(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガード電極のターゲット側に、真空室の横断方向に延出して当該真空室の両端方向においてエミッタの電子発生部の周縁部と交叉する縁部が形成された請求項8または9に記載の電界放射装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態における電界放射装置は、絶縁体の両端側が封止されて形成された真空室において、単に、互いに対向して位置するエミッタおよびターゲットを備えたり、エミッタの電子発生部の外周側にガード電極を備えた構成とするのではなく、エミッタを真空室の両端方向(以下、両端方向)に対し移動自在に支持する可動自在な支持部を備え、その支持部の可動によりエミッタの電子発生部とターゲットとの間の距離を変化できるように構成したものである。
【0018】
従来、ガード電極等を改質処理する手法としては、前述のようにガード電極等に対し単に高電圧を印加する手法の他に、ガード電極等を真空雰囲気下で放置し吸着ガスを取り除く手法が知られている。この手法は、例えば、真空容器に大口径排気管を設けて電界放射装置(以下、従来装置と称する)を構成し、その大口径排気管を介して当該真空室を高温真空状態にすることにより、当該真空室のガード電極等の吸着ガスを放出し、その後、当該真空室を大気雰囲気下に戻し大口径排気管を介して当該真空室内にエミッタ等を配置し、当該真空室を封止し再度真空状態にする手法である。
【0019】
しかしながら、前述のような大口径排気管を設けた真空容器において、真空室の高温真空状態を長時間保つことは困難であり、再度真空状態にするまでの間にガスがガード電極等に再吸着する虞もあり、ガード電極等に形成された粗い表面については改質(滑らかに)することができない。また、大口径排気管により、真空容器が大型化し、製造工数の増加や製品コストの上昇を招くことも考えられる。
【0020】
一方、本実施形態のような構成においては、前述の従来手法を適用しなくてもガード電極等の改質処理を行うことが可能なものである。当該改質処理を行う場合には、支持部を操作してエミッタを放電位置から無放電位置(放電電界以下)に移動(電子発生部とターゲットとの間の距離を長くする方向に移動)させることにより、エミッタの電界放射を抑制した状態(例えば後述の
図2に示すように、エミッタの電子発生部とガード電極との両者を互いに離反した状態(両者間に隙間を形成))にし、その状態でガード電極等に電圧を印加して改質処理を行うことができ、例えばガード電極等の表面が溶解平滑化されることになる。これにより、所望の耐電圧を得ることが可能となる。また、前述のように電界放射を抑制した状態であれば、改質処理の際にエミッタに対しては負荷が掛からないようにすることができる。
【0021】
前述のようにガード電極等を改質処理した後は、再び支持部を操作してエミッタを無放電位置から放電位置に移動(電子発生部とターゲットとの間の距離を短くする方向に移動)させることにより、エミッタの電界放射が可能な状態(例えば後述の
図1に示すように、エミッタの電子発生部とガード電極との両者を互いに接触した状態)にし、電界放射装置の所望の機能を発揮(X線装置の場合はX線照射等)できることになる。
【0022】
本実施形態によれば、例えばガード電極等の表面に微小突起等が存在していても、その表面を滑らかにすることが可能となる。また、ガス成分(例えば真空容器内に残存するガス成分)を吸着している場合には、当該吸着ガスが放出されることになる。さらに、電子を発生させ易い元素が含まれている場合には、前記の溶解平滑化により、当該元素をガード電極等の内部に留めることができ、当該元素に起因する電子発生を抑制することが可能となる。そして、電界放射装置においては、電子の発生量が安定し易くなる。
【0023】
本実施形態の電界放射装置は、前述のようにエミッタを両端方向に対して移動自在に支持する支持部を備え、エミッタの電子発生部とターゲットとの間の距離を変化できる構成であれば、例えば各種分野の技術常識を適宜適用する等により、多彩な変更が可能なものであって、その一例として以下に示すものが挙げられる。
【0024】
≪電界放射装置の実施例1≫
図1,
図2の符号10は、本実施形態の電界放射装置を適用したX線装置の一例を示すものである。このX線装置10においては、筒状の絶縁体2の一端側の開口21と他端側の開口22とが、それぞれエミッタユニット30とターゲットユニット70とにより封止(例えば蝋付けして封止)されて、絶縁体2の内壁側に真空室1を有した真空容器11が構成されている。エミッタユニット30(後述のエミッタ3)とターゲットユニット70(後述のターゲット7)との間には、当該真空室1の横断方向に延在するグリッド電極8が設けられている。
【0025】
絶縁体2は、例えばセラミック等の絶縁材料を用いて成り、エミッタユニット30(後述のエミッタ3)とターゲットユニット70(後述のターゲット7)とを互いに絶縁し、内部に真空室1を形成できるものであれば、種々の形態を適用することができる。例えば、図示するように同心状に配置された2つの円筒状の絶縁部材2a,2bの両者間にグリッド電極8(例えば後述の引出端子82)を介在させた状態で、当該両者を蝋付け等により互いに組み付けて構成されたものが挙げられる。
【0026】
エミッタユニット30は、ターゲットユニット70(後述するターゲット7)に対向する部位に電子発生部31を有したエミッタ3と、そのエミッタ3を両端方向に対して移動自在に支持する可動自在な支持部4と、エミッタ3の電子発生部31の外周側に設けられたガード電極5と、を備えている。
【0027】
エミッタ3においては、前述のように電子発生部31を有し、電圧印加により電子発生部31から電子を発生し、図示するように電子線L1を放出できるもの(放射体)であれば、種々の形態を適用することが可能である。具体例としては、例えば炭素等(カーボンナノチューブ等)の材料を用いてなるものであって、図示するように塊状に成形された、または薄膜状に蒸着させたエミッタ3を適用することが挙げられる。電子発生部31においては、ターゲットユニット70(後述するターゲット7)に対向する側の表面を凹状(曲面状)にして、電子線L1を集束し易くすることが好ましい。
【0028】
支持部4においては、前述のようにエミッタ3を両端方向に対して移動自在に支持できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。具体例としては、ガード電極5の内側において両端方向に延在した柱状で当該柱状一端側(開口21側)にフランジ部41が形成され他端側(開口22側)にてエミッタ3を支持(例えば、エミッタ3における電子発生部31の反対側を、かしめや溶着等により固着して支持)する支持体42と、両端方向に伸縮自在で真空容器11に支持(例えば図示するようにガード電極5を介して絶縁体2に支持)されたベローズ43と、を備えた構成が挙げられる。このように支持体42,ベローズ43を備えた支持部4の場合、ベローズ43の伸縮により支持体42が両端方向に移動し、その結果、エミッタ3も両端方向に移動することになる。また、支持部4は、種々の材料を適用して構成することができ、特に限定されるものではないが、例えばステンレス(SUS材等)や銅等のように導電性の金属材料を用いてなるものが挙げられる。
【0029】
ベローズ43は、前述のように両端方向に伸縮自在なものであれば、種々の形態を適用することが可能であり、例えば薄板状金属材料等を適宜加工して成形されたものが挙げられる。具体例としては、図示するように、支持体42の外周側を包囲するように両端方向に延在する蛇腹状筒壁44を有した構成が挙げられる。
【0030】
また、図中のベローズ43の支持構成の場合、一端側が支持体42のフランジ部41に蝋付け等により取り付けられ、他端側がガード電極5の内側(内周面)に蝋付け等により取り付けられて、真空室1と大気側(真空容器11外周側)とを区分し当該真空室1を気密に保持できる構成となっているが、これに限定されるものではない。すなわち、ベローズ43の一端側が支持部4に支持(例えばフランジ部41や支持体42に支持)され、他端側が真空容器11に支持(例えばガード電極5の内側や後述のフランジ部50に支持)され、前述のように両端方向に伸縮自在であって、真空室1と大気側(真空容器11外周側)とを区分し当該真空室1を気密に保持できる構成(真空容器11の一部を形成する構成)であれば、種々の形態を適用することが可能である。
【0031】
ガード電極5においては、前述のようにエミッタ3の電子発生部31の外周側に設けられたものであって、支持部4の可動によって移動するエミッタ3の電子発生部31が接離し、当該ガード電極5にエミッタ3が接触した状態の場合(例えば
図1に示す状態の場合)に、当該エミッタ3から放出される電子線L1の分散を抑制できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。
【0032】
ガード電極5の具体例としては、例えばステンレス等(SUS材等)の材料を用いてなり、エミッタ3の外周側で真空室1の両端方向に延在した筒状で、両端方向の一端側に形成されたフランジ部50を介して絶縁体2の開口21の端面21aに支持され、当該両端方向の他端側(すなわち後述のターゲット7側)がエミッタ3と接離する構成が挙げられる。
【0033】
このガード電極5のエミッタ3と接離する構成は、特に限定されるものではない。例えば
図3に示すように両端方向の他端側に小径部51を形成した構成であっても良いが、
図1,
図2に示したように、真空室1の横断方向に延出し当該真空室1の両端方向においてエミッタ3の電子発生部31の周縁部31aと交叉する縁部52が形成された構成も挙げられる。また、小径部51および縁部52の両方を形成した構成(例えば後述の
図4〜
図7)も挙げられる。
【0034】
このような接離構成のガード電極5を備えた場合、支持部4の可動により、エミッタ3が当該ガード電極5の内側(筒状内壁側)において両端方向に移動し、エミッタ3の電子発生部31が小径部51あるいは縁部52に接離することになる。
【0035】
また、縁部52を備えた構成の場合には、当該ガード電極5にエミッタ3が接触する場合に、電子発生部31の周縁部31aが、縁部52よって覆われて保護されることになる。さらに、縁部52により、エミッタ3の両端方向の移動のうち、他端側への移動が規制される。すなわち、放電位置(またはガード電極5)に対するエミッタの位置決めが容易となる。
【0036】
図中のガード電極5の場合、一端側から他端側に近づくに連れて階段状に縮径された形状により、当該ガード電極5の内側に段差部53が形成されている。このような段差部53に前記ベローズ43の他端側を取り付けることにより、当該取付作業が容易となり、その取付構造も安定したものとなる。また、前述のように一端側から他端側に近づくに連れて縮径された形状によれば、エミッタ3の電子発生部31が、小径部51あるいは縁部52に向かって案内されながら、ガード電極5の内側を移動することにもなる。
【0037】
また、図中のガード電極5のように、当該ガード電極5の内側にベローズ43を収容できる構成であれば、そのベローズ43に対する真空容器11の外周側からの衝撃等を抑制(ベローズ43を保護し損傷等を抑制)することが可能となる。さらに、X線装置10の小型化にも貢献できる。なお、図中のガード電極5の場合、外周側にゲッター54が溶接等により取り付けられているが、そのゲッター54の取付位置や材質等は特に限定されるものではない。
【0038】
また、エミッタ3の電子発生部31の周縁部31aの見かけ上の曲率半径を大きくなるようにし、電子発生部31(特に周縁部31a)で起こり得る局部的な電界集中を抑制したり、その電子発生部31から他の部位に対する閃絡を抑制できる形状とすることが挙げられる。例えば、図示するガード電極5のように、両端方向の他端側に凸の曲面部51aを有した形状が挙げられる。
【0039】
次に、ターゲットユニット70は、エミッタ3の電子発生部31に対向するターゲット7と、絶縁体2の開口22の端面22aに支持されるフランジ部70aと、を備えている。
【0040】
ターゲット7においては、エミッタ3の電子発生部31から放出された電子線L1が衝突し、図示するようにX線L2等を放出できるものであれば、種々の形態を適用することが可能である。図中のターゲット7においては、エミッタの電子発生部31に対向する部位に、電子線L1に対して所定角度で傾斜する交差方向に延在した傾斜面71が形成されている。この傾斜面71に電子線L1が衝突することにより、X線L2は、電子線L1の照射方向から折曲した方向(例えば図示するように真空室1の横断面方向)に、照射されることになる。
【0041】
グリッド電極8においては、前述のようにエミッタ3とターゲット7との間に介在し、当該グリッド電極8を通過する電子線L1を適宜制御できるものであれば、種々の形態のものを適用することが可能である。例えば図示するように、真空室1の横断方向に延在し電子線L1が通過する通過孔81aを有した電極部(例えばメッシュ状の電極部)81と、絶縁体2を貫通(真空室1横断方向に貫通)する引出端子82と、を備えた構成が挙げられる。
【0042】
以上示したように構成されたX線装置10によれば、支持部4を適宜操作することにより、エミッタ3の電子発生部31とターゲット7との間の距離を変化させることができる。例えば
図2に示したように当該電子発生部31が放電位置から無放電位置に移動し電界放射を抑制された状態であれば、ガード電極5,ターゲット7,グリッド電極8等において所望の改質処理が可能となる。また、例えば前述の大口径排気管を設けた従来装置と比較すると、小型化することが容易であり、製造工数の低減や製品コストの低減を図ることも可能となる。
【0043】
≪X線装置10のガード電極等の改質処理の一例≫
前述のX線装置10のガード電極5を改質処理する場合、まず、支持部4を操作して、
図2に示すようにエミッタ3を開口21側に移動(無放電位置に移動)し、電子発生部31の電界放射を抑制した状態にする。この場合、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52(なお、
図3の場合は小径部51)との両者は、互いに離反(エミッタ3を無放電位置(放電電界以下)に移動)した状態となる。この
図2に示すような状態であれば、例えばガード電極5とグリッド電極8(引出端子82等)との間に所望の電圧を適宜印加することにより、ガード電極5において放電が繰り返され、当該ガード電極5が改質処理(例えばガード電極5の表面が溶解平滑化)されることになる。
【0044】
前述の改質処理の後は、再び支持部4を操作し、
図1に示すようにエミッタ3を開口22側に移動(放電位置に移動)し、電子発生部31の電界放射が可能な状態にする。エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52との両者は、
図1に示すように互いに接触(例えば真空室1の真空圧力で接触)した状態となる。この
図1に示すような状態で、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5とが互いに同電位で、例えばエミッタ3とターゲット7との間に所望の電圧を印加することにより、エミッタ3の電子発生部31から電子が発生して電子線L1が放出され、その電子線L1がターゲット7に衝突することにより、そのターゲット7からX線L2が放出される。
【0045】
以上示したような改質処理により、X線装置10においてガード電極5からの閃絡現象(電子の発生)を抑制することができ、当該X線装置10の電子発生量を安定させることができる。また、電子線L1を集束形電子束とすることができ、X線L2の焦点も収束し易くなり、高い透視分解能を得ること可能となる。
【0046】
≪電界放射装置の実施例2≫
図1,
図2に示したX線装置10においては、ベローズ43等を有する支持部4を備えた構成となっているが、例えば
図4,
図5に示すX線装置10Aのように、磁気吸引力を利用した支持部4Aを備えた構成であっても、X線装置10と同様の作用効果を奏することが可能である。なお、
図4,
図5において、
図1〜
図3と同様のものには同一符号を付する等により、その詳細な説明を適宜省略する。
【0047】
図4,
図5に示すX線装置10Aにおいては、絶縁体2の一端側の開口21がエミッタユニット30Aにより封止されて、真空室1を有した真空容器11Aが構成されている。エミッタユニット30Aは、ターゲットユニット70(ターゲット7)に対向する部位に電子発生部31を有したエミッタ3と、そのエミッタ3を両端方向に対して移動自在に支持する支持部4Aと、エミッタ3の電子発生部31の外周側に設けられたガード電極5と、を備えている。
【0048】
支持部4Aは、主に、ガード電極5の内側において両端方向に延在した柱状(エミッタ3の電子発生部31の反対側から延出した形状)で当該柱状一端側(開口21側;延出方向側)に磁性体45Aが設けられ他端側(開口22側)にてエミッタ3を支持する支持体46と、支持体46の移動に伴う磁性体45Aの軌道領域45Aaを包囲した周壁部47と、周壁部47の外壁面47aに設けられた磁石(例えば図示するように周壁部47を挟んで磁性体45Aと対向した位置における当該周壁部47の外壁面47aに設けられた磁石)48と、を備えた構成となっている。
【0049】
支持体46とガード電極5との間には、ガード電極5よりも小径の同心状で両端方向に延在した筒体であって、当該筒体軸心側に支持体46が貫通したガイド部40が設けられている。このガイド部40により、支持体46は、外周面46aが摺動自在に支持され、両端方向に案内されながら移動できる構成となっている。支持体46やガイド部40においては、種々の材料を適用して構成することができ、特に限定されるものではないが、例えば非磁性材料(例えばステンレス(SUS材等)や銅等のような金属材料)を用いてなるものが挙げられる。ガイド部40には、例えばモリブデンやセラミック等の材料を適用することが挙げられる。
【0050】
磁性体45Aは、磁石48の磁力を受け磁気吸引力により互いに引っ張り合うものであれば、種々の形態を適用することができ、その材料や形状等は特に限定されるものではないが、その一例としては鉄やSUS等の磁性材料を適用することが挙げられる。
図4,
図5においては、支持体46の一端側と略同径の柱状の磁性体45Aが設けられた構成となっている。
【0051】
周壁部47は、支持体46および磁性体45Aの移動や、磁性体45Aに対する磁石48の磁力を妨げることなく、軌道領域45Aaを包囲できるものであれば、種々の形態を適用することができる。例えば
図4,
図5に示す周壁部47のように、真空容器11Aにおいて支持体46の延出方向側と対向する位置(磁性体43Aと対向する側)から当該真空容器11A外側に膨出した有底筒状の形態が挙げられる。具体的に
図4,
図5の周壁部47の場合、ガード電極5と略同径の有底筒状であって、当該有底筒状の開口47b側により、ガード電極5のフランジ部50側の開口50a側を封止した構成(真空室1を気密に保持できる構成)となっている。
【0052】
磁石48は、当該磁石48の磁力が、周壁部47の内壁面47c側に位置する磁性体45Aに対して作用し、磁気吸引力を発生させて互いに引っ張り合うものであって、当該磁気吸引力により外壁面47aに着脱自在(外壁面47aにおいて両端方向にスライド移動自在)に設けられるものであれば、種々の形態のものを適用することができる。例えば永久磁石のように種々の金属材料あるいは合金材料からなり、所望の磁力を有するものが挙げられる。また、外壁面47aに設ける磁石48の個数も、特に限定されるものではなく、当該個数が複数の場合(分割永久磁石等の場合)には、各磁石48を外壁面47aの周方向に沿って互いに所定間隔を隔てて配置することが挙げられる。
【0053】
ここで、X線装置10Aの磁性体45A,周壁部47,磁石48においては、例えば関係式t1≦t≦t2(以下、単に関係式Tと適宜称する)を満たすように設定することが挙げられる。X線装置10Aの場合の関係式Tのt1は、磁性体45Aの軌道領域45Aaと、当該軌道領域45Aaに対向した位置における周壁部47の外壁面47aと、の両者間の距離とし、t2は、磁石48の磁力が磁性体45Aに対して作用し磁気吸引力が発生する最長距離とし、tは、磁石48と磁性体45Aとの両者間の最短距離とする。関係式Tを満たすには、例えば、磁性体45Aの対応磁気面積と磁石48の磁力の大きさとによって磁気吸引力を求め、その求めた磁気吸引力に合わせて周壁部47の肉厚寸法等を適宜設定することが挙げられる。
【0054】
このようにX線装置10Aにおいて関係式Tを満たす場合、磁石48は外壁面47aに対し磁気吸引力によって着脱自在に設けられ、その外壁面47aに設けられた磁石48を当該外壁面47aに沿ってスライド移動(例えば側部47dの外壁面47aに沿って両端方向にスライド移動)することも可能となる。このように磁石48をスライド移動した場合、当該スライド移動方向(両端方向)に対する荷重が磁性体45Aに加わって支持体46が移動(ガイド部40によって案内されながら移動)することになる。
【0055】
また、前述のように外壁面47aに沿った磁石48のスライド移動を容易にするには、当該外壁面47aを平滑にすることが挙げられる。
【0056】
≪X線装置10Aのガード電極等の改質処理の一例≫
前述のX線装置10Aのガード電極5を改質処理する場合、支持部4Aを以下に示すように適宜操作する。まず、周壁部47の外壁面47aに設けられた磁石48を、
図5に示すように側部47dにおける外壁面47aの底部47e側に配置(例えば手作業により適宜スライド移動し、無放電位置面47aaに配置)し、磁性体45Aを支持体46と共に当該底部47e側に移動させておくことにより、エミッタ3を開口21側に移動(無放電位置に移動)する。これにより、電子発生部31の電界放射が抑制された状態であって、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52(なお、
図4,
図5の場合は小径部51)との両者が互いに離反(エミッタ3を無放電位置(放電電界以下)に移動)した状態となる。この
図5に示したような状態で、ガード電極5とグリッド電極8(引出端子82等)との間に所望の電圧を適宜印加することにより、ガード電極5において放電が繰り返され、当該ガード電極5が改質処理(例えばガード電極5の表面が溶解平滑化)されることになる。
【0057】
前述の改質処理の後は、
図4に示すように、磁石48を、側部47dの外壁面47aに沿って底部47e側から開口47b側にスライド移動(例えば中立位置面47abを通過して放電位置面47acに配置)することにより、磁性体45Aを支持体46と共に当該開口47b側に移動(磁性体45Aを、周壁部47を挟んで磁石48と対向する位置に移動)させて、エミッタ3を開口22側に移動(放電位置に移動)する。これにより、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52との両者は、
図4に示すように互いに接触し、電子発生部31の電界放射が可能な状態となる。
【0058】
この
図4に示したような状態で、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5とが互いに同電位で、例えばエミッタ3とターゲット7との間に所望の電圧を印加することにより、エミッタ3の電子発生部31から電子が発生して電子線L1が放出され、その電子線L1がターゲット7に衝突することにより、そのターゲット7からX線L2が放出される。
【0059】
したがって、X線装置10Aにおいても、以上示したような改質処理により、ガード電極5からの閃絡現象(電子の発生)を抑制することができ、当該X線装置10Aの電子発生量を安定させることができる。また、電子線L1を集束形電子束とすることができ、X線L2の焦点も収束し易くなり、高い透視分解能を得ること可能となる。
【0060】
≪電界放射装置の実施例3≫
図6,
図7に示すX線装置10Bのように、対応磁気面積の大きい磁性体45Bを利用した支持部4Bを備えた構成であっても、X線装置10,10Aと同様の作用効果を奏することが可能である。なお、
図6,
図7において、
図1〜
図5と同様のものには同一符号を付する等により、その詳細な説明を適宜省略する。
【0061】
図6,
図7に示すX線装置10Bおいては、絶縁体2の一端側の開口21がエミッタユニット30Bにより封止されて、真空室1を有した真空容器11Bが構成されている。エミッタユニット30Bは、ターゲットユニット70(ターゲット7)に対向する部位に電子発生部31を有したエミッタ3と、そのエミッタ3を両端方向に対して移動自在に支持する支持部4Bと、エミッタ3の電子発生部31の外周側に設けられたガード電極5と、を備えている。
【0062】
支持部4Bは、主に、支持体46と、支持体46の一端側(開口21側;延出方向側)に設けられたものであって当該一端側よりも大径(
図6,
図7では、ガード電極5の開口50aよりも大径)の形状の磁性体45Bと、支持体46と共に移動する磁性体45Bの軌道領域45Baを包囲した周壁部49と、周壁部49を挟んで磁性体45Bと対向した位置における当該周壁部49の外壁面49aに設けられた磁石48と、を備えた構成となっている。
【0063】
磁性体45Bは、磁性体45Aと同様に、磁石48の磁力を受け磁気吸引力により互いに引っ張り合うものであれば、種々の形態を適用することができる。
図6,
図7の磁性体45Bの場合、支持体46の一端側よりも大径であって対応磁気面積が大きく、磁石48の磁力を受け易くした構成となっている。
【0064】
周壁部49は、支持体46および磁性体45Bの移動や、磁性体45Bに対する磁石48の磁力を妨げることなく、軌道領域45Baを包囲できるものであれば、種々の形態を適用することができる。
図6,
図7の周壁部49の場合、周壁部47と同様に、真空容器11Bにおいて支持体46の延出方向側と対向する位置(磁性体45Bと対向する側)から当該真空容器11B外側に膨出した有底筒状であって、当該有底筒状の開口49b側により、ガード電極5のフランジ部50側の開口50a側を封止した構成(真空室1を気密に保持できる構成)となっている。
【0065】
また、周壁部49は、側部49dが磁性体45Bよりも大径の形状であり、開口49b側が磁性体45Bよりも小径の形状となっている。これにより、真空容器11Bにおいて、周壁部49の軌道領域45Baとエミッタ3との間の位置に、磁性体45Bよりも小径の狭小部(
図6,
図7では、外壁面が横断面凹字状の環状狭小部)49fが形成され、その狭小部49fの外壁面49aに磁石48を配置できる構成となっている。
【0066】
ここで、X線装置10Bの磁性体45B,周壁部49,磁石48においては、例えばX線装置10Aと同様に関係式Tを満たすように設定することが挙げられる。X線装置10Bの場合の関係式Tのt1は、磁性体45Bの軌道領域45Baと、当該軌道領域45Baに対向した位置における周壁部49の外壁面49aと、の両者間の距離とし、t2は、磁石48の磁力が磁性体45Bに対して作用し磁気吸引力が発生する最長距離とし、tは、磁石48と磁性体45Bとの両者間の最短距離とする。
【0067】
このようにX線装置10Bにおいて関係式Tを満たす場合、磁石48は外壁面49aに対し磁気吸引力によって着脱自在に設けられ、その外壁面49aに設けられた磁石48を当該外壁面49aに沿ってスライド移動することも可能となる。このように磁石48をスライド移動した場合、当該スライド移動方向(両端方向)に対する荷重が磁性体45Bに加わって支持体46が移動(ガイド部40によって案内されながら移動)することになる。
【0068】
また、外壁面49aにおいては、外壁面47aと同様に平滑にして磁石48のスライド移動を容易にすることが挙げられる。さらに、狭小部49fの内壁面49cと磁性体45Bの軌道領域45Baとの両者間にギャップGを形成し、当該両者間の真空凝着(金属管の真空凝着)を抑制した構成としても良い。
【0069】
≪X線装置10Bのガード電極等の改質処理の一例≫
前述のX線装置10Bのガード電極5を改質処理する場合、支持部4Bを以下に示すように適宜操作する。まず、周壁部49の外壁面49aに設けられた磁石48を、
図7に示すように底部49eにおける外壁面49aに配置(例えば手作業により適宜スライド移動し、無放電位置面49aaに配置)し、磁性体45Bを支持体46と共に当該底部49e側に移動させ、エミッタ3を開口21側に移動(無放電位置に移動)する。これにより、電子発生部31の電界放射が抑制された状態であって、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52(なお、
図6,
図7の場合は小径部51)との両者が互いに離反(エミッタ3を無放電位置(放電電界以下)に移動)した状態となる。この
図7に示したような状態で、ガード電極5とグリッド電極8(引出端子82等)との間に所望の電圧を適宜印加することにより、ガード電極5において放電が繰り返され、当該ガード電極5が改質処理(例えばガード電極5の表面が溶解平滑化)されることになる。
【0070】
前述の改質処理の後は、
図6に示すように、磁石48を、外壁面49aに沿って底部49e側から狭小部49f側にスライド移動(例えば中立位置面49abを通過して放電位置面49acに配置)することにより、磁性体45Bを支持体46と共に当該開口49b側に移動(磁性体45Bを、周壁部49を挟んで磁石48と対向する位置に移動)させて、エミッタ3を開口22側に移動(放電位置に移動)する。
【0071】
これにより、電子発生部31の電界放射が可能な状態であって、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52との両者は、
図6に示すように互いに接触した状態となる。また、
図6に示したように磁石48を狭小部49fの外壁面49a(
図6では放電位置面49ac)に配置したことにより、磁気吸引力が両端方向に作用することになり、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5の縁部52との両者間の接触力が、例えばX線装置10Aよりも得られ易くなる。
【0072】
この
図6に示したような状態で、エミッタ3の電子発生部31とガード電極5とが互いに同電位で、例えばエミッタ3とターゲット7との間に所望の電圧を印加することにより、エミッタ3の電子発生部31から電子が発生して電子線L1が放出され、その電子線L1がターゲット7に衝突することにより、そのターゲット7からX線L2が放出される。
【0073】
したがって、X線装置10Bにおいても、以上示したような改質処理により、ガード電極5からの閃絡現象(電子の発生)を抑制することができ、当該X線装置10Bの電子発生量を安定させることができる。また、電子線L1を集束形電子束とすることができ、X線L2の焦点も収束し易くなり、高い透視分解能を得ること可能となる。
【0074】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0075】
例えば、改質処理の具体例としてはガード電極5に係る内容を示したが、ターゲット7やグリッド電極8においても、
図2,
図5,
図7に示すような状態で所望の電圧を適宜印加することにより、当該ターゲット7やグリッド電極8において放電を繰り返し改質処理(例えば表面が溶解平滑化)することができ、当該ガード電極5の改質処理の場合と同様の作用効果を奏することが可能となる。
【0076】
したがって、本発明による電界放射装置においては、支持部の操作によりエミッタの電子発生部とガード電極との両者を互いに離反した状態で、ガード電極に電圧を印加することにより、真空室内の少なくともガード電極を改質処理でき、当該電界放射装置において所望の耐電圧を得ることが可能となる。
【0077】
また、本発明の電界放射装置は、電子線のターゲットへの衝突等により熱を発生する場合には、冷却機能を用いて当該電界放射装置を冷却できる構成としても良い。冷却機能は、空冷,水冷,油冷等の種々の方式のものを適用することが挙げられる。当該油冷方式の冷却機能の場合には、例えば所定容器内の冷却用油中に電界放射装置を浸漬させた構成が挙げられ、また、当該浸漬状態において冷却用油の脱泡処理(真空ポンプ等を用いた処理)等を適宜行うことも挙げられる。
【0078】
支持部においては、例えば真空室の真空圧力が作用することになるが、当該支持部を操作することによりエミッタを真空室の両端方向に対し移動自在に支持できるものであれば、種々の態様を適用することが可能である。
【0079】
例えば、支持部を操作して真空室の両端方向に可動し、エミッタが放電位置や無放電位置等の所望位置に移動した場合に節度感(クリック感)が得られる構成であれば、当該支持部の操作時にエミッタの位置を把握することが容易になったり、当該支持部の操作性が向上する等、種々貢献することが可能となる。
【0080】
また、前述のように所望位置に位置した状態のエミッタを適宜固定できる固定手段を備えた構成であれば、例えば意に反する外部からの力(前述の油冷方式の冷却機能を備えた構成の場合には、冷却用油の脱泡処理時に支持部に対して作用し得る真空ポンプの吸引力等)が作用したとしても、当該エミッタが所望位置から移動することを抑制でき、電界放射装置による電界放射やガード電極等の改質処理をそれぞれ適確に実現できるように貢献可能となる。この固定手段は、特に限定されるものではなく、種々の態様のものを適用することが可能であるが、前述のX線装置10,10A,10Bを例にして説明すると、支持部4の両端方向の移動や磁石48のスライド移動方向の移動を螺子止め等により固定することが可能なストッパーが挙げられる。