特許第6136431号(P6136431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136431
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ウォータポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/70 20060101AFI20170522BHJP
   F04D 29/42 20060101ALI20170522BHJP
   F04D 29/046 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F04D29/70 F
   F04D29/42 B
   F04D29/046 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-62356(P2013-62356)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-185616(P2014-185616A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100148183
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 陽三
(72)【発明者】
【氏名】三輪 勝彦
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−112260(JP,A)
【文献】 実開平03−035296(JP,U)
【文献】 実開昭60−023293(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/70
F04D 29/046
F04D 29/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングにベアリングを介して支持された回転軸と、
当該回転軸の一端に設けられ、冷却水を流通させるインペラと、
前記回転軸の他端に設けられたプーリと、
前記回転軸のうち前記インペラと前記ベアリングとの間で、前記ハウジングに亘って設けられ前記冷却水の外部への漏洩を抑制するシール部材と、
前記ベアリングの側面に開口する状態に前記ハウジングに設けられ、前記シール部材から漏洩した前記冷却水を排出する排水路と、
前記回転軸の長手方向における前記インペラの側を開口し且つ前記プーリの側を閉塞した状態で前記ベアリングと前記ハウジングとの間に形成され、前記ベアリングの端部から前記排水路に連通する連通路と、を備えたウォータポンプ。
【請求項2】
前記連通路を前記ベアリングの周方向に複数設けてある請求項1に記載のウォータポンプ。
【請求項3】
前記連通路が前記ベアリングの表面に沿うと共に、前記回転軸の長手方向に対して傾斜する状態に設けてある請求項2に記載のウォータポンプ。
【請求項4】
蒸発した前記冷却水を前記ハウジングの外部に放出するよう前記ベアリングの側面に対して上方から開口する蒸気穴が前記ハウジングに設けられており、前記複数の連通路のうちの少なくとも一つが前記蒸気穴に連通している請求項2又は3に記載のウォータポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関(エンジン)に用いられる冷却用に有用なウォータポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のウォータポンプは、ハウジングにベアリングを介して支持された回転軸と、回転軸の一端に設けられ、冷却水を流通させるインペラと、回転軸の他端に設けられたプーリと、回転軸のうちインペラとベアリングとの間で、ハウジングに亘って設けられ冷却水の外部への漏洩を抑制するメカニカルシールと、ハウジングに設けられ、メカニカルシールから漏洩した冷却水を排出する排水路と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このウォータポンプでは、ハウジングのうちメカニカルシールを挟んでインペラとは反対側の領域に、排水路に接続するための空間を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−121488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のウォータポンプは、通常、エンジンブロックの外面に取付けられる。
従って、ウォータポンプにおける回転軸方向に沿う大きさを決定する要因としては、プーリとベアリングと前記空間とが主なものとなる。クランクプーリからタイミングベルトを介してプーリを回転させる性質上、プーリの外形寸法はある程度決まっている。このため、ベアリング及び前記空間における回転軸方向の寸法が、装置のコンパクト化を図るうえで、重要な要素となる。
【0006】
しかしながら、従来のウォータポンプにあっては、メカニカルシールから排水路に冷却水を導く空間を設けている。該空間の回転軸方向の寸法を小さくすると、ベアリングが排水路を塞いでしまい、行き場をなくした冷却水は、ベアリングの内部に進入してしまう。その結果、グリースの乳化や金属の錆付きなどが生じてしまい、最悪、ベアリングが破損する。
本発明は、上記背景を鑑み、漏洩した冷却水を確実に排出しつつ装置のコンパクト化を図ることのできるウォータポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るウォータポンプの特徴構成は、ハウジングにベアリングを介して支持された回転軸と、当該回転軸の一端に設けられ、冷却水を流通させるインペラと、前記回転軸の他端に設けられたプーリと、前記回転軸のうち前記インペラと前記ベアリングとの間で、前記ハウジングに亘って設けられ前記冷却水の外部への漏洩を抑制するシール部材と、前記ベアリングの側面に開口する状態に前記ハウジングに設けられ、前記シール部材から漏洩した前記冷却水を排出する排水路と、前記回転軸の長手方向における前記インペラの側を開口し且つ前記プーリの側を閉塞した状態で前記ベアリングと前記ハウジングとの間に形成され、前記ベアリングの端部から前記排水路に連通する連通路と、を備えた点にある。
【0008】
本構成によると、シール部材から漏洩した冷却水は、連通路を通って排水路に排出される。該排水路はベアリングの側面に開口するよう形成され、さらに、ベアリングとハウジングとの間に該連通路を形成している。すなわち、排水路への冷却水の流動は、連通路によって担保されている。
【0009】
よって、排水路を接続するための空間を別に設けなくても良いので、回転軸方向における装置のコンパクト化を図ることができる。また、ベアリングとハウジングとの間に、すなわち、双方が嵌合しあうハウジングの内面とベアリングの外面との間に、連通路を設けているので、加工が容易である。
【0010】
さらに、連通路と排水路との接続口はベアリングの長手方向であればどこでも良いので、回転軸方向の組付誤差を許容するよう連通路の長さを自由に設定することができる。従って、ベアリングが排水路を塞いでしまうことがなく、ベアリングの内部に冷却水を進入させない。
【0011】
本発明のウォータポンプにあっては、前記連通路を前記ベアリングの周方向に複数設けてあると好適である。
【0012】
本構成のように連通路を複数設けることで、例えば、ハウジングに圧入するベアリングの姿勢を任意に設定できるので、組付誤差によって排水路と連通路とが接続されないといった不都合が生じない。このため、シール部材から漏洩した冷却水を確実に排出することができる。
【0013】
本発明のウォータポンプにあっては、前記連通路が前記ベアリングの表面に沿うと共に、前記回転軸の長手方向に対して傾斜する状態に設けてあると好適である。
【0014】
連通路を回転軸の長手方向に傾斜させているので、ベアリングがハウジングから抜け出し難くなる。よって、ベアリング抜けに対する耐久性が向上する。これにより、ベアリングの回転軸方向の寸法を小さくすることができ、より一層、装置のコンパクト化が図られる。
【0015】
本発明のウォータポンプにあっては、蒸発した前記冷却水を前記ハウジングの外部に放出するよう前記ベアリングの側面に対して上方から開口する蒸気穴が前記ハウジングに設けられており、前記複数の連通路のうちの少なくとも一つが前記蒸気穴に連通していると好適である。
【0016】
シール部材摺動面は、冷却水の薄い膜で潤滑されており、正常なシール機能時にも該摺動面から水蒸気がハウジング内に流出しており、ハウジングに設けられた蒸気穴から外部に放出される。
本構成によれば、蒸気用通路として複数の連通路のうちの少なくとも一つが連通することで、蒸気穴と接続する連通路を特別に加工する必要がない。従って、回転軸方向に対してコンパクトな装置を効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態におけるウォータポンプの要部を示す縦断面図である。
図2図1におけるベアリング周辺の拡大斜視図である。
図3】別実施形態におけるベアリング周辺の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るウォータポンプの実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、一例として、車両用エンジン(駆動機構の一例)に装備された冷却水循環用のウォータポンプ1として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0019】
ウォータポンプ1は、冷却水を、図示しない車両のエンジン及びラジエータに循環させる。冷却水は、エンジンで発生した熱によって温められ、ラジエータで熱を放出することでエンジンを冷却する。
【0020】
図1に示すように、ウォータポンプ1は、ハウジング11がエンジンブロック12にボルト27で固定されている。ハウジング11にはベアリング13を介して回転軸14が支持されている。回転軸14の一端には冷却水を流通させるインペラ15が設けられており、他端にはプーリブラケット17を介してプーリ16が固定されている。なお、図示しないが、クランクプーリからタイミングベルトを介してプーリ16を回転駆動させている。
また、インペラ15とベアリング13との間には、回転軸14の隙間から冷却水が外部へ漏洩することを抑制するために、ハウジング11と回転軸14とに亘ってメカニカルシール18(シール部材の一例)が配設されている。
【0021】
ベアリング13は、転がり軸受で構成され、球体で形成される転動部23と、転動部23を介して外側には外輪部22と、軸芯方向両端にリップシール部24とを有している。
転動部23には、回転軸14が円滑に回転するようグリースが塗布されている。リップシール部24によって、グリースが漏出することや、ベアリング13内部に鉄屑等が侵入することが防止される。なお、ベアリング13は、転がり軸受に限定されるものではなく、すべり軸受などどのような形態でもあっても良い。
【0022】
プーリ16により回転軸14が駆動されると、インペラ15が回転して冷却水が冷却水入口から吸入され、冷却水出口より排出される。このとき、メカニカルシール18とベアリング13との間には、メカニカルシール18と回転軸14との間の微小な隙間を通って、冷却水が漏洩する。
【0023】
また、メカニカルシール18の摺動面は、冷却水の薄い膜で潤滑されており、正常にシール機能が発揮されている時でも、該摺動面から水蒸気がハウジング11内に流出している。
以降、本実施形態における冷却水とは、蒸気と、蒸気が凝縮された液分とを含んだものとして説明する。
【0024】
メカニカルシール18から進入した冷却水は、ハウジング11のうちメカニカルシール18を挟んでインペラ15とは反対側の領域に流入する。
【0025】
この流入した冷却水のうちの液分は、図1に示すように、回転軸14の外方に周方向に沿って配置され、鉛直方向下方に位置する溜部25に、排水路19を経由して排出される。
【0026】
図2に示すように、排水路19は、ベアリング13の側面に開口する状態にハウジング11に設けられる。また、連通路21は、ベアリング13とハウジング11との間に形成され、ベアリング13の端部から排水路19に連通している。
よって、メカニカルシール18から漏洩した液分は、連通路21、排水路19、溜部25の順番に排出される。
【0027】
溜部25のうちインペラ15と反対側は開口されており、液分が外部に排出されないようプラグ26が圧入固定される。また、溜部25の上方位置にハウジング11の外方と連通するドレン孔29が形成されている。
このため、溜部25に排出された液分は、基本的に外部に流出されることがないが、溜部25の許容貯留量をオーバーした場合のみ、ドレン孔29から外部に放出される。また、溜部25に排出された液分は高温になったハウジング11から伝熱されて蒸気となるので、溜部25は所定の貯留量を確保できる容積で形成される。
なお、プラグ26は、例えば、シール部材を備えたねじ締結などで溜部25の開口を閉塞など、溜部25の開口を密封するものであればどのようなものでも良い。また、溜部25の内部に吸水性の良い面状部材などを設け、表面積を増大させることで蒸発を促進させても良い。
【0028】
ハウジング11には、ベアリング13の側面に対して鉛直方向上方から開口する蒸気穴20が設けられている。連通路21の少なくとも一つが蒸気穴20に連通しており、冷却水のうちの蒸気は、連通路21、蒸気穴20の順番に外部に放出される。
このとき、蒸気は高温になったベアリング13及びハウジング11に直接接触しているので、蒸気が凝縮されて液分となることが防止される。従って、蒸気の流出経路に無駄がなく、効率よく外部へと放出される。
【0029】
本実施形態では、外輪部22に、ベアリング13の周方向に複数の連通路21を設けている。このため、回転軸14及びベアリング13をハウジング11に圧入固定する姿勢が変動しても、何れかの連通路21の少なくとも一つは必ず排水路19及び蒸気穴20と連通する。従って、ベアリング13の取付姿勢の自由度が高まり、組付け誤差を許容する。
【0030】
さらに、本実施形態における連通路21は、ベアリング13の表面に沿うと共に、回転軸14の長手方向に対して傾斜して設けられている。すなわち、ベアリング13の表面に沿う凸部が傾斜しているので、凸部とハウジング11内面との係合長さが大きくなる。従って、ベアリング13の抜出し方向に対して抵抗力が増し、ベアリング13とハウジング11との嵌合力が高まる。
なお、連通路21は、外輪部22の外周面に、平目状や綾目状のローレット加工を施しても良い。ローレット加工を施すことによって、簡単に連通路21を形成することができる。
【0031】
[別実施形態]
図3には、本発明に係る別実施形態が示される。なお、上述した実施形態と異なる構成についてのみ説明する。
連通路21は、図3に示すように、ベアリング13とハウジング11との間に、回転軸14の長手方向の中途部分まで延出した溝状に形成され、排水路19及び蒸気穴20と連通している。本実施形態では、ベアリング13の外周面を切削加工することで簡単に溝を形成できるので、加工コストを低減できる。
【0032】
なお、連通路21は、ベアリング13及びハウジング11双方に溝を設けても良いし、どちらか一方に設けても良い。
また、連通路21は、ベアリング13の周方向に複数設けても良いし、ベアリング13の長手方向に傾斜させても良い。これらによる作用効果は、上述の実施形態と同様であるので省略する。
【0033】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態では、図2に示すように、外輪部22の外周に亘って複数の連通路21を設けたが、外輪部22表面のうち、排水路19及び蒸気穴20と接続する付近だけローレット加工などを施してもよい。外周に亘って加工する場合に比べ、加工コストを低減できる。
(2)上記実施形態では、ドレン孔29はハウジング11に形成される例を示したが、溜部25の開口に取付けるプラグ26にドレン孔29を形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るウォータポンプは、各種車両における幅広い冷却対象に用いられるウォータポンプに利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 ウォータポンプ
11 ハウジング
13 ベアリング
14 回転軸
15 インペラ
16 プーリ
18 メカニカルシール(シール部材)
19 排水路
20 蒸気穴
21 連通路
図1
図2
図3