特許第6135470号(P6135470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135470
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】蓄電装置用電極に添加される添加剤粒子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20170522BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170522BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170522BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-233589(P2013-233589)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-95339(P2015-95339A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】松代 大
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 加内江
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】杉江 尚
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−301749(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/144177(WO,A1)
【文献】 特開2014−017072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用電極活物質と共に添加される添加剤粒子であって、
前記添加剤粒子は、マグネシウムとリチウムとを含むリン酸塩からなり、
前記添加剤粒子は、前記添加剤粒子の表面近傍の表層と、前記表層よりも内側の内部とからなり、前記表層のマグネシウムのモル濃度は、前記内部のマグネシウムのモル濃度よりも高く、
前記添加剤粒子の平均粒径は、10μm以上50μm以下であり、
前記平均粒径とは、複数の前記添加剤粒子の粒径の平均値を意味し、前記粒径とは、SEM写真より観察される前記添加剤粒子の長径と短径の平均値を意味することを特徴とする添加剤粒子。
【請求項2】
前記添加剤粒子の前記表層でのリンのモル濃度に対するマグネシウムのモル濃度の比率は、前記添加剤粒子の前記内部でのリンのモル濃度に対するマグネシウムのモル濃度の比率よりも高い請求項1記載の添加剤粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の添加剤粒子を含有していることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池用電極は正極である請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用電極
【請求項5】
請求項または請求項に記載のリチウムイオン二次電池用電極と、他方の電極と、電解液とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置用電極に添加される添加剤粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンをイオン伝導体として用いる蓄電装置は、例えば、リチウムイオン二次電池などがある。リチウムイオン二次電池としては、正極活物質にリチウムイオンを挿入脱離可能な酸化物材料を用い、負極活物質にカーボンを用いたものが多い。近年、蓄電装置の電極に、活物質以外の物質を添加して、電池特性を改良することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3には、活物質粒子の表面に、Mg、Tiなどの元素を含有する被覆物を形成することが開示されている。特許文献4には、正極活物質材料に、Wなどの特定の元素を含有する化合物を添加した後に、焼成することで、粒成長及び焼結を抑えることが開示されている。特許文献5〜8には、第1正極活物質に、第2正極活物質を補助的に添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−21134号公報
【特許文献2】特開2008−123972号公報
【特許文献3】特開2011−138718号公報
【特許文献4】特開2009−32647号公報
【特許文献5】特開2011−86405号公報
【特許文献6】特開2011−159421号公報
【特許文献7】特開2012−89248号公報
【特許文献8】特表2006−514776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記の特許文献に開示されていない手法で、蓄電装置の電気的特性を改良することを試みた。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、蓄電装置の電気的特性を向上させることができる、蓄電装置用電極に添加される添加剤粒子、蓄電装置用電極及び蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の添加剤粒子は、蓄電装置用電極に添加される添加剤粒子であって、前記添加剤粒子は、マグネシウムとリチウムとを含むリン酸塩からなり、前記添加剤粒子は、前記添加剤粒子の表面近傍の表層と、前記表層よりも内側の内部とからなり、前記表層のマグネシウムのモル濃度は、前記内部のマグネシウムのモル濃度よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の添加剤粒子は、蓄電装置用電極に添加されることで、蓄電装置の電気的特性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の正極のSEM(走査型電子顕微鏡)断面写真と、正極の各個所におけるオージェスペクトルのMg/P強度比を示す。
図2】実施例1の正極のリン(P)の組成分析マッピング像を示す。
図3】実施例1の正極のマグネシウム(Mg)の組成分析マッピング像を示す。
図4】実施例1の正極のSEM断面写真を示す。
図5】比較例1の正極のSEM断面写真を示す。
図6】添加剤Aのオージェスペクトルを示す。
図7】添加剤Bのオージェスペクトルを示す。
図8】添加剤Aを有する正極(実施例1)の断面のモデル図を示す。
図9】添加剤Bを有する正極(比較例1)の断面のモデル図を示す。
図10】実施例1及び比較例1,2の電池の容量維持率を示す。
図11】実施例1及び比較例1,2の初期抵抗値と室温100サイクル試験後の抵抗値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る、蓄電装置用電極に添加される添加剤粒子の詳細について説明する。
【0011】
添加剤粒子は、マグネシウムとリチウムとを含むリン酸塩からなり、添加剤粒子の表層のMg濃度は、添加剤粒子の内部のMg濃度よりも高い。この添加剤粒子を電極に含めると、電極を備えた蓄電装置の電気的特性が向上する。特に、充放電サイクル特性が向上する。その理由は、電極のリチウムイオンのイオン伝導経路の劣化を防止できるからであると考えられる。
【0012】
添加剤粒子は、例えば、水溶性リチウム化合物とマグネシウム塩とリン酸塩とを混合及び焼成することで得られてなる。水溶性リチウム化合物は、例えば、LiOH,LiCO、LiNOなどが挙げられる。マグネシウム塩は、Mg(NO、MgSOなどが挙げられる。リン酸塩は、リン酸水素アンモニウム、リン酸などが挙げられる。リン酸水素アンモニウムとしては、(NHHPO,NH4PO,(NH4POなどが挙げられる。
【0013】
水溶性リチウム化合物に含まれるリチウムのモル濃度に対するマグネシウム塩に含まれるマグネシウムのモル濃度の比率をMg/Li比で示した場合、このMg/Li比は0.1以上9.0以下であることがよく、更には0.3以上1.5以下であることが好ましい。この場合には、得られる化合物表面に十分な導電性が得られる。Mg/Li比が過少の場合には、十分な導電性が得られないというおそれがある。Mg/Li比が過多の場合には、結合性のLiPOの影響が強くなりすぎ、リン酸化合物特有の触媒活性が低くなるおそれがある。
【0014】
水溶性リチウム化合物とマグネシウム塩とリン酸塩とを混合することで混合物を得る。混合物を得るために、湿式混合又は乾式混合のいずれでもよい。好ましくは、湿式混合である。湿式混合は、水溶性リチウム化合物とマグネシウム塩とリン酸塩とを液体の中で混合する。この場合、混合後に、濾過処理を行い、混合物を液体から濾別し、乾燥させるとよい。
【0015】
混合物は焼成される。焼成温度は、300℃以上900℃以下であることがよい。焼成雰囲気は、大気中で良く、酸素雰囲気でも良い。
【0016】
上記のように、水溶性リチウム化合物とマグネシウム塩とリン酸塩とを混合及び焼成することで、マグネシウムとリチウムとを含むリン酸塩からなる添加剤粒子が生成される。
【0017】
添加剤粒子の表層のマグネシウムのモル濃度は、添加剤粒子の内部のマグネシウムのモル濃度よりも高い。添加剤粒子の表層と内部のマグネシウムのモル濃度は、マグネシウム塩の量、及び他成分との相対モル比率により異なる。水溶性リチウム化合物とマグネシウム塩とリン酸塩とのそれぞれの量及び相対モル比がどのように変化しても、添加剤粒子の表層のマグネシウムの濃度は、添加剤粒子の内部のマグネシウムの濃度より大きい。このように添加剤粒子の表層と内部とでMg濃度の勾配ができるのは、リン酸化合物特有の結晶構造の不安定さとLi-O-PとMg-O-Pの結合エネルギーとの違いからなると推定される。
【0018】
なお、添加剤粒子の表層は、例えば、添加剤粒子の表面から添加剤粒子の平均粒径の1/4までの深さの部分をいい、添加剤粒子の内部は、表層よりも添加剤粒子の中心に近い部分をいう。添加剤粒子の中のMg濃度は、径方向の深さが大きくなるに従って徐々に小さくなる場合もある。この場合には、表層と内部の正確な切り分けはできない。表層は、添加剤粒子の表面から必ずしも一定の深さで形成されてはおらず、表層が添加剤の平均粒径の1/4以下の深さの場合もある。
【0019】
添加剤粒子の表層でのリンのモル濃度に対するマグネシウムのモル濃度の比率は、添加剤粒子の内部でのリンのモル濃度に対するマグネシウムのモル濃度の比率よりも高いことが好ましい。例えば、添加剤粒子を製造する際にリン酸塩とマグネシウム塩と水溶性リチウム化合物を混合する際に、リン酸塩のリンのモル濃度に対するマグネシウム塩のマグネシウムのモル濃度の比率が1であるときに、製造された添加剤粒子の外層は1を超えて大きく、添加剤粒子の内部は1未満とすることがよい。
【0020】
添加剤粒子の中のMg濃度勾配は、例えば、オージェ電子分光分析により観察することができる。添加剤粒子の表層でのオージェスペクトルのP由来のピーク強度に対するMg由来のピーク強度の比率は、添加剤粒子の内部でのオージェスペクトルのP由来のピーク強度に対するMg由来のピーク強度の比率よりも高いことが好ましい。
【0021】
添加剤粒子の平均粒径は、5μm以上100μm以下であることがよく、更には、10μm以上50μm以下であることが好ましい。この場合には、添加剤粒子が良好なイオン伝導経路を形成し、電極全体の導電性を向上させることができる。添加剤粒子の平均粒径が過小の場合には、電極の電気的特性が低下するおそれがある。添加剤粒子の平均粒径が過大である場合には、添加剤粒子を含む層が薄い場合に、電極から添加剤粒子が突出するおそれがある。ここで、添加剤粒子の粒径とは、添加剤粒子の長径と短径の平均値を意味し、平均粒径とは、複数の(例えば5以上)添加剤粒子についての粒径の平均値を意味する。なお、正極活物質の平均粒径とは、メジアン径(D50)を意味しているが、以下においては便宜上、単に「平均粒径」と表記する。正極活物質の平均粒径は、レーザー回析法による粒度分布測定により求めた。
【0022】
本発明の蓄電装置用電極は、蓄電装置の電極に用いられる。電極は、正極及び負極のいずれでもよいが、蓄電装置の正極に用いられることがよい。蓄電装置は、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタであることが好ましい。特に本発明の蓄電装置はリチウムイオン二次電池であることが好ましい。本発明の蓄電装置は、電極に特徴があり、蓄電装置を構成する他の構成要素は、それぞれの蓄電装置に適した公知のものであればよい。
【0023】
(リチオウムイオン二次電池)
リチウムイオン二次電池は、正極と負極と電解質とを有する。本発明の電極は、リチウムイオン二次電池の正極及び負極のいずれでもよいが、リチウムイオン二次電池の正極に用いられることがよい。
【0024】
リチウムイオン二次電池の正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質と、上記の添加剤粒子とを有する。正極は、正極活物質と添加剤粒子とを有する正極合材と、正極合材で被覆された集電体とからなることがよい。
【0025】
正極合材の中で、正極活物質は、一次粒子が凝集した状態の二次粒子となっている。添加剤粒子は、二次粒子となっている正極活物質と混合した状態で存在している。添加剤粒子は、正極合材に含まれているときにも、正極合材に添加する前と同様に、マグネシウムとリチウムとを含むリン酸塩からなり、添加剤粒子の表層は、添加剤粒子の内部よりもMg濃度が高い。
【0026】
添加剤粒子は、正極活物質よりも大きくても小さくてもよいが、大きいことがよい。正極活物質と添加剤粒子の大きさの比率に特に制限は無いが、添加剤粒子が正極活物質と助剤とバインダからなる正極合材の75%以下の大きさの方が好ましい。それよりも大きい場合はその部分の充放電に寄与するLi量が他の部分と比較して少なすぎてしまい、他の部分が劣化しやすくなると考えられる。
【0027】
正極合材において、添加剤粒子の平均粒径は10μm以上50μm以下であることが好ましく、また、正極活物質の平均粒径は、3μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0028】
正極合材を100質量%としたときに、前記正極合材の中の前記添加剤粒子の含有量は0.1質量%以上5質量%以下であることがよく、さらには0.5質量%以上3質量%以下であることが好ましい。この場合には、電池容量を高く維持しつつ、良好なイオン伝導性を発揮させることができる。
【0029】
集電体表面に形成された正極合材からなる層の厚みをTとし、添加剤粒子の平均粒径をtとした場合、t/T≦75%、更にはt/T≦50%の関係をもつことが好ましい。この場合には、正極合材からなる層から添加剤粒子が突出することを防止できる。
【0030】
正極活物質としては、層状化合物のLiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の、1.7≦f≦2.1)、もしくはLiMnO等を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn、LiMn等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属を他の金属で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0031】
正極合材は正極活物質及び添加剤粒子、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0032】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
正極合材は導電助剤を含んでもよい。導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて正極合材に添加することができる。導電助剤の使用量については特に制限はないが、例えば、正極活物質100質量部に対して1〜30質量部とすることができる。
【0034】
正極合材は結着剤を含んでもよい。結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。正極合材中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0035】
集電体の表面に正極合材からなる層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮してもよい。
【0036】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極合材を有する。負極合材は、負極活物質を有する。負極合材は、負極活物質のほかに、導電助剤又は/及び結着剤を含むことがよい。負極合材に添加剤粒子を含めることも可能である。負極合剤に含まれることがある導電助剤又は/及び結着剤は、正極合剤に含まれることがある導電助剤又は/及び結着剤と同様のものを用いることができる。
【0037】
負極活物質としては、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族金属、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じるおそれがあるため、当該おそれの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0038】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極合材を有する。負極の集電体は、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。
【0039】
負極合材は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。負極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、正極の集電体で説明したものを採用できる。負極の結着剤および導電助剤は正極で説明したものを採用できる。
【0040】
非水系二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンなどの金属イオンを通過させるものである。
【0041】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えて蓄電装置とするとよい。また、本発明の蓄電装置は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0042】
(リチウムイオンキャパシタ)
リチウムイオンキャパシタは、正極と負極と電解質とを有する。本発明の電極は、リチウムイオンキャパシタの正極及び負極のいずれでもよいが、リチウムイオンキャパシタの正極に用いられることがよい。
【0043】
リチウムイオンキャパシタの正極では電気二重層を形成して充放電し、負極ではリチウムの化学反応によって充放電する。
【0044】
正極には、上記リチウムイオン二次電池のように無機酸化物と本発明の添加剤粒子が含まれている。負極の説明はリチウムイオン二次電池の説明と同様である。
【0045】
本発明の蓄電装置の収容体は、正極、負極、セパレータ及び電解液を収容している。収容体は、例えば、袋状となったラミネートフィルム、剛体のケースなどが挙げられる。本発明の蓄電装置の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0046】
本発明の蓄電装置は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部に蓄電装置による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両に蓄電装置を搭載する場合には、蓄電装置を複数直列に接続して組電池とするとよい。蓄電装置を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の蓄電装置は、風量発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
水溶性リチウム化合物としてのLiOHを含む水溶液と、マグネシウム塩としてのMg(NOを含む水溶液と、リン酸塩としてのリン酸水素アンモニウム(NHHPOを含む水溶液とを混合して、混合水溶液を調製した。混合水溶液の中のLiOHとMg(NOとリン酸水素アンモニウムとのモル濃度の比率は、1:1:1とした。混合水溶液の中のLiとMgとリンとのモル濃度の比率は、1:1:1とした。混合水溶液の混合時の条件は、室温、混合時間:60分とした。混合後には、濾過フィルターを用いて濾過処理を行い、固形物を液体から分離した。固形物を120℃で乾燥させた。十分に乾燥させた固形物を300〜700℃で数時間焼成した。これにより、添加剤Aを得た。
【0048】
この添加剤Aを正極活物質と導電助剤と結着剤と混合し、溶媒を加えてスラリーを得た。正極活物質、導電助剤、結着剤は、それぞれLiNi0.5Co0.2Mn0.3、アセチレンブラック(AB)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、それぞれの配合比率は重量比で94:3:3とした。溶媒はN−メチル−2−ピロリドンを用いた。このスラリーを集電体としてのアルミニウム箔に塗布し、乾燥させた。これにより、集電体表面に正極合材を被覆してなる正極が得られた。
【0049】
得られた正極のSEM断面写真を図1に示した。図1に示すように、集電体の表面に正極合材からなる層が形成されていた。この層の中に、正極活物質と、正極活物質よりも大きい添加剤Aとが観察された。添加剤Aのおおよその形状を黒線で囲んだ。添加剤Aの周囲に見える小さい粒子は、正極活物質表面時付着している導電助剤である。添加剤Aの平均粒径は約15μmであり、正極活物質の平均粒径は5μmであった。集電体表面に形成された正極合材からなる層の厚みは60μmであった。添加剤Aの平均粒径をtとし、集電体表面に形成された正極合材からなる層の厚みをTとしたときにt/T=25%であった。
【0050】
図1のSEM断面写真の中の正極合材の数か所について、オージェ電子分光分析を行った。図1の写真の中の四角枠はオージェ電子分光分析を行った測定個所を示し、それぞれスペクトル44,45,52〜57の番号を付した。測定個所が添加剤Aの外層、内部、又は添加剤Aの外部のいずれに位置しているかについて、図1の断面写真から判断した。スペクトル44,45、53は、添加剤Aの内部に位置しており、スペクトル52、54、57は、添加剤Aの外層に位置しており、スペクトル55,56は、添加剤Aの外部に位置している。オージェ電子分光分析の結果から、P(リン)由来のピークに対するMg(マグネシウム)由来のピークの強度比率(Mg/P)をもとめた。P由来のピークは100〜120eVに位置し、Mg由来のピークは40〜60eVに位置している。各個所でのオージェスペクトルのピーク強度比率(Mg/P)を図1の表に示した。
【0051】
同表に示すように、スペクトル44と53の部分は添加剤Aの中心部分に近く、オージェスペクトルのピーク強度比率(Mg/P)は低かった。スペクトル44と53の部分には、リチウムリン化合物が主として形成されていると考えられる。スペクトル44と53よりも粒子表面に近いスペクトル45では、上記ピーク強度比率(Mg/P)が大きくなった。
【0052】
スペクトル54と57は、添加剤Aの表面付近に位置しており、ピーク強度比率(Mg/P)は更に大きくなり、1以上となった。スペクトル54と57の部分では、導電性の高いMgOやリン酸化合物中にMg−Oユニットが形成されていると考えられる。このように、オージェスペクトルのピーク強度比率(Mg/P)は、表面付近で高く、中央部分に向けて少なくなっていた。添加剤Aの外部では、ピーク強度比率は0(ゼロ)であった。
【0053】
図2は、正極の中で図1と同じ部分のリン分析マップを示し、図3は、正極の中で図1と同じ部分のマグネシウムマップを示す。図2図3に示すように、リンは、添加剤Aの中に均一に分布しており、マグネシウムは、添加剤Aの外層に多く分布していた。
【0054】
以上のことから、添加剤の中では、LiOHと、Mg(NOと、リン酸水素アンモニウムとの混合及び焼成により、リン酸リチウムとリン酸マグネシウムが混在したリン酸リチウムマグネシウムが形成されていると考えられる。図2に示すように、添加剤Aの中でリンは均一に分布している。各正極のオージェスペクトルのピーク強度比率(Mg/P)では、分母のPのピーク強度がほぼ均一である。当該ピーク強度比率の数値の差異は、分子のMgのピーク強度の差異を反映している。添加剤Aの外層の当該強度比率は、内部よりも高いため、外層のMgモル濃度は、内部のMgモル濃度よりも高いことがわかった。添加剤Aの外層では、内部に比べて、Mgモル濃度が高い半面、Liモル濃度が低いと推定される。
【0055】
(比較例1)
LiOHを用いない点を除いて、添加剤Aの製造方法と同様に添加剤を調製した。即ち、マグネシウム塩としてのMg(NOを含む水溶液と、リン酸塩としてのリン酸水素アンモニウム(NHHPOを含む水溶液とを混合して、混合水溶液を調製した。混合水溶液の中のMg(NOとリン酸水素アンモニウムとのモル比率は、3:2とした。混合後には、添加剤Aと同様に濾過処理及び乾燥して添加剤を得た。得られた添加剤は添加剤Bと称する。
【0056】
この添加剤Bを用いて実施例1と同様に正極を作製した。
【0057】
添加剤Bは、LiOHを含まないので、添加剤Bの粉末には、Mg(POが均一に分布している。
【0058】
添加剤Aを含む正極(実施例1)と、添加剤Bを含む正極(比較例1)について、SEM断面写真を撮影した。実施例1のSEM断面写真を図4に示し、比較例1のSEM断面写真を図5に示した。図4図5に示すように、添加剤A、Bは、いずれも正極活物質よりも大きかった。図4に示した添加剤Aの大きさは約15μmであり、図5に示した添加剤Bの大きさは約10μmであった。添加剤Aの平均粒径をtとし、集電体表面に形成された。
【0059】
図4において、正極の中の添加剤Aの中のA−1(外層)、A−2(内部)、A−3(外層)の3か所について、上記と同様にオージェ電子分光分析を行い、各個所のオージェスペクトルを図6に示した。図6の上図、中図、下図は、図4の中のA−1、A−2、A−3でのオージェスペクトルを示す。図5において、正極の中の添加剤Bの中のB−1(外層)、B−2(外層)、B−3(内部)の3か所について、上記と同様にオージェ電子分光分析を行い、各個所のオージェスペクトルを図7に示した。図7の上図、中図、下図は、図5の中のB−1、B−2、B−3でのオージェスペクトルを示す。各図において、Mg由来のピーク位置と、P由来のピーク位置とを四角枠で囲んだ。
【0060】
上記の各種分析の結果から、添加剤Aを有する正極(実施例1)及び添加剤Bを有する正極(比較例1)の断面のモデル図を、図8図9に示した。図8に示すように、正極の中では、添加剤A、正極活物質、導電助剤は、いずれも粒子状を呈しており、添加剤Aは、正極活物質よりも大きい。添加剤Aの外層は内部よりもMg濃度が高い。一方、図9に示すように、比較例1の正極に含まれる添加剤Bの中では、Mg濃度は均一である。
【0061】
(比較例2)
比較例2では、添加剤を添加することなく正極を作製した。その他は、実施例1と同様である。
【0062】
<電気的特性の評価>
実施例1及び比較例1、2の正極を用いてリチウムイオン二次電池を作製した。負極は、カーボンからなる負極活物質をもつ負極合材と、集電体としての銅箔とを備えている。
【0063】
電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とからなる混合溶媒と、リチウム塩としてのLiPFとからなる。電解液の中のLiPF濃度は、1mol/Lである。セパレータは、ポリプロピレン膜からなる。収容体は、アルミニウム製のラミネートフィルムからなる。
【0064】
作製したリチウムイオン二次電池の劣化試験を行った。劣化試験の条件は、4.5Vから3.0Vまで電圧範囲で充電、0.3C、CC(定電流)の条件の放電を100回繰り返した。劣化試験は、室温と60℃で行った。劣化試験前と劣化試験後の放電容量を測定した。劣化試験前の放電容量(初期容量)に対する劣化試験後の放電容量(劣化後容量)の比率をもとめ、これを容量維持率とした。これらの結果を図10に示した。表1には、室温での各電池の容量維持率を示した。
【0065】
表1及び図10に示すように、初期容量については、実施例1は比較例1,2よりも高かった。一方、劣化試験後では、実施例1及び比較例1は比較例2よりも容量及び容量維持率ともに高かった。特に、図10に示す実施例1の高温(60℃)での容量維持率が、比較例1,2に比べて高かった。
【0066】
また、上記の室温での劣化試験の前と後の正極の抵抗値を測定した。抵抗値の測定ではインピーダンスアナライザー(50Hz)を用いた。初期抵抗値に対する室温での劣化試験後の抵抗値の比率をもとめ、これを抵抗値増加率とした。測定結果を、表2及び図11に示した。
【0067】
正極の抵抗値の測定結果から、初期容量については実施例1は比較例1,2よりも抵抗値が高かった。しかし、劣化試験後では、実施例1は比較例1,2に比べて抵抗値が低く、抵抗値増加率が低かった。
【0068】
これらの電気的特性の評価結果から、劣化試験前の初期の状態では、添加剤Aを含む正極を備えた電池(実施例1)では、添加剤を添加していない比較例2よりも若干抵抗値が増加しているにもかかわらず、初期容量は増加した。添加剤Aは、リチウム拡散性に優れているので、初期容量は増加している。しかし、電極内の電気抵抗は増加しているため、インピーダンスは3.1Ωから4.0Ωとわずかに増加していると考えられる。
【0069】
一方、100サイクル劣化試験後の抵抗値と、試験前後の抵抗値増加率で比較すると、添加剤Aを有する正極(実施例1)を備えた電池の抵抗値増加は大幅に抑制されている。添加剤無添加の比較例2の場合の抵抗値増加率は90%と高いが、実施例1の電池の抵抗値増加率は28%とかなり低い。一般には、添加剤を含まない比較例2のように、4.5V駆動という高電圧下で、リチウムイオンの伝導パスの分解による劣化が生じる。しかし、添加剤Aを含む正極を備えた電池では、リチウムイオンの伝導パスの劣化が大きく抑制されていることがわかった。添加剤Aを含む正極を備えた電池では、このような効果が、室温と60℃での劣化試験時での容量維持率の増加に反映されていると考えられる。
【0070】
添加剤Bを有する正極(比較例1)を備えた電池でも、添加剤を添加していない比較例2に比べると容量維持率が増加している。しかし、添加剤Bは、添加剤Aを含む正極(実施例1)に比べると、容量維持率は低い。この違いは、明らかに、添加剤AとBの差異に基づく。添加剤Aは、LiとMgが混在した状態のリン化合物となっており、更に表層にMg−O(酸化マグネシウム)が多く存在している。Mg−OはMg−P−O(リン酸マグネシウム)よりも電子伝導性が低いが、リチウムイオン伝導性が高い。このため、添加剤Aの表層のMg−Oは、正極のイオン伝導性を高め、且つイオン伝導パス劣化を抑制していると考えられる。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11