(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1,2の何れかにおいて、前記窒化チャンバを兼ねて構成された前記保温チャンバを有する前記搬送ユニットは、前記搬送の工程を利用して前記被処理品を焼入れ温度に保温した状態で該被処理品に窒化処理を施すものとしてあることを特徴とする熱処理設備。
【背景技術】
【0002】
被処理品に対して浸炭焼入れを行う熱処理設備として、従来連続炉形式の熱処理設備と、バッチ炉式の熱処理設備とが知られているが、前者の連続炉形式の熱処理設備の場合、生産性は良好であるものの処理チャンバを必要に応じて増設することが難しく、設備の拡張には限界がある問題がある。
一方後者のバッチ炉式の熱処理設備にあっては処理の効率が低く、生産性が悪いといった問題がある。
【0003】
こうした状況の中で、バッチ炉式の処理チャンバとして複数の浸炭チャンバ及び焼入れチャンバと、これらチャンバとの間で被処理品を受渡しする搬送ユニットとを有し、浸炭チャンバで被処理品を浸炭処理するとともに、搬送ユニット全体を走行させて、浸炭処理後の被処理品を浸炭チャンバから受け取ってこれを搬送ユニットに備えた保温チャンバで焼入れ温度に保温し、焼入れチャンバまで搬送して焼入れを行うようにした熱処理設備が提案されている。
例えば下記特許文献1,特許文献2にこの種の熱処理設備が開示されている。
【0004】
図9は、特許文献1に開示の熱処理設備の一例を具体的に示している。
図に示しているようにこの熱処理設備は、バッチ式処理チャンバとしての複数の浸炭チャンバ200と焼入れチャンバ202、及びレール204上を走行する搬送ユニット206を有している。
浸炭チャンバ200は被処理品Wに対して浸炭処理を行い、また焼入れチャンバ202は内部に油冷槽を備えて、浸炭処理後の被処理品Wを焼入れ処理する。
ここで浸炭チャンバ200には、断熱材226とヒータ224及び内部でガス対流を生ぜしめて被処理品Wの昇温期の加熱を促進する対流加熱用のファン及びこれを回転させるモータ222が設けられている。
【0005】
搬送ユニット206は前部に受渡しチャンバ208を、後部に保温チャンバ210を有している。保温チャンバ210には断熱材226とヒータ212とが設けられており、このヒータ212によって浸炭処理された被処理品Wを焼入れ温度に保温する。
一方前部の受渡しチャンバ208は、複数の浸炭チャンバ200と焼入れチャンバ202との間及び保温チャンバ210との間で被処理品Wを受渡しする。
【0006】
この
図9に示す熱処理設備にあっては、上流工程からの被処理品Wを搬送ユニット206が受渡しチャンバ208で受け取り、その後レール204上を走行して何れかの浸炭チャンバ200へと渡し、そこで浸炭処理させる。
浸炭後において、搬送ユニット206はこれを浸炭チャンバ200から受渡しチャンバ208に受け取った上、保温チャンバ210へと移し変え、そこで浸炭温度から焼入れ温度まで被処理品Wを徐冷した上で焼入れ温度に保温する。
例えば950℃程度の浸炭温度から850℃程度の焼入れ温度まで徐冷した上、焼入れ温度の850℃に保温する。
【0007】
搬送ユニット206は、このような徐冷及び焼入れ温度での保温工程を実行しながら焼入れチャンバ202の位置まで走行し、その後保温チャンバ210内の被処理品Wを受渡しチャンバ208を介して焼入れチャンバ202へと渡す。
焼入れチャンバ202は、受け取った被処理品Wを油冷槽に浸漬させて急冷し焼入れを行う。そしてその後に焼入れ後の被処理品Wを、レール204とは反対側の開口部から排出する。
【0008】
この
図9に示す熱処理設備にあっては、浸炭チャンバ200等の処理チャンバを必要に応じ増設することが可能であって、生産量の増減に対し容易に対応することができる。
また搬送ユニット206が受渡しチャンバ208と保温チャンバ210との2室構造であるため、浸炭処理後の被処理品Wを浸炭チャンバ200から受け取って保温チャンバ210に移し変えた後、上流工程からの新たな被処理品Wを受渡しチャンバ208で受け取って、その後直ちに、たった今被処理品Wの取り出しによって空となった浸炭チャンバ200内に挿入セットすることができ、これにより浸炭チャンバ200内が空である時間を最小限として処理能力を最大限に発揮できるとともに、保温チャンバ210内で浸炭から焼入れまでの熱処理の一部工程、即ち徐冷及び焼入れ温度への保持の工程を、一連の熱処理を途切れさせることなく続行することができる。しかもこれを、被処理品Wを浸炭チャンバ200から焼入れチャンバ202への搬送の工程を利用して行うことができ、全体として浸炭焼入れの処理を高効率で行うことができる。
【0009】
ところで結晶粒を微細化するための浸炭処理の手法として、例えば950℃程度の高温度で被処理品を1次浸炭処理し、その後一旦被処理品を中間冷却した上で1次浸炭よりも低い温度、例えば850℃程度の温度で2次浸炭処理するといったことが行われている(上記の中間冷却では被処理品を2次浸炭の温度よりも低い温度まで強制冷却する。好ましくはA1変態点よりも低い温度まで強制冷却する)。
【0010】
図9に示す熱処理設備において、上記の中間冷却を搬送ユニット206の保温チャンバ210で行うことができれば、保温チャンバ210を中間冷却のために有効に活用し得て好都合である。
ところが
図9に示す熱処理設備にあっては、保温チャンバ210が保温のためのヒータ212を備えているのみで、被処理品Wを2次浸炭の温度よりも低い温度まで強制冷却する機能を備えていないため、上記の異なった浸炭温度での2段階の浸炭処理を行うことができない。
【0011】
特許文献2に開示の熱処理設備は、このような問題を解決することを狙いとしたもので、
図10及び
図11にその一例が具体的に示してある。
この熱処理設備では、図に示しているように保温チャンバ210に被処理品Wを加熱し保温するためのヒータ212に加えて、冷却用ガス(N
2ガス)を保温チャンバ210内に供給する供給口214,供給された冷却用ガスを保温チャンバ210内で撹拌し循環させるための冷却用ファン216及びモータ218,冷却用ガスを通過させて熱交換し、温度低下させる熱交換器220等が設けられている。
【0012】
つまり
図10に示す熱処理設備では、保温チャンバ210が被処理品Wを加熱し保温する機能と、被処理品Wに冷却用ガスのガス流を当てて冷却する機能の両方とを有している。
図11は、
図10に示した熱処理設備における熱処理の際のヒートパターンを示したもので、
図11における保温の工程Hと、冷却(中間冷却)の工程Mとが、
図10の保温チャンバ210によって実行される。
【0013】
ところで、
図9に示す熱処理設備において浸炭処理に加えて窒化処理を行おうとしたとき、浸炭チャンバ200に窒化ガスを導入する窒化ガス導入口を設けて、浸炭チャンバ200に窒化の機能も持たせることが考えられる。
この窒化に際しては、窒化ガスとして一般にアンモニアガスが用いられる。窒化処理ではこのアンモニアガスが分解して活性な窒素を生成させ、その活性な窒素が鋼中に拡散して鋼の表層を硬化させる。
その際、未分解のアンモニアガスが残留するが、この未分解のアンモニアガスは腐食性のガスで、浸炭チャンバ200内の炉内部品がそのアンモニアガスにて腐食し、短期間で消耗してしまう。
そこで部品の更新が必要となるのであるが、実はその部品の更新も困難であるといった問題がある。
以下にこの点を具体的に説明する。
【0014】
アンモニアガスは銅と反応してこれを腐食させる。一方浸炭チャンバ200には銅を含んだ部品が多く存在する。例えば浸炭チャンバ200には、上記のようにガスの対流を生ぜしめて昇温期の被処理品Wの加熱を促進する対流加熱用のファン及びこれを回転させるモータ222が配設されるが、このモータ222には銅製のコイルが用いられている。
浸炭チャンバ200に配置されるヒータ224の導線にもまた銅が用いられている。
【0015】
浸炭チャンバ200にはまた、対流加熱用のモータ222を熱から保護するための水冷パネルが設けられていたり、或いは開口部を開閉する扉のゴムパッキンを保護するための水冷パネルが配置されていたりするが、高温の浸炭チャンバ200内部において冷却の効率を高める必要から、これら水冷パネルにも銅のパネルが用いられる。
【0016】
浸炭チャンバ200内に配設される上記のヒータ224や断熱材226にはカーボンが用いられるが、このカーボンもまたアンモニアガスと反応して損耗を生じる。
これら銅を用いた部品の腐食やヒータ,断熱材の損耗に加えて、浸炭チャンバ200の内部においてはカーボン製のヒータ224に煤が堆積して固着したり、カーボン製の断熱材226が煤の含浸により全体に硬化する問題があり、これにより上記のモータやヒータ等の内部部品を部分的に交換することが難しく、それら交換のためにはヒータ,断熱材を含む全体を全て更新することが必要となってしまい、そのことに多額の費用を要してしまう。
この点は
図10に示す特許文献2の熱処理設備においても同様である。
【0017】
以上のことから、浸炭チャンバ200に窒化機能を設けて、浸炭チャンバ200にて浸炭と窒化を行うといったことは難しく、そこで浸炭チャンバとは別途に窒化処理専用の窒化チャンバを設けることも考えられるが、この場合には新たに窒化チャンバを付加することとなるために多額なコストがかかってしまう。
また専用の窒化チャンバを設けるに当っては、処理効率の上で窒化チャンバを浸炭チャンバの数に見合った数で設けることが実質的に必要となり、現実的に採用することは難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は以上のような事情を背景とし、浸炭チャンバに窒化機能を持たせた場合の問題を生じず、また専用の窒化チャンバを設けることによるコストの増大も生じず、浸炭と併せて窒化も行い得る浸炭窒化焼入れ処理のための熱処理設備を安価に提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
而して請求項1のものは、(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の複数の浸炭チャンバ及び少なくとも1つの焼入れチャンバと、(B)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記浸炭チャンバ及び焼入れチャンバとの間及び該保温チャンバとの間で該被処理品を受渡しする受渡しチャンバとを備え、該浸炭チャンバ及び焼入れチャンバとは分離して独立に構成された搬送ユニットと、を有し、該浸炭チャンバで前記被処理品を浸炭処理するとともに、該搬送ユニット全体を走行させて、該浸炭チャンバから受け取った浸炭処理後の該被処理品を前記保温チャンバで焼入れ温度に保温して前記焼入れチャンバまで搬送し焼入れを行う熱処理設備において、前記搬送ユニットの前記保温チャンバに窒化ガスを導入する窒化ガス導入口を設けて、該保温チャンバを窒化チャンバを兼ねて構成し、浸炭処理後の前記被処理品を前記焼入れチャンバまで搬送する工程を利用して該保温チャンバで該被処理品に窒化処理を行うようになしてあることを特徴とする。
【0021】
請求項2のものは、請求項1において、前記浸炭チャンバとして高温度で1次浸炭する1次浸炭チャンバと、該1次浸炭よりも低い温度で2次浸炭する2次浸炭チャンバとが設けてあり、前記搬送ユニットが、2次浸炭された前記被処理品を前記2次浸炭チャンバから受け取って前記焼入れチャンバまで搬送し、該搬送の工程を利用して該被処理品に窒化処理を施す第2搬送ユニットとして設けてある一方、該第2搬送ユニットとは別途に、前記被処理品を収容しガス冷却装置にて冷却する冷却チャンバと、前記1次浸炭チャンバ及び2次浸炭チャンバとの間及び該冷却チャンバとの間で前記被処理品を受渡しする受渡しチャンバを備え、前記浸炭チャンバ及び焼入れチャンバとは分離して独立に構成されて走行し、1次浸炭処理された前記被処理品を前記1次浸炭チャンバから受け取り、前記冷却チャンバで前記2次浸炭の温度よりも低い温度まで中間冷却した上で、前記2次浸炭チャンバへと渡す第1搬送ユニットが設けてあることを特徴とする。
【0022】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記窒化チャンバを兼ねて構成された前記保温チャンバを有する前記搬送ユニットは、前記搬送の工程を利用して前記被処理品を焼入れ温度に保温した状態で該被処理品に窒化処理を施すものとしてあることを特徴とする。
【0023】
請求項4のものは、請求項2において、前記第1搬送ユニットが、上流工程からの被処理品を受け取って搬送し、前記第1浸炭チャンバに渡すものとしてあることを特徴とする。
【0024】
以上のように本発明は、搬送ユニット全体を走行させて、浸炭チャンバから受け取った被処理品を保温チャンバで焼入れ温度に保温し、焼入れチャンバまで搬送してそこに受渡すことで被処理品の浸炭焼入れを行う熱処理設備において、搬送ユニットの保温チャンバに窒化ガス導入口を設けて、保温チャンバを窒化チャンバを兼ねて構成し、浸炭処理後の被処理品を焼入れチャンバまで搬送する工程を利用して被処理品に窒化処理を行うようになしたもので、本発明によれば、浸炭チャンバに窒化機能を持たせた場合の問題を生じることなく、また窒化のための専用のチャンバを新たに設けることなく、従ってその設置のための費用を要することなく、搬送ユニットにもともと備えられている保温チャンバを利用して被処理品に対する浸炭処理と窒化処理及び焼入れ処理を安価に行うことが可能となる。
しかもその窒化処理を、搬送ユニットにて浸炭処理後の被処理品を焼入れチャンバまで搬送する工程を利用して行うことができ、浸炭窒化焼入れ処理の効率を有効に高めることができる。
【0025】
即ち本発明によれば、浸炭チャンバや焼入れチャンバを増設することで容易に生産量の増大に対応することができる利点に加えて、被処理品に対する浸炭−窒化−焼入れの熱処理を途中で途切れさせることなく搬送ユニットによる搬送と窒化処理とを実行することができる。
【0026】
尚搬送ユニットにおける上記の保温チャンバには、被処理品を強制冷却するためのガス冷却装置の如きものは必要でなく、従って保温チャンバを窒化チャンバを兼ねて構成した場合において、ガス冷却装置に用いられている銅系部品がアンモニアガスと反応して腐食してしまうといった問題は実質的に生じない。
【0027】
また保温チャンバには扉のゴムパッキンの過熱を防ぐ水冷パネルが設けられることがあるが、保温チャンバ内の温度は低いため、水冷パネルとして敢えて銅製のものを用いなくても鋼製のパネルを用いることができる。これによって水冷パネルにおける銅の腐食の問題も回避できる。
【0028】
尤も保温チャンバには保温用のヒータや断熱材が設けられ、通常これらはカーボン製とされるため、アンモニアガスとこれらヒータや断熱材が反応し損耗する可能性も有るが、保温チャンバは浸炭チャンバと異なって、浸炭ガスが煤を生じてその煤がヒータや断熱材に付着したり含浸されたりする問題は生じない。
従って必要が生じた場合には所要部分を部分的に取り替えて更新することが可能である。
同様にヒータの導線として銅が用いられていれば、その銅がアンモニアガスと反応して腐食する問題を生じるが、保温チャンバ内には浸炭ガスが導入されないため、銅の導線の取替えが必要となったときには、容易にこれを部分的に取り替えることが可能である。
【0029】
この請求項1において、浸炭チャンバ,搬送ユニットの受渡しチャンバ及び保温チャンバを真空排気する真空排気手段を設けておくことができる。
このようにすることで、真空下で被処理品を真空浸炭及び窒化処理することができる。
【0030】
次に請求項2は、浸炭チャンバとして、高温度で1次浸炭する1次浸炭チャンバと、これよりも低い温度で2次浸炭する2次浸炭チャンバとを設けて、上記の搬送ユニットを、2次浸炭された被処理品を2次浸炭チャンバから受け取って焼入れチャンバまで搬送し、搬送の工程を利用して被処理品を焼入れ温度に保温状態で窒化処理を施す第2搬送ユニットとして設ける一方、この第2搬送ユニットとは別途に、被処理品を収容しガス冷却装置にて冷却する冷却チャンバと受渡しチャンバとを備え、1次浸炭された被処理品を1次浸炭チャンバから受け取って、冷却チャンバで2次浸炭の温度よりも低い温度まで、好ましくはA1変態点よりも低い温度まで中間冷却した上で2次浸炭チャンバへと受け渡す第1搬送ユニットを設けたものである。
即ちこの請求項2は、本発明を高低異なった温度で2段階に浸炭処理し、その間に中間冷却を施す浸炭窒化処理に適用したものである。
【0031】
このように2段階に亘って被処理品に対し浸炭処理を施し、またその後に窒化処理と焼入れ処理とを行う場合において、
図10に示した特許文献2の熱処理設備における搬送ユニット206の保温チャンバ210に、被処理品に対する窒化機能を持たせること、即ち
図10の保温チャンバ210を窒化チャンバを兼ねて構成するといったことも考えられる。
【0032】
しかしながら
図10の保温チャンバ210には、冷却用ガス(N
2ガス)にて被処理品Wを冷却する冷却ファン216の駆動用モータ218や、水冷パイプ間に冷却用ガスを通して冷却用ガスを冷やす熱交換器220等が設けられており、そのモータ218には銅製のコイルが用いられていたり、また熱交換器220のパイプとして冷却の効率の高い銅パイプが用いられていたりする。従ってこのような保温チャンバ210の内部に窒化ガスを導入してそこで窒化処理を行うようにすると、銅を用いた部品が腐食により短期間で消耗してしまうといった問題を生じる。従ってこのような保温チャンバ210を、窒化チャンバを兼ねて構成するといったことは難しい。
【0033】
またこの
図10の保温チャンバ210は、高温度での1次浸炭とこれよりも低い温度での2次浸炭との間で被処理品を中間冷却する仕事と、更に2次浸炭された被処理品を焼入れ温度に保持する仕事の2つの仕事を1つの搬送ユニットで行わなければならず、浸炭チャンバの数が一定以上に多いと浸炭チャンバ側の稼働率が下がってしまう。
【0034】
保温チャンバ210での被処理品の中間冷却には長い時間がかかってしまい、従って保温チャンバ210に被処理品を入れて中間冷却処理をしている間、保温チャンバ210が中間冷却中の被処理品Wにて塞がってしまい、2次浸炭後の被処理品を焼入れ温度に保持しながら焼入れチャンバまで搬送する仕事をその間できなくなってしまう。
【0035】
従ってこの場合にはもう1つ別の搬送ユニットを設けて、その搬送ユニットの保温チャンバにて、2次浸炭後の被処理品を焼入れ温度に保持し、焼入れチャンバまで搬送してそこで焼入れチャンバに被処理品を渡すようにするのが好都合である。
そのようにすることで、浸炭焼入れの熱処理の効率を有効に高めることができる。
【0036】
この場合において、2次浸炭後の被処理品を焼入れ温度に保持する保温チャンバには、1次浸炭後の被処理品を、その後の2次浸炭に向けて中間冷却する機能を持たせる必要がないため、そのような保温チャンバには、被処理品を強制冷却するガス冷却装置の如きものは備えておく必要がない。
この点を利用して、2次浸炭後の被処理品を焼入れ温度に保持する側の搬送ユニットの保温チャンバに窒化機能を持たせておけば、もともと搬送ユニットとして必要であった保温チャンバを、そのまま窒化チャンバとして構成することができる。
【0037】
本発明の請求項2は、このような着眼の下に構成されているもので、この請求項2の熱処理設備によれば、被処理品に対する1次浸炭と2次浸炭との2段階の浸炭処理と焼入れ処理とを行いつつ、更に加えて窒化処理も併行して行うことが可能であり、しかも2つの搬送ユニットを役割分担させつつ用いることが可能で、そのことによって被処理品に対する2段階の浸炭,焼入れ及び窒化の熱処理を高効率で無駄なく実行することが可能となる。
【0038】
この請求項2においては、1次及び2次の浸炭チャンバ,第2搬送ユニットの受渡しチャンバ及び保温チャンバ,第1搬送ユニットの受渡しチャンバ及び冷却チャンバを真空排気する真空排気手段を設けておくことができる。
【0039】
本発明では、窒化チャンバを兼ねて構成された上記の保温チャンバを有する搬送ユニットを、搬送の工程を利用して被処理品を焼入れ温度に保温した状態で被処理品に窒化処理を施すものとしておくことができる(請求項3)。
【0040】
また請求項2において、第1搬送ユニットが上流工程からの被処理品を受け取って搬送し、第1浸炭チャンバに渡すものとしておくことができる(請求項4)。
【0041】
本発明において、上記の保温チャンバには断熱材と、該断熱材にて囲まれた空間内に被処理品を加熱し保温するためのヒータとを備えておき、また受渡しチャンバには被処理品を受け渡しするための受渡し機構を備えておくことができる。
【0042】
また搬送ユニットには、被処理品の受渡しの際に、受渡しチャンバを浸炭チャンバや焼入れチャンバ等の処理チャンバに対向させた位置で、受渡しチャンバを保温チャンバや冷却チャンバとともに処理チャンバに向けて微小ストローク前進させて処理チャンバに気密にドッキングさせ、また受渡し後に受渡しチャンバを処理チャンバから後退させて離間させる進退移動手段を備えておくことができる。
【0043】
更に上記の複数の処理チャンバは、被処理品を搬送ユニットとの間で受け渡しするための開口部を同一方向に向けて、受渡し方向と直角方向に直線状に配列させておき、また搬送ユニットは、被処理品の受渡し用の開口部を処理チャンバの開口部と対向する向きに設けておいて、処理チャンバの配列方向に沿って直線状に走行するものとなしておくことができる。
【0044】
本発明では、上記の搬送軌道としてレールを設けておき、搬送ユニットにはそのレール上を走行する走行台車を備えておいて、その走行台車上に上記の受渡しチャンバ及び保温チャンバ或いは冷却チャンバを設けておくことができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
図8は、本実施形態における熱処理の各種工程を被処理品Wに対するヒートパターンと併せて示したものである。
図に示しているように、ここでは被処理品Wに対し高低異なった温度の下で2段階に浸炭処理し、更に窒化処理と焼入れ処理とを行う。
具体的には、工程K1で被処理品Wを1次浸炭温度である950℃まで昇温して均熱し、続いて工程K2で、950℃の温度の下で被処理品Wに対する1次浸炭処理、詳しくは浸炭とその後の拡散とを行う。
その後、工程K3で被処理品Wを中間冷却する。ここでは950℃の高温状態にある被処理品Wに対し冷却ガスのガス流を当ててガス冷却により100〜650℃の低温度まで被処理品Wを強制冷却する。
【0047】
このようにして被処理品Wを中間冷却した後、今度は被処理品Wに対し2次浸炭処理を行う。
具体的には、中間冷却された被処理品Wを2次浸炭温度である850℃まで再加熱し、その後工程K5で被処理品Wを850℃の下で2次浸炭処理する。
そして2次浸炭処理を終えたところで、被処理品Wを同じ850℃の温度の下で窒化処理する。
温度850℃はこの実施形態では焼入れ温度でもあり、従って工程K6での窒化処理は、被処理品Wを焼入れ温度に保持した状態の下で窒化を行う。そして窒化処理の後、被処理品Wを焼入れ温度から急冷し焼入れを行う。
因みにこの実施形態では、工程K1とK2とを190分かけて行い、またその後の工程K3の中間冷却を20分かけて行う。
更にその後の工程K4の再加熱と、工程K5の浸炭処理とを100分かけて行い、その後に工程K6の窒化処理を20分かけて、また更にその後の工程K7の焼入れ処理を10分かけて行う。
【0048】
図1は本実施形態の熱処理設備の概略全体構成を示している。
図において、10は図中左右方向に直線状に延設された搬送軌道たるレールで、このレール10に沿って複数のバッチ式の処理チャンバ、ここでは浸炭チャンバ12-1,12-2,12-3,12-4,12-5と1つの焼入れチャンバ14とが、後述の開口部44(
図2参照)を同方向である図中上方に向けた状態で直線状に一列に配置されている。
この実施形態において、浸炭チャンバ12-1,12-2,12-3は被処理品Wに対し950℃の温度の下で1次浸炭処理を行い、また浸炭チャンバ12-4,12-5は、その後において被処理品Wに対し850℃の温度の下で2次浸炭処理を行う。
【0049】
図1中右端側には装入テーブル16が設けられており、上流工程からの被処理品Wが先ずこの装入テーブル16上に載置される。
装入テーブル16上に載置された被処理品Wは、浸炭チャンバ12-1,12-2,12-3及び12-4,12-5によって1次浸炭及び2次浸炭処理され、更にその後に窒化処理された上で焼入れチャンバ14にて焼入れ処理され、その後に図中左端側且つ焼入れチャンバ14の図中下側位置の抽出テーブル18へと排出され、引続いて下流工程へと抽出される。
【0050】
この実施形態の熱処理設備は、上記の浸炭チャンバ12-1〜12-5,焼入れチャンバ14に加えてレール10上を走行する第1搬送ユニット20-1と第2搬送ユニット20-2とを有している。
第1搬送ユニット20-1は、装入テーブル16上の被処理品Wを受け取ってレール10上を走行し、浸炭チャンバ12-1,12-2,12-3の何れかに被処理品Wを装入する。
或いはこれら浸炭チャンバ12-1〜12-3において1次浸炭処理された後の被処理品Wを、それら浸炭チャンバ12-1〜12-3から受け取ってレール10上を走行し、他の浸炭チャンバ12-4,12-5に装入してそこで2次浸炭処理せしめる。
一方第2搬送ユニット20-2は、浸炭チャンバ12-4,12-5から2次浸炭処理後の被処理品Wを受け取ってレール10上を走行し、これを焼入れチャンバ14へと渡してそこで焼入れ処理せしめる。
第2搬送ユニット20-2はまた、その搬送の工程において、2次浸炭処理された後の被処理品Wに対し窒化処理を施す。この点については後に詳しく説明する。
【0051】
図2に、浸炭チャンバ12-1及び第1搬送ユニット20-1の内部構造が示してある。
図に示しているように浸炭チャンバ12-1は、有底の円筒状の炉殻22と、その内部に配置された断熱材(ここではカーボン製)24とを有している。
断熱材24は有底の円筒状の断熱壁25を構成している。そしてその断熱壁25は内側に処理室26を形成している。
この浸炭チャンバ12-1には吸引口32が設けられている。吸引口32は、吸引管を通じて真空ポンプ(何れも図示省略)に接続されており、浸炭チャンバ12-1内部が真空ポンプにより真空吸引されるようになっている。
【0052】
浸炭チャンバ12-1にはまた、この吸引口32とともに、その内部にアセチレンガス等の浸炭ガスを供給するための供給口34が設けられている。
供給口34から供給された浸炭ガスは、一旦ヘッダー36へと導かれ、更にこのヘッダー36に続く分岐管37及び分岐管に設けられたノズル38から浸炭チャンバ12-1内部、詳しくは断熱壁25内側の処理室26へと導入される。尚ここでは分岐管37に1つのノズル38が設けられているが、複数のノズル38を設けておいても良い。
尚、供給口34からは浸炭ガスが供給される外、窒素ガスが供給されるようになっている。それら浸炭ガスと窒素ガスとは、切替弁により択一的に浸炭チャンバ12-1内に導入される。
【0053】
断熱壁25には、処理室26内で供給された窒素ガスを撹拌させて対流させ、被処理品Wの昇温期においてその昇温を促進する対流加熱用のファン39と、これを回転させるモータ40とが設けられている。
また断熱壁25には、モータ40を熱から保護するための水冷パネル41がモータ40近傍に設けられている。
ここでは水冷パネル41として銅製パネルが用いられている。
【0054】
浸炭チャンバ12-1には、開口部44を開閉する引戸式の扉42が設けられている。扉42はシリンダ46によってフランジ48内面を摺動し、閉状態で開口部44をゴムパッキンを介して気密にシールする。
この扉42には板状の断熱材55が一体移動する状態に設けられており、この断熱材55によって円筒状の断熱壁25の開口部52が閉鎖される。
浸炭チャンバ12-1においては、扉42の内面側にも、開口部44を気密にシールするゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル51が設けられている。この水冷パネル51もまた銅製パネルである。
【0055】
以上浸炭チャンバ12-1についての構造を説明したが、その他の浸炭チャンバ12-2,12-3,12-4,12-5も基本的に同様の構造である。
【0056】
一方焼入れチャンバ14は、内部に油冷槽を有し、第2搬送ユニット20-2にて装入された2次浸炭処理後の被処理品Wを油冷槽に浸漬して急冷し、焼入れを行う。
この焼入れチャンバ14は、浸炭チャンバ12-1〜12-5と同じ側、即ち
図1中上側に開口部44を有するとともに、その反対側(図中下側)にも開口部44を有し、それら開口部44が引戸式の扉42にて開閉されるようになっている。
図1中46は、その扉42を開閉動作させるシリンダである。
【0057】
図2において、第1搬送ユニット20-1は、レール10上を走行する走行台車90を有しており、更に走行台車90上において、後述の冷却チャンバ56を受渡しチャンバ54とともにレール10と直交方向である
図2中左右方向に進退移動し、受渡しチャンバ54及び冷却チャンバ56を浸炭チャンバ12-1〜12-5に対して連結及び連結解除させる連結台車92を有している。
94は、その連結台車92を
図2中左右方向に微小ストローク進退移動させるシリンダで、冷却チャンバ56及び受渡しチャンバ54は、このシリンダ94によりローラ96の転動を伴って
図2中左右方向に進退移動せしめられる。
この実施形態では、これら連結台車92,ローラ96,シリンダ94等が進退移動手段を成している。
【0058】
第1搬送ユニット20-1は、浸炭チャンバ12-1〜12-5側の前部に受渡しチャンバ54を、反対側の後部に、
図8の工程K3で被処理品Wを中間冷却するための冷却チャンバ56を有している。
【0059】
受渡しチャンバ54は、耐圧性の円筒状の筒壁58を有しており、その内部にワークWを収容する収容室60を形成している。
この収容室60には受渡し機構62が設けられている。
受渡し機構62は、浸炭チャンバ12-1〜12-5と後部の冷却チャンバ56との間で被処理品Wを受渡しするもので、
図5に示しているようにフォーク部62Aと水平スライド部材62B,62Cとを有しており、それらを水平方向にスライドさせることによりフォーク部62Aにて被処理品Wを受渡しする。
【0060】
この受渡しチャンバ54には吸引口63が設けられており、この吸引口63が、
図4に示す真空ポンプ64に対して吸引管66Aを通じて接続され、受渡しチャンバ54の内部が真空ポンプ64により真空吸引されるようになっている。
吸引管66上には電磁弁から成る開閉弁68Aが設けられており、開閉弁68Aの開閉によって、吸引口63と真空ポンプ64とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0061】
受渡しチャンバ54にはまた、
図4に示しているように供給口70が設けられており、この供給口70を通じて窒素ガスが受渡しチャンバ54内に供給されるようになっている。
受渡しチャンバ54は、その前端即ち
図2中左端が扉を有しない開口部72とされている。受渡しチャンバ54にはこの開口部72周りに偏平な枠状パッキン74が設けられている。
受渡しチャンバ54は、この枠状パッキン74を浸炭チャンバ12-1〜12-5の外面に気密に接触させる状態に、浸炭チャンバ12-1〜12-5側への前進移動により、それら浸炭チャンバ12-1〜12-5にドッキングされる。
【0062】
他方、後者の冷却チャンバ56は有底円筒状をなす炉殻76の内部に断熱材(カーボン製)78を有しており、その断熱材78が断熱壁80を構成している。
断熱壁80は内側に収容室82を形成しており、そこに被処理品Wを収容するようになっている。
収容室82には架台84が設けられている。収容室82内の被処理品Wは、その架台84上に載置されて支持される。
【0063】
この冷却チャンバ56には、
図3に示しているようにその内部を真空吸引するための吸引口86が設けられており、この吸引口86が、
図4に示すように上記の真空ポンプ64に対して吸引管66Bを通じ接続されている。
この吸引管66B上には電磁バルブから成る開閉バルブ68Bが設けられており、開閉バルブ68Bの開閉動作によって吸引口86と真空ポンプ64とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0064】
冷却チャンバ56にはまた、冷却ガスとして窒素ガスを内部に供給する供給口88が炉殻76に設けられている。
またその内部には、供給された窒素ガスを水冷パイプ間に通すことで、熱交換により温度低下させる熱交換器98と、これにより冷却された窒素ガスを撹拌し、冷却チャンバ56内で循環させる冷却ファン100と、これを回転させるモータ102とを有しており、それらが被処理品Wに対するガス冷却装置を構成している。
ここで熱交換器98の水冷パイプには銅管が用いられており、またモータ102には銅のコイルが用いられている。
【0065】
このガス冷却装置では、冷却ファン100の回転により、温度低下した窒素ガスが断熱壁80の上部の開口104を通じ下向きに流れて被処理品Wに当り、これを冷却した後断熱壁80の下部の開口106より流出し、再び熱交換器98を通過してそこで温度低下せしめられる。そしてそのような循環流れを生じつつ被処理品Wを冷却処理する。
尚この冷却チャンバ56には、断熱壁80の上部の開口104及び下部の開口106を開閉する断熱材製の扉110,112が設けられており、それらがシリンダ114,116にて開閉動作せしめられる。
【0066】
冷却チャンバ56の内部には、その他に冷却ファン100の過熱防止のための冷却水配管118が、断熱壁80における上部の開口104の上方に設けられており、また断熱壁80の内部にはヒータ(カーボン製)120が設けられている。
即ちこの実施形態では、冷却チャンバ56に、冷却機能と併せて被処理品Wを保温する保温機能も備えられている。
【0067】
図2に示しているように、冷却チャンバ56と受渡しチャンバ54との間、詳しくは冷却チャンバ56の受渡しチャンバ54側の端部には開口部122が設けられており、この開口部122が、シリンダ124によってフランジ126内面を摺動する扉128によって開閉されるようになっている。
【0068】
前記の浸炭チャンバ12-1におけるのと同様、この冷却チャンバ56の扉128にもまた、断熱壁80の開口部129を開閉する板状の断熱材130が一体移動する状態に設けられており、また開口部122を気密にシールするゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル132が扉128に設けられている。
この水冷パネル132もまた銅製パネルが用いられている。
【0069】
次に、
図6は
図1における第2搬送ユニット20-2の内部構造を示している。
この第2搬送ユニット20-2は前部に受渡しチャンバ54を、後部に保温チャンバ134を有している。
第2搬送ユニット20-2の内部構造は、大部分が第1搬送ユニット20-1の内部構造と同様であり、ここでは同様の構造部分については符号のみを示して詳しい説明は省略する。
この第2搬送ユニット20-2の後部の保温チャンバ134の内部には、断熱壁80にて囲まれた収容室82が形成されており、収容室82内に、被処理品Wを加熱し保温するヒータ(カーボン製)136が設けられている。
また炉殻76には窒化ガス、ここではアンモニアガスを保温チャンバ134内部に供給する供給口138が設けられている。
【0070】
供給口138から供給されたアンモニアガスはヘッダー140を経て、分岐管141及びこれから収容室82内に突き出したノズル142の先端の導入口(窒素ガス導入口)から収容室82内に導入される。尚1つの分岐管141に複数のノズル142を備えておいても良い。
即ちこの第2搬送ユニット20-2の保温チャンバ134は、被処理品Wを加熱し保温する機能とを併せて、被処理品Wを窒化処理する機能も有している。即ち保温チャンバ134は窒化チャンバを兼ねて構成されている。
【0071】
この保温チャンバ134においても、扉128に、開口部122を気密にシールするためのゴムパッキンを熱から保護するための水冷パネル144が設けられているが、ここでは水冷パネル144として鋼製パネルが用いられている。
【0072】
この実施形態では、
図1の装入テーブル16上の被処理品Wを第1搬送ユニット20-1が受け取って搬送し、これを浸炭チャンバ12-1,12-2,12-3の何れかに装入する。
被処理品Wを受け取った浸炭チャンバ12-1,12-2,12-3の何れかは、その内部で被処理品に対する1次浸炭処理を行う。
第1搬送ユニット20-1は、その後1次浸炭処理された被処理品Wを浸炭チャンバ12-1〜12-3の何れかから取り出して、これを冷却チャンバ56で中間冷却した上、被処理品Wを浸炭チャンバ12-4,12-5の何れかに装入する。
これを受けた浸炭チャンバ12-4,12-5の何れかは、その被処理品Wに対し2次浸炭処理を行う。
【0073】
その2次浸炭処理が終ると、今度は第2搬送ユニット20-2が浸炭チャンバ12-4,12-5の何れかから2次浸炭後の被処理品Wを取り出して、これを窒化チャンバを兼ねた保温チャンバ134で窒化処理し、続いてこれを焼入れチャンバ14へと渡す。
窒化後の被処理品Wを受けた焼入れチャンバ14は、これを内部の油冷槽に浸漬して急冷し、焼入れを施す。
そして焼入れ後の被処理品Wが、焼入れチャンバ14から抽出テーブル18上へと排出される。
【0074】
この実施形態では、第1搬送ユニット20-1が装入テーブル16から被処理品Wを受け取って浸炭チャンバ12-1〜12-3に装入し、またこれを受けた浸炭チャンバ12-1〜12-3が内部で被処理品Wに対する1次浸炭処理を行い、更には第1搬送ユニット20-1が浸炭チャンバ12-1〜12-3から1次浸炭処理後の被処理品Wを取り出して、冷却チャンバ56で中間冷却した上でこれを浸炭チャンバ12-4〜12-5に装入する動きを行う間に、第2搬送ユニット20-2が、2次浸炭処理後の被処理品Wを浸炭チャンバ12-4〜12-5から取り出して搬送し、焼入れチャンバ14へと渡す動きを同時進行的に行う。
このため被処理品Wに対する1次浸炭処理と2次浸炭処理と、それらの間の中間冷却とを含む熱処理を高効率で能率高く行うことができる。
【0075】
加えてこの実施形態では、第2搬送ユニット20-2が2次浸炭後の被処理品Wを浸炭チャンバ12-4〜12-5から取り出して焼入れチャンバ14へと搬送し、装入する動きを行う中で、2次浸炭後の被処理品に対する窒化処理を他の熱処理の各工程と同時進行的に行う。
これにより被処理品Wに対する2段階の浸炭処理と窒化処理及び焼入れ処理を高能率で行うことができる。
以下に上記の一連の熱処理の要部の詳細を具体的に説明する。
【0076】
先ず第1搬送ユニット20-1は、受渡しチャンバ54において受渡し機構62により装入テーブル16上の被処理品Wを受け取り、これを受渡しチャンバ54内に収容する。
その後第1搬送ユニット20-1は何れかの浸炭チャンバ、ここでは例えば浸炭チャンバ12-2の位置まで移動し、被処理品Wを搬送する。
【0077】
その後第1搬送ユニット20-1は、シリンダ94により受渡しチャンバ54を後部の冷却チャンバ56とともに浸炭チャンバ12-2側に微小距離前進移動させて、受渡しチャンバ54の先端の枠状パッキン74を浸炭チャンバ12-2の外面に密着させる状態に、浸炭チャンバ12-1に対しドッキングさせる。
【0078】
そして冷却チャンバ56との間の扉128を閉鎖した状態で、真空ポンプ64により吸引口63を通じて受渡しチャンバ54内部が真空吸引され、受渡しチャンバ54内部が浸炭チャンバ12-1と同程度の真空圧まで減圧される。
【0079】
受渡しチャンバ54内の圧力が浸炭チャンバ12-2内の圧力と同程度の真空圧となったところで、浸炭チャンバ12-2の扉42を開いて、受渡しチャンバ54内の被処理品Wを受渡し機構62により浸炭チャンバ12-2内の処理室26に装入し、架台30上にセットする。
【0080】
浸炭チャンバ12-2の内部は、予め1次浸炭温度である950℃に保持されており、1次浸炭チャンバ12-2内に装入された被処理品Wは、装入後直ちに加熱されて1次浸炭温度である950℃まで昇温せしめられる。
【0081】
その際に昇温を促進するため、浸炭チャンバ12-2内に窒素ガスが供給口34から供給されるとともに、対流加熱ファン39が回転せしめられて、その対流加熱ファン39による対流加熱とヒータ28による輻射熱とによって、被処理品Wが速やかに1次浸炭温度の950℃まで昇温せしめられる。
【0082】
被処理品Wが1次浸炭温度の950℃まで昇温したところで、浸炭チャンバ12-2内部の窒素ガスが吸引口32を通じて真空排気され、浸炭チャンバ12-2内部が再び設定された真空圧に減圧される。
その後、供給口34を通じこの浸炭チャンバ12-2への導入ガスが窒素ガスから浸炭ガスへと切り替えられ、被処理品Wに対する浸炭が行われる。
その後に浸炭ガスの供給を停止した状態で引続き被処理品Wが950℃の温度に保持され、被処理品Wに侵入したカーボンの拡散処理が行われる。
【0083】
このようにして被処理品Wに対する1次浸炭処理を終えたところで、一旦浸炭チャンバ12-2から離れていた第1搬送ユニット20-1を再び浸炭チャンバ12-2に向けて前進移動させ、受渡しチャンバ54を浸炭チャンバ12-2に対しドッキングさせる。
そして受渡しチャンバ54と冷却チャンバ56との間の扉128を開いた状態で、受渡しチャンバ54の内部と冷却チャンバ56の内部とを真空ポンプ64により真空吸引し、それらを真空圧とする。
【0084】
その後に浸炭チャンバ12-2の扉42を開いて、浸炭チャンバ12-2内の1次浸炭処理後の被処理品Wを受渡しチャンバ54内に移動させ、引続いてこれを受渡しチャンバ54から冷却チャンバ56へと移動させて、被処理品Wを冷却チャンバ56内に収容する。
【0085】
被処理品Wを冷却チャンバ56内に収容したところで、扉128を閉じ、その後冷却チャンバ56内の真空吸引を止めた上で、供給口88から冷却ガスとしての窒素ガスを冷却チャンバ56内に供給するとともに、ガス冷却装置を働かせて冷却ガスを被処理品Wに当て、ガス流によって被処理品Wを強制的に中間冷却する。
尚、冷却チャンバ56で中間冷却を行うとき、目的の温度まで低下したところでヒータ120にてこれを一定温度に保持しておくことができる。
【0086】
第1搬送ユニット20-1は、以上のような被処理品Wに対する中間冷却を、浸炭チャンバ12-2から離れて移動する間も行い、そして目的とする温度まで冷却した被処理品Wを、今度は2次浸炭用の浸炭チャンバ12-4,12-5の何れかに受渡しチャンバ54を通じて装入する。
【0087】
浸炭チャンバ12-4〜12-5に装入された被処理品Wは、その後その浸炭チャンバ内で、2次浸炭温度である850℃まで再加熱され、そして2次浸炭温度である850℃に到達したところで、一定温度に保持されながら浸炭チャンバ12-4〜12-5内部で2次浸炭処理される。
【0088】
浸炭チャンバ12-4〜12-5で2次浸炭処理された被処理品Wは、今度は
図1の第2搬送ユニット20-2にて浸炭チャンバ12-4〜12-5から取り出され、第2搬送ユニット20−2の保温チャンバ134へと移し変えられる。
この保温チャンバ134は窒化チャンバとしての働きも有しており、保温チャンバ134内に移し変えられた被処理品Wは、保温チャンバ134内で真空下に窒化処理される。
【0089】
詳しくは、
図6の扉128を閉じた状態で真空吸引された保温チャンバ134内で、被処理品Wが、ヒータ136による加熱にて焼入れ温度且つ窒化温度850℃に保温され、そしてその保温状態でノズル142から窒化ガスが収容室82内に導入されて、被処理品Wに対する窒化処理が行われる。
【0090】
第2搬送ユニット20-2は、このような窒化処理を
図1に示す左端の窒化位置P1にて行い、そして窒化処理を終えたところで図中右方向に移動して、窒化処理した被処理品Wを焼入れチャンバ14の前まで持ち来し、続いてこれを焼入れチャンバ14へと装入する。
【0091】
このとき第2搬送ユニット20-2においては、受渡しチャンバ54を焼入れチャンバ48に対してドッキングさせた後、扉128を閉じた状態の下で先ず受渡しチャンバ54内を真空吸引し、続いて受渡しチャンバ54内に供給口70を通じ窒素ガスを供給し、内部を大気圧状態とする。
【0092】
続いて保温チャンバ134内部の真空吸引を停止した上で、その内部に供給口88を通じ窒素ガスを供給し、その内部を大気圧状態とする。
その状態で扉128及び焼入れチャンバ14側の扉42を開いて、保温チャンバ134内の浸炭及び窒化後の被処理品Wを受渡しチャンバ54を経由して焼入れチャンバ14内に装入する。
【0093】
被処理品Wを受け取った焼入れチャンバ14は、これを内部に備えてある油冷槽に浸漬させて急冷し、焼入れを行う。
焼入れされた被処理品Wは、その後焼入れチャンバ14の、レール10とは反対側の開口部44を通じて
図1中下側の抽出テーブル18へと排出される。
そして抽出テーブル18上に排出された被処理品Wが、続いて下流工程へと引き取られて行く。
【0094】
以上のように本実施形態では、第2搬送ユニット20-2の保温チャンバ134に窒化ガスの供給口138及び先端に窒化ガス導入口を有するノズル142を設けて、保温チャンバ134を窒化チャンバを兼ねて構成し、浸炭処理後の被処理品Wを焼入れチャンバ14まで搬送する工程を利用して被処理品Wに窒化処理を行うようになしたもので、本実施形態によれば、浸炭チャンバに窒化機能を持たせた場合の問題を生じることなく、また窒化のための専用のチャンバを新たに設けることなく、従ってその設置のための費用を要することなく、第2搬送ユニット20-2にもともと備えられている保温チャンバ138を利用して被処理品Wに対する浸炭処理と窒化処理及び焼入れ処理を安価に行うことが可能となる。
しかもその窒化処理を、第2搬送ユニット20-2にて浸炭処理後の被処理品Wを焼入れチャンバ14まで搬送する工程を利用して行うことができ、浸炭窒化焼入れ処理の効率を有効に高めることができる。
【0095】
即ち本実施形態によれば、浸炭チャンバ12-1等や焼入れチャンバ14を増設することで容易に生産量の増大に対応することができる利点に加えて、被処理品Wに対する浸炭−窒化−焼入れの熱処理を途中で途切れさせることなく第2搬送ユニット20-2による窒化処理を実行することができる。
【0096】
尚第2搬送ユニット20-2における上記の保温チャンバ134には、被処理品Wを強制冷却するためのガス冷却装置の如きものは必要でなく、従って保温チャンバ134を窒化チャンバを兼ねて構成した場合において、ガス冷却装置に用いられている銅系部品がアンモニアガスと反応して腐食してしまうといった問題は実質的に生じない。
【0097】
また保温チャンバ134には扉のゴムパッキンの過熱を防ぐ水冷パネル144が設けられているが、被処理品Wを焼入れ温度に保持する保温チャンバ134内の温度は低いため、水冷パネル144として敢えて銅製のものを用いなくても鋼製のパネルを用いることができる。これによって水冷パネルにおける銅の腐食の問題も回避できる。
【0098】
尤も保温チャンバ134には保温用のヒータ136や断熱材78が設けられ、これらはカーボン製とされるため、アンモニアガスとこれらヒータ136や断熱材78が反応し損耗する可能性もあるが、保温チャンバ134は浸炭チャンバと異なって、浸炭ガスが煤を生じてその煤がヒータ136や断熱材78に付着したり含浸されたりする問題は生じない。
従って必要が生じた場合には所要部分を部分的に取り替えて更新することが可能である。
同様にヒータ136の導線として銅がアンモニアガスと反応して腐食する問題を生じるが、保温チャンバ134内には浸炭ガスが導入されないため、銅の導線の取替えが必要となったときには、容易にこれを部分的に取り替えることが可能である。
【0099】
また本実施形態の熱処理設備によれば、被処理品Wに対する1次浸炭と2次浸炭との2段階の浸炭処理と焼入れ処理とを行いつつ、更に加えて窒化処理も併行して行うことが可能であり、しかも2つの搬送ユニットを役割分担させつつ用いることが可能で、そのことによって被処理品に対する2段階の浸炭,焼入れ及び窒化の熱処理を高効率で無駄なく実行することが可能となる。
【0100】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。