(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに径の異なる複数の電線であって各電線が導体及びこれを被覆する絶縁被覆を有するものと、前記各電線の端末に共通して接続される防水コネクタと、を備えるワイヤハーネスを製造するための方法であって、
前記複数の電線として、第1の外径を有する第1の電線と、前記第1の外径よりも大きな第2の外径を有する第2の電線と、を含むものを用意する工程と、
前記防水コネクタとして、前記各電線の端末にそれぞれ装着される複数の端子と、これらの端子を保持するハウジングと、弾性部材からなり、前記ハウジングに保持されるシール材と、を備え、シール材は、前記複数の電線のそれぞれが挿通可能な複数の電線挿通孔をそれぞれ囲む内周面を有し、前記電線挿通孔には、前記第1の電線が挿通される第1の電線挿通孔と、前記第2の電線が挿通される第2の電線挿通孔と、が含まれ、当該第1及び第2電線挿通孔は互いに等しい孔径を有するものを用意する工程と、
前記第2の電線の絶縁被覆のうち当該第2の電線の端末に装着された前記端子が前記ハウジングに保持される位置で前記シール材の前記第2の電線挿通孔を囲む内周面と直接接触する外周面をもつ部位を含む特定領域に他の領域の部分よりも小さい肉厚を有する薄肉部を形成する工程と、
前記第1の電線挿通孔及び前記第2の電線挿通孔に前記第1の電線及び前記第2の電線をそれぞれ挿通して前記第1の電線挿通孔を囲む前記シール材の内周面に前記第1の電線の絶縁被覆の外周面を直接密着させるとともに前記第2の電線挿通孔を囲む前記シール材の内周面に前記第2の電線の絶縁被覆の前記薄肉部の外周面を直接密着させ、かつ、当該各電線に装着された各端子を前記ハウジングに保持させる工程と、を含む、ワイヤハーネスの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記一括ゴム栓のように複数の電線挿通孔を有するシール材を備えた防水コネクタにおいて、当該シール材の量産化を進めるには、前記複数の電線挿通孔の孔径を揃えることが好ましい。しかし、その一方で、各電線挿通孔に挿通される電線の外径は必ずしも一定とは限らず、互いに異なる場合があり、このような場合に当該電線をそれぞれ同一の径を持つ前記電線挿通孔に挿通しようとすると、弊害が生じるおそれがある。
【0006】
具体的に、前記電線挿通孔の孔径を外径の大きい電線のシールに適した径に設定した場合、当該電線挿通孔に外径の小さい電線を挿通すると当該電線の外周面と前記電線挿通孔を囲む前記シール材の内周面との密着度が低くなり、これにより十分なシール機能を損なうおそれがある。逆に、前記電線挿通孔の孔径を外径の小さい電線のシールに適した径に設定した場合、当該電線挿通孔に外径の大きい電線を挿通すると、当該電線挿通孔が過度に拡径させられて絶縁ハウジングの内側での前記シール材全体の圧縮変形度合いが過度に上昇し、これにより当該シール材やこのシール材を外側から保持するハウジングに大きな応力を生じさせてその寿命を縮めるおそれがある。また、当該電線挿通孔への当該電線の挿通作業も困難になる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、互いに外径の異なる複数の電線及びこれらの端末に設けられる防水コネクタを含むワイヤハーネスであって、前記防水コネクタに含まれるシール材によって前記各電線を一括して良好にシールすることが可能でありかつ当該シール材の量産性を高めることが可能なも
のを製造するための方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、互いに径の異なる複数の電線であって各電線が導体及びこれを被覆する絶縁被覆を有するものと、前記各電線の端末に共通して接続される防水コネクタと、を備えるワイヤハーネスを
製造するための方法を提供する。このワイヤハーネスにおいて、前記複数の電線には、第1の外径を有する第1の電線と、前記第1の外径よりも大きな第2の外径を有する第2の電線と、が含まれる。前記防水コネクタは、前記各電線の端末にそれぞれ装着される複数の端子と、これらの端子を保持するハウジングと、弾性部材からなり、前記ハウジングに保持されるシール材と、を備える。前記シール材は、前記複数の電線のそれぞれが挿通可能な複数の電線挿通孔をそれぞれ囲む内周面を有する。前記電線挿通孔には、前記第1の電線が挿通される第1の電線挿通孔と、前記第2の電線が挿通される第2の電線挿通孔と、が含まれ、当該第1及び第2電線挿通孔は互いに等しい孔径を有する。前記第2の電線の絶縁被覆のうち当該第2の電線の端末に装着された前記端子が前記ハウジングに保持される位置で前記シール材の前記第2の電線挿通孔を囲む内周面と接触する部位を含む特定部分は、その他の部分よりも小さい肉厚を有する薄肉部を構成する。
【0009】
このワイヤハーネスでは、前記シール材の各電線挿通孔に前記各電線を挿通した状態で当該電線の端末に装着された各端子が前記ハウジングに保持されることにより、当該各電線に係るシールを共通の前記シール材によって一括して行うことが可能である。そして、前記シール材の複数の電線挿通孔のうち第1の電線挿通孔及び第2の電線挿通孔の孔径を互いに等しくすることにより、当該シール材の量産性を高めることができる。しかも、第2の電線を構成する絶縁被覆のうち前記第2の電線挿通孔を囲む前記シール材の内周面と接触する部位を含む特定部分が他の部分よりも小さい肉厚を有する薄肉部を構成するため、当該第2の電線の第2の外径が前記第1の電線の第1の外径よりも大きく、かつ、第1及び第2電線挿通孔が互いに等しい孔径を有するにもかかわらず、第1の電線挿通孔に対する第1の電線の密着度合いと第2の電線挿通孔に対する第2の電線の密着度合いとを近づけることが可能であり、これにより、第1及び第2の電線の双方について良好なシールを行うことができる。
【0010】
なお、ここでいう「第2の外径」とは、第2の電線の通常部分の外径、つまり前記薄肉部以外の部分であって一定の径を有する部分の外径を意味する。一方、前記薄肉部の外径は当該第2の外径より小さくても大きくてもよい。薄肉部の外径が第2の外径よりも大きい場合、つまり、当該薄肉部と第2の導体との間に間隙があって当該薄肉部が他の部分よりも径方向の外側に膨らんでいる場合であっても、当該薄肉部が前記第2の電線挿通孔に圧入されることにより当該薄肉部が径方向の内側に変位して第2の導体と密着することにより最終的に薄肉部の外径はそれ以外の部分の外径(第2の外径)よりも小さくなるので、前記の効果を得ることが可能である。
【0011】
本発明は、
前記のように、互いに径の異なる複数の電線であって各電線が導体及びこれを被覆する絶縁被覆を有するものと、前記各電線の端末に共通して接続される防水コネクタと、を備えるワイヤハーネスを製造するための方法を提供する。この方法は、前記複数の電線として、第1の外径を有する第1の電線と、前記第1の外径よりも大きな第2の外径を有する第2の電線と、を含むものを用意する工程と、前記防水コネクタとして、前記各電線の端末にそれぞれ装着される複数の端子と、これらの端子を保持するハウジングと、弾性部材からなり、前記ハウジングに保持されるシール材と、を備え、シール材は、前記複数の電線のそれぞれが挿通可能な複数の電線挿通孔をそれぞれ囲む内周面を有し、前記電線挿通孔には、前記第1の電線が挿通される第1の電線挿通孔と、前記第2の電線が挿通される第2の電線挿通孔と、が含まれ、当該第1及び第2電線挿通孔は互いに等しい孔径を有するものを用意する工程と、前記第2の電線の絶縁被覆のうち当該第2の電線の端末に装着された前記端子が前記ハウジングに保持される位置で前記シール材の前記第2の電線挿通孔を囲む内周面と
直接接触する
外周面をもつ部位を含む特定領域に他の領域の部分よりも小さい肉厚を有する薄肉部を形成する工程と、前記
第1の電線挿通孔及び
前記第2の電線挿通孔に前記
第1の電線及び
前記第2の電線を
それぞれ挿通し
て前記第1の電線挿通孔を囲む前記シール材の内周面に前記第1の電線の絶縁被覆の外周面を直接密着させるとともに前記第2の電線挿通孔を囲む前記シール材の内周面に前記第2の電線の絶縁被覆の前記薄肉部の外周面を直接密着させ、かつ、当該各電線に装着された各端子を前記ハウジングに保持させる工程と、を含む。
【0012】
この方法において、前記第2の電線の絶縁被覆に前記薄肉部を形成する工程としては、当該絶縁被覆のうち当該薄肉部が形成されるべき部分の内側の圧力を外側の圧力よりも大きくすることにより当該部分を径方向の外側に膨出させ、この膨出により当該部分の肉厚を他の部分よりも小さくするものが、好適である。この方法では、前記絶縁被覆の内外に圧力差を与えるという簡単な構成で当該絶縁被覆に薄肉部を形成することができる。
【0013】
より具体的には、前記複数の電線を用意する工程が、前記第2の電線として当該第2の電線の絶縁被覆が熱可塑性樹脂材料からなるものを用意することを含み、前記薄肉部を形成する工程が、当該第2の電線のうち前記薄肉部が形成されるべき部分の周囲に当該部分の外周面に対して径方向外側に膨出する形状の膨出内面を有する金型を配置する工程と、当該金型内において前記絶縁被覆を構成する熱可塑性樹脂材料を加熱して軟化させるとともに当該絶縁被覆の内側の圧力が前記金型内における当該絶縁被覆の外側の圧力よりも高くなるような圧力差を与えることにより、当該絶縁被覆に前記金型の膨出内面に沿った形状の膨出部であって前記薄肉部を構成するものを形成することと、を含むものが、好適である。
【0014】
ここで、「熱可塑性樹脂材料を加熱して軟化させる」とは、前記圧力差の付与により当該熱可塑性樹脂が膨張して前記金型の膨出内面に沿う形状に変形可能となる程度まで軟化するように加熱することを意味し、その具体的な加熱温度は、当該熱可塑性樹脂の材質や厚みに応じて適宜設定されればよい。
【0015】
この方法によれば、第2の電線の周囲に金型を配置して当該金型内で絶縁被覆を加熱しながらその内外に圧力差を与えるだけで、当該絶縁被覆に好適な膨出部すなわち薄肉部を形成することができる。この方法では、前記金型の膨出内面の形状とこれにより得られる膨出部の形状とが対応しているので、当該膨出内面の形状の設定により、好ましい形状の膨出部を自由に形成することが、可能である。
【0016】
前記金型内における絶縁被覆の内側の圧力と外側の圧力との間に圧力差を与えるには、当該金型内を排気して減圧してもよいし、前記第2の電線の少なくとも一方の端部から前記金型内で加熱している絶縁被覆の内側に空気等のガスを押し込んでもよい。前者の場合には、特別な加圧ガスを用いることなく所望の膨出部すなわち薄肉部を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、互いに外径の異なる複数の電線及びこれらの端末に設けられる防水コネクタを含むワイヤハーネスであって、前記防水コネクタに含まれるシール材によって前記各電線を一括して良好にシールすることが可能でありかつ当該シール材の量産性を高めることが可能なもの
、を容易に製造することが可能な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1〜
図3は、この実施の形態に係るワイヤハーネスの要部を示す。このワイヤハーネスは、複数本の電線Wと、これらの電線Wの端末に共通して装着される防水コネクタWCと、を備える。
【0021】
前記複数の電線Wは、複数の第1の電線W1と、複数の第2の電線W2と、により構成される。しかし、本発明に係る「複数の電線」は、第1の電線及び第2の電線に加えてこれらとは異なる第3の電線、第4の電線を含むものであってもよい。
【0022】
前記各電線Wは、導体と、これを被覆する絶縁被覆と、を有する。具体的には、
図2及び
図3に示すように、前記各第1の電線W1は第1の導体11とこれを覆う第1の絶縁被覆21とを有し、前記各第2の電線W2は第2の導体12とこれを覆う第2の絶縁被覆22とを有する。前記各第1の電線W1は、第1の外径を有し、前記各第2の電線W2は、前記第1の外径よりも大きな第2の外径を有する。具体的には、1)前記第2の導体12の直径が前記第1の導体11の直径よりも大きいこと、及び、2)前記第2の絶縁被覆22の肉厚が前記第1の絶縁被覆21の肉厚よりも大きいこと、のうちの少なくとも一方によって、前記第2の電線W2に前記第1の外径よりも大きな外径が与えられている。
【0023】
前記防水コネクタWCは、複数の端子30と、これらの端子30を保持するハウジング40と、前側シール材50と、前側シール材50を前記ハウジング40とともに保持する前側リテーナ60と、後側シール材70と、後側シール材70を前記ハウジング40とともに保持する後側リテーナ80と、を有する。
【0024】
前記複数の端子30は、それぞれ、前記各電線Wの端末に装着される。具体的に、この実施の形態に係る各端子30は雌端子であり、相手方の雄端子と嵌合可能な電気接触部32と、前記電線Wの端末に圧着される電線圧着部34と、を一体に有し、これら電気接触部32及び電線圧着部34が前後に並んでいる。電線圧着部34は、導体バレル35とインシュレーションバレル36を有する。導体バレル35は前記各電線Wにおいてその先端の絶縁被覆が除去されることにより露出した導体の外周面上に圧着され、インシュレーションバレル36は当該導体バレル35の後方の位置で前記絶縁被覆の外周面上に圧着される。
【0025】
前記ハウジング40は、前記各端子30を保持する端子保持部41と、当該端子30のすぐ後方の電線Wの部分を収容するシール材保持部42と、を一体に有する。当該ハウジング40は、その全体が合成樹脂等の絶縁材料で一体に成形されている。
【0026】
前記端子保持部41は、複数の端子収容室44と、複数のランス45と、を有する。これらの端子収容室44に前記各端子30が後方から、すなわち前記電線収容部44の側から、挿入されることが可能である。前記各ランス45は、前記各端子収容室44に挿入された端子30の適当な部位、
図2では電気接触部32の先端側部位、を係止する。この係止により、当該端子30は当該端子保持部41に保持される。
【0027】
前記シール材保持部42は、前記端子保持部41の後方に位置し、前記各端子収容室44と連通する大きなシール材収容空間を囲む。このシール材収容空間には前記各電線Wが挿通可能であるとともに、前記後側シール材70及び前記後側リテーナ80が嵌め込まれることが可能である。
【0028】
前記前側シール材50は、前記端子保持部41の前端面上に装着される。当該前側シール材50は、ゴム等の弾性材により成形され、前記各端子収容室44に対応する複数の端子挿通孔52をそれぞれ囲む内周面を有する。各端子挿通孔52は、これに前記相手方端子すなわち雄端子が挿通されて前記端子30の電気接触部32に嵌合されるのを許容する形状を有する。当該端子挿通孔52を囲む前記前側シール材50の内周面は、その挿通される相手方端子の外側面と全周にわたり密着することでシールを行う、すなわち当該相手方端子を伝ってのハウジング40内への水分の浸入を抑止する、ことが可能な形状を有する。
【0029】
前記前側リテーナ60は、前記前側シール材50を前記ハウジング40に固定すべく当該ハウジング40に装着される。この実施の形態に係る前側リテーナ60は、前記端子保持部41の前端面及び各側面を覆う形状を有し、当該前側リテーナ60と当該端子保持部41の前端面との間に前記前側リテーナ60を挟み込んだ状態で前記ハウジング40に固定される。この前側リテーナ60も前記端子挿通孔52と同じく各相手方端子の挿通を許容する端子挿通孔62を有する。この前側リテーナ60及び前記前側シール材50は、本発明において必須の要素ではない。
【0030】
前記後側シール材70は、本発明に係る「シール材」に相当するもので、前記電線Wの外周面と密着することにより当該電線Wの側でのシールを行う。この後側シール材70は、前記前側シール材50と同様、ゴム等の弾性材料により形成される。後側シール材70は、前記各端子収容室44にそれぞれ対応する複数の電線挿通孔を囲む内周面72と、前記シール材保持部42の内側面に対応する形状の外周面74と、を有する。
【0031】
前記内周面72は、後側シール材70の弾性変形を伴いながら、前記電線挿通孔に挿通される電線Wの外周面、詳しくは当該電線Wの絶縁被覆の外周面、と密着することが可能な形状を有する。換言すれば、前記各電線挿通孔は前記電線Wの外径よりも小さな孔径を有する。一方、前記外周面74は、前記後側シール材70の弾性変形を伴いながら前記シール材保持部42の内側面に密着することが可能な形状を有する。
【0032】
前記後側リテーナ80は、前記後側シール材70を前記ハウジング40に固定すべく当該ハウジング40に装着される。具体的に、当該後側リテーナ80は前記後側シール材70のさらに後側の位置で前記シール材保持部42に嵌入されて固定されることが可能な形状を有する。これにより、後側リテーナ80は、前記後側シール材70を前記端子保持部41と当該後側リテーナ80との間で前後から挟み込むことにより当該後側シール材70を前記ハウジング40と協働して保持することが可能である。この後側リテーナ80も前記後側シール材70の端子挿通孔と同じく各電線Wの挿通を許容する電線挿通孔82を有する。
【0033】
この防水コネクタWCにおいて、前記後側シール材70の量産性を高めるには、当該後側シール材70に形成される前記各電線挿通孔の孔径がなるべく揃えられることが、好ましい。そこで、この実施の形態では、前記第1の電線W1が挿通される第1の電線挿通孔及び前記第2の電線W2が挿通される第2の電線挿通孔を含む全ての電線挿通孔の孔径が互いに等しい径に設定されている。
【0034】
しかし、その一方、前記第1の電線W1及び第2の電線W2は互いに異なる第1及び第2の外径をそれぞれ有するため、これらの電線W1,W2が挿通される第1及び第2の電線挿通孔の孔径の共通化について重要な課題が発生する。具体的に、当該第1及び第2の電線挿通孔の孔径が大径の第2の電線W2のシールに適した径、すなわち前記第2の電線挿通孔を囲む内周面72が第2の電線W2の外周面にほどよく密着する径に設定された場合、同じ孔径をもつ前記第1の電線挿通孔を囲む内周面と外径の小さい第1の電線W1の外周面との密着度(換言すれば後側シール材70の弾性変形度合い)が低くなり、これにより十分なシール機能を損なうおそれがある。逆に、前記第1及び第2の電線挿通孔の孔径が小径の第1の電線W1のシールに適した径、すなわち前記第1の電線挿通孔を囲む内周面72が小径の第1の電線W1の外周面に程よく密着する径に設定された場合、第2の電線W2が通常の絶縁被覆電線であると当該第2の電線W2の挿通により前記第2の電線挿通孔が過度に拡径させられてハウジング40のシール材保持部42の内側での前記後側シール材70全体の圧縮変形度合いが過度に上昇し、これにより当該シール材70やこれを外側から保持するシール材保持部42の寿命が短縮するおそれがある。また、当該第2の電線挿通孔への第2の電線W2の挿通作業も困難になる。
【0035】
この課題を克服すべく、この実施の形態に係るワイヤハーネスでは、第1及び第2の電線W1,W2のうちの大径の第2の電線W2の絶縁被覆22に
図5に示すような薄肉部24が形成されている。この薄肉部24は、局所的に肉厚の小さい部分であり、当該薄肉部24以外の部分の肉厚よりも小さい肉厚を有する。この薄肉部24が形成される領域は、
図2及び
図4に示すように前記第2の電線W2に装着された端子30が前記端子保持部41に保持される位置において当該第2の電線W2の絶縁被覆22のうち前記第2の電線挿通孔を囲む前記後側シール材70の内周面72と接触する部位を含んでいる。従って、前記絶縁被覆22のうちの薄肉部24が確実に前記内周面72と接触する。
【0036】
この実施の形態に係る薄肉部24は、
図5に示すように、前記絶縁被覆22のうち当該薄肉部24が形成されるべき部分を径方向の外側に膨出させ、この膨出により当該部分の肉厚を他の部分よりも小さくすることにより、形成されている。この絶縁被覆22の膨出は、当該絶縁被覆22の内外に圧力差を与えるという簡単な構成で達成されることが可能である。
【0037】
前記膨出は、前記薄肉部24と導体12との間に
図5に示すような間隙26を生じさせ、当該膨出分だけ薄肉部24の外径は他の部分の外径よりも大きくなるが、当該薄肉部24が前記後側シール材70の第2の電線挿通孔に圧入されることにより当該第2の電線挿通孔を囲む内周面72が前記薄肉部24を径方向の外側から押圧してこれを縮径させる。つまり、前記薄肉部24は
図4及び
図6に示すように前記導体12の外周面と密着する状態となり、これにより当該薄肉部24の外径は他の部分の外径よりも小さくなる。従って、第2の電線W2の通常部分(薄肉部24以外の部分)の外径である第2の外径が第1の電線W1の第1の外径より大きくても、両電線W1,W2の外周面と後側シール材70の内周面72との密着度合いを近づけることが可能である。なお、前記薄肉部24の縮径に伴って当該薄肉部24の余った部分が
図6に示すような膨らみ28を生じさせるが、この膨らみ28は
図4に示すように前記後側シール材70の後方に逃がすことが可能である。
【0038】
また、この実施の形態に係る薄肉部24は、その軸方向の両端部のうち少なくとも第2の電線W2の端末側の端部が当該端末から離れるに従って拡径する向きに傾斜するテーパ面24aを有している。このテーパ面24aは当該薄肉部24が前記第2の電線挿通孔に円滑に圧入されることを助ける。
【0039】
この実施の形態に係るワイヤハーネスは、前記第1及び第2の電線W1,W2を含む複数の電線W及び前記防水コネクタWCを用意する工程と、前記第2の電線W2の絶縁被覆22に前記薄肉部24を形成する工程と、前記防水コネクタWCにおける後側シール材70の各電線挿通孔に前記各電線Wを挿通し、かつ、当該各電線Wに装着された各端子30を前記ハウジング40の端子保持部41に保持させる工程と、によって容易に製造されることができる。そして、前記各電線挿通孔への前記各電線Wの挿通の際に、第2の電線W2の薄肉部24を前記後側シール材70の第2の電線挿通孔を囲む内周面72と接触させることで、各電線挿通孔の孔径の共通化にかかわらず第1及び第2の電線W1,W2とこれに対応する内周面72との密着度合いを均等化することが可能である。
【0040】
前記薄肉部24を含む前記第2の電線W2の製造は、例えば次のような工程を含む方法によって効率よく行われることが可能である。
【0041】
1)予備工程
この工程では、前記の導体12及び絶縁被覆22を含む通常の(すなわち絶縁被覆22の肉厚及び径が均一の)絶縁被覆電線素材が準備される。この絶縁被覆電線素材は、通常の被覆電線と同様、例えば押出し成形によって生産されることが可能である。前記絶縁被覆22の材質としては、後の加熱状態での成形のために、絶縁性に加えて熱可塑性を有する樹脂が用いられる。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、架橋ポリエチレン、エチレン−エチルアクリルレート共重合樹脂、サーモプラスチックポリウレタン共重合樹脂、塩化ビニルなど、が好適である。
【0042】
2)金型配置工程及び膨出部形成工程
これらの工程では、前記絶縁被覆電線素材の軸方向の少なくとも一部の箇所の周囲に、前記薄肉部24を形成するための金型が配置され、その状態で薄肉部24の形成が行われる。換言すれば、当該金型の内部に前記絶縁被覆電線素材の軸方向の少なくとも一部が配置され、当該金型の内部で前記薄肉部24の形成が行われる。この薄肉部24の形成は、当該薄肉部24の形成箇所における絶縁被覆22の内側の圧力と外側の圧力(すなわち金型内の圧力)との間に前者の圧力の方が高いような圧力差を与えることにより、行われる。このような圧力差を利用した薄肉部24の形成は、例えば、次の真空成形が好適である。
【0043】
この真空成形は、絶縁被覆22の外側空間を減圧することにより前記圧力差を形成するものであり、例えば
図7〜
図9に示すような上金型90A及び下金型90B(
図9は下金型90Bのみ図示)の使用により、実現される。
【0044】
上金型90A及び下金型90Bは、
図7〜
図9に示す絶縁被覆電線素材W′のうちの薄肉部が形成されるべき部分及びその近傍部分のみを上下から挟みこむ形状を有する。具体的に、両金型90A,90Bの軸方向両端部は、前記絶縁被覆電線素材W′の外周面に対応する断面半円状の半割内周面92をそれぞれ有し、軸方向中央部分は、形成目標となる薄肉部24の外側面形状に対応した形状の膨出内面94を有する。前記実施形態に係る薄肉部24は概ね円筒状であるので、前記膨出内面94は、前記薄肉部24の(変形前の)外径に対応した内径を有する略円筒状の内周面により構成される。
【0045】
前記各金型90A,90Bの外側面には、図略の真空ポンプに接続される部分である凹部91が形成され、この凹部91の底面と前記内側面92の複数の箇所とを連通するように複数のエア吸引孔95が各金型90A,90Bに形成されている。従って、各エア吸引孔95に前記真空ポンプが接続されることが可能である。
【0046】
真空成形の際には、前記上金型90A及び前記下金型90Bのうちその軸方向両端部に形成された内周面92がそれぞれ前記絶縁被覆電線素材W′の外周面(絶縁被覆22の外周面)に全周にわたり密着するように、両金型90A,90B同士の間に前記絶縁被覆電線素材W′が挟み込まれ、この状態で両金型90A,90B同士が図略のボルトにより締結される。換言すれば、絶縁被覆電線素材W′の周囲に前記両金型90A,90Bが配置される。
【0047】
この状態で、例えば前記金型90A,90Bに内蔵されたヒータにより前記絶縁被覆22を構成する熱可塑性樹脂が加熱される。この温度は、後述の圧力差の付与によって、当該熱可塑性樹脂が膨張して前記金型90A,90Bの膨出内面94に沿う形状に変形可能となる程度まで軟化する温度に設定されればよく、その具体的な値は当該熱可塑性樹脂の材質や厚みに応じて適宜設定されればよい。例えば、絶縁被覆22の材質が塩化ビニルで1mm程度の肉厚を有する場合には100°C〜130°C程度まで加熱すればよい。すなわち、この熱可塑性樹脂の加熱温度は、当該熱可塑性樹脂からなる絶縁被覆22が前記膨出内面94に対応する形状まで変形することを可能にする程度まで軟化するように設定さればよく、その具体的な温度は限定されない。
【0048】
このような加熱状態で、さらに、前記真空ポンプが作動して上金型90A及び下金型90Bの内部のエアを吸引することにより負圧を形成する。これにより、当該金型90A,90B内のエアの圧力(すなわち絶縁被覆22のすぐ外側のエアの圧力)Poと、絶縁被覆22の内側の圧力Piとの間にPo<Pi(=大気圧)となる圧力差(=Pi−Po)が与えられる。この圧力差により、金型90A,90B内で加熱されて軟化した絶縁被覆22が金型90A,90Bの内側面に密着する形状、すなわち、膨出内面94に沿うように径方向の外向きに膨出する形状、に変形させられる。これにより、前記薄肉部24以外の通常部分よりも大径で薄肉の薄肉部24が形成される。このようにして、当該薄肉部24をもつ第2の電線W2が製造される。
【0049】
なお、前記絶縁被覆22の弾性が低くて当該絶縁被覆22と金型内周面92との密着が難しい場合には、両者間に例えばOリングが挟み込まれてもよい。また、両金型90A,90B同士の接合面のシールのためにゴムシートが両金型90A,90Bの間に挟みこまれてもよい。あるいは、絶縁被覆電線素材W′が比較的短い場合には、当該電線素材W′全体を密封するような長尺の金型が使用されてもよい。この場合も、当該金型内を排気して減圧すると、絶縁被覆電線素材W′における導体10での流路抵抗により絶縁被覆22の内側圧力Piと外側圧力Poとの間にPo<Pi(=大気圧)となる圧力差が生ずるので、前記と同様に薄肉部24を形成することが可能である。
【0050】
このような真空成形の他、ブロー成形によっても前記圧力差を与えることが可能である。このブロー成形は、前記絶縁被覆22の内側に圧力ガス(例えばエア)を押し込んで当該内側の圧力Piを昇圧することにより、Po(=大気圧)<Piとなる圧力差を形成するものである。
【0051】
以上示した方法によれば、絶縁被覆電線素材W′の周囲に適当な形状の内面をもつ金型を配置して当該金型内で絶縁被覆22を加熱しながら当該絶縁被覆22の内側と外側との間に圧力差を与えるだけで、当該絶縁被覆22に好適な薄肉部24を形成することができる。この方法では、金型内面形状と、得られる薄肉部24の形状と、が対応しているので、当該金型の内面の形状の設定により、好ましい形状の薄肉部24を自由に形成することが、可能である。換言すれば、要求される形状の膨出部の形成は、その形状に対応した形状の金型を用いることで容易に達成することが可能である。そして、当該薄肉部24の肉厚は当該薄肉部24の膨出度合いの設定によって制御することが可能である。
【0052】
本発明において、複数の電線の配列や本数は適宜設定可能である。同様に、シール材に形成される電線挿通孔の配列や本数も適宜設定可能である。また、シール材に形成される全ての電線挿通孔の孔径が同一である必要はない。例えば、複数の電線の中に大径及び小径の電線が混在していてこれらの電線の外径の差が著しい場合には各電線にそれぞれ対応した異なる径の電線挿通孔がシール材に形成されていてもよい。この場合でも、例えばその大径の電線のうちで互いに電線径が僅かに異なる第1の電線及び第2の電線が存在していて当該第2の電線の外径が当該第1の電線の外径より大きな場合に、当該第2の電線の絶縁被覆に前記のような薄肉部を形成することにより、これら第1及び第2の電線のための電線挿通孔の孔径を同一にして前記シール材の量産性を高めることが可能である。