(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
患者に輸液や輸血を行ったり、手術において体外血液循環を行ったりする場合に、薬液や血液などの液状物を輸送するための経路(輸送ライン)を形成する必要がある。輸送ラインは、一般に容器や各種器具、チューブなどを接続することによって形成される。異なる部材を接続す方法として、オス部材としてのオスルアーとメス部材としてのニードルレスポートとのスリップ接続が知られている(例えば特許文献1,2参照)。ニードルレスポートは、中央部に直線状のスリット(切り込み)が形成されたゴム等の弾性材料からなる隔壁部材(以下「セプタム」という)を備える。セプタムのスリットに、注射針等の鋭利な金属針が付いていないオスルアー(管状体)を挿入することにより、ニードルレスポートとオスルアーとを連通させることができる。ニードルレスポートからオスルアーを抜き去るとセプタムのスリットは直ちに閉じる。このように、セプタムはリシール性を有し、オスルアーを繰り返し抜き差しすることができる。
【0003】
上述のスリップ接続では、ニードルレスポートからオスルアーを抜き去ると、セプタムのスリットは直ちに閉じるので、オスルアーが接続されていないニードルレスポートから液状物が漏れ出る可能性は一般に低い。しかしながら、ニードルレスポートに挿入する前及び抜き取った後のオスルアーは、外界に露出されているため、オスルアーから液状物が漏れ出る可能性がある。
【0004】
ニードルレスポートに接続されていないオスルアーから液状物が漏れ出る可能性を低減するために、
図7に示すように、オスルアー110を伸縮可能なカバー120で覆う方法が知られている(特許文献3,4を参照)。カバー120は、略筒形状を有する外周壁121を備え、外周壁121の一端は天板123で塞がれている。オスルアー110は筒形状を有し、その先端には液状物が流出入する開口112が形成されている。オスルアー110の開口112が対向する天板123の位置には直線状のスリット(切り込み)125が形成されている。ニードルレスポート150のセプタム151は、ゴム等の弾性材料からなる円板状部材であり、その中央には直線状のスリット(切り込み)152が形成されている。セプタム151は、略円筒形状を有する基体部153とポートキャップ155とにより挟持され固定されている。
【0005】
図7に示すように、オスルアー110がニードルレスポート150に接続されていないときには、オスルアー110の開口112はカバー120の天板123が密着することにより塞がれている。カバー120のスリット125は閉じている。この状態からオスルアー110をニードルレスポート150に押し込むと、オスルアー110がカバー120のスリット125を貫通し、更にセプタム151のスリット152を貫通して、オスルアー110とニードルレスポート150とを接続することができる。このとき、カバー120の外周壁121は圧縮変形する。その後、オスルアー110をニードルレスポート150から抜き取ると、カバー120の外周壁121がその弾性回復力により伸長し、初期状態に戻る。
【0006】
以上のようにオスルアー110にカバー120をかぶせることにより、
図7のようにオスルアー110がニードルレスポート150に接続されていない状態のときに、オスルアー110の開口112をカバー120の天板123で塞ぐことができる。従って、オスルアー110から液状物が漏れ出る可能性は低い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、
図7に示した従来のカバー120付きのオスルアー110を用いた場合に、ニードルレスポート150からオスルアー110を抜き取った後に、カバー120の天板123の外表面123a及びセプタム151の外表面151aに液状物が残存する原因を究明するために、ニードルレスポート150に対するオスルアー110の接続から分離までのセプタム151及びカバー120の変形の様子をX線CTを用いて観察した。以下にこれを説明する。
【0017】
図8A〜
図8Dは、従来のカバー120付きオスルアー110がニードルレスポート150に挿入される様子を順に示した断面図である。セプタム151に形成されたスリット152及びカバー120の天板123に形成されたスリット125は、これらの図の断面と垂直な方向に沿って形成されている。
【0018】
図8Aは、オスルアー110とニードルレスポート150との接続直前の状態を示している。オスルアー110に装着されたカバー120の天板123が、ニードルレスポート150のポートキャップ155に接触している。この状態から、オスルアー110をニードルレスポート150に押し込む。
【0019】
図8Bは、オスルアー110によってカバー120の天板123がセプタム151に向かってわずかに変形している状態を示している。変形した天板123によってセプタム151もわずかに変形している。天板123とセプタム151との間に、小さな隙間137が形成されている。天板123のスリット125及びセプタム151のスリット152ははまだ開かれてはいない。
【0020】
オスルアー110をニードルレスポート150に更に押し込むと、
図8Cに示すように、カバー120の天板123のスリット125が開かれる。オスルアー110によって天板123が伸ばされてポートキャップ155の開口内に侵入している。これにより、セプタム151も変形され、隙間137が拡大している。但し、セプタム151のスリット152ははまだ開かれてはいない。
【0021】
図8Dは、オスルアー110とニードルレスポート150との接続が完了した状態を示す。天板123の変形量が更に大きくなり、オスルアー110が天板123のスリット125を貫通している。オスルアー110の先端がセプタム151の外表面151aを押圧し、その結果、セプタム151が大きく曲げられ且つ伸ばされて、スリット152が開かれている。かくして、オスルアー110とニードルレスポート150とが連通する。
【0022】
その後、オスルアー110及びニードルレスポート150間に液状物が流される。セプタム151の外表面151aは液状物が流れる流路壁の一部を構成する。
【0023】
次に、
図8Dの状態から、オスルアー110をニードルレスポート150から引き抜く。引き抜きに先立って、オスルアー110及びニードルレスポート150間の液状物の流れが停止される。液状物の流れが停止した後も、通常、液状物はオスルアー110及びニードルレスポート150内を充満している。ニードルレスポート150からオスルアー110の引き抜きは、
図8Dから
図8Aへ上記とは逆に進む。
【0024】
図8Dの状態からニードルレスポート150に対してオスルアー110を後退させると、
図8Cの状態でセプタム151のスリット152が閉じ、次いで、
図8Bの状態で天板123のスリット125が閉じる。従って、
図8Dにおいてセプタム151の外表面151a近傍に位置する液状物は、隙間137内に閉じ込められる。その結果、その後オスルアー110をニードルレスポート150から引き抜いて、カバー120とセプタム151とが分離すると、隙間137内の液状物が、上述したようにカバー120の天板123の外表面123a及びセプタム151の外表面151aに残存するのである。
【0025】
本発明者らは、上記の知見に基づいて管状部材(例えばオスルアー)及びその先端を少なくとも覆うカバーの形状を工夫することにより、管状部材をメス部材(例えばニードルレスポート)から分離した後に、カバー及びメス部材の外表面に付着する液状物量を少なくすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0026】
即ち、本発明の
医療用オス部材は、液状物が流れる流路が形成された管状部材と、前記管状部材の先端を少なくとも覆うカバーとを備える。前記管状部材の外周面に、前記流路と連通した横孔が形成されている。前記カバーは、弾性的に圧縮変形可能な外周壁と、前記外周壁の一端に設けられた頭部とを備える。前記頭部には、前記管状部材の前記先端が挿入される内腔が形成されている。前記内腔の最深部には、前記頭部を貫通するスリットが形成されている。前記外周壁が圧縮変形していない状態において、前記頭部の前記内腔の内周面が前記管状部材の前記外周面と密着し前記横孔を塞ぎ、且つ、前記管状部材の先端と前記内腔の前記最深部とが離間して
おり、前記管状部材の前記先端と前記内腔の前記最深部との間に気密の空隙が形成されている。前記外周壁が圧縮変形するように前記管状部材に対して前記頭部を変位させると、前記管状部材が前記スリットを貫通し、前記横孔が前記頭部から露出する。
前記管状部材が前記スリットから引き抜かれると、前記管状部材の先端は前記内腔の前記最深部から離間し、前記空隙が形成される過程で、前記空隙内に、その容積拡大に応じた負圧が発生する。
【0027】
前記頭部の先端に
、上方から見たとき円形の外形を有する、突出した頂部が形成されており、前記スリットは前記頂部に
、前記円形の中心を通るように形成されて
おり、前記スリットは前記管状部材の前記先端と対向していることが好ましい。これにより、オス部材とメス部材とを分離した後にカバー及びメス部材の外表面に付着する液状物量を更に少なくすることができる。
【0028】
前記頂部のメス部材に対向する側の面が、メス部材に向かって突出した凸曲面を含むことが好ましい。これにより、オス部材とメス部材とを分離した後にカバー及びメス部材の外表面に付着する液状物量を更に少なくすることができる。
【0029】
前記凸曲面が、球面、円錐面、又は円錐台面を含むことが好ましい。これにより、頂部の外表面の形状を簡単化することができる。
【0030】
前記頭部に、メス部材と係合可能な係合形状が形成されていることが好ましい。これにより、オス部材とメス部材とを分離した後にカバー及びメス部材の外表面に付着する液状物量を更に少なくすることができる。また、オス部材をメス部材から分離する過程で、カバーの外周壁を初期状態にまで確実に伸張させることができる。前記係合形状は、前記頂部に形成することができる。
【0031】
前記外周壁が圧縮変形していない状態において、前記管状部材の前記先端と前記内腔の前記最深部との間に気密の空隙が形成され
る。これにより、オス部材をメス部材から分離する過程で当該空隙により大きな負圧を発生させることができる。従って、オス部材とメス部材とを分離した後にカバー及びメス部材の外表面に付着する液状物量を更に少なくすることができる。
【0032】
以下に、本発明を好適な実施形態を示しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。以下の説明において参照する各図は、説明の便宜上、本発明の実施形態の構成部材のうち、本発明を説明するために必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。従って、本発明は以下の各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、以下の各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態にかかるオス部材1の概略構成を示した断面図である。オス部材1は、管状部材10と、管状部材10の先端11を少なくとも覆うカバー20とを備える。以下の説明の便宜のため、
図1の紙面の上側及び下側をオス部材1の「上側」及び「下側」と呼ぶ。但し、この上下は、オス部材1の実際の使用時での上下を意味するものではない。
【0034】
管状部材10は、液状物が流れる流路13がその長手方向に沿って形成された筒形状を有している。管状部材10の外周面は、その外径が管状部材10の長手方向に沿って一定である円柱面、または、その外径が基台12から先端11に近づくにしたがって小さくなるテーパ面であることが好ましい。管状部材10の外周面の先端11近傍の位置に横孔14が形成されている。横孔14は、流路13と連通し、管状部材10の長手方向と略直交する方向に管状部材10の外周壁を貫通する貫通孔である。本実施形態では、横孔14は、管状部材10の直径方向に沿って一対形成されているが、横孔14の数はこれに限定されず、1つであっても、あるいは3つ以上であってもよい。液状物は横孔14を通って流路13から流出し、または、流路13内に流入する。
図7に示した従来のオスルアー110では、その先端に開口112が形成されていたが、本実施形態の管状部材10の先端11には、流路13と連通する開口(または貫通孔)は形成されていない。基台12の管状部材10とは反対側には、管状部材10と連通した、略円筒形状を有する筒状部18が形成されている。筒状部18には、管状部材10に対して液状物を輸送するために例えば柔軟性を有するチューブ(図示せず)が接続される。管状部材10は、実質的に剛体と見なしうる硬質の材料からなることが好ましい。具体的には、ポリアセタール、ポリカーボネート等の樹脂材料を用いて、基台12及び筒状部18とともに一体成形等の方法で作成することができる。
【0035】
図2Aは、カバー20の上方から見た斜視図、
図2Bはその下方から見た斜視図、
図3Aはその上面図、
図3Bはその側面図、
図3Cは上下方向に沿ったその断面図である。
【0036】
カバー20は、略筒形状を有する外周壁21と、外周壁21の上端に設けられた頭部23と、外周壁21の下端に設けられた環状の基部28とを備える。カバー本体20は可撓性(柔軟性)を有する材料(例えばシリコンゴム、イソプレンゴム)で一体的に作成することができる。
【0037】
外周壁21は、その上下方向寸法が短縮するように弾性的に圧縮変形可能である。これを実現するために、本実施形態では、外周壁21は、その外径寸法及び内径寸法が一定範囲内で上下方向に一定周期で変化した蛇腹形状を有している。本実施形態では、外周壁21の水平方向に沿った断面形状は円形であるが、四角形、六角形等の多角形などの任意の形状であってもよい。
【0038】
頭部23には、外周壁21の内部空間と連通した内腔24が形成されている。内腔24の内周面の形状は、円柱面又は外周壁21から離れるにしたがって内径が小さくなる円錐面(テーパ面)である。内腔24の最深部24aには頭部23を上下方向に貫通するスリット25が形成されている。
図3Aに示されているように、スリット25は、その上方から見た形状が「−」(マイナス)字形状である直線状の切り込みである。管状部材10がスリット25を貫通していない通常状態では、スリット25を形成する互いに対向する端縁は接触していることが好ましい。
【0039】
頭部23の上面23aには、上面23aから突出した頂部26が形成されている。頂部26の先端は、球面等のなめらかにドーム状に膨らんだ凸曲面26sである。頭部23の上面23aと凸曲面26sとの間に、ネック部26nが形成されている。ネック部26nに隣接する、凸曲面26sの外径が最大となる部分を頂部端縁26eと呼ぶ。ネック部26nの外径は、頂部端縁26eの外径より小さい。上方から見たとき(
図3Aを参照)、頂部端縁26eの外
形は円形であり、当該円形の中心を通ってスリット25が形成されている。
【0040】
図1に示すように、カバー20に、その基部28側から管状部材10を挿入し、カバー20の基部28を管状部材10の基台12に固定する。基台12に対する基部28の固定方法は特に制限はなく、接着、融着、係合、嵌合などの任意の方法を用いることができる。管状部材10とカバー20とを正確に位置決めするために、基台12及び基部28に、互いに嵌合し合う嵌合形状が形成されていてもよい。
【0041】
管状部材10にカバー20を装着したとき、管状部材10の先端11はカバー20の頭部23の内腔24内に挿入される。カバー20の外周壁21が圧縮変形していない
図1に示す状態において、内腔24内に挿入される管状部材10の部分を先端領域15と呼ぶ。横孔14は、この先端領域15内に形成されている。先端領域15の外径は、内腔24の内径と同じかこれよりわずかに大きい。従って、内腔24の内周面は管状部材10の外周面に密着し、横孔14は内腔24の内周面によって塞がれる。また、管状部材10の先端11と内腔24の最深部24aとは離間し、両者間に空隙24sが形成されている。空隙24sを隔てて、管状部材10の先端11とスリット25とが対向している。スリット25は封止されていることが好ましい。かくして空隙24sは、気密に封止されていることが好ましい。
【0042】
本実施形態のオス部材1と、メス部材としてのニードルレスポートとのスリップ接続及びその分離を以下に説明する。
【0043】
図4Aは、接続前のオス部材1及びニードルレスポート50の断面図である。ニードルレスポート50は、
図7に示したニードルレスポート150と同様に、セプタム51を備える。セプタム51は、その中央部に直線状のスリット(切り込み)52が形成されたゴム等の弾性材料からなる円板状の隔壁部材である。セプタム51は、略円筒形状の基体部53とポートキャップ55とに挟持され固定されている。ポートキャップ55は、オス部材1に対向する側に、押さえ板56を備える。押さえ板56の中央には円形の開口57が形成されている。セプタム51のスリット52は開口57内に露出している。
【0044】
図4Aに示すように、オス部材1とニードルレスポート50とを対向させ、オス部材1をニードルレスポート50に押し付ける。最初に、オス部材1の頂部26の凸曲面26sがセプタム51の外表面51aに当接し、両者が密着する。管状部材10に押された頂部26は、セプタム51を弾性変形させながら押さえ板56の開口57内に侵入し、遂には、
図4Bに示すように、頂部26の頂部端縁26eが押さえ板56の開口57の開口端縁57eを越え、開口端縁57eがネック部26n内に嵌入して、頂部端縁26eと開口端縁57eとが係合する。これとほぼ同時に、オス部材1の頭部23の上面23aが押さえ板56に当接し、頭部23のニードルレスポート50側への移動が制限される。従って、更にオス部材1をニードルレスポート50に押し込むと、管状部材10の先端11が頭部23のスリット25に侵入しこれを貫通し、更にセプタム51のスリット52を貫通する。この過程で、カバー20の外周壁21は上下方向に弾性的に圧縮変形される。
【0045】
かくして、
図4Cに示すように、オス部材1とニードルレスポート50とをスリップ接続することができる。頂部26が押さえ板56の開口57内に挿入され、セプタム51を弾性変形させている。頂部26の凸曲面26sはセプタム51の外表面51aと密着している。頂部26の頂部端縁26eが押さえ板56の開口端縁57eと係合している。管状部材10は頭部23のスリット25及びセプタム51のスリット52を順に貫通している。スリット52の端縁は、管状部材10の外周面を取り囲み且つこれに密着している。管状部材10の横孔14はセプタム51に対して裏側(頂部26とは反対側)に位置し、横孔14を介してオス部材1とニードルレスポート50とが連通している。従って、この状態でオス部材1及びニードルレスポート50間に液状物を流すことができる。セプタム51の外表面51aは頂部26の凸曲面26sと密着しているので、
図8Dに示した従来の構成とは異なり、セプタム51の外表面51aが液状物に接することはほとんどない。
【0046】
オス部材1及びニードルレスポート50間の通液を停止後、
図4Cの状態からオス部材1をニードルレスポート50から引き抜く。
【0047】
上述したように頂部26の頂部端縁26eが押さえ板56の開口端縁57eと係合しているので、頭部23はニードルレスポート50に対して変位することができない。従って、管状部材10がセプタム51及び頭部23に対して相対的に移動する。この過程でスリット52の端縁が管状部材10の外周面上を摺動し、管状部材10の外周面に付着した液状物を剥ぎ取る。また、カバー20の外周壁21は伸張する。
【0048】
図5Aは管状部材10がセプタム51のスリット52から引き抜かれた直後の状態を示した断面図である。セプタム51のスリット52は、管状部材10が引き抜かれると直ちに弾性回復して閉じる。カバー20のスリット25内に管状部材10の先端11が残っているので、スリット25はわずかに開いている。管状部材10の横孔14は、頭部23の内腔24内に移動している。内腔24の内周面は管状部材10の外周面に密着しており、横孔14は内腔24の内周面によって塞がれている。
【0049】
図5Bは、管状部材10がカバー20のスリット25から引き抜かれた直後の状態を示した断面図である。セプタム51のスリット52と同様に、カバー20のスリット25は、管状部材10が引き抜かれると直ちに弾性回復して閉じる。スリット25が閉じるのとほぼ並行して、管状部材10の先端11は内腔24の最深部24aから離間し、空隙24sが形成される。上述したように、
図5Aの状態において、セプタム51のスリット52は既に閉じており、且つ、内腔24の内周面は管状部材10の外周面に密着している。従って、
図5Aから
図5Bへ移行する過程で形成される空隙24s内には、その容積拡大に応じて負圧が発生する。この負圧によって、セプタム51の外表面51aと頂部26の凸曲面26sとの間に残存する液状物がスリット25を介して空隙24s内に吸い込まれる。
【0050】
その後、オス部材1をニードルレスポート50から更に引き抜くと、遂に頂部26の頂部端縁26eと押さえ板56の開口端縁57eとの係合が解除され、次いで頂部26の凸曲面26sとセプタム51の外表面51aとが分離され、
図4Aに示した初期状態に戻る。
【0051】
以上の説明から理解できるように、本実施形態によれば、オス部材1をニードルレスポート50から分離する過程で形成される空隙24sに負圧を生じさせることができるので、スリット25の近傍に残存する液状物をスリット25を通じて空隙24s内に吸引することができる。その結果、オス部材1とニードルレスポート50とを分離した後にオス部材1のカバー20の外表面(即ち、凸曲面26s)及びニードルレスポート50のセプタム51の外表面51aに付着する液状物量を少なくすることができるのである。
【0052】
更に、頭部23の先端の頂部26に凸曲面26sが形成されているので、オス部材1とニードルレスポート50とを接続したときに凸曲面26sをセプタム51の外表面51aに密着させることができる。従って、オス部材1とニードルレスポート50とを分離した後に凸曲面26s及び外表面51aに付着する液状物量を更に少なくすることができる。
【0053】
また、オス部材1がニードルレスポート50と接続されていない非接続状態(
図4A参照)において、管状部材10の横孔14はカバー20の内腔24の内周面で塞がれており、且つ、カバー20のスリット25は閉じているので、非接続状態においてオス部材1から液状物が漏出することはない。
【0054】
オス部材1とニードルレスポート50とを接続したときに、
図4Cで説明したように、頂部26の頂部端縁26eと押さえ板56の開口端縁57eとが係合する。これにより、オス部材1とニードルレスポート50とを接続後、両者を分離する際に、管状部材10がカバー20のスリット25から抜き去られるよりも前に、カバー20とニードルレスポート50とが分離するのを防ぐことができる。従って、オス部材1とニードルレスポート50とを分離した後に凸曲面26s及び外表面51aに付着する液状物量を更に少なくすることができる。また、オス部材1とニードルレスポート50とを分離する際に、カバー20の外周壁21を初期状態にまで確実に伸張させることができる。
【0055】
上記の実施形態は例示であって、本発明は上記の実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
【0056】
上記の実施形態では、頭部23の上面23aから突出した頂部26のメス部材(ニードルレスポート50)に対向する側の面に、略球面状の凸曲面26sが形成されていたが、頂部26の外表面の形状はこれに限定されない。
図6に、本発明のオス部材を構成する別のカバー20の断面図を示す。このカバー20の頂部26のメス部材に対向する側の面には、中央から頂部端縁26eに向かって、球面26s1、第1円錐台面26s2、第2円錐台面26s3がこの順に配置されている。スリット25は、球面26s1に形成されている。第2円錐台面26s3のテーパ角度は第1円錐台面26s2のテーパ角度よりも大きい。第1円錐台面26s2及び第2円錐台面26s3のそれぞれのテーパ角度は任意に設定することができる。
【0057】
図6において、球面26s1に代えて平面を形成してもよい。球面26s1と第1円錐台面26s2に代えて、1つの円錐面を形成してもよい。この場合、当該円錐面の中央にスリット25が形成される。第2円錐台面26s3に代えて、第1円錐台面26s2の外側に環状の平面を形成してもよい。あるいは、第2円錐台面26s3を省略してもよい。あるいは、更に、別の1以上の円錐面を追加してもよい。
【0058】
上記の説明において、「球面」、「円錐台面」、「円錐面」は、厳密な「球面」、「円錐台面」、「円錐面」をそれぞれ変形させた「略球面」、「略円錐台面」、「略円錐面」をそれぞれ含んでいてもよい。
【0059】
頂部26の表面形状は、上記以外にも任意に設定することができる。一般に、頂部26のメス部材に対向する側の面は、メス部材に向かって突出した凸曲面であることが、メス部材の外表面(上記の実施形態ではセプタム51の外表面51a)との密着性が向上するので好ましい。
【0060】
上記の実施形態では、頭部23の先端に頂部26が形成されていたが、この頂部26を省略することができる。頂部26を省略すると、オス部材とメス部材とを接続したときに、カバーとメス部材の外表面(上記の実施形態ではセプタム51の外表面51a)とが密着しない可能性がある。しかしながら、オス部材とメス部材とを分離する過程で空隙24s内に負圧を生じさせることができるので、オス部材とメス部材とを分離した後にカバー及びメス部材の外表面に付着する液状物量を少なくすることができる。
【0061】
上記の実施形態では、カバー20に、メス部材と係合する係合構造としてネック部26nに隣接する頂部端縁26eが形成されていたが、当該係合構造を省略することができる。この場合であっても、カバー20の外周壁21の弾性力を適切に設定することにより、上記の実施形態と同様に作用するカバーを実現することが可能である。
【0062】
本発明のオス部材は、メス部材との接続状態を安定的に維持するために、メス部材と係合する係合部材を備えていてもよい。このような係合部材として、例えば特許文献2に記載されたロックレバーを用いることができる。
【0063】
上記の実施形態のオス部材1は、セプタムを備えたニードルレスポートに接続可能なオスルアーであったが、本発明のオス部材はこれ以外のメス部材に接続可能であってもよい。接続されるメス部材の構成に応じて本発明のオス部材の構成を適宜変更することができる。例えば、本発明のオス部材が、バイアル瓶のゴム栓に穿刺することができる瓶針であってもよい。この場合には、管状部材10の先端を鋭利に形成すること、管状部材10内に液体用及び気体用の互いに独立した2つの流路を併設することなど、周知の変更を行うことが好ましい。