(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記周囲長検出手段は、カフ内の流体量を可変に調整する調整過程において、前記測定部位の周囲に巻付けられたカフから検出されるカフ圧が予め定めた圧力を示すときに検出される電圧値から、前記カフが巻付けられた測定部位の周囲長を検出する、請求項1または2に記載の血圧測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る血圧測定装置1の外観斜視図である。
図1を参照して、血圧測定装置1は、本体部100と、被測定者の測定部位(たとえば、手首)に手動で巻付けられるカフ40とを備える。本体部100はカフ40に一体的に、または着脱自在に取付けられている。本体部100の表面には、たとえば液晶等により構成される表示部12と、ユーザ(被測定者)からの指示を受付けるための操作部13とが配置されている。操作部13は、複数のスイッチを含む。
【0016】
なお、本実施の形態における血圧測定装置1としては、
図1に示されるように、本体部100がカフ40に取り付けられた形態を例に説明するが、上腕式の血圧計で採用されているような、本体部100とカフ40とがエアチューブによって接続される形態のものであってもよい。
【0017】
図2は、本発実施の形態に係る血圧測定装置1のハードウェア構成を表わすブロック図である。
図2を参照して、血圧測定装置1は血圧測定部位に装着されるカフ40およびエア系を備える。カフ40は空気袋20を含む。空気袋20は、チューブ300を介して、エア系に接続される。
【0018】
血圧測定装置1は、さらに表示部12、操作部13および各部を集中的に制御し、各種演算処理を行なうためのCPU(Central Processing Unit)10、CPU10に所定の動作をさせるためのプログラムや各種データを記憶するためのメモリ11、各部に電力を供給するための着脱自在の電池15、計時動作を行なうためのタイマ14、および血圧測定装置1が設置されている環境温度を測定する温度センサ17を含む。メモリ11は、測定された血圧を記憶するための不揮発性メモリ(例えばフラッシュメモリ)などを含む。不揮発性メモリには、後述する推定部35により検索されるテーブル433、テーブル434、およびテーブル435が格納される。これらテーブルは、
図4で後述する。
【0019】
操作部13は、電源をONまたはOFFするための操作を受付ける電源スイッチ、測定開始の操作を受付けるための測定スイッチ、測定停止の指示の操作を受付けるための停止スイッチ、およびユーザ(被測定者)を選択的に指定する操作を受付けるための使用者選択スイッチを有する。操作部13は、フラッシュメモリに格納された測定血圧などの情報を読出し表示部に表示させる操作を受付けるためのスイッチも有する。
【0020】
本実施の形態では、血圧測定装置1は複数の被測定者により共用されることから、使用者選択スイッチを備えるが、共用されない場合には使用者選択スイッチは省略されてよい。また、測定スイッチを、電源スイッチと兼用してもよい。その場合には、測定スイッチは省略することができる。
【0021】
エア系は、空気袋20内の圧力(以下、カフ圧という)を検出するための圧力センサ21、カフ圧を加圧するために、空気袋20に空気を供給するためのポンプ26、および空気袋20の空気を排出または封入するために開閉される排気弁24を含む。血圧測定装置1は、エア系に関連して、増幅器22およびA/D(Analog/Digital)変換器23、ポンプ駆動回路27、および排気弁駆動回路25を含む。ここでは、ポンプ26、排気弁24、ポンプ駆動回路27および排気弁駆動回路25などは、カフ圧を調整するための調整部に相当する。ポンプ26は、本実施の形態ではロータリーポンプを想定するが、ポンプの種類は、ロータリーポンプに限定されない。
【0022】
血圧測定において正確に脈波振幅を検出するためには、ポンプ26または排気弁24によりカフ圧を一定速度で、加圧または減圧する必要がある。具体的には、等速加圧制御、または等速減圧制御では平均速度と目標速度との差に基づいて、平均速度が目標速度となるようにポンプ26または排気弁24を駆動するための駆動電圧をフィードバック制御する。
【0023】
ポンプ駆動回路27は、CPU10からの制御信号に基づき、駆動電圧信号273を生成し出力する。駆動電圧信号273はポンプ26に印加する駆動電圧(以下、ポンプ電圧という)を示す。
【0024】
排気弁駆動回路25は、CPU10から与えられる制御信号に基づいて排気弁24を制御する。
【0025】
電池15に関連してA/D(Analog/Digital)変換器16を備える。A/D変換器16は電池15の電池電圧(電池15の端子間の電圧)を入力しデジタルデータに変換して、電池電圧値を指す電圧信号513をCPU10に出力する。電池15は、乾電池などの充電不可能な1次電池、または充電可能な2次電池を適用することができる。したがって、CPU10は、検出する電池電圧の範囲内で各部を駆動することができる。
【0026】
圧力センサ21は、静電容量形の圧力センサであり、カフ圧により容量値が変化する。
圧力センサ21は、カフ圧に応じた信号を増幅器22に出力する。増幅器22は、圧力センサ21から入力した信号を増幅し、増幅後の信号をA/D変換器23に出力する。A/D変換器23は、増幅器22から入力した増幅後の信号(アナログ信号)を、デジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号をCPU10に出力する。これにより、CPU10は、カフ圧を検出する。CPU10は、A/D変換器23から得られる信号を圧力に変換することによってカフ圧を検知する。
【0027】
なお、ここではカフ40に供給される流体は空気としているが、これに限定されるものではなく、例えば液体やゲルであってもよい。あるいは、流体に限定されるものではなく、マイクロビーズなどの均一な微粒子であってもよい。
【0028】
(機能構成)
図3は、本実施の形態に係る血圧測定装置1の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3の機能構成は、CPU10が有する機能と、その周辺部を用いて示される。
【0029】
図3を参照して、CPU10は、操作部13を介したユーザの操作を受付けるための操作受付部30、A/D変換器23からの圧力信号を入力する脈波検出部31および圧力検出部32、ポンプ駆動回路27と排気弁駆動回路25とに制御信号を出力する駆動制御部33、オシロメトリック法に従って血圧値を決定する血圧決定部34、メモリ11のデータを読み書き(アクセス)するためのアクセス部36、表示部12の表示を制御する出力部37、および推定部35を備える。
【0030】
推定部35は、カフ40が巻付けられた測定部位の周囲長を検出(推定)する周囲長検出部351および測定部位に対するカフ40の巻付強度を検出(推定)する巻付強度検出部352、および調整部に印加される電圧の検出電圧値を補正した後に、補正後の電圧値を出力する補正部353を含む。なお、電圧補正部353による補正は、検出電圧値を所定の条件に従って可変に変更することを示す。
【0031】
駆動制御部33は、血圧測定中に排気弁駆動回路25およびポンプ駆動回路27を制御することにより、加圧速度目標に従ってカフ圧を加圧・減圧させるための機能を有する。駆動制御部33は、カフ圧を調整するために、排気弁駆動回路25およびポンプ駆動回路27に制御信号を送信する。具体的には、カフ圧を加圧し、または減圧するための制御信号を出力する。取分け、制御信号は、後述するフィードバック制御に従って出力される。
【0032】
脈波検出部31は、A/D変換器23からの圧力信号に重畳される動脈の容積変化を表す脈波信号を、フィルタ回路を用いて検出する。圧力検出部32は、カフ圧を検出するために、A/D変換器23からの圧力信号を圧力値に変換し、出力する。
【0033】
血圧決定部34は、オシロメトリック式に従い血圧を決定する。具体的には、血圧測定時に圧力検出部32から入力するカフ圧と、脈波検出部31により検出された脈波とを用いて、脈波振幅の推移とカフ圧とに基づき血圧を決定する。例えば、脈波振幅の最大値に対応するカフ圧を平均血圧、また脈波振幅の最大値の50%に相当する高カフ圧側の脈波振幅に対応するカフ圧を収縮期血圧、また脈波振幅の最大値の70%に相当する低カフ圧側の脈波振幅に対応するカフ圧を拡張期血圧と決定する。また、脈拍数を、脈波信号を用いて公知の手順に従って算出する。取得された血圧値および脈拍数の測定データは、出力部37を介して表示部12に表示され、または、アクセス部36を介してメモリ11に格納される。表示または格納される測定データには、タイマ14から入力した測定時間、検出される巻付強度または周囲長が含まれてよい。
【0034】
(巻付強度の検出)
カフ40は、
図1のように略長方形の形状を有した帯状の袋であり、袋内に空気袋20が内蔵される。測定部位に巻付ける場合には、カフ40の長手方向に延びる辺を測定部位の周囲(腕周)に沿わせるようにして巻付ける。巻付けが完了した状態では、カフ40は測定部位の周囲に沿った円筒状の形状を取る。この状態でカフ40が測定部位に適度に巻付けられている場合には、腕周長とこの円筒の断面の円周の長さはほぼ等しくなり、測定部位に対する与圧は血圧測定のための適正レベルである‘ぴったり’巻きの状態となる。一方、腕周長に対して円周の長さが短い場合にはカフ40が測定部位にきつめに巻かれて測定部位に対する与圧は適性レベルよりも高めである‘きつ’巻きの状態となる。逆に、長い場合にはカフ40が測定部位にゆるく巻かれて測定部位に対する与圧は適性レベルよりも低い‘ゆる’巻きの状態となる。
【0035】
このような‘きつ’巻きおよび‘ゆる’巻きの状態で血圧測定を開始した場合には、測定部位の動脈に対して適切な加圧をすることができず、血圧測定の精度は得られない。したがって、測定精度を得るためには、測定部位の動脈に対してカフ40の内圧により適度に加圧することが可能な‘ぴったり’巻きであることが要求される。
【0036】
<巻付強度の検出の原理>
本実施の形態では、出願人による特許文献2に記載の方法を用いて巻付強度が検出される。つまり、測定部位に被測定者が手動で巻付けたカフ40のカフ圧と、カフ40の空気袋20内へ供給する流体(本実施の形態では、空気)の容積変化に基づきi)カフ圧が、大気圧P11から圧力P22になるまでに必要な流体容積ΔV12と、ii)カフ圧が、圧力P22から圧力P33になるまでに必要な流体容積ΔV23とを検出し、iii)流体容積ΔV12とΔV23の変化率を算出する、ことによって、カフ40の測定部位に対する巻付強度を検出する。
【0037】
ここでは、カフ圧を加圧する過程で求められるカフ圧−容積変化関係を用いているが、減圧する過程で求められるカフ圧−容積変化関係を用いて巻付強度を検出することもできる。
【0038】
まず、上述の大気圧P11から圧力P22までの時間経過に従うカフ圧−容積変化関係と、圧力P22から圧力P33までの時間経過に従うカフ圧−容積変化関係の検出について述べる。
【0039】
測定部位にカフ40が巻付けられている状態で、ポンプ26を加圧開始からの所定期間(
図5の区間(A))で単位時間当たり一定の吐出流量となるように駆動してカフ圧を加圧する。この加圧期間においては、排気弁24によりカフ40内には流体が閉じ込められた状態となる。この状態でカフ圧の変化(圧力P11から圧力P22への変化、または、圧力P22から圧力P33への変化)に要するタイマ14を用いた経過時間の計時がカフ40の容積を検出する容積検出部に相当する。
【0040】
‘ぴったり’巻きであれば、カフ圧は、加圧の開始から一定の傾きをもって増加する。それに対し、‘きつ’巻きであれば加圧開始後、急激にカフ圧は上昇し、その後一定の傾きで上昇する。また、‘ゆる’巻きである場合には、加圧開始後、カフ圧が上昇を開始するまでの時間は長くなり、上昇を開始した後は、一定の傾きで上昇する。
【0041】
つまり‘ぴったり’巻きである場合には、加圧時間に拘らず、カフ40(空気袋20)の容積のみに基づいた一定の圧力容積変化ΔP/ΔVとなる。これに対し‘キツ’巻きの場合には、加圧開始直後は一定であるが、その後圧力容積変化ΔP/ΔVの値は急激に小さくなり、その後、一定を維持する。これに対し、‘ゆる’巻きの場合には、加圧開始後からある一定時間は圧力容積変化ΔP/ΔVの値はほとんど変化せず、ある時点で一気に増加すると、その後はほぼ一定の値をとり続ける。これらの特性を示すデータはメモリ11に予め格納されており、巻付強度検出部352は上述の容積検出部を有し、脈波による血圧測定がされる前の区間(A)で、容積検出部を用いて検出する圧力容積変化ΔP/ΔV値の変化を、メモリ11の変化特性データを照合し、照合結果に基づき巻付強度を推定(検出)する。
【0042】
なお、巻付強度は、被測定者が操作部13を操作して入力することで取得されるとしてもよい。または、メモリ11に格納されている被測定者の巻付強度の履歴から、CPU10が最頻値である巻付強度を読出すことで取得されるとしてもよい。
【0043】
(ポンプ26のフィードバック制御)
オシロメトリック式に従って血圧測定する場合には、測定精度を得るために、カフ圧を一定の加圧速度目標で加圧しなければならない。つまり、血圧測定開始時に駆動制御部33は、加圧目標値に基づいた電圧を示す制御信号を生成しポンプ駆動回路27に出力する。これにより、ポンプ駆動回路27は、加圧目標値に従ってポンプ26を駆動するための駆動電圧信号273を生成しポンプ26に出力する。
【0044】
初期の加圧速度目標に従って加圧開始後、駆動制御部33は、圧力検出部32から入力するカフ圧に基づきカフ圧の加圧速度を算出し、算出した加圧速度と、現在の加圧速度目標とを比較し、比較結果に従う両者の差に基づく電圧を示す制御信号を生成し、ポンプ駆動回路27に出力する。このように制御信号を用いて、ポンプ26は、加圧速度が加圧速度目標となるようにフィードバック制御される。
【0045】
ポンプ26の吐出流量は、駆動制御部33から与えられる制御信号が示す電圧に比例する。したがって、上述のフィードバック制御は、駆動制御部33が出力する制御信号が示す電圧を変更することにより実現することができる。
【0046】
(加圧過程でのカフ圧とポンプ電圧の変化)
図5は、本発明の実施の形態に係る血圧測定時のカフ圧変化を模式的に示す図である。
図6は、
図5に関連してカフ圧Pcの変化に従うポンプ電圧の変化を模式的に示す図である。
【0047】
加圧過程で血圧測定する場合にカフ圧制御方法について説明する。
図5を参照して、測定期間は(A)急速加圧区間、(B)等速加圧区間、および(C)急速排気区間の3つの区間に分けられる。
【0048】
(A)急速加圧区間は、測定開始(加圧開始)からカフ圧が所定値P1となるまでの間。
【0049】
(B)等速加圧区間は、カフ圧P1〜血圧算出終了までの間。
(C)急速排気区間は、血圧算出終了〜排気完了までの間。
【0050】
図5の所定値P1は、等速加圧による一定速度加圧(脈波検出)を開始するためのカフ圧値であり、被測定者について想定される最も低い拡張期血圧(最低血圧)より十分に低い値に設定する。また、区間(B)は等速加圧開始からカフ圧が所定値P2となるまでの区間(1)、その後の初めて脈波検出がされる直前から直後の区間(2)、その後のカフ圧Pcが加圧目標となるまでにおいて脈波が検出される区間(3)を含む。ここでは、所定値P2は実験などのデータから設定する。また、加圧目標は、被測定者の収縮期血圧(最高血圧)+αmmHg(ただし、α>0)に設定する。
【0051】
図5では、被測定者は、十分に排気がされたカフ40を測定部位に巻き付けて加圧の開始操作をする。加圧開始時には排気弁24は閉じている。加圧開始後の区間(A)ではポンプ26に一定電圧V1を示す駆動電圧信号273が印加される。これによりカフ圧Pcは所定値P1まで急上昇する。その後の区間(B)では目標加圧速度(単位:mmHg/sec)で等速加圧できるようにポンプ電圧が可変制御される。等速加圧は上述のフィードバック制御によってカフ圧Pcが加圧目標を示すまで継続する。その後の区間(C)ではポンプ26は停止し、排気弁24により、チューブ300を介し空気袋20から急速排気(カフ圧の急速減圧)される。
【0052】
まず、区間(A)では、巻付強度検出部352により巻付強度を検出する。カフ圧Pcが圧力P1を示して区間(A)が終了すると、推定部35は、メモリ11のテーブル433を、区間(A)の所要時間に基づき検索することにより、等速加圧開始時の電圧Vx(またはXy)を決定する。また、巻付強度により当該所要時間は異なるから、間接的には、電圧Vx(またはXy)は巻付強度から決定することもできる。
【0053】
図4(A)を参照し、テーブル433は実験による取得したデータであって、所要時間33Aと、所要時間33Aのそれぞれに対応して、等速加圧開始時の電圧33Bおよび巻付強度33Cが格納される。推定部35は区間(A)で検出された所要時間または巻付強度に基づきテーブル433を検索することにより、対応する電圧33Bを読出す。CPU10の駆動制御部33は、電圧33Bの電圧値を示す制御信号を生成し、ポンプ駆動回路27に出力する。
【0054】
これにより、区間(B)の等速加圧開始時にポンプ26に印加する駆動電圧信号273が生成されて、ポンプ電圧が決定する。
【0055】
なお、テーブル433から決定される等速加圧開始時の電圧33Bが示すポンプ電圧Vx(Vy)は、ポンプ26の上限駆動電圧(定格値)と区間(B)の所要時間(周囲長が違っても一定時間となるような所要時間を示す)と予め定めた等速加圧速度(単位:mmHg/sec)とに基づき、経験的に決められた値とされる。
【0056】
等速加圧開始時のポンプ電圧が決定し、上記のフィードバック制御のもとで等速加圧が開始される。
【0057】
(周囲長の検出)
本実施の形態では、カフ圧に依存するカフ容量よりもポンプ電圧の方の変化が顕著であることに着目し、周囲長検出のためにポンプ電圧を参照する。
【0058】
図6には、発明者らの実験により取得された、区間(B)における上記の圧力−電圧変化関係が模式的にグラフで示される。グラフの横軸にはカフ圧Pcがとられ、縦軸にはポンプ電圧がとられる。
図6では、巻付強度が“ぴったり”巻きであるときの周囲長(太い、細い)別の圧力−電圧変化関係のグラフを例示する。
【0059】
周囲長検出部351は、区間(B)の等速加圧過程において周囲長を検出する。ここでは、同じ巻付強度であっても、周囲長に依存して空気袋20中の空気容量は異なることから、区間(B)におけるカフ圧変化に従うポンプ電圧の変化も周囲長で相違する。つまり、
図6に示すように、同じ巻付強度であっても、周囲長が異なればカフ圧Pcが所定値P2を示す時のポンプ電圧は異なる。この点に着目して、周囲長を検出する。
【0060】
具体的には、周囲長検出部351は、区間(B)において検出されるカフ圧の変化と、当該カフ圧の変化に伴って検出されるポンプ電圧値の変化とに従った圧力−電圧変化関係から、カフ40が巻付けられた測定部位の周囲長を検出する。
【0061】
メモリ11には、周囲長を検出するために参照される巻付強度毎のテーブル435が予め格納される。メモリ11の各テーブル435のデータは予め実験による取得される。テーブル435は、カフ圧Pcが所定値P2を示すとき検出されるポンプ電圧35Aのデータと、周囲長35Bのデータとを対応づけて格納する。
【0062】
動作において、周囲長検出部351は、区間(A)で検出された巻付強度(ぴったり巻き、ゆる巻き、きつ巻き)に基づき、メモリ11から対応するテーブル435を抽出する。そして、抽出したテーブル435を、カフ圧Pcが所定値P2を示すときに検出されたポンプ電圧に基づき検索することにより、当該検出ポンプ電圧に該当するポンプ電圧35Aに対応した周囲長35Bをテーブル435から読出す。これにより、周囲長が検出される。
【0063】
他の検出方法として、
図6に示すグラフの傾き、すなわち((Vα−Vx)/(P2−P1))の値と、((Vβ−Vy)/(P2−P1))の値を算出し、算出した傾きから検出するとしてもよい。具体的には、巻付強度毎の傾きを登録したテーブルをメモリ11に格納しておく。各テーブルには、当該巻付強度の場合における周囲長別に、傾き値が予め登録される。検出した傾きに基づきテーブルを検索することにより、対応する周囲長をテーブルから読出す。なお、これらテーブルのデータも、予め実験により取得される。
【0064】
(温度によるポンプ電圧の調整)
検出されるポンプ電圧は、ポンプ26の、より特定的にはポンプ26の構成要素の温度特性に基づき補正する、すなわち可変に変更するようにしてもよい。
【0065】
ここで、ポンプ26がロータリーポンプである場合には、ポンプ26は構成要素として、チューブ300に連通する空気吐出口および外部からの空気の吸込口が形成された空気室(チャンバ)と、空気室内に設置されて駆動電圧信号273によって回転するロータとを含む。空気室内でロータが回転することにより空気は吸込口から吐出口へ押し出され、チューブ300を経由してカフ40へ送出される。その結果、カフ圧は上昇する。
【0066】
しかしながら、空気室およびロータのなどの部品材料は周囲の環境温度に依存して膨張するから、ポンプ電圧を環境温度に従って変更する必要がある。つまり、これら部品が膨張すると、ポンプ26に印加されるポンプ電圧が同じであったとしても、吐出口から送出される空気容量が異なることになり、その結果、単位時間あたりに空気袋20内に送り込むことのできる空気容量も変化し、ひいてはカフ圧も変化し、周囲長および巻付強度の正確な検出が困難となる。これを解消するために、本実施の形態では、検出されるポンプ電圧を、ポンプ26の温度特性に基づき補正する。
【0067】
ポンプ電圧を補正するために、
図4(B)のテーブル434が参照される。
図4(B)を参照して、テーブル434には異なる温度34Aと、温度34Aのそれぞれに対応して補正のための係数34Bが格納される。テーブル434のデータは、予め実験により取得される。
【0068】
推定部35の電圧補正部353は、A/D変換器28から入力するポンプ電圧の値に基づきテーブル434を検索し、対応する係数34Bを読出す。読出した係数と検出されたポンプ電圧の値とを用いた所定の演算式により、検出ポンプ電圧の値を補正する。
【0069】
電圧補正部353は、このような補正により算出したポンプ電圧の値を周囲長検出部351および巻付強度検出部352に出力する。周囲長検出部351および巻付強度検出部352は、電圧補正部353から与えられるポンプ電圧を用いて、上述した周囲長および巻付強度を検出する。
【0070】
これにより、ポンプ26の温度特性に従って補正されたポンプ電圧を用いることが可能となり、周囲長および巻付強度をより正確に検出することが可能になる。
【0071】
(ポンプの個体差によるポンプ電圧調整)
カフ圧が同じ値を示す場合であっても、ポンプ電圧はポンプ26の、より特定的にはポンプ26の構成要素が有する個体差に依る特性によってばらつくことから、本実施の形態では、検出されたポンプ電圧を当該個体差に従って可変に変更する。
【0072】
ここでは、個体差による特性を示す値の1つとして、空気室の容積に着目する。同じポンプ電圧が印加されている場合であっても、空気室の容積が異なればカフ40に送出される空気容量は相違する。したがって、等速加圧においては、カフ圧Pcが所定値P2を示すときに検出されるポンプ電圧は、空気室の容積の差に起因して相違することになる。したがって、電圧補正部353では、検出されたポンプ電圧を当該容積差に基づき可変に変更し、変更後の(補正された)ポンプ電圧値を周囲長検出部351に出力する。
【0073】
図7では、
図6のグラフに空気室の容積の相違に従うグラフL1とL2を追加して示す。区間(B)の等速加圧過程においては上記の容積差により
図7の一点鎖線のグラフL1(またはL2)が検出される。電圧補正部353は、グラフL1(またはL2)を実線のグラフに近似させるように、検出されるポンプ電圧を補正する。この補正のために、補正係数Rを用いる。
【0074】
つまり、
図4(C)のテーブル435の値を取得するために用いたポンプについて基準カフ圧P3が検出されるときに検出されるポンプ電圧(以下、基準電圧という)を予め実験により取得し、メモリ11に格納しておく。ここで、基準カフ圧P3は(P1<P3<P2)の条件を満たす値である。したがって、等速加圧過程において補正係数Rを、(基準カフ圧P3における検出ポンプ電圧/基準電圧)の式で算出することができる。
【0075】
電圧補正部353は、等速加圧過程においてカフ圧Pcが所定値P2を示すときに検出されるポンプ電圧Vを入力すると、(ポンプ電圧V×R)の式により検出ポンプ電圧を補正し、補正後のポンプ電圧値を周囲長検出部351に出力する。したがって、周囲長検出部351は、テーブル435を補正後のポンプ電圧値により検索することができるから、ポンプ26の個体差の特性(空気室の容積の相違)に依らない周囲長を検出することができる。なお、ポンプ26の個体差に依る特性値は、空気室の容積に限定されるものではない。
【0076】
(フローチャート)
図8には、本実施の形態に係る血圧測定のための処理フローチャートが示される。このフローチャートに従う処理は、予めプログラムとして、メモリ11の所定記憶領域に格納されており、CPU10がプログラムをメモリ11から読出し実行することにより、血圧測定処理が実現される。
【0077】
なお、測定に際して、被測定者は予め測定部位にカフ40を、手動で巻付けているものと想定する。
【0078】
被測定者が、スイッチを操作して測定開始を指示すると、初期化処理が行なわれる(ステップS202)。これにより、カフ40の空気袋20内の空気は排気されて、カフ圧は、ほぼ大気圧に等しくなる。
【0079】
続いて、排気弁24が閉じられた後にポンプ26が駆動されることで、区間(A)の加圧が開始される。区間(A)では、巻付強度検出部352により、上述のように巻付強度が検出される(ステップS204)。
【0080】
巻付強度検出処理が終了すると、巻付強度の検出結果は、メモリアクセス部150を介してメモリ11の所定の記憶領域に一時的に格納される(ステップS206)。一時的に格納された巻付強度の検出結果は、後述の血圧測定結果と関連付けて、メモリ11に格納されるとしてもよい。
【0081】
区間(A)を経て、区間(B)の等速加圧過程では、周囲長検出部351により上述した手順で周囲長が検出され(ステップS212)、検出結果の表示部12による表示(ステップS213)および血圧決定部34により血圧測定がされる(ステップS214)。血圧測定の結果(収縮期血圧、拡張期血圧および脈拍数など)は、タイマ14からの測定時間データと関連付けてメモリ11に格納される。血圧測定が完了すると、一連の処理は終了する。なお、測定結果は表示部12により表示され、血圧測定時に検出された巻付強度および周囲長も表示されて、被測定者に報知するとしてもよい。
【0082】
(フローチャートの変形例)
図8のフローチャートは、ステップ204において検出された巻付強度によらず血圧測定(ステップ214)を実行するものであるが、“ぴったり巻き”と検出されたときにのみ血圧測定を実行するように変更してもよい。
図9には、このように変更する場合に
図8のフローチャートに追加されるべき処理が示される。
【0083】
図9を参照して、“ぴったり巻き”と検出されたときにのみ血圧測定を実行する場合には、検出された巻付強度をメモリ11に格納すると(ステップ206)、当該巻付強度を表示部12に表示する(ステップ208)。表示を確認した被測定者は、カフ40の測定部位に対する巻付け直しを行うことにより、“ゆるい”と確認した場合にはきつめに、また“きつい”と確認した場合にはゆるめに巻付け直すことで、ぴったり巻きにすることができる。なお、“ぴったり”と確認した場合には被測定者は巻付け直しをしないと想定する。
【0084】
CPU10は、巻付強度検出部352の出力から、“ゆるい”または“きつい”と検出されたと判定すると(ステップS210でNO)、ポンプ26を停止して排気弁24を開くことで、カフ40内の空気袋20の空気をすべて排気する(ステップS215)。これにより、血圧測定は中止(強制的に終了)する。ユーザは巻付け直しをスムーズに行うことができる。
【0085】
ユーザは、巻付け直した場合には、再度、操作部13の測定開始のスイッチを操作する。CPU100は、操作受付部30の出力から測定開始スイッチがユーザにより操作されるか否かを判定する(ステップS216)。
【0086】
スイッチが操作されたと判定すると(ステップS216でYES)、血圧測定を開始するために、処理はステップS204に戻り、巻付強度検出処理(ステップS204)が同様に行われる。スイッチが操作されたと判定されないと(ステップS216でNO)、血圧測定は行なわれずに一連の処理は終了する。
【0087】
(減圧過程における周囲長検出)
上述では加圧過程で周囲長を検出したが、カフ圧の減圧過程で周囲長を検出するようにしてもよい。
図10は、本実施の形態における減圧過程で周囲長を検出する手順を説明するための図である。まず、排気弁24の駆動方法について説明する。
【0088】
・排気弁の駆動方法
排気弁駆動回路25は、駆動制御部33からの制御信号に基づいて排気弁24の開閉動作を電磁誘導により制御する。排気弁24は樹脂材料からなる弁体を有する。弁体は、チューブ300に連通する排気弁24側の開口部に位置する。排気弁駆動回路25は、駆動制御部33からの制御信号が示す電圧(以下、バルブ制御電圧という)に従って、排気弁24を電磁力により自在に移動させる。排気弁24の移動に連動して弁体が移動することにより、開口部から排気される空気量が調節される。
【0089】
具体的には、駆動制御部33は、上記したポンプ26のフィードバック制御と同様にして、減圧速度が予め定めた目標速度となるようなバルブ制御電圧を決定し、排気弁駆動回路25に制御信号を出力する。排気弁駆動回路25は、駆動制御部33からのバルブ制御電圧に従に従い電磁力を発生させる。排気弁24は電磁力により自在に移動し、排気弁24の移動に連動して弁体が、開口部側に近づく/離れるように移動し、当該移動により排気弁24側から開口部への送圧量が可変に調整される。これにより、空気袋20から開口部を介し排気される空気量が調節されて減圧速度が可変に変更される。
【0090】
ここでは、排気弁24は、高いバルブ制御電圧が印加されるほど上記の開口部への送圧量が多くなるように移動し、開口部からの排気量を少なくするように動作する。つまり、開口部が閉じられるように動作する。
【0091】
このように、開口部に対する弁体の移動を制御することで減圧過程が実施される。また、減圧過程では、弁体を開口部から十分に離れるように移動させることで急速排気が実施される。なお、上述した加圧過程では弁体が開口部に当接した全閉状態となる。
【0092】
図10は、ぴったり巻きである場合の減圧過程におけるカフ圧変化とバルブ制御電圧の変化との関係を示すグラフである。グラフの縦軸には、バルブ制御電圧がとられ、横軸にはカフ圧Pcがとられている。
【0093】
図10を参照して、カフ圧Pcが加圧目標まで達したことが判定されると、駆動制御部33はポンプ26を停止し、且つ排気弁駆動回路25に予め定めたバルブ制御電圧を印加し排気を開始させる。
【0094】
動作において、CPU10は、予め定めたバルブ制御電圧が排気弁24に印加されることで、圧力検出部32からの出力に基づきカフ圧Pcが加圧目標から、たとえばκ1(κ1>0)mmHgだけ減圧したと判定したとき、タイマ14が計測する当該減圧のための所要時間に基づき、等速減圧開始時のバルブ制御電圧Vpを決定する。バルブ制御電圧Vpは、加圧過程のためのテーブル433と同様のテーブルを検索することで決定することができる。
【0095】
等速減圧開始時のバルブ制御電圧Vpが決定すると、等速減圧が開始される。つまり、目標速度の等速でカフ圧Pcが減圧されるようにバルブ制御電圧がフィードバック制御により可変に変更される。等速減圧過程において、カフ圧Pcが所定値P2a(たとえば、加圧目標からκ2(κ>0)mmHgだけ減圧された値)を示す時に、排気弁駆動回路25に印加されているバルブ制御電圧Vqと、予め定めたカフ圧変化(κ1(mmHg)〜κ2(mmHg))と当該カフ圧変化に従うバルブ制御電圧の変化(Vp−Vq)とによるカフ圧−電圧の関係から周囲長を推定する。この周囲長の推定においても、テーブル435に準じたテーブルをメモリ11に予め格納しておき、このテーブルを検索することで周囲長を検出することができる。
【0096】
図10では、ぴったり巻きのもとで、周囲長が“細い”および“太い”のそれぞれのケースで、カフ圧−電圧の関係が示される。周囲長が太い場合には、巻付けられた状態で空気袋20の容積は細い場合に比較して大きくなる。そのため、細い場合と同じ速度で減圧しようとすれば、太い方が開口部への送圧量をより少なくして排気量を多くすることになる。したがって、周囲長が細い場合と太い場合とでは、バルブ制御電圧は太い場合の方が速く低下する(
図10参照)。したがって、周囲長検出部351は、圧力検出部32が検出するカフ圧と駆動制御部33が決定するバルブ制御電圧とから、メモリ11を利用して
図10のグラフのデータを取得し、取得したグラフの傾きから周囲長を推定することができる。
【0097】
また、排気弁24の弁体は樹脂材料であるから、血圧測定装置1の周囲の環境温度により膨張の程度が異なる。したがって、排気弁24についても、ポンプ26で適用した温度によるバルブ制御電圧を補正する。
【0098】
上述の本実施の形態では、血圧測定を、等速加圧過程で実施するとしたが、等速加圧過程に代替して上記の等速減圧過程で行うようにしてもよい。
【0099】
また、本実施の形態は、ポンプ電圧およびバルブ制御電圧をテーブルを検索することによる取得したが、予め定めた演算式から算出するようにしてもよい。
【0100】
(測定データの格納例)
図11は、本実施の形態に係る血圧測定に関するデータを記録するためのメモリ11のテーブル394を示す図である、
図11を参照して、テーブル394は、血圧測定のデータをレコード単位で格納する。各レコードは、当該レコードを一意に識別するためのID(identification)のデータ39E、被測定者(使用者)を識別するデータ39F、測定の日時のデータ39G、血圧値(収縮期血圧データSBPと拡張期血圧データDBP)および脈拍数データPLSを含むデータ39H、測定部位におけるカフ40の装着状態、すなわち巻付強度を示すデータ39Iおよび測定条件のデータ39Jを含む。データ39Jが示す測定条件は、対応のデータ39Hの血圧測定時にカフ40が巻付けられた測定部位の周囲長を示す。周囲長は“L”と“M”のいずれかで指示される。“L”は周囲長が比較的長いことを指す。ここでは、M<Lの関係を有する。
【0101】
テーブル394における血圧測定データの記憶の態様は、
図11に示すようなレコード単位には限定されない。血圧が測定される毎に、検出されたデータ39E〜39Jが関連付けられて記録される態様であればよい。
【0102】
(表示例)
図12は、本実施の形態に係る血圧測定結果の表示例を示す図である。
図12を参照して、表示部12には出力部37によって、測定結果として、巻付強度のデータ40Bと、収縮期血圧、拡張期血圧および脈拍数を含むデータ40Cと、周囲長のデータ40Dと、測定日時のデータ、などが同一画面に表示される。
図12ではデータ40Bにより、巻付け強度が適切(“ぴったり”巻き)であったことが「GOOD」の文字によって表示される。また、データ40Dによって、検出された周囲長(サイズM、L)の別が表示される。
【0103】
このように本実施の形態では、カフ内の容量の変化に依存せずに、カフ圧の調整部であるポンプ26または排気弁24のための制御電圧を用いてカフ40の巻付け状態(巻付強度および周囲長)を検出することができる。
【0104】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。