(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記殺菌工程において、前記発芽した微生物が付着したバイオマスに水蒸気を供給することで、前記バイオマスが加熱されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のバイオマス製造方法。
前記バイオマスを粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程によって粉砕されたバイオマスを乾燥する乾燥工程と、前記乾燥工程によって乾燥したバイオマスを粒状に成型する成型工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のバイオマス製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
上述したように、アブラヤシから油を生産する際には、アブラヤシ果房を水蒸気で蒸煮した後、脱果工程において、油を含む果実部分と、空果房とに分離する。本願発明者らは、蒸煮といった100℃以上の水蒸気でアブラヤシ果房を処理しているにも拘わらず、空果房には枯草菌(Bacillus subtilis)が付着していることを検出した(出典:Fukunaga, S., Kasai, H. and Inubushi, K. (2012) Microbial gas production from empty fruit bunch (EFB) of oil palm. 第28回日本微生物生態学会大会講演要旨集 PB-19)。
【0024】
そして、本願発明者らは、枯草菌が付着した空果房に、予め定められた濃度の水を加えて培養すると、枯草菌から水素が生じ、培養雰囲気中の水素濃度が40%程度まで達することを見出した。かかる水素の発生は、枯草菌によって空果房中の有機物が水素に変換されたためと推測される。
【0025】
かかる結果から、本願発明者らが鋭意検討したところ、自然発火の原因が、枯草菌等の微生物による水素の発生によるものであると推測した。
【0026】
そこで、以下では、バイオマスに付着した、枯草菌等の微生物を死滅させることで、微生物による水素の発生を防止して、バイオマス及びそれから得られるバイオマス燃料の自然発火を回避するとともに、有機物を消費して水素を発生させることによるバイオマスの熱量低下を抑制することが可能なバイオマスの製造方法およびバイオマス収容装置について説明する。
【0027】
図1は、バイオマス製造システム100を説明するための図である。
図1に示すように、バイオマス製造システム100は、蒸煮装置110と、脱果装置120と、バイオマス収容装置150とを備える。ここでは、バイオマスの原料
がアブラヤシ果房
であり、バイオマス
がその空果房(EFB)
である場合を説明する。
【0028】
蒸煮装置110は、アブラヤシ果房に水蒸気を供給してアブラヤシ果房を蒸煮する。蒸煮は果実部分と、空果房との結合を弱め、後段の脱果装置120において果実部分と空果房との分離を容易にする。また、アブラヤシ果房に含まれるリパーゼ等の酵素を失活させて、果実部分に含まれる油の劣化を抑制する。
【0029】
ここで、蒸煮装置110が供給する水蒸気の温度は、90℃〜110℃のうち予め定められた温度である。かかる構成により、アブラヤシ果房に存在し、100℃以上の熱をもってしても容易に殺滅できない微生物の芽胞を発芽させ栄養細胞に変換させることができる。
【0030】
脱果装置120は、蒸煮装置110によって蒸煮されたアブラヤシを、果実部分と、空果房とに分離する。こうして分離された果実部分は、後段のオイル生成手段(不図示)によって搾油され、パーム油やパーム核油が生産される。一方、分離された空果房は、後段のバイオマス収容装置150に投入される。
【0031】
図2は、バイオマス収容装置150を説明するための図である。バイオマス収容装置150は、収容容器160と、加熱ガス供給部170と、冷却ガス供給部180と、制御部185とを備える。なお、
図2中、蓋部162a、162bの動きを実線の矢印で、信号の流れを破線の矢印で示す。
【0032】
図2に示すように、収容容器160は、脱果装置120によって分離された空果房を収容する容器である。詳細に説明すると、収容容器160は、上面に投入口160aが形成されており、側面に搬出口160bが形成されている。また、収容容器160には、投入口160aを開閉する蓋部162aと、搬出口160bを開閉する蓋部162bとが設けられている。
【0033】
また、収容容器160には、複数の孔が形成された多孔板164が、その下方に空隙が形成される状態で水平方向に亘って設けられており、多孔板164の上方に空果房が収容されるようになっている。
【0034】
加熱ガス供給部170は、蒸煮装置110によって加熱された後冷却されることで発芽した微生物(例えば、枯草菌)の死滅温度以上に空果房を加熱する加熱ガスを、収容容器160に収容された空果房に通流させる。具体的に説明すると、加熱ガス供給部170は、収容容器160の底面付近であって多孔板164の下方に加熱ガスを供給する。そうすると、加熱ガスは、多孔板164の孔から上方に向かって送出されることとなる。このようにして、加熱ガスが収容容器160に収容された空果房に行き渡り、空果房が加熱ガスによって加熱されることとなる。
【0035】
ここで、加熱ガスは、例えば、90℃〜110℃のうち予め定められた温度の水蒸気である。また、加熱ガス供給部170は、加熱ガスを、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間連続して、空果房に通流させる。
【0036】
冷却ガス供給部180は、空果房に付着した、芽胞状態の微生物の発芽に要する温度に空果房を冷却する冷却ガスを、収容容器160に収容された空果房に通流させる。具体的に説明すると、冷却ガス供給部180は、収容容器160の底面付近であって多孔板164の下方に冷却ガスを供給する。そうすると、冷却ガスは、多孔板164の孔から上方に向かって送出されることとなる。このようにして、冷却ガスが収容容器160に収容された空果房に行き渡り、空果房が冷却ガスによって冷却されることとなる。
【0037】
ここで、冷却ガスは、例えば、常温(20℃〜40℃のうち予め定められた温度)の空気である。また、冷却ガス供給部180は、冷却ガスを、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間連続して、空果房に通流させる。
【0038】
制御部185は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成され、ROMからCPU自体を動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出し、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働してバイオマス収容装置150全体を管理および制御する。本実施形態において、制御部185は、蓋部162a、162b、加熱ガス供給部170、冷却ガス供給部180を駆動制御する。
【0039】
(バイオマス製造方法)
続いて、上記バイオマス製造システム100を用いたバイオマス製造方法について説明する。
図3は、バイオマス製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0040】
図3に示すように、本実施形態にかかるバイオマス製造方法は、蒸煮工程S110と、脱果工程S120と、投入工程S130と、発芽用冷却工程S140と、発芽工程S150と、殺菌(滅菌)工程S160と、最終冷却工程S170と、搬出工程S180とを含む。以下、各工程について詳述する。
【0041】
(蒸煮工程S110)
蒸煮工程S110は、蒸煮装置110が、アブラヤシ果房に水蒸気を供給して90℃〜110℃のうち予め定められた温度でアブラヤシ果房を蒸煮する工程である。蒸煮工程S110を遂行することにより、果実部分と、空果房との結合を弱めることができ、後段の脱果工程S120において果実部分と空果房との分離を容易にすることが可能となる。また、アブラヤシ果房に含まれるリパーゼ等の酵素を失活させることができ、果実部分に含まれる油の劣化を抑制することが可能となる。
【0042】
また、90℃〜110℃のうち予め定められた温度でアブラヤシ果房を蒸煮する構成により、アブラヤシ果房に存在し、100℃以上の熱をもってしても容易に殺滅できない微生物の芽胞を発芽させ栄養細胞に変換させることができる。
【0043】
(脱果工程S120)
脱果工程S120は、蒸煮工程S110で蒸煮されたアブラヤシ果房を、脱果装置120が果実部分と、空果房とに分離する工程である。
【0044】
(投入工程(収容工程)S130)
投入工程(収容工程)S130では、まず、制御部185による制御指令に応じて、蓋部162bを駆動して搬出口160bを閉じるとともに、蓋部162aを駆動して投入口160aを開放する。なお、すでに、搬出口160bが閉じられている場合には、蓋部162bの駆動を実行せず、投入口160aが開放されている場合には、蓋部162aの駆動を実行しない。
【0045】
そして、不図示の搬入装置によって、投入口160aを通じて、収容容器160内に空果房が投入され、空果房が収容される。
【0046】
(発芽用冷却工程S140)
発芽工程の一部を成す発芽用冷却工程S140は、蒸煮工程S110および脱果工程S120を遂行することによって製造された空果房を冷却または放置することで、空果房に付着し、蒸煮処理(蒸煮工程S110の処理)を受けた芽胞状態の微生物の、発芽に要する予め定められた条件を作り出す。ここで、芽胞状態の微生物の発芽に要する予め定められた条件は、空果房を常温(20℃〜40℃のうち予め定められた温度)にすることである。
【0047】
なお、発芽用冷却工程S140では、放冷(放置)することで空果房を冷却してもよいし、制御部185が冷却ガス供給部180を駆動して冷却ガスを、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間連続して、空果房に通流させることで空果房を冷却してもよい。
【0048】
(発芽条件維持工程S150)
発芽工程の一部を成す発芽条件維持工程S150では、上記発芽用冷却工程S140で作り出された、芽胞状態の微生物の発芽に要する予め定められた条件を、例えば、16時間〜3日間のうち予め定められた時間維持する。
【0049】
発芽条件維持工程S150を遂行することにより、空果房に付着した、芽胞状態の微生物を発芽させることが可能となる。
【0050】
(殺菌(滅菌)工程S160)
殺菌工程S160は、発芽条件維持工程S150を遂行することによって発芽した微生物が付着した空果房を加熱することで、発芽した微生物の死滅に要する予め定められた条件を作り出し、維持する工程である。ここで、微生物の死滅に要する予め定められた条件は、空果房を例えば90℃〜110℃のうち予め定められた温度にすることである。また、予め定められた条件を維持する時間は、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間である。なお、ここでいう「殺菌」とは、少なくとも自然発火の発生が抑制できる程度に微生物を死滅させる処理を意味する。即ち、この用語は、当該微生物を全滅させる処理も意味する。
【0051】
具体的に説明すると、殺菌工程S160では、制御部185が加熱ガス供給部170を駆動して加熱ガス(ここでは、90℃〜110℃のうち予め定められた温度の水蒸気)を、収容容器160内に供給して、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間連続して、空果房に通流させる。
【0052】
蒸煮工程S110における蒸煮の温度を高めることにより、芽胞状態の微生物(水素の発生要因となる微生物)を死滅させることは、問題がある。つまり、アブラヤシ果房に対して、標準的な殺菌処理(121℃の飽和水蒸気(2気圧程度の飽和水蒸気)下に15分以上維持、180℃の雰囲気下に30分以上維持、または、160℃の雰囲気下に1時間以上維持)を施せば、芽胞状態の微生物を死滅させることは理論的に可能ではあるが、熱の伝わりにくい部分も含めて全ての部分を微生物が死滅する条件に到達させるには処理時間を最低条件より長くとる、あるいは温度をより高温にする必要があり、それにより、果実部分が変性し、本来の目的である油の生産量が低下してしまうおそれがある。したがって、蒸煮工程S110において、果実部分を変性させずに、芽胞状態の微生物を死滅させることは困難である。
【0053】
そこで、蒸煮工程S110、脱果工程S120の遂行後、空果房に対して、標準的な殺菌処理を施し、芽胞状態の微生物を死滅させることが考えられる。しかし、121℃の飽和水蒸気下に空果房を15分以上維持するためには、専用の耐圧容器が必要となり、耐圧容器に要するコストが上昇してしまう。同様に、180℃の雰囲気下に空果房を30分以上維持したり、160℃の雰囲気下に空果房を1時間以上維持したりするためには、専用の耐熱容器が必要となり、耐熱容器および加熱のためのコストが上昇してしまう。
【0054】
一方、芽胞状態の微生物を発芽させると、90℃〜110℃といった、標準的な殺菌処理よりも低い温度で微生物を死滅させることができる。
【0055】
そこで、本実施形態では、まず、発芽用冷却工程S140、および、発芽条件維持工程S150(即ち発芽工程)を遂行して、芽胞状態の微生物を発芽させ、その後、殺菌工程S160を遂行して、発芽した微生物を死滅させる。かかる構成により、標準的な殺菌処理と比較して、低温で微生物を死滅させることができる。したがって、専用の耐圧容器や耐熱容器が不要となり、標準的な殺菌処理と比較して低コストで、水素の発生要因となる微生物を死滅させることが可能となる。
【0056】
これにより、空果房を大量に貯蔵する際、低コストで、自然発火を防止することが可能となる。
【0057】
最終冷却工程S170は、単に殺菌工程S160を遂行することによって加熱された空果房を搬出しやすいように冷却する工程である。なお、最終冷却工程S170では、放冷することで空果房を冷却してもよいし、制御部185が冷却ガス供給部180を駆動して冷却ガスを供給することで空果房を冷却してもよい。
【0058】
搬出工程S180は、最終冷却工程S170によって、常温程度まで冷却された空果房を外部に搬出する工程である。こうして搬出された空果房は、燃料として利用されたり、エタノールの原料となったりして、有効利用されることとなる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態にかかるバイオマス製造システム100(バイオマス収容装置150)および、これを用いたバイオマス製造方法によれば、バイオマス(空果房)に付着した、水素の発生要因となる微生物を殺菌することができるため、微生物による自然発火のリスクを低下させることが可能となる。また、微生物が有機物を消費することがなくなるため、バイオマスの熱量低下を抑制することができる。
【0060】
なお、上述の一連の工程において、蒸煮工程S110及び脱果工程S120を省略してもよい。即ち、収容容器160内に投入(収容)される空果房には、予め蒸煮工程及び脱果工程を経たものを用いてもよい。
【0061】
(第1変形例)
図4は、第1変形例にかかるバイオマス製造システム200を説明するための図である。
図4に示すように、第1変形例にかかるバイオマス製造システム200は、蒸煮装置110と、脱果装置120と、2つのバイオマス収容装置150(
図4中、150A、150Bで示す)とを備える。つまり、上記バイオマス製造システム100と比較して、バイオマス製造システム200は、バイオマス収容装置150を2つ備える。以下、バイオマス収容装置150を2つ備えることによって、殺菌したバイオマスを毎日繰り返し搬出する手順について説明する。
【0062】
図5は、2つのバイオマス収容装置150A、150Bのタイムチャートである。なお、
図5中、遂行する工程を矢印で示す。
図5に示すように、例えば、まず、1日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行する。なお、1日目においては、バイオマス収容装置150Bでは処理を遂行しない。
【0063】
そして、2日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、殺菌工程S160、最終冷却工程S170、搬出工程S180を遂行するとともに、バイオマス収容装置150Bにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行する。
【0064】
さらに、3日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行するとともに、バイオマス収容装置150Bにおいて、殺菌工程S160、最終冷却工程S170、搬出工程S180を遂行する。
【0065】
以降、2日目の処理と、3日目の処理を繰り返す。これにより、バイオマス収容装置150A、150Bを用いて、殺菌した空果房を毎日繰り返し搬出することが可能となる。
【0066】
(第2変形例)
上述した実施形態では、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150、殺菌工程S160を1回ずつ遂行することで、バイオマス(空果房)に付着した微生物を死滅させるバイオマス製造システム100およびこれを用いたバイオマス製造方法について説明した。しかし、発芽用冷却工程S140および発芽条件維持工程S150を遂行しても発芽しなかった芽胞状態の微生物が存在する場合、多少なりとも微生物が残存してしまうおそれがある。
【0067】
そこで、第2変形例では、芽胞状態の微生物を発芽させる工程(即ち、発芽工程としての発芽用冷却工程及び発芽条件維持工程)と発芽した微生物を殺菌する殺菌工程とを交互に複数回ずつ遂行することにより、より有効に微生物を殺菌することができるバイオマス製造システムおよびこれを用いたバイオマス製造方法について説明する。
【0068】
図6は、第2変形例にかかるバイオマス製造システム300を説明するための図である。
図6に示すように、バイオマス製造システム300は、蒸煮装置110と、脱果装置120と、3つのバイオマス収容装置150(
図6中、150A、150B、150Cで示す)とを備える。つまり、上記バイオマス製造システム100と比較して、バイオマス製造システム300は、バイオマス収容装置150を3つ備える。
【0069】
以下、バイオマス製造システム300を用いたバイオマス製造方法について説明する。
図7は、第2変形例にかかるバイオマス製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図7に示すように、第2変形例にかかるバイオマス製造方法は、蒸煮工程S110と、脱果工程S120と、投入(収容)工程S130と、発芽用冷却工程S140と、発芽条件維持工程S150と、殺菌工程S160と、発芽用冷却工程S340と、発芽条件維持工程S350と、殺菌(滅菌)工程S360と、最終冷却工程S170と、搬出工程S180とを含む。上記実施形態において説明したバイオマス製造方法と比較して、第2変形例にかかるバイオマス製造方法では、殺菌工程S160を遂行した後であって、最終冷却工程S170を遂行する前に、発芽用冷却工程S340と、発芽条件維持工程S350と、殺菌工程S360とを遂行する。以下、発芽用冷却工程S340、発芽条件維持工程S350、殺菌工程S360について詳述する。
【0070】
(発芽用冷却工程S340)
発芽工程の一部を成す発芽用冷却工程S340は、発芽用冷却工程S140と同様に、1回目の殺菌工程S160によって加熱された空果房を冷却または放置することで、殺菌工程S160によってもなお空果房に残存した、芽胞状態の微生物の発芽に要する予め定められた条件を作り出す。ここでも、芽胞状態の微生物の発芽に要する予め定められた条件は、空果房を常温(20℃〜40℃のうち予め定められた温度)にすることである。
【0071】
なお、発芽用冷却工程S340では、放冷(放置)することで空果房を冷却してもよいし、制御部185が冷却ガス供給部180を駆動して冷却ガスを、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間連続して、空果房に通流させることで空果房を冷却してもよい。
【0072】
(発芽条件維持工程S350)
発芽工程の一部を成す発芽条件維持工程S350では、上記発芽用冷却工程S340で作り出された、芽胞状態の微生物の発芽に要する予め定められた条件を、例えば、16時間〜3日間のうち予め定められた時間維持する。
【0073】
発芽条件維持工程S350を遂行することにより、1回目の殺菌工程S160によっても、なお、空果房に残存した、芽胞状態の微生物を発芽させることが可能となる。
【0074】
また、発芽用冷却工程S340、発芽条件維持工程S350を遂行する前の1回目の殺菌工程S160において、加熱ガス供給部170が、発芽した微生物が付着した空果房に水蒸気を供給することで、空果房を加熱している。このように、水蒸気を供給することにより、発芽条件維持工程S350において、芽胞状態の微生物を効率よく発芽させることが可能となる。
【0075】
(殺菌(滅菌)工程S360)
殺菌工程S360では、殺菌工程S160と同様に、制御部185が加熱ガス供給部170を駆動して加熱ガス(ここでは、90℃〜110℃のうち予め定められた温度の水蒸気)を、収容容器160内に供給して、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間連続して、空果房に通流させる。このように、2回目の発芽用冷却工程S340、発芽条件維持工程S350を遂行することによって発芽した微生物が付着した空果房を加熱することで、微生物の死滅に要する予め定められた条件を維持する。ここでも、微生物の死滅に要する予め定められた条件は、空果房を90℃〜110℃のうち予め定められた温度にすることである。また、予め定められた条件を維持する時間は、例えば、30分〜90分のうち予め定められた時間である。なお、殺菌工程S160と同じく、ここでいう「殺菌」とは、少なくとも自然発火の発生が抑制できる程度に微生物を死滅させる処理を意味する。
【0076】
以上説明したように、第2変形例にかかるバイオマス製造システム300およびこれを用いたバイオマス製造方法によれば、少なくとも2回(蒸煮工程S110を含めると3回)、発芽した微生物を加熱して殺菌することができるため、バイオマス(空果房)に付着した、水素の発生要因となる微生物をより有効に殺菌することができる。
【0077】
以下、バイオマス製造システム300を用いて、複数回殺菌したバイオマスを毎日繰り返し搬出する手順について説明する。
【0078】
図8は、3つのバイオマス収容装置150A、150B、150Cのタイムチャートである。なお、
図8中、遂行する工程を矢印で示す。
図8に示すように、例えば、まず、1日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行する。なお、1日目においては、バイオマス収容装置150B、150Cでは処理を遂行しない。
【0079】
そして、2日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、殺菌工程S160、発芽用冷却工程S340、発芽条件維持工程S350を遂行するとともに、バイオマス収容装置150Bにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行する。なお、2日目においては、バイオマス収容装置150Cでは処理を遂行しない。
【0080】
さらに、3日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、殺菌工程S360、最終冷却工程S170、搬出工程S180を遂行するとともに、バイオマス収容装置150Bにおいて、殺菌工程S160、発芽用冷却工程S340、発芽条件維持工程S350を遂行し、バイオマス収容装置150Cにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行する。
【0081】
そして、4日目に、バイオマス収容装置150Aにおいて、投入工程S130、発芽用冷却工程S140、発芽条件維持工程S150を遂行するとともに、バイオマス収容装置150Bにおいて、殺菌工程S360、最終冷却工程S170、搬出工程S180を遂行し、バイオマス収容装置150Cにおいて、殺菌工程S160、発芽用冷却工程S340、発芽条件維持工程S350を遂行する。
【0082】
以降、2日目の処理、3日目の処理、4日目の処理を繰り返す。これにより、バイオマス収容装置150A、150B、150Cを用いて、複数回殺菌した空果房を毎日繰り返し搬出することが可能となる。
【0083】
(他の変形例)
上述したバイオマス製造システム100、200、300は、
図9に示す固形燃料化装置190を更に備えてもよい。この場合、バイオマス収容装置150は、粉砕部192、乾燥部194、成形部196と共に、固形燃料化装置190を構成する。この図に示すように、粉砕部192、乾燥部194、成形部196は脱果装置120に続く上流側から順番に設置され、バイオマス収容装置150は、粉砕部192の前段、粉砕部192と乾燥部194の間、成形部196の後段の何れかに設置される。なお、空果房の状態(形状、湿度など)に応じて、粉砕部192、乾燥部194、成形部196の何れかを省略することも可能である。また、固形燃料化装置190、空果房に添加物を加える手段(図示せず)をさらに備えてもよい。
【0084】
粉砕部192は、空果房に対して、切断、破砕、圧搾などより空果房を粉砕(crush)する(粉砕工程S400)。粉砕工程S400で処理される前の空果房の細胞膜は、蒸煮工程S110によって脆弱或いは破壊されている場合がある。従って、この場合は、粉砕工程S400を行うことによって、上述の細胞膜を更に破壊し、微生物の増殖を促進する単糖類、少糖類などの溶解性有機物や、燃焼時の阻害成分であるカリウムの溶出を促進させることができる。
【0085】
粉砕部192による粉砕工程S400を経た空果房、或いは、バイオマス収容装置150による殺菌工程S160(S360)を経た空果房には多量の水分が含まれている。そこで、乾燥部194は、輻射や温風などの周知の加熱手段を用いてこの空果房を乾燥する(乾燥工程S410)。乾燥工程S410を行うことによって、後述の成型工程S420における処理を容易にする。
【0086】
成形部196は、乾燥部194によって乾燥した空果房をさらに粉末に処理し、さらに所定の金型等を用いて粒状に圧縮し、成型する(成型工程S420)。この成型によって所謂ペレットが得られる。成型工程S420を行うことによって、燃焼時の単位体積当たりの熱量を増加させることができる。
【0087】
バイオマス収容装置150が粉砕部192の前段に設置される場合、収容容器160には、脱果装置120によって得られた空果房が投入される。即ち、この空果房は、蒸煮工程S110に加え、殺菌工程S160(S360)によって加熱される。従って、上述の溶解性有機物及びカリウムの溶出をさらに促進させることができる。
【0088】
バイオマス収容装置150が粉砕部192と乾燥部194の間に設置される場合、収容容器160には、粉砕部192によって粉砕された空果房が投入される。空果房は粉砕部192によって更に粉砕されている。そのため、殺菌工程S160(S360)において、空果房はその細部まで加熱されやすくなり、短時間且つ低コストで空果房を殺菌できる。
【0089】
バイオマス収容装置150が成形部196の後段に設置される場合、収容容器160には、粒状に成型された空果房(所謂ペレット)が投入される。従って、殺菌工程S160(S360)からペレットの出荷までの間の微生物が混入する機会を最小限に抑えることができる。
【0090】
(実施例)
本願発明者らは、1日目に空果房に100℃の水蒸気を30分供給し、放冷し、2日目に空果房に100℃の水蒸気を30分供給し、放冷し、3日目に空果房に100℃の水蒸気を30分供給し、放冷して実施例の試料(実施例の空果房)を作製した。
【0091】
そして、当該実施例の空果房、比較例1として無処理の空果房、比較例2の標準的な殺菌処理(121℃の飽和水蒸気下に20分維持)を施した空果房、それぞれを約5g(湿重量)採取し、各空果房それぞれに湿重量と同重量の水を添加して、密閉容器に収容し、30℃で10日間保存した。
【0092】
その結果、比較例1では、10日で気相の60%が二酸化炭素となり、気相の20%が水素となった。比較例2では、気相の15%が二酸化炭素となった。これに対し、実施例では、30日経過しても二酸化炭素、水素ともにほとんど検出されなかった(二酸化炭素4%未満、水素0.1%未満)。つまり、実施例では、微生物が有効に(自然発火防止という観点では十分に)殺菌され、水素の発生もなく、有機物の消費も少ない(二酸化炭素の発生が少ない)ことが確認できた。
【0093】
なお、比較例2において、二酸化炭素が発生した(有機物が消費された)理由として、121℃といった高温、高圧(2気圧程度)に曝すことによってバイオマスが少なからず変性したためか、20分の殺菌処理では、空果房の奥まで熱が到達せず芽胞状態の微生物を殺菌(滅菌)しきれなかったためであると推測される。しかし、実施例では、放冷中に芽胞状態の微生物が発芽し、発芽した微生物を加熱するという工程を複数回(ここでは、3回)繰り返すことにより、有効に微生物を死滅させることができたと推測される。
【0094】
また、上記バイオマス製造方法の処理を施した空果房を運搬したり、貯蔵したりする間に新たに微生物が混入される事態を想定し、実施例の空果房に湿重量と同重量の水と、土壌懸濁液(微生物含有液)を添加して、密閉容器に収容し、30℃で1ヶ月間保存した。
【0095】
その結果、気相の30%が二酸化炭素となったものの、水素は、爆発限界の4%よりも遙かに低い、気相の0.3%未満に留まったことが確認できた。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0097】
なお、本発明のバイオマス製造方法では、バイオマスの原料がアブラヤシであり、バイオマスがその空果房である。上記実施形態および変形例において
は、原料を蒸煮することで、バイオマスを得
た。ただし、バイオマスがベルトコンベア等で搬送可能な固体であれば、
本発明のバイオマス収容装置や本発明と同様のバイオマス製造方法を適用することも可能である(例えば、稲わら等の草本系バイオマス
)。
【0098】
また、上記実施形態および変形例において、加熱ガス供給部170は、加熱ガスとして水蒸気を供給しているが、少なくとも、発芽した微生物が付着したバイオマスを加熱して、微生物の死滅に要する予め定められた条件を維持することができれば、ガス種に限定はない。例えば、排気ガスや、空気であってもよい。
【0099】
また、上記実施形態および変形例において、冷却ガス供給部180は、収容容器160に収容されたバイオマスの下方から空気等を送風する構成について説明したが、バイオマスを冷却できれば送風方向に限定はない。
【0100】
また、上記実施形態および変形例において、投入口160aおよび搬出口160bの位置や構造は、投入作業および搬出作業が可能であれば、どのような形態でもよい。例えば、空果房を積載した台車を収容容器160に導入及び収容容器160から搬出できるように扉を設けてもよい。
【0101】
また、上記殺菌工程S160、S360において、加熱ガス供給部170が水蒸気を供給することで、発芽した微生物が付着したバイオマスを加熱して、微生物の死滅に要する予め定められた条件を維持している。しかし、微生物の死滅に要する予め定められた条件を維持できれば、加熱手段に限定はなく、例えば、バイオマスをヒータで加熱したり、遠赤外線を照射したりしてもよい。
【0102】
また、上記第2変形例において、発芽用冷却工程、発芽条件維持工程および殺菌工程を2回繰り返す構成について説明したが、3回以上繰り返すとしてもよい。
【0103】
なお、本明細書のバイオマス製造方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的に処理してもよい。