特許第6137176号(P6137176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137176
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20060101AFI20170522BHJP
   C02F 1/54 20060101ALI20170522BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20170522BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C02F1/52 Z
   C02F1/54 Z
   C02F1/44 H
   C02F1/56 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-514643(P2014-514643)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2013084044
(87)【国際公開番号】WO2014103860
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-281055(P2012-281055)
(32)【優先日】2012年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅英
(72)【発明者】
【氏名】前田 智宏
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−227836(JP,A)
【文献】 特開2001−038104(JP,A)
【文献】 特開2002−066568(JP,A)
【文献】 特開昭48−019481(JP,A)
【文献】 特開2007−029802(JP,A)
【文献】 特開昭60−255121(JP,A)
【文献】 米国特許第3617568(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水にカチオン系凝集剤を添加して凝集1次処理水とし、
凝集1次処理水のゼータ電位が0mV未満の場合には、凝集1次処理水をそのまま最終凝集処理水とし、
凝集1次処理水のゼータ電位が0mV以上の場合には、そのゼータ電位が0mV未満になるようにアニオン系物質を添加して最終凝集処理水とし、
最終凝集処理水を表面ゼータ電位が0mV未満である精密ろ過膜または限外ろ過膜である分離膜によって処理し、処理水を得た後、
前記分離膜で処理した処理水をさらに表面ゼータ電位が0mV未満である半透膜で脱塩することを有する水処理方法。
【請求項2】
添加されるカチオン系凝集剤の凝集1次処理水中の濃度Cop1をそれぞれ予め決定した下記で定義されるCminより大きくCmaxよりも小さな値に設定する請求項1に記載の水処理方法。
Cmin:原水の水質指標が最小になるときに最大の凝集効果が得られるカチオン系凝集剤の凝集1次処理水中の濃度
Cmax:原水の水質指標が最大になるときに最大の凝集効果が得られるカチオン系凝集剤の凝集1次処理水中の濃度
【請求項3】
原水の水質指標が、濁度、微粒子濃度、総懸濁物質(TSS)濃度、総有機炭素(TOC)濃度、溶解性有機炭素(DOC)濃度、化学的酸素要求量(COD)、生物学的酸素要求量(BOD)、および紫外線吸収量(UVA)からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
純水にカチオン系凝集剤を濃度が(Cmax−Cmin)となるよう添加した水に対して、ゼータ電位が0mV未満となるためのアニオン系物質の添加濃度Cop2を予め決定し、凝集1次処理水に前記アニオン系物質を凝集1次処理水濃度Cop2となるように添加する請求項1〜3いずれかに記載の水処理方法。
【請求項5】
カチオン系凝集剤が無機系凝集剤、前記アニオン系物質が有機系凝集剤である請求項1〜4のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかの水処理方法であって、途中に前記分離膜での処理を中断し、前記分離膜に対し逆圧洗浄と空気洗浄とを行う工程を有する水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いて原水中の懸濁物質や溶解性物質などの不純物を除去し、清澄水を得るための水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川水をはじめとする自然水から飲料水や用水を製造する浄水技術は、古くから凝集沈澱、加圧浮上などの化学的手段と、砂ろ過による物理的手段とを中心として普及・発展してきている。砂ろ過は、重力によって砂槽を通して清澄水を得る重力ろ過や、ポンプによって圧力をかけてろ過を行う加圧ろ過に大きく分類され、原水水質や立地条件などによって適宜選択される。
【0003】
また、近年は、さらなる水不足の深刻化を受けて海水を脱塩して飲料水や用水を製造する、いわゆる海水淡水化が実用化されている。海水淡水化は、従来、水資源が極端に少なく、かつ、石油による熱資源が非常に豊富である中東地域で蒸発法を中心に実用化されてきていたが、エネルギー効率の高い逆浸透膜法が採用され、この逆浸透膜法によれば近くに熱源がなくても高効率で海水から淡水を得られるようになってきている。最近では、逆浸透膜法の技術進歩による信頼性の向上やコストダウンが進み、熱源が豊富な中東においても多くの逆浸透膜法海水淡水化プラントが建設され始めている。
【0004】
通常、海水を直接、逆浸透膜に通すと海水中に含有される懸濁物質や生物などの侵入により、膜表面が傷つく、膜表面への付着によって膜性能(透水性能、阻止性能)が低下する、膜への流路が閉塞する、といったトラブルを生じるため、逆浸透膜へ供給する海水の水質には注意が必要である。すなわち、逆浸透膜法海水淡水化においても旧来の浄水技術が必要とされ、必要に応じて凝集沈澱、加圧浮上を併用しつつ、砂ろ過によって懸濁物質や微生物などを除去した清澄な海水を逆浸透膜に供給するのが一般的である。また、最近では、砂ろ過に代わって、サブミクロンの細孔を有する精密ろ過膜や、さらに0.01ミクロンレベルの分離性能を有する限外ろ過膜が採用されつつある。
【0005】
ここで、砂ろ過の場合も、膜ろ過の場合も、自然水中の不純物を効率的に除去するために、凝集剤を添加すると効率的である。とくに、膜ろ過のように微細孔による精度の高い分離が困難な砂ろ過の場合においては、凝集剤を添加して比較的大きな凝集体(フロック)を形成させないと、不純物が砂に代表されるろ材をすり抜けてしまい、清澄な処理水が得られにくい。凝集剤は無機系と有機系に大別されるが、無機系凝集剤の方がコストが安いために一般的に使用される。しかし、処理対象水の水質によっては、無機系凝集剤は十分な大きさを有するフロックを形成させることが出来ない場合があり、その場合は、無機系凝集剤で形成した微小フロック同士を束ねて大きなフロックにすることを目的とし、後段で無機系もしくは有機高分子凝集剤を、いわゆる凝集助剤として使用することが一般的である。
【0006】
これらの凝集剤の種類や添加条件を決定するには、ビーカーに処理対象水をサンプリングして撹拌しながら凝集状態を観察し、最も凝集状態がよい条件を見出すジャーテスターや、試験管で沈降速度を比較するシリンダーテスターの適用が一般的である。しかし、処理対象水が自然水である場合には、降雨、風、海流といった環境変動によって短時間で大きな水質変動が生じるため、これらテストで決めた凝集条件が、実際に処理している原水の水質に常時適合するものではない。このため凝集剤の添加濃度を最適に決めるのは困難であり、また凝集条件をフレキシブルに変化させることは困難であった。凝集剤を添加した原水を分離膜で処理する場合、原水中の不純物が多く、凝集剤の添加量が不十分だと十分なフロックが形成されず、その結果分離膜で十分な阻止性能が得られず、処理水質が悪化する。さらに、分離膜細孔内に懸濁粒子が侵入し、分離膜のろ過性能を損なってしまう可能性が増大する。一方、凝集剤を過剰添加すると、凝集剤のリークが起こってやはり処理水質が悪化する問題の他、凝集剤の種類によっては、凝集フロックの分離膜への吸着を促進し、分離膜の汚染、ろ過性能の低下へつながる。
【0007】
この問題を解決するために、原水、凝集処理水、分離膜の圧力上昇などに応じて、凝集条件を制御する方法として、原水濁度に応じてフロック粒径を最適化するように硫酸バンドやポリ塩化アルミニウム等の凝集剤添加濃度を制御する方法(特許文献1)、紫外線吸光度の測定値によって凝集剤添加濃度を制御する方法(特許文献2)、凝集後の分離膜におけるろ過圧力上昇速度に応じて凝集剤添加濃度を制御する方法(特許文献3)、原水の色度と濁度に応じて凝集剤の添加量を制御する方法(特許文献11)、リン濃度に基づく方法(特許文献5)、有機物濃度に基づく方法(特許文献6)、凝集フロックのゼータ電位が0mV未満になるように、カチオン系凝集剤による凝集条件を制御する方法(特許文献7)、オゾンを添加しつつ残留オゾン濃度を測定し、凝集剤の注入量を増加させる方法(特許文献8)、溶解性有機炭素や化学的酸素要求量を測定し、凝集剤の添加を決定する方法(特許文献9)など数多くの制御方法が提案されている。特に、特許文献9に示される凝集フロックと分離膜の荷電の関係によって、膜への凝集剤の付着が促進されることは、電気化学的に本質をついており、凝集剤の膜面付着による分離膜の性能低下を防止するための指標として、ゼータ電位に着目することは非常に効果的である。
【0008】
また、原水濁度と関係なく分離膜への不純物の蓄積を低減させるために、分離膜表面における凝集物の蓄積に伴って凝集剤の添加濃度を減じる方法(特許文献12)、膜ろ過開始後一定時間で凝集剤の添加を停止する方法(特許文献6)、ろ過圧力によって凝集剤の添加条件を変動させる方法(特許文献14)、予め大きめの凝集フロックを沈降分離して、分離膜への負荷を低減する方法(特許文献15)、凝集剤を過剰添加した場合、ろ過処理水にリークし、処理水水質が悪化するため、処理水の凝集剤濃度を測定し、凝集剤添加濃度を制御する方法(特許文献14)、凝集フロックの原水が既に凝集処理されているかどうかによって再度凝集処理する条件を決定する方法(特許文献15)も提案されている。これらの公知例(特許文献2〜15)には、カチオン凝集剤として、塩化第二鉄、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、カチオン高分子凝集剤いずれかについての使用が記載されている。
【0009】
しかしながら、原水水質などに応じて、凝集剤の添加濃度を制御する方法は、設備コストがアップする一方、原水水質と添加濃度の関係把握が容易でなく、複雑な制御が必要となり、さらに、いずれの方法も、例えば、にわか雨が降った場合など、原水水質の大幅な変動にタイムラグなく対応するのは非常に困難であり、分離膜の汚染を防止するのは容易でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−57739号公報
【特許文献2】特開平8−117747号公報
【特許文献3】特開平10−15307号公報
【特許文献4】特開2004−330034号公報
【特許文献5】特開2005−125152号公報
【特許文献6】特開2008−68200号公報
【特許文献7】特開2009−248028号公報
【特許文献8】特開2009−255062号公報
【特許文献9】特開2010−12362号公報
【特許文献10】特開2001−70758号公報
【特許文献11】特開2002−336871号公報
【特許文献12】特開2008−168199号公報
【特許文献13】特開2009−226285号公報
【特許文献14】特開2010−201335号公報
【特許文献15】特開2011−161304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、分離膜を用いて原水中の懸濁物質などの不純物を効率的に除去すること、とくに、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いて、逆浸透膜ユニットの供給水として十分に水質の高い清澄水を安定的に製造する水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
【0013】
原水にカチオン系凝集剤を添加して凝集1次処理水とし、
凝集1次処理水のゼータ電位が0mV未満の場合には、凝集1次処理水をそのまま最終凝集処理水とし、
凝集1次処理水のゼータ電位が0mV以上の場合には、そのゼータ電位が0mV未満になるようにアニオン系物質を添加して最終凝集処理水とし、
最終凝集処理水を表面ゼータ電位が0mV未満である分離膜によって処理し、処理水を得ることを有する水処理方法。
【0014】
さらに好ましい態様として本発明は以下の構成を有する。
(2)添加されるカチオン系凝集剤の凝集1次処理水中の濃度Cop1を、それぞれ予め決定した下記で定義されるCminより大きくCmaxよりも小さな値に設定する前記水処理方法。
Cmin:原水の水質指標が最小になるときに最大の凝集効果が得られるカチオン系凝集剤の凝集1次処理水中の濃度
Cmax:原水の水質指標が最大になるときに最大の凝集効果が得られるカチオン系凝集剤の凝集1次処理水中の濃度
(3) 原水の水質指標が、濁度、微粒子濃度、総懸濁物質(TSS)濃度、総有機炭素(TOC)濃度、溶解性有機炭素(DOC)濃度、化学的酸素要求量(COD)、生物学的酸素要求量(BOD)、および紫外線吸収量(UVA)からなる群から選ばれる少なくとも一つである前記水処理方法。
(4) 純水にカチオン系凝集剤を濃度が(Cmax−Cmin)となるよう添加した水に対して、ゼータ電位が0mV未満となるためのアニオン系物質の添加濃度Cop2を予め決定し、凝集1次処理水に前記アニオン系物質を凝集1次処理水濃度Cop2となるように添加する前記いずれかに記載の水処理方法。
(5)カチオン系凝集剤が無機系凝集剤、前記アニオン系物質が有機系凝集剤である前記いずれかに記載の水処理方法。
(6)分離膜で処理した処理水をさらに表面ゼータ電位が0mV未満である半透膜で脱塩する前記いずれかの水処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水処理方法によれば、海水や河川水などの水中の不純物を凝集させ、分離膜によって分離除去するときに、分離膜の性能を維持しつつ、高品質の清澄水を安定的に得ることが可能となる。
【0016】
とりわけ、カチオン系凝集剤およびアニオン系物質の添加濃度を適正にすることにより、原水水質が変動した場合にも安定して水質の高い清澄水を低コストで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の水処理方法を適用する水処理装置の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の水処理方法を適用する淡水製造装置の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれら下記の実施態様に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明を適用可能な水処理装置の一例を示すフロー図である。
【0020】
図1において、原水aは、原水タンク1に貯留され、取水ポンプ2で取水され、カチオン系凝集剤添加ユニット3で、正荷電を有するカチオン系凝集剤を添加した後、第1撹拌水槽4および第1撹拌機5によって、フロック形成・成長させた凝集1次処理水bになる。続いて、凝集1次処理水bは、凝集1次処理水bのゼータ電位が0mV以上の場合には、アニオン系物質添加ユニット6で、負荷電を有するアニオン系物質を添加した後、第2撹拌水槽7および第2攪拌機8によって、カチオン凝集剤を中和し、そして凝集フロックをさらに成長させた最終凝集処理水cとする。一方、凝集1次処理水bのゼータ電位が0mV未満の場合には、アニオン系物質を添加することなく、凝集1次処理水bをそのまま最終凝集処理水cにする。ここでアニオン系物質は、前段で添加されたカチオン凝集剤が過剰な場合は、カチオン凝集剤を中和するように作用する。一方カチオン凝集剤が過剰でない場合は、前段で形成された、全体としてアニオン荷電を有する凝集フロックのカチオン荷電部分に作用し、凝集フロックを大きく成長させるように作用する。
【0021】
上記のように処理された凝集フロックを形成した不純物を含む最終凝集処理水cは、加圧ポンプ9によって、表面ゼータ電位が0mV未満、すなわち表面荷電が負荷電を帯びた多孔質膜を用いた分離膜ユニット10に送られ、分離膜で透過した透過水は清澄化処理を施された処理水dとして、ろ過水タンク11に貯留される。
【0022】
ここでゼータ電位とは、固体と液体の界面を横切って存在する電気的ポテンシャルを示すものであり、水中のコロイド粒子についての表面電荷を示す。通常、自然水中に含まれるコロイド粒子は負に帯電しているため、粒子同士が電気的に反発し、水中に分散している。凝集剤は、この荷電を中和することによって反発力を弱め、その後集塊、つまり凝集を行う。
【0023】
凝集第1次処理水のゼータ電位ζは、凝集フロックの電気泳動による移動速度から算出することができる。計算の測定には例えば電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などの表面電位測定装置が使用できる。また、一定圧力差で凝集処理水を押し流した際に電極間に発生する流動電位Eから、Helmholtz−Smoluchowskiの式(下記式(1)参照)を用い、凝集フロックのゼータ電位を算出する方法によって求めることもできる。
ζ=E/ΔP×(η・λ)/ε・ε(1)
:一定圧力差で凝集処理水を押し流した際に電極間に発生する流動電位(mV)
ΔP:電極間の圧力差(mBar)
η:凝集処理水の粘度(Pa・s)
λ:凝集処理水の導電率(S/cm)
ε:凝集処理水の誘電率(−)
ε:真空中の誘電率(=8.854×10−12)(F/m)
なお、ηは凝集処理水の水温から算出しても構わないし、市販の粘度計、例えば、A&D社粘度計SV−10を用いて測定しても構わない。
【0024】
本発明において、カチオン系凝集剤は、正荷電を有し、負荷電物質を選択的に凝集しやすい凝集剤であれば、特に制約されるものではない。安価かつ微粒子の凝集力に優れた無機系の凝集剤や、価格は高くなるが官能基が非常に多いために凝集力が大きい有機系高分子凝集剤などを用いることができる。無機系凝集剤の具体例としては、塩化第二鉄、(ポリ)硫酸第二鉄、硫酸バンド、(ポリ)塩化アルミなどが好ましい。とくに、飲料水用途に使用する場合は、アルミニウムの濃度が問題になる可能性があることから、鉄系、とくに安価な塩化第二鉄の適用が好ましい。また代表的な高分子系凝集剤としては、アニリン誘導体、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリアミド、カチオン変性ポリアクリルアミド等を挙げることが出来る。
【0025】
一方、アニオン系物質は、負荷電を有するものであれば、特に制約されるものではなく、水中で負に帯電するものであれば本発明に適用することができる。例として、ハロゲン、硫酸イオン、チオ硫酸イオン、ヘキサシアノ鉄酸イオン、を対イオンとする酸との塩や、前記列挙した対イオンとする酸とアンモニウムイオンなどの弱塩基との塩、ドデシル硫酸塩やドデシルスルホン酸塩のようなアニオン系界面活性剤、アニオン系の高分子凝集剤があげられる。アニオン系の高分子凝集剤としては、例えば、天然有機系高分子であるアルギン酸や、有機高分子系凝集剤としては、ポリアクリルアミドが代表的である。なかでもアルギン酸やポリアクリルアミドが正荷電物質を選択的に凝集し易いという観点から非常に好ましいアニオン系物質である。
【0026】
分離膜としては、最終凝集処理水と同じpH、温度、イオン強度における表面荷電が負に帯電、すなわち表面ゼータ電位が0mV未満であればよい。ここで分離膜の表面ゼータ電位ζは、電気泳動光散乱装置(ELS−8000:大塚電子(株)製)などの表面電位測定装置を用いて測定することができる。また、ある膜間差圧でろ過および/または逆洗した際に発生する流動電位Eから、Helmholtz−Smoluchowskiの式(下記式(2)参照)を用い、膜のゼータ電位ζを算出する方法によって求めることもできる。
ζ=E/ΔP×(η・λ)/ε・ε(2)
:ある膜間圧力でろ過または逆洗した際に電極間に発生する流動電位(mV)
ΔP:膜間差圧(mBar)
η:ろ過または逆洗する水の粘度(Pa・s)
λm:ろ過または逆洗する水の導電率(S/cm)
ε:ろ過または逆洗する水の誘電率(−)
ε:真空中の誘電率=8.854×10−12(F/m)
オンラインによる膜モジュール内の膜のゼータ電位測定は、特開2005−351707号公報に記載されているように、上記式(2)を用いて、膜モジュールを設置した膜ろ過装置の膜間差圧計により求められる膜間差圧(ΔP)、この膜間差圧(ΔP)でろ過または逆洗した際に発生する膜間電位計により求められる流動電位(E)、ろ過または逆洗水の導電率計より求められる導電率(λ)、ろ過または逆洗水の水温計から求められる水温から算出される溶液の粘度(η)により計算可能である。なお、この値は膜間差圧(ΔP)と流動電位(E)は、ろ過あるいは逆洗が行われている時に測定可能であり、薬液浸漬洗浄などの膜間での水の移動がない場合は測定することができない。この場合、原水のろ過を再開した際や、ろ過水による逆洗を行う際に測定することが可能である。
【0027】
分離膜の具体例としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等により形成された分離膜や、それらの膜に表面修飾を施して負荷電を帯びさせた表面改質膜などをあげることができる。また、分離膜の種類としては、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜が好ましい。ナノろ過膜としては細孔径が大きめの膜が好ましい。すなわち、1ミクロン以下1nm以上の細孔を有する分離膜によって、凝集フロックを分離することが好ましい。また、分離膜の形状としては、特に制約はなく、中空糸型、キャピラリー型、平膜型、スパイラル型など、様々な形状のものを適用することができる。
【0028】
本発明の水処理方法において、カチオン系凝集剤の添加量を決定するにあたって、その方法は特に制約されるものではない。ただす、本発明を効果的に適用するためには、原水水質の変動を常に考慮し、頻繁に水質を測定したり、凝集性を評価するためのラボ試験を実施したりするのではなく、凝集剤の凝集1次処理水中の濃度を原則として一定とするように行うことが好ましい。すなわち、予め、原水を所定の期間にわたり複数回サンプリングし、それらの水質指標を算出する。「所定の期間」としては、特に制限されるものではなく、1年間のデータに基づいて決定することもできるが、例えば、季節毎に決定することも可能である。水質指標については後述する。これらのうち、水質指標が最大になるときの原水および最小になるときの原水それぞれに対して、それぞれカチオン系凝集剤を添加して、凝集効果を評価する凝集試験行う。ここで、凝集試験は、特に制限はないが、撹拌条件を同じにした複数のビーカーに、原水、および原水中のカチオン系凝集剤の濃度が異なるようにカチオン系凝集剤を添加し、凝集性が最も良いものを凝集効果が最大であると見なす、いわゆる「ジャーテスト」と呼ばれる方法で評価することができる。なお、凝集性の良し悪しは、凝集試験後一定時間経過後の上澄みを目視観察したり、水質指標を評価することによって判断することができる。水質指標が最大のときの原水と最小のときの原水それぞれにおいて最も凝集効果が大きかったときの、添加されるカチオン系凝集剤の濃度をCmax、Cminとする。このとき、水質指標が最大のときの原水に濃度Cmaxとなるようカチオン系凝集剤を添加したときのゼータ電位ζmax、および水質指標が最小のときの原水に、濃度Cminとなるようカチオン系凝集剤を添加したときのゼータ電位ζminをそれぞれ測定する。
【0029】
上記測定で得られたゼータ電位ζmaxおよびζminがいずれも0mV未満の場合には、常時、カチオン系凝集剤の添加濃度Cop1をCmaxと実質的に等しくなるように原水aに添加し、得られた凝集1次処理水を最終凝集処理水とする。すなわち、後述するアニオン系物質の添加は行わない。
【0030】
一方、ゼータ電位ζmax,ζminの少なくとも一つが0mV以上の場合、カチオン系凝集剤濃度Cop1をCminより大きく、Cmaxより小さい値として、選択する。この場合、原水aに対してカチオン系凝集剤を濃度Cop1となるよう添加し、凝集処理することにより、凝集1次処理水が得られる。この凝集1次処理水は、そのゼータ電位が0mV以上であるときがあるので、その時はアニオン系物質を添加する必要がある。
【0031】
次に凝集1次処理水に添加されるアニオン系物質の濃度Cop2の決定方法について説明する。予め純水にカチオン系凝集剤を濃度CmaxとCminとの差(Cmax−Cmin)となるように添加した水を用意する。この水に対して、ゼータ電位が0mV未満になるようにするアニオン系物質の濃度を、凝集1次処理水に添加するアニオン系物質の濃度Cop2として決定することが好ましい。これによって、たとえ、カチオン系凝集剤を最大に添加した場合(すなわち、添加濃度Cmaxで添加した場合)でも、アニオン系物質を添加濃度Cop2で添加し凝集処理した最終凝集処理水c中、すなわち、分離膜への供給水中のカチオン系凝集剤が過剰になって、分離膜でろ過される凝集フロックが正荷電を帯びることがなくなる。これにより0mV未満の荷電を有する分離膜へ凝集フロックが吸着するのを抑制することができる。この好適な処理方法では、後段で添加するアニオン系物質が多めになるが、自然水に含有される有機物などの不純物は構造が複雑であるため、アニオン系物質が高分子系であれば、不純物と接触し凝集する可能性が高いため、不純物が分離膜をリークする可能性は低い。また、仮に凝集していない高分子アニオン系物質は、分離膜の負荷電によって分離膜細孔内に侵入しにくいため、処理水にリークするのを防ぐことができる。
【0032】
なお、原水が一般的な自然水のときでは原水のゼータ電位が0mV未満の場合が多いが、工業廃水などのなかには、不純物が多様であるため、不純物が正荷電、すなわち、原水のゼータ電位が0mV以上の場合もある。ゼータ電位が常に0mV以上である原水を処理する場合は、カチオン系凝集剤の添加濃度を0とし、アニオン系物質を添加して最大効果が得られる添加濃度を複数測定し、これらのなかで最大の添加濃度を得、これをCop2とするのが好ましい。
【0033】
以上の決定方法は、過去の原水サンプリングに基づいて行うことが出来るため、Cmax,Cmin,Cop1およびCop2を、一定期間、例えば1年間のデータに基づいて決定することもできるが、例えば、季節毎に決定することも可能である。
【0034】
原水の水質を測定、評価するに際しては、水質指標として、濁度、微粒子濃度、総懸濁物質(TSS)濃度、総有機炭素(TOC)濃度、溶解性有機炭素(DOC)濃度、化学的酸素要求量(COD)、生物学的酸素要求量(BOD)、および紫外線吸収量(UVA)が好ましい評価項目として挙げられるが、もちろん、これらに限定されるものではない。また、丹保、亀井による文献(JWWA Journal 62(9) 28−40 (1994)、Water Research 12(11) 931−950 (1978))に示されている有機物の中でも凝集し易い成分である芳香族性の高いフミン質の占める割合を推定する水質指標であるSUVA(TOCとUVAの比)を評価項目として挙げることも好ましい。上述した水質指標は、公知の方法により算出することができる。
【0035】
このようにして得られた処理水を、更に高精度の膜で処理することによって純度の高い水を得ることができる。とくに、最近では、海水淡水化、下水再利用、浄水高度処理などの分野では、原水に凝集剤を添加し、精密ろ過膜や限外ろ過膜で清澄な水を得て、その清澄な水を半透膜で脱塩して、飲料水や工業用水などに利用する技術が世界中で実用化されている。図2には、その代表的なプロセスフローを示す。ここでは、図1に示す水処理プロセスで得られた処理水dを保安フィルター12に通し、高圧ポンプ13で昇圧、半透膜ユニット14によって脱塩水eを得るものである。
【0036】
ここで、本発明の水処理方法を適用した場合、表面ゼータ電位が0mV未満である分離膜によってカチオン系凝集剤が分離膜ユニット10からリークすることを防ぐことができるが、アニオン系物質がリークする可能性が0ではない。このため、半透膜ユニット14を構成する半透膜のゼータ電位が0mV未満であることが好ましい。これによって、万一、半透膜ユニット14に凝集剤、さらには、分離膜10に異常が発生し、その結果損傷して凝集フロックがリークしてきた場合でも、凝集剤が半透膜に吸着することを防止できるので非常に好ましい。なお半透膜ユニット14で処理された透過水は脱塩水タンクに送られ、濃縮水は濃縮水流量調節バルブ15、濃縮水ライン16を通って排出される。
【0037】
なお、分離膜および半透膜のゼータ電位は、水の温度、pH、イオン強度によって変動するため、その値は、膜が暴露される被処理水(最終凝集処理水cおよび処理水d)と温度、pH、イオン強度が同じ環境の元で測定されるものである。
【実施例】
【0038】
原水として、海水を1週間毎に6ヶ月間サンプリングし、TOCを測定したところ、TOCの最大値は5.5mg/l、最小値は1.2mg/lであった。TOC=5.5mg/lの海水1Lをビーカーに入れ、回転数150rpm、攪拌時間3minの攪拌条件で、カチオン系凝集剤として塩化第二鉄を添加するジャーテストを行った。上澄みのUV(254nm)吸収を測定して評価した結果、最も凝集効果が高い凝集剤濃度は、Cmax=14.5mg/l、ゼータ電位ζmax=−4.5mV、であった。同様にTOC=1.2mg/lの海水でジャーテストを行った結果、最も凝集効果が高い凝集剤濃度は、Cmin=2.9mg/l、ゼータ電位ζmin=−5.4mVであった。
【0039】
アニオン系物質として、多木化学社製“タキフロック” A−112Tを使用し、純水に塩化第二鉄を濃度CmaxとCminとの差、すなわち(Cmax−Cmin)=11.6mg/lの濃度で添加した水に、ゼータ電位が0mV未満になるアニオン系物質の添加濃度を測定したところ、Cop2=5.0mg/Lであった。
【0040】
<実施例1>
図2に示す構成の淡水製造装置を用いて造水を行った。すなわち、分離膜ユニット10には、東レ(株)製の分画分子量15万Daのポリフッ化ビニリデン製中空糸UF膜(表面ゼータ電位:−10±1mV)で膜面積が11.5mの加圧型中空糸膜モジュール(HFU−2008)1本を用い、加圧ポンプ9を稼働し、前記のTOCが1.2mg/L〜5.5mg/L、塩濃度が3.5重量%の海水(約20℃)をろ過流束3m/dで全量ろ過した。なお、図2には図示していないが、分離膜ユニット10には、ろ過水を膜の2次側から1次側に供給する逆洗ポンプと、分離膜ユニット10の下部から膜の1次側に空気を供給するコンプレッサーが備えられている。30分間連続運転した後、ろ過を一旦中断し、逆洗流束3.3m/dの逆圧洗浄と分離膜ユニット10の下部から14L/minで空気を供給する空気洗浄とを同時に行う物理洗浄を1分間実施し、その後、分離膜ユニット10内の汚れを排水した後、通常のろ過に戻るサイクルを繰り返し行った。
【0041】
また、半透膜ユニット14には、東レ(株)製逆浸透膜エレメント(TM810C)1本を用い、RO供給流量23.3m/d、透過流量2.8m/d(回収率12%)で運転した。なお、半透膜ユニット14は、分離膜ユニット10が物理洗浄を行っている間、ろ過水タンク11に貯留されたろ過水を用いて運転継続した。
【0042】
その結果、分離膜ユニット10はろ過差圧55kPa〜100kPaの範囲を推移し、安定運転できた。また、半透膜ユニット14の運転圧力は5.0〜5.5MPaで3ヶ月間安定運転できた。
【0043】
この際、凝集剤として、カチオン系凝集剤添加ユニット3によって、ジャーテストで得られた添加量CmaxとCminに基づき、Cop1として、塩化第二鉄を凝集槽での濃度が約8.7mg/lとなるよう常時添加し、得られた凝集1次処理水のゼータ電位は+5.5mV(平均値)であった。その後、アニオン系物質添加ユニット6によって、アニオン系物質を濃度が5.0mg/lとなるよう添加し、得られた最終凝集処理水のゼータ電位は−6.9mV(平均値)であった。また分離膜ユニット10の表面ゼータ電位は−10mVであった。半透膜ユニット14の表面ゼータ電位は−30mVであった。
【0044】
<実施例2>
塩化第二鉄の添加濃度Cop1をCmin=2.9mg/lとし、得られた凝集1次処理水にアニオン系物質を添加しない他は、実施例1と同じ条件で運転した。最終凝集処理水のゼータ電位は、−1.2mV(平均値)であった。その結果、分離膜ユニット10はろ過差圧55kPa〜120kPaの範囲を推移し、比較的安定して運転できた。凝集剤添加不足による未凝集成分が分離膜ユニット10を通り抜け、半透膜ユニット14運転圧力は5.0〜5.5MPaで2ヶ月間安定運転できたが、その後、1ヶ月で、6.5MPaまで上昇し、半透膜ユニット14のファウリング進行が示唆された。
【0045】
<比較例1>
凝集1次処理水にアニオン系物質を添加しない他は実施例1と同じ条件で運転した。最終凝集処理水となった凝集1次処理水のゼータ電位は、+5.5mV(平均値)であった。その結果、半透膜ユニット14の運転圧力5.0〜5.5MPaで3ヶ月間安定運転できた。しかし、実施例1と比べ、分離膜ユニット10は1ヶ月後にはろ過差圧が150kPaを越え、連続運転の継続が困難になった。
【0046】
<比較例2>
凝集1次処理水にアニオン系物質を濃度1.0mg/lとなるよう添加し、得られた最終凝集処理水のゼータ電位を+4.2mV(平均値)にした他は、実施例1と同じ条件で運転した。その結果、半透膜ユニット14の運転圧力5.0〜5.5MPaで3ヶ月間安定運転できた。しかし、実施例1と比べ、分離膜ユニット10は2ヶ月後にはろ過差圧が180kPaまで上昇し、連続運転の継続が困難になった。
【0047】
<比較例3>
原水にカチオン系およびアニオン系物質を添加しない他は、実施例1と同じ条件で運転した。最終凝集処理水(すなわち原水)のゼータ電位は−11.7mV(平均値)であった。その結果、分離膜ユニット10はろ過差圧55kPa〜135kPaの範囲を推移し、比較的安定運転できた。しかし、半透膜ユニット14の運転圧力ははじめ5.0〜5.5MPaであったが、1ヶ月後には運転圧力の上昇が見られはじめ、2ヶ月後には、連続運転の継続が困難になった。
【符号の説明】
【0048】
1:原水タンク
2:取水ポンプ
3:カチオン系凝集剤添加ユニット
4:第1撹拌水槽
5:第1撹拌機
6:アニオン系物質添加ユニット
7:第2撹拌水槽
8:第2攪拌機
9:加圧ポンプ
10:分離膜ユニット
11:ろ過水タンク
12:保安フィルター
13:高圧ポンプ
14:半透膜ユニット
15:濃縮水流量調節バルブ
16:濃縮水ライン
17:脱塩水タンク
a:原水
b:凝集1次処理水
c:最終凝集処理水
d:処理水
e:脱塩水
図1
図2