(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記油膜厚さ評価部で演算された油膜厚さがそのしきい値を超えた場合及び/又は前記計数汚染度評価部で演算された計数汚染度がそのしきい値を超えた場合に、前記レシプロ式機械装置の点検を促す警報を発する状態評価部を有することを特徴とする請求項1記載のレシプロ式機械装置状態監視システム。
前記油膜厚さ評価工程で演算された油膜厚さがそのしきい値を超えた場合及び/又は前記計数汚染度評価工程で演算された計数汚染度がそのしきい値を超えた場合に前記レシプロ式機械装置の点検を促す警報を発する状態評価工程を有することを特徴とする請求項3記載のレシプロ式機械装置状態監視方法。
前記油膜厚さ評価工程で演算された油膜厚さがそのしきい値を超えた場合及び/又は前記計数汚染度評価工程で演算された計数汚染度がそのしきい値を超えた場合に前記レシプロ式機械装置の点検を促す警報を発する状態評価工程を実行することを特徴とする請求項5記載のレシプロ式機械装置状態監視プログラム。
【背景技術】
【0002】
小型漁船をはじめとして製鉄所や化学プラント等の主機関、発電機、コンプレッサに多く採用されるレシプロ式の機械装置は、定期検査等が実施されるものの、その運転状態や経年劣化等から故障を生じることがあり、その状態監視のためにこれまで様々な技術が開発されてきた。
例えば、特許文献1に開示される技術は、ディーゼル機関のピストンリングの摺動状態、燃焼状態及びシリンダ投入空気状態に関連する複数の計測値毎に状態判定を行ってそれぞれの状態指数fを算出し、これに基づいて最適経済運転に必要となるシリンダに対する潤滑油の注油率の推奨値、燃料噴射時期の推奨値及びシリンダ投入空気温度の推奨値を算出して、この推奨値に見合った制御信号を制御装置からディーゼル機関へ出力するというものである。
このようなディーゼル機関の状態監視運転方法によれば、それぞれの推奨値に基づいて経済的運転を行うことができ、運転コスト低減を図ることが可能である。
【0003】
また、特許文献2には、「機械装置用潤滑油の劣化診断装置、機械装置用潤滑油の劣化診断方法」という名称で、潤滑油の劣化をより早期に検出することができる機械装置用潤滑油の劣化診断装置、機械装置用潤滑油の劣化診断方法に関する発明が開示されている。この特許文献2に開示される発明は、機械装置から排出される天然成分由来の潤滑油の一部を抜き出す潤滑油分取ラインを備えつつ、その潤滑油中に含まれる過酸化物を測定する潤滑油性状計測装置を備えて、その測定結果から機械装置の運転制御の判定を行う技術である。
【0004】
さらに、特許文献3には、「機器設備の監視システム」という名称で摺動部材の構成部品の摩耗や破損に起因した異常の有無を、その摺動部材を分解せずに通常の使用状態のままで判定可能な装置の開示がある。具体的な技術内容としては、摺動部材の構成部材に組み付けられて摺動部材の摺動動作時の状態量を検出するセンサユニットとそのセンサユニットの出力を処理して分析するマイクロコンピュータを備えている。また、センサユニットは、温度、振動変位、振動速度、振動加速度、力、歪、音響、アコースティックエミッション、超音波、回転速度のうち少なくとも1つ以上の検出を可能とするものである。
このように構成される機器設備の監視システムにおいては、前記の状態量のうち少なくとも1つ以上の検出が可能になるため、回転体や摺動部材を含む機械装置の状態を確実に監視することができるとともに、回転体や摺動部材を含む機械設備の欠陥又は異常を確実に検査することが可能である。
【0005】
一方、非特許文献1には、「主機関の主軸受けの最適な状態監視技術」として、ディーゼル主機関の主軸受の状態監視方法に関し、模擬試験装置を作成し、外力によって軸とすべり軸受が流体潤滑から境界潤滑、焼付きに至るまでの過程を作り出し、その過程における4つの状態量(温度、振動加速度、電圧(軸と軸受間)、金属摩耗粉)を計測及び分析し、各診断方法の得失を明らかにしている。
【0006】
また、非特許文献2では、「不特定異常音によるディーゼル機関の即時異常診断システム」としてディーゼル機関の機関室内における騒音を監視して、正常時の音と比較することで異常音であるか否かを判断する技術が開示されている。
【0007】
さらに、非特許文献3には、「2サイクルディーゼル機関の振動信号を用いた機関診断法」として、船舶の主機関において発生する異常振動や異常音が故障や事故の前触れとなることが経験的に知られていることを前提にして、正常運転時における振動や音の経年変化を測定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、ディーゼル機関におけるピストンリングの摺動状態等に関する計測値から状態指数fを算出するものの、あくまで最適経済運転という観点からのものであり、異常を発見するという観点からの測定ではないので、この発明をそのまま初期異常等の発見に対する技術に応用することができないという課題があった。
【0011】
また、特許文献2に開示された発明においては、機械装置に用いられる潤滑油の劣化診断を可能とするものであるが、その劣化の判断には潤滑油に含まれる過酸化物を測定することが開示されているものの、機械装置における異常の主要因となるピストンとシリンダの直接接触という現象には関連性が薄く、レシプロ式の機械装置の摺動部における初期異常の発生の判断には適用し難いという課題があった。
【0012】
さらに、特許文献3に開示された発明においては、複数のセンサを備えたセンサユニットを用いて、温度、振動変位、振動速度、振動加速度、力、歪、音響、アコースティックエミッション、超音波、回転速度のうち少なくとも1つ以上の検出を可能とするものの、それらの状態量の正常時の基準データと独立に比較することで異常の有無の判定を行うものであり、それぞれの状態量との関連性に関しては全く考慮されておらず、かえってくい違い等が発生して精度の向上には必ずしもつながらないという課題があった。
【0013】
非特許文献1に開示される技術では、ディーゼル機関の主軸受の状態監視方法として4つの状態量に関する計測と分析が開示されているが、これらもそれぞれ独立の状態量の測定であり、複数の状態量の関連性を考慮しながらの状態監視は行うことができないという課題があった。
【0014】
非特許文献2に開示される技術では、機関全体から放出される放射音をマイクロホンで測定するため、異常音として検出される音は低周波音であり、この場合の異常は既に進んでいることが考えられ、予防的に初期の段階で検出される初期異常に伴う音を検出することが困難という課題があった。
【0015】
非特許文献3に開示される技術では、正常時における測定に関する技術であることから、機関に過負荷が作用した場合や各部に損傷が発生するような事象について検出することが必ずしも可能ではないという課題があった。
【0016】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、小型漁船機関をはじめとして動力機関として採用されるレシプロ式機械装置の摺動部近辺等に超音波振動測定可能なセンサを設置することで、特にピストンとシリンダ内面との直接接触の初期状態に発生する超音波振動を測定しながら、この超音波振動波形を処理して、予め得ておく潤滑油の劣化に関係する油膜厚さと潤滑油性状という2つの状態量と超音波振動波形との関連性から簡易で高精度な状態監視を行うレシプロ式機械装置状態監視システムとその方法とそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明に係るレシプロ式機械装置状態監視システムにおいては、レシプロ式機械装置の潤滑油の劣化度を振動波計測によって評価することで前記レシプロ式機械装置の状態監視をするシステムであって、前記レシプロ式機械装置の振動波を計測する超音波センサと、前記超音波センサで受信された振動波を処理して振動波形信号を得る周波数測定部と、前記周波数測定部で得られた振動波形信号を高速フーリエ変換(以下、高速フーリエ変換をFFTと呼ぶこともある)処理してスペクトル信号とそのパワースペクトル信号を生成する高速フーリエ変換処理部と、前記高速フーリエ変換処理部で得られたパワースペクトル信号を周波数積分してパワースペクトル面積値を演算するパワースペクトル積分処理部と、前記パワースペクトル面積値と前記潤滑油の油膜厚さの関係に係る関数を用いて油膜厚さを演算する油膜厚さ評価部と、前記パワースペクトル面積値と前記潤滑油の計数汚染度の関係に係る関数を用いて計数汚染度を演算する計数汚染度評価部と、を有
し、前記潤滑油の温度を計測する温度センサを有し、前記油膜厚さ評価部は、温度補正して前記油膜厚さを演算することを特徴とする。
上記構成のレシプロ式機械装置状態監視システムにおいては、超音波センサで受信された振動波のパワースペクトル信号を周波数で積分して得られるパワースペクトル面積値から、潤滑油の劣化度の指標としての油膜厚さと計数汚染度という2つの状態量を評価することでレシプロ式機械装置の状態を監視するという作用を有する。パワースペクトル面積値と油膜厚さ及び計数汚染度の関係は予め試験等によって求めておき、これを関数化しておく。すなわち、油膜厚さと計数汚染度をパワースペクトル面積値の関数として表現しておくことで、これらの関数が、パワースペクトル面積値という1つの状態量から潤滑油の異なる2つの状態量を評価するように作用する。
また、温度センサは油膜厚さ評価部に対して温度情報を供給するように作用し、油膜厚さ評価部はその温度情報を基に、油膜厚さの評価に用いられる粘性を補正するように作用する。
発明者らは、レシプロ式機械装置の摺動部の潤滑状態(油膜厚さ)と潤滑油性状(計数汚染度)の両方がピストンとシリンダの直接接触等の原因となること、そして、この直接接触等の初期の異常時の段階で発する高周波数振動と油膜厚さ及び計数汚染度の両方に関係があることを鋭意研究の結果突き止め、これを定量的に評価している。
【0018】
請求項2記載の発明に係るレシプロ式機械装置状態監視システムは、請求項1記載のレシプロ式機械装置状態監視システムにおいて、前記油膜厚さ評価部で演算された油膜厚さがそのしきい値を超えた場合及び/又は前記計数汚染度評価部で演算された計数汚染度がそのしきい値を超えた場合に、前記レシプロ式機械装置の点検を促す警報を発する状態評価部を有することを特徴とする。
上記構成のレシプロ式機械装置状態監視システムにおいては、請求項1に記載の発明に作用に加えて、状態評価部は、油膜厚さと計数汚染度がそれらのしきい値を超えた場合に警報を発することでレシプロ式機械装置のユーザに注意を喚起するように作用する。また、油膜厚さと計数汚染度という2つの状態量に対して、しきい値の設定を行うことが可能であり、しきい値の設定について裕度を備えている。
【0020】
請求項
3記載の発明に係るレシプロ式機械装置状態監視方法は、レシプロ式機械装置の潤滑油の劣化度を振動波計測によって評価することで前記レシプロ式機械装置の状態監視をする方法であって、前記レシプロ式機械装置の振動波を超音波センサによって計測する振動波計測工程と、前記超音波センサで受信された振動波を処理して振動波形信号を得る周波数測定工程と、前記周波数測定工程で得られた振動波形信号を高速フーリエ変換処理してスペクトル信号とそのパワースペクトル信号を生成する高速フーリエ変換処理工程と、前記高速フーリエ変換処理工程で得られたパワースペクトル信号を周波数積分してパワースペクトル面積値を演算するパワースペクトル積分処理工程と、前記パワースペクトル面積値と前記潤滑油の油膜厚さの関係に係る関数を用いて油膜厚さを演算する油膜厚さ評価工程と、前記パワースペクトル面積値と前記潤滑油の計数汚染度の関係に係る関数を用いて計数汚染度を演算する計数汚染度評価工程と、を有
し、前記油膜厚さ評価工程は、温度センサを用いて前記潤滑油の温度を計測し、この温度センサで得られた潤滑油の温度を用いた温度補正を行って前記油膜厚さを演算することを特徴とする。
上記構成のレシプロ式機械装置状態監視方法においては、請求項1に記載されるレシプロ式機械装置状態監視システムを方法発明として捉えたものであり、その作用は請求項1記載のレシプロ式機械装置状態監視システムと同様である。
【0021】
請求項
4記載の発明に係るレシプロ式機械装置状態監視方法は、請求項
3記載のレシプロ式機械装置状態監視視方法において、前記油膜厚さ評価工程で演算された油膜厚さがそのしきい値を超えた場合及び/又は前記計数汚染度評価工程で演算された計数汚染度がそのしきい値を超えた場合に前記レシプロ式機械装置の点検を促す警報を発する状態評価工程を有することを特徴とするものである。
上記構成のレシプロ式機械装置状態監視方法においては、請求項
2に記載されるレシプロ式機械装置状態監視システムを方法発明として捉えたものであり、その作用は請求項2記載のレシプロ式機械装置状態監視システムと同様である。
【0023】
請求項
5記載の発明に係るレシプロ式機械装置状態監視プログラムは、コンピュータによって、レシプロ式機械装置の潤滑油の劣化度を振動波計測で評価して前記レシプロ式機械装置の状態監視をするために実行されるプログラムであって、前記レシプロ式機械装置の振動波を超音波センサによって計測する振動波計測工程と、前記超音波センサで受信された振動波を処理して振動波形信号を得る周波数測定工程と、前記周波数測定工程で得られた振動波形信号を高速フーリエ変換処理してスペクトル信号とそのパワースペクトル信号を生成する高速フーリエ変換処理工程と、前記高速フーリエ変換処理工程で得られたパワースペクトル信号を周波数積分してパワースペクトル面積値を演算するパワースペクトル積分処理工程と、前記パワースペクトル面積値と前記潤滑油の油膜厚さの関係に係る関数を用いて油膜厚さを演算する油膜厚さ評価工程と、前記パワースペクトル面積値と前記潤滑油の計数汚染度の関係に係る関数を用いて計数汚染度を演算する計数汚染度評価工程と、を実行
し、前記油膜厚さ評価工程は、温度センサを用いて前記潤滑油の温度を計測し、この温度センサで得られた潤滑油の温度を用いた温度補正を行って前記油膜厚さを演算することを特徴とする。
上記構成のレシプロ式機械装置状態監視プログラムにおいては、請求項
3に記載されるレシプロ式機械装置状態監視方法をプログラム発明として捉えたものであり、その作用は請求項
3記載のレシプロ式機械装置状態監視方法と同様である。
【0024】
請求項
6記載の発明に係るレシプロ式機械装置状態監視プログラムは、請求項
5に記載されたレシプロ式機械装置状態監視プログラムにおいて、前記油膜厚さ評価工程で演算された油膜厚さがそのしきい値を超えた場合及び/又は前記計数汚染度評価工程で演算された計数汚染度がそのしきい値を超えた場合に前記レシプロ式機械装置の点検を促す警報を発する状態評価工程を実行することを特徴とする。
上記構成のレシプロ式機械装置状態監視プログラムにおいては、請求項
4に記載されるレシプロ式機械装置状態監視方法をプログラム発明として捉えたものであり、その作用は請求項
4記載のレシプロ式機械装置状態監視方法と同様である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1記載のレシプロ式機械装置状態監視システムによれば、装置外部に設置される超音波センサで受信した振動波から、初期異常の発生原因である潤滑油の劣化度の指標としての油膜厚さと計数汚染度の2つの状態量を評価可能であるので、初期異常の予兆に伴う高周波振動と原因の潤滑油の劣化度の関係を把握しながら、レシプロ式機械装置の状態を監視することが可能である。すなわち、レシプロ機械装置のピストンとシリンダの直接接触から生じる高周波振動を超音波センサで測定するものの、その直接接触の原因となる潤滑油劣化の指標を介して評価することで、振動波のみを測定してレシプロ式機械装置の状態監視を行う場合よりも、より振動現象の把握が容易となるのである。
また、潤滑油の劣化度の指標として油膜厚さと計数汚染度という異なる2つの状態量を独立に評価可能であることから、より精度良く状態を監視することができる。
そして、温度センサによって潤滑油の温度に関する情報を得ることが可能であるので、その粘性をより精度良く評価することが可能である。従って、油膜厚さに関する評価の精度も高くすることができる。
さらに、超音波センサは機械装置の外部に設置可能であることから、既存のレシプロ式機械装置にも容易に設置することが可能で導入コストが低いので、費用対効果の点からも有利である。
【0027】
本発明の請求項2記載のレシプロ式機械装置状態監視システムによれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、油膜厚さあるいは計数汚染度に対するしきい値を超えた場合に警報を発することで、初期異常が発生している段階で注意を喚起することが可能であり、異常の拡大や故障を抑止することができる。
また、油膜厚さと計数汚染度という2つの状態量に対して、独立にしきい値の設定を行うことが可能であるので、レシプロ式機械装置個々の性質を考慮しながらいずれかに重きを置くような設定も可能であり、状態監視の自由度が高い。
【0029】
本発明の請求項
3記載のレシプロ式機械装置状態監視方法は請求項1に記載のレシプロ式機械装置状態監視システムを方法発明として捉えた発明であるので、その効果は請求項1に記載の発明と同様である。
【0030】
本発明の請求項
4記載のレシプロ式機械装置状態監視方法は請求項2に記載のレシプロ式機械装置状態監視システムを方法発明として捉えた発明であるので、その効果は請求項2に記載の発明と同様である。
【0032】
本発明の請求項
5記載のレシプロ式機械装置状態監視プログラムは請求項
3に記載のレシプロ式機械装置状態監視方法をソフトウェア発明として捉えた発明であるので、その効果は請求項
3に記載の発明と同様である。
【0033】
本発明の請求項
6記載のレシプロ式機械装置状態監視プログラムは請求項
4に記載のレシプロ式機械装置状態監視方法をソフトウェア発明として捉えた発明であるので、その効果は請求項
4に記載の発明と同様である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の第1の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムについて、
図1乃至
図3を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムのシステム構成図であり、
図2は本実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムにおける信号処理のフローチャートである。さらに、
図3は本発明の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムの成立性を評価するための試作装置を含む試験システム構成図である。
【0037】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム1は、超音波振動センサ2、振動周波数測定部3、フィルタ処理部4、高速フーリエ変換処理部5、パワースペクトル積分処理部6、油膜厚さ評価部7、計数汚染度評価部8、状態評価部9及び出力部10と、測定信号や処理された信号、更には評価のためのしきい値を格納する4つのデータベース、具体的には、振動波形データベース11、スペクトルデータベース12、指標値データベース13及び評価データベース14を備えている。
振動波形データベース11には振動波形信号15及びフィルタ処理後振動波形信号16が読み出し可能に格納され、スペクトルデータベース12には、振動波形スペクトル信号17、振動波形パワースペクトル信号18及びパワースペクトル面積値19が格納されている。指標値データベース13には油膜厚さ対パワースペクトル面積値関数20、計数汚染度対パワースペクトル面積値関数21、油膜厚さ値22及び計数汚染度23が格納されており、評価データベース14には油膜厚さしきい値24、計数汚染度しきい値25及び評価結果26が格納されている。
これらの構成要素からなる動的設備の状態監視システム1において、超音波振動センサ2は1つのみならず複数設けてもよく、また、振動周波数測定部3から出力部10は個別に設けてもコンピュータのように汎用性のある処理装置を用いて機能的に実現されてもよい。
【0038】
次に
図3に示される試験システム構成図の説明を行う。
図3において、往復摺動摩擦試験機30の荷重部31によって、その下端に設置されるピストン部32で模擬されるレシプロ式機械装置のピストンに対して図中に矢印Xで示される方向へ荷重をかける。また、供試体44を図中矢印Yで示される方向へ摺動させて、発生する高周波振動を超音波振動センサ37によって測定している。供試体44はレシプロ式機械装置のシリンダライナーを模擬している。
ピストン部32へは、保温が可能なオイルバス33に貯留された潤滑油が、潤滑油圧送用ポンプ35や潤滑油供給ライン34,36を介して供給される。
超音波振動センサ37で検出された高周波振動は、センサ信号ケーブル38を介して信号増幅器39に送信されて信号増幅され、信号増幅器39から信号ケーブル40を介してA/D変換器41でA/D変換され、A/D変換器41から信号ケーブル42を介して解析用コンピュータ43に送信されて処理される。なお、
図3に示される信号増幅器39とA/D変換器41は、
図1において直接的には記載されていないものの、振動周波数測定部3あるいはフィルタ処理部4に含めることができるものである。また、解析用コンピュータ43によって処理される内容は、
図1におけるフィルタ処理部4から出力部10が行う処理内容と同等である。
次に、この往復摺動摩擦試験機30を用いて実施したレシプロ式機械装置状態監視システムの成立性試験の条件と実施要領について説明する。
オイルバス33は潤滑油温度が60℃、90℃、120℃、150℃の4条件となるように設定した。潤滑油には新日本石油株式会社(現JX日鉱日石エネルギー株式会社)製無添加タービンオイル46(ISO粘度グレード46)を使用した。
オイルバス33で油温を設定し、潤滑油はボア径0.8μmのフィルタでろ過した新油を使用した。潤滑油圧送用ポンプ35による潤滑油流量は約17.4cc/分となるように調節した。ピストン部32には荷重部31による鉛直方向5455g重の荷重が載荷されている。また、その状態で往復摺動摩擦試験機30では、荷重部31は
図3中の矢印Xの方向に駆動し、レシプロ式機械装置を模した供試体44は、
図3中の矢印Yの方向にピストンのストローク20mm、摺動速度150rpmで摺動する。このピストン部32は、実際のエンジンのピストンとピストンリングを用いて製作され、供試体44は、実際のエンジンのシリンダライナーを用いて製作されており、より実機条件に近い状態で試験を実施している。
高周波振動の計測時間(潤滑油の採取までの時間)は28.75分としたので、この供試体44におけるピストンの総往復摺動回数は、150rpmに28.75分を掛け合わせて4312.5回となる。潤滑油は約950−1600ccの量を採取した。
以下、第1の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム1の構成について
図1乃至
図3を参照しながら説明する。
【0039】
図1において、超音波振動センサ2は、高周波振動を測定可能なセンサであって、レシプロ式機械装置の摺動部近辺に接触式もしくは非接触式に設置される。この超音波振動センサ2は、レシプロ式機械装置に含まれるピストン(シールリング)とシリンダ内面のような摺動部同士の直接接触の初期状態に発生する高周波振動を測定するものである(
図2におけるステップS1)。なお、接触式の超音波振動センサ2としては、AE(アコースティック・エミッション)センサや加速度ピックアップがあり、非接触式の超音波振動センサ2としては、高周波ハイドロホン等がある。
振動周波数測定部3は、この超音波振動センサ2からの高周波振動波を処理して振動波形信号15を得る(
図2におけるステップS1)。この振動周波数測定部3で生成された振動波形信号15は、振動周波数測定部3によって振動波形データベース11に読み出し可能に格納される(
図2におけるステップS1)。振動周波数測定部3のサンプリング周波数としては例えば500kHzがある。
図3に示される試験システムで得られた振動波形信号を
図4に示す。この
図4に示される振動波形信号の取得の際のサンプリング周波数も500kHzである。
【0040】
振動周波数測定部3で生成された振動波形信号15は、フィルタ処理部4によって振動周波数測定部3から直接又は振動波形データベース11から読み出されて入力され、フィルタ処理される(
図2におけるステップS2)。
フィルタ処理部4はいわゆるローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせたものであり、5kHzから200kHzの領域で後段の信号処理が可能なように設定されている。もちろん、これらの数値は一例であるので、実際に用いられるレシプロ式機械装置の種類や容量(規模)などに合せて適宜設定するとよい。このフィルタ処理部4は必ずしも必要ではないと考えられるが、レシプロ式機械装置状態監視システム1による初期異常という小さな予兆を精度高く監視するためには、設けておくことが望ましい。
フィルタ処理部4で生成されたフィルタ処理後振動波形信号16は、フィルタ処理部4によって振動波形データベース11に読み出し可能に格納される(
図2におけるステップS2)。
フィルタ処理部4で生成されたフィルタ処理後振動波形信号16は、あるいはフィルタ処理部4を備えていない場合は、振動周波数測定部3で生成された振動波形信号は、高速フーリエ変換処理部5によってフィルタ処理部4あるいは振動周波数測定部3から直接又は振動波形データベース11から読み出され、高速フーリエ変換処理部5に入力される(
図2におけるステップS3)。
【0041】
高速フーリエ変換処理部5では、フィルタ処理後振動波形信号16(あるいは振動波形信号15)を高速フーリエ変換処理して振動波形スペクトル信号17を生成する(
図2におけるステップS3a)。さらに、高速フーリエ変換処理部5では、この振動波形スペクトル信号17の実効値(二乗平均値)を演算して、振動波形パワースペクトル信号18を得る(
図2におけるステップS3b)。この振動波形パワースペクトル信号18は、スペクトル毎にその強度を信号として含んでいるため、摺動部から発生する直接接触の初期状態に発生する高周波振動を解析する本願発明の実施の形態では適していると考えられる。
図3に示される試験システムで得られた振動波形パワースペクトル信号を
図5に示す。
図5に示される振動波形パワースペクトル信号18も、前述した5−200kHz間の領域で解析されている。
この高速フーリエ変換処理部5で生成された振動波形スペクトル信号17及び振動波形パワースペクトル信号18は、高速フーリエ変換処理部5によってスペクトルデータベース12に読み出し可能に格納される(
図2におけるステップS3a,S3b)。
なお、
図2に示されるとおり、ステップS1からステップS3a,S3bまでを繰り返し実施して平均値を取り、SN比の向上を図ってもよいし、前述のとおり複数の超音波振動センサ2を設けてそれぞれから検出される振動波形信号を平均化処理することでSN比の向上を図ってもよい。
【0042】
パワースペクトル積分処理部6は、高速フーリエ変換処理部5で生成された振動波形パワースペクトル信号18を周波数で積分して面積値を演算する(
図2におけるステップS4)。振動波形パワースペクトル信号18は振動周波数毎のエネルギー値を示していることから、この面積値は処理された周波数帯域全体のエネルギー値を意味することになる。本願では、この面積値をパワースペクトル面積値19と呼ぶ。
パワースペクトル積分処理部6で得られたパワースペクトル面積値19は、パワースペクトル積分処理部6によってスペクトルデータベース12に読み出し可能に格納される(
図2におけるステップS4)。
【0043】
油膜厚さ評価部7は、予め指標値データベース13に格納される油膜厚さ対パワースペクトル面積値関数20を読み出して、これにパワースペクトル積分処理部6で処理して得られた振動波形パワースペクトル信号18を入力して、油膜厚さを演算し評価に供するものである(
図2におけるステップS5)。
そもそも油膜厚さは、レシプロ式機械装置内の摺動面における潤滑油の膜厚さであり、これは弾性流体潤滑理論を適用することで求められることが知られている。具体的には、油膜厚さをhoとする式(1)で示されるGrubinの式を用いることが可能である。
【0045】
また、この式(1)中の接触部位での平均転がり回転速度の式に含まれるμo(油の粘度)は、次の式(2)で示されるWaltherの式に含まれる動粘度(ν)を用いることで得ることができる。なお、式(2)中のmとbの固有定数は、例えば潤滑油の仕様に表記されている油温40℃と100℃の潤滑油粘度から求めることが可能である。
【0047】
これらの式(1)、(2)を用いることで油膜厚さを求めることができる。
発明者らは、
図3に示される試験システムを用いて直接接触の初期状態で発生する超音波振動波形を測定してパワースペクトル面積値を求め、その際の油膜厚さを演算して、発生した超音波振動波形のパワースペクトル面積値と油膜厚さの関係を求めた。
その結果が、
図6に示されるグラフである。
図6の横軸はピストンの1摺動当たりの出力(電圧)[V/(Nh/2)]を示しており、縦軸は油膜厚さ[mm]を示している。この出力の単位について説明を加える。Nはレシプロ式機械装置の単位時間当たりの回転数[rpm]を表し、hは回転時間[分]を表している。従って、新品のオイルに交換してから、レシプロ式機械装置の総往復摺動回数(経過時間)を表す指標が[N・h]となり、計数汚染度は総往復摺動回数に比例して変化するため、これを1摺動当たりとして定量化するためにNhで除している。また、実際の超音波振動の出力測定ではレシプロ式機械装置1摺動当たり(1回転の1/2分)の電圧を測定していることから、1/2で除している。
図6によれば超音波振動波形のパワースペクトル面積値が増加するにつれて油膜厚さは減少していることが理解される。しかも、その減少は0.002から0.005までの範囲で急激に変化していることが理解できる。
このような関係を関数化して油膜厚さ対パワースペクトル面積値関数20として指標値データベース13に格納しておくことで、レシプロ式機械装置状態監視システム1においては、超音波振動センサ2で測定した振動波形信号15を用いて演算処理することで、油膜厚さ評価部7で油膜厚さ値22を求めることができるのである。
この油膜厚さ評価部7で生成された油膜厚さ値22は、油膜厚さ評価部7によって読み出し可能に分離振動波形データベース13に格納される(
図2におけるステップS5)。
なお、本第1の実施の形態では、後程説明する第2の実施の形態で付加される温度センサを備えていないので、式(2)中の潤滑油の絶対温度Tには正常時の仕様値や設計値、あるいは概略値を適宜選択して入力するとよい。
【0048】
一方、計数汚染度評価部8は、予め指標値データベース13に格納される計数汚染度対パワースペクトル面積値関数21を読み出して、これにパワースペクトル積分処理部6で処理して得られた振動波形パワースペクトル信号18を入力して、計数汚染度を演算して評価に供するものである(
図2におけるステップS6)。
計数汚染度は潤滑油100ml中の摩耗粒子の数で定義され、レシプロ式機械装置内部の摩耗進行度を評価することが可能な状態量である。なお、この計数汚染度を用いた潤滑油分析法自体は既存の技術である。
発明者らは、前述の油膜厚さと同様に、
図3に示される試験システムを用いて超音波振動波形のパワースペクトル面積値と計数汚染度の関係を求めた。
その結果が、
図7に示されるグラフである。
図7の横軸は計数汚染度[個数/100ml]を示しており、縦軸はピストンの1摺動当たりの出力(電圧)[V/(Nh/2)]を示している。
図7によれば計数汚染度が高まるにつれて超音波振動波形のパワースペクトル面積値が増加していることが理解される。この増加の傾斜は計数汚染度が2000を超えると徐々に急となり、データのばらつきも大きくなっていることがわかった。
このような関係を関数化して計数汚染度対パワースペクトル面積値関数21として指標値データベース13に格納しておくことで、レシプロ式機械装置状態監視システム1においては、超音波振動センサ2で測定した振動波形信号15を用いて演算処理することで、計数汚染度評価部8で計数汚染度23を求めることができるのである。
計数汚染度評価部8で生成された計数汚染度23は、計数汚染度評価部8によって読み出し可能に指標値データベース13に格納される(
図2におけるステップS6)。
【0049】
この計数汚染度評価部8の他、油膜厚さ評価部7を備えるレシプロ式機械装置状態監視システム1であれば、操作しているユーザは、外部から超音波振動センサ2を用いて超音波振動波形を測定し、レシプロ式機械装置の内部の潤滑油の劣化度を油膜厚さ値22及び計数汚染度23を介して把握することができ、その結果レシプロ式機械装置に発生する初期異常の予兆を評価することができる。油膜厚さ値22は潤滑油の粘性に基づく状態量であり、計数汚染度23は摺動部における金属摩耗粉に基づく状態量であることから、これら2つの状態量は異なる現象に関する指標でありながら、いずれも潤滑油劣化度を評価可能な指標でもある。従って、外部から測定可能な初期異常による直接接触から発生する超音波振動を捉えつつ、この超音波振動を発生させる最も大きな要因である潤滑油の劣化度を異なる2つの指標を用いて独立に評価することで、レシプロ式機械装置の状態を簡単かつ高い精度で監視することが可能である。
【0050】
図8は、
図6と
図7のグラフから求めた油膜厚さと計数汚染度の関係を示すグラフである。すなわち、
図3に示される試験システムを用いて、供試体44から発生する超音波振動波形のパワースペクトル面積値19と油膜厚さ22の関係及びパワースペクトル面積値19と計数汚染度23の関係を求め、これらのパワースペクトル面積値19を介して油膜厚さ値22と計数汚染度23の関係を求めたグラフである。このグラフから計数汚染度23が増加している状態である方が油膜厚さ値22が薄くなる状態に近いことが理解される。油膜厚さ値22が薄くなるほど摺動部での直接接触が増えて金属摩耗粉が潤滑油内に溶解すると考えられる。
なお、本実施の形態では油膜厚さ値22を演算する油膜厚さ評価部7と計数汚染度23を演算する計数汚染度評価部8を別個に設けたが、潤滑油劣化度評価部などのようなものを1つ設けてパワースペクトル面積値19を用いて、油膜厚さ値22と計数汚染度23を同時に演算してもよい。その場合には、例えば超音波振動センサ2で測定された振動波形信号から得られたパワースペクトル面積値と油膜厚さと計数汚染度の関係関数をまとめて3次元で表現することも考えられる。
【0051】
状態評価部9は、油膜厚さ評価部7及び計数汚染度評価部8で得られた油膜厚さ値22と計数汚染度23に対して、予め評価データベース14に油膜厚さしきい値24と計数汚染度しきい値25を格納しておき、これらと比較し、これらのしきい値を超えた場合には、レシプロ式機械装置に初期異常が発生していると評価するものである(
図2におけるステップS7)。状態評価部9による評価結果26は、油膜厚さしきい値24や計数汚染度しきい値25の設定による。すなわち、しきい値の大小によって初期異常の程度を選択することが可能であり、さらに、これら2つのしきい値を組み合わせて評価することも可能である。これらのしきい値はレシプロ式機械装置の種類や用途、容量(規模)あるいは評価目的に応じて適宜設定されるとよい。また、組み合わせる場合も同様である。
この評価結果26は状態評価部9によって読み出し可能に評価データベース14に格納される(
図2におけるステップS7)。
【0052】
出力部10は、これまで説明した振動周波数測定部3から状態評価部9までのレシプロ式機械装置状態監視システム1の構成要素で処理された信号やその処理に用いられた信号や値、処理によって生成された信号を出力可能なものである(
図2におけるステップS8)。具体的にはCRT、液晶、プラズマあるいは有機ELなどによるディスプレイ装置やタブレット、あるいはプリンタ装置などの表示装置、さらには外部装置への伝送を行うためのトランスミッタなどの発信装置などが考えられる。もちろん、外部装置への伝送のための出力に対するインターフェースのようなものであってもよい。出力の際には、出力部10は、
図1に記載されるレシプロ式機械装置状態監視システム1の構成要素(超音波振動センサ2、振動周波数測定部3−状態評価部9)から直接読み出してもよいし、レシプロ式機械装置状態監視システム1のそれぞれのデータベース(振動波形データベース11、スペクトルデータベース12、指標値データベース13、評価データベース14)から読み出してもよい。
【0053】
本実施の形態においては、レシプロ式機械装置状態監視システム1を
図1乃至
図3を参照して説明したが、他の実施の形態としては、レシプロ式機械装置状態監視方法とその方法をコンピュータで実行するためのプログラムとして捉えたレシプロ式機械装置状態監視プログラムがある。
これらの他の実施の形態の内容については
図2に記載されるステップ(工程)の流れに示すとおりである。
すなわち、ステップS1からステップS8までのステップを実行することでレシプロ式機械装置状態監視方法に関する実施の形態となり、さらに、これらの工程をコンピュータで実行させることでレシプロ式機械装置状態監視プログラムとなるのである。以下に具体的に説明するが、各工程における処理内容の説明については、既にレシプロ式機械装置状態監視システム1の説明の際に実施明しているので省略する。
【0054】
具体的には、
図2に示されるように振動波形測定としてのステップS1では、超音波振動センサ2及び振動周波数測定部3というハードウェアを用いて、振動波形信号15を得て振動波形データベース11に読み出し可能に格納する。
【0055】
ステップS2では、フィルタ処理部4が、振動周波数測定部3から直接又は振動波形データベース11から振動波形信号15を読み出して、フィルタ処理して、フィルタ処理後振動波形信号16を得て、同じく振動波形データベース11に読み出し可能に格納する。但し、前述のとおりこのフィルタ処理の工程は必ずしも必要ではないが、レシプロ式機械装置状態監視方法又はそのプログラムによる初期異常の有無の評価の精度を向上させるためには設けておくことが望ましい。
【0056】
ステップS3aでは、高速フーリエ変換処理部5が、フィルタ処理部4から直接又は振動波形データベース11からフィルタ処理後振動波形信号16を読み出して、高速フーリエ変換処理して、振動波形スペクトル信号17を得て、スペクトルデータベース12に読み出し可能に格納する。
ステップS3bでは、高速フーリエ変換処理部5が、振動波形スペクトル信号17の実効値(二乗平均値)を演算して、振動波形パワースペクトル信号18を得て、スペクトルデータベース12に読み出し可能に格納する。
前述のとおり、ステップS1からステップS3を所望の回数繰り返し実施して平均値を取り、SN比の向上を図るとよい。
【0057】
ステップS4では、パワースペクトル積分処理部6が、高速フーリエ変換処理部5から直接又はスペクトルデータベース12から振動波形パワースペクトル信号18を読み出して周波数で積分してパワースペクトル面積値19を演算し、スペクトルデータベース12に読み出し可能に格納する。
【0058】
ステップS5では、油膜厚さ評価部7が、パワースペクトル積分処理部6から直接又はスペクトルデータベース12からパワースペクトル面積値19を読み出しつつ、指標値データベース13から油膜厚さ対パワースペクトル面積値関数20を読み出して、これにパワースペクトル面積値19を代入して油膜厚さ値22を得て、指標値データベース13に読み出し可能に格納する。
【0059】
ステップS6では、計数汚染度評価部8が、パワースペクトル積分処理部6から直接又はスペクトルデータベース12からパワースペクトル面積値19を読み出しつつ、指標値データベース13から計数汚染度対パワースペクトル面積値関数21を読み出して、これにパワースペクトル面積値19を代入して計数汚染度23を得て、指標値データベース13に読み出し可能に格納する。
【0060】
ステップS7では、状態評価部9が、油膜厚さ評価部7及び計数汚染度評価部8から直接又は指標値データベース13から油膜厚さ値22及び計数汚染度23を読み出して、さらに評価データベース14から油膜厚さしきい値24及び計数汚染度しきい値25を読み出して、これらを比較して、油膜厚さ値22や計数汚染度23が油膜厚さしきい値24や計数汚染度しきい値25を超えていれば、超音波振動センサ2で測定された摺動部に初期異常が発生していると状態評価し、超えていなければ異常が発生していないと状態評価する初期異常の有無に関する評価結果26を評価データベース14に読み出し可能に格納する。
【0061】
ステップS8では、出力部10が、レシプロ式機械装置状態監視システム1の構成要素あるいはレシプロ式機械装置状態監視システム1のデータベースからそれぞれ出力したいと考えられる信号や値、あるいは評価結果を読み出して出力するものである。
【0062】
以上説明したとおり、本実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムあるいはその方法、プログラムにおいては、簡素な構成を備えつつも、レシプロ式機械装置における摺動部に近接した超音波振動センサで受信された超音波振動波形を測定することで潤滑油劣化度の指標となる油膜厚さ値と計数汚染度という2つの状態量を演算して評価することで、摺動部の初期異常たる直接接触の原因となる潤滑油の劣化度に基づいた効率的かつ高精度な評価を行うことが可能である。しかも超音波振動センサ2による測定はレシプロ式機械装置の外部で可能であることから、既設のレシプロ式機械装置に対しても改造などを要することなく可能であり、導入に伴うコストは低く抑制することができ、容易かつ経済的にレシプロ式機械装置の状態を監視することが可能である。
また、しきい値を設けることで出力部10によって警報等を発することが可能であることから、常時監視する必要がなく目的に応じたしきい値を設けることで目的に沿ったタイミングで警報を発生させて作業員等のユーザに注意を喚起することができる。
【0063】
次に、
図9を参照しながら本発明の第2の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム51について説明する。
図9は第2の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムのシステム構成図である。
図9において、
図1に示される第1の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システムと同一の構成要素には同一の符号を付してその構成の説明は省略する。
本図で示される第2の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム51は、超音波振動センサ2の他に温度センサ27を備えるものである。温度センサ27から得られる温度28を用いて油膜厚さ評価部7が油膜厚さ値22を演算する。油膜厚さは潤滑油の粘性に影響を受けるため、粘性が影響を受ける温度を含めて油膜厚さを演算する方がより精度の高い評価を実施できるためである。
この場合、油膜厚さ対パワースペクトル面積値関数20に温度を変数として含めることや油膜厚さ対パワースペクトル面積値関数20を温度毎に複数設けて温度センサ27で測定された温度に近い関数を選択することなどが考えられる。
温度センサ27の設置場所はレシプロ式機械装置によるが、摺動部の近傍に設置する場合や潤滑油の貯留タンク等に設置してもよい。また、潤滑油の油温を測定するための温度計が予め設置されるような場合にはその温度信号を用いてもよいことは言うまでもない。その場合には信号を取り出すだけでよく、新たにレシプロ式機械装置の状態監視のための温度計を設置する必要もなく、既存のレシプロ式機械装置に対して導入コストを抑制し易く容易に精度の高い状態監視を行うことが可能となる。
この温度センサ27による温度測定は、
図2のステップS5に含まれることになる。また、油膜厚さ評価部7が温度センサ27で測定された温度28を読み出し可能に指標値データベース13に格納する。油膜厚さ評価部7は、油膜厚さ値22を演算する際に、温度28を温度センサ27から直接又は指標値データベース13から読み出すかして用いる。
【0064】
次に、本実施の形態において、油膜厚さ値22を演算する油膜厚さ評価部7と計数汚染度23を演算する計数汚染度評価部8を別個に設けずに、例えば、潤滑油劣化度評価部などのようなものを1つ設けてパワースペクトル面積値19を用いて、油膜厚さ値22と計数汚染度23を同時に演算する場合について
図10を参照しながら説明する。
図10は、
図3に示される試作装置の超音波振動センサ37で測定された振動波形信号から得られたパワースペクトル面積値を油温が60℃のもので規格化して表現したデシベル値と油膜厚さと計数汚染度の関係を示した3次元グラフである。
本実施の形態では、レシプロ式機械装置状態監視システム51は、温度センサ27を備えていることから、予め例えば油温60℃の時の摺動性の超音波振動に対するパワースペクトル面積値(V
0)を基準にして実際の監視時における油温を温度センサから取得して、その油温におけるパワースペクトル面積値(V)を用いて、デシベル値(20*log
10(V/V
0))で表現することができる。このようにある油温における超音波振動に対するパワースペクトル面積値を基準にすれば、一般性を持たせることも可能であり、より実用性を持たせることができる。本実施の形態では油温60℃の際の摺動性の超音波振動に対するパワースペクトル面積値をV
0として基準値に用いたが、この基準値は特定のものである必要はなく他の油温のものでもよいし、他の条件のものでもよい。
【0065】
本実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム51においても、第1の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム1と同様の効果を発揮し得るし、さらには前述のとおり、油膜厚さ評価部7による油膜厚さ値22の演算時に潤滑油の粘性の温度変化を考慮した上で、より精度の高い演算を行うことが可能という優れた効果を発揮することができる。
【0066】
さらに、本実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム51も既に述べた第1の実施の形態に係るレシプロ式機械装置状態監視システム1と同様に、監視方法及びその方法をコンピュータを実行するためのプログラムとして捉えたレシプロ式機械装置状態監視プログラムを他の実施の形態として概念することができる。その説明は既に第1の実施の形態の説明時に述べた内容と、第2の実施の形態のレシプロ式機械装置状態監視システム51について述べた内容を併せることで十分であるので省略する。