(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記血液流路の断面形状は、断面外周縁の最上位点である頂点を有し、前記頂点の両側において、前記断面外周縁の接線の方向が前記頂点から見て下方に向かって傾斜している請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルタ内蔵型人工肺。
【背景技術】
【0002】
心臓手術においては、患者の心臓を停止させ、その間の呼吸及び血液循環機能を代行するために、体外血液循環用の人工心肺回路が用いられる。人工心肺回路の要部を構成する人工肺は、患者の肺に代わって血液に対するガス交換機能(血液に酸素を供給し、二酸化炭素を排出させる機能)を提供するものである。人工肺の構造としては、中空糸膜型人工肺が広く用いられている。
【0003】
中空糸膜型人工肺は、酸素を含むガスと血液を多孔質中空糸膜を介在させて流動させ、血液とガスとの間でガス交換が行われるように構成される。すなわち、多数本の中空糸膜を積層した中空糸膜積層体をハウジング内に収納し、中空糸膜積層体を横切って通過する血液流路を形成する。中空糸膜中に酸素含有ガスを流し、血液流路を流れる血液が各中空糸膜の間の隙間を通過するときに、中空糸膜を通してガス交換、すなわち酸素加、脱炭酸ガスが行われる。
【0004】
一方、人工肺を使用する場合は、予め、血液回路から気泡や異物を除去し、また、ガス交換部の中空糸膜を液体と馴染ませるために、生理食塩水等のプライミング液によるプライミングを行った後に血液循環に供される。プライミングの際に発生した気泡や混入した異物を除去するために、血液フィルタ装置が用いられる。また、プライミングを行った後も、血液循環中の血液に異物や血栓が混入することがあるため、人工心肺回路には、血液フィルタ装置が組み込まれる場合が多い。
【0005】
血液フィルタ装置は、一般的には、シート状濾材を折り畳み、あるいは巻回して構成されたフィルタをハウジング内に内蔵し、そのハウジング内を血液の流路として、血液が濾材を通過する際に血栓等の異物や気泡を捕捉し排出するように構成される。一方、血液フィルタ装置を独立して設けずに、人工肺に内蔵し一体化して人工心肺回路を簡素化し、また接続チューブの短縮等による血液充填量を低減する構成も知られている。
【0006】
中空糸膜型人工肺に血液フィルタの機能を一体的に設けた構成の一例が、例えば、特許文献1に開示されている。
図13は、特許文献1の第1実施形態の人工肺を示す断面図である。この人工肺は、ハウジング101内に構成されたガス交換部100Aと、熱交換器ハウジング102内に構成された熱交換部100Bとを備えている。流入する血液は、先ず熱交換器100Bに流入し、次にガス交換部100Aを通過して流出する。
【0007】
熱交換部100Bのハウジング102の下端には、冷温水ポート103(他方の冷温水ポートは隠れている)が形成されている。また、ハウジング102の左側の下部には、血液導入ポート104が形成されている。ハウジング102の内部には、筒状を成す熱交換体105と、熱交換体105の内周に沿って配置された円筒状の熱媒体室形成部材(円筒壁)106とが設置されている。冷温水ポート103より流入した熱媒体は、熱交換体105の蛇腹の多数の凹部に入り、熱交換体105の外周側を流れる血液との間で熱交換が行われる。
【0008】
ハウジング101には、血液流出側の側面下部に血液導出ポート107が形成され、上部にガスポート108が形成され、下部には、ガスポート109及び排気ポート110が形成されている。ハウジング101の内部には、中空糸膜層111と、気泡除去手段(フィルタ部材112および排気用中空糸膜層113からなる)が収納されている。中空糸膜層111の中空糸膜の上下端部は、それぞれ、ポッティング材からなる隔壁114、115により固定されている。これにより、隔壁114と隔壁115との間における中空糸膜層111、排気用中空糸膜層113及びフィルタ部材112を通過する血液流路が形成されている。隔壁114の上部及び隔壁115の下部の空間は、仕切部116、117により区分されている。
【0009】
排気用中空糸膜層113は中空糸膜を多数本集積して構成され、フィルタ部材112で捕捉された気泡を構成する気体を透過し排出する機能を有する。フィルタ部材112は、ほぼ長方形をなす平坦なシート状の部材で構成され、排気用中空糸膜層113の下流側の面に接して設けられ、当該面のほぼ全面を覆っている。フィルタ部材112により、血液流路を流れる血液中の気泡を捕捉して、血液導出ポート107から流出することを防止する。フィルタ部材112により捕捉された気泡は、排気用中空糸膜層113、及び排気ポート110を通して血液流路から排出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された人工肺では、大量のエアが混入した場合、排気用中空糸膜層113からの排出が間に合わず、フィルタ部材112を通過して血液導出ポート107へ流れてしまう惧れがある。また、フィルタ部材112の有効面積全体が排気用中空糸膜層113と接している必要があるため、フィルタ形状に制約があり、十分なフィルタ面積を確保しにくい(実質的に不可能)問題がある。
【0012】
すなわち、特許文献1の記載では、人工肺のフィルタ部材112はシート状のものを2枚以上重ねて用いてもよいとされているが、血液流路に対して順次配列され、血液は2枚以上重ねられた各シートを順次通過するように構成される。従って、特許文献1のフィルタ部材112は、排気用中空糸膜層113の下流側の面のほぼ全面を覆っているとは言え、血液流に対するフィルタ部材112の最大膜面積は、血液流路の断面積を上限とする。このため、フィルタ膜面積を十分に大きく取ることが困難である。
【0013】
フィルタ部材の膜面積を大きくすることは、気泡を捕捉する能力を十分に発揮するために有利である。すなわち、十分な膜面積があることは、流路の横断面積が大きいことに相当し、膜面に対する血液の流速を実質的に低下させ、気液分離が容易になる。また、十分な膜面積があれば、一部に目詰まりが生じたとしても、全体として、血液の流れに対する影響を軽減できる。但し、人工肺への血液充填量を低く抑制するために、血液流路の断面積を増大させないことが必要である。
【0014】
一方、大きなフィルタ膜面積を機能させて十分な気泡捕捉能力を持たせた上で、捕捉した気泡を外部に効果的に排出できることが、血液から気泡を除去する能力を十分に発揮させるために必要である。
【0015】
従って本発明は、血液充填量を低く抑制しながら、実質的に十分大きなフィルタ膜面積を機能させ、更に、捕捉した気泡を効果的に外部に排出可能としたフィルタ内蔵型人工肺及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のフィルタ内蔵型人工肺は、互いに隣接するガス交換部およびフィルタ空間を形成するハウジングと、前記ガス交換部に装填された複数本の中空糸膜の束と、前記フィルタ空間に装填されたフィルタと、前記中空糸膜の束および前記フィルタを順次横断して通過するように設けられた血液流路と、前記中空糸膜の内腔を通して酸素を含むガスを流通させるように前記ハウジングに設けられたガスポートと、前記血液流路の両端の前記ハウジングの外壁に設けられた血液導入ポートおよび血液導出ポートと、前記フィルタ空間を外部空間と連通させる排気ポートとを備えている。
【0017】
本発明のフィルタ内蔵型人工肺は、上記課題を解決するために、前記フィルタが、複数本の平行なプリーツを設けたシート状濾材により構成され、前記プリーツの方向が前記血液流路の上下方向に配向されており、前記フィルタ空間は、前記シート状濾材により前記血液導入ポート側の一次側空間と前記血液導出ポート側の二次側空間に分離され、前記排気ポートは、前記血液流路の上端部に配置され、前記一次側空間及び前記二次側空間からの排気を互いに分離して導出する排気路を有
し、前記フィルタの近傍における前記血液流路の内周壁面には、前記フィルタに近接する側の流路断面が離間した側よりも小さくなる向きに段差部が設けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明のフィルタ内蔵型人工肺の製造方法は、上記構成の人工肺を製造する方法であって、前記フィルタの外周縁部をシール材により封止して前記血液流路の一部を形成したフィルタモジュールを作製し、前記フィルタ空間に前記フィルタモジュールを装填して前記中空糸膜の束とともに前記フィルタモジュールの外周縁部を封止して前記血液流路を形成する工程を含む。
【0019】
前記フィルタモジュールを作製する工程は、前記フィルタを間に挟み込んで、その外周縁部に前記シール材による封止部を成形するための成形型を形成する一次側及び二次側マスキングブロックを用意する工程と、前記フィルタの両面側に、前記一次側及び二次側マスキングブロックを装着して組み立てる工程と、前記一次側及び二次側マスキングブロックにより前記フィルタの外周縁部に形成された成形型に前記シール材を充填し硬化させる工程と、前記シール材の硬化後、前記マスキングブロックを取り外す工程とを備える。
【0020】
前記一次側マスキングブロックは、前記一次側空間に面する前記プリーツの谷部に対応する形状の線状突起の群が基板上に設けられた構造を有し、前記線状突起の群の外周縁部の形状は、前記シール材が形成する血液流路の内壁部のうち、前記一次側空間に属する部分に対応し、前記二次側マスキングブロックは、前記二次側空間に面する前記プリーツの谷部に対応する形状の線状突起の群が基板上に設けられた構造を有し、前記線状突起の群の外周縁部の形状は、前記シール材が形成する血液流路の内壁部のうち、前記二次側空間に属する部分に対応し、前記マスキングブロックを装着する工程では、前記線状突起の各々を前記プリーツの谷部に嵌合させる。
【発明の効果】
【0021】
上記構成の人工肺によれば、複数本のプリーツを設けたことにより、血液流路の断面積による制限を受けることなく、フィルタ膜面積を十分に大きく設定可能で、しかも、プリーツを有することによる血液充填量の増大は僅かである。また、フィルタの複数本のプリーツは上下方向に配向されているので、フィルタの近傍において気泡はプリーツに沿って上昇し、容易に排気ポートに導かれて効果的に外部に排出される。さらに、排気ポートでは、一次側及び二次側空間からの気泡は互いに分離して排出されるので、高い排気能が得られる。
【0022】
また、上記構成の製造方法によれば、一次側及び二次側マスキングブロックを用いることにより、プリーツを有するフィルタの外周縁部を封止してフィルタモジュールを作製する工程を、容易に安定して行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のフィルタ内蔵型人工肺は、上記構成を基本として以下のような態様をとることができる。
【0025】
すなわち、前記排気ポートは、中空流路部材であり、前記中空流路部材の断面内を区画して互いに分離させて形成された第1及び第2排気路を含みうる。前記第1排気路は、前記一次側空間と連通し、前記第2排気路は、前記二次側空間と連通している構成とすることができる。それにより、簡単な構成で、一次側空間及び二次側空間からの排気を互いに分離して導出する排気路を設けることができる。
【0026】
また、前記フィルタの近傍における前記血液流路の内周壁面には、前記フィルタに近接する側の流路断面が離間した側よりも小さくなる向きに段差部を設けることができる。この段差部により、気泡を収集する隙間が形成され、血液流路の全周に亘って気泡が上部に収集され易くなる。
【0027】
また、前記フィルタ空間における前記血液流路は、前記フィルタの外周縁部を封止したシール材によって形成されうる。前記プリーツの上端部における前記シール材の内周壁面には、前記プリーツの谷部の各々に対応する傾斜面を形成しうる。その傾斜面の傾斜の向きは、下方へ向かうに従い当該谷部の浅部から深部に向かうように設定されうる。これにより、プリーツの谷部に沿って下方から上昇してきた気泡は、傾斜面に沿って上昇しながらフィルタから離れて、排気ポートに導入され易くなる。
【0028】
また、前記傾斜面の水平方向に対する傾斜角度は、5°〜80°の範囲内に設定することができる。この範囲であれば、気泡が抜け易く、かつ有効なフィルタ膜面積に与える影響が小さい。より好ましくは、前記傾斜角度は、20°〜60°の範囲内に設定する。
【0029】
また、前記血液流路の断面形状は、断面外周縁の最上位点である頂点を有しうる。前記頂点の両側において、前記断面外周縁の接線の方向が前記頂点から見て下方に向かって傾斜しうる。それにより、血液流路の内壁面の最上部(頂部)に設けられた排気ポートは、フィルタ空間の頂点に位置するので、上昇した気泡が集まり易く、空気排出の効果が大きい。前記血液流路の断面形状は、円形、または、一つの角を頂点として配置された菱形とすることができる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0031】
<実施の形態>
[フィルタ内蔵型人工肺の構成]
本発明の一実施の形態におけるフィルタ内蔵型人工肺の斜視図を、
図1に示す。この人工肺の側面から見た断面図を
図2に、上面から見た断面図を
図3に示す。
図4は、この人工肺に含まれるフィルタの形状を示す斜視図である。
【0032】
この人工肺では、
図2に明瞭に示されるように、ハウジング1内に熱交換部2及びガス交換部3の空間領域が形成され、それぞれ、熱交換及びガス交換のための要素が収納されている。熱交換部2及びガス交換部3が形成する内腔を水平方向に貫通して、断面が円形の血液流路4(
図2及び
図3にのみ図示)が形成されている。血液流路4の両端に対応するハウジング1の外殻壁には各々、血液導入ポート5(
図2、3参照)、および血液導出ポート6(
図1〜3参照)が設けられている。血液導入ポート5及び血液導出ポート6は、血液流路4の円形断面の中央部に開口するように配置されている。
【0033】
熱交換部2の左右端部のハウジング1の外殻壁には各々、下方に向けて、冷水または温水(冷温水)を流入、流出させるための冷温水ポート7、8が設けられている。ガス交換部3の上下端部のハウジング1の外殻壁には各々、酸素含有ガスを流入、流出させるためのガスポート9、10が設けられている。
【0034】
図2、3に示すように、熱交換部2の内部空間には、熱交換のための熱媒体(冷温水)を流通させる伝熱細管として、ステンレスパイプ11の束が管軸を水平方向に向けて装填されている。冷温水ポート7、8を介して、ステンレスパイプ11中を冷温水が流通する。ガス交換部3の内部空間には、複数本の中空糸膜12を積層して形成された中空糸膜の束が、中空糸膜12の管軸を垂直方向に向けて装填されている。ガスポート9、10を介して、酸素を含むガスが中空糸膜12の内腔を流通する。
【0035】
図2〜
図3に示すように、ハウジング1内の熱交換部2及びガス交換部3の外周縁領域は、ポリウレタン樹脂あるいはエポキシ樹脂等からなるシール材を用いて形成されたシール部材13によって封止される。このシール部材13の内部空間が血液流路4を形成している。血液流路4は、水平方向にステンレスパイプ11及び中空糸膜12の束を横断して延在している。それにより、ステンレスパイプ11及び中空糸膜12の外表面に接するように血液を流通させることができる。
【0036】
ガス交換部3の下流、すなわち、中空糸膜12の束の血液導出ポート6に面した側とハウジング1の内壁面の間には、フィルタ空間14が形成されている。フィルタ空間14には、血液流路4の横断面全体を覆ってフィルタ15が挿入されている。シール部材13は、フィルタ空間14の外周縁領域にも亘って設けられており、フィルタ15の周縁部の一部は、シール部材13中に埋設されている。
【0037】
ハウジング1の上部には、血液流路の上端部に位置するように、排気ポート16が設けられている。排気ポート16は、
図1に示すように、ハウジング1の外表面から横方向に延びた管状の部材により構成され、フィルタ空間14に位置する血液流路4の内周壁面の最上部に開口している。これにより、排気ポート16は、フィルタ空間14を外部空間と連通させて、フィルタ15が捕捉した気泡を排出するための排気路の機能を有する。以上のように配置されたフィルタ15と排気ポート16により、血液中の気泡を捕捉しハウジング1の外部へ排出するための気泡除去機能が得られる。なお、排気ポート16は管状の部材に限らず、中空流路を形成する部材であれば、どのような部材を用いていも良い。
【0038】
フィルタ15は、血液流路4を流動する血液中の異物を捕捉する機能、及び気泡を捕捉し排出する機能を有する。フィルタ15は、
図4に示すように、例えばポリエチレンテレフタレートからなるメッシュ状のシート状濾材17により構成され、複数本のプリーツ18を形成するように折り返されている。このプリーツ18は、図示したように山形に湾曲した稜線形状を有する。但し、このような湾曲した稜線形状に限らず、折り目の入った形状であっても良く、本実施の形態におけるプリーツは、いずれの場合も含む意味で用いる。
【0039】
図2、3に示されるように、複数本のプリーツ18は、血液流路4に直交する面内に配列され、プリーツ18の方向は、縦方向(上下方向)に配向されている。但し、複数本のプリーツ18は、必ずしも、血液流路4に直交する面内に配列される必要はなく、血液流路4に「交差」する面内に配列されていればよい。シート状濾材17により、フィルタ空間14が、血液導入ポート5側の一次側空間14aと血液導出ポート6側の二次側空間14bに分離されている。複数本のプリーツ18が形成する山部と谷部の繰り返しによって、一次側空間14aに接するシート状濾材17の膜面の面積は、平坦な形状のシート状濾材と比べて格段に広くなる。
【0040】
すなわち、プリーツ18を設けることにより、血液流路4の断面積による制限を解消して、フィルタ膜面積を十分に大きく設定可能となる。従って、実質的に流路の横断面積が大きいことと類似の効果が得られ、プライミング液/血液の膜面に対する流速を低下させて気液分離を容易にし、気泡を捕捉する能力を十分に発揮することができる。しかも、プリーツ18を設けたことによるフィルタ15の血液流路4方向における厚みの増大は僅かであり、血液充填量を十分に抑制することが可能である。
【0041】
フィルタ15の外周縁部は、
図5に示すように、シール材19によって封止されて、フィルタモジュール20が形成されている。なお、
図5は、
図2、3における一次側空間14aに面する側から見た図である。シール材19の内周壁面は円筒面であって、フィルタ15の領域における血液流路4を形成している。また、シール材19の血液流路4の上端領域に隣接した箇所には、排気ポート16の端部が配置されており、血液流路4の上端に開口している。
【0042】
フィルタ15は、このようなフィルタモジュール20の形態でフィルタ空間14に装填され、ステンレスパイプ11及び中空糸膜12とともにシール部材13によって封止される。フィルタモジュール20の構造の詳細、およびその機能について、
図6〜
図8を参照して説明する。
図6は、本実施の形態の人工肺の上部を概念的に示した断面図である。
図7は、人工肺のフィルタ空間14の領域を断面で示した斜視図、
図8は、
図7の一部を拡大して断面で示した斜視図である。但し、
図6〜
図8は図示の都合上、
図1、2とは逆の向き、すなわち、血液導入ポート5が左側、血液導出ポート6が右側になるように人工肺を載置した状態で描かれている。
【0043】
図6に示すように、排気ポート16は、互いに分離された第1及び第2排気路21a、21bを含む。図示された構造では、第1、第2排気路21a、21bは、1本の管状の排気ポート16内を区画して形成されているが、これに限らず、各々別の管路により構成してもよい。第1排気路21aは、その内端部が一次側空間14aに開口し、第2排気路21bは、その内端部が二次側空間14bに開口している。第1、第2排気路21a、21bの外端部は、人工肺の外部に開口している。従って、第1及び第2排気路21a、21bにより、一次側空間14a及び二次側空間14bからの排気を互いに分離して導出することができる。
【0044】
第1、第2排気路21a、21bの外端部では、1本の排気ポート16に設けた1箇所の開閉栓を開閉させる操作だけで、一次側、二次側空間14a、14bから、同時に排気するように構成してもよい。開閉栓の操作は、必要に応じて、プライミングが終了して体外血液循環を開始する際に、フィルタ空間14とハウジング1の外部との連通を遮断するために行われる。これにより、体外血液循環中に排気ポート16から血液が漏洩することを防止することができる。
【0045】
上述のとおり、フィルタ15の複数本のプリーツ18の方向は、縦方向(上下方向)に配向されている。従って、プライミング液あるいは血液中の気泡は、一次側空間14aでフィルタ15に捕捉されると、プリーツ18に沿って上昇する。そして、第1排気路21aに進入して外部に排出される。同様に、二次側空間14bでも、気泡はプリーツ18に沿って上昇し、第2排気路21bに進入して外部に排出される。
【0046】
すなわち、プリーツ18が縦方向に配向されていることにより、フィルタ15の近傍において、気泡が排気ポート16まで導かれ易くなる効果が得られる。そのため、人工肺を傾ける操作を必要とせずに、フィルタ空間14の気泡を排気ポート16に収集することが可能となる。また、一次側及び二次側空間14a、14bの気泡が、第1及び第2排気路21a、21bを通して互いに分離して排出されることにより、高い排気能が得られる。なお、排気を互いに分離することで、一次側空間14aの血液が濾過後の二次側空間14bの血液に混入する惧れを回避することが可能である。
【0047】
図7、
図8に示すように、フィルタ15の近傍における血液流路4の内周壁面には、円形断面の全周に亘って段差部22が設けられている。なお、図では、一次側空間14aに面する段差部22が示されているが、二次側空間14bに面する側にも、同様に段差部22が設けられている。段差部22は、フィルタ15に近接する側の流路断面が離間した側よりも小さくなる向きに形成されている。段差部22が設けられることにより、気泡を収集する隙間が形成され、円形の血液流路4の全周に亘って気泡が上部に収集され易くなる。
【0048】
また、シール材19は、血液流路4を形成する領域、すなわちプリーツ18の上端部において、傾斜面23a、23bを形成している。傾斜面23a、23bはプリーツ18の谷部の各々に対応し、傾斜面23aは一次側空間14a(
図8の手前側)に面した谷部18aに形成されたもの、傾斜面23bは二次側空間14bに面した谷部18bに形成されたものである。傾斜面23a、23bの傾斜の向きは、下方へ向かうに従い当該谷部の浅部から深部に向かうように設定されている。これにより、矢印で示したように、プリーツ18の谷部18aに沿って下方から上昇してきた気泡は、傾斜面23aに沿って上昇しながらフィルタ15から離れて、第1排気路21aに導入される。傾斜面23bの作用も同様である。その際、周辺部のプリーツ18に沿って上昇した気泡は、段差部22によって中央部に導かれて、第1及び第2排気路21a、21bの開口端に達する。
【0049】
傾斜面23a、23bの水平方向に対する傾斜角度は、気泡が抜け易い範囲があり、実験結果によれば、5°〜80°の範囲内に設定されていれば有効に機能する。傾斜角度が5°より小さい場合は気泡が上昇し難く、80°より大きい場合は、フィルタ膜面積として十分な有効面積を確保することが困難になる。また、20°〜60°の範囲内に設定されていれば、現実的な設計範囲としてより好ましい。
【0050】
上記構成の人工肺を使用する際には、プライミング液または血液を、血液導入ポート5から導入し、熱交換部2からガス交換部3に亘る血液流路4を通過させ、更に、フィルタ空間14を経由させて血液導出ポート6から導出する。冷温水入口ポート8から流入する熱交換液である冷水または温水は、各ステンレスパイプ11中を通過する間に、熱交換部2内の血液との間で熱交換を行う。一方、ガス入口ポート9から流入する酸素含有ガスは、各中空糸膜12中を通過する間に、ガス交換部3内の血液との間でガス交換を行う。ガス交換を終えた血液は、フィルタ空間14に達し、プライミング液/血液中に混入、発生した異物や血栓がフィルタ15によりトラップされて、気泡や異物を除去されたプライミング液/血液が、血液導出ポート6からハウジング1外に導出される。
【0051】
プライミング液/血液がフィルタ空間14を通過するとき、気泡はフィルタ15により捕捉され、シート状濾材17に沿って上昇してフィルタ空間14における血液流路4の上部領域に達する。この領域には排気ポート16が開口しているので、気泡は排気ポート16を通って外部に排気される。
【0052】
上記構成においては、血液流路4の流路断面が円形であることにより、排気ポート16からの空気排出の効果が大きい。何故ならば、フィルタ空間14に面する血液流路4の内壁面の最上部(頂部)に設けられた排気ポート16は、フィルタ空間14の頂点に位置するので、上昇した気泡が集まるからである。但し、血液流路4の流路断面は円形に限定されず、頂点に集約する断面外周縁形状であればよい。頂点に集約する断面外周縁形状とは、血液流路の断面外周縁の最上位点である頂点を有し、頂点の両側において、断面外周縁の接線の方向が頂点から見て下方に向かって傾斜している形状として定義される。例えば、断面外周縁形状が菱形であって、その一つの角を頂点として配置されている場合が含まれる。
【0053】
[フィルタ内蔵型人工肺の製造方法]
上記構成のフィルタ内蔵型人工肺の製造方法は、
図5に示したようなフィルタモジュール20を作製し、フィルタ空間14にフィルタモジュール20を装填し、中空糸膜12の束とともにフィルタモジュール20の外周縁部を封止して血液流路4を形成する工程を含むことを特徴とする。他の工程は、周知の技術を用いて行われる。
【0054】
この製造方法によって作製されるフィルタモジュール20の具体的な構造の一例を、
図9A〜
図9Dに示す。
図9Aは、フィルタモジュール20の一次側空間14aに面する側から見た正面図、
図9Bは下面図である。
図9Cは、
図9AのA−A線に沿った断面図である。
図9Dの(a)は、
図9Aのフィルタモジュール20の右側面図、
図9Dの(b)は
図9AのB−B線に沿った断面図である。
図5〜
図8に示したフィルタモジュール20の各部と同一の要素については、同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0055】
以下に、このフィルタモジュール20を作製するための工程について、
図10A〜
図12Cを参照して説明する。
【0056】
図10A〜
図10Cは、一次側マスキングブロック24a、
図11A〜
図11Cは、二次側マスキングブロック24bを示す。一次側及び二次側マスキングブロック24a、24bは、フィルタモジュール20をインサート成形により作製するために用いられる。すなわち、フィルタ15を間に挟み込んで、一次側及び二次側マスキングブロック24a、24bを合体させることにより、その外周縁部に、シール材19による封止部を成形するための成形型が形成される。
【0057】
図10Aは、一次側マスキングブロック24aの正面図、
図10Bは下面図、
図10Cは右側面図である。一次側マスキングブロック24aは、基板25上に線状突起26の群が設けられた構造を有する。線状突起26は、一次側空間14aに面するプリーツ18の谷部18aに対応する形状を有する。また、線状突起26の群の外周縁部の形状は、シール材19が形成する血液流路4の内壁部のうち、一次側空間14aに属する部分に対応する。
【0058】
線状突起26の上端部には、
図8に示した、一次側空間14aに面する谷部18aの傾斜面23aを形成するための傾斜面成形部27が設けられている。また、線状突起26の群の周縁部の外側に、
図8に示した段差部22を形成するための段差成形部28が設けられている。さらに、線状突起26の群の上部に、排気ポート16を装着する装着孔を形成するための突起部29が設けられている。突起部29には、係合孔29a(
図10C参照)が設けられている。
【0059】
図11Aは、二次側マスキングブロック24bの正面図、
図11Bは下面図、
図11Cは右側面図である。二次側マスキングブロック24bは、一次側マスキングブロック24aと略同様、基板30上に線状突起31の群が設けられた構造を有する。線状突起31は、二次側空間14bに面するプリーツ18の谷部18bに対応する形状を有する。また、線状突起31の群の外周縁部の形状は、シール材19が形成する血液流路4の内壁部のうち、二次側空間14bに属する部分に対応する。
【0060】
線状突起31の上端部には、
図8に示した、二次側空間14bに面する谷部18bの傾斜面23bを形成するための傾斜面成形部32が設けられている。また、線状突起31の群の周縁部の外側に、
図8に示した段差部22を形成するための段差成形部33が設けられている。さらに、線状突起31の群の上部に、排気ポート16を装着する装着孔を形成するための突起部34が設けられている。
【0061】
図12A〜
図12Cに、一次側及び二次側マスキングブロック24a、24bを合体させて、成形型を組立てた状態を示す。但し、実際に成形する際には、両マスキングブロック24a、24bは、フィルタ15を間に挟みこんで組み立てられる。
図12Aは、成形型を組立てた状態の下面図、
図12Cの(a)は
図12Aの右側面図、
図12Cの(b)は
図12AのC−C線に沿った断面図である。
【0062】
一次側マスキングブロック24aの線状突起26は各々、二次側マスキングブロック24bの隣接する線状突起31の間に挿入され、言い換えれば、線状突起31は各々、隣接する線状突起26の間に挿入されている。フィルタ15を間に挟みこんだ状態では、線状突起26、31は各々、プリーツ18の谷部18a、18bに嵌合する。また、一次側マスキングブロック24aの突起部29の係合孔29aに、二次側マスキングブロック24bの突起部34が嵌合している。
【0063】
フィルタモジュール20を作製する工程では、フィルタ15を挟んで、一次側及び二次側マスキングブロック24a、24bを上述のように組立てる。次に、フィルタの外周縁部に両基板25、30間に形成された空間に、ポリウレタンなどの熱硬化型樹脂からなるシール材を充填し硬化させる。シール材の硬化後、マスキングブロック24a、24bを取り外し、シール材により形成されたフィルタモジュール20を取り出す。
【0064】
但し、この時点では、一次側マスキングブロック24aの突起部29、及び二次側マスキングブロック24bの突起部34に対応する箇所には、装着孔が形成されているだけである。すなわち、別途作製した排気ポート16を、
図9A、9B、9Dに示したよう装着孔に装着することにより、
図9Aから9Dに示したようなフィルタモジュール20が完成する。
【0065】
以上のようなフィルタ15を間に挟みこんだ組立て、およびシール材による封着後の解体を容易にするために、マスキングブロック24a、24bの一方には硬質樹脂を用い、他方には軟質樹脂を用いることが望ましい。但し、それに限定されることはなく、例えば、いづれのマスキングブロック24a、24bも、軟質樹脂を用いて作製することもできる。
【0066】
なお、以上の説明では、ハウジング1により熱交換部2及びガス交換部3が形成された構成を有する人工肺を例として示したが、本発明の適用はこれに限られない。すなわち、熱交換部2の無いガス交換部3のみの構成を有する中空糸膜型人工肺であっても、上述のフィルタ15による気泡除去部の構成を適用して、上述と同様の効果を得ることができる。