特許第6136419号(P6136419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136419
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】膜電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20170522BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20170522BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170522BHJP
【FI】
   H01M8/02 S
   H01M8/02 E
   !H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-58628(P2013-58628)
(22)【出願日】2013年3月21日
(65)【公開番号】特開2014-183022(P2014-183022A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】東 希実子
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−280012(JP,A)
【文献】 特開2008−108468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、上記電解質膜の一方の面に対向配置された燃料極触媒層と、上記電解質膜の他方の面に対向配置された空気極触媒層と、上記各触媒の周囲に配置される第1及び第2のガスケット部材と、を備えた膜電極接合体であって、
上記第1及び第2のガスケット部材の少なくとも一方のガスケット部材の表面に対し、凹状及び凸状の少なくとも一方からなる識別要素を設け
上記識別要素を設けたガスケット部材は、形状の異なる二層のフイルムを備え、その二層のフイルムの形状の差異によって上記識別要素の凹凸が形成されることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
上記第1及び第2のガスケット部材の両方に上記識別要素を個別に設け、
上記第1及び第2のガスケット部材に設ける各識別要素は、互いに、形状、及びガスケット表面に対する識別要素の配置位置の少なくとも一方が異なることを特徴とする請求項1に記載した膜電極接合体。
【請求項3】
上記識別要素を形成する上記凹状や凸状の深さ及び高さは、1μm以上であり、かつ上記ガスケット部材の肉厚から5μm差し引いた値よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した膜電極接合体。
【請求項4】
上記第1及び第2のガスケット部材はフイルムから成ることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載した膜電極接合体。
【請求項5】
各触媒層の上に拡散層を備えることを特徴とする請求項1〜請求項の何れか1項に記載した膜電極接合体。
【請求項6】
上記ガスケット部材は、触媒層の枠型をなし、
上記識別要素は、ガスケット部材の内側の縁を含む領域に凹状で形成され、かつ、その凹状の深さが上記拡散層の肉厚より小さいことを特徴とする請求項に記載した膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1〜の何れか1項に記載の膜電極接合体を用いたことを特徴とする燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子形燃料電池に使用される膜電極接合体及びそれ用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の一対策として、燃料電池が注目されている。燃料電池とは、水素やメタンなどの還元性ガスを、酸素や空気等の酸化性ガスにより酸化する反応において、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換し、電気を得るものである。原料となりうる物質が豊富に存在することや、発電による排出物が水のみであることから、クリーンなエネルギーとされる。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。このうち、高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての利用が期待されている。
高分子形燃料電池は、電解質膜の一方の面に燃料極(アノード)触媒層が設けられると共に、他方の面に空気極(カソード)触媒層が設けられ、その燃料極(アノード)触媒層と空気極(カソード)触媒層とが対向するように設けた構造を有する。この構造体、またはこれにガス拡散性かつ導電性の拡散層を両面につけたものが、膜電極接合体と呼ばれる。
【0004】
この膜電極接合体では、電解質膜における触媒層が形成された領域と、触媒層が形成されない領域との肉厚の差によるガスの漏洩、および電解質における触媒層が形成されない領域の集中的な劣化を防ぐため、電解質膜上、触媒層の外側にガスケット部材を設けた構成が一般的である。
更に、上記膜電極接合体は、板状部材からなる一対のセパレータで挟持され、これを積層して燃料電池スタックが構成される。
【0005】
そして、発電の際には、セパレータに設けられた流路を用いて、燃料極側に対し水素を含む燃料ガスを、空気極側に対し酸素を含む酸化剤ガスをそれぞれ供給する。そのため、膜電極接合体および燃料電池の製造において、膜電極接合体の向きを正しく配置する必要がある。
しかし、燃料極および空気極の両触媒層は、色や形といった外観が非常に似通っていることが多く、膜電極接合体および燃料電池スタック製造の際に、燃料極側と空気極側とを逆に組み立てる誤りが生じうる。燃料極側と空気極側とを誤って組み立てられた膜電極接合体および燃料電池スタックは、著しくその発電性能が損なわれてしまう。
【0006】
従来、膜電極接合体の燃料極側と空気極側とを判別するために、両触媒層の肉厚や光沢度を測定する方法が知られるが、これは両電極触媒層の間に検知可能な差異を設けなければ実施できず、さらに測定設備と測定のための手間を要すという問題がある。
より判別を容易にし、組立て誤りを防止する方法として、電解質膜、触媒層や拡散層にマーキングを施すものもある。例えば特許文献1には、電解質膜のそれぞれの面に、その膜面よりも小さい領域に各触媒層を有する膜電極接合体において、電解質膜上の触媒層の形成されていない縁領域に、触媒層と組成を同じくする材料を用いて識別マークを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4986450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、膜電極接合体の燃料極側と空気極側とを逆に組み立てる恐れがあり、これは燃料電池の発電性能低下や歩留まり低下を起こす。
従来、両電極を識別する方法に、両電極に検知可能な差異を付与するものや、部材にマーキングするものがあるが、これらは特別な設備を要するか、またはコスト負荷が大きいという問題がある。
本発明は、上記の点に着目したもので、より低コストかつ簡便に、燃料極と空気極とを識別できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する為に、本発明の一態様は、電解質膜と、上記電解質膜の一方の面に対向配置された燃料極触媒層と、上記電解質膜の他方の面に対向配置された空気極触媒層と、上記各触媒の周囲に配置される第1及び第2のガスケット部材と、を備えた膜電極接合体であって、上記第1及び第2のガスケット部材の少なくとも一方のガスケット部材の表面に対し、凹状及び凸状の少なくとも一方からなる識別要素を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、触媒層の外周に位置するガスケット部材に識別要素を設けることで、燃料極と空気極との識別が可能となる。本発明の一態様によれば、触媒層や拡散層など、電池性能に大きく関わる部分に検知可能な差異を付与する必要がないため、電池としての性能に悪影響を与えず、電極の設計の自由度を損ねることが無い。さらに、差異付与や検知のための特別な設備を要さない。例えば、高価な触媒層材に対するマーク形成のためだけの使用を回避でき、コストが低減される。
このように本発明の一態様によれば、容易かつ効率的に両電極の識別が可能な膜電極接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による燃料電池セルの分解斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による膜電極接合体の平面図および側面図である。
図3】開口部を有するガスケット部材の上面模式図である。
図4】開口部に加えて円形窪みを有するガスケット部材の上面模式図である。
図5】実施例1におけるガスケット部材付き膜電極接合体の断面模式図である。
図6】実施例2におけるガスケット部材付き膜電極接合体の断面模式図である。
図7】比較例1におけるガスケット部材付き膜電極接合体の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体を用いた高分子形燃料電池の構成例を示す分解斜視図である。
この高分子形燃料電池では、膜電極接合体1を挟んで、セパレータ4a、4cや拡散層3a、3cが対を成して設けられている。
【0013】
セパレータ4a、4cは、導電性を有し、かつガスを透過しない材料から成る。たとえば、耐食処理が施された金属板または焼成カーボン等のカーボン系材料等である。上記セパレータ4a、4cは、空気極および燃料極の各拡散層3a、3cと面して配置され、各セパレータ4a、4cには、それぞれの反応ガス流通用の流路41a、41cとなる櫛型構造を有する。この面に対向する反対側の面に、冷却水流路を有することも多い。
酸化剤ガスおよび燃料ガスは、まずセパレータ4a、4cの反応ガス流路41a、41cを通る。その流路41a、41cを通るうちに、反応ガスは拡散層3a、3cを介して、膜電極接合体1に供給される。
【0014】
拡散層3a、3cは、導電性が高く、原料ガスの拡散性が高い材料から成る。たとえば、金属フイルム、導電性高分子、カーボン材料等が挙げられるが、なかでもカーボンペーパ等の多孔質導電体材料が好ましい。拡散層3a、3cの肉厚は、50um〜1000um程度が好ましい。
その拡散層3a、3cに挟持されて、膜電極接合体1がある。膜電極接合体1は、電解質膜10の各面にそれぞれ、燃料極および空気極の両触媒層11a、11cが形成されると共に、その触媒層11a、11cの外側を囲むように両触媒層11a、11cと隙間を空けずにガスケット部材2a、2cが配される。
【0015】
電解質膜10は、イオン伝導性の高い材料であれば特に限定されないが、多くはパーフルオロスルホン酸系や炭化水素系の固体電解質膜が用いられる。具体的には、デュポン社(Du Pont社)のナフィオン(Nafion、登録商標)、ジャパンゴアテックス(株)のゴアセレクト(Goreselect、登録商標)、旭硝子(株)のフレミオン(Flemion、登録商標)等が挙げられる。電解質膜10の肉厚は、特に限定されないが、10um〜200umが好ましく、これより薄いと破損しやすく、また扱いにくくなり、厚いと膜抵抗が大きくなり性能に問題を生じる。
燃料極触媒層11aおよび空気極触媒層11cは、それぞれ触媒粒子と電解質とを含む。
【0016】
上記触媒粒子には、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属またはこれらの合金、酸化物や複酸化物等が使用できる。触媒粒子は単体で用いてもよく、導電性担体に担持させて用いるとなおよい。導電性担体には、一般的にカーボン粒子が用いられる。導電性担体は、微粒子状で、導電性および化学的耐性を有するものであれば特に問われず、たとえばカーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。カーボン粒子の粒径は10〜1000nm程度が好ましく、これより小さいと電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きいと電極触媒層11a、11cの肉厚が増して抵抗が増加してしまう。
【0017】
触媒層11a、11cに用いる電解質は、イオン伝導性を有するものであればよい。電解質膜10と同質の材料を用いると、触媒層11a、11cと電解質膜10との密着性が高められ、より好ましい。
触媒層11a、11cの形成手段は特に問わず、たとえば上述の触媒粒子、導電性担体および電解質の混合物を分散させたスラリーを電解質膜10に直接湿式塗布して形成しても、転写基材または拡散層3a、3cに塗工し転写により形成してもよい。なお、触媒層形成には、必要に応じて乾燥工程を設ける。その乾燥方法はとくに限定されず、たとえば温風乾燥、赤外乾燥、減圧乾燥が挙げられる。
【0018】
上記ガスケット部材2a、2cは、主として次に挙げる役割を担う。すなわち、電解質膜は原料や生成ガスに曝されると劣化が促進されることが知られている。これに対し、電解質膜の触媒層の形成されていない部分をガスケット部材2a、2cで覆うことにより、電解質膜をガスから保護する役割を有する。またガスケット部材2a、2cは、触媒層および拡散層3a、3cによる膜電極接合体の凹凸を解消して、燃料電池セルの組み立てをより容易に、より精度よくする役割を有する。本発明に係るガスケット部材はさらに、燃料極と空気極とを識別しうる特徴を有することになる。
【0019】
上記ガスケット部材2a、2cには、温度変化や圧力負荷に耐えうる強度と、燃料ガスおよび酸化剤ガスを漏洩させないガスバリア性が求められ、ガスケット部材2a、2cをフイルムから構成するのが好適である。フイルムから成るガスケット部材とは、フイルムの少なくとも一方面に粘着層または接着層を備えるものであり、他方面に離型層を備えていてもよい。粘着層または接着層は、フイルムと電解質膜10の間に具備され、界面のガスシール性を向上させる。
ガスケット部材の肉厚は、触媒層11a、11cと拡散層3a、3cとを合わせた肉厚に等しい方が、段差解消の面から好ましい。
【0020】
燃料極側ガスケット部材2aおよび空気極側ガスケット部材2cの、どちらか一方には、その外側の表面に凹状及び凸状の少なくとも一方からなる識別要素が設けられる。燃料極側ガスケット部材2aおよび空気極側ガスケット部材2cの両方に、該識別要素を設ける場合には、その形状または識別要素の設置位置を、燃料極側ガスケット部材2aと空気極側ガスケット部材2cで互いに異なるように設定する。
上記識別要素の膜面における形状は、特に限定されず、たとえば半円形や星形でもよい。
【0021】
上記識別要素の膜厚方向における深さ(高さ)は、1um以上であり、かつガスケット部材2a、2c全体の肉厚未満として、貫通しないようにする。10um以上あると、人間の五感による確認が可能であり、また、測定機器による判断においても凹凸のノイズとの区別が容易にできるため、なおよい。さらに、ガスケット部材2a、2c全体の肉厚より浅く、その差が5um以上あることが好ましい。これより薄いと、その部分のガスバリア性が局所的に弱くなりうるためである。
また、上記識別要素を、ガスケット部材2a、2c内側の縁すぐに形成する場合は、拡散層3a、3cの肉厚より小さいとより好ましい。これは、触媒層11a、11cの側面が露出することで、触媒層11a、11cの側面が局所的にガス浸食されることを防ぐためである。
【0022】
上記識別要素の設置位置は、特に限定されないが、枠型のガスケット部材2a、2cの内側縁で、拡散層3a、3cと接する位置に、凹状に設けられるものがとくによい。これは、拡散層3a、3cとガスとが接する面積が増大し、より効率的に拡散層3a、3cにガスを供給することができるためである。このとき、触媒層11a、11cに流路ガスが直接当たることのないよう、該凹状識別要素の深さは、拡散層3a、3cの肉厚を超えないことが望ましい。これにより、触媒層11a、11cは電解質膜10と接する面の対面を拡散層3a、3c、側面をガスケット部材2a、2cと密着することになり、ガスによる劣化が妨げられる。
【0023】
上記ガスケット部材2a、2cの材料としては、圧力を加えられても変形しにくいものがよく、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド等の高分子材料が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、また組み合わせて用いてもよい。
上記ガスケット部材2a、2cは、一体の部材から構成されてもよく、また複数の部材の積層体から構成されてもよい。例えば二枚のフイルムから構成して、第一のフイルムは電解質膜10に接するフイルムとして、電解質膜10における触媒層11a、11cが形成されない部分すべてを覆い、第二のフイルムは第一のフイルムの外側(上側)に貼られ、第一のフイルムよりも面積が小さいように設定すると、二枚のフイルムを順に貼り合せるだけで、本発明に係る、識別要素を設けたガスケット部材2a、2cを作製でき、簡便である。
【0024】
膜電極接合体1は、たとえば電解質膜10に、触媒層11a、11cを形成後、ガスケット部材2a、2cを貼り合わせ、さらに触媒層を覆うように拡散層3a、3cを配して製造される。ここで、拡散層3a、3cとガスケット部材の形成順序は前後してもよい。また、電解質膜10にガスケット部材2a、2cを貼り合せた後に、触媒層11a、11cを、つぎに拡散層3a、3cを形成して製造されてもよい。
【0025】
さらに、ガスケット部材2a,2cを二枚のフイルムから構成する場合において、電解質膜10に第一のフイルムを配した後であって、第二のフイルムを配する前に、触媒層11a、11cや拡散層3a、3cを形成して製造してもよい。
以上、本発明の実施形態による膜電極接合体1及びこれを備えた燃料電池セルについて説明したが、膜電極接合体1は燃料電池セルのみに適用されるものではない。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
(ガスケット部材A)
ガスケット部材として、50mm平方の開口部を有し且つ150mm平方の粘着層付きPETフイルム1(図3、x=50mm、y=150mm、肉厚0.2mm)を用意し、そのPETフイルム1の粘着層と対向する面に、50mm平方より大きい開口部を有する粘着層付きPETフイルム2(図3、x=60mm、y=150mm、肉厚0.2mm)を貼りつけ、凹凸を有するガスケット部材Aを得た。
【0027】
(ガスケット部材B)
また50mm平方の開口部に加え、直径1mm円形、深さ0.1mmの窪みを波長9.2umのレーザにより形成した粘着層付きPETフイルム3(図4、x=50mm、y=150mm、z=1mm、肉厚0.2mm)を、同様に上記構成のPETフイルム1に貼りつけて、凹凸を有するガスケット部材Bを得た。
【0028】
(ガスケット部材C)
また、ガスケット部材Cとして、50mm平方の開口部を有し且つ150mm平方の粘着層付きPETフイルム(図3、x=50mm、y=150mm、肉厚0.4mm)を用意した。これをガスケット部材Cとする。
そして、電解質膜(Nafion211CS、デュポン製)の片面(α面)にガスケット部材Cを貼り付けると共に、もう一方の面(β面)にガスケット部材A〜Cそれぞれを貼り付けた、3種類のガスケット部材付き電解質膜を得た。
【0029】
触媒層用スラリーとして、白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属製)と水とを混合した後、これに2-プロパノールと電解質(Nafion分散液、和光純薬工業製)を加えて撹拌して得たものを用いた。
その触媒層用スラリーを、上述の各ガスケット部材付き電解質膜に対し、ドクターブレードで塗工し、摂氏80度の炉内で乾燥することで、α面に燃料極触媒層を、β面に空気極触媒層を形成した。さらにα、β両面に拡散層(SIGRACET 35BC、SGL)を配し、膜電極接合体を得た。
【0030】
これらの3種類の膜電極接合体のうち、α面にガスケット部材Cを、β面にガスケット部材AおよびBを有するものをそれぞれ実施例1および2とし、両面にガスケット部材Cを有するものを比較例とする。実施例1、2および比較例1それぞれの断面図を、図5〜7に示す。
実施例1、2および比較例1の膜電極接合体について、α面すなわち燃料極側およびβ面すなわち空気極側を、判別可能かどうかを、目視により確認した。さらに表面の凹凸を測定し、これによる判別が可能かを評価した。
その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、表面の凹凸は、株式会社アルバック製針触式表面形状測定装置Dektak150により測定した。
実施例1、2および比較例1の膜電極接合体を観察すると、実施例1では、α面すなわち燃料極側およびβ面すなわち空気極側を容易に判別できた。実施例2および比較例1では、α面およびβ面の見分けがつかなかった。
これらの膜電極接合体の表面粗さを測定したところ、実施例1および2では、α面における凹凸が観察され、α面およびβ面の判別が可能であったが、比較例1では有意な差が見られず判別できなかった。
【0033】
これらのことから、本発明による膜電極接合体は、燃料極および空気極の判別が可能であること、このガスケット部材が複数のフイルムから構成されてもよいこと、凹凸を有するガスケット部材は片面のみに用いられてもよく、また両面に用いられてもよいことが確認された。
以上より、本発明による膜電極接合体は、燃料極および空気極の判別が可能であることが示された。
【符号の説明】
【0034】
1 膜電極接合体
10 電解質膜
11a 燃料極触媒層
11b 空気極触媒層
2a 第1のガスケット部材
2c 第2のガスケット部材
3a、3c 拡散層
4a、4c セパレータ
41a、41c ガス流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7