特許第6137328号(P6137328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6137328ポリプロピレンフィルムおよび離型用フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137328
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ポリプロピレンフィルムおよび離型用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20170522BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170522BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B32B27/32 E
   B32B27/00 L
   B29C67/14 G
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-539893(P2015-539893)
(86)(22)【出願日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】JP2015069428
(87)【国際公開番号】WO2016006578
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2017年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-141166(P2014-141166)
(32)【優先日】2014年7月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】久万 琢也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】今西 康之
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/061403(WO,A1)
【文献】 特開2014−1265(JP,A)
【文献】 特開平6−255060(JP,A)
【文献】 特開2006−77238(JP,A)
【文献】 特開2007−126644(JP,A)
【文献】 特開2005−280125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の少なくとも片面にポリプロピレンを主成分とする表層(I)を有し、当該表層(I)の表面自由エネルギーが15mN/m以上28mN/m未満であり、長手方向のヤング率EMDと幅方向のヤング率ETDとの比EMD/ETD値が0.2〜1.5である、ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
基材層の少なくとも片面にポリプロピレンを主成分とする表層(I)を有し、当該表層(I)の表面自由エネルギーが15mN/m以上28mN/m未満であり、幅方向の120℃の熱収縮率が1%以下である、ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
基材層の少なくとも片面にポリプロピレンを主成分とする表層(I)を有し、当該表層(I)の表面自由エネルギーが15mN/m以上28mN/m未満であり、150℃の熱収縮率が長手方向、幅方向共に0.1〜20%である、ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
長手方向のヤング率EMD、および幅方向のヤング率ETDが、共に2.0GPa以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記表層(I)の中心線平均粗さRaが10〜150nmである、請求項1〜のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記表層(I)の中心線平均粗さRaが200〜500nmであり、前記表層(I)の最大高さRmaxが1,000〜5,000nmである、請求項1〜のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
前記表層(I)の中心線平均粗さRaが200〜1,000nmであり、前記表層(I)の最大高さRmaxが5,000〜15,000nmである、請求項1〜のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
前記基材層はポリプロピレンと平均粒径が1〜10μmの粒子を含有してなり、ポリプロピレンフィルム全体の厚みにおける前記表層(I)の厚みの割合(%)が25%以下である、請求項1〜4、6および7のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムを用いてなる離型用フィルム。
【請求項10】
繊維強化複合材料の金型プレス用に使用される請求項に記載の離型用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性、表面粗度均一性、生産性に優れた、離型用フィルムとして好適に用いることのできるポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、離型用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。特に、ポリプロピレンフィルムは表面の離型性や機械特性に優れることから、プラスチック製品や建材や光学部材など、様々な部材の離型用フィルムや工程フィルムとして好適に用いられる。
【0003】
離型用フィルムへの要求特性はその使用用途によって適宜設定されるが、近年、ポリプロピレンフィルムが感光性樹脂などの粘着性を有する樹脂層のカバーフィルムとして用いられる場合がある。粘着性を有する樹脂層をカバーする場合、カバーフィルムの離型性が悪いと、剥がす際にきれいに剥離できず、保護面である樹脂層の形状が変化したり、保護面に剥離痕が残る場合があった。カバーフィルムの表面自由エネルギーが低いほど離型性がよいが、カバーフィルムの表面自由エネルギーはフィルムを構成するポリマーの種類によって決まり、従来使用されるポリプロピレンフィルムの表面自由エネルギーは29〜32mN/m程度であった(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
離型性向上の手段としては、たとえば特許文献5に、ポリプロピレン等のベース樹脂にポリメチルペンテン等を配合したフィルムの例が記載されている。ポリメチルペンテンやフッ素系樹脂やシリコン樹脂を用いれば、離型性を向上できる(すなわち、臨界表面張力で表現される表面自由エネルギーを低くすることができる)が、これらの樹脂は高価であり、使い捨てで使用するカバーフィルムでの使用は困難な場合があった。また、これらの樹脂をポリプロピレンに混練して使用すると、表面自由エネルギーはやや低下するものの、ポリプロピレンとの相溶性が悪いため、フィッシュアイなどが生じる場合があった。
【0005】
また、特許文献6には、表面凹凸により表面自由エネルギーを低下させる例が記載されているが、離型性が不十分であった。また、特許文献6では、後加工でのコーティングなどにより凹凸を形成しているため、コストが高くなる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−226410号公報
【特許文献2】特開2011−152733号公報
【特許文献3】特開2007−126644号公報
【特許文献4】特開平2−284929号公報
【特許文献5】特開2011−140594号公報
【特許文献6】特開2000−117900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、離型性、表面粗度均一性、生産性に優れたポリプロピレンフィルムおよび離型用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のポリプロピレンフィルムは、基材層の少なくとも片面にポリプロピレンを主成分とする表層(I)を有し、当該表層(I)の表面自由エネルギーが15mN/m以上28mN/m未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリプロピレンフィルムは、離型性、表面粗度均一性、生産性に優れることから、離型用フィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリプロピレンフィルムは、基材層の少なくとも片面にポリプロピレンを主成分とする表層(I)を有し、当該表層(I)の表面自由エネルギーが15mN/m以上28mN/m未満である。ここで、本願において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。表層(I)の表面自由エネルギーは、より好ましくは15mN/m以上27mN/m未満、更に好ましくは15mN/m以上26mN/m未満である。表面自由エネルギーが28mN/m以上であると、表面保護用の離型用フィルムとして用いたとき、保護面の接着性が高い場合に、きれいに剥離できず、保護面の形状が変化したり、保護面に剥離痕が残る場合がある。表層(I)の表面自由エネルギーは低いほど離型性がよいが、ポリプロピレンフィルムでは15mN/m程度が下限である。従来、フィルムの表面自由エネルギーは、フィルムを構成するポリマーの種類によって決まり、ポリプロピレンフィルムであれば表面自由エネルギーは29〜31mN/m程度であった。コロナ処理などにより、表面自由エネルギーを高くして、濡れ性を改善することは可能であったが、表面自由エネルギーを低くして、離型性を改善することは困難であった。本発明は、表面の状態を微細に制御することにより、ポリプロピレンを主成分としながら優れた離型性を有するポリプロピレンフィルムを提供するものである。表層(I)の表面自由エネルギーを上記範囲とするには、後述する第1の形態または第2の形態に基づき、表面の状態を微細に制御することにより達成可能である。
【0011】
なお、本発明のポリプロピレンフィルムは、表層(I)のポリメチルペンテン、フッ素系樹脂またはシリコン系樹脂の含有量がそれぞれ10質量%未満であることが好ましい。より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満であり、実質的に含有しないことが最も好ましい。ポリメチルペンテン、フッ素系樹脂およびシリコン系樹脂は、表面自由エネルギーが低く、離型性に優れた部材として知られており、上記素材を表層(I)に使用することにより、離型性を向上させることが可能であるが、上記素材はポリプロピレンとの相溶性が悪いため、たとえば、フィルムの表層(I)に添加して使用すると、きれいに分散せず、表面粗度の均一性が低下して品位が悪くなる場合がある。また、上記素材はポリプロピレンより高価なため、原料コストが高くなり、生産性が低下する場合がある。
【0012】
本発明のポリプロピレンフィルムは、長手方向のヤング率EMD、および幅方向のヤング率ETDが、共に2.0GPa以上であることが好ましい。EMDはより好ましくは2.1GPa以上、更に好ましくは2.2GPa以上である。ETDはより好ましくは2.5GPa以上、更に好ましくは3.0GPa以上、最も好ましくは4.0GPa以上である。EMDおよびETDが2.0GPa未満であると、表面保護用の離型用フィルムとして用いたとき、保護面の接着性が高い場合に、剥離張力でフィルムが伸びて破れたり、保護面に剥離痕が残る場合がある。EMDおよびETDは大きいほど好ましいが、実質的には7GPa程度が上限である。EMDおよびETDの値を上記範囲とするためには、基材層および表層(I)の原料組成を後述する範囲とするとともに、製膜条件を後述する範囲とし、フィルムを高倍率で二軸延伸してポリプロピレンフィルムを得ることが好ましい。
尚、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
【0013】
本発明のポリプロピレンフィルムは、EMD/ETDの値が0.2〜1.5であることが好ましい。より好ましくは、0.3〜1.4、更に好ましくは0.4〜1.3である。EMD/ETDの値が1.5を超えると、長手方向の配向が極端に強く、ハンドリング時に長手方向にフィルムが裂ける場合がある。反対にEMD/ETDの値が0.2未満であると、幅方向の配向が極端に強く、幅方向にフィルムが裂ける場合がある。EMD/ETDの値を上記範囲とするには、基材層および表層(I)の原料組成を後述する範囲とするとともに、製膜条件を後述する範囲とし、フィルムを高倍率で二軸延伸してポリプロピレンフィルムを得ることが好ましい。
【0014】
本発明のポリプロピレンフィルムは、幅方向の120℃の熱収縮率が1%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下である。幅方向の120℃の熱収縮率が1%を超えると、たとえば、他の素材と貼り合わせた後、熱がかかる乾燥工程等を通過する際などに、ポリプロピレンフィルムが変形して剥がれたり、しわが入る場合がある。熱収縮率の下限は特に限定されないが、ポリプロピレンフィルムが膨張する場合もあり、実質的には−2.0%程度が下限である。熱収縮率を上記範囲とするには、基材層および表層(I)の原料組成を後述する範囲とするとともに、製膜条件を後述する範囲とし、特に二軸延伸後の熱固定、弛緩条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0015】
本発明のポリプロピレンフィルムは、150℃の熱収縮率が長手方向、幅方向共に0.1〜20%であることが好ましい。より好ましくは、0.5〜18%、更に好ましくは0.8〜15%である。150℃の熱収縮率が20%を超えると、たとえば、プレス成形用の離型用フィルムとして用いる際などに、プレス成形時の熱でポリプロピレンフィルムが変形してしわが入る場合がある。150℃の熱収縮率が0.1%未満であると、プレス成形時の熱でポリプロピレンフィルムが局所的に膨張し、余ったポリプロピレンフィルムが折れてしわとなる場合がある。熱収縮率を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に二軸延伸後の熱固定、弛緩条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0016】
本発明のポリプロピレンフィルムの厚みは、用途によって適宜調整されるものであり特に限定はされないが、0.5μm以上100μm以下であることが好ましい。厚みが0.5μm未満であると、ハンドリングが困難になる場合があり、100μmを超えると、樹脂量が増加して生産性が低下する場合がある。本発明のポリプロピレンフィルムは、厚みを薄くしても、引張剛性に優れるためハンドリング性を保つことができる。このような特徴を活かすためには、厚みは、1μm以上40μm以下であることがより好ましく、1μm以上30μm以下であることが更に好ましく、1μm以上15μm以下であることが最も好ましい。厚みは他の物性を悪化させない範囲内で、押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
【0017】
本発明のポリプロピレンフィルムは、後述する第1の形態および第2の形態によって達成可能である。まず第1の形態について説明する。
【0018】
本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態では、表層(I)の表面に、ポリプロピレンのフィブリルからなる緻密なネットワーク構造を形成する。物質表面の表面自由エネルギーを低下させるには、表面に凹凸を設ける手法が知られているが、フィブリルからなる緻密なネットワーク構造を形成させることにより、高い表面平滑性と離型性を両立することができる。
【0019】
本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態では、表層(I)の中心線平均粗さRaは10〜150nmであることが好ましい。より好ましくは10〜100nm、更に好ましくは10〜60nmである。Raが150nmを超えると、たとえば光学用部材の離型用フィルムとして用いたときに、離型用フィルムの表面凹凸が光学用部材に転写して製品の視認性に影響を及ぼす場合がある。Raは低いほど好ましいが、本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態では、10nm程度が下限である。Raを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や表層(I)の原料組成を後述する範囲とするとともに、製膜条件を後述する範囲とし、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0020】
次に、本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態に好適に用いられるポリプロピレン原料、およびその原料を用いたフィルムの構成について説明する。
【0021】
本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態では、ポリプロピレンを主成分としてなる基材層の少なくとも片面に、ポリプロピレンを主成分とする表層(I)を設けた積層構成であることが好ましい。ここで、基材層は特に限定されず、材質としてはポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートなど公知のものを単独または2種以上混合して採用することができるが、表層(I)との剥離が生じないことや、フィルムの強度、コシなど、ハンドリング性を向上させるために、ポリプロピレンを主成分としてなる二軸延伸フィルムであることが好ましく、表層(I)は、離型性を付与するために、ポリプロピレンのフィブリルからなる緻密なネットワーク構造を形成した層であることが好ましい。ここで、ネットワーク構造を形成することにより、離型性が向上する理由は、ネットワーク構造を形成するフィブリル間の微小な空隙に空気が存在し、保護フィルムとして用いたとき、被着体との接触面積を小さくできるためと考えられる。
【0022】
本発明の第1の形態の基材層に好ましく用いられるポリプロピレン原料Aについて説明する。
【0023】
ポリプロピレン原料Aは、好ましくは冷キシレン可溶部(以下CXS)が4質量%以下でありかつメソペンタッド分率は0.95以上であるポリプロピレンであることが好ましい。これらを満たさないと製膜安定性に劣ったり、フィルムの引張剛性が低下する場合がある。
【0024】
ここで冷キシレン可溶部(CXS)とは、フィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分のことをいい、立体規則性の低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当していると考えられる。このような成分が多く樹脂中に含まれているとフイルムの引張剛性に劣ることがある。従って、CXSは4質量%以下であることが好ましいが、更に好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。CXSは低いほど好ましいが、0.1質量%程度が下限である。このようなCXSを有するポリプロピレンとするには、樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られた樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法等が使用できる。
【0025】
同様な観点からポリプロピレン原料Aのメソペンタッド分率は0.95以上であることが好ましく、更に好ましくは0.97以上である。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、融点が高くなり、高温での使用に適するため好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。このように立体規則性の高い樹脂を得るには、n−ヘプタン等の溶媒で得られた樹脂パウダーを洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。
【0026】
また、ポリプロピレン原料Aとしては、メルトフローレート(MFR)が1〜10g/10分の範囲のものが、製膜性やフィルムの引張剛性の観点から好ましい。ここで、MFRとはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値である。本発明においては230℃、2.16kgfで測定した値を指す。メルトフローレート(MFR)は、2〜5g/10分の範囲のものが特に好ましい。MFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0027】
ポリプロピレン原料Aは、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよいし、プロピレンが単独ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルペンテン−1、3−メチルブテンー1、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、5−エチルヘキセン−1、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量またはブレンド量は、引張剛性の観点から、共重合量では1mol%未満とし、ブレンド量では10質量%未満とすることが好ましい。
【0028】
次に、本発明の第1の形態の表層(I)に好ましく用いられるポリプロピレン原料Bについて説明する。
【0029】
ポリプロピレン原料Bは、ポリプロピレンのフィブリルからなる緻密なネットワーク構造を形成させるために、β晶形成能を有することが好ましい。ここでβ晶形成能は30〜100%であることが好ましい。β晶形成能が30%未満では、フィルム製造時にフィブリルのネットワーク構造を形成しにくく、優れた離型性を得られない場合がある。β晶形成能を30〜100%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレンを使用したり、β晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能は、35〜100%がより好ましく、40〜100%が特に好ましい。
【0030】
β晶核剤としては、たとえば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、コハク酸マグネシウムなどのカルボン酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属塩、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドに代表されるアミド系化合物、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸化合物、イミドカルボン酸誘導体、フタロシアンニン系顔料、キナクリドン系顔料を好ましく挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン組成物全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、フィブリルのネットワーク構造を形成しにくく、優れた離型性を得られない場合がある。0.5質量%を超えると、過剰に添加されたβ晶核剤が起点となり欠点が発生する場合がある。
【0031】
ポリプロピレン原料Bには、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が2〜30g/10分(230℃、2.16Kgf)のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いることが押出成形性及び孔の均一な形成の観点から好ましい。また、ポリプロピレン原料Bのアイソタクチックインデックスは90〜99.9%の範囲であることが好ましい。より好ましくは95〜99%である。ポリプロピレン原料Bのアイソタクチックインデックスが90%未満の場合、樹脂の結晶性が低くなってしまい、製膜性が低下したり、フィルムの強度が不十分となる場合がある。
【0032】
本発明のポリプロピレン原料Bとしては、ホモポリプロピレンを用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。また、ポリプロピレン原料Bは、ホモポリプロピレンおよび/またはポリプロピレン共重合体と、高分子量ポリプロピレンとを併用してもよい。ポリプロピレン原料Bは、0.5〜30質量%の範囲で高分子量ポリプロピレンを含有することが強度向上の観点で好ましい。高分子量ポリプロピレンとはMFRが0.1〜2g/10分(230℃、2.16Kgf)のポリプロピレンであり、たとえば、住友化学社製ポリプロピレン樹脂D101や、プライムポリマー社製ポリプロピレン樹脂E111G、B241、E105GMなどを好ましく用いることができる。
【0033】
本発明のポリプロピレン原料Aおよびポリプロピレン原料Bには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン原料Aおよびポリプロピレン原料Bの熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。酸化防止剤含有量は、ポリプロピレン組成物100質量部に対して2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0034】
本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態は、上記ポリプロピレン原料Aからなる基材層の少なくとも片面に、上記ポリプロピレン原料Bからなる表層(I)が積層された積層構成であることが好ましい。このとき、ポリプロピレンフィルム全体の厚みにおける表層(I)厚みの割合(%)は、25%以下であることが好ましく、より好ましくは23%以下、更に好ましくは20%以下である。表層(I)の厚みの割合が25%を超えると、ポリプロピレンフィルムの強度が低下し、表面保護用の離型用フィルムとして用いたとき、保護面の接着性が高い場合に、剥離張力でフィルムが伸びて破れたり、保護面に剥離痕が残る場合がある。表層(I)厚みの割合(%)は、2%未満であると、離型性が低下する場合があるため、2%以上であることが好ましい。積層厚み比を上記範囲内とするためには、基材層および表層(I)に使用するそれぞれの押出機のスクリュウ回転数により調整すればよい。
【0035】
また、本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態において、表層(I)の厚みは10μm以下であることが好ましい。より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下である。離型性が発現すれば下限は特に限定されないが、表層が薄すぎると積層ムラが生じやすく、安定した製膜が困難となるため、実質的には0.05μm程度が下限である。表層(I)の厚みが10μmを超えると、有機溶剤など表面張力の低い液体を滴下したとき、液滴が表層(I)の内部に浸透してしまい、表面自由エネルギーを測定できない場合がある。また、有機溶剤などが残存するコーティング層などの保護フィルムとして用いたとき、離型性が悪化したり、剥離時にフィルムが劈開する場合がある。表層(I)の厚みを上記範囲内とするためには、表層(I)に使用する押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
【0036】
次に本発明のポリプロピレンフィルムの第1の形態の製造方法を説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0037】
まず、ポリプロピレン原料AをA層用の単軸押出機に供給し、ポリプロピレン原料BをB層用の単軸押出機に供給し、200〜260℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、マルチマニホールド型のB層/A層/B層の複合Tダイにて例えば1/8/1の積層厚み比になるように積層し、キャストドラム上に吐出し、B層/A層/B層の層構成を有する積層未延伸シートを得る。この際、キャストドラムは表面温度が80〜130℃であることがB層の離型性向上の観点から好ましく、90〜120℃であることがより好ましい。キャストドラムの温度を上述した範囲内とすることにより、B層にβ晶を効率よく発生させ、続く縦延伸工程、横延伸工程でフィルム表面にフィブリルからなるネットワーク構造を形成させ、離型性を向上させることが可能である。キャストドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性の観点からエアーナイフ法が好ましい。エアーナイフのエアー温度は、25〜100℃、好ましくは30〜80℃で、吹き出しエアー速度は130〜150m/sが好ましく、幅方向均一性を向上させるために2重管構造となっていることが好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
【0038】
得られた未延伸シートは、空気中で放冷された後、縦延伸工程に導入される。縦延伸工程ではまず複数の100℃以上150℃未満に保たれた金属ロールに未延伸シートを接触させて延伸温度まで予熱され、長手方向に3〜8倍に延伸した後、室温まで冷却する。延伸温度が150℃以上であると、続く横延伸工程でフィルム表面にフィブリルからなるネットワーク構造が形成しづらくなり、離型性が低下する場合がある。また延伸倍率が3倍未満であると、同様に離型性が低下したり、フィルムの配向が弱くなり、引張剛性が低下する場合がある。
【0039】
次いで縦一軸延伸フィルムをテンターに導いてフィルムの端部をクリップで把持し横延伸を120〜165℃の温度で幅方向に7〜13倍に延伸する。延伸温度が低いと、フィルムが破断する場合があり、延伸温度が高すぎると、表層にフィブリルからなるネットワーク構造が形成しづらくなり、離型性が低下する場合がある。また、倍率が高いとフィルムが破断する場合があり、倍率が低いとフィルムの配向が弱く引張剛性が低下する場合がある。
【0040】
続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2〜20%の弛緩率で弛緩を与えつつ、100℃以上160℃度未満の温度で熱固定し、続いて80〜100℃での冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、フィルム製品ロールを巻き取る。
【0041】
次に、本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態について説明する。
【0042】
本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態では、後述するポリプロピレン原料を主成分とする表層(I)の表面に、特定の表面形状に制御された凹凸を形成する。これにより、表面粗度の均一性と離型性を両立することができる。
【0043】
本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態では、表層(I)の中心線平均粗さRaが200〜1,000nmであることが好ましい。より好ましくは200〜800nm、更に好ましくは200〜500nmである。Raが200nm未満では、表面が平滑になりすぎて、第2の形態における離型性向上の効果が得られない場合がある。Raが1,000nmを超えると、製膜時にフィルムが破断しやすくなったり、また、Raが大きすぎて離型性が低下する場合がある。Raを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態では、表層(I)の最大高さRmaxが1,000〜15,000nmであることが好ましい。より好ましくは1,000〜10,000nm、更に好ましくは1,000〜5,000nmである。Rmaxが1,000nm未満では、表面が平滑になりすぎて、第2の形態における離型性向上の効果が得られない場合がある。Rmaxが15,000nmを超えると、製膜時にフィルムが破断しやすくなったり、また、Rmaxが大きすぎて離型性が低下する場合がある。Rmaxを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0044】
本発明の第2の形態にかかるポリプロピレンフィルムを一般的な工程フィルムや保護フィルムに用いる場合は、表層(I)の中心線平均粗さRaが200〜500nmであることが好ましい。より好ましくは200〜400nm、更に好ましくは200〜350nmである。Raが200nm未満では、表面が平滑になりすぎて、第2の形態における離型性向上の効果が得られない場合がある。一方、Raが500nmを超えると、たとえば軟質部材の表面保護フィルムとして用いたときに、フィルムの表面凹凸が軟質部材に転写して悪影響を及ぼす場合がある。また、Raが大きすぎても離型性が低下する場合がある。Raを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とするとともに、製膜条件を後述する範囲、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0045】
本発明の第2の形態にかかるポリプロピレンフィルムを一般的な工程フィルムや保護フィルムに用いる場合は、表層(I)の最大高さRmaxが1,000〜5,000nmであることが好ましい。より好ましくは1,000〜4,500nm、更に好ましくは1,000〜4,000nmである。Rmaxが1,000nm未満では、表面が平滑になりすぎて、第2の形態における離型性向上の効果が得られない場合がある。Rmaxが5,000nmを超えると、たとえば軟質部材の表面保護フィルムとして用いたときに、フィルムの表面凹凸が軟質部材に転写して悪影響を及ぼす場合がある。また、Rmaxが大きすぎても離型性が低下する場合がある。Rmaxを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とし、特に表層にはポリエチレンやポリメチルペンテンやフッ素系樹脂やシリコン系樹脂など、ポリプロピレンと相溶しない樹脂や、架橋(ゲル)成分の生成によるフィッシュアイの発生が生じやすい樹脂を使用しないこと、また、製膜条件を後述する範囲、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0046】
また、本発明の第2の形態にかかるポリプロピレンフィルムを金型プレス成形などにおける意匠性フィルムとして用いる場合は、表層(I)の中心線平均粗さRaが200〜1,000nmであることが好ましい。より好ましくは300〜950nm、更に好ましくは400〜900nmである。Raを上述する範囲内とすることにより、たとえば金型プレス成形用の離型用フィルムとして用いたときに、フィルムの表面凹凸が部材に転写して、部材表面に均一なマット感を与えることができ、意匠性フィルムとして有用である。Raが200nm未満であると、フィルム表面の凹凸が部材に転写できず、意匠性フィルムとして使用できない場合がある。Raが1,000nmを超えると、製膜時にフィルムが破断しやすくなったり、また、Raが大きすぎて離型性が低下する場合がある。Raを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0047】
本発明の第2の形態にかかるポリプロピレンフィルムを金型プレス成形などにおける意匠性フィルムとして用いる場合は、表層(I)の最大高さRmaxが5,000〜15,000nmであることが好ましい。より好ましくは8,000〜15,000nm、更に好ましくは10,000〜15,000nm、最も好ましくは12,000〜15,000nmである。Rmaxを上述する範囲内とすることにより、たとえば金型プレス成形用の離型用フィルムとして用いたときに、フィルムの表面凹凸が部材に転写して、部材表面に均一なマット感を与えることができ、意匠性フィルムとして有用である。Rmaxが5,000nm未満であると、フィルム表面の凹凸が部材に転写できず、意匠性フィルムとして使用できない場合がある。Rmaxが15,000nmを超えると、製膜時にフィルムが破断しやすくなったり、また、Rmaxが大きすぎて離型性が低下する場合がある。Rmaxを上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とし、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0048】
また、本発明のポリプロピレンフィルムを金型プレス成形などにおける意匠性フィルムとして用いる場合は、プレス成形前後で表面粗さの変化が小さい方が好ましく、プレス後の最大高さをRmax1、プレス前の最大高さをRmax2としたとき、Rmax1/Rmax2の値が0.5以上であることが好ましい。Rmax1/Rmax2の値が0.5未満であると、プレス成形時に表層(I)表面の凹凸が減少して、離型性が低下したり、表面凹凸を製品に転写できない場合がある。Rmax1/Rmax2の値を上記範囲内とするためには、フィルムの積層構成や各層の原料組成を後述する範囲とするとともに、製膜条件を後述する範囲、特に押出条件、延伸条件を後述する範囲とすることが効果的である。
【0049】
次に、本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態に好適に用いられるポリプロピレン原料、およびその原料を用いたフィルムの構成について説明する。
【0050】
本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態では、ポリプロピレンと粒子を含有してなる基材層の少なくとも片面に、ポリプロピレンを主成分とする表層(I)を設けた積層構成であることが好ましい。ここで、基材層はフィルムの強度、コシなど、ハンドリング性を向上させるために、二軸延伸フィルムであることが好ましく、更に、表層(I)の表面形状を制御する目的で、粒子を含有していることが好ましい。表層(I)は、離型性を付与するために、ポリプロピレンを主成分とした層であることが好ましく、ポリプロピレンの結晶性が高いことがより好ましい。本発明の第2の形態では、基材層(内層)に含有させた粒子により、基材層の表面(基材層と表層(I)との界面)に凹凸を形成し、表層(I)の厚みを後述する範囲とすることにより、表層(I)の表面にも基材層表面と同様の凹凸を形成することができ、離型性の向上を図ることが可能となる。更に表層(I)には、ポリプロピレン以外の樹脂や粒子を実質的に使用しないことが離型性向上の観点から重要である。
【0051】
本発明の第2の形態の基材層に好ましく用いられるポリプロピレン原料Cについて説明する。
【0052】
ポリプロピレン原料Cには、ポリプロピレン樹脂と粒子が少なくとも含有されることが好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、特に限定されるものではなく、ホモポリプロピレンを用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。フィルム強度の観点からは結晶性の高いホモポリプロピレンを使用することが好ましい。
【0053】
また、ポリプロピレン原料Cに使用するポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、表層に使用する樹脂との粘度差の観点から、1〜10g/10分(230℃、2.16Kgf)であることが好ましく、より好ましくは2〜5g/10分(230℃、2.16Kgf)の範囲のものが、製膜性やフィルムの引張剛性の観点から好ましい。MFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0054】
ポリプロピレン原料Cに使用するポリプロピレン樹脂としては、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよいし、プロピレンが単独ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルペンテン−1、3−メチルブテンー1、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、5−エチルヘキセン−1、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量またはブレンド量は、引張剛性の観点から、共重合量では1mol%未満とし、ブレンド量では10質量%未満とすることが好ましい。
【0055】
ポリプロピレン原料Cに使用する粒子としては、製膜工程での剪断応力や熱により粒子形状を失うものでなければ特に限定されず、無機粒子や有機粒子を使用することができる。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物や硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、マイカ、カオリン、クレーなどを挙げることができる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物や炭酸カルシウムが好ましい。有機粒子としては、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッ素系化合物の架橋粒子、もしくはこれらの混合物を挙げることができる。
【0056】
上記無機粒子および有機粒子の平均粒径は、1〜10μmの範囲であることが好ましい。粒径は、より好ましくは2〜10μm、更に好ましくは3〜10μm、最も好ましくは4〜10μmである。平均粒径が1μm未満では基材層および表層(I)の表面粗さが小さくなり、離型性が低下する場合がある。10μmを超えるとフィルムが破れやすくなったり、表面粗さの最大高さRmaxが大きくなりすぎることがある。ここで、無機粒子の平均粒子径の測定方法は、粒子の透過型電子顕微鏡写真から画像処理により得られる円相当径を用い、重量平均径を算出して採用する。
【0057】
上記粒子の添加量としては、ポリプロピレン原料C全体を100質量部としたとき、2〜20質量部であることが好ましい。添加量が2質量部未満では、表面粗さが小さくなり、離型性が低下する場合がある。20質量部を超えるとフィルムが破れやすくなったり、表層(I)の表面粗さの最大高さRmaxが大きくなりすぎることがある。
【0058】
次に、本発明の第2の形態の表層(I)に好ましく用いられるポリプロピレン原料Dについて説明する。
【0059】
ポリプロピレン原料Dは、高い離型性を得るために、ポリプロピレンを主成分とし、添加剤などの他の成分は極力使用しないことが好ましく、また、結晶性の高いホモポリプロピレンを使用することが好ましい。この観点から、ポリプロピレン原料Dには、上述したポリプロピレン原料Aと同じものを好ましく用いることができる。
【0060】
本発明の第2の形態に使用するポリプロピレン原料Cおよびポリプロピレン原料Dには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン原料Cおよびポリプロピレン原料Dの熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。酸化防止剤含有量は、ポリプロピレン組成物100質量部に対して2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
【0061】
本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態は、上記ポリプロピレン原料Cからなる基材層の少なくとも片面に、上記ポリプロピレン原料Dからなる表層(I)が積層された積層構成であることが好ましい。このとき、ポリプロピレンフィルム全体の厚みにおける表層(I)厚みの割合(%)は、25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下である。表層(I)の厚みの割合が25%を超えると、表面粗さが小さくなり、離型性が低下する場合がある。表層(I)厚みの割合(%)は、1%未満であると、基材層に含有する粒子が表層(I)を突き破って表層に露出し、表面自由エネルギーが増加する場合があるため、1%以上であることが好ましい。積層厚み比を上記範囲内とするためには、基材層および表層(I)に使用するそれぞれの押出機のスクリュウ回転数により調整すればよい。
【0062】
また、本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態において、表層(I)の厚みは5μm以下であることが好ましい。より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下である。離型性が発現すれば下限は特に限定されないが、表層が薄すぎると積層ムラが生じやすく、安定した製膜が困難となるため、実質的には0.05μm程度が下限である。表層(I)の厚みが5μmを超えると、表面粗さが小さくなり、離型性が低下する場合がある。表層(I)の厚みを上記範囲内とするためには、表層(I)に使用する押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
【0063】
次に本発明のポリプロピレンフィルムの第2の形態の製造方法を説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0064】
まず、ポリプロピレン原料CをA層用の単軸押出機に供給し、ポリプロピレン原料DをB層用の単軸押出機に供給し、200〜260℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、マルチマニホールド型のB層/A層/B層の複合Tダイにて例えば1/8/1の積層厚み比になるように積層し、キャストドラム上に吐出し、B層/A層/B層の層構成を有する積層未延伸シートを得る。この際、キャストドラムは表面温度が30〜130℃であることが好ましい。キャストドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性の観点からエアーナイフ法が好ましい。エアーナイフのエアー温度は、25〜100℃、好ましくは30〜80℃で、吹き出しエアー速度は130〜150m/sが好ましく、幅方向均一性を向上させるために2重管構造となっていることが好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
【0065】
得られた未延伸シートは、空気中で放冷された後、縦延伸工程に導入される。縦延伸工程ではまず複数の100℃以上150℃未満に保たれた金属ロールに未延伸シートを接触させて延伸温度まで予熱され、長手方向に3〜8倍に延伸した後、室温まで冷却する。延伸温度が150℃以上であると、延伸ムラが生じたり、フィルムが破断する場合がある。また延伸倍率が3倍未満であると、延伸ムラが生じたり、フィルムの配向が弱くなり、引張剛性が低下する場合がある。
【0066】
次いで縦一軸延伸フィルムをテンターに導いてフィルムの端部をクリップで把持し横延伸を120〜165℃の温度で幅方向に7〜13倍に延伸する。延伸温度が低いと、フィルムが破断したりする場合があり、延伸温度が高すぎると、フィルムの剛性が低下する場合がある。また、倍率が高いとフィルムが破断する場合があり、倍率が低いとフィルムの配向が弱く引張剛性が低下する場合がある。
【0067】
続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2〜20%の弛緩率で弛緩を与えつつ、100℃以上160℃度未満の温度で熱固定し、続いて80〜100℃での冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、フィルム製品ロールを巻き取る。
【0068】
以上のようにして得られた本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることができるが、特に離型性に優れることから、離型用フィルム、工程フィルムとして好ましく用いることができる。特に本発明の第2の形態のポリプロピレンフィルムは、離型性と意匠性に優れるため、表面形状転写用の工程フィルムまたはプレス用離型フィルムとして好ましく用いられ、例えば、繊維強化複合材料の金型プレス用の離型用フィルムとして用いると、プレス後の製品からの離型性に優れ、また、製品にマット面を転写させることができるため好ましい。
【0069】
本発明のポリプロピレンフィルムを用いて、金型プレスにより繊維強化複合材料を形成する方法を例示すると、次のとおりである。
【0070】
まず、後述する製造例1に準じた方法で、繊維強化複合材料板のプリプレグを製造する。次に、プリプレグの両面に本発明のポリプロピレンフィルムを貼り付ける。続いて金型プレス装置にて、140〜155℃、0.5〜1.0MPaで3〜30分プレスし、プリプレグを硬化させ、金型から取り出して常温に戻した後、本発明の離型用フィルムを剥離して繊維強化複合材料を得る。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0072】
(1)フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0073】
(2)表面自由エネルギー
測定液として、水、エチレングリコ−ル、ホルムアミド、及びヨウ化メチレンの4種類の液体を用い、協和界面化学(株)製接触角計CA−D型を用いて、各液体のフィルム表面に対する静的接触角を求めた。なお、静的接触角は、各液体をフィルム表面に滴下後、30秒後に測定した。各々の液体について得られた接触角と測定液の表面張力の各成分を下式にそれぞれ代入し4つの式からなる連立方程式をγSd、γSp、γShについて解いた。
(γSd・γLd)1/2+(γSp・γLp)1/2+(γSh・γLh)
1/2 =γL(1+COSθ)/2
但し、γS=γSd+γSp+γSh
γL=γLd+γLp+γLh
γS、γSd、γSp、γShはそれぞれフィルム表面の表面自由エネルギー、分散力成分、極性力成分、水素結合成分を、またγL、γLd、γLp、γLhは用いた測定液のそれぞれ表面自由エネルギー、分散力成分、極性力成分、水素結合成分を表わすものとる。ここで、用いた各液体の表面張力は、Panzer(J.Panzer,J.Colloid Interface Sci.,44,142(1973)によって提案された値を用いた。
【0074】
(3)長手方向および幅方向のヤング率(EMD、ETD
ポリプロピレンフィルムを試験方向長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンAMF/RTA−100)を用いて、JIS−K7127(1999)に規定された方法に準じて、25℃、65%RH雰囲気で5回測定を行い、平均値を求めた。ただし、初期チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分として、試験を開始してから荷重が1Nを通過した点を伸びの原点とした。
【0075】
(4)熱収縮率(120℃)
フィルムの幅方向に幅10mm、長さ200mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から25mmの位置に標線として印しを付けて、万能投影機で標線間の距離を測定し試長(l)とする。次に、試験片を紙に挟み込み荷重ゼロの状態で120℃に保温されたオーブン内で、15分間加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l)を万能投影機で測定して下記式にて求め、5本の平均値を熱収縮率とした。
熱収縮率={(l−l)/l}×100(%)
【0076】
(5)フィルムの表面粗さ(Ra、Rmax)
ポリプロピレンフィルムを、表面粗さ計(SURFCORDER ET4000A:(株)小坂研究所製)を用い、JIS−B−0601:2001に基づき、下記測定条件にて測定を行い、中心線平均粗さSRa(nm)および最大高さSRmax(nm)を求めた。ただし、測定は表層(I)面について3カ所測定し、平均値とした。
<測定条件>
測定速度:0.1mm/s
測定範囲:長手方向1,000μm、幅方向1,000μm
測定ピッチ:長手方向1μm、幅方向15μm
カットオフ値λc:0.2mm
触針先端半径:0.5μm
【0077】
(6)熱収縮率(150℃)
ポリプロピレンフィルムについて、セイコーインスツルメント社製TMA/SS6000を用いて、下記温度プログラムにて一定荷重下におけるフィルム長手方向および幅方向の収縮曲線をそれぞれ求めた。得られた収縮曲線から、150℃での熱収縮率を読み取った。
温度プログラム 25℃→(5℃/min)→170℃(hold 5min)
荷重 2g
サンプルサイズ サンプル長15mm×幅4mm
(測定したい方向をサンプル長側に合わせる)
【0078】
(7)プレス後の表面粗さ
本発明のポリプロピレンフィルムを10cm四方に5枚サンプリングし、5枚重ね合わせて、プレス機で0.6MPa、150℃で3分間プレスした。その後、5枚のポリプロピレンフィルムを剥がして、5枚中3枚目のフィルムについて、上記(5)と同様の方法で表面粗さを測定した。プレス後の最大高さをRmax1、プレス前の最大高さをRmax2としたとき、以下の基準で評価した。
○:Rmax1/Rmax2≧0.5
×:Rmax1/Rmax2<0.5
【0079】
(8)繊維強化複合材料からの離型性
後述する製造例1に記載の方法でプレス成形し、繊維強化複合材料から本発明のポリプロピレンフィルムを手で剥離する際の剥離性について、以下の基準で評価した。
○:ポリプロピレンフィルムが一定速度で剥離可能。
×:剥離抵抗がやや強く、一定速度で剥離できない。または、剥離時にポリプロピレンフィルムが伸びる、または破れる。
【0080】
(9)繊維強化複合材料のマット感
後述する製造例1に記載の方法で作製した繊維強化複合材料について、表面のマット感を目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:マット感が特に強く良好である。
○:マット感が強い。
△:マット感は弱いが、繊維強化複合材料中の繊維目が確認できない。
×:目視で繊維強化複合材料中の繊維目が確認可能。
【0081】
(製造例1)
(1)エポキシ樹脂組成物の作製
エポキシ樹脂組成物として、“エピコート”(登録商標)828を20質量部、“エピコート”(登録商標)834を20質量部、“エピコート”(登録商標)1001を25質量部、(以上、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピコート”(登録商標)154を35質量部(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン(株)製)、アミン系硬化剤としてDICY7(ジシアンジアミド、ジャパンエポキシレジン(株)製)を4質量部、リン系化合物として“ノーバレッド”(登録商標)120(平均粒径25μm、リン含有量85%、燐化学工業(株)製)を3質量部、硬化促進剤として“オミキュア”(登録商標)24(2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)、ピイ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)を5質量部、熱可塑性樹脂として“ビニレック”(登録商標)K(ポリビニルホルマール、チッソ(株)製)を5質量部、を下に示す手順でニーダーで混合し、ポリビニルホルマールが均一に溶解したエポキシ樹脂組成物を得た。
(a)各エポキシ樹脂原料とポリビニルホルマールとを150〜190℃に加熱しながら1〜3時間攪拌し、ポリビニルホルマールを均一に溶解する。
(b)樹脂温度を90℃〜110℃まで降温し、リン系化合物を加えて20〜40分間攪拌する。
(c)樹脂温度を55〜65℃まで降温し、ジシアンジアミド、および2,4−トルエンビス(ジメチルウレア)を加え、該温度で30〜40分間混練後、ニーダー中から取り出して樹脂組成物を得る。
【0082】
(2)プリプレグの作製
続いて調製した樹脂組成物を、リバースロールコータを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。樹脂フィルムの単位面積あたりの樹脂量は、25g/mとした。次に、単位面積あたりの繊維重量が100g/mとなるようにシート状に一方向に整列させた炭素繊維トレカ(登録商標)T700SC−12K−50C(東レ株式会社製)に樹脂フィルムを炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧して樹脂組成物を含浸させ、プリプレグを作製した。
【0083】
(3)繊維強化複合材料の作製
上記プリプレグの両面に下記実施例および比較例で作製したポリプロピレンフィルムの表層(I)の面を貼り付け、加熱プレスを用いて圧力0.6MPa、温度150℃で3分間で加熱加圧し、加圧プレス機から取り外して常温まで冷却した後、下記実施例および比較例で作製したポリプロピレンフィルムを剥離して、厚さ約0.2mmの繊維強化複合材料を得た。
【0084】
(実施例1)
まず、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.7質量部、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX(登録商標)1010、IRGAFOS(登録商標)168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料Bを得た。
基材層(A層)用のポリプロピレン原料Aとして結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)をA層用の単軸の溶融押出機に供給し、表層(I)(B層)用のポリプロピレン原料Bとして、上記ポリプロピレン原料BをB層用の単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B複合Tダイにて8/1の厚み比で積層し、90℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。このとき、表層(I)のポリプロピレン原料Bをキャストドラムに接地する面とした。ついで、複数のセラミックロールを用いて125℃に予熱を行いフィルムの長手方向に4.6倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、165℃で3秒間予熱後、160℃で8.0倍に延伸した。続く熱処理工程で、幅方向に10%の弛緩を与えながら160℃で熱処理を行ない、その後130℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、フィルムをコアに巻き取り、厚み15μmのポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
基材層(A層)用のポリプロピレン原料Cとして結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)93.3質量部と、炭酸カルシウム80質量%とポリプロピレン20質量%をコンパウンドしたマスター原料(三共精粉(株)製、2480K、炭酸カルシウム粒子:6μm)6.7質量部とをドライブレンドしてA層用の単軸の溶融押出機に供給し、表層(I)(B層)用のポリプロピレン原料Dとして、結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)をB層用の単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B複合Tダイにて8/1の厚み比で積層し、30℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。このとき、基材層のポリプロピレン原料Cをキャストドラムに接地する面とした。ついで、複数のセラミックロールを用いて125℃に予熱を行いフィルムの長手方向に4.6倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、165℃で3秒間予熱後、160℃で8.0倍に延伸した。続く熱処理工程で、幅方向に10%の弛緩を与えながら160℃で熱処理を行ない、その後130℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、フィルムをコアに巻き取り、厚み19μmのポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例3)
実施例2において、積層構成を変更し、3層積層用のフィードブロック型のB/A/B複合Tダイにて1/58/1の厚み比で積層し、さらに、基材層(A層)用のポリプロピレン原料Cとして結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)85質量部と、炭酸カルシウム80質量%とポリプロピレン20質量%をコンパウンドしたマスター原料(三共精粉(株)製、2480K、炭酸カルシウム粒子:6μm)15質量部とをドライブレンドしてA層用の単軸の溶融押出機に供給し、それ以外は実施例2と同様の方法で、厚み30μmのポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。ここで表面物性の評価は、キャストドラムに設置していない方の表層を評価した。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例4)
実施例3において、基材層(A層)用のポリプロピレン原料Cとして結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)80質量部と、炭酸カルシウム80質量%とポリプロピレン20質量%をコンパウンドしたマスター原料(三共精粉(株)製、2480K、炭酸カルシウム粒子:6μm)20質量部とをドライブレンドしてA層用の単軸の溶融押出機に供給し、それ以外は実施例3と同様の方法で、厚み30μmのポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。ここで表面物性の評価は、キャストドラムに設置していない方の表層を評価した。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例5)
実施例2において、横延伸後の弛緩を0%として、それ以外は実施例2と同様の方法でポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。150℃の幅方向の熱収縮率が大きいため、プレス時にフィルムが変形し、シワが若干発生した。
【0089】
(比較例1)
実施例2において、基材層用のポリプロピレン原料Cとして結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)を使用(表層も基材層も同じ原料を使用)し、それ以外は実施例2と同様の方法でポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0090】
(比較例2)
実施例2において、表層(I)用のポリプロピレン原料Dとして、結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)93.3質量部と、炭酸カルシウム80質量%とポリプロピレン20質量%をコンパウンドしたマスター原料(三共精粉(株)製、2480K、炭酸カルシウム粒子:6μm)6.7質量部とをドライブレンドした原料を使用(表層も基材層も同じ原料を使用)し、それ以外は実施例2と同様の方法でポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
実施例2において、A/B層の積層厚み比を1/1の厚み比に変更し、それ以外は実施例2と同様の方法でポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0092】
(比較例4)
実施例1において、A/B層の積層厚み比を1/1の厚み比に変更し、それ以外は実施例1と同様の方法で厚み25μmのポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。B層の厚みが厚いため、表面自由エネルギー測定において滴下した液体が表層B層のネットワーク構造中に浸透し、表面自由エネルギーを測定することができなかった。
【0093】
(比較例5)
実施例3において、表層(I)(B層)用のポリプロピレン原料Dとして、結晶性PP(a)((株)プライムポリマー製、TF850H、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)50質量部と、低融点PP(住友化学(株)製、S131、融点132℃、MFR:1.5g/10分)50質量部とをドライブレンドしてB層用の単軸の溶融押出機に供給し、それ以外は実施例3と同様の方法で、厚み30μmのポリプロピレンフィルムを得た。ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。ここで表面物性の評価は、キャストドラムに設置していない方の表層を評価した。また、製造例1に記載の方法で繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。150℃の幅方向の熱収縮率が大きいため、プレス時にフィルムが変形し、シワが若干発生した。
【0094】
(比較例6)
市販のポリプロピレンマットフィルム(東レ(株)社製、YM−17)について、物性および評価結果を表1に示す。
【0095】
上記の実施例および比較例のポリプロピレンフィルムの表面物性の評価は、マット面の表層を評価した。また、製造例1に記載の方法で上記の実施例および比較例のポリプロピレンフィルムを使用して繊維強化複合材料を作製した。評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】