特許第6136912号(P6136912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136912
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】回転電機用ロータ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/28 20060101AFI20170522BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   H02K1/28 A
   H02K15/02 K
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-261425(P2013-261425)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-119556(P2015-119556A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】牛田 英晴
【審査官】 土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/114414(WO,A1)
【文献】 特開2004−129500(JP,A)
【文献】 特開2010−288417(JP,A)
【文献】 特開昭63−265541(JP,A)
【文献】 特開2001−95201(JP,A)
【文献】 特許第3405000(JP,B2)
【文献】 特開2015−119557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/28
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、当該軸体の外周面に接するコア内周面を有する円筒状のロータコアと、前記軸体の外周面に接するプレート内周面を有すると共に前記ロータコアの軸方向端面に接する当接面を有する円筒状のエンドプレートと、を備えた回転電機用ロータであって、
前記エンドプレートは、軸方向に貫通していると共に前記プレート内周面に開口する開口部を備え、
前記プレート内周面と前記軸体の外周面とが、溶接により接合され、
前記コア内周面と前記軸体の外周面とが、軸方向に見て前記開口部と重複する位置で、溶接により接合されている回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記軸体は、当該軸体の外周面に開口し、油が供給される油供給口を備え、
前記エンドプレートは、前記油供給口に連通すると共に径方向に延びる油路であるプレート油路を備え、
前記開口部は、軸方向に見て前記プレート油路と重複しない領域に設けられている請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
軸体と、当該軸体の外周面に接するコア内周面を有する円筒状のロータコアと、前記軸体の外周面に接するプレート内周面を有すると共に前記ロータコアの軸方向端面に接する当接面を有する円筒状のエンドプレートと、を備えた回転電機用ロータの製造方法であって、
前記コア内周面が前記軸体の外周面に接するように、前記軸体に前記ロータコアを組み付ける工程と、
軸方向に貫通していると共に前記プレート内周面に開口する開口部を備えた前記エンドプレートを、前記プレート内周面が前記軸体の外周面に接すると共に前記当接面が前記ロータコアの軸方向端面に接するように、前記軸体に組み付ける工程と、
前記軸体に前記ロータコア及び前記エンドプレートの双方が組み付けられた状態で、前記プレート内周面と前記軸体の外周面とを、溶接により接合する工程と、
前記軸体に前記ロータコア及び前記エンドプレートの双方が組み付けられた状態で、前記コア内周面と前記軸体の外周面とを、軸方向に見て前記開口部と重複する位置で、溶接により接合する工程と、を備える回転電機用ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
軸体と、当該軸体の外周面に接するコア内周面を有する円筒状のロータコアと、前記軸体の外周面に接するプレート内周面を有すると共に前記ロータコアの軸方向端面に接する当接面を有する円筒状のエンドプレートと、を備えた回転電機用ロータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような回転電機用ロータとして、例えば、下記の特許文献1に記載されたロータが既に知られている。特許文献1の技術では、コア内周面が軸体の外周面に接するように、軸体にロータコアを組み付けた後、ロータコアの内周面と軸体の外周面とを溶接により接合している。この際、軸体を支持機構により支持して、軸体を回転させ、レーザ溶接機のレーザ光線により周方向に連続的に溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−129500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、回転電機用ロータがエンドプレートを備える場合であって、ロータコアとエンドプレートとの双方を軸体に対して溶接により接合する場合がある。この場合は、ロータコアを軸体に溶接した後、エンドプレートを軸体に組み付け、その後、エンドプレートを軸体に溶接する必要がある場合がある。このように、溶接の途中に、エンドプレートを軸体に組み付けるためには、軸体を溶接装置の支持機構から一旦取り外して、エンドプレートを取り付け、その後再び軸体を溶接装置の支持機構に取り付けて溶接する必要があり、作業工数が多くなる恐れがあった。
【0005】
そこで、軸体に、ロータコア及びエンドプレートを溶接により接合する際に、作業工数を低減できる回転電機用ロータ及びその製造方法の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、軸体と、当該軸体の外周面に接するコア内周面を有する円筒状のロータコアと、前記軸体の外周面に接するプレート内周面を有すると共に前記ロータコアの軸方向端面に接する当接面を有する円筒状のエンドプレートと、を備えた回転電機用ロータの特徴構成は、
前記エンドプレートは、軸方向に貫通していると共に前記プレート内周面に開口する開口部を備え、
前記プレート内周面と前記軸体の外周面とが、溶接により接合され、
前記コア内周面と前記軸体の外周面とが、軸方向に見て前記開口部と重複する位置で、溶接により接合されている点にある。
【0007】
この特徴構成によれば、エンドプレートに開口部を設けることにより、軸体にロータコア及びエンドプレートの双方を組み付け、ロータコアにエンドプレートを当接させた状態としても、開口部が設けられた部分では、コア内周面と軸体の外周面との当接部を、外部に露出させることができる。そのため、軸体にロータコア及びエンドプレートの双方を組み付けた状態で、コア内周面と軸体の外周面とを、開口部と軸方向に見て重複する領域で、溶接により接合することができる。
従って、溶接を行う前に、軸体にエンドプレートを組み付けた状態で、軸体の外周面と、コア内周面及びプレート内周面の双方とを溶接することができる。よって、溶接の途中に、軸体を溶接機構の支持機構から一旦取り外して、エンドプレートを取り付け、その後再び軸体を溶接機構の支持機構に取り付ける等の作業をする必要がなく、作業工数を低減することができる。
【0008】
ここで、前記軸体は、当該軸体の外周面に開口し、油が供給される油供給口を備え、
前記エンドプレートは、前記油供給口に連通すると共に径方向に延びる油路であるプレート油路を備え、
前記開口部は、軸方向に見て前記プレート油路と重複しない領域に設けられていると好適である。
【0009】
この構成によれば、エンドプレートがプレート油路を備える場合でも、プレート油路を避けて、適切に開口部を設けることができる。
【0010】
また、軸体と、当該軸体の外周面に接するコア内周面を有する円筒状のロータコアと、前記軸体の外周面に接するプレート内周面を有すると共に前記ロータコアの軸方向端面に接する当接面を有する円筒状のエンドプレートと、を備えた回転電機用ロータの製造方法の特徴構成は、
前記コア内周面が前記軸体の外周面に接するように、前記軸体に前記ロータコアを組み付ける工程と、
軸方向に貫通していると共に前記プレート内周面に開口する開口部を備えた前記エンドプレートを、前記プレート内周面が前記軸体の外周面に接すると共に前記当接面が前記ロータコアの軸方向端面に接するように、前記軸体に組み付ける工程と、
前記軸体に前記ロータコア及び前記エンドプレートの双方が組み付けられた状態で、前記プレート内周面と前記軸体の外周面とを、溶接により接合する工程と、
前記軸体に前記ロータコア及び前記エンドプレートの双方が組み付けられた状態で、前記コア内周面と前記軸体の外周面とを、軸方向に見て前記開口部と重複する位置で、溶接により接合する工程と、を備えた点にある。
【0011】
この特徴構成によれば、上記したように、軸体にロータコア及びエンドプレートの双方を組み付けた状態で、軸体の外周面と、コア内周面及びプレート内周面の双方とを溶接することができる。よって、溶接の途中に、軸体にエンドプレートを取り付ける必要がなく、作業工数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータを軸方向に見た側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータの軸方向断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータの斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータの分解斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係るエンドプレートを軸方向に見た図である。
図6】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータの製造方法に係るフローチャートである。
図7】本発明のその他の実施形態に係るエンドプレートを軸方向に見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る回転電機用のロータ1(以下、単にロータ1と称す)の実施形態について、図面を参照して説明する。
回転電機は、ケース等の非回転部材に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転可能に支持されたロータ1と、を有している。ステータは、軸方向に沿って電磁鋼板が積層されたステータコアと、ステータコアに巻装されたコイルと、を備えている。
【0014】
図1は、ロータ1を軸方向に見た側面図であり、図2は、ロータ1の軸方向断面図であり、図3は、ロータ1の斜視図であり、図4は、ロータ1の分解斜視図であり、図5は、エンドプレート30を軸方向に見た図である。
図1から図5に示すように、回転電機用のロータ1は、軸体10と、当該軸体10の外周面11に接するコア内周面21を有する円筒状のロータコア20と、軸体10の外周面11に接するプレート内周面31を有すると共にロータコア20の軸方向端面22に接する当接面32を有する円筒状のエンドプレート30と、を備えている。
【0015】
軸体10、ロータコア20、及びエンドプレート30は、軸心Aについて同軸上に配置されている。軸心Aに平行な方向である軸方向において、一方側を軸第一方向X1と定義し、軸第一方向X1と反対方向を軸第二方向X2と定義する。
本実施形態では、エンドプレート30は、ロータコア20の軸方向両側に一つずつ設けられている。ロータコア20に対して軸第一方向X1側に設けられているエンドプレート30を第一エンドプレート30aと称し、ロータコア20に対して軸第二方向X2側に設けられているエンドプレート30を第二エンドプレート30bと称す。
【0016】
また、各エンドプレート30a、30bにおける、軸方向にロータ1から離れる側を、軸方向離間側と称し、軸方向にロータ1に近づく側を、軸方向近接側と称する。第一エンドプレート30aについて、軸方向離間側は軸第一方向X1となり、軸方向近接側は軸第二方向X2となる。第二エンドプレート30bについて、軸方向離間側は軸第二方向X2となり、軸方向近接側は軸第一方向X1となる。
【0017】
本実施形態では、第一エンドプレート30aと第二エンドプレート30bとは、軸方向に対称に形成され配置されている。よって、以下の説明では、第一エンドプレート30aと第二エンドプレート30bとを特に区別せずに、単にエンドプレート30としてまとめて説明する。
【0018】
エンドプレート30は、軸方向に貫通していると共にプレート内周面31に開口する開口部33を備えている。
このような構成において、プレート内周面31と軸体10の外周面11とが、溶接により接合されており、溶接部52が形成されている。また、コア内周面21と軸体10の外周面11とが、軸方向に見て開口部33と重複する位置で、溶接により接合されており、溶接部51が形成されている。
【0019】
1.軸体10
軸体10は、コア内周面21及びプレート内周面31が接する円筒状の外周面11を有している。軸体10は、回転電機として組み立てられた状態では、軸受などを介して、ケース等の非回転部材に対して回転可能に支持される。軸体10の材質は、溶接可能な金属とされており、例えば、鉄、ステンレススチール、アルミニウム合金などが用いられる。
本実施形態では、軸体10は、円筒状に形成されている。軸体10は、この円筒状に形成された円筒部13と、円筒部13の内周面から径方向内側に延びる円環板状のハブ部14と、ハブ部14の径方向内側端部から軸方向に延びる円筒状のボス部15と、を備えている。ボス部15が、軸受などを介してケース等に対して回転可能に支持される。
【0020】
また、円筒部13の軸方向の長さは、ロータコア20と第一エンドプレート30a及び第二エンドプレート30bとを合わせた軸方向の長さと同等にされている。そして、円筒部13の軸第一方向X1側の端部の軸方向の位置と、第一エンドプレート30aの軸第一方向X1側(軸方向離間側)の端部の軸方向の位置が同等に配置され、円筒部13の軸第二方向X2側の端部の軸方向の位置と、第二エンドプレート30bの軸第二方向X2側(軸方向離間側)の端部の軸方向の位置が同等に配置されている。
【0021】
軸体10は、当該軸体10の外周面11に開口し、油が供給される油供給口12を備えている。油供給口12は、エンドプレート30(プレート油路34の開口部)と径方向に見て重複する位置(本例では、図4によく示されているように、各エンドプレート30a、30bに対応して、周方向に均等間隔で8箇所ずつ、合計16箇所)に備えられている。
本実施形態では、軸体10は、円筒部13を径方向に貫通する円柱状の貫通孔16を備えており、貫通孔16の径方向外側の開口が油供給口12である。貫通孔16の径方向内側の開口に導かれた油は、軸体10の回転による遠心力により、貫通孔16内を径方向外側に流れて、油供給口12から径方向外側に供給される。
【0022】
2.ロータコア20
ロータコア20は、軸体10の外周面11に接するコア内周面21を有する円筒状の部材である。ロータコア20は、円環板状の電磁鋼板23が軸方向に沿って積層されている。具体的には、各電磁鋼板23は、所定の厚さのコア材(鋼板)を円環板状に打ち抜いて形成される。各電磁鋼板には、周方向の複数箇所(本例では、周方向に均等間隔で16箇所)に磁石挿入孔24が設けられている。本例では、磁石挿入孔24は、周方向に長い矩形状とされている。
【0023】
複数の電磁鋼板23は、それぞれの軸心A及び磁石挿入孔24の位置が軸方向に見て一致するように積層される。積層された複数の電磁鋼板23は、ダボカシメ、溶接、又は接着などにより互いに固定され、全体として一体化される。ロータコア20は、その径方向中心部に貫通孔を有する円筒状に形成される。また、複数の電磁鋼板23の磁石挿入孔24は、軸方向に連続し、ロータコア20を軸方向に貫通する貫通孔となる。永久磁石26が、ロータコア20の磁石挿入孔24に挿入される。永久磁石26の軸方向の長さは、ロータコア20の軸方向の長さと同等とされており、永久磁石26の軸方向端面と、ロータコア20の軸方向端面が、同一平面上に配置される。
【0024】
3.エンドプレート30
エンドプレート30は、軸体10の外周面11に接するプレート内周面31を有すると共にロータコア20の軸方向端面22に接する円筒状の部材である。
エンドプレート30の材質は、溶接可能な金属とされており、例えば、鉄、ステンレススチール、アルミニウム合金などが用いられる。
エンドプレート30のプレート外周面37は、ロータコア20のコア外周面27と同等か小さい外径を有している。エンドプレート30のプレート内周面31は、ロータコア20のコア内周面21と同等の内径を有している。
【0025】
<開口部33>
エンドプレート30は、軸方向に貫通していると共にプレート内周面31に開口する開口部33を備えている。言い換えると、開口部33は、軸体10の外周面11に接するプレート内周面31に対して、径方向外側に窪むと共に、窪んでいる部分が軸方向に貫通している。そのため、エンドプレート30は、開口部33の部分で軸体10の外周面11に接しておらず、エンドプレート30と軸体10との間に、軸方向に貫通する開口空間が生じている。なお、開口部33は、開口部33を形成している壁を含むだけでなく、開口している領域又は空間を含む概念として用いている。開口部33は、周方向の複数箇所(本例では、周方向に均等間隔で8箇所)に設けられている。
【0026】
本実施形態では、開口部33は、軸方向に見て幅を有する円弧状に形成されている。すなわち、開口部33は、エンドプレート30の軸心Aを基準にした所定の角度範囲において、プレート内周面31に対して一定の深さで径方向外側に窪むと共に、窪んでいる部分が軸方向に貫通している。
【0027】
<プレート油路34>
本実施形態では、エンドプレート30は、軸体10に備えられた油供給口12に連通すると共に径方向に延びる油路であるプレート油路34を備えている。プレート油路34に供給された油は、ロータコア20及び永久磁石26などを冷却する。
【0028】
本実施形態では、ロータコア20との当接面32に、軸方向にロータコア20から離れる側(軸方向離間側)に窪んだ凹部が形成されており、当該凹部がプレート油路34とされている。当接面32の凹部の開口が、ロータコア20の軸方向端面22に覆われて、油路が形成される。
【0029】
プレート油路34は、永久磁石26の軸方向端面を覆うように、永久磁石26と軸方向に見て重複する位置で、周方向に延びると共に、軸方向離間側に窪んだ周方向油路(凹部)38を有している。本例では、周方向油路38は、全周に亘ってつながった円環状に形成されている。また、プレート油路34は、軸体10の油供給口12から周方向油路38に接続するために、径方向に延びると共に、軸方向離間側に窪んだ径方向油路(凹部)39を有している。径方向油路39は、周方向の複数箇所(本例では、周方向に均等間隔で8箇所)に設けられている。
【0030】
更に、プレート油路34は、周方向油路38から、軸方向離間側に延びて、エンドプレート30における軸方向離間側の端面に開口する排出油路40を有している。排出油路40は、周方向の複数箇所(本例では、周方向に均等間隔で4箇所)に設けられている。軸体10の油供給口12から供給された油は、径方向油路39を介して、周方向油路38に導かれた後、排出油路40から排出される。
【0031】
開口部33は、軸方向に見てプレート油路34と重複しない領域に設けられている。本実施形態では、開口部33は、径方向油路39が設けられていない周方向の位置に設けられている。より詳細には、開口部33は、周方向における、互いに隣接する2つの径方向油路39の間の領域に設けられている。また、開口部33は、軸方向に見て周方向油路38と重複しないように、周方向油路38に対して径方向内側の領域に設けられている。
【0032】
4.溶接
軸体10にロータコア20とエンドプレート30とを固定するために、コア内周面21と軸体10の外周面11とが溶接により接合されていると共に、プレート内周面31と軸体10の外周面11とが溶接により接合されている。
【0033】
<比較例>
本実施形態と異なり、エンドプレートに開口部が設けられていない比較例(図示せず)を説明する。比較例の場合は、エンドプレートを軸体に組み付けロータコアに当接させると、コア内周面と軸体の外周面との当接部が、全周に亘ってエンドプレートにより覆われ、外部から溶接できなくなる。そのため、比較例では、エンドプレートを軸体に組み付ける前に、コア内周面と軸体の外周面とを溶接により接合する。その後、エンドプレートを組み付け、プレート内周面と軸体の外周面とを溶接により接合する。
【0034】
このように、比較例では、溶接の途中に、エンドプレートを軸体に組み付ける工程が必要になる。溶接方法として、例えば、軸体を溶接装置の支持機構により支持した後、軸体を回転させたり、レーザ溶接機を周方向に移動させたりして、当接部を周方向に溶接する方法が用いられる。溶接の途中に、エンドプレートを軸体に組み付けるためには、軸体を溶接装置の支持機構から一旦取り外して、エンドプレートを取り付け、その後再び軸体を溶接装置の支持機構に取り付ける必要があり、作業工数が多くなる。
【0035】
<開口部による工数低減>
本実施形態では、エンドプレート30に、溶接に用いることができる開口部33が設けられており、エンドプレート30を軸体10に組み付けたままで、軸体10の外周面11と、コア内周面21及びプレート内周面31の双方とを溶接することができる。すなわち、溶接の途中にエンドプレート30を軸体に組み付ける必要がない。
【0036】
具体的には、図1から図3に示すように、開口部33を設けることにより、軸体10にロータコア20及びエンドプレート30の双方を組み付け、ロータコア20にエンドプレート30を当接させても、開口部33が設けられた部分では、コア内周面21と軸体10の外周面11との当接部を、外部に露出させることができる。そのため、軸体10にロータコア20及びエンドプレート30の双方を組み付けた状態で、コア内周面21と軸体10の外周面11とを、開口部33が設けられた領域で、溶接により接合することができる。
【0037】
従って、溶接を行う前に、軸体10にロータコア20及びエンドプレート30の双方を組み付けた状態で、軸体10の外周面11と、コア内周面21及びプレート内周面31の双方とを溶接することができる。よって、比較例のように、溶接の途中にエンドプレート30を軸体10に組み付ける必要がなく、作業工数を低減することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態では、コア内周面21と軸体10の外周面11とが、軸方向に見て開口部33と重複する位置で、溶接により接合されている。よって、コア内周面21と軸体10の外周面11との溶接部51は、コア内周面21と軸体10の外周面11との当接部における、開口部33と軸方向に見て重複する領域に設けられている。当該溶接部51は、コア内周面21と軸体10の外周面11との当接部における、軸方向離間側の端部に形成されている。
【0039】
また、プレート内周面31と軸体10の外周面11とが、溶接により接合されている。なお、エンドプレート30において、開口部33が設けられている部分は、軸体10の外周面11と溶接されていない。すなわち、軸体10の外周面11と接するプレート内周面31が、軸体10の外周面11と溶接されている。
よって、プレート内周面31と軸体10の外周面11との溶接部52は、プレート内周面31と軸体10の外周面11との当接部に設けられている。当該溶接部52は、プレート内周面31と軸体10の外周面11との当接部における、軸方向離間側の端部に形成されている。
【0040】
5.製造方法
回転電機用のロータ1の製造方法を説明する。
回転電機用のロータ1の製造方法は、図6に示すように、コアの組付け工程#01、プレートの用意工程#02、プレートの組付け工程#03、プレートの接合工程#04、及びコアの接合工程♯05を備えている。
【0041】
コアの組付け工程#01では、コア内周面21が軸体10の外周面11に接するように、軸体10にロータコア20を組み付ける。この際、ロータコア20は、所定の溶接位置になるように、軸体10に対して周方向及び軸方向の位置合わせが行われる。なお、この組み付け前に、軸体10及びロータコア20が用意される。
【0042】
プレートの用意工程#02では、上記のように、軸方向に貫通していると共にプレート内周面31に開口する開口部33を備えたエンドプレート30を用意する。本実施形態では二つのエンドプレート30a、30bが用意される。
【0043】
プレートの組付け工程#03では、プレート内周面31が軸体10の外周面11に接すると共に当接面32がロータコア20の軸方向端面22に接するように、軸体10にエンドプレート30を組み付ける。この際、軸体10の外周面11に設けられた油供給口12と、エンドプレート30に設けられたプレート油路34とが連通するように、周方向及び軸方向の位置合わせが行われる。本実施形態では、ロータコア20の軸方向両側に一つずつエンドプレート30a、30bが組み付けられる。
【0044】
プレートの接合工程#04では、軸体10にロータコア20及びエンドプレート30の双方が組み付けられた状態で、プレート内周面31と軸体10の外周面11とを、溶接により接合する。上記のように、エンドプレート30において、開口部33が設けられている部分は、軸体10の外周面11と溶接されない。すなわち、軸体10の外周面11と接するプレート内周面31が、軸体10の外周面11と溶接される。
【0045】
レーザ溶接機のレーザ光線53が、軸方向離間側から、プレート内周面31と軸体10の外周面11との当接部に向けて照射される。そして、プレート内周面31と軸体10の外周面11との当接部における、軸方向離間側の端部が、レーザ光線53により溶接され、溶接部52が形成される。
この溶接の際、軸体10を溶接装置の支持機構に取り付けた後、軸体10を回転させたり、レーザ溶接機を周方向に移動させたりして、当接部を周方向に溶接する。
【0046】
コアの接合工程♯05では、軸体10にロータコア20及びエンドプレート30の双方が組み付けられた状態で、コア内周面21と軸体10の外周面11とを、軸方向に見て開口部33と重複する位置で、溶接により接合する。
レーザ溶接機のレーザ光線53が、軸方向離間側から、コア内周面21と軸体10の外周面11との当接部における、開口部33により外部に露出している部分に向けて照射される。この際、レーザ光線53は、軸体10における当接部以外の部分に当たらないように、径方向内側に向けて傾けられる。
そして、コア内周面21と軸体10の外周面11との当接部における、軸方向離間側の端部が、レーザ光線により溶接され、溶接部51が形成される。
【0047】
なお、図6には、プレートの接合工程#04の後に、コアの接合工程♯05を実行するように示されているが、コアの接合工程♯05の後に、プレートの接合工程#04を実行してもよい。或いは、プレートの接合工程#04とコアの接合工程♯05とを同時に実行してもよい。この場合は、例えば、プレート内周面31と軸体10の外周面11との溶接と、コア内周面21と軸体10の外周面11との溶接と、を周方向に沿って交互に行うようにしてもよい。
また、溶接機にレーザの他、電子ビーム、プラズマ、TIGなどを用いてもよい。
【0048】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0049】
(1)上記の各実施形態において、開口部33が、軸方向に見て扇形になるように形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、開口部33は、エンドプレート30を軸方向に貫通していると共にプレート内周面31に開口していれば、どのような形状であってもよい。例えば、図7に示すように、軸方向に見て半円状になり、全体としては、半円柱状に形成されていてもよい。
【0050】
(2)上記の各実施形態において、開口部33が、周方向における、互いに隣接する2つの径方向油路39の間の全てに1つずつ設けられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、周方向における互いに隣接する2つの径方向油路39の間に、開口部33が設けられていない部分があってもよく、或いは隣接する2つの径方向油路39の間に、2つ以上の開口部33が設けられていてもよい。
【0051】
(3)上記の各実施形態において、ロータコア20の軸方向両側に備えられた第一エンドプレート30a及び第二エンドプレート30bの双方に、開口部33が備えられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一エンドプレート30a及び第二エンドプレート30bのいずれか一方にのみ、開口部33が備えられ、他方に開口部33が備えられないように構成されてもよい。
【0052】
(4)上記の各実施形態において、コア内周面21と軸体10の外周面11とが、溶接により接合されている場合を例として説明した。しかし、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、コア内周面21と軸体10の外周面11とが、溶接に加えて、焼嵌めやキー溝などの他の方法によっても固定されていてもよい。
【0053】
(5)上記の各実施形態において、軸体10が円筒状に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、軸体10は、円筒状の外周面11を有していればどのような形状でもよく、例えば、円柱状に形成され、内部に油供給口12につながる油路が形成されていてもよい。
また、軸体10に、径方向外側に突出する円環状のフランジ部や、ナットなどの押え部材が取り付けられる係合部などが備えられ、これらが、エンドプレート30の軸方向離間側の端面に当接するように構成されてもよい。
【0054】
(6)上記の各実施形態において、軸体10の軸方向長さが、ロータコア20と二つのエンドプレート30a、30bとを合わせた軸方向長さと同等である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、軸体10の軸方向長さは、少なくとも、ロータコア20の軸方向長さより長ければよく、例えば、ロータコア20と二つのエンドプレート30a、30bとを合わせた軸方向長さより長くてもよい。
【0055】
(7)上記の各実施形態において、エンドプレート30がプレート油路34として、径方向油路39、周方向油路38、及び排出油路40を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、エンドプレート30は、プレート油路34として、油供給口12に連通すると共に径方向に延びる油路を備えていれば、どのような形状の油路を備えていてもよい。例えば、エンドプレート30の内部に形成された油路でもよく、永久磁石26と軸方向に見て重複しない位置に油路が形成されていてもよい。
【0056】
(8)また、上記の各実施形態において、軸体10が油供給口12を備え、エンドプレート30がプレート油路34を備えている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、軸体10が油供給口12を備えず、エンドプレート30がプレート油路34を備えなくてもよい。
【0057】
(9)上記の各実施形態において、ロータコア20に磁石挿入孔24が形成され、磁石挿入孔24に永久磁石26が挿入されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、ロータコア20に永久磁石26を備えなくてもよい。また、ロータコア20に油路が形成されていてもよく、或いは、ロータコア20に貫通孔が形成されており、貫通孔にアルミなどがダイカストされていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、軸体と、当該軸体の外周面に接するコア内周面を有する円筒状のロータコアと、前記軸体の外周面に接するプレート内周面を有すると共に前記ロータコアの軸方向端面に接する当接面を有する円筒状のエンドプレートと、を備えた回転電機用のロータ及び回転電機用のロータの製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 :回転電機用ロータ(ロータ)
10 :軸体
11 :軸体の外周面
12 :油供給口
13 :円筒部
14 :ハブ部
15 :ボス部
16 :貫通孔
20 :ロータコア
21 :コア内周面
22 :ロータコアの軸方向端面
23 :電磁鋼板
24 :磁石挿入孔
26 :永久磁石
27 :コア外周面
30 :エンドプレート
30a :第一エンドプレート
30b :第二エンドプレート
31 :プレート内周面
32 :エンドプレートの当接面
33 :開口部
34 :プレート油路
37 :プレート外周面
38 :周方向油路
39 :径方向油路
40 :排出油路
51 :コア内周面と軸体の外周面との溶接部
52 :プレート内周面と軸体の外周面との溶接部
53 :レーザ光線
A :軸心
X1 :軸第一方向
X2 :軸第二方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7