特許第6135441号(P6135441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6135441III族窒化物複合基板およびその製造方法、積層III族窒化物複合基板、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135441
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】III族窒化物複合基板およびその製造方法、積層III族窒化物複合基板、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20170522BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/201 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 29/20 20060101ALI20170522BHJP
   H01L 33/16 20100101ALI20170522BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20170522BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
   H01L21/20
   H01L29/48 D
   H01L29/80 H
   H01L29/91 B
   H01L29/91 D
   H01L29/91 F
   H01L29/06 301M
   H01L29/06 301V
   H01L29/06 301F
   H01L29/201
   H01L29/20
   H01L29/06 601W
   H01L29/91 H
   H01L33/16
   H01L33/30
【請求項の数】18
【全頁数】60
(21)【出願番号】特願2013-212957(P2013-212957)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-131005(P2014-131005A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2016年9月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-226777(P2012-226777)
(32)【優先日】2012年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-263090(P2012-263090)
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 恵二
(72)【発明者】
【氏名】八郷 昭広
(72)【発明者】
【氏名】廣村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中畑 成二
(72)【発明者】
【氏名】中西 文毅
(72)【発明者】
【氏名】木山 誠
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−230969(JP,A)
【文献】 特開2010−269970(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093481(WO,A1)
【文献】 特開2009−182341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/20
H01L 21/329
H01L 21/338
H01L 29/06
H01L 29/20
H01L 29/201
H01L 29/47
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 29/861
H01L 29/868
H01L 29/872
H01L 33/16
H01L 33/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、厚さが10μm以上250μm以下のIII族窒化物膜と、が貼り合わされた直径が75mm以上のIII族窒化物複合基板であって、
前記III族窒化物膜の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下であり、前記III族窒化物膜の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下である、III族窒化物複合基板。
【請求項2】
前記III族窒化物複合基板の前記III族窒化物膜側の主面における反りが50μm以下であり、前記III族窒化物複合基板の全体厚さ分布が30μm以下である請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項3】
前記支持基板の熱膨張係数αSに対する前記III族窒化物膜の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSが0.75以上1.25以下であり、前記支持基板の厚さtSに対する前記III族窒化物膜の厚さtIII-Nの比tIII-N/tSが0.02以上1以下である請求項1または請求項2に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項4】
前記III族窒化物膜の主面における不純物金属原子が3×1012原子/cm2以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項5】
前記III族窒化物膜の主面の二乗平均平方根粗さが3nm以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項6】
前記支持基板の主面の二乗平均平方根粗さが12nm以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項7】
直径が100mm以上である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項8】
直径が125mm以上300mm以下である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項9】
前記III族窒化物膜の主面は、その二乗平均平方根粗さの平均値mIII-Nが0.1nm以上2nm以下であり、その二乗平均平方根粗さの標準偏差sIII-Nが0.4nm以下であり、
前記支持基板の主面は、その二乗平均平方根粗さの平均値mSが0.3nm以上10nm以下であり、その二乗平均平方根粗さの標準偏差sSが3nm以下である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項10】
前記III族窒化物膜の主面の所定の面方位の面に対する前記オフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値momが0.3°以上1.0°以下であり、かつ、前記オフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値moaが0°以上0.1°以下である請求項1に記載のIII族窒化物複合基板。
【請求項11】
請求項1または請求項10に記載のIII族窒化物複合基板と、前記III族窒化物複合基板の前記III族窒化物膜上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層と、を含む積層III族窒化物複合基板。
【請求項12】
請求項1または請求項10に記載のIII族窒化物複合基板中の前記III族窒化物膜と、前記III族窒化物膜上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層と、を含むIII族窒化物半導体デバイス。
【請求項13】
少なくとも1層のIII族窒化物層を含み、
前記III族窒化物層の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値mLoに対するオフ角の絶対値の標準偏差sLoの比sLo/mLoが0.005以上0.6以下であるIII族窒化物半導体デバイス。
【請求項14】
前記III族窒化物層の主面の所定の面方位の面に対する前記オフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値mLomが0.3°以上1.0°以下であり、かつ、前記オフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値mLoaが0°以上0.1°以下である請求項13に記載のIII族窒化物半導体デバイス。
【請求項15】
請求項1または請求項10に記載のIII族窒化物複合基板の製造方法であって、
支持基板と、III族窒化物膜ドナー基板と、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板を形成する工程と、
前記接合基板の前記III族窒化物膜ドナー基板の貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面で前記III族窒化物膜ドナー基板を切断することにより、前記III族窒化物複合基板を形成する工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法。
【請求項16】
請求項1または請求項10に記載のIII族窒化物複合基板の製造方法であって、
支持基板と、III族窒化物膜ドナー基板と、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板を形成する工程と、
前記接合基板の前記III族窒化物膜ドナー基板の貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、前記III族窒化物複合基板を形成する工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法。
【請求項17】
請求項1または請求項10に記載のIII族窒化物複合基板を準備する工程と、
前記III族窒化物複合基板の前記III族窒化物膜上に、少なくとも1層のIII族窒化物層を成長させる工程と、を含むIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項18】
前記III族窒化物層上にさらにデバイス支持基板を貼り合わせる工程と、前記III族窒化物複合基板から前記支持基板を除去する工程と、をさらに含む請求項17に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物複合基板およびその製造方法、積層III族窒化物複合基板、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNなどのIII族窒化物は、優れた半導体特性を有していることから、半導体デバイスに好適に用いられている。
【0003】
たとえば、特開2009−126722号公報(特許文献1)は、半導体デバイス用基板として、直径が25mm以上160mm以下で厚さが100μm以上1000μm以下の自立III族窒化物基板、具体的な実施例として直径が100mmで厚さが400μmの自立GaN基板を開示する。
【0004】
また、特開2008−010766号公報(特許文献2)は、半導体デバイスを製造するための基板として、GaNと化学組成の異なる異種基板と、異種基板に貼り合わされている0.1μm以上100μm以下の厚さのGaN薄膜と、を含むGaN薄膜貼り合わせ基板、具体的な実施例としてサファイア基板と厚さが0.1μmまたは100μmのGaN薄膜とを貼り合わされている直径が50.8mmのGaN薄膜貼り合わせ基板を開示する。
【0005】
また、特開2010−182936号公報(特許文献3)は、半導体デバイス用基板として、支持基板と、窒化物半導体層と、支持基板と窒化物半導体層との間に設けられた接合層とを備える複合基板、具体的な実施例としてサファイア基板とGaN層と両者間に圧着により形成される接合層で接合されたGaN層の厚さが5μm〜220μmで直径が50.8mmの複合基板を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−126722号公報
【特許文献2】特開2008−010766号公報
【特許文献3】特開2010−182936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2009−126722号公報(特許文献1)に開示される自立III族窒化物基板は、製造コストが高いため非常に高価であり、また、割れやすいため口径の拡大化、厚さの低減化が困難という問題があった。
【0008】
特開2008−010766号公報(特許文献2)に開示されるGaN薄膜の厚さが0.1μmであるGaN薄膜貼り合わせ基板は、GaN薄膜の形成のためにイオン注入を行なっているが、イオン注入により、GaN薄膜の結晶の品質が低下するという問題があった。また、形成する半導体デバイスの特性を高くする観点からGaN薄膜の厚さを10μm以上にすることが好ましいが、GaN薄膜の厚さを大きくすると、イオン注入されるイオンの主面からの深さのバラツキが大きくなり、得られるGaN薄膜複合基板のGaN薄膜の厚さのバラツキが大きくなるという問題があった。
【0009】
また、特開2008−010766号公報(特許文献2)に開示されるGaN薄膜の厚さが100μmのGaN薄膜貼り合わせ基板、および特開2010−182936号公報(特許文献3)に開示されるGaN層の厚さが5μm〜22μmの複合基板は、いずれも直径が50.8mm程度であり、直径を大きくするとGaN薄膜またはGaN層の厚さの主面内分布が大きくなるという問題があった。
【0010】
なお、サファイア基板などのようなIII族窒化物基板と化学組成が異なり熱膨張係数が異なる異種基板上に、厚さの厚いIII族窒化物膜を成長させると大きな反りが発生し、またクラック(割れ、以下同じ。)が発生するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決して、コストが低く大口径で膜厚が大きく膜厚の分布が小さく結晶品質の高いIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板およびその製造方法、積層III族窒化物複合基板、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ある局面に従えば、支持基板と、厚さが10μm以上250μm以下のIII族窒化物膜と、が貼り合わされた直径が75mm以上のIII族窒化物複合基板であって、III族窒化物膜の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下であり、III族窒化物膜の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下である、III族窒化物複合基板である。
【0013】
本発明は、別の局面に従えば、上記局面に従うIII族窒化物複合基板と、III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層と、を含む積層III族窒化物複合基板である。
【0014】
本発明は、さらに別の局面に従えば、上記局面に従うIII族窒化物複合基板中のIII族窒化物膜と、III族窒化物膜上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層と、を含むIII族窒化物半導体デバイスである。
【0015】
本発明は、さらに別の局面に従えば、少なくとも1層のIII族窒化物層を含み、III族窒化物層の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値mLoに対するオフ角の絶対値の標準偏差sLoの比sLo/mLoが0.005以上0.6以下であるIII族窒化物半導体デバイスである。
【0016】
本発明は、さらに別の局面に従えば、上記局面に従うIII族窒化物複合基板の製造方法であって、支持基板と、III族窒化物膜ドナー基板と、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板を形成する工程と、接合基板のIII族窒化物膜ドナー基板の貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面でIII族窒化物膜ドナー基板を切断することにより、上記III族窒化物複合基板を形成する工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法である。
【0017】
本発明は、さらに別の局面に従えば、上記局面に従うIII族窒化物複合基板の製造方法であって、支持基板と、III族窒化物膜ドナー基板と、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板を形成する工程と、接合基板のIII族窒化物膜ドナー基板の貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、III族窒化物複合基板を形成する工程と、を含むIII族窒化物複合基板の製造方法である。
【0018】
本発明は、さらに別の局面に従えば、上記局面に従うIII族窒化物複合基板を準備する工程と、III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上に、少なくとも1層のIII族窒化物層を成長させる工程と、を含むIII族窒化物半導体デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コストが低く大口径で膜厚が大きく膜厚の分布が小さく結晶品質の高いIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板およびその製造方法、積層III族窒化物複合基板、ならびにIII族窒化物半導体デバイスおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明にかかるIII族窒化物複合基板のある例を示す概略断面図である。
図2】III族窒化物複合基板における物性値の測定点を示す概略平面図である。
図3】本発明にかかる積層III族窒化物複合基板のある例を示す概略断面図である。
図4】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのある例を示す概略断面図である。
図5】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの別の例を示す概略断面図である。
図6】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法のある例を示す概略断面図である。
図7】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法の別の例を示す概略断面図である。
図8】本発明にかかるIII族窒化物複合基板の製造方法のさらに別の例を示す概略断面図である。
図9】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法のある例を示す概略断面図である。
図10】イオン注入法を用いるIII族窒化物複合基板の製造方法のある例を示す概略断面図である。
図11】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
図12】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
図13】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
図14】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
図15】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
図16】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスのさらに別の例を示す概略断面図である。
図17】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法の別の例を示す概略断面図である。
図18】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法のさらに別の例を示す概略断面図である。
図19】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法のさらに別の例を示す概略断面図である。
図20】本発明にかかるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法のさらに別の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明の実施形態の説明>
本発明のある実施形態であるIII族窒化物複合基板1は、支持基板11と、厚さが10μm以上250μm以下のIII族窒化物膜13と、が貼り合わされた直径が75mm以上のIII族窒化物複合基板1であって、III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下であり、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下である。本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、そのIII族窒化物膜13上に大口径で結晶品質の高い少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させて、特性の高いIII族窒化物半導体デバイス4を歩留よく得ることができる。
【0022】
本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面における反りを50μm以下とし、III族窒化物複合基板1の全体厚さ分布(TTVともいう。以下同じ。)を30μm以下とすることができる。これにより、得られるIII族窒化物半導体デバイス4の歩留が高くなる。
【0023】
また、本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、支持基板11の熱膨張係数αSに対するIII族窒化物膜13の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSを0.75以上1.25以下とし、支持基板11の厚さtSに対するIII族窒化物膜13の厚さtIII-Nの比tIII-N/tSを0.02以上1以下とすることができる。これにより、III族窒化物複合基板1およびそのIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層20の反りおよびクラック(割れ)を低減できる。
【0024】
また、本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、III族窒化物膜の主面における不純物金属原子を3×1012原子/cm2以下とすることができる。これにより、III族窒化物複合基板1およびそのIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層20の反りおよびクラックを低減できる。
【0025】
また、本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、III族窒化物膜13の主面の二乗平均平方根粗さ(RMSともいう。以下同じ。)を3nm以下とすることができる。また、支持基板11の主面のRMSを12nm以下とすることができる。これにより、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層20の結晶品質が高くなる。
【0026】
また、本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、III族窒化物複合基板1の直径を100mm以上とすること、さらに、125mm以上300mm以下とすることができる。これにより、1枚のIII族窒化物複合基板1からのIII族窒化物半導体デバイス4のチップの取れ数を多くするとともに、III族窒化物複合基板1の反りを低減して、III族窒化物半導体デバイス4の歩留を高くできる。
【0027】
また、本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、III族窒化物膜13の主面は、そのRMSの平均値mIII-Nを0.1nm以上2nm以下とし、そのRMSの標準偏差sIII-Nを0.4nm以下とし、支持基板の主面は、そのRMSの平均値mSを0.3nm以上10nm以下とし、そのRMSの標準偏差sSを3nm以下とすることができる。これにより、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面の全面に結晶品質の高いIII族窒化物層20を成長させて、高い歩留でIII族窒化物半導体デバイス4が得られる。
【0028】
また、本発明のかかる実施形態のIII族窒化物複合基板1において、III族窒化物膜の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値momを0.3°以上1.0°以下とし、かつ、オフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値moaを0°以上0.1°以下とすることができる。これにより、得られるIII族窒化物半導体デバイス4の特性を高くすることができる。
【0029】
本発明の別の実施形態である積層III族窒化物複合基板2は、上記実施形態のIII族窒化物複合基板1と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層20と、を含む。本実施形態の積層III族窒化物複合基板2は、III族窒化物膜13上に配置されているIII族窒化物層20も結晶品質が高いことから、高特性のIII族窒化物半導体デバイス4を歩留よく作製することができる。
【0030】
本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス4は、上記実施形態のIII族窒化物複合基板1中のIII族窒化物膜13と、III族窒化物膜13上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層20と、を含む。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、結晶品質が高く厚さ分布およびオフ角分布が小さいIII族窒化物膜13と、その上に配置されている結晶品質が高いIII族窒化物層20と、を含むことから、高い特性を有する。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス4は、少なくとも1層のIII族窒化物層20を含み、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値mLoに対するオフ角の絶対値の標準偏差sLoの比sLo/mLoが0.005以上0.6以下である。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、結晶品質が高いIII族窒化物層20を含むことから、高い特性を有する。
【0032】
本発明のかかる実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス4において、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値mLomを0.3°以上1.0°以下とし、かつ、そのオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値mLoaを0°以上0.1°以下とすることができる。これにより、III族窒化物半導体デバイス4は高い特性を有する。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物複合基板1の製造方法は、上記実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法であって、支持基板11と、III族窒化物膜ドナー基板13Dと、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板1Lを形成する工程と、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面でIII族窒化物膜ドナー基板13Dを切断することにより、上記III族窒化物複合基板1を形成する工程と、を含む。本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法は、コストが低く大口径で膜厚が大きく結晶品質の高いIII族窒化物膜13を有するIII族窒化物複合基板1を効率よく製造することができる。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物複合基板1の製造方法は、上記実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法であって、支持基板11と、III族窒化物膜ドナー基板13Dと、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板1Lを形成する工程と、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、III族窒化物複合基板1を形成する工程と、を含む。本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法は、コストが低く大口径で膜厚が大きく結晶品質の高いIII族窒化物膜13を有するIII族窒化物複合基板1を効率よく製造することができる。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス4の製造方法は、上記実施形態のIII族窒化物複合基板1を準備する工程と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程と、を含む。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4の製造方法は、高特性のIII族窒化物半導体デバイス4を歩留よく製造できる。
【0036】
本発明のかかる実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4の製造方法は、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程と、III族窒化物複合基板1から支持基板11を除去する工程と、をさらに含むことができる。これにより、デバイス支持基板40により支持された機械的強度が強く高特性のIII族窒化物半導体デバイス4を歩留よく製造できる。
【0037】
<本発明の実施形態の詳細>
[実施形態1:III族窒化物複合基板]
図1を参照して、本発明の一実施形態であるIII族窒化物複合基板1は、支持基板11と、厚さが10μm以上250μm以下のIII族窒化物膜13と、が貼り合わされた直径が75mm以上のIII族窒化物複合基板1であって、III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下であり、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下である。
【0038】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、その直径が75mm以上であり、その支持基板11上に貼り合わされたIII族窒化物膜13が、その厚さが10μm以上250μm以下で、厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下で、その主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下であることにより、III族窒化物膜13上に、大口径で結晶品質の高い少なくとも1層のIII族窒化物層を成長させることができるため、特性の高いIII族窒化物半導体デバイスを歩留まりよく得ることができる。
【0039】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1において、支持基板11とIII族窒化物膜13との貼り合わせ形態は、特に制限はないが、貼り合わせによる接合強度を高めるために、接合膜12を介在させることが好ましい。
【0040】
(III族窒化物複合基板の直径)
III族窒化物複合基板1の直径は、1枚の複合基板から半導体デバイスのチップの取れ数を多くする観点から、75mm以上であり、100mm以上が好ましく、125mm以上がより好ましく、150mm以上がさらに好ましい。また、III族窒化物複合基板1の直径は、複合基板の反りを低減し半導体デバイスの歩留を高くする観点から、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。
【0041】
(III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜側の反り)
III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の反りは、形成する半導体デバイスの歩留を高くする観点から、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。ここで、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の反りとは、III族窒化物膜13の主面内の任意の各点との距離の二乗が最小となる最小二乗平面に対して、一方側に最も大きく離れた上記主面上の点との距離および他方側に最も大きく離れた上記主面上の点との距離の和として算出される値をいい、光干渉式の平坦度測定装置、レーザ変位計などにより測定される。
【0042】
(III族窒化物複合基板のTTV)
III族窒化物複合基板1のTTV(Total Thickness Variation;全体厚さ分布をいう。平坦度の評価指標のひとつである。また、GBIR(Global Backside Ideal Range)ともいう。)は、形成する半導体デバイスの歩留を高くする観点から、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。ここで、III族窒化物複合基板1のTTVとは、III族窒化物複合基板1の裏面である支持基板11の主面を基準面として、厚さ方向に測定したIII族窒化物複合基板1の表面(おもてめん)であるIII族窒化物膜13の主面の全面における最大値と最小値との差をいい、III族窒化物複合基板1の裏面である支持基板11の主面を基準面として基準面として平坦に矯正した状態でIII族窒化物複合基板1の表面(おもてめん)であるIII族窒化物膜13の主面の高低差が光干渉式の平坦度測定装置、レーザ変位計などにより測定される。
【0043】
(III族窒化物複合基板における支持基板とIII族窒化物膜との関係)
支持基板の熱膨張係数αSに対するIII族窒化物膜の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSは、III族窒化物複合基板1およびそのIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の反りおよびクラックを低減する観点から、0.75以上1.25以下が好ましく、0.8以上1.2以下がより好ましく、0.9以上1.1以下がさらに好ましく、0.95以上1.05以下が特に好ましい。
【0044】
また、支持基板の厚さtSに対するIII族窒化物膜の厚さtIII-Nの比tIII-N/tSは、III族窒化物複合基板1およびそのIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の反りおよびクラックを低減する観点から、0.02以上1以下が好ましく、0.06以上0.7以下がより好ましく、0.15以上0.5以下がさらに好ましく、0.2以上0.4以下が特に好ましい。
【0045】
(支持基板)
支持基板11は、III族窒化物膜13を支持できるものであれば特に制限はないが、高価なIII族窒化物の使用量を低減してコストを低減する観点から、III族窒化物と化学組成が異なる異組成基板であることが好ましい。さらに、上記のように、支持基板11の熱膨張係数αSに対するIII族窒化物膜13の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSが0.75以上1.25以下であることが好ましい観点から、支持基板11は、ムライト(3Al23・2SiO2〜2Al23・SiO2)、ムライト−YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、スピネル(MgAl24)、Al23−SiO2系複合酸化物の焼結体、およびこれらに酸化物、炭酸塩などを添加した焼結体により形成される基板、モリブデン(Mo)基板、タングステン(W)基板などが好ましい。ここで、酸化物、炭酸塩に含まれる元素は、Ca、Mg、Sr、Ba、Al、Sc、Y、Ce、Pr、Si、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどが好適に挙げられる。また、支持基板11は、III族窒化物複合基板1を含む縦型デバイスを製造する観点から、導電性支持基板であることが好ましく、たとえば、Mo基板、W基板などが好ましい。
【0046】
なお、III族窒化物複合基板1における支持基板11の主面のRMS(Root Mean Square roughness;二乗平均平方根粗さ)は、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の結晶品質を高くする観点から、12nm以下が好ましく、6nm以下がより好ましく、2nm以下がさらに好ましい。ここで、支持基板11の主面のRMSは、III族窒化物膜13を貼り合わせる前に研磨したり、III族窒化物膜13を貼り合わせた後に、貼り合わせていない主面を研磨することにより、調整することができる。ここで、支持基板11の主面のRMSは、支持基板11の主面の各点から基準平面を算出し、基準平面からの各点までの距離の二乗の平均の正の平方根の値をいい、AFM(原子間力顕微鏡)、光干渉式粗さ計、触針式粗さ計などにより測定される。
【0047】
支持基板11の主面は、そのRMSの平均値mSが0.3nm以上10nm以下であり、そのRMSの標準偏差sSが3nm以下であることが好ましい。支持基板11の主面について、そのRMSの平均値mSを10nm以下とし、そのRMSの標準偏差sSを3nm以下とすることにより、III族窒化物膜13の主面の全面に結晶品質の高いIII族窒化物層を成長させることができるため、高い歩留で半導体デバイスが得られる。支持基板11の主面のRMSの平均値mSを0.3nmより小さくするためには、高度な表面研磨が必要になり、コストが大幅に増加する。これらの観点から、支持基板11の主面のRMSの平均値mSは、0.3nm以上5nm以下がより好ましく、0.3nm以上2nm以下がさらに好ましい。また、支持基板11の主面のRMSの標準偏差sSは、2nm以下がより好ましく、1nm以下がさらに好ましい。
【0048】
ここで、支持基板11の主面のRMSの平均値mSおよび標準偏差sSは、それぞれ、図2に示す支持基板11の主面上の13点の測定点において測定したRMSから算出した平均値および標準偏差である。図2に示す支持基板11の主面上の13点の測定点Pは、支持基板11の直径の大小にかかわらず、1つの中心点PCと、その中心点PCから互いに直角な4方向上でかつ外縁から5mm内側にある4つの外側点POと、1つの中心点PCと4つの外側点POとの中間に位置する4つの点および4つの外側点の互いの中間に位置する4つの点をあわせた8つの中間点PMとで構成される。ここでいう標準偏差とは、不偏分散の正の平方根を意味する。
【0049】
(接合膜)
接合膜12は、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合できるものであれば特に制限はないが、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合性が高い観点から、SiO2膜、Si34膜、TiO2膜、Ga23膜などが好ましい。また、接合膜12は、III族窒化物複合基板1を含む縦型デバイスを製造する観点から、導電性接合膜であることが好ましく、たとえば、TiO2膜、Ga23膜などが好ましい。
【0050】
(III族窒化物膜)
III族窒化物膜13は、III族窒化物で形成される膜であり、GaN膜、AlN膜などのInxAlyGa1-x-yN膜(0≦x、0≦y、x+y≦1)などが挙げられる。
【0051】
III族窒化物膜13の厚さは、高特性のIII族窒化物半導体デバイスを形成する観点から、10μm以上であり、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上がさらに好ましい。また、III族窒化物膜13の厚さは、高価なIII族窒化物の使用量を低減する観点から、250μm以下であり、200μm以下が好ましく、170μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。
【0052】
III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtは、0.001以上0.2以下であり、0.001以上0.15以下が好ましく、0.002以上0.1以下がより好ましく、0.01以上0.05以下がさらに好ましい。比st/mtを0.001より小さくするためには、高度に厚さを制御するための切断および研磨が必要となるため、コストが増大する。比st/mtが0.2より大きくなると、膜厚の均一性が低下するため、得られる半導体デバイスの特性が低下する。
【0053】
III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moは、0.005以上0.6以下であり、0.005以上0.5以下が好ましく、0.008以上0.4以下がより好ましく、0.05以上0.2以下がさらに好ましい。比so/moを0.005より小さくするためには、高度にオフ角を制御するための切断および研磨が必要となるため、コストが増大する。比so/moが0.6より大きくなるとIII族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層のモフォロジーが低下した部分が面内に生じ、また不純物取り込みの面内分布が大きくなるため、得られる半導体デバイスの歩留まりが低下する。
【0054】
III族窒化物膜13の結晶構造は、良好な特性の半導体デバイスが得られる観点から、ウルツ鉱型構造が好ましい。III族窒化物膜13の主面が最も近似する上記の所定の面方位は、所望の半導体デバイスに適したものであれば制限はなく、{0001}、{10−10}、{11−20}、{21−30}、{20−21}、{10−11}、{11−22}、{22−43}、およびこれらのそれぞれの面方位から15°以下でオフした面方位でもよい。また、これらのそれぞれの面方位の面の裏面の面方位およびかかる裏面の面方位から15°以下でオフした面方位でもよい。すなわち、III族窒化物膜13は、極性面、非極性面、および半極性面のいずれであってもよい。また、III族窒化物膜13の主面は、大口径化が容易な観点から{0001}面およびその裏面が好ましく、得られる発光デバイスのブルーシフトを抑制する観点から{10−10}面、{20−21}面およびそれらの裏面が好ましい。
【0055】
ここで、III族窒化物膜13の厚さの平均値mt、厚さの標準偏差mt、オフ角の絶対値の平均値mo、およびオフ角の絶対値の標準偏差soは、それぞれ、図2に示すIII族窒化物膜13の主面上の13点の測定点において測定した厚さおよびオフ角の絶対値から算出した平均値および標準偏差である。図2に示すIII族窒化物膜13の主面上の13点の測定点Pは、III族窒化物膜の直径の大小にかかわらず、1つの中心点PCと、その中心点PCから互いに直角な4方向上でかつ外縁から5mm内側にある4つの外側点POと、1つの中心点PCと4つの外側点POとの中間に位置する4つの点および4つの外側点の互いの中間に位置する4つの点をあわせた8つの中間点PMとで構成される。ここでいう標準偏差とは、不偏分散の正の平方根を意味する。
【0056】
III族窒化物膜13の主面における不純物金属原子は、III族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の結晶品質を高め、形成する半導体デバイスの特性を高くする観点から、3×1012原子/cm2以下が好ましく、4×1011原子/cm2以下がより好ましく、1×1011原子/cm2以下がさらに好ましい。また、III族窒化物膜13の表面におけるその他の不純物は、III族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の結晶品質を高め、形成する半導体デバイスの特性を高くする観点から、Cl原子が2×1014原子/cm2以下が好ましく、Si原子が9×1013原子/cm2以下が好ましい。
【0057】
III族窒化物膜13の主面のRMSは、III族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の結晶品質を高くする観点から、3nm以下が好ましく、2nm以下がより好ましく、1nm以下がさらに好ましい。
【0058】
III族窒化物膜13の主面は、そのRMSの平均値mIII-Nが0.1nm以上2nm以下であり、そのRMSの標準偏差sIII-Nが0.4nm以下であることが好ましい。III族窒化物膜13の主面について、そのRMSの平均値mIII-Nを2nm以下とし、そのRMSの標準偏差sIII-Nを0.4nm以下とすることにより、III族窒化物膜13の主面の全面に結晶品質の高いIII族窒化物層を成長させることができるため、高い歩留で半導体デバイスが得られる。III族窒化物膜13の主面のRMSの平均値mIII-Nを0.1nmより小さくするためには、高度な表面研磨が必要になり、コストが大幅に増加する。これらの観点から、III族窒化物膜13の主面のRMSの平均値mIII-Nは、0.1nm以上1.5nm以下がより好ましく、0.2nm以上1nm以下がさらに好ましい。また、III族窒化物膜13の主面のRMSの標準偏差sIII-Nは、0.3nm以下がより好ましく、0.2nm以下がさらに好ましい。
【0059】
ここで、III族窒化物膜13の主面のRMSの平均値mIII-Nおよび標準偏差sIII-Nは、それぞれ、図2に示すIII族窒化物膜13の主面上の13点の測定点において測定したRMSから算出した平均値および標準偏差であり、上述のとおりである。また、III族窒化物膜13については、その転位密度は1×108cm-2以下がよく、キャリア濃度は1×1017cm-3以上がよい。
【0060】
III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値momは、得られるIII族窒化物半導体デバイスの特性を高くするとともに、炭素不純物の取り込みを減少させ、かつ表面モホロジーを良好にする観点から、0.3°以上1.0°以下が好ましく、0.4°以上0.9°以下がより好ましく、0.5°以上0.8°以下がさらに好ましい。また、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値moaは、得られるIII族窒化物半導体デバイスの特性を高くする観点から、0°以上0.1°以下が好ましく、0°以上0.09°以下がより好ましく、0°以上0.08°以下がさらに好ましい。
【0061】
ここで、III族窒化物膜13の主面のオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値momtおよびオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値moaは、それぞれ、図2に示すIII族窒化物膜13の主面上の13点の測定点において測定したオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値およびオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値から算出した平均値である。
【0062】
[実施形態2:積層III族窒化物複合基板]
図3図5図9、および図17図20を参照して、本発明の別の実施形態である積層III族窒化物複合基板2は、実施形態1のIII族窒化物複合基板1と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層20と、を含む。
【0063】
本実施形態の積層III族窒化物複合基板2は、結晶品質が高く厚さ分布およびオフ角分布が小さいIII族窒化物膜13上に成長することにより配置されているIII族窒化物層20も結晶品質が高いことから、高特性の半導体デバイスを歩留よく作製することができる。
【0064】
本実施形態の積層III族窒化物複合基板2において、III族窒化物膜13上に配置されているIII族窒化物層20の構成は、作製するIII族窒化物半導体デバイスの種類に応じて異なる。図3および図4を参照して、III族窒化物半導体デバイス4として発光デバイスを作製する場合は、III族窒化物層20は、たとえば、n−GaN層21、n−In0.05Ga0.95N層22、多重量子井戸構造を有する活性層23、p−Al0.09Ga0.91N層24、およびp−GaN層25を含むことができる。
【0065】
図5を参照して、III族窒化物半導体デバイス4として電子デバイスの1例であるHEMT(高電子移動度トランジスタ)を作製する場合は、III族窒化物層20は、たとえば、GaN層26およびAl0.2Ga0.8N層27を含むことができる。
【0066】
図11図12図15図17および図19を参照して、III族窒化物半導体デバイス4として電子デバイスの別の例であるSBD(ショットキーバリアダイオード)を作製する場合は、III族窒化物層20は、たとえば、n+−GaN層201(キャリア濃度がたとえば2×1018cm-3)およびn-−GaN層202(キャリア濃度がたとえば1×1016cm-3)を含むことができる。
【0067】
図13図14図16図18および図20を参照して、III族窒化物半導体デバイス4として電子デバイスのさらに別の例であるPND(pn接合ダイオード)を作製する場合は、III族窒化物層20は、たとえば、n+−GaN層203(キャリア濃度がたとえば2×1018cm-3)、n-−GaN層204(キャリア濃度がたとえば1×1016cm-3)、p-−GaN層205(Mg濃度がたとえば5×1017cm-3)、およびp+−GaN層206(Mg濃度がたとえば1×1020cm-3)を含むことができる。
【0068】
[実施形態3:III族窒化物半導体デバイス]
図4図5図12および図14図16を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス4は、実施形態1のIII族窒化物複合基板中のIII族窒化物膜13と、III族窒化物膜13上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層20と、を含む。
【0069】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、結晶品質が高く厚さ分布およびオフ角分布が小さいIII族窒化物膜13と、その上に成長することにより配置されている結晶品質が高いIII族窒化物層20と、を含んでいるため、高い特性を有する。
【0070】
また、図4図5および図11図16を参照して、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、少なくとも1層のIII族窒化物層20を含み、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値mLoに対するオフ角の絶対値の標準偏差sLoの比sLo/mLoが0.005以上0.6以下である。
【0071】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、後述のように、III族窒化物複合基板1を用いて製造されるものであることから、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上にエピタキシャル成長(基板の結晶と結晶方位が揃った結晶を成長)させたIII族窒化物層20を含む。ここで、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下であることから、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値mLoに対するオフ角の絶対値の標準偏差sLoの比sLo/mLoは0.005以上0.6以下となる。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、このような結晶品質が高いIII族窒化物層20を含んでいるため、高い特性を有する。
【0072】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値mLoに対するオフ角の絶対値の標準偏差sLoの比sLo/mLoは0.005以上0.6以下であるIII族窒化物層20を含んでいれば足り、III族窒化物複合基板1中のIII族窒化物膜13を含んでいてもよく(図4図5図12および図14図16を参照)、含んでいなくてもよい(図11および図13を参照)。
【0073】
ここで、III族窒化物層20のオフ角の絶対値の平均値mLo、およびオフ角の絶対値の標準偏差sLoは、それぞれ、図2に示すIII族窒化物層20の主面上の13点の測定点において測定した厚さおよびオフ角の絶対値から算出した平均値および標準偏差である。図2に示すIII族窒化物層20の主面上の13点の測定点Pは、III族窒化物層の直径の大小にかかわらず、1つの中心点PCと、その中心点PCから互いに直角な4方向上でかつ外縁から5mm内側にある4つの外側点POと、1つの中心点PCと4つの外側点POとの中間に位置する4つの点および4つの外側点の互いの中間に位置する4つの点をあわせた8つの中間点PMとで構成される。ここでいう標準偏差とは、不偏分散の正の平方根を意味する。
【0074】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4において、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値mLomは、III族窒化物半導体デバイスの特性を高くするとともに、炭素不純物の取り込みを減少させ、かつ表面モホロジーを良好にする観点から、0.3°以上1.0°以下が好ましく、0.4°以上0.9°以下がより好ましく、0.5°以上0.8°以下がさらに好ましい。また、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値mLoaは、III族窒化物半導体デバイスの特性を高くする観点から、0°以上0.1°以下が好ましく、0°以上0.09°以下がより好ましく、0°以上0.08°以下がさらに好ましい。
【0075】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、後述のように、III族窒化物複合基板1を用いて製造されるものであることから、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上にエピタキシャル成長(基板の結晶と結晶方位が揃った結晶を成長をいう。以下同じ。)させたIII族窒化物層20を含む。ここで、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値momが0.3°以上1.0°以下であり、かつ、オフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値moaを0°以上0.1°以下のとき、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値mLomは0.3°以上1.0°以下となり、かつ、そのオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値mLoaは0°以上0.1°以下となる。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、このような結晶品質が高いIII族窒化物層20を含んでいるため、高い特性を有する。
【0076】
ここで、III族窒化物層20の主面のオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値mLomおよびオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値mLoaは、それぞれ、図2に示すIII族窒化物層20の主面上の13点の測定点において測定したオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値およびオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値から算出した平均値である。
【0077】
III族窒化物半導体デバイス4の構成は、III族窒化物半導体デバイス4の種類に応じて異なる。図4を参照して、発光デバイスであるIII族窒化物半導体デバイス4は、たとえば、n−GaN層21、n−In0.05Ga0.95N層22、多重量子井戸構造を有する活性層23、p−Al0.09Ga0.91N層24、およびp−GaN層25を含むIII族窒化物層20と、III族窒化物層20のp−GaN層25側に配置される第1電極30と、III族窒化物層20のn−GaN層21側に配置される第2電極50と、を含むことができる。
【0078】
図5を参照して、電子デバイスの1例であるHEMT(高電子移動度トランジスタ)であるIII族窒化物半導体デバイス4は、たとえば、GaN層26およびAl0.2Ga0.8N層27を含むIII族窒化物層20と、III族窒化物層20のAl0.2Ga0.8N層27側に配置されるソース電極60、ドレイン電極70、およびゲート電極80と、を含むことができる。
【0079】
図11図12および図15を参照して電子デバイスの別の例であるSBD(ショットキーバリアダイオード)であるIII族窒化物半導体デバイス4は、たとえば、n+−GaN層201(キャリア濃度がたとえば2×1018cm-3)およびn-−GaN層202(キャリア濃度がたとえば1×1016cm-3)を含むIII族窒化物層20と、III族窒化物層20のn-−GaN層202側に配置されるショットキー電極である第1電極30と、III族窒化物層20のn+−GaN層201側に配置されるオーミック電極である第2電極50と、を含むことができる。
【0080】
図13図14および図16を参照して、電子デバイスのさらに別の例であるPND(pn接合ダイオード)であるIII族窒化物半導体デバイス4は、たとえば、n+−GaN層203(キャリア濃度がたとえば2×1018cm-3)、n-−GaN層204(キャリア濃度がたとえば1×1016cm-3)、p-−GaN層205(Mg濃度がたとえば5×1017cm-3)、およびp+−GaN層206(Mg濃度がたとえば1×1020cm-3)を含むIII族窒化物層20と、III族窒化物層20のp+−GaN層206側に配置されるp-オーミック電極である第1電極30と、III族窒化物層20のn+−GaN層203側に配置されるn−オーミック電極である第2電極50と、を含むことができる。
【0081】
図4図5および図11図16を参照して、III族窒化物半導体デバイス4は、機械的強度を高くする観点から、III族窒化物層20を支持するための支持基板11およびデバイス支持基板40の少なくともひとつをさらに含むことが好ましい。ここで、デバイス支持基板40の形状は、平板形状に限らず、III族窒化物膜13およびIII族窒化物層20を支持してIII族窒化物半導体デバイス4を形成することができるものである限り、任意の形状をとることができる。
【0082】
たとえば、図5に示すIII族窒化物半導体デバイス4であるHEMTは、支持基板11を含むIII族窒化物複合基板1を含む。図15に示すIII族窒化物半導体デバイス4であるSBDは、支持基板11を含むIII族窒化物複合基板1を含む。図16に示すIII族窒化物半導体デバイス4であるPNDは、支持基板11を含むIII族窒化物複合基板1を含む。これらに対して、図4に示すIII族窒化物半導体デバイス4である発光デバイスは、デバイス支持基板40を含む。図11および図12に示すIII族窒化物半導体デバイス4であるSBDは、デバイス支持基板40を含む。図13および図14に示すIII族窒化物半導体デバイス4であるPNDは、デバイス支持基板40を含む。
【0083】
[実施形態4:III族窒化物複合基板の製造方法]
図6および図7を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物複合基板の製造方法は、実施形態1のIII族窒化物複合基板1の製造方法であって、支持基板11と、III族窒化物膜ドナー基板13Dと、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板1L,1LSを形成する工程(図6(A)〜(C)、図7(A)〜(C))と、接合基板1L,1LSのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面でIII族窒化物膜ドナー基板13Dを切断することにより、III族窒化物複合基板1を形成する工程(図6(D)、図7(D))と、を含む。
【0084】
本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法によれば、コストが低く大口径で膜厚が大きく結晶品質の高いIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板1を効率よく製造することができる。
【0085】
ここで、III族窒化物複合基板1を形成する工程において、III族窒化物膜ドナー基板13Dを切断する際のIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面における所定の距離は、製造の目的とするIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の厚さに応じて決められる。
【0086】
また、III族窒化物複合基板1を形成する工程において、III族窒化物膜ドナー基板13Dを切断してIII族窒化物膜13を形成した後に、III族窒化物膜13の貼り合わせ主面と反対側の主面から、研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、III族窒化物膜13の厚さを低減することができる。特に、III族窒化物膜ドナー基板13Dの切断により形成されるIII族窒化物膜13の厚さ分布およびオフ角分布を低減する観点から、切断により得られたIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面を研磨することが好ましい。研磨方法は、II族窒化物膜13の厚さ分布およびオフ角分布を低減する観点から、CMP(化学機械的研磨)、化学的研磨などによる精密研磨が好ましい。
【0087】
上記の観点から、III族窒化物膜ドナー基板13Dを切断する際のIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面における所定の距離は、製造の目的とするIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の厚さに研磨代(けんましろ)の厚さを加えた距離とすることが好ましい。
【0088】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法において、接合基板1L,1LSのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面でIII族窒化物膜ドナー基板13Dを切断してIII族窒化物膜13を形成し、好ましくはIII族窒化物膜13の貼り合わせ主面と反対側の主面から、研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、膜厚を減少させて調整して、10μm以上250μm以下の所望の厚さのIII族窒化物膜13を含むIII族窒化物複合基板1が得られる。
【0089】
なお、本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法においては、III族窒化物複合基板を形成する工程においてIII族窒化物膜ドナー基板を切断するため、製造の際の作業性および効率を向上させる観点から、用いられるIII族窒化物膜ドナー基板13Dの厚さは、500μmより大きいことが好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましい。
【0090】
(接合基板の形成工程)
図6(A)〜(C)および図7(A)〜(C)を参照して、接合基板1L,1LSを形成する工程は、支持基板11の主面上に接合膜12aを形成するサブ工程(図6(A)、図7(A))と、III族窒化物膜ドナー基板13Dの主面上に接合膜12bを形成するサブ工程(図6(B)、図7(B))と、支持基板11に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dに形成された接合膜20bとを貼り合わせるサブ工程(図6(C)、図7(C))と、を含む。
【0091】
図6(A)および図7(A)を参照して、支持基板11の主面上に接合膜12aを形成するサブ工程において、接合膜12aは、後述する接合膜12bと一体化して接合膜12を形成するものであり、接合膜12と同様の材料で形成される。また、接合膜12aを形成する方法は、その接合膜12aの形成に適している限り特に制限はないが、品質のよい接合膜12aを効率的に形成する観点から、スパッタ法、CVD(化学気相堆積)法、PLD(パルスレーザ堆積)法、MBE(分子線成長)法、EB(電子線)蒸着法などが好ましい。接合膜の品質を高くするとともに成膜速度を高めるから、特にCVDが好ましい。ここで、CVDのうち、低温で成膜できかつ成膜速度が高い観点からP−CVD(プラズマ−化学気相堆積)法、PE−CVD(プラズマ援用−化学気相堆積)法などがさらに好ましく、膜質を高めかつ大量製造が容易な観点からLP−CVD(減圧−化学気相堆積)法などがさらに好ましい。
【0092】
さらに、接合強度を向上させるために、接合膜12a,12bの形成後、接合させる前にアニールすることができる。かかるアニールにより、接合膜12a,12bから脱ガスさせて、接合膜12a,12bを緻密化させることができる。
【0093】
さらに、接合膜12aは、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとの接合強度を高める観点から、その主面を鏡面(たとえば、RMSが0.3nm以下の鏡面)に研磨することが好ましい。接合膜12aの主面を研磨する方法は、特に制限はなく、たとえばCMP(化学機械的研磨)などが用いられる。接合強度を高める観点から、接合膜の清浄度を向上させるためにCMP後に砥粒を含まない液での無砥粒ポリシングを実施することができる。砥粒の除去効果を高めるため、KOH、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などのアルカリ、HCl、HNO3、H2SO4などの酸による無砥粒ポリシングを実施することができる。また、接合強度を高める観点から、接合膜の清浄度を向上させるために、スポンジ、ブラシなどを用いたスクラブ洗浄を実施することができる。また、二流体洗浄、メガソニック洗浄、超音波洗浄なども、好適に実施することができる。
【0094】
図6(B)および図7(B)を参照して、III族窒化物膜ドナー基板13Dの主面上に接合膜12bを形成するサブ工程において、III族窒化物膜ドナー基板13Dは、後サブ工程における分離によりIII族窒化物膜13を提供するドナー基板である。かかるIII族窒化物膜ドナー基板13Dを準備する方法は、特に制限はないが、結晶性のよいIII族窒化物膜ドナー基板13Dを得る観点から、HVPE(ハイドライド気相成長)法、MOVPE(有機金属気相成長)法、MBE(分子線成長)法、昇華法などの気相法、フラックス法、高窒素圧溶液法、アモノサーマル法などの液相法などが好適である。こうして準備されるIII族窒化物膜ドナー基板13Dは、特に制限はないが、結晶性のよいIII族窒化物膜13を提供する観点から、提供すべきIII族窒化物膜13と同程度の結晶性を有していることが好ましく、具体的には、III族窒化物膜ドナー基板13Dの主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下であることが好ましい。
【0095】
接合膜12bを形成する材料および方法ならびにその主面の研磨は、上記の接合膜12aを形成する材料および方法ならびにその主面の研磨とそれぞれ同様である。
【0096】
図6(C)および図7(C)を参照して、支持基板11に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dに形成された接合膜20bとを貼り合わせるサブ工程において、その貼り合わせ方法は、特に制限はなく、貼り合わせ面を洗浄しそのまま貼り合わせた後600℃〜1200℃程度に昇温して接合する直接接合法、貼り合わせ面を洗浄しプラズマやイオンなどで活性化処理した後に室温(たとえば25℃)〜400℃程度の低温雰囲気下で接合する表面活性化接合法、貼り合わせ面を薬液と純水で洗浄処理した後、0.1MPa〜10MPa程度の圧力を掛けて接合する高圧接合法、貼り合わせ面を薬液と純水で洗浄処理した後、10-6Pa〜10-3Pa程度の高真空雰囲気下で接合する超高真空接合法、などが好適である。上記のいずれの接合法においてもそれらの接合後に600℃〜1200℃程度に昇温することによりさらに接合強度を高めることができる。特に、表面活性化接合法、高圧接合法、および超高真空接合法においては、それらの接合後に600℃〜1200℃程度に昇温することによる接合強度を高める効果が大きい。
【0097】
上記の貼り合わせにより、接合膜12aと接合膜12bとが接合により一体化して接合膜12が形成され、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとが接合膜12を介在させて接合されて、接合基板1L,1LSが形成される。
【0098】
上記のように、接合膜12a,12bの貼り合わせ面を貼り合わせ前に活性化することにより接合強度を高めることができる。貼り合わせ面の活性化は、特に制限はないが、活性化効果が高い観点から、プラズマ処理、イオン処理、薬液による化学処理、洗浄処理、CMP処理などにより行なうことが好ましい。
【0099】
(III族窒化物複合基板の形成工程)
図6(D)および図7(D)を参照して、III族窒化物複合基板1を形成する工程において、接合基板1L,1LSのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面でIII族窒化物膜ドナー基板13Dを切断することにより、支持基板11に接合膜12を介在させて接合したIII族窒化物膜13と、残りのIII族窒化物膜ドナー基板13Drと、に分離して、支持基板11とIII族窒化物膜13とが接合膜12を介在させて貼り合わされたIII族窒化物複合基板1が形成される。
【0100】
III族窒化物膜ドナー基板13Dを切断する方法は、特に制限はなく、ワイヤーソー、ブレードソー、レーザ加工、放電加工、ウォータージェットなどの方法が挙げられる。
【0101】
III族窒化物膜ドナー基板13Dをワイヤーソーで切断する場合、大口径のIII族窒化物膜ドナー基板13Dを平坦に切断するためには固定砥粒ワイヤーを用いることが好ましく、切断代(せつだんしろ)を低減するためには細線ワイヤーを用いることが好ましい。切断代を低減するためには遊離砥粒方式が好ましい。また、III族窒化物膜ドナー基板13Dをワイヤーソーで切断する際には、切断抵抗によるワイヤーの曲がりを低減して厚さの精度および平坦性を高めるために、ワイヤーの張力を増加し、線速を増加させることが好ましい。そのためには、高剛性のワイヤーソー装置が好ましい。
【0102】
また、切断抵抗を低減して厚さの精度および平坦性を高めるために、ワイヤーを揺動させ、それに同期してIII族窒化物膜ドナー基板13Dを振動させることが好ましい。具体的には、III族窒化物膜ドナー基板13Dの切断の進行方向に対して垂直またはそれに近い角度にワイヤーソーが位置しているときはIII族窒化物膜ドナー基板13Dが切断の進行方向に動き、III族窒化物膜ドナー基板13Dの切断の進行方向に対して垂直から遠い角度にワイヤーソーが位置しているときはIII族窒化物膜ドナー基板13Dが切断の進行方向と反対方向に動くことにより、切断抵抗を低減することができる。
【0103】
なお、GaNなどのIII族窒化物は、サファイアおよびSiCなどに比べて脆くて割れ易いため、サファイアおよびSiCと同様の切断方法では良好に切断することができない。III族窒化物の切断においてはその切断抵抗をさらに低減することが必要である。切断抵抗を低減して厚さの精度および平坦性を高めるためには、スライス用加工液の粘度η(Pa・s)、加工液の流量Q(m3/s)、ワイヤー線速度V(m/s)、最大切断長さL(m)、切断速度P(m/s)、および同時切断数nを用いて、(η×Q×V)/(L×P×n)で表される抵抗係数R(N)が、適切な範囲にあること、具体的には4000以上5000以下であることが好ましい。
【0104】
切断により得られたIII族窒化物複合基板1は、そのIII族窒化物膜13および支持基板11の主面を研磨することにより、所望の厚さおよびオフ角ならびにそれらの均一性を得ることができる。具体的には、研磨時の研磨装置へのIII族窒化物複合基板1の貼付には、吸着固定、バックパッドによる固定を行うことができる。また、保持プレートへIII族窒化物複合基板1を貼り付けた後に研磨装置に貼り付けることもできる。真空チャック、エアバッグ加圧、重りなどの機械的加圧により、傾きを抑制し、反りを矯正して貼り付けることができる。III族窒化物複合基板1を吸着固定することもできる。III族窒化物複合基板1を研磨装置に均一に貼り付けることで、研磨後の厚さ分布、オフ角分布を低減することができる。
【0105】
上記のように、本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法においては、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の厚さ分布およびオフ角分布を低減するとともにIII族窒化物膜13の切断によるダメージ層を除去して結晶品質を高く維持し、主面を平滑化する観点から、切断により得られたIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面を研磨することが好ましい。
【0106】
このため、本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法において、接合基板1L,1LSのIII族窒化物膜ドナー基板13Dを切断する面であるIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面から内部に所定の距離に位置する面における所定の距離とは、製造の目的とするIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の厚さに研磨代(けんましろ)の厚さを加えた距離とすることが好ましい。ここで、研磨代は、特に制限はないが、厚さ分布およびオフ角分布を低減しかつダメージ層を除去する観点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。また、研磨代は、III族窒化物膜ドナー基板13Dの材料ロスを低減する観点から、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0107】
また、図6(D)および(B)ならびに図7(D)および(B)を参照して、残りのIII族窒化物膜ドナー基板13Drは、その主面を研磨することにより、繰り返し用いることができる。
【0108】
(支持体付III族窒化物膜ドナー基板の利用)
図7(B)〜(D)を参照して、III族窒化物膜ドナー基板13DにIII族窒化物膜ドナー基板支持体15が貼り合わされた支持体付III族窒化物膜ドナー基板5Dを用いて、上記と同様にして、III族窒化物複合基板1を製造することができる。支持体付III族窒化物膜ドナー基板5Dは、III族窒化物膜ドナー基板支持体15によりIII族窒化物膜ドナー基板13Dが支持されているため、III族窒化物膜ドナー基板13Dが自立できない程度に薄くなっても、繰り返し用いることができる。
【0109】
支持体付III族窒化物膜ドナー基板5Dにおいて、III族窒化物膜ドナー基板支持体15とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとの貼り合わせ形態は、特に制限はないが、貼り合わせによる接合強度を高めるために接合膜14を介在させることが好ましい。また、III族窒化物膜ドナー基板支持体15は、特に制限はないが、支持強度が高くまたクラックおよび反りの発生を防止する観点から、支持基板11と同様の物性の材料で形成されていることが好ましい。接合膜14は、特に制限はないが、III族窒化物膜ドナー基板支持体15とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとの接合性が高い観点から、SiO2膜、Si34膜、TiO2膜、Ga23膜などが好ましい。
【0110】
[実施形態5:III族窒化物複合基板の別の製造方法]
図8を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物複合基板の製造方法は、実施形態1のIII族窒化物複合基板1の製造方法であって、支持基板11と、III族窒化物膜ドナー基板13Dと、を貼り合わせることにより、直径が75mm以上の接合基板1Lを形成する工程(図8(A)〜(C))と、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、III族窒化物複合基板1を形成する工程(図8(D))と、を含む。
【0111】
本実施形態のIII族窒化物複合基板の製造方法によれば、コストが低く大口径で膜厚が大きく結晶品質の高いIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板1を効率よく製造することができる。
【0112】
本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法において、III族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、膜厚を減少させて調整して、10μm以上250μm以下の所望の厚さのIII族窒化物膜13を含むIII族窒化物複合基板1が得られる。
【0113】
なお、本実施形態のIII族窒化物複合基板1の製造方法においては、III族窒化物複合基板を形成する工程においてIII族窒化物膜ドナー基板の貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうため、III族窒化物膜ドナー基板13Dの材料ロスを低減する観点から、用いられるIII族窒化物膜ドナー基板13Dの厚さは、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。
【0114】
(接合基板の形成工程)
図8(A)〜(C)を参照して、接合基板1Lを形成する工程は、実施形態4のIII族窒化物複合基板の製造方法と同様に、支持基板11の主面上に接合膜12aを形成するサブ工程(図8(A))と、III族窒化物膜ドナー基板13Dの主面上に接合膜12bを形成するサブ工程(図8(B))と、支持基板11に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dに形成された接合膜20bとを貼り合わせるサブ工程(図8(C))と、を含む。
【0115】
ここで、図8(A)に示す支持基板11の主面上に接合膜12aを形成するサブ工程は図6(A)に示す支持基板11の主面上に接合膜12aを形成するサブ工程と同様である。図8(B)に示すIII族窒化物膜ドナー基板13Dの主面上に接合膜12bを形成するサブ工程は図6(B)に示すIII族窒化物膜ドナー基板13Dの主面上に接合膜12bを形成するサブ工程と同様である。図8(C)に示す支持基板11に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dに形成された接合膜20bとを貼り合わせるサブ工程は図6(C)に示す支持基板11に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dに形成された接合膜20bとを貼り合わせるサブ工程と同様である。このため、それらの説明は繰り返さない。
【0116】
(III族窒化物複合基板の形成工程)
図8(D)を参照して、III族窒化物複合基板1を形成する工程において、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面と反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なうことにより、III族窒化物膜ドナー基板13Dからその厚さが減少したIII族窒化物膜13が形成されて、支持基板11とIII族窒化物膜13とが接合膜12を介在させて貼り合わされたIII族窒化物複合基板1が形成される。
【0117】
III族窒化物膜ドナー基板13Dを研削する方法は、特に制限はなく、砥石および砥粒のいずれかを用いた研削などが挙げられる。III族窒化物膜ドナー基板13Dを研磨する方法は、特に制限はなく、機械的研磨などの粗研磨、CMP、化学的研磨などの精密研磨などが挙げられる。III族窒化物膜ドナー基板13Dをエッチングする方法は、特に制限はなく、薬液を用いたウェットエッチング、RIE(反応性イオンエッチング)などのドライエッチングなどが挙げられる。
【0118】
また、形成されるIII族窒化物膜13の厚さ分布およびオフ角分布を低減する観点から、研削およびエッチングの少なくともいずれかにより得られたIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面を研磨することが好ましい。研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかによる厚さの減少量は、厚さ分布およびオフ角分布を低減しかつダメージ層を除去する観点から、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。また、研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかによる厚さの減少量は、III族窒化物膜ドナー基板13Dの材料ロスを低減する観点から、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。
【0119】
[実施形態6:III族窒化物半導体デバイスの製造方法]
図9および図17図20を参照して、本発明のさらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、実施形態1のIII族窒化物複合基板1を準備する工程と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程(図9(A)、図17(A)、図18(A)、図19(A)および図20(A))と、を含む。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法により、高特性のIII族窒化物半導体デバイスを歩留よく製造できる。
【0120】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法において、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程(図9(B)、図17(C)および図18(C))と、III族窒化物複合基板1から支持基板11を除去する工程(図9(C)、図17(D1)もしくは(D2)および図18(D1)もしくは(D2))と、をさらに含むことができる。これらの工程を加えることにより、デバイス支持基板40により支持された機械的強度が強く高特性のIII族窒化物半導体デバイスを歩留よく製造できる。
【0121】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、具体的には、以下の工程により、行なうことができる。
【0122】
(III族窒化物層の成長工程)
図9(A)、図17(A)、図18(A)、図19(A)および図20(A)を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程において、III族窒化物層20を成長させる方法は、結晶品質の高いIII族窒化物層20をエピタキシャル成長させる観点から、MOVPE法、MBE法、HVPE法、昇華法などの気相法、フラックス法などの液相法などが好適であり、特にMOVPE法が好適である。
【0123】
こうして得られるIII族窒化物層20は、III族窒化物膜13上にエピタキシャル成長させたものであり、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下であることから、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moは0.005以上0.6以下となり、結晶品質が高い。また、III族窒化物膜13の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値momが0.3°以上1.0°以下であり、かつ、オフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値moaが0°以上0.1°以下のとき、III族窒化物層20の主面の所定の面方位の面に対するオフ角の<10−10>方向の成分の絶対値の平均値mLomは0.3°以上1.0°以下となり、かつ、そのオフ角の<1−210>方向の成分の絶対値の平均値mLoaは0°以上0.1°以下となるため、かかるIII族窒化物層20を含むIII族窒化物半導体デバイス4は、高い特性を有することができる。
【0124】
III族窒化物層20の構成は、III族窒化物半導体デバイス4の種類に応じて異なる。図9を参照して、III族窒化物半導体デバイス4が発光デバイスの場合は、III族窒化物層20は、たとえば、III族窒化物膜13上に、n−GaN層21、n−In0.05Ga0.95N層22、多重量子井戸構造を有する活性層23、p−Al0.09Ga0.91N層24、およびp−GaN層25を順に成長させることにより構成することができる。
【0125】
また、図5を参照して、III族窒化物半導体デバイス4がHEMT(高電子移動度トランジスタ)の場合は、III族窒化物層20は、たとえば、III族窒化物膜13上に、GaN層26およびAl0.2Ga0.8N層27をこの順に成長させることにより構成することができる。
【0126】
また、図17および図19を参照して、III族窒化物半導体デバイス4がSBD(ショットキーバリアダイオード)の場合は、III族窒化物層20は、たとえば、III族窒化物膜13上に、n+−GaN層201(キャリア濃度がたとえば2×1018cm-3)およびn-−GaN層202(キャリア濃度がたとえば1×1016cm-3)を順に成長させることにより構成することができる。
【0127】
また、図18および図20を参照して、III族窒化物半導体デバイス4がPND(pn接合ダイオード)の場合は、II族窒化物層20は、たとえば、III族窒化物膜13上に、n+−GaN層203(キャリア濃度がたとえば2×1018cm-3)、n-−GaN層204(キャリア濃度がたとえば1×1016cm-3)、p-−GaN層205(Mg濃度がたとえば5×1017cm-3)、およびp+−GaN層206(Mg濃度がたとえば1×1020cm-3)を順に成長させることにより構成することができる。
【0128】
上記のようにして、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2が得られる。
【0129】
{支持基板を含むIII族窒化物半導体デバイスの製造の場合}
図5図19および図20を参照して、支持基板11を含むIII族窒化物半導体デバイス4を製造する場合は、効率よく製造する観点から、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4の製造方法は、上記のIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程と、以下の電極を製造する工程と、を含むことが好ましい。支持基板11を含むIII族窒化物半導体デバイス4を製造する場合は、デバイス支持基板40を必要としないため、デバイス支持基板40を貼り合わせる工程が含まれていなくてもよい。
【0130】
(電極の形成工程)
図5を参照して、III族窒化物半導体デバイス4としてHEMTを製造する場合は、たとえば、III族窒化物層20のAl0.2Ga0.8N層27側に、ソース電極60、ドレイン電極70、およびゲート電極80を、お互いに分離され、かつ、ゲート電極80がソース電極60とドレイン電極70との間に位置するように、形成する。図19(B)を参照して、III族窒化物半導体デバイス4としてSBDを製造する場合は、たとえば、III族窒化物層20のn-−GaN層202側に、開口部を有する絶縁膜300と、第1電極30としてショットキー電極と、を形成するとともに、III族窒化物層20のn+−GaN層202側の支持基板11上に第2電極50としてオーミック電極を形成する。図20(B)を参照して、III族窒化物半導体デバイス4としてPNDを製造する場合は、たとえば、III族窒化物層20のp+−GaN層206側に第1電極30としてオーミック電極を形成するとともに、III族窒化物層20のn+−GaN層203側の支持基板11上に第2電極50として、オーミック電極を形成する。これらの電極の形成方法は、形成する電極の材料に適したものであれば特に制限はなく、真空蒸着法、スパッタ法などが用いられる。また、支持基板11そのもので十分に低い接触抵抗が得られる場合は、あえてオーミック電極を形成する必要はない。
【0131】
{デバイス支持基板を含むIII族窒化物半導体デバイスの製造の場合}
図9図17および図18を参照して、デバイス支持基板40を含むIII族窒化物半導体デバイス4を製造する場合は、効率よく製造する観点から、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程と、III族窒化物複合基板1から支持基板11を除去する工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0132】
(デバイス支持基板の貼り合わせ工程)
図9(B)を参照して、III族窒化物半導体デバイス4として発光デバイスを製造する場合、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程は、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20上に、第1電極30およびパッド電極33を形成するとともに、デバイス支持基板40上にパッド電極43および接合金属膜44を形成し、パッド電極33に接合金属膜44を貼り合わせることにより行なう。
【0133】
図17(B)および(C)を参照して、III族窒化物半導体デバイス4としてSBDを製造する場合、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程は、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20上に開口部を有する絶縁膜300を形成し、絶縁膜300の一部および絶縁膜300の開口部のIII族窒化物層20上に第1電極30としてのショットキー電極を形成し、第1電極30が形成されていない絶縁膜300および第1電極30上にバリア膜330を形成するとともに、デバイス支持基板40上にパッド電極43および接合金属膜44を形成し、バリア膜330に接合金属膜44を貼り合わせることにより行なう。
【0134】
図18(B)および(C)を参照して、III族窒化物半導体デバイス4としてSBDを製造する場合、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程は、III族窒化物層20の一部にメサ部を形成し、III族窒化物層20上に第1電極30を形成し、第1電極30の一部およびIII族窒化物層20のメサ部の脚面上に絶縁膜300を形成し、第1電極30および絶縁膜300上にバリア膜330を形成するとともに、デバイス支持基板40上にパッド電極43および接合金属膜44を形成し、バリア膜330に接合金属膜44を貼り合わせることにより行なう。
【0135】
かかる工程により、積層基板3が得られる。デバイス支持基板40には、Si基板、CuW基板などが用いられる。
【0136】
(支持基板の除去工程)
図9(C)、図17(D1)および図18(D1)を参照して、III族窒化物複合基板1から支持基板11を除去する工程は、積層基板3から、III族窒化物複合基板1の支持基板11を除去することにより行なう。III族窒化物複合基板1において支持基板11とIII族窒化物膜13との間に接合膜12が介在している場合には、接合膜12をも除去することができる。また、図17(D2)および図18(D2)を参照して、支持基板11および接合膜12に加えてIII族窒化物膜13をも除去することができる。III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13がダメージを受けている場合には、ダメージを受けたIII族窒化物膜13を除去することにより、特性の高いIII族窒化物半導体デバイス4が得られる。
【0137】
ここで、支持基板11、接合膜12および/またはIII族窒化物膜13の除去方法は、特に制限はなく、研削、エッチングなどが好適に用いられる。たとえば、硬度、強度、および耐摩耗性が低く削られ易い材料で形成される支持基板11は、製造コストを低減する観点から、研削および研磨の少なくともいずれかにより除去することができる。また、酸、アルカリなどの薬液に溶解する材料で形成される支持基板11は、製造コストが低い観点から薬液でエッチングして除去することができる。なお、支持基板11の除去が容易な観点から、支持基板11は、サファイア、SiC、III族窒化物(たとえばGaN)などの単結晶材料で形成されている支持基板に比べて、セラミックスなどの多結晶材料で形成されている支持基板の方が好ましい。
【0138】
(電極の形成工程)
図9(D)、図17(E1)および図18(E1)を参照して、積層基板3から支持基板11および接合膜12が除去されることにより露出したIII族窒化物膜13上に第2電極50を形成し、デバイス支持基板40上にデバイス支持基板電極45を形成する。または、図17(E2)および図18(E2)を参照して、積層基板3から支持基板11、接合膜12およびIII族窒化物膜13が除去されることにより露出したIII族窒化物層20上に第2電極50を形成し、デバイス支持基板40上にデバイス支持基板電極45を形成する。また、デバイス支持基板40そのもので十分に低い接触抵抗が得られる場合は、あえてオーミック電極を形成する必要はない。
【実施例】
【0139】
(実施例A)
1.III族窒化物複合基板の作製
図6(A)を参照して、支持基板11として直径75mmのムライト基板を準備し、支持基板11の両主面をダイヤモンド砥粒と銅系定盤を用いた粗研磨、ダイヤモンド砥粒とスズ定盤を用いた中間研磨、不織布研磨パッドを用いた仕上げ研磨によりRMSを5nm以下に鏡面化した後、それらの主面のひとつ上に厚さ800nmのSiO2膜をLP−CVD(減圧−化学気相堆積)法により成長させ、平均粒径が40nmのコロイダルシルカ砥粒を含みpHが10のスラリーを用いたCMPにより、主面のRMSが0.3nm以下に平坦化された厚さ400nmの接合膜12aを形成した。CMPで用いた砥粒を除去するために、KOH水溶液による無砥粒ポリシング洗浄および純水による洗浄を行なった。
【0140】
図6(B)を参照して、III族窒化物膜ドナー基板13Dとして直径75mmで厚さ8mmのGaN結晶体を準備し、III族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面を機械研磨およびCMPによりRMSを2nm以下に鏡面化した後、その貼り合わせ面上に厚さ800nmのSiO2膜をLP−CVD(減圧−化学気相堆積)法により成長させ、平均粒径が40nmのコロイダルシルカ砥粒を含みpHが10のスラリーを用いたCMPにより、主面がRMSで0.3nm以下に平坦化された厚さ500nmの接合膜12bを形成した。CMPに用いた砥粒を除去するために、KOH水溶液による無砥粒ポリシング洗浄および純水による洗浄を行なった。ここで、III族窒化物膜ドナー基板13Dは、下地基板としてGaAs基板を用いて、HVPE法により成長させたものであった。
【0141】
図6(C)を参照して、接合膜12aと接合膜12bとを貼り合わせることにより、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合膜12を介在させて貼り合わせた接合基板1Lを得た。貼り合わせ後に、接合基板1Lを窒素ガス雰囲気中で800℃まで昇温することによりアニールして接合強度を高めた。
【0142】
図6(D)を参照して、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dを接合膜12との貼り合わせ面から内部に180μmの距離の深さに位置する面でワイヤーソーにより切断することにより、支持基板11とIII族窒化物膜13であるGaN膜とが接合膜12を介在させて貼り合わされたIII族窒化物複合基板1を得た。ワイヤーは、ダイヤモンド砥粒を電着した固定砥粒ワイヤーを用いた。切断抵抗を低減して厚さの精度および平坦性を高めるために、切断方式としてはワイヤーを揺動させ、それに同期してIII族窒化物膜ドナー基板13Dを振動させる方式とした。ワイヤーソー切断の抵抗係数は、4200Nとした。切断後に、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13を機械研磨およびCMPを行なった。III族窒化物膜13の厚さ、オフ角の均一化のため、CMPでの複合基板の装置への取り付けには、予備的に真空チャック吸着で基板形状を矯正した後に、装置に吸着固定する方式とした。
【0143】
得られたIII族窒化物複合基板1について、III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtおよびIII族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moを表1に示した。ここで、厚さの平均値mt、厚さの標準偏差st、オフ角の絶対値の平均値mo、およびオフ角の絶対値の標準偏差stは、図2に示すIII族窒化物膜13の主面上において、1つの中心点PCと、その中心点PCから互いに直角な4方向上でかつ外縁から5mm内側にある4つの外側点POと、1つの中心点PCと4つの外側点POとの中間に位置する4つの点および4つの外側点の互いの中間に位置する4つの点をあわせた8つの中間点PMとで構成される13点の測定点PにおけるIII族窒化物膜13の厚さおよびオフ角の絶対値から算出した。
【0144】
2.III族窒化物半導体デバイスの作製
図9(A)を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、MOVPE法により、III族窒化物層20として、III族窒化物膜13上に、厚さ5μmのn−GaN層21、厚さ50nmのn−In0.05Ga0.95N層22、厚さ3nmのIn0.14Ga0.86N井戸層と厚さ15nmのGaN障壁層とで構成される3周期の多重量子井戸構造を有する活性層23、厚さ20nmのp−Al0.09Ga0.91N層24、および厚さ150nmのp−GaN層25を順にエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。その後、RTA(高速熱処理装置)によりアニールして活性化させた。
【0145】
図9(B)を参照して、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20の最上層であるp−GaN層25上に、EB(電子線)蒸着法により、厚さ4nmのNi層および厚さ200nmのAu層を順次形成し、アニールにより合金化することにより第1電極30を形成した。第1電極30上に、EB蒸着法により、厚さ200nmのTi層、厚さ100nmのPt層、および厚さ1000nmのAu層を順次形成することによりパッド電極33を形成した。
【0146】
また、デバイス支持基板40としてCuW基板を準備し、デバイス支持基板40上に、EB蒸着法により、厚さ200nmのTi層、厚さ100nmのPt層、および厚さ1000nmのAu層を順次形成することによりパッド電極43を形成した。パッド電極43上に、接合金属膜44としてAuSnはんだ膜を形成した。
【0147】
次に、パッド電極33に接合金属膜44を貼り合わせることにより、積層基板3を得た。
【0148】
図9(C)を参照して、積層基板3から、III族窒化物複合基板1の支持基板11および接合膜12を、フッ化水素酸を用いて、エッチングにより除去した。
【0149】
図9(D)を参照して、積層基板3から支持基板11および接合膜12が除去された露出したIII族窒化物膜13上に、EB蒸着法により、厚さ20nmのTi層、厚さ200nmのAl層、および厚さ300nmのAu層を順次形成し、アニールすることにより、第2電極50を形成した。また、デバイス支持基板40上に、EB蒸着法により、厚さ20nmのTi層、および厚さ300nmのAu層を順次形成し、アニールすることにより、デバイス支持基板電極45を形成した。こうして、III族窒化物半導体デバイス4が得られた。
【0150】
得られたIII族窒化物半導体デバイス4について、光出力を、積分球を用いて、注入電流4Aの条件で測定した。発光素子の光出力は、以下のように測定した。すなわち、積分球内に載置された発光素子に所定の電流を注入し、その発光素子から集光された光を受けるディテクタによって光出力を測定した。そして、光出力が2W以上の基準に適合したものを良品、適合しなかったものを不良品とし、良品を表品と不良品との合計で除したものの百分率を歩留率とした。III族窒化物半導体デバイスの歩留率を表1にまとめた。
【0151】
【表1】
【0152】
表1を参照して、厚さ150μmのIII族窒化物膜を有する直径75mmのIII族窒化物複合基板であって、III族窒化物膜の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下であり、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下のIII族窒化物複合基板を用いて作製されたIII族窒化物半導体デバイスの歩留が高かった。なお、実施例A1においては、厚さ分布およびオフ角分布を低減するために、切断および研磨の際に高度な制御が必要となり、切断および研磨に長時間を要した。
【0153】
(実施例B)
図6および図8を参照して、支持基板11としてムライト−YSZ基板(基板全体に対してムライトが70質量%でYSZが30質量%であり、YSZに対してZrO2が90モル%でY23が10モル%である)を用いて、表2に示すようにIII族窒化物膜の厚さを変えた直径がそれぞれ75mm、100mm、125mm、および150mmのIII族窒化物複合基板1を作製したこと以外は、実施例Aと同様にして、III族窒化物複合基板1およびIII族窒化物半導体デバイス4を作製した。
【0154】
実施例Aと同様にして、III族窒化物複合基板1について、III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtおよびIII族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moを算出して、表2にまとめた。また、実施例Aと同様にして、III族窒化物半導体デバイス4の歩留率を算出して、表2にまとめた。
【0155】
【表2】
【0156】
表2を参照して、厚さ10μm〜250μmのIII族窒化物膜を有する直径75mm〜150mmのIII族窒化物複合基板であって、III族窒化物膜の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下の0.12であり、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下の0.3であるIII族窒化物複合基板を用いて作製されたIII族窒化物半導体デバイスの歩留が高かった。
【0157】
(実施例C)
半導体デバイス用基板として、III族窒化物自立基板(以下、FS基板ともいう)、イオン注入法により作製されたIII族窒化物複合基板(以下、BP基板ともいう)、および本発明の実施形態4により作製されたIII族窒化物複合基板(以下、BS基板ともいう)を準備した。
【0158】
FS基板は、所定の直径を有するGaN結晶体をワイヤーソーで切断し研磨することにより表3に示す直径および厚さの基板とした。
【0159】
BP基板は、図10(B)に示すように、III族窒化物膜ドナー基板13Dである所定の直径を有するGaN結晶体にその主面から内部に所定の深さの位置に水素イオンを注入することによりイオン注入領域13iを形成した後、図10(C)に示すように、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dのイオン注入領域13i側とを接合膜12を介在させて貼り合わせた後、図10(D)に示すように、850℃でアニールすることにより、III族窒化物膜ドナー基板13Dをそのイオン注入領域13iで分離することにより、表3に示す直径およびIII族窒化物膜の厚さの基板とした。ここで、支持基板11としては、ムライト基板を用いた。
【0160】
BS基板は、支持基板としてムライト基板を用いたこと以外は、実施例Bと同様にして、表3に示す直径およびIII族窒化物膜の厚さの基板とした。
【0161】
上記のFS基板、BP基板、およびBS基板を用いたこと以外は、実施例Bと同様にして、III族窒化物複合基板1およびIII族窒化物半導体デバイス4を作製した。
【0162】
実施例Aと同様にして、III族窒化物複合基板1について、III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtおよびIII族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moを算出して、表3にまとめた。また、実施例Aと同様にして、III族窒化物半導体デバイス4の歩留率を算出して、表3にまとめた。
【0163】
【表3】
【0164】
表3を参照して、直径50mm〜125mmで厚さ200μm〜500μmのFS基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、直径が大きく厚さが小さいものは反りが大きくまたクラックが発生しやすく、いずれも歩留率が60%に満たなかった。
【0165】
また、直径が75mm〜125mmでIII族窒化物膜の厚さが0.5μmのBP基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、III族窒化物膜の厚さが小さいため、良好なデバイス特性が発現せず、歩留率が低下した。
【0166】
これらに対して、BS基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、歩留率が65%以上と高かった。
【0167】
(実施例D)
支持基板としてAl23−SiO2複合酸化物基板(基板全体に対してAl23が85質量%でSiO2が15質量%である)を用いたこと以外は、実施例Bと同様の要領で作製した複数のIII族窒化物複合基板の反りおよびTTVを測定したところ、表4に示すとおりであった。ここで、III族窒化物複合基板の反りおよびTTVは、光干渉式のフラットネステスターにより測定した。
【0168】
これらのIII族窒化物複合基板を用いて、実施例Bと同様にして、III族窒化物半導体デバイスを作製した。
【0169】
III族窒化物複合基板について、III族窒化物膜の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtおよびIII族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/mo、ならびにIII族窒化物複合基板の反りおよびTTVを表4にまとめた。また、実施例Aと同様にして、III族窒化物半導体デバイス4の歩留率を算出して、表4にまとめた。
【0170】
【表4】
【0171】
表4を参照して、III族窒化物膜側の主面における反りが50μm以下であり、TTVが30μm以下であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、歩留率が高かった。
【0172】
(実施例E)
支持基板の熱膨張係数αSに対するIII族窒化物膜の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSが異なり、かつ、支持基板の厚さtSに対するIII族窒化物膜の厚さtIII-Nの比tIII-N/tSが異なる複数のIII族窒化物複合基板を用いたこと以外は、実施例Bと同様にして、III族窒化物半導体デバイスを作製した。ここで、上記の比を変化させるために、下地基板として厚さの異なるムライト基板、ムライト−YSZ基板、Al23−SiO2複合酸化物基板を用いた。
【0173】
支持基板の熱膨張係数αSに対するIII族窒化物膜の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSおよび支持基板の厚さtSに対するIII族窒化物膜の厚さtIII-Nの比tIII-N/tS、ならびにIII族窒化物半導体デバイスの歩留率を表5にまとめた。
【0174】
【表5】
【0175】
表5を参照して、支持基板の熱膨張係数αSに対するIII族窒化物膜の熱膨張係数αIII-Nの比αIII-N/αSが0.75以上1.25以下であり、支持基板の厚さtSに対するIII族窒化物膜の厚さtIII-Nの比tIII-N/tSが0.02以上1以下であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスの歩留率は高かった。
【0176】
(実施例F)
洗浄条件を調節することによって、III族窒化物膜の表面における不純物金属原子の量を調整したこと以外は、実施例Bと同様にして、III族窒化物複合基板およびIII族窒化物半導体デバイスを作製した。III族窒化物複合基板の直径およびIII族窒化物膜の表面における不純物金属原子の量、ならびにIII族窒化物半導体デバイスの歩留率を表6にまとめた。ここで、III族窒化物膜の表面における不純物金属原子の量は、TXRF(全反射蛍光X線)法により測定した。ここで、TXRF法による測定は、タングステン(W)線源を用いて、0.05°の入射角の条件で行なった。
【0177】
【表6】
【0178】
表6を参照して、III族窒化物膜の主面における不純物金属原子が3×1012原子/cm2以下であるIII族窒化物複合基板を用いた作製したIII族窒化物半導体デバイスの歩留率は高かった。
【0179】
(実施例G)
支持基板としてムライト基板を用い、III族窒化物膜ドナー基板として、ドーパントとしてOおよびSiが添加され、転位密度が4×106cm-2でキャリア濃度が2×1018cm-3である、転位集中領域のない均一なGaN結晶体を用いたこと以外は、実施例Bと同様にして、III族窒化物複合基板およびIII族窒化物半導体デバイスを作製した。ここで、研磨条件を調整することにより、III族窒化物膜および支持基板の主面の最大RMSを調整した。
【0180】
III族窒化物複合基板におけるIII族窒化物膜および支持基板の主面の最大RMS、ならびにIII族窒化物半導体デバイスの歩留率を表7にまとめた。
【0181】
【表7】
【0182】
表7を参照して、III族窒化物膜の主面のRMSが3nm以下であり、支持基板の主面のRMSが12nm以下であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスの歩留率は高かった。
【0183】
(実施例H)
支持基板としてAl23−SiO2複合酸化物基板(基板全体に対してAl23が82質量%でSiO2が18質量%である)を用い、III族窒化物膜ドナー基板として、ドーパントとしてFeが添加され比抵抗が1×107Ωcmである半絶縁性のGaN結晶体を用いたこと以外は、実施例Bと同様にして、III族窒化物複合基板を作製した。ここで、研磨条件を調整することにより、III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜の主面のRMSの平均値mIII-Nおよび標準偏差sIII-N、ならびに支持基板の主面のRMSの平均値mSおよび標準偏差sSを調整した。
【0184】
さらに、図5を参照して、以下のようにして、III族窒化物半導体デバイス4として、HEMTを作製した。
【0185】
まず、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、MOVPE法により、III族窒化物層20として、厚さ1.5μmのGaN層26、厚さ30nmのAl0.2Ga0.8N層27を順にエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。
【0186】
次に、Al0.2Ga0.8N層27上にフォトリソグラフィ、EB蒸着、およびリフトオフによって、ソース電極60およびドレイン電極70を作製した。これらの電極には、厚さ20nmのTi層、厚さ100nmのAl層、厚さ20nmのTi層、および厚さ300nmのAu層を順次形成し、リフトオフした後、600℃で1分間のアニールにより合金化した。
【0187】
次に、ソース電極60およびドレイン電極70の作製と同様の工程により、ゲート電極80を作製した。ゲート電極80の作製においては、厚さ50nmNi層および厚さ500nmのAu層を順次形成した。ゲート長は2μmとした。
【0188】
こうして得られたIII族窒化物半導体デバイス4であるHEMTは、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、少なくとも1層の1層のIII族窒化物層20としてGaN層26およびAl0.2Ga0.8N層27が形成され、Al0.2Ga0.8N層27上にソース電極60、ドレイン電極70、およびゲート電極80が、お互いに分離され、かつ、ゲート電極80がソース電極60とドレイン電極70との間に位置するように、配置されていた。
【0189】
得られたHEMTのリークするゲート電流密度を検査した。具体的には、5Vのゲート電圧を与えたときに、リークしたゲート電流密度が1×10-6A/cm2以下の基準に適合したものを良品、適合しなかったものを不良品とし、良品を良品と不良品の合計で除したものの百分率を歩留率とした。
【0190】
III族窒化物複合基板におけるIII族窒化物膜の主面のRMSの平均値mIII-Nおよび標準偏差sIII-N、および支持基板の主面のRMSの平均値mSおよび標準偏差sS、ならびにIII族窒化物半導体デバイスの歩留率を表8にまとめた。
【0191】
【表8】
【0192】
表8を参照して、III族窒化物膜の主面は、そのRMSの平均値mIII-Nが0.1nm以上2nm以下でありそのRMSの標準偏差sIII-Nが0.4nm以下であり、支持基板の主面は、そのRMSの平均値mSが0.3nm以上10nm以下であり、そのRMSの標準偏差sSが3nm以下であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスの歩留率は高かった。
【0193】
(実施例I)
1.III族窒化物複合基板の作製
図8(A)〜(C)を参照して、支持基板11として直径100mmのAl23−SiO2複合酸化物基板(基板全体に対してAl23が88質量%でSiO2が12質量%である)を準備したこと、III族窒化物膜ドナー基板13Dとして直径100mmで厚さが400μmのGaN結晶基板を準備したこと、支持基板11およびIII族窒化物膜ドナー基板13Dのそれぞれの主面上にPE−CVD法により厚さ500nmのSiO2膜を成長させた後、平均粒径が20nmのコロイダルシリカを含みpHが9のスラリー用いたCMPにより主面がRMS粗さで0.15nm以下に平坦化された厚さ250nmの接合膜12a,12bを形成したこと、純水による洗浄として純水とPVA(ポリビニルアルコール)製スポンジとを用いたスクラブ洗浄を行なったこと、以外は実施例Aと同様にして接合基板1Lを得た。
【0194】
図8(D)を参照して、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ主面と反対側の主面から研削および研磨を行なった。研削においては、平均粒径が25μm〜35μmのダイヤモンド砥粒を含むビトリファイド砥石を用いた。研磨においては、平均粒径が3μm、2μm、0.25μmのダイヤモンド砥粒をそれぞれ含むスラリーを用いて段階的に機械研磨を実施した。かかる研磨は、厚み分布およびオフ角分布を低減するため、予備的に機械加圧で基板の反りを矯正した状態で保持プレートに貼り付けて実施した。研磨後にICP−RIE(誘導結合プラズマ−反応性イオンエッチング)法により発生させた塩素ガスプラズマによるドライエッチング処理を実施した。なお、実施例I8については、上記の研削の代わりに平均粒径が9μmのダイヤモンド砥粒を用いた粗研磨を実施した。こうして、厚さが150μmのIII族窒化物膜13を含むIII族窒化物複合基板1を得た。
【0195】
2.III族窒化物半導体デバイスの作製
図9を参照して、本実施例におけるIII族窒化物複合基板1を用いたこと、積層基板3からの支持基板11および接合膜12の除去を平均粒径が35μm〜45μmのダイヤモンド砥粒を含むビトリファイド砥石を用いた研削により実施したこと、特に実施例I9については平均粒径が15μmのダイヤモンド砥粒を用いた研磨により実施したこと、かかる研削および/または研磨後に接合膜及び支持基板の残渣の除去のため、フッ化水素酸によるエッチング洗浄したこと以外は、実施例Aと同様にしてIII族窒化物半導体デバイス4を得た。
【0196】
実施例Aと同様にして、III族窒化物複合基板1について、III族窒化物膜13の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtおよびIII族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moを算出して、表9にまとめた。また、実施例Aと同様にして、III族窒化物半導体デバイス4の歩留率を算出して、表9にまとめた。
【0197】
【表9】
【0198】
表9を参照して、III族窒化物膜の厚さの平均値mtに対する厚さの標準偏差stの比st/mtが0.001以上0.2以下であり、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値moに対するオフ角の絶対値の標準偏差soの比so/moが0.005以上0.6以下であるIII族窒化物複合基板を用いて作製されたIII族窒化物半導体デバイスの歩留が高かった。なお、実施例I1においては、厚さ分布およびオフ角分布を低減するために、研削および研磨の際に高度な制御が必要となり、研削および研磨に長時間を要した。
【0199】
(実施例J)
本実施例は、図17を参照して、デバイス支持基板40を含むIII族窒化物半導体デバイスであるSBD(ショットキーバリアダイオード)を作製した実施例である。
【0200】
1.III族窒化物複合基板の作製
以下の点を除いては、実施例Aと同様にして、支持基板として実施例Aで用いたムライト基板または実施例Bで用いたムライト−YSZ基板、接合膜としてSiO2膜、III族窒化物膜ドナー基板としてGaN結晶体を用いて、III族窒化物複合体基板を作製した。
【0201】
例J1〜例J4においては、支持基板としての直径75mmのムライト基板と直径75mmのIII族窒化物膜ドナー基板と用いて、III族窒化物膜ドナー基板を切断する際のワイヤーソーによる切断位置を変えることにより、III族窒化物膜の厚さの平均値を、それぞれ100μm(例J1)、50μm(例J2)、10μm(例J3)、7μm(例J4)とした。例J5においては、支持基板としての直径75mmのムライト基板と直径75mmのIII族窒化物膜ドナー基板とを用いて、実施例CのBP基板の作製方法と同様の方法により作製して、III族窒化物膜の厚さの平均値を0.5μmとした。また、例J1〜例J5において、III族窒化物膜13の主面は、(0001)面から[10−10]方向に0.50°オフさせた。また、III族窒化物膜13の主面の(0001)面からの主面のオフ角の[1−210]方向の成分の絶対値moaを0.1°以下とした。例J1〜例J5のIII族窒化物複合基板の物性値を表10にまとめた。
【0202】
例J6〜例J9においては、支持基板としての直径75mmのムライト基板と直径75mmのIII族窒化物膜ドナー基板とを用いて、III族窒化物膜ドナー基板として(0001)面から[10−10]方向への主面のオフ角の絶対値の平均値および標準偏差が異なるGaN結晶体を用いることにより、III族窒化物膜の主面の(0001)面からの[10−10]方向のオフ角の絶対値の平均値および標準偏差を、それぞれ、0.50°および0.20°、0.50°および0.40°、0.30°および0.10°、0.20°および0.10°とした。また、III族窒化物膜の厚さの平均値はいずれも100μmとした。例J6〜例J9のIII族窒化物複合基板の物性値を表10にまとめた。
【0203】
例J10および例J11においては、支持基板およびIII族窒化物膜ドナー基板の直径を100mmとした。例J12例〜例J14においては支持基板として実施例Bで用いたムライト−YSZ基板を用いて、例J12および例J13においては支持基板およびIII族窒化物膜ドナー基板の直径を100mmとし、例J14においては支持基板およびIII族窒化物膜ドナー基板の直径を150mmとした。例J10〜例J14のIII族窒化物複合基板の物性値を表10にまとめた。
【0204】
2.III族窒化物半導体デバイスの作製
図17(A)を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、MOVPE法により、III族窒化物層20として、キャリアストップ層であるキャリア濃度が2×1018cm-3で厚さが1μmのn+−GaN層201、およびキャリアドリフト層であるキャリア濃度が1×1016cm-3で厚さが5μmのn-−GaN層202を順にエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。ここで、III族窒化物層20の成長温度は1050℃であり、GaNの原料としてTMG(トリメチルガリウム)およびNH3を用い、Siドーパントの原料としてSiH4を用いた。得られたIII族窒化物層20の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差は、X線回折法により測定したところ、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差とそれぞれ同じであった。
【0205】
次に、図17(B)を参照して、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20の最上層であるn-−GaN層202上に、フィールドプレート用の絶縁膜300として、プラズマCVD法により、SiH4およびNH3を原料として用いて、厚さ500nmのSiNx膜を形成した。その後、RTA(高速熱処理装置)を用いてN2中600℃で3分間熱処理した。次に、フォトリソグラフィで形成したレジストマスクを用いて、バッファードフッ酸(50質量%のHF(フッ化水素酸)水溶液と40質量%のNH4F(フッ化アンモニウム)水溶液とを1:5の体積比で15分間エッチングし、レジストマスク開口部のSiNx膜を除去することにより、フィールドプレートとして開口部を有する絶縁膜300を形成した。ここで、絶縁膜300の各開口部の平面形状は1mm角であった。上記のエッチング後、アセトンを用いてレジストを除去した。
【0206】
次に、フォトリソグラフィでレジストマスク(図示せず)を形成し、EB蒸着法により、厚さ50nmのNi層および厚さ300nmのAu層を形成し、アセトン中でリフトオフすることにより、第1電極30としてパターン化されたショットキー電極を形成した。第1電極30である各ショットキー電極の平面形状は1.1mm角であり、絶縁膜300の開口部のn-−GaN層202上および絶縁膜300の開口部の周囲から絶縁膜300側に50μmまでの範囲上において第1電極30が配置されたフィールドプレート耐圧構造とした。
【0207】
次に、図17(C)を参照して、第1電極30および絶縁膜300上の全面に、EB蒸着法により、バリア膜330として、厚さ50nmのNi層、厚さ400nmのPt層および厚さ100nmのAu層を形成した。かかるバリア膜330は、後工程である接合工程における接合金属膜の金属原子の拡散などによるショットキー特性の劣化を防止することができる。
【0208】
次に、デバイス支持基板40上に、EB蒸着法により、オーミック電極となるパッド電極43として、厚さ50nmのNi層、厚さ400nmのPt層および厚さ100nmのAu層を形成した。さらに、パッド電極43上に、抵抗加熱蒸着法により、接合金属膜44として、厚さ5μmのAuSn膜(Auが70質量%でSnが30質量%)を形成した。
【0209】
ここで、デバイス支持基板40は、例J1〜例J10および例J12においては低抵抗(比抵抗が1mΩ・cm未満)でp型のSi基板(直径75mmのときは厚さ400μm、直径100mmのときは厚さ600μm)を用い、例J11、例J13および例J14においてはMo基板(直径100mmのときは厚さ400μm、直径150μmのときは厚さ600μm)を用いた。
【0210】
次に、ウエハボンダを用いて、上記接合金属膜44と上記バリア膜330とを接合させた。接合条件は、1Pa未満の真空雰囲気中300℃で10分間とした。接合後、超音波顕微鏡により接合面の状態を観察した。こうして、積層基板3が得られた。
【0211】
次に、図17(D1)を参照して、平面研削機を用いて、積層基板3の支持基板11をその露出している主面から研削して、厚さを50μmとした。次いで、積層基板3からIII族窒化物複合基板1の支持基板11および接合膜12を、フッ化水素酸を用いて、エッチングにより除去した。その後、積層基板3から支持基板11および接合膜12が除去されて露出したIII族窒化物膜13を、ICP−RIE法により、Cl2をエッチングガスとして用いて、その露出した主面から200nmの深さまでエッチングした。
【0212】
次に、図17(E1)を参照して、III族窒化物膜13上に、EB蒸着法により、平面形状が1.4mm角で、厚さ20nmのTi層、厚さ100nmのAl層、厚さ20nmのTi層および厚さ300nmのAu層を順次形成することにより、第2電極50であるオーミック電極を形成した。また、デバイス支持基板40上に、EB蒸着法により、平面形状が1.4mm角で、厚さが10nmのNi層、厚さが10nmのPt層および厚さが100nmのAu層を順次形成することにより、デバイス支持基板電極45であるオーミック電極を形成した。ここで、第2電極50およびデバイス支持基板電極45は、第1電極30が形成されている位置に対応する位置に形成した。なお、例J11、例J13および例J14においては、デバイス支持基板40として用いたMo基板がオーミック電極にもなるため、デバイス支持基板電極45は形成しなかった。
【0213】
次に、第1電極30および第2電極50などが形成されたIII族窒化物半導体デバイス4を、RTAを用いて、N2雰囲気中250℃で3分間アニールした。こうして、III族窒化物半導体デバイス4が得られた。
【0214】
得られたIII族窒化物半導体デバイス4を、以下のようにしてチップ化した。デバイス支持基板40としてSi基板を含むIII族窒化物半導体デバイス4は、その第2電極50側を下にしてUV(紫外線)硬化性ダイシングテープに貼り付けて、ダイサーを用いて、上記電極のパターンに合わせて、デバイス支持基板40側の主面から370μmまでの深さまでカットし、その後ブレイク装置を用いてダイシング部をブレイクすることにより、チップ化した。デバイス支持基板40としてMo基板を含むIII族窒化物半導体デバイス4は、そのデバイス支持基板40側を下にしてUV(紫外線)硬化性ダイシングテープに貼り付けて、ダイサーを用いて、上記電極のパターンに合わせて、まずIII族窒化物層をカットし、次いでデバイス支持基板であるMo基板をカットすることにより、チップ化した。ここで、III族窒化物層のダイシングには厚さ200μmのブレードを用い、デバイス支持基板のダイシングには厚さ100μmのブレードを用いることにより、III族窒化物層のチッピング(欠け)を防止した。
【0215】
各III族窒化物半導体デバイスの主面上の外周部5mmを除く全面から上記のチップ化により得られるIII族窒化物半導体デバイスの全個数は、直径75mmの基板からは150個、直径100mmの基板からは300個、直径150mmの基板からは700個であった。
【0216】
上記のようにして得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスについて、プローバーを用いて、電流−電圧特性測定を行なった。順方向特性の指標は電流密度が500A/cm2となるときの順方向電圧Vfとし、逆方向特性の指標は電流密度が1×10-3A/cm2となるときの逆方向耐電圧Vrとした。ここで、III族窒化物半導体デバイスがSBDの場合は、順方向電圧Vfが1.5V以下でかつ逆方向耐電圧Vrが500V以上のIII族窒化物半導体デバイスを良品とした。III族窒化物半導体デバイスの全個数に対して、順方向電圧Vfが1.5V以下となるIII族窒化物半導体デバイスの個数の割合をVf歩留といい、逆方向耐電圧Vrが500V以上となるIII族窒化物半導体デバイスの個数の割合をVr歩留という。得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスの特性値を表10にまとめた。
【0217】
【表10】
【0218】
表10を参照して、例J1、例J2および例J3に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ100μm、50μmおよび10μmと10μm以上であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも60%以上と高かった。例J4および例J5に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ7μmおよび0.5μmと10μm未満であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVr歩留まりが低下した。これは、III族窒化物膜が薄くまた結晶品質が低下したためと考えられた。
【0219】
また、例J1および例J6に示すようにIII族窒化物膜の主面のオフ角の絶対値に関する比so/moがそれぞれ0.2および0.4と0.6以下であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも55%以上と高かった。例J7に示すようにIII族窒化物膜の主面のオフ角の絶対値に関する比so/moが0.8と0.6より大きいIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留が20%でそのVr歩留が40%といずれも低下した。さらに、例J8および例J9を参照して、各チップ化されたIII族窒化物半導体デバイスについてIII族窒化物膜の主面のオフ角の[10−10]方向の成分の絶対値の平均値momとVf歩留との関係を調べたところ、平均値momが0.30°と0.4°より小さくなるとVf歩留が低下し、平均値momが0.20°と0.3°より小さくなるとVf歩留がさらに低下した。
【0220】
III族窒化物層中の不純物は、SIMS(2次イオン質量分析)法により測定したところ、III族窒化物膜の主面のオフ角の[10−10]方向の成分の絶対値の平均値momが0.4°より小さくなるとカーボン不純物の濃度が増大していたことから、III族窒化物層のn-−GaN層(ドリフト層)のキャリア濃度が減少することにより、オン抵抗が増大して、Vf歩留が低下したとともに、逆方向のリーク電流が増大して、Vr歩留が低下したものと考えられた。また、III族窒化物膜の主面のオフ角の[10−10]方向の成分の絶対値の平均値momが0.3°より小さくなると、カーボン不純物の濃度がさらに増大していたことから、III族窒化物層のn-−GaN層(ドリフト層)のキャリア濃度がさらに減少することにより、オン抵抗がさらに増大して、Vf歩留がさらに低下したとともに、逆方向のリーク電流がさらに増大して、Vr歩留がさらに低下したものと考えられた。これは、III族窒化物層のカーボン不純物の濃度が増大したことによる結晶品質の低下によるものと考えられた。
【0221】
例J1〜例J9に示すように、直径75mmのムライト支持基板を含むIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスにおいては、III族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層にはクラックの発生がなく、また、III族窒化物層とデバイス支持基板との間の接合面にはボイドなどの不良がなく良好な接合であった。
【0222】
例J10および例J11に示すように、支持基板として直径100mmのムライト基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、その外周部にクラックが発生し不良であった。例J12および例J13に示すように、支持基板として直径100mmのムライト−YSZ基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、クラックの発生がなく良好であった。例J14に示すように、支持基板として直径150mmのムライト−YSZ基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、クラックの発生がなく良好であった。支持基板が直径100mmのムライト基板の場合にクラックが発生し、支持基板が直径100mmおよび150mmのムライト−YSZ基板の場合にクラックが発生しなかったのは、ムライト−YSZ基板の熱膨張係数がGaN層の熱膨張係数とほぼ同じであったためと考えられた。ここで、示差膨張方式の熱膨張測定装置により測定したところ、ムライト基板の熱膨張係数は4.8×10-6-1であり、ムライト−YSZ基板の熱膨張係数は5.6×10-6-1であり、GaN層の(0001)面に平行な方向の熱膨張係数は5.6×10-6-1であった。
【0223】
例J10および例J12に示すように、デバイス支持基板として直径100mmのSi基板を用いたものには、III族窒化物層とデバイス支持基板との間の接合面の一部に未接合領域が観察された。例J11および例J13に示すようにデバイス支持基板として直径100mmのMo基板を用いたもの、ならびに例J14に示すようにデバイス支持基板として直径150mmのMo基板を用いたものには、III族窒化物層とデバイス支持基板との間の接合面の接合は良好であり未接合領域は観察されなかった。このように、デバイス支持基板として直径100mmのSi基板を用いたものに接合不良が生じたのは、接合後のウエハがSi基板側が凸状に反っていたことからも明らかなように、Si基板の熱膨張係数と積層III族窒化物複合基板の熱膨張係数との差が大きかったためと考えられた。ここで、積層III族窒化物複合基板の熱膨張係数とは、支持基板がムライト基板の場合はムライト基板の熱膨張係数である4.8×10-6-1とGaN層の熱膨張係数である5.6×10-6-1との間であり、支持基板がムライト−YSZ基板の場合はムライト−YSZ基板およびGaN層の熱膨張係数である5.6×10-6-1であると考えられた。また、Si基板の熱膨張係数は3.0×10-6-1であり、Mo基板の熱膨張係数は5.1×10-6-1であった。
【0224】
例J10〜例J12に示すように、支持基板として直径100mmのムライト基板を用いたものはIII族窒化物層の外周部にクラックが発生したため(例J10および例J11)、また、デバイス支持基板として直径100mmのSi基板を用いたものはデバイス支持基板とIII族窒化物層との間の接合面に未接合領域が発生したため、Vf歩留およびVr歩留がいずれも低下した。
【0225】
これに対して、例J13に示すように支持基板として直径100mmのムライト−YSZ基板を用いデバイス支持基板として直径100mmのMo基板を用いたもの、および、例J14に示すように支持基板として直径150mmのムライト−YSZ基板を用いデバイス支持基板として直径150mmのMo基板を用いたものは、III族窒化物層が良好でかつデバイス支持基板とIII族窒化物層との間の接合も良好であったため、Vf歩留およびVr歩留がいずれも高かった。
【0226】
(実施例K)
本実施例は、図18を参照して、デバイス支持基板40を含むIII族窒化物半導体デバイスであるPND(pn接合ダイオード)を作製した実施例である。
【0227】
1.III族窒化物複合基板の作製
以下の点を除いては、実施例Jと同様にして、支持基板としてムライト基板、接合膜としてSiO2膜、III族窒化物膜ドナー基板としてGaN結晶体を用いて、直径75mmのIII族窒化物複合体基板を作製した。
【0228】
例K1〜例K3においては、III族窒化物膜ドナー基板を切断する際のワイヤーソーによる切断位置を変えることにより、III族窒化物膜の厚さの平均値を、それぞれ100μm(例K1)、10μm(例K2)、6μm(例K3)とした。例K4においては、実施例CのBP基板の作製方法と同様の方法により作製して、III族窒化物膜の厚さの平均値を0.5μmとした。また、例K1〜例K4において、III族窒化物膜13の主面は、(0001)面から[10−10]方向に0.40°オフさせた。また、III族窒化物膜13の主面の(0001)面からの主面のオフ角の[1−210]方向の成分の絶対値moaを0.1°以下とした。例K1〜例K4のIII族窒化物複合基板の物性値を表11にまとめた。
【0229】
2.III族窒化物半導体デバイスの作製
図18(A)を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、MOVPE法により、III族窒化物層20として、キャリアストップ層であるキャリア濃度が2×1018cm-3で厚さが1μmのn+−GaN層203、n型キャリアドリフト層であるキャリア濃度が1×1016cm-3で厚さが5μmのn-−GaN層204、p型層であるMg濃度が5×1017cm-3で厚さが0.5μmのp-−GaN層205、およびオーミックコンタクト層であるMg濃度が1×1020cm-3で厚さが0.05μmのp+−GaN層206を順にエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。ここで、III族窒化物層20の成長温度は1050℃であり、GaNの原料としてTMG(トリメチルガリウム)およびNH3を用い、Siドーパントの原料としてSiH4を用い、Mgドーパントの原料としてCP2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた。得られたIII族窒化物層20の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差は、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差とそれぞれ同じであった。
【0230】
次に、図18(B)を参照して、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20上にフォトリソグラフィによりレジストマスク(図示せず)を形成し、RIE(反応性イオンエッチング)によりメサエッチングを行った。メサ部の上底面のサイズは1.4mm角とし、メサ部の高さ(エッチングの深さ)は0.8μmとした。次いで、フォトリソグラフィ、EB蒸着、リフトオフにより、III族窒化物層20のp+−GaN層206側に、平面形状が1.1mm角で、厚さ50nmのNi層および厚さ100nmのAu層を順次形成することにより、オーミック電極である第1電極30を形成し、合金化熱処理をした。
【0231】
次に、図18(C)を参照して、第1電極30およびIII族窒化物層20の上に、プラズマCVD法により、絶縁膜300としてSiNx膜を形成した。次いで、フォトリソグラフィおよびバッファードフッ酸を用いて、第1電極30上の絶縁膜300を1.0mm角のサイズでエッチング除去することにより開口部を形成し、第1電極30を露出させた。次いで、絶縁膜300および露出した第1電極30上に、EB蒸着法により、バリア膜330として、厚さ50nmのNi層、厚さ400nmのPt層および厚さ100nmのAu層を順次形成した。かかるバリア膜330は、後述のデバイス支持基板40に形成された接合金属膜44との接合において、接合金属膜44中の金属原子の拡散などによるデバイス特性の低下を防止することができる。次いで、実施例Jと同様にして、デバイス支持基板40としてSi基板を準備し、かかるデバイス支持基板40上に、パッド電極43および接合金属膜44を形成した。
【0232】
次に、実施例Jと同様にして、上記接合金属膜44と上記バリア膜330とを接合させた。接合後、超音波顕微鏡により接合面の状態を観察した。こうして、積層基板3が得られた。
【0233】
次に、図18(D1)を参照して、実施例Jと同様にして、支持基板11の一部を研削した後、III族窒化物複合基板1の支持基板11および接合膜12を、フッ化水素酸を用いて、エッチングにより除去した。その後、積層基板3から支持基板11および接合膜12が除去されて露出したIII族窒化物膜13を、実施例Jと同様にして、その露出した主面から200nmの深さまでエッチングした。
【0234】
次に、図18(E1)を参照して、実施例Jと同様にして、III族窒化物膜13上に平面形状が1.4mm角の第2電極50を形成するとともに、デバイス支持基板40上に平面形状が1.4mm角のデバイス支持基板電極を形成した。こうして、III族窒化物半導体デバイス4が得られた。
【0235】
次に、得られたIII族窒化物半導体デバイス4を、実施例Jと同様にして、ダイシングおよびブレイキングにより、チップ化した。
【0236】
上記のようにして得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスについて、以下の点以外は実施例Jと同様にして、Vf歩留およびVr歩留を求めた。すなわち、III族窒化物半導体デバイスがPNDの場合は、順方向電圧Vfが4V以下でかつ逆方向耐電圧Vrが700V以上のIII族窒化物半導体デバイスを良品とした。III族窒化物半導体デバイスの全個数に対して、順方向電圧Vfが4V以下となるIII族窒化物半導体デバイスの個数の割合をVf歩留といい、逆方向耐電圧Vrが700V以上となるIII族窒化物半導体デバイスの個数の割合をVr歩留という。得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスの特性値を表11にまとめた。
【0237】
【表11】
【0238】
表11を参照して、例K1および例K2に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ100μmおよび10μmと10μm以上であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも60%以上と高かった。例K3および例K4に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ6μmおよび0.5μmと10μm未満であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVr歩留まりが低下した。これは、III族窒化物膜が薄くまた結晶品質が低下したためと考えられた。
【0239】
(実施例L)
本実施例は、図19を参照して、支持基板10を含むIII族窒化物半導体デバイスであるSBDを作製した実施例である。
【0240】
1.III族窒化物複合基板の作製
支持基板としてMo基板またはW基板を用い、接合膜として比抵抗が10mΩ・cmと高電導性のGa23膜を用いるとともに、以下の点を除いては、実施例Jと同様にして、III族窒化物複合体基板を作製した。ここで、Ga23膜はスパッタ法により形成されたものであった。
【0241】
例L1〜例L4においては、支持基板として直径75mmのMo基板を用いて、III族窒化物膜ドナー基板を切断する際のワイヤーソーによる切断位置を変えることにより、III族窒化物膜の厚さの平均値を、それぞれ100μm(例L1)、50μm(例L2)、10μm(例L3)、7μm(例L4)とした。例L5においては、実施例CのBP基板の作製方法と同様の方法により作製して、III族窒化物膜の厚さの平均値を0.5μmとした。例L6においては支持基板として直径75mmのW基板を用い、例L7においては支持基板として直径100mmのW基板を用い、例L8においては支持基板として直径100mmのMo基板を用い、例L9においては支持基板として直径150mmのW基板を用い、例L10においては支持基板として直径150mmのMo基板を用いた。また、例L1〜例L10において、III族窒化物膜13の主面は、(0001)面から[10−10]方向に0.40°オフさせた。また、III族窒化物膜13の主面の(0001)面からの主面のオフ角の[1−210]方向の成分の絶対値moaを0.1°以下とした。例L1〜例L10のIII族窒化物複合基板の物性値を表12にまとめた。
【0242】
2.III族窒化物半導体デバイスの作製
図19(A)を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、実施例Jと同様にして、III族窒化物層20として、キャリアストップ層であるキャリア濃度が2×1018cm-3で厚さが1μmのn+−GaN層201、およびキャリアドリフト層であるキャリア濃度が1×1016cm-3で厚さが5μmのn-−GaN層202を順にエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。得られたIII族窒化物層20の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差は、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差とそれぞれ同じであった。
【0243】
次に、図19(B)を参照して、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20の最上層であるn-−GaN層202上に、実施例Jと同様にして、フィールドプレートとして開口部を有する絶縁膜300を形成した。ここで、絶縁膜300の各開口部の平面形状は1mm角であった。
【0244】
次に、実施例Jと同様にして、第1電極30としてパターン化されたショットキー電極を形成した。第1電極30である各ショットキー電極の平面形状は1.1mm角であり、絶縁膜300の開口部のn-−GaN層202上および絶縁膜300の開口部の周囲から絶縁膜300側に50nmまでの範囲上において第1電極30が配置されたフィールドプレート耐圧構造とした。こうして、III族窒化物半導体デバイス4が得られた。
【0245】
なお、図19(B)において、支持基板11上にはオーミック電極である第2電極50が形成されているが、本実施例において支持基板11として用いられるMo基板およびW基板はいずれもオーミック電極としても機能するため、支持基板11に第2電極50を設けなかった。
【0246】
得られたIII族窒化物半導体デバイス4を、ダイサーを用いて、上記電極のパターンに合わせて、平面形状が1.5mm角となるようにダイシングすることによりチップ化した。各III族窒化物半導体デバイスの主面上の外周部5mmを除く全面から上記のチップ化により得られるIII族窒化物半導体デバイスの全個数は、直径75mmの基板からは150個、直径100mmの基板からは300個、直径150mmの基板からは700個であった。
【0247】
上記のようにして得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスについて、実施例Jと同様にして、Vf歩留およびVr歩留を求めた。得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスの特性値を表12にまとめた。
【0248】
【表12】
【0249】
表12を参照して、例L1、例L2および例L3に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ100μm、50μmおよび10μmと10μm以上であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも55%以上と高かった。例L4および例L5に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ7μmおよび0.5μmと10μm未満であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVr歩留まりが低下した。これは、III族窒化物膜が薄くまた結晶品質が低下したためと考えられた。例L5に示すように、III族窒化物膜の厚さが0.5μmのIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、Vf歩留も低下した。これは、III族窒化物膜にイオン注入による高抵抗層が存在しているためと考えられた。なお、実施例Jにおける例J5のIII族窒化物半導体デバイスにおいて、Vf歩留が高かったのは、第2電極の形成前のエッチングによりIII族窒化物膜の高抵抗層が除去されたためと考えられた。
【0250】
例L6に示すように、支持基板として直径75mmのW基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、クラックの発生がなく、その外観が良好であった。例L7に示すように、支持基板として直径100mmのW基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、その外周部にクラックが発生し、その外観が不良であった。例L9に示すように、支持基板として直径150mmのW基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、その外周部および中央部にクラックが発生し、その外観が極度に不良であった。
【0251】
これに対して、例L8に示すように、支持基板として直径100mmのMo基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、クラックの発生がなく、その外観が良好であった。さらに、例L10に示すように、支持基板として直径150mmのMo基板を含むIII族窒化物複合基板のIII族窒化物膜上にエピタキシャル成長させたIII族窒化物層は、クラックの発生がなく、その外観が良好であった。
【0252】
このように、支持基板としてW基板を含むIII族窒化物複合基板を用いたときにその直径が75mmから100mmm、150mmと大きくなるにつれてIII族窒化物層の外観が不良になったのに対し、支持基板としてMo基板を含むIII族窒化物複合基板を用いたときにその直径が75mmから100mm、150mmと大きくなってもIII族窒化物層の外観が良好であったのは、W基板の熱膨張係数(4.5×10-6-1)に比べて、Mo基板の熱膨張係数(5.1×10-6-1)がGaN層の熱膨張係数(5.6×10-6-1)に近いためと考えられた。
【0253】
また、例L6に示すように、支持基板として直径75mmのW基板を含むIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも60%以上と高かった。例L7に示すように、支持基板として直径100mmのW基板を含むIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも50%以上60%未満でほぼ良好であった。例L9に示すように、支持基板として直径150mmのW基板を含むIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも低かった。
【0254】
これに対して、例L8に示すように、支持基板として直径100mmのMo基板を含むIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも65%以上と高かった。例L10に示すように、支持基板として直径150mmのMo基板を含むIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも55%以上60%未満で良好であった。
【0255】
(実施例M)
本実施例は、図20を参照して、支持基板10を含むIII族窒化物半導体デバイスであるPNDを作製した実施例である。
【0256】
1.III族窒化物複合基板の作製
支持基板として直径75mmのMo基板を用いるとともに、以下の点を除いては、実施例Lと同様にして、III族窒化物複合体基板を作製した。
【0257】
例M1〜例M3においては、III族窒化物膜ドナー基板を切断する際のワイヤーソーによる切断位置を変えることにより、III族窒化物膜の厚さの平均値を、それぞれ100μm(例M1)、10μm(例M2)、6μm(例M3)とした。例M4においては、実施例CのBP基板の作製方法と同様の方法により作製して、III族窒化物膜の厚さの平均値を0.5μmとした。
【0258】
2.III族窒化物半導体デバイスの作製
図20(A)を参照して、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、実施例Kと同様にして、III族窒化物層20として、キャリアストップ層であるキャリア濃度が2×1018cm-3で厚さが1μmのn+−GaN層203、n型キャリアドリフト層であるキャリア濃度が1×1016cm-3で厚さが5μmのn-−GaN層204、p型層であるMg濃度が5×1017cm-3で厚さが0.5μmのp-−GaN層205、およびオーミックコンタクト層であるMg濃度が1×1020cm-3で厚さが0.05μmのp+−GaN層206を順にエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。得られたIII族窒化物層20の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差は、III族窒化物膜の主面の(0001)面に対するオフ角の絶対値の平均値および標準偏差とそれぞれ同じであった。
【0259】
次に、図20(B)を参照して、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20に、実施例Kと同様にして、メサエッチングを行った。メサ部の上底面のサイズは1.4mm角とし、メサ部の高さ(エッチング深さ)は0.8μmとした。次いで、実施例Kと同様にして、III族窒化物層20のp+−GaN層206側に、平面形状が1.1mm角で、厚さ50nmのNi層および厚さ100nmのAu層を順次形成することにより、オーミック電極である第1電極30を形成し、合金化熱処理をした。こうして、III族窒化物半導体デバイス4が得られた。
【0260】
なお、図20(B)において、支持基板11上にはオーミック電極である第2電極50が形成されているが、本実施例において支持基板11として用いられるMo基板オーミック電極としても機能するため、支持基板11に第2電極50を設けなかった。
【0261】
得られたIII族窒化物半導体デバイス4を、実施例Lと同様に、ダイサーを用いて、上記電極のパターンに合わせて、平面形状が1.5mm角となるようにダイシングすることによりチップ化した。各III族窒化物半導体デバイスの主面上の外周部5mmを除く全面から上記のチップ化により得られるIII族窒化物半導体デバイスの全個数は、直径75mmの基板からは150個であった。
【0262】
上記のようにして得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスについて、実施例Kと同様にして、Vf歩留およびVr歩留を求めた。得られたチップ化されたIII族窒化物半導体デバイスの特性値を表13にまとめた。
【0263】
【表13】
【0264】
表13を参照して、例M1および例M2に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ100μmおよび10μmと10μm以上であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVf歩留およびVr歩留がいずれも65%以上と高かった。例M3および例M4に示すように、III族窒化物膜の厚さがそれぞれ6μmおよび0.5μmと10μm未満であるIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、そのVr歩留まりが大きく低下した。これは、III族窒化物膜が薄くまた結晶品質が低下したためと考えられた。例M4に示すように、III族窒化物膜の厚さが0.5μmのIII族窒化物複合基板を用いて作製したIII族窒化物半導体デバイスは、Vf歩留も例M1〜例M3に比べて少し低下した。これは、III族窒化物膜にイオン注入による高抵抗層が存在しているためと考えられた。なお、実施例Kにおける例K4のIII族窒化物半導体デバイスにおいて、Vf歩留が高かったのは、第2電極の形成前のエッチングによりIII族窒化物膜の高抵抗層が除去されたためと考えられた。
【0265】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0266】
1 III族窒化物複合基板
1L,1LS 接合基板
2 積層III族窒化物複合基板
3 積層基板
4 III族窒化物半導体デバイス
5D,5Dr 支持体付III族窒化物膜ドナー基板
11 支持基板
12,14 接合膜
13 III族窒化物膜
13D,13Dr III族窒化物膜ドナー基板
13i イオン注入領域
15 III族窒化物膜ドナー基板支持体
20 III族窒化物層
21 n−GaN層
22 n−In0.05Ga0.95N層
23 活性層
24 p−Al0.09Ga0.91N層
25 p−GaN層
26 GaN層
27 Al0.2Ga0.8N層
30 第1電極
33,43 パッド電極
40 デバイス支持基板
44 接合金属膜
45 デバイス支持基板電極
50 第2電極
60 ソース電極
70 ドレイン電極
80 ゲート電極
201,203 n+−GaN層
202,204 n-−GaN層
205 p-−GaN層
206 p+−GaN層
300 絶縁膜
330 バリア膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20