(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の段付遊星歯車90は、第1歯車部91及び第2歯車部92の歯数が同等に設定されていることで、小径側の第2歯車部92の歯の大きさ、いわゆるモジュールが相対的に小さくなって、第2歯車部92の歯の強度が低くなっている。一方、例えば入力側の回転速度を十分に減速して出力(以下、「高減速化」ともいう)しようとすると、これに伴う出力トルクの増加に対応して第2歯車部92の歯の強度を高くすることが必須である。
【0005】
特許文献1では、第2歯車部92の歯を含めて段付遊星歯車90全体の強度を高くするため、金属製の薄板歯車を位相を合わせて積層して段付遊星歯車90を構成することが併せて提案されている。しかしながら、このような段付遊星歯車90は、構造が複雑であるとともに、第1歯車部91及び第2歯車部92を同相に配置するための高精度な組付けが要求される。
【0006】
また、第1歯車部91及び第2歯車部92の歯数差が零であることで、高減速化し過ぎると、歯の相互間の滑りが増加して効率が低下することになる。
なお、特許文献2に記載された遊星歯車減速機構では、ピッチ円の直径及び歯数が共に同等に設定された第1歯車部及び第2歯車部を有する段付遊星歯車が提案されている。そして、第1歯車部に噛合する固定リングギヤ及び第2歯車部に噛合する可動リングギヤの歯数差が「1」に設定されている。
【0007】
この場合、第1歯車部及び第2歯車部のモジュールが同等に設定されていることで、それらの強度も同等になる。また、固定リングギヤ及び可動リングギヤの歯数差を「1」に設定したことで、第1歯車部に噛合する太陽歯車を入力軸とし、第2歯車部に噛合する可動リングギヤを出力軸とした場合、太陽歯車の回転速度を著しく減速させて可動リングギヤから出力できることが期待される。さらに、段付遊星歯車の個数が「4」に設定されていることで、高減速化に伴い出力トルクが増加したとしても、所要の強度が確保される。
【0008】
しかしながら、通常、固定リングギヤ及び可動リングギヤの歯数差は、遊星歯車の個数の整数倍に設定される。特許文献2では、固定リングギヤ及び可動リングギヤの歯数差を「1」で実現するために、4つの段付遊星歯車の全てが固定リングギヤ及び可動リングギヤに噛合するように各々の第1歯車部及び第2歯車部間に位相差が設定されている。具体的には、4つの段付遊星歯車における各々の第1歯車部及び第2歯車部間の位相差は、「0」、「1/4」、「2/4」、「3/4」に設定されている。
【0009】
従って、これら4つの段付遊星歯車の製造自体に高精度が要求されるとともに、4つの段付遊星歯車を所定の位置に配置するための高精度な組付けが要求される。なお、第1歯車部及び第2歯車部の歯数差が零で高減速化し過ぎると、歯の相互間の滑りが増加して効率が低下することは特許文献1と同様である。
【0010】
本発明の目的は、強度を損ねることなく、より簡易な構造で高減速化を実現することができる遊星歯車減速機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、入力軸となる太陽歯車と、前記太陽歯車と同軸に配置された固定リングギヤと、前記太陽歯車と前記固定リングギヤとに噛合する第1歯車部、及び該第1歯車部よりも小径の第2歯車部を有する段付遊星歯車と、前記段付遊星歯車を回転自在に支持するとともに前記段付遊星歯車を前記太陽歯車の周囲で公転自在に支持するキャリアと、前記太陽歯車と同軸に配置され、前記第2歯車部と噛合して出力軸となる可動リングギヤとを備え、
前記段付遊星歯車は、前記太陽歯車の軸線を中心とする互いに相反する径方向の位置に配置され、前記段付遊星歯車は、当該段付遊星歯車の軸線を中心とする径方向で対向する二箇所に組付け時の位相合わせ用の被係合部を有し、前記太陽歯車の軸線を中心とする互いに相反する径方向の位置に配置された一方の前記段付遊星歯車の二箇所の前記被係合部が前記太陽歯車の軸線を中心とする同じ径方向線上に位置するとき、同他方の前記段付遊星歯車の二箇所の前記被係合部も前記径方向線上に位置し、
前記第1歯車部及び前記第2歯車部の歯数差を「4」に設定し、前記太陽歯車、前記固定リングギヤ、前記第1歯車部、前記第2歯車部及び前記可動リングギヤの歯数が「4」の整数倍に設定されていることを要旨とする。
【0012】
このタイプの遊星歯車減速機構(いわゆる3K型の遊星歯車減速機構)では、前記太陽歯車を入力軸とし、前記可動リングギヤを出力軸とした場合、前記第1歯車部及び前記第2歯車部の歯数差が少ないほど、前記太陽歯車の回転速度を著しく減速させて前記可動リングギヤから出力することが可能である。同構成によれば、前記第1歯車部及び前記第2歯車部の歯数差を「4」に設定したことで、前記太陽歯車の回転速度を十分に減速させて前記可動リングギヤから出力することができる。また、前記第1歯車部及び前記第2歯車部の歯数差が「4」であることで、小径側である前記第2歯車部の歯のモジュールが小さくなることを抑えることができ、該第2歯車部の強度が低くなることを抑えることができる。また、前記段付遊星歯車は、歯数差が「4」に設定された前記第1歯車部及び前記第2歯車部の2段構造であって、従来形態のように強度確保のために金属製の薄板歯車を位相を合わせて積層したり、複数の段付遊星歯車の各々の第1歯車部及び第2歯車部間に複雑な位相差を設定したりする必要もない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の遊星歯車減速機構において、前記第1歯車部の歯元円の直径は、前記第2歯車部の歯先円の直径以上に設定されていることを要旨とする。
【0014】
同構成によれば、前記第1歯車部の歯及び前記第2歯車部の歯が、前記段付遊星歯車の軸線方向に重なって配置されることがない。従って、前記段付遊星歯車の構造をより簡素化することができ、その製造工数を削減することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の遊星歯車減速機構において、前記段付遊星歯車の個数は「2」又は「4」であることを要旨とする。
同構成によれば、例えば前記段付遊星歯車の個数が「2」である場合には、部品点数を削減することができる。一方、前記段付遊星歯車の個数が「4」である場合には、出力トルクが大きいときにもこれら4個の段付遊星歯車の協働で所要の強度を確保することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の遊星歯車減速機構において、前記第1歯車部の歯及び前記第2歯車部の歯の位相が一致する、前記段付遊星歯車の軸線を中心とする周方向に等角度間隔で配置される四箇所のうちの少なくとも
二箇所に、
前記被係合部を設けたことを要旨とする。
【0017】
同構成によれば、前記キャリアに支持された2個又は4個の前記段付遊星歯車を前記固定リングギヤ又は前記可動リングギヤに組み付ける際、例えばそれらの位相合わせ用のジグに設けられた係合部を全ての前記段付遊星歯車の前記被係合部に係合させることで、これら段付遊星歯車の位相をそろえて前記キャリア部材を組み付けることができる。このため、前記キャリア部材の組付性を向上させることができる。特に、各段付遊星歯車の複数箇所に前記被係合部を配設する場合、位相合わせ用のジグに設けられた係合部を任意の前記被係合部に係合させるための位置調整に要する前記段付遊星歯車の回転量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、強度を損ねることなく、より簡易な構造で高減速化を実現することができる遊星歯車減速機構を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜
図5を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、いわゆる3K型の遊星歯車減速機構10は、入力軸となる太陽歯車11と、該太陽歯車11と同軸に配置された固定リングギヤ12と、キャリア部材13と、太陽歯車11と同軸に配置され出力軸となる可動リングギヤ14とを備えて構成される。
【0021】
太陽歯車11は、その軸線方向に沿って中心線の延びる略円柱状に成形されており、その先端部に外歯車11aが形成されている。この太陽歯車11は、例えばモータ等の駆動部材(図示略)に駆動連結されている。
【0022】
固定リングギヤ12は、その軸線方向に沿って中心線の延びる略円筒状に成形されており、その軸線方向一側(太陽歯車11に近い側)の内周部には内歯車12aが形成されている。また、
図2に併せ示すように、固定リングギヤ12の軸線方向他側(太陽歯車11から遠い側)の内周部には、段差12bを介して拡開された軸受部12cが形成されている。なお、軸線方向において、内歯車12aの位置は、太陽歯車11の外歯車11aの位置に略一致している。
【0023】
図1に示すように、キャリア部材13は、太陽歯車11の軸線を中心とする互いに相反する径方向の位置に配置された2個の段付遊星歯車20と、これら段付遊星歯車20を回転自在に支持するとともに該段付遊星歯車20を太陽歯車11の周囲で公転自在に支持する一対のキャリア23,24とを備える。そして、各段付遊星歯車20は、その軸線方向一側及び他側(太陽歯車11に近い側及びその反対側)に第1歯車部21及び該第1歯車部21よりも小径の第2歯車部22を有する。軸線方向において、第1歯車部21の位置は、太陽歯車11の外歯車11a(及び固定リングギヤ12の内歯車12a)の位置に略一致しており、第1歯車部21は、外歯車11a及び内歯車12aに噛合する。なお、軸線方向において、第2歯車部22の位置は、固定リングギヤ12の軸受部12cの位置に含まれている。
【0024】
両キャリア23,24は、太陽歯車11の軸線方向に重ねられて、例えばボルト−ナットからなる締結具25により締結されており、各々の有する略蝶型の支持壁部23a,24aにより各段付遊星歯車20をその軸線方向に沿って挟み込む。そして、各段付遊星歯車20は、両支持壁部23a,24aと共にその軸線方向に支持軸26が貫通することで、キャリア23,24に回転自在に支持されている。
【0025】
可動リングギヤ14は、その軸線方向に沿って中心線の延びる有底略円筒状に成形されており、その外径は固定リングギヤ12の軸受部12cの内径と同等に設定されている。この可動リングギヤ14は、固定リングギヤ12の軸受部12cに回転自在に装着されている。可動リングギヤ14の内周部には、内歯車14aが形成されている。軸線方向において、内歯車14aの位置は、段付遊星歯車20の第2歯車部22の位置に略一致しており、内歯車14aは、第2歯車部22に噛合する。
【0026】
なお、可動リングギヤ14には、その軸線方向に沿って略柱状の出力部14bが突設されている。可動リングギヤ14は、出力部14bにおいて、適宜の被駆動部材(図示略)に連結されている。
【0027】
そして、太陽歯車11が駆動されると、その回転がキャリア部材13を介して可動リングギヤ14へと伝達される。これにより、太陽歯車11の回転速度が十分に減速されて、可動リングギヤ14から出力される。
【0028】
ここで、太陽歯車11、固定リングギヤ12、第1歯車部21、第2歯車部22及び可動リングギヤ14の歯数についてその一例を説明する。
図3に示すように、本実施形態では、太陽歯車11の歯数は「14」に、固定リングギヤ12(内歯車12a)の歯数は「72」に、第1歯車部21の歯数は「28」に、第2歯車部22の歯数は「24」に、可動リングギヤ14の歯数は「68」に設定されている。つまり、太陽歯車11、固定リングギヤ12、第1歯車部21、第2歯車部22及び可動リングギヤ14の歯数が全て「2」の整数倍に設定されている。より厳密には、太陽歯車11以外の歯数が全て「4」の整数倍に設定されている。また、第1歯車部21及び第2歯車部22の歯数差は「4(=28−24)」に設定されている。
【0029】
なお、太陽歯車11、固定リングギヤ12、第1歯車部21、第2歯車部22及び可動リングギヤ14の歯は、標準歯車相当で互いに同一のモジュールとなっている。そして、第1歯車部21は正転位されており、第2歯車部22は負転位されている。これにより、標準歯車相当で互いに同一のモジュールとなる第1歯車部21及び第2歯車部22の歯数差が「4」であっても、第1歯車部21の歯元円の直径は、第2歯車部22の歯先円の直径以上に設定されている。従って、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯が、段付遊星歯車20の軸線方向に重なって配置されることはない。
【0030】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、第1歯車部21及び第2歯車部22の歯数差を「4」に設定したことで、太陽歯車11の回転速度を十分に減速させて可動リングギヤ14から出力することができる。すなわち、
図3に示した歯数の設定により、ギヤ比66.4の高減速化が実現されている。
【0031】
なお、例えば歯数差が「5」であれば、標準歯車相当で段付遊星歯車の第1歯車部の歯及び第2歯車部の歯のモジュールが同一であっても、それらが段付遊星歯車の軸線方向に重なることはなくなるが、段付遊星歯車が5個必要になってしまう。一方、段付遊星歯車の個数を「3」にするためには歯数差が「6」になってしまう。歯数差が「6」の場合、例えば太陽歯車の歯数が「18」に、固定リングギヤの歯数が「72」に、第1歯車部の歯数が「27」に、第2歯車部の歯数が「21」に、可動リングギヤの歯数が「66」に設定されていると、ギヤ比33になってしまう。また、歯数差が「3」以下の場合には、標準歯車相当で段付遊星歯車の第1歯車部の歯よりも第2歯車部の歯のモジュールを小さくしない限り、第1歯車部の歯及び第2歯車部の歯が段付遊星歯車の軸線方向に重なってしまう。また、歯数差が小さい分、高減速化可能であるが、歯の相互間の滑りが増加して効率が低下することになる。
【0032】
次に、本実施形態の組付方法について説明する。
既述のように、第1歯車部21の歯数及び第2歯車部22の歯数が共に「4」の整数倍であり、第1歯車部21及び第2歯車部22の歯数差が「4」であることで、
図4に示すように、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯は、段付遊星歯車20の軸線を中心とする周方向に等角度(90°)間隔で配置される四箇所で位相が一致している。
【0033】
従って、両段付遊星歯車20において、位相の一致する第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯が、太陽歯車11の軸線を中心とする径方向に最も離れて配置されているとき、太陽歯車11は、当該径方向に沿って外歯車11aの歯溝が配置されることで両段付遊星歯車20(第1歯車部21)に噛合可能である。同様に、固定リングギヤ12は、当該径方向に沿って内歯車12aの歯溝が配置されることで両段付遊星歯車20(第1歯車部21)に噛合可能であり、可動リングギヤ14は、当該径方向に沿って内歯車14aの歯溝が配置されることで両段付遊星歯車20(第2歯車部22)に噛合可能である。つまり、キャリア部材13は、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯の位相の一致する箇所の角度位置を利用して両段付遊星歯車20の位置決めをしておくことで、可動リングギヤ14等への組付けがより円滑化される。
【0034】
本実施形態の段付遊星歯車20には、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯の位相の一致する前記四箇所の角度位置に合わせて、第1歯車部21側から4つの被係合部としての略円形の位相決め用穴27が形成されている。これら位相決め用穴27は、段付遊星歯車20の軸線方向と平行に延びている。また、位相決め用穴27は、キャリア部材13(太陽歯車11)の軸線を中心とする径方向に最も離れて配置されているとき、キャリア23(支持壁部23a)から露出している。
【0035】
ここで、キャリア部材13を可動リングギヤ14に組み付ける際には、
図5(a)に示す略円筒状の位相決め用ジグ30が利用される。この位相決め用ジグ30は、キャリア部材13(太陽歯車11)の軸線を中心とする径方向に最も離れて配置される位相決め用穴27に合わせてその外径及び内径がそれぞれ設定されており、両段付遊星歯車20の当該位相決め用穴27に嵌入可能な2つの係合部としての略円柱状の位相決め用ピン31が突設されている。
【0036】
そして、キャリア部材13の組付けに際しては、両段付遊星歯車20の一つの位相決め用穴27がキャリア部材13の軸線を中心とする径方向に最も離れるようにそれぞれ配置するとともに、キャリア部材13の軸線方向及び位相決め用ジグ30の軸線方向を一致させる。そして、当該軸線方向と平行に両段付遊星歯車20の位相決め用穴27及び位相決め用ジグ30の両位相決め用ピン31を対向させた状態で、キャリア部材13及び位相決め用ジグ30が近付くようにそれらを軸線方向に相対移動させる。
【0037】
これにより、両段付遊星歯車20の該当の位相決め用穴27に、位相決め用ジグ30の両位相決め用ピン31が嵌入し、
図5(b)に示すように、両キャリア23,24に対する両段付遊星歯車20の回転が共に係止される。このとき、両段付遊星歯車20は、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯の位相の一致する一箇所が、キャリア部材13の軸線を中心とする径方向に最も離れた状態で保持されることはいうまでもない。つまり、両段付遊星歯車20は、位相決め用ジグ30により位相が合わされた状態で保持されている。
【0038】
続いて、位相決め用ジグ30に保持されたキャリア部材13の軸線方向を可動リングギヤ14の軸線方向に一致させるとともに、前記径方向に沿って内歯車14aの歯溝を配置させる。この状態で、キャリア部材13及び可動リングギヤ14が近付くようにそれらを軸線方向に相対移動させると、両段付遊星歯車20(第2歯車部22)の該当の歯が、対向する内歯車14aの歯溝に嵌合して、第2歯車部22及び内歯車14a(可動リングギヤ14)が噛合する。
【0039】
その後、
図5(c)に示すように、キャリア部材13から位相決め用ジグ30を取り外すと、キャリア部材13は、両キャリア23,24に対して両段付遊星歯車20が回転可能な状態で可動リングギヤ14に連結される。なお、太陽歯車11及び固定リングギヤ12は、可動リングギヤ14に連結されたキャリア部材13は前述の位相合わせで位相が合っているので、位相決め用ジグ30を取外しても、該キャリア部材13(及び可動リングギヤ14)に円滑に組み付けることが可能である。
【0040】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、段付遊星歯車20の第1歯車部21及び第2歯車部22の歯数差を「4」に設定したことで、太陽歯車11の回転速度を十分に減速させて可動リングギヤ14から出力することができる。また、第1歯車部21及び第2歯車部22の歯数差が「4」であることで、小径側である第2歯車部22の歯のモジュールが小さくなることを抑えることができ、該第2歯車部22の強度が低くなることを抑えることができる。また、段付遊星歯車20は、歯数差が「4」に設定された第1歯車部21及び第2歯車部22の2段構造であって、従来形態のように強度確保のために金属製の薄板歯車を位相を合わせて積層したり、複数の段付遊星歯車の各々の第1歯車部及び第2歯車部間に複雑な位相差を設定したりする必要もない。
【0041】
(2)本実施形態では、第1歯車部21の歯元円の直径は、第2歯車部22の歯先円の直径以上に設定されていることで、第1歯車部21及び第2歯車部22の歯が、段付遊星歯車20の軸線方向に重なって配置されることがない。従って、段付遊星歯車20の構造をより簡素化することができ、その製造工数を削減することができる。
【0042】
特に、段付遊星歯車20の工法として、型の片側で位相が決められる工法(樹脂射出成形・焼結)を選択することができる。従って、第1歯車部21及び第2歯車部22の位相を型で決めることができ、精度確保を容易に実現することができる。
【0043】
以上により、製造コストを削減することができる。
また、第1歯車部21及び第2歯車部22の位相を型で決めた場合、仮に第1歯車部21及び第2歯車部22の位相がずれていたとしても、当該ずれは全ての段付遊星歯車20で共通であることで、該段付遊星歯車20等の作動・性能への影響は実質的に皆無である。
【0044】
(3)本実施形態では、段付遊星歯車20の個数が「2」であることで、部品点数を削減することができ、ひいてはコストを削減することができる。
(4)本実施形態では、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯の位相が一致する、段付遊星歯車20の軸線を中心とする周方向に等角度間隔(90°)で配置される四箇所の全ての角度位置に合わせて、組付け時の位相合わせ用の位相決め用穴27を設けた。従って、キャリア23,24に支持された2個の段付遊星歯車20を可動リングギヤ14に組み付ける際、位相決め用ジグ30に設けられた2個の位相決め用ピン31を両段付遊星歯車20の位相決め用穴27に係合させることで、これら段付遊星歯車20の位相をそろえてキャリア部材13を組み付けることができる。このため、キャリア部材13の組付性を向上させることができる。
【0045】
特に、各段付遊星歯車20の四箇所に位相決め用穴27を配設したことで、位相決め用ジグ30に設けられた位相決め用ピン31を任意の位相決め用穴27に係合させるための位置調整に要する段付遊星歯車20の回転量を減らすことができる。具体的には、例えば各段付遊星歯車20の一箇所にのみ位相決め用穴27を設けた場合には、位置調整に要する段付遊星歯車20の回転量が最大で略180°になるのに対し、各段付遊星歯車20の四箇所に位相決め用穴27を配設したことで位置調整に要する段付遊星歯車20の回転量が最大で略45°に抑えられる。
【0046】
(5)本実施形態では、位相決め用ジグ30の位相決め用ピン31を嵌入させる各段付遊星歯車20の位相決め用穴27を四箇所から選択できるため、両段付遊星歯車20の位相合わせを円滑に行うことができる。
【0047】
(6)本実施形態では、段付遊星歯車20の第1歯車部21を正転位したことでその歯の切下げを抑えることができ、第2歯車部22を負転位したことでその歯の歯先尖りを抑えることができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記実施形態においては、段付遊星歯車20の第1歯車部21を正転位し、第2歯車部22を負転位した。これに対し、第1歯車部21の歯元円の直径が、第2歯車部22の歯先円の直径以上になるのであれば、第1歯車部21のみを正転位するようにしてもよいし、第2歯車部22のみを負転位するようにしてもよい。あるいは、第1歯車部21の転位量の方が第2歯車部22の転位量よりも大きくなるように第1歯車部21及び第2歯車部22を共に正転位してもよい。
【0049】
・前記実施形態において、位相決め用穴27は、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯の位相が一致する、段付遊星歯車20の軸線を中心とする周方向に等角度間隔(90°)で配置される四箇所のうちの少なくとも一箇所の角度位置に合わせて設ければよい。この場合であっても、キャリア23,24に支持された2個の段付遊星歯車20を可動リングギヤ14に組み付ける際、位相決め用ジグ30に設けられた2個の位相決め用ピン31を両段付遊星歯車20の当該位相決め用穴27に係合させることで、これら段付遊星歯車20の位相をそろえてキャリア部材13を組み付けることができる。
【0050】
なお、各段付遊星歯車20の二箇所に位相決め用穴27を配設する場合には、当該段付遊星歯車20の軸線を中心とする径方向で対向する二箇所であることがより好ましい。これは、位相決め用ジグ30に設けられた位相決め用ピン31を任意の位相決め用穴27に係合させるための位置調整に要する段付遊星歯車20の回転量を減らすためである。
【0051】
・前記実施形態においては、段付遊星歯車20に位相決め用穴27を設け、位相決め用ジグ30に位相決め用ピン31を設けた。これに対し、段付遊星歯車20に被係合部としての位相決め用ピンを設け、位相決め用ジグ30に位相決め用ピンの嵌入可能な係合部としての位相決め用穴を設けてもよい。
【0052】
・前記実施形態においては、位相決め用ジグ30により両キャリア23,24に対する両段付遊星歯車20の回転が共に係止された状態のキャリア部材13を、可動リングギヤ14に組み付けた後に固定リングギヤ12等を組み付けるようにした。これに対して、位相決め用ジグにより両キャリア23,24に対する両段付遊星歯車20の回転が共に係止された状態のキャリア部材13を、固定リングギヤ12に組み付けた後に可動リングギヤ14等を組み付けるようにしてもよい。ただし、キャリア部材13を保持する位相決め用ジグは、固定リングギヤ12との干渉を避けるために第2歯車部22側から両段付遊星歯車20の回転を係止することがより好ましい。
【0053】
・前記実施形態において、段付遊星歯車の個数は「4」であってもよい。ただし、この場合、太陽歯車、固定リングギヤ、第1歯車部、第2歯車部及び可動リングギヤの歯数が全て「4」の整数倍に設定されている必要がある。これにより、太陽歯車の回転を、等角度(90°)間隔に配設された4個の段付遊星歯車等を介して可動リングギヤから出力することができる。この場合、出力トルクが大きいときにもこれら4個の段付遊星歯車の協働で所要の強度を確保することができる。
【0054】
なお、キャリア部材の組付けに際し、位相決め用ジグによりキャリアに対する4個の段付遊星歯車の全ての回転を係止する場合には、これら4個の段付遊星歯車の一つの位相決め用穴がキャリア部材の軸線を中心とする径方向に最も離れるようにそれぞれ配置する。そして、これら位相決め用穴に対応して位相決め用ジグに配設された4個の位相決め用ピンを該当の位相決め用穴に嵌入すればよい。段付遊星歯車及び位相決め用ジグと、位相決め用穴及び位相決め用ピンの配置関係は逆であってもよい。
【0055】
・前記実施形態において、標準歯車相当で第1歯車部21及び第2歯車部22が互いに同一のモジュールとなるのであれば、第1歯車部21の歯及び第2歯車部22の歯が、段付遊星歯車20の軸線方向に重なって配置されていてもよい。
【0056】
・前記実施形態において、太陽歯車、固定リングギヤ、第1歯車部、第2歯車部及び可動リングギヤの歯数の設定は一例である。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
【0057】
(イ)
前記太陽歯車、前記固定リングギヤ、前記第1歯車部、前記第2歯車部及び前記可動リングギヤの全ての歯数が「4」の整数倍に設定されている
。同構成によれば、前記段付遊星歯車の個数として、「2」又は「4」を選択することができる。そして、前記段付遊星歯車の個数として「2」を選択した場合には部品点数を削減することができ、「4」を選択した場合にはこれら4個の段付遊星歯車の協働で所要の強度を確保することができる。
【0058】
(ロ)請求項1又は2に記載の遊星歯車減速機構において、
前記太陽歯車、前記固定リングギヤ、前記第1歯車部、前記第2歯車部及び前記可動リングギヤの全ての歯数が「2」の整数倍(「4」の非整数倍)に設定されていることを特徴とする遊星歯車減速機構。同構成によれば、前記段付遊星歯車の個数は「2」となり、部品点数を削減することができる。