(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6136974
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 2/10 20060101AFI20170522BHJP
H01M 2/12 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
H01M2/10 A
H01M2/12 102
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-30758(P2014-30758)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-156302(P2015-156302A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中條 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇行
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩生
(72)【発明者】
【氏名】石黒 文彦
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−017270(JP,A)
【文献】
特開2012−113899(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/149948(WO,A1)
【文献】
特開2014−107178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/10
H01M 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する筐体と、当該筐体の前記貫通孔を形成する貫通孔縁部上にボルトによって固定され、前記貫通孔を閉塞する蓋部材とを有するケースと、
前記ケースの内部に収容された電池セルと、を備え、前記ケースの内圧が上昇したときに前記蓋部材の一部が前記貫通孔縁部から離間する方向に変形して前記ケースの内圧を開放する電池パックであって、
前記蓋部材と前記貫通孔縁部との間には、前記ケースの気密性を確保するシール材と、前記蓋部材と前記貫通孔縁部との間隔を維持するスペーサとが前記筐体の外面のうち前記貫通孔が開口する面の外周から前記貫通孔の縁に向けて並んで設けられており、
前記スペーサは、前記シール材よりも変形抵抗が高く、
前記シール材は、前記蓋部材の外周の全周を囲んでいることを特徴とする電池パック。
【請求項2】
前記貫通孔縁部のうち、前記ケースの内圧が上昇したときに変形する前記蓋部材の一部と向かい合う箇所とは異なる箇所に前記スペーサが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電池パック。
【請求項3】
前記蓋部材における外周側に前記シール材が設けられ、前記シール材よりも内周側に前記スペーサが設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電池パック。
【請求項4】
前記スペーサには、複数のボルトが貫通することを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の電池パック。
【請求項5】
前記スペーサは、樹脂製であることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の電池パック。
【請求項6】
前記スペーサは、前記貫通孔の両側において互いに平行に延びることを特徴とする請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースに電池セルを収容した電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セルを接続してモジュール化したものとしては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1では、複数の電池セルを筐体に収容して、電池セルをモジュール化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−171796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電池セルには、電池セルの内部で気体が生じた場合に、この気体を電池セルの外部に排出する弁が設けられている場合がある。電池セルから排出された気体が、筐体の内部に排出されると、筐体内の圧力が高まり筐体が破損する原因となる。このため、筐体が、開口を有する本体と、この開口を閉塞する蓋部材を有する場合、筐体の内圧が上昇したときに蓋部材の一部を変形させて弁として機能させる場合がある。蓋部材は、例えば、ボルトによって本体に固定され、蓋部材と本体との間には、筐体の気密性を確保するためのシール材が設けられる。このとき、ボルトの締結力によってシール材を圧縮して、筐体の気密性を確保するが、ボルトの締結力によっては、シール材の圧縮率が不足して気密性が不足したり、シール材を過度に圧縮してしまい、破損の原因となるおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、シール材の圧縮を適切に行うことができる電池パックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電池パックは、貫通孔を有する筐体と、当該筐体の前記貫通孔を形成する貫通孔縁部上にボルトによって固定され、前記貫通孔を閉塞する蓋部材とを有するケースと、前記ケースの内部に収容された電池セルと、を備え、前記ケースの内圧が上昇したときに前記蓋部材の一部が前記貫通孔縁部から離間する方向に変形して前記ケースの内圧を開放する電池パックであって、前記蓋部材と前記貫通孔縁部との間には、前記ケースの気密性を確保するシール材と、前記蓋部材と前記貫通孔縁部との間隔を維持するスペーサとが
前記筐体の外面のうち前記貫通孔が開口する面の外周から前記貫通孔の縁に向けて並んで設けられて
おり、前記スペーサは、前記シール材よりも変形抵抗が高く、前記シール材は、前記蓋部材の外周の全周を囲んでいることを要旨とする。
【0007】
これによれば、ボルトによって蓋部材を固定するときに、シール材が圧縮されていくが、スペーサによって蓋部材の貫通孔縁部へ向けての移動が規制される。したがって、スペーサによってシール材の圧縮率を規定することができ、シール材の圧縮を適切に行うことができる。
【0008】
また、スペーサによってシール材が過度に圧縮されることが抑制される。このため、シール材が破損しにくい。
上記電池パックについて、前記貫通孔縁部のうち、前記ケースの内圧が上昇したときに変形する前記蓋部材の一部と向かい合う箇所とは異なる箇所に前記スペーサが配置されていることが好ましい。
【0009】
上記電池パックについて、前記蓋部材における外周側に前記シール材が設けられ、前記シール材よりも内周側に前記スペーサが設けられることが好ましい。
これによれば、スペーサが外気に晒されにくく、スペーサが劣化することを抑制することができる。
【0010】
上記電池パックについて、前記スペーサには、複数のボルトが貫通することが好ましい。
これによれば、スペーサを設けるときに、単一のボルトに対して単一のスペーサを設ける必要がなく、容易にスペーサを設けることができる。
【0011】
上記電池パックについて、前記スペーサは、樹脂製であることが好ましい。
これによれば、スペーサが錆びないため、蓋部材及び貫通孔縁部とスペーサとが錆びによって固着することが抑制される。このため、錆びによる蓋部材と貫通孔縁部との固着によって蓋部材の変形が阻害されることが抑止される。
上記電池パックについて、前記スペーサは、前記貫通孔の両側において互いに平行に延びることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シール材の圧縮を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は実施形態における電池パックを示す斜視図、(b)は実施形態における電池パックの貫通孔と蓋部材を示す分解斜視図。
【
図2】実施形態における電池パックを示す
図1の2−2線断面図。
【
図3】実施形態における電池パックを示す
図2の3−3線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、電池パックの一実施形態について説明する。
図1(a)に示すように、電池パック10は、ケース11を有し、ケース11には複数の電池モジュール21が収容されている。電池モジュール21は、複数の電池セル22を有している。ケース11は、筐体18と、筐体18に設けられた貫通孔31を閉塞する蓋部材33とを有する。
【0015】
筐体18は、有底四角筒状の本体12と、本体12に設けられた開口を閉塞する平板部材17とを有している。本体12は、図示しない底壁と、当該底壁から立設し開口を形成する4つの側壁14を有している。本体12と平板部材17は、例えば、接着剤によって接合されている。
【0016】
図1(a)及び(b)に示すように、4つの側壁14のうち、一つの側壁14には矩形状の貫通孔31が形成されている。この貫通孔31は、貫通孔31を形成する貫通孔縁部32上に設けられた矩形平板状の蓋部材33によって閉塞されている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、貫通孔31を形成する(囲む)貫通孔縁部32には、内周面に雌ねじを有する螺合穴34が形成されている。螺合穴34は、貫通孔縁部32のうち貫通孔31の短手方向両端に位置する縁部に設けられ、貫通孔31の長手方向に沿って3つ設けられている。また、蓋部材33は、蓋部材33の厚み方向に貫通する挿通孔35を有している。以下の説明において、蓋部材33の4つの端部41〜44のうち、対向する一対の端部(対向する一辺)を第1の端部41、第2の端部42とし、第1の端部41と第2の端部42とは異なる対向する一対の端部を第3の端部43、第4の端部44とする。
【0018】
図1(a)及び(b)に示すように、挿通孔35は、蓋部材33の4つの端部41〜44のうち、第1の端部41及び第2の端部42に設けられている。挿通孔35は、第1の端部41と第2の端部42の一部に設けられており、角部には設けられていない。挿通孔35は、第3の端部43と第4の端部44の対向方向(第3の端部43から第4の端部44へ向かう方向)に並設されている。つまり、挿通孔35は、蓋部材33の短手方向両端側に設けられており、言い換えると蓋部材33の長辺に沿って設けられている。なお、第3の端部43と第4の端部44には挿通孔35が設けられていない。
【0019】
図2及び
図3に示すように、蓋部材33と、貫通孔31を形成する貫通孔縁部32との間には、シール材36及びスペーサ37が設けられている。シール材36は、蓋部材33における外周の全周を囲むことで、ケース11の気密性を確保している。蓋部材33におけるシール材36よりも内周側には、樹脂製でシール材36よりも変形抵抗が高いスペーサ37が設けられている。スペーサ37は、矩形平板状をなしており、蓋部材33の短手方向両端と対向する位置に貫通孔31を挟んで一対設けられている。つまり、一対のスペーサ37は、蓋部材33の短手方向両端と、貫通孔縁部32との間にそれぞれ位置している。各スペーサ37には、3つの挿通孔38が形成されている。各スペーサ37は、蓋部材33と貫通孔縁部32との間隔を維持している。
【0020】
蓋部材33、スペーサ37及び貫通孔縁部32は、挿通孔35、挿通孔38及び螺合穴34が対向するように設けられており、蓋部材33の挿通孔35、スペーサ37の挿通孔38を挿通して、本体12の螺合穴34に螺合されたボルトB1によって貫通孔縁部32に固定されている。したがって、各スペーサ37には、複数のボルトB1が挿通されている。
【0021】
図4に示すように、電池セル22(例えば、リチウムイオン二次電池や、ニッケル水素蓄電池)は、電池ケース23の内部に電極組立体24及び電解液25が収容されている。電池ケース23は、電極組立体24を収容する有底箱状のケース本体26と、ケース本体26の開口を閉塞する矩形板状の蓋27とから構成されている。蓋27には、蓋27の厚み方向に貫通する孔28が形成されるとともに、この孔28には、電池ケース23の内圧が規定圧力を超えたときに開放される弁29が設けられている。なお、この「規定圧力」は、電池ケース23の内圧が高まったときに、電池ケース23が破損する前に弁29が破断するような圧力に設定される。
【0022】
次に、本実施形態の電池パック10の作用について説明を行う。
電池セル22に異常が生じ、弁29が開放されると、電池ケース23からは気体が排出される。ケース11は、電池セル22からの気体の排出に伴って内圧が上昇する。
図3に示すように、ケース11の内圧が上昇した場合には、蓋部材33における最も第3の端部43に近い側のボルトB1よりも第3の端部43側の部分及び、蓋部材33における最も第4の端部44に近い側のボルトB1よりも第4の端部44側の部分が変形して、ケース11内の気体を放出する(
図3では第4端部44側の変形のみ図示)。すなわち、蓋部材33の一部を圧力開放弁として機能させ、ケース11の圧力開放を行えるように構成している。
【0023】
蓋部材33におけるボルトB1が設けられる部分と貫通孔縁部32との間にスペーサ37が設けられているため、ボルトB1を螺合していくと、このスペーサ37によってボルトB1の締結が規制される。スペーサ37の変形抵抗とシール材36の変形抵抗の関係、スペーサ37とシール材36とボルトB1の位置関係、スペーサ37の厚みとシール材36の厚みの関係等からボルトB1の締結によって蓋部材33を介してシール材36に掛かる力を規定することができる。このため、スペーサ37の厚みや、スペーサ37の変形抵抗、スペーサ37の配置位置を選定することによってシール材36の圧縮率を規定し、シール材36が過度に圧縮されたり、シール材36の圧縮が不足することも抑制される。
【0024】
したがって、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)蓋部材33と、貫通孔縁部32との間にスペーサ37を設けることで、このスペーサ37によってシール材36の圧縮率を規定することができる。このため、ボルトB1を締結するときに、シール材36の圧縮が不足したり、過度に圧縮してしまうことが抑制され、シール材36の圧縮を適切に行うことができる。
【0025】
(2)スペーサ37は、シール材36よりも変形抵抗が高いため、ボルトB1の締結を適切に規制でき、シール材36が過度に圧縮されることを抑制することができる。
(3)蓋部材33における外周にシール材36が設けられ、シール材36よりも内周側にスペーサ37が設けられているため、スペーサ37は、シール材36によって囲まれて、外気に晒されにくい。このため、スペーサ37が劣化することが抑制される。
【0026】
(4)スペーサ37には、複数のボルトB1が貫通する。このため、単一のスペーサ37に複数のボルトB1を挿通することができる。各ボルトB1に個別のスペーサ37を設ける場合、ボルトB1を締結するまえにスペーサ37が脱落するおそれがあり、ボルトB1の締結が困難となる。本実施形態のように複数のボルトB1に跨って設けられるスペーサ37を用いることで、容易にボルトB1を締結することができる。
【0027】
(5)樹脂製のスペーサ37を用いているため、スペーサ37が錆びない。このため、スペーサ37が錆びることで、蓋部材33及び貫通孔縁部32と、スペーサ37とが固着し、蓋部材33の変形を阻害することが抑制される。
【0028】
(6)蓋部材33及び貫通孔縁部32の少なくともいずれか一方に溝を設けて、溝にシール材(例えば、Oリング)を入れる構成の場合、蓋部材33と貫通孔縁部32が錆びによって固着し、蓋部材33の変形を阻害するおそれがある。蓋部材33と貫通孔縁部32との間に、蓋部材33と貫通孔縁部32の間隔を維持するスペーサ37を設けることで、蓋部材33と貫通孔縁部32の接触面積が少なくなり、蓋部材33と貫通孔縁部32の錆びによる固着を抑止することができる。
【0029】
なお、実施形態は以下のように変更してもよい。
○実施形態において、スペーサ37は金属製であってもよい。この場合、蓋部材33における外周側にシール材36が設けられることで、スペーサ37が外気に晒されにくく、金属製のスペーサ37が錆びることで蓋部材33及び貫通孔縁部32と、スペーサ37とが固着することが抑制される。また、スペーサ37が錆びたとしても、シール材36よりも蓋部材33における内周側にスペーサ37が設けられている場合には、蓋部材33の変形を阻害しにくく、錆びによる影響が少ない。
【0030】
○スペーサ37は、シール材36よりも蓋部材33における外周側に設けられていてもよい。この場合、金属製のスペーサ37を用いると、スペーサ37に錆びが生じて、蓋部材33及び貫通孔縁部32と、スペーサ37との固着によって蓋部材33の変形を阻害するおそれがある。このため、樹脂製のスペーサ37、あるいは、金属に樹脂コーティングなどをして錆びが生じるのを抑制したスペーサ37を用いたほうがよい。
【0031】
○実施形態では、側壁14に設けられる貫通孔31を形成する貫通孔縁部32と、蓋部材33との間にシール材36及びスペーサ37を設けたが、これに限られない。貫通孔は、筐体18に設けられていればどのような位置に設けられていてもよく、この貫通孔を閉塞する蓋部材と貫通孔縁部との間にシール材36及びスペーサ37が設けられていればよい。
【0032】
○スペーサ37は、シール材36よりも変形抵抗が低い部材であってもよい。
○単数のボルトB1が挿通されるスペーサ37を用いてもよい。
○スペーサ37の形状はどのような形状でもよく、例えば、貫通孔31を囲むように環状のスペーサ37を採用してもよい。また、スペーサ37の数は増やしてもよいし、減らしてもよい。
【0033】
○実施形態では、全てのボルトB1がスペーサ37に挿通されているが、これに限られない。一部のボルトB1のみがスペーサ37に挿通されていてもよく、例えば、スペーサ37に挿通されるボルトB1と、スペーサ37に挿通されないボルトB1が交互に設けられていてもよい。また、スペーサ37には、ボルトB1が挿通されていなくてもよい。
【0034】
○貫通孔31部及び蓋部材33の数を増やして、それぞれの貫通孔縁部32と蓋部材33との間にシール材36及びスペーサ37を設けてもよい。
【符号の説明】
【0035】
B1…ボルト、10…電池パック、11…ケース、12…本体、18…筐体、22…電池セル、31…貫通孔、32…貫通孔縁部、33…蓋部材、36…シール材、37…スペーサ。