特許第6135945号(P6135945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135945
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】褐色脂肪細胞分化誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20170522BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170522BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61K37/02ZNA
   C12Q1/02
   C12Q1/68 A
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P3/06
   A61P9/10 101
   A61K48/00
   A61P3/00
   A61P43/00 105
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-530534(P2014-530534)
(86)(22)【出願日】2013年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2013071591
(87)【国際公開番号】WO2014027608
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-180905(P2012-180905)
(32)【優先日】2012年8月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114362
【弁理士】
【氏名又は名称】萩野 幹治
(72)【発明者】
【氏名】山下 均
(72)【発明者】
【氏名】楠堂 達也
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 WANG,N. et al.,Atherosclerosis,2011年10月,Vol.218,No.2,P.543-551,ISSN 0021-9150,doi:10.1016/j.atheroscllerosis.2011.08.002
【文献】 VEAL,E. et al.,Oncogene,2000年 4月20日,Vol.19,No.17,P.2120-2128,ISSN 0995-9232
【文献】 DI BACCO,A. et al.,Oncogene,2003年 8月21日,Vol.22,No.35,P.5436-5445,ISSN 0995-9232
【文献】 SACHER,M. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2005年12月20日,Vol.102,No.51,P.18326-18331,ISSN 1091-6490
【文献】 HAN,Y. et al.,J. Vascular Surg.,2008年 7月,Vol.48,No.1,P.201-209,ISSN 0741-5214,doi:10.1016/j.jvs.2008.01.061
【文献】 ZHANG,Z. et al.,Protein Sci.,2004年10月,Vol.13,No.10,P.2819-2824,ISSN 1469-896X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 48/00
C12Q 1/02
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)又は(2)を有効成分として含む、褐色脂肪細胞分化誘導剤:
(1)CREG1タンパク質;
(2)CREG1遺伝子を保持する発現ベクター。
【請求項2】
CREG1タンパク質が、配列番号1又は2のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列に等価なアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の褐色脂肪細胞分化誘導剤。
【請求項3】
CREG1遺伝子が、配列番号3に示す塩基配列又は該塩基配列に等価な塩基配列を含む、請求項1に記載の褐色脂肪細胞分化誘導剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の褐色脂肪細胞分化誘導剤を含む、代謝異常又はその関連疾患の治療又は予防用組成物(但し、食品組成物を除く)
【請求項5】
代謝異常又はその関連疾患が、肥満、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化性疾患又はメタボリック症候群である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
医薬又は医薬部外品である、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
CREG1の発現又は分泌を上昇させる作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする、褐色脂肪細胞分化誘導物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下のステップ(i)〜(iii)を含む、請求項に記載のスクリーニング方法:
(i)CREG1が発現している細胞を被験物質存在下で培養するステップ;
(ii)前記細胞におけるCREG1の発現レベル又は分泌レベルを測定するステップ;及び
(iii)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、CREG1の発現レベル又は分泌レベルの上昇が認められることが有効性の指標となるステップ。
【請求項9】
被験物質非存在下であること以外はステップ(i)と同一の条件下で培養した細胞(コントロール群)を用意し、該コントロール群のCREG1の発現レベル又は分泌レベルと比較してステップ(iii)における有効性の判定を行う、請求項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は褐色脂肪細胞分化誘導剤及びその用途に関する。本出願は、2012年8月17日に出願された日本国特許出願第2012−180905号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の脂肪細胞には、中性脂肪としてエネルギーを貯蔵する白色脂肪細胞と、中性脂肪を利用して熱をつくり体温調節に寄与する褐色脂肪細胞が存在する。発達した褐色脂肪組織をもつ冬眠動物やげっ歯類は〜5℃の寒冷環境にも適応して生きることができる。ヒトの場合は、新生児では肩甲骨周辺に褐色脂肪組織が認められるが、成長とともに褐色脂肪細胞は減少していく。
【0003】
一方、褐色脂肪細胞は熱産生により余剰エネルギーを熱として消費することから、肥満や糖尿病とも関連して興味がもたれてきた。実際に、褐色脂肪細胞を除去したトランスジェニックマウスでは顕著な肥満の進展が観察された(非特許文献1)。また、本発明者らは褐色脂肪細胞における熱産生の中心分子であるミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP1; uncoupling protein 1)欠損マウスを作製し(非特許文献2)、このマウスが加齢と共に食事誘導性肥満となることを報告した(非特許文献3)。マウスなどの実験動物と異なりヒトの褐色脂肪細胞は加齢とともに消退し、実質的な役割はヒトではほとんどないと考えられてきた。しかし最近、褐色脂肪細胞は量的には少ないものの成人にも存在し、その存在量が肥満度や血糖値と逆相関することが明らかとなり(非特許文献4)、褐色脂肪細胞の分化誘導が肥満やメタボリックシンドロームの予防・治療に役立つのではないかと大きな注目を集めている(非特許文献5)。一方、褐色脂肪細胞の分化を制御する転写調節因子については、PGC1α(非特許文献6)やPRDM16(非特許文献7)などが重要な役割を果たすことが明らかとなってきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature 366:740-742,1993
【非特許文献2】Nature 387: 90-94,1997
【非特許文献3】Aging Cell 4: 147-155, 2005
【非特許文献4】N Engl J Med 360:1509-1517,2009
【非特許文献5】科学技術動向2009年6月号(文部科学省 科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター)
【非特許文献6】Cell Metab 1:361-370,2005
【非特許文献7】Nature 454:961-967,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PGC1αやPRDM16を利用してヒトにおいて褐色脂肪細胞を誘導した応用例は報告されていない。また、脂肪細胞の分化制御においてPGC1αやPRDM16の上流または下流に位置し、褐色脂肪細胞の分化誘導に働く分子が存在すると予想され、それら未知遺伝子の同定が重要な課題となっている。そこで本発明は、褐色脂肪細胞の分化誘導に有効な手段を提供し、肥満やメタボリックシンドロームの予防・治療などへの褐色脂肪細胞の利用・応用に資することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、寒冷環境下において褐色脂肪組織が発達するメカニズムを研究する過程で、褐色脂肪細胞の分化とともに発現が上昇する新規遺伝子の1つとしてcellular repressor of E1A-stimulated genes 1(Creg1)を見出した。また、Creg1が実際に褐色脂肪細胞の分化誘導に働くことを明らかにし(実施例の欄を参照)、以下に示す本発明を完成するに至った。
[1]以下の(1)又は(2)を有効成分として含む、褐色脂肪細胞分化誘導剤:
(1)CREG1タンパク質;
(2)CREG1遺伝子を保持する発現ベクター。
[2]CREG1タンパク質が、配列番号1又は2のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列に等価なアミノ酸配列を含む、[1]に記載の褐色脂肪細胞分化誘導剤。
[3]CREG1遺伝子が、配列番号3に示す塩基配列又は該塩基配列に等価な塩基配列を含む、[1]に記載の褐色脂肪細胞分化誘導剤。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の褐色脂肪細胞分化誘導剤を含む、代謝異常又はその関連疾患の治療又は予防用組成物。
[5]代謝異常又はその関連疾患が、肥満、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化性疾患又はメタボリック症候群である、[4]に記載の組成物。
[6]医薬、医薬部外品又は食品である、[4]又は[5]に記載の組成物。
[7]代謝異常又はその関連疾患の患者又は潜在的患者に対して、以下の(1)又は(2)を有効成分として含む医薬を投与するステップを含む、代謝異常又はその関連疾患の治療法:
(1)CREG1タンパク質;
(2)CREG1遺伝子を保持する発現ベクター。
[8]CREG1の発現又は分泌を上昇させる作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする、褐色脂肪細胞分化誘導物質のスクリーニング方法。
[9]以下のステップ(i)〜(iii)を含む、[8]に記載のスクリーニング方法:
(i)CREG1が発現している細胞を被験物質存在下で培養するステップ;
(ii)前記細胞におけるCREG1の発現レベル又は分泌レベルを測定するステップ;及び
(iii)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、CREG1の発現レベル又は分泌レベルの上昇が認められることが有効性の指標となるステップ。
[10]被験物質非存在下であること以外はステップ(i)と同一の条件下で培養した細胞(コントロール群)を用意し、該コントロール群のCREG1の発現レベル又は分泌レベルと比較してステップ(iii)における有効性の判定を行う、[9]に記載のスクリーニング方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】寒冷暴露によるマウスの褐色脂肪組織におけるCreg1とUCP1mRNAの発現変化。左:Creg1 mRNAの相対発現レベルの比較、右:UCP1 mRNAの相対発現レベルの比較。
図2】褐色脂肪細胞の分化における、UCP1 mRNAとCreg1 mRNAの発現量の経時変化。左:UCP1 mRNAの相対発現レベルの経時変化、右:Creg1 mRNAの相対発現レベルの経時変化。
図3】Creg1の発現誘導と褐色脂肪細胞の分化。Creg1 mRNAの相対発現レベルの比較、右:UCP1 mRNAの相対発現レベルの比較。
図4】Creg1の発現阻害と褐色脂肪細胞分化の抑制。Creg1 mRNAの相対発現レベルの比較、右:UCP1 mRNAの相対発現レベルの比較。
図5】Creg1発現アデノウイルス皮下投与による褐色脂肪細胞の誘導。(A)褐色脂肪組織(BAT)における、Creg1 mRNAの相対発現レベル(左)とUCP1 mRNAの相対発現レベル(右)。(B)内臓白色脂肪組織(GWAT)における、Creg1 mRNAの相対発現レベル(左)とUCP1 mRNAの相対発現レベル(右)。(C)マウスの鼠蹊部白色脂肪組織における、Creg1 mRNAの相対発現レベル(左)とUCP1 mRNAの相対発現レベル(右)。
図6】Creg1による褐色脂肪細胞の分化誘導作用。天然型Creg1を分化後48時間(左)又は10日後まで(右)添加し、UCP1のmRNA発現量を測定した。
図7】Creg1発現誘導による高脂肪食摂取ApoE欠損マウスの体重変化。アデノウイルスを利用してCreg1を発現誘導したマウスについて7日後(左)及び14日後(右)に体重の変化を調べた。
図8】高脂肪食摂取ApoE欠損マウスの組織重量に対するCreg1発現誘導の効果。Creg1の発現誘導14日後に体重、副睾丸周囲白色脂肪組織(E-WAT)、後腹膜白色脂肪組織(R-WAT)及び肝臓の重量を測定した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.褐色脂肪細胞分化誘導剤
本発明の第1の局面は褐色脂肪細胞分化誘導剤(以下、説明の便宜上「分化誘導剤」とも呼ぶ)に関する。「褐色脂肪細胞分化誘導剤」とは、褐色脂肪細胞への分化能を有する細胞(即ち前駆細胞又は幹細胞。典型的には、筋・褐色脂肪前駆細胞又は脂肪前駆細胞)に作用し、褐色脂肪細胞に分化するように働きかける薬剤をいう。褐色脂肪細胞分化誘導剤を使用すると、褐色脂肪細胞への分化が促進される結果、褐色脂肪細胞数が増大する。
【0009】
本発明の分化誘導剤は、本発明者らの検討がもたらした知見、即ちcellular repressor of E1A-stimulated genes 1(以下の説明では、慣例に従い、その遺伝子シンボル「CREG1」を用いて当該分子を表す)が褐色脂肪細胞分化誘導因子として機能するという事実に基づき、有効成分として(1)CREG1タンパク質又は(2)CREG1遺伝子を保持する発現ベクターを含む。尚、本発明の分化誘導剤は通常(1)又は(2)のみを含むが、両成分を含むことを妨げるものではない。
【0010】
(1)CREG1タンパク質
CREG1は分泌型糖タンパク質であり、細胞の増殖や分化に関与することが知られているものの(Veal E, Eisenstein M, Tseng ZH, Gill G. Mol Cell Biol. 1998 Sep;18(9):5032-41.、Di Bacco, A., Gill, G. Oncogene (2003)、Sacher, M., Di Bacco, A., Lunin, V.V., Ye, Z., Wagner, J., Gill, G., Cygler, M. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2005)等を参照)、その生理学的役割の詳細は不明である。CREG1のアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列をそれぞれ配列表の配列番号1(GenPept(NCBI), ACCESSION: NP_003842, DEFINITION: protein CREG1 precursor [Homo sapiens].)及び配列番号3(GenBank(NCBI), ACCESSION: NM_003851, DEFINITION: Homo sapiens cellular repressor of E1A-stimulated genes 1 (CREG1), mRNA.)に示す。
【0011】
本発明の有効成分の一つであるCREG1タンパク質として、前駆体(配列番号1)の他、シグナルペプチドが切断された成熟体(配列番号2)や特定の領域のみ(即ち断片)を用いることにしてもよい。
【0012】
上記の各タンパク質(前駆体、成熟体など)のアミノ酸配列と等価なアミノ酸配列を含むポリペプチドをCREG1タンパク質として用いることもできる。ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、基準となるアミノ酸配列(例えば配列番号1又は2)と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(褐色脂肪細胞に分化誘導する作用)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、基準となるアミノ酸配列と、それに等価なアミノ酸配列との間には機能上の実質的な同一性が認められる。機能上の実質的な同一性の有無を判定するためには、例えば、後述の実施例に記載した実験系(培養細胞又は動物による評価)を用い、褐色脂肪細胞を分化誘導する作用・効果の点において二つのアミノ酸配列の間に実質的な差がないことを確認すればよい。
【0013】
「アミノ酸配列の一部で相違する」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違は上記機能の大幅な低下がない限り許容される。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とは例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち等価アミノ酸配列は、基準となるアミノ酸配列と例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の配列同一性を有する。
【0014】
基準となるアミノ酸配列と等価アミノ酸配列との間の相違が保存的アミノ酸置換基によって生じていることが好ましい。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0015】
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の配列同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。配列同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、配列同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数及びサイズも考慮に入れる。
【0016】
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、Karlin及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。基準となるアミノ酸配列に等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLAST及びGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくは例えばNCBIのウェブページを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、Myers及びMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
【0017】
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
【0018】
CREG1は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にして、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって容易に調製することができる。例えば、CREG1をコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌、酵母、哺乳動物細胞など)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質としてCREG1を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、CREG1をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなるCREG1を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
【0019】
質的均一性及び純度の面などから、CREG1を遺伝子工学的手法によって調製することが好ましい。しかしながら、CREG1の調製法は遺伝子工学的手法によるものに限られない。例えば、天然材料(例えば血液や生体組織)から標準的な手法(破砕、抽出、精製など)によってCREG1を調製することもできる。
【0020】
(2)CREG1遺伝子を保持する発現ベクター
本発明の一態様では、CREG1遺伝子を保持する発現ベクターを有効成分とする。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。本発明に係る発現ベクターでは、CREG1遺伝子が発現可能に保持されることになる。CREG1遺伝子を標的細胞に導入し、標的細胞内で発現させることが可能である限り、ベクターの種類は特に限定されない。ここでの「ベクター」にはウイルスベクター及び非ウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。
【0021】
非ウイルスベクターとしてリポソーム、正電荷型リポソーム(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、HVJ(Hemagglutinating virus of Japan)-リポソーム(Dzau, V.J., Mann, M., Morishita, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:11421-11425, 1996、Kaneda, Y., Saeki, Y. & Morishita, R., Molecular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発されている。本発明における発現ベクターをこのような非ウイルス性ベクターとして構築してもよい。また、YACベクター、BACベクター等を利用することにしてもよい。
【0022】
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターではベクターに組み込んだ外来遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。レトロウイルスベクターの場合はウイルスゲノムの宿主染色体への組み込みには細胞の分裂が必要であることから非分裂細胞への遺伝子導入には適さない。一方、レンチウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターは非分裂細胞においても感染後に外来遺伝子の宿主染色体への組み込みが生ずる。従って、これらのベクターは非分裂細胞において安定かつ長期的に外来遺伝子を発現させるために有効である。
【0023】
各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。例えば、アデノウイルスベクターの作製はCOS-TPC法や完全長DNA導入法などで行うことができる。COS-TPC法は、目的のcDNA又は発現カセットを組み込んだ組換えコスミドと、親ウイルスDNA-末端タンパク質複合体(DNA-TPC)を293細胞に同時トランスフェクションし、293細胞内でおこる相同組換えを利用して組換えアデノウイルスを作製する方法である(Miyake,S., Makimura,M., Kanegae,Y., Harada,S., Takamori,K., Tokuda,C., and Saito,I. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 1320.)。一方、完全長DNA導入法は、目的の遺伝子を挿入した組換えコスミドを制限消化処理した後、293細胞にトランスフェクションすることによって組換えアデノウイルスを作製する方法である(寺島美保、近藤小貴、鐘ヶ江裕美、斎藤泉(2003)実験医学 21(7)931.)。COS-TPC法はAdenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)、Adenovirus genome DNA-TPC(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。また、完全長DNA導入法は、Adenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。
【0024】
一方、レトロウイルスベクターは以下の手順で作製することができる。まず、ウイルスゲノムの両端に存在するLTR(Long Terminal Repeat)の間のパッケージングシグナル配列以外のウイルスゲノム(gag、pol、env遺伝子)を取り除き、そこへ目的の遺伝子を挿入する。このようにして構築したウイルスDNAを、gag、pol、env遺伝子を構成的に発現するパッケージング細胞に導入する。これによって、パッケージングシグナル配列をもつベクターRNAのみがウイルス粒子に組み込まれ、レトロウイルスベクターが産生される。
【0025】
アデノベクターを応用ないし改良したベクターとして、ファイバータンパク質の改変により特異性を向上させたもの(特異的感染ベクター)や目的遺伝子の発現効率向上が期待できるguttedベクター(ヘルパー依存性型ベクター)などが開発されている。本発明の発現ベクターをこのようなウイルスベクターとして構築してもよい。
【0026】
発現ベクターに挿入されるCREG1遺伝子は好ましくは配列番号3に記載の塩基配列からなる。但し、当該塩基配列に等価な塩基配列かならなるDNA(以下、「等価DNA」と呼ぶ)をCREG1遺伝子として用いることもできる。ここでの「等価な塩基配列」とは、基準の塩基配列(配列番号3)と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(褐色脂肪細胞に分化誘導する作用)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。等価DNAの具体例は、基準の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
【0027】
等価DNAの他の具体例として、基準の塩基配列に対して1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、褐色脂肪細胞の分化誘導に有効なタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。以上のような等価DNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように基準の塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価DNAを得ることができる。
【0028】
等価DNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。
【0029】
CREG1遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって調製することができる。例えば、CREG1遺伝子に対して特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブ・プライマーを適宜利用することによってヒトcDNAライブラリーよりCREG1遺伝子を単離(及び増幅)することができる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーとしては、例えば、配列番号3に示す塩基配列に相補的なDNA又はその連続した一部が用いられる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーは市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。尚、CREG1遺伝子を調製するために用いるライブラリーの作製方法については、例えばMolecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkが参考になる。
【0030】
ヒトcDNAライブラリーに代えてヒト以外の哺乳動物細胞(例えば、サル、マウス、ラット、ブタ、ウシ)由来のcDNAライブラリーを用いれば等価DNAを調製可能である。
【0031】
2.褐色脂肪細胞分化誘導剤を含む組成物
褐色脂肪細胞は中性脂肪を燃焼して過剰エネルギーを消費する特殊な細胞であり、その減少が肥満やメタボリック症候群発症の原因となることが明らかとなってきた。従って、褐色脂肪細胞を増加させることは、肥満やメタボリック症候群など、代謝異常やその関連疾患の予防・治療に有効な手段となる。そこで本発明の第2の局面は、代謝異常又はその関連疾患の治療又は予防用の組成物を提供する。
【0032】
(1)医薬組成物・医薬部外品組成物
本発明の組成物は、好ましくは医薬、医薬部外品又は食品の形態で提供される。即ち、本発明は好ましい態様として、本発明の分化誘導剤を有効成分として含有する医薬組成物、医薬部外品組成物及び食品組成物を提供する。本発明の組成物の治療ないし予防対象となる「代謝異常又はその関連疾患」(以下、説明の便宜上「標的疾患」と呼ぶ)の具体例は、肥満、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化性疾患、メタボリック症候群である。ここで「肥満」とは一般的には体内に脂肪組織が過剰に蓄積した状態をいう。本明細書では用語「肥満」は広義に解釈されるものとし、その概念に肥満症を含む。「肥満症」とは肥満に起因ないし関連する健康障害(合併症)を有するか又は将来的に有することが予測される場合であって、医学的に減量が必要とされる病態をいう。肥満の判定法には、例えば、国際的に広く使用されているBMI(body mass index)を尺度としたものがある。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で除した数値(BMI=体重(kg)/身長(m))である。BMI<18.5は低体重(underweight)、18.5≦BMI<25は普通体重(normal range)、25≦BMI<30は肥満1度(preobese)、30≦BMI<35は肥満2度(obese class I)、35≦BMI<40は肥満3度(obese class II)、40<BMIは肥満4度(obese class III)と判定される(WHO)。また、BMIを利用して、日本人の成人の標準体重(理想体重)を以下の式、標準体重(kg)=身長(m)×22から計算し、実測体重が標準体重(計算値)の120%を超える状態を肥満とする判定法もある。もっとも、標準体重(理想体重)は性別、年齢、又は生活習慣の差異などによって個人ごとに相違することから、肥満の判定をこの方法で一律に行うことは妥当でないと考えられている。
【0033】
「メタボリック症候群」とは、肥満・内臓脂肪の蓄積を基盤としてインスリン抵抗性、動脈硬化惹起性リポ蛋白異常、高血圧を合併し、心血管病に罹るリスクが高くなった状態をいう。メタボリック症候群の診断基準については、2005年4月に内科系8学会(日本動脈硬化学会、日本肥満学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本循環器学会、日本内科学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会)が合同で以下の診断基準を作成している。
<日本内科学会等8学会による診断基準>
以下の(a)に加え、(b)〜(d)の中の二つ以上を満たす。
(a)腹囲: 男性は85cm以上、女性は90cm以上
(b)中性脂肪が150mg/dl以上かつ/又はHDL-Cが40mg/dl未満
(c)血圧が130/85mmHg以上
(d)空腹時血糖が110mg/dl以上
【0034】
尚、国際糖尿病連盟(IDF)は、以下の世界統一診断基準を作成している。
<国際糖尿病連合(IDF)の診断基準>
以下の(a)に加え、(b)〜(e)の中の二つ以上を満たす。
(a)腹囲: 男性は90cm以上、女性は80cm以上
(b)中性脂肪が150mg/dl以上
(c)空腹時血糖が100mg/dl以上
(d)HDL-C: 男性は40mg/dl未満、女性は45mg/dl未満
(e)血圧が130/85mmHg以上
【0035】
本発明における「医薬」及び「医薬部外品」は、標的疾患に対する治療的又は予防的効果を示す薬剤組成物である。治療的効果には、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、標的疾患に特徴的な症状や病態の発現(発症)又は再発を阻止ないし遅延することである。尚、標的疾患に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、本発明の医薬組成物ないし医薬部外品組成物に該当する。
【0036】
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0037】
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の医薬組成物又は医薬部外品組成物を提供できる。
【0038】
本発明の医薬組成物には、期待される治療効果や予防効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。同様に本発明の医薬部外品組成物には、期待される改善効果や予防効果等を得るために必要な量の有効成分が含有される。本発明の医薬組成物又は医薬部外品組成物に含まれる有効成分量は一般に剤型や形態によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約99重量%の範囲内で設定する。
【0039】
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物はその剤型・形態に応じて経口又は非経口(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜、塗布など)で対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい態様では、適用対象はヒトである。
【0040】
本発明の医薬組成物及び医薬部外品組成物の投与量・使用量は、期待される効果が得られるように設定される。有効な投与量の設定においては一般に適用対象の症状、年齢、性別、体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、適用対象の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【0041】
ここで、CREG1遺伝子を保持する発現ベクターを有効成分とした場合、薬学的に許容可能な媒体を組み合わせて製剤化するとよい。「薬学的に許容可能な媒体」とは、発現ベクターの薬効(即ち標的疾患に対する治療又は予防効果)に実質的な影響を与えることなく発現ベクターの投与や保存等に関して利点ないし恩恵をもたらす物質をいう。「薬学的に許容可能な媒体」として、脱イオン水、超純水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、5%デキストロース水溶液等を例示できる。本発明の組成物に、懸濁剤、無痛化剤、安定剤(アルブミンやPrionex(登録商標、ペンタファームジャパン)等)、保存剤、防腐剤など、その他の成分を含有させてもよい。
【0042】
CREG1遺伝子を保持する発現ベクターがウイルスベクターの形態の場合、生体適合性のポリオル(例えばpoloxamer407など)を併用することが好ましい。ポリオルの使用によってウイルスベクターの形質導入率を10〜100倍に上昇させ得る(March et al., Human Gene Therapy 6:41-53, 1995)。従って、ポリオルを併用することにすればウイルスベクターの投与量を低く抑えることができる。尚、本発明の医薬組成物の一成分としてポリオルを使用することにしても、本発明の医薬組成物とは別にポリオル(又はそれを含む組成物)を調製することにしてもよい。後者の場合、本発明の医薬組成物を投与するときにポリオル(又はそれを含む組成物)を併せて投与することになる。
【0043】
以上の記述から明らかな通り本出願は、代謝異常又はその関連疾患の患者又は潜在的患者(将来罹患するおそれのある者)に対して本発明の医薬組成物を治療上有効量投与することを特徴とする、代謝異常又はその関連疾患の治療法や予防法も提供する。
【0044】
(2)食品組成物
上記の通り本発明の一態様は、本発明の分化誘導剤を含有する食品組成物である。本発明での「食品組成物」の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。
【0045】
本発明の食品組成物には、治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0046】
3.褐色脂肪細胞分化誘導物質のスクリーニング方法
本発明の第3の局面は褐色脂肪細胞分化誘導物質をスクリーニングする方法に関する。本発明のスクリーニング方法によって選抜された化合物は、褐色脂肪細胞分化誘導剤の有効成分として有望であり、代謝異常又はその関連疾患の治療や予防に利用され得る。本発明のスクリーニング方法では、「CREG1の発現増強が、褐色脂肪細胞への分化を誘導する手段として有効である」との知見に基づき、「CREG1の発現レベルの上昇が認められること」を指標として被験物質の有効性を判断する。即ち、本発明のスクリーニング方法は、CREG1の発現レベル上昇作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする。本発明の一態様では、以下のステップを実施する。
(i)CREG1が発現している細胞を被験物質存在下で培養するステップ;
(ii)前記細胞におけるCREG1の発現レベル又は分泌レベルを測定するステップ;及び
(iii)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、CREG1の発現レベル又は分泌レベルの上昇が認められることが有効性の指標となるステップ。
【0047】
ステップ(i)ではCREG1が発現している細胞(以下、「CREG1発現細胞」と呼ぶ)を用意し、これを被験物質の存在下で培養する。当該細胞としては、脂肪細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、皮膚細胞等を用いることができる。生体から新たに調製した細胞又はその継代細胞を用いても、或いは市販の細胞株などを用いてもよい。CREG1を強制発現するように操作した細胞(遺伝子組換え細胞)を使用することもできる。細胞の生物種は特に限定されない。生物種の例を挙げると、マウス、ラット、ハムスター、サル、ヒトである。
【0048】
好適な細胞の具体例としてヒト肝臓由来細胞であるHepG2細胞を挙げることができる。本発明者らは、種々の細胞株を検討した結果、HepG2細胞がCreg1を産生することを確認している。また、Creg1産生の主要臓器の一つが肝臓と考えられることからも、スクリーニング用細胞としてHepG2細胞は好適な細胞株であると考えられる。
【0049】
被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。医薬や栄養食品等の既存成分或いは候補成分も好ましい被検物質の一つである。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被検物質として用いてもよい。2種類以上の被験物質を同時に添加することにより、被験物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。
【0050】
CREG1発現細胞を被験物質存在下で培養するためには、例えば、CREG1発現細胞を培養皿に播種して所定時間(例えば10分〜1週間)経過した後、被験物質を培養液に添加するか或いは被験物質を添加した培養液に交換すればよい。播種後、直ちに被験物質の添加或いは被験物質を添加した培養液への交換を実施することにしてもよい。また、被験物質を予め添加した培養液を用いることにし、播種と同時に「被験物質が培養液中に存在した状態」が形成されるようにしてもよい。
【0051】
被験物質存在下での培養時間は特に限定されないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜24時間とする。尚、最適な培養時間は予備実験によって決定することができる。
【0052】
本明細書で言及しない事項(培地、培養温度など)については、使用する細胞の培養に一般的な培養条件に従えばよい。培養条件は、過去の報告や成書を参考にして、或いは予備実験を通じて決定すればよい。尚、培養温度は通常37℃とする。
【0053】
ステップ(ii)では、ステップ(i)を経たCREG1発現細胞、即ち被験物質存在下で所定時間培養したCREG1発現細胞のCREG1発現レベル又は分泌レベルを測定する。CREG1発現レベルの測定法は特に限定されない。例えば、CREG1遺伝子のmRNA量をRT-PCRで定量することや、CREG1タンパク質の量を免疫学的に測定すること(例えばウエスタンブロット法による)によって測定可能である。
【0054】
ステップ(iii)ではステップ(ii)の測定結果に基づき被験物質の有効性を判定する。本発明では、被験物質が有効であることの指標として「CREG1の発現レベル又は分泌レベルの上昇が認められること」を採用する。即ち、CREG1の発現レベル又は分泌レベルの上昇を認めた場合に被験物質は有効であると判定し、CREG1の発現レベル又は分泌レベルの上昇を認めない場合に被験物質は有効でないと判定する。複数の被験物質を用いた場合には、発現レベル又は分泌レベルの上昇の程度に基づき、各被験物質の有効性を比較評価することができる。
【0055】
ステップ(iii)での判定結果に基づき有効な被験物質が選抜される。通常は、比較対象として、被験物質非存在下(その他の条件はステップ(i)と同一とする)で培養したCREG1発現細胞(以下、「コントロール群」と呼ぶ)を用意し、そのCREG1発現レベル又は分泌レベルも並行して測定する。そして、当該コントロール群のCREG1発現レベル又は分泌レベルと試験群のCREG1発現レベル又は分泌レベルを比較することによって、CREG1の発現レベル又は分泌レベルを被験物質が上昇させたか否か判断する。このようにコントロール群との比較によって被験物質の有効性を判定すれば、より信頼性の高い判定結果が得られる。
【0056】
本発明のスクリーニング方法によって選択された物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのまま褐色脂肪細胞分化誘導剤の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、褐色脂肪細胞分化誘導剤の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
【実施例】
【0057】
褐色脂肪細胞の分化誘導に働く分子を同定すべく、以下の実験を行った。
1.褐色脂肪細胞の分化誘導因子の探索
寒冷環境下でマウスやラットを飼育すると、褐色脂肪細胞の分化が刺激され、褐色脂肪組織が増大することが知られている。そこで、C57BL6マウスを5℃環境下で1週間飼育した(寒冷暴露)後、肩甲骨間から褐色脂肪組織を採取し、全RNA分画を調製した。コントロールとして、寒冷暴露しないマウスからも同様に褐色脂肪組織の全RNA分画を調製した。次に、全RNA分画から合成したcDNAを用いて、UCP1とCreg1のmRNA発現量を定量PCR法により測定した。コントロール遺伝子として同様に測定した36B4 mRNAの発現量によりノーマライズした結果(n=4)を図1に示す。従来の報告通り、寒冷暴露によって褐色脂肪組織が発達しUCP1遺伝子の発現量が約10倍に上昇した。同様に、Creg1遺伝子の発現量も寒冷暴露により4倍以上に上昇することが明らかとなった。
【0058】
2.UCP1発現量とCreg1発現量の関係
C57BL6マウスから採取した皮下白色脂肪組織を0.2%コラゲナーゼを含む組織消化液中にて37℃、30分間処理した後、2種類(口径70μm及び40μm)のナイロンフィルターを用いて組織消化液をろ過した。ろ液を170 gで6分間遠心分離し、沈殿した細胞分画を得た。次に、これらの初代細胞を30,000個/穴で24穴プレートに播種し、10%牛胎児血清を含むDMEM培地中(10%FBS/DMEM)において37℃、5%CO2インキュベーター内にて培養した。2日後、分化培地(0.5mM IBMX, 1μM デキサメタゾン, 10μg/ml インスリン, 125nM インドメタシン, 1nM T3, 1μM Pioglitazoneを含む10%FBS/DMEM)に培地交換して褐色脂肪細胞への分化を誘導した。分化誘導前を0日として1、2、4、6、8、10、12日目に細胞から全RNA分画を調製した。全RNA分画から合成したcDNAを用いてUCP1とCreg1のmRNA発現量を定量PCR法により測定した。コントロール遺伝子として同様に測定した36B4 mRNAの発現量によりノーマライズした結果(n=3)を図2に示す。
【0059】
皮下白色脂肪組織に含まれる未分化の前駆脂肪細胞は、褐色脂肪細胞の指標となるUCP1のmRNA発現量の変化から、分化誘導刺激後6日目頃から褐色脂肪細胞に分化したことが判明した。また、Creg1のmRNA発現量はUCP1発現量の変化とよく一致して、褐色脂肪細胞の分化と共に上昇することが明らかとなった。
【0060】
3.Creg1の過剰発現が褐色脂肪細胞の分化誘導に与える影響の検討
Creg1の過剰発現が褐色脂肪細胞の分化誘導に与える影響を検討するため、レトロウイルスベクターpMXを用いる実験系を構築した。pMX-GFP(コントロール)またはpMX-Creg1をPLAT-E細胞にトランスフェクションし、それぞれのウイルス液を作製した。次に、2.と同様に準備しておいた皮下白色脂肪組織由来の初代前駆脂肪細胞培養系にウイルス液を加え、翌日培地交換した後、褐色脂肪細胞への分化誘導を行った。5日後に、細胞から全RNA分画を調製し、合成したcDNAを用いてUCP1とCreg1のmRNA発現量を定量PCR法により測定した。コントロール遺伝子として同様に測定した36B4 mRNAの発現量によりノーマライズした結果(n=6)を図3に示す。
【0061】
レトロウイルス遺伝子発現系により、Creg1 mRNAの発現量はコントロールの約30倍に上昇した。また、UCP1発現量はCreg1の発現誘導により約3倍に上昇し、褐色脂肪細胞の分化誘導が促進されたことが明らかとなった。
【0062】
4.siRNAによるノックダウン実験
2.と同様に、皮下白色脂肪組織由来の初代前駆脂肪細胞培養系を用いてCreg1のsiRNA遺伝子ノックダウン実験を行い、褐色脂肪細胞分化誘導に対する影響を検討した。具体的には、24穴プレートに播種した初代細胞が約50〜70%コンフルエントとなった後、Invitrogen社のCreg1ノックダウン用Stealth RNAiをLipofectoamine RNAi MAX試薬を用いて細胞に導入した。翌日培地交換し、2日目から褐色脂肪細胞への分化誘導を行った。5日後に、細胞から全RNA分画を調製し、合成したcDNAを用いてUCP1とCreg1のmRNA発現量を定量PCR法により測定した。コントロール遺伝子として同様に測定した36B4 mRNAの発現量によりノーマライズした結果(n=6)を図4に示す。
【0063】
siRNAによる遺伝子ノックダウンにより、Creg1遺伝子の発現はコントロールの20%以下に低下した。同様に、UCP1発現量はCreg1の発現阻害によりコントロールの約20%に低下し、褐色脂肪細胞の分化誘導が阻害されたことが明らかとなった。
【0064】
5.Creg1のin vivoでの効果
Creg1遺伝子の褐色脂肪細胞分化における作用を個体レベルで検証するために、Creg1遺伝子発現アデノウイルスベクター系(Ad-Creg1)を構築した。Ad-LacZ(コントロール)またはAd-Creg1を293A細胞にトランスフェクションして調製したアデノウイルス(約3x1010 pfu/20μl)をマウスに皮下注射し、一週間後に各脂肪組織から全RNA分画を調製し、合成したcDNAを用いてUCP1 mRNA量を定量PCR法により測定した。コントロール遺伝子として同様に測定した36B4 mRNAの発現量によりノーマライズした結果(n=4)を図5に示す。コントロールに比べて、Creg1発現アデノウイルスを投与したマウスの褐色脂肪組織(A: BAT)においてCreg1 mRNA量は約2倍に上昇したが、UCP1発現量の上昇は15%程度に留まった。一方、内臓白色脂肪組織(B: GWAT)におけるCreg1 mRNA量の上昇は10%程度であったが、UCP1 mRNA量はコントロールの約13倍に上昇していることが明らかとなった。この結果は、内臓白色脂肪組織において褐色脂肪細胞の分化が顕著に誘導されたことを示すものである。また、この内臓白色脂肪組織における褐色脂肪細胞の分化誘導は組織学的検討からも確認された(結果省略)。同様に、Ad-LacZ(コントロール)またはAd-Creg1発現アデノウイルス(約1.6x109 pfu/マウス)をマウスの鼠蹊部白色脂肪組織に注射して一週間後にその白色脂肪組織から全RNA分画を調製し、合成したcDNAを用いてUCP1と36B4 mRNA量を定量PCR法により測定した(n=4)。コントロールに比べて、Creg1発現アデノウイルスを投与したマウスの鼠蹊部白色脂肪組織(C:IWAT)においてCreg1 mRNA量は約1.6倍に上昇し、UCP1発現量は約2.4倍に上昇した(図5(C))。この結果は、鼠蹊部白色脂肪組織においてCreg1を発現誘導することにより褐色脂肪細胞の分化が促進されたことを示すものである。
【0065】
6.細胞へのCreg1添加実験
a)精製Creg1蛋白質の調製
哺乳動物細胞における蛋白質発現プラスミドpcDNA3.1にマウスCreg1 cDNAを挿入し、このCreg1発現ベクターをサル腎臓由来Cos7細胞に遺伝子導入した。Creg1発現ベクターを導入したCos7細胞において天然型マウスCreg1を安定的に産生する細胞を選別し、精製Creg1蛋白質調製用細胞とした。次に、この細胞を大量培養して得られた培養上清中に分泌されるCreg1を精製し天然型マウスCreg1を調製した。また、組換え型マウスCreg1は大腸菌における蛋白質発現プラスミドpET-21に挿入し、このCreg1発現ベクターを大腸菌に遺伝子導入した。Creg1発現ベクターを導入した大腸菌を大量培養し、得られた培養液からCreg1を精製し、組換え型マウスCreg1を調製した。
【0066】
b)マウス胎児由来C3H10株化細胞(脂肪細胞など間葉系細胞に分化可能)を用いて天然型マウスCreg1の褐色脂肪細胞分化誘導作用を検討した。具体的には、12穴プレートに播種したC3H10細胞を10%FBS/DMEM増殖培地にてコンフルエントまで培養した。次に、1μMの天然型マウスCreg1を添加した分化培地に培地交換し褐色脂肪細胞への分化を誘導した。分化誘導後10日目に細胞から全RNA分画を調製した。全RNA分画から合成したcDNAを用いてUCP1 mRNA発現量を定量PCR法により測定した。コントロール遺伝子として同様に測定した36B4 mRNAの発現量によりノーマライズした結果(n=3〜6)を図6に示す。
【0067】
天然型Creg1を(1)分化後48時間のみ、又は(2)分化10日後まで添加した、どちらの条件においても、褐色脂肪細胞の指標となるUCP1のmRNA発現量は、Creg1未添加の細胞に比べて有意に高く、天然型Creg1の添加により褐色脂肪細胞の分化がより強く促進されることが明らかとなった。一方、組換え型マウスCreg1を用いて同様の実験を行ったが、組換え型Creg1蛋白質には褐色脂肪細胞の分化促進作用は認められなかった(結果省略)。この結果は、Creg1の分泌タンパクとしての機能をサポートするものであり、実際にCreg1が細胞の外から、おそらくは細胞膜上に存在する受容体を介して、褐色脂肪細胞への分化を促進するように働くことを示すものといえる。また、大腸菌で作製した組換え型Creg1蛋白質を添加した実験では褐色脂肪細胞への分化促進作用を確認することができなかったことから、生体内でCreg1に付加される糖鎖による修飾がCreg1機能に重要であると考えられる。
【0068】
2.高脂肪食を摂取したApoE欠損マウスにおけるCreg1発現誘導実験
8週齢の雄性ApoE欠損動脈硬化モデルマウスに対して、麻酔下にてAd-LacZ(コントロール)またはAd-Creg1アデノウイルスを尾静脈より投与し(約1.5x109 pfu/マウス)、高脂肪食摂取下において2週間体重変化を観察した。2週間後にマウスを屠殺し、各組織を採取した。尚、Creg1蛋白質投与実験の代わりとして、アデノウイルスベクターを用いて生体内で天然型Creg1蛋白質の発現を誘導し、その効果を個体レベルで検討することにしたが、この方法では、アデノウイルスベクターの特性として目的蛋白質は主に肝臓で産生されて血中に分泌されることになる。マウス生体内におけるCreg1遺伝子の発現分布の検討から、Creg1産生の主要臓器の一つは肝臓と考えられることから、アデノウイルスベクターを用いる方法は本来Creg1が産生される組織における発現を増強するものとなる。以上の理由から、アデノウイルスベクターを用いるCreg1発現誘導法は、生体内においてCreg1レベルを上げるという目的において、Creg1蛋白質の投与実験と類似の結果を得られることが期待され、実験室レベルにおいて妥当な代替実験法と考えられる。
【0069】
実験結果を図7及び8に示す。体重変化を観察した結果、Creg1発現誘導したマウスではコントロールマウスと比較して、7日及び14日後において体重増加が有意に抑制されていることが明らかになった。また、14日後に採取した組織重量においても、Creg1発現マウスではコントロールマウスと比較して、内臓脂肪である副睾丸周囲白色脂肪組織(E-WAT)や後腹膜白色脂肪組織(R-WAT)、及び肝臓の各組織重量が有意に少ないことが判明した(図8)。尚、14日後における肝臓でのCreg1 mRNAの発現量は、Ad-LacZに比べてAd-Creg1で約1.4倍(p<0.001)に上昇していた。これらの結果は、Creg1発現誘導がメタボリック症候群モデルマウスにおける脂肪蓄積を抑制して肥満の予防に働くことを示すものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の褐色脂肪細胞分化誘導剤は肥満、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化性疾患、メタボリック症候群等の治療や予防に利用され得る。
【0071】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]