立ち、ボンディングツール105を約500℃に昇温する。そして、昇温されたボンディングツール105を下降させて、ボンディングステージ104上で重ね合わされたリード112と突起電極111とを加圧することによってリード112と突起電極111とを圧着できる。
【0022】
(低熱膨張セラミックスの構成)
ボンディングステージ104を構成する低熱膨張セラミックスは、正膨張材料および負膨張材料により複合されて形成されている。正膨張材料は、温度上昇に対して膨張する材料である。負膨張材料は、温度上昇に対して収縮する材料である。
【0023】
このように、ボンディングステージ材料に正膨張材料および負膨張材料が複合されてなる低熱膨張セラミックスを用いることにより、ボンディング時にステージ内に温度分布が生じても、ステージの変形を低減できる。さらに、負膨張材料にリン酸タングステン酸ジルコニウムを用いることにより広い温度範囲で低熱膨張を実現でき、ボンディングステージの変形を低減できる。
【0024】
正膨張材料は、高剛性および低熱伝導率を有する材料で形成されている。高剛性および低熱伝導率を有する材料には、酸化ジルコニウムまたはリン酸ジルコニウムが挙げられる。
【0025】
また、リン酸タングステン酸ジルコニウムの線膨張係数は、−4.0ppm/℃であり負膨張性が大きい。したがって、正膨張材料を多く添加して低(ゼロ)熱膨張のステージ材料を設計できる。その正膨張材料に低熱伝導率材料、高剛性材料を選定すれば、低熱膨張以外に低熱伝導、高剛性の特性も付与できる。
【0026】
負膨張材料は、負膨張性の高い材料で形成されている。負膨張性の高い材料には、リン酸タングステン酸ジルコニウムが挙げられる。このように、リン酸タングステン酸ジルコニウムに適切な量の適切な正膨張材料を混合することで室温から500℃までの線膨張係数を±1ppm/℃以下の低熱膨張の特性を有する材料を作製することができる。
【0027】
このような低熱膨張セラミックスをボンディング装置のステージ材料に用いることにより、ボンディング後の半導体チップの突起電極とリードとの合計高さのばらつきを低減でき突起電極とリードの潰れを均一化できる。
【0028】
なお、低熱膨張セラミックスは、85GPa以上のヤング率を有する。また、さらに7GPa以上の硬度を有することが好ましい。
【0029】
(低熱膨張セラミックスの製造方法)
次に、上記のように構成される低熱膨張セラミックスの製造方法を説明する。まず、リン酸タングステン酸ジルコニウムからなる負膨張材料の原料を所定の配合で混合する。リン酸タングステン酸ジルコニウムのリン源としてはリン酸塩が好ましく、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられるが、仮焼後に仮焼体に不純物として残留しないリン酸アンモニウムがより好ましい。
【0030】
タングステン源としては三酸化タングステンや、タングステン酸塩、例えばタングステン酸アンモニウムなどが好ましい。ジルコニウム源としては、ジルコニウム化合物が好ましく、ジルコニアや塩化ジルコニウムがより好ましい。
【0031】
各原料粉末を有機溶媒により湿式混合した後、仮焼、粉砕して負膨張材料とする。次に正膨張材料と負膨張材料を混合、成形した後、1300℃以下で焼成する。好ましくは1150〜1300℃で焼成する。なお、1300℃より高い温度で焼成すると、負膨張材料が分解するため好ましくない。
【0032】
負膨張材料の粒度を精密に調整する観点では、負膨張材料をあらかじめ調整した後に混合する方法が適している。一方、作業性という観点では、負膨張材料の仮焼体に正膨張材料を加え、粉砕混合する方法が適している。
【0033】
ボールミルによる粉砕を行う際にはジルコニアボールが好ましい。ジルコニアボール以外、例えばアルミナボールを使用した場合は、コンタミの原因となりやすく、所定の熱膨張係数が得られない場合がある。負膨張材料の粒度調整の詳細については後述する。そして、混合された材料を成形し、大気雰囲気で焼成する。このような工程により、平面度を維持でき、耐薬品性に優れた低熱膨張セラミックスを製造することができる。
【0034】
なお、成形の工程では、各種成形方法、例えば一軸加圧成形や静水圧加圧成形、鋳込み成形等により成形できる。焼成の工程では、焼成温度を1300℃以下として焼成することが好ましい。さらに1150〜1300℃間の焼成温度がより好ましい。これにより、高温で負膨張材料中のタングステンが酸化タングステンとなり分解するのを防止することができる。焼成の工程での昇温速度は、100℃/hr以上800℃/hr以下とすることが好ましい。これにより、緻密な焼結体の低熱膨張セラミックスを製造できる。
【0035】
(実施例)
上記の製造方法に基づき、表1に示す配合量で、負膨張材料と正膨張材料とを配合し、低熱膨張セラミックスを作製した。得られた低熱膨張セラミックスの比重は、アルキメデス法により相対密度を測定した。また、線膨張係数は、JIS R 3251 「低膨張ガラスのレーザ干渉計による線膨張率の測定方法」に規定された方法により測定した。熱伝導率は、JIS R 1611 「ファインセラミックスのレーザフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法」に規定された方法により測定した。また、複合化時の正膨張材料と負膨張材料の反応については、X線回折法により結晶相を同定した。
【表1】
【0036】
図1に示すボンディング装置の構成において、ボンディングステージの材料を変えて実験を行った。まず、実施例1〜4として、ボンディングステージの材料に、リン酸タングステン酸ジルコニウムおよび酸化ジルコニウムを複合化した低熱膨張セラミックスを用い、実施例4〜6として、ボンディングステージの材料に、リン酸タングステン酸ジルコニウムおよびリン酸ジルコニウムを複合化した低熱膨張セラミックスを用いた。また、実施例7として、ボンディングステージの材料に、リン酸タングステン酸ジルコニウムおよび酸化アルミニウムを複合化した低熱膨張セラミックスを用いた。各材料の構成および特性は、表1に示す通りである。ボンディングステージの形状はφ30mm×10mmtであり、ボンディング時間は3秒である。
【0037】
実施例2の構成で数値解析したところ、ボンディング完了直後のボンディングステージ上面の温度260℃に対して、ボンディングステージ上面と下面との温度差は235℃となった。この温度差を有するボンディングステージの反り量を下面固定として数値解析した結果、0.5μmとなった。これより、半導体チップの突起電極とリードとの合計高さのばらつきは0.5μmであると考えられる。
【0038】
また、比較例として、実施例と同様の形状のフォルステライトで形成されたボンディングステージを用いて同様の測定を行った。その結果、ボンディングステージ上面の温度は130℃であり、この時のステージ上面と下面との温度差は105℃であった。ボンディングステージの反り量は2.5μmとなった。これより、半導体チップの突起電極とリードとの合計高さのばらつきは2.5μmであると考えられる。
【0039】
以上のように、比較例では、半導体チップの突起電極とリードとの合計高さのばらつきが2.5μmであったのに対して、実施例2の構成では、これを0.5μmに減少させることができた。
【0040】
さらに、比較例では、ボンディングステージからの熱逃げが多く、ボンディングツールの温度維持するためツールヒータに高い負荷がかかった。多くの実施例では、ボンディングツールのヒータ負荷は低下した。これは、フォルステライトの熱伝導率に対して、ほとんどの低熱膨張セラミックスの熱伝導率が低いことによる。
【符号の説明】
【0041】
101 ボンディング装置
104 ボンディングステージ
105 ボンディングツール
106 装置架台
110 半導体チップ
111 突起電極
112 リード