(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135719
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/14 20060101AFI20170522BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20170522BHJP
B60C 3/06 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
B60C5/14 Z
B60C5/00 H
B60C5/14 A
B60C3/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-155832(P2015-155832)
(22)【出願日】2015年8月6日
(65)【公開番号】特開2017-30697(P2017-30697A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敬大
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−279974(JP,A)
【文献】
特開2002−178714(JP,A)
【文献】
特開平05−092708(JP,A)
【文献】
特開2011−255786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/14
B60C 5/00
B60C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対する装着方向が指定され、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における該カーカス層の外周側にベルト層が配置される一方で、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面にインナーライナー層が配置され、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記トレッド部のセンター領域を除くタイヤ幅方向両側の領域にそれぞれ部分タイゴム層を選択的に配置した空気入りタイヤにおいて、
各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置し、前記部分タイゴム層のうち車両内側に配置される内側タイゴム層と前記部分タイゴム層のうち車両外側に配置される外側タイゴム層とでゴム厚さを異ならせ、前記内側タイゴム層のゴム厚さt1を0.5mm〜0.8mmとし、前記外側タイゴム層のゴム厚さt2を0.7mm〜1.0mmとし、前記外側タイゴム層のゴム厚さt2を前記内側タイゴム層のゴム厚さt1の120%〜200%にしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記内側タイゴム層と前記外側タイゴム層とでペリフェリ長さを異ならせ、前記外側タイゴム層のペリフェリ長さx2と前記内側タイゴム層のペリフェリ長さx1との差Δxを5mm以上かつビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXの0.25倍以下にしたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記内側タイゴム層と前記外側タイゴム層とでゴム硬度を異ならせ、前記外側タイゴム層のゴム硬度h2を前記内側タイゴム層のゴム硬度h1の105%〜150%にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
車両に対する装着方向が指定され、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における該カーカス層の外周側にベルト層が配置される一方で、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面にインナーライナー層が配置され、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記トレッド部のセンター領域を除くタイヤ幅方向両側の領域にそれぞれ部分タイゴム層を選択的に配置した空気入りタイヤにおいて、
各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置し、前記部分タイゴム層のうち車両内側に配置される内側タイゴム層と前記部分タイゴム層のうち車両外側に配置される外側タイゴム層とでペリフェリ長さを異ならせ、前記内側タイゴム層のペリフェリ長さx1を40mm〜70mmとし、前記外側タイゴム層のペリフェリ長さx2を50mm〜80mmとし、前記外側タイゴム層のペリフェリ長さx2と前記内側タイゴム層のペリフェリ長さx1との差Δxを5mm以上かつビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さXの0.25倍以下にしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記内側タイゴム層と前記外側タイゴム層とでゴム硬度を異ならせ、前記外側タイゴム層のゴム硬度h2を前記内側タイゴム層のゴム硬度h1の105%〜150%にしたことを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
車両に対する装着方向が指定され、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における該カーカス層の外周側にベルト層が配置される一方で、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面にインナーライナー層が配置され、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記トレッド部のセンター領域を除くタイヤ幅方向両側の領域にそれぞれ部分タイゴム層を選択的に配置した空気入りタイヤにおいて、
各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置し、前記部分タイゴム層のうち車両内側に配置される内側タイゴム層と前記部分タイゴム層のうち車両外側に配置される外側タイゴム層とでゴム硬度を異ならせ、前記内側タイゴム層のゴム硬度h1を55〜65とし、前記外側タイゴム層のゴム硬度h2を70〜90とし、前記外側タイゴム層のゴム硬度h2を前記内側タイゴム層のゴム硬度h1の105%〜150%にしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーカス層とインナーライナー層との層間の一部に選択的に配置される部分タイゴム層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ドライ路面における操縦安定性を維持しながら、タイヤ重量および転がり抵抗を低減することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤでは、一般的に、タイヤ製造時に未加硫タイヤをインフレートする際に、カーカスコードがインナーライナー層に喰い込むことを防止するために、カーカス層とインナーライナー層との層間にタイゴム層が配置される。このようなタイゴム層に関して、近年、タイヤ重量や転がり抵抗の低減を図るために、カーカス層とインナーライナー層との層間の全域ではなく一部に選択的に配置された部分タイゴム層を採用することが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このような部分タイゴム層は、少なくともショルダー領域(湾曲が大きいためインフレート時にカーカスコードの喰い込みが発生し易い部位)に配置することで、カーカス層とインナーライナー層との層間の全域に配置される従来のタイゴム層(フルタイゴム層)と比較して充分な効果を得ることができる。
【0003】
しかしながら、単純にフルタイゴム層の一部を取り除いて部分タイゴム層としただけでは、フルタイゴム層を採用した従来のタイヤよりも剛性が低下してドライ路面における操縦安定性能(ドライ操縦安定性)を充分に維持することが難しいという問題があった。そのため、部分タイゴム層によってタイヤ重量および転がり抵抗を低減するにあたって、ドライ操縦安定性能の低下を防止するための更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5239507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、カーカス層とインナーライナー層との層間の一部に選択的に配置される部分タイゴム層を備えた空気入りタイヤであって、ドライ路面における操縦安定性を維持しながら、タイヤ重量および転がり抵抗を低減することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための第一の発明の空気入りタイヤは、車両に対する装着方向が指定され、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における該カーカス層の外周側にベルト層が配置される一方で、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面にインナーライナー層が配置され、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記トレッド部のセンター領域を除くタイヤ幅方向両側の領域にそれぞれ部分タイゴム層を選択的に配置した空気入りタイヤにおいて、各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置し、前記部分タイゴム層のうち車両内側に配置される内側タイゴム層と前記部分タイゴム層のうち車両外側に配置される外側タイゴム層とでゴム厚さを異ならせ、
前記内側タイゴム層のゴム厚さt1を0.5mm〜0.8mmとし、前記外側タイゴム層のゴム厚さt2を0.7mm〜1.0mmとし、前記外側タイゴム層のゴム厚さt2を前記内側タイゴム層のゴム厚さt1の120%〜200%にしたことを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するための第二の発明の空気入りタイヤは、車両に対する装着方向が指定され、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における該カーカス層の外周側にベルト層が配置される一方で、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面にインナーライナー層が配置され、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記トレッド部のセンター領域を除くタイヤ幅方向両側の領域にそれぞれ部分タイゴム層を選択的に配置した空気入りタイヤにおいて、各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置し、前記部分タイゴム層のうち車両内側に配置される内側タイゴム層と前記部分タイゴム層のうち車両外側に配置される外側タイゴム層とでペリフェリ長さを異ならせ、
前記内側タイゴム層のペリフェリ長さx1を40mm〜70mmとし、前記外側タイゴム層のペリフェリ長さx2を50mm〜80mmとし、前記外側タイゴム層のペリフェリ長さx2と前記内側タイゴム層のペリフェリ長さx1との差Δxを5mm以上かつビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面に沿ったペリフェリ長さXの0.25倍以下にしたことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するための第三の発明の空気入りタイヤは、車両に対する装着方向が指定され、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部における該カーカス層の外周側にベルト層が配置される一方で、前記カーカス層に沿ってタイヤ内面にインナーライナー層が配置され、前記カーカス層と前記インナーライナー層との層間であって、前記トレッド部のセンター領域を除くタイヤ幅方向両側の領域にそれぞれ部分タイゴム層を選択的に配置した空気入りタイヤにおいて、各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部をそれぞれ前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置し、前記部分タイゴム層のうち車両内側に配置される内側タイゴム層と前記部分タイゴム層のうち車両外側に配置される外側タイゴム層とでゴム硬度を異ならせ、
前記内側タイゴム層のゴム硬度h1を55〜65とし、前記外側タイゴム層のゴム硬度h2を70〜90とし、前記外側タイゴム層のゴム硬度h2を前記内側タイゴム層のゴム硬度h1の105%〜150%にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、部分タイゴム層を採用しているため、フルタイゴム層を有する従来の空気入りタイヤに比べてタイヤ重量および転がり抵抗を低減することができる。このとき、車両内側に配置される内側タイゴム層と車両外側に配置される外側タイゴム層とで、ゴム厚さ(第一の発明)、ペリフェリ長さ(第二の発明)、またはゴム硬度(第三の発明)を異ならせて、これらを内側タイゴム層よりも外側タイゴム層で大きくすることで、車両外側のサイドウォール部の剛性を高めることができ、ドライ操縦安定性を高度に維持することができる。
【0010】
第一の発明、第二の発明、および第三の発明は、互いに組み合わせることができる。即ち、第一の発明(ゴム厚さを設定する場合)において、内側タイゴム層と外側タイゴム層とでペリフェリ長さを異ならせ、外側タイゴム層のペリフェリ長さx2と内側タイゴム層のペリフェリ長さx1との差Δxを5mm以上かつビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXの0.25倍以下にすることが好ましい。これにより、車両外側のサイドウォール部の剛性を更に高めることができ、ドライ操縦安定性を高めるには有利になる。尚、本発明において「ペリフェリ長さ」とは、タイヤ子午線断面において、各タイヤ構成要素(外側タイゴム層、内側タイゴム層、タイヤ内面)の延長方向に沿って測定される長さである。
【0011】
また、第一の発明(ゴム厚さを設定する場合)または第二の発明(ペリフェリ長さを設定する場合)において、内側タイゴム層と外側タイゴム層とでゴム硬度を異ならせ、外側タイゴム層のゴム硬度h2を内側タイゴム層のゴム硬度h1の105%〜150%にすることが好ましい。これにより、車両外側のサイドウォール部の剛性を更に高めることができ、ドライ操縦安定性を高めるには有利になる。尚、本発明において「ゴム硬度」とは、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度23℃で測定する硬さ(所謂、JIS‐A硬度)である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図4】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1〜3に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、
図1〜3において、CLはタイヤ赤道を示す。この空気入りタイヤは、車両に対する装着方向が指定されている。具体的には、図のIN側が車両に装着する際に車両に対して内側にするように指定された側(以下、車両内側という)であり、図のOUT側が車両に装着する際に車両に対して外側にするように指定された側(以下、車両外側という)である。
【0015】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1〜3では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0016】
また、タイヤ内面にはインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成され、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防いでいる。
【0017】
このようなインナーライナー層9とカーカス層4との間には部分タイゴム層10が配置されている。部分タイゴム層10は、タイヤ製造時に未加硫の空気入りタイヤをインフレートする際にカーカスコードがインナーライナー層9に喰い込むことを防止するための層であるが、従来のタイゴム層のようにカーカス層4とインナーライナー層9との層間の全域を覆うものではなく、トレッド部1のセンター領域とビード部3とを除く領域に選択的に設けられる。即ち、
図1に示すように、トレッド部1のショルダー領域とサイドウォール部2とからなるタイヤ赤道CLのタイヤ幅方向両側の領域内にそれぞれ部分タイゴム層10が設けられている。具体的には、各部分タイゴム層10のタイヤ赤道CL側の端部は、ベルト層7のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に10mm〜25mmの範囲に配置されている。言い換えれば、各部分タイゴム層10のタイヤ赤道CL側の端部とベルト層7のタイヤ幅方向最外側の端部とのタイヤ幅方向の距離Lが10mm〜25mmに設定されている。一方、各部分タイゴム層10のビード部3側の端部は、ビードコア5よりもトレッド部1側に配置されている。
【0018】
このように、部分タイゴム層10は特定の領域に選択的に設けられているので、タイゴム層としての機能を維持しながら、カーカス層4とインナーライナー層9との層間の全域を覆う従来のタイゴム層(フルタイゴム層)を有する空気入りタイヤに比べてタイヤ重量を軽減し、かつ転がり抵抗を低減することができる。このとき、部分タイゴム層10のタイヤ赤道CL側の端部が、上述の範囲よりもタイヤ赤道CL側に配置されると、部分タイゴム層10の量が増えるため、タイヤ重量および転がり抵抗を充分に低減することができない。部分タイゴム層10のタイヤ赤道CL側の端部が、上述の範囲よりもタイヤ幅方向外側に配置されると、インフレート時のインナーライナー層9に対するカーカスコードの喰い込みを充分に防止することができない。
【0019】
このとき、本発明では、一対の部分タイゴム層10のうち、車両内側に配置される内側タイゴム層11と車両外側に配置される外側タイゴム層12とで構造(寸法)や物性を異ならせることで、車両外側のサイドウォール部の剛性を高めて、ドライ操縦安定性能が従来のフルタイゴム層を有する空気入りタイヤよりも低下することを防止している。即ち、従来のフルタイゴム層を有する空気入りタイヤと同等以上の優れたドライ操縦安定性を得るようにしている。
【0020】
まず、
図1の実施形態では、内側タイゴム層11と外側タイゴム層12とでゴム厚さを異ならせている。具体的には、外側タイゴム層12のゴム厚さt2を内側タイゴム層11のゴム厚さt1よりも大きくし、外側タイゴム層12のゴム厚さt2を内側タイゴム層11のゴム厚さt1の120%〜200%に設定している。このとき、ゴム厚さt2がゴム厚さt1の120%よりも小さいと、外側タイゴム層12が充分に厚くならず、車両外側のサイドウォール部を適切に補強して剛性を高めることができず、ドライ操縦安定性能を良好にすることができない。ゴム厚さt2がゴム厚さt1の200%よりも大きいと、タイヤ重量の軽減効果が低下する。また、タイヤ製造時にタイヤ構成部材を積層する際にタイゴム層が存在する部位と存在しない部位とで段差が大きくなり、好適なタイヤ形状に成形することが難しくなる。
【0021】
内側タイゴム層11および外側タイゴム層12のゴム厚さt1,t2が上述の関係を満たしていても、各タイゴム層が著しく薄いとタイゴム層による補強効果が充分に見込めず、著しく厚いとタイヤ重量の低減効果が充分に見込めないため、内側タイゴム層11のゴム厚さt1を例えば0.5mm〜0.8mm、外側タイゴム層12のゴム厚さt2を例えば0.7mm〜1.0mmにするとよい。
【0022】
尚、図示の例ではタイゴム層は端部に向かって厚さが減少する先細り形状を有しているが、このような場合、ゴム厚さt1,t2は、例えば子午線断面における内側タイゴム層11または外側タイゴム層12の断面積を、それぞれ内側タイゴム層11または外側タイゴム層12のペリフェリ長さで除して得た平均厚さとして求めるとよい。
【0023】
次に、
図2の実施形態では、内側タイゴム層11と外側タイゴム層12とでペリフェリ長さを異ならせている。具体的には、外側タイゴム層12のペリフェリ長さx2を内側タイゴム層11のペリフェリ長さx1よりも大きくし、これらペリフェリ長さx1とペリフェリ長さx2との差Δx(=x2−x1)を5mm以上、かつビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXの0.25倍以下に設定している。このとき、差Δxが5mmよりも小さいと、外側タイゴム層12が充分に長くならず、車両外側のサイドウォール部2を適切に補強して剛性を高めることができず、ドライ操縦安定性能を良好にすることができない。差Δxがペリフェリ長さXの0.25倍よりも大きいと、タイヤ重量の軽減効果が低下する。また、外側タイゴム層12がビード部3の近傍まで延在することになり、車両外側のサイドウォール部2はビード部3の近傍まで剛性が高まり、リムに対する嵌合性が低下する(車両内側と車両外側とでリムに対する嵌合性の差が生じる)。
【0024】
内側タイゴム層11および外側タイゴム層12のペリフェリ長さx1,x2が上述の関係を満たしていても、各タイゴム層が著しく短いとタイゴム層による補強効果が充分に見込めず、著しく長いとタイヤ重量の低減効果が充分に見込めないため、内側タイゴム層11のペリフェリ長さx1を例えば40mm〜70mm、外側タイゴム層12のペリフェリ長さx2を例えば50mm〜80mmにするとよい。
【0025】
更に、
図3の実施形態では、内側タイゴム層11と外側タイゴム層12とでゴム硬度を異ならせている。具体的には、外側タイゴム層12のゴム硬度h2を内側タイゴム層11のゴム硬度h1よりも大きくし、外側タイゴム層12のゴム硬度h2を内側タイゴム層11のゴム硬度h1の105%〜150%に設定している。このとき、ゴム硬度h2がゴム硬度h1の105%よりも小さいと、外側タイゴム層12が充分に硬くならず、車両外側のサイドウォール部2を適切に補強して剛性を高めることができず、ドライ操縦安定性能を良好にすることができない。ゴム硬度h2がゴム硬度h1の150%よりも大きいと、転がり抵抗への影響が大きくなり、転がり抵抗の充分な低減が見込めなくなる。また、加工性やコストが悪化する。
【0026】
内側タイゴム層11および外側タイゴム層12のゴム硬度h1,h2が上述の関係を満たしていても、各タイゴム層が著しく低硬度であるとタイゴム層による補強効果が充分に見込めず、著しく高硬度であると転がり抵抗の充分な低減が見込めないため、内側タイゴム層11のゴム硬度h1を55〜65、外側タイゴム層12のゴム硬度h2を例えば70〜90にするとよい。
【0027】
図1〜3の実施形態では、内側タイゴム層11と外側タイゴム層12とで、ゴム厚さ(
図1)、ペリフェリ長さ(
図2)、ゴム硬度(
図3)のいずれかを単独で異ならせていたが、これらのうち2つ以上のパラメータを同時に異ならせてもよい。このように2つ以上のパラメータを同時に異ならせることで、車両外側のサイドウォール部2の補強効果を高めて、効果的にドライ操縦安定性を向上することができる。
【0028】
例えば、
図4に示すように、内側タイゴム層11と外側タイゴム層12とでゴム厚さおよびペリフェリ長さを異ならせることができる。この場合、外側タイゴム層12のゴム厚さt2およびペリフェリ長さx2がそれぞれ内側タイゴム層11のゴム厚さt1およびペリフェリ長さx2よりも大きく、ゴム厚さt1,t2とペリフェリ長さx1,x2とがそれぞれ上述の関係を満たしている。また、
図1,2,4の構造において、更に内側タイゴム層11および外側タイゴム層12のゴム硬度h1,h2を上述の関係を満たすように設定することもできる。
【0029】
このように2つ以上のパラメータを組み合わせる場合、各パラメータのタイヤ重量、転がり抵抗、またはドライ操縦安定性能への影響の大きさが異なることや、相乗効果による本来のタイヤ性能への影響を考慮して、各パラメータの範囲を設定することが好ましい。即ち、ゴム厚さとペリフェリ長さとを組み合わせる場合、外側タイゴム層12のゴム厚さt2を内側タイゴム層11のゴム厚さt1の140%〜160%に設定し、外側タイゴム層12のペリフェリ長さx2と内側タイゴム層11のペリフェリ長さx1との差Δxをビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXの0.025倍〜0.250倍に設定することが好ましい。または、ゴム厚さとゴム硬度とを組み合わせる場合、外側タイゴム層12のゴム厚さt2を内側タイゴム層11のゴム厚さt1の140%〜160%に設定し、外側タイゴム層12のゴム硬度h2を内側タイゴム層11のゴム硬度h1の105%〜150%に設定することが好ましい。もしくは、ペリフェリ長さとゴム硬度とを組み合わせる場合、外側タイゴム層12のペリフェリ長さx2と内側タイゴム層11のペリフェリ長さx1との差Δxをビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXの0.05倍〜0.20倍に設定し、外側タイゴム層12のゴム硬度h2を内側タイゴム層11のゴム硬度h1の105%〜150%に設定することが好ましい。或いは、ゴム厚さとペリフェリ長さとゴム硬度の全てを組み合わせる場合、外側タイゴム層12のゴム厚さt2を内側タイゴム層11のゴム厚さt1の120%〜180%に設定し、外側タイゴム層12のペリフェリ長さx2と内側タイゴム層11のペリフェリ長さx1との差Δxをビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXの0.08倍〜0.15倍に設定し、かつ、外側タイゴム層12のゴム硬度h2を内側タイゴム層11のゴム硬度h1の120%〜150%に設定することが好ましい。
【実施例】
【0030】
タイヤサイズが195/65R15であり、
図1〜4に共通する基本構造を有し、部分タイゴム層について、内側タイゴム層のゴム厚さt1、外側タイゴム層のゴム厚さt2、ゴム厚さt1に対するゴム厚さt2の割合(t2/t1×100)、内側タイゴム層のペリフェリ長さx1、外側タイゴム層のペリフェリ長さx2、内側タイゴム層のペリフェリ長さx1と外側タイゴム層のペリフェリ長さx2との差Δx、ビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXに対するペリフェリ長さの差Δxの割合、内側タイゴム層のゴム硬度h1、外側タイゴム層のゴム硬度h2、ゴム硬度h1に対するゴム硬度h2の割合(h2/h1×100)をそれぞれ表1〜3のように設定した従来例1、比較例1〜7、実施例1〜37の45種類の空気入りタイヤを作製した。
【0031】
尚、従来例1は、フルタイゴム層が設けられた例である。このフルタイゴム層のゴム厚さは0.5mm、ゴム硬度は60であり、ペリフェリ長さはビードトウからタイヤ赤道までのタイヤ内面のペリフェリ長さXと一致する。
【0032】
比較例1〜7および実施例1〜37のすべてにおいて、各部分タイゴム層のタイヤ赤道側の端部はベルト層のタイヤ幅方向最外側の端部からタイヤ幅方向内側に20mmの位置に配置されている。
【0033】
これら45種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ重量、転がり抵抗、ドライ操縦安定性能を評価し、その結果を表1〜3に併せて示した。
【0034】
タイヤ重量
各試験タイヤの重量を測定した。評価結果は、従来例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ重量が小さいことを意味する。尚、指数値が「99」以上であれば、従来レベルを維持して充分なドライ操縦安定性が得られたことを意味する。
【0035】
転がり抵抗
各試験タイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付け、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、空気圧210kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、従来例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低いことを意味する。
【0036】
ドライ操縦安定性能
各試験タイヤをリムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧を210kPaとして排気量1.5Lの試験車両に装着し、乾燥路面からなるテストコースにて、テストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどドライ操縦安定性に優れることを意味する。尚、この指数値が「95」以上であれば、従来レベルを維持して充分なドライ操縦安定性が得られたことを意味する。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表1〜3から明らかなように、実施例1〜37はいずれも、従来例1に対して、ドライ操縦安定性能を維持しながらタイヤ重量および転がり抵抗を低減した。特に、ゴム厚さ、ペリフェリ長さ、ゴム硬度のうち2つ以上のパラメータを好適範囲に設定した実施例10〜30は、タイヤ重量および転がり抵抗を低減しながら、ドライ操縦安定性能を従来例1よりも向上した。
【0041】
一方、比較例1は、部分タイゴム層を有するものの、内側タイゴム層と外側タイゴム層とが同一であるのでドライ操縦安定性能が従来例1よりも低下した。比較例2〜3は、外側タイゴム層が内側タイゴム層に対して厚過ぎるため、タイヤ重量および転がり抵抗を低減することができなかった。比較例4は、外側タイゴム層が内側タイゴム層に対して充分に長くないため、ドライ操縦安定性能を維持することができなかった。比較例5は、外側タイゴム層が内側タイゴム層に対して長すぎてビード部近傍まで到達するため、タイヤ重量および転がり抵抗を低減することができなかった。比較例6は、外側タイゴム層が内側タイゴム層に対して充分に高硬度でないため、ドライ操縦安定性能を維持することができなかった。比較例7は、外側タイゴム層が内側タイゴム層に対して著しく高硬度であるため、転がり抵抗を低減することができず、転がり抵抗が従来例1と同程度になった。
【符号の説明】
【0042】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 部分タイゴム層
11 内側タイゴム層
12 外側タイゴム層
CL タイヤ赤道