(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
医療用粉体を圧力気体とともに噴射する噴射通路を備えていると共に、該圧力気体の供給と停止を切り換えて該医療用粉体を噴射および停止する操作手段が設けられた医療用粉体の体内噴射装置において、
前記噴射通路を内部に形成するインナ筒部材にアウタ筒部材が外挿された二重筒構造とされており、該インナ筒部材の先端開口部を覆う弁体が該アウタ筒部材の先端開口部に装着されていると共に、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射および停止に連動して該弁体を開放および閉鎖する連動機構が設けられていることを特徴とする医療用粉体の体内噴射装置。
前記弁体が開口状態から閉鎖状態への弾性的な復元保持力を備えている一方、前記連動機構において、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射に連動して該弁体を復元保持力に抗して閉鎖状態から開口状態とする開作動力が及ぼされるようになっている請求項1又は2に記載の医療用粉体の体内噴射装置。
前記連動機構において、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射に連動して前記インナ筒部材が前記アウタ筒部材に対して軸方向で前方側に相対移動することにより、該インナ筒部材が前記弁体に対して前記開作動力を及ぼすようになっている請求項3に記載の医療用粉体の体内噴射装置。
前記連動機構において、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射に連動して前記アウタ筒部材の先端開口部に装着された前記弁体に対して該医療用粉体の噴射圧力が前記開作動力として及ぼされるようになっている請求項3に記載の医療用粉体の体内噴射装置。
前記インナ筒部材の先端部分に作用して前記医療用粉体の詰まりを解消する詰まり解消部材が設けられていると共に、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射および停止に連動して該詰まり解消部材が作動するようにされている請求項1〜5の何れか1項に記載の医療用粉体の体内噴射装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、癒着防止材などの医療用粉体を無菌的に導入された圧力気体と共に体内へ安定して噴射することが出来て、例えば内視鏡下手術等に際しても、目的とする癒着防止などの処置を容易に且つ安定して行うことを可能にする、新規な構造を備えた医療用粉体の体内噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明の第1の態様は、医療用粉体を圧力気体とともに噴射する噴射通路を備えていると共に、該圧力気体の供給と停止を切り換えて該医療用粉体を噴射および停止する操作手段が設けられた医療用粉体の体内噴射装置において、前記噴射通路を
内部に形成するインナ筒部材にアウタ筒部材が外挿された二重筒構造とされており、該インナ筒部材の先端開口部を覆う弁体が該アウタ筒部材の先端開口部に装着されていると共に、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射および停止に連動して該弁体を開放および閉鎖する連動機構が設けられている医療用粉体の体内噴射装置を、特徴とする。
【0009】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、医療用粉体を噴射していない状況下において、医療用粉体を噴射する通路を構成するインナ筒部材の先端開口部が、弁体を備えたアウタ筒部材によって覆われており、インナ筒部材の先端もしくは内部への水分の付着もしくは浸入が防止される。それ故、例えば内視鏡下手術等に際して、インナ筒部材を体内へ挿入して医療用粉体を噴射する場合でも、インナ筒部材の先端もしくは内部での医療用粉体のゲル化等による噴射通路の詰まりが防止される。そして、医療用粉体の噴射の操作と併せて弁体が開放されることから、医療用粉体がインナ筒部材の先端開口部から弁体を通じて体内へ安定して噴射されて、目的とする処置を容易に精度良く行うことが可能になる。
【0010】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置であって、前記インナ筒部材と前記アウタ筒部材が軸方向で相対移動可能とされており、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射および停止と連動して該インナ筒部材と該アウタ筒部材とが相対移動することにより該インナ筒部材が前記弁体を開口および閉鎖させる前記連動機構が構成されているものである。
【0011】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、二重筒構造とされたインナ筒部材とアウタ筒部材との軸方向での相対移動を利用して、アウタ筒部材の先端開口部に配された弁体が開閉されることから、少ない部品点数と簡単な構造をもって、弁体の開閉作動を確実に行うことが可能になる。なお、本発明では、弁体の開口時において、インナ筒部材の先端をアウタ筒部材の先端よりも後方に位置させることが好ましく、インナ筒部材の先端をアウタ筒部材で覆うことにより、万が一、アウタ筒部材が組織へ接触しても、インナ筒部材の先端が組織へ接触しにくい構造を実現できる。
【0012】
本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置であって、前記弁体が開口状態から閉鎖状態への弾性的な復元保持力を備えている一方、前記連動機構において、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射に連動して該弁体を復元保持力に抗して閉鎖状態から開口状態とする開作動力が及ぼされるようになっているものである。
【0013】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、弁体に及ぼされる開作動力を解除するだけで、弁体が自動的に閉鎖状態へ復帰して保持されることとなる。それ故、弁体を確実に閉鎖状態とすることができると共に、医療用粉体の噴射停止に伴って弁体を開口状態から閉鎖状態へ作動させるための機構の簡略化も図られ得る。
【0014】
本発明の第4の態様は、かかる第3の態様に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置であって、前記連動機構において、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射に連動して前記インナ筒部材が前記アウタ筒部材に対して軸方向で前方側に相対移動することにより、該インナ筒部材が前記弁体に対して前記開作動力を及ぼすようになっているものである。
【0015】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、アウタ筒部材に装着された弁体に対するインナ筒部材の相対移動を利用して、例えば弁体に対してインナ筒部材の先端を直接に押し当てて開作動力を及ぼすこと等により、弁体を確実に且つ少ない部品点数で開作動させることが可能になる。
【0016】
本発明の第5の態様は、前記第3の態様に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置であって、前記連動機構において、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射に連動して前記アウタ筒部材の先端開口部に装着された前記弁体に対して該医療用粉体の噴射圧力が前記開作動力として及ぼされるようになっているものである。
【0017】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、医療用粉体の噴射圧力を巧く利用して、弁体に対して開作動力を及ぼすことが出来ることから、医療用粉体の噴射の開始と停止に連動して弁体の開放と閉鎖を行う連動機構を、簡単な構造で実現することが可能になる。
【0018】
本発明の第6の態様は、前記第1〜5の何れかの態様に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置において、前記インナ筒部材の先端部分に作用して前記医療用粉体の詰まりを解消する詰まり解消部材が設けられていると共に、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射および停止に連動して該詰まり解消部材が作動するようにされているものである。
【0019】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、例えば医療用粉体の噴射に際して開放された弁体や噴射停止と連動して閉鎖作動する際の弁体を通じて水分がインナ筒部材の先端開口部から入り込んで、ゲル化等した医療用粉体がインナ筒部材に詰まった場合でも、かかる詰まりが容易に解消され得る。それ故、医療用粉体の噴射と停止を繰り返して行うような場合でも、医療用粉体の噴射の停止や再開に際して、インナ筒部材の詰まりの解消が連動して実現されることとなり、面倒な詰まり解消操作を必要とすることなく、医療用粉体の安定した噴射が継続的に実現され得る。なお、詰まり解消部材は、インナ筒部材の先端部分に差し入れられて詰まりを直接的に解消させる部材の他、インナ筒部材の先端部分に外部から当接して変形させることにより詰まりを間接的に解消させる部材等であっても良い。
【0020】
本発明の第7の態様は、かかる第6の態様に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置において、前記インナ筒部材と前記アウタ筒部材が軸方向で相対移動可能とされており、前記操作手段による前記医療用粉体の噴射および停止と連動して該インナ筒部材と該アウタ筒部材とが相対移動することにより該インナ筒部材が前記弁体を開口および閉鎖させる前記連動機構が構成されていると共に、該インナ筒部材と該アウタ筒部材との相対移動に伴って前記詰まり解消部材が作動するようにされているものである。
【0021】
本態様に係る医療用粉体の体内噴射装置では、インナ筒部材とアウタ筒部材との相対移動を利用して、例えばアウタ筒部材に設けた詰まり解消部材をインナ筒部材の先端部分に対して当接させたり差し入れたりすることで、詰まり解消作動を簡単な構造で実現することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に従う構造とされた医療用粉体の体内噴射装置においては、医療用粉体が噴射されるインナ筒部材の先端開口部が、アウタ筒部材とその先端に装着された弁体で覆われていると共に、医療用粉体の噴射に際しては、弁体が連動して開放されることでインナ筒部材の先端開口部から外部への医療用粉体の噴射が許容される。それ故、インナ筒部材の先端を体内へ挿入して医療用粉体を噴射する場合でも、噴射前にインナ筒部材の先端もしくは内部へ水分が付着もしくは浸入することによる噴射通路の詰まりが防止されて、医療用粉体を安定して噴射することが可能になり、目的とする癒着防止等の処置を容易に精度良く行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。先ず、
図1〜3には、本発明の第1の実施形態としての医療用粉体の体内噴射装置(以下、噴射装置ともいう)10が示されている。この噴射装置10は、全体として略ピストル形状とされており、グリップ部12を把持して引金状のレバー14を操作することにより、バレル部16の先端から医療用粉体を圧力気体と共に噴射するようになっている。なお、以下の説明において、前後方向とはバレル部16の延びる
図1中の左右方向を示すと共に、上下方向とは
図1中の上下方向を示すものである。
【0025】
より詳細には、噴射装置10は、そのグリップ部12と胴部18が、中空構造の装置本体20によって構成されている。また、胴部18から前方に延び出すバレル部16は、互いに内外挿されたインナ筒部材22とアウタ筒部材24からなる二重筒構造となっている。更にまた、噴射装置10の内部には、グリップ部12の下端からバレル部16の先端にまで至る流体流路26が設けられている。
【0026】
かかる流体流路26の基端側部分(グリップ部12側)は、チューブ28で構成されており、グリップ部12の下端に設けられた接続ポート30により外部に開口している。そして、この接続ポート30に対して外部の空気圧管路が接続されて、流体流路26の基端側がコンプレッサーやアキュムレータ等の正圧源に連通されるようになっている。一方、流体流路26の先端側部分は、バレル部16のインナ筒部材22で構成されている。
【0027】
また、流体流路26の中間部分には、流体流路26を連通状態と遮断状態に切り換える操作手段32と、流体流路26内へ医療用粉体を供給する粉体供給機構34とが設けられている。
【0028】
かかる操作手段32は、レバー14と開閉バルブ36を含んで構成されており、レバー14に加えられる外部操作力を開閉バルブ36に伝達して、開閉バルブ36ひいては流体流路26を開閉切換作動させるようになっている。開閉バルブ36としては、公知の各種構造が採用可能であるが、本実施形態では、バルブハウジング38の開口部に配された封止弁に対して、ノズル40を挿し入れることでバルブハウジング38内がノズル40に連通される一方、ノズル40を引き出すことでバルブハウジング38内が密閉状態とされて遮断される構造のものが採用されている。
【0029】
そして、バルブハウジング38は、チューブ28に接続されて、グリップ部12の上端内部に固定されている。一方、ノズル40は、胴部18に収容配置されたスライド部材42に固定されている。かかるスライド部材42は、バレル部16の軸方向となる前後方向で移動可能とされている。また、スライド部材42の下部にはレバー14が一体的に設けられており、このレバー14が胴部18から下方に向かって外部へ突出されている。
【0030】
なお、スライド部材42には、下端近くで両側に突出するガイド突起44,44が形成されており、胴部18の左右両壁内面を前後方向に延びるガイド溝46,46に対して、ガイド突起44,44が滑動可能に係合されている。これにより、スライド部材42を、胴部18内で前後方向へ案内するガイド機構が構成されている。
【0031】
また、胴部18とスライド部材42との間には付勢手段としてのコイルスプリング48が配設されている。即ち、胴部18内で前後方向に配されたコイルスプリング48の前端が、胴部18に設けられた係止片50に係止されていると共に、コイルスプリング48の後端が、スライド部材42に設けられた係止片52に係止されている。そして、このコイルスプリング48の引張力が、常時、スライド部材42を移動方向の前方側へ及ぼされている。これにより、スライド部材42が前方に向かって付勢されて、前方側の移動端へ弾性的に位置決めされており、レバー14を引くことにより、スライド部材42を後方へ移動させることができるようになっていると共に、レバー14への操作力を解除することで、スライド部材42が前方側の移動端へ自動的に戻るようになっている。
【0032】
そして、このスライド部材42の後端部分に対して、開閉バルブ36のノズル40が固定されて、バルブハウジング38に対して対向配置されている。これにより、レバー14に操作力を加えない状態では、ノズル40がバルブハウジング38から引き離されて開閉バルブ36が遮断状態に保持されるようになっている。一方、レバー14を引き操作することにより、ノズル40がバルブハウジング38に挿し入れられて開閉バルブ36が連通状態とされるようになっている。
【0033】
また、前記粉体供給機構34は、胴部18内でスライド部材42とインナ筒部材22との間に組み付けられた保持部材54を含んで構成されている。この保持部材54には、前後方向に延びる中継流路56が形成されており、かかる中継流路56の前端がインナ筒部材22の内孔の後端に接続されている一方、中継流路56の後端がノズル40に接続されている。これにより、前述のチューブ28とインナ筒部材22の内孔とが中継流路56を通じて相互に接続されて、全体としてグリップ部12の下端からバレル部16の先端にまで至る流体流路26が構成されている。
【0034】
なお、中継流路56の後端部分は可撓性のチューブ管体で構成されており、スライド部材42の変位に伴うノズル40の保持部材54に対する前後方向の移動が、かかる可撓性のチューブ管体の変形によって許容されるようになっている。
【0035】
さらに、保持部材54には、胴部18から上方に露出する容器ホルダ58が設けられており、この容器ホルダ58に対して、医療用粉体を収容した粉体容器60が装着可能とされている。なお、粉体容器60は、使用する医療用粉体の種類等に応じて各種形状や大きさのものが採用されることとなり、容器ホルダ58の形状や大きさも、採用する粉体容器60に応じて適宜に設定される。特に、本発明では、使用する医療用粉体を限定するものでなく、例えば特許文献1に記載の如き癒着防止材の他、止血材や各種薬剤などの医療用粉体に適用され得るものであり、それに応じて、採用される粉体容器60および容器ホルダ58も適宜に設定可能である。
【0036】
また、保持部材54には、容器ホルダ58の形成部分から中継流路56に向かって延びる粉体供給路62が形成されている。そして、粉体容器60を、その開口部を下方に向けて容器ホルダ58に装着することにより、粉体容器60内が粉体供給路62を通じて中継流路56に連通されて、粉体容器60に収容された医療用粉体が中継流路56へ供給されるようになっている。
【0037】
なお、中継流路56における粉体供給路62の接続部位は、前後の流路部分に比して絞られており、ベンチュリ作用を利用して、医療用粉体が中継流路56内へ導き入れられるようになっている。
【0038】
また、保持部材54には、粉体供給路62と並列的に延びる給圧路64が形成されている。そして、この給圧路64を通じて、粉体供給路62の接続部位より上流側に位置する中継流路56内の圧力が、容器ホルダ58に装着された粉体容器60内に及ぼされるようになっている。
【0039】
更にまた、保持部材54には、振動機構66が装備されている。この振動機構66としては、例えば特開2012−143502号公報に記載の公知のものが採用可能である。即ち、保持部材54の下部には、偏心回転体68が中心軸回りで回転可能に組み付けられていると共に、中継流路56において粉体供給路62の接続部位より上流側から分岐した分岐通路70を通じて及ぼされる流体圧により、かかる偏心回転体68が回転駆動されるようになっている。ここにおいて、偏心回転体68は、その重心が回転中心軸から偏心設定されており、外周面に設けられた鋸歯状の受圧面に対して流体圧が及ぼされて回転中心軸回りで回転作動することによって、回転周期に対応した振動数で保持部材54に装着された粉体容器60を加振するようになっている。そして、粉体容器60が加振されることによって、粉体容器60や粉体供給路62等の内部における医療用粉体の詰まりやカツギが防止されて、上述の如き医療用粉体の中継流路56への供給が一層安定して実現されるようになっている。
【0040】
このようにして、操作手段32と粉体供給機構34が中間部分に設けられた流体流路26を備えた本実施形態の噴射装置10においては、グリップ部12を握ってレバー14を引くだけの片手操作により、粉体容器60に収容された医療用粉体を、インナ筒部材22の先端開口部から噴射させることができる。即ち、レバー14を引くと、閉鎖状態に保持されていた開閉バルブ36が開かれて流体流路26の全長が連通状態とされることとなり、それに伴って、偏心回転体68が回転して加振力が継続的に生ぜしめられると共に、粉体容器60内の医療用粉体が流体流路26内に少しずつ送り出されて、流体流路26を流通される圧力気体と共に、インナ筒部材22の先端開口部から外部へ噴射されることとなる。一方、レバー14の操作力を解除すると、開口状態に保持されていた開閉バルブ36が閉じられて流体流路26が遮断状態とされる。これにより、流体流路26内への圧力気体の供給が停止されることから、医療用粉体の外部への噴射も停止される。
【0041】
要するに、流体流路26は連通状態と遮断状態が操作手段32により切り換えられる。即ち、噴射装置10内における圧力気体の供給と停止が操作手段32により切り換えられる。ここにおいて、流体流路26が連通状態とされれば医療用粉体が噴射される一方、流体流路26が遮断状態とされれば医療用粉体の噴射が停止されることから、操作手段32は、医療用粉体の噴射および噴射停止をも切り換えるものである。
【0042】
なお、このことから明らかなように、本実施形態では、流体流路26の下流側部分を形成するインナ筒部材22の内孔により、医療用粉体を圧力流体と共に外部空間へ噴射するための噴射通路が構成されている。また、本実施形態では、インナ筒部材22の先端開口部に、捩じり板形状の整流板72が収容状態で組み付けられている。この整流板72の捩じり面に沿って噴射流体が案内されて渦巻き状に整流されつつ外部へ噴射されることにより、噴射される医療用粉体に対して渦巻き状の回転作用に基づく遠心力が及ぼされて、医療用粉体がより広範囲で略均一に拡散して噴射されるようになっている。
【0043】
さらに、本実施形態の噴射装置10では、二重筒構造とされたバレル部16において、インナ筒部材22に外挿されたアウタ筒部材24が、インナ筒部材22に対して軸方向で相対移動可能とされている。即ち、胴部18には、インナ筒部材22の基端側が差し入れられて保持部材54に固定されていると共に、インナ筒部材22の外周側で軸方向へ移動可能とされた筒状の支持部材74が組み込まれている。そして、アウタ筒部材24の基端側が、胴部18に差し入れられて、支持部材74に嵌め込まれて固定されている。
【0044】
また、かかる支持部材74は、保持部材54の側方を前後方向に延びるロッド状の連結部76により、スライド部材42に対して一体的に連結されている。これにより、レバー14によるスライド部材42の前後方向への移動作動に伴って、支持部材74ひいてはアウタ筒部材24が、軸方向となる前後方向へ移動されるようになっている。
【0045】
すなわち、レバー14に操作力が及ぼされずに、スライド部材42が前方に位置決めされた流体流路26の遮断状態では、アウタ筒部材24が前方側の移動端に保持されている一方、レバー14を引く操作力が及ぼされて流体流路26が連通状態とされると、スライド部材42が後方へ移動するのに伴って、アウタ筒部材24も胴部18ひいてはインナ筒部材22に対して相対的に後方へ移動するようになっている。
【0046】
更にまた、アウタ筒部材24は、少なくとも前方側への移動端に保持された状態下において、その先端がインナ筒部材22よりも前方側に延び出しており、インナ筒部材22の先端部分がアウタ筒部材24で完全に覆われている。
【0047】
そして、インナ筒部材22よりも前方側へ延び出したアウタ筒部材24の先端開口部分には、弁体78が装着されており、このアウタ筒部材24の弁体78によって、インナ筒部材22の先端開口部が外部空間に対して覆われている。
【0048】
かかる弁体78は、レバー14を含む操作手段32の操作による医療用粉体の噴射および停止に連動して開放および閉鎖される連動機構によって開閉制御可能なものであれば良く、その具体的構造は特に限定されるものでないが、本実施形態では、
図6に示されているようにスリット弁80が採用されている。このスリット弁80は、所定厚さの円板形状を有するゴム等の弾性体に対して放射線状のスリット82が設けられた構造となっており、アウタ筒部材24の開口部分に対して嵌め入れられて、軸直角方向に広がってアウタ筒部材24の開口を遮断する状態で、その外周面がアウタ筒部材24の内周面に固着されることによって装着されている。
【0049】
かかるスリット弁80は、中央部分を押すと弾性変形してスリット82が開いて開放状態とされると共に、中央部分への力を解除すると弾性的な復元保持力によりスリット82が閉鎖状態に保たれる。それ故、レバー14を引くことによる医療用粉体の噴射操作に連動してアウタ筒部材24がインナ筒部材22に対して手前側に後退変位して、スリット弁80の中央部分に対してインナ筒部材22の先端面が押し付けられる。これに伴い、スリット弁80の復元保持力に抗してスリット82が開いて、インナ筒部材22の先端開口部が外部空間へ露出されることにより、インナ筒部材22の先端開口部のスリット弁80には閉鎖状態から開放状態へと移行する開作動力が及ぼされる。特に本実施形態では、
図7に示されているように、アウタ筒部材24がインナ筒部材22に対して後退移動する、即ちインナ筒部材22がアウタ筒部材24に対して軸方向で前方側に相対移動することで、インナ筒部材22の先端部分がスリット弁80を貫通して外方に突出するようにされており、これによりインナ筒部材22がスリット弁80に対して開作動力を及ぼすようになっている。
【0050】
これにより、レバー14を引いて医療用粉体の噴射操作をすることにより、インナ筒部材22に対してアウタ筒部材24が後方に移動せしめられる。それと連動して、インナ筒部材22の開口部を閉鎖状態で覆うように保たれていたスリット弁80が開放されて、特別に弁体の開操作を別途に行う必要なく、医療用粉体の噴射が行われ得るようになっている。また、レバー14への操作力を解除すれば、コイルスプリング48の付勢力に基づいてアウタ筒部材24がインナ筒部材22に対して相対的に前方に向かって復帰移動して、インナ筒部材22によるスリット弁80への押付力が解除されて、再び、インナ筒部材22の先端開口部を覆うスリット弁80が閉鎖状態に保持されることとなる。
【0051】
なお、このことから明らかなように、本実施形態では、弾性的な復元保持力により閉鎖状態とされるスリット弁80と、レバー14の操作に連動してインナ筒部材22とアウタ筒部材24を相対変位させることによりインナ筒部材22の先端をスリット弁80に当接させて開作動力を及ぼす機構とを含んで、医療用粉体の噴射および停止に連動してスリット弁80を開放および閉鎖する連動機構が構成されている。
【0052】
すなわち、本実施形態では、噴射通路であるインナ筒部材22内孔の開口部より先端側が弁体78により覆われており、かかる弁体78により外部空間、即ち施術時における腹腔内の空間に対しての噴射通路の連通状態が制御されることとなる。特に、本実施形態では、アウタ筒部材24の内部空間にインナ筒部材22の内孔が連通されていると共に、アウタ筒部材24の先端部分に弁体78が設けられている。従って、かかるアウタ筒部材24の内部空間が外部空間に対して連通および遮断されることにより、噴射通路の開口および閉鎖が実現されるようになっている。
【0053】
ここで、本実施形態では、装置本体20やインナ筒部材22およびアウタ筒部材24等は硬質材として、例えば合成樹脂が好適に採用され得る。また、チューブ28等としてはゴム等の弾性材が好適に採用され得る。
【0054】
上述の如き構造とされた医療用粉体の噴射装置10においては、レバー14を引いて医療用粉体を噴射させるまでは、医療用粉体の噴射口となるインナ筒部材22の先端開口部がスリット弁80で覆われて外部空間から実質的に遮断されていることから、例えば内視鏡下での手術に際して、バレル部16の先端を腹腔内に挿し入れても、体液等の水分などがインナ筒部材22の先端開口部から流体流路26内へ浸入することが防止される。
【0055】
それ故、レバー14を引いて医療用粉体を体内の所定部位に噴射させる際に、インナ筒部材22内に浸入した水分により医療用粉体がゲル化することで噴射が阻害される問題が効果的に防止されて、目的とする医療用粉体の噴射処置を安定して行うことが可能になる。特に、医療用粉体の噴射を数回に分けて繰り返す場合にも、レバー14への操作力を解除して医療用粉体の噴射を停止する毎に、インナ筒部材22の先端開口部がスリット弁80で閉鎖状態に保持される。従って、たとえバレル部16の先端を腹腔内に差し入れたままの状態での医療用粉体の噴射と停止の繰り返しに際しても、インナ筒部材22内への体液などの浸入による医療用粉体の詰まりが防止されて、安定した医療用粉体の噴射処置を行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、スリット弁80をインナ筒部材22で直接に押し開くようになっていることから、医療用粉体の噴射に際してスリット弁80の開作動を、簡単な構造で且つ確実に実現することが可能になる。
【0057】
更にまた、本実施形態では、噴射流路を構成するインナ筒部材22の全体がアウタ筒部材24で覆われており、かかるアウタ筒部材24の先端開口部がスリット弁80で閉鎖されるようになっている。これにより、仮に体液等がスリット弁80を通過して浸入した場合でも、アウタ筒部材24内に浸入するものの直ちにインナ筒部材22内に浸入することがなく、噴射流路の詰まりが一層効果的に防止される。
【0058】
なお、本発明において採用されて噴射流路の先端開口部を遮断する弁体78としては、上述の第1の実施形態に例示のスリット弁80に限定されるものでない。例えば、同様なスリット弁を採用する場合でも、放射状に形成されたスリットの数を適宜に増減設定することで、スリット弁の開作動に際しての抵抗力や閉鎖状態への保持力などを調節することが可能である。具体的には、
図8〜9に示されているように、第1の実施形態に例示のスリット弁80よりも多くのスリット82が形成された第2の実施形態としてのスリット弁84を、本発明において採用することも可能である。なお、第2の実施形態以降の説明において、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に前記第1の実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0059】
また、スリット弁に代えて、バタフライ状の開閉弁を採用することも可能である。具体的には、
図10〜11に示されているように、観音開き構造の2枚の弁扉86,86が、蝶番構造の回動支持部88,88をもって、アウタ筒部材24の開口端縁部に対して開閉可能に取り付けられた構造である弁体としての開閉弁90を採用しても良い。この開閉弁90では、各弁扉86を閉位置へ弾性的に保持する付勢手段が設けられている。かかる付勢手段は、例えば回動支持部88に対してねじりばね等を装備することによって実現される。なお、上記第1および第2の実施形態におけるスリット弁80,84としては弾性体が採用されているが、本実施形態の弁扉86としては、例えば装置本体20等に採用され得る硬質の合成樹脂等が好適に採用され得る。
【0060】
このような弁扉86,86は、例えば第1の実施形態のようにインナ筒部材22とアウタ筒部材24を軸方向に相対変位させてインナ筒部材22の先端面を弁扉86,86に押し付けることにより開作動させることができる。その他、
図11に示されているように、インナ筒部材22の先端開口部から噴射される圧力気体を弁扉86,86の内面に対して直接に吹き当てることにより、圧力作用で弁扉86,86を開作動させて開口状態へ保持することも可能である。
【0061】
このように、医療用粉体の圧力気体による噴射圧力を、開閉弁90の開作動力として利用することにより、第1の実施形態のようにインナ筒部材22とアウタ筒部材24を相対移動させることなく、レバー操作14による医療用粉体の噴出作動と連動させて開閉弁90を開作動させることが出来ると共に、医療用粉体の噴出停止と連動させる開閉弁90を閉鎖状態へ復帰させて保持させることが可能になる。それ故、第1の実施形態に比して簡単な構造をもって、レバー14の操作による医療用粉体の噴射および停止に連動して弁体を開放および閉鎖させる連動機構が実現可能となる。
【0062】
なお、上記第3の実施形態における一対の弁扉86,86を備えた開閉弁90に代えて、
図12〜13に示されているように、ドア構造の1枚の弁扉92を備えた開閉弁94を採用することも可能である。かかる第4の実施形態としての開閉弁94でも、第3の実施形態と同様に、弁扉92を弾性的に閉鎖状態に復元させて保持させる付勢手段を、例えば弁扉92を回動可能に支持する回動支持部96に組み付けることにより、第3の実施形態と同様に作動し得る。
【0063】
さらに、
図14〜15には、本発明の第5の実施形態としての噴射装置98が、その要部となるバレル部16の先端部分において示されている。本実施形態の噴射装置98は、その基本構造として上記第1の実施形態と同じ構造が採用可能である。また、本実施形態の噴射装置98において、アウタ筒部材24の開口先端部分に形成される弁体は、例えば上記第1〜第4の実施形態で例示されているスリット弁80,84や開閉弁90,94が採用可能であることから、弁体の図示を省略する。
【0064】
すなわち、本実施形態の噴射装置98では、レバー14を操作していない弁体の閉鎖状態を表す
図14(a),(b)に示されているように、アウタ筒部材24の先端開口部において、詰まり解消部材としての差入部材100が組み付けられている。本実施形態の差入部材100は、円環形状の固定部102の中に放射状に延びる十字棒104が一体的に形成された構造とされている。
【0065】
そして、この差入部材100は、アウタ筒部材24内において、図示しないスリット弁よりも後方で、且つ、インナ筒部材22の先端面よりも前方に位置して配設されている。そして、固定部102がアウタ筒部材24の内周面に固定されることにより、十字棒104がアウタ筒部材24内で直交する径方向に配置されている。
【0066】
一方、インナ筒部材22の先端部分には、周上の4箇所においてそれぞれ軸方向に延びる4本のスリット106が、先端面から軸方向に延びて形成されている。これら4本のスリット106は、それぞれ、差入部材100の十字棒104に対して軸方向で対向する位置に設けられている。
【0067】
また、アウタ筒部材24内における差入部材100の配設位置は、レバー14を引いて噴射作動させることに伴ってインナ筒部材22がアウタ筒部材24に対して相対的に軸方向前方に変位した際に、インナ筒部材22の先端面のアウタ筒部材24内での相対的な前進端位置よりも後方側に設定されている。
【0068】
これにより、レバー14の引操作に伴ってインナ筒部材22がアウタ筒部材24内で相対的に前方へ移動されると、
図15(a),(b)に示されているように、アウタ筒部材24に設けられた差入部材100の十字棒104が、インナ筒部材22の各スリット106を通って、インナ筒部材22内へ軸方向の所定深さの位置まで差し入れられることとなる。
【0069】
このような本実施形態の噴射装置98においては、例えば
図15に示されている如き医療用粉体の噴射に際してインナ筒部材22の先端部分の中でゲル化が発生しても、レバー14への操作力を解除して噴射を停止するのと連動してインナ筒部材22がアウタ筒部材24に対して相対的に後方に移動させられる。この結果、インナ筒部材22の先端部分から差し入れられた十字棒104がインナ筒部材22の前方へ移動して抜け出すことにより、インナ筒部材22の先端開口部における詰まりが十字棒104で押し出されて解消され得ることとなる。
【0070】
また、仮に
図14に示されている如き医療用粉体の噴射停止状態においてインナ筒部材22の先端開口部分にゲル状となった医療用粉体等が詰まっていたとしても、レバー14を引いて噴射作動させるに際して、差入部材100が連動して、インナ筒部材22に差し入れられてゲル状となった医療用粉体を切り裂くように作用する。その結果、インナ筒部材22の詰まりが未然に防止されたり、小さく切り裂かれた状態で圧力気体の噴射圧力で除去されることなどにより、容易に解消され得て、目的とする医療用粉体の噴射作動を一層安定して行うことが可能になる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでない。例えば、第5の実施形態に例示した十字棒104を備えた差入部材100の他、詰まり解消部材として、例えばアウタ筒部材24の内面に適数個の突起を設けて、医療用粉体の噴射に際してのインナ筒部材22とアウタ筒部材24の軸方向の相対移動に伴って、かかる突起がインナ筒部材22の先端部を外周面から押圧変形させるようにした構造を採用することも可能である。即ち、かかる突起により、医療用粉体の噴射に際してインナ筒部材22を弾性的に変形させると共に、噴射の停止に伴ってインナ筒部材22への突起による押圧力を解除してインナ筒部材22を原形へ弾性的に復元させることにより、そのようなインナ筒部材22の周壁部の変形を利用して、インナ筒部材22の内部への詰まりを防止したり解消させることもできる。
【0072】
また、操作手段32による医療用粉体の噴射および停止に連動して弁体を開放および閉鎖する連動機構は、例示の如き機械的な連動機構の他、電気的な連動機構も採用可能である。即ち、レバー14の操作を電気的な接点やセンサ等で検知して、圧力気体の供給と停止を切り換える圧力バルブと、インナ筒部材の先端開口部を覆う弁体とを、それぞれアクチュエータ等で開閉作動させる機構なども採用可能である。
【0073】
更にまた、前述のように、操作手段32による切換操作に対応して噴射通路を構成するインナ筒部材22とアウタ筒部材24とを相対移動させる連動機構は、例示の如き機械的な連動機構の他、電気的な連動機構も採用可能である。また、機械的な連動機構としても、例示の如きインナ筒部材22とアウタ筒部材24の一方を直接にレバー14で移動させる他、ラック・ピニオンやリンク等の伝動機構を介して、インナ筒部材22とアウタ筒部材24の一方又は双方を相対的に操作レバー等で相対移動させる連動機構も採用され得る。
【0074】
また、前記実施形態では、弁体に対しての、直接当接による開作動と圧力作用による開作動が例示されており、何れも閉鎖状態への復帰が復元保持力により実現されていたが、例えば、インナ筒部材22とアウタ筒部材24の相対移動の作動力をラック・ピニオン機構やリンク機構等により弁体の開方向と閉方向の両方向へ及ぼして、弁体の開閉作動を強制的に実現することも可能である。
【0075】
さらに、前記第1の実施形態では、弁体78に対してインナ筒部材22の先端が直接に当接して開作動力が及ぼされるようになっているが、例えば弁体78を開閉するリンク部材等をインナ筒部材22が駆動させることにより、弁体78に対して間接的に開作動力が及ぼされるようになっていても良い。
【0076】
更にまた、前記第5の実施形態において、差入部材100はスリット弁よりも後方で、且つ、インナ筒部材22の先端面よりも前方に位置して配設されていたが、かかる態様に限定されるものではない。即ち、差入部材100はスリット弁の前方に配設されても良い。
【0077】
また、本発明において、振動機構66は必須ではない。なお、振動機構を採用する場合でも振動機構による噴射装置10の加振と医療用粉体の噴射を連動させる必要はなく、圧力気体以外、例えば電動モータ等を用いて振動機構を構成しても良い。
【0078】
さらに、本発明においては、インナ筒部材22の開口先端部分がアウタ筒部材24に配設された弁体により覆われていれば良く、例えばインナ筒部材22の開口先端部分のみを覆うアウタ筒部材24も採用可能であり、前記実施形態に示されているように、アウタ筒部材24がインナ筒部材22の全体を覆う必要はない。