特許第6136008号(P6136008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136008
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】強化ガラス及び強化ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20170522BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20170522BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C03C3/097
   C03C21/00 101
   G06F3/041 460
   G06F3/041 495
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-141602(P2013-141602)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-73953(P2014-73953A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-153352(P2012-153352)
(32)【優先日】2012年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-202407(P2012-202407)
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩佑
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/022661(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/149811(WO,A1)
【文献】 米国特許第03485647(US,A)
【文献】 特開2012−036074(JP,A)
【文献】 特開2011−057504(JP,A)
【文献】 特開2010−030876(JP,A)
【文献】 特開2004−131314(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/069338(WO,A1)
【文献】 特開2012−072058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
15/00−23/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、 0〜3%、LiO 0〜2%、NaO 5〜17%、O 0〜1%未満、 0.01〜10%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、 0〜3%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜17%、O 0〜1%未満、CaO 0〜2%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜76%、Al 16.0超〜21%、 0〜3%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜17%、O 0〜1%未満、CaO 0〜2%、BaO 0〜2%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜70%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜16%、O 0〜1%未満、CaO 0〜0.1%、BaO 0〜2%、B 0〜1.0%未満、ZnO 0〜1%、Fe 0〜1000ppm未満、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項5】
密度が2.48g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少が100mg/cm以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項7】
圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ応力深さが10μm以上であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項8】
液相温度が1200℃以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項9】
液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項10】
104.0dPa・sにおける温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項11】
30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が98×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項12】
表面上に透明導電膜を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の強化ガラス。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の強化ガラスからなることを特徴とする強化ガラス板。
【請求項14】
長さ寸法500mm以上、幅寸法300mm以上、板厚0.5〜2.0mmの強化ガラス板であって、
圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、応力深さが10μm以上であることを特徴とする請求項12に記載の強化ガラス板。
【請求項15】
板厚方向の内部に成形合流面を有することを特徴とする請求項13又は14に記載の強化ガラス板。
【請求項16】
タッチパネルディスプレイに用いることを特徴とする請求項13〜15の何れか一項に記載の強化ガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス及び強化ガラス板、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス及び強化ガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ、大型テレビ、非接触給電等のデバイスは、益々普及する傾向にある。
【0003】
これらの用途には、イオン交換処理等で強化処理した強化ガラスが用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、デジタルサイネージ、マウス、スマートフォン等の外装部品に強化ガラスを使用することが増えてきた。
【0005】
強化ガラスの主な要求特性として、(1)高い機械的強度、(2)高い耐傷性、(3)高い耐薬品性、(4)低コスト等が挙げられる。
【0006】
特に、スマートフォンの用途では、フォトレジスト工程等により透明導電膜を成膜する工程が存在し、強化ガラスは、この工程で薬品に曝される。よって、この用途では、強化ガラスの耐薬品性が重要視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】泉谷徹郎等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Al高含有ガラスは、イオン交換性能が高いため、イオン交換処理によって、機械的強度と耐傷性を高めることができる。
【0010】
しかし、Al高含有ガラスは、液相粘度を高めることが困難である。
【0011】
また、Al高含有ガラスは、耐薬品性を高めることが困難である。耐薬品性を高める手段として、一般的に、CaO等のアルカリ土類金属酸化物を添加することが知られているが、これらの成分を添加すると、強化用ガラスのイオン交換性能が低下してしまう。
【0012】
イオン交換処理は、通常、高温(例えば300〜500℃)のKNO溶融塩中に強化用ガラスを浸漬することにより行われる。強化用ガラスのイオン交換性能が低い程、イオン交換温度の高温化又はイオン交換時間の長時間化が必要になり、結果として、強化ガラスの製造コストが高騰する虞がある。
【0013】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み成されたものであり、その技術的課題は、イオン交換性能、耐失透性が良好であり、しかも耐薬品性が高い強化ガラス及び強化ガラス板を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス組成を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、P 0〜10%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が0.1質量%未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が0.1質量%未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が0.1質量%未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物レベルで混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が0.1質量%未満であることを指す。
【0015】
ガラス組成中にAlとアルカリ金属酸化物(特にNaO)を所定量導入すると、イオン交換性能と耐失透性を高めることができる。更に、Pを所定量導入すれば、イオン交換性能を更に高め、耐薬品性を高めることができる。
【0016】
第二に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜20%、CaO 0〜2%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことが好ましい。
【0017】
第三に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜76%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜20%、CaO 0〜2%、BaO 0〜2%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことが好ましい。
【0018】
第四に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜70%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜16%、CaO 0〜0.1%、BaO 0〜2%、B 0〜1.0%未満、ZnO 0〜1%、Fe 0〜0.1%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことが好ましい。
【0019】
第五に、本発明の強化ガラスは、密度が2.48g/cm以下であることが好ましい。ここで、「密度」は、周知のアルキメデス法で測定可能である。
【0020】
第六に、本発明の強化ガラスは、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少が100mg/cm以下であることが好ましい。ここで、「質量減少」は、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた後の質量減少であり、まず塩酸水溶液中に浸漬させる前の評価試料の質量と表面積を測定し、次に塩酸水溶液に浸漬させた後の評価試料の質量を測定し、最後に(浸漬前の質量−浸漬後の質量)/(浸漬前の表面積)の式に当て嵌めることにより算出可能である。
【0021】
第七に、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ応力深さが10μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」と「応力深さ」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、評価試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0022】
第八に、本発明の強化ガラスは、液相温度が1200℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
【0023】
第九に、本発明の強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度における粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0024】
第十に、本発明の強化ガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1300℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0025】
第十一に、本発明の強化ガラスは、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が98×10−7/℃以下であることが好ましい。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した平均値を指す。
【0026】
第十二に、本発明の強化ガラスは、表面上に透明導電膜を有することが好ましい。
【0027】
第十三に、本発明の強化ガラス板は、上記の強化ガラスからなることを特徴とする。
【0028】
第十四に、本発明の強化ガラス板は、長さ寸法500mm以上、幅寸法300mm以上、板厚0.5〜2.0mmの強化ガラス板であって、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、応力深さが10μm以上であることが好ましい。
【0029】
第十五に、本発明の強化ガラス板は、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることが好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の成形体の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを成形体の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は成形体の表面に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス板を安価に製造することができる。
【0030】
第十六に、本発明の強化ガラス板は、460℃以下の温度でイオン交換処理されてなることが好ましい。
【0031】
第十七に、本発明の強化ガラス板は、イオン交換時間が6時間以内であることが好ましい。
【0032】
第十八に、本発明の強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
【0033】
第十九に、本発明の強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0034】
第二十に、本発明の強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
【0035】
第二十一に、本発明の強化ガラス板は、ディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
【0036】
第二十二に、本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力層を有する強化ガラス板であって、長さ寸法が500mm以上、幅寸法が300mm以上、板厚が0.5〜2.0mmであり、ガラス組成として、質量%で、SiO 55〜70%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜20%、CaO 0〜2%、BaO 0〜2%、ZnO 0〜1%、Fe 0〜1000ppm未満、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有せず、密度が2.48g/cm以下、80℃、10質量%の塩酸水溶液で24時間処理した際の質量減少が100mg/cm以下、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、応力深さが10μm以上、液相温度が1200℃以下、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数が98×10−7/℃以下であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の強化ガラスは、その表面に圧縮応力層を有する。表面に圧縮応力層を形成する方法として、物理強化法と化学強化法がある。本発明の強化ガラスは、化学強化法で作製されてなることが好ましい。
【0038】
化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラス表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが小さい場合でも、圧縮応力層を適正に形成し得ると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラスが容易に破壊しない。
【0039】
本発明の強化ガラスにおいて、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、各成分の含有範囲の説明において、%表示は、特に断りがない限り、質量%を指す。
【0040】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は50〜80%であり、好ましくは51〜77%、52〜75%、53〜74%、55〜73%、特に55〜70%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなったり、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなったり、耐薬品性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。
【0041】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。Alの含有量は5〜30%である。Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、15.5%以上、16.0%超、16.1%以上、16.3%以上、16.5%以上、17.1%以上、特に17.5%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また耐薬品性も低下し、酸処理工程に適用し難くなる。更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は28%以下、26%以下、24%以下、22%以下、21%以下、20%以下、特に19%以下である。
【0042】
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。更にLiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを7%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。よって、LiOの含有量は0〜2%であり、好ましくは0〜1.7%、0〜1.5%、0〜1%、0〜1.0%未満、0〜0.5%、特に0〜0.3%である。
【0043】
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、NaOの含有量は5%以上であり、好適な下限範囲は7%以上、7.0%超、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、特に12%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなったり、耐薬品性が低下し易くなる。また、歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、NaOの含有量は25%以下であり、好適な上限範囲は23%以下、21%以下、20%以下、19%以下、17%以下、16%以下、15%以下、14.5%以下、14%以下、13.54%以下、特に13%以下である。
【0044】
の含有量は0〜10%である。Pは、イオン交換性能を高める成分であり、特に応力深さを大きくする成分である。また、Al高含有ガラスにおいて、耐薬品性や耐失透性を高める成分である。よって、Pの好適な下限範囲は0%超、0.001%以上、0.005%以上、0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、かえって耐薬品性が低下し易くなる。よって、Pの好適な上限範囲は5%以下、4%以下、特に3%以下である。
【0045】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0046】
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、また液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、応力深さが小さくなり易い。よって、Bの含有量は、好ましくは0〜6%、0〜5%、0〜4%、0〜3%、0〜2%、0〜2.0%未満、0〜1.5%、0〜1%、特に0〜0.5%である。なお、Bを導入する場合、Bの含有量は、好ましくは0.01%以上、0.1%以上、0.3%以上、特に0.5%以上である。
【0047】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では応力深さを大きくし易い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。しかし、KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの好適な上限範囲は10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下である。なお、KOを添加する場合、好適な添加量は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、特に2%以上である。また、KOの添加を可及的に避ける場合は、0〜1.9%、0〜1.35%、0〜1%、0〜1.0%未満、特に0〜0.05%が好ましい。
【0048】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。よって、MgOの含有量は0〜10%が好ましい。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり易く、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの好適な含有量は0〜9%、0〜8%、0〜7%、0〜6%、0〜5%、特に0〜4%である。なお、MgOを導入する場合、MgOの含有量は、好ましくは0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、特に1%以上である。
【0049】
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下したり、イオン交換溶液を劣化させ易くなる傾向がある。よって、CaOの好適な含有量は0〜6%、0〜5%、0〜4%、0〜3.5%、0〜3%、0〜2%、0〜1%、0〜0.4%、0〜0.2%、0〜0.1%、特に0〜0.1%未満である。
【0050】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、SrOの好適な含有量は0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%、特に0〜0.1%未満である。
【0051】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなること加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、BaOの好適な含有量は0〜6%、0〜3%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.1%、特に0〜0.1%未満である。
【0052】
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜4.5%、0〜1%、0〜0.5%、0〜0.3%、0〜0.1%、0〜0.05%、特に0〜0.01%が好ましい。
【0053】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分である。よって、ZrOの好適な下限範囲は0.001%以上、0.005%以上、0.01%以上、特に0.05%以上である。しかし、ZrOの含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下すると共に、クラックレジスタンスが低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞もある。よって、ZrOの好適な上限範囲は5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.3%以下、0.1%以下、特に0.1%未満である。
【0054】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、応力深さが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜3%、0〜2%、特に0〜1%が好ましい。
【0055】
清澄剤として、Cl、SO、CeOの群(好ましくはCl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加してもよい。
【0056】
SnOは、イオン交換性能を高める効果を有する。よって、SnOの含有量は0〜3%、0.01〜3%、0.05〜3%、特に0.1〜3%、特に0.2〜3%が好ましい。
【0057】
清澄効果とイオン交換性能を高める効果を同時に享受する観点から、SnO+SO+Clの含有量は0.01〜3%、0.05〜3%、0.1〜3%、特に0.2〜3%が好ましい。なお、「SnO+SO+Cl」は、SnO、Cl、及びSOの合量である。
【0058】
Feの含有量は1000ppm未満(0.1%未満)、800ppm未満、600ppm未満、400ppm未満、特に300ppm未満が好ましい。更に、Feの含有量を上記範囲に規制した上で、モル比SnO/(Fe+SnO)を0.8以上、0.9以上、特に0.95以上に規制することが好ましい。このようにすれば、板厚1mmにおける透過率(400〜770nm)が向上し易くなる(例えば90%以上)。
【0059】
Nb、La等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0060】
本発明の強化ガラスは、環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。また、環境的配慮から、実質的にBiを含有しないことも好ましい。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が0.05%未満であることを指す。
【0061】
本発明の強化ガラスにおいて、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好適なガラス組成範囲とすることが可能である。その中でも、特に好適なガラス組成範囲は以下の通りである。
(1)質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、P 0〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
(2)質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、LiO 0〜2%、NaO 10〜20%、CaO 0〜2%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
(3)質量%で、SiO 55〜76%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜25%、CaO 0〜2%、P2O5 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
(4)質量%で、SiO 55〜76%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜20%、CaO 0〜2%、BaO 0〜2%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
(5)質量%で、SiO 55〜73%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜20%、CaO 0〜2%、BaO 0〜2%、ZnO 0〜1%、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
(6)質量%で、SiO 55〜70%、Al 16.0超〜21%、LiO 0〜1.7%、NaO 10〜16%、CaO 0〜0.1%、BaO 0〜2%、B 0〜1.0%未満、ZnO 0〜1%、Fe 0〜1000ppm未満、P 0.01〜5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
【0062】
本発明の強化ガラスは、例えば、下記の特性を有することが好ましい。
【0063】
本発明の強化ガラスは、上記の通り、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、700MPa以上、800MPa以上、900MPa以上、特に900〜1500MPaである。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。なお、ガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
【0064】
応力深さは、好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、特に50μm以上である。応力深さが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、応力深さが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、応力深さが大きくなる傾向がある。
【0065】
本発明の強化ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、2.55g/cm以下、2.50g/cm以下、2.48g/cm以下、特に2.45g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
【0066】
本発明の強化ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は100×10−7/℃以下、98×10−7/℃以下、95×10−7/℃以下、93×10−7/℃以下、90×10−7/℃以下、88×10−7/℃以下、特に85×10−7/℃以下が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、熱衝撃によって破損し難くなるため、強化処理前の予熱や強化処理後の除冷に要する時間を短縮することができる。結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化することができる。また、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
【0067】
本発明の強化ガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1300℃以下、1280℃以下、1250℃以下、1220℃以下、特に1200℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0068】
本発明の強化ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1650℃以下、1600℃以下、1580℃以下、特に1550℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、例えば、白金球引き上げ法で測定可能である。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
【0069】
本発明の強化ガラスにおいて、液相温度は1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1080℃以下、1050℃以下、1020℃以下、特に1000℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。なお、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
【0070】
本発明の強化ガラスにおいて、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.3dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.7dPa・s以上、105.8dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
【0071】
本発明の強化ガラスにおいて、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた際の質量減少は、好ましくは150mg/cm以下、100mg/cm以下、50mg/cm以下、10mg/cm以下、5mg/cm以下、3mg/cm以下、1mg/cm以下、特に0.5mg/cm以下である。質量減少が少ない程、強化ガラスが薬品に侵食され難くなり、フォトレジスト工程等で強化ガラスを適正に処理することができる。
【0072】
本発明の強化ガラスは、耐薬品性に優れるため、表面上に各種機能膜を形成し易い。よって、本発明の強化ガラスは、表面上に各種機能膜を有することが好ましい。機能膜として、例えば、導電性を付与するための透明導電膜、反射率を低下させるための反射防止膜、防眩機能を付与して、視認性を高めたり、タッチペン等での書き味を高めるためのアンチグレア膜、指紋の付着を防止して、撥水性、撥油性を付与するための防汚膜等が好ましい。透明導電膜は、タッチセンサー用の電極として機能し、例えば、ディスプレイデバイス側になるべき表面に形成されることが好ましい。透明導電膜として、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が用いられる。特に、ITOは、電気抵抗が低いため好ましい。ITOは、例えば、スパッタリング法により形成することができる。また、FTO、ATOは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。反射防止膜は、観察者側になるべき表面に形成される。また、タッチパネルと強化ガラス(カバーガラス)との間に空隙がある場合、強化ガラスの裏面側(ディスプレイデバイス側とは反対側)になるべき表面にも反射防止膜を形成することが好ましい。反射防止膜は、例えば、相対的に屈折率が低い低屈折率層と相対的に屈折率が高い高屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜であることが好ましい。反射防止膜は、例えば、スパッタリング法、CVD法等により形成することができる。アンチグレア膜は、強化ガラスをカバーガラスとして使用する場合、観察者側になるべき表面に形成される。アンチグレア膜は、凹凸構造を有することが好ましい。凹凸構造は、強化ガラスの表面を部分的に覆う島状の構造であってもよい。また、凹凸構造は、規則性を有していないことが好ましい。これにより、アンチグレア機能を高めることができる。アンチグレア膜は、例えば、スプレー法によりSiO等の透光性材料を塗布し、乾燥させることにより形成することができる。防汚膜は、強化ガラスをカバーガラスとして使用する場合、観察者側になるべき表面に形成される。防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。含フッ素重合体として、主鎖中に、−O−Si−O−ユニットを有し、且つフッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体が好ましい。含フッ素重合体は、例えば、シラノールを脱水縮合することにより合成することができる。反射防止膜と防汚膜を形成する場合、反射防止膜の上に防汚膜を形成することが好ましい。更にアンチグレア膜を形成する場合、まずアンチグレア膜を形成し、その上に、反射防止膜及び/又は防汚膜が形成することが好ましい。
【0073】
本発明の強化ガラス板は、上記の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本発明の強化ガラス板の技術的特徴(好適な特性、好適な成分範囲等)は、本発明の強化ガラスの技術的特徴と重複する。ここでは、本発明の強化ガラス板の技術的特徴について、重複部分の説明を省略する。
【0074】
本発明の強化ガラス板において、表面の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは10Å以下、8Å以下、6Å以下、4Å以下、3Å以下、特に2Å以下である。平均表面粗さ(Ra)が大きい程、強化ガラス板の機械的強度が低下する傾向がある。ここで、平均表面粗さ(Ra)は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。
【0075】
本発明の強化ガラス板において、長さ寸法は500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましく、幅寸法は500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましい。強化ガラス板を大型化すると、例えば、大型TV等のディスプレイの表示部のカバーガラスとして好適に使用可能になる。
【0076】
本発明の強化ガラス板において、板厚は2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に0.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、特に0.5mm以上が好ましい。
【0077】
本発明に係る強化用ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO 50〜80%、Al 10〜30%、LiO 0〜2%、NaO 5〜25%、P 0〜10%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする。よって、本発明に係る強化用ガラスの技術的特徴(好適な特性、好適な成分範囲等)は、本発明の強化ガラスの技術的特徴と重複する。ここでは、本発明に係る強化用ガラスの技術的特徴について、重複部分の説明を省略する。
【0078】
本発明に係る強化用ガラスは、430℃のKNO溶融塩中でイオン交換処理する場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ応力深さが10μm以上になることが好ましく、表面の圧縮応力が600MPa以上、且つ応力深さが30μm以上になることが更に好ましく、表面の圧縮応力が700MPa以上、且つ応力深さが30μm以上になることが特に好ましい。
【0079】
イオン交換処理の際、イオン交換温度(特に、KNO溶融塩の温度)は、300〜550℃、340〜500℃、360〜480℃、特に360〜460℃が好ましい。イオン交換時間は、1〜10時間、1〜9時間、特に1〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。本発明の強化用ガラスは、上記のガラス組成を有するため、比較的低温でも適正な圧縮応力層を形成することができ、イオン交換液や強化用ガラスの昇降温に伴うコスト増を可及的に抑制することができる。また、本発明に係る強化用ガラスは、上記のようにガラス組成が規制されているため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や応力深さを大きくすることができる。
【0080】
以下のようにして、本発明に係る強化用ガラス、強化ガラス、及び強化ガラス板を作製することができる。
【0081】
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状等に成形し、徐冷することにより、ガラス板等を作製することができる。
【0082】
ガラス板を成形する方法として、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、大量に高品位なガラス板を作製できると共に、大型のガラス板も容易に作製できる方法であり、またガラス板の表面の傷を可及的に低減することができる。
【0083】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0084】
次に、得られた強化用ガラスを強化処理することにより、強化ガラスを作製することができる。強化ガラスを所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、デバイスの製造効率の観点から、強化処理の後に行うことが好ましい。
【0085】
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力、寸法変化等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、300〜550℃のKNO溶融塩中に、強化用ガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、ガラス表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0087】
表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜22)を示している。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
次のようにして表中の各試料を作製した。試料No.1〜16については、表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1600℃で8時間溶融した。試料No.17〜22については、表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1600℃で21時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0093】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0094】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0095】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0096】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0097】
ヤング率Eは、周知の共振法で測定した値である。
【0098】
熱膨張係数αは、ディラトメーターで測定した値であり、30〜380℃の温度範囲における平均値である。
【0099】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0100】
液相粘度logηTLは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0101】
耐薬品性は、80℃、10質量%の塩酸水溶液に24時間浸漬させた後の質量減少である。次のようにして、各試料の質量減少を測定した。まず塩酸水溶液に浸漬させる前の各試料の質量と表面積を測定した。次に、各試料を塩酸水溶液に浸漬させた後、各試料の質量を測定した。最後に、(浸漬前の質量−浸漬後の質量)/(浸漬前の表面積)の式により、質量減少を算出した。
【0102】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜22は、密度が2.48g/cm以下、熱膨張係数が80×10−7〜96×10−7/℃、耐薬品性が79.3mg/cm以下であり、強化ガラスの素材、つまり強化用ガラスとして好適であった。また液相粘度が104.0dPa・s以上であるため、オーバーフローダウンドロー法で板状に成形可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1632℃以下であるため、生産性が高く、大量のガラス板を安価に作製し得るものと考えられる。
【0103】
続いて、試料No.1〜16の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩(使用履歴がないKNO溶融塩)中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。また、試料No.17〜22の両表面に光学研磨を施した後、430℃のKNO溶融塩(使用履歴がないKNO溶融塩)中に4時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。次に、イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。最後に、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値(CS)と応力深さ(DOL)を算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.51、光学弾性定数を30[(nm/cm)/MPa]とした。
【0104】
なお、強化処理前後で、ガラス表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合、ガラス組成は実質的に相違しない。
【0105】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜22について、KNO溶融塩を用いて、イオン交換処理を行ったところ、その表面の圧縮応力層の圧縮応力値は873MPa以上、応力深さは33μm以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。