特許第6136128号(P6136128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136128
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】射出成形機用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/20 20060101AFI20170522BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20170522BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16H25/20 A
   F16H25/22 D
   F16H25/24 B
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-142494(P2012-142494)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-5893(P2014-5893A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和馬
(72)【発明者】
【氏名】水口 淳二
(72)【発明者】
【氏名】大谷 雄志
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−347071(JP,A)
【文献】 特開2000−320637(JP,A)
【文献】 特開2008−101711(JP,A)
【文献】 特開2001−248706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転動溝が形成されたねじ軸と、前記転動溝に対応する転動溝が内周面に形成され、該転動溝と前記ねじ軸の転動溝とによって形成される負荷転動路に配設された複数の転動体を介して前記ねじ軸に螺合するナットと、該ナットに設けられ、前記負荷転動路から掬い上げた前記転動体を案内して再び前記負荷転動路に戻して循環させる複数の循環部品とを備えたボールねじと、
前記ねじ軸と平行軸で駆動対象に接続された伝達部材と、
前記ボールねじのナットの近位端と前記伝達部材とを連結する連結部材とを有して射出成形機に設けられる射出成形機用駆動装置において、
前記伝達部材から前記連結部材に対して加えられた偏荷重によって前記ナットが変位する方向を含む面を跨ぐように前記循環部品が前記ねじ軸の軸方向に沿って一列に配置されていることを特徴とする射出成形機用駆動装置。
【請求項2】
ボールねじが複数設けられ、前記連結部材が前記複数のボールねじのそれぞれのナットを連結してなり、
前記複数のボールねじのそれぞれの前記循環部品が互いに対向するように配置されたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機用駆動装置。
【請求項3】
ボールねじが複数設けられ、前記連結部材が前記複数のボールねじのそれぞれのナットを連結してなり、
前記複数のボールねじのそれぞれの前記循環部品が互いに反対側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機用駆動装置に関し、特に、ボールねじを複数有する射出成形機用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、射出成形機やダイカストマシンといった高荷重が必要な駆動装置の伝達部材としては、油圧方式が用いられていた。
近年、様々な分野において省エネルギー化・クリーン環境は重要な項目となっており、常時電源が必要かつ作動油による汚染の可能性がある油圧駆動から、省電力が可能で油による汚染がないボールねじ駆動への置換えが進んでいる。
【0003】
ボールねじを用いた駆動装置の構成としては、1つの伝達部材に複数本のボールねじを使用する構成が一般的であり、特に、高い荷重が加わる伝達部材においては、ボールねじを複数本用いることが多い。このような、1つの伝達部材に複数本のボールねじを用いる駆動装置においては、伝達部材の荷重作用点とボールねじ軸の中心は一致しない場合が多い。
その場合、図10に示すように、伝達部材40による荷重Fが連結部材30上の作用点Sに加わった場合、複数のボールねじ10,20を連結している連結部材30の両端部が撓む向きfで弾性変形する。その結果、ボールねじ10,20の各ナット12,22が傾くことによって偏荷重が加わる。
【0004】
そして、偏荷重により、ナット12,22内の特定位置のボールの荷重が極めて大きくなることにより、結果として、偏荷重が無い場合と比べてボールねじの寿命は短くなる。
このような、偏荷重によるボールねじ装置の寿命低下を低減する技術が特許文献1に開示されている。
特許文献1で開示された駆動装置は、図11に示すように、射出成形機の(射出)スクリューの直線駆動部に適用されるもので、シリンダ110が一体に取付けてある固定部材112と、その固定部材112と対向させて移動自在に配設されたスクリュー111と共に移動する可動部材113と、固定部材112に取付けてあるナット126と、ナット126と螺合するねじ部121、及び軸部122を備え可動部材113において軸方向を拘束されたねじ軸118と、ねじ軸118を回転させることによって、可動部材113を移動させる駆動手段とを有する。軸部122の所定箇所には、変形することによって偏荷重を吸収する小径部163が形成され、ねじ軸118とナット126との偏心量を吸収することができると共に、ねじ軸118とナット126とが相対的に傾くのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−248706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1に記載の駆動装置においては、ねじ軸118のベアリング119近傍の軸部122を小径にして曲げ剛性を小さくして、固定部材112と可動部材113の変形に倣ってねじ軸118が変形するようにして、ねじ軸118とナット126に傾きをなくし、ボールとボールねじ溝の面圧増加を防止するようにしている。しかしながら、特許文献1に記載の駆動装置においては、射出成形機が大型になり、射出荷重が大きくなり、ボールねじが大径化すると、従来のボールねじの構造で十分に曲げ剛性を低減しようとすると、小径部163を長くするか、小径部163の径をより小さくする必要がある。ここで、小径部163を長くすることは、駆動装置の設置長さが長くなってしまう問題が生じ、小径部163の径を小さくすることは、射出荷重と駆動トルクを支えることが難しくなるという問題が生じる。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、大型化することなく適切に射出荷重と駆動トルクを支え、ボールねじのナットが傾くことによる寿命低下が小さい射出成形機用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、ナットが傾くことよって、最も高荷重がかかる位置に有効ボールを配置させないことにより、ナットが傾くことによる寿命低下を小さくすることを知見した。
本発明は、本発明者による上記知見に基づくものであり、上記課題を解決するための本発明の請求項1に係る射出成形機用駆動装置は、外周面に転動溝が形成されたねじ軸と、前記転動溝に対応する転動溝が内周面に形成され、該転動溝と前記ねじ軸の転動溝とによって形成される負荷転動路に配設された複数の転動体を介して前記ねじ軸に螺合するナットと、該ナットに設けられ、前記負荷転動路から掬い上げた前記転動体を案内して再び前記負荷転動路に戻して循環させる複数の循環部品とを備えたボールねじと、
前記ねじ軸と平行軸で駆動対象に接続された伝達部材と、
前記ボールねじのナットの近位端と前記伝達部材とを連結する連結部材とを有する射出成形機用駆動装置において、
前記伝達部材から前記連結部材に対して加えられた偏荷重によって前記ナットが変位する方向を含む面を跨ぐように前記循環部品が前記ねじ軸の軸方向に沿って一列に配置されていることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る射出成形機用駆動装置は、請求項1に記載の射出成形機用駆動装置において、ボールねじが複数設けられ、前記連結部材が前記複数のボールねじのそれぞれのナットを連結してなり、
前記複数のボールねじのそれぞれの前記循環部品が互いに対向するように配置されたことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る射出成形機用駆動装置は、請求項1に記載の射出成形機用駆動装置において、ボールねじが複数設けられ、前記連結部材が前記複数のボールねじのそれぞれのナットを連結してなり、
前記複数のボールねじのそれぞれの前記循環部品が互いに反対側に配置されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大型化することなく適切に射出荷重と駆動トルクを支え、ナットが傾くことによる寿命低下が小さい射出成形機用駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態における構成を示す平面図である。
図2】本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態における構成を示す平面図である。
図3】本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態において、ナットに軸方向荷重が作用している状態を示す図であり、(a)は平面図(X−Y平面図)、(b)は側面図(X−Z平面図)、である。
図4】(a)〜(d)は、本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態におけるボールねじに傾きを与えたときのナットの内部における荷重分布の解析結果を示すグラフである。
図5】本発明に係る射出成形機用駆動装置の第1の実施形態におけるボールねじの構成を示す平面図である。
図6】本発明に係る射出成形機用駆動装置の第2の実施形態におけるボールねじの構成を示す平面図である。
図7】本発明に係る射出成形機用駆動装置の第3の実施形態におけるボールねじの構成を示す平面図である。
図8】本発明に係る射出成形機用駆動装置の第4の実施形態におけるボールねじの構成を示す平面図である。
図9】本発明に係る射出成形機用駆動装置の第5の実施形態におけるボールねじの構成を示す平面図である。
図10】従来の駆動装置における連結部材の弾性変形による各ナットの挙動を示す平面図である。
図11】従来の駆動装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る射出成形機用駆動装置の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態における構成を示す平面図である。また、図2は、本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態における構成を示す平面図である。また、図3は、本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態において、ナットに軸方向荷重が作用している状態を示す平面図である。また、図4(a)〜(d)は、本発明に係る射出成形機用駆動装置の一実施形態におけるボールねじに傾きを与えたときのナットの内部における荷重分布の解析結果を示すグラフである。
【0013】
射出成形機用駆動装置>
図1に示すように、本実施形態の射出成形機用駆動装置(以下、駆動装置ということがある)1は、第1のボールねじ10及び第2のボールねじ20と、駆動対象(図示せず)に接続された伝達部材40と、第1のボールねじ10及び第2のボールねじ20と伝達部材40とを連結する連結部材30とを有する。なお、ボールねじは、第1のボールねじ10又は第2のボールねじ20のいずれか1つのみでもよい。
【0014】
<ボールねじ>
第1のボールねじ10は、ねじ軸11と、ナット12とを有する。ねじ軸11及びナット12は、複数の転動体(図示せず)を介して螺合している。この転動体は例えば鋼製のボールである。ナット12は、ねじ軸11の外径より大きい内径で筒状に形成されている。ナット12の内周面には、ねじ軸11の外周面に螺旋状に形成されたねじ溝(図示せず)に対向するようにねじ溝(図示せず)が形成されている。これらのねじ溝によって形成された負荷転動路において上記転動体は転動可能とされ、ねじ軸11に対してナット12が軸方向に相対移動可能とされている。同様に、第2のボールねじ20は、ねじ軸21と、ナット22とを有する。ねじ軸21及びナット22は、複数の転動体(図示せず)を介して螺合している。この転動体は例えば鋼製のボールである。ナット22は、ねじ軸21の外径より大きい内径で筒状に形成されている。ナット22の内周面には、ねじ軸21の外周面に螺旋状に形成されたねじ溝(図示せず)に対向するようにねじ溝(図示せず)が形成されている。これらのねじ溝によって形成された負荷転動路において上記転動体は転動可能とされ、ねじ軸21に対してナット22が軸方向に相対移動可能とされている。ここで、ナット12,22において、後述する連結部材30に近い側の端面を近位端12a,22aとし、連結部材30から遠い側の端面を遠位端12b,22bとする。
【0015】
[循環部品]
なお、ナット12及びナット22のそれぞれには、上記負荷転動路から掬い上げた上記転動体を案内して再び上記前記負荷転動路に戻して循環させる複数の循環部品13,23が設けられている。
【0016】
<連結部材>
連結部材30は、並ぶように配設された第1のボールねじ10及び第2のボールねじ20のそれぞれのナット12及びナット22の近位端12a,22aに接続されてナット12及びナット22を連結する板形状の部材である。
<伝達部材>
伝達部材40は、ナット12及びナット22に架設された連結部材30に対して、ナット12とナット22との中間点近傍に連結され、ねじ軸11,21の軸方向に平行な軸方向に移動可能とされる。この伝達部材40は、ナット12及びナット22がねじ軸11,21に対して軸方向に移動することにより、連結部材30を介して上記軸方向に並行に駆動対象(図示せず)を移動させることができる。
【0017】
<循環部品の配設位置>
図1に示すように、伝達部材40による荷重Fが、連結部材30からボールねじ10,20への向きで連結部材30上の作用点Sに加わった場合、連結部材30の両端部が撓む向きfの回転モーメントが発生して連結部材30が弾性変形し、各ボールねじ10,20に傾きによる偏荷重が加わる。このとき、図1中、a,b部分はナット12の内周面とねじ軸11の外周面との間隔が最も狭まる箇所である。すなわち、図1に示す位置に循環部品13,23が配置され、ナット12,22の遠位端12b,22bの伝達部材40の移動軸Aの向き側である図1中のa,b部分に転動体が存在したと仮定した場合、a,b部分に位置する転動体に極めて大きい荷重(以下、ボール荷重ということがある)がかかる。
【0018】
そこで、本実施形態の駆動装置1は、図1に示すように、連結部材30上の作用点Sに加わった荷重Fによって、ナット12,22が変位する方向fを含む面を跨ぐように循環部品13,23がそれぞれ複数配置される。そしてさらに、本実施形態の駆動装置1は、該循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、上記転動体が存在しない。これはすなわち、ナット12,22が変位する方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ複数配置された循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23が、当該循環部品13,23が設けられなかった場合に形成されたであろう負荷転動路の代わりに設けられたことを意味する。
【0019】
なお、図1に示す駆動装置1においては、ねじ軸11のねじ溝が「右ねじの向き」に形成されているので、ナット12の内周面とねじ軸11の外周面との間に螺旋状に形成された負荷転動路は、図1中のa部分には存在しない。
したがって、本実施形態の駆動装置1は、図1に示すように、連結部材30上の作用点Sに加わった荷重Fによって、ナット12,22が変位する方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ複数配置された循環部品13,23が、少なくともb部分に設けられる。ここで、「荷重Fによってナット12,22が変位する方向fを含む面」とは、連結部材30の両端部が撓んで、ナット12,22を傾ける互いに相反する向きf,fを含む面であり、この面はナット12,22の配列方向を含む面でもある。そして、ねじ軸11のねじ溝が「左ねじの向き」に形成されている場合も考慮すると、図1のa部分にも複数配置された循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13が設けられることがより好ましい。
【0020】
一方、図2に示すように、伝達部材40による荷重Fが、ボールねじ10,20から連結部材30への向きで、連結部材30上の作用点Sに加わった場合も、連結部材30の両端部が撓む向きfの回転モーメントが発生して連結部材30が弾性変形し、各ボールねじ10,20に傾きによる偏荷重が加わる。このとき、図2中、c,d部分はナット12の内周面とねじ軸11の外周面との間隔が最も狭まる箇所である。すなわち、図2に示す位置に循環部品13,23が配置され、ナット12,22の遠位端12b,22bの伝達部材40の移動軸Aと反対の向き側である図2中のc,d部分に転動体が存在したと仮定した場合、c,d部分に位置する転動体に極めて大きい荷重がかかる。
【0021】
そこで、本実施形態の駆動装置1は、上述と同様、図2に示すように、連結部材30上の作用点Sに加わった荷重Fによって、ナット12,22が変位する方向fを含む面を跨ぐように循環部品13,23がそれぞれ複数配置される。そしてさらに、本実施形態の駆動装置1は、該循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、上記転動体が存在しない。これはすなわち、ナット12,22が変位する方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ複数配置された循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23が、当該循環部品13,23が設けられなかった場合に形成されたであろう負荷転動路の代わりに設けられたことを意味する。
なお、図2に示す駆動装置1においても、ねじ軸21のねじ溝が「右ねじの向き」に形成されているので、ナット22の内周面とねじ軸21の外周面との間に螺旋状に形成された負荷転動路は、図2中のd部分には存在しない。
【0022】
したがって、本実施形態の駆動装置1は、図2に示すように、連結部材30上の作用点Sに加わった荷重Fによって、ナット12,22が変位する方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ複数配置された循環部品13,23が、少なくともc部分に設けられる。そして、上述と同様に、ねじ軸21のねじ溝が「左ねじの向き」に形成されている場合も考慮すると、図2のd部分にも複数配置された循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品23が設けられることがより好ましい。
【0023】
このように、本発明者らは、図1,2中のa〜d部分(遠位端12b,22b)に有効ボールを配置しないボールねじによって上記課題を解決できることを知見した。ここで、「有効ボール」とは、ねじ軸11(21)の転動溝とナット12(22)の転動溝によって構成された負荷転動路に存在する転動体(ボール)を指す。
すなわち、伝達部材40から連結部材30に対して加えられた荷重Fによってナット12,22が変位する方向f(向きf,f)を含む面を跨ぐように循環部品13,23がそれぞれ複数配置される。そしてさらに、本実施形態の駆動装置1は、該循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、上記転動体が存在しないことによって上記課題が解決できることを知見した。
【0024】
ここで、「循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、上記転動体が存在しない」とは、例えば、2つの構成が挙げられる。一方の構成は、ナット12,22の内周面に、遠位端12b,22bまで転動溝が形成され、負荷転動路内を転動する転動体が、遠位端12b,22bに近い1〜2巻目の負荷転動路に到達する前に循環部品13,23に掬い上げられる構成である。また、他方の構成は、ナット12,22の内周面に、連結部材30から最も離れた循環部品13,23の遠位端12b,22b側から遠位端12b,22bまで転動溝が形成されずに、負荷転動路の遠位端12b,22b側の端部が循環部品13,23に連結されている構成である。なお、これらの構成以外でも、「循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、上記転動体が存在しない」構成をなし、上述の目的を達成するものであれば、上記構成に限定されず、本実施形態に適用される。
【0025】
さらに、本実施形態の駆動装置1は、複数のボールねじ10,20のそれぞれのナット12,22が連結部材30によって連結され、複数のボールねじ10,20のそれぞれの循環部品13,23の少なくとも1つが互いに対向するように配置されることが好ましい。また、複数のボールねじ10,20のそれぞれのナット12,22が連結部材30によって連結され、複数のボールねじ10,20のそれぞれの循環部品13,23の少なくとも1つが互いに反対側に配置されることが好ましい。
ここで、駆動装置1を構成するボールねじ10(20)に傾きを与えた場合のナット12(22)の内部における荷重分布について考察する。
【0026】
図3は、ナット12(22)に軸方向荷重が作用している状態を示す平面図であり、図4(a)〜(d)は、駆動装置を構成する各ボールねじに傾きを与えたときのナットの内部における荷重分布の解析結果(転動体の位置とその転動体にかかる荷重との関係)を示すグラフである。
図4(a)は、ナット12(22)に軸方向の荷重Fが作用している状態において、X−Y平面における傾き+θ1を与えた場合(図3(a)参照)について解析した結果を示すグラフであり、図4(b)は、X−Y平面における傾き−θ1を与えた場合(図3(a)参照)について解析した結果を示すグラフである。また、図4(c)は、X−Y平面に直交するX−Z平面における傾き+θ2を与えた場合(図3(b)参照)について解析した結果を示すグラフであり、図4(d)は、X−Z平面における傾き−θ2を与えた場合(図3(b)参照)について解析した結果を示すグラフである。なお、図4(a)〜(d)の横軸は、ナット12(22)の内部における各ボールの位置を示し、縦軸は、ナット12(22)の内部の各ボールの荷重を示す。
【0027】
図4(a)〜(d)に示す各グラフにて傾きがない場合と傾きを与えた場合を比較したところ、以下のことがわかった。
図4(a)に示すように、傾きによって、ナット12(22)とねじ軸11(21)との間隔が最も狭まる箇所に有効ボールがある+θ1の向きに傾きを加えた場合、グラフ中右側の玉荷重が非常に高くなっており、傾きによる偏荷重の影響を強く受けていることがわかる。
【0028】
一方、図4(b)〜(d)に示すように、+θ1の向き以外の向きに傾きを加えた場合は、傾きの影響はあるものの、+θ1の向きに傾きを加えた場合(図4(a)参照)よりは影響が低いことがわかる。
また、図3(a),(b)に示すナットは、軸方向荷重Fが反対向きに作用する場合は、−θ1の向きに偏荷重を加えた場合に荷重が非常に高くなる。
これらの結果から、玉荷重が非常に高くなる位置に有効ボールを配置しないように、循環部品13(23)をナット12(22)の変位方向と略平行(±θ2)となるように配置することにより、ナット12(22)が傾くことによる寿命低下を低減できることがわかった。
【0029】
(第1の実施形態)
次に、本発明に係る駆動装置の具体的な実施形態として、第1の実施形態について図面を参照して説明する。
図5は、本発明に係る駆動装置の第1の実施形態におけるボールねじの構成を示す平面図である。図5に示すように、本実施形態の駆動装置は、ボールねじを2つ使用した態様の駆動装置である。なお、本実施形態の駆動装置1の構成は、上述した図1に示す駆動装置の構成と同様であるので、基本的な構成の説明は省略する。
【0030】
図5に示すように、ボールねじ10の循環部品13,13,13と、ボールねじ20の循環部品23,23,23とを向かい合わせとし、かつ循環部品13,13,13及び循環部品23,23,23を、ナット12,22の変位方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ配設している。すなわち、ボールねじ10,20のそれぞれの循環部品13,23の全てが互いに対向するように配置されている。そしてさらに、複数回路(図5では3回路)設けられた循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、転動体が存在しない。
このような構成により、軸方向荷重の向き(図中、Fで表示)によらず、ボールねじ10,20を連結している連結部材30が弾性変形し、ナット12,22が傾くことによって発生した偏荷重による寿命低下を低減できる。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係る駆動装置の第2の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態は、循環部品の設置態様が前述の第1の実施形態と異なるだけであるので、上述の実施形態と同じ符号を付した同様の構成については説明を省略する。図6は、本発明に係る駆動装置の第2の実施形態における構成を示す平面図である。
【0032】
図6に示すように、本実施形態の駆動装置1は、ボールねじを2つ使用した態様の駆動装置である。そして、ボールねじ10の循環部品13,13,13と、ボールねじ20の循環部品23,23,23とを対向させないように外側に配設し、かつ循環部品13,13,13及び循環部品23,23,23をナット12,22の変位方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ配設している。すなわち、ボールねじ10,20のそれぞれの循環部品13,23の全てが互いに反対側に配置されている。そしてさらに、複数回路(図6では3回路)設けられた循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、転動体が存在しない。
このような構成により、軸方向荷重の向き(図中、Fで表示)によらず、ボールねじ10,20を連結している連結部材30が弾性変形し、ナット12,22が傾くことによって発生した偏荷重による寿命低下を低減できる。
【0033】
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る駆動装置の第3の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態も、循環部品の設置態様が前述の第1の実施形態と異なるだけであるので、上述の実施形態と同じ符号を付した同様の構成については説明を省略する。図7は、本発明に係る駆動装置の第3の実施形態における構成を示す平面図である。
図7に示すように、本実施形態の駆動装置1は、ボールねじを2つ使用した態様の駆動装置である。そして、各ナット12,22に設けられる3回路の循環部品13,13,13のうちの1回路の位相を他の循環部品に対して円周方向に180°反転させることで、円周方向の負荷分布のばらつきを平均化する態様の駆動装置である。
【0034】
本実施形態の駆動装置1においても、循環部品13,13,13及び循環部品23,23,23を、ナット12,22の変位方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ配設している。すなわち、ボールねじ10,20のそれぞれの循環部品13,23のうち、2回路が互いに対向して配置され、1回路が互いに反対側に配置されている。そしてさらに、複数回路(図7では3回路)設けられた循環部品13,23のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13,23と、ナット12,22の遠位端12b,22bとの間には、転動体が存在しない。
このような構成により、軸方向荷重の向き(図中、Fで表示)によらず、ボールねじ10,20を連結している連結部材30が弾性変形し、ナット12,22が傾くことによって発生した偏荷重による寿命低下を低減できる。
【0035】
(第4の実施形態)
次に、本発明に係る駆動装置の第4の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態は、ボールねじを1つだけ用いた点が前述の第1の実施形態と異なるだけであるので、上述の実施形態と同じ符号を付した同様の構成については説明を省略する。図8は、本発明に係る駆動装置の第4の実施形態における構成を示す平面図である。
図8に示すように、本実施形態の駆動装置1は、ボールねじを1つ使用した態様の駆動装置である。すなわち、本実施形態の駆動装置1は、伝達部材の荷重作用点Sがボールねじの軸中心上にない態様の駆動装置である。
【0036】
本実施形態の駆動装置1においても、循環部品13,13,13を、ナット12の変位方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ配設している。そしてさらに、複数回路(図8では3回路)設けられた循環部品13のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13と、ナット12の遠位端12bとの間には、転動体が存在しない。
このような構成により、軸方向荷重の向き(図中、Fで表示)によらず、ボールねじ10を連結している連結部材30が弾性変形し、ナット12が傾くことによって発生した偏荷重による寿命低下を低減できる。
【0037】
(第5の実施形態)
次に、本発明に係る駆動装置の第5の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態も、ボールねじを1つだけ用いた点が前述の第1の実施形態と異なるだけであるので、上述の実施形態と同じ符号を付した同様の構成については説明を省略する。図9は、本発明に係る駆動装置の第5の実施形態における構成を示す平面図である。
図9に示すように、本実施形態の駆動装置1は、ボールねじを1つ使用した態様の駆動装置である。すなわち、本実施形態の駆動装置1は、伝達部材の荷重作用点Sがボールねじの軸中心上にない態様の駆動装置である。そして、ナット12に設けられる3回路の循環部品13,13,13のうちの1回路の位相を他の循環部品に対して円周方向に180°反転させることで、円周方向の負荷分布のばらつきを平均化する態様の駆動装置である。
【0038】
本実施形態の駆動装置1においても、循環部品13,13,13を、ナット12の変位方向fを含む面を跨ぐようにそれぞれ配設している。そしてさらに、複数回路(図9では3回路)設けられた循環部品13のうち、連結部材30から最も離れた循環部品13と、ナット12の遠位端12bとの間には、転動体が存在しない。
このような構成により、軸方向荷重の向き(図中、Fで表示)によらず、ボールねじ10を連結している連結部材30が弾性変形し、ナット12が傾くことによって発生した偏荷重による寿命低下を低減できる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 駆動装置
10 ボールねじ(第1のボールねじ)
11 ねじ軸
12 ナット
20 ボールねじ(第2のボールねじ)
21 ねじ軸
22 ナット
30 連結部材
40 伝達部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11