(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ねじ穴を有する金属板と、貫通孔を有する部材と、前記貫通孔に挿入された状態で前記ねじ穴にねじ込まれて前記金属板と前記貫通孔を有する部材とを結合する雄ねじと、を具備する筐体であって、
前記金属板が、請求項1または2に記載のねじ穴付き金属板であることを特徴とする筐体。
厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記外壁部および前記円板部を成形するステップで、下記(1)式を満たす半径R(mm)の肩寸法を有するパンチを用いることを特徴とする、請求項4に記載のねじ穴付き金属板の製造方法。
0.5≦R/t≦1.0 (1)式
厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記外壁部および前記円板部を成形するステップで、下記(1)式を満たす半径R(mm)の肩寸法を有するパンチを用いることを特徴とする、請求項8に記載のねじ穴付き金属板の製造方法。
0.5≦R/t≦1.0 (1)式
厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記下穴をあけるステップで、前記円板部を形成するステップ後の前記下穴の半径r(mm)が下式(2)を満たすように、前記下穴をあけることを特徴とする、請求項8に記載のねじ穴付き金属板の製造方法。
0.5≦r/t≦1.2 (2)式
【背景技術】
【0002】
エアコンの室外機や変電設備の筐体には、切断加工や曲げ加工により様々な形状に加工された金属板が多用されている。この種の金属板と、筐体を構成する他の金属板や付属部品との取り付け部分には、ねじ構造が広く用いられているため、金属板にねじ穴を造形する場合がある。
【0003】
図11は、従来の金属板が有するねじ穴を模式的に示す図であって、ねじ穴の中心軸線を含む断面で見た場合の縦断面図である。同図には、ねじ穴を有する金属板510を示しているが、その構成の理解を容易にするために、さらに、雄ねじ550と、貫通孔551aを有する他の金属板551とを想像線で示している。同図に示す金属板510は、ねじ穴の役割を果たす円筒状の縦壁部511を有する(以下、この縦壁部511をねじ穴511と呼ぶ場合が有る)。縦壁部511は、一端が金属板の本体513と連続し、内周面に雌ねじ511bが形成されている。この金属板510に対し、貫通孔551aを有する金属板551を重ね合わせて取り付ける際には、貫通孔551aに雄ねじ550を挿入してねじ穴511内にねじ込むことにより結合する。このねじ穴511は、バーリング加工を用いて金属板に形成でき、加工が最も簡便であることから多用されている。
【0004】
図12A及び
図12Bは、従来の金属板におけるねじ穴の加工工程の一例を模式的に示す縦断面図であり、
図12Aは穴あけステップを示し、また
図12Bはバーリングステップを示す。ねじ穴511の加工にあたり、最初に、加工対象の金属板520に下穴をあける。下穴の穴あけは、せん断加工や切削加工によって行うことができる。せん断加工により下穴をあける場合は、例えば、
図12Aに示すような穴あけ用のパンチ531および穴あけ用のダイ532を用いる。パンチ531とダイ532とを相対的に近づけることにより、パンチ531とともに金属板520の一部をダイ532の貫通孔内に押し込む。その結果、パンチ531およびダイ532のそれぞれに設けられた刃により金属板520の一部を切り取って分離させることで、下穴をあける。
【0005】
下穴があけられた金属板520に、バーリング加工によって縦壁部となる伸びフランジを成形する。バーリング加工には、
図12Bに示すように、バーリング用のパンチ533、バーリング用のダイ534およびブランクホルダ539を用いる。バーリング加工では、ダイ534およびブランクホルダ539により金属板520を挟持した状態で、パンチ533と、ダイ534及びブランクホルダ539とを相対的に近づけるように移動させて、パンチ533とともに金属板520の下穴の周辺部分をダイ534の凹部内に押し込む。その結果、金属板520の下穴の周辺部分がパンチ533の押し込み方向に伸ばされながら同時に径方向にも拡大し、その結果、円筒状の伸びフランジ、すなわち、縦壁部511が成形される。
【0006】
このように成形された円筒状の縦壁部511の内周面に例えばタップ(不図視)を用いて雌ねじ511bを加工することにより、ねじ穴511を金属板520に造形できる。
【0007】
金属板のねじ穴について、例えば特許文献1に示すように、従来から種々の提案がなされている。特許文献1に提案される筐体は、その構成部材のうちの第2板金部材にねじ穴が形成されている。第2板金部材のねじ穴は、板金部材の端縁が折り返されて互いに対向配置されるように形成された第1平板部および第2平板部を有している。第2板金部材のねじ穴は、さらに、第1平板部から円筒状に突出するとともに内周面に螺合部を有する第1円筒部と、第2平板部から円筒状に突出するとともに内周面に螺合部を有し、第1円筒部と略直列に並ぶ第2円筒部とを有している。この第2板金部材によれば、雌ねじが第1円筒部および第2円筒部の内周面に螺合部として形成されているので、雄ねじと接触する軸方向の寸法を長くして締め付けトルクを確保できると説明されている。
【0008】
また、特許文献2には、第1筒状部が形成された第1薄板と、第2筒状部が形成された第2薄板とを、前記第2筒状部内に第1筒状部を同軸に嵌め込むように重ね合わせた後、第2薄板側からタッピングねじを第1筒状部の内周面に螺合させることで、第2薄板を第1薄板に対して締結する構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図11に示したような従来の金属板510のねじ穴では、バーリング加工により成形された縦壁部(伸びフランジ)511の内周面に雌ねじ511bが形成されている。このようにバーリング加工により造形されたねじ穴511では、家電製品や自動車部品等に用いられる、軽量化が求められる金属板の薄肉化に伴い、雄ねじとの締結力が低下する。また、ねじ穴511の変形によってねじ穴511のねじ山と雄ねじ550のねじ山とが噛み合わない状態、すなわち、ねじ穴511が破損する場合もある。
【0011】
また、前述の特許文献1では、ねじ穴として、互いに対向配置された第1平板部および第2平板部を有し、これら第1平板部および第2平板部に、螺合部を有する円筒部をそれぞれ設ける構成が提案されている。この構成によれば、雄ねじと接触する雌ねじの軸方向の寸法を長くして締め付けトルクを確保できると説明されている。このねじ穴を形成する場合、第1平板部に下穴をあけた後でバーリング加工をすることで円筒部を設けるとともに、第2平板部に下穴をあけた後でバーリング加工をすることで円筒部を設け、その後、第2平板部に第1平板部が重なるように折り返し、さらに雌ねじを加工する必要がある。このように、加工に6つのステップを要し、加工数が大幅に増加する。また、第2平板部に第1平板部が重なるように折り返す際、2つの円筒部の中心を互いに一致させる必要があり、高い折り曲げ精度が要求される。これらから、特許文献1に記載のねじ穴を金属板に加工すると、加工コストが大幅に上昇するという問題が有った。
【0012】
さらに、前述の特許文献2では、その段落番号[0014]に「第1筒状部を半径方向外方に膨らませて第2筒状部に圧接させるので、薄板同士が緩みなくしっかりとネジ部材で固定される」と記載されているように、第1筒状部及び第2筒状部間の遊びを無くし、これにより第1薄板及び第2薄板間の相対的な位置ずれ防止を狙っている。
この構造では、第2筒状部の内径と第1筒状部の外径との寸法差が大きいと、例え第1筒状部を半径方向外方に膨らませても、十分に第2筒状部に圧接させることができず、その結果として上記の効果が得られない虞がある。よって、十分な締結力を得るためには、上記の寸法差(遊び寸法)をある程度小さくしておくことが望ましいが、今度は、第2筒状部内への第1筒状部の嵌め込み作業が難しくなり、場合によっては、正しく嵌っていないにもかかわらずタッピングネジを誤ってねじ込んでしまう虞もある。そのような場合、当然ながら第1薄板及び第2薄板間を確実に固定することはできない。しかも、この種のねじ穴は、一カ所だけではなく多数設けられるのが一般的であることから、このような作業ミスが起こる確率が低くないことは否めない。したがって、特許文献2の構造でも、十分な締結力を確実に得るという観点からは必ずしも十分ではない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、加工コストの上昇を低減できるとともに、薄肉化した場合でもねじ穴が雄ねじとの締結力に優れてかつ、ねじ穴の破損を防止できるねじ穴付き金属板と、このねじ穴付き金属板を具備する筐体と、さらにはねじ穴付き金属板の製造方法との提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記問題を解決するために、
図11で説明した従来の金属板が薄肉化することによるねじの締結力低下や破損現象を分析し、下記(a)〜(d)の要因を得た。
(a)バーリング加工では、円筒状の縦壁部511の成形に伴って縦壁部511の根元部分が減肉する。なお、「根元部分」とは、
図11において二点鎖線で囲んで示すように、縦壁部511の、金属板の本体513と連続する部分511aを意味する。
(b)上記(a)の減肉によって肉厚が薄くなった根元部分までねじ溝を加工することから、肉厚が非常に薄い箇所が発生する。
(c)その肉厚が非常に薄い箇所が弾性変形して締結力が低下する。また、雄ねじ550のねじ込み(締め込み)作業の際に肉厚が非常に薄い箇所に塑性変形が生じ、ねじ穴511が破損する場合や破断に至る場合がある。
(d)雄ねじ550のねじ込み作業や緩め作業等の際に円筒状の縦壁部511が拡径方向に塑性変形し、ねじ穴511のねじ山が雄ねじ550のねじ山と当接する面積が減少する場合がある。この場合、締結力の低下が発生し、ねじ穴511の破損に至る場合もある。
【0015】
これらの現象を踏まえて鋭意検討した結果、本発明者らは、ねじ穴を、金属板から立ち上がる円筒状の外壁部と、その外壁部から内側に折り返されてなる円筒状の内壁部との二重壁として構成し、さらに内壁部の内周面に雌ねじを形成することを想到した。これにより、金属板の板厚を薄くした場合でも、ねじ穴が雄ねじとの締結力に優れるとともに、ねじ穴の破損を防止できる。
また、本発明者らは、ねじ穴の他の態様として、金属板から立ち上がる円筒状の内壁部と、その内壁部から外側に折り返されてなる円筒状の外壁部との二重壁として構成し、さらに内壁部の内周面に雌ねじを形成する構成でも、ほぼ同様の効果が得られることに想到した。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、その骨子を以下に示す。
【0017】
(1)本発明の一態様は、ねじ穴を有する金属板であって、前記ねじ穴が、前記金属板の一方の面から立ち上がる円筒状の
円周方向に連続した外壁部と、前記外壁部の端縁から前記外壁部の内側に折り返された円筒状の
円周方向に連続した内壁部とを備え、前記内壁部の内周面に雌ねじが形成され
、前記ねじ穴の前記雌ねじに雄ねじが螺合されていない状態では、前記外壁部の内周面より前記内壁部の外周面が離間し、前記ねじ穴の前記雌ねじに前記雄ねじが螺合されている状態では、前記外壁部の前記内周面に前記内壁部の前記外周面の少なくとも一部が当接する、ねじ穴付き金属板である。
(2)上記(1)に記載のねじ穴付き金属板では、前記内壁部の先端と、前記金属板の他方の面とが面一であってもよい
。
【0019】
(
3)本発明のさらに他の態様は、ねじ穴を有する金属板と、貫通孔を有する部材と、前記貫通孔に挿入された状態で前記ねじ穴にねじ込まれて前記金属板と前記貫通孔を有する部材とを結合する雄ねじと、を具備する筐体であって、前記金属板が、上記(1)
または(2)に記載のねじ穴付き金属板である。
【0020】
(
4)本発明のさらに他の態様は、上記(1)
または(2)に記載のねじ穴付き金属板を製造する方法であって、前記外壁部及び前記外壁部の内側に連続する円板部を前記金属板に成形するステップと、前記円板部の中心に下穴をあけるステップと、前記下穴があけられた前記円板部を、前記外壁部の内側に折り曲げて前記内壁部を成形するステップと、成形された前記内壁部の前記内周面に前記雌ねじを加工するステップとを有する。
(
5)上記(
4)に記載のねじ穴付き金属板の製造方法では、厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記外壁部および前記円板部を成形するステップで、下記(a)式を満たす半径R(mm)の肩寸法を有するパンチを用いてもよい。
0.5≦R/t≦1.0 (a)式
(
6)上記(
4)に記載のねじ穴付き金属板の製造方法では、厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記下穴をあけるステップで、前記下穴の半径r(mm)が下式(b)を満たすように前記下穴をあけてもよい。
0.5≦r/t≦1.2 (b)式
(
7)上記(
4)に記載のねじ穴付き金属板の製造方法では、厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記外壁部および前記円板部を成形するステップで、下記(a)式を満たす半径R(mm)の肩寸法を有するパンチを用い、前記金属板に前記下穴をあけるステップで、前記下穴の半径r(mm)が下式(b)を満たすように前記下穴をあけてもよい。
0.5≦R/t≦1.0 (a)式
0.5≦r/t≦1.2 (b)式
【0021】
(
8)本発明のさらに他の態様は、上記(1)
または(2)に記載のねじ穴付き金属板を製造する方法であって、下穴を前記金属板にあける穴あけステップと、前記下穴と同心に、前記外壁部、及び前記外壁部の内側に連続する円板部を成形するステップと、前記円板部を前記外壁部の内側に折り曲げて前記内壁部を成形するステップと、前記内壁部の前記内周面に前記雌ねじを加工するステップと、を有する。
(
9)上記(
8)に記載のねじ穴付き金属板の製造方法では、厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記外壁部および前記円板部を成形するステップで、下記(a)式を満たす半径R(mm)の肩寸法を有するパンチを用いてもよい。
0.5≦R/t≦1.0 (a)式
(
10)上記(
8)に記載のねじ穴付き金属板の製造方法では、厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記下穴をあけるステップで、前記円板部を形成するステップ後の前記下穴の半径r(mm)が下式(b)を満たすように、前記下穴をあけてもよい。
0.5≦r/t≦1.2 (b)式
(
11)上記(
8)に記載のねじ穴付き金属板の製造方法では、厚み寸法t(mm)の前記金属板に前記外壁部および前記円板部を成形するステップで、下記(a)式を満たす半径R(mm)の肩寸法を有するパンチを用い、前記金属板に前記下穴をあけるステップで、前記円板部を形成するステップ後の前記下穴の半径r(mm)が下式(b)を満たすように、前記下穴をあける、ようにしてもよい。
0.5≦R/t≦1.0 (a)式
0.5≦r/t≦1.2 (b)式
【発明の効果】
【0022】
上記(1)
または(2)に記載の、本発明の一態様に係るねじ穴付き金属板は、外壁部とその外壁部から内側に折り返されてなる内壁部とを有する二重壁構造を備えている。この構成によれば、内壁部の雌ねじに雄ねじを螺合させた際、内壁部が雄ねじによる押圧力を受けて径方向外側に押し広げられようとするが、その周囲にある外壁部により支えられるため、内壁部の過度の変形が規制される。その結果、ねじ穴の破損や、内壁部が過度に拡径することによる締結力の低下を防止できる。
締結力の観点でさらに言うと、内壁部を外壁部の内側に折り返して成形加工した際に生じるスプリングバック効果により、内壁部には常に縮径方向の弾性力が付与された状態にある。その結果、内壁部の雌ねじに雄ねじをねじ込んだ際に、雄ねじに対して雌ねじが常に押し付けられて密着した状態となるので、緩みの生じない高い締結力を確保できる。
破損防止の観点でさらに言うと、外壁部には従来有った雌ねじが形成されていないので、この外壁部の根元部分が雌ねじ形成によってさらに薄くなって破損しやすくなるのを防ぐことができる。また、内壁部の根元部分においては、雌ねじが形成されているものの、その周囲が外壁部により覆われた二重壁構造をなしているため、破損しにくい。このように、ねじ穴の2箇所の折り曲げ部分のそれぞれにおいて高い強度を確保出来ているので、破損を防止することが出来る。
以上説明のように、本態様のねじ穴付き金属板によれば、その板厚を薄くしても、ねじ穴が雄ねじとの締結力に優れるとともにねじ穴の破損を防止できる。
【0024】
上記(
3)に記載の態様に係る筐体は、上述のねじ穴付き金属板を具備することから、ねじ穴が雄ねじとの締結力に優れるとともにねじ穴の破損を防止できる。よって、ねじ込まれた雄ねじが緩むのを防止できる。
【0025】
上記(
4)〜(
11)に記載の態様に係る、ねじ穴付き金属板の製造方法は、上述の通り締結力に優れるとともに破損を防止できるねじ穴を金属板に加工することができる。しかも、加工数及び加工コストの増加を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明のねじ穴付き金属板、このねじ穴付き金属板を具備する筐体、および、ねじ穴付き金属板の製造方法、の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明のねじ穴付き金属板は、メッキ無しの鋼板とメッキ鋼板のどちらにも適用可能である。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るねじ穴付き金属板10のねじ穴を模式的に示す図であって、ねじ穴の中心軸線CLを含む断面で見た場合の縦断面図である。なお、
図1では、構成の理解を容易にするために、ねじ穴付き金属板10に加えて、雄ねじ50と、貫通孔51aを有する金属板51も想像線で示している。
本実施形態のねじ穴付き金属板10(以下、単に金属板10と呼ぶ場合もある)が有するねじ穴12は、
図1に示すように、外壁部12aおよび内壁部12bを備える。外壁部12aは、金属板10の本体10aから略垂直に立ち上がる円筒状をなしている。換言すると、円筒状の外壁部12aは、軸方向の一端である根元部分12a1が本体10aと連続し、その中心軸線CLが本体10aの表面10xに対して垂直である。外壁部12aの、中心軸線CLに沿った方向の他端12a2は、内壁部12bの根元部分12cと連続している。内壁部12bは、外壁部12aと同軸に配置された円筒状をなしており、外壁部12aの上端(前記他端12a2)から内側に折り返されて形成されている。そして、内壁部12bの内周面に、雌ねじ12b1が形成されている。
【0029】
本実施形態のねじ穴付き金属板10のねじ穴12は、その板厚tを薄くした場合でも、内壁部12bの根元部分12cでの減肉を低減でき、ねじ穴12の締結力を向上できるとともにねじ穴12の破損を防止できる。本実施形態のねじ穴付き金属板10で内壁部12bの根元部分12cの減肉を抑えられる理由については、後述する。ここで、「内壁部12bの根元部分12c」とは、
図1において一点鎖線で囲んで示すように、外壁部12aの前記他端12a2と連続する部分を意味する。
【0030】
本実施形態のねじ穴付き金属板10が有するねじ穴12は、外壁部12aとその外壁部12aを折り返してなる内壁部12bとを備えた二重壁構造をなしている。これにより、雄ねじ50のねじ込み作業や緩め作業の際に、雄ねじ50からの押圧によって内壁部12bが拡径方向の力を受けても、外壁部12aにより周囲から支持されるので、内壁部12bが過度に拡径方向に変形するのを阻止でき、締結力の低下およびねじ穴12の破損を防止できる。
【0031】
本実施形態のねじ穴付き金属板10が有するねじ穴12は、後述の製造方法において説明するように、折り曲げ加工時に内壁部12bの外周面が外壁部12aの内周面と接するように成形するが、スプリングバックにより、成形された内壁部12bが縮径方向にわずかに変形している。よって、ねじ穴12の雌ねじ12b1に雄ねじ50が螺合されていない状態では、外壁部12aの内周面より内壁部12bの外周面が離間し、ねじ穴12の雌ねじ12b1に雄ねじ50が螺合されている状態では、外壁部12aの内周面に内壁部12bの外周面の少なくとも一部が当接する構成となっている。この構成について、
図2及び
図3を用いてさらに詳細に説明する。
【0032】
まず、
図2に示すように、ねじ穴12に雄ねじ50をねじ込む前の状態では、ねじ穴12を折り曲げ加工により形成した後に生じるスプリングバックにより、内壁部12bの先端12b3が外壁部12aの根元部分12a1よりわずかに離間する。よって、内壁部12bの外周面と外壁部12aの内周面との間にわずかな隙間が形成されている。
続いて、
図3に示すように、ねじ穴12に雄ねじ50をねじ込んだ状態では、雄ねじ50による押圧力を受けた内壁部12bが、スプリングバック量に応じて拡径方向に弾性変形し、その結果、内壁部12bの外周面が外壁部12aの内周面に当接して前記隙間が無くなる。そのため、前述の通り、内壁部12bの変形を外壁部12aにより受け止めて規制するが、これに加えて、スプリングバックによって内壁部12bが
図2の状態に戻ろうとする復元力を発揮する。この復元力によって、
図3の矢印Xに示すように内壁部12bが雄ねじ50に向けて付勢されるため、雌ねじ12b1と雄ねじ50との間が密着し続ける。よって、ねじ穴12及び雄ねじ50間の締結力をより高めて雄ねじ50の緩みを防止することが可能となる。
【0033】
以上説明のように、本実施形態のねじ穴付き金属板10は、ねじ穴12が、金属板10の一方の面10xから垂直に立ち上がる円筒状の外壁部12aと、外壁部12aの上端縁から外壁部12aの内側に折り返された円筒状の内壁部12bとを備え、内壁部12bの内周面に雌ねじ12b1が形成されている。
この構成によれば、ねじ穴付き金属板10の板厚tを薄くしても、ねじ穴12が雄ねじ50との締結力に優れるとともにねじ穴12の破損を防止できる。しかも、ねじ穴12は成形加工で形成された一体物であるので、溶接加工等の手間を必要とせず、加工コストが大幅に増すこともない。
【0034】
また、本実施形態のねじ穴付き金属板10では、内壁部12bの先端12b3と、金属板の他方の面10yとが面一となっている。
この構成によれば、例えば、このねじ穴付き金属板10の取り付け面となる前記他方の面10yの全面において凹凸の無い平面性が求められる場合に、ねじ穴12の形成による凹凸の度合いを最小限に止めることができるとともに、雌ねじ12b1の長さ寸法を最大に確保出来る。よって、美観と締結力とを兼ね備えたねじ穴付き金属板10を得ることが出来る。
【0035】
続いて、本実施形態に係る筐体について、
図1及び
図4を用いて以下に説明する。
図4に示すように、本実施形態の筐体70は、前述のねじ穴付き金属板10と、貫通孔51aを有する部材(金属板)51と、貫通孔51aに挿入された状態でねじ穴12にねじ込まれてねじ穴付き金属板10及び部材51間を結合する雄ねじ50とを具備する。なお、
図4は分解斜視図であるが、ねじ穴12に雄ねじ50をねじ込むことでねじ穴付き金属板10と部材51とを接合した状態における、ねじ穴12における要部断面図は、
図1に示した通りである。
本実施形態の筐体70によれば、ねじ穴付き金属板10が、上述の構造を備えているため、ねじ穴12と雄ねじ50との締結力に優れるとともに、ねじ穴12の破損防止も可能となっている。また、ねじ込まれた雄ねじ50が緩むことも防止可能な筐体70となっている。なお、筐体70としては、エアコンの室内機や室外機、さらには変電設備の筐体などを例示することができる。
【0036】
なお、
図1では、貫通孔51aを有する金属板である部材51を内壁部12bの先端12b3側に取り付けているが、この構成のみに限らず、部材51を内壁部12bの根元部分12c側に取り付ける構成も採用できる。すなわち、
図1において、ねじ穴付き金属板10と部材51との上下配置関係を逆にしても良い。なお、「内壁部12bの先端12b3」とは、中心軸線CLに沿った方向において、前記根元部分12cと反対に位置する端部を意味する。また、部材51は、金属板のみに限定されず、貫通孔を有する付属部品なども含む。
【0037】
続いて、本実施形態のねじ穴付き金属板10の製造方法について説明する。本実施形態では、外壁部成形ステップの後に穴あけステップを行うが、穴あけステップの後に外壁部成形ステップを行う変形例(後述)も採用することができる。
【0038】
図5A〜5Dは、本実施形態の金属板の製造方法の加工フローを示す模式図であり、
図5Aは外壁部成形ステップ、
図5Bは穴あけステップ、
図5Cは内壁部成形ステップ、そして
図5Dは雌ねじ形成ステップをそれぞれ示す。
まず、外壁部成形ステップにおいては、加工対象である金属板20(素材)に、外壁部20aと、この外壁部20aに連なる円板部20bとを成形する。円筒状の外壁部20aは、その中心軸線CL方向の一端が金属板20の本体と連続し、その中心軸線CLが金属板20の表面と垂直となるように金属板20から立ち上がる。外壁部20aはその中心軸線CL方向の他端の内側が、円板部20bと連続する。
【0039】
このような形状の外壁部20aおよび円板部20bは、パンチおよびダイを用いる張り出し加工または絞り加工により、成形できる。張り出し加工の場合は、
図5Aに示すように、張り出し用パンチ35および張り出し用ダイ36に加え、さらにブランクホルダ36aを用いる。ブランクホルダ36aとダイ36とで金属板20をその表裏面より挟持した状態で、パンチ35と、ダイ36及びブランクホルダ36aとを相対的に移動させて、パンチ35とともに金属板20の一部をダイ36内に押し込む。これにより、円筒状の外壁部20aと円板部20bとが金属板20に成形される。
【0040】
続く穴あけステップにおいては、円板部20bの中心に下穴をあける。すなわち、
図5Bに示すように、せん断加工による穴あけを穴あけ用パンチ31および穴あけ用ダイ32を用いて行うことにより、円板部20bに下穴20b1をあける。穴あけは、ドリルを用いる切削加工やレーザー切断機による穴あけ加工により行うこともできる。
【0041】
続く内壁部成形ステップにおいては、下穴20b1があけられた円板部20bを折り曲げることにより、外壁部20a(12a)の内側に折り返してなる内壁部12bを成形する。この円板部20bの折り曲げは、いわゆる穴広げ加工により行うことができる。
【0042】
すなわち、穴広げ加工においては、
図5Cに示すような穴広げ用パンチ37、穴広げ用ダイ38およびブランクホルダ39を用いて行うことができる。すなわち、ダイ38およびブランクホルダ39で金属板20をその表裏面より挟持した状態で、パンチ37と、ダイ38及びブランクホルダ39とを相対的に移動させる。その際、パンチ37を下穴20b1内に押し当てるようにする。このようにして、パンチ37とともに金属板20の円板部20bを外壁部20aの内側に押し込むと、円板部20bがパンチ37の押し込み方向に伸ばされながら径方向にも拡大し、その結果、円筒状であって、外壁部12a(20a)から内側に折り返してなる内壁部12b(20b)が形成される。この際、内壁部12bの外周面が外壁部12aの内周面に接するように形成されるが、スプリングバックにより内壁部12bが縮径方向にわずかに変形するため、
図2に示したような隙間が発生する。
【0043】
続くねじ切りステップにおいては、形成された内壁部12bの内周面に雌ねじ12b1を加工する。雌ねじ12b1の加工方法に特に制限はなく、例えば
図5Dに示すように、タップ40により雌ねじ12b1を加工することができる。以上説明のように、本実施形態の製造方法によれば、ねじ穴付き金属板10、すなわち、外壁部12aおよびその外壁部12aの一部を折り返した内壁部12bを備えるねじ穴12を、金属板20に加工することができる。
【0044】
本実施形態の製造方法によれば、
図11を用いて説明したような、バーリング加工を用いてねじ穴を形成する従来の方法と比べて、ねじ穴の根元部分における減肉を低減できる。すなわち、従来の製造方法では、
図12Bに示したように、バーリング加工の際、ダイ534とブランクホルダ539とで金属板520を挟持した状態で、パンチ533とともに、金属板520の下穴周辺部分をダイ534の凹部内に押し込んで変形させることにより、縦壁部511を成形する。その際、金属板520のうち、変形する下穴周辺の根元部分511aと、ダイ534及びブランクホルダ539で挟持される部分とが近接していることから、縦壁部511の根元に非常に大きな引張応力が生じ、その結果、減肉が促進される。
【0045】
一方、本実施形態は、
図5Cに示したように内壁部成形ステップでダイ38とブランクホルダ39とにより金属板20を挟持した状態で、パンチ37とともに円板部20bを外壁部20a(12a)の内側に押し込んで変形させることにより内壁部12bを成形する。その際、金属板20のうち、変形する円板部20bと、ダイ38及びブランクホルダ39間に挟持される部分との間に、外壁部12aが介在する。これにより、内壁部12bの根元部分12cに生じる引張応力が緩和され、その結果、根元部分12cにおける減肉量を、従来の前記根元部分511a(
図11参照)よりも低減できる。
【0046】
したがって、本実施形態の製造方法によれば、形成されたねじ穴12と雄ねじ50との締結力を向上できるとともに、ねじ穴12の破損をも防止できる。また、ねじ穴12が、外壁部12aと内壁部12bとの二重壁構造であるので、内壁部12bが拡径方向に変形するのを阻止でき、変形による締結力の低下およびねじ穴12の破損を防止できる。さらに、円板部20bを折り曲げて内壁部12bを形成するので、ねじ穴12に雄ねじ50をねじ込むと、内壁部12bのスプリングバックによる復元力が発生し、内壁部12bが雄ねじ50に密着する。これにより、ねじ穴12の締結力がさらに向上するとともに、ねじ込まれた雄ねじ50が緩むのをより確実に防止できる。
【0047】
本実施形態は、外壁部成形、穴あけ、内壁部成形および雌ねじ形成の4つのステップでねじ穴12を形成することができるので、前述の特許文献1に提案される従来のねじ穴と比べて、加工工数の増加を低減できる。また、上述の4つのステップでは、高い加工精度が要求されない。したがって、本実施形態の製造方法によれば、前述の特許文献1に提案されるねじ穴と比べ、加工コストの上昇を低減できる。
【0048】
本発明のねじ穴付き金属板の製造方法としては、上記説明以外の形態として、例えば
図6A〜6Dに示す変形例も採用することができる。
図6Aは穴あけステップ、
図6Bは外壁部成形ステップ、
図6Cは内壁部成形ステップ、
図6Dは雌ねじ形成ステップをそれぞれ示す。本変形例では、ねじ穴12の形成にあたり、最初に穴あけステップにおいて下穴をあける。すなわち、
図6Aに示すように、穴あけ用パンチ31および穴あけ用ダイ32を用いてせん断加工による穴あけを行い、加工対象の金属板20に下穴20b1をあける。穴あけは、ドリルを用いる切削加工やレーザー切断機による穴あけ加工により行うこともできる。
【0049】
続く外壁部成形ステップでは、
図6Bに示すように、円筒状の外壁部20aと、この外壁部20aに連続する円板部20bとを金属板20に成形する。円筒状の外壁部20aは、その軸方向の一端である根元部分が金属板20と連続し、その中心軸線CLが金属板20の表面と垂直となるように金属板20から立ち上がる。また、外壁部20aは、その中心軸線CLに沿った方向の他端の内側が円板部20bと連続する。このような外壁部20aと円板部20bとを、本変形例では、下穴20b1と円筒状の外壁部20aとが同心となるように成形する。
【0050】
外壁部20aおよび円板部20bの成形は、パンチおよびダイを用いた張り出し加工または絞り加工により成形できる。張り出し加工の場合は、
図6Bに示す張り出し用パンチ35および張り出し用ダイ36に加え、さらにブランクホルダ36aを用いる。金属板20をその下穴20b1の中心とダイ36の凹部の中心とが一致するように配置し、金属板20をダイ36とブランクホルダ36aとで挟持する。その状態で、パンチ35と、ダイ36及びブランクホルダ36aとを相対的に移動させて、パンチ35とともに金属板20の一部をダイ36内に押し込む。これにより、円筒状の外壁部20aと円板部20bとが金属板20に成形される。その際、下穴20b1が変形して拡径する。
【0051】
続く内壁部成形ステップでは、
図6Cに示すように、成形された円板部20bを折り曲げることにより、外壁部12aから内側に折り返してなる内壁部12bを成形する。
続く雌ねじ形成ステップでは、
図6Dに示すように、内壁部12bの内周面に雌ねじ12b1を加工する。円板部20bの折り曲げは、前述の実施形態と同様に穴広げ加工により行うことができる。また、雌ねじ12b1の加工も、前述の実施形態と同様に特に制限はなく、例えば、タップ40により加工することができる。
【0052】
上記変形例の製造方法によっても、外壁部12a及び内壁部12bを備えたねじ穴12を金属板20に形成できる。また、本変形例においても、内壁部成形ステップで円板部20bを折り曲げる際、金属板20のうち、変形する円板部20bと、ダイ38及びブランクホルダ39で挟持される部分との間に、外壁部12aが介在する。このため、内壁部12bの根元部分12cの減肉を低減でき、その結果、ねじ穴12の締結力を向上できるとともにねじ穴12の破損を防止できる。
【0053】
また、本変形例においても、上記実施形態と同様に、得られるねじ穴12は、外壁部12aと内壁部12bとを有する二重壁構造であるので、内壁部12bが拡径方向に過度に変形するのを阻止でき、それによる締結力の低下およびねじ穴12の破損を防止できる。さらに、ねじ穴12に雄ねじ50をねじ込むと、スプリングバックにより内壁部12bが雄ねじ50に密着する。これにより、ねじ穴12の締結力がさらに向上するとともに、ねじ込まれた雄ねじ50が緩むのを防止できる。
【0054】
本変形例は、穴あけ、外壁部成形、内壁部成形および雌ねじ形成の4つのステップでねじ穴12を造形できるので、前述の特許文献1に提案される従来のねじ穴と比べ、加工数の増加を抑えることができる。また、上述の4つのステップに高い加工精度が要求されない。したがって、本変形例は、前述の特許文献1に提案されるねじ穴と比べて、加工コストの上昇を低減できる。
【0055】
本変形例は、外壁部成形および内壁部成形のステップを同じ装置で行うこともでき、この場合は加工数の増加をより抑えることができる。具体的には、
図6Bにおいて、張り出し用パンチ35と対向するように、
図6Cで示した穴広げ用パンチ37(図示略)を配置する。これにより、張り出し用パンチ35および張り出し用ダイ36で外壁部20a(12a)と円板部20bとを成形した後、即座に穴広げ用パンチ37で内壁部12bを成形することができる。
【0056】
以上説明の第1実施形態およびその変形例ともに、外壁部成形ステップ(
図5A,
図6B参照)において外壁部20a(12a)および円板部20bを成形する際に、ダイ36、および、肩の半径R(mm)が下記(1)式を満足するパンチ35を用いることが好ましい。また、穴あけステップ(
図5B,
図6A参照)においては、その後の内壁部成形ステップにおける内壁部成形前の下穴の半径r(mm)が下記(2)式を満足するように下穴をあけるのが好ましい。なお、tは金属板20の板厚(mm)を示す。
0.5≦R/t≦1.0 (1)式
0.5≦r/t≦1.2 (2)式
【0057】
ここで、パンチ35の「肩の半径」とは、金属板20に成形される外壁部20a(12a)と当接するパンチ35の外周面と、成形される円板部20bと当接するパンチ35の先端面とを繋ぐR部の半径を意味する(
図5Aおよび
図6B参照)。また、「内壁部成形ステップにおける内壁部成形前の下穴の半径」とは、具体的には、上記実施形態では
図5Bで示した穴あけステップであけられた下穴20b1の半径が該当し、上記変形例では穴あけステップ後の
図6Bに示した外壁部成形ステップで拡径方向に変形した状態の下穴20b1の半径が該当する。
【0058】
外壁部成形ステップでパンチ35の肩の半径R(mm)が0.5×t(mm)より小さいと、パンチ35が外壁部20a(12a)と円板部20bとを繋ぐR部(曲がり部分)に食い込み、この部分が減肉して破断に至る現象により製品不良となる場合があり、製造歩留りが低下する。一方、パンチ35の肩の半径R(mm)が1.0×t(mm)より大きいと、内壁部成形ステップで外壁部20a(12a)と円板部20bとを繋ぐR部(曲がり部分)で十分に折れ曲がらず、外壁部20a(12a)が内壁部12b側に倒れ込む結果、やはり製品不良となるおそれがある。
【0059】
また、下穴20b1の半径r(mm)が0.5×t(mm)より小さいと、内壁部成形ステップで円板部20bを折り曲げる際に、下穴20b1の周辺部分を変形させるのに要する力が過大となる。これにより、外壁部20a(12a)と金属板20の本体を繋ぐR部(曲がり部分)が変形し、その結果、内壁部12bおよび外壁部20a(12a)を成形できずに製品不良となる場合があり、製造歩留りが低下する。一方、下穴の半径r(mm)が1.2×t(mm)より大きいと、内壁部成形ステップによって成形された内壁部12bは、その高さが小さく、ねじ山の数が少なくなる。このため、雄ねじ50との十分な締結力が得られないおそれがある。
【0060】
本発明のねじ穴付き金属板、それを具備する筐体、および、ねじ穴付き金属板の製造方法において、金属板自体の材質について特に制限はない。
【0061】
本発明のねじ穴付き金属板の製造方法は、内壁部成形ステップで、
図5Cおよび
図6Cに示したような先端にテーパー部が設けられたパンチ37を用いるのが好ましい。その理由は、従来技術の説明において
図12Bに示したようなストレート形状のバーリング用パンチ533と比べ、先端に近づくに伴って外径が小さくなるようなテーパー部が設けられたパンチ37を用いれば、外壁部20a(12a)と円板部20bとを繋ぐR部(曲げ部)での曲げ変形を促進しやすく、外壁部20a(12a)の倒れ込みを抑制できるからである。
【0062】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について
図7を用いて説明する。説明に際しては、上記第1実施形態との相違点を中心に説明し、その他については上記第1実施形態と同じであるとして説明を省略する。
図7は、本実施形態に係るねじ穴付き金属板100のねじ穴12を模式的に示す図であって、ねじ穴12の中心軸線CLを含む断面で見た場合の、
図3に相当する縦断面図である。
【0063】
本実施形態のねじ穴付き金属板100は、その内壁部12bの長さ寸法L1が上記第1実施形態のものより長くなっている。その結果、内壁部12bの先端12b3が、金属板の前記他方の面10yよりも突出している。
この構成によれば、例えば、ねじ穴付き金属板100と他の金属板51とを重ねて位置合わせを行う際に、
図7に示すように、内壁部12bの突出部分を他の金属板51の貫通孔51a内に嵌め込むことで、容易に位置合わせを行うことができる。
また、雌ねじ12b1の長さ寸法も上記第1実施形態のものより長くできるので、雄ねじ50と螺合する部分の長さを長くして締結をより確実に行うこともできる。
【0064】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態について
図8を用いて説明する。説明に際しては、上記第1実施形態との相違点を中心に説明し、その他については上記第1実施形態と同じであるとして説明を省略する。
図8は、本実施形態に係るねじ穴付き金属板110のねじ穴12を模式的に示す図であって、ねじ穴12の中心軸線CLを含む断面で見た場合の、
図3に相当する縦断面図である。
【0065】
本実施形態のねじ穴付き金属板10は、その内壁部12bの長さ寸法L2が上記第1実施形態のものよりも短くなっている。その結果、内壁部12bの先端12b3が、金属板の前記他方の面10yよりも奥の位置にある。そのため、ねじ止めの際には、他の金属板51の表面との間にわずかな隙間が生じることとなる。
この構成によれば、例えば、ねじ穴付き金属板10と他の金属板51とを重ね合わせてから雄ねじ50でねじ止めした場合、内壁部12bが上記第1実施形態の場合よりも短いため、雄ねじ50と螺合する部分の長さは短くなる。しかしながら、前記隙間が有るため、雄ねじ50を締め込んだ際に、内壁部12bをその先端12b3が雄ねじ50のねじ頭により近づこうとするのが許容される。そして、雄ねじ50の締め込みと共に雄ねじ50が内壁部12bを自らに向かって引き込もうとし、その結果、円筒状の内壁部12bが縮径しようとする。これにより、内壁部12bがより密に雄ねじ50に対して密着することになり、高い締結力を確保することが可能となる。
【0066】
[第4実施形態]
以下、本発明の第4実施形態について
図9を用いて説明する。説明に際しては、上記第1実施形態との相違点を中心に説明し、その他については上記第1実施形態と同じであるとして説明を省略する。
図9は、本実施形態に係るねじ穴付き金属板200のねじ穴212を模式的に示す図であって、ねじ穴212の中心軸線CLを含む断面で見た場合の、
図3に相当する縦断面図である。
【0067】
本実施形態のねじ穴付き金属板200は、ねじ穴212を有する金属板であって、ねじ穴212が、金属板220の一方の面から立ち上がる円筒状の内壁部212bと、内壁部212bの端縁から内壁部212bの外側に折り返された円筒状の外壁部212aとを備え、内壁部212bの内周面に雌ねじ212b1が形成されている。
この構成では、上記第1実施形態と異なり、内壁部212bによるスプリングバックの効果は得られないものの、雄ねじ(不図視)を締め込んだ際の内壁部212bの拡径方向の変形を、外壁部212aにより受け止めることができる。よって、内壁部212bの過度の変形を規制することができるので、金属板220の板厚を薄くしても、ねじ穴212の破損や締結力の低下を防ぐことができる。
なお、本実施形態のねじ穴付き金属板200も、筐体の構成要素として用いることができる。すなわち、ねじ穴を有する金属板と、貫通孔を有する部材と、前記貫通孔に挿入された状態で前記ねじ穴にねじ込まれて前記金属板と前記貫通孔を有する部材とを結合する雄ねじと、を具備する筐体において、前記金属板として、上記のねじ穴付き金属板200を用いることができる。
【実施例】
【0068】
本発明の効果を検証するために、本発明のねじ穴付き金属板の製造方法によって金属板にねじ穴を形成し、そのねじ穴の締結力を評価する試験を行った。
【0069】
供試材として、板厚0.4〜0.6mmで引張強さが270MPa級の鋼板を用いた。これらの鋼板に、
図5A〜5Dを用いて説明した第1実施形態に係る、ねじ穴付き金属板の製造方法により、JIS B0205(2001)での呼び径がM3のねじ穴を加工した。
【0070】
外壁部成形ステップは、張り出し加工により行い、外径3.2mmの張り出し用パンチ35と、内径4.6mmの凹部を有するダイ36と、ブランクホルダ36aとを用い、高さが1.4mmの外壁部20aを成形した。その際、張り出し用パンチ35の肩半径Rを変化させた。また、穴あけステップは、穴あけ用パンチ31および穴あけ用ダイ32を用いてせん断加工により行い、その際に下穴20b1の半径rを変化させた。内壁部成形ステップは、先端がテーパー状の穴広げ用パンチ37と、穴広げ用ダイ38と、ブランクホルダ39とを用いて行った。穴広げ用パンチ37は、ストレート部の半径が1.2mmで、テーパー部の先端角部が中心軸線CLに対して60°の面取りを有し、テーパー部の先端の半径が1.4mmであるものを使用した。
【0071】
比較のため、
図12A及び
図12Bを用いて説明した加工フローにより、金属板に従来のバーリング加工によるねじ穴を形成したねじ穴付き金属板10も製作した(試験No.1−1A,2−1A,3−1A)。
さらに、比較のために、背景技術において引用した特許文献2の
図1に記載の構造を具備するねじ穴付き金属板(不図示)も製作した(試験No.1−1B,2−1B,3−1B)。この比較例は、上記実施形態1で示した
図1を用いて説明するならば、雄ねじ50をねじ込んだ状態でも、外壁部12aの内周面と内壁部12bの外周面とが離れて大きな隙間が生じており、内壁部12bの周囲が外壁部12aによって支持されていない構造である。
【0072】
各試験では、20枚の金属板をそれぞれ準備してねじ穴を加工した。その際、加工不良の発生件数を調査し、製造歩留りを算出した。
【0073】
また、各ねじ穴付き金属板のねじ穴について、締結力を評価するための試験を行った。ねじ穴の締結力を評価する試験では、締め付けトルクを測定可能なねじ締結装置を用いて雄ねじを金属板のねじ穴にねじ込んだ。その際、雄ねじの回転角と締め付けトルクとの関係を測定した。得られた雄ねじの回転角(°)と締め付けトルク(N・m)との関係を回転角について微分することにより、雄ねじの回転角(°)と締め付けトルクの変化割合(N・m/°)との関係を求めた。
【0074】
図10は、ねじ穴の締結力を評価する試験における、雄ねじの回転角と締め付けトルクとの関係、および、雄ねじの回転角と締め付けトルクの変化割合との関係を示す模式図である。同図に示すように、締め付けトルクは、雄ねじのねじ込みに伴って回転角が増加すると、初期段階のほぼ0(ゼロ)で一定な状態から増加に転じた後、再びほぼ一定となり、その後、減少する。このような回転角と締め付けトルクとの関係から、締め付けトルクが0で一定の状態から増加に転じる点Oを求めた。
【0075】
一方、締め付けトルクの変化割合は、雄ねじのねじ込みに伴って回転角が増加すると、上述の点Oで増加を開始した後、ほぼ一定となり、その後、減少する。このような雄ねじの回転角と締め付けトルクの変化割合との関係から、締め付けトルクの変化割合が一定の状態から減少に転じる回転角を求めた。この回転角における回転角と締め付けトルクとの関係を示す曲線上の点を、点Aとした。この点Aは、雌ねじ(ねじ穴)が塑性変形を開始した点を表す。
【0076】
このように求めた点Oおよび点Aを結ぶ直線Lを引いた。また、直線Lを回転角が増加する方向に10°平行移動させた直線L’を引いた。この直線L’と回転角と締め付けトルクとの関係を示す曲線との交点を点Bとした。ねじ穴の締結力を評価する指標として、点Aの締め付けトルクTA(N・m)に対する点Bの締め付けトルク(N・m)の比(TB/TA、無次元)を算出した。このようなTB/TAは、雌ねじが塑性変形を開始した後に締結トルクが維持される割合、換言すると、雌ねじが塑性変形を開始した後にねじ穴の雄ねじとの締結力が維持される割合を示す。このため、TB/TAが大きくなる程にねじ穴が雄ねじとの締結力に優れる。
【0077】
表1〜3における「締結力の評価」欄の記号の意味は以下の通りである。
VG(Very Good):TB/TA≧1.2を満足することを示す。
GD(Good):1.2>TB/TA≧1.0を満足することを示す。
FA(Fair):1.0>TB/TA≧0.8を満足することを示す。
BD(Bad):TB/TA<0.8を満足することを示す。
【0078】
表1〜3に、各試験における試験No.、金属板の板厚t、ねじ穴の加工法、張り出し用パンチの肩半径R、R/tの値、前記(1)式に適合しているか否か、内壁部成形前の下穴の半径r、r/tの値、前記(2)式に適合しているか否か、製造歩留り、締結力の指標TB/TAの値およびその評価、並びに、試験区分をそれぞれ示す。ここで、前記(1)式への適合は、「Y」の場合にR/tの値が前記(1)式を満足することを示し、「N」の場合にR/tの値が前記(1)式を満足しないことを示す。また、前記(2)式への適合は、「Y」の場合にr/tの値が前記(2)式を満足することを示し、「N」の場合にr/tの値が前記(2)式を満足しないことを示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表1〜3より、締結力の評価が、比較例ではBDになったのに対し、本発明例ではVG,GD,又はFAとなった。したがって、本発明のねじ穴付き金属板、それを具備する筐体および金属板の製造方法は、ねじ穴が雄ねじとの締結力に優れることが確認できた。
【0083】
また、比較例(試験No.1−1A,2−1A,3−1A)では、バーリング加工で縦壁部の根元が減肉によって破けたり、ねじ切りでねじ穴のねじ山を十分に形成できなかったりすることよる製品不良が発生し、その発生数は供試材の板厚が薄くなるに伴って増加した。その結果、比較例では、製造歩留りがいずれも70%以下となった。これに対し、本発明例では、いずれも90%以上となり、製造歩留りを向上できた。
また、比較例(試験No.1−1B,2−1B,3−1B)では、内壁部に相当する雌ねじ加工部分が、外壁部に相当する周囲部分により支持されていないために剛性が低く、そのために、正確なタッピングがしづらく加工精度が保てない、雌ねじの加工精度が周方向で不均一である、といった問題点が見られた。このように、内壁部に相当する雌ねじ加工部分の剛性が弱く、しかも雌ねじの加工精度が低いと、雌ねじ及び雄ねじ間の係り具合が、雌ねじの周方向で不均一になりやすい。
【0084】
また、本発明例のうちでR/tの値が0.5未満の試験、および、R/tの値が1.0を超えた試験では、いずれも製造歩留りに若干の低下が確認された。一方、r/tの値が0.5未満の試験では、製造歩留りに若干の低下が確認された。また、r/tの値が1.2以下の試験では締結力の評価がVGまたはGDとなったのに対し、r/tの値が1.2を超えた試験では、締結力の評価がFAとなった。これらから、外壁部成形ステップにおいて前記(1)式を満足するパンチを用いるとともに、内壁部成形前の下穴の半径rが前記(2)式を満足するように下穴をあけることにより、製造歩留りおよびねじ穴の締結力をさらに向上できることが明らかになった。