特許第6135954号(P6135954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135954
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20170522BHJP
【FI】
   H01L33/32
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-208434(P2015-208434)
(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公開番号】特開2017-84851(P2017-84851A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2016年12月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 晃平
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−187159(JP,A)
【文献】 特開2015−149342(JP,A)
【文献】 特開平08−228048(JP,A)
【文献】 特開2010−074182(JP,A)
【文献】 特開2014−160806(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157198(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる発光波長が520nm以上の窒化物半導体発光素子であって、
サファイア基板と、前記サファイア基板のc面の上層に形成された半導体層とを備え、
前記半導体層は、
前記サファイア基板の面上に形成された、Gaを含む窒化物半導体からなる第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成され、Gaを含み、n型不純物が前記第一半導体層より高濃度でドープされた窒化物半導体からなる第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に形成され、In及びGaを含む窒化物半導体からなる発光層と、Gaを含む窒化物半導体からなる障壁層とが、複数周期積層して構成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され、Gaを含み、p型不純物がドープされた窒化物半導体からなる第三半導体層とを含み、
前記サファイア基板の厚みXと、前記半導体層の厚みYが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする窒化物半導体発光素子。
0.06≦ Y/X ≦ 0.12 ・・・(1)
【請求項2】
前記半導体層の厚みが6μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第二半導体層の厚みが、前記第一半導体層の厚みより厚いことを特徴とする請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第二半導体層は、Al及びGaを含む窒化物半導体からなる層を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記第二半導体層が、アンドープの窒化物半導体からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子に関し、特に主たる発光波長が520nm以上を示す窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光領域の発光波長を持つ半導体発光素子を用いた、プロジェクタ、医療用検査装置、又は土壌分析装置等の開発が進んでいる。可視光領域の発光波長を持つ半導体発光素子としては、従来GaP系の化合物半導体が主に用いられている。しかし、GaP系の化合物半導体は、バンド構造が間接遷移型の半導体であり、遷移確率が低いことから発光効率の上昇は困難であった。そこで、直接遷移型の半導体である窒化物半導体系の材料を用いた、可視光領域の半導体発光素子の開発が進められている。
【0003】
しかし、現時点において、可視光領域の中でも、特に520nm以上の波長域の光を高効率で発することのできる半導体発光素子は実現できていない。図10は、主たる発光波長と内部量子効率の関係を示すグラフである。図10において、横軸が主たる発光波長に対応し、縦軸が内部量子効率(IQE)に対応する。図10によれば、主たる発光波長が520nmを超えると内部量子効率が急激に低下していることが確認される。このように内部量子効率が低下する波長領域は「グリーンギャップ領域」と呼ばれる。GaP系や窒化物半導体系に関わらず、この波長領域において効率が低下することが問題となっている。このため、グリーンギャップ領域において、内部量子効率を高め、高い発光効率を示す半導体発光素子の実現が求められている。
【0004】
特に520nm以上の波長域において発光効率が低下する理由の一つに、内部電界(ピエゾ電界)に起因して、活性層内での電子と正孔の再結合確率が低下することが挙げられる。この点につき、窒化物半導体を例に挙げて説明する。
【0005】
GaNやAlGaNなどの窒化物半導体は、ウルツ鉱型結晶構造(六方晶構造)を有している。ウルツ鉱型結晶構造の面は、4指数表記(六方晶指数)にて、a1、a2、a3及びcで示される基本ベクトルを用いて結晶面や方位が表される。基本ベクトルcは、[0001]方向に延びており、この方向は「c軸」と呼ばれる。c軸に垂直な面は「c面」又は「(0001)面」と呼ばれる。
【0006】
従来、窒化物半導体を用いて半導体発光素子を作製する場合、窒化物半導体結晶を成長させる基板として、c面を主面とする基板が使用される。実際にはこの基板上に低温下でバッファ層としてのGaN層を成長させた後、その上層に種々の窒化物半導体層を成長させる。なお、発光に寄与する層を構成する活性層には、GaNとInNの混晶であるInGaNが含まれるのが一般的である。
【0007】
ここで、GaNとInNには格子定数に差が存在する。具体的には、a軸方向に関し、GaNの格子定数は約0.319nmである一方、InNの格子定数は約0.354nmである。このため、GaN層より上層に、GaNよりも格子定数の大きいInNを含むInGaN層を成長させると、InGaN層は成長面と垂直方向に圧縮歪みを受ける。このとき、正電荷を持つGa及びInと負電荷を持つNとの分極のバランスが崩れ、c軸方向に沿った電界(ピエゾ電界)が発生する。ピエゾ電界が活性層に発生すると、この活性層のバンドが曲がって電子と正孔の波動関数の重なり度合いが小さくなり、活性層内での電子と正孔の再結合確率が低下する。この現象は、「量子閉じ込めシュタルク効果」と呼ばれる。これにより、内部量子効率が低下する。
【0008】
発光波長を520nm以上にするためには、当該波長に応じたバンドギャップを実現するために、活性層(特に発光層)に含まれるIn組成を高める必要がある。しかし、In組成を高めると圧縮歪みが大きくなるため、ピエゾ電界が大きくなる。この結果、内部量子効率が更に低下する。
【0009】
内部量子効率を高める方法として、例えば下記特許文献1では、非極性面、例えば[10−10]方向に垂直な、m面と呼ばれる(10−10)面を表面に有する基板を使用して活性層を成長させることで、活性層にピエゾ電界を生じさせないようにした発光素子が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−230972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来よりも発光効率を向上させた、主たる発光波長が520nm以上の窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、主たる発光波長が520nm以上の窒化物半導体発光素子であって、
サファイア基板と、前記サファイア基板の上層に形成された半導体層とを備え、
前記半導体層は、
前記サファイア基板の面上に形成された、Gaを含む窒化物半導体からなる第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成され、Gaを含み、n型不純物が前記第一半導体層より高濃度でドープされた窒化物半導体からなる第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に形成され、In及びGを含む窒化物半導体からなる発光層と、Gaを含む窒化物半導体からなる障壁層とが、複数周期積層して構成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され、Gaを含み、p型不純物がドープされた窒化物半導体からなる第三半導体層とを含み、
前記サファイア基板の厚みXと、前記半導体層の厚みYが、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
0.06≦ Y/X ≦ 0.12 ・・・(1)
【0013】
上述したように、従来、主たる発光波長が520nm以上の発光素子を窒化物半導体で実現しても、低い発光効率しか示さなかったのは、活性層に存在する内部応力に起因したピエゾ電界に基づくものである。本発明者は、鋭意研究により、サファイア基板の厚みに対する半導体層の厚みの比率を、従来、想定されている半導体発光素子よりも高くすることで、残留応力を低減させる方向に発光素子自体の形状を歪ませることができ、これによって、活性層内の内部応力を低減できることを見出した。この構成により、従来よりも発光効率の向上した窒化物半導体発光素子が実現できる。詳細については、「発明を実施するための形態」の項において後述される。
【0014】
更に、本発明者は、従来に比べて半導体層を厚膜で積むことで、活性層の結晶性を高める効果も有している点を見出した。特に、この効果は、半導体層の厚みを6μm以上とすることで顕著に現れる。これにより、更に発光効率を向上させることができる。
【0015】
上記構成において、第一半導体層をアンドープ層で構成しても構わない。
【0016】
また、上記の構成において、前記第二半導体層の厚みを、前記第一半導体層の厚みよりも厚くしても構わない。すなわち、従来の構成と比較して、n型半導体層を厚膜で形成することで、上記(1)式を充足させるものとしても構わない。これにより、内部量子効率を向上させながら、内部抵抗値を減少させることができる。
【0017】
また、上記の構成において、前記第二半導体層は、Al及びGaを含む窒化物半導体からなる層を含むものとしても構わない。例えばAlGaN等のAlを含む半導体からなる層を第二半導体層に含めることで、発光素子自体の形状を歪ませる効果を更に高めることができると共に、内部抵抗値を更に減少させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも発光効率を向上させた、主たる発光波長が520nm以上の窒化物半導体発光素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】窒化物半導体発光素子の構造を模式的に示す断面図である。
図2】活性層の構造の一部を模式的に示す断面図の一例である。
図3A】サファイア基板の厚みと半導体層の厚みとを適宜変更させながら製造した発光素子の発光効率を対比する表である。
図3B】比較対象の発光素子の構造を示す断面図である。
図4】サファイア基板の厚みXに対する半導体層の厚みYの比率(Y/X)と、発光効率との関係を示すグラフである。
図5】サファイア基板の上面に半導体層を成長させた場合において、各層に働く応力を模式的に付記した図面である。
図6】半導体層の厚みとウェハに発生している残留応力との関係、半導体層の厚みと発光効率との関係を示すグラフである。
図7】サファイア基板の厚みとウェハに発生している残留応力との関係、サファイア基板の厚みと発光効率との関係を示すグラフである。
図8】半導体層の厚みを変化させて作成された発光素子に対して電流を供給して光らせたときの発光状態を示す蛍光顕微鏡写真である。
図9】半導体層の厚みを変化させて作成された発光素子に対して電流を供給して光らせたときの発光状態を示す蛍光顕微鏡写真である。
図10】主たる発光波長と内部量子効率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の窒化物半導体発光素子につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面において、図面の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しない。
【0021】
本明細書において、膜厚、組成、及び多層構造体に係る周期数に関する数値はあくまで一例である。本発明は、これらの数値に限定されるものではない。
【0022】
また、本明細書において、「AlGaN」という表記は、AlmGa1-mN(0<m<1)という記述と同義であり、AlとGaの組成比の記述を単に省略して記載したものであって、AlとGaの組成比が1:1である場合に限定する趣旨ではない。「InGaN」、「AlInGaN」という表記についても同様である。
【0023】
[構造]
図1は、本実施形態の窒化物半導体発光素子の構造を模式的に示す断面図である。窒化物半導体発光素子1は、サファイア基板2と、サファイア基板2の上面に形成された半導体層3とを有する。半導体層3は、アンドープ層10、n型半導体層20、活性層30、及びp型半導体層40を有する。活性層30は、サファイア基板2の面に直交する方向に、n型半導体層20とp型半導体層40に挟まれる位置に配置されている。以下では、「窒化物半導体発光素子1」を単に「発光素子1」と略記することがある。
【0024】
アンドープ層10は、アンドープのGaN層を含んで構成されている。一例として、アンドープ層10は、厚み2μmのアンドープGaN層とすることができる。本実施形態におけるアンドープ層10が、「第一半導体層」に対応する。
【0025】
n型半導体層20は、Ga及びNを含むn型半導体で構成される。例えば、n型半導体層20は、n型GaN層、n型AlGaN層、及びn型AlInGaN層のうちの、少なくともいずれか一を含む構造とすることができる。すなわち、n型半導体層20は、単層構造としても構わないし、多層構造としても構わない。一例として、n型半導体層20は、厚みが8μmのn型GaN層と、厚みが1μmのn型AlGaN層と、厚みが30nmのn型AlInGaN層と、厚みが30nmのn型GaN層との積層構造とすることができる。本実施形態におけるn型半導体層20が、「第二半導体層」に対応する。なお、n型半導体層20は、好ましくは不純物濃度が1×1018/cm以上であり、より好ましく不純物濃度が1×1019/cm以上である。
【0026】
活性層30は、バンドギャップの異なる2種類以上の窒化物半導体層が積層されて構成されている。特に、窒化物半導体発光素子1においては、主たる発光波長が520nm以上となるように、活性層30を構成する材料が決定される。
【0027】
図2は、活性層30の構造の一部を模式的に示す断面図の一例である。活性層30は、発光層31と、発光層31よりもバンドギャップの大きい障壁層32とが、複数周期積層されて構成されている。一例として、活性層30は、発光層31と障壁層32とが3周期繰り返し積層されて構成される。
【0028】
なお、活性層30のうち、n型半導体層20に接触する位置に形成される層については、障壁層32で構成しても構わないし、発光層31で構成しても構わない。また、活性層30のうち、p型半導体層40に接触する位置に形成される層については、障壁層32で構成されるのが好ましい。
【0029】
本実施形態では、発光層31はInGaN層で構成されている。このInGaN層のIn組成によって発光層31のバンドギャップが変化する。例えば、発光層31をInX1Ga1-X1N(0.20≦X1≦0.35)で構成することで、発光素子1の主たる発光波長を520nm以上580nm以下とすることができる。一例として、発光層31は、厚みが2.5nmのIn0.3Ga0.7N層とすることができる。
【0030】
本実施形態では、障壁層32は、複数の層(33,34,35,36,37)で構成されている。図2に示す例においては、障壁層は、アンドープAlGaNからなる第一障壁層33、アンドープGaNからなる第二障壁層34、アンドープAlGaNからなる第三障壁層35、n型AlGaNからなる第四障壁層36、及びアンドープGaNからなる第五障壁層37を備えている。より具体的な一例として、第一障壁層33は、厚みが1.5nmのアンドープAl0.5Ga0.5N層で構成され、第二障壁層34は、厚みが9nmのアンドープGaN層で構成され、第三障壁層35は、厚みが5nmのアンドープAl0.05Ga0.95N層で構成され、第四障壁層36は、厚みが4nmのn型Al0.05Ga0.95N層で構成され、第五障壁層37は、厚みが5nmのアンドープGaN層で構成されている。
【0031】
しかし、上述した障壁層32の構成は、あくまで一例である。障壁層32を、例えばGaN層とAlGaN層からなる2層構造としても構わないし、GaN層又はAlGaN層からなる単層構造としても構わない。また、障壁層32を構成する各層に対して、n型不純物又はp型不純物をドープしても構わないし、障壁層32を構成する各層をすべてアンドープの層で構成しても構わない。
【0032】
更に、障壁層32は、各周期にわたって、各層(33,34,35,36,37)の全てを備えなければならないものでもない。例えば、障壁層32は、p型半導体層40に近い周期内ではアンドープAlGaNからなる第三障壁層35を備え、n型半導体層20に近い周期内では第三障壁層35を備えないものとしても構わない。
【0033】
p型半導体層40は、Ga及びNを含むp型半導体で構成される。例えば、p型半導体層40は、厚みが100nmのp型GaN層で構成される。p型半導体層40は、更に、このp型GaN層の上層に、高濃度p型GaNで構成されたp型コンタクト層を備えるものとしても構わない。本実施形態におけるp型半導体層40が、「第三半導体層」に対応する。
【0034】
発光素子1は、サファイア基板2の厚みXと、半導体層3の厚みYとの関係が、下記式(1)を満たすように、構成されている。
0.06≦ Y/X ≦ 0.12・・・・(1)
【0035】
ここで、半導体層3のうち、アンドープ層10とn型半導体層20は、厚みがμmオーダーであるのに対し、活性層30及びp型半導体層40は、厚みが数十〜百nmオーダーである。よって、半導体層3の厚みは、実質的にはアンドープ層10及びn型半導体層20の厚みで決定される。
【0036】
本発明者は、鋭意研究により、サファイア基板2の厚みに対する、アンドープ層10及びn型半導体層20の合計厚みを、一般的な窒化物半導体発光素子よりも厚くすることで、主たる発光波長が520nm以上の窒化物半導体発光素子においては、発光効率が高められることを見出した。この点については、発光素子1の製造方法に関する説明の後、実施例を参照して後述される。
【0037】
ちなみに、一般的な窒化物半導体発光素子の場合、サファイア基板の厚みは120μm以上200μm以下であり、アンドープ層とn型半導体層の厚みの合計は5μm以上7μm以下である。よって、一般的な窒化物半導体発光素子において、Y/Xの値は、0.025以上0.058以下である。
【0038】
[製造方法]
図1に示す発光素子1の製造方法の一例につき、説明する。なお、以下の製造条件や膜厚等の寸法はあくまで一例であって、これらの数値に限定されるものではない。
【0039】
(ステップS1)
サファイア基板2を準備し、c面に対してクリーニングを行う。このクリーニングは、具体的には、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相蒸着)装置の処理炉内にサファイア基板2を配置し、処理炉内に所定流量の水素ガスを流しながら、炉内温度を昇温(例えば1150℃まで)することにより行われる。
【0040】
(ステップS2)
サファイア基板2の表面に、GaNよりなる低温バッファ層を形成し、更にその上層にGaNよりなる下地層を形成することで、アンドープ層10を形成する。より具体的なアンドープ層10の形成方法は以下の通りである。
【0041】
まず、МОCVD装置の炉内圧力、炉内温度を所定の条件に設定する。そして、処理炉内に対して、キャリアガスとしての窒素ガス及び水素ガスを所定流量流しながら、原料ガスとしてのトリメチルガリウム(TMG)及びアンモニアを所定流量供給する。一例として、炉内圧力100kPa、炉内温度480℃に設定された、МОCVD装置の処理炉に対して、流量がそれぞれ5slmの窒素ガス及び水素ガスを流しながら、流量50μmol/分のTMG及び流量が250000μmol/分のアンモニアを68秒間供給する。これにより、サファイア基板2の表面に、厚みが20nmのGaNよりなる低温バッファ層が形成される。
【0042】
次に、MOCVD装置の炉内温度を昇温して同様のガスを処理炉内に供給する。例えば、炉内温度を1150℃に昇温したМОCVD装置の処理炉内に、流量20slmの窒素ガス及び流量が15slmの水素ガスを流しながら、流量100μmol/分のTMG及び流量が250000μmol/分のアンモニアを40分間供給する。これにより、低温バッファ層の表面に、厚みが2μmのGaNよりなる下地層を形成する。これら低温バッファ層及び下地層によってアンドープ層10が形成される。
【0043】
(ステップS3)
アンドープ層10の上面にn型半導体層20を形成する。具体的な方法の一例は以下の通りである。
【0044】
ステップS2と同じキャリアガス、及び原料ガスに加えて、n型不純物をドープするための原料ガスとして、例えばテトラエチルシランを所定流量で処理炉内に所定時間供給する。これにより、アンドープ層10の上面にn型GaN層を形成する。その後、処理炉内の温度条件や圧力条件を調整しながら、原料ガスとして、更にトリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)を適宜加えることで、n型AlGaN層やn型AlInGaN層を形成する。処理炉内の圧力条件や温度条件は、形成したい半導体層の材料に応じて適宜設定され、ガスの供給時間は、形成したい半導体層の膜厚に応じて適宜設定される。
【0045】
一例として、アンドープ層10の上面に、膜厚8μmのn型GaN層と、膜厚1μmのn型AlGaN層と、膜厚30nmのn型AlInGaN層と、膜厚30nmのn型GaN層が積層されてなる、n型半導体層20が形成される。
【0046】
なお、本実施形態では、n型半導体層20に含まれるn型不純物をSiとする場合について説明しているが、他のn型不純物としては、Ge、S、Se、Sn及びTeなどを用いることもできる。含有させる対象となるn型不純物に応じて、テトラエチルシランに代わる原料ガスが選択される。
【0047】
(ステップS4)
n型半導体層20の上面に活性層30を形成する。発光層31を形成するステップと、障壁層32を形成するステップとを複数回繰り返すことで、活性層30が形成される。一例として、活性層30が図2に示した構造を有する場合のプロセスを説明する。
【0048】
なお、このステップS4の間にわたって、MOCVD装置の炉内圧力を100kPa程度、炉内温度を700℃〜830℃に設定するものとしても構わない。また、キャリアガスとしての窒素ガス及び水素ガスの流量、及び原料ガスとしてのアンモニアの流量を一定値に保つものとしても構わない。
【0049】
(ステップS4a)
炉内温度を例えば690℃として水素ガス、窒素ガス、及びアンモニアを供給した状態下で、例えば流量27.2μmol/分のTMI、及び流量15.2μmol/分のTMGを処理炉内に54秒間供給する。これにより、膜厚2.6nmのアンドープIn0.3Ga0.7N層からなる発光層31が形成される。
【0050】
なお、本ステップS4aのように、InGaNを成長させる工程においては、ドロップレットをなるべく抑制し、マイグレーションを進行させる観点から、成長レートを3nm/分程度とするのが好適である。
【0051】
(ステップS4b)
上述した流量で水素ガス、窒素ガス、及びアンモニアを供給した状態下で、例えば流量15.2μmol/分のTMGと流量17.3μmol/分のTMAを処理炉内に30秒間供給する。これにより、膜厚1.5nmのアンドープAl0.5Ga0.5N層からなる第一障壁層33が形成される。
【0052】
(ステップS4c)
炉内温度を830℃に昇温し、上述した流量で水素ガス、窒素ガス、及びアンモニアを供給した状態下で、例えば、流量が15.2μmol/分のTMGを260秒間処理炉内に供給する。これにより、膜厚9nmのアンドープGaNからなる第二障壁層34が形成される。なお、第二障壁層34は低In組成のInGaNで構成してもよく、この場合には、原料ガスとして、更に所定の流量のTMIを追加すればよい。
【0053】
(ステップS4d)
上述した流量で水素ガス、窒素ガス、及びアンモニアを連続供給した状態下で、流量が15.2μmol/分のTMGと流量が0.8μmol/分のTMAを120秒間処理炉内に供給する。これにより、厚みが5nmのアンドープAl0.05Ga0.95N層からなる第三障壁層35が形成される。なお、第三障壁層35を低In組成のAlInGaNで構成する場合には、低流量のTMIを追加的に供給すればよい。
【0054】
(ステップS4e)
上述した流量で水素ガス、窒素ガス、及びアンモニアを連続供給した状態下で、流量が15.2μmol/分のTMG、流量が0.8μmol/分のTMA、及びn型不純物をドープするための、流量が0.003μmol/分のテトラエチルシランを96秒間処理炉内に供給する。これにより、厚みが4nmのn型Al0.05Ga0.95N層からなる第四障壁層36が形成される。なお、第四障壁層36を低In組成のAlInGaNで構成する場合には、低流量のTMIを追加的に供給すればよい。
【0055】
(ステップS4f)
上述した流量で水素ガス、窒素ガス、及びアンモニアを連続供給した状態下で、流量が15.2μmol/分のTMGを130秒間処理炉内に供給する。これにより、厚みが5nmのアンドープGaN層からなる第五障壁層37が形成される。
【0056】
上記ステップS4a〜S4fを複数回繰り返し実行することで、発光層31及び障壁層32が複数周期積層されてなる活性層30が形成される。
【0057】
なお、上述したように、活性層30の各周期は、必ずしも同一の構成を採用しなければならないものではない。すなわち本ステップS4は、周期毎に異なる製造条件が採用されても構わない。
【0058】
(ステップS5)
活性層30の上面にp型半導体層40を形成する。具体的な方法の一例は以下の通りである。
【0059】
МОCVD装置の炉内圧力、炉内温度を所定の条件に設定する。そして、処理炉内に対して、キャリアガスとしての窒素ガス及び水素ガスを所定流量流しながら、原料ガスとしてのTMG、アンモニア、及びp型不純物をドープするためのビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を所定流量供給する。一例として、炉内圧力100kPaに設定された処理炉内に、キャリアガスとして、流量15slmの窒素ガス及び流量25slmの水素ガスを流しながら、炉内温度を930℃に昇温する。その後、引き続き処理炉内にキャリアガスを流しながら、原料ガスとして、流量100μmol/分のTMG、流量250000μmol/minのアンモニア、及び流量0.1μmol/分のCp2Mgを処理炉内に360秒間供給する。これにより、活性層30の上面に、厚みが120nmのp型GaNからなるp型半導体層40が形成される。
【0060】
更に、引き続きCp2Mgの流量を0.3μmol/分に変更して原料ガスを20秒間供給することにより、厚みが5nmの高濃度p型GaN層からなるコンタクト層を形成してもよい。この場合は、p型半導体層40に当該コンタクト層も含まれる。
【0061】
本実施形態では、p型半導体層40に含まれるp型不純物をMgとする場合について説明しているが、Mgの他、Be、Zn、及びCなどを用いることができる。含有させる対象となるp型不純物に応じて、Cp2Mgに代わる原料ガスが選択される。
【0062】
(後の工程)
ICPエッチングにより一部領域内のp型半導体層40及び活性層30をエッチングすることで、n型半導体層20の一部上面を露出させる。そして、露出したn型半導体層20の上面にn側電極を形成し、p型半導体層40の上面にp側電極を形成する。そして、各素子同士を例えばレーザダイシング装置によって分離し、電極に対してワイヤボンディングを行う。
【0063】
[実施例]
以下、実施例を参照して説明する。
【0064】
図3Aは、サファイア基板2の厚み、及び半導体層3の厚みを適宜変更させながら、上記のプロセスに基づいて発光素子を製造し、発光効率(EQE)を比較した表である。なお、比較対象の素子の構造は、以下のとおりである。
【0065】
図3Bは、図1にならって、比較対象の発光素子の構造を示した断面図である。図3Bに示す比較対象の発光素子51は、サファイア基板52の上面にアンドープ層53を有し、アンドープ層53の上面にn型半導体層54を有し、n型半導体層54の上面に活性層55を有し、活性層55の上面にp型半導体層56を有する。
【0066】
サファイア基板52の厚みは120μmである。アンドープ層53の厚みは3μmである。n型半導体層54の厚みは3μmである。活性層55の厚みは100nmである。p型半導体層56の厚みは100nmである。すなわち素子51においては、サファイア基板52の厚みX=120μmであり、半導体層(53,54,55,56)の総厚みY=6.2μmであるため、Y/X=0.052である。これは、上述した一般的な窒化物半導体発光素子におけるY/Xの値の範囲である、0.025以上0.058以下の値となっている。
【0067】
なお、実際には、本実施形態の発光素子1及び比較対象の発光素子51を形成するにあたっては、共に、p型半導体層(40,56)の上層にCr/Ni/Auからなるp側電極を形成した。また、上述したように、一部領域内のp型半導体層(40,56)及び活性層(30,55)をエッチングすることでn型半導体層(20,54)を露出させ、当該露出したn型半導体層(20,54)の上面にCr/Ni/Auからなるn側電極を形成した。また、本実施形態の発光素子1及び比較対象の発光素子51の両者共に、サファイア基板(2,52)の裏面にAlからなる反射層を形成し、p型半導体層(40,56)側から光を取り出す構成とした。
【0068】
図3Aにおいて、比較対象の素子よりも発光効率が向上した素子の評価を「A」とし、比較対象の素子と比べて発光効率の改善が確認できなかったものの評価を「B」とした。また、図3において評価「C」と付されているのは、サファイア基板2が割れてしまい、発光効率の評価ができなかった素子である。
【0069】
図3Aによれば、例えば、サファイア基板2の厚みXを60μmとした場合、半導体層3の厚みYを3μmとしても発光効率は改善せず、半導体層3の厚みYを9μmとしても発光効率は改善しなかったが、半導体層3の厚みYを6μmとすると発光効率が改善している。しかし、半導体層3の厚みYを6μmとしても、サファイア基板2の厚みXを120μmとした場合には、発光効率が改善していない。このことからも、サファイア基板2の厚みXと、半導体層3の厚みYとの間に、何らかの関係が満たされる場合において、比較対象の素子よりも発光効率が改善されたことが予想される。
【0070】
図4は、サファイア基板2の厚みXに対する半導体層3の厚みYの比率(Y/X)と、発光効率との関係をグラフにしたものである。Y/Xの値が0.12を上回ると、サファイア基板2が割れてしまい、発光確認ができなかった。なお、比較対象の素子の発光効率は発光波長550nmにおいて0.03であった。
【0071】
図4によれば、Y/Xの値を、0.06以上0.12以下として発光素子1を構成することで、発光効率を向上できることが分かる。この点につき、本発明者の考える理由を以下において説明する。
【0072】
図5は、サファイア基板2の上面に半導体層3を成長させた場合において、各層に働く応力を模式的に付記した図面である。なお、図5には、半導体層3として、アンドープ層10、n型半導体層20、及び活性層30のみを図示している。上述したように、活性層30及びp型半導体層40と比較すると、アンドープ層10及びn型半導体層20の厚みが極めて厚膜であるため、半導体層3の厚みは、実質的にアンドープ層10及びn型半導体層20の厚みの合計に実質的に近似できる。
【0073】
図5(a)は、サファイア基板2、及び半導体層3の厚みを、従来想定される厚みで実現した場合において、各層に働く応力を模式的に付記した図面である。
【0074】
サファイア基板2のc面上にGaN(ここではアンドープ層10)を成長させた場合、サファイアのa軸から30°回転した位置にGaNのa軸が来るように成長することが知られている。このとき、サファイアの、GaNのa軸方向と平行な方向の格子定数は約0.279nmであり、GaNのa軸方向の格子定数は約0.319nmよりも16%程度小さい値である。このため、GaNには、下層のサファイアから縮ませようとする力、すなわち圧縮応力FS2が働く。逆にサファイアに対しては、引張応力FS1が発生する。
【0075】
また、活性層30のうち、発光層31は高In組成のInGaNで構成される。ここでInNのa軸方向の格子定数は約0.354nmであり、GaNのa軸方向の格子定数よりも大きい。このため、同様の理由により、発光層31に対しては、下層のGaNから圧縮応力FS4が働き、逆に、下層のGaNを含む層(10,20)に対しては活性層30から引張応力FS3が働く。
【0076】
よって、GaN上にInGaNをコヒーレント成長させた場合、活性層30に対して発生する圧縮応力FS4を起因として、活性層30内にピエゾ電界が発生し、エネルギーバンドに歪が生じる。InGaNのIn組成が高くなればなるほど、GaNとの格子定数差が大きくなるため、エネルギーバンドの歪の大きさが大きくなる。この結果、電子と正孔の再結合確率が低下する。主たる発光波長が520nm以上の窒化物半導体発光素子において、従来、低い発光効率しか実現できていない事情はこの点にある。
【0077】
ここで、本実施形態の発光素子1では、サファイア基板2の厚みXと、半導体層3の厚みYとの関係を、0.06≦Y/Xとなるように構成している。すなわち、サファイア基板2の厚みXを比較的薄くするか、半導体層3の厚みY、すなわち、アンドープ層10又はn型半導体層20の厚みを比較的厚くして発光素子1を構成している。図5(b)は、この条件下でサファイア基板2、及び半導体層3の厚みを形成して発光素子1を実現した場合に、各層に働く応力を模式的に付記した図面である。
【0078】
ステップS2において上述したように、サファイア基板2の上面に低温バッファ層を成長させた後は、処理炉内の温度が1000度〜1100度程度に設定された状態で、半導体層がエピタキシャル成長される。
【0079】
ここで、サファイア基板2の熱膨張係数は約7.9×10-6/Kであるのに対し、アンドープ層10又はn型半導体層20を構成するGaN系の半導体層の熱膨張係数は約5.5×10-6/Kである。すなわち、サファイア基板2は、GaN系の半導体層よりも、熱膨張係数が2×10-6/K程度大きい。このため、エピタキシャル成長処理の終了後、ウェハを処理炉の外に出して降温させると、アンドープ層10やn型半導体層20よりも、サファイア基板2の方が大きく縮む。
【0080】
このとき、アンドープ層10やn型半導体層20と比べて、相対的にサファイア基板2の厚みが薄い場合、サファイア基板2に対して発生する収縮時の圧縮応力に起因して、サファイア基板2が上凸に反る。この結果、サファイア基板2に最も近い位置に形成されているGaNからなるアンドープ層10は、サファイア基板2の面方向に引き伸ばされ、実質的に格子間距離が増加する。この結果、格子不整合に起因して、アンドープ層10に生じていた圧縮応力FS2は減少し、同様に、サファイア基板2に対して生じていた引張応力FS1も減少する。
【0081】
そして、活性層30に近い位置に形成されている、n型半導体層20に対しては、アンドープ層10が面方向に引き伸ばされることに起因して、引張応力FS3が増大する。この結果、n型半導体層20の格子間距離が引き伸ばされ、活性層30を構成するInGaNの格子間距離に近づく。これにより、活性層30に生じていた圧縮応力FS4が低下し、活性層30内のピエゾ電界が低減する。よって、発光層31のエネルギーバンドの傾きが低下して、再結合確率が上昇し、発光効率が上昇すると考えられる。
【0082】
図6は、サファイア基板2の厚みを100μmで固定し、半導体層3の厚みを変化させながら発光素子1を作成したときの、半導体層3の厚みとエピタキシャル成長後のウェハに発生している残留応力との関係、及び、半導体層3の厚みと発光効率との関係をグラフ化したものである。図6において、横軸が半導体層3の厚みに対応し、左縦軸が残留応力に対応し、右縦軸が発光効率に対応する。なお、残留応力σは、下記式(2)に記載のストーニーの式より算出した。
【0083】
σ=E・X2/[6・(1−V)・R・Y]・・・(2)
【0084】
式(2)において、Eがサファイア基板2のヤング率、Xがサファイア基板2の厚み、Vがサファイア基板2のポアッソン比、Rが半導体層3の曲率半径、Yが半導体層3の厚みに対応する。算出に際しては、E=345(GPa)とし、V=0.25として計算した。また、半導体層3の曲率半径Rは、ウェハをX線回折することで測定された値を採用した。サファイア基板2の厚みX、及び半導体層3の厚みYは、各発光素子の製造時の条件を採用した。
【0085】
図6によれば、半導体層3の厚みYが厚くなるほど、残留応力σが低下すると共に、発光効率が向上していることが分かる。
【0086】
図7は、半導体層3の厚みを9μmで固定し、サファイア基板2の厚みを変化させながら発光素子1を作成したときの、サファイア基板2の厚みとエピタキシャル成長後のウェハに発生している残留応力との関係、及び、半導体層3の厚みと発光効率との関係をグラフ化したものである。残留応力は、図6と同様の方法で算出した。
【0087】
図7によれば、サファイア基板2の厚みXが薄くなるほど、残留応力σが低下すると共に、発光効率が向上していることが分かる。
【0088】
図6及び図7の結果は、上述した考察内容に合致するものである。すなわち、サファイア基板2の厚みXを、半導体層3の厚みYに対して相対的に薄くすると、エピタキシャル成長終了後、サファイア基板2に対して活性層30側を凸とした反りが生じ、活性層30に対して内部応力を緩和させる方向に力が働く。この結果、活性層30内のピエゾ電界が緩和され、発光効率が向上したものと考えられる。
【0089】
更に、本発明者の鋭意研究により、半導体層3を厚膜で形成することで、上述したような発光効率の向上に加えて、ムラのない発光が実現できることがわかった。この点につき、図8及び図9の写真を参照して説明する。
【0090】
図8及び図9は、いずれも半導体層3の厚み、より詳細には、アンドープ層10とn型半導体層20の一方又は双方の厚みを変化させて発光素子を作成し、実際に電流を供給して光らせたときの発光状態を、蛍光顕微鏡で撮影した写真である。図8(a)は半導体層3の厚みが4μmの場合の写真であり、図8(b)は半導体層3の厚みが5μmの場合の写真であり、図9(b)は半導体層3の厚みが6μmの場合の写真であり、図9(b)は半導体層3の厚みが10μmの場合の写真である。図8(a)及び図8(b)には、写真に白い斑点が現れているのが確認できるが、これはドット状に輝度の高い領域が存在していることを示唆するものである。なお、図9(a)及び図9(b)には、図8(a)及び図8(b)に見られた白い斑点は確認できていない。すなわち、半導体層3の厚みを6μm以上として形成した発光素子1を光らせると、ドット状の輝点は消滅し、面全体が均一に発光することが確認された。
【0091】
半導体層3の厚みを厚く積むと、このようなドット状の輝点が確認されなくなる理由については定かではないが、本発明者は以下のように推察している。
【0092】
上述したように、発光層31はInを含む窒化物半導体で構成される。製造に際しては、窒化物半導体を構成するための有機金属原料ガス、例えばトリメチルガリウム(TMG)やトリメチルインジウム(TMI)を、キャリアガスと共に装置内に供給して結晶に成長させる。ここで、Inを含む原料ガスは、他のガスよりも平衡蒸気圧が高すぎるため、成長温度を低くしながら結晶成長を行わなければならない。この結果、InGaN層内には、ガスに含まれるInが偏析しやすく、結晶の品質が低下しやすい。
【0093】
本実施形態の発光素子1は、サファイア基板2の厚みXが、半導体層3の厚みYに対して相対的に薄い、又は、半導体層3の厚みYがサファイア基板2の厚みXに対して相対的に厚い構成である。このため、従来の構成と比較して、発光層31内における内部応力の変化に伴いInの取り込まれ方に変化が生じ、この結果、InGaN層の成長条件が変化して、結晶品質が向上したものと推察される。
【0094】
図8(a)や図8(b)の写真のように、ドット状の輝点が発生すると、当該箇所で局所的な電流集中が生じてしまう。このため、局所的に高温化することで、リーク電流の発生につながり、寿命特性が低下するおそれもある。
【0095】
つまり、上記の構成とすることで、発光効率を向上させると共に、発光状態の面内均一性が図られ、寿命特性も向上することができる。
【0096】
なお、n型半導体層20として、AlGaN層又はAlInGaN層を含む構成とすることで、エピタキシャル成長完了後の、サファイア基板2の反りを大きくすることができる。この結果、活性層30内のピエゾ電界を低下させる効果を更に高めることができる。
【0097】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0098】
〈1〉 上述した実施形態では、発光素子1が備える活性層30は、発光層31と、多層の障壁層32とが周期的に形成されている場合について説明した。ところで、発光素子1は、サファイア基板2の厚みXに対して、半導体層3の厚みYを相対的に厚くすることで、GaN層の上面にIn組成が比較的高い窒化物半導体層を有することで生じるピエゾ電界を低減させ、発光効率を高めたものである。従って、活性層30は、Inを含む窒化物半導体で構成された発光層31を含み、主たる波長が520nm以上の光を発することができる構成であればよく、上記の実施形態で説明した構成に限定されるものではない。
【0099】
〈2〉 本明細書において「アンドープ」とは、完全に不純物がドープされていないものはもちろんのこと、微量に不純物がドープされている状態を含む。より具体的には、不純物濃度が、検出限界以下であるものはもちろんのこと、検出限界以上であり、1×1017/cm以下の範囲内であるものを指す。
【0100】
一例として、上述した実施形態では、サファイア基板2の上面にアンドープ層10を形成し、その上面にn型半導体層20を形成する場合について説明した。しかし、サファイア基板2の上面に、アンドープ層10に代えて、微量に不純物がドープされた半導体層を形成しても構わない。
【0101】
同様に、上述した実施形態では、第一障壁層33及び第三障壁層35がアンドープAlGaNで構成され、第二障壁層34及び第五障壁層37がアンドープGaNで構成される場合について説明したが、これらの各障壁層についても、微量に不純物がドープされた半導体層で構成しても構わない。
【符号の説明】
【0102】
1 : 窒化物半導体発光素子
2 : サファイア基板
3 : 半導体層
10 : アンドープ層
20 : n型半導体層
30 : 活性層
31 : 発光層
32 : 障壁層
33 : 第一障壁層
34 : 第二障壁層
35 : 第三障壁層
36 : 第四障壁層
37 : 第五障壁層
40 : p型半導体層
51 : 比較対象の発光素子
52 : サファイア基板
53 : アンドープ層
54 : n型半導体層
55 : 活性層
56 : p型半導体層
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10