(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インキは溶剤系のものが多く使用されてきたが、近年の環境保全、法規制面への課題を解決するための手段として水性印刷インキへの転換が提案されている。水性印刷インキは一般包装紙や段ボール等の紙器等の印刷に広く用いられてきている。しかし、包装材用途を中心とした非浸透性のプラスチックフィルム基材に対する印刷分野においては、溶剤系の印刷インキと比較し、課題が未だ多いのが事実である。
【0003】
印刷インキの品質は、主にその主成分であるバインダー樹脂に大きく依存している。溶剤系の印刷インキの場合、汎用化、高性能化を考慮し、ポリウレタン樹脂が主たるバインダー樹脂として広く使われている。これは、ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリマーポリオールを適宜選択することにより、硬くて強靱な塗膜から柔らかくかつ弾性のある塗膜まで自由な塗膜設計ができるためである。水性印刷インキも同様に、汎用化、高性能化のためにはポリウレタン樹脂が好適と考えられ、近年多くの水性ポリウレタン樹脂の研究開発が行われてはいるが、未だ発展途上段階である。
【0004】
具体的には、ポリウレタン樹脂を用いた水性印刷インキの課題は、印刷インキの印刷適性に大きな影響を及ぼす水−アルコールへの溶解性であり、溶解性を上げる検討は今までも行われてはいるが、評価方法が充分に厳しい想定をされているものではなく、現状よりも更なるレベルアップが要求されている。また、各種プラスチックフィルム基材に対する耐ブロッキング性、ラミネート強度等のインキの塗膜物性はもちろんのこと、さらに水性印刷インキを用いたラミネート積層体の耐候性も、多様化する包装材に対応するため必要な項目となっている。
【0005】
例えば、特開2004−189968公報では、エーテル骨格を有するポリオールであるポリテトラメチレングリコールを多く用いているため、ポリウレタン樹脂中のエーテル骨格が紫外線により開裂してしまい、ラミネート積層体の耐候性が劣る。また、低温における水−アルコールへの溶解性も劣る。
【0006】
特開平9−286945公報では、耐候性に優れるエステル骨格を有するポリオールを用いているが、ポリウレタン樹脂中にウレア結合が導入されていないため、耐ブロッキング性および水−アルコールへのインキの再溶解性が劣る傾向である。
【0007】
また、特開平5−331399公報においては、親水性、親アルコール性の官能基を有さないがため、具体的には有機ジアミンにヒドロキシル基を有さないイソホロンジアミンを用いているため、水−アルコールへの再溶解性が劣る。
【0008】
さらに、特開平6−179845公報においては、有機ジアミンに親水性、親アルコール性の官能基であるヒドロキシル基をもつ2−ヒドロキシエチルエチレンジアミンを用いているが、ポリマーポリオールの数平均分子量が4000と大きいため、皮膜が柔軟になり、耐ブロッキング性が劣る。さらに、ポリマーポリオールの数平均分子量が4000と大きいため、水溶化のために組み込むカルボキシル基をポリウレタン樹脂中に点在化させることができず、水−アルコールへの再溶解性が劣る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、水性印刷インキバインダー用の水性ポリウレタン樹脂について説明する。本発明の水性ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート(a)、ポリマーポリオール(b)、分子内にカルボキシル基と少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物(c)とを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを、有機ジアミン(d)と反応させて得られる。
【0017】
本発明の水性ポリウレタン樹脂で用いるポリイソシアネート(a)としては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のジイソシアネート類を使用することができる。例えば、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4‘−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4、4‘−ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4‘−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が代表例として挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。反応性等の面から、イソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0018】
本発明に用いるポリマーポリオール(b)の数平均分子量は3000以下、すなわち、ポリマーポリオール(b)として用いる各々の数平均分子量がそれぞれ3000以下である。数平均分子量は水酸基価から算出されるものであり、水酸基価は、樹脂中の水酸基をエステル化またはアセチル化し、残存する酸をアルカリで逆滴定して算出した樹脂1g中の水酸基量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JIS K0070に従って行った値である。数平均分子量が3000を超えると、各種プラスチックフィルム基材に対する耐ブロッキング性が劣り、水溶化のために組み込むカルボキシル基をポリウレタン樹脂中に点在化させることができないため、水−アルコールへの再溶解性が劣る。また、ポリマーポリオール(b)の数平均分子量が小さくなり過ぎると、ポリウレタン樹脂皮膜が硬くなり、ラミネート強度が劣る傾向があるため、さらに好ましくは数平均分子量が1000〜3000である。
【0019】
本発明の水性ポリウレタン樹脂で用いる
ポリオール(b)は、
80重量%〜95重量%が分岐構造を有するポリエステルポリオール(b−1)であり、
20重量%〜5重量%がポリエーテルポリオール(b−2)である。分岐構造を有するポリエステルポリオール(b−1)が70重量%未満であるとラミネート積層体の耐候性および水−アルコールへの低温での溶解性が劣る
。
【0020】
本発明におけるポリエステルポリオールは、分岐構造を持つことを特徴とする。分岐構造を持たないポリエステルポリオールを用いた場合には、水−アルコールへの低温における溶解性およびラミネート強度が劣る。分岐構造を有するポリエステルポリオール(b−1)
は、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、および2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも一種と、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物との脱水縮合体または重合体であり、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオールなどの分岐構造を有する低分子ポリオール類と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸など多価カルボン酸あるいはこれらの無水物との脱水縮合体または重合体が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
本発明におけるポリエーテルポリオール(b−2)
は、酸化エチレンの重合体、すなわちポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールを用いた場合には、水−アルコールへの再溶解性が良好となる。
【0022】
本発明における活性水素含有基とは、イソシアネート基と反応するヒドロキシル基、アミノ基などの活性水素を有する基をいう。
【0023】
本発明における分子内にカルボキシル基および少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物(c)としては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸;グルタミン、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
本発明の水性ポリウレタン樹脂で用いる有機ジアミン(d)は、50重量%〜100重量%がヒドロキシル基を有する有機ジアミンである。ヒドロキシル基を有する有機ジアミンが50重量%未満であると、水−アルコールへの再溶解性が劣る。
【0025】
本発明におけるヒドロキシル基を有する有機ジアミンは、例えば、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミンが挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
本発明における有機ジアミンでヒドロキシル基を有さないものとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4‘− ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等など各種公知ものが挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
本発明における水性ポリウレタン樹脂の酸価は25〜45mgKOH/g
である。酸価は、酸をアルカリで滴定して算出した樹脂1g中の酸量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JIS K0070に従って行った値である。 酸価が25mgKOH/gより低い場合には、水−アルコールへの再溶解性および耐ブロッキング性
が劣る傾向があり、酸価が45mgKOH/gより高い場合には、ラミネート強度が低く
なる傾向がある。
【0028】
本発明の水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、5000〜100000の範囲内とすることが好ましい。重量平均分子量が5000より小さいと、各種プラスチックフィルム基材に対する耐ブロッキング性が劣る傾向にあり、100000を超えると、得られる水性印刷インキの粘度が高くなるとともに水−アルコールへの再溶解性が低下する傾向がある。
【0029】
本発明における水性ポリウレタン樹脂は、イソシアネートに対して不活性でかつ親水性の有機溶剤を用いるアセトン法、溶剤を全く使用しない無溶剤合成法等により得ることができる。本発明においては有機溶剤を使用し粘度を低下させ、合成反応を均一にスムーズに行うことができるアセトン法を用いた。
【0030】
ポリイソシアネート(a)とポリマーポリオール(b)と分子内にカルボキシル基と少なくとも2個の活性水素含有基を有する化合物(c)とを反応させてなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得る(以下、プレポリマー反応)には、50〜100℃で10分〜10時間行うのが好ましい。反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ−ク、滴定によるNCO%測定等により判断される。
【0031】
また、プレポリマー反応には、触媒を用いることもできる。使用できる触媒としては、公知の金属系触媒、アミン系触媒が使用できる。金属系触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキソエート)、 2−エチルヘキソエート鉛、チタン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキソエート鉄、2−エチルヘキソエートコバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、テトラ−n−ブチル錫等が挙げられる。アミン系触媒としてはテトラメチルブタンジアミン等の3級アミン等が挙げられる。これらの触媒はポリマーポリオールに対して0.001〜1モル%の範囲で使用される。
【0032】
ウレタンプレポリマーと有機ジアミンを反応させる際(以下、鎖延長反応)は、30〜80℃で10分〜10時間行うのが好ましい。反応の終点は、粘度測定、IR測定によるNCOピ−ク、滴定によるアミン価測定等により判断される。
【0033】
鎖延長反応には、反応停止剤を使用してもよい。反応停止剤としては、例えばジ−n−ブチルアミンなどのジアルキルアミン類などの他、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリ(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、等の水酸基を有するアミン類も用いることができる。更に、グリシン、アラニン、グルタミン酸、タウリン、アスパラギン酸、アミノ酪酸、バリン、アミノカプロン酸、アミノ安息香酸、アミノイソフタル酸、スルファミン酸などのモノアミン型アミノ酸類も挙げられる。
【0034】
本発明の水性ポリウレタン樹脂に組み込まれたカルボキシル基を中和する塩基性化合物としては、アンモニア、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いられるが、印刷物の耐水性、残留臭気等の点から、水溶性であり、かつ熱によって容易に解離する揮発性の高いものが好ましく、特にアンモニアが好ましい。
【0035】
イソシアネートに対して不活性でかつ親水性の有機溶剤としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられるが、ポリウレタンの水性化は通常減圧蒸留(脱溶剤)により除去されるため、また、脱溶剤しないで使用する場合でも乾燥速度を早めるため、水より低沸点の溶剤の使用が好ましい。脱溶剤する場合には、例えば反応溶液に水及び中和剤である塩基性化合物を添加した後、温度を上げて常圧下、又は減圧下で溶剤を必要量溜去する方法で行うことができる。
【0036】
本発明の水性印刷インキに必要とされる機能を有するために配合される着色剤としては、一般のインキ、塗料、および記録剤などに使用されている有機、無機顔料や染料を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などが挙げられる。白インキには酸化チタン、墨インキにはカーボンブラック、金、銀インキにはアルミニウム、パールインキにはマイカ(雲母)を使用することがコストや着色力の点から好ましい。
【0037】
着色剤はインキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわちインキの総重量に対して1〜50重量%の割合で含まれることが好ましい。また、着色剤は単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、本発明の水性ポリウレタン樹脂単独でも分散可能であるが、さらに顔料を安定に分散するため分散剤を併用することもできる。分散剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性などの界面活性剤を使用することができる。分散剤は、インキの保存安定性の観点からインキの総重量に対して0.05重量%以上、ラミネート強度の観点から5重量%以下でインキ中に含まれることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜2重量%の範囲である。
【0039】
本発明の水性印刷インキに必要に応じて併用される樹脂の例としては、本発明以外の水性ポリウレタン樹脂、シェラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂などを挙げることができる。併用樹脂は、本発明の目的を妨げない範囲内で、単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
本発明の水性印刷インキは、樹脂、着色剤などを水性溶液中に溶解および/または分散することにより製造することができる。具体的には、顔料を本発明のポリウレタン樹脂や前記併用樹脂、および前記分散剤により水性溶液中に分散させた顔料分散体を製造し、得られた顔料分散体に、必要に応じてワックス類、消泡剤、増粘剤、硬化剤等、他の化合物を配合することによりインキを製造することができる。
【0041】
顔料分散体における顔料の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度などを適宜調節することにより、調整することができる。分散機としては、一般に使用される、例えば、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いることができる。
【0042】
水性印刷インキ中に気泡や予期せずに粗大粒子などが含まれる場合は、印刷物品質を低下させるため、濾過などにより取り除くことが好ましい。濾過器は公知のものを使用することができる。
【0043】
前記方法で製造された水性印刷インキのインキ粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。尚、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃において測定された粘度である。
【0044】
水性印刷インキの粘度は、使用される原材料の種類や量、例えばポリウレタン樹脂、着色剤、水性溶液などを適宜選択することにより調整することができる。また、インキ中の顔料の粒度および粒度分布を調節することによりインキの粘度を調整することもできる。
【0045】
水性印刷インキは、公知のグラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、インクジェット印刷方式等でプラスチックフィルム上に印刷できる。
【0046】
印刷する際は、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式に適した粘度及び濃度にまで、水性溶液、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどのアルコール系有機溶剤と水を混合した希釈溶剤で希釈され、単独でまたは混合されて各印刷ユニットに供給される。
【0047】
プラスチックフィルムとしては、ポリエステル系、ナイロン、ポリオレフイン等が挙げられる。ポリオレフィンフィルムの場合、水酸基、カルボニル基等の官能基を有する表面処理ポリオレフィンフィルムを用いると良好な印刷物が得られる。
【0048】
本発明のラミネート積層体は、プラスチックフィルム上に本発明の水性印刷インキを印刷し、ラミネートしたラミネ−ト加工物をエ−ジングして得られる。ラミネ−ト加工法としては、1)得られた印刷物の印刷面に、必要に応じてアンカーコート剤を塗布後、溶融樹脂を積層する押し出しラミネート法、2)接着剤を塗布後、必要に応じて乾燥させプラスチックフィルムを積層するドライラミネート法等が挙げられる。溶融樹脂としては低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が使用でき、接着剤としてはイミン系、イソシアネート系、ポリブタジエン系、チタネート系などが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部および%は、特に注釈の無い場合、重量部および重量%を表す。重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)装置を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレン換算分子量として求めた。
【0050】
[合成例1]
温度計、撹拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた反応器中で窒素ガスを導入しながら、数平均分子量400のポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール96.89部、数平均分子量2000のポリエチレングリコール24.18部、2,2−ジメチロールプロピオン酸21.56部およびイソホロンジイソシアネート138.24部をメチルエチルケトン200部中で6時間沸点反応させて末端イソシアネートプレポリマーとし、しかるのち40℃まで冷却してからアセトン100部を加えて、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液を得た。次に、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン14.35部、イソホロンジアミン4.78部およびアセトン400部を混合したものに、得られた末端イソシアネートプレポリマー溶液580.87部を、室温で徐々に添加して50℃で3時間反応させ、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。次に、28%アンモニア水9.76部および脱イオン水700部を上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらに共沸下でメチルエチルケトン、アセトンの全量を留去した後、水を加えて粘度調整を行ない、酸価30mgKOH/g、固形分30%、粘度780mPa・s、重量平均分子量22000のポリウレタン樹脂PU01を得た。
【0051】
[合成例2〜32]
表1および表2の仕込み比にて、合成例1と同様の操作で、ポリウレタン樹脂(PU02〜PU32)を得た。なお、合成には下記の原料を用いた。
PMPA400:ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール(数平均分子量400)
PMPA1000:ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール(数平均分子量1000)
PMPA2000:ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール(数平均分子量2000)
PMPA3000:ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール(数平均分子量3000)
PMPA4000:ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオール(数平均分子量4000)
PPA2000:ポリ(1,2−プロピレンアジペート)ジオール(数平均分子量2000)
NPG2000:ポリ(ネオペンチルアジペート)ジオール(数平均分子量2000)
PHH2000:ポリ(1,6−ヘキサンフタレート)ジオール(数平均分子量2000)
PCL2000:ポリカプロラクトンジオール(数平均分子量2000)
PEG2000:ポリエチレングリコール(数平均分子量2000)
PPG2000:ポリ(1,2−プロピレングリコール)(数平均分子量2000)
1,4−BD:1,4−ブタンジオール
BPA−PO:ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物
DMPA:2,2−ジメチロールプロピオン酸
IPDI:イソホロンジイソシアネート
AEA:2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン
IPDA:イソホロンジアミン
DBA:ジ−n−ブチルアミン
MEK:メチルエチルケトン
【0052】
本明細書において、実施例7、9、12、15および16は参考例である。
[実施例1]
銅フタロシアニン藍15.00部、ポリウレタン樹脂(PU01)30.00部、消泡剤0.10部、イソプロピルアルコール5.00部、水19.90部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタン樹脂溶液(PU01)20.00部、イソプロピルアルコール5.00部、水10.00部を攪拌混合し、藍色印刷インキ(C01)を得た。さらに、この藍色印刷インキに、水/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比1/1)の混合溶剤を用いて、ザーンカップ#3(離合社製)で16秒になるように調整し、評価用の希釈印刷インキとした。
【0053】
[実施例2〜16][比較例1〜16]
実施例1と同様の操作で、藍色印刷インキ(C02〜16及びC17〜32)を得た。なお、各々の印刷インキに用いるポリウレタン樹脂は表3および表4の通りである。また、実施例1と同様の操作で、評価用の希釈印刷インキも得た。
【0054】
上記の希釈印刷インキをグラビア印刷機(版深25μ)にて処理ポリプロピレンフィルム(以下OPP、東洋紡績社製「パイレンP2161」、厚さ20μ)上に印刷して印刷サンプルを得、耐ブロッキング性を評価した。また、上記印刷物にイソシアネート系アンカーコート剤(東洋モ−トン株式会社製、EL557A/B)を塗工後、低密度ポリエチレン「ノバテックLC600」(日本ポリケム株式会社製)を溶融温度315℃にて押し出し、ラミネート加工を行った。低密度ポリエチレンの溶融温度は、押し出しラミネート機のTダイ直下における温度を接触式温度計(安立計器株式会社製HL−100)にて測定した。ラミネート積層体については40度、2日間のエージングを行い、ラミネート強度、耐候性評価用のサンプルとした。下記に水−アルコールへの再溶解性、水−アルコールへの低温での溶解性、耐ブロッキング性、ラミネ−ト強度、耐候性の評価方法及び判定基準を記す。
【0055】
[水−アルコールへの再溶解性]
希釈印刷インキをバラード版に塗布し、風乾させた後、希釈溶剤(水/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比70/30))を25mlかけ流し、印刷インキ皮膜の溶け具合を目視判定した。
◎ :全て溶解した。
○ :わずかな溶け残りが認められた。
○△:10%未満の面積の溶け残りが認められた。
△ :10%以上30%未満の面積の溶け残りが認められた。これ以上実用レベルである。
△×:30%以上の面積の溶け残りが認められた。
× :ほとんど溶解しなかった。
【0056】
[水−アルコールへの低温での溶解性]
ポリウレタン樹脂30gと水/イソプロピルアルコール混合溶剤(重量比30/70)30gを混合し、−20℃および−5℃で1日保管する。保管後のサンプルの外観を評価した。
◎ :−20℃保管後も、ポリウレタン樹脂の外観は透明である。
○ :−20℃保管後は、ポリウレタン樹脂の外観はわずかに濁るが、−5℃保管後は透明である。
△ :−20℃保管後は、ポリウレタン樹脂の外観は白濁するが、−5℃保管後は透明である。
これ以上実用レベルである。
△×:−20℃保管後でも−5℃保管後でも、ポリウレタン樹脂の外観に濁りが認めら れる。
× :−20℃保管後は、ポリウレタン樹脂の外観は沈殿が発生し、−5℃保管後でも 濁る。
【0057】
[耐ブロッキング性]
希釈印刷インキを、上記の方法でOPPフィルムに印刷した印刷物を用い、4cm×4cmにサンプリングし、このサンプルの印刷面と同じ大きさの未印刷フィルムの非処理面とを合わせて、40℃12時間、10kgfの加圧を行い、サンプルを剥離した時の、インキ取られ及び抵抗感を観察した。
◎ :印刷物からインキの転移が全く認められず、剥離時の抵抗感もなかった。
○ :印刷物からインキの転移が全く認められなかったが、剥離時の抵抗感があった。
△ :印刷物からインキの転移が認められ、面積にして10%未満であった。
これ以上実用レベルである。
△×:印刷物からインキの転移が、10%以上50%未満の面積で認められた。
× :印刷物からインキの転移が、50%以上の面積で認められた。
【0058】
[ラミネート強度]
上記の方法でラミネート加工したラミネート積層体を用い、ラミネート積層体のインキ部を巾15mmで裁断し、インキ面と溶融樹脂層の層間で剥離させた後、剥離強度をインテスコ製201万能引張り試験機にて剥離強度の測定を行った。なお、1.5N/15mm以上を実用レベルとする。
【0059】
[耐候性]
上記の方法でラミネート加工したラミネート積層体を用い、紫外線オートフェドメーター(スガ試験機株式会社製 型式:UA48AUHB)にて50時間紫外線を照射する。照射後のラミネート強度を測定し、照射前後でのラミネート強度の低下率を求める。低下率30%以下または1.0N/15mm以上が実用レベルである。
評価結果を表3および表4にまとめる。実施例1〜16の水性印刷インキは、比較例17〜32の水性印刷インキと比較して優れた水−アルコールへの再溶解性、水−アルコールへの低温での溶解性を示し、かつ耐ブロッキング性やラミネート適性等の良好なインキ塗膜物性を保有し、さらには耐候性にも優れた水性印刷インキを提供することができる。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】