特許第6136133号(P6136133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136133
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/01 20060101AFI20170522BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B60C11/01 A
   B60C13/00 D
   B60C13/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-155922(P2012-155922)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15182(P2014-15182A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 光志
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−318410(JP,A)
【文献】 特開2010−260378(JP,A)
【文献】 特開平08−258518(JP,A)
【文献】 米国特許第06460584(US,B1)
【文献】 特開2012−116382(JP,A)
【文献】 特開2008−024246(JP,A)
【文献】 特開2012−096776(JP,A)
【文献】 特開2012−066662(JP,A)
【文献】 特開2007−297035(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01834812(EP,A1)
【文献】 米国特許第04356985(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水飛沫抑制用のフィンをバットレス部に備える空気入りタイヤであって、
前記バットレス部が、タイヤ接地端とタイヤ最大幅位置との間にある側壁部として定義され、
前記フィンの高さHが、10.0[mm]≦H≦15.0[mm]の範囲内にあり、
前記フィンの頂部が、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ幅方向内側にあり、
前記フィンが、タイヤ周方向に不連続に配置されると共に前記フィンの高さ方向に不連続に配置された複数のディンプルをタイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の少なくとも一方に備え、且つ、
前記フィンの高さ方向にかかる前記ディンプルの幅a’と前記フィンの所定の壁面長さLとが、0.10≦a’/L≦0.4の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向にかかる前記ディンプルの幅aと、タイヤ周方向に隣り合うディンプルの中心間距離bとが、1.0≦b/a≦5.0の関係を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ディンプルの最大幅a_maxと、前記ディンプルの深さdとが、0.05≦d/a_max≦1.0の関係を有する請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記フィンが、タイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の双方に前記複数のディンプルを備える請求項1〜3のいずれ一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記フィンが、相互に異なる開口面積を有する複数種類の前記ディンプルを備える請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記フィンの高さ方向に隣り合う前記ディンプルのうち前記フィンの頂部側に配置される前記ディンプルの開口面積が、前記フィンの根元側に配置される前記ディンプルの開口面積よりも小さい請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、タイヤの水飛沫抑制性能を確保しつつ燃費性能を向上できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重荷重用空気入りタイヤでは、濡れた路面を走行する際に発生する水飛沫対策として、タイヤのバットレス部にフィンを設けた構成が採用されている。そして、このフィンにより、水飛沫の運動エネルギーを吸収して、水飛沫の飛散高さを低減している。かかる構成を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1、2に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−318410号公報
【特許文献2】特表2010−528916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記のフィンを備える空気入りタイヤでは、タイヤ転動時にて、フィンにより空気抵抗が増加して、タイヤの燃費性能が悪化するおそれがある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タイヤの水飛沫抑制性能を確保しつつ燃費性能を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、水飛沫抑制用のフィンをバットレス部に備える空気入りタイヤであって、前記バットレス部が、タイヤ接地端とタイヤ最大幅位置との間にある側壁部として定義され、前記フィンの高さHが、10.0[mm]≦H≦15.0[mm]の範囲内にあり、前記フィンの頂部が、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ幅方向内側にあり、前記フィンが、タイヤ周方向に不連続に配置されると共に前記フィンの高さ方向に不連続に配置された複数のディンプルをタイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の少なくとも一方に備え、且つ、前記フィンの高さ方向にかかる前記ディンプルの幅a’と前記フィンの所定の壁面長さLとが、0.10≦a’/L≦0.4の関係を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、フィンが、タイヤ周方向に不連続に配置された複数のディンプルを壁面に備えるので、タイヤ転動時にて、フィンの周囲に乱流が発生してフィンの壁面からの空気流れの剥離が緩和される。これにより、車両進行方向後方における空気流れの剥離領域が小さくなり、空気抵抗が減少して、タイヤの燃費性能が向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す拡大図である。
図3図3は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す斜視断面図である。
図4図4は、図3に記載したフィンのディンプルを示す説明図である。
図5図5は、図3に記載したフィンのディンプルを示す説明図である。
図6図6は、図3に記載したフィンのディンプルの作用を示す説明図である。
図7図7は、図3に記載したフィンのディンプルの作用を示す説明図である。
図8図8は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図9図9は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図10図10は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図11図11は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図12図12は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図13図13は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図14図14は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
図15図15は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0010】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、空気入りタイヤ1の一例として、長距離輸送用のトラック、バスなどのステア軸に装着される重荷重用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。
【0011】
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17を備える(図1参照)。
【0012】
一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、ローアーフィラー121およびアッパーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0013】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で85[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0014】
ベルト層14は、複数のベルトプライ141〜144を積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。これらのベルトプライ141〜144は、例えば、高角度ベルト141と、一対の交差ベルト142、143と、ベルトカバー144とから構成される。また、各ベルトプライ141〜144は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、所定のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有する。
【0015】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびビードフィラー12、12のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて、左右のビード部を構成する。
【0016】
また、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝21、22と、これらの周方向主溝21、22に区画されて成る複数の陸部31〜33とをトレッド部に備える。
【0017】
例えば、図1の構成では、4本の周方向主溝21、22がタイヤ赤道面CLを中心として左右対称に配置されている。また、これらの周方向主溝21、22により、3列のセンター陸部31、32と左右一対のショルダー陸部33とが区画されている。また、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22が最も深い溝深さを有し、この周方向主溝22により、セカンド陸部32とショルダー陸部33とが区画されている。なお、周方向主溝とは、溝深さ8.0[mm]以上の周方向溝をいう。
【0018】
[水飛沫抑制用のフィン]
図2および図3は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す拡大図(図2)および斜視断面図(図3)である。
【0019】
この空気入りタイヤ1は、水飛沫抑制用のフィン6を備える(図2および図3参照)。このフィン6は、タイヤ左右のバットレス部のうち少なくとも車両装着状態にて車幅方向外側にあるバットレス部に形成される。例えば、図1の構成では、フィン6が、タイヤ左右のバットレス部にそれぞれ形成されている。また、フィン6は、バットレス部のプロファイルからタイヤ幅方向に突出した形状を有し、タイヤ径方向外側(タイヤ接地端側)の壁面とタイヤ径方向内側(サイドウォール部側)の壁面とを有する。また、フィン6は、タイヤ全周に渡って連続的に延在する環状かつリブ状の構造を有する。
【0020】
なお、バットレス部とは、タイヤ接地端Aとタイヤ最大幅位置との間にある側壁部をいう。また、フィン6は、タイヤ加硫成形時にてサイドウォールゴム16に一体成形されても良いし、タイヤ加硫成形後に接着されて取り付けられても良い。
【0021】
また、フィン6の形状および位置が、以下のように設定される。
【0022】
まず、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に無負荷状態としたときのタイヤ子午線方向の断面視にて、タイヤ接地端Aからフィン6に接線lを引き、この接線lとフィン6との接点をBとする。また、タイヤ軸方向に対する接線lの傾斜角をθとする。また、最も深い周方向主溝(ここでは、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22)の溝底からトレッド面のプロファイルに平行な曲線mを引き、この曲線mとタイヤの側壁面との交点をPとする。
【0023】
このとき、フィン6の頂部が円弧形状の輪郭線を有し、この頂部の円弧上に接点Bが位置する。また、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面が、接線lに対してタイヤ内部側に凹となる。これにより、タイヤ接地端Aから接点Bに向かうに連れてタイヤ軸方向に湾曲あるいは屈曲する凹状の側壁面が形成される。なお、図2の構成では、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面が、フィン6の内部側に凹となる円弧形状の輪郭線を有し、バットレス部のプロファイルに対してそれぞれ滑らかに接続されている。
【0024】
また、接線lの傾斜角θが、θ<45[deg]の範囲内にあり、より好ましくは、32[deg]≦θ≦37[deg]の範囲内にある。また、フィン6が、交点Pよりもタイヤ径方向内側の壁面に配置される。また、フィン6の頂部がタイヤ最大幅位置を超えないように、フィン6の配置位置および高さHが調整される。これらにより、フィン6の形状および位置が適正化される。なお、フィン6の高さHは、バットレス部のプロファイルを基準として測定され、また、10.0[mm]≦H≦15.0[mm]の範囲内にあることが好ましい。
【0025】
なお、タイヤ接地端Aとは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の端部をいう。
【0026】
また、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0027】
[フィンのディンプル]
図4および図5は、図3に記載したフィンのディンプルを示す説明図である。これらの図において、図4は、ディンプル7の配置位置におけるフィン6のタイヤ子午線方向の断面図を示し、図5は、点Pから点Bまでのフィン6の壁面の展開図を示している。
【0028】
この空気入りタイヤ1では、フィン6が、複数のディンプル7を備える(図3図5参照)。これらのディンプル7は、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の少なくとも一方に配置される。したがって、ディンプル7は、フィン6の片側壁面にのみ配置されても良い(図示省略)。また、ディンプル7は、タイヤ周方向に不連続に配置される。また、これらのディンプル7は、フィン6の高さ方向に不連続に配置される。したがって、ディンプル7は、タイヤ周方向およびフィン6の高さ方向に相互に独立して(連通することなく)配置される。なお、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7、7が接する場合については、後述する。
【0029】
例えば、図5の構成では、フィン6が、半球状のディンプル7を有している。また、複数のディンプル7が、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の双方にそれぞれ配置されている。また、複数のディンプル7が、タイヤ周方向およびフィン6の高さ方向に所定間隔をあけつつフィン6の全周に渡って配置されている。また、フィン6が、タイヤ周方向に併走して配列された3列のディンプル7群を備えている。これにより、複数のディンプル7が、フィン6の壁面の全域に渡ってマトリクス状に配列されている。
【0030】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ周方向にかかるディンプル7の幅aと、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7、7の中心間距離bとが、1.0≦b/a≦5.0の関係を有することが好ましい。ディンプル7の幅aは、ディンプル7の開口幅であり、フィン6の壁面の平面視にて測定される。また、ディンプル7の中心間距離bも、フィン6の壁面の平面視にて測定される。なお、b/a=1.0の場合には、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7、7が接することとなる。
【0031】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6の高さ方向にかかるディンプル7の幅a’と、フィン6の壁面長さLとが、0.10≦a’/L≦1.0の関係を有する。ディンプル7の幅a’は、ディンプル7の開口幅であり、フィン6の壁面の平面視にて測定される。また、フィン6の壁面長さLは、フィン6の壁面の展開図における点Pと点Bとの距離として測定される。なお、a’=Lの場合には、1つのディンプル7が、フィン6の高さ方向の全域に渡って延在することとなる。
【0032】
また、この空気入りタイヤ1では、ディンプル7の最大幅a_maxと、ディンプル7の深さdとが、0.05≦d/a_max≦1.0の関係を有することが好ましい。ただし、ディンプル7の深さdは、ディンプル7がフィン6を貫通しない範囲で設定される。ディンプル7の最大幅a_maxは、任意方向にかかるディンプル7の開口幅の最大値であり、フィン6の壁面の平面視にて測定される。
【0033】
図6および図7は、図3に記載したフィンのディンプルの作用を示す説明図である。これらの図において、図6は、タイヤ転動時におけるタイヤ周方向の空気流れの様子を示し、図7は、タイヤ転動時におけるタイヤ径方向の空気流れの様子を示している。
【0034】
一般に、バットレス部に水飛沫抑制用のフィンを備える空気入りタイヤでは、図6に示すように、タイヤ転動時にて、フィンに沿ってタイヤ周方向に流れる空気流れが発生する。このとき、フィンがフラットな壁面を有する構成(後述するディンプル無しの従来例1)では、空気流れがフィンの壁面から剥離し易くなり、車両進行方向後方における空気流れの剥離領域が増大する。すると、空気抵抗が増加して、タイヤの燃費性能が悪化するおそれがある。
【0035】
この点において、この空気入りタイヤ1では、図6に示すように、フィン6が、タイヤ周方向に不連続に配置された複数のディンプル7を壁面に備えるので、タイヤ転動時にて、フィン6の周囲に乱流が発生してフィン6の壁面からの空気流れの剥離が緩和される。これにより、車両進行方向後方における空気流れの剥離領域が小さくなり、空気抵抗が減少して、タイヤの燃費性能が向上する。
【0036】
また、図7に示すように、タイヤ転動時には、空気流れが、タイヤ側面に沿って流れてタイヤを径方向に横断する。このため、空気流れが、車両進行方向前方にて、フィン6のタイヤ径方向外側の壁面に当たり、車両進行方向後方にてタイヤ径方向内側の壁面に当たる。このとき、フィン6が、タイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の双方にディンプル7をそれぞれ有することにより(図4参照)、フィン6を跨ぐ空気流れの剥離領域が小さくなり、空気抵抗が減少して、タイヤの燃費性能が向上する。
【0037】
さらに、図7に示すように、フィン6がフィン6の高さ方向に不連続に配置された複数のディンプル7を備えることにより(図4および図5参照)、フィン6がフィン6の高さ方向に単一のディンプル7を備える構成(図11参照)と比較して、フィン6を跨ぐ空気流れの剥離領域が小さくなる。これにより、空気抵抗がさらに減少して、タイヤの燃費性能がさらに向上する。
【0038】
[変形例]
図8図14は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図は、点Pから点Bまでのフィン6の壁面の展開図を示している。
【0039】
図5の構成では、タイヤ周方向にかかるディンプル7の幅aと、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7、7の中心間距離bとが、1.0<b/aの関係を有することにより、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7、7が所定間隔をあけつつ相互に分離して配置されている。同様に、フィン6の高さ方向に隣り合うディンプル7が、所定間隔をあけつつ相互に分離して配置されている。
【0040】
これに対して、図8の構成では、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7の幅aと中心間距離bとがb/a=1.0の関係を有することにより、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7、7が相互に接している。同様に、フィン6の高さ方向に隣り合うディンプル7、7が相互に接している。
【0041】
このとき、隣り合うディンプルの境界部における深さdがd=0であれば、これらのディンプルが相互に不連続に配置されているといえる。したがって、隣り合うディンプルが接する場合(ディンプルのタイヤ周方向の幅aと、タイヤ周方向に隣り合うディンプルの中心間距離bとが、a=bとなる場合)にも、ディンプルの深さdがディンプルの縁部にてd=0[mm]となることを条件として、これらのディンプルがタイヤ周方向に不連続に配置されているといえる。したがって、図8の構成のように、隣り合うディンプル7が相互に接しても良い。
【0042】
また、図5の構成では、ディンプル7が、フィン6の壁面の平面視にて円形状を有し、また、半球状の内周面形状(図4参照)を有している。しかし、これに限らず、ディンプル7は、楕円形、多角形などの任意の平面形状を有し得る。また、ディンプル7は、円錐台、角錐台などの任意の内周面形状を有し得る。
【0043】
例えば、図9の構成では、ディンプル7が、フィン6の高さ方向に長尺な楕円形状を有している。また、図10の構成では、ディンプル7が、八角形の平面形状を有している。また、図11の構成では、ディンプル7が、三角形の平面形状を有し、また、複数のディンプル7が、相互に向きを反転させつつタイヤ周方向にジグザグ状に配置されている。
【0044】
また、図5の構成では、フィン6が、タイヤ周方向に相互に不連続に配置されたディンプル7群を備え、また、3列のディンプル群を備えている。かかる構成では、図7に示すように、フィン6を跨いで流れる空気流れに対して、フィン6の下流側における空気流れの剥離領域を小さくできる点で好ましい。
【0045】
しかし、これに限らず、1列のディンプル7のみが、タイヤ周方向に配置されても良い。例えば、図12の構成では、1列のディンプル7のみが、タイヤ周方向に所定間隔をあけつつ配列されている。また、ディンプル7が、フィン6の高さ方向に長尺な楕円形状を有することにより、フィン6の壁面長さLの50%以上の領域に渡って延在している。
【0046】
また、図5の構成では、フィン6が、同一径かつ円形状のディンプル7のみを有している。このため、各ディンプル7が、同一の開口面積を有している。
【0047】
しかし、これに限らず、フィン6が、相互に異なる開口面積を有する複数種類のディンプルを備えても良い。例えば、図13の構成では、大径かつ円形状を有する3列のディンプル7群がタイヤ周方向に併走して配列され、また、これらのディンプル7群の間に、小径かつ円形状を有する1列のディンプル7群がそれぞれ配列されている。したがって、大径のディンプル7と小径のディンプル7とが混在して配置されている。これにより、フィン6の空気抵抗が効果的に低減されている。
【0048】
さらに、図14の構成では、フィン6が、大径かつ円形状を有する2列のディンプル7群と、小径かつ円形状を有する3列のディンプル7群とが、フィン6の高さ方向に隣り合って配置されている。また、フィン6の頂部側に配置される3列のディンプル7の開口面積が、フィン6の根元側に配置される2列のディンプル7の開口面積よりも小さい。このように、フィン6の頂部側に配置されるディンプル7の開口面積が小さく設定されることにより、フィン6の空気抵抗が効果的に低減されている。
【0049】
なお、図13および図14のように、フィン6が複数種類のディンプル7を備える構成では、各種類のディンプル7におけるタイヤ周方向の幅a1、a2、フィン6の高さ方向の幅a1’、a2’、配置間隔b1、b2およびフィン6の壁面長さLが、1.0≦b1/a1≦5.0、1.0≦b2/a2≦5.0、0.10≦a1’/L≦1.0および0.10≦a2’/L≦1.0の関係をそれぞれ満たすことが好ましい。
【0050】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1では、水飛沫抑制用のフィン6をバットレス部に備える(図1図3参照)。また、フィン6が、タイヤ周方向に不連続に配置された複数のディンプル7をタイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の少なくとも一方に備える(図4および図5参照)。
【0051】
かかる構成では、フィン6が、タイヤ周方向に不連続に配置された複数のディンプル7を壁面に備えるので、タイヤ転動時にて、フィン6の周囲に乱流が発生してフィン6の壁面からの空気流れの剥離が緩和される(図6参照)。これにより、車両進行方向後方における空気流れの剥離領域が小さくなり、空気抵抗が減少して、タイヤの燃費性能が向上する利点がある。
【0052】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ周方向にかかるディンプル7の幅aと、タイヤ周方向に隣り合うディンプル7の中心間距離bとが、1.0≦b/a≦5.0の関係を有する(図5参照)。かかる構成では、タイヤ周方向にかかるディンプル7の幅aと中心間距離bとの関係が適正化されることにより、ディンプル7による乱流発生効果が向上して、フィン6の空気抵抗が減少する利点がある。
【0053】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6の高さ方向にかかるディンプル7の幅a’と、フィン6の所定の壁面長さLとが、0.10≦a’/L≦1.0の関係を有する(図5参照)。かかる構成では、フィン6の高さ方向にかかるディンプル7の幅a’とフィン6の壁面長さLとの関係が適正化されることにより、ディンプル7による乱流発生効果が向上して、フィン6の空気抵抗が減少する利点がある。
【0054】
また、この空気入りタイヤ1では、ディンプル7の最大幅a_max(図5では、a_max=a=a’)と、ディンプル7の深さdとが、0.05≦d/a_max≦1.0の関係を有する(図4参照)。かかる構成では、ディンプル7の最大幅a_maxと深さdとの関係が適正化されることにより、ディンプル7による乱流発生効果が向上して、フィン6の空気抵抗が減少する利点がある。
【0055】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6が、タイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の双方に複数のディンプル7を有する(図4参照)。かかる構成では、タイヤ転動時にて、タイヤ側面に沿って流れてタイヤを径方向に横断する空気流れが、車両進行方向前方にてフィン6のタイヤ径方向外側の壁面に当たり、車両進行方向後方にてタイヤ径方向内側の壁面に当たる(図7参照)。このとき、フィン6が、タイヤ径方向外側の壁面およびタイヤ径方向内側の壁面の双方にディンプル7をそれぞれ有することにより(図4参照)、フィン6を跨ぐ空気流れの剥離領域が小さくなり、空気抵抗が減少して、タイヤの燃費性能が向上する利点がある。
【0056】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6が、フィン6の高さ方向に不連続に配置された複数のディンプル7を備える(図5参照)。これにより、ディンプル7による乱流発生効果が向上して、フィン6の空気抵抗が減少する利点がある。
【0057】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6が、相互に異なる開口面積を有する複数種類のディンプル7を備える(図13参照)。これにより、ディンプル7による乱流発生効果が向上して、フィン6の空気抵抗が減少する利点がある。
【0058】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン6の高さ方向に隣り合うディンプル7のうちフィン6の頂部側に配置されるディンプル7の開口面積が、フィン6の根元側に配置されるディンプル7の開口面積よりも小さい(図14参照)。かかる構成では、タイヤ転動時にて、タイヤ側面に沿って流れてタイヤを径方向に横断してフィン6を跨ぐ空気流れの剥離領域が小さくなる(図7参照)。これにより、空気抵抗がさらに減少して、タイヤの燃費性能がさらに向上する利点がある。
【実施例】
【0059】
図15は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【0060】
この性能試験では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)水飛沫抑制性能および(2)燃費性能に関する評価が行われた(図15参照)。この性能試験では、タイヤサイズ275/70R22.5の空気入りタイヤがリムサイズ22.5×7.50のリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに空気圧900[kPa]、前輪荷重30.89[kN]および後輪荷重28.44[kN]が付与される。また、空気入りタイヤが、試験車両である総重量25[ton]のトラックに装着される。
【0061】
(1)水飛沫抑制性能に関する評価では、試験車両が水深10[mm]の湿潤路を直進走行し、水飛沫の飛散高さがビデオカメラで撮影されて測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0062】
(2)燃費性能に関する評価では、試験車両が、全長2[km]のテストコースを速度100[km/h]で5時間走行し、ガソリン1リットルあたりの走行距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0063】
実施例1〜17の空気入りタイヤ1は、フィン6が複数のディンプル7をタイヤ径方向の内側壁面および外側壁面の双方に備える(図4参照)。また、フィン6の高さが15[mm]である。
【0064】
従来例1の空気入りタイヤは、実施例1の空気入りタイヤ1において、フィン6がディンプルを有していない。従来例2の空気入りタイヤは、従来例1の空気入りタイヤにおいて、フィンが、その中央部にタイヤ周方向に所定間隔をあけつつ配列された1列の貫通孔を有している。
【0065】
試験結果に示すように、実施例1〜17の空気入りタイヤ1では、タイヤの水飛沫抑制性能を確保しつつ燃費性能を向上できることが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1 空気入りタイヤ、11 ビードコア、12 ビードフィラー、121 ローアーフィラー、122 アッパーフィラー、13 カーカス層、14 ベルト層、141〜144 ベルトプライ、15 トレッドゴム、16 サイドウォールゴム、17 リムクッションゴム、21、22 周方向主溝、31〜33 陸部、6 フィン、7 ディンプル
図1
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