特許第6136963号(P6136963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6136963リチウムイオン二次電池用複合負極材料、リチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136963
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用複合負極材料、リチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20170522BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170522BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20170522BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170522BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20170522BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/36 B
   H01M4/587
   H01M4/62 Z
   H01M4/133
   C01B33/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-20049(P2014-20049)
(22)【出願日】2014年2月5日
(62)【分割の表示】特願2013-550418(P2013-550418)の分割
【原出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-123571(P2014-123571A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2016年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-152605(P2012-152605)
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】茶山 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】弓場 智之
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 泰生
(72)【発明者】
【氏名】野中 利幸
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−198614(JP,A)
【文献】 特開2005−310759(JP,A)
【文献】 特開2001−160392(JP,A)
【文献】 特開2002−255530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 4/133
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素からなる核粒子と、該珪素からなる核粒子表面を炭素からなる被覆層で被覆してなるリチウムイオン二次電池用負極材料であって、該珪素からなる核粒子の平均粒径が5nm以上、100nm以下であり、X線光電子分析において、100eV近傍の珪素および珪素−炭素のピーク面積の和に対し、104eV近傍の珪素酸化物のピーク面積が25%よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料を含むマトリクス材料とを含み、かつ珪素含有量が3質量%〜40質量%であるリチウムイオン二次電池用複合負極材料。
【請求項2】
前記リチウムイオン二次電池用負極材料が、X線光電子分析において、99.6eV近傍の珪素のピーク面積に対し、100.9eV近傍の炭化珪素のピーク面積が100%よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極材料。
【請求項3】
前記リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料が黒鉛質の炭素材料である請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用複合負極材料。
【請求項4】
平均粒径が0.5μm〜20μmである請求項1〜請求項のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用複合負極材料。
【請求項5】
少なくとも、請求項1〜請求項のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用複合負極材料、ならびに結着樹脂および溶剤を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物。
【請求項6】
前記結着樹脂がポリイミド樹脂、またはその前駆体、もしくはポリアミドイミド樹脂である請求項に記載のリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項または請求項に記載のリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物を集電体に結着してなるリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料と、リチウムイオン二次電池用複合負極材料、リチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パーソナルコンピューターや小型携帯端末の爆発的な普及に伴って、充電可能な小型、軽量、高容量、高エネルギー密度、高信頼性を有する二次電池への要求が強まっている。また自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発も盛んに行われている。特に電池の中で最も高い理論エネルギーを有すると言われるリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は一般に、バインダーを用いてリチウムを含む複合酸化物などの正極活物質をアルミなどの集電体に塗布した正極と、バインダーを用いてリチウムイオン吸蔵放出可能な負極活物質を銅などの集電体に塗布した負極とが、セパレーター、電解質層を介して接続され、密封された構成を有している。
【0004】
リチウムイオン二次電池の高容量、高エネルギー密度化に対し、負極活物質については、従来から広く利用されてきた黒鉛材料に加え、リチウムイオンと合金を形成するケイ素、スズ、アルミニウム等の金属、ならびにそれらの酸化物等を用いることが検討されている。特に、ケイ素を含む負極活物質については、単位質量あたりの理論容量が大きく、大幅なエネルギー密度向上が期待されることから、ケイ素、ケイ素酸化物とも盛んに検討されている。
【0005】
一方で、ケイ素を含む負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵に伴う体積膨張が大きく、リチウムイオン吸脱着を繰り返した際の電極の膨張・収縮に伴う電極導電性低下、すなわち、容量維持率が低下するという課題が知られており、その解決が強く要望されている。
【0006】
課題解決への取り組みとしては、例えば、酸化珪素SiOx(1≦x<1.6)粉末表面を化学蒸着処理により導電性皮膜で覆った酸化珪素粉末を活物質とすることが提案されている(特許文献1)。この方法によれば、粉末表面に化学蒸着処理で導電性皮膜を形成することで電極導電性を確保することが提案されているが、膨張・収縮することで活物質内部が崩壊することによる導電性低下を改善できないこと、ならびに初回充電容量に対し、初回放電容量が大きく低下すること、すなわち、初期効率が低下することが課題として残されていた。
【0007】
該当課題に対して、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有する粒子を活物質として用い、酸化珪素中に分散される珪素粒子サイズを小さくすることで、膨張・収縮による活物質内部の崩壊を防ぎ、容量維持率を改善すること(特許文献2)、もしくは酸性雰囲気下でエッチングし、酸化珪素成分を減らすことで、初期効率を向上させること(特許文献3)が開示されている。
【0008】
さらに、初期効率向上に関係し、活物質粒子の含有酸素量について着目した例として、特許文献4があげられる。該発明においては、珪素及び/ または珪素合金を含む活物質粒子とバインダーとを含む活物質層を導電性金属箔からなる集電体の表面上に配置した後、これを非酸化性雰囲気下に焼結し、前記活物質粒子の酸素含有量が0.5重量% 以下であることが特徴とされている。
【0009】
また、酸素を含まない珪素粒子を得る方法として、塩化ケイ素又はシラン類と酸素と水素が混合されたガス混合物を火炎加水分解することにより得られる平均粒径が1〜100nmである球状のシリカ粉末を還元処理することにより球状珪素粉末を得る方法が、特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−63433号公報
【特許文献2】特開2007−294423号公報
【特許文献3】特開2010−225494号公報
【特許文献4】特許第4033720号公報
【特許文献5】特開2003−109589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2の方法においては、珪素粒子サイズを小さくすることで容量維持率が改善する可能性はあるものの、酸化珪素成分を多く含み、初期効率を改善するに至っていない。
【0012】
特許文献3における酸化珪素をエッチングする方法では、ある程度初期効率が改善するものの、依然として酸素/珪素のモル比は0.7〜0.9程度であり、酸化珪素の残存量は無視できないほど大きく、初期効率の課題が残されたままである。
【0013】
特許文献4においては、活物質粒子の酸素含有量が0.5重量%以下としており、初期効率の低下は抑制できる可能性はあるが、自然酸化により珪素粉末の表面に酸化珪素が形成されることを防ぐため粒子全体に対する表面の割合を低くしようと、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、容量維持率は実用不十分であった。
【0014】
特許文献5の方法においては、得られた球状珪素粒子は、平均粒径が1〜100nmと非常に小さいため、比較的良好な容量維持率を示している。しかしながら、珪素粒子の粒径が小さく、表面積が大きいため、自然酸化による表面珪素酸化物の割合が大きくなり、初期効率が低くなってしまう。
【0015】
本発明の課題は、珪素粒子サイズを小さくすることと酸化珪素成分を減らすことを両立させ、容量維持率と初期効率を共に改善することである。そして、本発明は、充放電容量及び容量維持率、初期効率に優れたリチウムイオン二次電池用負極材料と、リチウムイオン二次電池用複合負極材料、リチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
珪素粒子サイズを小さくすることと酸化珪素成分を減らすことを両立させることは非常に困難なものであったが、本願発明者らは、自然酸化に着目し、これを防げないかと鋭意努力を重ねた。そして、従来は電極導電性を確保するために行われていた化学蒸着処理による導電性皮膜形成によって、自然酸化を防げるのではないかと着想した。そこで、従来は安定な酸化珪素粉末でしか試みられていなかった化学蒸着処理による導電性皮膜形成を、粒子サイズが小さく自然酸化されやすい不安定な珪素粒子に施してみたのである。
【0017】
すなわち、本発明は、珪素からなる核粒子と、該珪素からなる核粒子表面を炭素からなる被覆層で被覆してなるリチウムイオン二次電池用負極材料であって、該珪素からなる核粒子の平均粒径が5nm以上、100nm以下であり、X線光電子分析において、100eV近傍の珪素および珪素−炭素のピーク面積の和に対し、104eV近傍の珪素酸化物のピーク面積が25%よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、充放電容量及び容量維持率、初期効率に優れたリチウムイオン二次電池用負極材料と、リチウムイオン二次電池用複合負極材料、リチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物およびリチウムイオン二次電池用負極を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、単に「本発明の負極材料」という場合がある。)は、珪素からなる核粒子の平均粒径が5nm以上、100nm以下である。
【0020】
平均粒径が5nm未満になると、結着樹脂、溶剤と混合し、ペースト化する際の分散性悪化や、集電体に塗工する際の塗布性低下の恐れがある。一方、平均粒径が100nmよりも大きくなると充放電サイクルに伴い核粒子の微粉化や、局所的な体積変化の絶対量が大きくなることによる集電体との結着性低下などにより、容量維持率が悪化する恐れがある。珪素からなる核粒子の平均粒径は、10nm以上、50nm以下の範囲であることがより好ましく、10nm以上、30nm以下の範囲であることがさらに好ましい。なお、本発明において、「平均粒径」は数平均粒子径を意味する。
【0021】
珪素からなる核粒子の粒径分布については、100nm以上の粒子が5質量%以内であることが好ましく、70nm以上の粒子が5質量%以内であることがより好ましく、40nm以上の粒子が5質量%以内であることがさらに好ましい。
【0022】
珪素からなる核粒子の粒径については、SEMやTEMなどの電子顕微鏡写真のデータを、画像解析式粒度分布測定ソフトを用いて識別し、一次粒子の投影面積円相当径として、評価することが出来る。例えば、SEMで撮影した粒子写真を画像解析式粒度分布測定ソフトを用いて、0.5〜10μm2のSEM画像内に含まれる一次粒子を認識し、一次粒子の投影面積円相当径として、個々の粒子径を評価し、得られた粒子径のデータより数平均粒子径、粒度分布などを算出することができる。画像解析式粒度分布測定ソフトの例としては、株式会社マウンテック製、「Mac−VIEW」、旭化成エンジニアリング株式会社製、「A像くん」などがあげられる。
【0023】
また、本発明の負極材料においては、珪素からなる核粒子の表面が炭素からなる被覆層で被覆され、さらには炭素からなる被覆層内部に実質的に珪素酸化物が含まれていないことが必要である。珪素からなる核粒子の表面が被覆層で被覆されていないと、珪素粒子表面が自然酸化されてしまい、初期効率の低下を引き起こす恐れがある。特に容量維持率を向上させるために100nm以下の粒径まで珪素粒子を微粒子化した場合には、表面積が大きくなることから、表面珪素酸化物の影響がより顕著になる。
【0024】
ここでいう、被覆層内部に実質的に珪素酸化物が含まれていないというのは、電池特性における初期効率への影響が実質的に小さければよいが、特に、負極材料のX線光電子分析(ESCA)において、100eV近傍の珪素および珪素−炭素のピーク面積の和に対し、104eV近傍の珪素酸化物のピーク面積が25%よりも小さいことをいう。X線光電子分析(ESCA)において、100eV近傍の珪素および珪素−炭素のピーク面積の和に対する104eV近傍の珪素酸化物のピーク面積は、20%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、珪素酸化物のピークが検出されないことが最も好ましい。
【0025】
珪素からなる核粒子の表面が被覆層で被覆されている場合においても、炭素からなる被覆層内部の珪素酸化物の量が多いと、リチウムイオンを吸蔵した際に表面珪素酸化物の影響と同様に、初期効率の低下を引き起こす恐れがある。ここで、炭素からなる被覆層としては、全てが炭素からなっていることが好ましいが、他の元素が含まれていても良い。
【0026】
炭素からなる被覆層の厚みは、1nm以上、20nm以下であることが好ましく、2nm以上、10nm以下であることがさらに好ましい。被覆層の厚みが1nmよりも小さい場合、珪素からなる核粒子の表面を効果的に被覆することが難しくなる。被覆層の厚みが20nmよりも厚くなると、充放電時のリチウムイオンの拡散を阻害する恐れがある。また、珪素からなる核粒子の割合が減少することにより、負極材料の容量が低下してしまう。珪素からなる核粒子表面を被覆する被覆層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することが出来る。
【0027】
ナノサイズの珪素粒子を得る方法については、特に限定されず、化学還元法、プラズマジェット法、レーザーアブレーション法、火炎法、直流アークプラズマ法、高周波熱プラズマ法、レーザー熱分解法などを用いることができる。さらに、珪素からなる核粒子の表面を炭素からなる被覆層で被覆する方法についても、特に限定されず、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、熱CVD、プラズマCVD、光CVDなどを用いることが出来る。さらに、被覆層内部に珪素酸化物を含まない珪素粒子を得る方法についても、特に限定されないが、被覆層を形成する前の処理として、自然酸化された表面をもつ珪素粒子を水素還元により還元し、その後にCVD等により被覆層を形成してもよく、また真空中、もしくは不活性雰囲気中で作製した珪素粒子を、酸化雰囲気に晒すことなく、被覆層を形成しても良い。表面に珪素酸化物を含む珪素粒子にCVD等で直接炭素被覆層を形成した場合には、内部に酸化層が残り、電池特性を低下させる恐れがある。
【0028】
さらには、表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子において、炭化珪素の含有量が少ないことが好ましい。炭化珪素は、大気中で自然酸化され、酸化珪素同様に初期効率への影響がある。炭化珪素の含有量が少ない、というのは、電池特性における初期効率への影響が実質的に小さければよいが、特に、X線光電子分析(ESCA)において、99.6eV近傍の珪素のピーク面積に対し、100.9eV近傍の炭化珪素のピーク面積が100%よりも小さいことが好ましく、70%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料においては、表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子に加え、マトリクス材料を含む複合負極材料としても良い。複合負極材料とすることで、体積膨張が緩和され、容量維持率を向上させることが出来る。また、負極材料の粒径を大きくすることが出来、結着樹脂の混合割合を減らすことができるとともに、結着樹脂や溶剤と混合してペースト化する際の分散性や、集電体に塗工する際の塗布性を向上させることができる。
【0030】
マトリクス材料としては、前記効果が発現する材料であれば、特に限定されないが、少なくとも一部にリチウムイオン伝導性、および/または電子伝導性を有する材料を含むことが好ましく、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料や薄層グラファイトを含むことが好ましい。
【0031】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料としては、黒鉛(人造、天然)、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、インジウム、カルシウム、マグネシウム、およびこれらの合金、ならびに酸化物、チタン酸リチウムなどがあげられるが、初期効率、容量維持率の観点から、炭素材料もしくは、チタン酸リチウムが好ましい。
【0032】
また、マトリクス材料に薄層グラファイトを用いると、高導電性で空隙を持つ上に、立体構造を維持することが可能なマトリクス構造を実現でき、高いイオン導電性を持ちながら、負極材料の体積膨張緩和が可能になることから、特に好ましい。本発明において薄層グラファイトとは、単層グラフェンが積層した構造体であり、薄片上の形態を持つものである。厚みには特に制限は無いが、導電パスを多くする観点から、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。また、1層〜数層のいわゆるグラフェンであっても良い。グラフェンの層方向の大きさには制限は無いが、100nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0033】
薄層グラファイトは、機械剥離法、化学気相沈殿法、結晶外延成長法と酸化還元法などにより作製することが可能である。また、市販されているもの(XG Science社、xGNPなど)を購入することによっても入手可能である。
【0034】
表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子とマトリクス材料とを含む複合負極材料は、該珪素粒子とマトリクス材料とを物理的な手法で適切に混合することにより作製できる。
【0035】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質と混合する場合は、表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子とリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質とを混合し、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気下で、ボールミル、振動ミル、遊星ボールミル等でミリングすることにより得ることができる。
【0036】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質が黒鉛質の炭素材料の場合は、各種樹脂、ポリイミド前駆体、タールまたはピッチなどの少量の炭素前駆体を、表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子と混合し、非酸化性雰囲気下で焼結し、得られた焼結物を粉砕、分級することで得ることが出来る。また、得られた複合粒子の表面にさらに、化学気相析出(CVD)法などを用いて、被覆層を形成しても良い。
【0037】
マトリクス材料として薄層グラファイトを複合化する場合は、表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子と、薄層グラファイトを、アルゴンや窒素などの不活性雰囲気下で、ボールミル、振動ミル、遊星ボールミル等でミリングすることにより複合負極材料を得ることができる。また、複合負極材料は、各種樹脂、ポリイミド前駆体、タールまたはピッチなどの炭素前駆体等と薄層グラファイトを直接混合してから、表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子と混合することによっても得られるし、薄層グラファイトの原料となる酸化グラファイトを混合してから還元して薄層グラファイトとする手法によっても得ることができる。
【0038】
酸化グラファイトは、黒鉛を酸化することによって作製することが可能であり、Brodie法、Staudenmaier法、Hammers法などが知られている。十分酸化されたグラファイトは薄層化され、これを還元することにより薄層グラファイトを作製することができる。
【0039】
表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子とマトリクス材料とを含む複合負極材料においては、珪素含有量が3質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜40質量%であることがさらに好ましい。珪素含有量が3質量%よりも小さくなると、負極容量の向上効果が小さくなる恐れがある。また、珪素含有量が50質量%よりも大きくなると、複合負極材料の体積変化が大きくなることによる集電体との結着性低下などにより、容量維持率が悪化する恐れがある。
【0040】
表面が炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子とマトリクス材料とを含む複合負極材料の平均粒径は、0.5μm〜20μmであることが好ましい。リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を混合して、複合負極材料とする場合に、複合粒子の平均粒径が0.5μmよりも小さくするには、珪素粒子と複合化させるリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質の粒子も十分に小さくする必要があり、製造上の困難が生じる恐れがある。
【0041】
高容量の負極材料あるいは複合負極材料(以下、まとめて負極材料と表す場合がある。)を用いた負極においては、集電体上への塗布膜厚が40μm以下にまで薄くなる可能性があるが、複合粒子の平均粒径が20μmよりも大きいと、塗工時にスジ、掠れなどにより塗布均一性が低下する恐れや、充放電サイクルに伴う複合粒子の体積変化量が大きくなることによる集電体との結着性低下などの恐れがある。
【0042】
本発明の負極材料は、結着樹脂、溶剤、さらには必要に応じて、導電助剤と混合し、集電体に塗布・乾燥することでリチウムイオン電池用負極を作成することができる。
【0043】
結着樹脂としては、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン, ポリフッ化ビニリデン(PVdF), ポリエチレン, ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマー、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。中でも、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂を用いることで、集電体との結着性をあげ、容量維持率を向上させることが出来るため、好ましい。中でもポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0044】
本発明におけるポリイミド前駆体とは、加熱処理や化学処理によりポリイミドに変換できる樹脂を指し、例えば、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステルなどが挙げられる。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合させることにより得られ、ポリアミド酸エステルは、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重合させることにより、またはポリアミド酸のカルボキシル基にエステル化試薬を反応させることにより得られる。また、本発明におけるポリイミドとは、負極材料と混合する時点ですでにイミド化が完結している構造のものを指す。
【0045】
溶剤としては、特に限定されず、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチルラクテート、シクロヘキサノン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。また、バインダー溶液の塗布性を向上させる目的で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、各種アルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの溶剤を、好ましくは全溶剤中1〜30重量%含有することもできる。
【0046】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば、特に限定されず、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛、グラフェン等のグラファイト類、炭素繊維及び金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム及び銀等の金属粉末類等の導電性材料を用いることが出来る。
【0047】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物は、結着樹脂を溶剤と混合し、適当な粘度に調整した後に、本発明の負極材料、必要により導電助剤、界面活性剤などの添加剤を加え、よく混錬することで得ることが出来る。混錬は、自公転ミキサーを用いたり、ビーズミル、ボールミルなどのメディア分散を行ったり、三本ロールなどを用いて、均一に分散させるのが好ましい。
【0048】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は本発明のリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物を集電体に結着して得ることができる。本発明のリチウムイオン電池負極用樹脂組成物から作成する負極の製造方法について例を挙げて説明する。
【0049】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物を金属箔上に1〜500μmの厚みで塗布する。金属箔としては、アルミ箔、ニッケル箔、チタン箔、銅箔、ステンレス鋼箔などが挙げられ、銅箔、アルミ箔が一般的に用いられる。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用樹脂組成物を金属箔に塗布するには、スピンコート、ロールコート、スリットダイコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷などの手法を用いることができる。塗布は通常、両面ともに行われるため、まず片面を塗布して、溶媒を50−400℃の温度で1分〜20時間、空気中、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中または真空中で処理した後に、逆の面に塗布して乾燥させるのが一般的であるが、両面を同時にロールコートやスリットダイコートなどの手法で塗布することもできる。
【0051】
結着樹脂としてポリイミド前駆体を用いる場合、塗布後、100〜500℃で1分間〜24時間熱処理し、ポリイミド前駆体をポリイミドに変換することで、信頼性のある負極を得ることができる。熱処理条件は、好ましくは200〜450℃で30分間〜20時間である。また、熱処理は、水分の混入を抑えるために、窒素ガスなどの不活性ガス中または真空中で行うことが好ましい。
【実施例】
【0052】
本発明をさらに詳細に説明するために実施例を以下に挙げるが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0053】
実施例1
[負極材料の作製]
高周波熱プラズマ法により合成され、徐酸化処理した珪素粒子の、表面の珪素酸化物を、水素40体積%の窒素雰囲気、還元温度700℃の条件で還元し、酸化被膜のない珪素粒子を得た。引き続き、メタン : 窒素 = 1 : 1を原料ガスとして、処理温度1000 ℃の条件で、珪素粒子の表面を熱分解炭素で被覆した。このようにして得られた負極材料を走査型電子顕微鏡で観察し、得られた画像を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、Mac−VIEW)を用いて、平均粒径を算出した。また、透過型電子顕微鏡により、珪素粒子の表面に形成された被覆層の厚みを測定した。結果として、平均粒径が15nmの珪素粒子の表面が5nmの炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子を得た。
【0054】
[負極材料のX線光電子分析(ESCA)]
得られた負極材料のX線光電子分析を行い、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比を求めたところ、9%であった。また、珪素のピーク面積に対する炭化珪素のピーク面積は60%であった。
【0055】
[複合負極材料の作製]
得られた負極材料を、平均粒径1μmの黒鉛と炭素ピッチとを加えて混合し、アルゴン雰囲気下、900℃で焼成し、粉砕処理後に分級し、平均粒径10μmの複合負極材料を得た。複合負極材料における珪素の質量割合は15%であった。
【0056】
[ポリイミド前駆体の合成]
窒素雰囲気下、4つ口フラスコに4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを10.01g(0.05モル)、パラフェニレンジアミンを5.4g(0.05モル)、N−メチルピロリドン(NMP)を120g加え、室温にてこれらのジアミンを溶解させた。ついで、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を28.69g(0.975モル)、NMPを12.3g加えて60℃で6時間攪拌した。6時間後室温まで冷却し、NMPを添加して最終的に固形分濃度20%のポリイミド前駆体溶液を得た。
【0057】
[負極の作製]
得られた複合負極材料80重量部と、固形分濃度20%のポリイミド前駆体溶液75重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック5重量部を、適量のNMPに溶解させ攪拌した後、スラリー状のペーストを得た。得られたペーストを、電解銅箔上にドクターブレードを用いて塗布し、110℃ で30分間乾燥させ、ロールプレス機によりプレスして電極とした。さらに、この電極の塗布部を直径16mmの円形に打ち抜き、200℃、24時間の真空乾燥を行い、負極を作製した。
【0058】
[コイン型リチウム二次電池の作製]
前記負極、対極として金属リチウムを用い、電解液としては、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3(体積比率)の混合溶媒に1MのLiPF、溶媒に対して3質量%のビニレンカーボネートを加えた電解液を用いた。また、セパレーターは、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)を用い、コイン電池を作製した。
【0059】
[電極特性の評価]
対極(リチウム極)に対し、0.3Cに相当する電流で5mVまで充電した。充電に要した電流量と放電はリチウム極に対して0.3Cに相当する電流で2.0Vまで行い、初期(初回)放電容量を測定した。放電容量は、カット電圧が1.4Vの時の容量とした。このようにして、得られた初回充電容量、初回放電容量より初期効率を以下の式により求めた。
初期効率(%)={(初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)}×100
また、この充放電測定を50回行い、1回目の放電容量に対する50回目の放電容量の比率を、容量維持率(%)として算出した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0060】
実施例2、実施例3
平均粒径が40nm(実施例2)、80nm(実施例3)の珪素粒子の表面を5nmの炭素被覆層で被覆した負極材料を得た。得られた負極材料のX線光電子分析を行い、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比を求めたところ、9%であった。また、珪素のピーク面積に対する炭化珪素のピーク面積は60%であった。
【0061】
上記負極材料を用いて複合負極材料を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0062】
実施例4
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面を5nmの炭素被覆層で被覆した負極材料を用い、珪素の質量割合が5%である平均粒径10μmの複合負極材料を用いた以外は、実施例1と同様にして、電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0063】
実施例5
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面が2nmの炭素からなる被覆層で被覆された負極材料を得た。得られた負極材料のX線光電子分析を行い、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比を求めたところ、6%であった。また、珪素のピーク面積に対する炭化珪素のピーク面積は60%であった。上記負極材料に炭素ピッチのみを加え、珪素の質量割合が40%である平均粒径10μmの複合負極材料を用いた以外は、実施例1と同様にして、電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0064】
実施例6
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面が15nmの炭素からなる被覆層で被覆された負極材料を得た。得られた負極材料のX線光電子分析を行い、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比を求めたところ、4%であった。また、珪素のピーク面積に対する炭化珪素のピーク面積は60%であった。上記負極材料に、炭素ピッチのみを加え、珪素の質量割合が4%である平均粒径10μmの複合負極材料を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0065】
実施例7
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面を5nmの炭素被覆層で被覆した負極材料を用い、複合負極材料作製時に、炭素ピッチと黒鉛を用いる代わりに、炭素ピッチと薄層グラファイト(XGNP、品番M-5、XG Science社)とを9:1の重量比率で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0066】
実施例8
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面を5nmの炭素被覆層で被覆した負極材料を用い、該珪素粒子と、薄層グラファイト(XGNP、品番M-5、XG Science社)とを、ボールミルで混合し、粉砕処理後に分級し、複合負極材料に対し、珪素の質量割合が15%である平均粒径10μmの複合負極材料を得た以外は、実施例1と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0067】
実施例9
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面を5nmの炭素被覆層で被覆した負極材料を用い、複合負極材料作製時に、酸化グラファイトと負極材料を混合し、水素3体積%の窒素雰囲気で、焼成温度700℃の条件で焼成し、粉砕処理後に分級し、複合負極材料に対し、珪素の質量割合が15%である平均粒径10μmの複合負極材料を得た以外は、実施例1と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0068】
実施例10
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面を5nmの炭素被覆層で被覆し、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比が22%である負極材料を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0069】
実施例11
平均粒径が40nmの珪素粒子の表面が5nmの炭素からなる被覆層で被覆された負極材料を得る際に、熱分解炭素で被覆する条件を、原料ガスとして、アセチレン : 窒素 = 1 : 1を用い、処理温度を750 ℃とした。得られた負極材料のX線光電子分析を行い、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比を求めたところ、9%であった。また、珪素のピーク面積に対する炭化珪素のピーク面積は20%であった。このようにして得られた負極材料を用いること以外は、実施例2と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0070】
比較例1
高純度モノシランSiH4を原料とし、ヘリウム、アルゴン、水素を希釈ガスとして、620℃の反応温度で、熱分解還元法により、多結晶珪素粒子を得た。徐酸化処理後の多結晶珪素粒子の平均粒径、結晶子径は、それぞれ、200nm、40nmであり、X線光電子分析により、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比を求めたところ、120%であった。
【0071】
得られた多結晶珪素粒子と平均粒径1μmの黒鉛と炭素ピッチとを加えて混合し、実施例1と同様にして、複合負極材料を得た。続いて、実施例1と同様に負極、リチウム二次電池を作製し、電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0072】
比較例2
比較例1で得られた徐酸化処理した多結晶珪素粒子に対して、実施例1と同様に熱分解炭素で被覆し、平均粒径200nm、結晶子径40nmの多結晶珪素粒子の表面が5nmの炭素からなる被覆層で被覆された珪素粒子を得た。この珪素粒子を負極材料として用いること以外は、実施例1と同様に、複合負極材料、負極、リチウム二次電池を作製し、電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0073】
比較例3
高周波熱プラズマ法により合成され、徐酸化処理した平均粒径40nmの珪素粒子を負極材料として用いること以外は、実施例1と同様に、すなわち、表面の珪素酸化物を還元せず、また熱分解炭素による被覆層を形成しない珪素粒子を負極材料に用いて、複合負極材料、負極、リチウム二次電池を作製し、電極特性を評価した。用いた負極材料について、X線光電子分析により得られる珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積の比は120%であった。電極特性評価により得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0074】
比較例4
高周波熱プラズマ法により合成され、徐酸化処理した平均粒径40nmの珪素粒子の表面を熱分解炭素により5nmの被覆層で被覆した負極材料として用いること以外は、実施例1と同様に、複合負極材料、負極、リチウム二次電池を作製し、電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例1〜11および比較例1〜4を比較し、以下が明らかになった。
【0077】
炭素からなる被覆層内部に珪素酸化物が含まれるかどうかに着目し、実施例および比較例を比較する。負極材料として、炭素からなる被覆層内部に実質的に珪素酸化物が含まれていない複合負極材料を用いた実施例1〜11では、初期効率が78%〜93%と高いが、比較例1〜4では、初期効率が52%〜67%と劣っている。特に、珪素粒子粒径が40nmの比較例3、4においては、珪素粒子粒径が200nmの比較例1、2に比べても、特に劣っている。比較例3、4は、珪素粒子粒径が小さく、表面積が大きいため、表面酸化物が大きく影響していると考えられる。つまり、炭素からなる被覆層内部に実質的に珪素酸化物が含まれていない負極材料を用いることで初期効率の高い電極を得ることが出来た。
【0078】
珪素粒子の粒径に着目すると、珪素粒子の粒径が100nmよりも小さい実施例1〜11、ならびに比較例3、4は、容量維持率が、80%〜94%と高いが、珪素粒子の粒径が100nmよりも大きい比較例1、2においては、容量維持率が63%〜66%と極めて劣っている。比較例3、4は、容量維持率は比較的高いが、前述のとおり初期効率が極めて劣っているため、実用に供しない。つまり、珪素粒子の粒径が100nmよりも小さく、炭素からなる被覆層内部に実質的に珪素酸化物が含まれていない負極材料を用いることで、容量維持率、ならびに初期効率の高い電極を得ることが出来た。
【0079】
実施例1〜3の容量維持率を比較すると、珪素粒子の粒径が100nmよりも小さい実施例3に比べ、珪素粒子の粒径が50nmよりも小さい実施例2が、さらには珪素粒子の粒径が30nmよりも小さい実施例1が容量維持率に優れることがわかった。
【0080】
珪素粒子の粒径が40nmと同一の実施例2、4、5、6を比較すると、初期効率、容量維持率、共にいずれも良好な特性を示すが、珪素比率が小さい方がより良好であることがわかる。一方、充電容量については、珪素比率が大きい方がより容量が高いことがわかる。珪素比率が3質量%よりも小さくなると、充放電容量が小さくなり、高容量負極としてのメリットが薄くなる。つまり、珪素比率は3質量%より高いことが好ましいことがわかる。一方、珪素比率は50質量%を越えると、初期効率、容量維持率が低下することが懸念される。したがって、珪素の質量比率は3質量%〜50質量%であることが好ましいことがわかった。また、珪素比率を高くする必要がある場合には、表面酸化を抑制するための炭素からなる被覆層の膜厚が確保できなくなる恐れがある。一方で、炭素からなる被覆層の膜厚を20nmよりも厚くすると、珪素比率が小さくなり、充放電容量が小さくなる恐れがある。したがって、炭素からなる被覆層の膜厚は1nm以上、20nm以下が好ましいことがわかった。
【0081】
また、珪素粒子の粒径及び炭素被膜厚さが同一でマトリクス材料のみ異なる実施例2と、実施例7〜9を比較すると、マトリクス材料として黒鉛質材料を用いるより、薄層グラファイトを少なくとも一部に含有させた方が、特に容量維持率がより良好となることがわかった。
【0082】
加えて、珪素粒子の粒径及び炭素被膜厚さが同一で、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和に対する珪素酸化物のピーク面積比、ならびに珪素のピーク面積に対する炭化珪素のピーク面積比のみが異なっている実施例2と実施例10,11を比較すると、酸化珪素のピーク面積、ならびに炭化珪素のピーク面積がそれぞれ、珪素および珪素炭化物のピーク面積の和、珪素のピーク面積に対して、小さい実施例の方が初期効率がより良好となることがわかった。
【0083】
このように、珪素粒子の粒径が100nmよりも小さく、X線光電子分析(ESCA)における珪素酸化物、炭化珪素のピーク面積比率がより小さい負極材料、さらには、炭素からなる被覆層の膜厚は1nm以上、20nm以下の負極材料、珪素の質量比率が3質量%〜50質量%である複合負極材料を用いることで容量維持率、ならびに初期効率の高い電極を得ることが出来た。
【0084】
次に、バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた場合の例を、以下に記す。
【0085】
実施例12〜20、比較例5〜8
ペースト作製時にポリイミド前駆体溶液をポリフッ化ビニリデン溶液に、負極作製時に真空乾燥を200℃、24時間から130℃、1時間に変更した以外は、実施例1〜9、比較例1〜4と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
PVDFをバインダに用いた場合、ポリイミドをバインダに用いた場合よりも初期効率や容量維持率の性能は全体的に落ちるものの、実施例12〜20は比較例5〜8に比べて相対的には高い性能を有しており、本願発明の効果を十分に奏するものであることが明らかになった。
【0088】
次に、バインダとして、ポリアミドイミド(PAI)を用いた場合の例を、以下に記す。
【0089】
[ポリアミドイミドの合成]
窒素雰囲気下、2Lの4つ口フラスコにメタフェニレンジアミンを30.24g(0.28モル)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを84.1g(0.42モル)、N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を610g加え、室温にてこれらのジアミンを溶解させた。ついで、重合反応液の温度が30℃を超えない様に無水トリメリット酸クロリドを147.4g(0.70モル)を徐々に添加し、添加終了後、重合液を30℃に温調し1.0時間攪拌し反応させ、重合溶液を得た。得られた重合溶液をIW水1.7リットル中に入れ、濾過分別してポリアミド酸の粉末を得た。得られたポリアミド酸の粉末を、真空度30torrの真空乾燥機中、150℃で5時間、次いで200℃で2時間、次いで240℃で4時間乾燥し、ポリアミドイミド樹脂の粉末を得た。
【0090】
乾燥後の粉体15gにNMPを85g加えて溶解させた後、溶液を1μmメンブレンフィルターにて濾過し、最終的に固形分濃度15%のポリアミドイミド溶液を得た。
【0091】
[負極の作製]
得られた複合負極材料80重量部と、固形分濃度15%のポリアミドイミド前駆体溶液100重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック5重量部を、適量のNMPに溶解させ攪拌した後、スラリー状のペーストを得た。得られたペーストを、電解銅箔上にドクターブレードを用いて塗布し、110℃ で30分間乾燥させ、ロールプレス機によりプレスして電極とした。さらに、この電極の塗布部を直径16mmの円形に打ち抜き、200℃、2時間の真空乾燥を行い、負極を作製した。
【0092】
実施例21〜31
ペースト作製時にポリイミド前駆体溶液をポリアミドイミド溶液に、負極作製時に真空乾燥を200℃、24時間から200℃、2時間に変更した以外は、実施例1〜11と同様にして、それぞれの電極特性を評価した。得られた初回充電容量、初回放電容量、初期効率、容量維持率を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
ポリアミドイミドをバインダに用いた実施例21〜31およびポリイミド前駆体溶液を用いた実施例1〜11、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた実施例12〜20をそれぞれ比較し、ポリアミドイミドをバインダに用いた電池は、ポリアミドイミドをバインダに用いた電池と同等の特性を示すことが明らかになった。
【0095】
実施例32
[ラミネート型リチウム二次電池の作製]
[正極の作製]
平均粒径10μmのLiCoO2で表されるコバルト酸リチウム、平均粒径30nmの炭素粉末、ならびにポリフッ化ビニリデンのNMP溶液を混合し、さらに適量のNMPを加え、攪拌し、スラリー状のペーストを得た。コバルト酸リチウム、炭素粉末、ポリフッ化ビニリデンの重量比は95:2.5:2.5とした。得られたペーストを、厚み15μmのアルミ箔上にスリットダイコータを用いて塗布し、110℃ で30分間乾燥させた。このような電極ペーストの塗布、乾燥をアルミ箔の両面に行い、ロールプレス機によりプレスして電極とした。
【0096】
[負極の作製]
実施例2で作製した複合負極材料、および電極ペーストを用いて、厚み10μmの電解銅箔上にスリットダイコータを用いて塗布し、110℃ で30分間乾燥させた後、さらに200℃、24時間の真空乾燥を行った。このような電極ペーストの塗布、乾燥を電解銅箔の両面に行い、ロールプレス機によりプレスして電極とした。
【0097】
「電池作製」
上記で作製した正極、ならびに負極に、端子として、アルミニウム板(幅5mm、厚さ100μm)、ニッケル板( 幅5mm、厚さ100μm) を、それぞれ電気抵抗溶接により接続した。セルガード社製セパレータ「セルガード#2400」を介して、正極及び負極を巻回し、ポリエチレンテレフタレート製外装樹脂/ アルミニウム箔/ 変性ポリプロピレン製熱融着樹脂がラミネートされたフィルムからなる筒状のラミネート外装材中に配置した。電解液として、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3(体積比率)の混合溶媒に、1MのLiPF6と、溶媒に対して3質量%のビニレンカーボネートを加えた電解液を減圧下で注液・封口し、1500mAhのラミネート型リチウム電池を作製した。
【0098】
比較例9
実施例2で作製した複合負極材料の代わりに、平均粒径10μmの球状黒鉛を用いた電極ペーストを電解銅箔の両面に塗布・乾燥・プレスした電極を用いたこと以外は、実施例32と同様にして、ラミネート型リチウム二次電池を作製した。
【0099】
実施例2で作製した複合負極材料を用いた実施例32のラミネート型電池の外形寸法を測定し、体積あたりのエネルギー密度を計算したところ、440Wh/Lであった。一方、比較例9の球状黒鉛を用いたラミネート型電池の外形寸法を測定し、体積あたりのエネルギー密度を計算したところ、350Wh/Lであった。このように、珪素からなる核粒子表面を炭素からなる被覆層で被覆し、被覆層内部に実質的に珪素酸化物が含まれていない複合負極材料をもちいることで、エネルギー密度の高いリチウム二次電池を得ることが出来た。