(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記の(a−1)、(a−2)の特性を有するエチレン系共重合体(A)を含む樹脂を、Tダイにより成形し、押出シートを製造する方法において、Tダイ吐出時の樹脂温度が90〜120℃であり、ダイスのリップギャップが0.7〜1.5mm、溶融樹脂のエアギャップ部における延伸倍率が1.3〜4.0(ただし、1.6以下の場合を除く)であることを特徴とする押出シートの製造方法。
(a−1)JIS−K6922−2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定したメルトフローレート(MFR)が1〜100g/10分である。
(a−2)密度が0.860〜0.920g/cm3である。
ロール温度がそれぞれ第1冷却ロール30〜50℃、タッチロール3〜15℃であり、第1冷却ロールとタッチロールの温度差が20℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の押出シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、一般的に広く太陽電池封止材として使用されるEVAの代わりにエチレン・α−オレフィン共重合体を使用し、特定の条件でTダイシート成形を行う押出シートの製造方法、並びにそれを用いた太陽電池封止シート及び太陽電池モジュールに係るものである。
以下、本発明において用いられるエチレン系共重合体(A)を含む樹脂組成物、太陽電池封止シート、太陽電池モジュール等について詳細に説明する。
【0016】
1.エチレン系共重合体(A)
(1)各特性
本発明に用いるエチレン系共重合体(A)は、エチレン・α−オレフィン重合体を使用し、以下の(a−1)、(a−2)の特性を有する。また、好ましくは、以下の(a−3)の特性を有する。
(a−1)MFRが1〜100g/10分である。
(a−2)密度が0.860〜0.920g/cm
3である。
(a−3)回転型レオメーターによる温度190℃での周波数分散測定を行ったときの角周波数ω=100rad/秒における緩和時間(τ)とMFRとが下記(式1)の関係を満たす。
0.0072×MFR
−0.39≦τ≦0.0100×MFR
−0.27 (式1)
エチレン系共重合体(A)が、上記特性を有することにより、太陽電池封止材に適した、形成性が良好で、低収縮性のシートが得られる。
【0017】
(a―1)MFR
本発明で用いるエチレン系共重合体(A)は、JIS K6922−2(190℃ 21.18N荷重)でのMFRが1〜100g/10分であり、好ましくは5〜80g/10分、さらに好ましくは10〜50g/10分である。エチレン系共重合体のMFRが1g/10分未満では、分子量が高すぎ溶融時の粘度が高くなりすぎてTダイ成形でのシート成形が困難となり、MFRが100g/10分を超えると溶融時の粘度が低くなりすぎてTダイ成形でのシート成形が困難になるなど、取り扱い性に欠けるものとなる。
【0018】
(a―2)密度
本発明で用いるエチレン系共重合体(A)は、JIS−K6922−2(低密度ポリエチレンの場合、23℃)で測定した場合、密度が0.860〜0.920g/cm
3であり、好ましくは0.860〜0.900g/cm
3、さらに好ましくは0.860〜0.890g/cm
3である。エチレン系共重合体の密度が0.860g/cm
3未満では、加工後のシートがブロッキングしやすくなるため好ましくない。密度が0.920g/cm
3を超えると加工後のシートの剛性が高すぎて取り扱い性に欠けたり、透明性が不足するなどの不具合が生じることがある。
【0019】
(a―3)粘弾性
本発明で用いるエチレン系共重合体(A)は、回転型レオメーターによる温度190℃での周波数分散測定を行ったときの角周波数ω=100rad/秒における緩和時間(τ)とMFRが下記(式1)を満たすことが好ましい。
0.0072×MFR
−0.39≦τ≦0.0100×MFR
−0.27 (式1)
(ここで、MFRは、JIS−K6922−2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定したメルトフローレート値である。)
【0020】
ここで緩和時間(τ)について詳しく説明する。平衡状態にある物質系に外力を加え、新しい平衡状態又は定常状態に達した後、外力を取り去ると、その系の内部運動によって、系が初めの平衡状態に回復する現象を緩和現象といい、緩和に要する時間の目安となる特性的な時間定数を緩和時間という。高分子の成形加工(例えば、押出成形)の場合、溶融した高分子を流動・変形させるが、この時、分子鎖は、流動・変形方向に引き伸ばされて引き揃えられる(これを「配向する」という)。そして、流動・変形が終了すると、分子に加わる応力がなくなり、各分子鎖は熱運動により勝手な方向に向いてしまう(これを「分子鎖の緩和」という)。
エチレン系共重合体の緩和時間(τ)は、τ=G’/ωG’’で表わされる。ここで、G’は貯蔵弾性率でありエチレン系共重合体の弾性的な性質を示す。また、G’’は損失弾性率でありエチレン系共重合体の粘性的な性質を示す。この式から明らかなように、緩和時間(τ)が長くなる(大きくなる)場合は、G’が大きいことを意味し、エチレン系共重合体中に弾性的な性質を示す成分が多くなる。また、緩和時間(τ)が短くなる(小さくなる)場合は、G’’が多いことを意味し、エチレン系共重合体中に粘性的な性質を示す成分が多くなる。緩和時間(τ)は、前述のように、押出成形時において(押出方向に)配向した高分子鎖の平衡状態への戻り易さに関係しており、緩和時間(τ)が短い場合には戻り易く、緩和時間(τ)が長い場合には戻り難いことを示している。
この緩和時間(τ)は、弾性的な挙動を示す重合体中の高分子量成分や分岐の長さと分岐数が反映するので、分子量や分子量分布さらに分岐長さや分岐数を制御することにより緩和時間(τ)を制御することができる。すなわち、分子量が小さくなれば(=MFRが大きくなれば)緩和時間(τ)は短くなる。また、分子量分布が狭い場合には高分子量成分の比率が小さくなるので緩和時間(τ)は短くなる。また分岐の長さや分岐数が大きくなれば緩和時間(τ)は長くなる。
緩和時間(τ)とMFRという観点より、高圧ラジカル重合で重合される低密度ポリエチレン(LDPE)、EVAとメタロセン触媒で重合されるエチレン系共重合体(メタロセンLLDPE)を比較した場合、
図3に示すように、いずれもMFRの上昇と共に緩和時間(τ)が短くなる傾向にあることがわかる。これはMFRと分子量には相関があり、MFRの上昇は分子量の低下を意味するため緩和時間(τ)が短くなることによる。さらに
図3より、(1)緩和時間(τ)が長いLDPEおよびEVAと、(2)緩和時間(τ)が短いメタロセン触媒で得られるエチレン系共重合体(メタロセンLLDPE)との2つのグループに分かれることがわかる。これはLDPEおよびEVAは分子量分布が広く多数の長鎖分岐を有するのに対し、メタロセン触媒で得られるエチレン系共重合体は分子量分布が狭く高圧ラジカル重合体のような長鎖分岐が非常に少ないということに起因する。
Tダイでのシート成形においては、ダイリップより押し出された溶融樹脂膜は第1冷却ロールに接触し冷却固化するまでのエアギャップ部で希望するシート厚みとなるように溶融状態で流れ方向に引き伸ばされる。この引き伸ばしにより溶融樹脂膜には流れ方向に延伸がかかるため分子鎖の配向と収縮応力が発生するが、緩和時間(τ)が長い重合体の場合この配向による応力が残ったまま冷却固化されてしまうため、得られたシートは再加熱時に高分子鎖の配向が緩和しようとするため収縮が発生する。
発明者は、エチレン系共重合体が(式1)を満足する緩和時間(τ)の短い重合体であれば、エアギャップ部での流れ方向への引き伸ばしによる分子鎖の配向が速やかに緩和されるため、冷却固化されたシートには収縮応力がほとんど残らず、アニール等の追加操作なしに非常に低収縮のシート、具体的には、シートの融点より10℃低い温度、60分での収縮率が2%以下であるシートが得られることを見出し本発明に至った。
なお、緩和時間(τ)は、後述の実施例に記載の方法により測定される値である。
【0021】
(2)エチレン系共重合体(A)の製造方法
エチレン系共重合体(A)を製造時、コモノマーとして用いられるα−オレフィンとしては、脂肪族化合物又は芳香族化合物のどちらであってもよく、ビニル性不飽和又は環式化合物を含有することができる。好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィンである。具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1、シクロブテン、シクロペンテン、ノルボルネン(5位及び6位がC1〜C20ヒドロカルビル基により置換されるノルボルネンを含む)等を挙げることができる。好ましくはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、ノルボルネンであり、より好ましくはプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが挙げられる。
エチレン共重合体中のα−オレフィンの含有量が好ましくは5〜20mol%であり、より好ましくは6〜17mol%、さらに好ましくは8〜15mol%である。
【0022】
またコモノマーとして非共役ポリエンを用いてもよい。その例としては、C6〜C15の直鎖炭化水素ジエン、分岐鎖炭化水素ジエン又は環式炭化水素ジエンが挙げられる。具体的には1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、及び1,9−デカジエン等の直鎖状炭化水素ジエン化合物や、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、5,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、1,9−デカジエンの混合異性体などの分岐鎖炭化水素ジエン、あるいは5−メチレン−2−ノルボルネン(MNB)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−(4−シクロペンテニル)−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、ビニルシクロヘキセンといった環式炭化水素ジエン化合物が挙げられる。好ましくは、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、5‐エチリデン‐2‐ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−(4−シクロペンテニル)−2−ノルボルネン及び5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、ビニルシクロヘキセンが挙げられる。最も好ましいのは、5−ビニル−2−ノルボルネン、5‐エチリデン‐2‐ノルボルネンである。
非共役ポリエンをコモノマーとして用いた場合、エチレン共重合体の非共役ポリエンの含有量が0.01〜5.00mol%であり、好ましくは0.02〜1.00mol%、より好ましくは0.05〜0.50mol%である。この範囲であれば、太陽電池封止材の柔軟性と架橋特性が良好である。
【0023】
エチレン系共重合(A)で使用されるこれらのコモノマーは1種または2種以上の組み合わせでもよい。
【0024】
本発明で用いるエチレン系共重合体(A)は、チーグラー触媒、バナジウム触媒、メタロセン触媒、又は3−10族の遷移金属錯体(いわゆるポストメタロセン触媒)等、好ましくはバナジウム触媒又はメタロセン触媒、より好ましくはメタロセン触媒を使用して製造することができる。製造法としては、高圧イオン重合法、気相法、溶液法、スラリー法等が挙げられる。特に、高圧イオン重合法等の高圧法を利用するのが好ましい。重合温度、重合圧力、重合時間などの条件は、装置の種類、原料の供給量などによって変わるので一概に規定できないが、例えば、重合温度130℃〜250℃、重合圧力20MPa〜200MPaとすることができる。
【0025】
メタロセン触媒としては、特に限定されるわけではないが、架橋および非架橋のビスシクロペンタジエニル骨格や、モノシクロペンタジエニル骨格を有する遷移金属錯体が知られており、これらとアルモキサンや、ホウ素化合物などを助触媒として組合せた触媒系が挙げられる。特に遷移金属化合物としてチタン、ジルコニウム、ハフニウムからなる触媒系が好ましい。バナジウム触媒としては、可溶性バナジウム化合物と有機アルミニウムハライドとを触媒成分とする触媒が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられるエチレン系共重合体(A)は、それぞれ別の製造方法で得られた2種類以上のエチレン系共重合体の任意の比率の混合物であってもよい。ただしこの場合、この2種類以上のエチレン系共重合体の混合物をブレンドした組成物が(a−1)、(a−2)を、好ましくは(a−3)を満たす。
【0027】
2.樹脂
本発明に用いる樹脂(以下、「エチレン系樹脂」ともいう。)は、エチレン系共重合体(A)以外に、必要に応じてシランカップリング剤(B)、有機過酸化物(C)及びヒンダードアミン系光安定化剤(D)等の添加剤を含有することができる。以下、各成分について説明する。
(1)シランカップリング剤(B)
本発明に用いるエチレン系樹脂には、主に太陽電池の上部保護材や太陽電池素子との接着力を向上させる目的でシランカップリング剤を用いることが好ましい。
本発明におけるシランカップリング剤としては、例えばγ−クロロプロピルトリメトキシシラン;ビニルトリクロルシラン;ビニルトリエトキシシラン;ビニルトリメトキシシラン;ビニル−トリス−(β−メトキシエトキシ)シラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;ビニルトリアセトキシシラン;γ−
メルカプトプロピルトリメトキシシラン;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン;N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。好ましくは、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
これらのシランカップリング剤は、エチレン系共重合体(A)100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部、さらに好ましくは、0.05〜1重量部で使用される。
【0028】
(2)有機過酸化物(C)
有機過酸化物としては、分解温度(半減期が1時間である温度)が70〜180℃、とくに90〜160℃の有機過酸化物を用いることができる。このような有機過酸化物として、例えば、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ジパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、ジクロヘキサノンパーオキサイドなどが挙げられる。
【0029】
有機過酸化物(C)の配合割合は、エチレン系共重合体(A)100重量部に対して、好ましくは、0.2〜5重量部であり、より好ましくは、0.5〜3重量部、さらに好ましくは、0.7〜2重量部である。成分(C)の配合割合が上記範囲よりも少ないと、架橋しないかまたは架橋に時間がかかる。また、上記範囲よりも大きいと、分散が不十分となり架橋度が不均一になりやすい。
【0030】
(3)ヒンダードアミン系光安定化剤(D)
本発明において、エチレン系樹脂にはヒンダードアミン系光安定化剤を配合することが好ましい。ヒンダードアミン系光安定化剤は、ポリマーに対して有害なラジカル種を補足し、新たなラジカルを発生しないようにするものである。ヒンダードアミン系光安定化剤には、低分子量のものから高分子量のものまで多くの種類の化合物があるが、従来公知のものであれば特に制限されずに用いることができる。
【0031】
低分子量のヒンダードアミン系光安定化剤としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロパーオキサイド及びオクタンの反応生成物(分子量737)70重量%とポリプロピレン30重量%からなるもの;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート(分子量685);ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート混合物(分子量509);ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(分子量481);テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量791);テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(分子量847);2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900);1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物(分子量900)などが挙げられる。
【0032】
高分子量のヒンダードアミン系光安定化剤としては、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](分子量2,000〜3,100);コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(分子量3,100〜4,000);N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量2,286)と上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物;ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)、並びに、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の環状アミノビニル化合物とエチレンとの共重合体などが挙げられる。上述したヒンダードアミン系光安定化剤は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
これらの中でも、ヒンダードアミン系光安定化剤としては、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](分子量2,000〜3,100);コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(分子量3,100〜4,000);N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン(分子量2,286)と上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物;ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(分子量2,600〜3,400)環状アミノビニル化合物とエチレンとの共重合体を用いるのが好ましい。製品使用時に経時でのヒンダードアミン系光安定剤のブリードアウトが妨げられるからである。また、ヒンダードアミン系光安定化剤は、融点が、60℃以上であるものを用いるのが、組成物の作製しやすさの観点から好ましい。
【0034】
本発明において、ヒンダードアミン系光安定化剤の含有量は、エチレン系重合体(A)100重量部に対して、0.01〜2.5重量部とし、好ましくは0.01〜1.0重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.2重量部、最も好ましくは0.03〜0.1重量部とするのがよい。
前記含有量を0.01重量部以上とすることにより安定化への効果が十分に得られ、2.5重量部以下とすることによりヒンダードアミン系光安定化剤の過剰な添加による樹脂の変色を抑えることができる
また、本発明において、前記有機過酸化物(C)と前記ヒンダードアミン系光安定化剤(D)との重量比(C:D)を、1:0.01〜1:10とし、好ましくは1:0.02〜1:6.5とする。これにより、樹脂の黄変を顕著に抑制することが可能となる。
【0035】
(4)紫外線吸収剤
本発明に用いるエチレン系樹脂には、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、サリチル酸エステル系など各種タイプのものを挙げることができる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクタデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0036】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニル置換ベンゾトリアゾール化合物、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、などを挙げることができる。またトリアジン系紫外線吸収剤としては、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)フェノールなどを挙げることができる。サリチル酸エステル系としては、フェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレートなどを挙げることができる。
これら紫外線吸収剤は、エチレン系共重合体100重量部に対し0〜2.0重量部配合することができる。好ましい配合量は0.05〜2.0重量部であり、より好ましくは0.1〜1.0重量部、さらに好ましくは0.1〜0.5重量部、最も好ましくは0.2〜0.4重量部配合するのがよい。
【0037】
(5)他の添加成分
本発明に用いるエチレン系樹脂には、本発明の目的を著しく損なわない範囲で、他の付加的任意成分を配合することができる。このような任意成分としては、通常のポリオレフィン系樹脂材料に使用される酸化防止剤、結晶核剤、透明化剤、滑剤、着色剤、分散剤、充填剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0038】
また、本発明に用いるエチレン系樹脂には、柔軟性等を付与するため、本発明の目的を損なわない範囲で、エチレン系重合体(A)以外のチーグラー系又はメタロセン系触媒によって重合されたEBR、EPR等のエチレン・α−オレフィンエラストマー若しくはSEBS、水添スチレンブロック共重合体等のスチレン系エラストマー等のゴム系化合物をエチレン系重合体(A)100重量部に対して0.1〜75重量部配合することもできる。
【0039】
3.太陽電池封止シート
本発明の押出シートの製造方法では、溶融した樹脂を平板状のダイから押し出してフラットなシートやフィルムを成形する。平板状のダイは、押し出したいシート幅に狭い幅広の形状となるため、押し出し機に取り付けた際の形状より、総称してTダイと呼ばれる。Tダイによるシート成形機の例を
図1に示す。
【0040】
本発明の太陽電池封止シートは、エチレン系共重合体(A)に、任意成分としてシランカップリング剤(B)、架橋剤となる有機化酸化物(C)、ヒンダードアミン系光安定化剤(D)を添加し、必要に応じてさらには、架橋助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤をドライブレンドし、単軸又は二軸押出し機により溶融混練したエチレン系樹脂をTダイより押出し、冷却ロールで冷却固化して得られたシートである。溶融混練は、単軸又は二軸押出し機により事前に行って一旦ペレットとした後Tダイ成形機の押出機にフィードしてもよいし、Tダイ成形機の押出機にて溶融混練とシート成形を同時に行ってもよい。またドライブレンドに際して、一部又は全部の添加剤をマスターバッチの形でブレンドしてもよい。
【0041】
本発明の太陽電池封止シートは、通常、0.1〜1mm程度の厚みである。0.1mmよりも薄いと強度が小さく、接着が不十分となり、1mmよりも厚いと透明性が低下して問題になる場合がある。好ましい厚さは、0.1〜0.8mmである。
【0042】
従来、太陽電池封止シート用のEVAを用いたTダイシート成形において、収縮を低減するために、ダイスのリップギャップが0.6〜0.8mm程度としエアギャップ部分での延伸倍率をなるべく下げる必要があった。ここで本発明での延伸倍率とは、Tダイのリップ出口を通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度と第1冷却ロール表面の流れ方向の線速度の比である。リップ出口での溶融樹脂の線速度は樹脂の吐出量と溶融密度およびリップ開口部の断面積より算出できる。第1冷却ロール表面の流れ方向の線速度はロール径と回転数より算出でき一般的には成形時の引取り速度と同義である。
しかしながら、このようにリップギャップを狭めるとリップ部へのメヤニの発生や樹脂吐出圧力の上昇および樹脂の剪断発熱による樹脂温度の上昇といった問題が発生しやすいため生産速度を上げることが困難になるという不具合があった。これらを回避するためリップギャップを広げると、希望の厚みのシートを得るためにエアギャップ部分での延伸倍率を大きくしなければならず、結果として配向が強くなり熱収縮が悪くなるという不具合が発生する。また、エアギャップを長くとり延伸を緩やかに行うことで配向の程度を低くするという手法も考えられるが、この場合ネックインが大きくなりトリミングロスの増大を招きコストアップにつながるほか、溶融状態である時間が長くなり架橋剤の揮発が多くなるため好ましくない。
そこで、このような問題を解決すべく、一定条件を満たすエチレン共重合体を用いてTダイ成形の加工条件設定を選択することで、アニール等の後処理無しに融点より10℃低い温度(以下、「融点−10℃」ともいう。)、60分での収縮が2%以下と低収縮率であり、メヤニの発生もなく高い生産性でシートを得ることが可能することを見出し、本発明をするに至った。
【0043】
<収縮率>
本発明の太陽電池封止シートは融点−10℃、60分での収縮が2%以下であることが望ましい。収縮が2%より大きいと、太陽電池モジュール作成時の加熱において太陽電池セルや配線のずれなどが生じ、外観の悪化や太陽電池セルの破損などの不具合がおきやすくなるため好ましくない。
なお、収縮率及び融点は、後述する実施例に記載の方法で測定される値である。
【0044】
<樹脂温度>
本発明におけるエチレン系樹脂のTダイ成形では、吐出時の樹脂温度を90〜120℃にすることが好ましい。120℃以上の樹脂温度では、架橋剤である有機化酸化物(C)の分解により架橋が進行してしまい未架橋の封止材シートが得られなくなる不具合が発生する。また90℃未満の樹脂温度では、粘度が高すぎて押出機で押し出すことが困難となるため好ましくない。
なお、樹脂温度は、ダイリップ出口での吐出樹脂をハンディ温度計にて実測することにより測定される値である。
【0045】
<Tダイのリップギャップ>
本発明におけるエチレン系樹脂のTダイ成形では、Tダイのリップギャップを0.7〜1.5mmとすることが好ましい。0.7mm未満のリップギャップではリップ部の剪断速度が早くなりすぎてしまいメヤニの発生を招いたり樹脂吐出圧力の上昇および樹脂の剪断発熱による樹脂温度の上昇といった不具合が発生しやすくなる好ましくない。1.5mmより広いリップギャップでは、シート厚みが安定しないといった不具合が発生しやすいので好ましくない。
【0046】
<延伸倍率>
本発明におけるエチレン系樹脂のTダイ成形では、エアギャップ部における延伸倍率を1.3〜4.0とすることが好ましい。延伸倍率はリップギャップとシート厚みにより制御できる。すなわちリップギャップを狭めればリップ出口を通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度が速くなるので延伸倍率が下がる。またシート厚みを厚くすれば引取り速度が遅くなるので延伸倍率が下がる。延伸倍率が1.3未満では樹脂吐出圧力の上昇および樹脂の剪断発熱による樹脂温度の上昇といった不具合が発生しやすいため好ましくない。延伸倍率が4.0以上ではシート厚みが安定しないといった不具合が発生しやすいので好ましくない。なお、延伸倍率はTダイのリップ出口を通過する溶融樹脂の流れ方向の線速度と第1冷却ロール表面の流れ方向の線速度の比より算出されるである値である。リップ出口での溶融樹脂の線速度は樹脂の吐出量と溶融密度およびリップ開口部の断面積より算出でき、第1冷却ロール表面の流れ方向の線速度はロール径と回転数より算出できる。
【0047】
<エアギャップ>
本発明におけるエチレン系樹脂のTダイ成形では、エアギャップが長すぎないことが好ましい。本発明でのエチレン系共重合体は緩和時間(τ)が短いことが特徴であるが、このように緩和時間(τ)が短い重合体は分子量分布が狭くネックインが大きくなりやすい傾向となるため、長すぎるエアギャップはトリミング幅の増大によるコストアップを招き好ましくない。また緩和時間(τ)が短い重合体は溶融張力も低くなる傾向となるため、長すぎるエアギャップは溶融樹脂膜のゆれや溶融膜自身の重量による垂れ下がりといった成形加工上の不具合を生じる可能性が高まるので好ましくない。
好ましいエアギャップの長さは、Tダイの形状や第1冷却ロール径といった制限により成形機のエアギャップ調整範囲が制限されるため一概には言えないが、50〜350mmである。350mm以上のエアギャップは溶融樹脂膜のゆれや溶融膜自身の重量による垂れ下がりといった成形加工上の不具合を生じる可能性が高まるので好ましくない。50mmより短いエアギャップは、Tダイの形状や第1冷却ロール径を小さくする必要性などの制限が生じ、小さすぎる冷却ロール径は冷却不足による生産性の低下を招くため好ましくない。
【0048】
<ロールの温度>
本発明におけるエチレン系樹脂のTダイ成形では、第1冷却ロールの温度が30〜50℃、タッチロールの温度が3〜15℃の範囲にあり、さらに第1冷却ロールの温度がタッチロールの温度より20℃以上高いことが好ましい。以下に詳述する。
第1冷却ロールの温度は30〜50℃が好ましい。30℃未満の温度では樹脂膜がタッチロール側に巻きつく不具合が生じやすいため好ましくないためである。また50℃を超える温度では、第1冷却ロールに巻きついたシートの剥離が悪くなり、無理な引き剥がしによるシートの変形を生じる可能性があるため好ましくない。
タッチロールの温度は3〜15℃が好ましい。3℃未満のロール温度設定は冷却エネルギーの増大によるコストアップを招くため好ましくないためである。15℃を超える温度ではシートがタッチロール側に巻きつく不具合が生じやすくなるため好ましくない。
また第1冷却ロールの温度がタッチロールの温度より20℃以上高いことが好ましい。温度差が20℃未満となるとタッチロール側に巻きつく不具合が発生しやすくなるので好ましくない。
第1冷却ロールの温度がタッチロールの温度より20℃以上高いことが好ましい。Tダイより押し出された溶融樹脂膜をタッチロールにて第1冷却ロールに押し付けて冷却とエンボス形状の転写を同時に行う方法が一般に行われるが、第1冷却ロールに押し付けられた樹脂膜は第1冷却ロールに巻きつく形で流れなければならない。
しかし、第1冷却ロールもしくはタッチロールの材質や面質によっては第1冷却ロールに押し付けられた樹脂膜が部分的もしくは樹脂膜全体がタッチロール側に巻きついてしまいシート成形を継続できなくなる不具合が生じる場合がある。特に本発明におけるエチレン系共重合体(A)は極性をもたない樹脂であり金属への付着性に乏しいためこのような不具合を生じやすい。
そこで、第1冷却ロールの温度がタッチロールの温度より20℃以上高くすることでこの問題が回避できる。
引取り機の形式によってはさらに第2冷却ロールを有する場合もあるが、第2冷却ロールの温度は生産速度やシート厚みなどを考慮し適宜選択されればよく特に制限はない。一般的には10〜30℃程度の温度範囲で適宜選択される。
【0049】
<エンボス加工>
本発明におけるエチレン系共重合体のTダイ成形では、シートのブロッキングを防止するためシート表面をエンボス加工することが好ましい。エンボス加工はエンボス状の表面を持つ第1冷却ロールを用いて、Tダイより押し出された溶融樹脂膜をタッチロールにて第1冷却ロールに押し付け冷却とエンボス形状の転写を同時に行う方法が最も効率的であるため一般的に行われている。タッチロールの材質は金属ロールや耐熱ゴムロールあるいは砂入りシリコンゴムロールといったゴムロール類など特に制限はないが、エンボス転写の容易なゴムロール類が好ましい。
【0050】
4.太陽電池モジュール
本発明の太陽電池封止シートを用いれば、太陽電池素子を上下の保護材とともに固定することにより太陽電池モジュールを製作することができる。このような太陽電池モジュールとしては、種々のタイプのものを例示することができる。
図2には、太陽電池モジュールの構成の一例が示されている。例えば上部透明保護材11/(上部)封止材12/太陽電池素子10/(下部)封止材12/下部保護材14のように太陽電池素子の両側から封止材で挟む構成のもの、下部基板保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子上に封止材と上部透明保護材を形成させるような構成のもの、上部透明保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子、例えばフッ素樹脂系透明保護材上にアモルファス太陽電池素子をスパッタリング等で作成したものの上に封止材と下部保護材を形成させるような構成のものなどを挙げることができる。
【0051】
太陽電池素子としては、特に制限されず、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルルなどのIII−V族やII−VI族化合物半導体系等の各種太陽電池素子を用いることができる。
【0052】
太陽電池モジュールを構成する上部保護材としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂などを例示することができる。
また、下部保護材としては、金属や各種熱可塑性樹脂フィルムなどの単体もしくは多層のシートであり、例えば、錫、アルミ、ステンレススチールなどの金属、ガラス等の無機材料、ポリエステル、無機物蒸着ポリエステル、フッ素含有樹脂、ポリオレフィンなどの1層もしくは多層の保護材を例示することができる。このような上部及び/又は下部の保護材には、封止材との接着性を高めるためにプライマー処理を施すことができる。本発明においては、上部保護材としてガラスが好ましい。
【0053】
太陽電池モジュールを製造するに当たっては、本発明の封止材のシートを予め作ってお
き、封止材の樹脂組成物が溶融し架橋が進行する温度、例えば125〜200℃で圧着するという方法によって、前記のような構成のモジュールを形成することができる。
または、太陽電池素子を上記本発明の封止材でカバーした後、有機過酸化物が分解しない程度の温度に数分から10分程度加熱して仮接着し、次に、オーブン内において有機過酸化物が分解する150〜200℃程度の高温で5分から30分間加熱処理して接着させる等の方法がある。
以上記載した製造方法を用いることで、アニールなどの後処理なしに融点−10℃、60分加熱時の収縮が小さく、リップ部のメヤニの発生も抑えられるなど太陽電池封止シートを高い生産性で製造できる。また得られた太陽電池封止シートは長期にわたって使用できる太陽電池モジュールの封止材として好適である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によって、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた評価方法及び使用樹脂は、以下の通りである。
【0055】
1.樹脂物性の評価方法
(1)メルトフローレート(MFR):JIS−K6922−2:1997附属書(190℃、21.18N荷重)に準拠して測定した。
(2)密度:JIS−K6922−2:1997附属書(23℃、低密度ポリエチレンの場合)に準拠して測定した。
(3)緩和時間(τ):レオメトリックス社製回転型レオメーターにおいて、25mmφパラレルプレートを、ギャップ1mm、温度190℃において周波数分散測定を行ったときの角周波数ω=100rad/秒における緩和時間を求めた。具体的には、サンプルについて測定した複素弾性率G
*(iω)を、応力σ
*と歪みγ
*によりσ
*/γ
*で定義し、下記式により求めた。
G
*(iω)=σ
*/γ
*=G’(ω)+iG”(ω)
τ(ω)=G’(ω)/ωG”(ω)
(式中、G’は貯蔵弾性率を示し、G”は損失弾性率を示す。)
(4)融点:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC7020を用い、ISO 11357−3の条件で測定した。
【0056】
2.加工性およびシートの評価方法
(1)メヤニ
Tダイ成形機にてシート加工を行い、ダイリップ清掃3時間後にリップ部に付着している樹脂(メヤニ)の量を目視で観察した。
(2)加工性
Tダイ成形機にてシート加工を行い、以下の項目について観察を行った。
(i) タッチロール側へのシート取られ
タッチロール側へシートの一部でも巻きついた場合は× 問題ない場合を○とした。
(ii) 第1冷却ロールからのシートの剥離状況
第1冷却ロールからシートがうまく剥離せずシートの変形や巻きつきが発生した場合は、「×」、問題ない場合は、「○」とした。
(iii) シートの流れ方向の膜厚安定性(シートの厚み安定性)
得られたシートについて、流れ方向での厚みの安定性を厚み計にて計測し、安定している場合を「○」、厚みむらが発生している場合を「×」とした。
(3)収縮
一辺が120mmの平面正方形状の試験片を切り出した。この試験片状に二本の互いに平行な直線を製造時の走行方向(MD)に100mmの間隔を存して描いた。
次に試験片を試験片の融点−10℃に加熱したシリコンオイルバス内に侵漬させ60分経過してから、シートをシリコンオイルバスから取出し、シート表面の油分をふき取った。試験片状に描いた二本の直線間の間隔A(mm)をノギスで5点測定し、下記式に基いて加熱収縮率をそれぞれ算出し平均値を求めた。
熱収縮率(%)=100×(100−A)/100
【0057】
3.使用原料
(1)エチレン・α−オレフィン共重合体(A)
下記の<製造例1>で重合したエチレンとプロピレン、1−ヘキセンの共重合体(PE−1)、市販のエチレン・1−オクテン共重合体「ダウ社製 エンゲージ8407」(PE−2)、市販のエチレン・1−オクテン共重合体「DEX PLASTMERS社製 EXACT8230」(PE−3)、市販のエチレン・1−ブテン共重合体「三井化学社製 タフマーA35070S」(PE−4)を用いた。また比較例として市販の低密度ポリエチレン「日本ポリエチレン社製 ノバテックLD LC800」(PE−5)、エチレン・酢酸ビニル共重合体「三井デュポンポリケミカル社製 エバフレックスEV150」(EVA−1)用いた。物性を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
<製造例1>
(i)触媒の調製
特開平10−218921号公報に記載された方法で調製した錯体「rac−ジメチルシリレンビスインデニルハフニウムジメチル」0.05モルに、等モルの「N,Nジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート」を加え、トルエンで50リットルに希釈して触媒溶液を調製した。
【0060】
(ii)PE−1の重合方法
内容積5.0リットルの撹拌式オートクレーブ型連続反応器を用い、反応器内の圧力を80MPaに保ち、エチレンを34.4重量%、プロピレンを26.3重量%、1−ヘキセンを39.2重量%となるように40kg/時の割合で原料ガスを連続的に供給した。また、上記(i)触媒の調製の項に記載の触媒溶液を連続的に供給し、重合温度が213℃を維持するようにその供給量を調整した。1時間あたりのポリマー生産量は約3.9kgであった。反応終了後、プロピレン含有量が12.1重量%、1−ヘキセン含有量が11.3重量%、MFRが30g/10分、密度が0.880g/cm
3であるエチレン・プロピレン・1−ヘキセン共重合体(PE−1)を得た。
【0061】
(2)シランカップリング剤(B)
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM503)
(3)有機過酸化物(C):t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)TBEC)
(4)ヒンダードアミン系光安定化剤(D):コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(BASF社製、TINUVIN 622LD)
(5)紫外線吸収剤:2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン(サンケミカル社製、CYTEC UV531)
【0062】
(実施例1)
エチレンとプロピレン、1−ヘキセンの共重合体(PE−1)100重量部に対して、有機過酸化物として、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富社製、ルペロックスTBEC)を1.0重量部と、シランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM503)を0.3重量部、ヒンダードアミン系光安定化剤として、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物(BASF社製、TINUVIN 622LD)0.05重量部配合した。これを十分に混合し、スクリュー径65mmφ、スクリューL/D=32である同方向2軸押出機を有するダイ幅1170mmのTダイ成形機を用いてシート成形を行い厚み0.45mmのシートを得た。樹脂温度を98℃となるよう温度設定およびスクリュー回転数を調整し、吐出量は130kg/hとした。またTダイのリップギャップは0.8mmとしエアギャップは300mmとした。引取り速度は5.8m/分であり、このときの延伸倍率は2.0であった。表面がマット加工されている第1冷却ロール(300mmφ)の温度は35℃、シリコンゴム製のタッチロール(300mmφ)の温度は8℃とした。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.8でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0063】
(実施例2)
Tダイ成形時の樹脂吐出量を230kg/hと増やし、引取り速度を10.4m/分とした以外は実施例1と同様の条件でシート成形を行った。樹脂温度は104℃であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.8でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0064】
(実施例3)
実施例1と同じ配合でスクリュー径35mmφ、スクリューL/D=28である同方向2軸押出機で100℃の樹脂温度で溶融混練し組成物を一旦ペレット化した。得られたペレットを40mmφの単軸押出機を有するダイ幅300mmのTダイ成形機を用いてシート成形を行い厚み0.45mmのシートを得た。樹脂温度を100℃となるよう温度設定およびスクリュー回転数を調整し、吐出量は7kg/hとした。またTダイのリップギャップは0.8mmとしエアギャップは90mmとした。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は2.1であった。表面がマット加工されている第1冷却ロール(250mmφ)の温度は43℃、耐熱シリコンゴム製のタッチロール(120mmφ)の温度は5℃とした。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.4でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0065】
(実施例4)
使用するエチレン・α−オレフィン共重合体(A)をエチレン・1−オクテン共重合体「ダウ社製 エンゲージ8407」(PE−2)とした以外は実施例3と同様の条件で行った。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.6でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0066】
(実施例5、6)
使用するエチレン・α−オレフィン共重合体(A)をエチレン・1−オクテン共重合体「DEX PLASTMERS社製 EXACT8230」(PE−3)、もしくはエチレン・1−ブテン共重合体「三井化学社製 タフマーA35070S」(PE−4)とした以外は実施例3と同様の条件で行った。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.6でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0067】
(実施例7)
リップギャップを1.3mmとした以外は実施例3と同様の条件で行った。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は3.5であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.5でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0068】
(実施例8)
リップギャップを1.0mmとした以外は実施例3と同様の条件で行った。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は2.7であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は0.4でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
(実施例9)
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の代わりに低密度ポリエチレン「日本ポリエチレン社製 ノバテックLD LC800」(PE−5)を用いて実施例1と同じ添加剤配合で実施例3と同じ手順および成形機を用いて、同条件にてシート成形を行い厚み0.45mmのシートを得た。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は2.1であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は2.3であった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0069】
(比較例1)
エチレン・α−オレフィン共重合体(A)の代わりにエチレン・酢酸ビニル共重合体「三井デュポンポリケミカル社製 エバフレックスEV150」(EVA−1)用いて実施例1と同じ添加剤配合にて実施例1と同じTダイ成形機を用いてシート成形を行い厚み0.45mmのシートを得た。樹脂温度を113℃となるよう温度設定およびスクリュー回転数を調整し、吐出量は230kg/hとした。またTダイのリップギャップは0.8mmとしエアギャップは450mmとした。引取り速度は9.5m/分であり、このときの延伸倍率は2.0であった。表面がマット加工されている第1冷却ロール(300mmφ)の温度は18℃、シリコンゴム製のタッチロール(300mmφ)の温度は8℃とした。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は5.5でありアニール等の後処理無しでは使用できないレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0070】
(比較例2)
比較例1と同じ樹脂配合で実施例3と同じ手順および成形機を用いて、ロール温度以外は同条件にてシート成形を行い厚み0.45mmのシートを得た。引取り速度は1.2m/分であり、このときの延伸倍率は2.2であった。表面がマット加工されている第1冷却ロール(250mmφ)の温度は20℃、シリコンゴム製のタッチロール(120mmφ)の温度は10℃とした。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかった。またダイリップへのメヤニの付着もなかった。得られたシートの熱収縮率は2.5でありアニール等の後処理無しでは使用できないレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0071】
(比較例3)
リップギャップを0.6mmとした以外は比較例2と同様の条件で行った。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は1.6であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかったが、ダイリップへのメヤニの付着が確認されロングラン成形安定性が不足していた。得られたシートの熱収縮率は1.5でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0072】
(比較例4)
リップギャップを0.6mmとした以外は実施例3と同様の条件で行った。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は1.6であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかったが、ダイリップへのメヤニの付着が確認されロングラン成形安定性が不足していた。得られたシートの熱収縮率は0.4でありアニール等の後処理無しに使用できるレベルであった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0073】
(比較例5)
リップギャップを1.6mmとした以外は実施例3と同様の条件で行った。引取り速度は1.3m/分であり、このときの延伸倍率は4.3であった。シート成形は極めて安定しており、タッチロールへの巻きつきもなく、第1冷却ロールからのシートの剥離も問題なかったが、流れ方向でのシート厚みむらが確認され厚みの安定したシートが得られなかった。なお、安定した状態でのシートが得られなかったため収縮率の測定は実施しなかった。加工条件および評価結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
(参考例1〜5)
参考例1〜参考例5については、ロール温度によるメヤニ及び加工性への影響を評価するため、第1冷却ロールおよびタッチロールの温度設定を表2に示すように変化させた以外は実施例3と同様の条件で、メヤニ及び加工性の評価を行った。適切なロール温度を選択しない場合はタッチロールへのシート取られや第1冷却ロールからの剥離に問題が生じ安定してシート成形ができないことがわかる加工条件および評価結果を表3に示す。
(参考例6)
エアギャップを長くした以外は実施例3と同様の条件で行った。エアギャップ部で溶融樹脂膜が安定せず厚みむらのないシートを得ることができなかった。加工条件および評価結果を表3に示す。
(参考例7)
第1冷却ロールの温度を30℃とした以外は比較例2と同様の条件で行った。第1冷却ロールからの剥離が困難であり剥離時にシートが変形するなど安定してシート成形ができなかった。加工条件および評価結果を表3に示す。
【0076】
【表3】