特許第6135342号(P6135342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135342
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20170522BHJP
   F16D 28/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16D13/52 D
   F16D28/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-143521(P2013-143521)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-17635(P2015-17635A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】細川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 則行
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−183783(JP,A)
【文献】 実開昭49−42346(JP,U)
【文献】 特開2013−100079(JP,A)
【文献】 特開平4−129677(JP,A)
【文献】 特開2013−64488(JP,A)
【文献】 特開2012−62992(JP,A)
【文献】 特開2008−309337(JP,A)
【文献】 特開平11−270652(JP,A)
【文献】 特開2005−220929(JP,A)
【文献】 特開2001−336549(JP,A)
【文献】 特開2012−167784(JP,A)
【文献】 特開2013−86585(JP,A)
【文献】 実開昭49−38835(JP,U)
【文献】 特開2009−220593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
F16D 25/00− 39/00
F16D 41/00− 47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一線上で相対回転可能に配置されて、回転軸方向に押圧されることにより互いに摩擦係合する外側摩擦部材及び内側摩擦部材を有するクラッチと、
前記外側摩擦部材と共に回転する外側回転部材と、
前記内側摩擦部材と共に回転する内側回転部材と、
前記内側回転部材を挿通させる挿通孔が中心部に形成された環状のカム部材、及び前記カム部材に形成されたカム面を転動する転動部材を有し、前記転動部材の転動によって前記クラッチを前記回転軸方向に押圧するカム推力を発生させるカム機構とを備え、
前記カム部材は、前記カム面が形成されたカム突起と、前記カム突起との間に凹部を挟んで周方向に対向する壁部とを有し、
前記壁部は、前記転動部材に当接して前記凹部から前記転動部材が抜け出すことを抑止する抑止部と、前記回転軸方向において前記抑止部よりも前記凹部側に設けられ、前記転動部材が前記抑止部に当接する際の衝撃を緩和する緩衝部とを有する、
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記転動部材に前記クラッチから離間する方向の弾性力を作用させる弾性部材をさらに備え、
前記弾性部材は、前記転動部材が前記抑止部に当接する前に前記緩衝部に乗り上げることで前記回転軸方向に圧縮される、
請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記緩衝部は、前記緩衝部と前記転動部材が当接する第1の当接角は、前記抑止部と前記転動部材とが当接する第2の当接角よりも小さい角度である、
請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記緩衝部と前記転動部材とが当接する当接部の前記凹部の底面からの軸方向高さは、前記転動部材の半径よりも低い、
請求項2又は3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記カム機構は、アクチュエータにより回転駆動され、前記アクチュエータの回転駆動力を前記回転軸方向の押圧力に変換し、前記クラッチに摩擦トルクを発生させる、
請求項2乃至4の何れか1項に記載の駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力を伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば四輪駆動車に搭載され、電動モータの回転力をカム機構によって軸方向のカム推力に変換し、このカム推力によってクラッチを押圧することで、エンジンの駆動力を入力軸から出力軸へ伝達する駆動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、カム推力を発生させるカム機構として、互いに対向し合うカム面を有する第1及び第2のカムプレートと、カム面間に挟まれる球状のカムボールとを備えている。カム面には、一定勾配の傾斜部と、カムボールの元位置を決めるストッパ部とが設けられている。電動モータが回転すると、減速機を介して第1カムプレートがトルクを受け、第2カムプレートに対して相対回転する。この相対回転に伴ってカムボールが傾斜部を転動することで、カム推力を発生させる。
【0004】
また、特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、カム機構がクラッチにカム推力を付与するときの反力を受けて発生する摩擦係合力によって第2カムプレートを回転方向に支持することで、カム機構におけるカム作用の解除時における異音の発生を抑制している。つまり、電動モータの電流が遮断されてカム機構におけるカム作用が解除されたとき、電動モータの回転力によって蓄積されていた各部の捻じれトルクが開放され、第1及び第2のカムプレートがカム機構の作動時とは反対方向に相対回転し、カムボールがストッパ部で止められる。このとき、何らの対策も施さない場合には、衝撃トルクが発生してストッパ部での異音や振動が発生し得る。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、カム推力の反力を受けて発生する摩擦係合力によって第2カムプレートを回転方向に支持することで、カム推力が解除されれば、摩擦係合部による第2カムプレートの回転方向への支持を行う摩擦力が抑制されるようにし、カム機構が逆方向へ回転してストッパ部が衝突するとき、第2カムプレートを摩擦係合部において滑らせて衝突を緩和するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−183783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の駆動力伝達装置では、カム機構の作動が摩擦係合部の摩擦係合力に依存しているので、例えば長期間に亘る使用による摩耗等によって摩擦係合力が低下すると、カム機構の作動が確実に行えなくなってしまうおそれがある。つまり、摩擦係合部の摩擦係合力の低下によって駆動力伝達装置の耐久性が影響を受けてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、カム機構によって押圧されたクラッチを開放する際の異音や振動を抑制することができると共に、耐久性に優れた駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、同一線上で相対回転可能に配置されて、回転軸方向に押圧されることにより互いに摩擦係合する外側摩擦部材及び内側摩擦部材を有するクラッチと、前記外側摩擦部材と共に回転する外側回転部材と、前記内側摩擦部材と共に回転する内側回転部材と、前記内側回転部材を挿通させる挿通孔が中心部に形成された環状のカム部材、及び前記カム部材に形成されたカム面を転動する転動部材を有し、前記転動部材の転動によって前記クラッチを前記回転軸方向に押圧するカム推力を発生させるカム機構とを備え、前記カム部材は、前記カム面が形成されたカム突起と、前記カム突起との間に凹部を挟んで周方向に対向する壁部とを有し、前記壁部は、前記転動部材に当接して前記凹部から前記転動部材が抜け出すことを抑止する抑止部と、前記回転軸方向において前記抑止部よりも前記凹部側に設けられ、前記転動部材が前記抑止部に当接する際の衝撃を緩和する緩衝部とを有する、駆動力伝達装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る駆動力伝達装置によれば、カム機構によって押圧されたクラッチを開放する際の異音や振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の概略を示す構成図である。
図2】駆動力伝達装置の構成例を示す断面図である。
図3】カム機構の構成例を示す斜視図である。
図4】カム機構のリテーナを示す斜視図である。
図5】カム機構の転動部材及び支持ピンを示す斜視図である。
図6】カム機構のカム部材を示す斜視図である。
図7】本発明の第1の実施の形態に係るカム機構の動作を説明するための説明図である。
図8】本発明の第1の実施の形態の変形に係るカム部材の要部を示す模式図である。
図9】本発明の第2の実施の形態に係るカム部材の要部を示す模式図である。
図10】発明の第2の実施の形態の変形例に係るカム部材の要部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の概略を示す構成図である。
【0013】
(四輪駆動車100の構成)
四輪駆動車100は、駆動力伝達系101と、駆動力伝達装置11と、制御装置12と、主駆動源であるエンジン102と、トランスミッション103と、主駆動輪としての前輪104L,104Rと、補助駆動輪としての後輪105L,105Rとを備えている。なお、図1において符号中の文字「L」は四輪駆動車100の前進方向に対する左側を示し、文字「R」は四輪駆動車100の前進方向に対する右側を示している。
【0014】
駆動力伝達系101は、前輪側駆動力伝達系101Aと、後輪側駆動力伝達系101Bと、前輪側駆動力伝達系101A及び後輪側駆動力伝達系101Bをつなぐプロペラシャフト20とを有し、四輪駆動車100の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達系101は、四輪駆動車100のトランスミッション103側から後輪105L,105Rに至る駆動力伝達経路に、フロントディファレンシャル21及びリヤディファレンシャル22と共に配置され、四輪駆動車100の図略の車体に搭載されている。
【0015】
前輪側駆動力伝達系101Aは、フロントディファレンシャル21及び駆動力断続装置23を含み、プロペラシャフト20における前輪104L,104R側に配置されている。
【0016】
フロントディファレンシャル21は、サイドギヤ211L,211Rと、一対のピニオンギヤ212と、一対のピニオンギヤ212を回転可能に支持するギヤ支持部材213と、サイドギヤ211L,211R及び一対のピニオンギヤ212を収容するフロントデフケース214とを有し、トランスミッション103に連結されている。サイドギヤ211Lは、前輪104L側のアクスルシャフト24Lに接続され、サイドギヤ211Rは、前輪104R側のアクスルシャフト24Rに接続される。一対のピニオンギヤ212は、サイドギヤ211L,211Rにギヤ軸を直交させて噛合する。
【0017】
駆動力断続装置23は、第1のスプライン歯部231と、第2のスプライン歯部232と、スリーブ233とを有するドグクラッチからなる。駆動力断続装置23は、四輪駆動車100の前輪104L,104R側に配置され、スリーブ233が図略のアクチュエータによって進退移動可能である。第1のスプライン歯部231はフロントデフケース214に、第2のスプライン歯部232はリングギヤ262に、それぞれ回転不能に接続されている。スリーブ233は、第1のスプライン歯部231及び第2のスプライン歯部232にスプライン嵌合可能に連結されている。この構成により、駆動力断続装置23は、プロペラシャフト20とフロントデフケース214とを断続可能に連結する。
【0018】
後輪側駆動力伝達系101Bは、リヤディファレンシャル22及び駆動力伝達装置11を含み、プロペラシャフト20における後輪105L,105R側に配置されている。
【0019】
リヤディファレンシャル22は、サイドギヤ221L,221Rと、一対のピニオンギヤ222と、一対のピニオンギヤ222を回転可能に支持するギヤ支持部材223と、サイドギヤ221L,221R及び一対のピニオンギヤ222を収容するリヤデフケース224とを有し、プロペラシャフト20に連結されている。一対のピニオンギヤ222は、サイドギヤ221L,221Rにギヤ軸を直交させて噛合する。サイドギヤ221Lは、後輪105L側のアクスルシャフト25Lに接続され、サイドギヤ221Rは、後輪105R側のアクスルシャフト25Rに駆動力伝達装置11を介して接続される。
【0020】
駆動力伝達装置11は、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとの連結を断接可能である。リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとの連結が遮断されると、エンジン102の駆動力が後輪105Rに伝達されなくなると共に、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221L,221R及び一対のピニオンギヤ222が空回りすることにより後輪105Lにも駆動力が伝達されなくなる。
【0021】
一方、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとが連結されると、エンジン102の駆動力が後輪105Rに伝達されると共に、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Lを介して後輪105Lにも駆動力が伝達される。これにより、四輪駆動車100が四輪駆動状態となる。
【0022】
前輪104L,104Rは、エンジン102がトランスミッション103及びフロントディファレンシャル21を介して前輪側のアクスルシャフト24L,24Rに駆動力を出力することにより駆動される。一方の後輪105Lは、エンジン102がトランスミッション103、駆動力断続装置23、プロペラシャフト20、及びリヤディファレンシャル22を介して後輪105L側のアクスルシャフト25Lに駆動力を出力することにより駆動される。他方の後輪105Rは、エンジン102がトランスミッション103、駆動力断続装置23、プロペラシャフト20、リヤディファレンシャル22、及び駆動力伝達装置11を介して後輪105R側のアクスルシャフト25Rに駆動力を出することにより駆動される。
【0023】
プロペラシャフト20の前輪104L,104R側の端部には、互いに噛合するドライブピニオン261及びリングギヤ262からなる前輪側歯車機構26が配置されている。また、プロペラシャフト20の後輪105L,105R側の端部には、互いに噛合するドライブピニオン271及びリングギヤ272からなる後輪側歯車機構27が配置されている。
【0024】
制御装置12は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶素子からなる記憶部121と、記憶部121に記憶されたプログラムに従って動作するCPU(Central Processing Unit)等を有する制御部122と、駆動力伝達装置11の電動モータ5(後述)を制御するモータ制御回路123とを有している。モータ制御回路123により電動モータ5に電流が供給され、電動モータ5が正方向に回転すると、駆動力伝達装置11が作動し、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rから後輪105R側のアクスルシャフト25Rにエンジン102の駆動力が伝達される。一方、電動モータ5が逆方向に回転すると、駆動力伝達装置11が非作動となり、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221Rと後輪105R側のアクスルシャフト25Rとの連結が遮断される。
【0025】
(駆動力伝達装置11の構成)
図2は、駆動力伝達装置11の構成例を示す断面図である。図2において、回転軸線Oよりも上側は非作動状態を示し、下側は作動状態を示している。
【0026】
この駆動力伝達装置11は、アクチュエータとしての電動モータ5と、電動モータ5の出力軸500の回転を減速させる減速機構9と、同一線上で相対回転可能に配置され、回転軸線Oに平行な回転軸方向に押圧されることにより互いに摩擦係合する外側摩擦部材としての複数のアウタクラッチプレート81及び内側摩擦部材としての複数のインナクラッチプレート82を有する多板クラッチ8と、複数のアウタクラッチプレート81と共に回転する外側回転部材13と、複数のインナクラッチプレート82と共に回転する内側回転部材14と、電動モータ5の回転駆動力を受けて多板クラッチ8を回転軸方向に押圧するカム推力を発生させるカム機構3と、本体部41及び蓋部42からなるハウジング4とを備えている。ハウジング4内には、図略の潤滑油が封入されている。
【0027】
外側回転部材13は、回転軸線Oを軸線とする軸状の軸部131と、軸部131とは反対側(カム機構3側)に開口する有底円筒状の円筒部132とを一体に有している。外側回転部材13は、ハウジング4の本体部41内に針状ころ軸受133,134を介して回転可能に支持されている。軸部131は、リヤディファレンシャル22のサイドギヤ221R(図1参照)にスプライン嵌合によって連結されている。軸部131の外周面とハウジング4の本体部41の内面との間は、回転軸線O方向に沿って並列する一対のシール機構135によってシールされている。
【0028】
内側回転部材14は、回転軸線Oを軸線とする軸状のボス部141と、ボス部141とは反対側(図1に示す後輪105R側)に開口する有底円筒状の円筒部142とを一体に有している。内側回転部材14は、外側回転部材13の円筒部132内に針状ころ軸受143,144を介して回転可能に支持されている。また、内側回転部材14は、ハウジング4の蓋部42に玉軸受145を介して回転可能に支持されている。内側回転部材14には、その開口から後輪105R側のアクスルシャフト25R(図1参照)の先端部が挿入される。後輪105R側のアクスルシャフト25Rは、内側回転部材14にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ回転軸線O方向に相対移動可能に連結される。
【0029】
ボス部141は、外側回転部材13における軸部131における円筒部132側の端部に形成された凹部131aに収容されている。ボス部141の外径は、円筒部142の外径よりも小さい寸法に設定されている。円筒部142における開口周辺部の外周面とハウジング4の蓋部42の内面との間は、シール部材146によってシールされている。
【0030】
多板クラッチ8は、外側回転部材13と内側回転部材14との間に配置され、複数のアウタクラッチプレート81及び複数のインナクラッチプレート82は、回転軸線Oに沿って相対回転可能に交互に配置されている。
【0031】
複数のアウタクラッチプレート81は、外側回転部材13の円筒部132の内周面に形成されたストレートスプライン嵌合部132bにスプライン嵌合し、外側回転部材13に対して相対回転不能、かつ回転軸線O方向に相対移動可能に連結されている。
【0032】
複数のインナクラッチプレート82は、内側回転部材14の円筒部142の外周面に形成されたストレートスプライン嵌合部14aにスプライン嵌合し、内側回転部材14に対して相対回転不能、かつ回転軸線O方向に相対移動可能に連結されている。
【0033】
電動モータ5は、電動機用ハウジング50内に収容され、電動機用ハウジング50がハウジング4の本体部41にボルト5aによって取り付けられている。電動モータ5の出力軸500は、減速機構9及び歯車伝達機構7を介してカム機構3に連結されている。
【0034】
歯車伝達機構7は、第1の歯車71及び第2の歯車72を有している。第1の歯車71は、減速機構9の軸線上に配置され、ハウジング4の本体部41内に玉軸受73,74を介して回転可能に支持されている。第2の歯車72は、ギヤ部720が第1の歯車71に噛合するように配置され、支持軸76に玉軸受75を介して回転可能に支持されている。歯車伝達機構7は、減速機構9で減速された電動モータ5の回転駆動力を出力軸500から受けて、カム機構3に伝達する。
【0035】
減速機構9は偏心揺動減速機構であり、より詳しくは、少歯数差インボリュート減速機構である。減速機構9は、電動モータ5の出力軸500に相対回転不能に連結された回転軸部材90と、回転軸部材90の軸線Oに対して所定の偏心量をもって偏心する軸線Oを中心軸線とする偏心部901と、偏心部901を収容する中心孔を有する外歯歯車からなる入力部材91と、軸線Oを中心軸とする内歯歯車からなる自転力付与部材92と、自転力付与部材92によって付与された自転力を入力部材91から受けて歯車伝達機構7の第1の歯車71に出力する複数の出力部材93(図2には1つの出力部材93のみを示す)とを有している。
【0036】
回転軸部材90は、玉軸受95,96によって回転可能に支持され、偏心部901に挿通されている。偏心部901は回転軸部材90と一体に回転し、軸線Oを中心として偏心回転運動する。偏心部901の外周面と入力部材91の中心孔の内周面との間には、針状ころ軸受97が介在している。また、入力部材91には、複数の出力部材93を挿通させる複数の挿通孔911(図2には1つの挿通孔911のみを示す)が周方向に沿って等間隔に形成されている。出力部材93の外周面と挿通孔911の内周面との間には、針状ころ軸受98が介在している。
【0037】
自転力付与部材92における内歯のピッチ円径は、入力部材91における外歯のピッチ円径よりも大きく形成されている。自転力付与部材92は、偏心回転する入力部材91の一部に噛合し、入力部材91に自転力を付与する。複数の出力部材93は、入力部材91の挿通孔911を挿通して歯車伝達機構7における第1の歯車71のピン取付孔710に取り付けられている。複数の出力部材93は、自転力付与部材92によって付与された自転力を入力部材91から受け、歯車伝達機構7の第1の歯車71に出力する。
【0038】
ハウジング4の本体部41と蓋部42との間には、複数(3つ)のガイド部材32bが、回転軸線Oと平行に配置されている。ガイド部材32bは、円柱状であり、軸方向の一端部が本体部41に形成された保持孔41aに嵌合して固定され、他端部が蓋部42に形成された保持孔42aに嵌合して固定されている。また、ガイド部材32bには、次に述べるカム機構3のリテーナ32を軸方向に付勢する付勢部材としてのリターンスプリング325が外嵌されている。リターンスプリング325は、コイルスプリングからなり、軸方向に圧縮された状態で本体部41とリテーナ32との間に配置され、その復元力によってリテーナ32を蓋部42側に弾性的に押し付けている。
【0039】
(カム機構3の構成)
次に、カム機構3について、図3図7を参照して詳細に説明する。
【0040】
図3は、カム機構3の構成例を示す斜視図である。図4は、カム機構3のリテーナ32を示す斜視図である。図5は、カム機構3の転動部材33及び支持ピン34を示す斜視図である。図6は、カム機構3のカム部材31を示す斜視図である。
【0041】
カム機構3は、電動モータ5の回転駆動力(減速機構9からの回転力)を受けて、多板クラッチ8を回転軸線O方向に押圧する推力を発生させる。換言すれば、カム機構3は、電動モータ5により回転駆動され、電動モータ5の回転駆動力を回転軸方向の押圧力に変換し、多板クラッチ8に摩擦トルクを発生させる。なお、カム機構3を駆動するアクチュエータとしては、電動モータ5に限らず、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する機器であればよく、例えば限られた角度を旋回するアクチュエータであってもよい。
【0042】
カム機構3は、後述するカム面314aが形成されたカム部材31と、カム面314aを転動する複数の転動部材33と、転動部材33の転動により発生する推力を多板クラッチ8側に出力する出力部材としてのリテーナ32とを有している。リテーナ32は、カム部材31よりも多板クラッチ8側に配置されている。転動部材33はリテーナ32の内側に配置されている。
【0043】
カム部材31は、図6に示すように、内側回転部材14(図2参照)を挿通させる挿通孔31aが中心部に形成された環状であり、回転軸線O方向に所定の厚みを有する環板状の基部310と、基部310の外周面の一部から外方に突出して形成された扇状の凸片311と、基部310の軸方向一側の端面から後輪105R側に突出して形成された円筒状の円筒部312と、基部310の軸方向他側の端面から多板クラッチ8側に突出して形成された複数(3つ)の円弧状の凸部313とを一体に有している。カム部材31の詳細については後述する。
【0044】
リテーナ32は、図4に示すように、内側回転部材14を挿通させるリテーナ挿通孔32aが中心部に形成された環状であり、回転軸線O方向に所定の厚みを有する環板状のリテーナ基部320と、リテーナ基部320の外周面の一部から外方に突出して形成された複数(3つ)の凸片321と、リテーナ基部320の多板クラッチ8側の端面から突出して形成された円筒状の筒部322とを一体に有している。
【0045】
リテーナ基部320には、リテーナ挿通孔32aの内面に開口する複数(3つ)のピン挿通孔32cが放射状に形成されている。リテーナ挿通孔32aは、カム部材31の挿通孔31aよりも内径が大きく、リテーナ挿通孔32aの内周面と内側回転部材14の外周面との間には、転動部材33が配置される空間が形成されている。ピン挿通孔32cには、転動部材33を支持する支持ピン34が挿入されている。
【0046】
支持ピン34は、図3に示すように、リテーナ基部320の外周側に突出した一端部がナット35に螺合して、リテーナ32に固定されている。転動部材33は円筒状であり、その内周面と支持ピン34の他端部(内側の端部)における外周面との間には、複数の針状ころ36(図2参照)が配置されている。転動部材33は、針状ころ36を介して支持ピン34に回転可能に支持されている。
【0047】
複数の凸片321には、ガイド部材32bを挿通させるガイド挿通孔321aが形成されている。リテーナ32は、ガイド挿通孔321aをガイド部材32b(図2参照)が挿通することで、ハウジング4に対する相対回転が規制され、かつ軸方向移動が可能である。また、凸片321におけるガイド挿通孔321aの開口端面は、リターンスプリング325からの押し付け力を受ける受け面として機能する。
【0048】
筒部322の外周側には、リテーナ32からの推力を受けて多板クラッチ8を押圧する環板状の押付部材323(図2参照)が配置されている。押付部材323は、外側回転部材13の円筒部132のスプライン嵌合部132bにスプライン嵌合によって相対回転不能かつ軸方向移動可能に連結されている。押付部材323の一側端面とリテーナ32のリテーナ基部320における多板クラッチ8側端面との間には、針状ころ軸受324(図2参照)が介在している。
【0049】
(カム部材31の構成)
次に、カム部材31の詳細な構成について、図6及び図7を参照して説明する。
【0050】
図6に示すように、基部310に一体に形成された扇状の凸片311の外周面には、歯車伝達機構7の第2の歯車72のギヤ部720に噛合するギヤ部311aが形成されている。カム部材31は、減速機構9で減速された電動モータ5の回転駆動力を歯車伝達機構7を介してギヤ部311aから受け、所定の角度範囲で回転する。
【0051】
円筒部312の内周面と内側回転部材14における円筒部142の外周面との間には、針状ころ軸受38(図2参照)が介在している。また、円筒部312の外周側には、基部310の軸方向一側の端面とハウジング4の蓋部42の内面との間に介在する針状ころ軸受37(図2参照)が配置されている。
【0052】
複数の凸部313は、それぞれが同一の形状に形成されている。以下の説明において、複数の凸部313のそれぞれを区別して説明する必要がある場合は、3つの凸部313を第1乃至第3の凸部313a〜313cとして説明する。3つの凸部313(第1乃至第3の凸部313a〜313c)は、基部310の周方向に沿って配列され、隣り合う2つの凸部313の間には、回転軸線Oに沿って軸方向に窪んだ凹部318が形成されている。すなわち、カム部材31には、3つの凸部313と3つの凹部318とが、周方向に交互に設けられている。
【0053】
凸部313の周方向の両端部のうち一方の端部は、周方向に対して傾斜したカム面314aが形成されたカム突起314として形成され、他方の端部は、隣り合う他の凸部313のカム突起314との間に凹部318を挟んで周方向に対向する壁部315として形成されている。
【0054】
(カム突起314の構成)
カム突起314は、回転軸線O方向における多板クラッチ8側の端面が、カム部材31の周方向に対して傾斜したカム面314aとして形成されている。また、カム突起314は、凹部318側の周方向端面314bが、凹部318の底面318aに対して直交して形成されている。
【0055】
カム突起314における周方向端面314bとカム面314aとは滑らかに連続して形成され、カム面314aは、周方向端面314bから離間するほど多板クラッチ8側に接近するように傾斜している。
【0056】
カム部材31がリテーナ32に対して回転すると、転動部材33がカム突起314の周方向端面314bに対向する位置からカム面314aに乗り上げ、カム面314aを転動する。カム機構3は、この転動部材33の移動によって多板クラッチ8を押圧する押圧力を発生させる。
【0057】
(壁部315の構成)
壁部315には、転動部材33に当接して凹部318から転動部材33が抜け出すことを抑止する抑止部316と、回転軸方向において抑止部316よりも凹部318側に設けられ、転動部材33が抑止部316に当接する際の衝撃を緩和する緩衝部317とが形成されている。
【0058】
図7は、複数の凸部313うち、互いに隣り合う第1の凸部313aの壁部315と第2の凸部313bのカム突起314、及び第1の凸部313aと第2の凸部313bとの間に形成された凹部318を示す模式図である。なお、本実施の形態では、転動部材33が支持ピン34を介してリテーナ32に支持され、電動モータ5の回転駆動力によってカム部材31がリテーナ32に対して回転するが、図7では、説明の便宜上、カム部材31の端面を転動部材33が転動する様子を図示している。
【0059】
転動部材33は、カム機構3の非作動状態では、凹部318の底面318aに当接している。この底面318aは、基部310における多板クラッチ8側の端面の一部である。緩衝部317は、回転軸方向において抑止部316よりも凹部318の底面318a側に設けられ、この底面318aからの軸方向高さLが、抑止部316の底面318aからの軸方向高さLよりも低く形成されている。この構成により、壁部315は階段状であり、転動部材33が第1の凸部313aの壁部315側に相対的に移動した際、転動部材33は、緩衝部317に乗り上げて抑止部316に当接する。
【0060】
本実施の形態では、緩衝部317におけるカム突起314との対向面317aが、凹部318の底面318aに対して直交するように形成されている。また、緩衝部317における多板クラッチ8側の端面317bは、凹部318の底面318aに平行な平坦面であり、対向面317aと端面317bとの間の角部317cは、円弧状(R形状)に面取りされている。
【0061】
また、本実施の形態では、緩衝部317よりも多板クラッチ8側に突出した抑止部316におけるカム突起314との抑止対向面316aが、緩衝部317の多板クラッチ8側の端面317bに対して直交するように形成されている。
【0062】
緩衝部317の軸方向高さLは、転動部材33の半径Rよりも低い。また、抑止部316の緩衝部317からの突出量(抑止部316の軸方向高さLと緩衝部317の軸方向高さLとの差)は、転動部材33の半径Rよりも大きい。これにより、転動部材33は、緩衝部317の角部317cに当接して端面317b側に乗り上げ、抑止部316におけるカム突起314との抑止対向面316aに当接することで、凹部318から抜け出さないようにされている。
【0063】
凹部318における転動部材33が壁部315側に転動した際、転動部材33が凹部318の底面318aに接触しながら緩衝部317に当接する部位を第1の当接部317dとし、この第1の当接部317dと転動部材33の中心点Cとを結ぶ直線が回転軸方向となす角を第1の当接角θとし、緩衝部317に乗り上げた転動部材33が抑止部316に当接する部位を第2の当接部316bとし、この第2の当接部316bと転動部材33の中心点Cとを結ぶ直線が回転軸方向となす角を第2の当接角θとすると、緩衝部317と転動部材33が当接する第1の当接角θは、抑止部316と転動部材33とが当接する第2の当接角θよりも小さい角度である。
【0064】
本実施の形態では、前述のように緩衝部317の軸方向高さLは転動部材33の半径Rよりも低いので、第1の当接角θは鋭角となる。また、抑止部316の緩衝部317からの突出量は転動部材33の半径Rよりも大きく、かつ抑止対向面316aが回転軸方向に平行なので、第2の当接角θは90°となる。
【0065】
また、緩衝部317における第1の当接部317dの凹部318の底面318aからの軸方向高さLは、緩衝部317の軸方向高さLよりも僅かに低く、転動部材33の半径Rよりも低い。これにより、転動部材33が緩衝部317に乗り上げやすくなっている。
【0066】
図7に示すように、カム面314aの周方向両端部のうち凹部318側のカム面314a上の端部を始端部aとすると、カム機構3は、転動部材33が底面318aからカム突起端面314bに沿ってカム面314aに乗り上げた始端部aに配置されるまでの間において、リテーナ32から回転軸線Oに平行な方向の第1のカム推力を出力する。
【0067】
また、カム面314a上の始端部aとは反対側の端部を終端部aとすると、カム機構3は、転動部材33が始端部aと終端部aとの間に配置された状態においてリテーナ32から第1のカム推力よりも大きな第2のカム推力を出力する。
【0068】
リテーナ32とハウジング4の本体部41との間に配置されたリターンスプリング325は、リテーナ32及び支持ピン34を介して、転動部材33に多板クラッチ8から離間する方向の弾性力を作用させる。リターンスプリング325は、電動モータ5の正方向への回転時において、転動部材33がカム面314aを終端部aに向かって転動することにより軸方向に圧縮され、転動部材33が凹部318の底面318aに接したときに最も回転軸方向の長さが長くなる。
【0069】
また、リターンスプリング325は、電動モータ5の逆方向への回転時において、転動部材33が抑止部316に当接する前に緩衝部317に乗り上げることで回転軸方向に圧縮される。転動部材33が緩衝部317に乗り上げる際には、リターンスプリング325の弾性力に抗して転動部材33がリテーナ32をハウジング4の本体部41側に押し付けることになるので、転動部材33の多板クラッチ8側への移動がリターンスプリング325によって抑制される。
【0070】
(駆動力伝達装置11の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置11の動作について、図1図2図7を用いて説明する。
【0071】
プロペラシャフト20と後輪105R側のアクスルシャフト25Rとを駆動力伝達装置11により連結させるには、制御装置12から電動モータ5に電流を供給し、電動モータ5の正方向への回転力をカム機構3に付与してカム機構3を作動させる。このとき、カム機構3のカム部材31が回転軸線O回り一方向に回転する。図7に示すように、カム部材31が回転すると、転動部材33がカム部材31の凹部318の底面318a上(初期位置)から転動し、カム部材31の凸部313のカム面314a上に乗り上げる。この際、電動モータ5の回転駆動力が、多板クラッチ8のアウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82の間の隙間を詰めるための第1のカム推力に変換される。
【0072】
より詳細には、転動部材33は、支持ピン34及び針状ころ36を介してリテーナ32を多板クラッチ8側(図2及び図7における矢印X方向)に押し付け、リテーナ32は、多板クラッチ8のアウタクラッチプレート81とインナクラッチプレート82とを互いに接近させる方向に押付部材323を押し付ける。押付部材323がアウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82を矢印X方向に押し付けることにより、互いに隣り合うアウタクラッチプレート81とインナクラッチプレート82との間の隙間が第1のカム推力によって詰められる。
【0073】
次に、カム部材31が電動モータ5の回転駆動力を受けて、回転軸線O回り一方向にさらに回転すると、転動部材33はカム突起314のカム面314a上を始端部aから終端部aに向かって転動する。これにより、電動モータ5の回転駆動力が、多板クラッチ8のアウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82を摩擦係合させるための第2のカム推力に変換される。
【0074】
転動部材33から第2のカム推力を付与された押付部材323は、アウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82を矢印X方向に押し付け、互いに隣り合うアウタクラッチプレート81及びインナクラッチプレート82同士が摩擦係合する。
【0075】
これにより、エンジン102の駆動力は、外側回転部材13から内側回転部材14に伝達され、さらに出力回転部材14から後輪105R側のアクスルシャフト25Rを介して後輪105Rに伝達されて後輪105Rが回転駆動される。後輪105Rが回転駆動されることにより、対となる後輪105Lにも駆動力が伝達され、四輪駆動状態となる。
【0076】
一方、四輪駆動状態から二輪駆動状態に移行する際には、電動モータ5を逆回転させることでカム機構3のカム推力を解除し、多板クラッチ8を開放する。
【0077】
電動モータ5を逆回転させると、転動部材33は、多板クラッチ8の締結時とは反対方向にカム部材31の軸方向端面を転動する。つまり、転動部材33は、カム面314aを終端部aから始端部aに向かって転動し、凹部318の底面318aに接触する。この際、電動モータ5の回転子や、減速機構9,歯車伝達機構7,及びカム機構3の各構成部材の慣性等により、転動部材33とカム部材31の壁部315とが衝突する場合がある。
【0078】
転動部材33と壁部315との衝突は、転動部材33が緩衝部317に当接する1次衝突と、転動部材33が緩衝部317に乗り上げて抑止部316に衝突する2次衝突との第2段階で行われる。転動部材33が緩衝部317に乗り上げる際、カム部材31は、リターンスプリング325の弾性力に抗して転動部材33及びリテーナ32を矢印X方向に押し出すので、転動部材33からリターンスプリング325の弾性力に基づく反力を受け、この反力によってカム部材31の回転速度が減速される。そして、転動部材33は、カム部材31の回転速度が減速された後に抑止部316の抑止対向面316aに当接するので、その当接時の衝撃が緩和される。
【0079】
転動部材33は、抑止部316の抑止対向面316aに当接した後、リターンスプリング325の弾性力によって凹部318の底面318aに接触する初期位置に戻される。これにより、カム機構3のカム推力が解除され、多板クラッチ8が開放状態となり、四輪駆動車100が二輪駆動状態となる。
【0080】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、以下のような作用及び効果が得られる。
【0081】
(1)多板クラッチ8を開放する際、転動部材33がカム部材31の壁部315に衝突しても、緩衝部317によってその衝撃が緩和される。これにより、多板クラッチ8を開放する際の異音や振動を抑制することができる。また、この衝撃緩和構造は、例えばカム機構における部材の摩擦によって衝撃を緩和するものではないので、四輪駆動車100の耐用年数に応じた十分な耐久性が確保される。
【0082】
(2)緩衝部317は、その軸方向高さLが、抑止部316の軸方向高さLよりも低く形成されているので、多板クラッチ8を開放する際、転動部材33は、緩衝部317に乗り上げて抑止部316に当接する。これにより、上記のようにカム部材31の回転速度が減速された後に、転動部材33が抑止部316の抑止対向面316aに当接するので、この当接の際の衝撃が緩和される。
【0083】
(3)リターンスプリング325は、転動部材33が緩衝部317に乗り上げることで回転軸方向に圧縮されるので、このリターンスプリング325の弾性力をリテーナ32を介して受ける転動部材33は、多板クラッチ8側への移動、すなわち抑止部316側への移動がリターンスプリング325の弾性力によって抑制される。これにより、転動部材33が抑止部316に当接する際の衝撃がより確実に緩和される。
【0084】
(4)緩衝部317の軸方向高さL及び第1の当接部317dの軸方向高さLは、転動部材33の半径Rよりも低いので、転動部材33は、緩衝部317との当接によって凹部318の底面318a側から多板クラッチ8側に押し出され、緩衝部317の角部317cを支点として、確実に緩衝部317に乗り上げることが可能となる。これにより、多板クラッチ8を開放する際の衝撃を的確に緩和することができる。
【0085】
(5)緩衝部317と転動部材33が当接する第1の当接角θは、抑止部316と転動部材33とが当接する第2の当接角θよりも小さい角度であるので、転動部材33が緩衝部317に乗り上げやすくなると共に、転動部材33が抑止部316を越えて凹部318から抜け出してしまうことをより確実に抑止することができる。
【0086】
(第1の実施の形態の変形例)
本発明の第1の実施の形態の変形例に係るについて、図8を参照して説明する。図8は、本変形例に係るカム部材31の要部を示す模式図である。
【0087】
なお、第1の実施の形態の変形例、ならびに後述する第2の実施の形態及びその変形例において、第1の実施の形態について説明したものと共通する機能を有する構成要素については、同一の又は対応する符号及び名称を付してその説明を省略する。
【0088】
本変形例に係るカム部材31は、壁部315Aにおける緩衝部317Aの形状が、第1の実施の形態に係る壁部315における緩衝部317の形状と異なる。すなわち、第1の実施の形態における緩衝部317は、カム突起314との対向面317aが凹部318の底面318aに対して直交するように形成されていたが、本変形例に係る緩衝部317Aは、カム突起314との対向面317aが多板クラッチ8側を向くように、凹部318の底面318aに対して傾斜している。つまり、緩衝部317Aにおける対向面317aは、カム突起314に対向する対向面として形成され、抑止部316における抑止対向面316aに転動部材33を案内するように周方向に対して傾斜している。
【0089】
このため、カム突起314との対向面317aは、凹部318の底面318aとの間の角度αが鈍角となるように形成されている。これにより、転動部材33は、対向面317aを転動して緩衝部317Aに乗り上げる。
【0090】
また、本変形例においても、第1の実施の形態と同様に、緩衝部317Aと転動部材33が当接する第1の当接角θは、抑止部316と転動部材33とが当接する第2の当接角θよりも小さい角度であり、緩衝部317Aにおける第1の当接部317dの凹部318の底面318aからの軸方向高さLは、緩衝部317Aの軸方向高さLよりも僅かに低く、転動部材33の半径Rよりも低い。
【0091】
本変形例によれば、転動部材33が緩衝部317Aに当接した際の衝撃が、第1の実施の形態の場合に比較して、より緩和される。
【0092】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図9を参照して説明する。
【0093】
図9は、本実施の形態に係るカム部材31の要部を示す模式図である。本実施の形態に係るカム部材31は、壁部315Bの形状が第1の実施の形態の壁部315と異なる。
【0094】
壁部315Bは、抑止傾斜面316cを有する抑止部316Bと、緩衝傾斜面317eを有する緩衝部317Bとを有している。抑止傾斜面316c及び緩衝傾斜面317eは、凹部318の底面318aに対して多板クラッチ8側を向くように傾斜し、抑止傾斜面316cは、緩衝傾斜面317eに比較して、より直角に近い角度で凹部318の底面318aに対して傾斜している。
【0095】
緩衝部317Bにおける緩衝傾斜面317eは、カム突起314に対向する対向面として形成され、抑止部316Bにおける抑止傾斜面316cに転動部材33を案内するように周方向に対して傾斜している。抑止傾斜面316cは、緩衝傾斜面317eにおける凹部318の底面318a側とは反対側の端部に連続して形成されている。
【0096】
転動部材33は、電動モータ5が逆転した際、凹部318の底面318aから緩衝部317Bの緩衝傾斜面317eに乗り上げ、緩衝傾斜面317eを転動して抑止傾斜面316cに至る。抑止傾斜面316cは、緩衝傾斜面317eより急な角度でカム部材31の周方向に対して傾斜しているので、凹部318からの転動部材33の抜け出しが抑止部316Bによって抑止される。
【0097】
また、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、緩衝部317Bと転動部材33が当接する第1の当接角θは、抑止部316Bと転動部材33とが当接する第2の当接角θよりも小さい角度である。
【0098】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、抑止部316Bにおける抑止傾斜面316c及び緩衝部317Bにおける緩衝傾斜面317eがカム部材31の周方向に対して傾斜しているので、転動部材33が緩衝部317B及び抑止部316Bに当接した際の衝撃が、第1の実施の形態の場合に比較して、より緩和される。
【0099】
[第2の実施の形態の変形例]
次に、本発明の第2の実施の形態の変形例について、図10を参照して説明する。図10は、本変形例に係るカム部材31の要部を示す模式図である。本変形例に係るカム部材31は、壁部315Cの形状が第2の実施の形態の壁部315Bと異なる。
【0100】
第2の実施の形態に係る壁部315Bは、抑止部316Bの抑止傾斜面316cが凹部318の底面318aに対して多板クラッチ8側を向くように傾斜していたが、本変形例に係る壁部315Cは、抑止部316Cの抑止傾斜面316dが凹部318の底面318a側を向くように傾斜している。また、壁部315Cにおける緩衝部317Cは、第2の実施の形態に係る壁部315Bの緩衝部317Bと同様に形成されている。つまり、壁部315Cは、カム突起314側の端面(緩衝部317Cの緩衝傾斜面317f及び抑止部316Bの抑止傾斜面316d)が折り返し形状に形成されている。
【0101】
本変形例においても、第1及び第2の実施の形態と同様に、緩衝部317Cと転動部材33が当接する第1の当接角θは、抑止部316Cと転動部材33とが当接する第2の当接角θよりも小さい角度である。また、本変形例においては、カム突起314側の端面が折り返し形状であるので、第2の当接角θが鈍角である。
【0102】
本変形例によれば、第1の実施の形態の効果に加え、緩衝部317Cにおける緩衝傾斜面317fがカム部材31の周方向に対して傾斜しているので、転動部材33が緩衝部317Cに当接した際の衝撃が第1の実施の形態の場合に比較してより緩和されると共に、壁部315Cが折り返し形状に形成されているので、凹部318からの転動部材33の抜け出しが、より確実に抑止される。
【0103】
以上、本発明の駆動力伝達装置、及び駆動力伝達装置の制御装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【符号の説明】
【0104】
3…カム機構、4…ハウジング、5…電動モータ、5a…ボルト、7…歯車伝達機構、8…多板クラッチ、9…減速機構、11…駆動力伝達装置、12…制御装置、13…外側回転部材、14…内側回転部材、14a…ストレートスプライン嵌合部、20…プロペラシャフト、21…フロントディファレンシャル、22…リヤディファレンシャル、23…駆動力断続装置、24L,24R,25L,25R…アクスルシャフト、26…前輪側歯車機構、27…後輪側歯車機構、31…カム部材、31a…挿通孔、32…リテーナ、32a…リテーナ挿通孔、32b…ガイド部材、32c…ピン挿通孔、33…転動部材、34…支持ピン、35…ナット、41…本体部、41a,42a…保持孔、42…蓋部、50…電動機用ハウジング、71…第1の歯車、72…第2の歯車、73,74,75…玉軸受、76…支持軸、81…アウタクラッチプレート、82…インナクラッチプレート、90…回転軸、91…入力部材、92…自転力付与部材、93…出力部材、95,96…玉軸受、100…四輪駆動車、101…駆動力伝達系、101A…前輪側駆動力伝達系、101B…後輪側駆動力伝達系、102…エンジン、103…トランスミッション、104L,104R…前輪、105L,105R…後輪、121…記憶部、122…制御部、123…モータ制御回路、131…軸部、131a…凹部、132…円筒部、132b…スプライン嵌合部、133,134…針状ころ軸受、135…シール機構、141…ボス部、142…円筒部、143,144…針状ころ軸受、145…玉軸受、146…シール部材、211L,211R…サイドギヤ、212…ピニオンギヤ、213…ギヤ支持部材、214…フロントデフケース、221L,221R…サイドギヤ、222…ピニオンギヤ、223…ギヤ支持部材、224…リヤデフケース、231…第1のスプライン歯部、232…第2のスプライン歯部、233…スリーブ、261,271…ドライブピニオン、262,272…リングギヤ、310…基部、311…凸片、311a…ギヤ部、312…円筒部、37,38…針状ころ軸受、314…カム突起、313…凸部、313a…第1の凸部、313b…第2の凸部、313c…第3の凸部、314…カム突起、314a…カム面、314b…カム突起端面、315,315A,315B,315C…壁部、316,316A,316B…抑止部、316a…抑止対向面、316b…第2の当接部、316c,316d…抑止傾斜面、317,317A…緩衝部、317a…対向面、317b…端面、317c…角部、317d…第1の当接部、317e,317f…緩衝傾斜面、318…凹部、318a…底面、320…リテーナ基部、321…凹片、321a…ガイド挿通孔、322…筒部、323…押付部材、324…針状ころ軸受、325…リターンスプリング、420…嵌合穴、500…出力軸、710…ピン取付孔、720…ギヤ部、901…偏心部、911…ピン挿通孔、a…始端部、a…終端部、F…第1の反力、F…第2の反力、O…回転軸線、O,O…軸線、θ…第1の当接角、θ…第2の当接角
図1
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図10