特許第6136074号(P6136074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136074
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】窒素分離装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 3/10 20060101AFI20170522BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20170522BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20170522BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C10L3/10
   B01D53/22
   B01D61/58
   B01D53/047
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-17510(P2014-17510)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-91918(P2015-91918A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2016年2月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-208053(P2013-208053)
(32)【優先日】2013年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084180
【弁理士】
【氏名又は名称】藤岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】林 謙年
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅裕
【審査官】 大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0185896(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/139500(WO,A1)
【文献】 特開昭63−126522(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/129329(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0094378(US,A1)
【文献】 特開2012−144628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02−53/12、53/22、61/00−71/82、
C02F 1/44、
C10L 3/00− 3/12、 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により上流側の第一室と下流側の第二室に区分形成されていて、加圧され第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた膜分離排ガスが第二室に収容され、原料ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより原料ガスよりもメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている膜分離処理ガスが第一室に収容される膜分離装置と、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を備えた少なくとも三本の吸着塔を備えていて、それぞれの吸着塔が吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次互いに位相をずらして交替で行い、吸着工程にて膜分離装置の第一室から加圧されている膜分離処理ガスを受けて、吸着圧力に加圧されている状態で吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着し、窒素濃度が低下することにより膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを生成し、脱着工程にて吸着圧力から脱圧された脱着圧力下で吸着剤に吸着された窒素を脱着し脱着された窒素を含んで膜分離処理ガスより窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスを生成し、再生工程にて減圧下で吸着剤に残留している窒素を減圧吸引し低圧排ガスを生成する圧力スイング吸着装置と、
中圧排ガスを加圧し圧力スイング吸着装置の入口側へ帰還供給し膜分離装置の第一室からの膜分離処理ガスと合流させて圧力スイング吸着装置へ供給する中圧排ガス帰還供給ラインと、を有することを特徴とする窒素分離装置。
【請求項2】
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により上流側の第一室と下流側の第二室に区分形成されていて、加圧され第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた膜分離排ガスが第二室に収容され、原料ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより原料ガスよりもメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている膜分離処理ガスが第一室に収容される膜分離装置と、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を備えた少なくとも三本の吸着塔を備えていて、それぞれの吸着塔が吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次互いに位相をずらして交替で行い、吸着工程にて膜分離装置の第一室から加圧されている膜分離処理ガスを受けて、吸着圧力に加圧されている状態で吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着し、窒素濃度が低下することにより膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを生成し、脱着工程にて吸着圧力から脱圧された脱着圧力下で吸着剤に吸着された窒素を脱着し脱着された窒素を含んで膜分離処理ガスより窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスを生成し、再生工程にて減圧下で吸着剤に残留している窒素を減圧吸引し低圧排ガスを生成する圧力スイング吸着装置と、
中圧排ガスを加圧し膜分離装置の入口側へ帰還供給し原料ガスと合流させて膜分離装置へ供給する中圧排ガス帰還供給ラインと、を有することを特徴とする窒素分離装置。
【請求項3】
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により上流側の第一室と下流側の第二室に区分形成されている第一膜分離装置と第二膜分離装置と、圧力スイング吸着装置とを有し、
第一膜分離装置は、加圧され第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた一次膜分離排ガス第二室に収容し、原料ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより原料ガスよりもメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている一次膜分離処理ガス第一室に収容し、
第二膜分離装置は、その第一室と第一膜分離装置の第二室とが接続され、第一膜分離装置第二室から供給され加圧された一次膜分離排ガスを第一室に受け入れ、一次膜分離排ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた二次膜分離排ガスを第二室に収容し、一次膜分離排ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより一次膜分離排ガスよりもメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている二次膜分離処理ガスを第一室に収容し、
圧力スイング吸着装置は、メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を備えた少なくとも三本の吸着塔を備えていて、それぞれの吸着塔が吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次互いに位相をずらして交替で行い、吸着工程にて第一膜分離装置の第一室から加圧されている一次膜分離処理ガスを受けて、吸着圧力に加圧されている状態で吸着剤が一次膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着し、窒素濃度が低下することにより一次膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを生成し、脱着工程にて吸着圧力から脱圧された脱着圧力下で吸着剤に吸着された窒素を脱着し脱着された窒素を含んで一次膜分離処理ガスより窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスを生成し、再生工程にて減圧下で吸着剤に残留している窒素を減圧吸引し低圧排ガスを生成し、
さらに、圧力スイング吸着装置からの中圧排ガスを加圧し第一膜分離装置の入口側へ帰還供給し原料ガスと合流させて第一膜分離装置へ供給する中圧排ガス帰還供給ラインと、
圧力スイング吸着装置からの低圧排ガスを加圧し第二膜分離装置の入口側へ供給し第一膜分離装置第二室からの一次膜分離排ガスと合流させて第二膜分離装置へ供給する低圧排ガス供給ラインと、
第二膜分離装置の第一室からの二次膜分離処理ガスを圧力スイング吸着装置の入口側へ供給し第一膜分離装置の第一室からの一次膜分離処理ガス合流させて圧力スイング吸着装置へ供給する二次膜分離処理ガス供給ラインと、を有することを特徴とする窒素分離装置。
【請求項4】
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により上流側の第一室と下流側の第二室に区分形成されている膜分離装置を用いて、加圧され第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過ることで窒素濃度が高められた膜分離排ガスを第二室に収容し、原料ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより原料ガスよりメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている膜分離処理ガスを第一室に収容し、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を備えた少なくとも三本の吸着塔を備えている圧力スイング吸着装置を用いて、それぞれの吸着塔において吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次互いに位相をずらして交替で行い、吸着工程にて膜分離装置の第一室から加圧されている膜分離処理ガスを受けて、吸着圧力に加圧されている状態で吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着し、窒素濃度が低下することにより膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを生成し、脱着工程にて吸着圧力から脱圧された脱着圧力下で吸着剤に吸着された窒素を脱着し脱着された窒素を含んで膜分離処理ガスより窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスを生成し、再生工程にて減圧下で吸着剤に残留している窒素を減圧吸引し低圧排ガスを生成し、
中圧排ガス帰還供給ラインを経て、中圧排ガスを加圧し圧力スイング吸着装置の入口側へ帰還供給し膜分離装置の第一室からの膜分離処理ガスと合流させて圧力スイング吸着装置へ供給することを特徴とする窒素分離方法。
【請求項5】
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内にし該分離槽内が分離膜により上流側の第一室と下流側の第二室に区分形成されている膜分離装置を用いて、加圧され第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過ることで窒素濃度が高められた膜分離排ガスを第二室に収容し、原料ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより原料ガスよりメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている膜分離処理ガスを第一室に収容し、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を備えた少なくとも三本の吸着塔を備えている圧力スイング吸着装置を用いて、それぞれの吸着塔において吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次互いに位相をずらして交替で行い、吸着工程にて膜分離装置の第一室から加圧されている膜分離処理ガスを受けて、吸着圧力に加圧されている状態で吸着剤膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着し、窒素濃度が低下することにより膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを生成し、脱着工程にて吸着圧力から脱圧された脱着圧力下で吸着剤に吸着された窒素を脱着し脱着された窒素を含んで膜分離処理ガスより窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスを生成し、再生工程にて減圧下で吸着剤に残留している窒素を減圧吸引し低圧排ガスを生成し、
中圧排ガス帰還供給ラインを経て、中圧排ガスを加圧し膜分離装置の入口側へ帰還供給し原料ガスと合流させて膜分離装置へ供給することを特徴とする窒素分離方法。
【請求項6】
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内にし該分離槽内が分離膜により上流側の第一室と下流側の第二室に区分形成されている第一膜分離装置と第二膜分離装置と、圧力スイング吸着装置とを用いて、
第一膜分離装置では、加圧され第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた一次膜分離排ガスを第二室に収容し、原料ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより原料ガスよりメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている一次膜分離処理ガスを第一室に収容し、
第二膜分離装置では、その第一室と第一膜分離装置の第二室とが接続されていて、第一膜分離装置第二室から供給され加圧された一次膜分離排ガスを第一室に受け入れ、一次膜分離排ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた二次膜分離排ガスを第二室に収容し、一次膜分離排ガス中の窒素が分離膜を透過し分離されて窒素濃度が低下することにより一次膜分離排ガスよりメタン濃度が高められ残留窒素を含み加圧されている二次膜分離処理ガスを第一室に収容し、
圧力スイング吸着装置では、メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を備えた少なくとも三本の吸着塔を用いて、それぞれの吸着塔が吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次互いに位相をずらして交替で行い、吸着工程にて第一膜分離装置の第一室から加圧されている一次膜分離処理ガスを受けて、吸着圧力に加圧されている状態で吸着剤が一次膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着し、窒素濃度が低下することにより一次膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを生成し、脱着工程にて吸着圧力から脱圧された脱着圧力下で吸着剤に吸着された窒素を脱着し脱着された窒素を含んで一次膜分離処理ガスより窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスを生成し、再生工程にて減圧下で吸着剤に残留している窒素を減圧吸引し低圧排ガスを生成し、
さらに、中圧排ガス帰還供給ラインを経て、圧力スイング吸着装置から中圧排ガスを加圧し第一膜分離装置の入口側へ帰還供給し原料ガスと合流させて第一膜分離装置へ供給し、
低圧排ガス供給ラインを経て、圧力スイング吸着装置からの低圧排ガスを加圧し第二膜分離装置の入口側へ供給し第一膜分離装置第二室からの一次膜分離排ガスと合流させて第二膜分離装置へ供給し
二次膜分離処理ガス供給ラインを経て、第二膜分離装置の第一室からの二次膜分離処理ガスを圧力スイング吸着装置の入口側へ供給し第一膜分離装置の第一室からの一次膜分離処理ガス合流させて圧力スイング吸着装置へ供給することを特徴とする窒素分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンを主成分とする原料ガスから不純物である窒素を分離して除去する窒素分離装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年エネルギー源として、天然ガスの需要が高まっている。
【0003】
原料ガスとしての天然ガスには、主成分のメタンの他、不純物として窒素を含む場合があり、その窒素濃度は数mol%以下のこともあれば、10mol%を超える場合もある。
【0004】
天然ガスの利用形態として、天然ガスを液化してLNGとしてからLNGタンク内に貯め、必要に応じてLNGを再気化させてガスとして利用する場合がある。LNGタンクにおいて、外部からの入熱により不可避にボイルオフガスが発生するが、ボイルオフガスはメタンより沸点が低い窒素の濃度が高くなる傾向がある。そのため、ボイルオフガス中の窒素濃度はLNG中の窒素濃度より高く、具体的には数mol%程度のこともあるが、10mol%を超える場合もある。
【0005】
天然ガスに含まれる窒素は、燃料としての性質をもたないため、その分だけ天然ガスの発熱量を低下させるという問題がある。窒素含有量が多い場合には、燃料として求められる天然ガスの発熱量を一定の範囲内に調整するために必要な熱量増加剤(例えばLPG)の使用量が増加し、経済性が悪くなる問題がある。
【0006】
また、窒素を含む天然ガスを固体高分子型燃料電池システムに供給すると、システム内で窒素からアンモニアが生じ、生じたアンモニアが触媒毒として固体高分子型燃料電池システムに悪影響を与える問題がある。
【0007】
以上のような問題から、天然ガスなど、メタンを主成分とする原料ガスから不純物としての窒素を取り除く技術が求められている。
【0008】
メタンを主成分とする原料ガスから窒素を取り除く技術として、深冷分離技術が例えば特許文献1に開示されている。深冷分離方法は、主成分と不純物との沸点差を利用して不純物を分離して除去する技術である。
【0009】
しかし、深冷分離方法を実施するには、大がかりな設備が必要であり、一般に設備コストが高いという問題がある。特に、小規模な精製設備では一般的に経済性が悪く、処理ガス量が2万Nm/hr以下の設備では不経済になるという問題がある。
【0010】
次に、メタンを主成分とする原料ガスから窒素を取り除く他の技術として、圧力スイング吸着技術が例えば特許文献2に開示されている。この圧力スイング吸着技術によると、主成分よりも不純物を吸着しやすい吸着剤を収容する槽内で、圧力を昇降スイングさせて不純物を吸着剤に吸着させておいて、濃度が高くなった主成分ガスを抽出する。
【0011】
この圧力スイング吸着技術による方法では、一般的に、小規模設備だからといって経済的に不利になることもない。しかし、主成分としてのメタンと不純物としての窒素を効率的に分離する吸着剤の種類は少なく、一般に高価であり、吸着剤を多く使用すると圧力スイング吸着装置全体のコストも高くなる問題がある。特に、メタンより窒素が選択的に吸着されやすい吸着剤を使う場合、メタンを主成分とする製品ガスの圧力低下が少ないため
、圧力スイング吸着技術は省エネで効率的なプロセスになるという利点があるものの、その一方で、吸着しなければならない窒素の量が多いほど、あるいは原料ガス中の窒素濃度が高いほど、必要な吸着剤は多くなるため、その分だけコスト高となるという問題がある。
【0012】
さらには、メタンを主成分とする原料ガスから窒素を分離して取り除く他の技術として、膜分離技術が例えば特許文献3に開示されている。この膜分離技術の方法によると、メタンよりも窒素を透過しやすい分離膜の一方側から窒素を透過させて他方側に窒素の濃度が高くなったガスを得て、上記一方側では窒素が透過して分離された分だけメタン濃度が高められたガスを得る。この膜分離技術による方法では、上記圧力スイング吸着技術による場合と同様に、一般的に、小規模設備だからといって経済的に不利になることもない。しかし、メタンと窒素を効率的に分離する分離膜の種類は少なく、一般に高価であり、分離膜を多く使用すると膜分離装置全体のコストも高くなるという問題がある。特に、メタンより窒素が選択的に透過しやすい分離膜を使う場合、メタンを主成分とする製品ガスの圧力低下が少ないため、膜分離技術は省エネで効率的なプロセスになるという利点があるが、膜分離では、膜の両側にあるガスの分圧比に応じて膜透過量が決まるため、加圧された原料ガス中の窒素ガス濃度が高い場合は、分離膜を透過する窒素ガスの量は比較的多いものの、原料ガス中の窒素ガス濃度が低い場合は、分離膜を透過する窒素ガス量は比較的小さくなり、非効率になる。したがって、製品ガスの窒素ガス濃度の目標を小さくすればするほど、分離膜の必要量がいたずらに多くなり、膜分離装置全体のコストも高くなる問題がある。
【0013】
また、メタンの回収率(原料ガス中のメタンの量に対する最終的に得られた製品ガス中のメタンの量の割合)も重要な点である。窒素を取り除くことができたとしても、製品としてのメタンも多くロスしてしまうと、非常に不経済であることは自明である。例えば、圧力スイング吸着技術を開示している特許文献2では、メタンを主成分とするガスから窒素を取り除く実験例においてメタン回収率が60%〜65 %と説明されているが、より高いメタン回収率が求められている。また、製品ガス中の窒素残留濃度も重要な点である。 窒素残留濃度が低いほど望ましいことは述べるまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2013−036676
【特許文献2】特開2012−144628
【特許文献3】特表2004−509735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、メタンを主成分とする原料ガスから不純物としての窒素を取り除く技術として、特許文献1の方法では、設備が大がかりになって設備コストが高くなるし、特許文献2の方法では、不純物としての窒素の量が多いほど、そしてその窒素濃度が高いほど多くの吸着剤を要し、その分だけコスト高となるし、さらに、特許文献3の方法では、製品ガスの窒素ガス濃度の目標を小さくすればするほど、分離膜の必要量が多くなり、膜分離装置全体のコストも高くなるという問題がある。また、メタンの回収率が十分なものとなっていないという問題がある。
【0016】
かかる事情に鑑み、本発明は、メタンを主成分とする原料ガスから窒素を取り除くにあたって、製品ガス中の窒素残留濃度が低く、かつ、メタンの回収率が高く、経済的な窒素分離装置及び窒素分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、上述の課題は、窒素分離装置に関しては次の第一ないし第四発明のいずれによっても、また窒素分離方法に関しては、第五ないし第八発明のいずれによって解決される。
【0018】
≪窒素分離装置≫
<第一発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により第一室と第二室に区分形成されていて、第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた膜分離排ガスが第二室に収容され、原料ガスよりもメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスが第一室に収容される膜分離装置と、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を吸着槽内に備えていて、上記膜分離装置の第一室から膜分離処理ガスを受けて、吸着槽内での圧力スイングのもとで吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着することで、膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスと、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスとを生ずる圧力スイング吸着装置と、
を有することを特徴とする窒素分離装置。
【0019】
<第二発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により第一室と第二室に区分形成されていて、第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた膜分離排ガスが第二室に収容され、原料ガスよりもメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスが第一室に収容される膜分離装置と、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を吸着槽内に備えていて、上記膜分離装置の第一室から膜分離処理ガスを受けて、吸着槽内での圧力スイングのもとで吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着することで、膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスと、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスとを生ずる圧力スイング吸着装置と、
を有し、
排ガスの一部を圧力スイング吸着装置へ帰還供給し、残部を排出することを特徴とする窒素分離装置。
【0020】
<第三発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により第一室と第二室に区分形成されていて、第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた膜分離排ガスが第二室に収容され、原料ガスよりもメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスが第一室に収容される膜分離装置と、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を吸着槽内に備えていて、上記膜分離装置の第一室から膜分離処理ガスを受けて、吸着槽内での圧力スイングのもとで吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着することで、膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスと、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスとを生ずる圧力スイング吸着装置と、
を有し、
排ガスの一部を膜分離装置の第一室へ帰還供給し、残部を排出することを特徴とする窒素分離装置。
【0021】
<第四発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する装置において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を分離槽内に有し該分離槽内が分離膜により第一室と第二室に区分形成されていて、第一室に送入された原料ガス中の窒素が分離膜を透過することで窒素濃度が高められた膜分離排ガスが第二室に収容され、原料ガスよりもメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスが第一室に収容される膜分離装置と、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を吸着槽内に備えていて、上記膜分離装置の第一室から膜分離処理ガスを受けて、吸着槽内での圧力スイングのもとで吸着剤が膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着することで、膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスと、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスとを生ずる圧力スイング吸着装置とを有し、
膜分離装置は第一膜分離装置と第二膜分離装置とから成り、いずれも分離膜により区分された第一室と第二室を有し、
原料ガスは第一膜分離装置の第一室に供給され、
圧力スイング吸着装置は、窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガスが第一膜分離装置の第一室へ帰還供給されるように該第一膜分離装置に接続されていると共に、窒素が減圧吸引され窒素濃度が高められメタンを含む低圧排ガスが第二膜分離装置の第一室へ供給されるように該第二膜分離装置に接続されており、
第一膜分離装置の第二室は第二膜分離装置の第一室に接続されていて、該第一膜分離装置の第二室からの一次膜分離排ガスを圧力スイング吸着装置からの上記低圧排ガスと合流して第二膜分離装置の第一室へ供給するように第二膜分離装置に接続されており、
第二膜分離装置の第一室からの二次膜分離処理ガスを第一膜分離装置の第一室からの一次膜分離処理ガスに合流して圧力スイング吸着装置へ供給し、
第二膜分離装置の第二室から二次膜分離排ガスを排出する、
ことを特徴とする窒素分離装置。
【0022】
≪窒素分離方法≫
<第五発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を有する膜分離装置に原料ガスを供給して該分離膜を透過させることで窒素濃度が高められた膜分離排ガスと、該原料ガスよりメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスとを上記膜分離装置で生じさせ、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を有する圧力スイング吸着装置に上記膜分離処理ガスを供給して圧力スイングのもとで吸着剤に膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着させることで、上記膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを上記圧力スイング吸着装置に生じさせ、
圧力スイング吸着装置から上記製品ガスを取り出すと共に、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスを排出することを特徴とする窒素分離方法。
【0023】
<第六発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を有する膜分離装置に原料ガスを供給して該分離膜を透過させることで窒素濃度が高められた膜分離排ガスと、該原料ガスよりメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスとを上記膜分離装置で生じさせ、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を有する圧力スイング吸着装置に上記膜分離処理ガスを供給して圧力スイングのもとで吸着剤に膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着させることで、上記膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを上記圧力スイング吸着装置に生じさせ、
圧力スイング吸着装置から上記製品ガスを取り出すと共に、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスの一部を圧力スイング吸着装置へ帰還供給し、残部を排出することを特徴とする窒素分離方法。
【0024】
<第七発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を有する膜分離装置に原料ガスを供給して該分離膜を透過させることで窒素濃度が高められた膜分離排ガスと、該原料ガスよりメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガスとを上記膜分離装置で生じさせ、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を有する圧力スイング吸着装置に上記膜分離処理ガスを供給して圧力スイングのもとで吸着剤に膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着させることで、上記膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスを上記圧力スイング吸着装置に生じさせ、
圧力スイング吸着装置から上記製品ガスを取り出すと共に、吸着された後に脱着された窒素を含んで窒素濃度が高められメタンを含む排ガスの一部を膜分離装置へ帰還供給し、残部を排出することを特徴とする窒素分離方法。
【0025】
<第八発明>
メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスから窒素を分離する方法において、
メタンより窒素が選択的に透過される分離膜を有する第一膜分離装置に原料ガスを供給して該分離膜を透過させることで窒素濃度が高められた一次膜分離排ガスと、該原料ガスよりメタン濃度が高められた残留窒素を含む一次膜分離処理ガスとを上記第一膜分離装置で生じさせ、
メタンより窒素が選択的に吸着される吸着剤を有する圧力スイング吸着装置に上記一次膜分離処理ガスを供給して圧力スイングのもとで吸着剤に膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着させることで、上記一次膜分離処理ガスよりメタン濃度が高められた製品ガスそして窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガス及び低圧排ガスを生じさせ、
圧力スイング吸着装置から上記製品ガスを取り出すと共に、上記中圧排ガスを第一膜分離装置へ原料ガスに合流させ帰還供給し、上記低圧排ガスを第一膜分離装置からの一次膜分離排ガスと合流させて第二膜分離装置へ供給し処理して二次膜分離処理ガスと二次膜分離排ガスとを生じさせ、二次膜分離処理ガスを一次膜分離処理ガスに合流させて圧力スイング吸着装置へ供給し、二次膜分離排ガスを排出することを特徴とする窒素分離方法。
【0026】
上述のような本発明の第一ないし第八発明では、膜分離装置での窒素分離後に残留する窒素を圧力スイング吸着装置で吸着して両装置により二段階にわたって除去するので、両装置とも窒素除去量がさほど高くなくてすむようになり、膜分離装置では圧力低下が小さい上に、膜の使用量を抑制でき、圧力スイング吸着装置では吸着剤の使用量を抑制でき、その分のコストが低減される。
【0027】
第二そして第六発明では窒素濃度が高められメタンを含む排ガスの一部が圧力スイング吸着装置へ帰還供給されて排ガス中のメタンが製品ガスに移行し製品ガスに含まれるメタン量が増加するためメタンの回収率が向上するし、第三及び第四そして第七及び第八発明では、上記排ガスの一部が膜分離装置へ帰還供給されて同様にメタンの回収率が向上する。
【0028】
このように、本発明では、膜分離装置に後続して圧力スイング吸着装置を接続することとしたので、両装置の利点を相乗作用のもとで得ることができる。
【0029】
ここで、本発明において、メタンを主成分とし窒素を含む原料ガスとは、1mol%以上
、より典型的には5mol%以上の窒素を含み、70mol%以上、より典型的には80mol%
以上のメタンを含むガスを指し、また、メタンより窒素が選択的に吸着しやすい吸着剤とは、特に限定されるものではないが、例えばチタノシリケート系モレキュラーシーブや、金属有機構造体を指し、さらには、メタンより窒素が選択的に透過しやすい分離膜とは、特に限定されるものではないが、例えば混合マトリックスナノポーラスカーボン膜、DDR型ゼオライト膜、CHA型ゼオライト膜を指す。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によると、膜分離装置での窒素分離後に残留する窒素を圧力スイング吸着装置で吸着して両装置により二段階にわたって除去し、原料ガスを膜分離処理装置により中程度まで窒素濃度を低下させ、さらに、圧力スイング吸着装置により極低濃度まで窒素濃度を低下させるので、窒素残留濃度が低くメタン濃度を高めた製品ガスを得ることができ、かつ、メタンの高い回収率を得ることができる。両装置では小型化のもとで窒素除去量がさほど高くなくてすむようになり、膜分離装置では圧力低下が小さい上に、膜の使用量を抑制でき、圧力スイング吸着装置では吸着剤の使用量を抑制でき、その分の膜及び吸着剤のコストが低減される、という効果を得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第一実施形態装置の概要構成図である。
図2】第二実施形態装置の概要構成図である。
図3】第三実施形態装置の概要構成図である。
図4】第四実施形態装置の概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
<第一実施形態>
図1は第一実施形態装置の概要構成図であり、本実施形態装置は、膜分離装置1とこれに接続された圧力スイング吸着装置2とを有している。
【0034】
上記膜分離装置1は、槽内に分離膜1Cを設けることで、該分離膜1Cの上流側の第一室1Aと該分離膜1Cの下流側の第二室1Bとに区分されている。上記分離膜1Cは、メタンより窒素を選択的に透過する膜であり、上記第一室1Aは、圧縮機3で原料ガス11を圧縮して得られる加圧原料ガス12を受けるようになっている。上記第二室1Bには、排ガス排出口が形成されていて、第一室1A内の加圧原料ガス12中の窒素が分離膜1Cを透過して第二室1Bに流入した後、窒素濃度が高められたガスが膜分離排ガス14として第二室1Bに設けられた排ガス排出口から排出されるようになっている。窒素が分離膜1Cを透過し分離された後に第一室1Aに残留するガスはメタン濃度が高められ残留窒素を含み膜分離処理ガス13として圧力スイング吸着装置2へ送られる。
【0035】
上記膜分離装置1の第一室1Aに接続された圧力スイング吸着装置2は、槽内に三本の吸着塔2A,2B,2Cを備えていて、いずれも、メタンよりも窒素を選択的に吸着しやすい吸着剤を備えている。三本の吸着塔2A,2B,2Cは、構成自体は同一であるが、吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次行い周期的に繰り返している。
【0036】
上記圧力スイング吸着装置2の各吸着塔2A,2B,2Cでは、吸着工程において、上記膜分離装置1の第一室1Aから膜分離処理ガス13を受け、吸着圧力に加圧されている状態で窒素を吸着剤に吸着させ、窒素が分離されメタン濃度が高められた製品ガス15を得る。次に脱着工程において、吸着塔内圧力は吸着圧力から脱圧され、吸着剤に吸着された窒素を脱着して、窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガス16が排出される。さらに、再生工程において、吸着塔内圧力は真空ポンプ4により減圧され、吸着剤に残留している窒素が吸引され低圧排ガス17が排出され、吸着剤が再生される。三本の吸着塔2A,2B,2Cは、それぞれ吸着工程、脱着工程そして再生工程を順次行い周期的に繰り返し、互いに位相をずらして交替で行い、連続して圧力スイング吸着操作を行うようになっている。
【0037】
このような図1の第一実施形態装置のもとでは、メタンを主成分とする原料ガス中の窒素は次の要領で除去される。
【0038】
先ず、メタンを主成分とし窒素を含む原料ガス11は、圧縮機3で加圧されて加圧原料ガス12となり、該加圧原料ガス12が膜分離装置1の第一室1Aに供給される。膜分離装置1では、窒素が分離膜1Cを透過し分離されることで、第一室1A内にメタン濃度が高められた残留窒素を含む膜分離処理ガス13が生じ、第二室1B内に窒素濃度が高められた膜分離排ガス14が生じる。
【0039】
上記膜分離装置1の第一室1A内の膜分離処理ガス13は、圧力スイング吸着装置2に送入供給される。圧力スイング吸着装置2では、圧力スイングのもとで、吸着工程にある吸着塔2Aで吸着剤に膜分離処理ガス中の残留窒素を吸着させることで、膜分離処理ガス13よりメタン濃度が高められた製品ガス15が生じ、脱着工程にある吸着塔2Bで吸着剤に吸着された窒素が脱着され窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガス16が生じ、再生工程にある吸着塔2Cで吸着剤に残留している窒素が減圧吸引され低圧排ガス17が生じる。
【0040】
かかる本実施形態では、高い窒素濃度を有する原料ガス11を膜分離装置1で処理することにより、中程度まで窒素濃度を低下させた膜分離処理ガスを得る。高い窒素濃度を中程度まで低下させるに必要な分離膜量は、高い窒素濃度を極低濃度にまで低下させるに必要な量に比べ大幅に少なくてよく、経済的な装置となる。
【0041】
また、本実施形態では、中程度の窒素濃度を有する膜分離処理ガス13を、圧力スイング吸着装置2で処理することにより、極低濃度まで窒素濃度を低下させメタン濃度を高めた製品ガスを得る。中程度の窒素濃度を極低濃度まで低下させるに必要な吸着剤量は、高い窒素濃度を極低濃度まで低下させるに必要な吸着剤量より大幅に少なくてよく、経済的な装置となる。
【0042】
本実施形態では、加圧原料ガス12は、膜分離装置1を通過して膜分離処理ガス13となっても、圧力低下がほとんど無いため、吸着工程での圧力スイング吸着装置2への供給にあたって再圧縮の必要が無く、省エネルギーで効率的なプロセスとなる。
【0043】
このように、本実施形態は、効率的なプロセスを実現しており、次に、本実施形態装置で行われた実験の結果を示す。
【0044】
本実施形態装置による実験の結果は表1に示されているごとくであり、表1には、図1の各部におけるガスの流量、圧力及び組成が示されている。この実験では、原料ガス11の組成がメタン85mol%、窒素15mol%であり、膜分離装置1はメタンより窒素が28倍透過しやすい分離膜1Cを備え、圧力スイング吸着装置2はメタンより窒素が5倍選択的に吸着しやすい吸着剤を備えた場合の例である。
【0045】
本実施形態装置による実験に用いられた圧力スイング吸着装置2の三本の吸着塔2A,2B,2Cでは、吸着工程、脱着工程、再生工程を互いに位相をずらして順次担っており、それぞれの吸着塔から抜き出される製品ガス15、中圧排ガス16、低圧排ガス17の組成や流量は瞬間的にはまちまちであるが、表1では平均化された組成や流量が示されている。
【0046】
表1に示されているように、原料ガス11の窒素濃度は15mol%であるが、製品ガス
15の窒素濃度は1mol%にまで低減した。また、原料ガス11に含まれるメタンの量に
対する製品ガス15に含まれるメタンの量の割合、すなわちメタン回収率は82%であった。このように、本実施形態は、高いメタン回収率と、製品ガスの低い残留窒素濃度を実現していることを確認できる。
【0047】
【表1】
【0048】
<第二実施形態>
次に、図2にもとづき、本発明の第二実施形態について説明する。
【0049】
図2に示される本実施形態は、図1に示された前実施形態装置に比し、圧力スイング吸着装置2からの中圧排ガス16Aが排出されず圧縮機5により圧縮されて加圧され圧力スイング吸着装置2の入口側へ帰還供給されている点に特徴がある。その他は、図1装置と同じであるので、図1と共通部位に同一符号を付すことで、その説明を省略する。
【0050】
かかる本実施形態では、膜分離装置1の第一室1Aから圧力スイング吸着装置2へ送入される膜分離処理ガス13は、該圧力スイング吸着装置2からの中圧排ガス16Aと合流して、合流ガス18として圧力スイング吸着装置2に供給される。こうすることで、圧力スイング吸着装置2では、膜分離処理ガス13よりメタン濃度が高められた製品ガス15、窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガス16A、吸着剤に残留している窒素が減圧吸引された低圧排ガス17が生じる。製品ガス15は、そのまま製品として取り出されるが、第一実施形態におけるごとく排出されることなく、中圧排ガス16Aは、圧縮機5で加圧されて膜分離処理ガス13に見合った圧力のもとで膜分離処理ガス13と合流し合流ガス18を形成し圧力スイング吸着装置2へ供給される。したがって、中圧排ガス16Aが再び圧力スイング吸着装置2で圧力スイング吸着されることで該中圧排ガス16Aの一部が製品ガス15となり、その分製品ガスの量を高める。
【0051】
本実施形態による実験の結果は、表2に示されているごとくである。
【0052】
表2には、図2の各ガスの流量、圧力及び組成が示されている。この実験では、第一実施形態装置における実験の場合と同様に、原料ガス11の組成がメタン85mol%、窒素
15mol%であり、膜分離装置1はメタンより窒素が28倍透過しやすい分離膜1Cを備
え、圧力スイング吸着装置2はメタンより窒素が5倍選択的に吸着しやすい吸着剤を備えた場合の例である。
【0053】
表2に示されているように、原料ガス11の窒素濃度は15mol%であるが、製品ガス
15の窒素濃度は3mol%にまで低減した。また、原料ガス11に含まれるメタンの量に
対する製品ガス15に含まれるメタンの量の割合、すなわちメタン回収率は90%であり、第一実施形態装置における実験の場合よりメタン回収率が高い値となった。
【0054】
本実施形態における実験では、メタン濃度が64mol%とメタンを多く含む中圧排ガス
を排出せずに圧力スイング吸着装置に帰還供給して再度窒素を分離することによって、メタン回収率が向上した。このように、本実施形態は、製品ガスの低い残留窒素濃度を実現し、第一実施形態よりさらに高いメタン回収率を実現していることを確認できる。
【0055】
【表2】
【0056】
<第三実施形態>
次に、図3にもとづき、本発明の第三実施形態について説明する。
【0057】
図3に示される本実施形態は、図1に示された前実施形態装置に比し、圧力スイング吸着装置2からの中圧排ガス16Bが排出されず圧縮機5により圧縮され加圧されて膜分離装置1の第一室1Aの入口側へ帰還供給されている点に特徴がある。その他は、図1装置と同じであるので、図1と共通部位に同一符号を付すことで、その説明を省略する。
【0058】
かかる本実施形態では、メタンを主成分とし窒素を含む原料ガス11は、圧縮機5で加圧され加圧原料ガス12となり、中圧排ガス16Bと合流して合流ガス19として、膜分離装置1の第一室1Aへ供給される。圧力スイング吸着装置2では、膜分離処理ガス13よりメタン濃度が高められた製品ガス15、窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガス16B、吸着剤に残留している窒素が減圧吸引された低圧排ガス17が生じる。中圧排ガス16Bは、第一実施形態におけるようには排出されずに、圧縮機5で加圧され加圧原料ガス12に見合った圧力のもとで加圧原料ガス12と合流し、合流ガス19が上記膜分離装置1の第一室1Aへ供給される。
【0059】
本実施形態装置による実験の結果は、表3に示されているごとくである。
【0060】
表3には、図3の各ガスの流量、圧力及び組成が示されている。この実験では、第一実施形態装置における実験の場合と同様に、原料ガス11の組成がメタン85mol%、窒素
15mol%であり、膜分離装置1はメタンより窒素が28倍透過しやすい分離膜1Cを備
え、圧力スイング吸着装置2はメタンより窒素が5倍選択的に吸着しやすい吸着剤を備えた場合の例である。
【0061】
表3に示されているように、原料ガス11の窒素濃度は15mol%であるが、製品ガス
15の窒素濃度は1mol%にまで低減した。また、原料ガス11に含まれるメタンの量に
対する製品ガス15に含まれるメタンの量の割合、すなわちメタン回収率は90%であり、第一実施形態装置における実験の場合よりメタン回収率が高い値となった。
【0062】
本実施形態における実験では、メタン濃度が65mol%とメタンを多く含む中圧排ガス
を排出せずに膜分離装置に帰還供給して再度窒素を分離することによって、メタン回収率が向上した。このように、本実施形態は、製品ガスの低い残留窒素濃度を実現し、第一実施形態よりさらに高いメタン回収率を実現していることを確認できる。
【0063】
【表3】
【0064】
<第四実施形態>
次に、図4にもとづき、本発明の第四実施形態について説明する。
【0065】
図4に示される本実施形態は、図3に示された前実施形態装置に比し、膜分離装置が第一膜分離装置1と第二膜分離装置51の二つの膜分離装置から成っていて、加圧原料ガス12を受ける第一膜分離装置1からの第一膜分離排ガス14と、該第一膜分離装置1からの第一膜分離処理ガスを受けて圧力スイング吸着を行う圧力スイング吸着装置2で発生する低圧排ガス17を第二膜分離装置51へ供給すると共に、該第二膜分離装置51からの第二膜分離処理ガス55を上記圧力スイング吸着装置2へ帰還供給することで再利用して、メタン回収率を高めることに特徴がある。本実施形態装置において、第一膜分離装置1が前実施形態装置における膜分離装置1に対応し、これに追加されたのが第二膜分離装置51である。
【0066】
図4装置にて、図3装置と共通部位に同一符号を付すことで、その説明を省略する。
【0067】
第二膜分離装置51は、第一膜分離装置1と同様に、メタンよりも窒素を選択的に透過する分離膜51Cにより槽内が上流側の第一室51Aと下流側の第二室51Bとに区別されている。
【0068】
第一室51Aは、該第一室51Aの入口側が第一膜分離装置1の第二室1Bからの第一膜分離排ガス14を圧縮機52を経て受けると共に、圧力スイング吸着装置2からの低圧排ガス17を圧縮機58を経て受けるように、第一膜分離装置1と圧力スイング吸着装置2とそれぞれ接続されている。さらに、上記第一室51Aの出口側は、該第一室51Aからの第二膜分離処理ガス55が、第一膜分離装置1の第一室1Aからの第一膜分離処理ガス13と合流して第二合流ガス56を形成するように、上記圧力スイング吸着装置2の入口側と接続されている。
【0069】
かかる本実施形態では、メタンを主成分とし窒素を含む原料ガス11は、圧縮機5で加圧され加圧原料ガス12となり、圧力スイング吸着装置2からの中圧排ガス16Bと合流して第一合流ガス19として、第一膜分離装置1の第一室1Aへ供給される。圧力スイング吸着装置2では、第一膜分離処理ガス13よりメタン濃度が高められた製品ガス15、窒素濃度が高められメタンを含む中圧排ガス16B、吸着剤に残留している窒素が減圧吸引された低圧排ガス17が生じる。中圧排ガス16Bは、圧縮機5で加圧され加圧原料ガス12に見合った圧力のもとで加圧原料ガス12と合流し、第一合流ガス19が上記第一膜分離装置1の第一室1Aへ供給される。
【0070】
第一膜分離装置1の第一室1Aからの第一膜分離排ガス14は圧縮機52にて加圧され、圧力スイング吸着装置2からの低圧排ガス17は圧縮機58にて加圧されて、両者は合流して合流排ガス53となり第二膜分離装置51の第一室51Aに供給される。
【0071】
第二膜分離装置51では、第一室51A内へ流入した合流排ガス53中の窒素が分離膜51Cを透過して第二室51Bに流入した後、窒素濃度が高められたガスが第二膜分離排ガス54として第二室51Bに設けられた排ガス排出口から排出される。窒素が分離膜51Cを透過し分離された後に第一室51Aに残留するガスはメタン濃度が高められ残留窒素を含み第二膜分離処理ガス55として上記第一膜分離装置1からの第一膜分離処理ガス13と共に第二合流ガス56を形成して圧力スイング吸着装置2へ送られる。
【0072】
本実施形態装置による実験の結果は、表4に示されているごとくである。
【0073】
表4には、図4の各ガスの流量、圧力及び組成が示されている。この実験では、第一実施形態装置における実験の場合と同様に、原料ガス11の組成がメタン85mol%、窒素15mol%であり、第一膜分離装置1および第二膜分離装置51はメタンより窒素が28倍透過しやすい分離膜1Cもしくは分離膜51Cを備え、圧力スイング吸着装置2はメタンより窒素が5倍選択的に吸着しやすい吸着剤を備えた場合の例である。
【0074】
表4に示されているように、原料ガス11の窒素濃度は15mol%であるが、製品ガス15の窒素濃度は1mol%にまで低減した。また、原料ガス11に含まれるメタンの量に対する製品ガス15に含まれるメタンの量の割合、すなわちメタン回収率は98%であり、第三実施形態装置における実験の場合よりメタン回収率が高い値となった。
【0075】
本実施形態における実験では、メタン濃度が65mol%とメタンを多く含む中圧排ガスを排出せずに膜分離装置に帰還供給して再度窒素を分離することと、第一膜分離装置1からの第一膜分離排ガス14と圧力スイング吸着装置2からの低圧排ガス17とを圧縮後に第二膜分離装置51で再び膜分離処理することで、メタン回収率が向上した。このように、本実施形態は、製品ガスの低い残留窒素濃度を実現し、第三実施形態よりさらに高いメタン回収率を実現していることを確認できる。
【0076】
【表4】
【符号の説明】
【0077】
1 (第一)膜分離装置
1A 第一室
1B 第二室
1C 分離膜
2 圧力スイング吸着装置
11 原料ガス
13 (第一)膜分離処理ガス
16 中圧排ガス
17 低圧排ガス
51 第二膜分離装置
51A 第一室
51B 第二室
51C 分離膜
55 第二膜分離処理ガス
図1
図2
図3
図4