(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、基材と多孔性支持体とからなる微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成してなる複合半透膜であって、温度変調DSC法を用いて測定した初期昇温過程における−20〜150℃の範囲での該ポリアミド分離機能層の不可逆的吸熱量が275J/g以上であることを特徴とする複合半透膜である。
【0016】
本発明において微多孔性支持膜は、基材と多孔性支持体とからなるものであり、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが1nm以上100nm以下であるような微多孔性支持膜が好ましい。
【0017】
本発明において微多孔性支持膜を構成する基材としては、ポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛が例示される。機械的、熱的に安定性の高いポリエステルを使用するのが特に好ましい。
【0018】
該基材がポリエステルにより構成されている場合、そのポリエステルの末端カルボン酸基数は20eq/t以下であることが好ましく、15eq/t以下であることがより好ましい。20eq/tを超えると、複合半透膜がアルカリと接触した際にカルボン酸末端基の触媒作用によって加水分解が促進され、機械物性の低下による膜性能低下の原因となる。
【0019】
基材のカルボン酸末端基量は、Mauliceの方法(M. J. Maulice, F. Huizinga. Anal. Chim. Acta, 22 363(1960))によって測定できる。
【0020】
カルボン酸末端基数を20eq/t以下とするには、末端封鎖剤によってポリエステルのカルボン酸末端基を封鎖する方法、緩衝剤をエステル交換反応またはエステル化反応終了後から重縮合反応初期までの間に添加する方法、さらに固相重合する方法などを合わせて採用することができる。
【0021】
末端封鎖剤として用いられる化合物は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物から選ばれる少なくとも1種の付加反応型化合物であることが好ましい。末端封鎖剤によってカルボン酸末端基が封鎖されていることは、複合半透膜から剥離したポリエステル基材を赤外分光法やNMR法等を用いて分析することにより確認できる。
【0022】
該基材に用いられる布帛には、高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、多孔性支持体が剥離したり、さらには基材の毛羽立ち等により膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じたりすることがないような、優れた製膜性が要求される。そのため、該基材の形態としては、短繊維や熱可塑性連続フィラメントで構成された長繊維からなる不織布が好ましく用いられる。
【0023】
本発明において微多孔性支持膜を構成する多孔性支持体の素材としては、ポリスルホンや酢酸セルロースやポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用され、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0024】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0026】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有する微多孔性支持膜を得ることができる。
【0027】
上記の微多孔性支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、50〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは100〜250μmの範囲内である。また、多孔性支持体の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜100μmの範囲内である。
【0028】
微多孔性支持膜の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から多孔性支持体を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から微多孔性支持膜の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は平均値を意味するものである。
【0029】
本発明に使用する微多孔性支持膜は、ミリポア社製“ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙社製“ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、「オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート(Office of saline Water Research and Development Progress Report)」No.359(1968)に記載された方法に従って製造することもできる。
【0030】
本発明において、分離機能層を構成するポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物を含んでいることが好ましい。
【0031】
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の一級および/または二級アミノ基を有するアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸などの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、4−アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の一級および/または二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0032】
さらに、本発明における多官能アミンには、フェノール性水酸基および/またはアゾ基を有する芳香族アミン化合物を混合物として用いてもよい。芳香族アミン化合物の好適な例として、アミドール、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3−アミノ−L−チロシン、3−アミノ−4−ヒドロキシベンズヒドラジド、3−ヒドロキシ−DL−キヌレニン、2,5−ジアミノヒドロキノン、1,5−ジアミノ−4,8−ジヒドロキシアントラキノン、4,6−ジアミノレゾルシノール、ビスマルクブラウンY、ビスマルクブラウンR、4,4’−アゾジアニリン、2,4−ジアミノアゾベンゼン、p−エトキシクリソイジン、クリソイジンR、デスパースジアゾブラック3BF、メトキシレッド、4−(5−クロロ−2−ピリジルアゾ)−1,3−フェニレンジアミン、4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−1,3−フェニレンジアミン、およびその塩が挙げられる。
【0033】
さらに、芳香族アミン化合物の他の好適な例として、4−アミノ−2−ニトロフェノール、ピクラミン酸、2−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、2−アミノ−4−クロロフェノール、4−アミノサリチル酸ナトリウム、2−アミノ−5−ニトロフェノール、2−アミノ−4−ニトロフェノール、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸、3−ヒドロキシアントラニル酸、2−アミノ−p−クレゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシアニリン、3−アミノ−2−ナフトール、4−アミノサリチル酸、5−アミノ−o−クレゾール、5−アミノサリチル酸、2−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸、2−アミノ−5−ナフトール−7−スルホン酸、2−メチル−4−アミノ−1−ナフトール、2−アミノ−4−クロロ−5−ニトロフェノール、2−アミノ−4−クロロフェノール−6−スルホン酸、3−アミノ−4−ヒドロキシ−5−ニトロベンゼンスルホン酸、p−フェニルアゾアニリン、2−アミノアゾトルエン、4−アミノアゾベンゼン、オイルイエローAB、ディスパースオレンジ3、4−(4’−アミノフェニルアゾ)フェニルアルソン酸、モーダントイエロー12、4−アミノ−4’−ジメチルアミノアゾベンゼン、α−ナフチルレッド、4−フェニルアゾ−4−ナフチルアミン、4−アミノベンゼン−4’−スルホン酸ナトリウム、およびその塩が挙げられる。
【0034】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0035】
松浦剛著「合成膜の基礎」(喜多見書房)9頁によると、逆浸透膜の性能発現に当たっては、イオン基(官能基)の種類、量、位置等を選ぶことによって与えられた用途に最も適当な膜をデザインすることが出来る。架橋ポリアミド膜の性能向上には、主鎖を構成するカルボキシ基、アミノ基に加えて、親水基であるフェノール性水酸基を存在せしめることも有効である。さらに、ポリアミドの耐久性を向上させる手段として、色素(染料)開発の技術を応用し、堅牢度の向上効果の高いアゾ基を同時に存在せしめることも有効である。
【0036】
また、前記架橋ポリアミド中に存在するアミノ基を、適宜選択した化学反応によって、フェノール性水酸基やアゾ基に変換する事によっても、前記官能基の導入が可能である。例えば、四酸化二窒素や亜硝酸、硝酸、亜硫酸水素ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム等を試薬として用いることでアミノ基をフェノール性水酸基に変換することが可能であり、一方、ジアゾニウム塩生成を経由したアゾカップリング反応や、アミノ基とニトロソ化合物との反応等によってアミノ基をアゾ基に変換することができる。
【0037】
前記架橋ポリアミド中にカルボキシ基、アミノ基、フェノール性水酸基およびアゾ基を有する複合半透膜では、親水性官能基であるカルボキシ基、アミノ基、フェノール性水酸基を含むことによって透水量が増加して膜性能が向上し、アゾ基を含むことによって膜の耐久性が増大する。一方、アゾ基の含有量増加にともなって透水量が減少する。また、アミノ基は一般に塩素、次亜塩素酸などの酸化剤で容易に酸化される。以上を勘案すると、アミノ基の含有量を低下させ、アゾ基の含有割合を大きくすることで、好ましくは、加えてフェノール性水酸基の含有量を増加させることで、高い膜性能と高い耐久性の両立が可能である。
【0038】
ポリアミド分離機能層中の官能基量は、例えば、X線光電子分光法(ESCA)を用いて分析することができる。具体的には、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science)」, Vol.26, 559−572 (1988)および「日本接着学会誌」,Vol.27, No.4 (1991)で例示されているX線光電子分光法(ESCA)を用いることにより求めることができる。
【0039】
一級アミンや二級アミンなどのアミノ基濃度、フェノール性水酸基濃度およびカルボキシ基濃度については、ラベル化試薬による気相化学修飾法により求めることができる。ラベル化試薬としては、一級アミンに対してはペンタフルオロベンズアルデヒドを用い、フェノール性水酸基とアミノ基に対しては無水トリフルオロ酢酸を用い、カルボキシ基に対してはトリフルオロエタノールやジシクロヘキシルカルボジイミドを用いる。ラベル化試薬を親水基の種類にあわせて変更することで同様な測定方法を用いることができる。
【0040】
以下に一例として、全炭素量に対するカルボキシ基濃度の測定方法について説明する。ラベル化試薬により、試料へ気相化学修飾を行い、同時に気相化学修飾を行ったポリアクリル酸標準試料のESCAスペクトルから、ラベル化試薬の反応率(r)および反応残留物(m)を求める。つぎに、試料とラベル化試薬が反応してできたF1sピーク(フッ素の1s軌道のピーク)の面積強度[F1s]を求める。また、元素分析によりC1sピーク(炭素の1s軌道のピーク)の面積強度[C1s]を求める。
【0042】
装置 :SSX−100(米国SSI社製)
励起X線 :アルミニウム Kα
1,Kα
2線(1486.6eV)
X線出力 :10kV 20mV
光電子脱出角度:35°
データ処理は中性炭素(CHx)のC1sピーク位置を284.6eVに合わせる。
【0043】
上述のようにして求めた面積強度[F1s]、[C1s]を「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science)」, Vol.26, 559−572 (1988)に示される下記式に代入し全炭素量に対するカルボキシ基濃度を求める。
【0045】
ポリアミド分離機能層におけるカルボキシ基、アミノ基、フェノール性水酸基およびアゾ基の5種の官能基のうち、カルボキシ基を除く官能基中のアミノ基割合、すなわち、アミノ基のモル当量/(アゾ基のモル当量+フェノール性水酸基のモル当量+アミノ基のモル当量)は複合分離膜の耐久性に関係し、このアミノ基割合が0.5以下であることが好ましい。この好ましい範囲内であると、膜の堅牢性が増して耐久性が向上する。
【0046】
そして、本発明の複合半透膜を構成するポリアミド分離機能層は、温度変調DSC法を用いて測定した初期昇温過程における−20〜150℃の範囲での該ポリアミド分離機能層の不可逆的吸熱量が275J/g以上であることを特徴とする。
【0047】
ポリアミドは親水性の高分子であるために多くの水和水を保持しており、この温度範囲での吸熱は水和水の脱離によるものである。ポリアミド分離機能層の水和水量はポリアミドの高次構造と関係し、より多くの水和水を保持するポリアミドほど分子間空隙が大きな構造を形成している。ポリアミド分離機能層の分子間空隙が小さいほど複合半透膜の溶質除去性能は高くなるが、その一方で、分子間空隙があまりに小さいと耐薬品性が低下する。これは、ポリアミドがアミノ基やカルボキシ基などのイオン性官能基を有するために、酸やアルカリなどの薬品との接触により生じる荷電部位間の相互作用によってその高次構造が不安定化するためである。すなわち、本発明の耐薬品性に優れる複合半透膜のポリアミド分離機能層は多くの水和水を保持する構造を形成する。
【0048】
ポリアミド分離機能層中の水和状態は温度変調DSC法によって分析することが可能である。温度変調DSC法は、加熱と冷却を一定の周期および振幅で繰り返しながら平均的に昇温して測定する熱分析法であり、全熱流として観測されるシグナルをガラス転移などに由来する可逆成分と脱水などに由来する不可逆成分とに分離できる。複合半透膜から基材を物理的に剥離・除去した後、多孔性支持体をジクロロメタン等の溶媒によって抽出除去することにより得られるポリアミド分離機能層を分析試料として測定し、初期昇温過程における−20〜150℃の範囲での不可逆成分の吸熱量を分析する。吸熱量の値は3回測定の平均値として求められる。発明者らは鋭意研究の結果、吸熱量が275J/g以上である複合半透膜が耐薬品性に優れることを見出し、本発明を成すに至った。
【0049】
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
【0050】
本発明の複合半透膜を構成する分離機能層は、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。
【0051】
そして本発明の複合半透膜は、微多孔性支持膜上で多官能アミン水溶液と多官能酸ハロゲン化物溶液とを接触させてポリアミド分離機能層を形成させた後、例えば、(1)45℃未満の水で洗浄することや、(2)75℃未満の水で洗浄した後に亜硝酸処理することなどによって得られる。
【0053】
多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。この範囲であると十分な透水性と塩およびホウ素の除去性能を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を阻害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0054】
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、5sec以上10min以下の範囲内であることが好ましく、10sec以上3min以下の範囲内であるとさらに好ましい。
【0055】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、複合半透膜形成後に液滴残存部分が欠点となって複合半透膜の除去性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0056】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層を形成させる。
【0057】
水と非混和性の有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物濃度は、0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であると好ましく、0.02重量%以上2.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができる。さらに、この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0058】
水と非混和性の有機溶媒は、多官能酸ハロゲン化物を溶解し、微多孔性支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0059】
多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を微多孔性支持膜へ接触させる方法は、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜へ被覆する方法と同様に行えばよい。
【0060】
本発明の界面重縮合工程においては、微多孔性支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆い、かつ、接触させた多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を微多孔性支持膜上に残存させておくことが肝要である。このため、界面重縮合を実施する時間は、0.1sec以上3min以下が好ましく、0.1sec以上1min以下であるとより好ましい。界面重縮合を実施する時間を0.1sec以上3min以下とすることで、微多孔性支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆うことができ、かつ多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を微多孔性支持膜上に保持することができる。
【0061】
界面重縮合によって微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成した後は、余剰の溶媒を液切りする。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1min以上5min以下であることが好ましく、1min以上3min以下であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となってポリアミド分離機能層に欠損部が発生し、膜性能が低下する。
【0062】
本発明においては、上述の方法によって得られたポリアミド分離機能層を(1)45℃未満の水と接触させること、(2)酸またはアルコールを含有する水と接触させること、または(3)75℃未満の水と接触させた後に、ポリアミド分離機能層中の一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物を含む溶液に接触させて亜硝酸処理することのいずれかによって高い耐薬品性を有する複合半透膜が得られる。
【0063】
ポリアミド分離機能層は45℃以上に加熱すると水和水の放出を伴って高次構造が変化し、処理温度の上昇とともに分子間空隙が小さくなり、酸やアルカリなどの薬品に対して不安定となる。そのため、本発明においては複合半透膜と接触させる水溶液の温度は45℃未満であることが好ましく、さらには40℃未満であることがより好ましい。
【0064】
また、酸やアルコールなどのポリアミド分離機能層を膨潤させる試薬を含有する水溶液を用いると、接触温度が45℃以上でも高次構造の変化を抑制できる。
【0065】
ポリアミド分離機能層に接触させる酸としては、水に0.1重量%以上溶解し、かつポリアミド分離機能層に吸着して透水量を低下させないものであれば、特に制限されない。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、蟻酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸等が挙げられる。酸を含有する水溶液のpHは3以下の範囲が好ましく、より好ましくは2以下である。3より大きいと加熱によるポリアミド分離機能層の高次構造変化を抑制することが困難となる。
【0066】
ポリアミド分離機能層に接触させるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン等が挙げられる。
【0067】
また、水溶液と接触後にポリアミド分離機能層中の一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物を含む溶液に接触させる場合には、該溶液との接触により高次構造が緩和されるために、該水溶液との接触温度が75℃未満であれば高い耐薬品性を有する複合半透膜が得られる。
【0068】
ポリアミド分離機能層を水溶液と接触させる時間は、1min以上10min以下、より好ましくは2min以上8min以下である。1min未満では十分な洗浄効果が得られず、10min以上では生産効率が低下する。
【0069】
さらに、このようにして得られたポリアミド分離機能層を、ポリアミド分離機能層中の一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物を含む溶液に接触させてもよい。このとき、複合半透膜にジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物を含む溶液を接触させる方法は、分離機能層表面と該化合物が接触するならば、とくに限定されない。
【0070】
一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物としては、亜硝酸およびその塩、ニトロシル化合物などが挙げられ、本発明に用いる際にはその水溶液であることが好ましい。亜硝酸やニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解しやすいので、例えば亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。一般に、亜硝酸塩は水素イオンと反応して亜硝酸(HNO
2)を生成するが、20℃で水溶液のpHが7以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下で効率よく生成する。中でも、取り扱いの簡便性から水溶液中で塩酸または硫酸と反応させた亜硝酸ナトリウムの水溶液が特に好ましい。
【0071】
前記一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物溶液中の亜硝酸や亜硝酸塩の濃度は、好ましくは20℃において0.01〜1重量%の範囲である。0.01%よりも低い濃度では十分な効果が得られず、亜硝酸、亜硝酸塩濃度が1%よりも高いと溶液の取扱いが困難となる。
【0072】
亜硝酸水溶液の温度は15℃〜45℃が好ましい。これ以下の温度だと反応に時間がかかり、45℃以上だと亜硝酸の分解が早く取り扱いが困難である。亜硝酸水溶液との接触時間は、ジアゾニウム塩が生成する時間であればよく、高濃度では短時間で処理が可能であるが低濃度であると長時間必要である。低濃度で長時間掛けてジアゾニウム塩を生成させるとジアゾニウム塩との反応性化合物と反応させる前にジアゾニウム塩が水と反応するため、高濃度で短時間処理を行う方が望ましい。たとえば、2,000mg/Lの亜硝酸水溶液では30secから10minが好ましい。
【0073】
このように製造される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0074】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0075】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0076】
本発明に係る複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下の総溶解固形分量(Total Dissolved Solids:TDS)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5℃以上40.5℃以下の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0077】
なお、本発明の複合半透膜は、高い耐薬品性を有することを特徴とするが、耐薬品性の指標については、pH1とpH13のそれぞれの水溶液への耐性を指標とするのが適当である。pH1は膜ろ過運転における酸洗浄時のpHとして最も強い条件であり、また、pH13はアルカリ洗浄時のpHとして最も強い条件であるため、pH1とpH13のそれぞれの水溶液に耐性を示せば、酸やアルカリによる洗浄を行っても膜が劣化しにくいことが担保されるためである。
【実施例】
【0078】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0079】
実施例および比較例における各特性の測定は次のとおり行った。
【0080】
[カルボン酸末端基数]
ポリエステル基材をベンジルアルコールに溶解後、クロロホルムを加えて0.1規定の水酸化カリウム/ベンジルアルコール溶液で滴定することにより測定した。
【0081】
[脱塩率]
複合半透膜に、濃度2,000ppm、温度25℃、pH7に調整した塩化ナトリウム水溶液を操作圧力1.55MPaで供給するときの透過水塩濃度を測定することにより、次式により求めた。
【0082】
脱塩率=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
[膜透過流束]
複合半透膜に、濃度2,000ppm、温度25℃、pH7に調整した塩化ナトリウム水溶液を操作圧力1.55MPaで供給し、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)から膜透過流束(m
3/m
2/day)を求めた。
【0083】
[耐薬品性]
複合半透膜をpH13の水酸化ナトリウム水溶液とpH1の硫酸水溶液とにそれぞれ1時間ずつ室温で浸漬する操作を20サイクル繰り返し、その前後での脱塩率の変化から求めた。
【0084】
SP比=(100−浸漬後の脱塩率)/(100−浸漬前の脱塩率)
なお、SPとは物質透過(Substance Permeation)の略である。
【0085】
[吸熱量]
複合半透膜から基材を物理的に剥離・除去した後、多孔性支持体をジクロロメタンによって抽出除去してポリアミド分離機能層の分析試料を作製した。得られた分析試料を温度変調DSC法により分析し、初期昇温過程における−20〜150℃の範囲での不可逆成分の吸熱量(J/g)を3回の測定の平均値として求めた。
【0086】
[官能基量]
ポリアミド分離機能層中の官能基量は、X線光電子分光法(ESCA)を用いて定量を行った。一級アミンや二級アミンなどのアミノ基濃度、フェノール性水酸基濃度およびカルボキシ基濃度については、ラベル化試薬による気相化学修飾法により求めた。ラベル化試薬としては、一級アミンに対してはペンタフルオロベンズアルデヒドを用い、フェノール性水酸基とアミノ基に対しては無水トリフルオロ酢酸を用いた。
【0087】
(比較例1)
ポリエステル樹脂と1.0重量%のN,N−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(末端封鎖剤)とを紡糸してフィラメントとし、それを移動するネットコンベア上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブをフラットロールで圧着してポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm
2/sec)を作製した。得られた不織布上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を200μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5min間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。
【0088】
なお、得られたポリエステル不織布について、カルボン酸末端基数を測定したところ、カルボン酸末端基数は18であった。
【0089】
このようにして得られた微多孔性支持膜を、m−PDAの3.0重量%水溶液中に2min間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け微多孔性支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.1重量%を含むn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10sec間静置した。続いて、膜から余分な溶液を除去するために膜を1min間垂直に保持して液切りした。その後、90℃の熱水で2min間洗浄して複合半透膜を得た。
【0090】
このようにして得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0091】
さらに、複合半透膜の耐薬品性を評価したところ、薬品接触前後でのSP比は表1に示す通りであった。
【0092】
(
参考例1)
界面重縮合後の洗浄溶液を0.05Mの硫酸にしたこと以外は比較例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0093】
(比較例2)
界面重縮合後の洗浄水の温度を50℃にしたこと以外は比較例1と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0094】
(
参考例2)
界面重縮合後の洗浄溶液を20重量%のエタノールにしたこと以外は比較例2と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0095】
(
参考例3)
界面重縮合後の洗浄水の温度を43℃にしたこと以外は比較例2と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0096】
(
参考例4)
界面重縮合後の洗浄水の温度を38℃にしたこと以外は比較例2と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0097】
(
参考例5)
ポリエステル不織布の作製時に末端封鎖剤を使用しないこと以外は実施例4と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0098】
なお、実施例5で使用したポリエステル不織布について、カルボン酸末端基数を測定したところ、カルボン酸末端基数は22であった。
【0099】
(
参考例6)
ポリエステル不織布の作製時の末端封鎖剤の濃度が0.5重量%であること以外は実施例4と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0100】
なお、実施例6で使用したポリエステル不織布について、カルボン酸末端基数を測定したところ、カルボン酸末端基数は20であった。
【0101】
(実施例
1)
比較例1において、界面重縮合後の洗浄水の温度を70℃として複合半透膜を作製した。この複合半透膜を、硫酸によりpH3に調整した2,500mg/Lの亜硝酸ナトリウム水溶液(30℃)と45sec間接触させた。その後、精製水で過剰の試薬を洗浄し、亜硫酸ナトリウム水溶液(1,000mg/L)中に3min間浸漬し、複合半透膜を得た。
【0102】
(比較例3)
界面重縮合後の洗浄水の温度を80℃にしたこと以外は実施例7と同様の方法で複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、脱塩率、膜透過流束、吸熱量、耐薬品性はそれぞれ表1に示す通りであった。
【0103】
【表1】
【0104】
以上のように、本発明により得られる複合半透膜は、高い耐薬品性と高透水量、高除去率を有している。