(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材及び当該印面材を着脱可能に保持する保持体を有する印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体と、当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路と、が設けられ、当該印面材に印面を形成する印面形成部と、
前記駆動回路に印加する通電信号を補正して、前記印面を形成するための画像データのうちの、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記印面形成部の前記駆動回路を制御する制御部と、
を有し、
前記通電信号の補正は、前記画像データのラインごとのドットデータと、当該ドットデータを主走査方向又は副走査方向にプラス1又はマイナス1ずらしたドットデータと、の論理積をとったドットデータに基づくものであることを特徴とする印面形成装置。
前記制御部は、前記画像データのラインごとのドットデータ、その前後のいずれかのラインごとのドットデータまたはそれらの組み合わせに基づいた加熱ドットの比率である黒字率が所定値以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の印面形成装置。
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材及び当該印面材を着脱可能に保持する保持体を有する印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体と、当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路と、が設けられ、当該印面材に印面を形成する印面形成部と、
前記駆動回路に印加する通電信号を補正して、前記印面を形成するための画像データのうちの、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記印面形成部の前記駆動回路を制御する制御部と、
を有し、
前記印面形成部は、前記印面形成部周辺の温度を検知する温度センサを有し、
前記制御部は、前記温度センサの検知温度が所定温度以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする印面形成装置。
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材及び当該印面材を着脱可能に保持する保持体を有する印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体と、当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路と、が設けられ、当該印面材に印面を形成する印面形成部と、
前記駆動回路に印加する通電信号を補正して、前記印面を形成するための画像データのうちの、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記印面形成部の前記駆動回路を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、非加熱ドットのうちの、主走査方向と副走査方向とのうちの少なくともいずれかの方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定する特定部を有し、
前記制御部は、前記通電信号を補正して、前記画像データのうちの、前記特定部が特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定部が特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする印面形成装置。
前記特定部は、非加熱ドットのうちの、前記主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであり、且つ、前記副走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定し、
前記制御部は、前記通電信号を補正して、前記画像データのうちの、前記特定部が特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定部が特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする請求項4に記載の印面形成装置。
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、当該印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、当該印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により当該印面材に当該印面を形成する際に、当該駆動回路に印加する通電信号を補正して、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、当該印面形成部の当該駆動回路を制御する印面形成工程、を有し、
前記通電信号の補正は、前記印面を形成する際のラインごとのドットデータと、当該ドットデータを主走査方向又は副走査方向にプラス1又はマイナス1ずらしたドットデータと、の論理積をとったドットデータに基づくものであることを特徴とする印面形成方法。
前記印面を形成する際のラインごとのドットデータ、その前後のいずれかのラインごとのドットデータまたはそれらの組み合わせに基づいた加熱ドットの比率である黒字率が所定値以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする請求項6に記載の印面形成方法。
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、当該印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、当該印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により当該印面材に当該印面を形成する際に、当該駆動回路に印加する通電信号を補正して、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、当該印面形成部の当該駆動回路を制御する印面形成工程、を有し、
前記印面形成部に設けられた前記印面形成部周辺の温度を検知する温度センサの検知温度が所定温度以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする印面形成方法。
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、当該印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、当該印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により当該印面材に当該印面を形成する際に、当該駆動回路に印加する通電信号を補正して、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、当該印面形成部の当該駆動回路を制御する印面形成工程、を有し、
前記印面形成工程は、非加熱ドットのうちの、主走査方向と副走査方向とのうちの少なくともいずれかの方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定する特定工程を有し、
前記印面形成工程では、前記印面材に前記印面を形成する際に、前記通電信号を補正して、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする印面形成方法。
前記特定工程では、非加熱ドットのうちの、前記主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであり、且つ、前記副走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定し、
前記印面形成工程では、前記印面材に前記印面を形成する際に、前記通電信号を補正して、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする請求項9に記載の印面形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《概念・用語の定義》
以下、本発明の実施形態を説明するにあたって、重要な概念・用語の定義を与える。
印面形成装置は、印面材に対して所望のパターンを形成して印面を形成する装置である。本発明にあっては、いわゆるサーマルプリンタを用いることができる。サーマルプリンタは、サーマルヘッドを有し、複数の発熱体及びそれらを駆動する駆動回路(ドライバ)により、個々の発熱体を選択的に加熱することができる。
印面材は、液状のインクを含浸可能な多孔質のスポンジ体からなり加熱により非多孔質化する熱可塑性の部材である。例えば、多孔質エチレン酢酸ビニル・コポリマー(EVA:Ethylene Vinyl Acetate copolymer)を用いることができる。
印面材ホルダは、印面材に対して所望のパターンを形成すべく印面形成装置に通すために用いる治具である。例えば、印面材を印面材ホルダに保持した状態のものが印面形成装置のユーザに供給される。本明細書にあっては、便宜上、印面材ホルダは、印面材と、それを保持する保持体と、を有するものとする。
保持体は、例えば、コートボールからなる厚板紙により構成される。印面形成後、印面材ホルダから印面材を取り出した後は、廃棄される部材である。
【0013】
印面形成部は、サーマルヘッドにより選択的に熱を加えることにより、印面材の表面の所望の箇所を非多孔質化させて、その部分のインクの通過を禁止する処理を施す機構部分である。
印刷は、インクを用いる印刷ではなくて、画像データに応じて、サーマルヘッドの発熱体が選択的に加熱されることにより、印面材の表面を所定の大きさ、すなわちサーマルヘッドの発熱体の大きさに該当するドットごとに、非多孔質化するかしないかの処理をすることを意味する。
通電信号は、サーマルヘッドの駆動回路に与える信号であり、サーマルヘッドを発熱させる電力を印加する信号である。
非加熱ドットは、サーマルヘッドの複数の発熱体のうちの、加熱しないドットをいう。印面形成される印面の画像からみると、インクの通過を許容する部分に該当する。
加熱ドットは、サーマルヘッドの複数の発熱体のうちの、加熱するドットをいう。印面形成される印面の画像から見ると、インクの通過を禁止する部分に該当する。
孤立ドットは、主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであって、且つ、副走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットである非加熱ドット、すなわち加熱ドットに四方を囲まれた1ドットの非加熱ドットをいう。
マルチパルス方式は、サーマルヘッドの一つの発熱体に印加する通電信号を複数のパルス列で構成する方式をいう。
印刷データは、印面を形成しようとするユーザが所望する印面を印面材の上に形成するためのデータである。サーマルヘッドによる印刷が、インクの通過を禁止する処理であることに留意すると、印刷データは、ユーザが作った印面により押印する印影から見ると、白黒反転及び左右反転した画像データである。
ドットデータは、サーマルヘッドの発熱体の単位ごとに、0か1かの値をとるデータである。
ラインごとのドットデータとは、サーマルヘッドの発熱体の配列された方向に対応してそれらの複数の発熱体に与えるべき、0か1かの情報を並べたものをいう。
論理積は、ここでは、二つのドットデータの積をとることにより、二つとも熱を加えることを意味するデータの場合にのみ熱を加えることとし、いずれか一方(または双方)が熱を加えないことを意味するデータの場合には熱を加えないこととする演算をすることを意味する。
搬送部は、印面材ホルダを搬送する機構部分であり、例えばプラテンローラとそれを動かすステッピングモータとにより構成することができる。
制御部とは、印面形成装置の制御部(CPU:Central Processing Unit)をいう。印面形成装置の制御部は、有線通信(USB(登録商標):Universal Serial Bus)又は無線通信(Wi−Fi(登録商標)(Wireless Fidelity)、Bluetooth(登録商標)、WLAN(登録商標)(Wireless Local Area Network)など)により、パソコン(PC:Personal Computer)、スマートフォン、タブレットコンピュータなどと接続されて、連携して機能することができる。
印面材保持は、印面材が印面材ホルダに保持された状態でユーザに供給される場合には、印面材ホルダを製造する工場においてなされる。
印面形成工程は、印面形成装置のユーザが印面材ホルダを用いて印面形成を実行する際になされる工程である。
【0014】
《本発明の核心について》
本発明の課題は、上述したように印面材を印面材ホルダに保持した状態で印面形成をする印面形成装置、印面形成方法及びプログラムを提供することである。そして、とりわけその場合に、印刷潰れの抑制のため、加熱量をどのように制御するかについてのものである。
以下、本発明に係る印面形成装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
《
図1、
図2、
図3、
図4を参照しつつ、印面形成装置(サーマルプリンタ)の機械構成について説明する》
図1は、本発明の実施形態1に係る印面形成装置を印面材ホルダとともに示す概略斜視図である。ここで、
図1(a)は、実施形態1に係る印面形成装置の外観斜視図であり、
図1(b)は、そのX−Z面(搬送方向を含む鉛直面)における断面構造を示す斜視断面図である。
図2は、実施形態1に係る印面形成装置の印面材ホルダの排出口周辺の構造を示す概略図である。ここで、
図2(a)は、
図1(b)に示したIIA部(本明細書においては、
図1(b)中に示したローマ数字の「2」に対応する記号として便宜的に「II」を用い、ローマ数字の「5」に対応する記号として便宜的に「V」を用いる。以下、同様。)における断面構造を示す要部断面図である。
図2(b)は、排出口を含む印面形成装置の外観を示す正面図である。
図3は、実施形態1に係る印面形成装置に適用される印面形成部の要部を示す斜視図である。
図4は、実施形態1に係る印面形成装置に適用される印面形成部の要部構成の平面図及び断面図である。
図4(a)は、印面形成部の平面図であり、
図4(b)は、そのX−Z面(搬送方向を含む鉛直面)における断面構造を示す概略断面図である。
【0016】
実施形態1に係る印面形成装置(以下、「プリンタ」と称す)1は、いわゆるサーマルプリンタであって、例えば
図1(a)、(b)に示すように、挿入口10cから挿入された印面材ホルダ20(詳しくは、
図6を参照しつつ後述するが、印面材21と、印面材21を保持する保持体22と、印面材21を保護するフイルム24と、を有する。)を排出口10dに向けて搬送する。そして、プリンタ1は、搬送中の印面材ホルダ20上の印面材21にフイルム24の上からサーマルヘッド4を所定の荷重で押し付け、サーマルヘッド4が有する複数の発熱体を選択的に加熱することにより、所望のパターン(文字、記号、図形など)を表す印面(印章やスタンプを押した時に、文字、記号、図形などからなる印影を形成する部分)を、印面材ホルダ20上の印面材21に形成する。
【0017】
図1(a)、(b)に示すように、互いに直交するX、Y、Z方向を設定する。図面中に記載された方向を示すX、Y、Zの符号について、矢視方向を「+」を付して示し、矢視方向に対する逆方向を「−」を付して示し、両方向を示す場合には、符号(「+」または「−」)を付さない。X方向は、印面を形成する対象物である印面材21を含む印面材ホルダ20を搬送する方向と同じ方向であり、前後方向とも呼ぶ。Y方向は、プリンタ1の幅方向と同じ方向であり、左右方向とも呼ぶ。Z方向は、印面材ホルダ20にサーマルヘッド4を押し付ける方向と同じ方向であり、上下方向とも呼ぶ。
【0018】
図1(a)、(b)に示すように、プリンタ1は、下ケース10aと上ケース10bとから構成されるケース10を備えており、下ケース10aの前後面に印面材ホルダ20を通すための挿入口10cと排出口10dとが形成されている。上ケース10bの上面には入力操作部6が設けられている。入力操作部6は、操作者による操作が行われると、操作内容に応じた信号を出力する。
【0019】
下ケース10aの排出口10dには、例えば
図2(a)、(b)に示すように、排出口10dを構成する下側の内面10eに、排出口10d内に所定の高さで突出するように形成された複数のリブ(支持部)10fが、排出口10dの開口方向(Y方向)に沿って、所定の間隔で配置されている。ここで、複数のリブ10fは、排出口10dから排出される印面材ホルダ20の搬送路上に配置されている。すなわち、複数のリブ10fは、挿入口10cから挿入された印面材ホルダ20がプリンタ1内部を搬送されて、少なくとも、サーマルヘッド4の印面材ホルダ20への押し付け状態が特定の状態に変化した時点で、印面材ホルダ20の一端側(+X方向側)近傍の裏面側(サーマルヘッド4が押し付けられる印面の形成側とは反対側の面、すなわち
図2の下側)に接触して支持するように設けられている。このとき、複数のリブ10fは、印面材ホルダ20が湾曲(変形)しない程度に印面材ホルダ20の裏面に接触するように設けられ、より好ましくは、印面材ホルダ20の搬送(送り量)に影響が及ばない程度に、例えば摩擦が少ない状態で軽く接触する程度に印面材ホルダ20を支持するように設けられている。
【0020】
プリンタ1のケース10に組み込まれる印面形成部は、例えば
図3、
図4に示すように、大別してサーマルヘッド(印面形成部)4と、ステッピングモータ9と、ガイド14と、プラテンローラ(搬送ローラ)12と、を備えている。サーマルヘッド4、ガイド14、プラテンローラ12の両脇には、Y方向に対向する一対の板状のサイドフレーム13が設けられている。
【0021】
プラテンローラ12は、
図4(a)、(b)に示すように、印面材ホルダ20をX方向に搬送するものであり、両サイドフレーム13、13間に渡されて設けられており、両端が各サイドフレーム13を貫通している。プラテンローラ12の両端部は、サイドフレーム13に対して回転自在になるように、サイドフレーム13に支持されている。なお、プラテンローラ12の回転軸の+Y軸の端部には、例えばローラ歯車(図示を省略)が一体的に取り付けられ、ステッピングモータ9の駆動軸に取り付けられた駆動歯車(図示を省略)の回転に伴う駆動力が、複数の電動歯車を介して伝達されることにより、プラテンローラ12が所定の回転速度で回転する。
【0022】
ガイド14には、印面材ホルダ20(印面材21)をプラテンローラ12に導くための傾斜面14aが形成されている。傾斜面14aは、
図4(b)に示すY方向視(+Y方向から見た場合の断面)において、傾斜面14aの延長線EL(図中、一点鎖線にて表記する。搬送経路に相当する。)がプラテンローラ12の外周面に接するように配置されている。ここで、
図4(b)に示すように、排出口10dの内面10eに設けられたリブ10fは、その上面が傾斜面14aの延長線ELに接するように、突出高さや形状、配置が設定されている。
【0023】
なお、
図4(b)に示すように、傾斜面14aの凹部14bには、センサ3が設けられている。センサ3は、印面材ホルダ20と接触しないように印面材ホルダ20の軌道よりも若干−Z側に配置されている。また、
図4(a)に示すZ方向視(+Z側から見た場合の平面図)において、センサ3は、印面材ホルダ20の切欠22aがセンサ3上を通過するように左側のサイドフレーム13よりも若干+Y側であってプラテンローラ12よりも若干−X側に配置されている。
図4(a)に破線で示す検知走査線SLはセンサ3の光軸Lと交叉しX方向に延びる線である。センサ3は、反射型光学センサであり、+Z方向に光を出射する発光素子と、センサ対象物(ここでは、印面材ホルダ20)に当たって−Z方向に反射した光を受光する受光素子と、を有する。センサ3は、受光素子において受光した光の光量に応じた信号を出力する。この信号に基づいて、印面材ホルダ20に嵌め込まれた印面材21の種類(サイズ)が特定される。
【0024】
サーマルヘッド4は、
図2(a)、
図4(b)に示すようにプラテンローラ12に対向するように設けられる。サーマルヘッド4は、X方向に搬送される印面材ホルダ20上の印面材21をフイルム24を介して押圧する。サーマルヘッド4における印面材21を押圧する押圧部4aは、Y方向に沿った直線帯状に設けられている。ここで、押圧部4aの長さ(Y方向の長さ)は、印面材21の幅(Y方向に沿った長さ)よりも長くなるように設けられている。これにより、印面材21の幅方向に沿って延びる直線帯状の部分が一様に、押圧部4aによって押圧されて変形する。そして押圧部4aには、印面の形成(製版)時に選択的に加熱される複数の発熱体(図示を省略)が、押圧部4aの延在方向(Y方向)に沿って配列されている。また、サーマルヘッド4には、押圧部4aに配列される複数の発熱体の各々の発熱状態を制御するための駆動回路を備えたIC(Integrated Circuit)チップ(ドライバIC)4bが設けられている。ドライバIC4bは、複数の発熱体が設けられた押圧部4aに対して、例えば印面材ホルダ20の搬送方向とは逆方向(−X方向)の位置に配置されている。このような構成により、印面材21の直線帯状の部分(押圧部4aによって押圧され変形する部分)では、加熱され発熱する発熱体に対応した箇所が加熱されることになる。
【0025】
ここで、一般的なサーマルヘッド4は、プリント基板(PCB:Printed Circuit Board)の一面側に、複数の発熱体が設けられた押圧部4aと、各発熱体の発熱状態を制御するためのドライバIC4bと、が近接して配置されている。これは、プリント基板のサイズを小さくするとともに、コストアップを抑制するための構成であり、汎用品はほとんどこの形態を採用している。
【0026】
なお、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔(
図2(a)中に、「H」と表記する)は、後述する印面材ホルダ20の構成に応じて、予め設定された一定値に設定されているものであってもよいし、サーマルヘッド4、又は、プラテンローラ12をZ方向に移動させて、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hを調整するための機構(
図2(a)中に、「32」と表記する。)を備えているものであってもよい。このようなサーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32を用いることにより、サーマルヘッド4の印面材21への押圧力を変化させることができる。特に、印面材21のサイズ(特に、幅方向の寸法)が異なる印面材ホルダ20に印面を形成(製版)する場合においては、印面材21のサイズによってサーマルヘッド4の押圧部4aの押し付け状態が変化することがあるため、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32は、適切な印面形成を行うために極めて有益である。このような間隔Hの調整機構32は、例えば、センサ3により印面材ホルダ20の切欠22aを走査することにより、制御部2により特定された印面材ホルダ20の印面材21のサイズに基づいて、間隔Hが調整制御される。ここで、間隔Hが小さく設定されるほど、サーマルヘッド4の印面材21への押圧力は大きくなる。
【0027】
《制御部(CPU)によって制御されて機能する機能構成について》
次に、実施形態1に係るプリンタ1の機能構成、すなわち制御部(CPU)によって制御されて機能する機能構成について説明する。
図5は、実施形態1に係る印面形成装置(プリンタ1)のシステム構成のブロック図である。
図5に示すように、プリンタ1は、中央制御回路2を備え、中央制御回路2には、センサ3、サーマルヘッド4、電源回路5、モータードライバ8、表示画面制御回路47、メモリ制御回路48、UI(ユーザインターフェイス)制御回路49、USB制御回路40、Bluetooth(登録商標)モジュール・無線LANモジュール41を有している。
また、モータードライバ8にはステッピングモータ9が接続され、表示画面制御回路47には表示デバイス43が接続され、USB制御回路40には、PC(パーソナルコンピュータ)44が接続されている。
なお、センサ3は、本例の場合、反射型光学センサで構成されており、印面材ホルダ20に設けられた切欠22aの検出を行う。中央制御回路2は、センサ3からの信号を検出することで、印刷開始位置やメディアサイズなどの検出・通電制御を行う。
また、表示デバイス43、表示画面制御回路47、UI制御回路49、USB通信制御回路(USB通信制御回路)40、又はBluetooth(登録商標)モジュール・無線LANモジュール41等は、必ずしも全てが必要な訳ではない。
【0028】
図5において、中央制御回路(制御部)2は、システム全体の制御を行っている。なお、この図では各回路のほとんどは中央制御回路2とのみ接続されているが、バスを通じて各回路同士がデータ通信を行うことももちろん可能である。中央制御回路2は、CPU(Central Processing Unit)を含む回路であり、当該CPUが必要に応じてコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、さまざまな機能(例えば、搬送量検出、寸法設定、寸法判定、位置検出、加熱制御、押圧力制御など)を実現する。
メモリ制御回路48は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のデバイスを含み、それらの制御を行っている。表示デバイス43は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置を指し、表示画像制御回路47では、表示デバイス43へのデータ転送等やバックライトの点灯及び消灯等の制御をしている。
また、さまざまな機能を実現するために必要なコンピュータプログラムは、ROM等に格納されており、必要に応じてRAMに書き込まれて参照され、利用される。この印面形成装置は、パソコン(又はスマートフォン)側にドライバソフトおよびアプリケーションプログラムをインストールし、USB接続などにより連携して動作するものである。したがって、印面形成装置内のコンピュータプログラムと、パソコンなどの外部機器にインストールされたコンピュータプログラムと、が連携してさまざまな機能を実現する。
【0029】
例えば、PC44と接続または無線接続が必須の構成を有する機種の印面形成装置(プリンタ)の場合は、ユーザは、PC44又は不図示の携帯電話端末等のGUI(Graphical User Interface)上で操作を実施するため、ハードウェア側において表示画面制御回路47と表示デバイス43とは必須ではない。
UI(ユーザインターフェイス)制御回路49は、キーボードやマウス、リモコンやボタン、タッチパネル等の入力デバイスからユーザがパソコンなどを介して、又は本印面形成装置(プリンタ)に設けた入力装置を介して入力した情報をもとに、メニュー画面表示等の制御を行う。電源回路5は、電源IC(Integrated Circuit)等からなり、各回路に必要な電源を作り出して供給する。
【0030】
サーマルヘッド4は、中央制御回路2から出力されたデータと印刷信号とを受け取り、ヘッド内部のドライバICにて通電ドットの制御を行い、ヘッドに接している多孔質エチレン酢酸ビニル・コポリマー(以下、EVA)などの印面材に対して印刷(印面形成、以下同様)を行う。本印面形成装置における「印刷」は、インクを用いる印刷ではなくて、画像データに応じて、サーマルヘッド4の発熱体が選択的に加熱されることにより、印面材21の表面をドットごとに、非多孔質化するかしないかの処理をすることを意味する。
なお、本システムの構成例では、中央制御回路2から他の回路が受け取るのはデータと信号のみであり、印刷に必要な電力は電源回路5から得ている。因みに、本例の装置では、サーマルヘッド4は、200dpi、すなわち200ドット/25.4mmの解像度(1ドット当たり0.125mmの解像度)で48mmの有効印刷幅を有している。
モータードライバ8は、ステッピングモータ9を駆動する駆動回路であり、中央制御回路2から出力される信号を受け取り、駆動用のパルス信号及び電力をステッピングモータ9に供給する。なお、中央制御回路2から受け取るのは励磁信号のみで、実際の駆動電力は電源回路5から得ている。
【0031】
制御部(中央制御回路)2は、モータードライバ8に出力した信号のパルス数を数えることによりステッピングモータ9をどれだけ回転させたか、つまりプラテンローラ12により印面材ホルダを何mm搬送したかを正確に把握することが出来る。
本実施形態におけるプリンタ1は、1−2相励磁駆動を採用しており、ギア比は1ライン(0.125mm)当たり16ステップとなるように構成されている。すなわち、1ステップで、0.0078mmの搬送を行う。
なお、制御部2におけるプラテンローラ12による搬送距離の算出を、パルス数に基づいて行わずに他の方法を用いても良い。例えば、プラテンローラ12の回転数をロータリーエンコーダにより検出し、検出された回転数に基づいてプラテンローラ12による搬送距離を算出しても良い。
【0032】
《印面材ホルダの構成について》
次に、プリンタ1により印面を形成(製版)する印面材ホルダ20について、
図6及び
図7を参照しつつ説明する。
図6は、実施形態1に係るプリンタにより印面が形成される印面材ホルダの一例を示す概略図である。
図6(a)は、印面材ホルダ20の印面形成側(印面材21を保持する側)を示す平面図である。
図6(b)は、
図6(a)に示したVIB−VIB線(本明細書においては
図6(a)中に示したローマ数字の「6」に対応する記号として便宜的に「VI」を用いる。)に沿った断面構造を示す概略断面図である。
図6(c)は、
図6(b)に示したVIC部における断面構造を示す要部断面図である。
図7は、印面を形成した印面材を貼り付けた押し印の一例を示す概略図である。
図7(a)は、印面材側から見た押し印の斜視図であり、
図7(b)は、印面材側を底面とした時(押し印として使用する際に紙などに置く時)の押し印の側面図である。
【0033】
印面材ホルダ20は、印面材21と、印面材21を保持する保持体22と、印面材21を保護するフイルム24と、を有する。
図6(a)、(b)に示すように、保持体22は、印面材21を中央部に固定して保持している。
印面材21は、実際に印面となる主面21aを有する。印面材21は、液状のインクを含浸可能な多孔質のスポンジ体、例えば、多孔質エチレン酢酸ビニル・コポリマー(以下、「EVA」と記す。)で構成され、押圧により変形可能となっている。EVAは無数の気泡を有しており、この気泡の中にインクを含浸する。
印面材ホルダ20のうちの、保持体22とフイルム24とは、印面材21の印面形成時に用いられる治具であり、印面形成の終了後には印面材21と分離されて廃棄(又は再利用)される。保持体22は、
図6(b)、(c)に示すように、コートボールからなる上部厚板紙22cと下部厚板紙22dとを貼り合わせて構成されている。また、
図6(a)に示すように、保持体22の一方の側部(図面右方)に切欠22aが形成されている。ここで、保持体22は、センサ3からの光を高い反射率で反射させるために、その表面が例えば、白色に形成されている。
【0034】
上部厚板紙22cには、
図6(b)、(c)に示すように、その中央部に印面材21を固定するための位置決め孔22eが形成されている。この位置決め孔22eに、印面材21が嵌め込まれて固定される。下部厚板紙22dは、
図6(a)、(b)に示すように、上部厚板紙22cと外形が同一に形成されており、位置決め孔22eが設けられていない。下部厚板紙22dと上部厚板紙とが張り合わされた状態において、下部厚板紙22dは、印面材21の裏面21b全体に接している。
【0035】
印面材21の主面21a(
図6(b)の左側の面、又は、
図6(c)の上側の面)は、
図6(b)、(c)に示すように、上部厚板紙22cの上面(
図6(b)の左側の面、又は、
図6(c)の上側の面)から若干突出するように構成されている。実施形態1においては、上部厚板紙22cと下部厚板紙22dとを合わせた厚さは、例えば、1.2mmに設定され、これに対して、フイルム24、印面材21をも含む印面材ホルダ20の全体の厚さは、例えば1.8mmに設定されている。すなわち、この例においては、上部厚板紙22cに対して印面材21が0.6mm突出するように設定されている。
【0036】
また、
図6(b)、(c)に示すように、印面材ホルダ20は、保持体22の上面及び印面材21の上面を被覆するフイルム24を有する。フイルム24は、PET(Polyethylene Terephthalate)またはポリイミド等を基材として作られており、耐熱性と熱伝導性と表面平滑性とを有している。ここで、フイルム24の耐熱性に関しては、印面形成時のサーマルヘッド4の温度及び印面材21の溶融点よりも高い温度に耐えられるものが用いられている。また、フイルム24の熱伝導性に関しては、印面形成時のサーマルヘッド4の熱を印面材21に伝達して、印面材21を良好に溶融させられるものが用いられている。フイルム24の表面平滑性に関しては、印面形成時に接触するサーマルヘッド4の押圧部4aが摩擦が少ない状態で程良く滑るものが用いられている。
【0037】
図6(c)に示すように、上部厚板紙22cと下部厚板紙22dとは、例えば両面粘着シート25により貼り合わされている。また、フイルム24は、保持体22の周囲部の表面、つまり印面材21が嵌め込まれている上部厚板紙22cの表面に両面粘着シート26により粘着されている。フイルム24と印面材21との間、印面材21と下部厚板紙22dとの間は、接触しているだけであって、貼り合わされてはいない。
【0038】
なお、
図6においては、本実施形態に係るプリンタ1において印面形成の対象となる印面材ホルダ20の一例を示したが、印面材21のサイズ(
図6(a)の縦方向及び横方向の寸法)が異なる、複数の種類の印面材ホルダ20を印面形成の対象とすることができる。ここで、各種類の印面材ホルダ20の厚さ、及び、幅寸法(
図6(a)の横方向の寸法)は、それぞれ同一に設定され、印面材ホルダ20の長さ寸法(
図6(a)の縦方向の寸法)は、印面材21のサイズに応じて異なるように設定される。また、各種類の印面材ホルダ20の印面材21のサイズに対応して、1対1の関係で、保持体22にサイズ(例えば縦方向の寸法)の異なる切欠22aが設けられている。そして、プリンタ1のセンサ3により保持体22の切欠22aを走査して、そのサイズを検出することにより、印面材ホルダ20の印面材21の種類(サイズ)が特定される。
【0039】
印面材21は、プリンタ1における印面の形成が終了した後に、保持体22から取り出される。そして、取り出された印面材21は、例えば
図7(a)、(b)に示すように、球状の持ち手51と方形の台木52とから構成される押し印50の台木52の下面(
図7(b)における台木52の下方側の面)に両面粘着シート53等により貼り付けられる。
【0040】
《印面形成の原理について》
次に、印面材21に印面を形成する原理について説明する。
印面材21は、EVAで構成されている。EVAは熱可塑性の物性を有するので、例えば70℃〜120℃の熱で加熱すると、熱を加えた箇所は軟化し、一度軟化した箇所は冷えると硬化する。そして、硬化した箇所は気泡部分が埋まり非多孔質化され、その部分はインクを通さなくなる。
本実施形態に係るプリンタ1は、この印面材21(EVA)の特性を利用して、サーマルヘッドでEVAの表面の任意の箇所を約1msecから5msec程度加熱することにより、EVAの表面の任意の箇所を非多孔質化させて、その部分のインクの通過を禁止する。なお、印面材21は、熱裁断機によって予め方形に裁断されている。このため、印面材21の4つの側面(端面)は、いずれも裁断の際に加えられた熱によって非多孔質化されており、インクを通過させない。なお、印面材21の裏面21bも加熱処理が施されており、インクを通過させない。これによって、印面となる主面21a以外の面からインクが滲み出ることを防止している。
【0041】
印面の形成(熱印刷)において、インクを透過させる部分は加熱せず、透過させない部分は加熱することで、スタンプ押印時に得たい印影に応じたインク透過部分を形成することができる。なお、印面の形成時に誤差が生じ得ること、および、印面材21の側面(端面)がインクを通過しないことを考慮して、印面材21のサイズは、所望の印影サイズよりも若干大きく設定されている。例えば、印影のサイズが45mm×45mmの場合には、印面材21のサイズは48mm×48mmに設定される。
【0042】
《印面形成動作について》
次に、本実施形態に係るプリンタ1において、所望の印面を形成する印面形成動作について説明する。なお、以下に示す各機能は、読み取り可能なプログラムコードの形態で制御部2(さらに詳しく言えば、ROM)に格納されており、このプログラムコードにしたがった動作が逐次実行される。なお、
図5のシステムブロック図に示したように、この印面形成装置(プリンタ1)は、通常はパソコンやスマートフォンなどと連携して動作するものである。ここでは、煩雑な説明となるのを防ぐべく、プリンタ1内における動作に限定して説明する。
【0043】
図8は、実施形態1に係るプリンタによる印面の形成状態を示す概略断面図である。
プリンタ1の印面形成動作においては、まず、制御部2は、入力操作部6が押圧され、入力操作部6からプリンタ1を起動する信号が入力されると、プリンタ1のイニシャル動作を実行する。プリンタ1のイニシャル動作においては、制御部2は、モータードライバ8に駆動信号を送り、ステッピングモータ9を所定時間回転させる。これにより、プラテンローラ12が所定時間回転し、プリンタ1内に印面材ホルダ20が残っていた場合でも、その印面材ホルダ20が排出口10dからプリンタ1外に排出される。
【0044】
イニシャル動作の終了後、制御部2は、
図8(a)に示すように、プリンタ1の操作者により印面材ホルダ20が挿入口10cからプリンタ1に挿入された状態において、入力操作部6から印面形成を開始する開始信号(例えば、上記イニシャル動作後において、入力操作部6から出力される、入力操作部6を押圧操作したことを示す信号)が入力されると、ステッピングモータ9を回転させて、プラテンローラ12を回転させる。これにより、印面材ホルダ20は、ガイド14(傾斜面14a)に沿って+X方向に搬送される。
【0045】
ここで、複数の種類(サイズ)の印面材ホルダ20を印面形成の対象とする場合には、制御部2は、センサ3により印面材ホルダ20(保持体22)の切欠22aの長さを検出し、印面材ホルダ20の種類(印面材21のサイズ)を特定する。そして、制御部2は、特定された印面材ホルダ20の種類に基づいて、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32を制御して、印面材ホルダ20の種類に応じた間隔Hを設定する。これにより、印面材ホルダ20の種類に応じて、サーマルヘッド4の印面材21への押圧力が適切に設定される。
【0046】
そして、
図8(b)に示すように、印面材ホルダ20が+X方向にさらに搬送されると、サーマルヘッド4の押圧部4aが保持体22の上面を経由して、印面材21に達する。印面材ホルダ20の印面材21は、サーマルヘッド4の下に引き込まれ、予め設定された所定の押圧力で押圧されながら搬送され、サーマルヘッド4の押圧部4aにY方向に配列された発熱体からの熱を受けて印面形成が行われる。
具体的には、制御部2は、入力された画像データに基づいて、印面材ホルダ20の搬送(ステッピングモータ9の回転)と、サーマルヘッド4の複数の発熱体のいずれを発熱されるかと、を連携させながら制御し、印面材21の画像データに応じた位置を選択的に加熱して、インクの透過部分と非透過部分とを画像データに応じて形成することで、印面を形成する。
【0047】
このとき、印面材21に適用されるEVAは、多孔質のスポンジ体で非常に柔らかいため、適切に印面形成(熱印刷)を行うために、通常の熱印刷を行うプリンタよりも強くサーマルヘッド4の発熱体を、印面材ホルダ20の印面材21に押し付ける必要がある。そのため、
図6(b)、(c)に示したように、印面材21の主面21aが保持体22の上面から突出するように構成されている。また、印面材ホルダ20の印面材21に対するサーマルヘッド4の押し付け状態は、
図8(b)に示すように、サーマルヘッド4の発熱体が配列された押圧部4aに加え、発熱体の近傍に配置されたドライバIC4bも印面材21に押し付けられて、印面材21に食い込んだ状態にある。
【0048】
そして、印面材21に印面を形成しつつ、印面材ホルダ20が+X方向にさらに搬送されると、
図8(c)に示すように、サーマルヘッド4が印面材21の−X方向の端部(終端部)に達し、印面材21と保持体22との間の境界部分を通過する。このとき、印面材ホルダ20の保持体22の搬送方向(+X方向)の端部側は、少なくとも排出口10dに達し、その近傍の裏面側(サーマルヘッド4が押し付けられる印面の形成側とは反対側の面、図面下面側)に、排出口10dの内面10eに設けられた複数のリブ10fが接触して、印面材ホルダ20を支持している。
【0049】
ここで、印面材21は、保持体22よりも厚み方向に突出して構成されているため、この境界部分には段差が存在する。また、サーマルヘッド4の押圧部4aの近傍(−X方向)にはドライバIC4bが配置されている。加えて、印面材21に対してサーマルヘッド4が強く押し付けられているため、上記の境界部分をサーマルヘッド4が通過することによって、まず、サーマルヘッド4のドライバIC4bが段差を降りる状態となる。このとき、印面材ホルダ20(印面材21)へのサーマルヘッド4のドライバIC4bによる押圧力が瞬間的に解除された状態となり、
図8(c)中に矢印Fで示すように、印面材ホルダ20を回転(+X方向の端部を下方に付勢させ、−X方向の端部を上方に付勢)させる力が加わる。
【0050】
ここで、プリンタ1の排出口10dに、リブ10fが配置されていない構成においては、印面材ホルダ20の+X方向の端部側が支持されていない状態にあるため、サーマルヘッド4のドライバIC4bが印面材21と保持体22との間の段差を降りた瞬間に、印面材ホルダ20に生じる力Fによって印面材ホルダ20が回転して、プラテンローラ12による印面材ホルダ20の送り量(送り密度)が変化する。そのため、印面が形成される印面材21の主面21aに、送り量の変化に起因する印刷ムラ(例えばY方向にライン状に延在する凹凸)が生じて、適切な印面形成が行われない可能性がある。
【0051】
これに対して、本実施形態にあっては、
図2および
図4に示したように、排出口10dの下側の内面10eに、印面の形成動作中に搬送される印面材ホルダ20の搬送経路である傾斜面14aの延長線ELに上面が接するように形成された複数のリブ(突出部材)10fが配置されている。これにより、印面材ホルダ20は、傾斜面14aとプラテンローラ12と排出口10dに設けられた複数のリブ10fとにより、搬送経路上に支持されている。したがって、サーマルヘッド4のドライバIC4bが、印面材21と保持体22との間の段差を降りた瞬間に、印面材ホルダ20に生じる力Fによって印面材ホルダ20が回転する現象が抑制されて、適切な印面形成が行われる。
【0052】
そして、印面材ホルダ20が+X方向にさらに搬送されて、印面材ホルダ20への印面の形成が完了すると、印面材ホルダ20がプリンタ1の排出口10dから排出される。その後、制御部2は、ステッピングモータ9を停止することによりプラテンローラ12を停止させて、一連の印面形成動作を終了する。ここで、制御部2においてステッピングモータ9を停止するタイミングは、例えば、印面材ホルダ20の後端がセンサ3を通過してから所定時間経過後に設定される。
【0053】
《保持体22及びフイルム24の役割について》
EVAは1.5mmの厚さを持つ部材であり、高い弾性と摩擦係数とを有する。このため、EVAをそのままサーマルプリンタに挿入して搬送を行おうとしても、サーマルヘッドとEVAとの摩擦力が大きく、安定した直進性の搬送を行うことが出来ない。つまり、EVAは摩擦力が大きいことと、ゴムのように柔らかいため、たとえサーマルプリンタ側に直進安定性を得るためのガイドが取り付けられていても、搬送中に少しでも曲がりができると、EVA自体が屈曲してしまい、結果的にすぐに斜行が発生する。
上記のEVAの搬送上の困難は、サーマルヘッドが発熱していない非加熱の状態の場合でも起きる現象であるが、サーマルヘッドが発熱した場合、サーマルヘッドは発熱開始後の数ミリ秒で約200度近くまで温度が上がるため、EVA表面を加熱した瞬間に表面が軟化し、軟化した部分にサーマルヘッドが埋まってしまい、EVAの搬送が全く出来なくなってしまうという現象が生じる。
端面ヘッドを用いる方式や、ヘッドを移動駆動するためにキャリッジを組み込む方式の場合は、上記の問題が起きないが、この方式は、機構の大型化と使用部材のコストの大幅な上昇とを招くという不都合がある。
【0054】
本発明においては、機構の大型化とコストの大幅上昇とを招くことなく、通常のサーマルヘッドを用いたプリンタ1により、上記のように搬送性に難のあるEVAを印面版として印面形成を行うために、印面材ホルダ20、保持体22を用い、フイルム24で保護することとしたものである。
また、印面材21は、上部厚板紙22cの位置決め孔22eで位置固定され、下部厚板紙22dにより下面から保持されると共に上面をフイルム24により被覆されているので印面材ホルダ20に保持された状態のままの形を維持し、X方向、Y方向の外力が加わっても変形しない。
したがって、印面材ホルダ20が搬送される通りに印面材21もまた、それにしたがって搬送される。印面材ホルダ20が直進搬送されれば、印面材21もその通りに直進搬送される。また、フイルム24は、印面材21、つまりEVAの溶融点よりも高い温度に耐熱性を有している。
したがって、サーマルヘッド4の発熱で印面材21の表面が溶融してもフイルム24は溶融しない。つまりフイルムとしての被覆性を失うことはない。また、フイルム24は、サーマルヘッド4との摩擦力は極めて低い。
このため、サーマルヘッド4は、フイルム24の被覆性により、溶融して軟化した印面材21の中に埋没することなく、また、フイルム24との間の低摩擦性により、フイルム24の面に沿って容易に発熱印刷(印面形成)を続けていくことができる。このようにして印面材21への印面形成が完了する。
【0055】
《印面形成後の印面材を取り出した後の用い方》
このように、印刷データを用いてサーマルヘッドでEVA表面を加熱することにより、ユーザ独自の印影を有する印面を形成することができる。印面材に印面形成して出来上がった印面版を印面材ホルダ20から取り出すには、保持体22をミシン目27に沿って折り曲げて、印面材21を引き出すだけでよい。その後、台木52に印面形成後の印面材を貼り付けて、印面を一定時間インクに浸す、又はインクの粘性が高いものであれば、印面に塗布して所定時間放置する。それにより、インクが印面版の内部に含浸する。ユーザは、印面表面の余剰のインク汚れをふき取った後(又は試押しを何度かした後)、持ち手51を指で持って、押印対象物に押し付けると、印面から含浸インクが押し出されて印影が押印される。
【0056】
《潰れ抑制の必要性について》
さて、本発明に係る印面形成装置(印面形成用サーマルプリンタ)は、印面材(印面形成媒体)として熱可塑性を有する多孔質EVAなどを用いる。
しかしながら、感熱紙への印刷などと異なり、EVAへの印刷の場合は印面材(印面形成媒体)そのものが変質するため、隣接ドットからの影響を受けやすい。
具体的には、加熱ドットと非加熱ドットとが隣接していた場合、非加熱ドット(に接する印面材の多孔質部分)は加熱ドット(に接する印面材の多孔質部分)が熱可塑(熱収縮)を起こす時にその影響を受けてしまい、結果として熱可塑を起こしてしまう(潰れてしまう)。
そこで、本発明では、非加熱ドットと隣接する加熱ドットにおいては、加熱量を若干少なくすることで、非加熱ドット(に接する印面材の多孔質部分)がつぶれてしまうのを抑制する。
熱のかけ方のイメージ図を、
図9に示す。
図9は、本発明に係る潰れ抑制における熱のかけ方のイメージ図である。
図9(a)は、元の画像データ、すなわちユーザが印面形成することを所望する画像データを示す図である。
図9(a)に示すように、この画像データでは、真ん中のドット(白い部分)が熱を加えないドット(非加熱ドット)であり、その周囲のドット(黒い部分)がすべて加熱ドットとなっている。
図9(b)は、非加熱ドットと隣接する加熱ドットにおいて、ドットの色をグレーで示すことで、加熱量を若干少なくする補正を施した様子を示す図である。
図9(b)に示すように、非加熱ドットの左右の隣接するドットでは、そのドット全体について加熱量を少なくしている。また、非加熱ドットの上下に隣接するドットでは、二段階にわたって加熱量を少なくしている様子が示されている。
図9(b)は、イメージ図であって、加熱制御の結果、このような温度勾配が望ましいと考えるイメージを描いたものである。制御の対象となるのは、あくまでもドットごとであり、個々のドットにどのように通電信号を与えるかである。
【0057】
《加熱ドットと非加熱ドット》
本明細書において、「加熱ドット」、「非加熱ドット」というときに、定義の項で定義を与えたように、本来的には、非加熱ドットは、サーマルヘッドの複数の発熱体のうちの、加熱しないドットを言い、加熱ドットは、サーマルヘッドの複数の発熱体のうちの、加熱するドットを言う。ここで、「ドット」は、サーマルヘッドの発熱体の単位であって、例えば200dpi(1インチ当たり200ドット)の解像度で設けられている。
発熱体の加熱、非加熱に対応して、印面材の多孔質部分が加熱、非加熱の対象となる。したがって、特に混同を生じない場合には、印面材の多孔質部分のうち、加熱される部分、非加熱の部分について、加熱ドット、非加熱ドットともいうこととする。その観点からすると、非加熱ドットは、印面形成される印面の画像から見て、インクの通過を許容する部分に該当する。また、加熱ドットは、印面形成される印面の画像から見て、インクの通過を禁止する部分に該当する。
印面材側のドット単位は、あくまでもサーマルヘッドの発熱体単位に対応して決められるものである。サーマルヘッドの主走査方向(発熱体の配列方向)については、発熱体の大きさそのもので規定される。サーマルヘッドの副走査方向(印面材ホルダ20の搬送方向)についても発熱体の大きさにより規定されるのは同様であるが、本実施形態にあっては、ステッピングモータ9の16ステップの動作によりプラテンローラ12が印面材ホルダ20を搬送する距離に対応する。ステッピングモータ9の動力をプラテンローラ12に伝えるためのギアボックス(不図示)のギア比は、ステッピングモータ9の16ステップに基づきプラテンローラ12による印面材ホルダ20の動く距離がちょうどサーマルヘッドの発熱体のドットの大きさに合うように決められている。
さらに言うと、印面の画像データが、印面形成装置に与えられる段階にあっては、当該画像データは、サーマルヘッドの一つ一つのドットごとに0か1かのデータである。すなわち、非加熱ドットか加熱ドットかを示すデータである。したがって、当該画像データの一つ一つについても、非加熱ドット、加熱ドット、という呼び方をすることができる。
【0058】
《マルチパルス方式を採用した通電制御》
次に、具体的な実現方法を説明する。
まず、本発明に係る印面形成装置では、サーマルヘッド通電制御にマルチパルス方式を採用している。マルチパルス方式は、サーマルヘッドに加えるエネルギーの印加を複数のパルス列で構成する方式である。通常、マルチパルス方式は階調表現などを行う場合に採用される手法である。本装置は印面形成装置であり、印面は、インクを通すか通さないかのいずれかであって、中間はないので、階調表現は存在しない。
本装置でマルチパルス方式を採用するのは、通電時における発熱体のピーク温度を下げるためである。これは、ピーク温度を下げることで、EVA表面の加熱部分を滑らかな仕上がりにすることが、実験的に確認されているためである。詳しくは、
図14を参照しつつ後述する。
【0059】
《分割印刷方式》
また、本装置では、ヘッドに流せる電流に制限があるため、分割印刷方式を採用している。すなわち、1ライン上のヘッドを複数のブロックに分割して駆動できるようになっており、1ドットラインを印刷する際に、各物理ブロック(例えば、64ドットずつのブロック)ごとのドット数をカウントして、設定されている最大駆動ドット数を超えないように、物理ブロックをまとめて論理ブロックを決定する方式(動的分割方式)を採る。
分割数が6〜11(印刷幅によって異なる)と多いため、シングルパルスだと印刷結果にガタが目立ってしまう(特に、細いラインを印刷した場合などに目立つ)。そのガタの発生を最小限に抑えることも、マルチパルス方式を採用した理由である。
【0060】
《マルチパルス方式におけるパルス数》
また、このパルス数も、サーミスタによって検知されるサーマルヘッド放熱板の温度によって変えている。ここでは温度別の具体的なパルスの数には言及しないが、仮に10パルス固定とする。
つまり、分割数が6であった場合、1ライン当たりの合計通電信号数は、10(パルス)×6(分割)=60(回)となる。実際の通電信号の概略図を、
図10に示す。
図10に示すように、1パルス目の1分割目、2分割目、3分割目、…、6分割目、2パルス目の1分割目、2分割目、…、6分割目、…、10パルス目の1分割目、…、6分割目という順に、合計60回の通電信号が送られる。この通電信号により各発熱体に電力が印加されて、発熱する。なお、
図10に示す通電信号(/STB信号)は、LOWアクティブとして表記している。
【0061】
《3種類の隣接パターン》
さて、本発明では、非加熱ドットに隣接している加熱ドットにおいては、10パルスのうちの任意のパルス数しか通電を行わないものとする(サーミスタ検知温度によって変化する。サーミスタは、環境温度やサーマルヘッドの温度を検知するために搭載されている)。
ここで、隣接のパターンについては、次に示す3種類に分類できる(
図11参照)。
図11は、隣接パターンの概略図である。
(隣接パターン1)サーマルヘッドの主走査方向に対して、非加熱ドットと加熱ドットとが隣接(副走査方向での隣接は無し)。
(隣接パターン2)サーマルヘッドの副走査方向に対して、非加熱ドットと加熱ドットとが隣接(主走査方向での隣接は無し)。
(隣接パターン3)サーマルヘッドの主走査方向・副走査方向の両方に対して、非加熱ドットと加熱ドットとが隣接。
ここで、サーマルヘッドの主走査方向は、サーマルヘッドの配列方向と同一であり、印面材ホルダの搬送方向とは直交する向きである。また、サーマルヘッドの副走査方向とは、印面材ホルダの搬送方向と同一であり、サーマルヘッドの配列方向とは直交する向きである。
【0062】
隣接パターンごとの通電制御は、たとえば次の通りである。
(隣接パターン1)の場合は、たとえば10パルス中に8パルスしか熱をかけない。
(隣接パターン2)の場合は、10パルス中8あるいは9パルスの通電を行うが、非加熱ドットを避けるように通電を行う。
(隣接パターン3)の場合は、(隣接パターン1)と同様になる(10パルス中8パルスの通電となる)。
【0063】
ここで、10パルスの通電のうちの、1パルス目を先補正パルス、2〜9パルス目を主パルス、10パルス目を後補正パルスと呼ぶことにする(振り分けは、サーミスタ検知温度によって変化する)。
先補正パルス、主パルス、後補正パルスの概念を用いると、次のように潰れ抑制を実行することができる。
(隣接パターン1)の場合、先補正パルスと後補正パルスとにおいては、非加熱ドットと隣接している加熱ドット(データ的には加熱を行わなければならないドット)に通電を行わない。主パルスでは、通電を行う。
(隣接パターン2)の場合、非加熱ドットをさける様に、先補正パルスあるいは後補正パルスあるいはその両方において、非加熱ドットと隣接している加熱ドットに通電を行わない。主パルスでは、通電を行う。
【0064】
《アルゴリズム》
それでは、この様な印刷データを作成するためのアルゴリズムを説明する(
図12参照)。
図12は、実施形態1における補正データの作成方法を示す図である。
図12において、黒いドットは加熱ドットを示し、白いドットは非加熱ドットを示す。
まず、制御部2は、印刷を行うべき1ライン分の本データ(
図12(b)に示す本データ(Nライン目))を、RAM上のバッファに展開する。
次に、制御部2は、本データに対し、本データを右に1ビットシフトしたデータと左に1ビットシフトしたデータとの論理積を取り、これを仮補正データ(
図12(d))とする。論理積は、ここでは、二つのドットデータの積をとることにより、二つとも熱を加えることを意味するデータの場合にのみ熱を加えることとし、いずれか一方(または双方)が熱を加えないことを意味するデータの場合には熱を加えないこととする演算をすることを意味する。
上記処理を行った仮補正データ(
図12(d))は、本データの主走査方向において、非加熱ドットと隣接している加熱ドットが、非加熱ドットに変換されたデータである。
【0065】
さて、この仮補正データ(
図12(d))に対して、1ライン前の本データ(
図12(a)、本データ(N−1ライン目))との論理積をとったものを先補正データ(
図12(e)、先補正パルス用データ)、1ライン後の本データ(
図12(c)、本データ(N+1ライン目))との論理積をとったものを後補正データ(
図12(f)、後補正パルス用データ)と呼ぶ。
先補正データ(
図12(e))は、1ライン前の本データ(
図12(a))と論理積をとっているので、本データ(
図12(b))のあるドット(たとえば、n番目のドット)において、1ライン前が非加熱ドットであった場合、先補正データの当該ドット(n番目のドット)は、本データの内容にかかわらず非加熱データとなる。
後補正データも同様である。
【0066】
ここで、上記説明において、本データ、仮補正データ、先補正データ、後補正データなどは、1か0かの値が並ぶものであって、サーマルヘッドの個々の発熱体を発熱させるか否かの情報を連ねたものである。このデータをドットデータと呼ぶ。すなわち、ドットデータは、サーマルヘッドの発熱体の単位ごとに、0か1かの値をとるデータである。
ラインごとのドットデータとは、サーマルヘッドの発熱体の配列された方向に対応してそれらの複数の発熱体に与えるべき、0か1かの情報を並べたものをいう。
【0067】
この、先補正データを先述の先補正パルス用のデータとして、後補正データを後補正パルス用データとして用いることで、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすことができ、結果として非加熱ドットの潰れを抑制することが出来る。通電信号の概略図を、
図13に示す。
図13に示すように、先補正データ、本データ、後補正データの順に通電信号とすることにより、潰れ抑制を実現するものである。
【0068】
なお、本実施形態では非加熱ドットに隣接する1ドットにしか当該制御をかけなかったが、もちろんさらに隣のドットを考慮しても良い。これらは、たとえば仮補正データを作成する際に、左右に2ビットずつビットシフトしたデータの論理積を加えることで実現できる。
また、本実施形態における制御では、斜め45度からの影響は考えていない。これは、あるドット(nドット目)が最も熱を受けやすいのは、隣接している通電ドット(n−1ドット目、n+1ドット目)か、前後ラインのnドット目からであり、200dpiクラスのサーマルヘッドでは、斜めからの影響があまり大きくなかったためである。
ただし、解像度が高いヘッド(ドットの小さいヘッド)では、斜め45度からの影響も考えなければならない。
その場合は、たとえばNライン目における、前(後)補正データ作成時に、仮補正データとN−1(N+1)ライン目との論理積だけでなく、N−1(N+1)ライン目を左右にビットシフトしたデータとの論理積も、合わせて取ればよい。
ただし、斜めからの影響は、前後左右と比較して受けにくいので、たとえば前補正データ1(斜めからの影響を考慮)と、前補正データ2(斜めからの影響は考えない。つまり、上記実施形態の制御)を作成し、1パルス目には前補正データ1を、2パルス目には前補正データ2を、3パルス目以降には本データを、……と通電させればよい。
もちろん、後補正データも同様にするべきである。
【0069】
図14は、潰れ抑制制御の補正を画像データに施した例を示す図である。
図14(a)は、元の画像データ、すなわち、ユーザが印面の形成を欲する画像データを示す。
図14(a)に描かれているそれぞれの正方形は、一つ一つのドットを示している。この画像データは、各ドットが0か1かを示すデータであり、黒い(塗り潰された)ドットは1(加熱ドット)を示し、白いドットは0(非加熱ドット)を示す。
【0070】
図14(b)は、本発明に係る潰れ抑制制御をすべく補正した結果を示す図である。各ドットが10個に分けられて表示されているのは、マルチパルス方式におけるパルス数が10であることに基づく。
図14(b)で示された部分のうちの、白い部分は、常温のときに非加熱の部分である。そして、網掛け部分は、ヘッド温度が高い時に、さらにこの部分も非加熱にする箇所である。黒い(塗り潰された)部分は、加熱する部分である。すなわち、非加熱ドットには10パルスすべてにおいて通電を行わず、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットには10パルスすべてにおいて通電を行う。一方で、非加熱ドットに隣接する加熱ドットは、先述した隣接パターンに応じて、1パルス目である先補正パルスと10パルス目である後補正パルスとの少なくともいずれかにおいて、通電を行わない。ヘッド温度が高い時には、さらに2パルス目と9パルス目とにおいて、通電を行わない。これにより、非加熱ドットに隣接する加熱ドットにおける熱量を制御して、非加熱ドットの潰れを抑制する。
【0071】
ここで、1つのドットを10個に分けた様子を示しているが、この10個に分けたのは、便宜的に示したものであって、空間的な分割を示すものではなく、一つのドットに与えるエネルギーを10個のパルス信号列により構成することを示すものである。10個の信号の総計により当該ドットに加えられるエネルギー量(加熱量)が決まる。
なお、ここで、10個の信号列の順番は、自然な温度勾配が形成されるようにイメージして決めたものであり、さまざまな温度条件、黒字率(加熱ドットの比率)の組み合わせに基づいて、実験を行った結果に基づいている。実際のドットごとの温度勾配(温度分布)がどのようになっているかは、測定困難である。
図14(a)に示す元の画像データを、
図12に示すアルゴリズムにしたがって、補正した結果が、
図14(b)に示すデータである。このデータが
図13に示すように通電信号となって、サーマルヘッドに印加されて潰れ抑制の制御が実行される。
【0072】
《通電テーブルとの関係》
サーマルヘッドには、温度センサ(サーミスタ)が付いており、環境温度(主にサーマルヘッドの発熱により上昇した温度)をリアルタイムで測定し、それを制御部2に送る。制御部2は、温度と通電時間とを対応させた対応表である通電テーブルを参照して、サーマルヘッド4の駆動回路であるドライバIC4bに制御信号を送り、それに基づいてドライバIC4bがサーマルヘッドに通電信号を送る。サーマルヘッドの環境温度は、黒字率が高い状態が続くなどの稼働状況に従い、リアルタイムで変動するので、制御部2が通電テーブルを参照するのもまた、リアルタイムで頻繁に行われる。
本発明に係る加熱制御は、前後のラインごとのドットデータをビットシフトして論理積を求める補正処理に基づくものであるが、サーマルヘッドの温度変化がリアルタイムで変動するものであることから、本発明に係る補正処理もまた、リアルタイムで行うこととなる。
【0073】
《本発明に係る補正処理を実行する引き金について》
また、本制御を使用するか否かの判断を、印刷中に動的に判断しても良い。
たとえば、Nライン目を印刷する場合、N−1ライン目・Nライン目・N+1ライン目の加熱ドット数をカウントし、このカウント値が一定値を超えた場合にのみ、本制御を使用するということである。すなわち、黒字率をリアルタイムで算出し、その黒字率が所定値を超えた場合に、本発明に係る補正処理を行うものである。
あるいは、Nライン目の加熱ドット数が一定以上で、かつ、前後も含めた3ラインの加熱ドットの総ドット数が一定数以上のときに、本制御を使用するとしてもよい。(もちろん、前後のみでなく、2ライン前後を考慮しても良い)
さらに、判断パラメータとして、サーミスタ検知温度を加えても良い。
つまり、サーミスタ検知温度が一定以上で、かつ、Nライン目の加熱ドット数が一定以上で、かつ、前後も含めた3ラインの加熱ドットの総ドット数が一定数以上のときに、本制御を使用するとしてもよい。
【0074】
なぜ周辺ラインの黒字率を判断のパラメータとして用いるかというと、ヘッド温度検出用のサーミスタでは、所詮は発熱体の直接的な温度を測定することはできないためである。
しかしながら、潰れ制御で最も重要なのは発熱体そのものの蓄熱であり、仮にサーミスタ検出温度が低くても、連続的にベタ黒(加熱部分)が続く箇所があれば、その中に点在する非加熱ドットは、やはり潰れる傾向にあるからである。
特に、印刷メディアが感熱紙などではなく、多孔質樹脂では、この傾向が強くみられる傾向にある(より正確には、印面としてはある程度の微小ドットも再現は可能なのだが、ドットが小さすぎると押印時にインクが染み出てこないため、押印後の印影ベースで判断すると、この傾向が強くみられるということである)。
ただし、サーミスタにて発熱体の温度が精度よく検出できるのであれば、もちろんサーミスタ検知温度のみで、本制御使用の判断を行っても良い。
【0075】
《発明の効果》
以上説明した実施形態1に係る印面形成装置において、非加熱ドットに隣接する加熱ドットの熱量を減らすことで、ドット潰れを軽減することが出来る。
【0076】
(実施形態2)
上述したように、実施形態1に係る印面形成装置(プリンタ1)は、非加熱ドットに隣接する加熱ドットの熱量を減らすことで、潰れを抑制した印面を形成することができた。しかしながら、実施形態1に係る印面形成装置は、非加熱ドットに隣接する加熱ドットであれば、どのような加熱ドットであっても熱量を減らしていた。そのため、例えば
図15(a)に示すような非加熱ドットに囲まれた孤立した加熱ドットに対する加熱量を減らしてしまうと、十分な加熱量を得られなくなることがあった。その結果、例えば誤差拡散画像等、非加熱ドット(インク染み出し部)が多くを占める画像では特に、捺印結果がインクで潰れてしまいがちになるといった課題があった。
【0077】
そこで、実施形態2に係る印面形成装置は、最も潰れが生じやすいドットが
図15(b)に示すような加熱ドットに四方を囲まれた非加熱ドット(孤立ドット)であることに鑑み、このような孤立ドットを特定して、その周囲の加熱ドットのみ熱量を下げる。実施形態2に係る印面形成装置は、このような処理を、複雑な演算を行うことなく、CPU負荷の軽いビット演算の繰り返しにより実現する。
【0078】
そのために、実施形態2に係る印面形成装置において、制御部2は、印面を形成するための画像データのうちの、主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであって、且つ、副走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットである前記非加熱ドット(以下、「孤立ドット」という。)を特定する特定部を有する。そして、特定部は、実施形態1で説明したアルゴリズム(
図12)とは異なるアルゴリズムに従って、補正データを作成する。なお、実施形態2に係る印面形成装置の他の構成や印面材ホルダ20の構成等の概略は、実施形態1において各図面を参照して説明したものと同様である。そのため、ここでは詳細な説明については省略する。
【0079】
実施形態2に係る印面形成装置は、以下の手順1〜手順3に従って、補正データを作成する。
(手順1)特定部が、1ラインの本データに対して、主走査方向における孤立ドットのみを0としたデータを作成する。
(手順2)特定部が、上記データに対して、その前後のラインの本データと比較して、手順1で得られたデータで0となっているドットの中で、副走査方向においても孤立しているドットのみを0のまま残す。これにより、孤立ドットを特定する。
(手順3)制御部2が、手順2で特定した孤立ドットに隣接する加熱ドットの熱量を減らす。
【0080】
実施形態2における補正データの作成方法について具体的に説明する。
図16は、実施形態2における補正データの作成方法を示す図である。具体的なビット演算等においては、加熱ドットを1、非加熱ドットを0と扱う。
【0081】
PC44等のクライアント機器からプリンタ1に送られてきた印刷すべきデータ行列(本データ)の内、m行目(すなわちmライン目)且つnバイト目の本データをA(m,n)と表す。具体的に
図16の例では、本データA(m,n)は、MSB(Most Significant Bit)からLSB(Least Significant Bit)まで、「10101001」という8個のドットを含むデータ列である。
【0082】
印刷データは、MSBファーストで、サーマルヘッド(印面形成部)4に送信される。つまり、例えばmライン目におけるn−1バイト目の本データA(m,n−1)のLSBがサーマルヘッド4に送信された後、nバイト目の本データA(m,n)のMSBがサーマルヘッド4に送信される。
【0083】
まず、特定部は、印刷を行うべき1ライン分のうちの本データA(m,n)を、RAM上のバッファに展開する。
次に、特定部は、1ライン分のうちの本データA(m,n)の中で、主走査方向において(つまり、あるmにおいて)孤立していない非加熱ドット、すなわち主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットである非加熱ドット以外の非加熱ドットのみを1とするデータA’(m,n)を、下記の(1)式に従って作成する。具体的に
図16の例では、本データA(m,n)がデータ列「10101001」である場合、A’(m,n)は、データ列「00000110」と得られる。
A’(m,n) = [{(¬A(m,n)>>1) OR 0x80} AND ¬A(m,n)] OR [{(¬A(m,n)<<1) OR 0x01} AND ¬A(m,n)] …(1)
【0084】
ここで、「AND」はビット毎の論理積、「OR」はビット毎の論理和、「XOR」はビット毎の排他的論理和、「¬」はビット毎のビット反転、「>>」はビット右シフト、「<<」はビット左シフト、の論理演算をそれぞれ示す。例えば、「¬X>>1」という表記は、Xというデータの各ビットをビット反転させた後、1ビット右シフトすることを示す。
【0085】
また、上記(1)式は例示であり、ド・モアブルの定理等を用いて変形した別の数式を用いることも可能である。すなわち、制御部2は、主走査方向における孤立していない非加熱ドットのみを1にするという操作が可能であれば、他のアルゴリズムを用いることもできる。以下における演算も同様である。
【0086】
特定部は、作成したデータA’(m,n)と本データA(m,n)との排他的論理和をとり、本データA(m,n)の中で、主走査方向における孤立ドットのみを0としたデータB(m,n)を、下記(2)式に従って作成する。具体的に
図16の例では、B(m,n)は、データ列「10101111」と得られる。
B(m,n) = {A’(m,n) XOR A(m,n)} …(2)
【0087】
なお、B(m,n)を計算した段階では、A(m,n)のLSB及びMSBに関しては、孤立の有無を考慮しておらず、B(m,n)のLSB及びMSBはどちらも必ず1になっている。すなわち、A(m,n)のLSB及びMSBは、B(m,n)の計算においては、孤立・非孤立に関わらず非孤立ドットとして扱われている。
【0088】
次に、A(m,n)のLSB及びMSBについて考える。A(m,n)のLSBが孤立している場合とは、A(m,n)のLSBが0(非加熱ドット)であって、A(m,n)のLSBから2ビット目とA(m,n+1)のMSBとが共に1(加熱ドット)である場合に相当する。従って、下記(3−1)式と(3−2)式とが共に成立するのであれば、A(m,n)のLSBは主走査方向において孤立していることが分かる。
{A(m,n) AND 0x03} = 0x02 …(3−1)
{A(m,n+1) AND 0x80} = 0x80 …(3−2)
【0089】
同様に、A(m,n)のMSBが孤立している場合とは、A(m,n)のMSBが0(非加熱ドット)であって、A(m,n)のMSBから2ビット目とA(m,n−1)のLSBとが共に1(加熱ドット)である場合に相当する。従って、下記(4−1)式と(4−2)式とが共に成立するのであれば、A(m,n)のMSBは主走査方向において孤立していることが分かる。
{A(m,n) AND 0xC0} = 0x40 …(4−1)
{A(m,n−1) AND 0x01} = 0x01 …(4−2)
【0090】
上述したように、B(m,n)のLSBとMSBとは必ず1になっている。そのため、上記(3−1)〜(4−2)式の手順によりA(m,n)のLSB又はMSBが孤立していることが判明した場合には、特定部は、B(m,n)のLSBとMSBとの中で、孤立していると判明したビットを0に変更する。こうして得られたデータをC(m,n)と表す。
【0091】
なお、
図16の例では、本データA(m,n)におけるLSBとMSBとはいずれも1(加熱ドット)であり、孤立ドットではないため、C(m,n)はB(m,n)と等しい。従って、
図16ではC(m,n)を割愛している。
【0092】
次に、特定部は、副走査方向における孤立の有無を判別する。そのために、特定部は、主走査方向において孤立ドットのみが0であるC(m,n)と、その前後のラインの本データ、すなわちm−1ライン目の本データA(m−1,n)及びm+1ライン目の本データA(m+1,n)と、を比較する。そして、下記(5)式に従って、C(m,n)で0となっているドットの中で、副走査方向においても孤立しているドットのみを0のまま残し、他のドットは1のデータD(m,n)を作成する。
D(m,n) = [¬{C(m,n) OR A(m−1,n)} XOR C(m,n)] OR [¬{C(m,n) OR A(m+1,n)} XOR C(m,n)] …(5)
【0093】
具体的に
図16の例では、m−1ライン目のうちの本データA(m−1,n)の2ビット目と4ビット目は加熱ドットであり、m+1ライン目のうちの本データA(m+1,n)の2ビット目は非加熱ドット、4ビット目は加熱ドットである。すなわち、本データA(m,n)の2ビット目の非加熱ドットは副走査方向には孤立しておらず、4ビット目の非加熱ドットのみ副走査方向において孤立している。そのため、C(m,n)がデータ列「10101111」と表される場合、D(m,n)は、4ビット目のみが0であるデータ列「11101111」と得られる。
【0094】
このようにして得られたデータD(m,n)において0となっているビットは、主走査方向と副走査方向とのいずれの方向においても両隣が加熱ドットである非加熱ドット(孤立ドット)である。このような孤立した非加熱ドットは、周囲の加熱ドットにおける蓄熱により潰れてしまう可能性が高い。そこで、制御部2は、孤立ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、孤立ドットに隣接する加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らす。これにより、蓄熱による潰れを抑制する。
【0095】
熱量を減らす手法は、実施形態1において説明したものと同様である。すなわち、制御部2は、孤立ドットを特定したデータD(m,n)と本データA(m,n)とから仮補正データを作成して、その前後のラインにおいて孤立ドットを特定したデータD(m−1,n)及びD(m+1,n)から前補正データ及び後補正データを作成する。
【0096】
具体的に説明すると、制御部2は、D(m,n)を1ビット左にシフトしたデータとD(m,n)との論理積、及び、D(m,n)を1ビット右にシフトしたデータとD(m,n)との論理積をそれぞれ取り、得られた2式の論理積を取ったデータと本データA(m,n)との論理積をとる。これにより、本データA(m,n)において孤立ドットの両隣のドットを0とした仮補正データE(m,n)を得ることができる。具体的に
図16の例では、仮補正データE(m,n)は、データ列「10000001」と得られる。但し、理解を容易にするため、LSB及びMSBについての説明は割愛する。
E(m,n) = [{D(m,n) AND (D(m,n)>>1)} AND {D(m,n) AND (D(m,n)<<1)}] AND A(m,n) …(6)
【0097】
制御部2は、このような仮補正データE(m,n)を作成する処理を、任意のm及びnについて、繰り返す。そして、制御部2は、得られた仮補正データE(m,n)と1ライン前の孤立ドットを特定したデータD(m−1,n)との論理積をとることで先補正データを作成し、仮補正データE(m,n)と1ライン後の孤立ドットを特定したデータD(m+1,n)との論理積をとることで後補正データを作成する。そして、本データA(m,n)とこれら補正データ(先補正データ、後補正データ)とのパルス比率で、孤立ドット周囲の加熱量を制御する。
【0098】
すなわち、制御部2は、
図13に示した構成の通電信号において、先補正データを先述の先補正パルス用のデータとして、後補正データを後補正パルス用データとして用いることで、孤立した非加熱ドットに隣接する加熱ドットのドット単位の加熱量を、孤立した非加熱ドットに隣接する加熱ドット以外の加熱ドットのドット単位の加熱量よりも減らす。その結果として、孤立した非加熱ドットの潰れを抑制することが出来る。
【0099】
以上説明した実施形態2に係る印面形成装置は、孤立した非加熱ドットを特定して、加熱量を減らす加熱ドットを孤立した非加熱ドットに隣接する加熱ドットに限定する。これにより、加熱ドットに対する加熱量を減らしすぎてスタンプの捺印結果がインクで潰れるということを防ぎつつ、孤立した非加熱ドットの潰れを軽減した高品質な印面を作成することができる。
【0100】
(変形例)
以上に本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例であり、本発明の適用範囲はこれに限られない。すなわち、本発明の実施形態は種々の応用が可能であり、あらゆる実施の形態が本発明の範囲に含まれる。
【0101】
例えば、上記実施形態2では、特定部は、印面を形成するための画像データのうちの、主走査方向と副走査方向とのいずれにおいても両隣のドットがいずれも加熱ドットである非加熱ドットを特定して、制御部2がその隣接する4つの加熱ドットの熱量を減らした。しかし、本発明では、特定部は、主走査方向と副走査方向とのうちのいずれかの方向のみにおける両隣のドットがいずれも加熱ドットである非加熱ドットを特定して、制御部2がその両隣の加熱ドットの熱量を減らしてもよい。
【0102】
例えば、主走査方向においてのみ両隣のドットがいずれも加熱ドットである非加熱ドットを特定したデータは、上述したC(m,n)に相当する。そのため、C(m,n)からD(m,n)を算出する過程を省略して、C(m,n)と本データA(m,n)とから仮補正データを作成すればよい。副走査方向においてのみ両隣のドットがいずれも加熱ドットである非加熱ドットを特定する方法についても、主走査方向と副走査方向とを入れ替えることにより同様に処理可能である。これにより、実施形態2で示したものよりも簡単なアルゴリズムにより、加熱ドットに対する加熱量を減らしすぎてスタンプの捺印結果がインクで潰れるということを防ぐことができる。
【0103】
なお、本発明に係る機能を実現するための構成を予め備えた印面形成装置として提供できることはもとより、プログラムの適用により、既存の情報処理装置等を、本発明に係る印面形成装置として機能させることもできる。すなわち、上記実施形態で例示した印面形成装置1による各機能構成を実現させるためのプログラムを、既存の情報処理装置等を制御するCPU等が実行できるように適用することで、本発明に係る印面形成装置として機能させることができる。また、本発明に係る印面形成方法は、印面形成装置を用いて実施できる。
【0104】
また、このようなプログラムの適用方法は任意である。プログラムを、例えば、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)−ROM、DVD(Digital Versatile Disc)−ROM、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して適用できる。さらに、プログラムを搬送波に重畳し、インターネットなどの通信媒体を介して適用することもできる。例えば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)にプログラムを掲示して配信してもよい。そして、このプログラムを起動し、OS(Operating System)の制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明は特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とに含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0106】
(付記1)
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材及び当該印面材を着脱可能に保持する保持体を有する印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体と、当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路と、が設けられ、当該印面材に印面を形成する印面形成部と、
前記駆動回路に印加する通電信号を補正して、前記印面を形成するための画像データのうちの、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記印面形成部の前記駆動回路を制御する制御部と、
を有する、
ことを特徴とする印面形成装置。
【0107】
(付記2)
前記駆動回路が前記複数の発熱体を制御するための前記通電信号は、マルチパルス方式の信号であり、前記制御部は複数のパルスに分けられた前記通電信号をパルスごとに制御することにより前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を減らすことを特徴とする付記1に記載の印面形成装置。
【0108】
(付記3)
前記通電信号の補正は、前記画像データのラインごとのドットデータと、当該ドットデータを主走査方向又は副走査方向にプラス1又はマイナス1ずらしたドットデータと、の論理積をとったドットデータに基づくものであることを特徴とする付記1又は2に記載の印面形成装置。
【0109】
(付記4)
前記制御部は、前記画像データのラインごとのドットデータ、その前後のいずれかのラインごとのドットデータまたはそれらの組み合わせに基づいた加熱ドットの比率である黒字率が所定値以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の印面形成装置。
【0110】
(付記5)
前記印面形成部は、前記印面形成部周辺の温度を検知する温度センサを有し、
前記制御部は、前記温度センサの検知温度が所定温度以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする付記1から4のいずれか1つに記載の印面形成装置。
【0111】
(付記6)
前記制御部は、非加熱ドットのうちの、主走査方向と副走査方向とのうちの少なくともいずれかの方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定する特定部を有し、
前記制御部は、前記通電信号を補正して、前記画像データのうちの、前記特定部が特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定部が特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする付記1から5のいずれか1つに記載の印面形成装置。
【0112】
(付記7)
前記特定部は、非加熱ドットのうちの、前記主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであり、且つ、前記副走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定し、
前記制御部は、前記通電信号を補正して、前記画像データのうちの、前記特定部が特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定部が特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする付記6に記載の印面形成装置。
【0113】
(付記8)
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、当該印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、当該印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により当該印面材に当該印面を形成する際に、当該駆動回路に印加する通電信号を補正して、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、当該印面形成部の当該駆動回路を制御する印面形成工程、
を有する、
ことを特徴とする印面形成方法。
【0114】
(付記9)
前記駆動回路が前記複数の発熱体を制御するための前記通電信号は、マルチパルス方式の信号であり、前記制御部は複数のパルスに分けられた前記通電信号をパルスごとに制御することにより前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を減らすことを特徴とする付記8に記載の印面形成方法。
【0115】
(付記10)
前記通電信号の補正は、前記印面を形成する際のラインごとのドットデータと、当該ドットデータを主走査方向又は副走査方向にプラス1又はマイナス1ずらしたドットデータと、の論理積をとったドットデータに基づくものであることを特徴とする付記8又は9に記載の印面形成方法。
【0116】
(付記11)
前記印面を形成する際のラインごとのドットデータ、その前後のいずれかのラインごとのドットデータまたはそれらの組み合わせに基づいた加熱ドットの比率である黒字率が所定値以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする付記8から10のいずれか1つに記載の印面形成方法。
【0117】
(付記12)
前記印面形成部に設けられた前記印面形成部周辺の温度を検知する温度センサの検知温度が所定温度以上である場合に、前記非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量の制御を実行することを特徴とする付記8から11のいずれか1つに記載の印面形成方法。
【0118】
(付記13)
前記印面形成工程は、非加熱ドットのうちの、主走査方向と副走査方向とのうちの少なくともいずれかの方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定する特定工程を有し、
前記印面形成工程では、前記印面材に前記印面を形成する際に、前記通電信号を補正して、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットの両隣の加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする付記8から12のいずれか1つに記載の印面形成方法。
【0119】
(付記14)
前記特定工程では、非加熱ドットのうちの、前記主走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであり、且つ、前記副走査方向における両隣のドットがいずれも加熱ドットであるドットを特定し、
前記印面形成工程では、前記印面材に前記印面を形成する際に、前記通電信号を補正して、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、前記特定工程で特定した前記非加熱ドットに隣接する4つの加熱ドット以外の加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、前記駆動回路を制御することを特徴とする付記13に記載の印面形成方法。
【0120】
(付記15)
コンピュータに、
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、当該印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、当該印面材ホルダの当該印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および当該複数の発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により当該印面材に当該印面を形成する際に、当該駆動回路に印加する通電信号を補正して、非加熱ドットに隣接する加熱ドットに対するドット単位の加熱量を、非加熱ドットに隣接しない加熱ドットに対するドット単位の加熱量よりも減らすように、当該印面形成部の当該駆動回路を制御させる、
ことを特徴とするプログラム。