特許第6136009号(P6136009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136009
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20170522BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C03C3/068
   C03C3/155
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-147266(P2013-147266)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-20913(P2015-20913A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】俣野 高宏
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−050048(JP,A)
【文献】 特開2008−233547(JP,A)
【文献】 特開2012−162448(JP,A)
【文献】 特開2011−153048(JP,A)
【文献】 特開2007−153734(JP,A)
【文献】 特開昭61−168551(JP,A)
【文献】 特開2009−167075(JP,A)
【文献】 特開2013−253013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 0〜12%、B 1〜15%、ZnO 0〜1.4%、ZrO 2〜9%、La 25〜60%、Gd 0〜15%、Nb 0〜15%、Ta 0〜10%、WO 0〜10%、及びTiO 0.1〜20%を含有し、かつ、Y、GeO、鉛成分、ヒ素成分及びフッ素成分を実質的に含有せず、ガラス中に含まれるSi4+及びB3+の各含有量(カチオン%)の比Si4+/B3+が0.8以上であって、屈折率ndが1.975以上、アッベ数が20〜30であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、Nb+Ta 0〜15%を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、LiO+NaO+KO 0〜3%を含有するであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
ガラス中に含まれるSi4+及びB3+の各含有量(カチオン%)の合量Si4++B3+が25〜42%であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
波長1310nmにおける屈折率が1.95以上、波長1550nmにおける屈折率が1.945以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
ガラス転移点が630℃以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
波長1310nm及び1550nmにおける厚さ10mmでの内部透過率が98%以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
30〜300℃における熱膨張係数が70〜95×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
厚さ10mmにおいて、着色度λ70が600nm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
液相温度が1300℃以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
ヌープ硬度が550以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項12】
JOGISに準拠した粉末法による耐酸性が2級以上、耐水性が1級以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。詳細には、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ、プロジェクタ用レンズ等に好適な高屈折率を有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズやプロジェクタ用レンズは、低分散ガラスからなるレンズと高分散ガラスからなるレンズの組み合わせにより構成される。当該構成により、色収差を補正することが可能となる。また、各レンズを高屈折率化することにより、装置の小型化を図ることができる。
【0003】
特許文献1及び2には、上記のようなレンズに使用可能な高屈折率の光学ガラスが開示されている。具体的には、特許文献1には、屈折率ndが1.85〜2.05、アッベ数が25〜43であるCdO−TbOフリーの高屈折性光学ガラスが開示されている。また、特許文献2には、屈折率ndが1.85以上、アッベ数が10〜30の範囲の光学定数を有する光学ガラスであって、精密モールドプレス成形に適した光学ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−26049号公報
【特許文献2】特開2008−303141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、高屈折率の光学ガラスは、ガラス骨格形成成分であるSiO、B、P等が少なく、高屈折率成分を多く含む組成を有する。このように、高屈折率ガラスはガラス骨格形成成分が相対的に少ないため、ガラス安定性が低く、製造過程で失透しやすい。また、比較的脆いため加工性に劣り、耐候性も低い。さらに、着色しやすい高屈折率成分が多く含まれているため、透過率が低いといった問題もある。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、(1)高屈折率特性を達成しやすい、(2)プリフォーム成形時の耐失透性に優れる、(3)耐候性に優れる、(4)高透過率を達成しやすい、(5)高硬度を達成しやすい、といった特性をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO 0〜12%、B 1〜15%、ZnO 0〜1.4%、ZrO 2〜9%、La 25〜60%、Gd 0〜15%、Nb 0〜15%、Ta 0〜10%、WO 0〜10%、及びTiO 0.1〜20%を含有し、かつ、Y、GeO、鉛成分、ヒ素成分及びフッ素成分を実質的に含有しないことを特徴とする。
【0008】
本発明において、「実質的に含有しない」とは、該当する成分を意図的にガラス中に含有させないことを意味し、不可避的不純物まで完全に排除するものではない。客観的には、不純物を含めた各成分の含有量が、質量%で、0.1%未満であることを意味する。
【0009】
本発明の光学ガラスは、質量%で、Nb+Ta 0〜15%を含有することが好ましい。
【0010】
本発明の光学ガラスは、質量%で、LiO+NaO+KO 0〜3%を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の光学ガラスは、ガラス中に含まれるSi4+及びB3+の各含有量(カチオン%)の比Si4+/B3+が0.8以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の光学ガラスは、ガラス中に含まれるSi4+及びB3+の各含有量(カチオン%)の合量Si4++B3+が25〜42%であることが好ましい。
【0013】
本発明の光学ガラスは、屈折率ndが1.975以上、アッベ数が20〜30であることが好ましい。
【0014】
本発明の光学ガラスは、波長1310nmにおける屈折率が1.95以上、波長1550nmにおける屈折率が1.945以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移点が630℃以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の光学ガラスは、波長1310nm及び1550nmにおける厚さ10mmでの内部透過率が98%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の光学ガラスは、30〜300℃における熱膨張係数が70〜95×10−7/℃であることが好ましい。
【0018】
本発明の光学ガラスは、厚さ10mmにおいて、着色度λ70が600nm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明において、「着色度λ70」は、透過率曲線において、透過率が70%となる最短波長をいう。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、(1)高屈折率特性を達成しやすい、(2)プリフォーム成形時の耐失透性に優れる、(3)耐候性に優れる、(4)高透過率を達成しやすい、(5)高硬度を達成しやすい、といった特性をすべて満足することが可能な光学ガラスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO 0〜12%、B 1〜15%、ZnO 0〜1.4%、ZrO 2〜9%、La 25〜60%、Gd 0〜15%、Nb 0〜15%、Ta 0〜10%、WO 0〜10%、及びTiO 0.1〜20%を含有し、かつ、Y、GeO、鉛成分、ヒ素成分及びフッ素成分を実質的に含有しないことを特徴とする。以下に、各成分の含有量をこのように規制した理由を説明する。
【0022】
SiOはガラス骨格を形成する成分であり、失透を抑制するとともに、耐候性を向上させる効果や、硬度を高める効果がある。また、着色を抑制する効果がある。SiOの含有量は0〜12%であり、好ましくは0.5〜10%、より好ましくは1〜8%、さらに好ましくは1.5〜6%である。SiOの含有量が多すぎると、屈折率が低下する傾向がある。
【0023】
はガラス骨格を形成する成分であり、失透を抑制するとともに、耐候性を向上させる効果や、硬度を高める効果がある。Bの含有量は1〜15%であり、好ましくは2〜14%、より好ましくは3〜13%である。Bの含有量が少なすぎると、ガラスが不安定になって耐失透性が低下したり、透過率が低下しやすくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下するとともに、耐候性が低下する傾向がある。
【0024】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率かつ優れた耐失透性を得るためには、SiO及びBの合量を適切に調整することが好ましい。具体的には、SiO+Bの含有量は、好ましくは5〜25%、より好ましくは10〜22%である。SiO+Bの含有量が少なすぎると、失透が生じやすくなるとともに耐候性が低下しやすくなる。一方、SiO+Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下する傾向がある。
【0025】
ZnOは粘度を低下させ、液相温度を低下させる成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると、高屈折率特性が得られにくく、また耐候性が低下する傾向がある。従って、ZnOの含有量は0〜1.4%であり、好ましくは0.1〜1.2%、より好ましくは0.2〜1、さらに好ましくは0.3〜0.7、特に好ましくは0.4〜0.5%である。なお、高屈折率特性を優先する場合は、ZnOは実質的に含有しないことが好ましい。
【0026】
ZrOは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐候性を向上させる効果もある。ZrOの含有量は2〜9%であり、好ましくは2.5〜8%、より好ましくは3〜7%、さらに好ましくは4〜6.5%である。ZrOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくい。一方、ZrOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0027】
Laは屈折率を高める成分である。Laは、同じく屈折率を高める効果のあるZrO、Gd、Ta及びNbに比べ失透傾向が強くないため、比較的多量に含有させても均質なガラスが得られやすい。Laの含有量は25〜60%であり、好ましくは27.5〜57.5%、より好ましくは30〜55%、さらに好ましくは35〜52.5%、特に好ましくは37.5〜50%である。Laの含有量が少なすぎると、所望の高屈折率特性が得られにくくなる。一方、Laの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0028】
Gdは屈折率を高める成分である。また、耐失透性を向上させる効果があり、作業温度範囲を拡大することができる。ただし、多量に含有させると、分相傾向が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。また、液相温度が上昇する傾向がある。以上に鑑み、Gdの含有量は0〜15%であり、好ましくは0.1〜12.5%、より好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜5%である。
【0029】
Nbは屈折率を高める成分である。Nbの含有量は0〜15%であり、好ましくは0.5〜12.5%、より好ましくは1〜10%である。Nbの含有量が多すぎると、失透物がガラス表面に析出(表面失透)しやすくなる。
【0030】
Taは屈折率を高める成分である。また、耐候性を高める効果がある。Taは、Nb、WO、TiO等の高屈折率成分に比べると、紫外域〜可視域の透過率が低下しにくい。Taの含有量は0〜10%であり、好ましくは0.1〜8%、より好ましくは0.5〜6%、さらに好ましくは1〜5%である。Taの含有量が多すぎると、分相や失透が生じやすくなる。また、バッチコストが高くなるため、経済的観点からも好ましくない。
【0031】
なお、Nb+Taの含有量は、好ましくは0〜15%、より好ましくは0.1〜13%である。Nb+Taの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0032】
WOは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、耐失透性を向上させる効果もある。WOはTaやNbに比べ失透傾向が強くないため、多く含有させても均質なガラスが得られやすい。WOの含有量は0〜10%であり、好ましくは0.5〜7.5%、より好ましくは1〜5%、さらに好ましくは1〜2.5%である。WOの含有量が多すぎると、短波長領域の可視光透過率が低下しやすくなる。
【0033】
TiOは屈折率を高める成分である。また、耐失透性を向上させる効果や、紫外光による変色(ソラリゼーション)を抑制する効果もある。TiOの含有量は0.1〜20%であり、好ましくは1〜17.5%、より好ましくは3〜15%である。TiOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、TiOの含有量が多すぎると、短波長領域の透過率が低下して、短波長用レンズとしての使用に支障をきたすおそれがある。
【0034】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率かつ優れた耐失透性を得るためには、TiOに対するNbの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、Nb/TiO(質量比)は、好ましくは0〜1であり、より好ましくは0.1〜0.9、さらに好ましくは0.2〜0.8である。
【0035】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率かつ優れた耐失透性、さらには所望の熱膨張係数を得るためには、SiOに対するLa及びGdの合量の比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、(La+Gd)/SiO(質量比)は、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下、特に好ましくは15以下、最も好ましくは10以下である。
【0036】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率かつ優れた耐失透性を得るためには、Bに対するLa及びGdの合量の比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、(La+Gd)/B(質量比)は、好ましくは2〜50、より好ましくは5〜40、さらに好ましくは7.5〜40、特に好ましくは10〜35、最も好ましくは12.5〜30である。(La+Gd)/Bの比率が低すぎると、高屈折率特性が得られにくくなり、一方、高すぎると、失透しやすくなる。
【0037】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率を得るためには、La及びGdの合量に対するZnOの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、ZnO/(La+Gd)(質量比)は、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.01以下、最も好ましくは0である。
【0038】
本発明の光学ガラスにおいて、優れた耐失透性を得るためには、SiOに対するTiOの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、TiO/SiO(質量比)は、好ましくは100以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは20以下、最も好ましくは10以下である。TiO/SiOの比率が高すぎると、失透が生じやすくなるとともに耐候性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が高くなりやすくなる。なお、TiO/SiOが低すぎると、高屈折率特性が得られにくくなるため、0.1以上、さらには0.5以上、特に1以上であることが好ましい。
【0039】
本発明の光学ガラスにおいて、優れた耐失透性を得るためには、SiOに対するNbの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、Nb/SiO(質量比)は、好ましくは150以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは50以下、特に好ましくは25以下、最も好ましくは10以下である。Nb/SiOの比率が高すぎると、失透が生じやすくなるとともに耐候性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が高くなりやすくなる。一方、Nb/SiOが低すぎると、高屈折率特性が得られにくくなるため、0.1以上、さらには0.5以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性を得るためには、TiOに対するZnOの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、ZnO/TiO(質量比)は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.175以下、さらに好ましくは0.15以下、特に好ましくは0.1以下、最も好ましくは0.05以下である。
【0041】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性を得るためには、Nbに対するZnOの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、ZnO/Nb(質量比)は、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下、最も好ましくは0.05以下である。
【0042】
は失透傾向が強く、作業温度範囲を狭める傾向がある。また、脈理が発生させやすい。そのため、本発明の光学ガラスはYを実質的に含有しない。
【0043】
GeOは屈折率を高める効果があるが、透過率を低下させやすい。また高価な原料であるため、バッチコストが高くなる傾向がある。よって、本発明の光学ガラスはGeOを実質的に含有しない。
【0044】
鉛成分(例えばPbO)、ヒ素成分(例えばAs)及びフッ素成分(例えばF)は、環境上の理由から、ガラスへの実質的な導入は避けるべきである。よって、本発明の光学ガラスはこれらの成分を実質的に含有しない。
【0045】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外に以下の成分を含有させることができる。
【0046】
LiOは、アルカリ金属酸化物(R’O)のなかで、最も軟化点を低下させる効果が大きい成分である。また、TiOを多く含むガラスにおいて透過率の低下を抑制する効果がある。なお、LiOは屈折率を比較的低下させにくい成分である。LiOの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜2.75%、さらに好ましくは0.3〜2.5%である。LiOは分相性が強いため、その含有量が多すぎると、液相温度が高くなり、失透物が析出しやすくなる。結果として、作業性が低下する傾向がある。
【0047】
NaOはLiOと同様に軟化点を低下させる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすく、溶融時にはBとNaOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長してしまう。また、液相温度が高くなりやすい。従って、NaOの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜2.75%、さらに好ましくは0.3〜2.5%である。
【0048】
Oも、LiOと同様に軟化点を低下させる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすくなる。KOの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜2.75%、さらに好ましくは0.3〜2.5%である。KOの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。また、液相温度が高くなりやすい。
【0049】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性、高透過率特性、及び優れた耐失透性を得るためには、LiO、NaO及びKOの合量を適切に調整することが好ましい。具体的には、LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜2.75%、さらに好ましくは0.3〜2.5%である。LiO+NaO+KOの含有量が多すぎると、液相温度が高くなり、失透物が析出しやすくなる。結果として、作業性が低下する傾向がある。また、屈折率が低下しやすくなる。
【0050】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性、高透過率特性、及び優れた耐失透性を得るためには、LiO、NaO、KO及びTaの合量を適切に調整することが好ましい。具体的には、LiO+NaO+KO+Taの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜7.5%、さらに好ましくは0.3〜5%である。
【0051】
本発明の光学ガラスにおいて、優れた耐失透性及び所望の熱膨張係数を得るためには、LiOに対するSiOの比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、SiO/LiO(質量比)は、好ましくは5〜150、より好ましくは10〜140、さらに好ましくは20〜135、特に好ましくは30〜130である。
【0052】
本発明の光学ガラスにおいて、優れた耐失透性及び所望の熱膨張係数を得るためには、LiOに対するSiO及びBの合量の比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、(SiO+B)/LiO(質量比)は、好ましくは5〜150、より好ましくは10〜140、さらに好ましくは20〜135、特に好ましくは30〜130である。
【0053】
本発明の光学ガラスにおいて、優れた耐失透性及び透過率特性を得るためには、LiOに対するTiO及びNbの合量の比率を適切に調整することが好ましい。具体的には、(TiO+Nb)/LiO(質量比)は、好ましくは5〜150、より好ましくは10〜140、さらに好ましくは20〜135、特に好ましくは30〜130である。
【0054】
本発明の光学ガラスにおいて、優れた耐失透性及び透過率特性を得るためには、LiO及びTaの合量を適切に調整することが好ましい。具体的には、LiO+Taの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜7.5%、さらに好ましくは0.5〜5%、特に好ましくは1〜3%である。
【0055】
Ybは屈折率を高める成分である。また、分相を抑制する効果がある。Ybの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜8%である。Ybの含有量が多すぎると、失透しやすくなり、作業温度範囲が狭くなる傾向がある。また、脈理が発生しやすくなる。
【0056】
Alは、SiOやBとともにガラス骨格を形成することが可能な成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中の成分が水へ選択的に溶出することを抑制する効果が高い。Alの含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜5%である。Alの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。また、溶融性が低下して脈理や泡がガラス中に残存しやすくなり、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなるおそれがある。
【0057】
CaO、SrO及びBaOといったアルカリ土類金属酸化物(RO)は融剤として作用する成分である。ただし、ROの含有量が多すぎると、溶融または成形工程中に失透物が析出しやすくなり、液相温度が上昇して作業温度範囲が狭くなりやすい。その結果、量産化しにくくなる傾向がある。また、ROの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなり、ガラス成分の研磨洗浄水や各種洗浄溶液中への溶出が増大したり、高温多湿環境下でガラス表面が顕著に変質する傾向がある。よって、CaO、SrO及びBaOは、合量で5%以下であることが好ましい。
【0058】
なお、CaO、SrO及びBaOのそれぞれの含有量の好ましい範囲は、0〜5%、さらには0.1〜1%である。
【0059】
なお、CaO、SrO及びBaO以外にも、屈折率を高めるために、MgOを含有させてもよい。MgOの含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜1%である。MgOの含有量が多すぎると、失透しやすくなる。
【0060】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性、優れた耐失透性及び硬度、所望の熱膨張係数を得るためには、ガラス中に含まれるSi4+及びB3+の各含有量(カチオン%)の比Si4+/B3+を適切に調整することが好ましい。具体的には、Si4+/B3+は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上、最も好ましくは1以上である。
【0061】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率かつ優れた耐失透性を得るためには、ガラス中に含まれるSi4+及びB3+の各含有量(カチオン%)の合量Si4++B3+を適切に調整することが好ましい。具体的には、Si4++B3+の含有量は、好ましくは25〜42%、より好ましくは27〜40%である。Si4++B3+の含有量が少なすぎると、失透が生じやすくなるとともに耐候性が低下しやすくなる。一方、Si4++B3+の含有量が多すぎると、屈折率が低下する傾向がある。
【0062】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性を得るためには、ガラス中に含まれるTi4+及びNb5+の合量に対するSi4+の含有量(カチオン%)の比を適切に調整することが好ましい。具体的には、Si4+/(Ti4++Nb5+)は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1以下である。なお、優れた耐失透性、耐候性及び硬度、所望の熱膨張係数を得るためには、Si4+/(Ti4++Nb5+)は、0.1以上であることが好ましい。
【0063】
本発明の光学ガラスにおいて、高屈折率特性、優れた耐失透性、耐候性及び硬度、所望の熱膨張係数を得るためには、ガラス中に含まれるTi4+及びNb5+の合量に対するSi4+及びB3+の合量(カチオン%)の比を適切に調整することが好ましい。具体的には、(Si4++B3+)/(Ti4++Nb5+)は、好ましくは0.5〜2.5、より好ましくは0.75〜2.1である。(Si4++B3+)/(Ti4++Nb5+)が小さすぎると、失透が生じやすくなるとともに耐候性が低下しやすくなる。また、熱膨張係数が高くなったり、硬度が低下しやすくなる。一方、(Si4++B3+)/(Ti4++Nb5+)が大きすぎると、高屈折率特性が得られにくい。
【0064】
なお、清澄剤として、例えばSbやSnOを含有させることができる。Sbは、不純物として混入するFe成分の着色を抑制する効果がある。Sbの含有量は、好ましくは0〜1%、より好ましくは0.01〜0.1%である。Sbの含有量が多すぎると、可視域透過率が低下する傾向がある。
【0065】
本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.975以上であり、より好ましくは1.995以上、さらに好ましくは2.0以上である。屈折率の上限は特に限定されないが、高すぎると失透が生じやすくなるため、好ましくは2.2以下、より好ましくは2.1以下である。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは20〜30であり、より好ましくは21〜29、さらに好ましくは25〜28.5である。本発明の光学ガラスは、上記光学特性を満たすことにより、色分散の補正がしやすく、高機能で小型の光学素子用の光学レンズとして好適となる。
【0066】
また、本発明の光学ガラスの波長1310nmにおける屈折率は、好ましくは1.95以上、より好ましくは1.96以上である。本発明の光学ガラスの波長1550nmにおける屈折率は、好ましくは1.945以上、より好ましくは1.95以上である。
【0067】
本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは630℃以上、より好ましくは640℃以上、さらに好ましくは650℃以上である。このようにガラス転移点が高いガラスは、熱膨張係数が低くなりやすく、硬度が高くなりやすい。
【0068】
本発明の光学ガラスの30〜300℃における熱膨張係数は、好ましくは70〜95×10−7/℃、より好ましくは72.5〜92.5×10−7/℃、さらに好ましくは75〜90×10−7/℃である。例えば、本発明の光学ガラスからなるレンズは、ガラスや樹脂からなる接着剤を用いて金属部品(アルミナ等)に接合して使用される。この際、レンズと金属部品の熱膨張係数の差が大きいと、接着部分の剥離やレンズの割れが発生するおそれがある。本発明の光学ガラスの熱膨張係数が上記範囲内であれば、そのような問題が発生しにくくなる。
【0069】
本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1280℃以下である。液相温度が当該範囲を満たすことにより、100.6dPa・s以上の液相粘度を達成しやすく、例えば液滴成形を行った場合でも失透が生じにくくなる。
【0070】
本発明の光学ガラスの着色度λ70は、好ましくは600nm以下、より好ましくは550nm以下、さらに好ましくは500nm以下、特に好ましくは480nm以下である。着色度λ70が大きすぎると、可視域または近紫外域における透過率に劣り、各種光学レンズ等に使用することが困難となる傾向がある。
【0071】
着色度λ70を上記範囲に調整するためには、着色成分であるFe、Ni、Cr、Cu等の不純物の混入を抑制する、あるいは、Nb、WO、TiO等の透過率を低下させる成分の含有量を適宜調整することが効果的である。
【0072】
本発明の光学ガラスの1310nm及び1550nmにおける厚さ10mmでの内部透過率は、好ましくは98%以上、より好ましくは98.5%以上、さらに好ましくは99%以上である。1310nm及び1550nmにおける内部透過率が低すぎると、赤外波長域で使用するレンズとしての使用が困難になる傾向がある。
【0073】
本発明の光学ガラスのヌープ硬度(Hk=100)は、好ましくは550以上、より好ましくは600以上、さらに好ましくは650以上である。ヌープ硬度が低すぎると、研磨加工性に劣ったり、表面にキズやカケが生じやすくなる。
【0074】
本発明の光学ガラスの耐候性は、JOGISに準拠した粉末法により評価した場合、耐酸性で2級以上、耐水性で1級であることが好ましい。
【0075】
次に、本発明の光学ガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等を製造する方法を述べる。
【0076】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉中で溶融する。次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得る。得られたプリフォームガラスに研磨加工を施すことにより、所望の形状を有する光ピックアップレンズや撮影用レンズを得ることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
表1〜4は本発明の実施例(No.1〜30)及び比較例(No.31〜34)を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
各試料は次のようにして作製した。
【0084】
まず、表に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1250〜1450℃で2時間溶融した。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、さらにアニール後、各測定に適した試料を作製した。
【0085】
得られた試料について、屈折率(nd、1310nm、1550nm)、アッベ数(νd)、熱膨張係数、ガラス転移点(Tg)、液相温度(TL)、着色度λ70、ヌープ硬度、耐酸性及び耐水性、内部透過率(1310nm、1550nm)を測定した。結果を表1〜4に示す。
【0086】
なお、上記各特性は以下のようにして測定した。
【0087】
屈折率はヘリウムランプのd線(587.6nm)及びLD光源(1310nm、1550nm)に対する測定値で示した。
【0088】
アッベ数は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=[(nd−1)/(nF−nC)]の式から算出した。
【0089】
液相温度は、電気炉で1350℃−0.5時間の条件で試料を再溶融後、温度勾配を設けた電気炉内で16時間保持した後、電気炉から取り出して大気中で放冷し、光学顕微鏡で失透物の析出位置(温度)を求めることで測定した。
【0090】
着色度λ70は次のようにして測定した。分光光度計(株式会社島津製作所製UV−3100)を用いて、光学研磨された厚さ10mm±0.1mmの試料について、200〜800nmの波長域での透過率を0.5nm間隔で測定し、透過率曲線を作製した。透過率曲線において、透過率70%を示す最短波長を着色度λ70とした。
【0091】
熱膨張係数(測定温度範囲:30〜300℃)及びガラス転移点はディラトメーターを用いて測定した。
【0092】
ヌープ硬度は、温度25℃、湿度50%において、マツザワ精機製MXT50を用いて測定を行なった。具体的には、ガラス試料表面に荷重100gの圧子を15秒押圧し、圧痕の対角線の長さに基づき、ヌープ硬度の算出を行った。
【0093】
耐酸性及び耐水性は、JOGISに準拠した粉末法により測定を行った。
【0094】
内部透過率は、まず分光光度計(株式会社島津製作所製UV−3100)を用いて、光学研磨された厚さ5mm±0.1mm及び10mm±0.1mmの各試料について、表面反射損失を含む透過率を0.5nm間隔で測定し、得られた測定値から波長1310nm及び1500nmにおける厚さ10mmでの内部透過率を算出した。
【0095】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜30の各試料は、所望の光学定数を有しつつ、ガラス転移点が649℃以上、液相温度が1240℃以下、着色度λ70が463nm以下、熱膨張係数が74〜88×10−7/℃、ヌープ硬度が670以上、耐酸性、耐水性ともに1級、波長1310nm及び1550nmにおける内部透過率がそれぞれ99.6%以上、99.7%以上であった。
【0096】
一方、比較例であるNo.31及び32の試料は、ガラス転移点が450℃以下と低く、熱膨張係数が100×10−7/℃以上と高く、ヌープ硬度が370以下と低かった。またNo.31の試料は耐酸性が4級、No.32の試料は耐酸性が5級、耐水性が2級と耐候性に劣っていた。No.33及び34の試料は、屈折率ndが1.951以下と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の光学ガラスは、各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラ、一般のカメラの撮影用レンズ、プロジェクタ用レンズ、光通信用レンズ等に好適である。