特許第6136240号(P6136240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136240熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法
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  • 特許6136240-熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136240
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/06 20060101AFI20170522BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20170522BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20170522BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20170522BHJP
   C08K 5/435 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B29D30/06
   B60C5/14 A
   C08L77/00
   C08L23/08
   C08K5/435
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-278599(P2012-278599)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-121824(P2014-121824A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】原 祐一
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037465(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149909(WO,A1)
【文献】 特開平06−340785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
B60C 5/14
B32B 1/00−43/00
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法であって、
(i)(a)10〜13(cal/cm1/2の溶解度パラメーターを有する熱可塑性樹脂中に、(b)9.5〜12(cal/cm1/2の溶解度パラメーターを有する可塑剤を当該可塑剤と前記熱可塑性樹脂の総質量を基準にして10〜40質量%含んでなる熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形することによりフィルムを形成する工程、及び
(ii)前記フィルムの溶融押出成形後に、前記フィルムを8〜20質量%の酢酸ビニル単位含有量を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体のフィルムに接触させる工程、
を含む、空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルムを前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のフィルムに接触させることが、前記フィルムと前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のフィルムとを巻取装置により同時巻取りすることにより行われる、請求項1に記載の空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムがさらにエラストマー成分を含む、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記可塑剤がスルホンアミド系可塑剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法及び当該方法により製造された空気入りタイヤ部材用フィルムを含んで成る空気入りタイヤに関し、より詳しくは、経時による可塑剤のブリードによるゴム部材とのタックの低下が抑えられた熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法及び当該方法により製造された空気入りタイヤ部材用フィルムを含んで成る空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内圧を保持するために、熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを空気入りタイヤの内面にガスバリヤー層として使用することが知られており、特許文献1及び2には、耐疲労性、ガスバリヤー性及び溶融加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。
しかし、熱可塑性樹脂組成物は、特許文献1及び2に記載されているように、通常、多量の可塑剤を含み、多量の可塑剤を含む熱可塑性組成物のフィルムを、空気入りタイヤの製造に使用されるまで保護するためにライナー、特にポリエチレン(PE)ライナーと接触した状態で保管すると、熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムから、当該フィルムとPEライナーとの界面に経時により可塑剤がブリードして残留し、当該フィルムとタイヤ成形時に隣接させる未加硫ゴム部材等とのタック(すなわち粘着力)が著しく低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−37465号公報
【特許文献2】特開2010−37496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、可塑剤の経時ブリードによる未加硫ゴムとのタックの低下が抑えられた熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを、当該フィルム中に含まれる可塑剤の溶解度パラメーター(SP値)に近いSP値を有する素材から成るフィルムに接触させることで、ブリードした可塑剤を吸収できないか評価したところ、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムの表面にブリードした可塑剤を吸収することによって、可塑剤の経時ブリードによる未加硫ゴムとのタックの低下を抑えることができ、熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを空気入りタイヤの製造に良好に使用できることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの可塑剤の経時ブリードによるタックの低下を抑えることが可能となり、その結果、空気入りタイヤの製造のために隣接させる未加硫ゴム部材に対して高い粘着性を示し、空気入りタイヤの製造に良好に使用可能な空気入りタイヤ部材用フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをPEライナーと接触させて保管した場合(比較例19)、熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをEVAライナーと接触させて保管した場合(実施例11)、及び熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをPEライナーと接触させて10日間保管した後に熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをEVAライナーと接触させて保管した場合(実施例12)の未加硫ゴム片に対するタックの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物から成る空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法であって、
(i)(a)10〜13(cal/cm1/2の溶解度パラメーターを有する熱可塑性樹脂中に、(b)9.5〜12(cal/cm1/2の溶解度パラメーターを有する可塑剤を当該可塑剤と前記熱可塑性樹脂の総質量を基準にして10〜40質量%含んでなる熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形することによりフィルムを形成する工程、及び
(ii)前記フィルムの溶融押出成形後に、前記フィルムを8〜20質量%の酢酸ビニル単位含有量を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体のフィルムに接触させる工程、
を含む、空気入りタイヤ部材用フィルムの製造方法が提供される。
本発明の上記方法により製造される空気入りタイヤ部材用フィルムは、インナーライナーとして空気入りタイヤに用いることができる。
【0009】
本発明の方法における工程(i)は、(a)10〜13(cal/cm1/2の溶解度パラメーターを有する熱可塑性樹脂中に、(b)9.5〜12(cal/cm1/2の溶解度パラメーターを有する可塑剤を当該可塑剤と前記熱可塑性樹脂の総質量を基準にして10〜40質量%含んでなる熱可塑性樹脂組成物を溶融押出成形することによりフィルムを形成する工程である。工程(i)において、熱可塑性樹脂組成物の成分(a)として使用できる熱可塑性樹脂は、10〜13(cal/cm1/2のSP値を有するものであれば特に限定されない(ここで、1cal=4.18605Jである)。熱可塑性樹脂の例としては、10〜13(cal/cm1/2のSP値を有するポリアミド樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。溶解度パラメーター(SP値)とは、R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14(2),147(1974)に記載されているフェダーズ(Fedors)の方法により決定される25℃における対象化合物の分子構造から算出される値を意味する。すなわち、SP値は、対象化合物の分子構造を求め、分子を構成する原子および原子団の蒸発エネルギーとモル体積のデータより次式を用いて決定される。
溶解度パラメーター(SP値)=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
式中、ΔeiおよびΔviは、それぞれ原子または原子団の蒸発エネルギーおよびモル体積を表す。対象化合物の分子構造はIR、NMR、マススペクトルなどの通常の構造分析手法を用いて決定される。
【0010】
当業者は、上記式に従ってSP値を求めることができるため、上記式に従って求められたSP値に基づいて、10〜13(cal/cm1/2のSP値を有する熱可塑性樹脂を選択することができる。ポリアミド樹脂の例としては、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/10、ナイロン11などが挙げられる。
【0011】
EVOHは、エチレン単位(−CHCH−)とビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)と含むが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。本発明において使用できるEVOHは、エチレン単位含有量が好ましくは25〜50モル%、より好ましくは29〜48モル%であるものである。EVOHは市販されており、たとえば、日本合成化学工業(株)製のソアノール(登録商標)H4815B(エチレン単位含量48モル%)、ソアノール(登録商標)DC3212B(エチレン単位含量32モル%)、(株)クラレ製のエバール(登録商標)L171B(エチレン単位含量27モル%)、エバール(登録商標)H171B(エチレン単位含量38モル%)などが挙げられる。
【0012】
10〜13(cal/cm1/2のSP値を有する熱可塑性樹脂の量は、可塑剤と熱可塑性樹脂の総質量を基準にして好ましくは90〜60質量%、より好ましくは85〜65質量%である。
【0013】
熱可塑性樹脂組成物の成分(b)は、可塑剤と熱可塑性樹脂の総質量を基準にして10〜40質量%の、9.5〜12(cal/cm1/2の溶解度パラメーター(SP値)を有する可塑剤である。9.5〜12(cal/cm1/2のSP値を有する可塑剤の例としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸エステル(例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジイソデシルなど)、リン酸エステル(例えばリン酸トリクレジル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル)、スルホンアミド系可塑剤(例えば、n−ブチルベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミドなど)などの公知の任意の可塑剤を用いることができる。ポリアミド樹脂との相溶性が高いという理由から、可塑剤としてスルホンアミド系可塑剤を使用することが好ましい。9.5〜12(cal/cm1/2の溶解度パラメーターSP値を有する可塑剤の量は、可塑剤と熱可塑性樹脂の総質量を基準にして10〜40質量%、好ましくは15〜35質量%である。
【0014】
熱可塑性樹脂組成物は、さらに、エラストマー成分を含んでもよい。熱可塑性樹脂組成物がエラストマー成分を含む場合、熱可塑性樹脂が連続相を形成し、エラストマー成分が分散相を形成する。熱可塑性樹脂が連続相を形成し、エラストマー成分が分散相を形成している熱可塑性樹脂組成物を、以下、熱可塑性エラストマー組成物ともいう。エラストマー成分の例としては、ジエン系ゴム及びその水添物(例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBR及び低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR)、オレフィン系ゴム(例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、含ハロゲンゴム(例えば臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR・CHC);クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM))、シリコーンゴム(例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などの架橋可能なエラストマーが挙げられる。上記の架橋可能なエラストマーのうちの1種を使用しても、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂組成物がエラストマー成分を含む場合、エラストマー成分の量は、熱可塑性樹脂組成物の総質量を基準にして典型的には30〜75質量%、好ましくは40〜70質量%である。
【0015】
工程(i)における熱可塑性樹脂組成物の溶融押出成形は、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の公知の混練機を使用して行うことができ、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。溶融押出成形の際の溶融混練温度及び滞留時間並びに押出温度は、使用する熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂(a)のタイプ及び溶融温度に応じて当業者が適宜選択することができる。熱可塑性樹脂組成物を、例えば、二軸混練押出機の混練ゾーンにて溶融混練した後、溶融状態で二軸混練押出機の吐出口に取り付けられたダイからフィルム状に押し出すか、あるいは、ストランド状に押し出し、樹脂用ペレタイザーで一旦ペレット化した後、得られたペレットを、インフレーション成形、カレンダー成形、押出成形などの通常の樹脂成形法により、フィルムに成形することができる。熱可塑性樹脂組成物のフィルムは、例えば、インフレーション成形により形成されたものである場合、折り畳まれた円筒状のフィルムであっても、単層フィルムであっても良い。熱可塑性樹脂組成物のフィルムの厚さは、意図するタイヤ用部材に応じて当業者により適宜設定できる。
【0016】
熱可塑性樹脂組成物がエラストマー成分を含む場合には、熱可塑性樹脂(a)と可塑剤(b)とエラストマー成分を溶融混合した後に、エラストマー成分を動的に架橋させることが好ましい。ここで、動的に架橋させるとは、エラストマー成分及び架橋剤を加えた熱可塑性樹脂組成物に剪断応力を加えながらエラストマー成分を架橋させることを意味する。動的架橋温度の下限は、少なくとも熱可塑性樹脂の溶融温度以上かつ架橋可能なエラストマー成分の架橋可能温度以上であればよい。動的架橋の温度は典型的には約150℃〜約250℃である。動的架橋時間は典型的には約10秒間〜約7分間である。
【0017】
架橋剤(または加硫剤)の種類および配合量は、架橋可能なエラストマーの種類および動的架橋条件に応じて、当業者が適宜選択することができる。架橋剤の例としては、酸化亜鉛、硫黄、有機過酸化物架橋剤、高水素結合性化合物(例えば、トリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート)、二つ以上のアミノ基を有する化合物(例えば2,2−ジチオジアニリン、4,4−ジチオジアニリン、2,2−ジアミノジフェニルエーテル、3,3−ジアミノジフェニルエーテル、4,4−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなど)などが挙げられる。架橋剤の配合量は、典型的には、架橋可能なエラストマー成分100質量部に対して0.2〜5質量部である。
【0018】
熱可塑性樹脂組成物は、上記成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどの補強剤(フィラー)、加硫又は架橋促進剤、老化防止剤などの熱可塑性樹脂及びエラストマー組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で熱可塑性樹脂組成物に配合することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
本発明の上記方法における工程(ii)は、フィルムの溶融押出成形後に、フィルムを8〜20質量%の酢酸ビニル含有量を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のフィルムに接触させる工程である。フィルムをEVAフィルムに接触させることは、例えばフィルムとEVAフィルムとを巻取装置により同時巻取りすることにより行うことができる。巻取装置としては、市販のフィルム巻取装置を使用できる。EVAフィルムの厚さは、特に限定されないが、典型的には、40μm〜300μm、好ましくは80μm〜240μmである。
【0020】
8〜20質量%の酢酸ビニル含有量を有するEVAの例としては、日本ポリエチレン(株)から入手可能なノバテック(登録商標)LV342(酢酸ビニル単位含有量:10質量%)、ノバテック(登録商標)LV430(酢酸ビニル単位含有量:15質量%)及びノバテック(登録商標)LV440(酢酸ビニル単位含有量:15質量%)が挙げられる。EVAは、酢酸ビニル単位含有量が少ないほど、エチレン単位含有量が多く、酢酸ビニル含有量が8質量%未満であるEVAはポリエチレンに近い化学的及び物理的特性を示し、熱可塑性樹脂組成物又は熱可塑性エラストマー組成物のフィルムからブリードした可塑剤を吸収する効果は小さく、上記フィルムを長期間保管すると、ブリードした可塑剤がフィルムの表面に残留していることが確認された。酢酸ビニル含有量が15質量%を超えるEVAは、高い可塑剤吸収性を示すが、酢酸ビニル単位含有量が15質量%を超えるEVAは柔らかすぎて、上記フィルムに対してライナーとして使用するには適さない。
【0021】
本発明の方法により製造される熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムは、ガスバリヤー性、耐屈曲疲労性、加工性、空気入りタイヤ製造時の未加硫ゴム部材に対する粘着性に優れるため、空気入りタイヤの部材、特にインナーライナーとして好適に使用することができる。
【0022】
上記工程(ii)により熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをEVAフィルムに接触させた後、フィルムを空気入りタイヤの製造に使用するまで、フィルムをEVAフィルムで接触したまま保つことが好ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをインナーライナーとして用いて空気入りタイヤを製造する方法について、フィルムをインナーライナーとしてカーカス層の内側に配置する場合の一例を説明すると、空気入りタイヤの製造の際に、EVAフィルムを剥離して予め所定の幅と厚さに成形した本発明の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを、タイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0025】
<原材料>
熱可塑性樹脂1:ナイロン6/66共重合体(宇部興産(株)製のUBEナイロン(登録商標)5033B)
熱可塑性樹脂2:ナイロン6/12共重合体(宇部興産(株)製のUBEナイロン(登録商標)7034B)
熱可塑性樹脂3:エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(日本合成化学(株)製のソアノール(登録商標)H4815B)
熱可塑性樹脂4:エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)(日本合成化学(株)製のソアノール(登録商標)DC3212B)
エラストマー1:臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体(エクソンモービル・ケミカル・カンパニー製のExxpro(登録商標)89−4)
エラストマー2:無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体(三井化学(株)製のタフマー(登録商標)MH7020)
可塑剤1:n−ブチルベンゼンスルホンアミド(SP値=10.5、大八化学工業(株)製のBM−4)
可塑剤2:リン酸トリクレジル(SP値=9.6、大八化学工業(株)製のTCP)
可塑剤3:フタル酸ジイソデシル(比較用、SP値=9.0、大八化学工業(株)製のDIDP)
架橋剤1:トリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(四国化成工業(株)製のセイクA)
架橋剤2:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製の酸化亜鉛3種)
加工助剤:ステアリン酸(日油(株)製のビーズステアリン酸YR)
【0026】
<熱可塑性樹脂組成物の調製>
熱可塑性樹脂および可塑剤を下記表1に示す質量部で二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)のシリンダー内に導入し、滞留時間約2〜8分間に設定された混練ゾーンに経て溶融混練し、配合1〜9の熱可塑性樹脂組成物を得た。配合8及び9については、得られた熱可塑性樹脂組成物と下記表1に示す質量部のエラストマー及びその他の配合剤を再度二軸混練押出機のシリンダー内に導入し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
<熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形及びライナーの使用形態>
上記手順で調製した各熱可塑性樹脂組成物のペレットをプラコー製インフレーション成形機に接続された75mmφ単軸押出機から所定の温度で溶融押出し、周長1300mm(折反幅650mm)、厚さ0.15mmのフィルムを得た。この熱可塑性樹脂組成物のフィルムを溶融成形した直後に、下記のようにライナーと接触させない状態で又はライナーと接触させた形態で保管した。
保管形態(1):熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形直後に、得られた熱可塑性樹脂組成物のフィルムにライナーを積層せずに巻き取り、保管した。
保管形態(2):熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形直後に、得られた熱可塑性樹脂組成物のフィルムにPEライナー(石島化学工業製ポリエチレン(PE)梨地ライナー、幅810mm及び厚さ0.2mm)を積層して熱可塑性樹脂組成物のフィルムとPEライナーを巻取装置により同時に巻き取り、保管した。
保管形態(3):熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形直後に、得られた熱可塑性樹脂組成物のフィルムにEVAライナー1(比較用、日本ポリエチレン(株)製のノバテック(登録商標)LV211(酢酸ビニル単位含有量:6質量%)を幅810mm及び厚さ0.2mmのフィルム状に円筒成形したもの)を積層して熱可塑性樹脂組成物のフィルムとEVAライナー1を巻取装置により同時に巻き取り、保管した。
保管形態(4):熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形直後に、得られた熱可塑性樹脂組成物のフィルムにEVAライナー2(日本ポリエチレン(株)製のノバテック(登録商標)LV430(酢酸ビニル単位含有量:15質量%)を幅810mm及び厚さ0.2mmのフィルム状に円筒成形したもの)を積層して熱可塑性樹脂組成物のフィルムとEVAライナー2を巻取装置により同時に巻き取り、保管した。
保管形態(5):熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形直後に、得られた熱可塑性樹脂組成物のフィルムにPEライナーを積層して熱可塑性樹脂組成物のフィルムとPEライナーを巻取装置により同時に巻き取り10日間保管した後、巻回物を巻き出し、PEライナーを除去し、EVAライナー2を積層して熱可塑性樹脂組成物のフィルムとEVAライナー3を巻取装置により同時に巻き取り(すなわち巻き替えて)、保管した。
【0029】
<可塑剤ブリード評価>
下記表2に示す配合で混合し、2mm厚にシート化した未加硫ゴムを幅10mmで切り出し、(株)東洋精機製作所PICMAタックテスターのリング部分に取り付け、幅50mmの短冊状に切断した熱可塑性樹脂組成物のフィルムに垂直に押し当て、それらを引き剥がす際の力(タック)を測定した。測定は、温度25℃、圧着速度50mm/分、引き剥がし速度50mm/分、圧着荷重4.9N、圧着時間10秒間で測定を行った。また、それぞれの例について得られた測定値を、円筒成形直後のタック値を100としたときの指数で表した。熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形直後からタックの測定を行い、初期値を100とした指数で表した。熱可塑性樹脂組成物のフィルム成形から30日経過した時点でタックの指数が50以上のものを効果ありと判断した。評価結果を下記表3〜10に示す。なお、配合4(可塑剤5質量部)では、可塑剤の量が少ないために、比較例でも、可塑剤のブリードの程度は許容可能であった。配合7では、熱可塑性樹脂と可塑剤のSP値の差が大きく、かつ、可塑剤が多量であったため、熱可塑性樹脂の中に可塑剤が練り込まれず両者が分離してしまい、配合どおりのサンプルが得られなかった。
【0030】
【表2】
【0031】
図1に、配合8の熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムをPEライナーと接触させて保管した場合(保管形態(2))(比較例19)、保管形態(4)で保管した場合(実施例11)、上記保管形態(5)で保管した場合(実施例12)の未加硫ゴム片に対するタックの経時変化を示すグラフを示す。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
【表5】
【0035】
【表6】
【0036】
【表7】
【0037】
【表8】
【0038】
【表9】
【0039】
【表10】
【0040】
表3〜10の評価結果から、本発明の範囲内の特定の溶解度パラメーター(SP値)を有する熱可塑性樹脂及び特定量の特定範囲内のSP値を有する可塑剤を含む熱可塑性樹脂組成物から成るフィルムを、本発明の範囲内の特定の酢酸ビニル単位含有量を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のフィルムを接触させることにより、可塑剤の経時ブリードによるタックの低下を有効に抑えることができることが判る。
図1