(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136510
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】噴射制御方法及び噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/025 20060101AFI20170522BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20170522BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20170522BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20170522BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20170522BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
F01N3/025 101
F01N3/035 E
F01N3/20 B
F01N3/28 301E
F01N3/36 B
F02D41/04 385M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-85799(P2013-85799)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-208979(P2014-208979A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】長岡 大治
【審査官】
稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−144525(JP,A)
【文献】
特開2011−256848(JP,A)
【文献】
特開2011−241690(JP,A)
【文献】
特開2008−64004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置に於いて、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生する噴射制御方法であって、
予め、前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって、ライトオフ特性マップを作成しておく工程と、
前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを参照する事によって、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定する工程と、
前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施する工程と、
を含み、
前記燃料供給噴射は、ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射であり、
前記酸化触媒の温度閾値を設定する工程に於いては、前記酸化触媒の劣化度に応じて異なる温度閾値を設定する
ことを特徴とする噴射制御方法。
【請求項2】
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置に於いて、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生する噴射制御方法であって、
予め、前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって、ライトオフ特性マップを作成しておく工程と、
前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを参照する事によって、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定する工程と、
前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施する工程と、
を含み、
前記燃料供給噴射は、ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射であり、
前記酸化触媒の出入口の温度に基づいて燃焼効率を求め、求めた前記燃焼効率と前記ライトオフ特性マップとに基づいて前記酸化触媒の劣化度を求め、求めた前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを補正する工程を更に含む
ことを特徴とする噴射制御方法。
【請求項3】
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置に於いて、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射及びポスト噴射と前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生する噴射制御方法であって、
予め、前記ポスト噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性と、前記排気管内噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性と、を別々に求める事によって、ライトオフ特性マップを作成しておく工程と、
前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを参照する事によって、前記酸化触媒の劣化度に基づいた、前記マルチ噴射を実施するマルチ噴射領域と、前記ポスト噴射を実施するポスト噴射領域と、前記排気管内噴射を実施する排気管内噴射領域と、を決定し、前記酸化触媒の温度に基づいて前記マルチ噴射と前記ポスト噴射と前記排気管内噴射とを選択的に実施する工程と、
を含む
ことを特徴とする噴射制御方法。
【請求項4】
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置と、
前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生するエンジンコントロールユニットと、
を備える噴射制御装置であって、
前記エンジンコントロールユニットは、
予め前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって作成しておいたライトオフ特性マップを、前記酸化触媒の劣化度に基づいて参照する事によって、前記酸化触媒の劣化度に応じて異なる、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定し、
前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施し、
前記燃料供給噴射は、
ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射である
ことを特徴とする噴射制御装置。
【請求項5】
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置と、
前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生するエンジンコントロールユニットと、
を備える噴射制御装置であって、
前記エンジンコントロールユニットは、
予め前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって作成しておいたライトオフ特性マップを、前記酸化触媒の劣化度に基づいて参照する事によって、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定し、
前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施し、
前記酸化触媒の出入口の温度に基づいて燃焼効率を求め、求めた前記燃焼効率と前記ライトオフ特性マップとに基づいて前記酸化触媒の劣化度を求め、求めた前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを補正し、
前記燃料供給噴射は、
ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射である
ことを特徴とする噴射制御装置。
【請求項6】
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置と、
前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射及びポスト噴射と前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生するエンジンコントロールユニットと、
を備える噴射制御装置であって、
前記エンジンコントロールユニットは、
予め前記ポスト噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性と前記排気管内噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性とを別々に求める事によって作成しておいたライトオフ特性マップを、前記酸化触媒の劣化度に基づいて参照する事によって、前記酸化触媒の劣化度に基づいた、前記マルチ噴射を実施するマルチ噴射領域と、前記ポスト噴射を実施するポスト噴射領域と、前記排気管内噴射を実施する排気管内噴射領域と、を決定し、前記酸化触媒の温度に基づいて前記マルチ噴射と前記ポスト噴射と前記排気管内噴射とを選択的に実施する
ことを特徴とする噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DPFを備えた排ガス後処理装置に係り、特に、DPFに堆積したPMを燃焼させて再生する際に、ポスト噴射や排気管噴射を最適に制御できる排ガス後処理装置の排気噴射制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガス後処理装置としてDOC(Diesel Oxidation Catalyst;酸化触媒)、DPF(Diesel Particulate Filter)、NOx吸蔵還元型触媒(LNT:Lean NOx TrapもしくはNSR:NOx Strage Reduction)、尿素SCR(Selective Catalystic Reduction)システム等が実用化されている。
【0003】
このうちDOCとDPFシステムは、PM低減のための有力な手段である。排ガス流の前段に設けられるDOCは、固体のSoot自体は酸化できないが、PM全体の30〜70%を占める可溶性有機成分(SOF)の大部分を酸化し、HCやCOも同時に除去し、後段に設けられるDPFは、細孔径を有する多孔質セラミック等で形成され、排ガス中のPMの大部分を捕捉する。
【0004】
このDPFで捕捉したPMが一定量堆積したときは、堆積したPMを除去すべくDPFを強制再生することが行われている。DPFの再生は、多段噴射、ポスト噴射、排気管噴射等を行い、燃料をDOCで酸化燃焼させて排ガス温度を上げ、DPFに堆積したPMを燃焼除去するものである。
【0005】
排気管噴射は、燃焼の膨張行程に筒内への噴射を行う(所謂ポスト噴射)に対して、燃料によるオイル希釈が無い、噴射量の全てを昇温のために使用できるので昇温にかかる燃費悪化を低減できる、等のメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−162578号公報
【特許文献2】特開2009−002270号公報
【特許文献3】特開2012−127297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、排気管噴射によるHC供給は、排ガス温度が低温程HCへの分解に時間が掛かる問題がある。すなわち排気管噴射の場合、触媒(DOC)がフレッシュの状態でも、排ガス温度が220℃以下ではライトオフ特性が悪く、筒内へのポスト噴射よりも、活性温度(ライトオフ温度)が高温側にシフトしているため、排ガス温度を220℃以上に昇温する必要がある。よって、低温域はポスト噴射を使用し、中・高温域は排気噴射を行ったり、多段噴射(マルチ噴射)等による排気ガス昇温により、排気噴射可能な温度まで昇温してから排気噴射を行わなければならない問題がある。
【0008】
また、触媒が劣化してくると(貴金属シンタリング等による、活性温度の高温側へのシフト)ライトオフ温度も高温側にシフトするので、DPF再生時に排気管噴射による昇温が上手く機能せず、白煙の生成や、HCによる被毒を招いたり、その後の排ガス温度の上昇時にHCが一気に燃焼して異常昇温を起こし、最悪の場合触媒が溶損する場合が考えられる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、DPF再生時に排気管噴射を行う際に、触媒温度と触媒劣化度に応じて最適な排気管噴射が行える排ガス後処理装置の排気噴射制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置に於いて、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生する噴射制御方法であって、予め、前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって、ライトオフ特性マップを作成しておく工程と、前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを参照する事によって、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定する工程と、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施する工程と、を含み、前記燃料供給噴射は、ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射であり、前記酸化触媒の温度閾値を設定する工程に於いては、前記酸化触媒の劣化度に応じて異なる温度閾値を設定する噴射制御方法噴射制御方法
を提供する。
また、本発明は、エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置に於いて、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生する噴射制御方法であって、予め、前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって、ライトオフ特性マップを作成しておく工程と、前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを参照する事によって、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定する工程と、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施する工程と、を含み、前記燃料供給噴射は、ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射であり、前記酸化触媒の出入口の温度に基づいて燃焼効率を求め、求めた前記燃焼効率と前記ライトオフ特性マップとに基づいて前記酸化触媒の劣化度を求め、求めた前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを補正する工程を更に含む噴射制御方法を提供する。
また、本発明は、エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置に於いて、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射及びポスト噴射と前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生する噴射制御方法であって、予め、前記ポスト噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性と、前記排気管内噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性と、を別々に求める事によって、ライトオフ特性マップを作成しておく工程と、前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを参照する事によって、前記酸化触媒の劣化度に基づいた、前記マルチ噴射を実施するマルチ噴射領域と、前記ポスト噴射を実施するポスト噴射領域と、前記排気管内噴射を実施する排気管内噴射領域と、を決定し、前記酸化触媒の温度に基づいて前記マルチ噴射と前記ポスト噴射と前記排気管内噴射とを選択的に実施する工程と、を含む噴射制御方法を提供する。
また、本発明は、エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置と、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生するエンジンコントロールユニットと、を備える噴射制御装置であって、前記エンジンコントロールユニットは、予め前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって作成しておいたライトオフ特性マップを、前記酸化触媒の劣化度に基づいて参照する事によって、前記酸化触媒の劣化度に応じて異なる、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施し、前記燃料供給噴射は、ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射である噴射制御装置を提供する。
また、本発明は、エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置と、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射と前記酸化触媒に燃料を供給する燃料供給噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生するエンジンコントロールユニットと、を備える噴射制御装置であって、前記エンジンコントロールユニットは、予め前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性を求める事によって作成しておいたライトオフ特性マップを、前記酸化触媒の劣化度に基づいて参照する事によって、前記燃料供給噴射を開始する前記酸化触媒の温度閾値を設定し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値未満の場合は、前記マルチ噴射を実施し、前記酸化触媒の温度が前記温度閾値以上の場合は、前記燃料供給噴射を実施し、前記酸化触媒の出入口の温度に基づいて燃焼効率を求め、求めた前記燃焼効率と前記ライトオフ特性マップとに基づいて前記酸化触媒の劣化度を求め、求めた前記酸化触媒の劣化度に基づいて前記ライトオフ特性マップを補正し、前記燃料供給噴射は、ポスト噴射若しくは前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射である噴射制御装置を提供する。
また、本発明は、エンジンの排気管の途中に設置された排気管インジェクタと、前記排気管の途中であって前記排気管インジェクタの排気下流側に設置された酸化触媒と、前記排気管の途中であって前記酸化触媒の排気下流側に設置されたパティキュレートフィルタと、を有する排ガス後処理装置と、前記パティキュレートフィルタに粒子状物質が堆積した時に、前記エンジンに於けるマルチ噴射及びポスト噴射と前記排気管インジェクタを通じた排気管内噴射とを選択的に実施し、排ガス温度を上昇させ、前記パティキュレートフィルタに堆積した前記粒子状物質を燃焼させる事によって、前記パティキュレートフィルタを再生するエンジンコントロールユニットと、を備える噴射制御装置であって、前記エンジンコントロールユニットは、予め前記ポスト噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性と前記排気管内噴射を実施した時の前記酸化触媒の劣化前後に於ける前記酸化触媒のライトオフ特性とを別々に求める事によって作成しておいたライトオフ特性マップを、前記酸化触媒の劣化度に基づいて参照する事によって、前記酸化触媒の劣化度に基づいた、前記マルチ噴射を実施するマルチ噴射領域と、前記ポスト噴射を実施するポスト噴射領域と、前記排気管内噴射を実施する排気管内噴射領域と、を決定し、前記酸化触媒の温度に基づいて前記マルチ噴射と前記ポスト噴射と前記排気管内噴射とを選択的に実施する噴射制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、予め触媒のライトオフ特性を求めたマップを作成し、触媒温度と触媒劣化度に応じてマルチ噴射、ポスト噴射、排気管噴射を選択することで最適な状態で排気管噴射が行えるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の排ガス後処理装置の排気噴射制御方法の装置構成を示す図である。
【
図2】本発明のライトオフ特性マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0016】
図1は、NOx吸蔵還元型触媒による排ガス後処理装置10を示したものである。
【0017】
エンジンEの吸排気系には、ターボチャージャ11とEGR管12が接続されており、エアクリーナ13から吸入される空気は、ターボチャージャ11のコンプレッサ14で圧縮されると共に吸気通路15に圧送され、エンジンEの吸気マニホールド16からエンジンE内に供給される。吸気通路15には、エンジンEへの空気量を調節するための吸気バルブ17が設けられる。
【0018】
エンジンEから排出された排ガスは、排気マニホールド18からターボチャージャ11のタービン19に排出されると共にタービン19を駆動し、排気管20に排気される。
【0019】
吸気マニホールド16と排気マニホールド18にはEGR管12が接続され、EGR管12に、排気マニホールド18から吸気マニホールド16に至る排ガスを冷却するためのEGRクーラ21が接続されると共に、EGR量を調節するEGRバルブ22が接続される。
【0020】
排ガス後処理装置10は、タービン19の下流側の排気管20に排気管インジェクタ23が設けられ、その排気管インジェクタ23の下流側の排気管20に形成されたキャニング容器24内に、DOC25、NOx吸蔵還元型触媒26、DPF27が順次キャニングされて構成される。
【0021】
DOC25の上流側の排気管20には、DOC入口側温度センサ28、NOx吸蔵還元型触媒26の入口側には触媒入口側温度センサ29、出口側には触媒出口側温度センサ30が設けられる。
【0022】
エンジンEは、ECU32により運転の全般的な制御がなされる。ECU32には、温度検出手段33、空燃比制御手段34、噴射制御手段35が形成されると共に触媒(DOC)のライトオフ特性マップ36が格納される。
【0023】
エンジン出口側から触媒出口側の温度センサ28〜30の各検出値は、エンジンEの運転を制御するECU32の温度検出手段33に入力される。
【0024】
空燃比制御手段34は、EGRバルブ22、吸気バルブ17を制御し、噴射制御手段35は、エンジンEの燃焼噴射量を制御すると共にインジェクタによるマルチ噴射、ポスト噴射を制御し、さらに排気管インジェクタ23から噴射する燃料を制御する。
【0025】
このNOx吸蔵還元型触媒による排ガス後処理装置10は、通常は空燃比リーン状態でNOxをNOx吸蔵還元型触媒26で吸蔵し、その間に排気管インジェクタ23で燃料HCをパルス的に噴射して空燃比リッチ状態でNOx還元浄化を行う。
【0026】
また排ガス中のPMは、DPF27で捕捉されるが、DPF27へのPM堆積量が所定量溜まったならば、例えば、DPF27前後の差圧が一定に達したときや、所定の走行距離を走行したとき、ECU32がPMの自動再生制御を行う。このPM再生の際には、ポスト噴射や排気管インジェクタ23による燃料噴射を行って排ガス温度を600℃に上げることで、DPF27へ堆積したPMを燃焼させる。
【0027】
このPM再生時に燃料HCを噴射するに際し、ECU32は、温度検出手段33に入力される温度センサ28〜30の排ガス温度に基づき、触媒温度(DOC温度)を推定し、ライトオフ特性マップ36からマルチ噴射、ポスト噴射、排気管噴射を選択する。この際、触媒温度が低いときマルチ噴射とポスト噴射、或いはマルチ噴射を行い、触媒温度が排気管噴射できる設定温度以上に達したときに排気管噴射を行ってDPF27を再生する。
【0028】
このライトオフ特性マップ36を
図2により説明する。
【0029】
図2は、触媒温度を横軸にとり、縦軸に燃料のライトオフ特性としての燃焼の効率Kをとり、それぞれ触媒温度を変えて、ポスト噴射を行ったときのライトオフ特性曲線Lpと排気管噴射を行ったときのライトオフ特性曲線Leを示したものである。
【0030】
このライトオフ特性曲線Lp、Leは触媒がフレッシュな状態を実線で示し、劣化後の状態の特性曲線Lpd、Ledを点線で示している。
【0031】
このポスト噴射のライトオフ特性曲線Lpは、筒内で燃料のオイル希釈(ダイリューション)が生じるため、排気管噴射のライトオフ特性曲線Leより5%程度効率が落ちる特性となる。
【0032】
ここで、触媒がフレッシュな状態のとき、触媒温度Ta(例えば200℃)に達するまでは、マルチ噴射領域とし、触媒温度Taから触媒温度Tb(例えば220℃)までは、ポスト噴射領域(又はマルチ噴射を継続したマルチ噴射領域)、触媒温度Tb以上のとき排気管噴射領域と設定する。また触媒の劣化後は、触媒温度Tbに達するまでは、マルチ噴射領域とし、触媒温度Tbから触媒温度Tc(例えば250℃)までは、ポスト噴射領域(又はマルチ噴射を継続したマルチ噴射領域)とし、触媒温度Tb以上のとき排気管噴射領域として、それぞれの動作温度を設定する。
【0033】
DPFを再生する際、ECU32は、温度検出手段33からの触媒(DOC)の出入口温度から触媒温度を推定し、その触媒温度を基に、燃焼の効率Kをライトオフ特性マップ36からマルチ噴射、ポスト噴射、排気管噴射を選択する。
【0034】
すなわち、触媒がフレッシュなとき触媒温度Ta(200℃)未満のときの劣化前シーケンスでは、マルチ噴射(パイロット、プレ、メイン、アフタを適宜選択して噴射)を行って、排ガス温度を上げ、触媒温度Ta以上となったときポスト噴射を行う。これにより、ライトオフ特性曲線Lpに示したように効率Kがアップし、触媒温度Tb(220℃)になったときに排気管噴射を行うことで、ライトオフ特性曲線Leに示したように高効率でDPFの再生を行うことができる。またマルチ噴射後、ポスト噴射を順次切り換える変わりにマルチ噴射のみで触媒温度Tbを220℃に上げた後、排気管噴射を行うようにしてもよい。
【0035】
また、触媒が劣化した後の劣化後シーケンスでは、例えば触媒温度Tb(220℃)に達するまでマルチ噴射を行い、触媒温度Tbに達した後は、ポスト噴射に切り換え、或いはマルチ噴射を継続して特性曲線Lpdのように効率Kをアップしていき、触媒温度Tc(250℃)になったときに排気管噴射に切り換え、ライトオフ特性曲線Ledのように効率を上げ、最終的にライトオフ特性曲線Leに示した効率でPMを燃焼させてDPFを再生する。
【0036】
触媒のフレッシュな状態から劣化までのライトオフ特性曲線Lp、Leの選定は、基本的には触媒の経年数を基に劣化度を決定するが、触媒の出入口の排ガス温度から燃焼の効率を求め、この効率とライトオフ特性マップのライトオフ特性曲線Lp、Leを基に触媒の劣化度を設定し、その劣化度からライトオフ特性曲線Lp、Leと劣化後の特性曲線Lpd、Ledを基に、ライトオフ特性を補正し、その補正したライトオフ特性に応じてマルチ噴射領域とポスト噴射領域と排気管噴射領域を変更して行く。
【0037】
このように、本発明は、触媒が劣化してライトオフ性能が高温側にシフトした場合でも、マルチ噴射、ポスト噴射、排気管噴射を的確に選択することで、低温側での還元効率を向上させることができる。またDPF再生効率向上のために、低温域では、排気管噴射を行わずにポスト噴射或いはマルチ噴射に切り替えることができるため、触媒のHC被毒やその後の溶損を防止することができる。
【0038】
上述の実施の形態では、NOx吸蔵還元型触媒を用いた排ガス後処理装置のDPF再生時の排気管噴射の例で説明したが、本発明はSCR触媒を用いた排ガス後処理装置のDPF再生にも、その他、排気管噴射でDPFを再生する後処理装置のいずれにも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
20 排気管
23 排気管インジェクタ
25 DOC
27 DPF
32 ECU
36 ライトオフ特性マップ
E エンジン