(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、軸受ハウジングへのバックフォイル(バンプフォイル)の固定を溶接で行うと、入熱によってバックフォイルや軸受ハウジングが変形し、この影響を受けてトップフォイルに歪みが生じてしまう。同様に、中間フォイルの固定を溶接で行っても、トップフォイルに歪みが生じてしまう。すなわち、溶接によって中間フォイルに歪みが生じると、これの上に配置されるトップフィルにも中間フォイルの歪みが反映され、歪みが生じてしまう。また、トップフォイルと中間フォイルとを重ねて一括して溶接する場合にも、やはり下地となる中間フォイルの歪みがトップフォイルに反映され、トップフォイルの歪み量が大きくなってしまう。
【0007】
また、前記特許文献2〜4のものでも、トップフォイルやバックフォイルを曲げ加工しているため、トップフォイルに歪みが生じてしまう。すなわち、トップフォイル及びバックフォイルの曲げ加工によってそれぞれに歪みが生じるが、バックフォイルはトップフォイルを支持しているため、バックフォイルの歪みがトップフォイルに影響し、トップフォイルの歪みがより大きくなってしまう。
【0008】
ところが、回転軸の回転によって該回転軸とトップフォイルとの間に形成されるフォイル軸受の流体潤滑膜は、10μm前後と非常に薄いため、トップフォイルに少しでも歪みが生じると、軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)に影響が及び、設計通りの性能が得られなくなる可能性がある。
【0009】
また、従来では中間フォイルを用いた場合、軸受ハウジングを1周するように中間フォイルを配置している。しかし、1周巻いて配置すると、中間フォイルとバックフォイルとの間や中間フォイルとトップフォイルとの間での摩擦による拘束箇所が増え、滑りが起こり難くなる。ところが、このように滑りが起こり難くなると、滑りによって生じる摩擦による減衰効果が低くなると考えられる。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、トップフォイルに生じる歪みを充分に少なくして軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)について設計通りの良好な性能が得られるようになり、さらにフォイル間摩擦によって減衰効果が向上した、ラジアルフォイル軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のラジアルフォイル軸受は、回転軸に外挿されて該回転軸を支持するラジアルフォイル軸受であって、
前記回転軸に対向して配置される円筒状のトップフォイルと、前記トップフォイルの径方向外側に配置される中間フォイルと、前記中間フォイルの径方向外側に配置されるバックフォイルと、前記トップフォイル、前記中間フォイル、及び前記バックフォイルを内挿した状態に収容する円筒状の軸受ハウジングと、を備え、
前記軸受ハウジングの両側面には、それぞれ、該軸受ハウジングの内周縁から外周縁に向かって延びる係合凹部が互いに対向して形成され、かつ、該係合凹部の対が前記軸受ハウジングの周方向に複数形成され、
前記中間フォイルは、前記軸受ハウジングの周方向に沿って配置された複数の中間フォイル片を有して構成され、
前記中間フォイル片には、それぞれ前記係合凹部に係合する係合突片が形成されていることを特徴とする。
【0012】
このラジアルフォイル軸受にあっては、中間フォイルを、軸受ハウジングの周方向に沿って配置された複数の中間フォイル片によって構成しているので、単一の中間フォイルが軸受ハウジングを1周巻くように配置される場合に比べ、フォイル間での摩擦による拘束箇所が減少し、各中間フォイル片とバックフォイルやトップフォイルとの間で滑りが起こり易くなる。したがって、滑ることで生じる摩擦による減衰効果が高くなる。
また、軸受ハウジングの両側面に形成した係合凹部に、中間フォイル片に形成した係合突片を係合させるようにしたので、各中間フォイル片に対してスポット溶接や大きな曲げ加工を行うことなく、該中間フォイル片からなる中間フォイルを軸受ハウジング内に収容・固定することができる。したがって、中間フォイルのスポット溶接や、中間フォイルの歪みの影響によりトップフォイルに歪みが生じるのが防止され、トップフォイルの歪みが充分に少なくなる。また、中間フォイルの溶接を不要にしたため、溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くすことができる。さらに、中間フォイル片が破損したり消耗した際、中間フォイル全体を交換することなく、破損または消耗したパーツ(中間フォイル片)のみを交換すればよくなる。
【0013】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイルは、前記軸受ハウジングの周方向に沿って配置された複数のバックフォイル片を有して構成され、前記中間フォイル片の前記係合突片は、前記複数のバックフォイル片間に形成された隙間を通って前記係合凹部に係合することが好ましい。
バックフォイルは、中間フォイルを介してトップフォイルを弾性的に支持するため、トップフォイルから荷重を受けた際には、その周方向に変形することでトップフォイルの撓みを許容し、これを支持する。しかし、バックフォイルは周方向に変形する際、軸受ハウジングとの間の摩擦の影響を受けるため、自由端側では変形し易いものの、固定端側では変形し難くなっている。そのため、自由端側と固定端側とでは支持剛性に差が生じてしまい、軸受全体として均一な支持剛性が得られにくくなってしまう。
そこで、バックフォイルを、軸受ハウジングの周方向に沿って配置された複数のバックフォイル片によって構成しているので、バックフォイル片における固定端と自由端との間の距離が短くなり、前述した自由端側と固定端側との間の支持剛性の差が小さくなる。したがってバックフォイル全体での支持剛性のバラツキが少なくなる。
また、このようにバックフォイルを複数のバックフォイル片によって構成しているので、中間フォイル片の係合突片をこれらの間に形成される隙間に通すことにより、該係合突片を係合凹部に容易に係合することができる。
【0014】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記軸受ハウジングの内周面には、対向する前記係合凹部間に、該係合凹部に連通して該係合凹部より軸受ハウジングの外周縁側に向かう深さが浅い係合溝が形成され、前記係合凹部および前記係合溝には、前記係合凹部に係合する一対の係合アームと、前記係合溝に係合するとともに前記一対の係合アーム間を連結する連結部と、を有し、かつ、前記一対の係合アームの、前記係合凹部に係合する側と反対の側が、前記軸受ハウジングの内周面より突出する係合凸部とされた係止部材が係止し、前記バックフォイルの両側周縁部には、それぞれ、前記係合凸部に係合する係合切欠が形成され、前記中間フォイル片の前記係合突片は、前記バックフォイルの前記係合切欠を通って前記係合凹部に係合することが好ましい。
このようにすれば、軸受ハウジングの内周面の両側端部にそれぞれ設けた係合凸部に、バックフォイルの両側周縁部にそれぞれ形成した係合切欠を係合させることにより、バックフォイルを軸受ハウジングに固定するので、バックフォイルに対してスポット溶接や曲げ加工を行うことなく、バックフォイルを軸受ハウジング内に収容・固定することができる。したがって、バックフォイルのスポット溶接や、バックフォイルの歪みの影響によりトップフォイルに歪みが生じるのが防止され、トップフォイルの歪みが充分に少なくなる。また、バックフォイルの溶接を不要にしたため、溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くすことができる。
また、中間フォイル片の係合突片を、バックフォイルの係合切欠を通って係合凹部に係合するようにしたので、該係合突片を係合凹部に容易に係合することができる。
さらに、係止部材の係合アームと中間フォイル片の係合突片とを共に係合凹部に係合させるようにしたので、前記係合アーム、前記係合突片が係合する箇所をそれぞれ別に形成する場合に比べ、軸受ハウジングに対する加工数を少なくすることができる。
【0015】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイルの両側周縁部には、それぞれ、前記係合凹部に連通する係合切欠が形成され、前記中間フォイル片の前記係合突片は、前記バックフォイルの係合切欠を通って前記係合凹部に係合することが好ましい。
このようにすれば、中間フォイル片の係合突片を係合凹部に係合することで、該中間フォイル片だけでなくバックフォイルも軸受ハウジングに固定することができる。
また、このように中間フォイル片によってバックフォイルを軸受ハウジングに固定するので、バックフォイルに対してスポット溶接や曲げ加工を行うことなく、バックフォイルを軸受ハウジング内に収容・固定することができる。したがって、バックフォイルのスポット溶接や、バックフォイルの歪みの影響によりトップフォイルに歪みが生じるのが防止され、トップフォイルの歪みが充分に少なくなる。また、バックフォイルの溶接を不要にしたため、溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くすことができる。
【0016】
なお、前記ラジアルフォイル軸受において前記バックフォイルは、前記軸受ハウジングの周方向に沿って配置された複数のバックフォイル片を有して構成され、前記バックフォイル片には、それぞれ前記係合切欠が形成されていることが好ましい。
このようにすれば、バックフォイル片における固定端と自由端との間の距離が短くなり、前述した自由端側と固定端側との間の支持剛性の差が小さくなる。したがってバックフォイル全体での支持剛性のバラツキが少なくなる。
また、バックフォイル片にそれぞれ係合切欠を形成しているので、中間フォイル片の係合突片をこれら係合切欠に通すことにより、該係合突片を係合凹部に容易に係合することができる。
【0017】
また、前記ラジアルフォイル軸受において、前記バックフォイル片の係合切欠は、該バックフォイル片の周方向中央部に形成されていることが好ましい。
このようにすれば、各バックフォイル片の、自由端側と固定端側との間の支持剛性の差がさらに小さくなり、したがってバックフォイル全体での支持剛性のバラツキがより少なくなる。
【0018】
また、前記ラジアルフォイル軸受においては、前記中間フォイルが複数枚重ねられていることが好ましい。
このようにすれば、中間フォイル間の滑りによる摩擦によって得られる減衰効果が加わることにより、ラジアルフォイル軸受による減衰効果がより一層高くなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のラジアルフォイル軸受によれば、中間フォイルを、軸受ハウジングの周方向に沿って配置された複数の中間フォイル片によって構成しているので、各中間フォイル片とバックフォイルやトップフォイルとの間で滑りを起こり易くすることができ、したがって滑ることで生じる摩擦による減衰効果を高くすることができる。
また、各中間フォイル片に対してスポット溶接や大きな曲げ加工を行うことなく、中間フォイルを軸受ハウジング内に収容・固定するようにしたので、中間フォイルの歪みの影響によってトップフォイルに歪みが生じるのを防止することができる。したがって、トップフォイルの歪みを充分に少なくし、これによって軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)について、設計通りの良好な性能を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明のラジアルフォイル軸受を詳しく説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0022】
図1は、本発明のラジアルフォイル軸受が適用されるターボ機械の一例を示す側面図であり、
図1中符号1は回転軸、2は回転軸の先端部に設けられたインペラ、3は本発明に係るラジアルフォイル軸受である。なお、
図1では省略してラジアルフォイル軸受を一つしか記載していないが、通常は回転軸1の軸方向にラジアルフォイル軸受が二つ設けられて、回転軸1の支持構造が構成される。したがって、本実施形態においてもラジアルフォイル軸受3が二つ設けられているものとする。
【0023】
回転軸1には、インペラ2が形成された側にスラストカラー4が固定されており、このスラストカラー4の両側には、このスラストカラー4に対向してそれぞれの側にスラスト軸受5が配置されている。
また、インペラ2は静止側となるハウジング6内に配置されており、ハウジング6との間にチップクリアランス7を有している。
また、回転軸1には、スラストカラー4より中央側に、ラジアルフォイル軸受3が外挿されている。
【0024】
「第1実施形態」
図2(a)、(b)は、このような構成のターボ機械に適用されたラジアルフォイル軸受の第1実施形態を示す図である。この第1実施形態のラジアルフォイル軸受3は、
図2(a)に示すように回転軸1に外挿されて該回転軸1を支持する円筒状のもので、回転軸1に対向して配置される円筒状のトップフォイル9と、該トップフォイル9の径方向外側に配置される中間フォイル10と、該中間フォイル10の径方向外側に配置されるバックフォイル11と、該バックフォイル11の径方向外側に配置される軸受ハウジング12とを備えて構成されている。
【0025】
軸受ハウジング12は、ラジアルフォイル軸受3の最外部を構成する金属製で円筒状のもので、内部にバックフォイル11、中間フォイル10、トップフォイル9を収容したものである。この軸受ハウジング12には、その内周面に、該軸受ハウジング12の軸方向に沿って通し溝13が形成されている。すなわち、軸受ハウジング12の内周面要部を示す
図2(b)に示すように、軸受ハウジング12の内周面には、該軸受ハウジング12の軸方向の一端から他端に連続してその全長に通し溝13が形成されている。通し溝13は、長さが軸受ハウジング12の長さと同じで、開口幅が3mm〜5mm程度、深さが1.5mm〜2.5mm程度に形成されている。
【0026】
また、通し溝13の両端部には、該通し溝13にそれぞれ連通して係止溝14が形成されている。係止溝14は、ラジアルフォイル軸受3の要部分解斜視図である
図3(a)に示すように、軸受ハウジング12の両側面がそれぞれ切り欠かれて形成されたもので、該軸受ハウジング12の厚さ方向に沿って内周縁から外周縁に向かって形成されている。なお、本実施形態では、係止溝14を通し溝13に確実に連通させるべく、係止溝14の幅を、通し溝13の幅に比べて十分に広く形成している。
【0027】
また、通し溝13には、その両内側面にそれぞれ係止凹部15が形成されている。これら係止凹部15は、通し溝13の長さ方向に沿ってその全長に形成された溝状のもので、本実施形態では、最大深さが0.2〜0.3mm程度の断面U字状(半円弧状)に形成されている。また、これら係止凹部15は、通し溝13の開口側、例えば軸受ハウジング12の内周面から1mm以内の深さ位置に形成されている。これにより、係止凹部15は、後述するようにトップフォイル9の凸部の先端部を係止できるようになっている。
【0028】
ここで、これら通し溝13および係止凹部15を形成するには、ワイヤカット放電加工が好適に用いられる。すなわち、通し溝13や溝状の係止凹部15のように、軸受ハウジング12の軸方向の一端から他端にかけて連続する溝を形成する場合には、ワイヤカット放電加工によってその断面形状の外形をなぞるようにワイヤを移動させることにより、各溝を容易にかつ精度良く形成することができる。特に本実施形態では、通し溝13とその両側面の係止凹部15とを、一連の加工で容易に形成することができるため、このようにワイヤカット放電加工を採用することにより、通し溝13や係止凹部15の加工コストを充分低く抑えることができる。
【0029】
また、係止溝14についても、軸受ハウジング12の外面側から内面側にかけて連続する溝を形成するため、ワイヤカット放電加工を採用することによってその加工コストを充分低く抑えることができる。ただし、係止溝14については、特にその加工精度を必要としないことなどから、エンドミルによる切削加工などを採用することもできる。
【0030】
このような通し溝13および係止溝14には、固定具16が嵌め込まれて係止している。固定具16は、
図3(a)、および通し溝13と固定具16の平面図である
図3(b)、通し溝13と固定具16の側断面図である
図3(c)に示すように、通し溝13に嵌め込まれて収容される棒状(四角柱状)の基部17と、基部17の両端部に形成されて前記係止溝14、14に係止する一対の折曲片18、18と、基部17の中央部に形成されて折曲片18と反対の側に突出する二つの隔壁片19と、を有して構成されている。
【0031】
基部17は、高さが0.5〜1.5mm程度に形成されたもので、その上面(隔壁片19側の面)が通し溝13の開口より1mm程度沈み込むように形成されている。折曲片18は、通し溝13の底面と軸受ハウジング12の外周面との間の距離にほぼ等しい長さに形成されており、これによって係止溝14に充分な面積で当接するともに、軸受ハウジング12の外周面から突出しないようになっている。
【0032】
ここで、これら折曲片18、18と、通し溝13に連通して設けられた係止溝14、14とにより、規制部が形成されている。すなわち、一対の折曲片18、18がそれぞれ通し溝13の両端部に設けられた係止溝14、14に係止し、したがって一対の折曲片18、18で軸受ハウジング12を挟持することより、固定具16は通し溝13の長さ方向(軸受ハウジング12の軸方向)に移動するのが規制され、クリアランス分を除いて実質的に移動しないようになっている。
【0033】
隔壁片19は、
図3(b)、(c)に示すように基部17をほぼ三等分し、したがって通し溝13をほぼ三等分する二つの位置に形成されたもので、高さが、通し溝13の開口位置と同じレベルになるか、通し溝13より少し突出する程度に形成されている。例えば、バックフォイル11の高さの半分程度、突出するようにしてもよい。このような隔壁片19によって通し溝13がその長さ方向にほぼ三分割されることにより、通し溝13内には固定具16によって三つの係合溝20が形成される。
【0034】
すなわち、固定具16を軸受ハウジング12の内周面側から係止溝14および通し溝13に嵌め込み、係止させることにより、三つの係合溝20を容易に形成することができる。これら係合溝20は、その深さがほぼ1mm程度となっており、その両内側面に、前記係止凹部15を開口させている。
なお、固定具16は、例えば厚さが3〜4mm程度のステンレス等からなる金属板をワイヤカット放電加工することにより、形成することができる。
【0035】
また、
図2(a)に示すように軸受ハウジング12には、後述するバックフォイル11を係止させるための係合凸部33aが、係止部材30によって形成されている。すなわち、ラジアルフォイル軸受3の要部分解斜視図である
図4(a)に示すように、軸受ハウジング12の両側面には、それぞれ、該軸受ハウジング12の内周縁から外周縁に向かって延びる溝状の第1係合凹部31が互いに対向して形成されている。第1係合凹部31は、
図2(a)に示すように本実施形態では軸受ハウジング12の側面をその周方向にほぼ3分割する位置に、それぞれ形成されている。そして、これら第1係合凹部31には前記係止部材30が係止している。なお、本実施形態では、軸受ハウジング17の一方の側面から見て前記3箇所の第1係合凹部31のうちの2箇所の第1係合凹部31、31間に、前記通し溝13が配置されている。
【0036】
また、軸受ハウジング12の内周面には、
図4(a)に示すように対向する第1係合凹部31、31間に、該第1係合凹部31、31に連通する溝32が形成されている。溝32は、その深さが、第1係合凹部31の深さ、すなわち軸受ハウジング12の外面側に向かう深さ(本実施形態では軸受ハウジング12の厚さに等しくなっている)より浅くなっている。これにより、本実施形態では、第1係合凹部31と溝32との間に段差部(図示せず)が形成されている。
【0037】
そして、これら第1係合凹部31、31および溝32には、係止部材30が係止している。係止部材30は、第1係合凹部31、31に係合する一対の係合アーム33と、これら係合アーム33、33間を連結する連結部34と、を有してH字状に形成されたものである。連結部34は、
図2(a)のA−A線矢視断面図である
図4(b)に示すように、前記溝32に係合して該溝32内に収容され、該溝32の外側に突出しないように形成されている。具体的には、溝32の深さが1mm〜2mm程度となっており、したがって連結部34の高さも1mm〜2mm程度となっている。
【0038】
一対の係合アーム33は、連結部34に対して上下方向に延出して形成されたもので、これによって前記したように係止部材30をH字状に形成している。これら係合アーム33の上側に延出した部分、すなわち第1係合凹部31に係合する側と反対の側は、軸受ハウジング12の内周面より突出することにより、後述するバックフォイル片11aの係合切欠11dに係合する係合凸部33aとなっている。
【0039】
また、係合アーム33の下側に延出した部分は、前述した第1係合凹部31と溝32との間の段差部に係止している。これにより、係止部材30は軸受ハウジング12に対し、その軸方向への移動が規制されている。
【0040】
なお、係止部材30の係合アーム33や連結部34は、
図4(a)に示したように四角柱状であっても、また、円柱状(丸棒状)であってもよく、その太さは0.3〜0.5mm程度となっている。このような係止部材30は、例えば厚さが0.5mm未満のステンレス等からなる金属箔をH字状にエッチング加工したり、ワイヤカット放電加工することにより、形成することができる。
【0041】
また、溝32については、前記通し溝13と同様にして、ワイヤカット放電加工で形成することができる。さらに、第1係合凹部31については、前記係止溝14と同様にして、ワイヤカット放電加工やエンドミルによる切削加工などで加工することができる。すなわち、通し溝13と溝32とを、ワイヤカット放電加工によって連続的に加工処理することができ、同様に、係止溝14と第1係合凹部31とについても、ワイヤカット放電加工等によって連続的に加工処理することができる。したがって、軸受ハウジング12について、その加工コストの低減化を図ることが可能になる。
このようにして溝32、第1係合凹部31を形成した後、係止部材30を軸受ハウジング12の内周面側から第1係合凹部31および溝32に嵌め込み、係止させることにより、係合凸部33aを容易に形成することができる。
【0042】
また、
図2(a)に示すように軸受ハウジング12には、その両側面に、後述する中間フォイル片10aを保持するための第2係合凹部35が形成されている。第2係合凹部35は、本発明における係合凹部として機能するもので、ラジアルフォイル軸受3の要部分解斜視図である
図5(a)に示すように、軸受ハウジング12の外周縁から内周縁にまで溝状に延びて形成されている。この第2係合凹部35は、
図2(a)に示すように軸受ハウジング12の両側面に、互いに対向して対となって形成されている。本実施形態では、このような第2係合凹部35が合計三対形成されており、これら第2係合凹部35は、軸受ハウジング12の側面をその周方向にほぼ3分割する位置にそれぞれ形成されている。
【0043】
また、これら第2係合凹部35は、前記第1係合凹部31に対して半ピッチずれた状態で、形成配置されている。すなわち、三対の第2係合凹部35のうちの一つは、通し溝13の一方の側に配置され、他の二つは、それぞれ隣り合う第1係合凹部31、31間の中央部に配置されている。
なお、第2係合凹部35についても、前記係止溝14や第1係合凹部31と同様にして、ワイヤカット放電加工で加工することができる。すなわち、係止溝14と第1係合凹部31と第2係合凹部35について、ワイヤカット放電加工によって連続的に加工処理することができる。したがって、軸受ハウジング12について、その加工コストの低減化を図ることが可能になる。また、ワイヤカット放電加工に代えてレーザー法を用いることもできる。
【0044】
バックフォイル11は、フォイル(薄板)で形成されて中間フォイル10及びトップフォイル9を弾性的に支持するものである。このようなバックフォイル11としては、例えばバンプフォイルや、特開2006−57652号公報や特開2004−270904号公報などに記載されているスプリングフォイル、特開2009−299748号公報などに記載されているバックフォイルなどが用いられる。本実施形態では、バックフォイル11としてバンプフォイルを用いている。ただし、前記のスプリングフォイルやバックフォイルを、本発明のバックフォイルとして用いてもよいのはもちろんである。
【0045】
バックフォイル(バンプフォイル)11は、本実施形態では軸受ハウジング12の周方向に沿って配置された3つ(複数)のバックフォイル片11aによって構成されている。これらバックフォイル片11aは、フォイル(薄板)が波板状に成形され、かつ、側面が全体として略円弧状になるよう成形されたもので、3つが全て同じ形状・寸法に形成されている。したがって、これらバックフォイル片11aは、軸受ハウジング12の内周面をほぼ3分割して配置されている。
【0046】
また、これらバックフォイル片11aは、前記通し溝13を挟む位置ではある程度の隙間をあけて配置されており、それ以外の位置では、互いの端部が所定の間隔をあけて配置されている。そして、この所定の間隔をあけた位置に、前記の第2係合凹部35が形成されている。また、通し溝13を挟む位置にも、該通し溝13の一方の側に、第2係合凹部35が形成されている。このような構成によって3つのバックフォイル片11aは、全体として略円筒形状に形成されて、中間フォイル10を介してトップフォイル9の周方向に配置されている。
【0047】
また、このように波板状に成形されたバックフォイル片11aは、
図2(a)の要部を平坦化して模式的に示す
図6(a)に示すように、軸受ハウジング12の周方向に沿って、該軸受ハウジング12と接する平坦な谷部11bと、中間フォイル10(中間フォイル片10a)に接する湾曲した山部11cとを交互に形成している。これによってバックフォイル片11aは、特に中間フォイル片10a(中間フォイル10)に接する山部11cにより、該中間フォイル片10aを介してトップフォイル9を弾性的に支持している。また、ラジアルフォイル軸受3の軸方向に、山部11cや谷部11bによる流体の通路を形成している。
【0048】
また、これらバックフォイル片11aには、
図6(a)のB−B線矢視図である
図6(b)に示すように、それぞれの周方向中央部(軸受ハウジング12の周方向に沿う方向の中央部)の両側周縁部に、係合切欠11dが形成されている。該係合切欠11dは、
図6(a)に示すようにバックフォイル片11aの谷部11bに形成されたもので、山部11c、11c間に形成された平坦部からなる谷部11bが、その側周縁から内側に向かって矩形状に切り欠かれて形成されたものである。
【0049】
該係合切欠11dは、軸受ハウジング12に設けられた前記係合部材30の係合凸部33aに対応する位置、すなわち係合凸部33aと重なる位置に形成されており、その縦横の幅が、係合凸部33aに係合するように該係合凸部33aの縦横の幅とほぼ同じに形成されている。具体的には、軸受ハウジング12の周方向に沿う横幅が0.2mm〜0.4mm程度、軸方向に沿う縦幅が1mm〜2mm程度となっている。
【0050】
なお、係合切欠11dの形成については、バリが発生せず、加工による歪みも生じないように、フォイルをエッチング加工や放電加工で行うのが好ましい。すなわち、エッチング加工や放電加工でフォイルに係合切欠11dを形成した後、山部11cや谷部11bを形成するためのプレス成型を行い、バックフォイル片11aを形成するのが好ましい。
このような構成のもとに、軸受ハウジング12の係合凸部33a(係止部材30の係合アーム33)には、
図4(a)および
図6(a)に示すようにバックフォイル片11aの係合切欠11dが係合している。
【0051】
このように、係合アーム33の上側に延出した係合凸部33aに、バックフォイル片11aの係合切欠11dが係合し、その状態で軸受ハウジング12の内周面上に3つのバックフォイル片11aが配置されているので、係止部材30は特にその連結部34がバックフォイル片11aに押さえられることにより、軸受ハウジング12から脱落することが防止されている。
【0052】
図2(a)に示すように中間フォイル10は、3つのバックフォイル片11aからなるバックフォイル11とトップフォイル9との間に配置されたもので、本実施形態では、軸受ハウジング12の周方向に沿って配置された3つの中間フォイル片10aによって構成されている。中間フォイル片10aは、
図5(b)、(c)に示すように展開形状が略矩形状に形成されたもので、3つの中間フォイル片10aによって略円筒状が形成されるようにそれぞれ所定曲率で湾曲させられたことにより、側面視円弧状の中間フォイル片10aに形成されている。また、その一方の短辺側の両端部にそれぞれ二点鎖線で示す突出片が形成され、これら突出片が略直角に折曲されたことにより、係合突片10bが成されている。
【0053】
そして、このようにして形成された係合突片10bが、
図2(a)、
図5(a)、
図6(a)に示すようにそれぞれ三つのバックフォイル片11a間に形成された隙間を通って軸受ハウジング12の第2係合凹部35に係合することにより、中間フォイル片10aは、
図2(a)のC−C線矢視断面図である
図5(d)に示すように、それぞれバックフォイル片11aを覆った状態で軸受ハウジング12に保持されている。このようにして軸受ハウジング12に保持された中間フォイル片10aは、特にその両側に形成された係合突片10bが、軸受ハウジング12の両側面を挟持するようにして第2係合凹部35に係合している。したがって、ラジアルフォイル軸受3に回転軸1の軸ぶれなどによる不測の外力が加わった際にも、中間フォイル片10aは軸受ハウジング12内を回転することなく、さらに、軸受ハウジング12内を軸方向へ移動することがないため、軸受3から脱落しないようになっている。
【0054】
図2(a)に示すようにトップフォイル9は、3つの中間フォイル片10aからなる中間フォイル10の内面に沿って円筒状に巻かれたもので、一方の端部側に形成された凸部21aと、他方の端部側に形成された凸部21bとが、それぞれ軸受ハウジング12に形成された前記通し溝13中の係合溝20に係合するよう配設されたものである。このトップフォイル9は、その展開図である
図7(a)に示すように、軸受周方向を長辺とし、軸受長方向を短辺とする矩形状の金属箔が、その側面図である
図7(b)中の矢印方向(長辺の長さ方向:軸受周方向)に円筒状に巻かれて、形成されたものである。
【0055】
このトップフォイル9には、
図7(a)に示したように、一方の辺側(短辺側)に一つの凸部21aと二つの凹部22aとを有してなる第1の凹凸部23aが形成され、前記一方の辺(短辺)と反対の他方の辺側(短辺側)に、二つの凸部21bと一つの凹部22bとを有してなる第2の凹凸部23bが形成されている。第2の凹凸部23bの凹部22bは第1の凹凸部23aの凸部21aに対応して形成され、第1の凹凸部23aの凹部22aは第2の凹凸部23bの凸部21bに対応して形成されている。
【0056】
すなわち、第2の凹凸部23bの凹部22bは、第1の凹凸部23aと第2の凹凸部23bとが重なるようにトップフォイル9を円筒状に巻いた際、該凹部22b内を凸部21aが通り抜けるように形成されている。同様に、第1の凹凸部23aの凹部22aは、トップフォイル9を円筒状に巻いた際、該凹部22a内を凸部21bがそれぞれ通り抜けるように形成されている。なお、凸部21a、21bは、その幅が、前記通し溝13と固定具16とによって形成された係合溝20の長さに対応してこれとほぼ一致するように形成されている。
【0057】
凹部22b、22aを通り抜けた凸部21a、21bは、
図2(a)に示すようにそれぞれ軸受ハウジング12側に引き出され、その先端部が軸受ハウジング12の前記係合溝20に係合させられる。本実施形態では、
図2(a)の要部拡大図である
図8に示すように、凸部21a、21bはその先端部がそれぞれ通し溝13中の係合溝20内に入れられて係合させられた後、さらに係止凹部15内に入れられ、ここに係止させられている。これにより、トップフォイル9はその周方向への移動が規制され、その移動量が僅かとなるように配設されている。
【0058】
すなわち、凸部21a、21bは、その先端が係止凹部15の内面に強く突き当てられることなく、先端部側面が係止凹部15の内面に接する程度となるように配設される。したがって、回転軸1の定常運転時には、凸部21a、21bは係止凹部15又は係合溝20から大きな反力を受けないため、トップフォイル9は歪みを生じないようになっている。また、ラジアルフォイル軸受3に回転軸1の軸ぶれなどによる不測の外力が加わった際にも、トップフォイル9は軸受ハウジング12内を回転することなく、さらに、軸受ハウジング12と回転軸1との間から脱落しないようになっている。
【0059】
つまり、不測の外力が加わった際には、凸部21a、21bが係止凹部15の内面に強く係止することにより、これら凸部21a、21bが係止凹部15から外れ、さらに係合溝20からも外れてしまうことがなく、したがってトップフォイル9が回転したり、過剰に変形して前記凸部21a、21bが凹部22b、22aから抜け出てしまい、トップフォイル9が軸受ハウジング12から脱落してしまうようなことが防止されている。
【0060】
また、凸部21a、21bは、係合溝20を区画する固定具16の隔壁片19により、軸方向への移動が規制されている。すなわち、凸部21aはその両側が隔壁片19によって規制されることにより、該凸部21aを形成した第1の凹凸部23a側は軸方向への移動が規制されている。また、二つの凸部21bは、それぞれその片側が隔壁片19によって規制され、かつ互いに逆方向に規制されることにより、これら二つの凸部21bを形成した第2の凹凸部23b側も、軸方向への移動が規制されている。このようにトップフォイル9は、軸受ハウジング12の軸方向への移動が規制されているため、軸受ハウジング12から外に飛び出すことが防止されている。
【0061】
また、トップフォイル9は、
図7(b)に示すように、第1の凹凸部23aを形成した側(一方の辺側)と第2の凹凸部23bを形成した側(他方の辺側)とに、これらの間の中央部に比べて薄厚(薄肉)な薄肉部24が形成されている。これら薄肉部24は、
図2(a)に示すように、その外周面(軸受ハウジング12側の面)が前記中央部の外周面より凹んだ状態となるよう、薄厚化(薄肉化)されて形成されている。
【0062】
薄肉部24を形成するには、例えばエッチング加工によってトップフォイル9の両端部を、十μmオーダーでコントロールして所望の厚さ(薄さ)に形成する。具体的には、軸受径φ35mmとした場合、トップフォイル9の厚さを100μmとすると、薄肉部24の厚さは80μm程度となるようにする。なお、このようなエッチング加工では、曲げ加工などに比べてトップフォイル9に生じる応力が極めて小さく、したがってトップフォイル9に歪みが生じることもほとんどない。
また、
図7(b)に示す、薄肉部24の周方向の長さLは、
図2(a)に示すように通し溝13と、バンプフォイル(バックフォイル)11の端部の山一つ分までに対応する長さとされる。
【0063】
このようにトップフォイル9の両端部に薄肉部24を形成したことにより、これら両端部(薄肉部24)は弾性変形し易くなり、したがってこれら両端部は軸受ハウジング12の内周面を構成する曲面に倣って曲面となる。これにより、トップフォイル9は、その両端部においても回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)がほとんど発生しないようになる。
【0064】
また、トップフォイル9の両端部の外周面を、前記中央部の外周面より凹んだ状態となるように薄厚化して薄肉部24を形成しているので、中間フォイル10を介してその外周面側を支持するバックフォイル11との間において、その端部の山一つ分との間に隙間が形成される。これにより、該薄肉部24においては、回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)が生じるのが確実に防止される。なお、薄肉部24の周方向の長さLについては、
図2(a)に示した例に代えて、通し溝13と、バンプフォイル11の端部の山三つ分ぐらいまでに対応する長さとしてもよい。
【0065】
次に、このような構成からなるラジアルフォイル軸受3の作用について説明する。
回転軸1が停止した状態では、トップフォイル9はバックフォイル11(3つのバックフォイル片11a)によって中間ファイル10(3つの中間フォイル片10a)を介して回転軸1側に付勢されることで回転軸1に密着している。なお、本実施形態では、トップフォイル9の両端部が薄肉部24となっているので、これら薄肉部24では回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)がほとんど生じないようになっている。
【0066】
そして、回転軸1を
図2(a)中の矢印P方向に始動させると、最初は低速で回転を始め、その後徐々に加速して高速で回転する。すると、
図2(a)中矢印Qで示すように、トップフォイル9、中間フォイル10、バンプフォイル11のそれぞれの一端側から周囲流体が引き入れられ、トップフォイル9と回転軸1との間に流入する。これにより、トップフォイル9と回転軸1との間に流体潤滑膜が形成される。
【0067】
この流体潤滑膜の膜圧は、トップフォイル9に作用し、該トップフォイル9に接する中間フォイル10を介してバックフォイル片11aの個々の山部11cを押圧する。すると、バックフォイル片11aは中間フォイル10に押圧されることにより、その山部11cが押し広げられ、これによってバックフォイル片11aは軸受ハウジング12上をその周方向に動こうとする。すなわち、バックフォイル片11a(バックフォイル11)は、中間フォイル10を介してトップフォイル9を弾性的に支持するため、トップフォイル9から荷重を受けた際にはその周方向に変形することで、トップフォイル9や中間フォイル10の撓みを許容し、これを支持する。
【0068】
しかし、
図4(a)、(b)に示すようにバックフォイル片11aには、その側周縁部に設けられた係合切欠11dに係止部材30の係合凸部33aが係合しており、これによってバックフォイル片11aは、軸受ハウジング12の内周面上で周方向に回ることが防止されている。したがって、バックフォイル片11aの個々の山部11cは、係合凸部33aが係合している係合切欠11dを固定点(固定端)として周方向に変形する(動く)ものの、バックフォイル片11a自体はその中心が定位置からずれることはない。
【0069】
また、バックフォイル片11aは周方向に変形する(動く)際、軸受ハウジング12や中間フォイル10との間の摩擦の影響を受けるため、その両端部、すなわち自由端側では変形し易い(動き易い)ものの、前記固定点(固定端)側では変形し難くなっている。そのため、自由端側と固定端側とでは、バックフォイル片11aによる支持剛性に差が生じる。
【0070】
しかし、本実施形態では、バックフォイル11を3つのバックフォイル片11aに分割しているため、バックフォイル11を単一のフォイルで形成した場合に比べ、固定端と自由端との間の距離が短くなっていることにより、前記の支持剛性の差が小さくなっている。さらに、係合切欠11dをバックフォイル片11aの周方向中央部に形成し、係合凸部33aによる固定点をバックフォイル片11aの周方向中央部としているので、固定端と自由端との間の距離がより短くなっており、したがって自由端側と固定端側との間の支持剛性の差がより小さくなっている。
【0071】
また、回転軸1が高速で回転している際、係合凸部33aがバックフォイル片11aの軸方向への動きも拘束しているため、不測に衝撃等が作用した場合でも、バックフォイル片11aが軸受ハウジング12から脱落することはない。
同様に、中間フォイル片10aはその係合突片10bが軸受ハウジング12の両側面に形成された第2係合凹部35に係合しているので、不測に衝撃等が作用した場合でも、軸受ハウジング12内を回転することなく、さらに、軸受ハウジング12内を軸方向へ移動することがない。また、径方向に対してはトップフォイル9で覆われているので、これが抜け止めとして機能することにより、中間フォイル片10aは軸受3から脱落することが防止されている。
【0072】
また、流体潤滑膜が形成されるまでの過渡状態においては、回転軸1とトップフォイル9との間に固体摩擦が生じ、これが始動時の抵抗になる。しかし、前記したようにトップフォイル9の両端部でプリロードが生じなくなっていることや、周囲流体が流入する側のトップフォイル9が薄肉部24となっていて柔らかくなっており、トップフォイル9と回転軸1との間が開口し易くなっていることにより、回転軸1が始動すると早期に流体潤滑膜が形成され、回転軸1はトップフォイル9に対して非接触状態で回転するようになる。
【0073】
このようなラジアルフォイル軸受3にあっては、トップフォイル9とバックフォイル11との間に中間フォイル10を配設しているので、回転軸1が回転時において軸振動(自励振動)を起こしたときには、それに伴う膜圧変動がトップフォイル9から中間フォイル10(中間フォイル片10a)を介してバックフォイル11(バックフォイル片11a)へ伝達される。その際、トップフォイル9には荷重変動によって微小な撓み(荷重に応じて変動)が引き起こされ、これにより、トップフォイル9と中間フォイル10との間、さらには中間フォイル10とバックフォイル11との間に「滑り」が生じる。この「滑り」が摩擦によるエネルギー散逸を引き起こし、膜圧変動を減衰させる。すなわち、減衰効果が得られる。したがって、この減衰効果によって前記の軸振動(自励振動)を抑制し、該軸振動を収まり易くすることができる。
また、中間フォイル10を、軸受ハウジング12の周方向に沿って配置された3つ(複数)の中間フォイル片10aによって構成しているので、単一の中間フォイルが軸受ハウジング12を1周巻くように配置される場合に比べ、バックフォイル11との間やトップフォイル9との間での前記「滑り」が拘束されにくくなって摩擦による拘束箇所が減少する。したがって、各中間フォイル片10aとバックフォイル11やトップフォイル9との間で滑りが起こり易くなり、滑ることで生じる摩擦による前記減衰効果を高くすることができる。
【0074】
また、軸受ハウジング12の両側面に形成した第2係合凹部35に、中間フォイル片10aに形成した係合突片10bを係合させるようにしたので、各中間フォイル片10aに対してスポット溶接や大きな曲げ加工を行うことなく、該中間フォイル片10aからなる中間フォイル10を軸受ハウジング12内に収容・固定することができる。したがって、中間フォイル10のスポット溶接や、中間フォイル10の歪みの影響によりトップフォイル9に歪みが生じるのを防止することができ、トップフォイル9の歪みを充分に少なくすることができる。そして、このようにトップフォイル9の歪みを充分に少なくしているので、軸受の負荷能力や動特性(剛性と減衰)について、設計通りの良好な性能を得ることができる。
【0075】
また、中間フォイル10やバックフォイル11の溶接を不要にしたため、溶接不良による組立て不良や組立てのバラツキを無くすことができ、製造を容易にして組立て再現性を高めることができる。これにより、コストの低減化を図ることができる。さらに、中間フォイル片10aやバックフォイル片11aが破損したり消耗した際、中間フォイル10全体やバックフォイル11全体を交換することなく、破損または消耗したパーツ(中間フォイル片10aやバックフォイル片11a)のみを交換すればよくなる。
【0076】
また、バックフォイル11を、軸受ハウジング12の周方向に沿って配置された複数のバックフォイル片11aによって構成しているので、バックフォイル片11aにおける固定端と自由端との間の距離が短くなり、自由端側と固定端側との間の支持剛性の差が小さくなる。したがってバックフォイル11全体での支持剛性のバラツキを少なくすることができる。
また、バックフォイル片11aの係合切欠11dを、該バックフォイル片11aの周方向中央部に形成しているので、各バックフォイル片11aにおける自由端側と固定端側との間の支持剛性の差がさらに小さくなる。したがって、バックフォイル11全体での支持剛性のバラツキをより少なくすることができる。
また、このようにバックフォイル11を複数のバックフォイル片11aによって構成しているので、中間フォイル片10aの係合突片10bをこれらの間に形成される隙間に通すことにより、該係合突片10bを第2係合凹部35に容易に係合することができる。
【0077】
また、軸受ハウジング12の内周面の両側端部にそれぞれ形成した係合凸部33aに、バックフォイル片11aの両側周縁部にそれぞれ形成した係合切欠11dを係合させることにより、バックフォイル片11aを軸受ハウジング12に固定しているので、バックフォイル片11aに対してスポット溶接や曲げ加工を行うことなく、バックフォイル片11aを軸受ハウジング12内に収容・固定することができる。したがって、バックフォイル11(バックフォイル片11a)のスポット溶接や、バックフォイル11の歪みの影響によってトップフォイル9に歪みが生じるのを防止し、トップフォイル9の歪みを充分に少なくすることができる。
【0078】
また、通し溝13を軸受ハウジング12の軸方向に沿って一端から他端に連続して形成しているので、放電ワイヤカット加工によって該通し溝13を容易に形成することができ、したがってその加工コストを低く抑えることができる。
また、トップフォイル9と軸受ハウジング12との間で軸方向のずれが生じそうになっても、通し溝13が長さ方向に分割されて形成された係合溝20に係合する凸部21a、21bが、該係合溝20の端部(隔壁片19)に規制されてその移動が停止させられることにより、ずれを防止することができる。
【0079】
また、通し溝13の内側面に係止凹部15を形成し、該係止凹部15にトップフォイル9の凸部21a、21bの先端部を係止させるようにしているので、該凸部21a、21bの位置決めとその係止を容易に行うことができ、さらにトップフォイル9の組立再現性を高めることができる。
また、トップフォイル9については、単にエッチング加工による凹凸部23a、23bの形成が増えただけであり、従来のスポット溶接や、歪みを発生させる曲げ加工を無くすことができる。したがって、製作の難易度を低下させ、製造コストを低減化することができる。
また、軸受ハウジング12に対するトップフォイル9の溶接が無いため、溶接不良などによる組立て不良や組立てのバラツキが無くなる。したがって、再現性が高くなり、量産性に優れたものとなる。
【0080】
また、トップフォイル9の両端部に薄肉部24を形成しているので、トップフォイル9は、これら両端部においても回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)が発生しないようになる。したがって、プリロードによって始動トルクが高くなったり、運転中の発熱が設定以上に高くなることを防止することができる。
また、トップフォイル9の両端部に薄肉部24を形成しているので、例えば従来のようにトップフォイルの両端部を軸受ハウジングの内曲面(内周面)になじませるための、熱処理工程が不要になる。
さらに、トップフォイル9の両端部に薄肉部24を形成したことで、周囲流体が流入する側のトップフォイル9の端部側が柔らかくなっているため、前記したように周囲流体がトップフォイル9と回転軸1との間に流入し易くなる。したがって、より低い回転数で流体潤滑膜が形成されるようになり、始動性が向上する。
【0081】
「第2実施形態」
次に、本発明のラジアルフォイル軸受の第2実施形態を説明する。
図9(a)、(b)、
図10(a)、(b)は、
図1に示したターボ機械に適用されたラジアルフォイル軸受の第2実施形態を示す図であり、
図9(a)中符号40はラジアルフォイル軸受である。このラジアルフォイル軸受40が
図2(a)に示したラジアルフォイル軸受3と異なるところは、中間フォイル41を6つの中間フォイル片41aで構成した点と、中間フォイル片41aの係合突片41bの係合箇所を、係止部材30の係合アーム33を係合させた第1係合凹部31に係合させている点である。
【0082】
本実施形態においては、軸受ハウジング42には第2係合凹部35が形成されることなく、本発明における係合凹部として機能する前記第1係合凹部31のみが形成されている。なお、トップフォイル9の凸部21a、21bを係合させるための通し溝13や係止溝14、さらに固定具16などの構成については、第1実施形態と同一である。
【0083】
中間フォイル41を構成する中間フォイル片41aは、
図5(b)、(c)に示した第1実施形態の中間フォイル片10aとほぼ同じ構成を有しており、異なるところは、軸受ハウジング42の周方向に沿う長さが、
図9(a)に示すように前記中間フォイル片10aのほぼ半分の長さに形成されている点である。すなわち、本実施形態の中間フォイル片41aも、
図5(b)、(c)に示したものと同様に展開形状が略矩形状に形成されたもので、6つの中間フォイル片41aによって略円筒状が形成されるようにそれぞれ所定曲率で湾曲させられたことにより、一対の係合突片41bを有する側面視円弧状のものに形成されている。
【0084】
これら中間フォイル片41aは、本実施形態ではその係合突片41bが、
図9(b)に示すようにバックフォイル片11aの係合切欠11dを通って前記第1係合凹部31に係合している。すなわち、中間フォイル片41aは、軸受ハウジング42の周方向において隣り合う一対のもの同士が、
図10(a)に示すように互いの係合突片41bが対向して配置されている。そして、これら係合突片41bが、それぞれ係合切欠11dを通って前記第1係合凹部31に係合させられている。その際、これら一対の係合突片41bは、
図9(b)に示すように第1係合凹部31に係止する係止部材30の係合アーム33の両側、すなわち係合アーム33の側面と第1係合凹部31を形成する内側面との間に、係合させられている。
【0085】
ここで、本実施形態では、
図10(a)に示すように係止部材30を係止させるための溝32と係合アーム33を係合させるための第1係合凹部31とは、それぞれの幅(軸受ハウジング42の周方向に沿う幅)が異なって形成されている。すなわち、係止部材30及びその係合アーム33の厚さ及び連結部34の厚さをaとし、中間フォイル片41aの厚さ(係合突片41bの厚さ)をbとすると、溝32の幅はaであるのに対し、軸受ハウジング42の第1係合凹部31の幅は(a+2b)以上となっている。また、バックフォイル片11aの係合切欠11dの幅はほぼ(a+2b)となっている。これにより、
図9(a)のD−D線矢視断面図である
図10(b)に示すように、溝32には係止部材30の連結部34が係合するようになっている。また、係合切欠11dには係止部材30の係合アーム33(係合凸部33a)が係合するとともに、一対の係合突片41bが係合するようになっている。さらに、第1係合凹部31には、係止部材30の係合アーム33が係合するとともに、一対の係合突片41bが係合するようになっている。
なお、前記の各寸法については適宜変更可能であり、例えば係合アーム33の厚さについてはエッチング加工により減肉して(a-2b)にし、第1係合凹部31の幅をaより少しだけ広い(a+α)とし、係合切欠11dの幅をaにしてもよい。
【0086】
このようなラジアルフォイル軸受40にあっては、第1実施形態のラジアルフォイル軸受3で得られる効果に加えて、第2係合凹部35の加工を不要にしたことにより、軸受ハウジング42の加工を容易にすることができるという効果が得られる。
また、中間フォイル41を3つでなく6つの中間フォイル片41aで構成しているので、前述した摩擦による拘束箇所がさらに減少し、各中間フォイル片41aとバックフォイル11やトップフォイル9との間で滑りがより起こり易くなり、摩擦による前記減衰効果をより高くすることができる。
また、中間フォイル片41aによってバックフォイル11aを軸受ハウジング42に固定することができる。
【0087】
「第3実施形態」
次に、本発明のラジアルフォイル軸受の第3実施形態を説明する。
図11(a)、(b)、
図12(a)、(b)は、
図1に示したターボ機械に適用されたラジアルフォイル軸受の第3実施形態を示す図であり、
図11(a)中符号50はラジアルフォイル軸受である。このラジアルフォイル軸受50が
図9(a)に示したラジアルフォイル軸受40と異なるところは、係止部材30を無くし、中間フォイル片41aによってバックフォイル片11aを軸受ハウジング51に固定するようにした点である。
【0088】
すなわち、本実施形態では、軸受ハウジング51には第1実施形態や第2実施形態で示した、係止部材30を係止させるための溝32が形成されておらず、第1係合凹部31のみが形成されている。そして、中間フォイル片41aはその係合突片41bが、
図11(b)に示すようにバックフォイル片11aの係合切欠11dを通って前記第1係合凹部31に係合している。中間フォイル片41aは、軸受ハウジング42の周方向において隣り合う一対のもの同士が、
図12(a)に示すように互いの係合突片41bが対向して配置され、これら係合突片41bが、それぞれ係合切欠11dを通って前記第1係合凹部31に係合させられている。その際、本実施形態では係止部材30が設けられていないため、
図11(b)に示すように第1係合凹部31には、一対の係合突片41bのみが係合させられている。
【0089】
したがって、本実施形態では、
図12(a)に示すように第1係合凹部31は第2実施形態で示した第1係合凹部31に比べて、その幅(軸受ハウジング51の周方向に沿う幅)が充分に狭く形成されている。具体的には、中間フォイル片41aの係合突片41bの厚さbの2倍程度の幅となっている。また、バックフォイル片11aの係合切欠11dの幅も、係合突片41bの厚さbの2倍程度の幅とするのが好ましい。なお、係合突片41bの厚さbは、通常は0.1mm以下と非常に薄いため、第1係合凹部31の幅も0.2mm以下にする必要がある。しかし、このような狭い幅の加工は現状では難しく、例えばレーザー法を用いるため高いコストがかかってしまう。したがって、本実施形態では、
図13に示すように中間フォイル片41aを複数層(
図13では2層)重ねて多層化し、用いるのが好ましい。このように多層化すれば、その分係合突片41bも多層化されることで厚くなり、第1係合凹部31の幅も広くすることができる。したがって、第1係合凹部31の加工が容易になり、その分コストを低く抑えることができる。
【0090】
このようなラジアルフォイル軸受40にあっては、第2実施形態のラジアルフォイル軸受3で得られる効果に加えて、係止部材30を不要にして部品点数や組立て工数を少なくし、さらに溝32の加工も不要にしたことにより、コストを大幅に低減することができるという効果が得られる。
【0091】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記第1実施形態や第2実施形態では、中間フォイル片からなる中間フォイルを一枚(一層)のみ用いているが、
図13に示したように中間フォイル(中間フォイル片)を複数枚重ねて多層化してもよい。このようにバックフォイルとトップフォイルとの間に中間フォイルを多層化して配置することにより、トップフォイルと中間フォイルとの間や中間フォイルとバックフォイルとの間が互いに滑ることで生じる摩擦によって得られる減衰効果に、中間フォイル間の滑りによる摩擦によって得られる減衰効果が加わる。したがって、回転軸の軸振動(自励振動)を抑制して該軸振動をより収まり易くすることができる。
【0092】
ここで、ラジアルフォイル軸受の減衰能力を高めるには、前記のように中間フォイルの多層化が有効である。しかし、従来では中間フォイルを軸受ハウジングにスポット溶接していたため、この溶接によって溶け落ちない程度に中間フォイルの厚さを調整する必要があり、したがってトップフォイルと同程度の厚さにしていた。そのため、このような厚さの中間フォイルを複数枚重ねて多層化すると、軸受面の剛性(トップフォイルと中間フォイルを合わせた剛性)が高くなり過ぎてしまい、軸振動によって引き起こされる流体潤滑膜の膜圧変動に対して軸受面がうまく追従しなくなる。その結果、フォイル間の「滑り」による減衰効果が得にくくなってしまう。
【0093】
これに対し、前記実施形態では、中間フォイルを軸受ハウジングに溶接することなく、その係合突片を係合凹部に係合させることでバックフォイルとトップフォイルとの間に固定しているので、中間フォイルをトップフォイルに対して充分に薄い厚さに形成することができる。したがって、軸受面の剛性を適正な高さ(強さ)に抑えつつ、その多層化を可能にすることができる。
【0094】
また、前記第1実施形態、第2実施形態では、バックフォイル片11aの係合切欠11dに係合させる係合凸部33aについて、係止部材30の係合アーム33で形成することなく、軸受ハウジング12の内周面に係合凸部33aを直接形成してもよい。その場合に、特に第2実施形態では、軸受ハウジング12の内周面に直接形成した係合凸部33aの両側に、中間フォイル片41aの係合突片41bを係合させるための溝状の係合凹部をそれぞれ形成すればよい。
【0095】
また、前記実施形態では、トップフォイル9の凸部21a、21bを係合させる係合溝20を、通し溝13に固定具16を嵌め込むことで形成したが、このような凸部21a、21bを係合させる係合溝を、通し溝13に代えて軸受ハウジング12に直接形成するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、軸受ハウジングを円筒状に形成したが、一方の側面又は両方の側面に環状のフランジを一体に形成し、全体を略円筒状に形成してもよい。フランジを形成することにより、ターボ機械のハウジングなどへの取付を容易にすることができる。