(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136285
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
A63B 53/02 20150101AFI20170522BHJP
【FI】
A63B53/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-6408(P2013-6408)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-136063(P2014-136063A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101188
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 義雄
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼田 幸介
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−081250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、当該シャフトの先端側を受容するシャフト挿入部を備えたヘッドと、前記シャフトとシャフト挿入部との間に設けられたロフト角調整機構とを含むゴルフクラブであって、
前記ロフト角調整機構は、前記シャフトの先端側に取り付けられて前記シャフト挿入部内に挿入されるスリーブと、前記シャフト挿入部の底部側とスリーブとを連結する連結手段とを含み、
前記スリーブの連結位置を、前記ヘッドのフェース面を通過する前後方向に沿って変位可能に設けることでロフト角を調整可能に設けてなり、
前記連結手段は、前記シャフト挿入部の底部前後方向に延びるスロット孔を通って前記スリーブの先端にねじ込み可能なボルトを含み、前記ボルトとシャフト挿入部底部との間に介装されて前後方向に向けられたフェース角維持部材を更に含み、当該フェース角維持部材は、前記ヘッドのソール面から突出して接地するように設けられるとともに、接地面がシャフトの中心線に対して前後方向に直交するように設けられていることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
前記スロット孔内のボルト位置を前後方向にずらすことによってロフト角が調整可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブに係り、更に詳しくは、ゴルフクラブヘッドのロフト角を調整することができるゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドのロフト角は、シャフトの中心線を含む垂直平面とフェース面のなす角度とされ、当該ロフト角はボールの打ち出し角や、バックスピン量を変化させる要素となる。具体的には、ロフト角が大きくなると打ち出し角が大きくなってボールが高く上がるとともにバックスピン量も大きくなる。この一方、ロフト角が小さくなれば、打ち出し角が小さくなって低い弾道となり、ボールのバックスピン量も少なくなる。従って、ロフト角は飛距離に影響を与える要素となる。
ゴルフクラブヘッドのロフト角調整に関しては、例えば、特許文献1、2に記載された構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−291602号公報
【特許文献2】特許第4554532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたゴルフクラブは、ロフト角を変更すると、アドレス時にフェース角が変わってしまうという不都合がある。具体的には、ロフト角を小さくするとフェース角が開き、ロフト角を大きくするとフェース角が閉じてしまうものとなっている。従って、フェース角が開いたときにスライスボールが出やすくなる一方で、フェース角が閉じたときはフックボールが出やすくなり、真っ直ぐにボールを打ち出そうとした場合の安定性を妨げることになる。
また、特許文献2に記載されたものは、パターに限定されたものであり、パター以外のゴルフクラブに適用した場合の打撃時の強度を維持することができず、衝撃に耐えられない他、特許文献1と同様にフェース角も変わってしまう、という不都合がある。
【0005】
本発明の目的は、ロフト角を調整の対象とし、当該ロフト角を変化させた場合であってもフェース向きに影響を与えることがなく、また、強度的にも信頼性を付与することのできるゴルフクラブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、特許請求の範囲記載の構成を採用したものであり、具体的には、シャフトと、当該シャフトの先端側を受容するシャフト挿入部を備えたヘッドと、前記シャフトとシャフト挿入部との間に設けられたロフト角調整機構とを含むゴルフクラブであって、
前記ロフト角調整機構は、前記シャフトの先端側に取り付けられて前記シャフト挿入部内に挿入されるスリーブと、前記シャフト挿入部の底部側とスリーブとを連結する連結手段とを含み、
前記スリーブの連結位置を、前記ヘッドのフェース面を通過する前後方向に沿って変位可能に設けることでロフト角を調整可能に設けられてなり、
前記連結手段は、前記シャフト挿入部の底部前後方向に延びるスロット孔を通って前記スリーブの先端にねじ込み可能なボルトを含み、前記ボルトとシャフト挿入部底部との間に介装されて前後方向に向けられたフェース角維持部材を更に含み、当該フェース角維持部材は、
前記ヘッドのソール面内に設けられた凹部内に収まる前後長さと幅を備えて前記ヘッドのソール面から突出して接地するように設けられるとともに、フェース角維持部材の接地面がシャフトの中心線に対して前後方向に直交するように設けられる、という構成を採っている。
【0007】
本発明において、前記連結手段は、前記シャフト挿入部の底部前後方向に延びるスロット孔を通って前記スリーブの先端にねじ込み可能なボルトを含み、
前記スロット孔内のボルト位置を前後方向にずらすことによってロフト角が調整可能に設けられる、という構成を採ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シャフトの先端側に取り付けられるスリーブをシャフト挿入部の底部に対して前後方向に変位させるだけでスリーブがシャフト挿入部内で傾斜することとなる。従って、スリーブに先端が固定されたシャフトの中心線が前後方向に傾いて初期のロフト角が変更されることとなる。
また、ボルトがスロット孔を通ってスリーブの先端にねじ込む構成では、スロット孔内におけるボルト位置を変更するだけでロフト角の調整ができるとともに、利用者のニーズに応じて微細なロフト角の調整を実現することができる。
また、本発明は、シャフトに一体化されるスリーブをシャフト挿入部内で固定する構成であるため、強度も十分に確保でき、打撃した際の衝撃に十分に耐え得る耐久性を付与することができる。
更に、ロフト角の調整でソール面の後部側が浮き上がっても、フェース角維持部材が接地するように構成されているので、アドレス時にヘッドが平面内で回転してしまうような不都合はなく、設計されたフェース角を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るゴルフクラブをフェース面側から見た概略正面図。
【
図3】ゴルフクラブヘッドをソール面側から見た底面図。
【
図7】他のフェース角維持部材を用いた変形例を示す断面図。
【
図8】更に他のフェース角維持部材を用いた変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明が、ドライバーと称されるゴルフクラブヘッドに適用された実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書において、特に明示しない限り、「先端」、「下」は、シャフトを基準として見たときに、ヘッド側について用いられ、「上」は、その反対側、すなわちグリップが取り付けられる側について用いられる。また、「前」はヘッドのフェース面側、「後」はその反対側に位置するサイド面側について用いられ、「前後方向」というときは、フェース面を通ってフェース面及びサイド面を結ぶ方向となる。
【0013】
本実施形態におけるゴルフクラブ10は、
図1及び
図2に示されるように、シャフトSと、当該シャフトSの先端側を受容するとともにソール面13側に連通するシャフト挿入部16を備えたヘッドHと、前記シャフトSとシャフト挿入部16との間に設けられたロフト角調整機構20と、ロフト角θを調整してもフェース角を一定に維持するためのフェース角維持部材50とを備えて構成されている。
【0014】
前記ヘッドHは、クラウン面11、サイド面12、ソール面13及びフェース面14を備えた中空に形成されている。シャフト挿入部16は、クラウン面11のヒール側からソール面13に向かって形成されており、その上端部には、
図2及び
図5(A)に示されるように、略V字状をなす一対の切欠部17が、ヘッドHのトウ側とヒール側を結ぶ仮想線上であって、周方向略180度間隔を隔てた位置に形成されている。このシャフト挿入部16は、上端の内周形状が円形とされる一方、下方(ソール側)に向かうに従って、前後方向の長さが
図2中紙面直交方向の長さよりも相対的に長くなる末広がりの内側形状となるように形成されている。シャフト挿入部16は、ソール面13の一部を陥没させた凹部13Aのフェース面寄り部分を底部19とし、当該底部19には、前後方向に向けられたスロット孔19Aが形成されている。
【0015】
前記ロフト角調整機構20は、シャフトSの先端側に取り付けられてシャフト挿入部16内に挿入されるスリーブ21と、ソール面13側からシャフト挿入部16側に挿入されて当該シャフト挿入部16の底部19にスリーブ21の先端側(
図2中下端側)を連結する連結手段23とにより構成され、この連結手段23によるスリーブ連結位置を、前後方向にずらすことでロフト角θが調整可能となっている。
【0016】
前記スリーブ21は、
図5(A)、(B)に示されるように、上端が開口した有底円筒状をなし、その先端(底部)中央に位置する縮径部25に雌ねじ25Aが形成されている。スリーブ21の基部(上部)には、下方に向かって大径化するテーパ部26が形成され、当該テーパ部26の下端には、略半円弧状の軌跡に沿う外周縁28Aを備えた一対の隆起面部28がスリーブ21の周方向180度間隔を隔てた位置に連設されている。この隆起面部28は、シャフト挿入部16の切欠部17内に位置し、その外周縁が切欠部17の形成縁に前後2個所で点接触し、これにより、スリーブ21がフェース面14に略直交する面内で回転可能に設けられ、シャフトSが
図2中紙面と平行な面内で回転可能となっている。
【0017】
前記連結手段23は、スリーブ21の先端に形成された雌ねじ25Aと、これにねじ込み可能なボルト33とにより構成されている。ホルト33は、その軸部分がスロット孔19Aを貫通し、ヘッド部分がスロット孔19Aの形成縁に下方から係合することでスリーブ21の連結位置が固定可能となっている。
【0018】
前記フェース角維持部材50は、ソール面13の凹部13A内に位置し、ボルト33とシャフト挿入部16の底部19との間に挟持される片状部材により構成されている。このフェース角維持部材50は、凹部13A内に収まる前後長さと幅を備え、その一端側にボルト33の挿入孔51が形成されている。フェース角維持部材50は、本実施形態では、前後方向の全長において略同一の板厚を有し、地面Gに対する接地面50AはシャフトSの中心線に対して直交するようになっている。
【0019】
以上の構成において、本実施形態では、
図2に示されるように、例えば、ソール面13、フェース角維持部材50の設置面50Aが略平行となる状態において、ボルト33を雌ねじ25Aに締め付けることで、ロフト角θが一定角度に設定される。
ここで、ロフト角θを小さくしたい場合には、ボルト33の締め付けを解除した状態で、当該ボルト33をスロット孔19Aに沿って前方に移動させればよい。このとき、スリーブ21は、一対の隆起面部28が切欠部17内で回転し、シャフト挿入部16内で角度変位することとなる。同時に、フェース角維持部材50は、上面側が凹部13Aに対して相対的に角度変位する(
図4参照)。これは、ボルト33を雌ねじ25Aに締め付けた状態で、接地面50AがシャフトSの中心線に対して直角となるように設定されているためである。これにより、接地面50Aが地面Gに平行に接する状態がヘッドHのアドレス時姿勢となり、このとき、ロフト角θが小さく設定されたことになる。従って、相対的にバックスピン量が少ない低弾道でボールを打ち出すことができる。
【0020】
従って、本実施形態によれば、ユーザーにおいて、スロット孔19Aにおけるボルト挿入位置を前後にずらし、ボルト33をスリーブ21側に締め付けておくことでロフト角θを変化若しくは調整することができ、利用者のニーズに応じた種々の設定を行うことが可能となる。しかも、ロフト角θを変化させることでヘッドHのソール面13後部が浮き上がっても、フェース角維持部材50の接地面Aが常に地面Gに接地するように設けられているので、フェース角を変わってしまうといった不都合も生じない。更に、ボルト33はスロット孔19Aの任意の位置を通過し得るので、当該スロット孔19Aの範囲内で無段階にロフト角調整を行うことができる。
【0021】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施例に対し、当業者が様々な変更を加えることができるものである。
【0022】
例えば、前記実施形態では、フェース角維持部材50が長さ方向において一定の板厚に設けられた場合を図示、説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、
図6に示されるフェース角維持部材50を採用してもよい。このフェース角維持部材50は、接地面50AがシャフトSの中心線に直交する状態において、反対側の上面50Bが接地面50Aに対して傾斜し、断面形状が三角形に類似した形状に設けられたものである。このようなフェース角維持部材50を、その傾斜角度が1度ずつ変化したものを複数用意しておき、上面50Bが凹部13の底部及びシャフト挿入部16の底部19に密着する姿勢でボルト33をスリーブ21側にねじ込めば、接地面50BがシャフトSの中心線に直交する設計となっていることから、ロフト角を1度ずつ調整することが可能となる。このような変形例によれば、フェース角維持部材50が凹部13内にぴったり密着する状態を担保し得るため、ロフト角θを一層強固に固定することができるという効果を得る他、フェース角維持部材50にロフト角に関する数値等を刻印、印刷することで、利用者が何度のロフト角に設定したかを視覚的に把握することが可能となる。
【0023】
また、フェース角維持部材50は、
図7に示されるように、ソール面13の凹部13Aを段階的に深く陥没させておき、底部19の位置を前記実施形態よりも上位に設定し、フェース角維持部材50を肉厚に形成するとともに、スリーブ21を短く設定する構成、或いは、
図8に示されるように、段部を無くして台形類似のフェース角維持部材50とする構成を採用し、その他の構成を、前記実施形態と略同様とするものでもよい。
これらのフェース角維持部材50は、図示の位置が最もロフト角θが大きい初期ロフト角を設定するものであり、ボルト33を緩めて図中右側に移動させて再び締め付け固定することで、小さいロフト角に設定できるものである。
このような変形例によれば、スリーブ21の長さを短くすることができ、シャフトSとの接着長さを短くして必要以上の接着を回避することができる。しかも、底部19の位置が上位となるので、スリーブ21を短くしても、短い長さのボルト33で連結することができ、ねじ軸を長くしなければならない場合の折れ易さというリスクを避けることもできる。加えて、フェース角維持部材50を厚く形成する構成としたことで、当該部材に用いる材料によって低重心設計も取りやすくなる、という効果を付加することができる。
【0024】
また、本発明の対象クラブは、ドライバーに限定されるものではなく、フェアウェイウッドやユーティリティにも適用できる他、アイアンゴルフクラブにも適用することを妨げない。
要するに、本発明は、ゴルフクラブのロフト角が調整できる構成であれば足りる。
【符号の説明】
【0025】
10…ゴルフクラブ、13…ソール面、14…フェース面、16…シャフト挿入部、19…底部、19A…スロット孔、20…ロフト角調整機構、21…スリーブ、23…連結手段、25A…雌ねじ(連結手段)、33…ボルト(連結手段)、50…フェース角維持部材、50A…接地面、S…シャフト、H…ヘッド、