特許第6136263号(P6136263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136263
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 11/02 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   F25B11/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-288795(P2012-288795)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129974(P2014-129974A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 幸博
(72)【発明者】
【氏名】外島 隆造
(72)【発明者】
【氏名】芝本 祥孝
(72)【発明者】
【氏名】佐多 健一
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 英二
(72)【発明者】
【氏名】藤本 修二
【審査官】 横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−286151(JP,A)
【文献】 特開2011−214778(JP,A)
【文献】 実開平04−011280(JP,U)
【文献】 実開昭60−055951(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 11/02
F25B 1/00
F25B 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機ケーシング(21)と、該圧縮機ケーシング(21)に収容される電動機(22)と、該電動機(22)と駆動軸(23)を介して連結する圧縮機構(24)と、該駆動軸(23)の下端に設けられ上記圧縮機ケーシング(21)の底部の油溜部(21c)の油を上記駆動軸(23)内の油流路(27)を通じて上記圧縮機構(24)の摺動部へ供給する油ポンプ(28)とを有する圧縮機(20)と、
膨張機ケーシング(31)と、膨張機構(34)と、該膨張機構(34)に連結する出力軸(33)とを有する膨張機(30)とが接続され、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)と、
上記圧縮機ケーシング(21)の油溜部(21c)の油が流入する流入口(48a)を有し、該油を上記膨張機(30)の摺動部へ供給する給油路(48)とを備えた冷凍装置であって、
上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が上記油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置になるように構成され
上記圧縮機(20)の油ポンプ(28)と上記給油路(48)の流入口(48a)の高さの差をΔhとし、上記圧縮機ケーシング(21)の胴部(21a)の内周面の半径をrとし、上記圧縮機ケーシング(21)の最大許容傾き角をθとすると、
上記給油路(48)は、Δh>r×tanθの関係を満たすように構成される
ことを特徴とする冷凍装置。
【請求項2】
圧縮機ケーシング(21)と、該圧縮機ケーシング(21)に収容される電動機(22)と、該電動機(22)と駆動軸(23)を介して連結する圧縮機構(24)と、該駆動軸(23)の下端に設けられ上記圧縮機ケーシング(21)の底部の油溜部(21c)の油を上記駆動軸(23)内の油流路(27)を通じて上記圧縮機構(24)の摺動部へ供給する油ポンプ(28)とを有する圧縮機(20)と、
膨張機ケーシング(31)と、膨張機構(34)と、該膨張機構(34)に連結する出力軸(33)とを有する膨張機(30)とが接続され、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)と、
上記圧縮機ケーシング(21)の油溜部(21c)の油が流入する流入口(48a)を有し、該油を上記膨張機(30)の摺動部へ供給する給油路(48)とを備えた冷凍装置であって、
上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が上記油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置になるように構成され、
上記給油路(48)は、流入側に上記圧縮機構(24)の圧縮後の冷媒の圧力に相当する圧力が作用し、流出側に上記膨張機構(34)の膨張後の冷媒の圧力に相当する圧力が作用するように構成され、
上記油溜部(21c)の油面の低下を検知する検知部(74)と、
上記検知部(74)で油面の低下が検知されると、上記膨張機(30)の流入側と流出側とを連通させるバイパス機構(29,38)とを備えている
ことを特徴とする冷凍装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が上記圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも低い位置になるように構成される
ことを特徴とする冷凍装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つにおいて、
上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が、上記圧縮機構(24)の本体部(24c)の下端よりも低い位置になるように構成される
ことを特徴とする冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機と膨張機とが冷媒回路に接続された冷凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷凍サイクルを行う冷媒回路を備えた冷凍装置が知られており、空気調和機や冷凍機等に広く適用されている。この種の冷凍装置として、圧縮機と膨張機とが冷媒回路に接続され、高圧冷媒のエネルギーを膨張機で回収するものがある。
【0003】
例えば特許文献1に開示の冷凍装置(空気調和機)では、圧縮機と、室外熱交換器と、膨張機構と、室内熱交換器とが冷媒回路に接続される。この冷凍装置の例えば冷房運転では、圧縮機で圧縮された冷媒が、室外熱交換器で凝縮し、膨張機構を流れる。膨張機構では、膨張室に吸入された高圧冷媒によってピストンが回転駆動される。これにより、ピストンに連結する出力軸が回転し、発電機が駆動される。この結果、高圧冷媒のエネルギーが発電機の電気エネルギーとして回収される。膨張機構を流出した低圧冷媒は、室内熱交換器で蒸発し、室内の冷房に利用される。
【0004】
また、同文献の冷凍装置では、圧縮機ケーシングの底部に油溜部が形成される。油溜部の油は、駆動軸の下端の油ポンプによって汲み上げられ、駆動軸の内部の給油路を上方へ流れる。この油は、圧縮機構の摺動部へ供給され、この摺動部の潤滑に利用される。
【0005】
また、同文献の冷凍装置では、圧縮機ケーシングの油溜部の油を給油路(給油管)を介して膨張機の摺動部へ供給するようにしている。具体的に、給油路の流入端は、圧縮機ケーシングの底部の油溜部に開口し、給油路の流出端は、膨張機構の膨張室に開口している。また、圧縮機ケーシングの内圧は高圧冷媒と同等の圧力となっている。このため、圧縮機の油溜部の油は、差圧によって、給油管を流れ、膨張機構の摺動部へ供給され、この摺動部の潤滑に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−214778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の冷凍装置において、圧縮機の油溜部の油が膨張機構へ過剰に供給されると、圧縮機の油溜部の油が不足してしまい、圧縮機構の摺動部へ十分な油を供給できなくなる虞がある。ここで、特許文献1に開示の冷凍装置では、例えば段落0041に記載のように、給油管の流入口と、駆動軸の下端とが概ね同じ高さとなっている。このため、油溜部の油面が油ポンプと同じ高さとなるまでは、圧縮機と膨張機構との双方の摺動部へ油が供給される。従って、この構成では、油溜部の油面が油ポンプの吸込口よりも低くなり易く、圧縮機構の摺動部の潤滑不良を招き易いという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、膨張機構へ過剰に油が供給されることで、圧縮機の油溜部の油が不足してしまうことを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、圧縮機ケーシング(21)と、該圧縮機ケーシング(21)に収容される電動機(22)と、該電動機(22)と駆動軸(23)を介して連結する圧縮機構(24)と、該駆動軸(23)の下端に設けられ上記圧縮機ケーシング(21)の底部の油溜部(21c)の油を上記駆動軸(23)内の油流路(27)を通じて上記圧縮機構(24)の摺動部へ供給する油ポンプ(28)とを有する圧縮機(20)と、膨張機ケーシング(31)と、膨張機構(34)と、該膨張機構(34)に連結する出力軸(33)とを有する膨張機(30)とが接続され、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)と、上記圧縮機ケーシング(21)の油溜部(21c)の油が流入する流入口(48a)を有し、該油を上記膨張機(30)の摺動部へ供給する給油路(48)とを備えた冷凍装置を対象とし、上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が上記油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置になるように構成され、上記圧縮機(20)の油ポンプ(28)と上記給油路(48)の流入口(48a)の高さの差をΔhとし、上記圧縮機ケーシング(21)の胴部(21a)の内周面の半径をrとし、上記圧縮機ケーシング(21)の最大許容傾き角をθとすると、上記給油路(48)は、Δh>r×tanθの関係を満たすように構成されることを特徴とする。
【0010】
第1の発明では、圧縮機(20)の電動機(22)によって駆動軸(23)が回転駆動されることで、圧縮機構(24)で冷媒が圧縮される。圧縮機(20)では、油溜部(21c)の油が油ポンプ(28)によって汲み上げられ、駆動軸(23)内の油流路(27)を流れる。油流路(27)の油は、圧縮機構(24)の摺動部へ供給される。また、圧縮機(20)の油溜部(21c)の油は、給油路(48)を通じて膨張機構(34)の摺動部へ供給される。本発明では、この給油路(48)の流入口(48a)の高さが、油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置にある。このため、油溜部(21c)の油面の高さが上記流入口(48a)と吸込口(28a)との間にある状態では、油溜部(21c)の油が、給油路(48)を通じて膨張機構(34)の摺動部へ供給されず、圧縮機構(24)の摺動部のみへ供給される。
【0011】
の発明では、設置状態の圧縮機ケーシング(21)が、最大許容傾き角θだけ傾いた場合にも、給油路(48)の流入口(48a)が、油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置となる。このため、このような設置状態においても、油溜部(21c)の油を圧縮機構(24)の摺動部のみへ供給することができる
【0012】
の発明は、圧縮機ケーシング(21)と、該圧縮機ケーシング(21)に収容される電動機(22)と、該電動機(22)と駆動軸(23)を介して連結する圧縮機構(24)と、該駆動軸(23)の下端に設けられ上記圧縮機ケーシング(21)の底部の油溜部(21c)の油を上記駆動軸(23)内の油流路(27)を通じて上記圧縮機構(24)の摺動部へ供給する油ポンプ(28)とを有する圧縮機(20)と、膨張機ケーシング(31)と、膨張機構(34)と、該膨張機構(34)に連結する出力軸(33)とを有する膨張機(30)とが接続され、冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)と、上記圧縮機ケーシング(21)の油溜部(21c)の油が流入する流入口(48a)を有し、該油を上記膨張機(30)の摺動部へ供給する給油路(48)とを備えた冷凍装置を対象とし、上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が上記油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置になるように構成され、上記給油路(48)は、流入側に上記圧縮機構(24)の圧縮後の冷媒の圧力に相当する圧力が作用し、流出側に上記膨張機構(34)の膨張後の冷媒の圧力に相当する圧力が作用するように構成され、上記油溜部(21c)の油面の低下を検知する検知部(74)と、該検知部(74)で油面の低下が検知されると、上記膨張機(30)の流入側と流出側とを連通させるバイパス機構(29,38)とを備えていることを特徴とする。
【0013】
の発明では、圧縮機構(24)の圧縮後の冷媒の圧力に相当する圧力と、上記膨張機構(34)の膨張後の冷媒の圧力に相当する圧力との差圧により、油溜部(21c)の油が給油路(48)を流れ、膨張機構(34)の摺動部へ供給される。
【0014】
ところで、給油路(48)の流入口(48a)の高さを油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高い位置にすると、圧縮機(20)の摺動部へ十分な油を供給できる一方で、油溜部(21c)の油面が給油路(48)の流入口(48a)よりも低い位置となり易くなる。そこで、本発明では、検知部(74)が油溜部(21c)の油面の低下を検知すると、バイパス機構(29,38)が膨張機(30)の流入側と流出側とを連通させる。膨張機(30)の流入側と流出側とが連通すると、膨張機構(34)の膨張後の冷媒の圧力が上昇するため、給油路(48)の流入側と流出側との間の差圧が小さくなる。この結果、給油路(48)を流れる油の流量が減少し、油溜部(21c)の油面の高さを上昇させることができる。従って、油溜部(21c)の油面の低下に起因して、冷媒が給油路(48)を通じて膨張機構(34)の摺動部へ供給されることを防止でき、ひいては膨張機構(34)の摺動部の焼き付きを確実に防止できる。
【0015】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が上記圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも低い位置になるように構成されることを特徴とする。
【0016】
第3の発明では、給油路(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも低い位置となる。給油路(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも高い位置にあると、吸入管(25)が油溜部(21c)の油に浸かり易くなる。この結果、吸入管(25)を通じて圧縮機構(24)内へ吸入される冷媒が、周囲の油によって加熱され、ひいては圧縮機構(24)の圧縮効率が低下してしまう虞がある。これに対し、本発明では、給油路(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも低い位置にあるため、吸入管(25)が油に浸かることを抑制できる。この結果、吸入管(25)に吸い込まれる冷媒が、油によって加熱されることを防止できる。
【0017】
第4の発明は、第1乃至第3のいずか1つの発明において、上記給油路(48)は、上記流入口(48a)が、上記圧縮機構(24)の下端よりも低い位置になるように構成されることを特徴とする。
【0018】
第4の発明では、給油路(48)の流入口(48a)が圧縮機構(24)の本体部(24c)の下端よりも低い位置となる。給油路(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の本体部(24c)の下端よりも高い位置にあると、給油路(48)の流入口(48a)付近の油面高さが変動し易くなり、給油路(48)へ安定して油を供給できない虞がある。しかし、本発明では、給油路(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の本体部(24c)の下端よりも低い位置にあるため、流入口(48a)付近の油面高さの変動を抑制できる。この結果、給油路(48)へ安定して油を供給することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、圧縮機(20)の油溜部(21c)の油が、給油路(48)を通じて膨張機構(34)の摺動部へ過剰に供給されることを防止でき、圧縮機構(24)の摺動部へ十分な油を供給することができる。従って、この冷凍装置の信頼性を向上できる。
【0020】
発明によれば、圧縮機ケーシング(21)が最大許容傾き角θの範囲内で傾いたとしても、圧縮機構(24)へ十分な油を供給することができる
【0021】
また、第の発明によれば、給油路(48)の流入口(48a)付近における、油面の変動を防止できるので、給油路(48)を通じて膨張機構(34)の摺動部へ安定して油を供給できる。従って、この冷凍装置の信頼性を更に向上できる。
【0022】
また、第3の発明によれば、圧縮機(20)の油溜部(21c)の油面が低下すると、膨張機構(34)の流入側と流出側とを連通させ、給油路(48)を流れる油の流量を減少させている。この結果、油溜部(21c)の油面の低下を速やかに解消でき、膨張機構(34)の摺動部へ確実に油を供給できる。従って、本発明では、圧縮機構(24)の摺動部と膨張機構(34)の摺動部との双方へ油を確実に供給でき、冷凍装置の信頼性を更に向上できる。
【0023】
また、第4の発明によれば、吸入管(25)から圧縮機構(24)へ吸い込まれる油が、油溜部(21c)の油によって加熱されることを防止できる。この結果、圧縮機構(24)の圧縮効率の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態に係る空気調和機の冷媒回路の概略構成を示す配管系統図である。
図2図2は、実施形態に係る圧縮機の油溜部の近傍を拡大した概略構成図である。
図3図3は、実施形態に係る圧縮機の油溜部の近傍を拡大した概略構成図であり、圧縮機ケーシングが最大許容傾き角θで傾いた状態を示すものである。
図4図4は、実施形態に係る空気調和機の冷媒回路の概略構成を示す配管系統図であり、冷房運転時の冷媒の流れを表したものである。
図5図5は、実施形態に係る空気調和機の冷媒回路の概略構成を示す配管系統図であり、暖房運転時の冷媒の流れを表したものである。
図6図6は、実施形態に係る空気調和機の冷媒回路の概略構成を示す配管系統図であり、冷房運転時に膨張機をバイパスさせる動作を行った際の冷媒の流れを表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0026】
図1に示すように、本発明に係る実施形態は、冷房運転と暖房運転とを切り換えて行う空気調和機(1)である。空気調和機(1)は、冷媒回路(10)を有し、該冷媒回路(10)の冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷凍装置を構成する。空気調和機(1)は、1つの室外ユニット(5)と複数(図1の例では3つ)の室内ユニット(2,3,4)とを備える、マルチ式に構成される。冷媒回路(10)には、二酸化炭素(CO2)が冷媒として充填される。
【0027】
室外ユニット(5)には、室外回路(14)が設けられ、室内ユニット(2,3,4)には、それぞれ室内回路(11,12,13)が設けられる。室外回路(14)と各室内回路(11,12,13)とは、2本の連絡配管(液連絡管(15)及びガス連絡管(16))を介して互いに接続される。
【0028】
各室内回路(11,12,13)には、液側端部からガス側端部に向かって順に、室内膨張弁(2b,3b,4b)と、室内熱交換器(2a,3a,4a)とが接続される。室内膨張弁(2b,3b,4b)は、開度が可変な電子膨張弁で構成される。室内熱交換器(2a,3a,4a)は、いわゆるフィン・アンド・チューブ式の熱交換器で構成される。室内熱交換器(2a,3a,4a)の近傍には、室内ファン(図示省略)が設置される。室内熱交換器(2a,3a,4a)では、室内ファンが送風する室内空気と、冷媒とが熱交換する。
【0029】
室外回路(14)には、液連絡管(15)が接続される液閉鎖弁(17)と、ガス連絡管(16)が接続されるガス閉鎖弁(18)とが接続される。室外回路(14)には、圧縮機(20)、膨張機(30)、室外熱交換器(44)、及び四方切換弁(42)が接続されている。
【0030】
圧縮機(20)は、密閉状の圧縮機ケーシング(21)と、該圧縮機ケーシング(21)内に収容される電動機(22)及び圧縮機構(24)とを備えている。圧縮機(20)は、圧縮機ケーシング(21)の内部が高圧冷媒で満たされる、いわゆる高圧ドーム型に構成される。
【0031】
圧縮機ケーシング(21)は、縦長の円筒状の密閉容器である。圧縮機ケーシング(21)の上部には、吐出管(26)が接続され、圧縮機ケーシング(21)の下部には、吸入管(25)が接続される。圧縮機ケーシング(21)の底部(21b)には、潤滑用の油が貯留される油溜部(21c)が形成される。
【0032】
電動機(22)は、ステータ(22a)とロータ(22b)とを備えている。ステータ(22a)は、円筒状に形成され、圧縮機ケーシング(21)の内周壁に固定されている。ロータ(22b)は、ステータ(22a)の内部に挿通されている。ステータ(22a)は、円柱状に形成され、中央部に駆動軸(23)が固定される。駆動軸(23)の内部には、油流路(27)が形成され、駆動軸(23)の下端部には、油ポンプ(28)が設けられる。圧縮機構(24)は、ロータリ式の圧縮機構で構成される。駆動軸(23)及び圧縮機構(24)の詳細は後述する。
【0033】
膨張機(30)は、密閉状の膨張機ケーシング(31)を備えている。膨張機ケーシング(31)の内部には、膨張機構(34)と発電機(32)と出力軸(33)とが収容されている。膨張機構(34)は、いわゆるロータリ式の容積型流体機械を構成している。膨張機構(34)は、出力軸(33)を介して発電機(32)と連結している。膨張機構(34)には、流入管(35)と流出管(36)とが接続されている。膨張機構(34)では、流入管(35)から流入した高圧冷媒が、膨張室内で膨張する。これに伴い、膨張機構(34)の内部では、ピストンが回転駆動される。この結果、出力軸(33)が回転駆動され、ひいて発電機(32)で発電が行われる。膨張室で膨張した後の低圧冷媒は、流出管(36)から冷媒回路(10)へ流出する。
【0034】
室外熱交換器(44)は、フィン・アンド・チューブ式の熱交換器で構成される。室外熱交換器(44)の近傍には、室外ファン(図示省略)が設置されている。室外熱交換器(44)では、室外ファンが搬送する室外空気と、冷媒とが熱交換する。
【0035】
四方切換弁(42)は、第1から第4までのポートを有している。四方切換弁(42)は、第1ポートが圧縮機(20)の吸入管(25)と繋がり、第2ポートがガス閉鎖弁(18)と繋がっている。また、四方切換弁(42)は、第3ポートが室外熱交換器(44)のガス側端部に繋がり、第4ポートが圧縮機(20)の吐出管(26)と繋がっている。四方切換弁(42)では、第1ポートと第2ポートとが連通し、且つ第3ポートと第4ポートとが連通する第1状態(図1の実線で示す状態)と、第1ポートと第3ポートとが連通し、且つ第2ポートと第4ポートとが連通する第2状態(図1の破線で示す状態)とが切り換えられる。
【0036】
室外回路(14)には、ブリッジ回路(41)と、気液分離器(51)と、内部熱交換器(45)とが接続される。
【0037】
ブリッジ回路(41)は、第1から第4までの配管(41a,41b,41c,41d)がブリッジ状に接続されて構成される。第1配管(41a)には第1逆止弁(CV-1)が接続され、第2配管(41b)には第2逆止弁(CV-2)が接続され、第3配管(41c)には第3逆止弁(CV-3)が接続され、第4配管(41d)には室外膨張弁(43)が接続される。各逆止弁(CV-1,CV-2,CV-3)では、図1の矢印で示す方向への冷媒の流れが許容され、その逆の冷媒の流れが禁止される。ブリッジ回路(41)では、第1逆止弁(CV-1)の流入側が室外熱交換器(44)の液側端部と繋がり、第2逆止弁(CV-2)の流入側が内部熱交換器(45)と繋がっている。また、ブリッジ回路(41)では、第2逆止弁(CV-2)の流出側(第3逆止弁(CV-3)の流入側)が、液閉鎖弁(17)と繋がり、第1逆止弁(CV-1)の流出側(第3逆止弁(CV-3)の流出側)が、膨張機(30)の流入管(35)と繋がっている。
【0038】
気液分離器(51)は、膨張機(30)の流出管(39)に接続している。気液分離器(51)は、中空の密閉容器で構成され、気液二相の冷媒をガス冷媒と液冷媒とに分離する。気液分離器(51)の頂部には、ガスインジェクション管(37)が接続され、気液分離器(51)の底部には、液流出管(53)が接続されている。
【0039】
内部熱交換器(45)は、第1流路(46)と第2流路(47)を有し、両者の流路(46,47)を流れる冷媒同士を熱交換させる。第1流路(46)は、流出管(36)に接続し、第2流路(47)は、ガスインジェクション管(37)に接続される。
【0040】
ガスインジェクション管(37)は、圧縮機(20)の吸入管(25)と、気液分離器(51)との間に接続される。ガスインジェクション管(37)には、第2流路(47)の上流側に流量調節弁(52)が接続される。流量調節弁(52)は、開度が可変な電子膨張弁で構成される。また、ガスインジェクション管(37)には、第2流路(47)の下流側に油戻し管(55)の流出端が接続される。油戻し管(55)の流入端は、膨張機ケーシング(31)の底部の油溜部と連通している。即ち、冷媒回路(10)では、膨張機構(34)の潤滑に利用された油が、油戻し管(55)を経由して圧縮機(20)の吸入管(25)へ送られる。
【0041】
冷媒回路(10)には、バイパス管(38)が接続されている。バイパス管(38)は、一端が膨張機(30)の流入管(35)に接続し、他端が膨張機(30)の流出管(36)に接続している。バイパス管(38)には、バイパス弁(29)が接続されている。バイパス弁(29)は、開度が可変な電子膨張弁で構成される。バイパス管(38)及びバイパス弁(29)は、バイパス機構(詳細は後述する)を構成する。
【0042】
図2に示すように、上述した圧縮機構(24)は、上側から下側に向かって順に、フロントヘッド(24b)、シリンダ(24a)、及びリアヘッド(24c)が積層されている。シリンダ(24a)は、内部にシリンダ室(C)を形成する環状に構成される。フロントヘッド(24b)は、シリンダ(24a)のシリンダ室(C)の上端面を閉塞し、リアヘッド(24c)は、シリンダ(24a)のシリンダ室(C)の下端面を閉塞している。フロントヘッド(24b)、シリンダ(24a)、及びリアヘッド(24c)は、圧縮機構(24)の本体部を構成している。
【0043】
シリンダ(24a)の内部には、環状のピストン(24d)が収容されている。圧縮機構(24)では、シリンダ(24a)とピストン(24d)との間に冷媒の圧縮室が形成される。ピストン(24d)の内部には、駆動軸(23)の偏心部(23a)が嵌合している。偏心部(23a)は駆動軸(23)の軸心に対して偏心している。シリンダ(24a)には、吸入管(25)が径方向に貫通している。吸入管(25)の流出端は、圧縮室の吸入側に開口している。また、フロントヘッド(24b)には、圧縮室の吐出側と繋がる吐出ポート(図示省略)が形成される。吐出ポートの流出側は、圧縮機ケーシング(21)の内部空間と連通している。
【0044】
圧縮機(20)では、駆動軸(23)が回転すると、シリンダ室(C)の内部をピストン(24d)が偏心回転する。この結果、冷媒が吸入管(25)より圧縮室の吸入側へ吸い込まれる。この冷媒は、圧縮室で圧縮された後、吐出ポート(図示省略)から圧縮機ケーシング(21)の内部空間へ吐出される。この冷媒は、電動機(32)のエアギャップを通過し、図1に示す吐出管(26)より冷媒回路(10)へ流出する。
【0045】
圧縮機(20)には、駆動軸(23)の下端部に油ポンプ(28)が設けられている。油ポンプ(28)は、その下側の吸込口(28a)が圧縮機ケーシング(21)の底部(21b)を向くように、油溜部(21c)に浸漬される。油ポンプ(28)は、例えば容積式、遠心式、差圧式等のポンプで構成され、油溜部(21c)の油を上方へ汲み上げる。
【0046】
駆動軸(23)の内部には、油ポンプ(28)で汲み上げられた油が搬送される油流路(27)が形成されている。油流路(27)は、駆動軸(23)の軸方向に延びる主流路(27a)と、該主流路(27a)から径方向に分岐する第1から第3までの分流路(27b,27c,27d)とを有する。第1分流路(27b)の流出端は、駆動軸(23)の副軸受けの摺動部に開口している。第2分流路(27c)の流出端は、駆動軸(23)の偏心部(23a)とピストン(24d)との間の摺動部に開口している。第3分流路(27d)の流出端は、駆動軸(23)の主軸受けの摺動部に開口している。
【0047】
図1及び図2に示すように、空気調和機(1)には、圧縮機(20)の油溜部(21c)の油を膨張機(30)の膨張機構(34)の摺動部へ供給するための給油管(48)が設けられている。給油管(48)の一端は、圧縮機ケーシング(21)の胴部(21a)を径方向に貫通している。給油管(48)の他端は、膨張機(30)の膨張機構(34)の摺動部に連通している。給油管(48)の流入口(48a)は、圧縮機ケーシング(21)の底部(21b)の近傍に位置し、駆動軸(23)を向いている。給油管(48)は、流入側に圧縮機構(24)の圧縮後の冷媒の圧力に相当する圧力が作用し、流出側に膨張機構(34)の膨張後の冷媒の圧力に相当する圧力が作用する。つまり、給油管(48)は、圧縮機構(24)の吐出圧力と、膨張機構(34)の膨張後の冷媒圧力との差圧を利用して、油溜部(21c)の油を膨張機構(34)の摺動部へ供給するように構成される。
【0048】
また、空気調和機(1)は、油面センサ(74)とコントローラ(70)とを有している。油面センサ(74)は、油溜部(21c)に溜まった油の油面の低下を検知する検知部を構成する。コントローラ(70)は、空気調和機(1)の運転を制御するための制御部を構成する。コントローラ(70)には、入力部(71)と弁制御部(72)とが設けられている。入力部(71)には、油面センサ(74)の出力信号が入力される。弁制御部(72)は、入力部(71)に入力された信号に応じて、バイパス弁(29)の開度を制御する。
【0049】
〈油溜部の近傍の各構成部品の高さ関係について〉
油溜部(21c)の近傍の各構成部品の高さ関係について、図2及び図3を参照しながら説明する。油ポンプ(28)の吸込口(28a)は、圧縮機ケーシング(21)の底部(21b)寄りに位置している。給油管(48)の流入口(48a)の高さh2(厳密には、流入口(48a)の下端の高さ)は、油ポンプ(28)の吸込口(28a)の高さh1よりも高い位置にある。また、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2は、圧縮機構(24)の本体部(厳密には、リアヘッド(24c)の下端面)の高さh3よりも低い位置にある。更に、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2は、圧縮機構(24)に接続する吸入管(25)の高さh4(厳密には、吸入管(25)の下端の高さ)よりも低い位置にある。このように、油溜部(21c)の近傍では、各構成部品の高さ関係が、h4>h3>h2>h1となっている。また、本実施形態では、油面センサ(74)の油面の検出高さh5が、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2よりも高い位置にある。
【0050】
更に、給油管(48)及び油ポンプ(28)は、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2と、油ポンプ(28)の吸込口(28a)の高さh1との差Δh(h2−h1)が、次の関係式(1)を満たすように構成される。
【0051】
Δh>r×tanθ・・・・(1)
ここで、rは、圧縮機ケーシング(21)の胴部の内周面の半径である。また、θは、設置状態の圧縮機ケーシング(21)の許容できる最大の傾き角(最大許容傾き角)である。つまり、圧縮機(20)は、水平面P1を基準として、最大でθだけ傾いて設置され得る(図3を参照)。上記の(1)式を満たすようにすると、図3のように、圧縮機ケーシング(21)が最大許容傾き角θだけ傾いて設置されたとしても、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2が、油ポンプ(28)の吸込口(28a)の高さh1よりも高くなる。
【0052】
−運転動作−
実施形態に係る空気調和機(1)の基本的な運転動作について説明する。空気調和機(1)では、冷房運転と暖房運転とが切り換えて行われる。
【0053】
〈冷房運転〉
図4に示すように、冷房運転では、圧縮機(20)及び膨張機(30)が運転され、四方切換弁(42)が第1状態となる。また、冷房運転では、室外膨張弁(43)が全閉状態となり、室内膨張弁(2b,3b,4b)及び流量調節弁(52)の開度が適宜調節され、バイパス弁(29)が原則として閉状態となる。冷房運転では、室外熱交換器(44)が放熱器となり、各室内熱交換器(2a,3a,4a)が蒸発器となる冷凍サイクルが行われる。
【0054】
圧縮機(20)では、圧縮機構(24)において、冷媒が臨界圧力以上まで圧縮される。圧縮機構(24)で圧縮された冷媒は、圧縮機ケーシング(21)の内部空間に吐出され、吐出管(26)より冷媒回路(10)へ流出する。この冷媒は、四方切換弁(42)を通過し、室外熱交換器(44)を流れる。室外熱交換器(44)では、冷媒が室外空気へ放熱する。室外熱交換器(44)で放熱した冷媒は、ブリッジ回路(41)の第1配管(41a)を通過し、膨張機(30)の膨張機構(34)に流入する。
【0055】
膨張機構(34)では、高圧の冷媒がピストンを回転駆動させながら減圧される。この結果、出力軸(33)が回転し、ひいては発電機(32)で発電が行われる。膨張機構(34)で減圧された冷媒は、流出管(36)から気液分離器(51)へ流入する。気液分離器(51)では、気液二相の冷媒がガス冷媒と液冷媒とに分離される。分離後のガス冷媒は、ガスインジェクション管(37)を経由して、圧縮機(20)の吸入管(25)へ送られる。分離後の液冷媒は、液流出管(53)を通過し、内部熱交換器(45)の第1流路(46)を流れる。
【0056】
内部熱交換器(45)では、第1流路(46)を流れる液冷媒と、第2流路(47)を流れる低圧のガス冷媒とが熱交換する。この結果、第1流路(46)を流れる液冷媒が冷却される。内部熱交換器(45)で冷却された冷媒は、ブリッジ回路(41)の第2配管(41b)、液連絡管(15)を通過し、各室内ユニット(2,3,4)へ送られる。室内ユニット(2,3,4)へ送られた冷媒は、室内膨張弁(2b,3b,4b)で更に減圧された後、室内熱交換器(2a,3a,4a)を流れる。室内熱交換器(2a,3a,4a)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。この結果、室内の冷房が行われる。室内熱交換器(2a,3a,4a)で蒸発した冷媒は、ガス連絡管(16)、四方切換弁(42)を通過し、圧縮機(20)に吸入される。
【0057】
〈暖房運転〉
図5に示すように、暖房運転では、圧縮機(20)及び膨張機(30)が運転され、四方切換弁(42)が第2状態となる。また、暖房運転では、室外膨張弁(43)及び流量調節弁(52)の開度が適宜調節され、バイパス弁(29)が原則として閉状態となる。暖房運転では、室外熱交換器(44)が放熱器となり、各室内熱交換器(2a,3a,4a)が蒸発器となる冷凍サイクルが行われる。
【0058】
圧縮機(20)では、圧縮機構(24)において、冷媒が臨界圧力以上まで圧縮される。圧縮機構(24)で圧縮された冷媒は、圧縮機ケーシング(21)の内部空間に吐出され、吐出管(26)より冷媒回路(10)へ流出する。この冷媒は、四方切換弁(42)、ガス連絡管(16)を通過し、各室内熱交換器(2a,3a,4a)を流れる。室内熱交換器(2a,3a,4a)では、冷媒が室内空気へ放熱する。この結果、室内の暖房が行われる。室内熱交換器(2a,3a,4a)で放熱した冷媒は、液連絡管(15)、ブリッジ回路(41)の第3配管(41c)を順に通過し、膨張機(30)の膨張機構(34)に流入する。
【0059】
膨張機構(34)では、高圧の冷媒がピストンを回転駆動させながら減圧される。この結果、出力軸(33)が回転し、ひいては発電機(32)で発電が行われる。膨張機構(34)で減圧された冷媒は、流出管(36)から気液分離器(51)へ流入する。気液分離器(51)では、気液二相の冷媒がガス冷媒と液冷媒とに分離される。分離後のガス冷媒は、ガスインジェクション管(37)を経由して、圧縮機(20)の吸入管(25)へ送られる。分離後の液冷媒は、液流出管(53)を通過し、内部熱交換器(45)の第1流路(46)を流れる。
【0060】
内部熱交換器(45)では、第1流路(46)を流れる液冷媒と、第2流路(47)を流れる低圧のガス冷媒とが熱交換する。この結果、第1流路(46)を流れる液冷媒が冷却される。内部熱交換器(45)で冷却された冷媒は、ブリッジ回路(41)の第4配管(41d)を流れる。第4配管(41d)では、冷媒が室外膨張弁(43)によって減圧される。室外膨張弁(43)で減圧された冷媒は、室外熱交換器(44)を流れる。室外熱交換器(44)では、冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(44)で蒸発した冷媒は、四方切換弁(42)を通過し、圧縮機(20)に吸入される。
【0061】
〈給油動作について〉
上述した冷房運転や暖房運転では、圧縮機(20)の油溜部(21c)の油が、圧縮機(20)や膨張機(30)の各摺動部へ供給される。具体的に、圧縮機(20)が運転されると、油ポンプ(28)によって油溜部(21c)の油が上方へ汲み上げられる。この油は、図2に示すように、吸込口(28a)から油流路(27)へ流入し、主流路(27a)を上方へ流れる。主流路(27a)の油は、各分流路(27b,27c,27d)へ分流し、偏心部(23a)や軸受け等の各摺動部へ供給される。この結果、これらの摺動部が潤滑される。
【0062】
また、圧縮機(20)及び膨張機(30)の運転時には、圧縮機ケーシング(21)の内圧と、膨張機構(34)の摺動部の圧力との間に差圧が生じる。このため、油溜部(21c)の油は、給油管(48)を経由して膨張機構(34)の摺動部へ供給される。この結果、膨張機構(34)の各摺動部が油によって潤滑される。膨張機構(34)の摺動部の潤滑に利用された油は、膨張機ケーシング(31)の底部に溜まり、油戻し管(55)を介して圧縮機(20)に吸入される。
【0063】
ところで、このように圧縮機(20)に給油管(48)を接続する構成において、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2が、油ポンプ(28)の吸込口(28a)の高さh1と同じか、低い場合、油溜部(21c)の油が過剰に膨張機(30)へ供給されてしまうことがある。つまり、このような配置関係では、油が給油管(48)へ供給されることに伴い、油溜部(21c)の油面が油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも低い状態となるため、圧縮機構(24)の各摺動部や軸受けへ十分な油を供給できない虞がある。従って、各摺動部で潤滑不良を招くため、圧縮機(20)を継続して運転できず、空気調和機の信頼性が損なわれてしまうという問題が生じうる。
【0064】
これに対し、本実施形態では、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2が、油ポンプ(28)の吸込口(28a)の高さh1よりも高い位置にある。このため、油溜部(21c)の油面が給油管(48)を下回ったとしても、圧縮機(20)側の各摺動部へ確実に油を供給できる。この結果、圧縮機(20)の運転を継続させることができ、空気調和機(1)の信頼性を確保できる。
【0065】
しかも、本実施形態では、上記(1)式を満たすように、給油管(48)の流入口(48a)と油ポンプ(28)の吸込口(28a)の相対位置が定められている。このため、設置状態の圧縮機(20)が最大許容傾き角θだけ傾いていたとしても(図3を参照)、給油管(48)の流入口(48a)が油ポンプ(28)の吸込口(28a)よりも高くなる。この結果、このような設置状態であっても、圧縮機(20)側の各摺動部へ確実に油を供給できる。
【0066】
更に、本実施形態では、上述した冷房運転や暖房運転において、油溜部(21c)の油面が低下すると、冷媒の一部が膨張機(30)をバイパスする制御動作を行うようにしている。具体的に、例えば上述した冷房運転において、油溜部(21c)の油面が油面センサ(74)の検出高さh5に至ったとする。すると、コントローラ(70)の入力部(71)には、油面センサ(74)からの出力信号S1が入力される。入力部(71)に信号S1が入力されると、弁制御部(72)は、バイパス弁(29)を開放させる。この結果、図6に示すように、膨張機(30)の流入側の冷媒の一部は、バイパス管(38)を流れ、膨張機(30)をバイパスして気液分離器(51)へ流入する。
【0067】
このようにバイパス弁(29)を開放させると、膨張機(30)の膨張後の冷媒の圧力が上昇し、給油管(48)の前後の差圧が小さくなる。この結果、油溜部(21c)から給油管(48)を通じて膨張機構(34)の摺動部へ供給される油量が減少するため、油溜部(21c)の油面の低下を速やかに解消できる。この結果、油溜部(21c)の油面が給油管(48)の流入口(48a)を下回ってしまうことを防止でき、膨張機構(34)の各摺動部へ確実に油を供給できる。また、バイパス弁(29)の開放時には、室内膨張弁(2b,3b,4b)の開度が適宜調節される。この結果、各室内熱交換器(2a,2b,2c)の蒸発圧力が所定の値に調節される。
【0068】
このようにして、油溜部(21c)の油面の高さが上昇し、油面センサ等によってこのことが検知されると、バイパス弁(29)が閉鎖される。この結果、その後の運転では、全ての冷媒が膨張機構(34)を通過するため、冷媒のエネルギーの回収効率が増大する。なお、このようなバイパス弁(29)の制御は、上述した暖房運転においても同様に行われる。
【0069】
−実施形態の効果−
上記実施形態によれば、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2が、油ポンプ(28)の吸込口(28a)の高さh1よりも高い位置にある。このため、油溜部(21c)の油が給油管(48)へ過剰に供給されることを回避でき、圧縮機構(24)の各摺動部へ確実に油を供給できる。
【0070】
一方、油溜部(21c)の油面が低下すると、バイパス弁(29)を開放し、給油管(48)を流れる油の流量を減少させるようにしている。このため、油溜部(21c)の油面の低下を速やかに解消でき、圧縮機(20)と膨張機(30)の各摺動部へ確実に油を供給することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2が、圧縮機構(24)の吸入管(25)の高さh4よりも低い位置にある。給油管(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも高い位置にあると、吸入管(25)が油溜部(21c)の油に浸かり易くなる。この結果、吸入管(25)を通じて圧縮機構(24)内へ吸入される冷媒が、周囲の油によって加熱され、ひいては圧縮機構(24)の圧縮効率が低下してしまう虞がある。これに対し、上記実施形態では、給油管(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)の吸入管(25)よりも低い位置にあるため、吸入管(25)が油に浸かることを抑制できる。この結果、吸入管(25)に吸い込まれる冷媒が、油によって加熱されることを防止できる。
【0072】
また、上記実施形態では、給油管(48)の流入口(48a)の高さh2が、圧縮機構(24)の本体部(リアヘッド(24c))の高さh3よりも低い位置にある。給油管(48)の流入口(48a)が、リアヘッド(24c)の下端よりも高い位置にあると、給油管(48)の流入口(48a)付近の油面高さが変動し易くなり、給油管(48)へ安定して油を供給できない虞がある。しかし、上記実施形態では、給油管(48)の流入口(48a)が、圧縮機構(24)のリアヘッド(24c)の下端よりも低い位置にあるため、流入口(48a)付近の油面高さの変動を抑制できる。この結果、油溜部(21c)の油を給油管(48)へ安定して供給できる。
【0073】
《その他の実施形態》
上述した実施形態の圧縮機(20)は、シリンダの内部を環状のピストンが旋回するロータリ式ないし揺動ピストン式の回転式圧縮機である。しかし、圧縮機(20)は、例えばスクロール式や他の方式であってもよい。
【0074】
また、空気調和機(1)の冷媒回路(10)は、二段圧縮式の冷凍サイクルを行うものであってもよい。この場合、2台の圧縮機(20)を直列に接続し、一方を低段側の圧縮機、他方を高段側の圧縮機とする構成であってもよいし、1台の圧縮機(20)のケーシングの内部に、低段側の圧縮機構と高段側の圧縮機構とを収容する構成であってもよい。また、空気調和機(1)の冷媒回路(10)に、複数の圧縮機(20)を並列に接続する構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明は、圧縮機と膨張機とが冷媒回路に接続された冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 空気調和機
10 冷媒回路
21 圧縮機ケーシング
21c 油溜部
22 電動機
23 駆動軸
24 圧縮機構
28 油ポンプ
28a 吸込口
29 バイパス弁(バイパス機構)
30 膨張機
31 膨張機ケーシング
32 発電機
34 膨張機構
38 バイパス管(バイパス機構)
48 給油管(給油路)
48a 流入管
74 検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6