特許第6135815号(P6135815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6135815-プリント配線板および電子機器 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6135815
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】プリント配線板および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   H05K1/02 D
   H05K1/02 P
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-191726(P2016-191726)
(22)【出願日】2016年9月29日
【審査請求日】2016年10月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西之原 聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 英宣
(72)【発明者】
【氏名】早坂 努
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−058509(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/132951(WO,A1)
【文献】 特開2016−054238(JP,A)
【文献】 特開2015−176984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線回路基板、導電性接着剤層、および金属補強板を備え、前記導電性接着剤層は、前記配線回路基板および金属補強板に対してそれぞれ接着し、
前記金属補強板は、金属板の表面に保護層を有し、
前記金属板はステンレス板であって、
前記保護層は貴金属、またはその合金から形成されてなり、保護層表面のクロム原子濃度が3〜17%であって、
さらに、前記保護層の表面粗さRaが0.2μm以上であり、
前記表面粗さRaを1としたときの前記保護層の厚みの割合が、0.001〜0.3であることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
保護層が、導電性接着剤層と接する界面全面に形成されてなる、請求項1記載のプリント配線板。
【請求項3】
前記保護層は、金、銀、白金、およびパラジウムのいずれか1種からなる単一またはこれらの合金から形成されてなることを特徴とする請求項1または2の記載のプリント配線板。
【請求項4】
前記保護層は、軟質金メッキであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のプリント配線板。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のプリント配線板を備えた、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属補強板を備えたプリント配線板およびそのプリント配線板を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、およびスマートフォン等の電子機器は、内部に実装された電子部品が発する電磁波ノイズまたは外部から侵入する電磁波ノイズを原因とした誤作動を防止するために電磁波シールド層を設けることが一般的である。また、電子機器の内部に搭載されるプリント配線板、特にフレキシブルプリント配線板は、柔軟であるためその表面に電子部品を実装する場合、フレキシブルプリント配線板の電子部品実装面に対向した他面に導電性接着剤で金属板を貼り付けて補強することが行なわれている。特許文献1では、導電性接着剤とニッケルメッキステンレス板で補強したプリント配線板が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、電子部品に対する電磁波の効率的な除去のため、金属板の表面に金メッキを施し、導電性を改善したプリント配線板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−41869号公報
【特許文献2】国際公開2014/132951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたプリント配線板は、ニッケルメッキの酸化による抵抗値不足のため、導電性接着剤との接続抵抗値が悪化する問題があった。
また、特許文献2に記載されたプリント配線板は、金属板全面に金メッキが施されており、金属板表面の極性が著しく低いために、導電性接着剤層との接着力が低く、リフロー工程で発泡する問題があった。
【0006】
本発明は、導電性接着剤層と金属補強板とが良好な接着力を有し、リフロー工程を経た後にも発泡が生じ難く、湿熱経時後もグランド回路と金属板との導電性が良好なプリント配線板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプリント配線板は、配線回路基板、導電性接着剤層、および金属補強板を備え、前記導電性接着剤層は、前記配線回路基板および金属補強板に対してそれぞれ接着し、前記金属補強板は、金属板の表面に保護層を有し、前記金属板はステンレス板であって、
前記保護層は貴金属、またはその合金から形成されてなり、保護層表面のクロム原子濃度が1〜20%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属板の全面を覆う貴金属層を設ける場合よりも接着性に優れ、十分な密着力で一体化することができる。また、リフロー工程時の発泡が抑制され、保護層と導電性接着剤層の接続抵抗値も良化する。加えて、長期にわたって安定した導電性を維持することができ、機械的強度および導電性に優れたプリント配線板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のプリント配線板の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のプリント配線板について、添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明のプリント配線板の構成を示す断面図である。なお、以下では、説明の都合上、図1中の上側を「上」、下側を「下」とする。
【0012】
《プリント配線板》
本発明のプリント配線板1は、図1に示す通り、配線基板6と、金属補強板2とを接着する導電性接着剤層3を備えている。金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に保護層2bを有している。
そして、前記保護層2bは、保護層表面のクロム原子濃度が1〜20%であることを特徴とする。
【0013】
保護層表面のクロムの原子濃度は、保護層がピンホールやクラック等の空孔を有する多孔質膜である場合、金属板であるステンレスが一部表面に露出し、この表面に一部露出したステンレスに由来して、クロムの表面原子濃度を制御することが可能となる。ステンレスに含有しているクロムは金等に比べて極性が高く、空孔を介して導電接着剤が一部露出したステンレス板と接着することで、金メッキを形成した金属補強板でも大幅に接着力が向上する。その結果、金属板の全面を覆う貴金属層を設ける場合よりも接着性に優れ、十分な密着力で、金属板と保護層とを一体化することができる。
また、リフロー工程時の発泡が抑制され、保護層と導電性接着剤層の接続抵抗値も良化する。加えて、長期にわたって安定した導電性を維持することができ、機械的強度および導電性に優れたプリント配線板を得ることができる。
あるいは、保護層中に合金成分としてクロム原子が含有される場合においても上記と同様の効果が得られる。
【0014】
プリント配線板1の実施態様をさらに説明する。配線基板6は、絶縁基材9と接する面であって金属補強板2と対向する面に電子部品10を実装することで、プリント配線板1に必要な強度が得られる。金属補強板2を備えることで、プリント配線板1に曲げ等の力が加わった際の半田接着部位ないし電子部品10に対するダメージを防止できる。また、導電性接着剤層3は、プリント配線板の上方向から下方向に対する電磁波をシールドすることができる。
【0015】
<金属補強板>
本発明の金属補強板2は、ステンレス板2aの表面に表面保護層としての保護層2bを有している。
【0016】
[ステンレス板]
ステンレス板2aは、腐食性が高く導電性に優れた金属板であり、一定の厚み以上で金属補強板としての強度を備えたものである。ステンレス板は、オーステナイト系ステンレス板、フェライト系ステンレス板、2相系ステンレス板、マルテンサイト系ステンレス板、析出硬化系ステンレス板が使用できる。オーステナイト系ステンレス板としては、例えばSUS301、SUS301L、SUS301J1、SUS302B、SUS303、SUS304、SUS304Cu、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS312L、SUS315J1、SUS315J2、SUS316、SUS316L、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS317J2、SUS836L、SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1が挙げられる。フェライト系ステンレス板としては、例えばSUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1、SUS445J2、SUS444、SUS447J1、SUSXM27が挙げられる。2相系ステンレス板としては、例えばSUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4Lが挙げられる。マルテンサイト系ステンレス板としては、例えばSUS403、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2、SUS440Aが挙げられる。析出硬化系ステンレス板としては、例えばSUS630、SUS631が挙げられる。
これらの中でも金属補強板としての強度、コストおよび化学的安定性の面でSUS301、SUS303、SUS304、SUS305、SUS316、SUS316Lが好ましい。
金属補強板2aの厚みは、0.04〜1mmが好ましい。
【0017】
[保護層]
表面保護層としての保護層2bは、金属補強板2の最表面に形成された貴金属層であり、保護層表面のクロム原子濃度が1〜20%であり、3〜17%が好ましく、5〜15%がより好ましい。
ここで貴金属層とは、貴金属、および貴金属を主成分とする合金の、少なくともいずれかにより形成されてなる層をいう。
保護層表面のクロム原子濃度が1〜20%であることで、保護層全面にピンホール等の空孔が形成された多孔質膜が得られ、ステンレス板が一部表面に露出している状態となる。ステンレス板の部分的な露出部のクロム成分と導電性接着剤層が強固に接着するため、金属補強板に対する導電性接着剤層の接着力を向上させ、リフロー時の発泡を抑制することができる。また、長期にわたって安定した導電性を維持することが可能となり、機械的強度および導電性に優れたプリント配線板を得ることができる。
【0018】
なお、本発明において保護層は、導電性接着剤層と接する界面全面に形成されていることが好ましい。
導電性接着剤層と接する界面全面に保護層を形成した場合、ステンレス板の一部に点または線等、局所的に保護層を施す形態よりも、保護層全面にミクロンまたはナノサイズのピンホールが形成されることで、上記の効果を得ることができる。
また、保護層中に合金成分としてクロム原子を含有させ保護層表面のクロム原子濃度を1〜20%とする形態も、上記と同様の効果を得ることができる。
張り合わせる導電性接着剤層の面積100に対して保護層の面積は、80以上が好ましく90以上がより好ましい。上記の範囲とすることで、ハンダフロート試験による発泡をより抑制し、高温高湿試験後の接続信頼性を向上することができる。
【0019】
保護層表面のクロムの原子濃度を1%以上とすることで、剥離強度およびリフロー時の発泡を抑制できる。また、保護層に対するクロムの表面原子濃度を20%以下とすることで、85℃相対湿度(RH)85%の高温高湿の経時後であっても接続抵抗値が良好であり、接続信頼性を高めることができる。
【0020】
保護層2bの形成に使用可能な貴金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(0s)等があり、金、銀、白金、およびパラジウムのいずれか1種であることが好ましい。または、これら貴金属を主成分とする合金から形成することも好ましい。
これらの貴金属であれば、保護層の酸化による抵抗値上昇が起こりにくいため85℃相対湿度(RH)85%経時後の接続抵抗値の安定性向上の点から好ましい。
【0021】
なかでも、金を用いて形成する場合、軟質金メッキ、硬質金メッキ及び、無電解メッキで形成することが好ましい。この中でも軟質金メッキが金属補強板2への密着力および高度な導電性を維持する点で好ましい。
【0022】
保護層2bの厚みは、0.005μm〜1μmが好ましく、0.01μm〜0.05μmがより好ましい。保護層の厚みを0.005μm〜1μmとすることで、コストを抑えつつ導電性を良化することができる。
【0023】
また、保護層2bは、その表面粗さRaが0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.4μm以上がさらに好ましい。表面粗さRaの数値が大きいと、保護層2bの表面が粗面となるため、金属補強板2と導電性接着剤層3を熱圧着する際、導電性接着剤層3が保護層2bの表面の窪みに侵入して両者の接着力を強固にすることができる。
【0024】
本発明では、ステンレス板にニッケル層などを介さず直接保護層を形成する態様が好ましい。ニッケル層などの中間層を設けない場合、工程の簡略化によりコストダウンが図れる他、保護層の厚みを薄く形成できることからステンレス板表面の凹凸形状を保護層表面に確実に転写することができる。すなわちRaのコントロールが容易となるため、保護層と導電性接着剤の接着力を向上することができる。
【0025】
なお、表面粗さRaは、保護層2bの表面を接触式表面粗さ計を使用してJIS B 0601−2001に準拠して測定した数値である。
【0026】
Raに対する保護層2bの厚みの割合は、Ra1に対し、保護層の厚みが0.001〜0.5であることが好ましく、0.01〜0.3がより好ましい。Raに対する保護層2bの厚みの割合を0.001〜0.5とすることで、剥離強度と接続抵抗値を良化することができる。
【0027】
<導電性接着剤層>
導電性接着剤層3は、配線回路基板および金属補強板に対してそれぞれ接着している。また、熱硬化性樹脂および導電性成分を含む、等方導電性接着剤または異方導電性接着剤を使用して形成する。ここで等方導電性とは、X軸(図1における左右方向)、Y軸(図1における奥行き方)およびZ軸(図1における上下方向)の3次元方向に導電する性質である。また異方導電性とはZ軸にのみ導電する性質である。これらの導電性はプリント配線板の使用態様に応じて適宜選択できる。
【0028】
熱硬化性樹脂は、水酸基およびカルボキシル基のうち少なくともいずれか一方を有することが好ましい。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンウレア樹脂、シリコーン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アミドイミド樹脂、エラストマー樹脂およびゴム樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、単独または2種類以上を併用できる。
【0029】
熱硬化性樹脂は、硬化剤を使用して硬化することが好ましい。前記硬化剤は、熱硬化性樹脂の架橋性官能基と反応できる官能基を1つ以上有する化合物であれば良く、限定されない。架橋性官能基がカルボキシル基の場合、硬化剤は、エポキシ化合物、アリジリン化合物、イソシアネート化合物、ポリオール化合物、アミン化合物、メラミン化合物、シラン系、カルボジイミド系化合物、金属キレート化合物等が好ましい。
また、架橋性官能基が水酸基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物が好ましい。また、架橋性官能基がアミノ基の場合、硬化剤は、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、金属キレート化合物が好ましい。これらの硬化剤は、1 種または2 種以上使用できる。
【0030】
導電性成分は、導電性微粒子、導電性繊維、およびカーボンナノチューブ等から適宜選択して使用できる。導電性微粒子は、金、銀、銅、鉄、ニッケル、およびアルミニウム等の金属、ないしその合金、ないしカーボンブラック、フラーレン、および黒鉛等の無機材料等が挙げられる。また、銅粒子の表面を銀で被覆した銀被覆銅微粒子も挙げられる。
【0031】
導電性接着剤層は、さらに、粘着付与樹脂、イオン捕集剤、無機フィラー、金属不活性化剤、難燃剤、光重合開始剤、帯電防止剤、および酸化防止剤等を適宜選択して含むことができる。導電性接着剤層の厚みは、通常10〜80μm程度である。
【0032】
<配線回路基板>
配線回路基板6は、絶縁層4aおよび4b、接着剤層5aおよび5b、ならびにグランド配線回路7、ならびに配線回路8、ならびに絶縁基板9を備えている。また配線回路基板6は、グランド配線回路7上にビア11(Via)といわれる円柱状ないしすり鉢状の穴を備えている。
【0033】
絶縁層4aおよび4bは、カバーレイフィルムともいい、少なくとも樹脂を含む。樹脂は、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、イレタンウレア樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アミドイミド樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および紫外線硬化性樹脂から適宜選択して使用できるが、耐熱性の面で熱硬化性樹脂が好ましい。これらの樹脂は、単独または2種類以上を併用できる。絶縁層4aおよび4bの厚みは、通常5〜50μm程度である。
【0034】
接着剤層5aおよび5bは、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、およびアミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化樹脂に使用する硬化剤は、エポキシ硬化剤、イソシアネート硬化剤、およびアリジリン硬化剤等が挙げられる。接着剤層5aおよび5bは、絶縁層4aおよび4bと、グランド配線回路7および配線回路8を備えた絶縁基板9とを接着するために使用し、絶縁性を有する。接着剤層5aおよび5bの厚みは、通常1〜20μm程度である。
【0035】
グランド配線回路7および配線回路8は、銅等の導電性金属層をエッチングして形成する方法、ないし導電性ペーストを印刷することで形成する方法が一般的である。図示はしないが配線回路基板6は、グランド配線回路7および配線回路8を複数有することができる。グランド配線回路7は、グランド電位を保つ回路であり、配線回路8は、電子部品等に電気信号を送信する回路である。グランド配線回路7および配線回路8の厚みは、それぞれ通常5〜50μm程度である。
【0036】
絶縁基板9は、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレート等の絶縁性を有するフィルムであり、配線回路基板6のベース材である。絶縁基板9は、リフロー工程を行なう場合、ポリフェレンサルファイドおよびポリイミドが好ましく、リフロー工程を行なわない場合、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。絶縁基板9の厚みは、通常5〜100μm程度である。
【0037】
ビア11は、グランド配線回路7および配線回路8から適宜選択した回路パターンの一部を露出するためにエッチングやレーザー等により形成される。図1によるとビア11によりグランド配線回路7の一部が露出しており導電接着剤層3を介してグランド配線回路7と金属補強板2とが電気的に接続されている。ビア11の直径は、通常0.5〜2μm程度である。
【0038】
プリント配線板1は、通常、電磁波シールドシートを備える。電磁波シールドシートは、絶縁層101、金属膜102、および導電性接着剤層103を備えるのが一般的であり、配線回路8を流れる電気信号が高周波である場合は、特に好ましい。一方、図示しないが、配線回路8を流れる電気信号が比較的低周波である場合、電磁波シールドシートは、少なくとも絶縁層101および導電性接着剤層103を備えていれば良い。
【0039】
絶縁層101は、絶縁基板9で説明した絶縁性を有するフィルムを使用する他に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、およびアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を適宜選択して形成することもできる。絶縁層101の厚みは、通常2〜20μm程度が好ましい
【0040】
金属膜102は、金、銀、銅、アルミニウム、および鉄等の導電性金属、ならびにこれらの合金から形成した被膜が好ましく、コスト面から銅がより好ましい。また金属膜102は、圧延金属箔、電解金属箔、スパッタ膜ならびに蒸着膜から適宜選択できるが、コスト面から圧延金属箔が好ましく、圧延銅箔がより好ましい。金属膜102の厚さは、金属箔の場合、0.1〜20μm程度が好ましく、スパッタ膜の場合、0.05〜5.0μm程度が好ましく、蒸着膜の場合、10〜500nm程度が好ましい。なお、スパッタ膜を形成する場合は、ITO(酸化インジウムスズ)またはATO(三酸化アンチモン)を使用することが好ましく、蒸着膜を形成する場合は、金、銀、銅、アルミニウムまたはニッケルを使用することが好ましい。
【0041】
導電性接着剤層103は、導電性接着剤層3で説明した原料を含むことが好ましい。導電性接着剤層103の厚みは、2〜20μm程度が好ましい。
【0042】
<プリント配線板の製造方法>
本発明のプリント配線板の製造方法は、少なくとも配線回路基板6、導電性接着剤層3、および金属補強板2を圧着する工程を備えていることが必要である。圧着は、例えば、配線回路基板6と電磁波シールドシートと圧着した後、導電性接着剤層3および金属補強板2を重ね圧着を行い、次いで電子部品を実装する方法が挙げられるが、圧着の順序は限定されない。本発明では配線回路基板6、導電性接着剤層3、および金属補強板2を圧着する工程を備えていれば良く、他の工程は、プリント配線板の構成ないし使用態様に応じて適宜変更できる。
前記圧着は、導電性接着剤層3が熱硬化型樹脂を含む場合、硬化促進の観点から同時に加熱することが特に好ましい。一方、導電性接着剤層3が熱可塑性樹脂を含む場合であっても密着が強固になり易いため加熱することが好ましい。加熱は150〜180℃程度が好ましく、圧着は、3〜30kg/cm程度が好ましい。圧着装置は、平板圧着機またはロール圧着機を使用できるが、平板圧着機を使用する場合、一定の圧力を一定の時間かけることができるため好ましい。圧着時間は、配線回路基板6、導電性接着剤層3、および金属補強板2が十分密着すればよいので特に限定されないが、通常1分〜2時間程度である。
【0043】
本発明のプリント配線板は、例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートPC、デジタルカメラ、液晶ディスプレイ等の電子機器に搭載する(備える)ことはもとより、自動車、電車、船舶、航空機等の輸送機器にも好適に搭載できる(備える)ことができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」は「質量部」を意味する。
【0045】
評価に使用した部材は、下記の通りである。
【0046】
<導電性接着シートA>
熱硬化性ポリアミド樹脂(酸価=10mgKOH/g、トーヨーケム社製)を100部、導電性微粒子(核体に銅、被覆層に銀を使用した樹枝状粒子D50平均粒子径=12μm、福田金属箔粉工業社製) を400部容器に仕込み、不揮発分濃度が40質量%になるようトルエン: イソプロピルアルコール(質量比=2:1)の混合溶剤を加えて混合した。次いでビスフェノールA型エポキシ樹脂(「JER828」(エポキシ当量=189g/eq)三菱化学社製)を40部、およびアミン系エポキシ硬化剤(「YN100」三菱化学社製)15部を加えディスパーで10分攪拌して導電性樹脂組成物を作製した。得られた導電性樹脂組成物を、ドクターブレードを使用して、乾燥後の厚みが60μmになるように剥離性フィルムの離形処理された面上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電性接着シートAを得た。
【0047】
<配線回路基板>
銅張積層板;エスパーフレックス(厚さ8μm銅箔/厚さ38μmポリイミド 住友金属鉱山社製)
【0048】
<金属補強板>
市販ステンレス板に対して、各種のメッキによって保護層表面のクロム原子濃度が、1〜20%である保護層を形成した。軟質金メッキ、硬質金メッキ、銀メッキ、パラジウムめっきおよび白金メッキの条件を公知の方法で調整してサンプリングを行ない、保護層の厚みと表面粗さRaがそれぞれ異なる保護層を有するステンレス板(以下、単にSUS板という)1〜16(SUS1〜16)を得た。ステンレス板表面に軟質金メッキを行わずに、ステンレス板表面に電解ニッケルメッキのみを行うことで、ニッケル層のみ有するステンレス板17(SUS17)を得た。別途、ステンレス板17(SUS17)に軟質金メッキを形成してステンレス板18(SUS18)を得た。そして各SUS板を、厚さ0.2mm・幅30mm・長さ150mmの試験板A、および厚さ0.2mm・幅30mm・長さ50mmの大きさの試験板Bに準備した。なお分析用試験板は別途準備した。
【0049】
得られたSUS板(SUS1〜18)について、それぞれ下記に示す方法により分析を行った。結果は、表1に記した。
【0050】
[クロム表面原子濃度(Cr濃度)]
専用台座に両面粘着テープを貼り、SUS板を固定したものを測定試料とした。測定試料を下記条件で、3箇所場所を変えて測定した。
装置:AXIS−HS(島津製作所社製/Kratos)
試料チャンバー内真空度:1×10−8Torr以下
X線源:Dual(Al)15kV,5mA Pass energy 80eV
Step:0.1 eV/Step
Speed:120秒/元素
Dell:300、積算回数:5
光電子取り出し角:試料表面に対して90度
結合エネルギー:C1s主ピークを284.6eVとしてシフト補正
Au(4f)ピーク領域:80〜92eV
Ag(3d)ピーク領域:376〜362eV
Pd(3d)ピーク領域:332〜348eV
Pt(4f)ピーク領域:69〜82eV
Ni(2p)ピーク領域:848〜890eV
Cr(2p)ピーク領域:572〜583eV
【0051】
上記ピーク領域に出現したピークをスムージング処理し、直線法にてベースラインを引き、貴金属等およびクロムの表面原子濃度「Atomic Conc」を求めた。
得られた貴金属の表面原子濃度およびクロムの表面原子濃度の合計100%中のクロムの表面原子濃度について、3箇所の値の平均値を求め、保護層表面のクロム原子濃度を求めた。
【0052】
[表面粗さ(Ra)]
表面粗さRaは、JISB0601:2001に準じて、次の条件で測定した。
Raは算術平均粗さRaを指し、規定された中心線平均粗さであり、その基準粗さを1mmとした場合の中心線平均粗さを言う。上記のSUS板を、接触式表面粗さ計(「SURFCOM480A」東京精密社製)を使用し、測定速度0.03mm/s、測定長さ2mm、カットオフ値0.8mmの条件で表面粗さRaを測定した。測定場所を変えて得られた5 か所のRaの平均値をRaとした。
【0053】
「実施例1〜14、および比較例1〜4」
<試験用積層体の作製>
導電性接着シートAを幅25mm・長さ100mmの大きさに準備した。次いで剥離性シート上の露出した導電性接着剤層を表1に示す金属補強板(SUS1〜18)から得られた試験板Aの上に載せ、ロールラミネーター(SA−1010小型卓上テストラミネーターテスター産業株式会社)90℃、3kgf/cm、1m/分で仮止めした。そして、剥離性シートを剥がして、露出した導電性接着剤層に銅張積層板のエスパーフレックスのポリイミド面が導電性接着剤層と接するように載せ、上記同様のロールラミネート条件で仮止した。そして、これらを170℃、2MPa、5分の条件で圧着をした後、160℃の電気オーブンで60分間加熱を行なうことで積層体を得た。
得られた積層体を用いて、プリント配線基板の評価を下記の方法で行った。
ただし、実施例1、5、6、および7は参考例である。
【0054】
<剥離強度>
得られた積層体について、導電性接着剤層と試験板との剥離強度を測定するために23℃相対湿度50%の雰囲気下で、引っ張り速度50mm/分でTピール剥離試験をおこない、常温(23℃)の剥離強度(N/cm)を測定した。試験機は小型卓上試験機(EZ−TEST 島津製作所社製)を用いた。なお、剥離強度は、接着力ともいう。
【0055】
リフロー後の剥離強度を測定するために得られた積層体を小型リフロー機(SOLSYS−62501RTP アントム社製)を使用してピーク温度を260℃にしてリフロー処理を行なった。前記積層体を23℃相対湿度50%の雰囲気下で1時間放置した後、同雰囲気下、上記同様の方法でリフロー後の剥離強度(N/cm)を測定した。なお、剥離強度は以下の基準で評価した。

○:剥離強度が6N/cm以上
△:剥離強度が3N/cm以上、6N/cm未満
×:剥離強度が3N/cm未満
【0056】
<ハンダフロート試験>
得られた積層体について金属補強板を下にして260℃の溶融ハンダに1分間浮かべた。次いで、溶融ハンダから取り出した直後の積層体について、積層体の側面から導電性接着剤層の外観を目視で確認し、次の基準で評価した。なお、評価には角型ハンダ槽(POT100C 太洋電機産業社製)を使用した。評価は、1サンプルあたり5回評価した。
ハンダフロート試験が良好であると、リフロー工程時の発泡が抑制されていることを示す。

○:5評価中、全てのサンプルに異常が見られなかった。優れている
△:5評価中、1または2評価に気泡が発生した。実用可
×:5評価中、3評価以上に気泡が発生した。実用不可
【0057】
<接続抵抗値>
上記<試験用積層体の作製>で使用した導電性接着シートAの大きさを幅10mm・長さ50mmの大きさに換え、試験板Aと同様にして作製した試験板Bに変更した以外は、<試験用積層体の作製>と同様に行うことで積層体を得た。得られた積層体について、抵抗率計(ロレスターGP MCP−T600 三菱化学社製)を用い、2端子法で接続抵 抗値を測定した。その後、85℃相対湿度85%のオーブンに上記サンプルを投入し、500時間後の抵抗値を測定した。なお、接続抵抗値は以下の基準で評価した。
500時間後の接続抵抗値が良好であると、長期にわたって導電性を維持できていることを示す。

○:接続抵抗値が20mΩ/□未満
△:接続抵抗値が20mΩ/□以上、40mΩ/□未満
×:接続抵抗値が40mΩ/□以上
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表1〜3の結果から、ステンレス板である金属板と保護層とを有し、保護層は、貴金属およびその合金から形成されてなり、保護層表面のクロム原子濃度が1〜20%である、金属補強板を有する本発明のプリント配線基板は、リフロー工程を経た後にも気泡が生じ難く、導電性接着剤層と金属板とが良好な接着力を有し、グランド回路と金属板との導電性が良好であった。
これに対し、比較例のプリント配線板は、グランド回路と金属補強板との導電性、剥離強度、およびハンダフロート性のすべてを満足することはできなかった。
【0062】
そのため、本発明の、機械的強度および導電性に優れるプリント配線板を備える電子機器は、内部に実装された電子部品が発する電磁波ノイズまたは外部から侵入する電磁波ノイズを原因とした誤作動を、長期にかつ安定に防止することが可能である。
また、上記プリント配線板は導電性接着剤層と金属板とが良好な接着力を有しているため、これを使用した電子機器は、振動や落下に強く、長期にわたって安定した動作を保つことができる。
【符号の説明】
【0063】
1 プリント配線板
2 金属補強板
2a 金属板
2b 保護層
3 導電性接着剤層
4a 絶縁層
4b 絶縁層
5a 接着剤層
5b 接着剤層
6 配線回路基板
7 グランド配線回路
8 配線回路
9 絶縁基材
10 電子部品
11 ビア
101 絶縁層
102 金属膜
103 導電性接着剤層
【要約】
【課題】リフロー工程を経た後にも発泡が生じ難く、導電性接着剤層と金属補強板とが良好な接着力を有し、グランド回路と金属板との導電性が良好なプリント配線板の提供を目的とする。
【解決手段】配線回路基板、導電性接着剤層、および金属補強板を備え、前記導電性接着剤層は、前記配線回路基板および金属補強板に対してそれぞれ接着し、前記金属補強板は、金属板の表面に保護層を有し、
前記金属板はステンレス板であって、
前記保護層は貴金属およびその合金から形成されてなり、保護層表面のクロムの原子濃度が1〜20%であることを特徴とするプリント配線板によって解決される。
【選択図】図1
図1