特許第6136933号(P6136933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136933楽器の響板を振動させるためのアクチュエータ及びその取り付け方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136933
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】楽器の響板を振動させるためのアクチュエータ及びその取り付け方法
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/32 20060101AFI20170522BHJP
   H04R 7/04 20060101ALI20170522BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G10H1/32 Z
   H04R7/04
   H04R1/00 310F
【請求項の数】16
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2013-549332(P2013-549332)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2012082547
(87)【国際公開番号】WO2013089239
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-274365(P2011-274365)
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-274366(P2011-274366)
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大西 健太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕史
【審査官】 安田 勇太
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−017839(JP,B1)
【文献】 特開2008−310055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/32
H04R 1/00
H04R 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータであって、
磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、
ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、
前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものと、
を備え
前記接続部材は、前記接続端部を形成する端部部材と、当該端部部材よりも熱伝導率が大きい部分とを具備する、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータであって、
磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、
ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、
前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものと、
を備え、
前記響板には響棒が設けられており、
前記接続部材は、前記接続端部が前記響板の前記響棒が設けられている側に接続され、かつ、前記響棒の前記響板からの高さよりも前記ボビンから前記接続端部までの距離が長くなるように前記長さを調整した状態で、前記響板に接続され固定される、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータであって、
磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、
ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、
前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものと、
前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準配置を示すための基準位置指示部材と、
を備えることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
前記接続部材は、棒状部材と、該棒状部材の回転変位を該棒状部材の直線変位に変換するねじ構造とを具備する、請求項1乃至3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記接続部材は、前記ボビンに結合した第1部材と、前記第1部材に対して変位可能に結合する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材の結合部位を締め付けて固定する締め付け具とを具備する、請求項1乃至3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータであって、
磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、
ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、
前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものと、
を備え、
前記接続部材は、前記ボビンが開口する部分に固定されている平坦な面を有するキャップを具備し、
前記キャップの前記面には、当該面の温度を測定するための温度測定器が取り付けられる、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
前記響板には響棒が設けられており、
前記接続部材は、前記接続端部が前記響板の前記響棒が設けられている側に接続され、かつ、前記響棒の前記響板からの高さよりも前記ボビンから前記接続端部までの距離が長くなるように前記長さを調整した状態で、前記響板に接続され固定される、請求項に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準配置を示すための基準位置指示部材を備える、請求項6又は7に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記ボビンが前記磁路空間内に配置されるように、前記ボビンを前記磁路形成部に連結するダンパを更に備える、請求項1乃至のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれかに記載のアクチュエータと、
前記磁路形成部を支持する支持部と、
前記接続端部が接続された響板と、
演奏操作子と、
前記演奏操作子の操作に応じたオーディオ波形を表す駆動信号を発生する信号発生部であって、前記駆動信号は前記ボイスコイルを駆動するために前記アクチュエータに供給されるものと
を備える楽器。
【請求項11】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータを楽器に取り付ける方法であって、該アクチュエータは、磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものとを備えており、前記方法は、
前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して支持部を設置し、前記磁路形成部を該支持部に据え付けるステップと、
前記接続端部が前記響板の方に移動するように前記接続部材の長さを調整し、該接続端部を前記響板に接続するステップと、
前記接続端部が前記響板に接続されるように調整された前記接続部材の長さを固定するステップと
を備え
前記接続部材の長さを調整することは、前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準位置を維持しつつ前記接続部材の長さを調整することからなり、
前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準位置を維持するために、前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準位置を示す基準位置指示部材が利用される、ことを特徴とする方法。
【請求項12】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータを楽器に取り付ける方法であって、該アクチュエータは、磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものとを備えており、前記方法は、
前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して支持部を設置し、前記磁路形成部を該支持部に据え付けるステップと、
前記接続端部が前記響板の方に移動するように前記接続部材の長さを調整し、該接続端部を前記響板に接続するステップと、
前記接続端部が前記響板に接続されるように調整された前記接続部材の長さを固定するステップと
を備え、
前記接続部材の長さを調整することは、前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準位置を維持しつつ前記接続部材の長さを調整することからなり、
前記接続端部を前記響板に接続する前記ステップを行う前に、前記磁路形成部を据え付けた前記支持部の前記響板に対する相対的距離を調整するステップを更に備える、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータを楽器に取り付ける方法であって、該アクチュエータは、磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、前記ボビンの端部に結合し、前記楽器の響板に接続される端部部材とを具備し、前記磁路形成部は、前記ボビンの内部空間内に挿入される部分を有し、該部分には前記ボイスコイルの軸方向に貫かれた通し孔が形成されており、前記通し孔に対向する前記端部部材の箇所において、該端部部材を前記響板に接続するための固定部材を取り付けるべき位置を特定するマークが設けられており、前記方法は、
前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して支持部を設置し、前記磁路形成部を該支持部に据え付けるステップと、
前記磁路形成部の前記通し孔を通して、前記固定部材を前記端部部材の前記マークの位置まで持ってくるステップと、
前記マークの位置まで持ってきた前記固定部材により、前記端部部材を前記響板に固定するステップと
を備え、
前記固定部材は、ねじであり、
前記固定部材を前記端部部材の前記マークの位置まで持ってくる前記ステップは、前記ねじを非磁性材質のドライバの先端に付けて該ドライバを前記磁路形成部の前記通し孔を通ことを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
楽器の響板を振動させるためのアクチュエータを楽器に取り付ける方法であって、該アクチュエータは、磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、前記ボビンの端部に結合し、前記楽器の響板に接続される端部部材とを具備し、前記磁路形成部は、前記ボビンの内部空間内に挿入される部分を有し、該部分には前記ボイスコイルの軸方向に貫かれた通し孔が形成されており、前記通し孔に対向する前記端部部材の箇所において、該端部部材を前記響板に接続するための固定部材を取り付けるべき位置を特定するマークが設けられており、前記方法は、
前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して支持部を設置し、前記磁路形成部を該支持部に据え付けるステップと、
前記磁路形成部の前記通し孔を通して、前記固定部材を前記端部部材の前記マークの位置まで持ってくるステップと、
前記マークの位置まで持ってきた前記固定部材により、前記端部部材を前記響板に固定するステップと
を備え、
前記端部部材を前記響板に固定する前記ステップを行う前に、前記磁路形成部を据え付けた前記支持部の前記響板に対する相対的距離を調整するステップを更に備える、ことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記固定部材は、ねじであり、
前記固定部材を前記端部部材の前記マークの位置まで持ってくる前記ステップは、前記ねじを非磁性材質のドライバの先端に付けて該ドライバを前記磁路形成部の前記通し孔を通ことを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
楽器の響板を振動させるための装置であって、
磁路空間を形成するように構成された磁路形成部、
ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビン、及び
前記ボビンに結合し、かつ、前記楽器の響板に接続され、前記ボビンの振動を前記響板に伝達するのに適した接続部材、
を備えるアクチュエータと、
前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して配置され、前記アクチュエータを支持する支持部と、
前記支持部の前記響板に対する相対的距離を調整するように構成された調整装置
を具備する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器の響板に対して物理的振動を積極的に与えるためのボイスコイル型のアクチュエータ、及び、該アクチュエータを楽器に取り付けるための方法に関し、さらには、該アクチュエータを備えた楽器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ピアノにおいては電磁スピーカから電子音を発生させることが行われている。この電子音だけでなく自然な音の広がりや豊かな低音を発生させるために、電子ピアノにおいても響板が設けられている場合がある。特許文献1には、響板に電磁スピーカを取り付け、電磁スピーカにより響板を加振することにより、響板から音を放射させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平4−500735号公報
【0004】
響板を振動させるため、例えば、磁力線の通り道(磁路)に配置されたボイスコイルに駆動信号を入力することにより、駆動力を発生させるボイスコイル型のアクチュエータが用いられる。このようなアクチュエータは、ボイスコイル型のスピーカに近い構造であるため、コストを抑えることができる。このようなアクチュエータは、安定した駆動力を得るために、磁路に存在する振動中のボイスコイルの巻き数の変化が少なくなるように取り付けられることが望ましい。例えば、ボイスコイルの振動方向の寸法を大きくするほど、この変化は少なくなるが、一方で、この寸法が大きいほど、インダクタンスが増加して良好な応答性が得られる周波数が低い方に制限されることになる。それを避けるためには、ボイスコイルの振動方向の寸法を、磁路の同じ方向の寸法にボイスコイルの最大の振幅を加えた長さかそれに遊び分の長さを加えた長さ程度とする必要がある。そうすると、安定した駆動力を得るためには、ボイスコイルとともに振動する振動部と、磁路を形成する磁路形成部とを、振動方向における互いの相対的な位置が所望の関係となるように正確に取り付けることが求められることになる。特許文献1に記載された技術では、ボビン及びヨークがそれぞれ独立しているため、ボビンを響板に接続した後でヨークを支柱等に固定することになる。その場合、ボビン及びヨークを正確な位置に取り付けるためにボビンの振動方向の位置を微調整する必要があり、調整作業が煩雑となる。
【0005】
また、上記従来技術のように響板を振動させるアクチュエータとして用いられる電磁スピーカは、例えば、磁石及びヨークにより形成される磁力線の通り道(磁路)に、ボビンに設けられているボイスコイルを配置し、そのボイスコイルに駆動信号を入力することにより駆動力を発生させる構成を備えている。このような構成では、例えば、互いに対向するヨークの間に磁路が形成され、これらのヨークの間にボビンが配置される。作業者がこのようなアクチュエータを楽器に取り付ける場合、ボビンがヨークと接触しないように、それらを正確な位置に取り付ける必要がある。特許文献1には、ボビンを響板に固定した後で、その位置に合わせてヨークを取り付けることが記載されている。この場合、作業者は、ボビンとヨークとが接触しないようにヨークの位置を様々な方向に微調整しながら磁石及びヨークを固定する作業を行うことになるため、作業が煩雑となる。
【発明の概要】
【0006】
そこで、本発明は、響板に対する取り付けを容易に行うことができるボイスコイル型のアクチュエータを提供することを目的とする。また、ボイスコイルの磁路空間内での配置が所望の理想的配置となるようにして響板に取り付ける作業を行うことがことが容易なボイスコイル型のアクチュエータを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、ボビンと磁路形成部とが接触しないように楽器に取り付けることが容易に行える構造を持つボイスコイル型のアクチュエータを提供することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、楽器の響板を振動させるためのアクチュエータであって、磁路空間を形成するように構成された磁路形成部と、ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビンと、前記ボビンに結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材であって、前記接続部材は、前記楽器の響板に接続されるのに適した接続端部を有し、かつ、その長さを調整可能に構成されているものとを備えるアクチュエータを提供するものであり、第1の観点によれば、該アクチュエータにおいて、前記接続部材は、前記接続端部を形成する端部部材と、当該端部部材よりも熱伝導率が大きい部分とを具備することを特徴とする。また、第2の観点によれば、該アクチュエータにおいて、前記響板には響棒が設けられており、前記接続部材は、前記接続端部が前記響板の前記響棒が設けられている側に接続され、かつ、前記響棒の前記響板からの高さよりも前記ボビンから前記接続端部までの距離が長くなるように前記長さを調整した状態で、前記響板に接続され固定されることを特徴とする。さらに、第3の観点によれば、該アクチュエータにおいて、前記磁路空間内での前記ボイスコイルの取付基準配置を示すための基準位置指示部材を備えることを特徴とする。さらに、第4の観点によれば、該アクチュエータにおいて、前記接続部材は、前記ボビンが開口する部分に固定されている平坦な面を有するキャップを具備し、前記キャップの前記面には、当該面の温度を測定するための温度測定器が取り付けられることを特徴とする。
【0009】
これによれば、ボビンに結合した接続部材は、ボビンを楽器の響板に間接的に接続し、ボビン(ボイスコイル)の振動を響板に伝達する。接続部材は、その長さを調整可能に構成されているので、アクチュエータを響板に取り付けるとき、磁路形成部及びボビン(ボイスコイル)の位置は動かさずに、接続部材の長さを調整して響板に接続することができる。したがって、アクチュエータの響板に対する取り付けを容易に行うことができる。また、磁路形成部及びボビン(ボイスコイル)の相対的位置関係を所定の取付基準位置に維持しつつ、接続部材の長さのみを調整して、接続部材を響板に接続することができるので、磁路形成部及びボビン(ボイスコイル)の相対的位置関係を所望の理想的配置(取付基準位置)に設定した状態で取り付けるための作業を容易に行うことができる。
【0010】
一実施例において、前記接続部材は、棒状部材と、該棒状部材の回転変位を該棒状部材の直線変位に変換するねじ構造とを具備してよい。
【0011】
別の実施例において、前記接続部材は、前記ボビンに結合した第1部材と、前記第1部材に対して変位可能に結合する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材の結合部位を締め付けて固定する締め付け具とを具備してよい。
【0012】
また、本発明によれば、前記アクチュエータと、前記磁路形成部を支持する支持部と、前記接続端部が接続された響板と、演奏操作子と、前記演奏操作子の操作に応じたオーディオ波形を表す駆動信号を発生する信号発生部であって、前記駆動信号は前記ボイスコイルを駆動するために前記アクチュエータに供給されるものとを備える楽器が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、前記アクチュエータを楽器に取り付ける方法であって、前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して支持部を設置し、前記磁路形成部を該支持部に据え付けるステップと、前記接続端部が前記響板の方に移動するように前記接続部材の長さを調整し、該接続端部を前記響板に接続するステップと、前記接続端部が前記響板に接続されるように調整された前記接続部材の長さを固定するステップとを備える方法が提供される。
【0014】
更に、上記取り付ける方法を、楽器を製造するための方法に組み入れることにより、本発明に従う、新規且つ有用な、楽器を製造するための方法を提供することができる。
【0017】
また、本発明によれば、前記アクチュエータを楽器に取り付ける方法であって、前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して支持部を設置し、前記磁路形成部を該支持部に据え付けるステップと、前記磁路形成部の前記通し孔を通して、前記固定部材を前記端部部材の前記マークの位置まで持ってくるステップと、前記マークの位置まで持ってきた前記固定部材により、前記端部部材を前記響板に固定するステップとを備え、前記固定部材は、ねじであり、前記固定部材を前記端部部材の前記マークの位置まで持ってくる前記ステップは、前記ねじを非磁性材質のドライバの先端に付けて該ドライバを前記磁路形成部の前記通し孔を通することを含む、ことを特徴とする方法が提供される。また、前記端部部材を前記響板に固定する前記ステップを行う前に、前記磁路形成部を据え付けた前記支持部の前記響板に対する相対的距離を調整するステップを更に備えることを特徴とする方法が提供される。更に、この取り付ける方法を、楽器を製造するための方法に組み入れることにより、本発明に従う、新規且つ有用な、楽器を製造するための方法を提供することができる。
【0018】
本発明の更に別の観点に従うと、楽器の響板を振動させるための装置であって、磁路空間を形成するように構成された磁路形成部、ボイスコイルを装着し、該ボイスコイルを前記磁路空間内に配置するボビン、及び前記ボビンに結合し、かつ、前記楽器の響板に接続され、前記ボビンの振動を前記響板に伝達するのに適した接続部材、を備えるアクチュエータと、前記楽器の前記響板に対する前記アクチュエータの取り付け位置に対応して配置され、前記アクチュエータを支持する支持部と、前記支持部の前記響板に対する相対的距離を調整するように構成された調整装置を具備する装置が提供される。
【0019】
これによれば、アクチュエータを響板に取り付けるとき、アクチュエータ内の磁路形成部及びボビン(ボイスコイル)の相対的位置は動かさずに、支持部の響板に対する相対的距離を調整することで、接続部材が響板に接続される位置まで、支持部及びアクチュエータの全体を動かすことができる。したがって、アクチュエータの響板に対する取り付けを容易に行うことができる。また、磁路形成部及びボビン(ボイスコイル)の相対的位置関係を所定の取付基準位置に維持しつつ、支持部のみを調整して、接続部材を響板に接続することができるので、磁路形成部及びボビン(ボイスコイル)の相対的位置関係を所望の理想的配置(取付基準位置)に設定した状態で取り付けるための作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1】実施形態におけるグランドピアノの外観を示す斜視図である。
図2】グランドピアノの内部構造を説明する図である。
図3】加振装置の位置を説明する図である。
図4】第1実施例に従う加振装置の外観を説明する図である。
図5図4に示す加振装置の縦断面図である。
図6】加振装置の取り付け作業の手順を示すフローチャートである。
図7】固定治具の外観を示す平面図及び正面図である。
図8】固定治具が磁気回路要素に取り付けられた状態を示す図である。
図9】磁気回路要素が支持部に支持された状態を示す図である。
図10】スペーサが響板に接続された状態を示す図である。
図11】シャフトがキャップに固定された状態を示す図である。
図12】響板と支持部とがずれた状態を示す図である。
図13】ヨークの上側に響棒が来る位置に加振装置が取り付けられた状態を示す図である。
図14】制御装置の構成を示すブロック図である。
図15】グランドピアノの機能構成を示すブロック図である。
図16】変形例に係る固定治具を示す図である。
図17】変形例に係る磁気回路要素を示す図である。
図18】変形例に係る加振装置を示す図である。
図19】変形例に係るキャップを示す図である。
図20】変形例に係るシャフトを示す図である。
図21】変形例に係るシャフトを示す図である。
図22】第2実施例に従う加振装置の外観を説明する図である。
図23図23に示す加振装置の縦断面図である。
図24】第2実施例に従う加振装置の取り付け作業の手順を示すフローチャートである。
図25】固定治具により振動部材及び磁気回路要素が仮固定された状態を示す図である。
図26】磁気回路要素が支持部に固定された状態を示す図である。
図27】キャップが響板に固定された状態を示す図である。
図28】変形例に係るキャップを示す図である。
図29】変形例に係るキャップを示す図である。
図30】変形例に係るキャップを示す図である。
図31】変形例に係る固定治具が取り付けられた状態を示す図である。
図32】変形例に係る加振装置を示す図である。
図33】変形例に係る加振装置を示す図である。
図34】変形例に係る振動部材を示す図である。
図35】第3実施例に従う加振装置の縦断面図である。図である。
図36】第4実施例に従う加振装置の縦断面図である。図である。
図37】第5実施例に従う加振装置の高さ位置を調整するための機構を示す側面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の第1実施例におけるグランドピアノ1の外観を示す斜視図である。公知のグランドピアノと同様に、このグランドピアノ1は、演奏者の手によって演奏操作がなされる鍵2を複数配列してなる鍵盤を前面に有し、かつ、演奏制御用のペダル3を有する。また、グランドピアノ1は、前面部分に操作パネル13を有する制御装置10、及び譜面台部分に設けられたタッチパネル60を有する。ユーザの指示は、操作パネル13及びタッチパネル60が操作されることにより、制御装置10に対して入力可能になっている。
【0022】
このグランドピアノ1は、複数の発音モードのうち、ユーザの指示に応じて選択される発音モードで発音を行うことが可能なように構成されている。これらの発音モードには、(1)一般的なグランドピアノと同様に、ハンマによる打弦に応じた弦振動音に基づく発音のみからなる通常発音モード、(2)ハンマによる打弦をストッパーで阻止する一方で、電子音源のような音源部から発生されたオーディオ波形信号に基づく駆動信号によって加振装置響板をアクティブに物理的に加振することにより、該響板から発生されるアクティブな振動音(典型的には通常演奏音より小さな音であるが、大きな音であってもよい)に基づくで発音のみからなる弱音モード、(3)通常発音モードの動作と同様のハンマによる打弦に応じた弦振動音に基づく発音と、上述と同様に駆動信号によって響板をアクティブに物理的に加振することにより生じるアクティブな響板振動音に基づく発音と、を一緒に行う加振装置強音モード、が含まれる。この強音モードでは、音量を大きくするだけでなく、ハンマ打弦によるピアノ本来の音色を持つ第1のアコースティック音と、ピアノ以外(ピアノに類似した音色を含む)の任意の音色波形を持つ駆動信号によって響板を強制振動させることにより得られる任意の付加的音色を持つ第2のアコースティック音とが同時に発音されることにより、音色レイヤー効果を得ることができる。従って、強音モードは、音色レイヤー効果を得る演奏モードとしても機能させることができる。
【0023】
なお、発音モードには、消音モードなど、更に他の発音モードが存在していてもよい。消音モードでは、弱音モードと同様の構成において、音源部から発生した電子的楽音波形信号(オーディオ波形信号)を、響板の駆動信号として用いるのではなく、ヘッドホン端子へ供給することにより、該電子的楽音波形信号に基づく音を演奏者に個人的に聞かせる(外部空間への発音をさせない)。
これらの発音モードをリストすると以下の表1に示すようになる。
【0024】
【表1】
【0025】
また、グランドピアノ1においては、複数の演奏モードのうち、ユーザの指示に応じた演奏モードでの動作が可能になっている。この演奏モードには、ユーザが演奏操作をして発音させる通常演奏モード、及び鍵を自動的に駆動して発音させる自動演奏モードが含まれている。なお、本発明を実施するためには、グランドピアノ1は、少なくともいずれか一方の演奏モードが実現可能なように構成されていればよい。
【0026】
[グランドピアノ1の構成]
図2は、グランドピアノ1の内部構造を説明する図である。この図においては、各鍵2に対応して設けられている構成については、1つの鍵2に着目して示し、他の鍵2に対応して設けられている部分については記載を省略している。
【0027】
各鍵2の後端側(演奏するユーザから見て鍵2の奥側)の下部には、演奏モードが自動演奏モードである場合において、ソレノイドを用いて鍵2を駆動する鍵駆動部30が設けられている。鍵駆動部30は、制御装置10からの制御信号に応じてソレノイドを駆動する。鍵駆動部30は、ソレノイドを駆動してプランジャを上昇させることにより、ユーザが押鍵したときと同様な状態を再現する一方、プランジャを下降させることにより、ユーザが離鍵したときと同様な状態を再現する。このように、通常演奏モードと自動演奏モードとの違いは、鍵2を駆動させるのがユーザの操作であるか、鍵駆動部30であるかの違いである。
【0028】
ハンマ4は、各鍵2に対応して設けられ、鍵2が押下されるとアクション機構(図示略)を介して力が伝達されて移動し、各鍵2に対応する弦(発音体)5を打撃する。また、ダンパ8は、鍵2の押下量、及びペダル3のうちダンパペダル(以下、単にペダル3といった場合にはダンパペダルを示す)の踏込量に応じて、弦5と非接触状態又は接触状態となる。ダンパ8は、弦5と接触しているときには、その弦5の振動を抑制する。
【0029】
鍵センサ22は、各鍵2の下部に設けられ、鍵2の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。この例においては、鍵センサ22は、鍵2の押下量を検出し、検出結果を示す検出信号を制御装置10に出力する。なお、鍵センサ22は、鍵2の押下量に応じた検出信号を出力していたが、鍵2が特定の押下位置を通過したことを示す検出信号が出力されるようにしてもよい。特定の押下位置とは、鍵2のレスト位置からエンド位置に至る範囲のいずれかの位置であり、複数箇所であることが望ましい。このように、鍵センサ22が出力する検出信号は、鍵2の挙動を制御装置10に認識させることができる信号であればどのようなものであってもよい。
【0030】
ハンマセンサ24は、各ハンマ4に対応して設けられ、ハンマ4の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。この例においては、ハンマセンサ24は、ハンマ4による弦5の打撃直前の移動速度を検出し、検出結果を示す検出信号を制御装置10に出力する。なお、この検出信号は、ハンマ4の移動速度そのものを示すものでなくてもよく、別の態様での検出信号として、制御装置10において移動速度が算出されるようにしてもよい。例えば、ハンマ4が移動中にハンマシャンクが通過する2つの位置について、ハンマシャンクが通過したことを示す検出信号が出力されるようにしてもよいし、一方の位置を通過してから他方の位置を通過するまでの時間を示す検出信号が出力されるようにしてもよい。このように、ハンマセンサ24が出力する検出信号は、ハンマ4の挙動を制御装置10に認識させることができる信号であればどのようなものであってもよい。
【0031】
ペダルセンサ23は、各ペダル3に対応して設けられ、ペダル3の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。この例においては、ペダル3の踏込量を検出し、検出結果を示す検出信号を制御装置10に出力する。なお、ペダルセンサ23は、ペダル3の踏込量に応じた検出信号を出力していたが、ペダル3が特定の踏込位置を通過したことを示す検出信号が出力されるようにしてもよい。特定の踏込位置とは、ペダルのレスト位置からエンド位置に至る範囲のいずれかの位置であり、ダンパ8と弦5とが完全に接触する状態と非接触の状態とを区別できる踏込位置であることが望ましく、複数箇所を特定の踏込位置とすることでハーフペダルの状態についても検出することができるようにすることがさらに望ましい。このように、ペダルセンサ23が出力する検出信号は、ペダル3の挙動を制御装置10に認識させることができる信号であればどのようなものであってもよい。
【0032】
なお、鍵センサ22、ペダルセンサ23、及びハンマセンサ24から出力される検出信号によって、制御装置10が、弦5に対するハンマ4の打撃タイミング(キーオンのタイミング)、打撃速度(ベロシティ)、及びその弦5に対するダンパ8の振動抑制タイミング(キーオフのタイミング)を、各鍵2(キーナンバ)に対応して特定することができるようになっていれば、鍵センサ22、ペダルセンサ23及びハンマセンサ24は、鍵2、ペダル3、ハンマ4の挙動を検出した結果を、他の態様での検出信号として出力してもよい。
【0033】
響板7は、木材で形成された板状の部材である。響板7は、その表面には駒6が設けられており、その裏面に複数の響棒75(第2の棒状部材)が配置されている。通常のピアノ演奏に際しては、ハンマ4によって打弦された弦5の振動が駒6を介して響板7に伝達される。
【0034】
また、響板7には、加振装置(アクチュエータ)50が取り付けられる。加振装置50は、響板7に接続された振動部材51と、支持部55によって支持された磁気回路要素(磁路形成部)52とを有する。支持部55は、磁気回路要素52を支持するのに適した、アルミ素材等の非磁性金属で形成されている。支持部55は、磁気回路要素52の荷重を支持できる程度の強度で直支柱9に固定されている。直支柱9は、板状の部材であり、グランドピアノ1の重さを支える筐体の一部である。加振装置50には、制御装置10から駆動信号が供給され得る。振動部材51は、入力された駆動信号が示す波形に応じて振動し、響板7を加振する。これにより、駒6も加振される。このように、加振装置50は、響板7及び駒6を振動させるアクチュエータである。
【0035】
図3は、加振装置50の配置を説明する図である。この例においては、加振装置50として、加振装置50H、50Lの2つが設けられている。以下、加振装置50H、50Lを互いに特に区別して説明する必要がない場合には、単に加振装置50という。図示例においては、加振装置50H,50Lは、2つの響棒75の間の響板7の裏面に接続されている。加振装置50Hは、2つの駒6(長駒6H、短駒6L)のうち、長駒6Hに対応する位置に設けられている。一方、加振装置50Lは、短駒6Lに対応する位置に設けられている。すなわち、響板7は、加振装置50と駒6とに挟まれた状態になる。
【0036】
なお、加振装置50の取り付け位置は、駒の下に限られるものではない。単体であるいは複数の加振装置で響板を必要なだけ駆動できる位置であれば、響板7は、加振装置50と駒6とに挟まれた状態を必須とせず、どこでもよい。また、響板7に設けられている加振装置50の数は2つに限らず、より多くの数であってもよいし、1つだけが設けられていてもよい。加振装置50を1つだけ設ける場合には、長駒6Hに対応する位置に加振装置50を配置することが望ましい。長駒6Hは、高音側の弦5を支持する駒であり、短駒6Lは、低音側の弦5を支持する駒である。以下、各駒6H、6Lを互いに特に区別して説明する必要がない場合には、単に駒6という。
【0037】
[第1実施例に従う加振装置]
図4は、本発明の第1実施例に従う加振装置50の外観を説明する図である。加振装置50は、振動部材51と磁気回路要素52とダンパ53とを有する。振動部材51は、ボビン511に装着されたボイスコイル513、ボビン511の先端部に結合したキャップ512、シャフト514及びスペーサ516を有する。キャップ512は、円盤状の部材である。シャフト514は、棒状の部材であり、長手方向の一方の端部がキャップ512の円状の面の中心に固定され、他方の端部にスペーサ516が取り付けられている。スペーサ516は、円柱状の部材であり、シャフト514に取り付けられている側とは反対側に平らな面を有する。この面は、直径がΦ1の円形となっており、響板7に接続される面である。以下では、この面の法線に沿った方向を法線方向A1といい、その正方向はこの面が向いている方向であるものとする。また、以下の各図では、加振装置50の法線方向A1の正方向側を上側とし、法線方向A1の負方向側を下側とする。また、上側を向いた面を上面といい、下側を向いた面を下面という。スペーサ516が有する上述した面は、上面516Aという。
【0038】
磁気回路要素52は、トッププレート521、磁石522及びヨーク523を有し、これらは、上側からこの順番で重ね合わせられている。つまり、磁気回路要素52において、トッププレート521が最も上側、ヨーク523が最も下側に配置されている。ダンパ53は、繊維等で円盤状に形成された部材であり、円盤の面を蛇腹状に波打たせた形状(図4ではこの形状を簡略化して示している)をしている。ダンパ53は、外周側の端部がトッププレート521の上面521Aに取り付けられ、内周側の端部が振動部材51に取り付けられることで、振動部材51を法線方向A1に振動可能に支持している。加振装置50は、振動部材51が法線方向A1に振動することで、響板7を振動させる。
【0039】
図5は、図4に示す加振装置50の縦断面図である。振動部材51は、ボビン511、キャップ512、ボイスコイル513、シャフト514、ナット515及びスペーサ516を有している。ボビン511は、アルミ素材等の非磁性金属で形成された外径がL1の円筒部材である。ボビン511の軸方向A2の両端部は開口している。軸方向A2は、ボビン511の円筒形状の軸線B2に沿った方向であり、下側から上側に向かう方向を正方向とするものである。ボイスコイル513は、ボビン511の外周面511Dに設けられ、電流を振動に変えるいわゆるボイスコイルであり、外周面511Dに巻きつけられた導線により形成されている。
【0040】
キャップ512は、アルミ素材等の非磁性かつ熱伝導性の高い金属で形成された部材であり、ボビン511の軸方向A2の上側の開口する部分に結合されて、この部分を塞いでいる。キャップ512は、図4に示すとおり、全体が円盤状となっており、上側に大きい円盤の形状をした部分(上側部)と下側に小さい円盤の形状をした部分(下側部)とを有する。下側部は、外径がボビン511の内径となっていてボビン511に嵌められている。上側部は、キャップ512がボビン511の奥まで入り込まないようにボビン511の端部に引っ掛かるようになっている。このとき、この端部には、上側部の外周側かつ下面512Bが接触している。下面512Bは、ボビン511の外周よりも外側にはみ出している。また、キャップ512は、上側部及び下側部の中心を貫通する孔部512Gを有している。孔部512Gには、雌ねじが切られている。
【0041】
シャフト514は、アルミ素材の金属で棒状に形成された、軸方向A2に延伸する延伸部材である。シャフト514は、長手方向の半分以上の部分に、孔部512Gの雌ねじに嵌めることができる雄ねじが切られている。その雄ねじ部分は、シャフト514の長手方向の一方の端部まで続いている。また、シャフト514の他方の端部は、いわゆるボルトヘッドのような六角柱の形状となっており(図4参照)、その六角柱部分がスパナ等で回転させることができるようになっている。シャフト514は、この六角柱部分が回転させられることで、キャップ512に対して予め決められた範囲を軸方向A2に移動する。ここでいう予め決められた範囲とは、例えば、シャフト514の下端が孔部512Gの下端と重なるまで上側に移動させた場合のシャフト514の位置(これが上側の限界の位置となる。)から、六角柱部分がこれ以上回転しなくなるところまで下側に移動させた場合のシャフト514の位置(これが下側の限界の位置となる。)までの範囲である。以下では、この範囲を「シャフト移動範囲」という。
【0042】
ナット515は、シャフト514の雄ねじに嵌めることができる雌ねじが切られたナットである。ナット515は、キャップ512よりも六角柱部分側に嵌められている。スパナ等で回転させられることでナット515がキャップ512に押し付けられると、シャフト514がキャップ512に対して固定される。スペーサ516は、シャフト514の軸方向A2の上側の端部に固定されてシャフト514と響板7との間に挟まれる部材である。スペーサ516は、樹脂等で形成されており、アルミ素材で形成されたシャフト514及びキャップ512よりも熱伝導率が低くなっている。上述した上面516Aは、スペーサ516の上側、すなわち、スペーサ516のシャフト514に固定されている側とは反対側の面である。
【0043】
振動部材51の各部が上記のとおり互いに結合されていることで、上面516Aの法線方向A1がボビン511の軸方向A2に沿った状態となるようになっている。スペーサ516の上面516Aは、振動部材51の上側にあって響板7に接続される端部(以下「接続端部」という。)であり、スペーサ516は、この接続端部を形成する端部部材である。この接続端部と、ボビン511との距離は、予め決められた範囲、すなわち、シャフト514が上述したシャフト移動範囲を移動するのに伴って接続端部が移動したときに、接続端部とボビン511との距離が変化する範囲となる。以下では、この範囲を「端部移動範囲」という。また、キャップ512、シャフト514、ナット515及びスペーサ516は、互いに結合されることで、全体の長さ(ボビン511の上端から接続端部516Aまでの長さ)を調整して、ボビン511を響板7に接続するための接続部材として機能する。要約すると、この接続部材は、棒状部材(シャフト514)と、該棒状部材(シャフト514)の回転変位を該棒状部材(シャフト514)の直線変位に変換するねじ構造(シャフト514の雄ねじとキャップ512の雌ねじの結合)を有する。
【0044】
なお、ここでいう長さとは、例えば軸方向A2に沿った長さである。この接続部材は、ボビン511に設けたボイスコイル513を、図5に示す磁路空間525における所定の位置に合わせられるようにしながら、響板7に対して接続端部が接続されるように、全体の長さを調整して固定する。ボイスコイル513を所定の位置に合わせるとは、言い換えれば、ボイスコイル513とトッププレート521とが所定の位置関係となることであり、例えば、ボイスコイル513がトッププレート521と対向することである。
【0045】
トッププレート521は、例えば、軟鉄などの軟磁性材料により、中心に穴のあいた円盤状(リング状)に形成されている。ヨーク523は、例えば、軟鉄などの軟磁性材料により、円盤状の円盤部523Eと、円盤部523Eよりも外径が小さい円柱状の円柱部523Fとを、双方の軸を重ねて一体とした形状に形成されている。円柱部523Fは、外径がトッププレート521の内径よりも小さくなっている。磁石522は、リング状の永久磁石である。磁石522は、内径がトッププレート521の内径よりも大きくなっている。
【0046】
トッププレート521、磁石522及びヨーク523は、それぞれの軸線が重なる(略一致する)ようにして、この順番でトッププレート521が最も上側となるように重ねられている。円柱部523Fの円盤部523Eからの高さ、すなわち円柱部523Fの軸方向A3の寸法は、トッププレート521及び磁石522の軸方向A3の寸法の合計と概ね等しくなっている。軸方向A3は、円柱部523Fの円柱の軸線B3に沿った方向であり、下側から上側に向かう方向を正方向とするものである。トッププレート521、磁石522及びヨーク523は、以上のとおり配置されることで、図5に破線矢印で示した磁路を形成する。振動部材51は、トッププレート521と円柱部523Fとに挟まれた空間であって、磁路が形成されている空間である磁路空間525にボイスコイル513が位置するようにダンパ53によって支持されている。このように、トッププレート521、磁石522及びヨーク523が協働することで、磁路空間525を形成する磁路形成手段として機能する。加振装置50に入力される駆動信号は、ボイスコイル513に入力される。ボイスコイル513は、磁路空間525における磁力を受けて、入力される駆動信号が示す波形に応じてボビン511が軸方向A2に沿った方向に移動して振動するように駆動力を発生させる。このように、振動部材51は、ボイスコイル513に入力される駆動信号により軸方向A2に振動する振動手段であり、ボイスコイル513が磁路空間525に配置された状態で振動する。また、加振装置50は、ボイスコイル513に発生する駆動力により振動を加えるボイスコイル型のアクチュエータである。
【0047】
ボイスコイル513の軸方向A2の寸法(以下「コイル長寸法」という。)は、磁路空間525の軸方向A2の寸法(以下「磁路幅寸法」という。)に比べて大きい。また、ボイスコイル513は、振動部材51が振動したとき(振動中)に、磁路空間(空隙)525に存在するコイルの巻き数の変化が少ないほど、安定した駆動力が得られる。反対に、振動中にこの巻き数が変化するほど、発生する駆動力が変化して、得たい振動(特に振幅)が得られないことになる。例えば、振動中にボイスコイル513の軸方向A2の端部(以下「コイル端部」という。)が磁路空間525の中に入り込む状態、言い換えれば、ボイスコイル513から磁路空間525がはみ出した状態になると、この巻き数が大きく変化して得たい振動が得られなくなり、得たい音が発生しないという現象が生じる。振動部材51が振動していないときに、ボイスコイル513の軸方向A2(長さ方向)の中心(以下「コイル長中心」という。)が磁路空間525の軸方向A2(長さ方向)の中心(以下「磁路幅中心」という。)からずれているほど、一方のコイル端部が磁路空間525に近づくことになり、振動中に上記状態になりやすくなる。反対に、これらの中心が重なっている場合に、振動中に上記状態に最もなりにくく、得たい音が最も安定して得られることになる。図5では、これらの中心が重なるように振動部材51及び磁気回路要素52が配置されており、トッププレート521から(すなわち上面521Aから)ボビン511の上側の端部までの高さがL2となっている。
【0048】
上記現象は、コイル長寸法を大きくすることでも、発生しにくくすることができる。また、コイル長寸法を大きくすると、コイル長中心及び磁路幅中心がずれている場合でも、コイル端部が磁路空間525の中に入ってくることが少なくなる。しかし、単位長さあたりの巻き数を変えないとすると、コイル長寸法を大きくするほど、ボイスコイル513のインダクタンスが増加して、良好な応答性が得られる周波数が低い方に限定されてしまう。このため、コイル長寸法は、磁路幅寸法に振動部材51が振動したときの最大振幅を加えた長さ、又はその長さにさらに遊びの長さを加えた長さとすることが望ましく、ボイスコイル513のコイル長寸法は後者の長さとなっている。このため、振動部材51及び磁気回路要素52は、互いの軸方向A2の相対位置が所望の関係となるようにそれぞれ正確に取り付けられることが必要となる。ここでいう所望の関係とは、コイル長中心及び磁路幅中心が重なるような相対位置になっているということである。
【0049】
なお、本実施形態では、コイル長寸法が磁路幅寸法よりも大きいが、小さくなっていてもよい。その場合であっても、コイル長中心及び磁路幅中心が重なっている場合に、振動中にコイル端部が磁路空間525から最もはみ出しにくくなり、上記現象が発生しにくくなる。
【0050】
また、図5では、ボビン511の軸線B2が、円柱部523Fの軸線B3と重なる(略一致する)ようにダンパ53により支持されている。この状態を、ボビン511及び円柱部523Fの軸が合わさっている状態、換言すれば、軸合わせがなされている状態という。このように軸合わせがなされていると、振動部材51が振動したときに、軸合わせがなされていない場合、すなわちボビン511の内周面511Cの一部が他の部分に比べて円柱部523F近くなっている場合に比べて、ボビン511が円柱部523Fに接触しにくくなる。
【0051】
磁気回路要素52が有するトッププレート521、磁石522及びヨーク523は、上述のとおり軟磁性材料又は磁石で形成されており、かつ、振動部材51に比べて容量も大きいため、樹脂又はアルミ素材の金属等で形成されている振動部材51に比べて非常に重くなっている。磁気回路要素52の荷重は支持部55により直支柱9にかかるため、加振装置50の大部分の荷重は響板7へはかからないようになっている。響板7へは振動部材51の荷重がかかることになるが、わずかな荷重がかかるだけであるため、響板7の振動特性に与える影響は非常に少なくすることができる。
【0052】
続いて、作業者が加振装置50をグランドピアノ1に取り付けるときに行う作業の手順について、図6から図11までを参照しながら説明する。
【0053】
図6は、加振装置50の取り付け作業の手順を示すフローチャートである。まず、加振装置50(アクチュエータ)を備えていないグランドピアノ1が提供される。次に、このグランドピアノ1の所定部位、例えば直支柱9、に支持部55が取り付けられる。この場合、支持部55の配置は、加振装置50(アクチュエータ)を取り付けるべき響板7上の所定の部位に対応づけて、適切に決定される。図6に示した手順は、直支柱9に支持部55が接続されている状態で開始される。作業者は、所定の固定治具を磁気回路要素52に取り付ける(ステップS11)。ここにおいて、固定治具とは、振動部材51及び磁気回路要素52の軸方向A2の相対位置が上述した所望の関係であること(磁路空間内でのボイスコイルの理想的配置若しくは取付基準位置)を自動的に示すための基準位置指示部材(治具)である。
【0054】
図7は、固定治具54の外観を示す図である。固定治具54は、鉄等の磁性体で板状に形成されている。図7(a)では、固定治具54が有する面のうち、最も大きい上面54A側から見た固定治具54を示している(平面図)。固定治具54においては、上面54Aが向いている側を上側とする。図7(a)では、固定治具54は、U字型の形状をしており、U字における2本の直線状の部分である直線部541、542と、その間をつなぐ曲線部543とからなっている。曲線部543の反対側の直線部541、542の端部の間は距離L1だけ離れていて、空間を形成している。
【0055】
図7(b)は、固定治具54の正面図を示している。固定治具54において、直線部541、542の端部が見える側つまりU字の内部空間が見える側を正面といい、その反対側つまり曲線部543の側を背面といい、直線部541、542の側面が見える側を側面という。また、以下説明の便宜のため、直線部541及び542に挟まれた内部空間の方を内側といい、各直線部を挟んでその反対側の方(つまり側面の側)を外側という。また、上記のとおり上面54Aが向いている側を上側とし、その反対側を下側とする。また、上側から下側に向かう方向を上下方向という。固定治具54は、上面54Aの反対側で最も外側に近い部分に、下面54Bを有する。図7(a)であれば、上面54Aの破線(かくれ線)よりも外側の領域の反対側に下面54Bがあることになる。上面54A及び下面54Bの距離、つまり最も外側における固定治具54の上下方向の厚さは、L2となっている。この厚さは、上述したコイル長中心及び磁路幅中心が重なったときのトッププレート521の上側の上面521Aからボビン511の上側の端部までの高さと同じである。固定治具54は、下面54Bよりも内側では上下方向の厚さがL3(L3<L2)であり、下面54Bに重なる平面との間に空間ができるようになっている。直線部541及び542は、それぞれの最も内側に、上下方向に沿った側面541C及び542Cを有する。側面541C及び542Cは、互いに対向し、いずれも上面54Aと角をなしている。
【0056】
図8は、固定治具54により振動部材51の磁気回路要素52に対する位置及び向きが制限された状態を示す図である。シャフト514は、雄ねじ部分の根本にナット515が嵌められた状態でナット515の下側の面がキャップ512の上側の面に接触する直前の位置まで下側に下げられている。なお、シャフト514は、これらの面が接触する位置まで下側に下げられていてもよい。固定治具54は、トッププレート521の上面521Aに下面54Bを接触させて設置されている。固定治具54は、上記のとおり磁性体であるため、磁石522の磁力により磁気を帯びているトッププレート521からの吸引力(磁気吸引力)によって上面521Aに固定される。そして、固定治具54は、その直線部541及び542の間に(つまりU字の内側空間内に)ボビン511を挟みこむように取り付けられる。上述のとおり、ボビン511の外径と直線部541及び542の間の距離とはいずれもL1であるため、ボビン511の外周面511Dと側面541C及び542Cとが接触する状態となっている。これにより、ボビン511は、側面541C及び542Cに沿った方向以外の方向へは、上記のとおり磁気吸引力により上面521Aに固定された固定治具54をその方向に移動させることができるだけの力が加わらない限り、移動しないようになっている。このとき、望ましくは、固定治具54は、図5に示す状態と同様に、ボビン511の軸線B2と円柱部523Fの軸線B3とが重なる(ほぼ一致する)ように取り付けられているとよい。
【0057】
また、ボビン511は、ダンパ53により法線方向A1に振動可能に支持されているが、固定治具54により、キャップ512の下面512Bが固定治具54の上面54Aと接触する位置よりも下側に移動しないようになっている。これらの面が接触すると、ボビン511の上側の端部と上面521Aとの距離が、固定治具54の上面54Aと下面54Bとの距離、すなわちL2となるため、上述したとおり、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致するようになる。つまり、振動部材51は、固定治具54により下側に移動可能な範囲が制限されていることで、上側から下向きの力が加わっても、磁気回路要素52との法線方向A1における相対的な位置が所望の関係のまま維持されるようになっている。
【0058】
図6に戻る。次に、作業者は、磁気回路要素52を支持部55に支持させる(据え付ける)(ステップS12)。このとき、作業者は、ボビン511から響板7までの距離が上述した端部移動範囲に収まるように、磁気回路要素52の配置(高さ)を確保した上で該磁気回路要素52を支持部55に対する支持させる。例えば複数の支持棒を介して支持部55の上方に磁気回路要素52を取り付ける場合、複数の支持棒を介して支持する磁気回路要素52の高さを適切に設定する。言い換えると、作業者は、追って述べるように接続部材全体の長さを調整したときに響板7に対して接続端部が接続され得るように、適切な高さで、支持部55により磁気回路要素52を支持させる。また、作業者は、スペーサ516を含む振動部材51が響板7の下面7Bにおいて予め定められた加振領域の下側でこの加振領域に対向するように、支持部55の配置を決めた上で、該支持部55により磁気回路要素52を支持させる。この配置領域は、スペーサ516の上面516Aを接続させる領域として予め定められたものであり、例えば、図3における駒6H又は駒6Lの位置を含む領域である。
【0059】
図9は、上記のようにして磁気回路要素52が支持部55に支持された状態を示す図である。図9においては、加振装置50、響板7、駒6及び支持部55の位置関係を示すため、響板7、駒6及び支持部55の位置を二点鎖線で示している。図9では、駒6の幅方向A4が図の左右方向となるように見た状態が示されている。駒6は、響板7の上面7Aに設けられている。また、響板7の下面7Bには、加振領域C1が予め定められている。加振領域C1は、加振装置50により力が加えられる領域であり、加振領域C1の幅方向A4の中心の法線方向A1に駒6の幅方向A4の中心がくるようになっている。また、加振領域C1は、スペーサ516の上面516Aと同様の形状をしており、具体的には、幅方向A4の寸法(すなわち直径)がΦ1の円形の領域である。
【0060】
トッププレート521には、下面521Bの周縁寄りの所定箇所に図示せぬ複数の通し孔が設けられている。このトッププレート521側の各通し孔に対応する配置で、支持部55には、上側から下側に貫通する複数の通し孔が設けられている。複数の支持棒551においては、それぞれの両端側に雄ねじが切られており、その雄ねじが切られた部分がトッププレート521及び支持部55の通し孔に差し込まれ、複数のナット552によってそれぞれ締め付け固定されることにより、図示のように、磁気回路要素52が支持部55に固定される。なお、各通し孔に雌ねじを設けてもよい。支持部55は、図3で示したように、磁気回路要素52の荷重を支持できる程度の強度で直支柱9に固定されている。このため、磁気回路52の荷重は、支持部55を介して直支柱9に掛かるようになっている。また、磁気回路要素52は、響板7との距離L4が上述した端部移動範囲、すなわち接続端部(上面516A)とボビン511との距離が変化する範囲に収まるように、支持部55に支持されている。このように、磁気回路要素52を支持部55により支持させたときの法線方向A1(又は軸方向A2)の位置(高さ位置)は、距離L4が端部移動範囲に収まる位置となっていればよいので、厳密さが要求されない。したがって、磁気回路要素52の位置(高さ位置)を軸方向A2の或る位置(高さ位置)に合わせなければならないというような厳密な精度が求められる場合に比べて、作業者は、ステップ12の作業を容易に行うことができる。ステップS12の作業は、本発明に係る「支持ステップ」の一例である。
【0061】
図6に戻る。続いて、作業者は、スペーサ516の上面516Aに接着剤を塗布する(ステップS13)。ここで用いる接着剤は、響板7とスペーサ516とを接着できるものであればよく、例えば木材と樹脂とを接着可能な接着剤である。そして、作業者は、例えばスパナを用いてシャフト514を回転させ、シャフト514を上側に移動させることで、上面516Aを響板7に接続させる(ステップS14)。この際、上記のとおり、距離L4が端部移動範囲に収まる長さとなっているため、上面516Aは必ず響板7まで到達して接続させることができるようになっている。この作業により、接着剤が塗布されている上面516Aは、響板7に接着されて接続した状態となる。ステップS13及びS14の一連の作業は、本発明に係る「接続ステップ」の一例である。
【0062】
図10は、スペーサ516が響板7に接続された状態を示す図である。シャフト514は、図9の状態から上側に移動させられており、上面516Aは、響板7に接続している。図9において上面516Aは領域C1の下側に位置していたので、上面516Aは領域C1に接続している。このとき、響板7にスペーサ516が押し付けられ、響板7からの反作用により振動部材51に法線方向A1の負方向の力が加わったとしても、振動部材51は、上述のとおり固定治具54により下側に移動可能な範囲が制限されているため、コイル長中心及び磁路幅中心が一致するように磁気回路要素52との相対位置が適切に 維持される。
【0063】
また、上述したとおり、シャフト514の下端が孔部512Gの下端と重なるまで上側に移動させた場合のシャフト514の位置が、シャフト移動範囲の上側の限界の位置として定められている。このため、ステップS14の作業が行われた後、シャフト514の下端は、キャップ512の下端、すなわち下面512Bと重なる、又はそれよりも下側にはみ出す状態となる。図10の例では、後者の状態となっている。このようにシャフト移動範囲が定められていることにより、シャフト514の下端が下面512Bよりも上側に位置する場合に比べて、孔部512Gにより支持されるシャフト514の領域の軸方向A2の長さが長くなり、シャフト514が図9の幅方向A4のような軸方向A2に交差する方向に傾きにくくなっている。
【0064】
図6に戻る。次に、作業者は、ナット515を例えばスパナを用いて回転させて、法線方向A1の負方向に移動させる。そして、ナット515をキャップ512に押し付けられるようになるまで移動させることで、シャフト514をキャップ512に固定させる(ステップS15)。この作業により、上面516Aが響板7に接続された状態でボビン511から上面516Aまでの距離が固定されることになる。つまり、この作業により、上述した接続部材全体の長さも、上面516Aが響板7に接続された状態で固定されることになる。ステップS15の作業は、本発明に係る「固定ステップ」の一例である。最後に、作業者は、固定治具54を取り外し(ステップS16)、加振装置50のグランドピアノ1への取り付け作業を終了する。こうして加振装置50が取り付けられることで、響板7は、ボビン511が法線方向A1の正方向に移動した場合には上側に向けて押され、ボビン511が法線方向A1の負方向に移動した場合には、ボビン511が離れるのではなく、ボビン511により下側に向けて引っ張られることになる。このようにして、ボビン511における振動は、響板7を介して駒6に加えられ、さらには、弦5に伝達される。加振装置50が取り付けられた状態を図11に示す。
【0065】
図11は、加振装置50の取り付け作業が終了した状態を示す図である。図11では、スペーサ516の上面516Aが響板7の領域C1に接続され、磁気回路要素52が支持部55に支持されている。このとき、振動部材51及び磁気回路要素52は、法線方向A1における相対位置が所望の関係、すなわち、コイル長中心及び磁路幅中心が一致した状態となっている。このように、加振装置50によれば、法線方向A1、すなわち振動部材51が振動する方向(振動方向)における所望の位置への取り付けを容易にすることができる。また、ステップS11において、ボビン511の軸線B2と円柱部523Fの軸線B3とが重なった状態(略一致した状態)で固定治具54が取り付けられ、ステップS15の作業が完了するまでその状態が維持されていれば、ボビン511及び円柱部523Fの軸合わせがなされた状態となり、これがなされていない状態に比べて、ボビン511と円柱部523Fとの接触が起こりにくくなっている。
【0066】
磁気回路要素52は、支持部55を介して直支柱9に支持されているため、ボイスコイル513において発生した駆動力は、ほとんどがボビン511の振動のための推力として用いられる。また、振動部材51は、響板7に接続されることによって響板7及びダンパ53により支持された状態となる。響板7及びダンパ53は、上述のとおり木材及び繊維等でそれぞれ形成されており、響板7に比べてダンパ53の剛性率が大幅に低くなっている。このため、振動部材51の荷重の大部分は、響板7に掛かるようになっている。一方、磁気回路要素52は、支持部55により支持され、振動部材51とはダンパ53を介してのみ接続されている。ダンパ53は、振動部材51(アルミ素材、樹脂)、磁気回路要素52(軟磁性材料、磁石)及び支持部55(金属)のいずれと比べても、剛性率が大幅に低くなっている。このため、例えば振動部材51及び磁気回路要素52の相対的な位置が変化しても、ダンパ53が変形するだけで、ダンパ53から振動部材51に加わる力は非常に小さくなる。このため、響板7に対しては、振動部材51以外の荷重がほとんどかからないようになっている。なお、支持部55が磁気回路要素52を支持する態様については、響板7に対して振動部材51以外の荷重がかからないようになっていれば、どのような態様であってもよい。
【0067】
なお、図11のように加振装置50を取り付けた後、グランドピアノ1のゆがみや各部材のずれ等により、支持部55と響板7との相対的な位置がずれることがある。図12は、響板7が支持部55に対してずれた状態の一例を示す図である。この例では、響板7は、支持部55に対して駒6の幅方向A4に長さL5だけずれている。振動部材51は、スペーサ516が響板7に接続されている箇所(具体的には上面516A)以外では、ダンパ53によりボビン511の外周面が支持されているのみである。このため、スペーサ516が響板7とともに幅方向A4にずれると、振動部材51は、ダンパ53により支持されている箇所の中心P1を通り、かつ、幅方向A4に直交する軸を中心として、回転することになる。このとき、シャフト514の上側の端部がわずかに傾くが、スペーサ516が樹脂で形成されているため、この傾きに合わせて変形している。ここで、幅方向A4にL5だけ移動する上面516Aと中心P1との距離がL6、中心P1とボイスコイル513の軸方向A2の中心との距離がL7とする。距離L6には、シャフト514の長さが含まれるため、L7に比べて長くなっている。一方、ボイスコイル513の軸方向A2の中心における幅方向A4へのずれをL8とすると、L8は、L8=L5/L6×L7という式で表される。上記のとおりL6>L7であるため、L8<L5となる。このように、本実施形態に係る加振装置50においては、響板7と支持部55とに幅方向A4へのずれが生じても、そのずれの大きさよりも、ボイスコイル513の幅方向A4へのずれの大きさが小さくなる。
【0068】
また、加振装置50は、シャフト514及びスペーサ516の法線方向A1の長さの分、磁気回路要素52が響板7から離れて支持されるため、響棒75の近くに取り付けることができるようになっている。図13は、トッププレート521の上側に響棒75が来る位置に加振装置50が取り付けられた状態を示す図である。響板7のスペーサ516が接続される側の面、つまり下面7Bには、響棒75が設けられている。この状態において、下面7Bとトッププレート521の上面521Aとの距離、つまり響板7に接続されるスペーサ516の上面516Aの上面521Aからの高さをL9とし、響板7(下面7B)からの響棒75の高さをL10とする。距離L9、高さL10及び上面521Aからボビン511の端部までの高さL2は、L9>L10>L2という関係となっている。つまり、上述した接続部材、すなわち、キャップ512、シャフト、ナット515及びスペーサ516は、図13に示すように、上面516Aの磁気回路要素52からの距離(この場合L9)が、響棒75の響板7からの距離(L10)よりも長くなるように、上面516Aをボビン511に対して固定するようになっている。言い換えれば、この接続部材は、響棒75の響板7からの距離よりも、上述した接続端部とボビン511との距離が長くなるように、全体の長さを調整して固定することができるようになっている。加振装置は、例えばボビン511を直接響板7に接続させて取り付ける構成とすることもできるが、その場合、上面521Aからのボビン511の高さ、すなわち上面521Aと下面7Bとの距離がL2となり、高さL10の響棒75がトッププレート521に接触して加振装置を取り付けることができない。加振装置50においては、振動部材51の接触端部が上記のとおり移動することにより、トッププレート521に響棒75を接触させることなく、響板7及び支持部55に取り付けることができる。
【0069】
[制御装置10の構成]
図14は、制御装置10の構成を示すブロック図である。制御装置10は、制御部11、記憶部12、操作パネル13、通信部14、信号発生部15、およびインターフェイス16を有する。これらの各構成はバスを介して接続されている。
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)などの記憶装置を有する。制御部11は、記録装置に記憶されている制御プログラムに基づいて、制御装置10の各部およびインターフェイス16に接続された各構成を制御する。この例においては、制御部11は、制御プログラムを実行することにより、制御装置10および制御装置10に接続された構成の一部を、本発明の楽器として機能させる。
【0070】
記憶部12は、制御プログラムを実行しているときに用いられる各種設定内容を示す設定情報を記憶する。設定情報は、例えば、鍵センサ22、ペダルセンサ23、およびハンマセンサ24から出力される検出信号に基づいて、信号発生部15から発生される駆動信号(オーディオ波形信号)の内容を決定するための情報である。また、設定情報には、ユーザにより設定された発音モード、演奏モードなどを示す情報も含まれる。
【0071】
操作パネル13は、ユーザの操作を受け付ける操作ボタンなどを有する。この操作ボタンによりユーザの操作が受け付けられると、操作に応じた操作信号が制御部11に出力される。インターフェイス16に接続されたタッチパネル60は、液晶ディスプレイなどの表示画面を有し、その表示画面の表面部分には、ユーザの操作を受け付けるタッチセンサが設けられている。この表示画面には、制御部11のインターフェイス16を介した制御により、記憶部12に記憶された設定情報の内容を変更するため設定変更画面、各種モードの設定などを行う設定画面、楽譜などの各種情報が表示される。また、タッチセンサにより利用者の操作が受け付けられると、操作に応じた操作信号がインターフェイス16を介して制御部11に出力される。ユーザから制御装置10への指示は、操作パネル13およびタッチパネル60によって受け付けられる操作により入力される。
【0072】
通信部14は、無線、有線などにより他の装置と通信を行うインターフェイスである。このインターフェイスには、DVD(Digital Versatile Disk)やCD(Compact Disk)などの記録媒体に記録された各種データを読み出し、読み出したデータを出力するディスクドライブが接続されていてもよい。通信部14を介して制御装置10に入力されるデータは、例えば、自動演奏に用いる楽曲データなどである。
信号発生部15は、音響信号(オーディオ波形信号)を出力する音源部151、この音響信号の周波数特性を調整するイコライザ(EQ)部152、この音響信号を増幅する増幅部153を有する(図15参照)。信号発生部15は、周波数特性が調整されて増幅された音響信号を、駆動信号として出力する。
【0073】
インターフェイス16は、制御装置10と外部の各構成とを接続するインターフェイスである。インターフェイス16に接続される各構成は、この例においては、鍵センサ22、ペダルセンサ23、ハンマセンサ24、鍵駆動部30、ストッパ40、加振装置50およびタッチパネル60である。インターフェイス16は、鍵センサ22、ペダルセンサ23、ハンマセンサ24から出力される検出信号、およびタッチパネル60から出力される操作信号を、制御部11に出力する。また、インターフェイス16は、制御部11から出力された制御信号を鍵駆動部30に出力し、信号発生部15から出力された駆動信号を加振装置50に出力する。
【0074】
[グランドピアノ1の機能構成]
次に、制御部11が制御プログラムを実行することにより機能する構成について説明する。図15は、グランドピアノ1の機能構成を示すブロック図である。図15に示すように、鍵2が操作されると、ハンマ4が弦5を打撃し、弦5が振動する。この振動は、駒6を介して響板7に伝達される。また、鍵2の操作、ペダル3の操作によりダンパ8が動作する。ダンパ8の動作により、弦5の振動の抑制状態が変化する。
【0075】
設定部110は、タッチパネル60および制御部11により以下に示す機能を有する構成として実現される。まず、タッチパネル60は、発音モードを設定するユーザの操作を受け付ける。制御部11は、ユーザによって設定された演奏モードおよび発音モードに応じて設定情報を変更し、これらのモードに応じて演奏情報発生部120および阻止制御部130に対して、選択された発音モードを示す制御信号を出力する。
【0076】
また、タッチパネル60は、信号発生部15における各種制御パラメータを設定するユーザの操作を受け付ける。各種制御パラメータとは、音源部151から出力される音響信号(オーディオ波形信号)が示す楽音の音色、イコライザ部152における周波数特性の調整態様、増幅部153における増幅率などの決定するためのパラメータである。ユーザは、それぞれの制御パラメータを個別に設定するものであってもよいし、予め各制御パラメータの値が決められたプリセットデータが複数記憶された記憶部12から一のプリセットデータを選択して制御パラメータを設定するものであってもよい。制御部11は、ユーザによって設定された各種制御パラメータに応じて設定情報を変更し、これらの制御パラメータにより信号発生部15から出力される駆動信号を制御する。なお、イコライザ部152、増幅部153は、予め決められたパラメータが設定され、制御部11によって変更可能に構成されていなくてもよい。
【0077】
演奏情報発生部120は、制御部11、鍵センサ22、ペダルセンサ23およびハンマセンサ24により以下に示す機能を有する構成として実現される。鍵センサ22、ペダルセンサ23およびハンマセンサ24によって、鍵2、ペダル3およびハンマ4の挙動がそれぞれ検出され、その結果出力される検出信号に基づいて、制御部11は、ハンマ4による弦5の打撃タイミング(キーオンのタイミング)、打撃された弦5に対応する鍵2の番号(キーナンバ)、打撃速度(ベロシティ)、およびその弦5に対するダンパ8の振動抑制タイミング(キーオフのタイミング)を、音源部151で用いる情報(演奏情報)として特定する。この例においては、制御部11は、打撃タイミングおよび鍵2の番号については鍵2の挙動から特定し、打撃速度についてはハンマ4の挙動から特定し、振動抑制タイミングについては、鍵2およびペダル3の挙動から特定する。なお、打撃タイミングがハンマ4の挙動から特定されてもよいし、打撃速度が鍵2の挙動から特定されてもよい。なお、演奏情報は、例えば、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)形式の制御パラメータで示されるものであってもよい。
【0078】
制御部11は、特定したキーオンのタイミングにおいて、キーナンバ、ベロシティ、およびキーオンを示す演奏情報を、信号発生部15の音源部151に出力する。また、制御部11は、キーオフのタイミングにおいて、キーナンバおよびキーオフを示す演奏情報を、音源部151に出力する。制御部11は、ユーザによって設定された発音モードが弱音モードもしくは強音モードである場合に、上記の機能を実現する一方、通常発音モードである場合には、この例においては、演奏情報の音源部151への出力を行わない。なお、通常発音モードである場合には、信号発生部15から駆動信号が発生/出力されないようにすればよいから、演奏情報が発生/出力される構成であったとしても、信号発生部15からの駆動信号が発生/出力されないように制御部11が制御すればよい。以上のとおり、演奏情報発生部120と信号発生部15とが協働することで、鍵2及びペダル3からなる演奏操作子の操作に応じた音を表す駆動信号をアクチュエータである加振装置50に出力する出力手段として機能する。
【0079】
阻止制御部130は、制御部11により以下に示す機能を有する構成として実現される。制御部11は、ユーザによって設定された発音モードが弱音モードである場合には、ハンマ4の弦5への打撃を阻止する位置にストッパ40を移動させる一方、通常発音モードもしくは強音モードに設定されているときには、ハンマ4の弦5への打撃を阻止しない位置にストッパ40を移動させる。
【0080】
音源部151は、演奏情報発生部120(制御部11)から発生された演奏情報に基づいて、音響信号(オーディオ波形信号)を出力する。例えば、音源部151は、キーナンバに応じた音高、ベロシティに応じた音量になるように音響信号(オーディオ波形信号)を出力する。この音響信号(オーディオ波形信号)は、上述したように、イコライザ部152により周波数特性が調整され、増幅部153において増幅されて加振装置50に駆動信号として供給される。加振装置50は、上述したように、供給された駆動信号に応じて振動し、響板7を振動させる。また、響板7の振動は駒6に伝達され、駒6を介して弦5にも伝達される。
【0081】
このように、演奏操作された鍵のキーナンバに応じた音高(周波数)でオーディオ波形信号を発生すれば、このオーディオ波形信号(駆動信号)に応じて振動する響板7からの振動音は、演奏操作された鍵の音高に対応する音高となる。また、響板7からの振動音のベロシティ制御(鍵タッチに応じた音量制御)も可能となる。しかし、オーディオ波形信号(駆動信号)の周波数等はこの例に限らず、種々の変更が可能である。例えば、和音のような複数音高のオーディオ波形信号をミックスした信号を発生し、これを駆動信号として使用して響板7を振動させてもよい。
【0082】
[第1実施例の変形例]
上述した実施形態は、本発明の第1実施例の一例に過ぎず、以下のように変形させてもよい。また、上述した実施形態及び以下に示す各変形例は、必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
【0083】
(変形例1)
固定治具は、上述した固定治具54とは異なる形状であってもよく、また、所望の位置関係に自動的に位置決めできる機能を有していなくてもよい。すなわち、固定治具は、トッププレート521に取り付けられた場合に、ボビン511の上側の端部のトッププレート521の上面521Aからの高さがL2となっていること(磁路空間内でボイスコイル513が所定の取付基準位置に配置されていること)、すわなち、ボイスコイル513が磁路空間525に対して所望の位置関係となっているか否かを、自動的に又は作業者が目視で確認できるように、示す基準位置指示部材として機能するものであれば、どのような形状であってもよい。
【0084】
図16は、本変形例に係る固定治具54qが磁気回路要素52に取り付けられた状態を示す図である。この固定治具54qは、前記固定治具54のような自動的位置決め機能を持たず、ボイスコイル513が磁路空間525に対して所望の位置関係となっているか否かを示すための基準位置を、作業者が目視で確認できるように、提示する機能を果たす。固定治具54qは、図7(b)に示した固定治具54の下面54Bよりも内側をなくした形状をしている。図16では、固定治具54qは、下面54Bqをトッププレート521の上面521Aに接触させ、ダンパ53と接触しない位置に取り付けられている。つまり、固定治具54qは、磁気回路要素52に取り付けられた状態となっていてよい。この場合、作業者は、図6のステップS11で固定治具54qを取り付けた後、スペーサ516の上面516A(接続端部)が響板7に接触するまでシャフト514を移動させて、固定治具54qの上面54Aqに沿った位置にボビン511の上側の端部が来るように、目視確認しながら、シャフト514の長さを調整する。これにより、作業者は、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致するように、つまり、振動部材51と磁気回路要素52との相対位置が所望の関係となるように、上面516Aを響板7に接続する(ステップS14)。
【0085】
なお、固定治具は、取り付けたときの上面521Aからの高さがL2となるものでなくともよく、例えばキャップ512の上面512Aのトッププレート521(上面521A)からの高さとなっていてもよいし、振動部材51のどこかに目印をつけてその目印の上面521Aからの高さとなっていてもよい。要するに、固定治具の上面521Aからの高さは、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致するときの振動部材51の位置を目視確認する際の目安にできるものであればよい。
【0086】
(変形例2)
固定治具の代わりに、コイル長中心及び磁路幅中心が一致するときの振動部材51の位置を確認できる部分が磁気回路要素52に設けられていてもよい。図17は、本変形例に係る磁気回路要素52rを示す図である。磁気回路要素52rが有するトッププレート521rは、上面521Arと、上面521Arからの高さがL2となる突起部521Eとを上面521Arに有している。作業者は、図6のステップS14においてシャフト514を上側に移動させるときに、突起部521Eの上面521Fに沿った位置にボビン511の上側の端部が来るように、シャフト514の位置を調整する。以上のとおり、磁気回路要素52r(磁路形成部)は、ボイスコイル513が磁路空間525に対して所望の位置となっているか否かを、振動部材51に対する相対的な位置を示す突起部521Eを有する。すなわち、突起部521Eは、ボイスコイル513と磁路空間525とのボビン511の軸方向の相対位置が所望の関係となっているか否かを目視にて確認するための基準を示す基準位置指示部材である。これにより、作業者は、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致するように目視確認しながら振動部材51の磁気回路要素52に対する位置を調整することができる。
【0087】
(変形例3)
磁気回路要素52は、上述した実施形態とは異なる方法で支持部55に支持されてもよい。例えば、トッププレート521の代わりにヨーク523に上側の面から下側の面まで貫通する孔を設けて、支持棒551及び複数のナット552により支持部55に支持されてもよい。また、磁気回路要素52は、図9では支持部55と接触していないが、支持部55と接触された状態で支持されてもよい。また、支持部55は、上述した実施形態ではグランドピアノ1の筐体に固定されていたが、それ以外の場所に固定されていてもよく、例えば、地面(床)に固定されていてよい。いずれの場合であっても、要するに、ボビン511から響板7までの距離が上述した端部移動範囲に収まるように磁気回路要素52が支持されるようになっていればよい。
【0088】
(変形例4)
加振装置50においては、ボイスコイル513から発生した熱を測定するため、温度を測定する熱センサを図5に示すキャップ512の平坦な上面512Aに取り付けてもよい。図18は、本変形例に係る加振装置50sを示す図である。加振装置50sが備える振動部材51には、熱センサ56が取り付けられている。熱センサ56は、キャップ512の上面512Aに接触するように取り付けられて上面512Aの温度を測定する温度測定手段である。
【0089】
ボイスコイル513からの発熱を測定するには、その熱が伝わりやすい箇所に熱センサ56を接触させることが望ましい。例えば、ボビン511は、ボイスコイル513に直接接触しており、加振装置50が備える部材の中で最も熱が伝わりやすい部材である。しかし、ボビン511は、円筒状の部材であり、熱センサ56を取り付ける場所が曲面となるため、熱センサ56を取り付けることが難しい。また、トッププレート521、523は、磁路空間525に面する部分がボイスコイル513に最も接近しているが、間に空間を挟むことになるため、十分に熱が伝わらない。また、ダンパ53を経由しても十分に熱が伝わらないため、トッププレート521、523に熱センサ56を取り付けても、ボイスコイル513の温度とはかけ離れた値しか測定されないことが実験により分かっている。
【0090】
キャップ512の上面512Aは、平らな面であり、かつ、熱センサ56を取り付けるために必要な面積を有しているため、ボビン511に比べて熱センサ56を取り付けやすい。また、キャップ512は、アルミ素材の金属で形成されており、例えば25℃の温度における熱伝導率が鉄やポリエチレン等の樹脂に比べて大きい。そのため、キャップ512は、これらの素材で形成される場合に比べて、熱を伝えやすく、ボイスコイル513の温度に近い値が測定できる。なお、熱センサ56は、キャップ512の下側の面に取り付けられてもよい。熱センサ56に接続する配線をボビン511とヨーク523との間に通すと、配線がヨーク523に接触したり、磁路空間525の磁力及び配線を流れる電流により力が生じて響板7に加えるべき力が変化したりする場合がある。そこで、熱センサ56に接続する配線を、キャップ512に設けた上面512Aまで貫通する孔を通して配置することで、ボビン511とヨーク523との間に配線を通さないようにすることができる。
【0091】
上記のとおりキャップ512に取り付けられた熱センサ56は、測定した温度を表すデータを図14で示した制御部11に供給する。制御部11は、熱センサ56から供給されたデータが表す温度が閾値よりも大きい場合、信号発生部15が出力する駆動信号を、ボイスコイル513から発生する熱が少なくなるような駆動信号、具体的にはボイスコイル513に流れる電流が少なくなるような駆動信号とするように、信号発生部15を制御する。これにより、熱センサ56により測定された温度が閾値よりも大きくなるほどボイスコイル513から熱が発生したときに、その熱を少なくしてボイスコイル513の温度を下げることができる。なお、制御部11は、段階的に駆動信号を変化させてボイスコイル513から発生する熱を段階的に少なくするように信号発生部15を制御してもよい。
【0092】
(変形例5)
キャップ512は、放熱をしやすい形状としてもよい。ボイスコイル513で発生した熱は、トッププレート521、523又はボビン511を経由して空気に放射される。トッププレート521、523を経由する場合、これらのヨークは、ボビン511に比べると、表面積が大きいために多くの熱を放射することができるが、ボイスコイル513との間を空気により隔てられているため、伝えられてくる熱の量が少ない。一方、ボビン511は、これらのヨークに比べると、ボイスコイル513と直接接触しているため伝えられてくる熱の量は大きいが、空気と触れている面積が小さいため、放出できる熱が少ない。ただし、ボビン511に伝えられてきた熱は、キャップ512にも伝わるので、そこから空気に放射されることになる。よって、放熱をより多くする必要がある場合は、キャップ512を放熱しやすい形状としてもよい。
【0093】
図19は、本変形例に係るキャップの一例を示す図である。キャップ512tは、アルミ素材により形成されており、上面512Atに複数のフィン512Eを有する。フィン512Eは、上面512Atよりも上側に突き出した部分である。キャップ512tは、これらのフィン512Eにより、上述した実施形態に係るキャップ512よりも表面積が大きくなる。そのため、キャップ512tは、キャップ512のようにフィンを有しない場合に比べて放熱しやすい。なお、キャップは、フィンを有するものに限らず、要するに放熱しやすい形状であればよい。また、ボイスコイル513から伝えられてきた熱は、シャフト514及びナット515にも伝わるので、放熱をより多くする必要がある場合は、これらも、回転させて移動させるのに差し支えない範囲で、放熱しやすい形状としてもよい。
【0094】
(変形例6)
振動部材51は、上述した実施形態では、スペーサ516を有していたが、これを有していなくともよい。この場合、シャフト514の上面が直接響板7に接続することになる。ボビン511、キャップ512及びシャフト514は、上述した実施形態では、いずれもアルミ素材により形成されている。この場合、振動部材51がスペーサ516を介さず響板7に接続すると、スペーサ516を介す場合に比べて、ボイスコイル513から発生した熱を響板7に多く伝えることになり、特に響板7が上述した実施形態のように木材で形成されていると、響板7が熱による影響をより多く受けることになる。このことは、ナット515、キャップ512の一部又はシャフト514の一部等にスペーサ516よりも熱伝導率が小さいものを用いても同じである。要するに、振動部材51が、スペーサ516と、スペーサ516よりも熱伝導率が大きい部分とを有するものであれば、スペーサ516を介して響板7に伝わる熱が、スペーサ516を介さないで響板7に熱が伝わる場合に比べて少なくなり、響板7への熱による影響が少なくなる。
【0095】
一方、例えばボイスコイル513から発生する熱が少ない等の理由で響板7への熱による影響が問題にならない場合は、スペーサ516を介さないようにしてもよい。この場合、樹脂であるスペーサ516を介さない分、スペーサ516をシャフト514と響板7の間に挟む場合に比べて、エネルギーの損失が小さくなり、振動部材51の振動により響板7に与える力が大きくなる。
【0096】
(変形例7)
ボビン511、キャップ512、シャフト514、ナット515及びスペーサ516は、上述した実施形態とは異なる材料でそれぞれ形成されていてもよい。例えば、ボビン511、キャップ512及びシャフト514は、アルミ素材の金属を材料として形成されていたが、銅等を材料としてもよいし、樹脂やプラスチックなどを材料としてもよい。いずれの材料を用いる場合も、強度、重量、非磁性体か否か、耐熱性の有無等が、ボイスコイル型のアクチュエータとして求められる条件を満たすものが用いられていればよい。
【0097】
(変形例8)
シャフト514は、上述した実施形態とは異なる形状であってもよい。図20は、本変形例に係るシャフトの一例であるシャフト514uの外観を示す図である。シャフト514uは、管状の管状部材514u1と、軸方向A2に延伸する延伸部材514u2と、ボルト514u3とを有する。延伸部材514u2は、管状部材514u1の内径よりも直径が小さい円柱状に形成された円柱部と、円中部に連続する雄ねじが切られた雄ねじ部とを有する。延伸部材514u2は、キャップ512の孔部512Gに雄ねじ部がねじ込まれた状態でナットを用いて固定されている。延伸部材514u2の円柱部には、軸方向A2に直交する方向に貫通する1つの孔が空いている。管状部材514u1は、軸方向A2の一方の端部が接着剤等でスペーサ516に固定されている。また、管状部材514u1には、軸方向A2に直交する方向に部材全体を貫通する孔が、軸方向A2に異なる位置で、複数箇所(例えば4箇所)に空いている。管状部材514u1及び延伸部材514u2に空いているこれらの複数の孔には、雌ねじがそれぞれ切られており、ボルト514u3がねじ込ませられるようになっている。ボルト514u3の雄ねじが切られている部分は、管状部材514u1の外径よりも長くなっており、管状部材514u1を貫通するようになっている。管状部材514u1の内側には、延伸部材514u2の円柱部が差し込まれており、管状部材514u1に空いている孔のいずれかと円柱部に空いている孔とが一列に並んだ状態でこれらの孔にボルト514u3がねじ込まれている。これにより、延伸部材514u2及び管状部材514u1が固定されている。シャフト514uは、ボルト514u3をねじ込む管状部材514u1側の孔を変えることで、キャップ512からの高さを複数段階(例えば4段階)で変えることができる。
【0098】
図21は、本変形例に係るシャフトの一例であるシャフト514vの外観を示す図である。シャフト514vは、管状の管状部材514v1と、軸方向A2に延伸する延伸部材514v2と、2本のボルト514v3とを有する。管状部材514v1は、軸方向A2に直交する方向に部材全体を貫通する孔が4箇所ではなく1箇所に空いている、すなわちその方向に対向する2つの孔が空いているだけである点を除いて、上記管状部材514u1と共通している。延伸部材514v2は、円柱部に孔が空いていない点を除いて、上記延伸部材514u2と共通している。ボルト514v3の雄ねじが切られている部分は、管状部材514v1の孔からねじ込まれたときに、その先端が延伸部材514v2の円柱部に届く長さとなっている。シャフト514vにおいては、管状部材514u1の内側に延伸部材514u2の円柱部が差し込まれた状態で、2本のボルト514v3が管状部材514v1の2つの孔にそれぞれねじ込まれ、それぞれの先端が円柱部に押し付けられることで、管状部材514v1と延伸部材514u2とが互いに固定されている。シャフト514vは、2本のボルト514v3の各先端が円柱部に押し付けられる位置を変えることで、キャップ512からの高さを連続的に変えることができる。
【0099】
上記のとおり、本変形例に係るシャフトは、キャップ512からの高さを変えることができるため、そのシャフトを有する振動部材は、ボビン511からスペーサ516の上面516Aまでの距離が予め決められた範囲となるように、接続端部をボビン511に対して固定することになる。これにより、上述した接続部材、すなわち、キャップ512、シャフト、ナット515及びスペーサ516は、ボビン511に設けたボイスコイル513を、図5に示すような磁路空間525における所定の位置に合わせられるようにしながら、響板7に対して接続端部が接続されるように、全体の長さを調整して固定するようになる。要するに、シャフトは、それを含む接続部材が上記のとおり全体の長さを調整して固定できるものとなっていれば、どのような形状のものであってもよい。
【0100】
(変形例9)
シャフト移動範囲の上側の限界の位置として、シャフト514の下端が孔部512Gの下端よりも上側となる位置が定められていてもよい。この場合であっても、上記の接続部材が、ボビン511に設けたボイスコイル513を、磁路空間525における所定の位置に合わせられるようにしながら、響板7に対して接続端部が接続されるように、全体の長さを調整して固定するようになっていればよい。ここでいう所定の位置に合わせるとは、言い換えれば、ボイスコイル513とトッププレート521とが所定の位置関係となることであり、例えば、ボイスコイル513がトッププレート521と対向することである。
【0101】
(変形例10)
図6に示す取り付け作業において、ステップS11で行われる作業は、ステップS14の作業よりも前に行われていれば、他の作業(ステップS12、S13)の後に行われてもよい。要するに、固定治具54は、ステップS14でシャフト514を移動させてスペーサ516を響板7に接続するときに、磁気回路要素52に対する振動部材51の相対的位置関係が、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致する状態になっていることを、自動的に若しくは目視で、確認できるように取り付けられていればよい。
【0102】
(変形例11)
上記実施例において、加振装置50において、ダンパ53が省略されていてもよい。その場合、加振装置50の響板7への取り付け前においては、振動部材51のアセンブリと磁気回路要素52のアセンブリとが分離されているので、図6におけるステップS13、S14の工程をステップS12の前に行い、振動部材51のアセンブリを先に響板7の情報定位置に取り付ける。それから、ステップS12の工程を行い、磁気回路要素52の磁路空間内にボイスコイル513を備えたボビン511が適切に納まるようにして、磁気回路要素52を支持部55に据え付ける。そして、ステップS14の工程を行い、磁気回路要素52に対する振動部材51の相対的位置関係が、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致する状態となるように、シャフト514の長さ調整を行う。
【0103】
[第2実施例に従う加振装置]
図22は、本発明の第2実施例に従う加振装置50Aの外観を説明する図である。この第2実施例に係る加振装置50Aは、前述の第1実施例に係る加振装置50が持つような取付用のシャフト514を具備していない。第2実施例に係る加振装置50Aは、これを響板7に取り付けるための構造が前述の第1実施例に係る加振装置50とは相違しているが、その他の加振装置としての本来の機能を果たすための構造は同じであってよい。従って、以下の第2実施例に関連する説明及び図面において、前述の第1実施例と同一の図面参照番号は同一機能及び/又は同一機能の部品を示しているため、再度の詳細説明は省略する。
【0104】
図22に示す第2実施例において、加振装置50Aの振動部51は、ボビン511とキャップ512とで構成される。キャップ512は、ボビン511の先端に取り付けられた円盤状の端部部材である。第2実施例においては、端部部材であるキャップ512の上面512Aが、響板7に接続される「接続端部」である。
【0105】
図23は、図22に示す加振装置50Aの縦断面図である。この第2実施例に係る加振装置50Aが図5に示した第1実施例に係る加振装置50と異なる点は、図5における参照番号514、515、516の取り付け用部品を具備していない点、ボビン511のキャップ512の中心部の孔512G´に雌ねじが切られていない点、キャップ512の材質、及びヨーク523の円盤部523E及び円柱部523Fに通し孔523Gが設けられている点である。図23におけるその他の構造は、図5に示したものと略同様である。
【0106】
図22図23等に示された、第2実施例におけるキャップ512は、樹脂等の素材で形成されており、ボビン511の上側に開口する部分(開口部)に固定されて、この開口部を塞いでいる。キャップ512は、上側部及び下側部の中心を貫通する孔512G´を有している。孔512G´の軸線B1は、ボビン511の軸線B2と重なるようになっている。また、ヨーク523は、円盤部523E及び円柱部523Fの両方を軸方向A3に貫通する通し孔523Gを有する。つまり、通し孔523Gは、磁気回路要素52を軸方向A3に貫通している。後述するように、この通し孔523Gは、キャップ(端部部材)512を響板7に接続するための木ねじ(固定部材)61の通過を許す内径サイズを有している。また、キャップ512の前記孔512G´は、ヨーク523の通し孔523Gに対応する位置に、軸線が一致するように設けられている。この孔512G´は、木ねじ(固定部材)61のネジ部分を通すための孔であるが、キャップ(端部部材)512の前記通し孔523Gに対向する面において、木ねじ(固定部材)61を取り付けるべき位置を特定するためのマークとして機能する。
【0107】
続いて、第2実施例において作業者が加振装置50Aをグランドピアノ1に取り付けるときに行う作業の手順について、図24から図27までを参照しながら説明する。図24は、加振装置50Aの取り付け作業の手順を示すフローチャートである。前述と同様に、加振装置50Aが取り付けられてないピアノ1を提供しもこのピアノの所定部位(例えば直支柱9)に支持部55を取り付ける。前記図6と同様に、図24に示す手順は、直支柱9に支持部55が接続されている状態で開始される。作業者は、固定治具を磁気回路要素52に取り付ける(ステップS21)。この第2実施例においても、前記第1実施例で使用した固定治具54(図7)と同じものを使用することができる。
【0108】
図25は、固定治具54により振動部材51の磁気回路要素52に対する位置及び向きが制限された状態を示す図である。前記図8に示した例と同様に、固定治具54は、トッププレート521の上面521Aに下面54Bを接触させて設置され、トッププレート521からの吸引力(磁気吸引力)によって上面521Aに固定される。そして、固定治具54は、その直線部541及び542の間に(つまりU字の内側空間内に)ボビン511を挟みこむように取り付けられる。
【0109】
図24に戻る。続いて、作業者は、キャップ512を響板7の予め定められた位置に接触させる(ステップS22)。この位置は、加振装置50Aが響板7に振動を加える位置として予め定められており、例えば、図3における駒6H又は駒6Lと響板7を挟んで反対側の位置である。次に、作業者は、磁気回路要素52を支持部55に支持させる(ステップS23)。ステップS23は、本発明に係る「支持ステップ」の一例である。
【0110】
図26は、磁気回路要素52が支持部55に支持された状態を示す図である。図26においては、加振装置50A、響板7、駒6及び支持部55の位置関係を示すため、響板7、駒6及び支持部55の位置を二点鎖線で示している。図26では、駒6の幅方向A4が図の左右方向となるように見た状態が示されている。駒6は、響板7の上面7Aに設けられている。また、響板7の下面7Bには、前述のとおり、加振領域C1が予め定められている。なお、支持部55には、取り付け作業の際に、作業員の手に持ったドライバ62を下方から上方に差し込むことができるように、適宜の開口55aが設けられる。
【0111】
トッププレート521には、上側から下側に貫通する図示せぬ孔が設けられており、その孔の内部には雌ねじが切ってある。支持部55には、上側から下側に貫通する孔が設けられており、その孔の内側にも雌ねじが切ってある。前述の第1実施例と同様に、両端側に雄ねじが切られた複数の支持棒551とそれに螺合する複数のナット552の組み合わせによって、磁気回路要素52が支持部55に固定される。こうして、前述の第1実施例と同様に、支持部55によって支持された磁気回路要素52の荷重は、支持部55を介して直支柱9に掛かる。
【0112】
作業者がステップS23の作業を行う際、振動部材51は、上述のとおり、固定治具54によってキャップ512の下面512Bが固定治具54の上面54Aと接触する位置、すなわち、コイル長中心及び磁路幅中心が重なる(略一致する)位置よりも下側に移動しないようになっている。このため、作業者は、下面512Bと上面54Aとの間に隙間ができないようにすることで、振動部材51の磁気回路52に対する法線方向A1における相対的な位置が所望の関係となる状態で磁気回路要素52を支持部55に支持させることができる。
【0113】
図24に戻る。続いて、作業者は、固定治具54を取り外す(ステップS24)。そして、作業者は、キャップ512を響板7に固定するための固定部材(例えば木ねじ)を、キャップ512においてその固定部材を取り付ける箇所まで移動させ(ステップS25)、その取り付け箇所及び響板7に固定部材を取り付けることでキャップ512を響板7に固定する(ステップS26)。ステップS25は本発明に係る「移動ステップ」の一例であり、ステップS26は本発明に係る「固定ステップ」の一例である。ステップS25、S26で作業者が行う作業の詳細について図27を参照しながら説明する。
【0114】
図27は、キャップ512が響板7に固定された状態を示す図である。キャップ512は、孔512G及び響板7に取り付けられた固定部材である木ねじ61により響板7に固定されている。木ねじ61は、真鍮又はステンレス等の非磁性体の金属で形成されており、頭部の直径がキャップ512の孔512Gの直径よりも大きい。ここにおいて、非磁性体とは、強磁性体ではない物体のことをいう。木ねじ61は、孔512Gを通して響板7及び駒6にねじ込まれている。キャップ512は、木ねじ61の頭部により響板7に押し付けられることで、響板7に対して固定されている。また、木ねじ61の雄ねじが切ってある部分の頭部側(木ねじ61の根本という。)の直径は、孔512Gの直径と一致している。このため、図27の状態では、孔512Gの下側の開口部に木ねじ61の根本が丁度収まっている。つまり、木ねじ61がねじ込まれた位置に対して、キャップ512が固定される位置が一箇所に決まるようになっている。
【0115】
ねじ回し用のドライバー62は、真鍮又はステンレス等の非磁性金属で形成されており、先端の形状が、木ねじ61のねじ穴の形状に対応している。例えば、ねじ穴がプラスであればプラス、マイナスであればマイナスの形状となっている。作業者は、ステップS25において、ドライバー62を用いて作業を行う。作業者は、ドライバー62の先端に木ねじ61を嵌め込んで、ヨーク523を貫通する孔523Gにドライバー62の先端を差し込む。図23に示す木ねじ61が孔512G及び響板7に取り付けられる前の状態において、ダンパ53による連結のために、ボビン511の軸線B2とヨーク523の軸線B3とが概ね重なった(略一致した)状態となっている。そのため、キャップ512の孔512Gの軸線が孔523Gの軸線に略一致するようになっている。作業者は、孔523Gに差し込んだ木ねじ61が孔523Gを通過して孔512Gに到達するまで、ドライバー62を用いて木ねじ61を移動させる。
【0116】
作業者は、木ねじ61が孔512Gに到達して響板7に接触すると、ドライバー62を回転させて木ねじ61を響板7にねじ込ませる。このときドライバー62は木ねじ61を押し続けながら回転させるため、ドライバー62と木ねじ61とは概ね一直線になる。このため、孔523Gの軸方向A3に孔512Gが位置する状態を保ったまま、木ねじ61が孔512G及び響板7に取り付けられることになる。また、上述のとおり、木ねじ61がねじ込まれた位置に対して、キャップ512が固定される位置が一箇所に決まるようになっているため、例えばステップS25の作業を開始するときに、孔512Gの軸線B1と軸線B3とがずれていたとしても、木ねじ61が響板7にねじ込まれるのに従い、木ねじ61の根本が孔512Gの下側の開口部に丁度収まるようになる。その結果、孔512G及び孔部523Gが一直線に並び、孔512Gの軸線B1とヨーク523の軸線B3とが重なるようになる。軸線B1は、上述したとおり、ボビン511の軸線B2と重なった状態となっている。つまり、作業者がステップS25の作業を行うことで、ボビン511及びヨーク523は、軸合わせがなされている状態となる。これにより、作業者は、ボビン511とヨーク523とが接触しないように加振装置50Aを取り付けることができ、また、振動部材51が振動したときに、軸合わせがなされていない場合に比べて、ボビン511がヨーク523に接触しにくくなる。
【0117】
物体が孔523Gを通過して孔512Gまで到達するまでその物体を移動させる場合、その物体も、その物体を移動させるための器具も、磁気回路要素52により形成されている磁路を通過することになる。その物体及び器具が磁性体であった場合、この磁路によって発生する吸引力によりヨーク523に引きつけられ、移動させることが困難になる。一方、木ねじ61及びドライバー62は、いずれも、上記のとおり非磁性体であり、両孔を通過するときに磁路の磁力により受ける力が無視できるほど小さなものになる。このため、作業者は、木ねじ61及びドライバー62が磁路から受ける力を気にすることなく、ステップS25の作業を行うことができる。こうしてキャップ512が図27に示すように響板7に固定される。
これにより、響板7は、ボビン511が上方に移動した場合には上方に押され、ボビン511が下方に移動した場合には、ボビン511が離れるのではなく、ボビン511により下方に引っ張られることになる。このようにして、ボビン511における振動は、響板7を介して駒6に加えられ、さらには、弦5に伝達される。
【0118】
ボビン511及びキャップ512は、本発明に係る「ボビン部」の一例であり、木ねじ61は、本発明に係る「固定部材」の一例である。また、キャップ512は、ボビン部の一方の端部を覆うものであり、本発明に係る「蓋部」の一例である。上述のとおり、このボビン部は、軸方向A2の一方の端部が非磁性体の固定部材により響板7に固定される。また、磁気回路要素52は、図5に示すボビン部の内周面511Cより内と外周面511Dより外との間に磁路空間525を形成する磁路形成部として機能する。また、磁気回路要素52のヨーク523が有する孔523Gは、本発明に係る「孔」の一例である。孔523Gは、図23に示すとおり、磁路形成部を軸方向A3に貫通し、一方の端部が円筒部523Fからボビン部の内側の空間に開口している。この円筒部523Fは、磁路形成部のボビン部の内側に配置される部分である。軸方向A3は、本発明に係る「第1方向」の一例である。また、孔523Gは、図6のステップS25において説明したとおり、木ねじ61が通過する大きさとなっている。ボビン部(厳密にはそのうちのキャップ512)は、軸方向A3に貫通する孔512Gを有する。孔512Gは、木ねじ61を取り付ける位置であることを示すものでもあり、本発明に係る「指示領域」の一例である。孔512Gは、図10に示すとおり、孔523Gの軸方向A3に位置した場合にボビン部と磁路形成手段とが接触しない状態であることを示すようになっている。
【0119】
磁気回路要素52は、支持部55によって支持されて、その位置が固定されているため、ボイスコイル513が発生させた駆動力は、ほとんどがボビン511の振動のための推力として用いられる。また、磁気回路要素52は、振動部材51と空間によって隔てられた位置関係、かつ、響板7と接触しないように、支持部55によって支持される。また、振動部材51は、磁気回路要素52と空間によって隔てられているため、響板7に固定されることによって響板7に支持された状態となる。このような態様で加振装置50Aが支持部55によって支持されることにより、響板7に対して振動部材51以外の荷重がかからないようになっている。なお、前述と同様に、支持部55が磁気回路要素52を支持する態様については、響板7に対して振動部材51以外の荷重がかからないようになっていれば、どのような態様であってもよい。
【0120】
第2実施例においても、図14図15に示したような第1実施例における制御装置10及びグランドピアノ1の機能構成と同様の制御システムを使用することができる。
【0121】
[第2実施例の変形例]
上述した実施形態は、本発明の第2実施例の一例に過ぎず、以下のように変形させてもよい。また、上述した実施形態及び以下に示す各変形例は、必要に応じて組み合わせて実施してもよい。
【0122】
(変形例12)
キャップ512は、上述した実施形態では、固定部材として木ねじ61を用いて響板7に固定されたが、それ以外のものを固定部材として用いてもよい。例えば、キャップ512は、ボルト及びナットや、釘を用いて響板7に固定されてもよいし、接着剤で響板7に固定されてもよい。望ましくは、キャップ512の中央部が孔512G´を通した木ねじ等で固定され、上面512Aの外周側の端部が接着剤等で固定されるとよい。上面512Aの外周側の端部には、ボビン511により下側に向けて引っ張る力も加わる。その端部を前述のとおり固定することで、上面512Aの外周側の端部が響板7から離れて浮き上がってしまうことを防ぐことができる。
【0123】
(変形例13)
木ねじ61を用いてキャップ512を響板7に固定する際、ワッシャー(座金)が用いられてもよい。この場合、キャップ512の下側にワッシャーを配置して、木ねじ61をワッシャーと孔512G´とを通して響板7にねじ込ませる。これにより、ワッシャーを用いない場合に比べて、木ねじ61が緩みにくくなる。
【0124】
(変形例14)
ボビン511に取り付けるキャップは、上述した実施形態のキャップ512とは異なる形状をしたものであってもよい。図28は、本変形例に係るキャップの一例であるキャップ512mを示す図である。図28(a)では、キャップ512mが木ねじ61により響板7に固定される前の状態を示している。キャップ512mは、キャップ512を外周側から中央部側にいくにつれて下側に窪ませるように変形させた形状をしている。図28(b)では、キャップ512mの孔512Gmに木ねじ61を通して響板7に固定した状態を示している。キャップ512mは、木ねじ61により響板7側に押し付けられることで、窪んでいた中央部も矢印の方向に持ち上げられて、響板7と接触するように変形する。
【0125】
例えば、変形例12で述べたように、キャップを接着剤と木ねじ61とを用いて響板7に固定するものとする。この場合、作業者は、図24のステップS23で磁気回路要素52を支持部55に固定した後、図28(a)の状態となっているキャップ512mと響板7との隙間に、二点鎖線で示した接着剤を注入する器具63を用いて孔512Gmから接着剤を流し込む。そして、作業者は、ステップS15で図28(b)のように木ねじ61を用いてキャップ512mを響板7に押し付ける。このとき、流し込まれた接着剤が上面512Amと響板7との間で広がることになる。こうして、作業者は、木ねじ61及び接着剤によってキャップ512mを響板7に固定する。本変形例によれば、作業者は、キャップ512mを木ねじと接着剤とで固定する場合であっても、ステップS24までは接着剤を上面512Amに塗布せずに作業することで、キャップ512mの厳密な位置を気にすることなく磁気回路要素52を支持部55に支持させることができる。また、作業者は、磁気回路要素52を支持させた後、すなわちステップS15において、例えば響板7と上面512Amとの隙間に横から器具63を差し込んで上面512Amにまんべんなく接着剤を塗布する場合に比べて、容易に接着剤を塗布することができる。
【0126】
また、上述した実施形態では、ボビン511の端部に取り付けられるものとしてキャップ512が用いられていたが、この端部に取り付けられるものはキャップのように開口部を塞ぐ形状のものに限らない。図29は、ボビン511の端部に取り付けられる部材512nの一例を示す図である。部材512nは、上面512Anを有する。図29は、上面512An側から見た部材512nを示している。部材512nは、孔512Gnと、孔512Gnの周囲を囲うような形状の孔領域512Hを有する。部材512nがボビン511の上側の端部に取り付けられると、ボビン511の内部は孔領域512Hを介して外部に開口する状態となる。部材512nは、例えば、孔512Gn及び響板7に取り付けた木ねじ61と、上面512Anに塗布した接着剤により響板7に固定すればよい。要するに、ボビン511に取り付けられる部材は、キャップ512や部材512nのように、木ねじ61を取り付ける孔を有するものであればよい。
【0127】
また、孔512G´は、上述した実施形態では、キャップ512を軸方向A2に貫通していたが、貫通していないものであってもよい。図30は、本変形例に係るキャップの一例であるキャップ512pを示す図である。図30(a)では、木ねじ61が取り付けられる前のキャップ512pが示されている。キャップ512pは、下面512Bp側に孔512Gpを有する。孔512Gpは、下面512Bを円錐状に窪ませた形状であり、上面512Apまでは貫通していない。孔512Gpから上面512Apまでは、木ねじ61の先端をねじ込むことで、図30(b)に示すように、木ねじ61がこの部分の樹脂に孔を開けてキャップ512pを貫通させることができる程度の厚さになっている。要するに、キャップが有する孔は、木ねじ61を取り付ける位置であることを特定するマークとして機能し、かつ、木ねじ61を取り付けることでキャップを響板7に固定することができるようになっていれば、貫通していなくともよい。上述したキャップ512m、部材512n又はキャップ512pとボビン511とは、いずれも本発明に係る「ボビン部」の一例である。
【0128】
(変形例15)
上述した実施形態では、作業者は、図24のステップS22において、キャップ512の上側の上面512Aを響板7に接触させるだけであったが、例えば、ステップS23からS25までの作業に要する時間が経過するまでは上面512Aの響板7に接触する位置をずらすことができる程度に固まるまで時間がかかる接着剤を用いてもよい。この接着剤は、完全に固まる前であっても、例えばダンパ53の撓みによって加わる力では響板7と上面512Aとが接触する位置がずれない程度にキャップ512を固定する。これにより、ステップS23の作業中にわずかに磁気回路要素52が傾いただけで響板7と上面512Aとが接触する位置がずれるといったことが抑制されて、作業者が磁気回路要素52を支持部55に固定する作業を行いやすくなる。
【0129】
(変形例16)
第2実施例におけるボビン511及びキャップ512は、上述したものとは異なる材料でそれぞれ形成されていてもよい。例えば、ボビン511は、アルミ素材の金属を材料として形成されていたが、これに限らず、銅等を材料としてもよいし、樹脂やプラスチックなどを材料としてもよい。また、キャップ512は、樹脂を材料として形成されていたが、これに限らず、アルミ素材や銅などの金属又はプラスチック等を材料として用いてもよい。いずれの材料を用いる場合も、強度、重量、非磁性体か否か、耐熱性の有無等が、ボイスコイル型のアクチュエータとして求められる条件を満たすものが用いられていればよい。
【0130】
(変形例17)
磁気回路要素52は、上述した実施形態とは異なる方法で支持部55に固定されてもよい。例えば、トッププレート521の代わりにヨーク523に上側の面から下側の面まで貫通する孔を設けて、支持棒551及び複数のナット552により支持部55に固定されてもよい。また、図26では、磁気回路要素52が支持部55と接触していないが、これらを接触させて固定してもよい。その場合は、支持部55の軸方向A2の位置(高さ位置)を調整可能に構成し、その位置を調整することで、振動部材51及び磁気回路要素52の軸方向A2に対する相対的な位置(高さ位置)が理想的な状態を維持したまま、加振装置50Aを響板7に取り付けることができる。
【0131】
(変形例18)
第1実施例の前記変形例1(図16)と同様に、第2実施例においても、固定治具は、上述した固定治具54とは異なる形状であってもよく、前記図16に示した固定治具54qと同様のものを用いることができる。図31は、第2実施例において、前記図16に示した固定治具54qと同様のものを用いた例を示す。この場合、作業者は、図24のステップS23において、キャップ512の上面512Aが響板7に接触している状態で、固定治具54qの上面54Aqに沿った位置にボビン511の上側の端部が来るように、目視確認しながら、磁気回路要素52を支持部55に支持させる。これにより、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致するように、つまり、振動部材51と磁気回路要素52との相対位置が所望の関係となるように設定することができる。
【0132】
また、前述と同様に、固定治具は、取り付けたときの上面521Aからの高さがL2となるものでなくともよく、例えばキャップ512の上面512Aのトッププレート521(上面521A)からの高さとなっていてもよいし、振動部材51のどこかに目印をつけてその目印の上面521Aからの高さとなっていてもよい。要するに、固定治具の上面521Aからの高さは、コイル長中心及び磁路幅中心が略一致するときの振動部材51の位置を目視確認する際の目安にできるものであればよい。
【0133】
(変形例19)
第1実施例の前記変形例2(図17)と同様に、第2実施例においても、固定治具の代わりに、コイル長中心及び磁路幅中心が重なるときの振動部材51の位置を確認できる部分が磁気回路要素52に設けられていてもよい。図32は、本変形例に係る磁気回路要素52rを示す図である。すなわち、磁気回路要素52rが有するトッププレート521rは、上面521Arと、上面521Arからの高さがL2となる突起部521Eとを上面521Arに有している。この場合、作業者は、図24のステップS23において、突起部521Eの上面521Fに沿った位置にボビン511の上側の端部が来るようにしながら、磁気回路要素52を支持部55に支持させる。
【0134】
(変形例20)
前記孔512G´及び孔523Gは、上述した実施形態では、軸方向A2に沿ってキャップ512及びヨーク523をそれぞれ貫通していたが、これとは異なる方向に貫通していてもよい。図33は、本変形例に係る加振装置50Bを示す図である。加振装置50Bは、キャップ512sとヨーク523sとを備える。キャップ512sは、孔512Gsを有し、ヨーク523sは、孔523Gsを有する。孔512Gs及び523Gsは、それぞれ軸方向A2に対して角度をなす方向A5に沿っている。図33では、ボビン511とヨーク523との磁束線の方向(図23において破線で示した方向)である磁束線方向A6、A7の距離がいずれもL4となっている。これは、図23で示したように、ボビン511とヨーク523との軸合わせがなされている状態を示している。そして、この状態において、キャップ512の孔512Gsは、孔523Gsの方向A5に一致するように斜めに配置されている。孔523Gsが本発明に係る「孔」の一例であり、キャップ512の上面に現れた孔512Gsの開口が本発明に係る「指示領域」の一例である。また、方向A5が本発明に係る「第1方向」の一例である。以上のとおり設けられている孔512Gs及び523Gsを通して、図27に示したドライバー62及び木ねじ61を斜め上向きに通過させることで、これらの孔が一直線に並び、上記軸合わせがなされた状態でキャップ512sを響板7に固定することができる。
【0135】
(変形例21)
ボビン511の上側の端部は、キャップ512が取り付けられていたが、ボビン自体がキャップ512を含む形状に形成されていてもよい。図34は、本変形例に係る振動部材51tを示す図である。振動部材51tは、ボビン511t及びボイスコイル513を有する。ボビン511tは、アルミ素材を材料として、図23に示すボビン511及びキャップ512を合わせた形状に形成されている。ボビン511tは、上側の端部に軸方向A2に貫通する孔511Gtを有する。ボビン511tは、本発明に係る「ボビン部」の一例である。
【0136】
(変形例22)
磁気回路要素52は、上述した実施形態とは異なる方法で支持部55に支持されてもよい。例えば、トッププレート521の代わりにヨーク523に上側の面から下側の面まで貫通する孔を設けて、支持棒551及び複数のナット552により支持部55に支持されてもよい。また、磁気回路要素52は、図26では支持部55と接触していないが、支持部55と接触された状態で支持されてもよい。また、支持部55は、上述した実施形態ではグランドピアノ1の筐体に固定されていたが、それ以外の場所に固定されていてもよく、例えば、地面(又は床)に固定されていてよい。いずれの場合であっても、要するに、ボビン511から響板7までの距離が上述した端部移動範囲に収まるように磁気回路要素52が支持されるようになっていればよい。
【0137】
(変形例23)
振動部材51、磁気回路要素52及びダンパ53は、いずれも図23に示す法線方向A1に見たときに円形となる形状であったが、これには限らない。この形状は、例えば、楕円や方形であってもよい。要するに、ボイスコイルに入力された駆動信号が示す波形に応じて振動部材51が振動するようになっていれば、上記形状はどのような形状であってもよい。その場合であっても、上述した円筒部523Fのように磁路形成部のボビン部の内側に配置される部分は、ボビン部の内側と接触しないように配置することができる大きさとなっており、上述したヨーク523のように磁路形成部のボビン部の外側に配置される部分は、ボビン部の外側と接触しないように配置することができる大きさとなっている。
【0138】
(変形例24)
ボビン511の端部に結合し、響板7に接続されるのに適した端部部材(キャップ512)の構造は、上述のような平板状のキャップに限らない。例えば、ボビン511の先端からある程度上方に延びた長手状の、中空ロッド形状からなっていてもよい。その場合、中空ロッドの先端面は閉じていてねじ通し用の孔512G’が設けられる。中空ロッドのために、固定部材である木ねじ61は、該ロッド内を通過して先端面の孔512G’に到達しうる。
【0139】
[第3実施例に従う加振装置]
図35は、本発明の第3実施例に従う加振装置50Cの縦断面図である。この第3実施例に係る加振装置50Cは、振動部材51を響板7に取り付けるための取り付け長さ調整可能な接続用シャフト514Aの構造が、前述の第1実施例に係る加振装置50が持つようなシャフト514の構造と相違している。この第3実施例に従う加振装置50Cは、その他の加振装置としての本来の機能を果たすための構造は、第1あるいは第2実施例に係る加振装置50、50Aと同じであってよい。従って、以下の第3実施例に関連する説明及び図面において、前述の第1あるいは第2実施例と同一の図面参照番号は同一機能及び/又は同一機能の部品を示しているため、再度の詳細説明は省略する。
【0140】
図35において、ボイスコイル511のボビン513の上端に、非磁性素材からなる(アルミニウムあるいは合成樹脂等)ハウジング517が結合されている。ハウジング517は、上部開口517aと下部開口517bとを有し、内部にチャック518を備えている。チャック518は雄ねじ部518aと雌ねじ部518bとを備えていて、その軸心部分は、把持対象であるシャフト514Aを通すための通し孔となっている。チャック518の通し孔がハウジング517の上部開口517aに一致するように、雄ねじ部518aがハウジング517の内部に固定されており、該雄ねじ部518aに雌ねじ部518bが螺合している。通常のチャックにおいて知られているように、雄ねじ部518aは、軸方向に複数の切れ目が入れられていて、雌ねじ部518bによる締め付けに応じてその内側の通し孔の径を小さくし、もって、該通し孔に通したシャフトを締めつけるように構成されている。ハウジング517の下部開口517bは、チャック518の外径よりも適宜に大きいサイズを有しており、組み立ての際に、ハウジング517内にチャック518を入れることができるようになっている。また、下部開口517bは、チャック518の雌ねじ部518bを回すためのドライバ64が該下部開口517bから進入するのを許容するサイズである。なお、チャック518の雌ねじ部518bの下面には、ドライバ64の先端キー部64aに適合するキー溝が形成されており、ドライバ64の先端キー部64aを該キー溝内にはめ込んだ状態で、該ドライバ64によりチャック518の雌ねじ部518bを回すことができる。
【0141】
チャック518をゆるめた状態において、ハウジング517の上部開口517aから接続用シャフト514Aがハウジング517内に導入され得るようになっている。チャック518をゆるめた状態においては、シャフト514Aは自由に動かすことができ、ハウジング517の上面から上方に突出したシャフト514Aの長さを所望に設定した上で、チャック518を締め付けることにより、該シャフト514Aを所望の突出長さで固定することができる。接続用シャフト514Aの上端は接続部514Aaとなっていて、この接続部514Aaの部分が接着剤等によって響板7に接続される。
【0142】
第3実施例に従う加振装置50Cにおいて、前記第2実施例と同じように、ヨーク523は、円盤部523E及び円柱部523Fの両方を軸方向に貫通する通し孔523G´を有する。この通し孔523G´を通して、下方から上方に向けてドライバ64を差し込み、該ドライバ64によりチャック518の雌ねじ部518bを回すことができるようになっている。
【0143】
この第3実施例に従う加振装置50Cのピアノ1への取り付け作業の一例は、次の通りである。まず、前述と同様の要領で、支持部55を所定の位置に取り付ける。そして、響板7の下面の所定の取り付け箇所に、接続用シャフト514Aを単独で取り付ける。すなわち、上端の接続部514Aaを接着剤等によって響板7に接続する。それから、前述と同様の要領で、加振装置50Cを支持部55上に据え付ける。このとき、同時に、ハウジング517の上部開口517aから接続用シャフト514Aの下端をチャック518内に挿入する。そして、ヨーク523の通し孔523G´に下方から上方に向けてドライバ64を差し込み、該ドライバ64の先端キー64aをチャック518の雌ねじ部518bの下面のキー溝に嵌め込み、該ドライバ64を回すことによりチャック518を締めつけ、接続用シャフト514Aの位置を固定する。なお、このとき、前記固定治具(54、54q等)を使用してもよいし、使用しなくてもよい。ダンパ53でボビン511を保持することにより、該ボビン511を所定の取付基準位置(理想的な中立位置)に設定することができる(トッププレート521の上面521Aから該ボビン511の上端までの距離L2を、前述した理想的な距離に設定することができる)ので、特に、前記固定治具(54、54q等)を使用することなく、理想的なコイル配置を確保することができる。もちろん、締め付けが終了したら、ドライバ64は引き抜かれる。このような、締め付け作業のために下方からアクセスする方式は、前記第1実施例のシャフト514の長さ調整及び締め付け作業が横方向からのアクセスで行われるのに比べて、そのような横方向からのアクセスが困難な環境下において有利に適用できる。
【0144】
上記第3実施例を要約すると、接続用シャフト514Aとハウジング517及びチャック518の部分は、ボビン511に結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材に相当し、この接続部材は、楽器の響板7に接続されるのに適した接続部514Aa(接続端部)を有し、かつ、その長さが調整可能に構成されている。すなわち、この接続部材は、ボビン511に結合したハウジング517(第1部材)と、該ハウジング517(第1部材)に対して変位可能に結合する接続用シャフト514A(第2部材)と、前記第1部材と前記第2部材の結合部位を締め付けて固定するのに適したチャック518(締め付け具)とを具備する。
【0145】
[第4実施例に従う加振装置]
図36は、本発明の第4実施例に従う加振装置50Dの縦断面図である。この第4実施例に係る加振装置50Dは、振動部材51を響板7に取り付けるための取り付け長さ調整可能な接続用シャフト514Bの構造が、前述の第1、第3実施例に係る加振装置50、50Cが持つような接続用シャフト514、514Aの構造と相違している。シャフト514Bの長さ調節のためにチャック519を使用する点は、第3実施例に似ているが、チャック519の構造が第3実施例のチャックとは相違している。以下の第4実施例に関連する説明及び図面において、前述の第1〜第3実施例と同一の図面参照番号は同一機能及び/又は同一機能の部品を示しているため、再度の詳細説明は省略する。
【0146】
図36において、ボイスコイル511のボビン513の上端に、非磁性素材からなる(アルミニウムあるいは合成樹脂等)キャップ512´が結合されている。キャップ512´の上面には、チャック519の雄ねじ部519aが一体的に結合されている。キャップ512´とチャック519の雄ねじ部519aとは一体物であってもよいし、別部材を連結した構成からなっていてもよい。チャック519の雄ねじ部519aには雌ねじ部519bが螺合している。チャック519の軸心部分は、把持対象であるシャフト514Bを通すための通し孔となっており、この通し孔はキャップ512´にも連続して設けられている。したがって、シャフト514Bの下端は該通し孔を通り越してキャップ512´の下面より適宜下方に突出し得る。チャック519の上部開口から接続用シャフト514Bがチャック519内に挿入される。例えば、雄ねじ部519aの先端寄りの部分は、軸方向に複数の切れ目が入れられており、かつ、幾分外向きに弾性的に広がっている。雌ねじ部519bを回してチャックの締め付けを行うとき、雌ねじ部519bは上方に移動して、雄ねじ部519aの先端寄りの部分を内側に押しつけ、その内側の通し孔の径を小さくし、もって、該通し孔に通したシャフトを締め付けるように構成されている。
【0147】
チャック519をゆるめた状態においては、シャフト514Bは自由に動かすことができ、キャップ512´の上面から上方に突出したシャフト514Bの高さ(長さ)を所望に設定した上で、チャック519を締め付けることにより、該シャフト514Bを所望の突出高さ(長さ)で固定することができる。接続用シャフト514Bの上端は接続部514Baとなっていて、この接続部514Baの部分が接着剤等によって響板7に接続される。
【0148】
この第4実施例に従う加振装置50Dのピアノ1への取り付け作業の一例は、次の通りである。まず、前述と同様の要領で、支持部55を所定の位置に取り付ける。そして、チャック519をゆるめた状態で接続用シャフト514Bを装着した加振装置50Dを加振装置50Cを、前述と同様の要領で、支持部55上に据え付ける。このとき、シャフト514Bの上端の接続部514Baは、響板7の下面の所定の取り付け箇所に対応する配置となっている。それから、シャフト514Bを上に引き上げて上端の接続部514Baを接着剤等によって響板7に接続する。そして、チャック519を締めつけ、接続用シャフト514Bの位置を固定する。なお、このとき、前記固定治具(54、54q等)を使用してもよいし、使用しなくてもよい。ダンパ53でボビン511を保持することにより、該ボビン511を所定の取付基準位置(理想的な中立位置)に設定することができるので、特に、前記固定治具(54、54q等)を使用することなく、理想的なコイル配置を確保することができる。
【0149】
上記第4実施例の変形例として、チャック519の配置を上下反転してもよい。すなわち、接続部514Baを上端に備えたシャフト514Bの形状を、内部に通し孔を有する円筒形とし、その下側寄りの部分にチャック519の雄ねじ部519aを、図36とは逆に下向きに形成する。そして、キャップ512´の上面から上方にロッドを突設し、このロッドをチャック519の通し孔に挿入する。これにより、キャップ512´から上方に突出したロッドとシャフト514Bとがチャック519を介して連結され、シャフト514Bの高さ位置を調整することができる。
【0150】
上記第4実施例を要約すると、接続用シャフト514Bとチャック519及びキャップ512´の部分は、ボビン511に結合し、該ボビンの振動に伴って振動するように構成された接続部材に相当し、この接続部材は、楽器の響板7に接続されるのに適した接続部514Ba(接続端部)を有し、かつ、その長さが調整可能に構成されている。すなわち、この接続部材は、ボビン511に結合したキャップ512´及び雄ねじ部519a(第1部材)と、該キャップ512´及び雄ねじ部519a(第1部材)に対して変位可能に結合する接続用シャフト514B(第2部材)と、前記第1部材と前記第2部材の結合部位を締め付けて固定するのに適したチャック519(締め付け具)とを具備する。
【0151】
[第5実施例]
図37は、本発明の第5実施例に従う加振装置の高さ位置を調整するための機構を示す側面略図である。加振装置50Eは、上記各実施例と同様に、振動部材51と磁気回路要素52とダンパ53とで構成され、磁気回路要素52はトッププレート521、磁石522及びヨーク523を有し、振動部材51はボイスコイルを備えたボビン511を有する。ボビン511の上端にキャップ512が結合し、キャップ512の上面からシャフト514Cが延び、シャフト514Cの上端は接続部514Caとなっている。この第5実施例では、シャフト514Cの長さは前記第2実施例に示されたもののように固定されているものとする。しかし、前記第1、第3、第4実施例に示されたものようにシャフト514の長さを調整できるタイプのものを該シャフト514Cとして用いてもよい。図9等を参照して説明したものと同様に、加振装置50Eは、複数の支持棒551を介して支持部55に連結され、支持される。支持部55は、左右側面に設けられた1対の高さ調整プレート71によって高さ調整可能に支持される。1対の高さ調整プレート71は、適宜のベース部70(例えば前述したピアノの直支柱9あるいは床等)に固定されている。
【0152】
高さ調整プレート71には1対のガイド長孔72a,72bが上下方向に延びて形成されており、支持部55の側面にはガイド長孔72a,72bに嵌まり込むように突起552a,552bが設けられている。高さ調整プレート71の上縁部は水平方向に直角に折り曲げられたアングル(もしくは水平フランジ)71aとなっている。支持部55の側面の下縁部にも水平方向に突出したアングル(もしくは水平フランジ)55aが設けられている。上下の両アングル71a、55a間を長さ調節して連結するために長尺のボルト73が用いられる。調整プレート71の上縁部のアングル71aの所定箇所にはボルト通し用の孔が設けられ、支持部55の下縁部のアングル55aの所定箇所にもボルト通し用の孔が設けられている。支持部55の下縁部のアングル55aの下面側に蝶ナット74が配されてボルト73に螺合する。また、高さ調整プレート71の上縁部のアングル71aの上面側にナット75が配されてボルト73に螺合する。これにより、蝶ナット74をゆるめることにより支持部55を下方に下げることができ、蝶ナット74を締めることにより支持部55を上方に上げることができる。
【0153】
こうして、第5実施例によれば、支持部55の高さ位置を任意に調整することができ、これにより、組み立て時に、加振装置50Eの振動部材51の先端の接続部514Caが響板7の裏面に当接するまで、支持部55の高さを持ち上げることができ、その位置で接続部514Caを響板7に接着し、かつ、支持部55の高さ位置をそのまま維持する。なお、支持部55の高さとは、必ずしも鉛直方向の高さを示すものではなく、支持部55から加振装置50E(あるいは50その他)の接続端部514Ca(あるいは516Aその他)に向かう方向についての、支持部55と響板7との離隔距離(支持部55と響板7に対する相対的距離)を示す用語である。したがって、アップライトピアノのように響板が垂直に立っているタイプのものに本実施例を適用する場合は、支持部55の高さ調整とは、支持部55の響板に向かう水平方向の位置を調整することである。
【0154】
[まとめ]
上記各実施例に示したように、本発明は、響板7に振動を加える加振装置50〜50Eのようなボイスコイル型のアクチュエータ又はボイスコイル型のアクチュエータとして把握され得る。また、別の観点に従うと、本発明は、上記各実施例に示したような響板7に振動を加える加振装置50〜50Eのようなボイスコイル型のアクチュエータ又はボイスコイル型のアクチュエータを備えるグランドピアノ1のような鍵盤楽器、あるいは、その他のタイプの楽器としても把握され得るものである。なお、加振装置50〜50Eが取り付けられる対象は、アコースティックピアノに限らず、電子ピアノあるいはその他の響板を装備可能な楽器であればよく、例えば、響板を有するギターや、響板を有するスピーカを演奏操作子の操作に応じて鳴らす新タイプの楽器等であってもよい。いずれの場合も、響板を有する楽器に加振装置50〜50Eが取り付けられ、演奏操作子の操作に応じた駆動信号が加振装置50〜50Eに出力され、加振装置50〜50Eがその駆動信号に応じて響板を振動させるアクチュエータとして機能するようになっていればよい。これらの場合、磁気回路要素52は、各楽器の筐体に取り付けられた支持部55のような部材により支持される。また、本発明は、これらのみならず、作業者が図6図24に示すような作業を行うことによるボイスコイル型のアクチュエータの楽器への取り付け方法や、ボイスコイル型のアクチュエータを備える楽器の製造方法としても把握され得るものである。
特に詳しく説明しないが、上述した種々の実施例の各々において、その一部の構成要素若しくは一部の特徴を他の実施例においても可能な限り適宜適用してよいのは勿論である。
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