【実施例】
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(参考例1)セルロース前処理物の調製
1)セルロース前処理物1の調製(アンモニア処理)
セルロースとして、稲藁を使用した。前記セルロースを小型反応器(耐圧硝子工業製、TVS−N2 30ml)に投入し、液体窒素で冷却した。この反応器にアンモニアガスを流入し、試料を完全に液体アンモニアに浸漬させた。リアクターの蓋を閉め、室温で15分ほど放置した。次いで、150℃のオイルバス中にて1時間処理した。処理後、反応器をオイルバスから取り出し、ドラフト中で直ちにアンモニアガスをリーク後、さらに真空ポンプで反応器内を10Paまで真空引きし乾燥させた。これを
セルロース前処理物
1として以下実施例に使用した。
【0065】
2)セルロース前処理物2の調製(水熱処理)
セルロースとして、稲藁を使用した。前記セルロースを水に浸し、撹拌しながら180℃で20分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。その際の圧力は10MPaであった。処理後は溶液成分(以下、水熱処理液)と固形分に遠心分離(3000G)を用いて固液分離し、固形分をセルロース前処理物
2として以下実施例に使用した。
【0066】
(参考例2)糖濃度の測定
糖液に含まれるグルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で標品との比較により定量した。
カラム:Luna NH
2(Phenomenex社製)
移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分)
反応液:なし
検出方法:RI(示差屈折率)
温度:30℃。
【0067】
(参考例3)トリコデルマ由来セルラーゼの調製
トリコデルマ由来セルラーゼを以下の方法で調製した。
【0068】
[前培養]
コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14
%(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるよう蒸留水に添加し、100mLを500mLバッフル付き三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別にそれぞれ121℃で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80をそれぞれ0.01%(w/vol)添加した。この前培養培地にトリコデルマ・リーセイATCC68589を1×10
5個/mLになるように植菌し、28℃、72時間、180rpmで振とう培養し、前培養とした(振とう装置:TAITEC社製 BIO−SHAKER BR−40LF)。
【0069】
[本培養]
コーンスティップリカー5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、セルロース(アビセル)10%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14%(w/vol)、リン酸二水素カリウム 0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるよう蒸留水に添加し、2.5Lを5L容撹拌ジャー(ABLE社製 DPC−2A)容器に張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別にそれぞれ121℃で15分間オートクレーブ滅菌したPE−MとTween80をそれぞれ0.1%添加し、あらかじめ前記の方法にて液体培地で前培養したトリコデルマ・リーセイATCC68589を250mL接種した。その後、28℃、87時間、300rpm、通気量1vvmにて培養を行い、遠心分離後、上清を膜濾過(ミリポア社製 ステリカップ−GV 材質:PVDF)した。この前述条件で調製した培養液に対し、βグルコシダーゼ(Novozyme188)をタンパク質重量比として、1/100量添加し、これをトリコデルマ由来セルラーゼとして、以下、実施例に使用した。
【0070】
(参考例
4)糸状菌由来セルラーゼの回収酵素量の測定方法
工程(2)で回収できる糸状菌由来セルラーゼの回収酵素量は、1)結晶セルロース分解活性、2)セロビオース分解活性、3)キシラン分解活性、の3種の分解活性(以下、活性値という。)を測定することにより定量した。
【0071】
1)結晶セルロース分解活性
酵素液に対し、結晶セルロースであるアビセル(Merc
k社製、Cellulose Microcrystalline)を1g/L、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を100mMとなるよう添加し、50℃で24時間反応させた。反応液は1mLチューブで調製し、前記条件にて回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。結晶セルロース分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性量として使用し、回収酵素量の比較に使用した。
【0072】
2)セロビオース分解活性
酵素液に対し、セロビオース(和光純薬工業株式会社製)500mg/L、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を100mMとなるよう添加し、50℃で0.5時間反応させた。反応液は1mLチューブで調製し、前記条件にて回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のグルコース濃度を測定した。グルコース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。セロビオース分解活性は、生成したグルコース濃度(g/L)をそのまま活性量として使用し、回収酵素量の比較に使用した。
【0073】
3)キシラン分解活性
酵素液に対し、キシラン(Birch wood xylan、和光純薬工業株式会社製)10g/L、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を100mMとなるよう添加し、50℃で4時間反応させた。反応液は1mLチューブで調製し、前記条件にて回転混和しながら反応を行った。反応後、チューブを遠心分離し、その上清成分のキシロース濃度を測定した。キシロース濃度は、参考例2に記載の方法に準じて測定した。キシロース分解活性は、生成したキシロース濃度(g/L)をそのまま活性量として使用し、回収酵素量の比較に使用した。
【0074】
(参考例
5)無機イオン濃度の測定
糖液に含まれるカチオンおよびアニオン濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。
【0075】
1)カチオン分析
カラム:Ion Pac AS22(DIONEX社製)
移動相:4.5mM Na
2CO
3/1.4mM NaHCO
3(流速1.0mL/分)
反応液:なし
検出方法:電気伝導度(サプレッサ使用)
温度:30℃。
【0076】
2)アニオン分析
カラム:Ion Pac CS12A(DIONEX社製)
移動相:20mMメタンスルホン酸(流速1.0mL/分)
反応液:なし
検出方法:電気伝導度(サプレッサ使用)
温度:30℃。
【0077】
(比較例1)セルロース前処理物の加水分解
参考例1で調製したセルロース前処理物1および2(各0.5g)に蒸留水を加え、参考例3で調製したトリコデルマ由来セルラーゼ0.5mLを添加し、総重量が10gとなるようさらに蒸留水を添加した。さらに本組成物のpHが4.5〜5.3の範囲となるよう希釈硫酸あるいは希釈苛性ソーダで調整した。pHを調整した本組成物を枝付試験管に移し(東京理化器械株式会社製 φ30 NS14/23)、50℃にて24時間保温および攪拌し加水分解を行った(東京理化社製:小型メカニカルスターラー CPS−1000、変換アダプター、三方コック付添加口、保温装置 MG−2200)。加水分解物を遠心分離(3000G、10分)にて固液分離し、溶液成分(6mL)と固形物に分離した。得られた溶液成分の糖濃度(グルコースおよびキシロース濃度)は、参考例2記載の方法で測定した。また、溶液成分は、さらにマイレクスHVフィルターユニット(33mm、PVDF製、細孔径0.45μm)を使用して濾過を行った。得られた濾液は、分画分子量10000の限外濾過膜(Sartorius stedim biotech社製 VIVASPIN 20 材質:PES)で濾過し、膜画分が1mLになるまで4500Gにて遠心した。蒸留水10mLを膜画分に添加し、再度膜画分が1mLになるまで4500Gにて遠心した。この後、膜画分から酵素を回収した。回収酵素の各活性は、参考例4に準じて測定した。
【0078】
(比較例2)酢酸ナトリウム(有機塩)を含むセルロース前処理物の加水分解1
参考例1で調製したセルロース前処理物1および2(各0.5g)に蒸留水を加え、酢酸ナトリウム5M(pH5.2)を0.2mL(最終濃度100mM、8.2g/L)をさらに加え、参考例3で調製したトリコデルマ由来セルラーゼ0.5mLを添加し、総重量が10gとなるようさらに蒸留水を添加した。前記、酢酸緩衝液の添加する操作以外は、比較例1と同じ手順で行い、糖濃度および回収できた各酵素活性を測定した。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
(実施例1)水溶性無機塩を添加するセルロース前処理物の加水分解1
参考例1で調製したセルロース前処理物1(0.5g)に蒸留水を加え、水溶性無機塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム)を、それぞれ最終濃度5g/L、10g/L、25g/L、35g/L、50g/L、100g/Lになるように加え、参考例3で調製したトリコデルマ由来セルラーゼ0.5mLを添加し、総重量が10gとなるようさらに蒸留水を添加した。前記、酢酸緩衝液の添加する操作以外は、比較例1と同じ手順で行い、糖濃度および回収できた各酵素活性を測定した。
【0082】
各種水溶性無機塩の添加量と糖生成量との関係を表4、表5に示す。水溶性無機塩添加35g/Lまでは、グルコースおよびキシロースの生成量は、比較例1および2(表2および3)と同じであるが、50g/L以上になると生成糖が減少することが判明した。これは、水溶性無機塩濃度が高すぎるため、酵素反応が阻害されたためと考えられる。一方、5〜35g/Lの範囲では、大きな生成糖の減少は確認されなかった。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
次に、水溶性無機塩を添加し加水分解を行い、得られた溶液成分より酵素を回収した結果を表6〜8に示す。表5および表6に示すように、セロビオース分解活性およびキシラン分解活性は、水溶性無機塩濃度50g/L以上で活性が低下することが判明した。その一方で、表7に示すように、水溶性無機塩濃度5〜35g/Lの範囲で、キシラン分解活性で1.2倍以上、結晶セルロース分解活性で2倍以上、高まることが判明した。また、水溶性無機塩濃度5〜35g/Lの範囲でのセロビオース分解活性は大きな変化は確認されなかったが、水溶性無機塩濃度が50g/L以上になると活性は低下することが判明した。
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
(実施例2)水溶性無機塩を添加するセルロース前処理物の加水分解2
セルロース前処理物2(0.5g)に関して同様の蒸留水を加え、実施例1と同じ手順で加水分解を実施した。得られた糖濃度および回収できた各酵素活性を測定した。各種水溶性無機塩の添加量と糖生成量との関係を表9、表10に示す。水溶性無機塩添加35g/Lまでは、比較例1および2(表2および3)と同じであるが、50g/L以上になるとグルコースおよびキシロースの生成量が減少することが判明した。これは、水溶性無機塩濃度が高すぎるため、酵素反応が阻害されたためと考えられる。一方、5〜35g/Lの範囲では、大きな生成糖の減少は確認されなかった。
【0090】
【表9】
【0091】
【表10】
【0092】
次に、水溶性無機塩を添加し加水分解を行い、得られた溶液成分より酵素を回収した結果を表11〜13に示す。セロビオース分解活性およびキシラン分解活性は、水溶性無機塩添加量50g/L以上では回収酵素活性が低下することが判明した。その一方で、水溶性無機塩5〜35g/Lの範囲で、セロビオース分解活性で、2倍以上、キシラン分解活性で1.2倍以上、結晶セルロース分解活性で2倍以上、高まることが判明した。一方、水溶性無機塩添加量が50g/L以上になると活性は低下することが判明した。
【0093】
【表11】
【0094】
【表12】
【0095】
【表13】
【0096】
(実施例3)水溶性無機塩としての海水利用
実施例1および2において、水溶性無機塩5g/L〜35g/L添加することにより回収酵素活性が高まることが確認できた。そこで、水溶性無機塩を含む水溶液として「海水」にて代替できるか検討した。海水は、神奈川県三崎漁港付近で採取した海水(pH8.3、固形物溶解量3.2%)を使用し、これをマイレクスHVフィルターユニット(33mm、PVDF製、細孔径0.45μm)を使用して濾過を行ったものを使用した。なお海水のpH調整には硫酸を使用し、pH5.0(海水1L当たり硫酸50mg添加)に調整した。この海水(pH5)の水溶性無機塩濃度を参考例
5に準じて測定したところ、塩化ナトリウム25g/L、塩化マグネシウム3.2g/L、硫酸マグネシウム2g/Lであることが判明した。すなわち、実施例3で使用した海水は、水溶性無機塩を30.2g/Lの濃度で含むことが分かった。
【0097】
次に、前述の海水(pH5)を水溶性無機塩として使用して、参考例1で調製したバイオマス前処理物1および2の加水分解を行った。バイオマス前処理物1および2(0.5g)に蒸留水および海水(pH5)を加え、参考例3で調製したトリコデルマ由来セルラーゼ0.5mLを添加し、総重量が10gとなるようさらに蒸留水を添加した。海水は、最終濃度1/2希釈、すなわち水溶性無機塩濃度で15.1g/Lとなるように添加した。pH調整は、海水のpHを予め5に調整してあるので実施の必要はなかった。加水分解、固液分離、は、比較例1と同じ手順で実施した。得られた溶液成分の糖濃度(グルコースおよびキシロース濃度)は、参考例2記載の方法で測定した。また、溶液成分は、さらにマイレクスHVフィルターユニット(33mm、PVDF製、細孔径0.45μm)を使用して濾過を行い、比較例1と同じ手順で、回収酵素を得た。回収酵素の各活性は、参考例4に準じて測定した。その結果、表14、表15に示すように、比較例1に対し、海水の添加により、セロビオース分解活性、結晶セルロース分解活性、およびキシラン分解活性は海水添加においても向上することが判明した。
【0098】
【表14】
【0099】
【表15】
【0100】
(実施例4)加水分解工程における水溶性無機塩添加のタイミング
水溶性無機塩の添加のタイミングを決定するために、セルラーゼ添加前、セルラーゼ添加直後、セルラーゼ添加後23時間、に関して糖生成量、回収酵素活性を比較した。水溶性無機塩は、塩化ナトリウムを使用し、添加濃度は10g/Lで実施した。その結果、表16に示すように、セルラーゼ添加前あるいは添加直後(例えば反応0時間)において、水溶性無機塩を添加する方が回収酵素活性、特に結晶セルロース分解活性を高める点で好ましいことが判明した。
【0101】
【表16】
【0102】
(実施例5)ナノ濾過膜による糖濃縮および1価無機塩の除去
ナノ濾過膜による糖濃縮および1価無機塩の除去を検討するために、糖液の大量調製を行った。糖液の大量調製は、セルロース前処理物1(1kg)にトリコデルマ由来セルラーゼ20gを添加し、さらに塩化ナトリウムを最終濃度10g/Lとなるように添加後、総重量が20kgとなるようさらに蒸留水を添加した。さらに本組成物のpHが4.5〜5.3の範囲となるよう希釈硫酸あるいは希釈苛性ソーダで調整した。この液を液温が45〜50℃を保つよう保温しながら、かつpHが4.5〜5.3の範囲を保つように希釈硫酸、希釈苛性ソーダを添加して24時間酵素とバイオマス前処理物2を反応させた。次に得られた酵素糖化スラリー液10Lを用いて以下の手順でプレス濾過を実施した。プレス濾過は小型フィルタプレス装置(薮田産業製フィルタプレス MO−4)を用いた。ろ布はポリエステル製織布(薮田産業製 T2731C)を使用した。スラリー液10Lを小型タンクの中に入れて下から圧縮空気で曝気しながら液投入口を開いてエアーポンプ(タイヨーインタナショナル製 66053−3EB)で徐々に濾室内にスラリー液を投入した。次に濾室に付設されているダイヤフラムを膨らませて圧搾工程を行った。徐々に圧搾圧力を上昇させていき、0.5MPaまで上昇させてから約30分間放置して濾液を回収した。得られた溶液成分の総量は9.0Lであった。残りの液成分については装置デッドボリュームのために損失した。得られた溶液成分の糖濃度を測定したところグルコース濃度が16g/L、キシロース濃度が10g/Lであった。
【0103】
次に、固液分離の溶液成分を限外濾過膜に通じて濾過し、回収酵素と糖液成分に分離した。回収酵素は、分画分子量10000の限外濾過膜(GE製 SEPA PWシリーズ 機能面材質:ポリエーテルスルホン)の平膜をセットした小型平膜濾過装置(GE製 Sepa(登録商標) CF II Med/High Foulant System)を使用して実施した。原水側流速2.5L/分、膜フラックスが0.1m/Dと一定になるように操作圧力を制御しながら9Lのうち5Lを濾過した。
【0104】
得られた糖液1Lを使用してナノ濾過膜濃縮を実施した。ナノ濾過膜はDESAL−5
Lを使用し、このナノ濾過膜を小型平膜濾過装置(GE製 Sepa(登録商標) CF II Med/High Foulant System)にセットし、原水温度を25℃、高圧ポンプの圧力を3MPaで濾過処理を行った。この処理により、0.2Lのナノ濾過膜濃縮液および0.8Lの透過液を得た(5倍濃縮)。このときのグルコース、キシロース、ナトリウムイオン、塩化物イオン濃度は表17に示す通りであり、ナノ濾過膜の糖濃縮により糖濃度に対する塩化ナトリウム濃度を低減できることが判明した。
【0105】
【表17】
【0106】
(実施例6)ナノ濾過膜による糖濃縮および1価無機塩の除去2(透析濾過)
実施例6で得られたナノ濾過膜の濃縮液0.3LにRO水0.3Lを加水し、合計0.6Lに調整し、さらにこの溶液をナノ濾過膜に通じて濾過し、0.3Lの濃縮液(ナノ濾過膜濃縮液2)と0.3Lの透過液(ナノ濾過膜透過液2)を得た(2倍濃縮)。このときのグルコース、キシロース、ナトリウムイオン、塩化物イオン濃度は表18に示す通りであり、ナノ濾過膜濃縮液をさらにナノ濾過膜に通じて濾過することにより、1価無機塩濃度をさらに低減できることが判明した。
【0107】
【表18】
【0108】
(実施例7)逆浸透膜による無機塩濃縮液の回収
実施例5で得られたナノ濾過膜の透過液0.8LをRO膜処理に通じて、無機塩濃縮液の回収を行った。RO膜は架橋全芳香族系逆浸透膜“UTC80”(東レ株式会社製)を使用し、このRO膜を小型平膜濾過装置(GE製 “Sepa”(登録商標) CF II Med/High Foulant System)にセットし、原水温度を25℃、高圧ポンプの圧力を3MPaで濾過処理を行った。この処理により0.64Lの透過液を得た(5倍濃縮)。このときのグルコースおよびキシロース、ナトリウムイオン、塩化物イオン濃度は表19に示す通りであり、ナノ濾過膜の透過液として含まれる無機塩をさらに逆浸透膜に通じて濾過することにより、無機塩濃縮液を得られることが判明した。また透過液としては、無機塩および糖を含まない純水を得ることができた。
【0109】
【表19】
【0110】
(実施例8)希硫酸処理セルロース前処理物の調製、アンモニア中和、糸状菌セルラーゼによる加水分解
セルロース含有バイオマスとしてサトウキビバガスを希硫酸水(1wt%、10g/L、)に浸し、撹拌しながら190℃で10分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。その際の圧力は10MPaであった。処理後は小型フィルタプレス装置(薮田産業製フィルタプレス)を用いて固液分離し、溶液成分(以下、硫酸処理液という。)(0.5L)と固形分に分離した。固形物の固形物濃度は、約50%であった。固形物は、さらにRO水に再度懸濁させ、再度小型フィルタプレスを行うことで、固形物中に含まれる硫酸成分の除去を行った。この硫酸除去を行って得られた固形物を、以下、セルロース前処理物3と呼ぶ。
【0111】
次に、0.5Lの硫酸処理液に対し、アンモニア水(28%溶液、和光純薬工業株式会社製)6mLを徐々に添加し、pH7付近まで中和を行った。この際、硫酸イオンとアンモニウムイオンとの中和反応にて、水溶性無機塩である硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)約13gが生成したものと推定できる。中和後の硫酸処理液に関して、糖成分を分析したところ、キシロースが23g/L、グルコースが1g/L含まれていた。以下、これを中和C5糖液と呼ぶ。
【0112】
次に、セルロース前処理物3と中和C5糖液の混合を行った。セルロース前処理物3の固形物1gに対して中和C5糖液を10mL添加し混合した(固形物濃度10wt%)。混合後、希硫酸および水酸化ナトリウム水溶液を使用して、pH5に調製した。その後、セルラーゼを添加して、加水分解反応を行った。セルラーゼは、ジェネンコア社の“アクセルレースDuet”を購入し使用した。添加量は、前記セルラーゼを0.2mL添加した。反応は比較例1と同じ条件で行い、50℃で24時間混合し実施した。得られた加水分解物に含まれる糖濃度(グルコース・キシロース)を表2
0に示す。
【0113】
次に、前記加水分解物より比較例1と同じ条件で酵素回収を行った。回収酵素の各活性(セロビオース分解活性、アビセル分解活性、キシラン分解活性)は、参考例4に準じて測定した。回収酵素活性を表20に示す。
【0114】
(比較例3)希硫酸処理セルロース前処理物の調製、水酸化カルシウム中和、糸状菌由来セルラーゼによる加水分解
前記実施例8との比較のため、中和を水酸化カルシウムで行った場合の比較例を示す。なお、水酸化カルシウムで中和を行うことにより、硫酸イオンとカルシウムイオンの塩である硫酸カルシウム(CaSO
4)が生成する。硫酸カルシウム(石膏)は、水に対する溶解度が約2g/L程度(25℃)であるため、本比較例における加水分解は、水溶性無機塩を添加した加水分解ではない。
【0115】
本比較例では、硫酸処理液の中和に際し、アンモニア水ではなく、硫酸カルシウム粉末を添加し、pH7付近に調製すること、中和後に生成した硫酸アンモニウムを遠心にて除去すること以外は、実施例7に準じて実施した
。
【0116】
次に、0.5Lの硫酸処理液に対し、水酸化カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を3.7g、徐々に添加し、pH7付近まで中和を行った。この際、硫酸イオンとカルシウムイオンとの中和反応にて、水不溶性無機塩である硫酸カルシウ
ム約7gが生成したものと推定できる。中和後の硫酸処理液は、さらに遠心分離(3000G、20分)を行い、水不溶性無機塩である硫酸カルシウムを除去し、その上澄み液を得た。この上済み液に関して、糖成分を分析したところ、キシロースが22g/L、グルコースが1g/L含まれていた。以下、これを中和C5糖液(比較例2)と呼ぶ。
【0117】
次に、セルロース前処理物3と中和C5糖液の混合(比較例2)を行い、さらにセルラーゼを添加して、実施例
8と同じ手順で加水分解反応を行った。得られた加水分解物に含まれる糖濃度(グルコース・キシロース)を表20に示す。
【0118】
次に、加水分解物より比較例1と同じ条件で酵素回収を行った。回収酵素の各活性(セロビオース分解活性、アビセル分解活性、キシラン分解活性)は、参考例4に準じて測定した。回収酵素活性を表20に示す。その結果、実施例8と比較して糸状菌由来セルラーゼによる加水分解により生成する糖濃度は大きく差がないことが判明した。一方で、回収酵素活性に関しては、実施例8のアンモニアを使用した中和、すなわち硫酸アンモニウム存在下で加水分解を行う方がより向上することが判明した。
【0119】
【表20】
【0120】
(参考例6)フミコラ属セルラーゼの調製
フミコラ属セルラーゼは、フミコラ・グリセア(Humicola grisea NBRC31242)を参考例3の方法と同じ前培養、本培養にて調製した。この前述条件で調製した培養液に対し、βグルコシダーゼ(Novozyme188)をタンパク質重量比として、1/100量添加し、これをフミコラ属セルラーゼとして、以下の実施例および比較例に使用した。
【0121】
(比較例4)セルロース前処理物3の加水分解
実施例8のセルロース前処理物3を使用して、比較例1の記載に準じて、水溶性無機塩を添加しない場合の加水分解と酵素の回収を実施した。その際、糸状菌由来セルラーゼとして、参考例3で調製したトリコデルマ属由来セルラーゼ、および参考例6で調製したフミコラ属由来セルラーゼを使用して加水分解を実施した。糖生成量と回収酵素活性を表21に示す。
【0122】
【表21】
【0123】
(実施例9)水溶性無機塩を添加したセルロース前処理物の加水分解3
実施例8で調製したセルロース前処理物3(0.5g)に蒸留水を加え、実施例1と同じ手順で加水分解を実施した。得られた糖濃度および回収できた各酵素活性を測定した。各種水溶性無機塩の添加量と糖生成量との関係を表23および24に示す。水溶性無機塩添加35g/Lまでは比較例4(表21)と同じであるが、50g/L以上になるとグルコースおよびキシロースの生成量が減少することが判明した。これは、水溶性無機塩濃度が高すぎるため、酵素反応が阻害されたためと考えられた。一方、5〜35g/Lの範囲では、大きな生成糖の減少は確認されなかった。
【0124】
【表22】
【0125】
【表23】
【0126】
次に、水溶性無機塩を添加し加水分解を行い、得られた溶液成分より酵素を回収した結果を表24〜26に示す。セロビオース分解活性およびキシラン分解活性は、水溶性無機塩添加量50g/L以上では回収酵素活性が低下することが判明した。その一方で、水溶性無機塩5〜35g/Lの範囲で、セロビオース分解活性で、2倍以上、キシラン分解活性で1.2倍以上、結晶セルロース分解活性で2倍以上、高まることが判明した。但し、水溶性無機塩の添加量が50g/L以上になると活性は低下することが判明した。
【0127】
【表24】
【0128】
【表25】
【0129】
【表26】
【0130】
(実施例10)水溶性無機塩を添加したセルロース前処理物の加水分解4
実施例8で調製したセルロース前処理物3(0.5g)に蒸留水を加え、参考例6記載のフミコラ属由来セルラーゼを使用する以外は、実施例1と同じ手順で加水分解を実施した。得られた糖濃度および回収できた各酵素活性を測定した。各種水溶性無機塩の添加量と糖生成量との関係を表28、表29に示す。水溶性無機塩添加35g/Lまでは、比較例4(表21)と同じであるが、50g/L以上になるとグルコースおよびキシロースの生成量が減少することが判明した。これは、水溶性無機塩濃度が高すぎるため、酵素反応が阻害されたためと考えられる。一方、5〜35g/Lの範囲では、大きな生成糖の減少は確認されなかった。
【0131】
【表27】
【0132】
【表28】
【0133】
次に、水溶性無機塩を添加し加水分解を行い、得られた溶液成分より酵素を回収した結果を表29〜31に示す。セロビオース分解活性およびキシラン分解活性は、水溶性無機塩添加量50g/L以上では回収酵素活性が低下することが判明した。その一方で、水溶性無機塩5〜35g/Lの範囲で、セロビオース分解活性で、2倍以上、キシラン分解活性で1.2倍以上、結晶セルロース分解活性で2倍以上、高まることが判明した。但し、水溶性無機塩添加量が50g/L以上になると活性は低下することが判明した。
【0134】
【表29】
【0135】
【表30】
【0136】
【表31】
【0137】
(実施例11)糖液を発酵原料とするエタノール発酵
実施例6のナノ濾過膜濃縮液2を発酵原料として使用して、酵母(Saccharomycecs cerevisiae OC−2:ワイン酵母)によるエタノール発酵試験を行った。前述酵母をYPD培地(2%グルコース、1%酵母エキス(Bacto Yeast Extract BD社製)、2%ポリペプトン(日本製薬株式会社製)にて、1日間25℃で前培養を行った。次に、得られた培養液を、pH6に水酸化ナトリウムにて調整したナノ濾過膜濃縮液糖液(グルコース濃度74g/L)に対し、1%(20mL)となるように添加した。微生物を添加後、25℃で2日間インキュベートした。この操作で得られた培養液に含まれるエタノール蓄積濃度は、ガスクロマトグラフ法(Shimadzu GC−2010キャピラリーGC TC−1(GL science) 15 meter L.*0.53mm I.D.,df1.5μmを用いて、水素塩イオン化検出器により検出・算出。)により定量した。その結果、培養液中には24g/Lのエタノールが含まれることが確認できた。すなわち、本発明により得られる糖液を発酵原料とすることによりエタノールが製造できることが確認できた。
【0138】
(実施例12)糖液を発酵原料とする乳酸発酵
実施例6のナノ濾過膜濃縮液2を発酵原料として使用して、ラクトコッカス・ラクティスJCM7638株(乳酸菌)による乳酸発酵試験をおこなった。前述乳酸菌をYPD培地(2%グルコース、1%酵母エキス(Bacto Yeast Extract/BD社)、2%ポリペプトン(日本製薬株式会社製)にて、1日間37℃で前培養を行った。次に、得られた培養液を、pH7に水酸化ナトリウムにて調整したナノ濾過膜濃縮液糖液(グルコース濃度74g/L)に対し、1%(20mL)となるように添加し、ラクトコッカス・ラクティスJCM7638株を24時間、37℃の温度で静置培養した。培養液に含まれるL−乳酸濃度を以下条件で分析した。
カラム:Shim−Pack SPR−H(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0139】
分析の結果、L−乳酸が65g/L蓄積していることが確認され、本発明により得られる糖液を発酵原料とすることにより乳酸を製造できることが確認できた。