特許第6137042号(P6137042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6137042燃料電池のセパレータの製造方法及び熱圧着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137042
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】燃料電池のセパレータの製造方法及び熱圧着装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0202 20160101AFI20170522BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170522BHJP
【FI】
   H01M8/02 B
   !H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-92585(P2014-92585)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-210976(P2015-210976A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】両角 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 孝俊
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/010491(WO,A1)
【文献】 特開2001−076740(JP,A)
【文献】 特開2000−260441(JP,A)
【文献】 特開2006−044120(JP,A)
【文献】 特開2008−004291(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0142413(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる基材の表面に、熱硬化性樹脂よりなる結合材と前記基材の被膜よりも硬度が高く、且つ導電性を有する第1充填材とを含む第1の層を形成し、同第1の層の表面に前記第1充填材よりも硬度が低く、且つ導電性を有する第2充填材を含む第2の層を形成してワークを形成する第1工程と、
熱圧着装置の上型の加熱部の下面と下型の加熱部の上面との間においてこれら加熱部から離間された位置に前記ワークを載置する第2工程と、
前記上型の加熱部の下面と前記下型の加熱部の上面とにより前記ワークを挟圧しつつ加熱する第3工程と、を備える、
燃料電池のセパレータの製造方法。
【請求項2】
前記上型の加熱部の下面及び前記下型の加熱部の上面の少なくとも一方には、耐熱性の弾性材料よりなるシート部材が設けられている、
請求項1に記載の燃料電池のセパレータの製造方法。
【請求項3】
加熱部をそれぞれ有する上型及び下型を備え、前記上型の加熱部の下面と前記下型の加熱部の上面とによりワークを挟圧しつつ加熱することにより同ワークの表面処理を行なう熱圧着装置であって、
前記上型の加熱部の下面と前記下型の加熱部の上面との間においてこれら加熱部から離間された位置で前記ワークを支持可能な支持部材が設けられている、
熱圧着装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記下型の加熱部を挟んで複数設けられ、
前記下型には、前記支持部材を上方に向けて付勢する付勢部材が設けられている、
請求項3に記載の熱圧着装置。
【請求項5】
前記上型の加熱部の下面及び前記下型の加熱部の上面の少なくとも一方には、耐熱性の弾性材料よりなるシート部材が設けられている、
請求項3又は請求項4に記載の熱圧着装置。
【請求項6】
前記シート部材は、耐熱性のゴムシートと、前記ゴムシートに設けられて同ゴムシートの加圧面に沿った方向への同ゴムシートの伸びを規制する規制部材と、を有している、
請求項5に記載の熱圧着装置。
【請求項7】
前記上型の加熱部及び前記下型の加熱部の少なくとも一方には、前記シート部材の周縁に当接して同シート部材の加圧面に沿った方向への同シート部材の伸びを規制する規制壁が形成されている、
請求項5又は請求項6に記載の熱圧着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のセパレータの製造方法及び同セパレータの製造に適する熱圧着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステンレス鋼板などの金属板材をプレス成形することにより固体高分子型燃料電池のセパレータを製造する技術が周知である(特許文献1参照)。こうしたセパレータの基材の表面には酸化被膜が存在しており、こうした酸化被膜は基材本体に比べて電気抵抗が大きい。そのため、燃料電池の発電時に、セパレータの表面と膜電極接合体との接触部分で多量のジュール熱が発生することとなり、燃料電池の発電効率を低下させる一因となっている。
【0003】
これに対して、特許文献1では、基材の表面を酸洗することによって酸化被膜を除去し、その表面に、グラファイト粉末とカーボンブラックとの混合粉末を含む塗膜を形成するようにしている。こうしたセパレータによれば酸化被膜が除去されることによって基材の表面の電気抵抗が小さくなることから、セパレータと膜電極接合体との接触抵抗が低下するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―345618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の技術の場合、セパレータの基材の表面を酸洗する必要があるため、セパレータの製造が煩雑となる。
本発明の目的は、接触抵抗の小さい燃料電池のセパレータを効率よく容易に製造することができる燃料電池のセパレータの製造方法を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、稼動効率を高めることができる熱圧着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための燃料電池のセパレータの製造方法は、金属材料よりなる基材の表面に、熱硬化性樹脂よりなる結合材と前記基材の被膜よりも硬度が高く、且つ導電性を有する第1充填材とを含む第1の層を形成し、同第1の層の表面に前記第1充填材よりも硬度が低く、且つ導電性を有する第2充填材を含む第2の層を形成してワークを形成する第1工程と、熱圧着装置の上型の加熱部の下面と下型の加熱部の上面との間においてこれら加熱部から離間された位置に前記ワークを載置する第2工程と、前記上型の加熱部の下面と前記下型の加熱部の上面とにより前記ワークを挟圧しつつ加熱する第3工程と、を備える。
【0008】
同方法によれば、熱圧着装置の上型の加熱部の下面と下型の加熱部の上面との間においてこれら加熱部から離間された位置にワークが載置され、その状態からワークが加圧されるとともに加熱される。このため、ワークが加圧される前に、下型の加熱部の上面にワークが当接することはなく、加熱部からの受熱によってワークの温度が上昇して結合材が硬化することを抑制することができる。このように、結合材が硬化する前にワークを加圧することによって、結合材の間を第1充填材及び第2充填材が移動しやすくなる。従って、第1充填材を、基材の被膜を貫通させて母材に接触させるとともに、第1充填材と第2充填材とを互いに接触させることができる。すなわち、基材と第1充填材との界面や、第1充填材と第2充填材との界面に結合材の層が形成されることを抑制することができる。
【0009】
これらのことから、基材の表面に被膜が存在していても、基材の母材、第1充填材、及び第2充填材によって、電気抵抗の大きい被膜を経由しない導電経路が形成される。また、結合材の表面が、第1充填材に比べて硬度の低い第2充填材によって覆われるため、セパレータが接触する膜電極接合体などが傷つくことを抑制することができる。
【0010】
また、上記方法によれば、直前のワークの熱圧着工程において加熱部が加熱されていた場合であっても、ワークを載置する際に加熱部が冷却されるまで待つ必要がない。
また、上記目的を達成するための熱圧着装置は、加熱部をそれぞれ有する上型及び下型を備え、前記上型の加熱部の下面と前記下型の加熱部の上面とによりワークを挟圧しつつ加熱することにより同ワークの表面処理を行なう熱圧着装置であって、前記上型の加熱部の下面と前記下型の加熱部の上面との間においてこれら加熱部から離間された位置で前記ワークを支持可能な支持部材が設けられている。
【0011】
同構成によれば、上型の加熱部の下面と下型の加熱部の上面とから離間された位置で支持部材によってワークが支持され、その状態から上型を下降させることによりワークを加圧するとともに加熱することができる。このため、ワークが加圧される前に、下型の加熱部の上面にワークが当接することはなく、加熱部からの受熱によってワークの温度が上昇することを抑制することができる。このことにより、ワークが加圧される前に同ワークの温度上昇が進むことに起因して同ワークの熱圧着を適切に行なうことができないといった問題の発生を抑制することができる。
【0012】
また、上記構成によれば、直前のワークの熱圧着工程において加熱部が加熱されていた場合であっても、ワークを載置する際に加熱部が冷却されるまで待つ必要がない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接触抵抗の小さい燃料電池のセパレータを効率よく容易に製造することができる。また、本発明によれば、熱圧着装置の稼動効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の燃料電池を構成するセルの断面図。
図2】同実施形態の第1セパレータの斜視断面図。
図3】同実施形態の第1セパレータの断面図。
図4】同実施形態の第1セパレータの製造工程を順に示す断面図であって、(a)は基材の表面に第1の塗料が塗布された状態の断面図、(b)は第1の塗料の表面に第2の塗料が塗布された状態の断面図。
図5】同実施形態の熱圧着装置の断面構造を模式的に示す断面図であって、(a)は支持部材の支持面にワークが載置された状態を示す図、(b)は加圧中の状態を示す図。
図6】同実施形態の熱圧着装置のシート部材の断面図。
図7】比較例の第1セパレータの断面図。
図8】変形例の熱圧着装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1図7を参照して、一実施形態について説明する。
固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池と略称する。)は、膜電極接合体91と、膜電極接合体91を挟む一対のセパレータ92,93とを有するセル90を備え、セル90が積層されることによって構成されている。膜電極接合体91は、固体高分子膜よりなる電解質膜が図示しない燃料極と空気極とによって挟まれたものであり、所謂MEA(Membrane Electrode Assembly)と称される。
【0016】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ92の下面及び上面には、凹溝92a,92bが交互に形成されている。第1セパレータ92の下面には膜電極接合体91が接しており、第1セパレータ92の上面にはフラットセパレータ94が接している。第1セパレータ92の下面側、すなわち膜電極接合体91側の凹溝92aが燃料ガスの流路とされ、第1セパレータ92の上面側、すなわちフラットセパレータ94側の凹溝92bが冷却水の流路とされている。
【0017】
図1に示すように、第2セパレータ93は、フラットセパレータ94と、フラットセパレータ94と膜電極接合体91との間に介設された多孔体流路板95とによって構成されている。フラットセパレータ94及び多孔体流路板95は共にステンレス鋼板によって形成されている。
【0018】
多孔体流路板95には、多数の貫通孔96aが形成されており、これら貫通孔96aによって酸化剤ガスの流路96が構成されている。
図3に示すように、第1セパレータ92の基材51における膜電極接合体91に接する表面及びフラットセパレータ94に接する表面には、導電性を有する塗膜58が形成されている。
【0019】
この塗膜58は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂よりなる結合材53と、基材51の酸化被膜51bよりも硬度が高く、且つ導電性を有する粒状の窒化チタンよりなる第1充填材54と、粒状のグラファイトよりなる第2充填材56とが含まれている。グラファイトは窒化チタンよりも硬度が低く、且つ導電性を有する材料である。第1充填材54は塗膜58の厚さ方向において基材51側に多く分布しており、その一部は基材51の酸化被膜51bを貫通して基材本体51aに接触している。また、第2充填材56は塗膜58の厚さ方向において塗膜58の表面側に多く分布しており、その一部は第1充填材54と接触している。
【0020】
次に、第1セパレータ92の製造の手順について説明する。
第1セパレータ92の製造に際しては、まず、図示しないプレス装置によってステンレス鋼板をプレス成形することにより図2に示す所定の凹凸形状を有する基材51が形成される。
【0021】
次に、図4(a)に示すように、基材51の表面に対して、上記結合材53と第1充填材54とを含む第1の塗料が塗布されて第1の層52が形成される。
次に、図4(b)に示すように、第1の層52の表面に上記第2充填材56よりなる第2の塗料が塗布されて第2の層55が形成されることによりワーク50が形成される。なお、第1の層52及び第2の層55を形成する工程が第1工程に相当する。
【0022】
ここで、第1の層52及び第2の層55を基材51の表面に熱圧着するための熱圧着装置10の構成について説明する。
図5(a),(b)に示すように、熱圧着装置10は、下型20と、下型20に固設され、上方に向けて延びる案内柱12と、下型20の上方に位置し、案内柱12により案内されることで上下降可能に設けられた上型30とを備えている。下型20は金属材料よりなり、中央部が上方に突出された加熱部21を有しており、加熱部21には電熱線22が内蔵されている。上型30は金属材料よりなり、中央部が下方に突出された加熱部31を有しており、加熱部31には電熱線32が内蔵されている。
【0023】
下型20の加熱部21の上部及び上型30の加熱部31の上部には、弾性材料よりなるシート部材40が接着されている。
図6に示すように、シート部材40は、フッ素ゴムなどの耐熱性のゴム材料よりなる一対のゴムシート41と、一対のゴムシート41の間に接着されたガラス繊維よりなる補強クロス42と、を有している。
【0024】
図5(a),(b)に示すように、下型20には、下型20のシート部材40の上面と上型30のシート部材40の下面との間においてこれらシート部材40から離間された位置でワーク50を支持可能な複数の支持部材27がシート部材40を挟んで複数設けられている。支持部材27の下端は、下型20の収容孔25内に、ばね28を介して収容されている。このため、支持部材27は、ばね28によって上方に向けて付勢されている。図5(a)に示すように、支持部材27の支持面27aは、下型20のシート部材40及び上型30のシート部材40がワーク50から離間している状態において、下型20のシート部材40の上面と、上型30のシート部材40の下面との間に位置している。
【0025】
次に、ワーク50の表面に第1の層52及び第2の層55を熱圧着して塗膜58を形成する手順について説明する。
図5(a)に示すように、熱圧着に際しては、まず、熱圧着装置10における支持部材27の支持面27a上にワーク50が載置される(第2工程)。なお、シート部材40とワーク50との間に、必要に応じて離型紙を配置してもよい。
【0026】
次に、上型30を下降させていくと、上型30のシート部材40の下面がワーク50の上面に当接される。その後、ばね28の付勢力に抗して上型30を更に下降させていくと、ワーク50の周縁及び支持部材27を介してばね28が圧縮されることで支持部材27の下降が許容され、図5(b)に示すように、ワーク50の下面が下型20のシート部材40の上面に当接される。このようにして上型30のシート部材40と下型20のシート部材40とによってワーク50が挟圧される。
【0027】
その後、ワーク50が加圧された状態のままで電熱線22,32に電流を供給することにより、ワーク50が所定の温度まで加熱される(第3工程)。この所定の温度は、熱硬化性樹脂である結合材53が硬化する温度であり、百数十℃〜二百数十℃程度である。
【0028】
その後、電熱線22,32への電流の供給を停止し、上型30を上昇させていくと、ばね28の付勢力によって支持部材27と共にワーク50が図5(a)に示す位置まで上昇され、下型20の加熱部21のシート部材40の上面からワーク50が離間する。
【0029】
次に、本実施形態の作用について説明する。
上型30のシート部材40の下面と下型20のシート部材40の上面との間においてこれらシート部材40から離間された位置にワーク50が載置され、その状態からワーク50が加圧されるとともに加熱される。このため、ワーク50が加圧される前に、下型20のシート部材40の上面にワーク50が当接することはなく、シート部材40からの受熱によってワーク50の温度が上昇して結合材53が硬化することを抑制することができる。このように、結合材53が硬化する前にワーク50を加圧することによって、結合材53の間を第1充填材54及び第2充填材56が移動しやすくなる。従って、第1充填材54を、基材51の酸化被膜51bを貫通させて基材本体51aに接触させるとともに、第1充填材54と第2充填材56とを互いに接触させることができる。すなわち、基材51と第1充填材54との界面や、第1充填材54と第2充填材56との界面に結合材53の層が形成されることを抑制することができる。
【0030】
これに対して、支持部材27を備えていない熱圧着装置を用いて熱圧着を行なった場合には、下型20のシート部材40の上面にワーク50が載置されることとなる。そのため、シート部材40からの受熱によってワーク50の温度が上昇し、ワーク50が加圧される前に結合材53が硬化することとなる。その結果、結合材53の間を第1充填材54及び第2充填材56が移動することはほとんどなく、図7に示すように、基材51と第1充填材54との界面や、第1充填材54と第2充填材56との界面に結合材53の層が形成されることとなる。また、冷却された状態の加熱部31,21によってワーク50を挟圧し、その状態から加熱部31,21を加熱することが考えられるが、この場合には、直前のワーク50の熱圧着工程において加熱部31,21が加熱されていた場合には、加熱部31,21が冷却されるまで待たなければならず、熱圧着装置10の稼動効率を高めることが困難となる。
【0031】
これらのことから、本実施形態によれば、基材51の表面に酸化被膜51bが存在していても、基材51の基材本体51a、第1充填材54、及び第2充填材56によって、電気抵抗の大きい酸化被膜51bを経由しない導電経路が形成される。また、結合材53の表面が、柔らかい第2充填材56によって覆われるため、第1セパレータ92が接触する膜電極接合体91などが傷つくことを抑制することができる。
【0032】
また、直前のワーク50の熱圧着工程において加熱部31,21が加熱されていた場合であっても、ワーク50を載置する際に加熱部31,21が冷却されるまで待つ必要がない。よって、熱圧着装置10の稼動効率を高めることができ、接触抵抗の小さい第1セパレータ92を効率よく製造することができる。
【0033】
以上説明した本実施形態に係る燃料電池のセパレータの製造方法及び熱圧着装置によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)第1セパレータ92の製造方法は、基材51の表面に、熱硬化性樹脂よりなる結合材53と第1充填材54とを含む第1の塗料を塗布して第1の層52を形成し、第1の層52の表面に第1充填材54よりも硬度が低い第2充填材56を含む第2の塗料を塗布して第2の層55を形成することによりワーク50を形成する第1工程を備える。また、上記製造方法は、熱圧着装置10の上型30の加熱部31に設けられたシート部材40の下面と下型20の加熱部21に設けられたシート部材40の上面との間においてこれらシート部材40から離間された位置にワーク50を載置する第2工程を備える。また、上記製造方法は、上型30のシート部材40の下面と下型20のシート部材40の上面とによりワーク50を挟圧しつつ加熱する第3工程と、を備える。
【0034】
上記方法によれば、ワーク50が加圧される前に、下型20のシート部材40の上面にワーク50が当接することはなく、シート部材40からの受熱によってワーク50の温度が上昇することを抑制することができる。このため、第1充填材54を、基材51の酸化被膜51bを貫通させて基材本体51aに接触させるとともに、第1充填材54と第2充填材56とを互いに接触させることができる。従って、基材51の表面に酸化被膜51bが存在していても、基材51の基材本体51a、第1充填材54、及び第2充填材56によって、電気抵抗の大きい酸化被膜51bを経由しない導電経路が形成される。また、結合材53の表面が、第1充填材54よりも硬度が低い第2充填材56によって覆われるため、第1セパレータ92が接触する膜電極接合体91などが傷つくことを適切に抑制することができる。
【0035】
また、上記方法によれば、直前のワーク50の熱圧着工程において加熱部31,21が加熱されていた場合であっても、ワーク50を載置する際に加熱部31,21が冷却されるまで待つ必要がない。よって、接触抵抗の小さい第1セパレータ92を効率よく容易に製造することができる。
【0036】
(2)熱圧着装置10は、加熱部31,21をそれぞれ有する上型30及び下型20を備え、上型30の加熱部31の下面と下型20の加熱部21の上面とによりワーク50を挟圧しつつ加熱することによりワーク50の表面処理を行なう。上型30の加熱部31に設けられたシート部材40の下面と下型20の加熱部21に設けられたシート部材40の上面との間においてこれらシート部材40から離間された位置でワーク50を支持可能な支持部材27が設けられている。
【0037】
こうした構成によれば、直前のワーク50の熱圧着工程において加熱部31,21が加熱されていた場合であっても、ワーク50を載置する際に加熱部31,21が冷却されるまで待つ必要がないため、熱圧着装置10の稼動効率を高めることができる。
【0038】
(3)支持部材27は、下型20のシート部材40を挟んで複数設けられている。下型20には、支持部材27を上方に向けて付勢するばね28が設けられている。
こうした構成によれば、下型20のシート部材40の上面からワーク50が離間されている位置と、同シート部材40の上面にワーク50が当接されている位置との間において、支持部材27を変位させることがばね28によって容易にできる。
【0039】
(4)下型20の加熱部21の上面及び上型30の加熱部31の下面の双方には、耐熱性のゴム材料よりなるシート部材40が設けられている。
各加熱部の加圧面が金属板などの剛体によって形成されている場合には、各加熱部の加圧面によってワーク50が挟圧されると、ワーク50が塑性変形するおそれがある。
【0040】
この点、本実施形態によれば、各加熱部31,21に設けられたシート部材40によってワーク50が挟圧されても、ワーク50の塑性変形を抑制することができる。従って、ワーク50の形状を保持することができる。
【0041】
(5)シート部材40は、耐熱性の一対のゴムシート41と、ゴムシート41に設けられてゴムシート41の加圧面である上面或いは下面に沿った方向へのゴムシート41の伸びを規制する補強クロス42と、を有している。
【0042】
こうした構成によれば、ゴムシート41の下面或いは上面に沿った方向へのゴムシート41の伸びが補強クロス42によって規制されるため、各シート部材40によってワーク50が挟圧された際に、前記方向へゴムシート41が伸びることに伴ってワーク50が塑性変形することを適切に抑制することができる。
【0043】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・上記実施形態では、熱圧着装置10の上型30を上昇させてワーク50を取り出すに先立ち、電熱線22,32への電流の供給を停止するようにした。これに代えて、電熱線22,32への電流の供給を停止しないようにすることもできる。また、上記実施形態では、上型30のシート部材40と下型20のシート部材40とによってワーク50を加圧した状態で、電熱線22,32に電流を供給してワーク50を加熱するようにした。これに代えて、電熱線22,32に電流が供給されている状態で、ワーク50を加圧するようにしてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、ワーク50の基材51の表面に第1の塗料を塗布して第1の層52を形成し、第1の層52の表面に第2の塗料を塗布して第2の層55を形成した。これに代えて、熱転写などによって第1の層及び第2の層を形成することもできる。
【0045】
・グラファイトに代えてカーボンブラックなどの他の導電性材料を第2充填材として用いることもできる。
・窒化チタンに代えて炭化チタンなどの他の導電性材料を第1充填材として用いることもできる。
【0046】
図8に示すように、熱圧着装置110における下型120の加熱部121の上面に凹部123を形成し、凹部123内に耐熱性のゴム材料よりなるシート部材140を嵌め込むようにしてもよい。また、上型130の加熱部131の下面に凹部133を形成し、凹部133内にシート部材140を嵌め込むようにしてもよい。
【0047】
この場合、シート部材140の周縁が凹部123,133の内周壁である規制壁124,134に当接することによってシート部材140の加圧面に沿った方向への伸びが規制されるため、上記実施形態の効果(5)に準じた効果を奏することができる。また、上記実施形態のシート部材40を下型120及び上型130の凹部123,133内に嵌め込むようにしてもよい。
【0048】
・シート部材40の加圧面に沿った方向へのゴムシート41の伸びに起因したワーク50の塑性変形が無視できるのであれば、補強クロス42を省略することもできる。
・ゴムシート41をシリコンゴムなどの他の耐熱性のゴム材料によって形成することもできる。
【0049】
・下型20の加熱部21及び上型30の加熱部31のいずれか一方にシート部材40を設けることもできる。
・ワーク50に塑性変形が生じないのであれば、シート部材40を省略することもできる。
【符号の説明】
【0050】
10,110…熱圧着装置、12,112…案内柱、20,120…下型、21,121…加熱部、22,122…電熱線、25,125…収容孔、27,127…支持部材、27a,127a…支持面、28,128…ばね(付勢部材)、30,130…上型、31,131…加熱部、32,132…電熱線、40,140…シート部材、41…ゴムシート、42…補強クロス(規制部材)、50,150…ワーク、51…基材、51a…基材本体、51b…酸化被膜、52…第1の層、53…結合材、54…第1充填材、55…第2の層、56…第2充填材、58…塗膜、90…セル、91…膜電極接合体、92…第1セパレータ(セパレータ)、92a,92b…凹溝、93…第2セパレータ、94…フラットセパレータ、95…多孔体流路板、96…酸化剤ガスの流路、96a…貫通孔、123,133…凹部、124,134…規制壁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8