【実施例1】
【0013】
この発明の実施例1を図面にしたがって説明する。
図1に示すように、転がり軸受装置は、転がり軸受11(この実施例1ではアンギュラ玉軸受)と、この転がり軸受11に潤滑剤(グリース、潤滑油等)を供給する潤滑剤供給部49とを備える。
図1と
図2に示すように、転がり軸受11は、回転軸1(例えば、工作機のスピンドル)の外周面に嵌込まれて配設される回転輪としての内輪20と、この内輪20の外周に環状空間を隔て、かつハウジング2に嵌込まれて配設される固定輪としての外輪30と、内輪20の外周面の内輪軌道面22と、外輪30の内周面の外輪軌道面32との間の環状空間に保持器45によって保持された状態で転動可能に配設された複数の転動体41(この実施例1では玉)とを備える。
【0014】
また、この実施例1において、外輪30の内周面のうち、外輪軌道面32の片側に形成された軌道肩部33の内周面は、保持器45の外周面に僅かな隙間をもって対向することで保持器45を回転案内する保持器案内面34が形成されている。
また、この実施例1において、外輪30の一端面(保持器案内面34が形成される側の端面)には環状凹部35が形成され、この環状凹部35の底面に対し後述する経路部材70の高密度先端部分72の先端接触部73が押し当てられる。
【0015】
転がり軸受11の外輪30の少なくとも一端側には、潤滑剤供給部49を構成する貯留部構成部材50と経路部材70とが配設されている。
この実施例1において、貯留部構成部材50は、外輪間座51と、貯留部構成体55との二部品で構成されている。
図2に示すように、外輪間座51は、外輪30の一端面に隣接してハウジング2内に圧入固定される筒状部52と、この筒状部52の外側端部から径方向内方に環状に突出された向けて環状外壁部53とを有して縦断面L字状に形成されている。また、環状外壁部53の内径寸法は、内輪20の端部に隣接して配設された内輪間座25の外径寸法よりも適宜に大きく設定されている。
【0016】
図2に示すように、貯留部構成体55は、外輪間座51と協働して潤滑剤貯留部60を構成するものであり、外輪間座51の筒状部
52の内周面に圧入固定されて外輪間座51の環状外壁部53の内側面に接して配置される固定用環状壁部57と、この固定用環状壁部57の内径端から外輪間座51の筒状部52と平行状に延出された筒状部56と、この筒状部56の延出端部から径方向外方へ突出された開口用環状壁部58とを有して縦断面U字状をなしている。
また、貯留部構成体55の筒状部56の内径寸法は、外輪間座51の環状外壁部53の内径寸法とほぼ同じで、内輪間座25の外径寸法よりも適宜に大きく設定されている。
また、開口用環状壁部58の外径寸法は、外輪間座51の筒状部52の内径寸法よりも適宜に小さく設定され、開口用環状壁部58の外周面と、外輪間座51の筒状部52の内周面との間には、潤滑剤貯留部60を外輪30の環状凹部35の底面に向けて環状に開口させる開口部61が形成されている。
【0017】
外輪間座51と貯留部構成体55との二部品で構成される貯留部構成部材50には、潤滑剤貯留部60から外輪30端面の環状凹部35の底面までの間の潤滑剤の供給経路をなす経路部材70が配設されている。
経路部材70は、潤滑剤が浸透可能な部材(例えば、フェルト等の繊維、連続気泡を有する多孔質樹脂(連続気泡の発泡体)、繊維を樹脂でバインド成形した繊維材料等)によって形成されている。
この経路部材70は、潤滑剤貯留部60内に配設され、かつ周方向に連続して筒状をなす主体部分71と、この主体部分71の先端側に一体連続状をなして筒状に形成されると共に、主体部分71よりも高密度をなして潤滑剤の浸透性が高められた高密度先端部分72とを有している。そして、高密度先端部分72は、潤滑剤貯留部60の開口部61を通して外輪30端面の環状凹部35の底面に押し当てられる。
【0018】
この実施例1において、
図3に示すように、経路部材70の高密度先端部分72は、その先端接触部73が、外輪30端面の環状凹部35のに押し当てられて軸方向へ圧縮されることで、その圧縮量に相当する分だけ主体部分71よりも高密度をなしている。
また、高密度先端部分72は、潤滑剤貯留部60の開口部61で貯留部構成体55の開口用環状壁部58の外周面に押圧されることによって径方向へ圧縮されることで、その圧縮量に相当する分だけ主体部分71よりも高密度をなしている。
【0019】
また、
図3に示すように、外輪30端面の環状凹部35の底面と、経路部材70の高密度先端部分72の内周面と、貯留部構成体55の開口用環状壁部58とによって囲まれた空間部を潤滑剤溜まり部80として構成し、この潤滑剤溜まり部80に対し、グリース等の粘性が高い潤滑剤81を充填することが望ましい。すなわち、潤滑剤溜まり部80は、外輪30端面の環状凹部35の底面と、経路部材70の高密度先端部分72の内周面と、貯留部構成体55の開口用環状壁部58とによって囲まれた空間部に構成されるため、潤滑剤81の粘度が低いと潤滑剤溜まり部80から流出しやすくなるが、グリース等の粘性が高い潤滑剤81を用いることによって、潤滑剤溜まり部80に潤滑剤81が良好に保留される。
【0020】
この実施例1に係る転がり軸受装置は上述したように構成される。
したがって、
図2に示すように、経路部材70の主体部分71は、潤滑剤62が貯留された潤滑剤貯留部60内に配設される。これによって、経路部材70の主体部分71には、潤滑剤貯留部60内の潤滑剤62(例えば、潤滑剤62がグリースである場合には、グリースの基油)が浸透される。
【0021】
経路部材70の主体部分71に浸透された潤滑剤62は、主体部分71先端側の高密度先端部分72に浸透され、主体部分71側から高密度先端部分72側に向かう潤滑剤62の流れが生じる(
図3の矢印参照)。
すなわち、主体部分71は、高密度先端部分72よりも密度が低く、主体部分71と高密度先端部分72とは疎密の関係となる。密度が疎である主体部分71には、潤滑剤貯留部60内の潤滑剤62が取り込みやすく、その取り込み量も密の場合よりも多くなる。また、高密度先端部分72は密度が高密であるため、潤滑剤62(例えば、グリースの基油)の付着力、表面張力等の作用で、主体部分71側の潤滑剤62が高密度先端部分72に浸透され、これによって、主体部分71から高密度先端部分72に向けて潤滑剤62の流れが促進される。なお、高密度先端部分72において、その空隙が潤滑剤62の分子の大きさよりも小さい過度の高密となると潤滑剤62が浸透不能となるため、少なくとも潤滑剤62の分子の
大きさよりも大きく設定される。
高密度先端部分72は、潤滑剤貯留部60の開口部61を通し、その先端接触部73が外輪30端面の環状凹部35の底面に接触する(押し当てられる)。このため、高密度先端部分72に浸透された潤滑剤62は、外輪30端面の環状凹部35を伝って転がり軸受11内としての外輪30の保持器案内面34と保持器45の外周面との間に供給される。
【0022】
また、外輪30端面の環状凹部35の底面と、経路部材70の高密度先端部分72の内周面と、貯留部構成体55の開口用環状壁部58とによって囲まれた空間部を潤滑剤溜まり部80として構成し、この潤滑剤溜まり部80に対し、例えば、潤滑剤81としてのグリースが充填された場合には、潤滑剤溜まり部80のグリースの基油が外輪30端面の環状凹部35を伝って転がり軸受11内としての外輪30の保持器案内面34と保持器45の外周面との間に供給される。そして、潤滑剤溜まり部80のグリースの基油が不足したときには、高密度先端部分72に浸透された潤滑剤62(例えば、グリースの基油)が潤滑剤溜まり部80のグリース内に補充される。
【0023】
前記したように、経路部材70において、その主体部分71を潤滑剤貯留部60内に配設し、高密度先端部分72を潤滑剤貯留部60の開口部61を通して外輪30端面の環状凹部35の底面に押し当てるという、極めて簡単な構成によって、潤滑剤貯留部60の潤滑剤62を転がり軸受11内に良好に供給することができる。
また、転がり軸受11の軸受回転時において、保持器案内面34と、保持器45の外周面との間に発生する摩擦熱が最も大きい。
そして、この実施例1においては、高密度先端部分72に浸透された潤滑剤62は、外輪30端面の環状凹部35を伝って、先ず、外輪30の保持器案内面34と保持器45の外周面との間に供給される。このため、保持器案内面34と、保持器45の外周面との間に発生する摩擦熱による保持器45の焼き付きや熱変形が潤滑剤によって抑制される。
【0024】
また、この実施例1においては、経路部材70の高密度先端部分72は、その先端接触部73が外輪30端面の環状凹部35の底面に押し当てられて軸方向へ圧縮されることで、その圧縮量に相当する分だけ主体部分71よりも高密度をなしている。
また、経路部材70の高密度先端部分72は、潤滑剤貯留部60の開口部61で貯留部構成体55の開口用環状壁部58の外周面に押圧されることによって径方向へ圧縮されることで、その圧縮量に相当する分だけ主体部分71よりも高密度をなしている。
【0025】
前記したようにして、高密度先端部分72を軸方向へ圧縮されたり、径方向へ圧縮されることで形成することができるため、予め、経路部材70の先端部分を高密度に製作する必要がない。このため、経路部材70を、潤滑剤が浸透可能な部材、例えば、フェルト等の繊維、連続気泡を有する多孔質樹脂(連続気泡の発泡体)、繊維を樹脂でバインド成形した繊維材料等によって容易に製作することができる。
【0026】
なお、この発明は前記実施例1に限定するものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の形態で実施することができる。
例えば、前記実施例1においては、外輪30端面の環状凹部35の底面と、経路部材70の高密度先端部分72の内周面と、貯留部構成体55の開口用環状壁部58とによって囲まれた空間部を潤滑剤溜まり部80として構成したが、潤滑剤溜まり部80は必ずしも設けなくてもよい。
また、前記実施例1においては、経路部材70の主体部分71及び高密度先端部分72が周方向に連続して筒状をなす場合を例示したが、紐状又は帯状の複数の経路部材を周方向に断続的に配設してもこの発明を実施することができる。
また、前記実施例1においては、経路部材70の高密度先端部分72は、経路部材70の先端部分が軸方向へ圧縮されたり、径方向へ圧縮されることで構成される場合を例示したが、例えば、フェルト等の繊維、連続気泡を有する多孔質樹脂(連続気泡の発泡体)、繊維を樹脂でバインド成形した繊維材料等によって経路部材70の先端部分を高密度に製作して高密度先端部分72を構成することも可能である。
また、前記実施例1においては、経路部材70の高密度先端部分72の先端接触部73が押し当てられる外輪30端面に環状凹部35が形成される場合を例示したが、環状凹部35は必ずしも設けなくてもよい。
また、前記実施例1においては、内輪20が回転輪であり、外輪30が固定輪である場合を例示したが内輪20が固定輪であり、外輪が回転輪である場合においてもこの発明を実施することが可能である。