(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボイラの負荷を上昇させる場合、前記ボイラに供給される空気量の設定値を先に上昇させてから前記ボイラに供給される燃料の設定値を上昇させる制御を行い、前記ボイラの負荷を降下させる場合、前記ボイラに供給される燃料の設定値を先に降下させてから前記ボイラに供給される空気量の設定値を降下させる制御を行うエアリッチ制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃焼制御装置。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラの燃焼プロセスに関する技術では、省エネルギと公害防止を両立させるために様々な制御方法が試みられている。例えば、ボイラの主蒸気流量から空気過剰率の特性を設定する信号に対して、一酸化炭素(CO)濃度から求めた酸素(O
2)濃度の補正量を加算した空気設定信号を用いて空気流量を調節することにより、低空気過剰率での最適制御を行う技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。空気過剰率は、実際にボイラに投入される空気量の理論空気量に対する比率として定義され、空気比とも呼ばれる。ここで理論空気量とは、単位燃料あたりの燃焼に必要な最小の空気量のことである。特許文献1に記載の技術では、COが一定値以上発生した場合は空気過剰率を上昇させてCO濃度を抑制し、黒煙等のばい煙の発生を防止している。
【0003】
図8は、空気過剰率と熱損失/熱効率との関係を模式的に示す図である。
図8において、直線101は過剰空気による熱損失を示し、曲線102は不完全燃焼による熱損失を示している。直線101によれば、空気過剰率が1より大きくなればなるほど、過剰な空気の排出量が増えるため熱損失が大きくなって燃料代のコストも上昇する。一方、曲線102によれば、空気過剰率が小さいと不完全燃焼が生じてCO発生による熱損失が大きくなり、ある閾値を超えるとばい煙が発生する。
【0004】
図8において、破線で記載された曲線201は、ボイラの熱効率を示している。曲線201によれば、熱効率は、過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失が同程度である空気過剰率を含む領域D
1で最大となり、空気過剰率が領域D
1から離れるほど小さくなる。したがって、理論的には、領域D
1で燃焼制御を行えば最も効率よくボイラを動作させることができる。以下、
図8に示す領域D
1を超希薄空気燃焼領域という。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の技術は、O
2濃度を主たる制御対象とし、CO濃度についてはその上昇を抑制する制御を行っているに過ぎない。すなわち、特許文献1に記載の技術は、
図8に示す超希薄空気燃焼領域D
1より空気過剰率が大きい領域の中で比較的空気過剰率が小さい領域D
2(以下、通常最適燃焼領域D
2という)における制御を基本としつつ、CO濃度上昇時に超希薄空気燃焼領域D
1と通常最適燃焼領域D
2との境界付近での制御を行っているに過ぎない。このため、特許文献1に記載の技術は、排ガスの熱損失を十分に抑制しているとはいい難かった。
【0007】
また、特許文献1に記載の技術の場合、CO濃度からO
2濃度の補正量を求める際の両者の関係がボイラの種類や、ボイラ負荷等の条件によって異なるため、それらの条件に応じてO
2濃度の補正量を正確に設定することは困難であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ボイラの種類や負荷によらず排ガスの熱損失を簡単に抑制することができる燃焼制御装置、燃焼制御方法、燃焼制御プログラムおよびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る燃焼制御装置は、ボイラにおける燃料の燃焼を制御する燃焼制御装置であって、前記ボイラからの主蒸気流量に基づいて前記ボイラに投入する空気量の理論空気量に対する比率である空気過剰率を設定する空気過剰率設定部と、前記ボイラからの排ガス中の酸素濃度および一酸化炭素濃度に基づいて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを略等しくするための前記空気過剰率の補正量を算出する空気過剰率補正量算出部と、前記補正量により補正した空気過剰率と前記排ガス中の酸素濃度に基づいて前記空気量の設定値を補正する空気設定補正信号を生成する酸素制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記空気過剰率補正量算出部は、前記過剰空気による熱損失を算出する第1熱損失算出式と前記不完全燃焼による熱損失を算出する第2熱損失算出式とを用いて前記空気過剰率の補正量を算出することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記空気過剰率補正量算出部は、前記第1熱損失算出式から前記ボイラの排ガス
流量を除いた第1簡素化熱損失算出式および前記第2熱損失算出式から前記ボイラの排ガス流量を除いた第2簡素化熱損失算出式を用いて前記空気過剰率の補正量を算出することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記第1熱損失算出式は、前記排ガス中の一酸化炭素濃度が規制値を超えなくするための定数である不完全燃焼ファクタを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記空気過剰率補正量算出部は、設定された一酸化炭素排出量の規制値に基づく一酸化炭素排出量の上限の熱損失を算出する第3熱損失算出式をさらに用いて前記空気過剰率の補正量を算出することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記空気過剰率補正量算出部は、前記第3熱損失算出式から前記ボイラの排ガス
流量を除いた第3簡素化熱損失算出式をさらに用いて前記空気過剰率の補正量を算出することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記ボイラの負荷と前記空気過剰率との関係を示す空気過剰率特性を記憶する空気過剰率特性記憶部をさらに備え、前記空気過剰率設定部は、前記空気過剰率特性を参照して前記空気過剰率を設定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る燃焼制御装置は、上記発明において、前記ボイラの負荷を上昇させる場合、前記ボイラに供給される空気量の設定値を先に上昇させてから前記ボイラに供給される燃料の設定値を上昇させる制御を行い、前記ボイラの負荷を降下させる場合、前記ボイラに供給される燃料の設定値を先に降下させてから前記ボイラに供給される空気量の設定値を降下させる制御を行うエアリッチ制御部をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る燃焼制御方法は、ボイラにおける燃料の燃焼を制御する燃焼制御方法であって、前記ボイラからの主蒸気流量に基づいて前記ボイラに投入する空気量の理論空気量に対する比率である空気過剰率を設定する空気過剰率設定ステップと、前記ボイラからの排ガス中の酸素濃度および一酸化炭素濃度に基づいて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを略等しくするための前記空気過剰率の補正量を算出する空気過剰率補正量算出ステップと、前記補正量により補正した空気過剰率と前記排ガス中の酸素濃度に基づいて前記空気量の設定値を補正する空気設定補正信号を生成する酸素制御ステップと、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る燃焼制御プログラムは、ボイラにおける燃料の燃焼を制御する燃焼制御装置に、前記ボイラからの主蒸気流量に基づいて前記ボイラに投入する空気量の理論空気量に対する比率である空気過剰率を設定する空気過剰率設定ステップと、前記ボイラからの排ガス中の酸素濃度および一酸化炭素濃度に基づいて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを略等しくするための前記空気過剰率の補正量を算出する空気過剰率補正量算出ステップと、前記補正量により補正した空気過剰率と前記排ガス中の酸素濃度に基づいて前記空気量の設定値を補正する空気設定補正信号を生成する酸素制御ステップと、を実行させることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る、実行可能なプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、実行可能なプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記プログラムは、プロセッサに以下を実行するように指示する:ボイラからの主蒸気流量に基づいて前記ボイラに投入する空気量の理論空気量に対する比率である空気過剰率を設定し、前記ボイラからの排ガス中の酸素濃度および一酸化炭素濃度に基づいて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを略等しくするための前記空気過剰率の補正量を算出し、前記補正量により補正した空気過剰率と前記排ガス中の酸素濃度に基づいて前記空気量の設定値を補正する空気設定補正信号を生成する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ボイラからの排ガス中の酸素濃度および一酸化炭素濃度に基づいて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを略等しくするための空気過剰率の補正量を算出するため、ボイラの種類や負荷によらず排ガスの熱損失を簡単に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る燃焼制御装置を含む燃焼システムの概略構成を示す図である。同図に示す燃焼システム1は、燃料を燃焼させて蒸気を生成する一方、燃料の燃焼によって生じる排ガス(燃焼ガス)を煙突等の排出路を介して排出するボイラ2と、燃焼システム1の動作を統括して制御する燃焼制御装置3と、を備える。燃焼システム1は、ボイラ2へ流入する燃料流量および空気流量、ボイラ2の蒸気出口における主蒸気流量および主蒸気圧力、ボイラ2の排ガス出口における排ガスの温度、O
2濃度およびCO濃度、ならびにボイラ2の周囲の温度、をそれぞれ計測するまたは設定する各種計器を有する。また、ボイラ2へ投入する空気流量は、燃焼制御装置3の制御のもと、インバータまたは空気ダンパによって調整される。なお、本実施の形態1において、ボイラ2の種類は特に制限されない。
【0024】
図2は、本実施の形態1に係る燃焼制御装置3の機能構成を示すブロック図である。同図に示す燃焼制御装置3は、ボイラマスタ制御部4、燃料制御部5、空気制御部6、エアリッチ制御部7、空気過剰率特性記憶部8、空気過剰率設定部9、空気過剰率補正量算出部10、O
2制御部(酸素制御部)11、空気過剰率下限制御部12、加算器13、14、およびハイセレクタ15を備える。
【0025】
ボイラマスタ制御部4は、主蒸気流量および主蒸気圧力の計測値に基づいてボイラ2の動作すなわちボイラ2の出力の増減を決定するボイラマスタ信号を生成し、エアリッチ制御部7に出力する。ボイラマスタ信号は、主蒸気圧力を一定とするようにボイラ2を制御する信号であり、空気流量および燃料流量の設定信号が含まれる。
【0026】
燃料制御部5は、ボイラマスタ信号に基づいて設定される燃料流量の設定信号(以下、燃料設定信号という)を目標として燃料流量の制御を行う。燃料制御部5は、例えばPID調節器を用いて構成され、燃料をボイラ2へ投入する燃料弁の開度を調整する信号を出力する。
【0027】
空気制御部6は、ボイラマスタ信号および後述するO
2制御部11のO
2濃度補正信号に基づいて設定される空気流量の設定信号(以下、空気設定信号という)を目標として空気流量の制御を行う。空気制御部6は、空気設定信号に応じてインバータや空気ダンパを制御する制御信号を出力する。空気用の制御信号は、ハイセレクタ15へ出力される。空気制御部6は、例えばPID調節器を用いて構成される。
【0028】
エアリッチ制御部7は、ボイラ2のボイラ負荷を変動させる際、O
2濃度を上昇させるとともにCO濃度を例えば略ゼロとして空気過剰とするエアリッチ制御を行う。エアリッチ制御部7は、燃料と空気の応答性の違いを利用した制御を行う。具体的には、エアリッチ制御部7は、ボイラ負荷を上昇させる場合、ボイラ2に供給される空気量の設定値を先に上昇させてからボイラ2に供給される燃料の設定値を上昇させる制御を行う。また、エアリッチ制御部7は、ボイラ負荷を降下させる場合、ボイラ2に供給される燃料の設定値を先に降下させてからボイラ2に供給される空気量の設定値を降下させる制御を行う。このような制御を行うことにより、ボイラ負荷が変動する際に大規模な不完全燃焼が発生するのを防止し、黒煙の発生を抑制することができる。なお、エアリッチ制御部7は、ボイラ負荷が変動しない場合、ボイラマスタ信号に含まれる空気設定信号および燃料設定信号を出力する。
【0029】
空気過剰率特性記憶部8は、ボイラ負荷に応じた空気過剰率を記憶する。
図3は、空気過剰率特性記憶部8が記憶する空気過剰率特性を模式的に示す図である。
図3に示す空気過剰率特性の場合、ボイラ負荷が大きいほど空気過剰率が小さい。なお、
図3に示す空気過剰率特性はあくまでも一例に過ぎず、ボイラ2の種類等に応じて異なることはいうまでもない。空気過剰率特性として、例えばボイラ2の試運転を行う際に各種計測を行うことによって決定した特性を適用してもよいし、ボイラ2の種類に応じた所定の特性を適用してもよい。
【0030】
空気過剰率設定部9は、主蒸気流量の計測値を用いてボイラ負荷を算出し、空気過剰率特性記憶部8が記憶する空気過剰率特性を参照してそのボイラ負荷に応じた空気過剰率を算出して加算器13へ出力する。
【0031】
空気過剰率補正量算出部10は、O
2濃度の計測値を用いて過剰空気による熱損失に相当する量を算出するとともに、CO濃度の計測値を用いて不完全燃焼による熱損失に相当する量を算出し、この2つの量を比較することによって空気過剰率の補正量を算出する。以下、過剰空気による熱損失および不完全燃焼による熱損失について説明した後、それらの熱損失と空気過剰率補正量算出部10が実際に算出する量との関係を説明する。
【0032】
過剰空気による熱損失L
AIRは、次式(1)で与えられる(第1熱損失算出式の例)。
L
AIR=C
PA・(T
O−T
I)・(G・D(O
2)/0.21)・α ・・・(1)
ここで、C
PAは空気の比熱(=1.3[kJ/Nm
3・K])、T
Oはボイラ2の周囲の空気温度(℃)、T
Iはボイラ2の排ガス温度(℃)、Gは排ガス流量(Nm
3/h)、D(O
2)は排ガス中のO
2濃度、αは1より小さい定数として定義される不完全燃焼ファクタである。不完全燃焼ファクタαの意味については後述する。
【0033】
不完全燃焼による熱損失L
COは、次式(2)で与えられる(第2熱損失算出式の例)。
L
CO=G・D(CO
out)・H
CO ・・・(2)
ここで、D(CO
out)は排ガス中のCO濃度であり、H
COはCOの熱量(=12634[kJ/Nm
3])である。
【0034】
図4は、不完全燃焼ファクタαの意味を説明する図であり、超希薄空気燃焼領域付近を拡大した図である。超希薄空気燃焼領域D
1では、通常のボイラ排ガスCO濃度規制下において、不完全燃焼による熱損失が過剰空気による熱損失と比較して相対的に小さいので、式(1)で不完全燃焼ファクタαを除いた通常の意味での過剰空気による熱損失と式(2)で与えられる不完全燃焼による熱損失が等しい交点PにおけるCO濃度を求めると、CO濃度の規制値として想定される範囲を超えるような大きい値となってしまう可能性がある。そこで、本実施の形態1では、通常の意味での過剰空気による熱損失に対して1より小さい不完全燃焼ファクタαを乗じることによって、過剰空気による熱損失を直線101から直線103へ見かけ上シフトさせ、所望のCO濃度を有する点Qをシフトさせた交点Rを求める。この意味で、不完全燃焼ファクタαは、交点RにおけるCO濃度が燃焼システム1を設置する場所のCO濃度の規制値を超えないような値として設定するのが望ましい。不完全燃焼ファクタαの値は、例えばボイラ2の試運転に基づいて決定した値を適用してもよいし、ボイラ2の種類に応じて所定の値を適用してもよい。また、不完全燃焼ファクタαの値はボイラ負荷によって変わるので、ボイラ負荷帯に応じて複数の不完全燃焼ファクタを用いる場合もある。さらに、理論上、不完全燃焼ファクタαは1より大きい場合もあり得る。
【0035】
本実施の形態1において、空気過剰率補正量算出部10は、式(1)、(2)を算出する代わりに、式(1)、(2)から排ガス流量Gを除算によってそれぞれ除外した量
L
AIR’=L
AIR/G=C
PA・(T
O−T
I)・(D(O
2)/0.21)・α ・・・(3)
L
CO’=L
CO/G=D(CO
out)・H
CO ・・・(4)
を算出する。式(3)は第1簡素化熱損失算出式の例であり、式(4)は第2簡素化熱損失算出式の例である。空気過剰率補正量算出部10が式(3)、(4)を算出するのは、式(1)、(2)の右辺に排ガス流量Gがともに含まれているため、両者の大小関係を判定する際に排ガス流量Gが影響を及ぼさないからである。このように、本実施の形態1では、一般のボイラでは計測が行われていない排ガス流量Gを含まない簡素化した式(3)、(4)を用いるため、空気過剰率補正量算出部10の計算量が少なくて済み、過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを効率よく算出して比較することができる。
【0036】
空気過剰率補正量算出部10は、L
AIR’>L
CO’であれば空気過剰率を相対的に減少させるような補正量設定信号を生成して加算器13に出力する一方、L
AIR’≦L
CO’であれば空気過剰率を相対的に増加させるような補正量設定信号を生成して加算器13に出力する。
【0037】
空気過剰率補正量算出部10は、例えば2つのパルス発生器を有する。2つのパルス発生器のうち一方のパルス発生器はL
AIR’>L
CO’の場合に動作し、他方のパルス発生器はL
AIR’≦L
CO’の場合に動作する。空気過剰率の補正量は、パルス発生器が発生したパルス数によって調整される。なお、空気過剰率補正量算出部10が補正量を出力するための構成は、これに限られるわけではない。
【0038】
加算器13は、空気過剰率設定部9により出力された空気過剰率の設定信号と空気過剰率補正量算出部10により出力された補正量設定信号とを加算することによって補正量を加味した空気過剰率を算出し、この空気過剰率をO
2濃度の設定値に換算したO
2濃度設定信号をO
2制御部11へ出力する。
【0039】
O
2制御部11は、O
2濃度の計測値に対してO
2濃度設定信号を目標としてO
2濃度を補正するための空気設定量の補正信号(以下、空気設定補正信号という)を加算器14へ出力する。O
2制御部11は、例えばPID調節器を用いて構成される。
【0040】
加算器14は、エアリッチ制御部7により出力された空気設定信号とO
2制御部11により出力された空気設定補正信号とを加算することによってO
2濃度補正を加味した空気設定信号を空気制御部6へ出力する。
【0041】
空気過剰率下限制御部12は、CO濃度の計測値に基づいて空気過剰率が下限設定値に達したとき、ボイラ2内の空気量を急速に増加させる空気設定信号を出力する。この空気設定信号の値は、
図8に示す超希薄空気燃焼領域D
1の下限よりも空気過剰率の値が大きくなるような空気量である。なお、CO濃度計としてレーザCO分析計を用いる場合には、CO濃度の高速測定が可能となり、CO濃度の異常を迅速に抽出することができる。
【0042】
ハイセレクタ15は、空気制御部6および空気過剰率下限制御部12によりそれぞれ出力された空気設定信号のうち空気量をより増加させる信号を選択して空気ダンパまたはインバータへ出力する。ハイセレクタ15は、通常運転時は空気制御部6により出力された空気設定信号を選択する一方、CO濃度が異常値を示した時には空気過剰率下限制御部12により出力された空気設定信号を選択する。
【0043】
以上の機能構成を有する燃焼制御装置3は、CPU(Central Processing Unit)、各種演算回路、所定のOSを起動するプログラム等が予めインストールされたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むプロセッサを用いて実現されるコンピュータである。このうちROMには、本実施の形態1に係る燃焼制御プログラムが予めインストールされている。また、本実施の形態1に係る燃焼制御プログラムは、実行可能なプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録することも可能である。なお、燃焼制御プログラムのROMまたは記録媒体への記録は、コンピュータまたは記録媒体を製品として出荷する際に行ってもよいし、通信ネットワークを介したダウンロードにより行ってもよい。ここでいう通信ネットワークは、例えば既存の公衆回線網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などによって実現されるものであり、有線、無線を問わない。
【0044】
図5は、燃焼制御装置3が制御するボイラ2の動作の一例を模式的に示す図である。なお、
図5において、ボイラ主蒸気流量、排ガスO
2濃度、および排ガスCO濃度をそれぞれ示す縦軸のスケールは互いに異なる。
【0045】
期間t≦t
1、t
2≦t≦t
3、およびt≧t
4は、
図4および
図8に示す超希薄空気燃焼領域D
1におけるボイラ2の運転時の状態変化を模式的に示している。これらの期間において、ボイラ2は、ボイラ主蒸気流量、排ガスO
2濃度、および排ガスCO濃度がほぼ一定の状態を維持したまま動作する。このように、本実施の形態1では、CO濃度を積極的に制御して超希薄空気燃焼領域での燃焼制御を行うことにより、熱効率に優れた燃焼制御を実現している。
【0046】
これに対して、期間t
1<t<t
2は、ボイラ負荷が上昇している場合の状態変化を模式的に示し、期間t
3<t<t
4は、ボイラ負荷が降下している場合の状態変化を模式的に示している。ボイラ負荷が変動している場合には、エアリッチ制御部7が上述したエアリッチ制御を行うことにより、一時的にO
2濃度を上昇させるとともにCO濃度を例えば略ゼロに減少させる。これらの期間において、ボイラ2は
図4および
図8に示す超希薄空気燃焼領域D
1より空気過剰率が大きい状態で動作する。
【0047】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、ボイラからの排ガス中の酸素濃度および一酸化炭素濃度に基づいて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを等しくするための空気過剰率の補正量を算出して空気過剰率を補正することにより、超希薄空気燃焼領域でのボイラの燃焼制御を行っているため、ボイラの種類や負荷によらず排ガスの熱損失を簡単に抑制することができる。その結果、ボイラの熱効率が向上して燃焼用の燃料を削減することができる。
【0048】
また、本実施の形態1によれば、排ガス中の一酸化炭素濃度が規制値を超えなくするための定数である不完全燃焼ファクタを用いて過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失とを等しくするための空気過剰率の補正量を算出しているため、CO濃度を規制の範囲内で確実に制御することが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態1によれば、過剰空気による熱損失と不完全燃焼による熱損失を等しくするための空気過剰率の補正量を算出する際に、ボイラの排ガス流量を除いた算出式で算出するため、計算が簡素化される。その結果、本実施の形態1では、一般に計測が行われていない排ガス流量を計測したり、燃料成分から排ガス量を算出したりする必要がなくなり、効率よく補正量を算出することが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態1によれば、ボイラの負荷と空気過剰率との関係を示す空気過剰率特性を用いて空気過剰率を設定するため、ボイラの特性に応じて最適な空気過剰率を設定することができる。
【0051】
また、本実施の形態1によれば、ボイラの動作安定時には超希薄空気燃焼領域でCO制御を行う一方、ボイラ負荷変動時にはエアリッチ制御を行うことによって空気過剰とするため、ボイラ負荷の変化に対応可能な燃焼制御を行うことができる。
【0052】
なお、本実施の形態1において、不完全燃焼ファクタを用いずに計算した空気過剰による熱損失と不完全燃焼による熱損失とが等しいときのCO濃度が規制上問題ない値であれば、不完全燃焼ファクタは不要であるため、式(3)でα=1として計算を行えばよい。
【0053】
また、本実施の形態1において、空気過剰率補正量算出部10は、第1簡素化熱損失算出式(式(3))および第2簡素化熱損失算出式(式(4))を算出する代わりに、第1熱損失算出式(式(1))および第2熱損失算出式(式(2))を算出してもよい。
【0054】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、ボイラが設置される場所等の条件に応じて設定されるCO排出量の規制値(CO規制値)を考慮することにより、ボイラの負荷によらずCO排出量を一定に保つ制御を行うことを特徴とする。CO規制値の設定は、本実施の形態2に係る燃焼制御装置に対して入力装置等の設置用の装置を用いて予め規制値を入力することによって実現してもよいし、通信ネットワークを介した通信により設定(または更新)を行うことによって実現してもよい。本実施の形態2に係る燃焼制御装置の構成は、実施の形態1で説明した燃焼制御装置3の構成と同様である。
【0055】
本実施の形態2においては、過剰空気による熱損失を与える第1熱損失算出式として、不完全燃焼ファクタαを含まない次式(5)を適用する。
L
AIR2=C
PA・(T
O−T
I)・(G・D(O
2)/0.21) ・・・(5)
また、この式(5)、および上述した式(2)の不完全燃焼による熱損失L
CO(第2熱損失算出式)に加えて、CO規制値に基づいて定められるCO排出上限に相当する熱損失を使用する。CO規制値に基づくCO排出上限の熱損失L
COlimは、次式(6)で与えられる(第3熱損失算出式の例)。
L
COlim=G・D(CO
lim)・H
CO ・・・(6)
式(6)の右辺のD(CO
lim)は、CO規制値に基づいて計算されたCO排出上限におけるCO濃度である。CO規制値は、ボイラ2を設置する場所の法令等の条件に応じて予め設定されている値である。
【0056】
本実施の形態2において、空気過剰率補正量算出部10は、式(5)、(2)および(6)の大小関係を比較する演算を行うことによって加算器13に補正量設定信号を出力する。このため、本実施の形態2においても、空気過剰率補正量算出部10は、式(5)、(2)および(6)を算出する代わりに、各式に共通して含まれる排ガス流量Gを除算によってそれぞれ除外した次式(7)、(4)および(8)を算出する。
L
AIR2’=L
AIR/G=C
PA・(T
O−T
I)・(D(O
2)/0.21) ・・・(7)
L
CO’=L
CO/G=D(CO
out)・H
CO ・・・(4)
L
COlim’=L
Colim/G=D(CO
lim)・H
CO ・・・(8)
式(7)は、本実施の形態2で適用する第1簡素化熱損失算出式の例であり、式(8)は第3簡素化熱損失算出式の例である。
【0057】
図6は、本実施の形態2で適用する3つの熱損失算出式の関係を示す図であり、超希薄空気燃焼領域付近を拡大した図である。
図6では、過剰空気による熱損失を与える直線101(式(7)に対応)、不完全燃焼による熱損失を与える曲線102(式(4)に対応)に加えて、CO規制値に基づくCO排出上限の熱損失を与える直線104(式(8)に対応)を示している。
図6に示すように、CO規制値に基づくCO排出上限の熱損失は、空気過剰率によらず一定である。
【0058】
空気過剰率補正量算出部10の具体的な処理を説明する。空気過剰率補正量算出部10は、まず過剰空気による熱損失L
AIR2’とCO規制値によるCO排出上限の熱損失L
COlim’とを比較して最小値min(L
AIR2’,L
COlim’)を出力する。続いて、空気過剰率補正量算出部10は、この最小値min(L
AIR2’,L
COlim’)と不完全燃焼による熱損失L
CO’とを比較する。比較の結果、min(L
AIR2’,L
COlim’)>L
CO’である場合、空気過剰率補正量算出部10は、空気過剰率を相対的に減少させるような補正量設定信号を生成して加算器13に出力する。一方、比較の結果、min(L
AIR2’,L
COlim’)≦L
CO’である場合、空気過剰率補正量算出部10は、空気過剰率を相対的に増加させるような補正量設定信号を生成して加算器13に出力する。
【0059】
以上説明した空気過剰率補正量算出部10の処理を除く燃焼制御装置3の処理の内容は、実施の形態1と同じである。
【0060】
図7は、本実施の形態2に係る燃焼システム1の運転の概要を示す図である。
図7では、CO規制値に基づくCO排出量、ボイラ負荷、および排ガス熱損失と空気過剰率との関係をそれぞれ示している。ボイラ2によるCO排出量は、空気過剰率によらず一定である(直線301)。ボイラ負荷と空気過剰率の関係については、ボイラ負荷が大きいほど空気過剰率が小さい場合を例示している(曲線302)。排ガス熱損失と空気過剰率との関係は、空気過剰率が1より大きくなればなるほど、過剰な空気の排出量が増える(直線303)。
図7からも明らかなように、本実施の形態2に係る燃焼制御装置3は、ボイラ負荷によらず一定のCO排出量でボイラ2を運転することができる。これは、本実施の形態2において、空気過剰率補正量算出部10が、CO規制値に基づくCO排出上限を参照して空気過剰率の補正量を設定するからである。
【0061】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、実施の形態1と同様に、ボイラの熱効率が向上して燃焼用の燃料を削減することができ、CO濃度を規制の範囲内で確実に制御することができる。また、本実施の形態2においても、一般に計測が行われていない排ガス流量を計測したり、燃料成分から排ガス量を算出したりする必要がないので、効率よく補正量を算出することができる。
【0062】
加えて、本実施の形態2によれば、CO規制値に基づくCO排出上限を参照して空気過剰率の補正量を設定するため、ボイラ負荷によらずCO排出量を一定とすることが可能となる。その結果、実施の形態1のように、不完全燃焼ファクタをボイラ負荷ごとに設定して演算を行う必要がなくなるので、一段と簡易にボイラの燃焼制御を行うことができる。特に、不完全燃焼ファクタをボイラの試運転によって決定する必要がある場合には、そのような試運転自体が不要となるので、ボイラ設置時の手間を省くこともできる。
【0063】
なお、本実施の形態2において、空気過剰率補正量算出部10は、第1簡素化熱損失算出式(式(7))、第2簡素化熱損失算出式(式(4))および第3簡素化熱損失算出式(式(8))を算出する代わりに、第1熱損失算出式(式(5))、第2熱損失算出式(式(2))および第3熱損失算出式(式(6))を算出してもよい。
【0064】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態1、2のみによって限定されるべきものではない。すなわち、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものである。