(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記椅子本体が、前記背部の曲率の中心を前記座部の中央に立てた仮想垂直線付近に位置させたものであり、前記座部を前記仮想垂直線に沿った視線において略円形に形成している請求項1、2、3又は4記載の椅子。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、
図1〜9を参照して説明する。なお、
図3〜8は、椅子本体Hが着座時の通常姿勢(D)にある状態のものを示しているが、説明の便宜上、着座者Pを図示せずに省略している。
【0021】
この実施形態は、本発明を、主として講義室や会議室や執務空間等において用いられる椅子Cに適用したものである。椅子Cは、例えば、着座者Pが着座した状態で移動したり、着座者Pが頻繁に着座する動作や着座状態から起立する動作を繰り返したりするような学習や研究活動、すなわち、アクティブラーニングとも称される姿勢を変えながら行う学習や研究活動の場において好適に使用されるものである。
【0022】
椅子Cは、床面Fに対して移動可能なものであり、着座者Pを包み込む方向に湾曲する背部1及び背部1に一体的に設けられた座部2を備えた椅子本体Hと、椅子本体Hを背部1及び座部2の相対的な角度を変更することなく着座者Pが着座していない無負荷時の前傾姿勢(I)から着座時の通常姿勢(D)までの間で動作し得るように支持する支持体Sとを具備するものである。
【0023】
椅子本体Hは、主として着座者Pの背中を支持するための背部1と、主として着座者Pの臀部を支持するための座部2とを備えたものであり、これら座部1と背部2との相対的な角度が変わらないように構成している。椅子本体Hは、平面視において後方に向けて凸をなすように円弧状に湾曲した背部1を備えたものであり、背部1の曲率の中心xを座部2の中央に立てた仮想垂直線v付近に位置させている。椅子本体Hは、着座しようとしている着座者Pに、座部2よりも背部1が優先的に接触し得るように前傾姿勢(I)における背部1と座部2との位置関係を設定したものである。以下、各構成について具体的に説明する。
【0024】
背部1は、左右両側部に前方への突出部たる延出部分11dを有するように構成したものである。背部1は、着座者Pの背中を直接的に支持する背本体11と、この背本体11を背面側から支持する背フレーム12とを備えたものである。背本体11及び背フレーム12は、それぞれ背面視において略T字状をなしている。背部1は、突出部である左右両端部が肘当ての機能を兼ね得るように形成されている。
【0025】
背本体11は、着座者Pの背中を直接的に支持するサポート部11aと、サポート部11bの左右方向中間部の下縁から下方に延出し座部2の後端に連続する連絡部11bとを一体に形成したものである。
【0026】
サポート部11aは、正面視において横長楕円形状をなしており、平面視、或いは、平断面視において着座者Pを包み込む方向に湾曲している。すなわち、このサポート部11aは、平面視において前側を開放させた部分円弧状に湾曲したものであり、その曲率の中心xが前述した仮想垂直線vの若干後ろに位置するように設定されている。そして、このサポート部11aの両端部分が背フレーム12により支持されている。
【0027】
サポート部11aは、下縁を連絡部11bに連続させた中央部分11cと、この中央部分11cの左右両端から外側方に延出するとともに前方に延出した左右の延出部分11dとを備えている。左右の延出部分11dは、中央部分11cよりも長い幅寸法に設定されている。そして、左右の延出部分11dの上縁eが、着座時において着座者Pの肘が無理なく当接し得る位置に設定されており、肘当てとして機能し得るようになっている。椅子本体Hが前傾位置(I)にある場合における左右の延出部分11dの上縁eは、通常位置(D)にある場合よりも前傾している。サポート部11aの高さ位置及び両端間の距離は、平均的な着座者Pの腰や胴体部分を後方から包み込むことが可能であり、且つ、着座者Pの肘が当接することが可能な値に設定されている。背部2の上端部すなわちサポート部11aの前面は、仮想垂直線vに沿った上側からの視線において座部2の後縁付近に位置するように設定されている。連絡部11bは、サポート部11aと座本体21との間に位置する上下方向に延びる板状のものである。連絡部11bの上部は側面視において座部2に対して大きく前傾している。
【0028】
背フレーム12は、サポート部11aの背面側に配される横支持部分12aと、横支持部分12aの中央を座部2の下面に支持させた縦支持部分12bとを備えてなるもので、背面視において略T字状をなしている。横支持部分12aと縦支持部分12bとは合成樹脂により一体に形成されている。
【0029】
横支持部分12aは、平面視及び平断面視において着座者Pを包み込む方向に湾曲している。横支持部分12aの両端部は、サポート部11aに沿うようにして前方に延出している。縦支持部分12bは、連絡部11bと同様に座部2に対して大きく前傾している。その結果、サポート部11aは、座部2の後縁部よりも前方に位置し、着座者Pが着座しようとする時に着座者Pの腰部分が接触し易くなっている。換言すれば、サポート部11aは、着座者Pの腰部分を着座時に触れさせることによって着座位置をガイドし得るものとなっている。背本体11は、背フレーム12の2箇所に接続している。具体的には、サポート部11aにおける左右の延出部分11dの裏面側の2箇所が、背フレーム12における横支持部分12aの左右両端部の2箇所に接続している。しかして、背本体11の背面と背フレーム12の前面との間には隙間が形成されている。
【0030】
座部2は、仮想垂直線vに沿った視線において略円形に形成しているものであり、座本体21と、座本体21を下側から支持する座受部材22とを備えている。
【0031】
座本体21は、座部2を平面視及び仮想垂直線vに沿った視線において略円形に形成してなるもので、その後縁に背本体11の連絡部11bが一体に連続させてある。
【0032】
座受部材22は、座本体21を下面側から覆うシェル状のもので中央部下面に支持体Sに関わり合う凹陥部22aを備えている。座受部材22の後端部には、背フレーム12の縦支持部分12bが連設されている。
【0033】
支持体Sは、金属パイプ材を主体に構成した支持体本体3と、この支持体本体3を床面Fに対して移動可能にするための車輪を有した移動具であるキャスタ4と、支持体本体3に対して椅子本体Hを前傾姿勢(I)方向に付勢する付勢部材であるスプリング5とを備えたものである。以下、支持体Sの各構成について詳述する。
【0034】
支持体本体3は、前後に延びる対をなすベース31と、これらベース31から起立した左右の支柱32と、左右の支柱32の上端に設けた左右対をなす座受フレーム33とを備えたものである。座受フレーム33は、左右の支柱32の上端からそれぞれ前方に延びている。座受フレーム33の前端同士は、前フレーム34により連結されており、座受フレーム33の後部同士は、ブロック状の横架部材35により連結されている。側面視において前傾している左右の支柱32同士は、後フレーム36により連結されている。左右のベース31と左右の支柱32と左右の座受フレーム33と前フレーム34とは、一本のパイプ素材を折り曲げ成形することにより作られており、側面視においてコ字状をなしている。
【0035】
左右のベース31は、平面視及び底面視において前方に向かうに連れて相寄る方向に延びている。そして、椅子本体Hの座部2は、着座者Pが着座していない状態である無負荷時の前傾姿勢(I)において、床面Fに対して前傾している。このため、この実施形態に係る椅子Cは、
図9に具体的に示すように、同一構造をなす他の椅子C’のベース31’間に、対をなすベース31の先端側を侵入させてネスティングできるように構成されている。(なお、
図9では、説明の便宜上、他の椅子の符号に「’」を付している。)
キャスタ4は、車輪を有した既知の構造のものであり、この実施形態では、左右のベース31の前端部分及び後端部分にそれぞれ適宜の方法で取り付けられている。
【0036】
スプリング5は、支持体本体3に対して椅子本体Hを前傾姿勢(I)方向に付勢するとともに、無負荷時において椅子本体Hを前傾姿勢(I)に保持する機能を営むものである。この実施形態では、スプリング5は、両端部51を外部に露出するとともに中央部(図示せず)を前フレーム34内に収容したトーションバータイプのものである。スプリング5の中央部は、前フレーム34に一体的に固定されている。そして、このスプリング5の中央部に対してねじり方向に変位可能な両端部51に、座部2の前部分を固定している。具体的には、座部2における座受部材22の内部に固設した図示しないブラケットを、スプリング5の両端部51に剛結している。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る椅子Cは、床面Fに対して移動可能なものであり、着座者Pを包み込む方向に湾曲する背部1及びこの背部1に一体的に設けられた座部2を備えた椅子本体Hと、椅子本体Hを背部1及び座部2の相対的な角度を変更することなく無負荷時の前傾姿勢(I)から着座時の通常姿勢(D)までの間で動作し得るように支持する支持体Sとを具備している。このため、着座者Pが着座する動作や着座状態から起立する動作に対して、背部1及び座部2を一体的に構成した椅子本体Hが追従し得るものとなり、着座者Pを好ましい位置で受け付けることができるものとなる。
【0038】
例えば、着座者Pが椅子Cに着座した状態で床面Fに対して移動するとともに、着座する動作や着座状態から起立する動作を頻繁に繰り返すような作業形態や学習形態において本実施形態に係る椅子Cは好適である。すなわち、着座者Pが着座しようとする際、及び、着座者Pが起立しようとする際においても、椅子本体Hが着座者Pの臀部や腰部に接する位置又は近接した位置に追従するように移動するため、多様な動作を行う着座者Pであってもその臀部や腰部を好ましい位置で適切に支持することができるものとなる。
【0039】
さらに、椅子本体Hが着座者Pを包み込む方向に湾曲する背部1と座部2とを備え、これらの相対的な角度が変更しないものとなっている。このため、着座時においては背部1が着座者Pを好適にホールドするものとなる。また、着座者Pが着座しようとする際には、椅子本体Hを構成する背部1及び座部2とが協働し、着座者Pに座部2の中心付近を視覚的に把握させ易いものとなり、着座位置の誤りを好適に抑制するものとなる。このため、本実施形態の椅子Cであれば、着座者Pが座部2の中心付近にアプローチし易いものとなるため、例えば、座るポイントを誤って座部2から落下してしまうようなことを好適に抑制するものとなる。
【0040】
背部1が、左右両側部に前方への突出部を有するように構成したものであるため、背部1の左右両側部が肘当ての機能を兼ね得るものとなり、着座者Pにより一層快適な座り心地を提供することができる。例えば、着座者Pが、着座する動作や着座状態から起立する動作を行う際には、肘当て機能を有した背部1の左右両端部を利用することができるため、着座及び起立を好適にサポートするものとなる。
【0041】
椅子本体Hが、背部1の曲率の中心xを座部2の中央に立てた仮想垂直線v付近に位置させたものであるため、座部2の中心付近を、背部1を形状に基づいて着座者Pに導くことができるものとなる。
【0042】
椅子本体Hが、平面視において座部2の後縁よりも背部1の前面を前に位置させるように構成し、着座しようとしている着座者Pに座部2よりも背部1が優先的に接触し得るように前傾姿勢(I)における背部1と座部2との位置関係を設定したものであるため、背部1が着座者Pに着座位置を誘導するためのガイドとして機能し得るものとなる。しかも、本実施形態に係るものであれば、背部1が湾曲しているため、着座者Pを所定の着座位置に好適に導くことができるものとなる。
【0043】
椅子本体Hが、背部1の曲率の中心xを座部2の中央に立てた仮想垂直線v付近に位置させたものであり、座部2を仮想垂直線vに沿った視線において略円形に形成しているため、前傾姿勢(I)にある椅子本体Hの背部1と座部2とが協働し、視覚的に着座者Pに対して、標的に近似した円形の外観を呈する座部2の中心付近を、着座位置として案内し得るものとなる。
【0044】
支持体Sが、支持体本体3と、支持体本体3を床面Fに対して移動可能にするための車輪を有した移動具であるキャスタ4と、支持体本体3に対して椅子本体Hを前傾姿勢(I)方向に付勢する付勢部材であるスプリング5とを備えたものであるため、床面Fに対して対して好適に移動し得る椅子Cを提供することができるとともに、付勢部材であるスプリング5の付勢力を利用して椅子本体Hを前傾姿勢(I)と通常姿勢(D)との間で移動可能なものとすることができる。特に、本実施形態では、スプリング5を捻り反発力を利用したトーションバータイプのものとしているため、座受部材22内に必要な機構を収容することができコンパクトなものとなっている。
【0045】
支持体本体3が、前後に延びる対をなすベース31と、ベース31から起立した左右の支柱32と、左右の支柱32の上端に設けた座受フレーム33とを備えたものであり、同一構造をなす他の椅子C’のベース31’間に対をなすベース31の先端側を侵入させてネスティングできるように構成されたものであるため、不使用時においても、複数の椅子Cをコンパクトに収納することができるものとなる。
【0046】
背本体11の連結部11bが側面視において座部2に対して大きく前傾しているものであるため、着座者Pが着座する位置を座部2の奥方向すなわち座部2の後部方向に導き易いものとなる。
【0047】
なお、本発明は、以上に詳述した実施形態に限られるものではない。
【0048】
上述した実施形態では、椅子本体の背部が背本体と背フレームとを備えたものについて説明したが、このようなものに限定されるものでは無く、例えば、背部を1枚のシェル状に形成するようにしても良い。
【0049】
このようなものとしては、例えば、
図10に示すようなものが考えられる。なお、
図10において、上述した実施形態と同一又は対応する構成については同一の符号を用いて説明することとし、詳細な説明は省略する。また、
図10に示す椅子本体Hは、通常姿勢(D)にあるものを示しており、着座者については図示していない。
図10に示す他の実施形態である椅子Cは、椅子本体Hを構成する背部1が樹脂により1枚のシェル状に形成されている。背部1は、中央部分11cと延出部分11dとを有したサポート部11aと、連絡部11bとを備えている。背部1は、座部2の座本体21と樹脂により一体に形成されている。座本体21の上面にはクッションyが設けられている。当該他の実施形態では、支持体Sは、脚支柱61と脚支柱61から放射状に延びる脚羽根62と脚羽根62の下端に取り付けられるキャスタ4とを備えた支持体本体6と、下端を支持体本体6の脚支柱61に接続するとともに上端を座部2における座本体21の前端に接続した取付部7とを備えている。取付部7の上縁部分は椅子本体Hを構成する背部1及び座本体21と合成樹脂により一体に形成されている。そして、取付部7と座本体21とが接続する屈曲部位を付勢部材5としている。すなわち、当該他の実施形態における付勢部材5は、樹脂の弾性変形を利用して支持体本体6に対して椅子本体Hを前傾姿勢方向に付勢するものである。なお、当該他の実施形態では、付勢部材5とは別に、上端を背部1と座部2との境界部分に取り付けるとともに下端を脚支柱6の上端付近に取り付けた補助弾性体であるガススプリングZを設けており、椅子本体Hの前傾姿勢の位置や着座時の弾性反発力等を補助している。このようなものであっても、所期の目的を発揮することができるものとなる。
【0050】
背部の形状や座部の形状は、本発明の趣旨を逸脱しない限り種々の形状を採用することができるのはもちろんのことである。
【0051】
上述した実施形態では、支持体にキャスタを設けているものを説明したが、このようなものには限定されず、床面に対して移動可能なものであればよい。例えば、脚の下端を滑らかな曲面状に形成することにより床面に対してスライドし易くしたものなどが考えられる。
【0052】
背部を構成する背本体や背フレームの形状や、座部を構成する座本体や座受部材の形状も、本実施形態に示されるものに限定されるものではない。例えば、座本体の左右後端部分に着座者の腰部分を包み込むようにサポートするための起立壁を設けるようにしても良い。このようなものであれば、着座者の着座する動作や着座状態から起立する動作に対し、着座者をより一層好適にサポートし得るものとなる。
【0053】
移動具は、キャスタに限られるものではなく。車輪を有したものであれば、キャスタよりも大きなものであってもよいし、小さなものであっても良い。また、移動具である車輪の方向を身体の傾きを利用して任意の方向に変更するための進行方向変更機構を設けるようにしても良い。
【0054】
上述した実施形態では、付勢部材として、トーションバータイプのスプリングを適用したものを説明したが、このようなものに限定されるものではない。付勢部材としては、例えば、コイルスプリング、板バネ、ガススプリング等、種々のものが考えられる。
【0055】
支持体には、着座者の脚裏を添接させて乗せ置くための脚乗せ部を設けるようにしても良い。
【0056】
支持体には、荷物を載置するための荷台を取り付けるようにしても良い。例えば、左右のベース間に荷台を架設する態様などが考えられる。
【0057】
椅子には、適宜の方法でメモ台を設けても良い。例えば、座受フレーム間に架設した横架部材にメモ台用の支持フレームの一端を取り付けるようにし、この支持フレームを座部の側部に近い箇所を通過させつつ座部の上方に延出させ、当該支持フレームの他端にメモ台を回動可能に取り付けるようなものが考えられる。
【0058】
背部の突出部は、必ずしも左右両側部に有している必要は無く、左右何れかの側部に有するものであればよい。換言すれば、背部の左右一方側のみに肘当ての機能を付与するように構成しても良い。
【0059】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。