(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光を放出するプラズマの近傍に配置され、主軸から放射状に伸びる複数のホイルを備え、上記光は通過するが上記プラズマからのデブリは捕捉するホイルトラップであって、
上記複数のホイルが主軸上に配置された中心支柱により支持されていて、上記中心支柱と連結した回転機構により上記中心支柱を回転軸として回転可能に構成されている回転式ホイルトラップにおいて、
上記中心支柱の側面には複数の溝部が設けられ、
当該溝部のそれぞれに各ホイルの一端部が挿入され、
上記中心支柱と上記各ホイルとはろう付けにより固定されている
ことを特徴とする回転式ホイルトラップ。
上記中心支柱の内部には内側管部および外側管部からなる二重管構造の管路が設けられていて、流体が一方の管部から流入し他方の管部より流出し、上記中心支柱に固定されている各ホイルの温度が上記プラズマの原料の融点以上、蒸発温度以下であって、上記ホイルを構成する材料の再結晶温度以下に維持されている
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5のいずれか一項に記載の回転式ホイルトラップ。
上記流体は、上記管路の外側管部に設けられた流入口から流入し、外側管部、内側管部の順に経由して、上記内側管部に設けられた流出口から流出するように、上記二重管構造の管路に供給されていて、
上記内側管部における外側管部を経由した流体が流入する側の端部に、上記外側管部側に傾斜した傾斜部が設けられている
ことを特徴とする請求項6に記載の回転式ホイルトラップ。
容器と、上記容器内にプラズマ原料を供給するプラズマ原料供給手段と、上記プラズマ原料を加熱して励起しプラズマを発生させる一対の放電電極からなる放電部材と、上記プラズマから放射される光を集光する集光ミラーと、上記放電部材と上記集光ミラーとの間に設けられるホイルトラップと、上記集光された光を取り出す上記容器に形成された光取り出し部と、上記容器内を排気し容器内の圧力を調整する排気手段とを備えた光源装置において、
上記ホイルトラップは、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、請求項10、請求項11、請求項12、請求項13または請求項14のいずれか一項に記載の回転式ホイルトラップであることを特徴とする光源装置。
容器と、上記容器内にプラズマ原料を供給するプラズマ原料供給手段と、上記プラズマ原料にレーザビームを照射して当該プラズマ原料を加熱して励起し高温プラズマを発生させるレーザビーム照射手段と、上記プラズマから放射される光を集光する集光ミラーと、上記高温プラズマと上記集光ミラーとの間に設けられるホイルトラップと、上記集光された光を取り出す上記容器に形成された光取り出し部と、上記容器内を排気し容器内の圧力を調整する排気手段とを備えた光源装置において、
上記ホイルトラップは、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9、請求項10、請求項11、請求項12、請求項13または請求項14のいずれか一項に記載の回転式ホイルトラップであることを特徴とする光源装置。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、露光用光源の短波長化が進められ、次世代の半導体露光用光源として、特に波長13.5nmの極端紫外光(以下、EUV(Extreme Ultra Violet)光ともいう)を放射する極端紫外光光源装置(以下、EUV光源装置ともいう)の開発が進められている。
【0003】
EUV光源装置において、EUV光を発生させる方法はいくつか知られているが、そのうちの一つに極端紫外光放射種(以下、EUV放射種)を加熱して励起することにより高温プラズマを発生させ、この高温プラズマからEUV光を取り出す方法がある。
このような方法を採用するEUV光源装置は、高温プラズマの生成方式により、LPP(Laser Produced Plasma:レーザ生成プラズマ)方式EUV光源装置とDPP(Discharge Produced Plasma:放電生成プラズマ)方式EUV光源装置とに大きく分けられる。
【0004】
〔DPP方式のEUV光源装置〕
図12は、特許文献1記載されたDPP方式のEUV光源装置を簡易的に説明するための図である。
EUV光源装置は、放電容器であるチャンバ1を有する。チャンバ1内には、一対の円板状の放電電極2a,2bなどが収容される放電部1aと、ホイルトラップ5や集光光学手段であるEUV集光鏡9などが収容されるEUV集光部1bとを備えている。
1cは、放電部1a、EUV集光部1bを排気して、チャンバ1内を真空状態にするためのガス排気ユニットである。
2a,2bは円盤状の電極である。電極2a,2bは所定間隔だけ互いに離間しており、それぞれ回転モータ16a,16bが回転することにより、16c,16dを回転軸として回転する。
14は、波長13.5nmのEUV光を放射する高温プラズマ原料である。高温プラズマ原料14は、加熱された溶融金属(melted metal)例えば液体状のスズ(Sn)であり、コンテナ15a、15bに収容される。
【0005】
上記電極2a,2bは、その一部が高温プラズマ原料14を収容するコンテナ15a、15bの中に浸されるように配置される。電極2a,2bの表面上に乗った液体状の高温プラズマ原料14は、電極2a,2bが回転することにより、放電空間に輸送される。上記放電空間に輸送された高温プラズマ原料14に対してレーザ源17aよりレーザ光17が照射される。レーザ光17が照射された高温プラズマ原料14は気化する。
電極2a,2bに、電力供給手段3からパルス電圧が印加された後、高温プラズマ原料14がレ−ザ光17の照射により気化されることにより、両電極2a,2b間にパルス放電が開始し、高温プラズマ原料14によるプラズマPが形成される。放電時に流れる大電流によりプラズマが加熱励起され高温化すると、この高温プラズマPからEUVが放射される。
高温プラズマPから放射したEUV光は、EUV集光鏡9により集光鏡9の集光点(中間集光点ともいう)fに集められ、EUV光取出部8から出射し、EUV光源装置に接続された点線で示した露光機50に入射する。
【0006】
上記したEUV集光鏡9は、一般に、複数枚の薄い凹面ミラーを入れ子状に高精度に配置した構造からなる。各凹面ミラーの反射面の形状は、例えば、回転楕円面形状、回転放物面形状、ウォルター型形状であり、各凹面ミラーは回転体形状である。ここで、ウォルター型形状とは、光入射面が、光入射側から順に回転双曲面と回転楕円面、もしくは、回転双曲面と回転放物面からなる凹面形状である。
【0007】
〔LPP方式のEUV光源装置〕
図13は、LPP方式のEUV光源装置を簡易的に説明するための図である。
LPP方式のEUV光源装置は、光源チャンバ1を有する。光源チャンバ1には、EUV放射種である原料(高温プラズマ原料)を供給するための原料供給ユニット10および原料供給ノズル20が設けられている。原料供給ノズル20からは、原料として、例えば液滴状のスズ(Sn)が放出される。
光源チャンバ1の内部は、真空ポンプ等で構成されたガス排気ユニット1cにより真空状態に維持されている。
【0008】
レーザビーム照射手段である励起用レーザ光発生装置21からのレーザ光(レーザビーム)22は、レーザ光集光手段24により集光されながらレーザ光入射窓部23を介してチャンバ1内部へ導入され、EUV集光鏡9の略中央部に設けられたレーザ光通過穴25を通って、原料供給ノズル20から放出される原料(例えば液滴状のスズ)に照射される。ここで用いられる励起用レーザ光発生装置21は、例えば、繰り返し周波数が数kHzであるパルスレーザ装置であり、炭酸ガス(CO
2)レーザ、YAGレーザなどが使用される。
【0009】
原料供給ノズル20から供給された原料は、レーザ光22の照射により加熱・励起されて高温プラズマとなり、この高温プラズマからEUV光が放射される。放射されたEUV光は、EUV集光鏡9によりEUV光取出部に向けて反射されてEUV集光鏡の集光点(中間集光点)に集光され、EUV光取出部8から出射し、EUV光源装置に接続された点線で示した露光機50に入射する。
【0010】
ここで、EUV集光鏡9は、例えばモリブデンとシリコンの多層膜でコーティングされた球面形状の反射鏡であり、励起用レーザ光発生装置21およびレーザ光入射窓部23の配置によっては、レーザ光通過穴25を必要としない場合もある。
また、高温プラズマ生成用のレーザ光22は、迷光としてEUV光取出部に到達することもある。よって、EUV光取出部の前方(高温プラズマ側)にEUV光を透過して、レーザ光22を透過させない不図示のスペクトル純度フィルタを配置することもある。
【0011】
〔ホイルトラップ〕
上述したEUV光源装置において、高温プラズマPからは種々のデブリが発生する。それは、例えば、高温プラズマPと接する金属(例えば、一対の円板状の放電電極2a,2b)が上記プラズマによってスパッタされて生成する金属粉等のデブリや、高温プラズマ原料14であるSnに起因するデブリである。
これらのデブリは、プラズマの収縮・膨張過程を経て、大きな運動エネルギーを得る。すなわち、高温プラズマPから発生するデブリは高速で移動するイオンや中性原子であり、このようなデブリはEUV集光鏡9にぶつかって反射面を削ったり、反射面上に堆積したりして、EUV光の反射率を低下させる。
【0012】
そのため、EUV光源装置において、放電部1aとEUV光集光部1bに収容されたEUV集光鏡9との間には、EUV集光鏡9のダメージを防ぐために、ホイルトラップ5が設置される。ホイルトラップ5は、上記したようなデブリを捕捉してEUV光のみを通過させる働きをする。
【0013】
ホイルトラップは、その一例が特許文献2、特許文献3に示され、特許文献3では「フォイル・トラップ」として記載されている。
図14に、特許文献2に示されるようなホイルトラップの概略構成を示す。
ホイルトラップ5は、ホイルトラップ5の中心軸(
図14ではEUV光の光軸に一致)を中心として、半径方向に放射状に配置された、複数の薄膜(ホイル)または薄い平板(プレート)(以下薄膜と平板を合せて「ホイル5a」と呼ぶ)と、この複数のホイル5aを支持する、同心円状に配置された中心支柱5bとリング状支持体である外側リング5cのとから構成されている。
ホイル5aは、その平面がEUV光の光軸に平行になるように配置され支持されている。そのため、ホイルトラップ5を極端紫外光源(高温プラズマP)側から見ると、中心支柱5bと外側リング5cの支持体の部分を除けば、ホイル5aの厚みしか見えない。したがって、高温プラズマPからのEUV光のほとんどは、ホイルトラップ5を通過することができる。
【0014】
一方、ホイルトラップ5の複数のホイル5aは、配置された空間を細かく分割することにより、その部分のコンダクタンスを下げて圧力を上げる働きをする。そのため、高温プラズマPからのデブリは、ホイルトラップ5により圧力が上がった領域で衝突確率が上がるために速度が低下する。速度が低下したデブリは、ホイルやホイルの支持体により捕捉されるものもある。
【0015】
なお、DPP方式EUV光源装置においては、光軸上の光(高温プラズマPから0°の角度(放射角が0°)で出射する光)や、EUV集光鏡の最も内側に位置する凹面ミラーが反射可能な入射角(以下、最小入射角ともいう)より小さい入射角でEUVミラーに入射する光は、露光には使用されず、むしろ存在しないほうが好ましい。そのため、中心支柱5bは存在しても問題はなく、むしろ中心支柱5bにより積極的に遮光することもある。なお中心支柱5bは、EUV集光鏡の構成から定まる最小入射角以下の光を遮光する形状となるので、一般的にはコーン形状となる。よって、以下、中心支柱のことをコーン(cone)とも呼ぶ。
なお、ホイルトラップは、高温プラズマの近くに配置されるので、受ける熱負荷も大きい。よって、ホイルトラップを構成するホイルやコーンは、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、モリブデン合金などの高耐熱材料から形成される。
【0016】
上記したホイルトラップは、主としてDPP方式のEUV光源装置に採用されることが多い。LPP方式のEUV光源装置の場合、磁界によりデブリ進行方向を制御してEUV集光鏡への衝突を抑制したり、EUV集光鏡に付着したデブリを、水素ガス等のクリーニングガスにより除去したりしている。しかしながら、
図12に示すように、上記したようなホイルトラップ5を高温プラズマPとEUV集光鏡9との間に配置することもある。すなわち、ホイルトラップはDPP方式のEUV光源装置のみならず、LPP方式のEUV光源装置にも採用されうる。
【0017】
〔回転式ホイルトラップ、固定式ホイルトラップ〕
近年、特許文献4に記載されているように、ホイルトラップを2つ、直列に設けるとともに、一方のホイルトラップを回転させる構成が知られている。
図15に概略構成を示す。
図15に示す例では、高温プラズマPに近い方のホイルトラップが回転する機能を有する。以下、この回転機能を有するホイルトラップを回転式ホイルトラップ、回転せず固定型のホイルトラップを固定式ホイルトラップとも言う。
【0018】
回転式ホイルトラップ4は、コーン(中心支柱)が図示を省略した回転駆動機構の回転駆動軸と同軸状に接続されている。そして、回転駆動機構の回転駆動軸が回転すると、上記回転式ホイルトラップ4はコーン4cの回転駆動軸を中心に回転する。
回転式ホイルトラップ4の各ホイル、は、コーン4cに固定されており、各ホイル4aはコーン4cの回転駆動軸を中心に放射状に伸びる。なお、回転式ホイルトラップ4は、コーン4cに固定されていればよい。
【0019】
回転式ホイルトラップ4は、複数のホイル4aがコーン4cの回転駆動軸を中心に回転することにより、プラズマから飛来するデブリを捕捉するものである。例えば、高温プラズマ原料14であるSnに起因するデブリは、回転式ホイルトラップ4の各ホイル4aに捕捉されたり、進行方向がEUVミラー側とは異なる方向となるように偏向される。すなわち、EUV集光鏡9の各凹面ミラーへのデブリの堆積は、回転式ホイルトラップ4を使用することにより抑制される。
【0020】
固定式ホイルトラップ5は、回転式ホイルトラップ4により捕捉しきれなかった高速で進行するデブリを捕捉する。固定式ホイルトラップ5により圧力が上がった領域での上記デブリの衝突確率が上がるため、高速で移動するデブリの速度が低下する。速度が低下したデブリは、ホイルやホイルの支持体により捕捉されるものもある。すなわち、EUV集光鏡の各凹面ミラーの高速デブリによるスパッタリングは、固定式ホイルトラップ5を使用することにより抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
回転式ホイルトラップの概念は、特にスズを放電材料として使用したEUV光源のデブリ低減方法として、従来より文献等で提案されている。しかし、回転式フォイルトラップを作成し、EUV光源装置で使用したところ、特に信頼性や寿命に関して様々な課題に直面した。
具体的には、回転式ホイルトラップはプラズマからの大きな熱負荷に常に曝された状態で動作しており、実用に耐えうるホイル材料、中心支柱材料、そしてホイルと中心支柱の接合部分の構造や方法が問題となった。特に回転式ホイルトラップでは、回転にともないホイルに遠心力が加わるため、高温条件下におけるホイルと中心支柱の接合部分の引張強度(tensile strength)を大きくする必要が生じた。
【0023】
例えば、特許文献3に示される固定式のホイルトラップにおいて、ホイル(特許文献3におけるフォイルトラップ9の薄膜31,32)は、内部リング(33)および外部リング(35)により保持される。各ホイル(31、32)と外部リング(35)とは、はんだ付けまたは溶接により固定されている。一方、各ホイル(31、32)と内部リング(33)とは、内部リング(33)に設けられた溝(51)に、凹部(63)を有する内縁部(62)が単に挿入された構造である。
このような構造をそのまま回転式ホイルトラップに採用すると、高温条件下におけるホイルと中心支柱の接合部分の引張強度を大きくすることは困難となる。
【0024】
次に、プラズマへの入力電力を10kW以上とした場合に、回転式ホイルトラップのEUV光の透過率が低下するという問題が発生した。その原因を調査した結果、回転式ホイルトラップを構成するホイルにおいて、局所的に大きな温度勾配が生じ、座屈(buckling)と呼ばれる弾性変形が起こっていることが判明した。
また、プラズマへの入力電力が増加するとともに、プラズマから回転式ホイルトラップに入力される熱負荷も増加する。すると、ホイルの温度が上昇し、ホイルを構成するモリブデンの再結晶化という問題が生じた。また、後で示すように、本願発明においてはホイルと中心支柱の接合部分の強度を大きくするため、ホイルと中心支柱とをろう付けしている。しかし、上記したようにホイルの温度が上昇すると、ホイルと中心支柱とを結合しているろう材が劣化し、回転式ホイルトラップの寿命が短縮されるという新たな問題が生じた。
【0025】
そのため、入力電力とともに増大する回転式ホイルトラップへの熱負荷に対応するために、回転式ホイルトラップには、ホイルの温度上昇を抑制する機能を付与する必要がある。
【0026】
本発明は上記したような事情に鑑みなされたものであり、その課題は、EUV光源が高入力動作時においてもEUV光の透過率が低下せず、ホイルの温度上昇が抑制され十分な寿命を有する、回転式ホイルトラップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者が鋭意検討した結果、回転式ホイルトラップを以下のように構成することで、EUV光源が高入力動作時においてもEUV光の透過率が低下しないようにするとともにホイルの温度上昇を抑制し十分な寿命を確保することができることを見出した。
すなわち、中心支柱の側面に設けた複数の溝部のそれぞれに各ホイルの一端部を挿入し、中心支柱と上記各ホイルとをろう付けにより固定する。これにより、中心支柱に各ホイルを強固に固定することができ、EUV光源が高入力動作時においても十分な寿命を確保することができる。その際のろう材としては金ろうを用いるのが望ましいことが分かった。また、上記中心支柱を円錐台形状にすることで、円柱形状とする場合に比べ、ホイルの温度勾配が緩和され、ホイルを取り付けるための溝加工が容易になる。さらに、上記において、ホイルの板厚を0.2mm〜0.5mmとすることが望ましいことが分かった。ホイルの板厚を上記範囲内とすることで、ホイルの温度勾配が大きくなってもホイルが変形してEUV光の透過率の低下を防ぐことができる。また板厚を上記範囲内とするとことにより、回転式ホイルトラップを回転駆動する回転駆動機構への重量的負荷を小さくすることもできる。
また、上記中心支柱の内部に内側管部および外側管部からなる二重管構造の管路を設けて、熱交換用の流体を一方の管部から流入させ他方の管部より流出させることにより、各ホイルの温度を上記プラズマの原料の融点以上、蒸発温度以下であって、上記ホイルを構成する材料の再結晶温度以下に維持させることができるとともに、ろう材の劣化を防ぐことができる。
さらに、回転式ホイルトラップの外周部側であって、EUV光の光路外の部分を包囲するカバー部材を設ければ、上記熱交換用の流体が漏れたとしても、上記カバー部材で回収することが可能となり、プラズマが発生する真空容器内が上記流体で汚染されることが抑制される。ここで、ホイルトラップとカバー部材の隙間を小さくすれば、回転式ホイルトラップの中心支柱がその回転駆動軸から外れそうになっても、ホイルトラップがカバー部材に接触して止まるので、ホイルトラップが脱落するのを防ぐことができる。
また、中心支柱と回転駆動軸をねじにより連結し、中心支柱のねじ部側端部または上記回転駆動軸のねじ部側端部にOリング溝を設けて当該Oリング溝部にOリングを設置することにより、回転式ホイルトラップの中心支柱と回転駆動軸との勘合部分からの流体のリークを防止することができる。その際、上記カバー部材の内面と上記ホイルの端部との間の隙間を、上記第Oリングのつぶし代となる直径の30%以下とすることで、上記ねじが緩んでも、中心支柱と回転駆動軸との間に生じる隙間は上記Oリングのつぶし代以下となり、上記熱交換用の流体の漏出を防ぐことができる。
さらに、カバー部材を設けることにより、ホイルトラップとカバー部材との隙間におけるコンダクタンスが下がり、プラズマから放出されるデブリを補足しやすくすることもできる。
具体的には、本発明においては、以下のように回転式ホイルトラップを構成するとともに、この回転式ホイルトラップを用いて光源装置を構成する。
(1)光を放出するプラズマの近傍に配置され、主軸から放射状に伸びる複数のホイルを備え、上記光は通過するが上記プラズマからのデブリは捕捉するホイルトラップであって、上記複数のホイルが主軸上に配置された中心支柱により支持されていて、上記中心支柱と連結した回転機構により上記中心支柱を回転駆動軸として回転可能に構成されている回転式ホイルトラップにおいて、上記中心支柱の側面に設けた複数の溝部のそれぞれに各ホイルの一端部が挿入され、上記中心支柱と上記各ホイルとがろう付けにより固定されている。
(2)上記(1)において、ホイルと中心支柱とを接合するろう材には金ろうが用いられる。
(3)上記(1)、(2)において、ホイルと中心支柱はモリブデン、タングステン、モリブデンまたはタングステンを含む合金からなる。
(4)上記(3)において、各ホイルの板厚を0.2mm〜0.5mmの範囲とする。
(5)上記(1)、(2)、(3)、(4)において、中心支柱の形状が円錐台形状である。
(6)上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)において、中心支柱の内部に内側管部および外側管部からなる二重管構造の管路を設け、流体を一方の管部から流入し、他方の管部より流出させ、上記中心支柱に固定されている各ホイルの温度が上記プラズマの原料の融点以上、蒸発温度以下であって、上記ホイルを構成する材料の再結晶温度以下に維持する。
(7)上記(6)において、上記流体は、上記管路の外側管部に設けられた流入口から流入し、外側管部、内側管部の順に経由して、上記内側管部に設けられた流出口から流出するように、上記二重管構造の管路に供給されていて、上記内側管部における外側管部を経由した流体が流入する側の端部に、上記外側管部側に傾斜した傾斜部が設けられている。
(8)上記(6)、(7)において、上記流体が水であって、中心支柱内部において管路から供給される水と接触する部分に耐食性材料からなるコーティングが施されている
(9)上記(8)において、上記耐食性材料が、ニッケル(Ni)または窒化チタニウム(TiN)である。
(10)上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)において、上記中心支柱の回転軸に沿って第1のねじ部を設け、上記回転機構の回転駆動軸に上記第1のねじ部に勘合可能な第2のねじ部を設け、両ねじ部を勘合することにより回転式ホイルトラップと上記回転機構とが連結する。
(11)上記(10)において、回転式ホイルトラップの回転方向が上記第1のねじ部と上記第2のねじ部の締結方向と逆向きである。
(12)上記(10)、(11)において、上記第1のねじ部と上記第2のねじ部との勘合部分に緩み止め機構を設ける。
(13)上記(10)、(11)、(12)において、上記中心支柱のねじ部側端部または上記回転駆動軸のねじ部側端部にはOリング溝を設けて当該Oリング溝部にOリングを設置し、上記回転式ホイルトラップの外周部側であって、EUV光の光路外の部分を包囲するカバー部材を設け、上記カバー部材の内面と上記ホイルの端部との間の隙間を、上記Oリングの直径の30%以下とする。
(14)上記(10)、(11)、(12)において、上記回転式ホイルトラップの外周部側であって、EUV光の光路外の部分を包囲するカバー部材を設け、上記カバー部材の内面と上記ホイルの端部との間の隙間を、1.5mm以下とする。
(15)上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)の回転式ホイルトラップを、容器と、上記容器内にプラズマ原料を供給するプラズマ原料供給手段と、上記プラズマ原料を加熱して励起しプラズマを発生させる一対の放電電極からなる放電部材と、上記プラズマから放射される光を集光する集光ミラーと、上記放電部材と上記集光ミラーとの間に設けられるホイルトラップと、上記集光された光を取り出す上記容器に形成された光取り出し部と、上記容器内を排気し容器内の圧力を調整する排気手段とを備えた光源装置に適用する。
(16)上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)の回転式ホイルトラップを、容器と、上記容器内にプラズマ原料を供給するプラズマ原料供給手段と、上記プラズマ原料にレーザビームを照射して当該プラズマ原料を加熱して励起し高温プラズマを発生させるレーザビーム照射手段と、上記プラズマから放射される光を集光する集光ミラーと、上記高温プラズマと上記集光ミラーとの間に設けられるホイルトラップと、上記集光された光を取り出す上記容器に形成された光取り出し部と、上記容器内を排気し容器内の圧力を調整する排気手段とを備えた光源装置に適用する。
【発明の効果】
【0028】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)本発明のホイルトラップは、中心支柱の側面に設けた複数の溝部のそれぞれに各ホイルの一端部が挿入され、上記中心支柱と上記各ホイルとをろう付けにより固定している。よって、特許文献1のような内部リングに設けられた溝にホイルの内縁部を単に挿入した構造と比較すると、強固に各ホイルと中心支柱とを固定することが可能となる。
また、各ホイルや中心支柱は、高耐熱かつ低膨張率であるモリブデン、タングステン、およびモリブデンまたはタングステンを含む合金のいずれかの材質で構成される。そのため、各ホイルや中心支柱は、プラズマ近傍に配置される回転式ホイルトラップが受ける熱負荷に対して耐熱性が良好であり、変形等の不具合の発生が抑制される。よって、回転式ホイルトラップにおいて、プラズマからの光の通過量が回転式ホイルトラップの変形により減少するという不具合も発生しない。
【0029】
特に、ろう材を金ろうとすることにより、ろう付け部分の十分な引っ張り強度を実現でき、またプラズマから受ける熱負荷に対して溶解するということもない。なお、発明者らが金ろうを用いてろう付け後に高融点材料からなるホイルを確認したところ、当該ホイルの再結晶化は見られなかった。
【0030】
(2)ホイル自体の厚みを0.2〜0.5mmにすることにより、プラズマからの熱負荷によりホイル上に発生する温度勾配に起因するホイルの座屈が生じにくくなる。よって、ホイルの変形が抑制され、回転式ホイルトラップの光学的透過率の低下という不具合が発生しない。一方、ホイル自体の厚みを0.5mm以下としたので、回転式ホイルトラップを回転駆動するドライブユニット(駆動駆動機構)への重量的負荷を小さくできる。また、ホイル自体により遮光される面積が小さくなるので、回転式ホイルトラップの実用的な光学的透過率も確保することができる。
【0031】
(3)特に中心支柱を円錐台形状にすることにより、円柱形状のものと比較すると、体積や熱容量をより大きくすることが可能となる。その結果、中心支柱内にも温度勾配ができ、中心支柱と接続されているホイル自体の温度勾配を緩和させることが可能となる。ホイルの温度勾配が緩和すると、温度勾配に起因するホイルの座屈発生も抑制される。
【0032】
また、中心支柱の側面部にはホイル挿入用の溝部を加工する必要があるが、ろう材の供給を容易にし、中心支柱の強度を確保するために、溝部の深さは一定であることが望ましい。中心支柱の側面部にこのようなホイル挿入用の溝部を加工する際、中心支柱の形状が円錐台形状であれば、側面部の稜線は同一平面上に存在するので、1つの溝部を一回の加工により形成することが可能となる。
一方、中心支柱の形状が、上部に円錐台部、下部に円柱部を有する結合形状である場合、当該結合形状の稜線は同一平面上にない。このため、溝部の深さが一定になるように加工する場合、中心支柱の傾きを調整しながら、2回の加工を実施することが必要となる。
すなわち、中心支柱の形状が円錐台形形状である場合、1つの溝部の形成に1回の加工を実施すればよいので、製造コストを削減することが可能となる。
【0033】
(4)中心支柱内部に設けた内側管部と外側管部とからなる二重管式管路内を流入、流出する流体と上記中心支柱との間で熱交換することにより、中心支柱の温度の調整が可能である。中心支柱と各ホイルとはろう付けにより固定されているので両者間の熱伝導性は良好であるので、中心支柱の温度調整により、各ホイルの温度調整を行うことが可能となる。特に、各ホイルの温度が上記プラズマの原料の融点以上、蒸発温度以下であって、上記ホイルを構成する材料の再結晶温度以下に維持することにより、ホイルに付着したプラズマ原料を回転ホイルトラップから弾き出すことができ、上記原料が気化しないので気化原料によるEUV集光鏡の汚染が抑制され、ホイル自体を構成する材料が再結晶化しないのでホイル強度が低下しない。
【0034】
(5)特に、二重管式管路において、上記流体を、上記管路の外側管部に設けられた流入口から流入し、外側管部、内側管部の順に経由して、上記内側管部に設けられた流出口から流出するように供給するとともに、上記内側管部における外側管部を経由した流体が流入する側の端部に、上記外側管部側に傾斜した傾斜部が設けることにより、流体が外側管部の内側角部に十分に供給され、結果として中心支柱を効果的に冷却することができる。
【0035】
(6)なお、上記流体が水である場合には、中心支柱内部において管路から供給される水と接触する部分にニッケル(Ni)または窒化チタニウム(TiN)耐食性材料からなるコーティングを施すことにより、中心支柱内部の腐食を抑制することができる。
(7)上記中心支の回転軸に沿って第1のねじ部を設け、上記回転機構の回転駆動軸に上記第1のねじ部に勘合可能な第2のねじ部が設け、両ねじ部を勘合して回転式ホイルトラップと上記回転機構とを連結する構造とすることにより、取り付けおよび取り外しが比較的容易となる。また、ねじ径を大きくすることで、締め付けトルクを高めることが可能なため、駆動機構が故障などで急停止した場合にも慣性で回転式ホイルトラップが外れる危険性が低い。
【0036】
(8)特に、ホイルトラップの回転方向を上記第1のねじ部と上記第2のねじ部の締結方向と逆向きにすることにより、回転式ホイルトラップの加速時(起動時)にネジ部に加わるトルクが、両ねじ部を締め付ける方向に働き、両者が確実に連結される。
(9)また、第1のねじ部と上記第2のねじ部との勘合部分に緩み止め機構を設けることにより、両者の緩みが抑制され、より確実に回転式ホイルトラップと上記回転機構とが連結される。
【0037】
(10)上記回転式ホイルトラップの外周部側であって、EUV光の光路外の部分を包囲するカバー部材を設けることにより、上記中心支柱を温度調整するために使用される流体が漏れたとしても、上記カバー部材で回収することが可能となり、プラズマが発生する真空容器内が上記流体で汚染されることが抑制される。
また、回転式ホイルトラップと回転駆動部との連結が緩んだ場合においても、カバー部材に回転式ホイルトラップが接触して停止し、回転式ホイルトラップが真空容器内に落下することはない。
また、中心支柱のねじ部側端部または上記回転駆動軸のねじ部側端部にOリング溝を設けて当該Oリング溝部にOリングを設置することにより、回転式ホイルトラップの中心支柱と回転駆動軸との勘合部分からの流体のリークを防止することができる。
特に、上記カバー部材の内面と上記ホイルの端部との間の隙間を上記Oリングの直径の30%以下とすることにより、上記カバー部材に接触して上記回転式ホイルトラップが停止した際においてもOリングの中心支柱および回転駆動軸へ接触した状態は保持されるので、中心支柱と回転駆動軸との勘合部からから漏れる温度調整用の流体の量を少なくできる。
(11)また、上記カバー部材の内面と上記ホイルの端部との間の隙間を1.5mm以下にすることにより、その隙間におけるコンダクタンスが下がり圧力が上がるので、プラズマから放出されるデブリを捕捉しやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
〔回転式ホイルトラップの基本構造〕
図1に本発明の実施例の回転式ホイルトラップの概略構成図を示す。本実施例の回転式ホイルトラップは、複数枚のホイル4aが中心支柱4cに固定された構造であり、
図1(c)に示すように、当該中心支柱4cの回転軸4eを中心に放射状に伸びている。また、各ホイル4aの外周部分は、
図1(a)に示すように外側リング6に接続されている。外側リング6は各ホイル4aの間隔が略等間隔となるように各ホイルを保持する。なおここでの「間隔」とは、外側リング6とホイルとの各接続部分において、隣り合う部分同士の間隔である。
回転式ホイルトラップは、中心支柱4cが図示を省略したドライブユニット(回転駆動機構)の回転駆動軸と同軸状に接続されている。そして、ドライブユニットの回転駆動軸が回転すると、上記回転式ホイルトラップは中心支柱4cの回転軸4eを中心に回転する。
【0040】
図1(a)のB部の拡大図である
図1(b)に示すように、中央支柱の側面には、ホイル4aが挿入される複数の溝部4dが形成されている。
図1(a)(b)に示すように、中心支柱4cの側面に掘られた複数の溝部4dに各ホイル4aが挿入され、溝部4dとホイル4aとの間にろう材が充填され、各ホイルと中心支柱4cとがろう付けにより接合されている(同図の「ろう付け部分4b」)。なお中心支柱4cに刻まれる溝の幅がホイル4aの厚みに対して大きすぎると、ホイル4aが中心支柱4cの稜線に対して傾いた状態で中心支柱4cに固定されEUV光の透過を妨げる原因となる。したがって、溝部4dの幅はホイル4aの厚みよりわずかに大きい程度にする必要がある。
【0041】
〔ろう材について〕
中心支柱4cとホイル4aの接合に使われるろうの材質としては、例えば金ろうがよい。回転式ホイルトラップ用途に求められるろう材の特性としては、引っ張り強度と高温での安定性である。銀ろうは、回転式ホイルトラップが曝される熱負荷では融解したり、また遠心力に耐えうる引っ張り強度が期待できない。一方、パラジウムろうや白金ろうは耐熱性は十分だが、中心支柱4cとホイル4aをろう付けする際のろう付け温度としては1000度以上の高温が必要となる。中心支柱4cやホイル4aを構成するモリブデン等の高融点材料は、再結晶化温度以上になると再結晶化が進行して脆くなることが知られている。例えば、モリブデンの再結晶化は800°C〜1200°Cといわれており、パラジウムろうや白金ろうによるろう付けの際、ホイル4aの再結晶化が進行しやすい。そのため、ろう付け材料としてパラジウムろうや白金ろうは使用できない。
なお、金ろうとしては、ろう付けの作業性、高温時の機械強度等からAu−Ni系が好ましい。
【0042】
〔中心支柱およびホイルの材質〕
中心支柱4cおよびホイル4aを構成する材質は、ろう材の選定にも影響を及ぼすことは上記の通りである。回転式ホイルトラップはプラズマに近く、大きな熱負荷が加わるため、中心支柱4cとホイル4aには、高耐熱かつ低膨張率であるモリブデン、タングステンおよびそれらを含む高融点金属が使われる。特に、中心支柱4cには、ホイル4aを挿入するために溝を刻むなど、複雑かつ精密な機械加工が必要となる。一般的に純モリブデンや純タングステンは非常に脆く、加工が困難である。したがって、例えば、加工性が比較的良いTZM(チタン・ジルコニウム・モリブデン)などの合金を使用した方がよい。
【0043】
以上のように、本発明のホイルトラップは、中心支柱4cの側面に設けた複数の溝部4dのそれぞれに各ホイル4aの一端部が挿入され、上記中心支柱4cと上記各ホイルとをろう付けにより固定している。よって、特許文献1のような内部リングに設けられた溝にホイル4aの内縁部を単に挿入した構造と比較すると、強固に各ホイルと中心支柱4cとを固定することが可能となる。
また、各ホイル4aや中心支柱4cは、高耐熱かつ低膨張率であるモリブデン、タングステン、およびモリブデンまたはタングステンを含む合金のいずれかの材質で構成される。そのため、各ホイル4aや中心支柱4cは、プラズマ近傍に配置される回転式ホイルトラップが受ける熱負荷に対して耐熱性が良好であり、変形等の不具合が発生が抑制される。よって、回転式ホイルトラップにおいて、プラズマからの光の通過量が回転式ホイルトラップの変形により減少するという不具合も発生しない。特に、ろう材を金ろうとしたので、ロウ付け部分の十分な引っ張り強度を実現でき、またプラズマから受ける熱負荷に対して溶解するということもない。また、ろう付け後に高融点材料からなるホイル4aの再結晶化は見られておらず、ホイル自体が脆くなることはない。
【0044】
〔ホイル4aの厚み(板厚)〕
ホイル4aの厚みは、EUV光源の出力、座屈による光学的透過率低下の度合い、板厚によるホイルトラップの光学的透過率低下の度合いの3点のバランスを考慮して決める必要がある。
ホイル自体の厚み、すなわちホイル4aの体積が増えると、ホイル1枚あたりの熱容量も増える。すなわち、回転式ホイルトラップへの熱入力が一定であるとすると、ホイル4aの厚みが増すにつれ回転式ホイルトラップの到達温度は下がる。
【0045】
EUV集光鏡の集光点における出力(IF出力ともいう)が10Wを超えるような(すなわち、プラズマへの入力電力が10kW以上となるような)高出力型EUV光源で回転式ホイルトラップを使用した場合、ホイル上に大きな温度勾配ができ、同一面内での熱膨張差異に起因する座屈(Buckling)が発生しやすくなる。この座屈による各ホイル4aの変形により、プラズマから放出されるEUVの回転式ホイルトラップにおける光学的透過率が低下する。ここでホイル4aの板厚が大きいほど、ホイル4aの温度自体が下がるのでホイル上の温度勾配も小さくなる。また、ホイル4aの板厚が大きくなるとホイル自体の剛性も上がるので、座屈が起こりにくくなる。すなわち、ホイル4aの板厚をある程度大きくすると、座屈に伴う不具合を抑制することが可能となる。
【0046】
しかしながら一方で、ホイル4aの板厚が大きくなるとホイルトラップ自体の重量が大きくなり、回転式ホイルトラップの場合はドライブユニット(駆動駆動機構)の負荷が増え、例えばドライブユニットの回転駆動軸41を回転可能に支持するベアリングの寿命が短くなるなどの弊害もある。当然ながら、回転式ホイルトラップの光学的透過率もホイル4aの板厚が大きくなるとともに低下する。
【0047】
従って、各ホイル4aの板厚は、プラズマからの熱負荷に対してある程度耐性があって、ドライブユニットへの重量的な負荷が小さく、かつ、プラズマから放出されるEUVの回転式ホイルトラップにおける光学的透過率の低下が実用上問題とならないような値となるように設定する必要がある。
発明者らが実験を行なった結果、各ホイル4aの板厚は0.2〜0.5mmの範囲内にあるとき、回転式ホイルトラップの高熱入力に対する耐性と光学的透過率のバランスが最適であることが分った。
【0048】
発明者らは、まず局所的なホイル4aの温度に対する座屈の度合いを調べた。
図2に実験系を示す。
図2(a)は全体の実験系を示し、
図2(b)は
図2(a)の矢視図である。実験には、回転式ホイルトラップのホイルと同一形状の試験用ホイル30を使用した。試験用ホイルトラップの一端部は、図示を省略した冷却手段により冷却されている冷却クランプ33により保持される。
図2(a)(b)に示す通り、試験用ホイル33の他端部および上記一端部と他端部との間の部分は、
図1の外側リング6を模擬した案内スリット34a,34bにより位置決めされる。案内スリット34a,34bの間隔は試験用ホイル30の板厚より大きく設定されている。そのため、案内スリット34a,34bは、試験用ホイル30に座屈が発生して変形してもある程度試験用ホイル30を位置決めすることが可能となる。
【0049】
試験用ホイル30に対向する位置にヒーター32が配置される。ヒーター32としては、150Wのハロゲンランプを使用した。また、EUV光源装置において、プラズマと回転式ホイルトラップはチャンバー内に配置されていてチャンバー内は減圧雰囲気に維持されている。よって、上記した試験用ホイル30、ヒーター等も真空容器内に配置されている。真空容器内圧力は、例えば10
−3(Pa)である。
【0050】
図3に試験用ホイル温度に対する最大座屈の関係を示す。同図において横軸は試験用ホイル温度(°C)、縦軸は最大座屈量(mm)である。試験用ホイル30としては、モリブデン(Mo)製で板厚(t)が0.1mm、0.2mm、0.25mm、0.3mm、タングステン(W)製で板厚(t)が0.2mm、ランタンがドープされたモリブデン(Mo−Laと略記する)製で板厚(t)が0.1mmのものを用いた。
同図の菱形(◇)はMo製で板厚0.1mm、四角(□)はMo製で板厚0.2mm、三角(△)はMo製で板厚0.25mm、逆三角(▽)はMo製で板厚0.3mm、黒四角(■)はW製で板厚0.2mm、黒丸(●)はMo−La製で板厚0.1mmである。
試験用ホイル30の温度は、熱電対を用いて測定した。ここで、測定場所は、ヒーター直近のホイル30の裏面(加熱される面の反対側の面)である。一方、最大座屈は
図3の矢印Aの方向から、観測窓部を介してレーザ計を用いて測定した。
【0051】
図3から明らかなように、試験用ホイル30がモリブデン製であるとき、当該試験用ホイル30の板厚が0.1mmの場合は、試験用ホイル30の温度が増加するにつれ最大座屈の値も急激に増加している。これは試験用ホイル30が、ランタンがドープされたモリブデン(Mo−La)製である場合も同様である。
また、試験用ホイル30がモリブデン製であるとき、当該試験用ホイル30の板厚が0.2mmの場合は、試験用ホイル30の温度の増加に対し、最大座屈の値はあまり増加していない。これは試験用ホイル30がタングステン製である場合も同様である。
更に、試験用ホイル30がモリブデン製であるとき、当該試験用ホイル30の板厚が0.25mm、0.3mmの場合は、試験用ホイル30の温度が増加しても座屈自体が発生していない。
上記結果から明らかなように、回転式ホイルトラップを構成する各ホイル4aの板厚は、0.2mm以上あれば、上記した座屈の影響を抑制することが可能となることが分った。
【0052】
次に、EUV光源に板厚0.1mmのホイル4aからなる回転式ホイルトラップを取り付けた場合のEUV集光鏡の集光点(IF)を通過した後のEUV出力と、板厚0.2mmのホイル4aからなる回転式ホイルトラップを取り付けた場合のIFを通過した後のEUV出力とを比較した。
図4に結果を示す。
図4において、横軸はプラズマへの入力パワー(kW)を示し、縦軸はIF通過後のEUV出力である。なお、EUV出力の単位は任意単位(a.u.)である。また、同図において、丸(○)は板厚が0.2mm、黒丸(●)は板厚が0.1mmの場合を示す。
【0053】
板厚が0.2mmのホイル4aからなる回転式ホイルトラップを使用した場合、IF通過後のEUVでは、プラズマへの入力パワーが10kW〜25kWの範囲において線形に増加している。一方、板厚が0.1mmのホイル4aからなる回転式ホイルトラップを使用した場合、IF通過後のEUVでは、プラズマへの入力パワーが10kW〜25kWの範囲において、徐々に飽和している。
板厚が0.1mmのホイル4aからなる回転式ホイルトラップを使用した場合に上記EUV出力が飽和傾向にあるのは、プラズマへの入力パワーが増加するにつれ座屈が大きくなり、回転式ホイルトラップの光学的透過率が徐々に低下していったものと考えられる。これは、
図3に示す結果とも符合している。
【0054】
一方、板厚が0.2mmのホイル4aからなる回転式ホイルトラップを使用した場合にプラズマへの入力パワーに対しEUV出力が線形傾向にあるのは、プラズマへの入力パワーが増加するにもかかわらず座屈が抑制されていて、回転式ホイルトラップの光学的透過率が変化しなかったためと考えられる。
以上のように、モリブデン、タングステンおよびそれらを含む高融点金属からなるホイル4aの板厚は0.2mm以上であることが好ましいことが分かった。
【0055】
図5に、ホイル4aの板厚tをパラメータとして、プラズマの入力パワー(kW)に対する回転式ホイルトラップのEUV透過率(計算値)を示す。同図において、菱形(◇)は板厚(t)が0.1mm、四角(□)は板厚(t)が0.2mm、三角(△)は板厚(t)が0.3mm、逆三角(▽)は板厚(t)が0.4mm、黒四角(■)は板厚(t)が0.5mm、黒丸(●)は板厚(t)が0.6mmである。
t=0.1mmの回転式ホイルトラップの透過率は、まず予備実験でプラズマへの入力パワーが座屈の発生が無視できる程度に調整して実測した。座屈が発生しない場合、回転式ホイルトラップの透過率は低下しないとし、この実測値をプラズマへの入力パワーが0のときの透過率とした。このときの透過率は89%であった。
そして、
図4に示す座屈が発生せず透過率が変わらないと仮定したときのプラズマへの入力パワーとIF通過後のEUV出力との関係と、t=0.1mmのときのプラズマへの入力パワーとIF通過後のEUV出力との関係とを比較した結果と上記実測値とから、回転式ホイルトラップのEUV透過率を逆算して求めた。
【0056】
t=0.2mmの回転式ホイルトラップの透過率は、
図4の結果からプラズマへの入力パワーとIF通過後のEUV出力との関係がほぼ線形であるので、プラズマへの入力パワーが10kW〜25kWの範囲において、透過率は低下しないと判断される。よって、t=0.1mmのときと同様にして透過率を実測し、その値をプラズマへの入力パワーが10kW〜25kWの範囲における透過率とした。その値は78%であった。なお、t=0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mmのホイルトラップにおいても、プラズマへの入力パワーが10kW〜25kWの範囲において、透過率は低下しないと判断した。
【0057】
一方、高温プラズマを発光点として光線追跡法(ray tracing)を用いて、t=0.2mmの回転式ホイルトラップの透過率を求めたところ約78%であり、透過率の実測値とほぼ一致した。よって、t=0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mmの回転式ホイルトラップについては、光線追跡法によりEUV透過率を求めた。計算結果は、t=0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mmに対して、それぞれ、74%、70%、65%、61%であった。
【0058】
上記したように、近年、EUV光源装置においては、直列に配置した回転式ホイルトラップ、固定式ホイルトラップが用いられる。そのため、ホイルトラップ全体としてのEUV透過率は、回転式ホイルトラップ単独のEUV透過率より小さくなる。ホイルトラップ全体としてのEUV透過率は、例えば、60%以上であることが望まれており、回転式ホイルトラップ単独のEUV透過率は65%以上であることを求められることが多い。よって、回転式ホイルトラップのホイル4aの板厚は、0.5mm以下であることが望ましい。
【0059】
また、回転式ホイルトラップの各ホイル4aの板厚が厚くなると、回転式ホイルトラップの重量が増大する。回転式ホイルトラップの重量が増大すると、これを駆動する回転駆動機構も大掛かりなものとなってしまう。回転式ホイルトラップの重量を概算したところ、各ホイル4aの板厚t=0.2mmのとき4kg、t=0.4mmのとき6.2kg、t=0.6mmのとき8.4kgであった。回転駆動機構の構成を考慮すると、発明者らの実験では、t=0.5mm以下が望ましいことが分かった。
【0060】
以上をまとめると、以上のように、モリブデン、タングステンおよびそれらを含む高融点金属からなるホイル4aの板厚は0.2mm以上0.5mm以下であることが望ましい。なお、上記数値範囲は、ホイル4aの板厚の呼称厚(呼び厚さ)に基づくものであり、実際にはホイル4aの板厚の公差分も範囲内に含む。
【0061】
〔中心支柱4cの形状〕
中心支柱4cは、ホイルトラップの背後に位置する集光鏡の集光範囲を妨げない形状および配置としなければならない。
図6に中心支柱形状の例を示す。
図6(a)は円錐台(circular truncated cone)形状、
図6(b−1)(b−2)は上部に円錐台部、下部に円柱部を有する結合(combined)形状の例を示し、
図6(c)は円柱(cylinder)形状の例を示す。なお、
図6(b−1)は斜視図、
図6(b−2)は中心支柱の中心軸を通る平面で切った断面図である。
上記したように、本発明の回転式ホイルトラップにおいては、中心支柱4cの側面にホイル挿入用の溝部4dを設ける。ここで溝加工を行なう際、レーザー加工、放電加工などいずれの方法を用いても、1回の加工につき直線状に同じ深さの溝しか作れない。
【0062】
図6(b−1)(b−2)に示す結合形状の場合、側面部は円錐台部の側面部と円柱部の側面部とからなり、同一平面上にはない。そのため、結合形状の中心支柱の側面に1つの溝部を作るためには、円錐台部の側面部と円柱部の側面部とが溝加工の加工平面と一致するように中心支柱4cの傾きを調整して保持する必要がある。すなわち、
図6(b−2)の点線A1,A2に示すように、2回の加工を行なう必要があり、製造コストが増える。なお、
図6(b−1)(b−2)の形状において、
図6(b−1)の点線Bで示すように直線状の溝加工を行うことも考えられる。しかし、この場合は溝の深さが一定にならないので、深い部分までろう材を均一に供給するのが難しくなる。また、溝と各ホイルとの間をろう材で満たすために、
図6(a)(c)に示す形状のものと比べ、大量のろう材が必要となる。さらに、中心支柱4cを構成する材料となるTZM(チタン・ジルコニウム・モリブデン)などの合金は比較的脆く、深い溝を作ると亀裂ができるリスクが増大するといった問題もある。
そのため、中心支柱の側面部の稜線は、
図6(a)もしくは
図6(c)に示す中心支柱形状のように、同一平面上にあることが望ましい。
【0063】
また、中心支柱の形状は、上記のホイル面内の温度分布にも影響を及ぼす。中心支柱部分を
図6(a)に示す円錐台形状とすると、
図6(c)に示す円柱形状に比べ体積が増え、熱容量も増加するという利点がある。シミュレーションを行なった結果、
図6(a)に示す形状の方が、ホイル4aの温度勾配も緩和され、座屈が起こりにくくなることが確認された。
よって、中心支柱4cの形状としては、側面部の溝部4dの製造コスト、および、熱容量の観点から
図6(a)に示す円錐台形状とすることが望ましい。
【0064】
〔ホイル4aの温度調整(中心支柱4cの温度調整機構)〕
回転式ホイルトラップでは、プラズマから飛来する高温プラズマ原料であるスズ(デブリ)を回転する各ホイル4aで捕捉する。そのとき、ホイル4aの温度をスズの融点以上(235°C以上)に保つと、捕捉したスズはホイル上で液状となり、遠心力により回転式ホイルトラップの外部に弾き出される。よって、スズが回転式ホイルトラップに堆積してEUV光の透過を妨げることがなくなる。しかしながら、ホイル4aの温度がスズの蒸発温度(1200°C程度)以上になると、ホイル4a上でスズが蒸発し、EUV集光鏡を汚染する可能性がある。したがって、ホイル4aの温度は、スズの融点以上であって、スズの蒸発温度以下に調整することが望ましい。
【0065】
一方、回転式ホイルトラップは、EUV光の発生源であるプラズマから放射される電子やイオンなどの高速粒子や、輻射によって加熱されるため、ホイル4aの温度はプラズマへ投入される入力電力とともに増加する。すなわち、回転式ホイルトラップはプラズマより熱負荷を受ける。
ここで、回転式ホイルトラップが受ける熱負荷により、各ホイル4aの温度が当該ホイル4aを構成する材料の再結晶化温度以上の高温になると、各ホイル4aを構成する材料の再結晶化が始まり、当該材料の強度が低下することが知られている。回転中のホイル4aは常に遠心力が加わっており、ホイル自体の強度が低下した場合、上記ホイル4aが破損する可能性もあるため、ホイル4aの再結晶化は避けなければならない。
【0066】
したがって、ホイル4aの温度は、スズの融点以上、スズの蒸発温度以下およびホイル4aを構成する材料の再結晶化温度以下となるように温度調整した方がよい。例えば、ホイル4aを構成する材料としてモリブデンを採用した場合、モリブデンの結晶化温度は800°C〜1200°C、スズの蒸発温度は1200°C程度、スズの融点は235°C程度であるので、ホイル4aの温度は235°C〜800°Cの範囲に維持した方がよい。
【0067】
図7に、各ホイル4aの温度を調整するための温度調整機構を有する回転式ホイルトラップの構成例を示す。
中心支柱4cは、図示を省略したドライブユニット(回転駆動機構)の回転駆動軸41と同軸状に接続されている。この回転駆動軸41および中心支柱4cの内部には、内側管部43と外側管部44、とからなる二重管式の管路42が設けられる。そして流体を一方の管部(
図7(a)では内側管部43)側から流入させ、他方の管部(
図7(a)では外側管部44)から流出させる。その結果、中心支柱4c内部の管路42から供給される流体と上記中心支柱4cとの間で熱交換が発生し、中心支柱4cの温度が調整される。
なお、
図7(a)は、流体を内側管部43から流入させ、外側管部44から流出させる例、
図7(b)は、流体を外側管部44から流入させ、内側管部43から流出させる例を示す。
図7(a)においては、内側管部43から流入した流体は中心支柱4c内において内側管部43から流出して外側管部44に流入する。
図7(b)においては、外側管部444から流入した流体は中心支柱4c内において外側管部44から流出して内側管部43に流入する。
【0068】
上記したように、中心支柱4cとホイル4aとはろう付けにより固定されている。よって、特許文献1のような内部リングに設けられた溝にホイル4aの内縁部を単に挿入した構造と比較すると、中心支柱4cとホイルとの間の熱伝導は良好である。よって、中心支柱4cの温度を調整することにより、当該中心支柱4cに固定されている各ホイル4aの温度調整を容易に行うことが可能となる。
【0069】
ここで、動作中のホイル表面温度の測定は非常に困難であるので、ホイル4aの温度測定結果に基づく中心支柱4cの温度制御をクローズドループで行うのは難しい。よって、ホイル上にスズが堆積しないか、再結晶化が起こっていないかをプラズマに投入する入力電力ごとにあらかじめ調査して、二重管式管路42を流れる流体の最適な温度を求めておき、プラズマへ導入する入力電力値に応じて、流体の温度を調整するオープンループの制御を行うことが望ましい。
【0070】
なお、発明者らの流体シミュレーションの結果、内側管部43の端部(中心支柱側の端部)の形状を管部の外側に向けて傾斜させ、流体を外側管部44から流入させ内側管部43から流出させると効果的に中心支柱4cの温度を調整できることが分かった。
図8にモデル図を示す。
図8(a)は内側管部43の端部に傾斜部を設けない場合、
図8(b)は内側管部43の端部に傾斜部Cを設ける場合を示す。
外側管部44の一方の端部(中心支柱4cが取り付けられた端部とは反対側の端部)には流体が供給される流入管部44aが設けられ、内側管部43の一方の端部であって上記流入管部44a側には、流体が排出される流出管部43aが設けられているものとした。
【0071】
シミュレーションは、以下の条件で行った。
二重管式管路42を構成する内側管部43、外側管部44を構成する冷却配管は、ステンレス製とし、SUS304の物性値を用いた。また、配管長を220mmとし、外側管部44を流れる流体の断面積と内側管部を流れる流体の断面積とがほぼ同じになるように、両管部の肉厚を1.0mm、外側管部44の外径を22.0mm、内側管部43の外径を14.5mmとした。
また、中心支柱側が高温になることを考慮し、外側管部44の端部のうち、流入管部44aが設けられている側と反対側(
図8の入熱面E側)に、300Kの熱量で入熱が行われるものとした。
流体は水とし、流入管部44aより温度22°C、全圧0.3MPaで流入するものとした。なお、流体の流速は3m/s程度となるので、配管−冷却用流体間の伝熱は考慮するが、流体の運動量は考慮しないものとした。
【0072】
図8(a)に示すモデルにおいて、流入管部44aから流体を外側管部44に注入し、内側管部43を経由して流出管部43aから流体を排出する場合(
図8(a)に示す流体の流れ:以下、ケースAと称する)と、流出管部43aから流体を内側管部43に注入し、外側管部44を経由して流入管部44aから流体を排出する場合(以下、ケースBと称する)とを比較してみた。
中央支柱4c側に相当する、外側管部44の入熱側端部の温度を計算したところ、ケースAとケースBとでは温度に差は殆ど無かった。
【0073】
一方、上記ケースAについて、
図8(a)に示すモデルと、
図8(b)に示すモデルとを比較した。なお、
図8(b)に示す内側管部43の端部に設けた傾斜部Cの角度は10.5度とした。
図8(b)に示すモデルにおける外側管部44の入熱側端部の温度は、
図8(a)に示すモデルにおける温度より約40K低かった。すなわち、流体を外側管部44から流入させて内側管部43から流出させて冷却する場合、内側管部43の端部に傾斜部Cを設けることが効果的であることが分かった。
このような効果の差が発生したのは、
図8(a)に示すモデルでは流体が、中央支柱4c側の外側管部44の内側角部Dには十分供給されずよどみが生じ、外側管部44の入熱側端部が十分に冷却されなかったのに対して、
図8(b)に示すモデルでは、流体が内側管部43の端部に設けられた傾斜部Cにより上記角部Dに効果的に供給された結果、外側管部44の入熱側端部が十分に冷却されたものと考えられる。
【0074】
なお、流体を内側管部43から流入させて外側管部44から流出させて冷却するケースAについては、
図8(b)に示すモデルにおける外側管部44の入熱側端部の温度は、
図8(a)に示すモデルにおける温度とほとんど差が無かった。これは、外側管部44の入熱側端部の内側に対して内側管部43より供給される流体の流れが、内側管部43の端部に設けた傾斜部にあまり影響されず、上記角部への流体の供給量に差異がほとんど無かったためと考えられる。
【0075】
よって、流体を外側管部44から流入させ、内側管部43から流出させる場合は、内側管部43の端部に傾斜部を設けることが望ましい。
【0076】
ところで、この温度調整に用いる流体の種類によっては、中心支柱内部の流体と接触する部分が流体との(酸化)反応で腐食されることがある。例えば、流体を構成する媒質が水であって中心支柱4cがモリブデンまたはモリブデン合金から形成されるとき、水と中心支柱4cを構成するモリブデンまたはモリブデン合金との酸化反応により、中心支柱4cが腐食される。その場合は、中心支柱内部における流体と接する部分に、ニッケル(Ni)や窒化チタニウム(TiN)などの耐食性材料からなるコーティングを施せばよい。
【0077】
〔中心支柱4cと回転駆動軸41との連結構造〕
上記のように、ドライブユニット(回転駆動機構)の回転駆動軸内および回転式ホイルトラップの中心支柱内に流路を設けて温度調整する場合、回転駆動機構と回転式ホイルトラップの接続部分(すなわち、上記回転駆動軸41と上記中心支柱4cとの接続部分)から、プラズマが生成される真空雰囲気の容器(真空容器)内に流体を構成する媒質が漏れ出すことがないようにする必要がある。
図9は、この接続部分をネジ状とした例である。
図示を省略したドライブユニット(回転駆動機構)への回転式ホイルトラップの取り付けは、専用工具等で固定した回転駆動機構の回転駆動軸41に回転式ホイルトラップをねじ込むことで取り付ける。
【0078】
図9(a)に示すように、回転式ホイルトラップ(中心支柱4c)側に第1のねじ部41aとして雄ねじ部が形成されているときは回転駆動軸側に第2のねじ部41bとして雌ねじ部を形成し、中心支柱4cのねじ部側端部にOリング溝41fを設ける。また、
図9(b)に示すように、回転式ホイルトラップ(中心支柱4c)側に第1のねじ部41cとして雌ねじ部が形成されているときは回転駆動軸側に第2のねじ部41dとして雄ねじ部が形成し、回転駆動軸41のねじ部側端部にOリング溝41fを設ける。上記Oリング溝41fに装着されるOリング41eにより、中心支柱4cと回転駆動軸41との勘合部分からの流体のリークが防止される。ここで、Oリング溝41fの軸方向の高さHは、中心支柱4cと回転駆動軸41とを勘合させた際にOリング41eがある程度潰れるように設定される。このOリング41eの軸方向のつぶれ量(以下、つぶし代ともいう)は、Oリングシール部におけるシール機能を確保するように定まっており、本実施例の場合、Oリング41eのつぶし代はOリング直径の約30%であった。
このようなねじ込み方式の利点としては、双方が単純な形状となるため、取り付けおよび取り外しが比較的容易である。また、ねじ径を大きくすることで、締め付けトルクを高めることが可能なため、駆動機構が故障などで急停止した場合にも慣性で回転式ホイルトラップが外れる危険性が低い。
【0079】
ねじ込み方式で回転式ホイルトラップを駆動機構の回転駆動軸41に接続する場合、回転式ホイルトラップの回転方向はネジの締結方向と逆向きのほうが良い。例えば、ネジ山が右ねじ(時計回りで締結)の場合、ホイルトラップの回転方向はプラズマ側から見て反時計回りとした方がよい。なぜなら、そうすることで回転式ホイルトラップの加速時(起動時)にネジ部に加わるトルクが、ネジ部を締め付ける方向に働くからである。この向きを逆にすると、回転加速時にネジ部が緩む方向にトルクが加わるので、起動と停止を何度も繰り返すと外れる危険性がある。
ねじ部が緩み流体が漏洩すると、上記真空容器を汚染するだけでなく当該容器に接続される排気装置が故障する恐れもある。したがって、そのような事態は絶対に避けなければならない。そこで、ネジ状の接続部分に緩み止め機構を付加することで、信頼性を高めた方がよい。
図10は、回転駆動軸側にセットねじ45を設け、回転式ホイルトラップのねじ部を緩みにくくした例である。
【0080】
何重の対策を行なっても、想定外の事故により回転式ホイルトラップが回転駆動軸41から外れることも考えられる。そこで、万が一、このねじ部が緩んだ際に、温度調整用の流体の漏洩を最小限とするために、
図11に示すように、回転式ホイルトラップの外周部側に設置され、EUV光の光路外の部分を包囲するカバー部材46を設ける。このカバー部材46を設けることにより、上記流体が漏れたときとしても、上記カバー部材46で回収することが可能となり、プラズマが発生する真空容器内が上記流体で汚染されるのを抑制することができる。なお、回転式ホイルトラップから弾き出されたデブリを捕捉し回収する機能を併せて付与してもよい。
ここで、このカバー部材46と回転式ホイルトラップとの隙間は、Oリングの直径の30%以下とした方が好ましい。
【0081】
回転式ホイルトラップが回転駆動軸41から外れた場合、回転式ホイルトラップはカバー部材46に接触して止まる。ここで、回転式ホイルトラップとカバー部材46の隙間をOリング41eの直径の30%以下とすれば、回転式ホイルトラップがカバー部材46に接触して止まった際のOリング41eのつぶれ量は、0よりは大きく、かつ、Oリング41eの直径の30%以下となる。すなわち、Oリング41eの中心支柱4cおよび回転駆動軸41へ接触した状態は保持されるので、中心支柱4cと回転駆動軸41との勘合部から漏れる温度調整用の流体の量を少なくできる。逆に言えば、回転式ホイルトラップとカバー部材46の隙間をOリング41eの直径の30%より大きい場合、Oリング41eは中心支柱4cと回転駆動軸41のいずれか一方としか接触しないか、双方と接触しない状態となるので、上記流体の漏れ量は大きくなる。
【0082】
なお、回転式ホイルトラップとカバー部材46の隙間を狭くすると、その隙間におけるコンダクタンスが下がり、圧力が上がる。よって、プラズマから放出されるデブリを捕捉しやすくなる。発明者らの実験の結果、回転式ホイルトラップとカバー部材46の隙間を1.5mm以下とすれば、回転式ホイルトラップにより効果的にデブリを捕捉することが可能となることが分かった。