(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6137333
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】光照射装置及びそれを用いた光反応方法並びにラクタムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20170522BHJP
C07C 249/06 20060101ALI20170522BHJP
C07C 251/44 20060101ALI20170522BHJP
C07D 225/02 20060101ALI20170522BHJP
C07D 201/06 20060101ALI20170522BHJP
H01L 33/00 20100101ALN20170522BHJP
【FI】
B01J19/12 E
C07C249/06
C07C251/44
C07D225/02
C07D201/06
!H01L33/00 L
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-548506(P2015-548506)
(86)(22)【出願日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2015076415
(87)【国際公開番号】WO2016056370
(87)【国際公開日】20160414
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-208067(P2014-208067)
(32)【優先日】2014年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】内海 遼太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭39−022959(JP,B1)
【文献】
特公昭44−013498(JP,B1)
【文献】
特開2010−006776(JP,A)
【文献】
特開2008−246355(JP,A)
【文献】
実開平06−077107(JP,U)
【文献】
特開2012−089755(JP,A)
【文献】
特開2006−263609(JP,A)
【文献】
特開2000−126589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/12
C07C 249/06
C07C 251/44
C07D 201/06
C07D 225/02
H01L 33/00
A61L 2/08−2/10
C02F 1/30−1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反応の目的液としての反応液に光を照射する、発光ダイオードを光源とする光照射装置であって、前記発光ダイオードを備えた断面形状が星型の発光体と、該発光体を覆う第1光透過性容器を備え、その外部に、前記第1光透過性容器の内側の気相部を形成する気体よりも前記第1光透過性容器の屈折率に近い液体で形成される液相部と、さらにその液相部を覆う第2光透過性容器とを備えており、前記発光ダイオードが、その光軸を前記第1光透過性容器の内面の法線に対して10°以上30°以下にして設置されていることを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
前記液相部を形成する液体が不燃性液体である、請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記液相部を形成する液体が水である、請求項1または2に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記第2光透過性容器が、少なくとも前記第1光透過性容器の外周に沿って配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項5】
前記第1光透過性容器および前記第2光透過性容器の少なくとも一方が屈折率1.4以上の材質で構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項6】
前記第1光透過性容器および前記第2光透過性容器の少なくとも一方がガラス製である、請求項1〜5のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項7】
前記発光体が気相部で覆われており、該気相部が酸素濃度1%以下の気体で形成されている、請求項1〜6のいずれかに記載の光照射装置。
【請求項8】
前記気相部が不活性ガスで形成されている、請求項7に記載の光照射装置。
【請求項9】
前記気相部が窒素で形成されている、請求項7または8に記載の光照射装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の光照射装置を用いることを特徴とする光反応方法。
【請求項11】
第2光透過性容器の外部に存在する光の照射先の反応液の組成に少なくとも炭素原子が含まれている、請求項10に記載の光反応方法。
【請求項12】
前記光の照射先の液体がシクロアルカンである、請求項11に記載の光反応方法。
【請求項13】
前記シクロアルカンと光ニトロソ化剤に光照射することによりシクロアルカノンオキシムを製造する、請求項12に記載の光反応方法。
【請求項14】
前記シクロアルカノンオキシムがシクロヘキサノンオキシムまたはシクロドデカノンオキシムである、請求項13に記載の光反応方法。
【請求項15】
前記光ニトロソ化剤が塩化ニトロシルまたはトリクロロニトロソメタンである、請求項13または14に記載の光反応方法。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれかに記載の光反応方法で製造したシクロアルカノンオキシムを用いることを特徴とするラクタムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードを光源として使用した光照射装置、その光照射装置を用いた光反応方法、その光反応方法を用いたラクタムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光反応は、光化学反応とも言われ、光照射により、すなわちラジカル反応剤に照射光によるエネルギーを吸収させることにより、分子をエネルギー準位の高い状態、いわゆる励起状態とし、励起された分子により反応を起こさせる化学反応全般を指す。光反応には、光による酸化・還元反応、光による置換・付加反応などの種類があり、適用用途としては写真工業、コピー技術、光起電力の誘起の他、有機化合物の合成に利用されることが知られている。また、非意図的な光化学反応としては光化学スモッグなども光化学反応に属する。
【0003】
例えば、シクロヘキサノンオキシムを光化学反応により合成できることが知られており、また、シクロアルカンの光ニトロソ化についても、現在では広く知られた技術である。
【0004】
これまでに用いられてきた光反応のための光源としては、いずれも真空または真空に近い環境に水銀やタリウム、ナトリウム、その他金属を封入して電圧を印加し、放出される電子線を封入金属に照射することで、気体または蒸気の中での放電による発光を利用したランプ、例えば放電灯や蛍光灯を光源として使用する場合がほとんどである。
【0005】
例えば、高圧水銀灯を光源として使用する場合、有効波長は365nm〜600nmである。しかし、この種の水銀を用いる放電灯では、365nm未満の紫外線を含む波長領域にも水銀による特有の発光エネルギーが存在している。そのため、例えば350nm未満の紫外線を含む短波長領域に発光エネルギーを有する場合、多くの化学結合の解離エネルギーに匹敵するので、目的以外の反応が進行して、副反応を助長し、かつタール状の褐色被膜が放電灯の光照射面に生成し収率を低下させてしまう。したがって、紫外線をカットするために、水溶性蛍光剤の使用や紫外線カットガラスが使用される。
【0006】
このような水銀灯における問題を低減し、かつ発光効率を上げるために、波長535nmに有効な発光エネルギーを示すタリウム灯や波長589nmに有効な発光エネルギーを示すナトリウム灯が有効であることが知られている。ナトリウム灯を光源とすることで、飛躍的に収率を上げ、安定した反応が可能になる。さらに、高圧ナトリウム放電灯を用いることで、工業的な有効波長は400〜700nmとして、波長600nm〜700nmの波長領域で効率アップが可能となる。この範囲での、ピーク波長は約580〜610nm程度と推定できる。しかし、放電灯の電気特性や始動を良好にするためには、水銀の共存は避けられず、水銀による紫外線をカットするフィルターは必要である。とくに、水銀により発生する波長400nm未満の短波長は、エネルギーが強すぎ不要な副反応を引き起こすため、不要な波長とされている。
【0007】
さらに、ナトリウム灯は、波長780〜840nmの赤外線を含む波長領域に、特有の発光エネルギーピークを有し、そのエネルギー強度はナトリウム灯での最大発光エネルギーに匹敵するレベルのものも多い。塩化ニトロシルの解離エネルギーは約156J/molであり、Einsteinの法則より、波長760nm付近の発光エネルギーに匹敵するため、それ以上の長波長領域では光エネルギーが小さく、塩化ニトロシルが解離しないので、反応に寄与せず大きなエネルギーロスになる。
【0008】
発光ダイオードは、LEDとも略称され、半導体を用いて電気エネルギーを直接光に転換できる利点があり、熱の発生の抑制、省エネルギー、長寿命等の点で注目されている。その開発の歴史はまだ浅く、1962年に赤色LEDが商品化され、2000年頃から青色、緑色、白色といったLEDが開発され、表示用、照明用途として商品化された。一方、光反応用に使用されている放電灯は、非常に高出力であり、発光効率も高いが、放電灯と同等の光反応に必要な発光エネルギーをLEDで得ようとすると、LEDの必要個数が膨大となり、回路設計やLEDの熱対策やコスト面の課題が残されており、光反応の光源としてLEDを適用することは困難であると考えられてきた。さらに、光反応には反応液に均一な光を照射させることが必要であるが、LEDは指向性が強く、反応に必要な波長を高効率で得ることも困難であり、この点からも光反応の光源へのLEDの適用は困難と考えられてきた。しかし、近年では特許文献1や特許文献2に記載の通り、LEDによる光反応を小型の反応装置を用いて実施する例も見られ、さらに特許文献2に記載の通り、発光体を大型化するための課題についても解決の目処が立ちつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−06776号公報
【特許文献2】特開2013−200944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしこれら特許文献1や2に開示の発明では、発光ダイオードから直線的に放出される光を必ずしも有効利用できる光照射装置の構造を提案できているとはいえない。また、光反応を目的とするならば、目的液が可燃性液体の場合がほとんどであり、着火源となる光照射装置と目的液との物理的分離が必須であるが、特許文献1や2に開示の発明では、分離のための光照射経路における障害物、つまり光透過性容器によって、光が反射により遮られ、光透過の割合が低下するという問題があった。
【0011】
そこで本発明の課題は、光透過性容器により隔離された発光ダイオード光源と目的液との間での光の反射を抑制することにより、高い光透過率をもって望ましい光照射を達成することが可能な光照射装置と、その光照射装置を用いた光反応方法、その光反応方法を用いたラクタムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、光透過性容器を備えたLED光源から目的液への光照射経路に特定の屈折率を有する液相を介在させることにより、望ましくは放射角の狭いLEDからの光の照射角を光透過性容器に対して特定の範囲に設定することにより、光透過性容器表面における光の反射、とりわけ高屈折率物質から低屈折率物質に移行する際に発生する光の反射を抑制し、光エネルギーの散逸によるエネルギー損失を抑えて、LED光源から目的液への光照射を効率よく行うことが可能であることが見出された。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では以下の構成を採用する。すなわち、
(1)
光反応の目的液としての反応液に光を照射する、発光ダイオードを光源とする光照射装置であって、前記発光ダイオードを備えた断面形状が星型の発光体
と、該発光体を覆う第1光透過性容器を備え、その外部に、前記第1光透過性容器の内側の気相部を形成する気体よりも前記第1光透過性容器の屈折率に近い液体で形成される液相部と、さらにその液相部を覆う第2光透過性容器とを備えており、前記発光ダイオードが、その光
軸を前記第1光透過性容器の内面の法線に対して10°以上
30°以下にして設置されていることを特徴とする光照射装置。
(2)前記液相部を形成する液体が不燃性液体である、(1)に記載の光照射装置。
(3)前記液相部を形成する液体が水である、(1)または(2)に記載の光照射装置。
(4)前記第2光透過性容器が、少なくとも前記第1光透過性容器の外周に沿って配置されている、(1)〜(3)のいずれかに記載の光照射装置。
(5)前記第1光透過性容器および前記第2光透過性容器の少なくとも一方が屈折率1.4以上の材質で構成されている、(1)〜(4)のいずれかに記載の光照射装置。
(6)前記第1光透過性容器および前記第2光透過性容器の少なくとも一方がガラス製である、(1)〜(5)のいずれかに記載の光照射装置。
(7)前記発光体が気相部で覆われており、該気相部が酸素濃度1%以下の気体で形成されている、(1)〜(6)のいずれかに記載の光照射装置。
(8)前記気相部が不活性ガスで形成されている、(7)に記載の光照射装置。
(9)前記気相部が窒素で形成されている、(7)または(8)に記載の光照射装置。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の光照射装置を用いることを特徴とする光反応方法。
(11)
第2光透過性容器の外部に存在する光の照射先
の反応液の組成に少なくとも炭素原子が含まれている、(10)に記載の光反応方法。
(12)前記光の照射先の液体がシクロアルカンである、(11)に記載の光反応方法。
(13)前記シクロアルカンと光ニトロソ化剤に光照射することによりシクロアルカノンオキシムを製造する、(12)に記載の光反応方法。
(14)前記シクロアルカノンオキシムがシクロヘキサノンオキシムまたはシクロドデカノンオキシムである、(13)に記載の光反応方法。
(15)前記光ニトロソ化剤が塩化ニトロシルまたはトリクロロニトロソメタンである、(13)または(14)に記載の光反応方法。
(16)(13)〜(15)のいずれかに記載の光反応方法で製造したシクロアルカノンオキシムを用いることを特徴とするラクタムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、LEDを光源とする
断面形状が星型の発光体と目的液としての反応液とを分離するために設けられた第1、第2の光透過性容器間に、第1光透過性容器の内側の気相部を形成する気体よりも第1光透過性容器の屈折率に近い液体で形成される液相部を介在させることにより、LED光源から目的液へ照射される光の反射を効率よく抑制できる。また、第1光透過性容器の内面への光の入射角を小さくすれば、より効率よく光の反射を抑制できる。このように光の反射を抑制することで光透過率を上げ、大きなエネルギー損失を伴うこと無く目的液に対して光照射を行うことができ、光化学反応において高い反応収率、反応収量を得ることが可能になる。とくに、本発明は、シクロアルカノンオキシムを製造するための光反応、そのシクロアルカノンオキシムを用いるラクタムの製造に極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施態様に係る光照射装置の概略縦断面図である。
【
図2】
図1の光照射装置の拡大概略横断面図である。
【
図5】
図1の光照射装置における光照射の様子の一例を示す拡大横断面図である。
【
図6】媒体間の境界面における光の屈折の一例を示す模式図である。
【
図7】媒体間の境界面における光の屈折の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明において、光照射装置とは光を放つ発光体を備え、対象物へ光を照射することのできる装置である。対象物とは
、光反応の目的液としての、原料となる反応液である。
図1〜
図4は、本発明の一実施態様に係る光照射装置を示しており、とくに、目的液としての反応液に光照射装置からの光を照射する場合の一例について示している。
図1および
図2に示す例では、光照射装置1は、反応容器2内の反応液3の光反応に使用されるべく、反応容器2内に挿入されている。光照射装置1は、
図1に示す装着姿勢において、上部に電源供給部4を供え、下部に多数の発光ダイオード(以下、LEDと略称することもある。)5(
図2に図示)を備えた発光体6を備えており、電源供給部4の上部側は蓋7によって封止されている。発光体6は第1光透過性容器8で覆われており、本実施態様では、第1光透過性容器8の内側、つまり、発光体6と第1光透過性容器8との間は気相部9に形成されている。第1光透過性容器8の外側には、第2光透過性容器10が設けられており、第1光透過性容器8と第2光透過性容器10との間の層は、液相部11に形成されている。この液相部11は、気体よりも第1光透過性容器8の屈折率に近い液体で形成されており、例えば、第1、第2光透過性容器8、10間に不燃物液体が充填されることによって形成されている。
【0017】
発光ダイオードとは、紫外線、可視光、赤外光を放射する発光ダイオードで、使用する発光ダイオード5としては、光照射装置1の用途で必要とされる波長を選択した種類が適宜選定できる。発光ダイオード5の形状や寸法には特に制限はなく、目的に合わせた形状・寸法のものを使用できる。一般的な砲弾型や実装型、チップ型等のいずれでもよいが、発光ダイオード5の裏面側から放熱できるものが、除熱が容易であるので望ましい。また、発光ダイオード5の裏面に放熱基板が設けられているものは、伝熱面積を大きく取れ冷却性能が向上するので望ましい。
【0018】
本発明において、発光体とは光照射装置中において光を発する面を持つ部分のことである。具体的には、例えば、複数個の発光ダイオード5を
図4に示すように平面基板12上に搭載し、その平面基板12を、
本発明においては断面形状が星型となるように、例えば
図2、
図3に示すような横断面形状が星型16角形となる構造体13の各外装面に装着することで外側に向けて光を照射することができる。
【0019】
この場合、発光体6の形状は上記平面基板12を配置する構造体13の形状で決まる。ただし、発光体6の形状
として、本発明においてはとくに星型の断面形状を採用している。また、発光体6の断面形状を変えることで、発光ダイオード配置面の面積が変化し、発光ダイオードの可能搭載個数を増減することができ、目的に合わせた形状とすることができる。
発光体6の断面形状を星型とすることで、発光ダイオードの可能搭載個数を増加させることができる。
【0020】
第1光透過性容器8は、発光体6を覆う容器であり、発光体6を外部から保護するために設置される。この第1光透過性容器8は、光を透過する材質を用いて構成されればよい。光透過性容器に透過波長選択性がある素材を用いると、不要波長の光の透過を抑制することが可能である。第1光透過性容器8の全体形状としては、例えば
図1に示すように試験管型のものが例示できるが、形状にとくに制限はなく、円筒型や箱型、球型など目的に応じた形状を適宜選択できる。
【0021】
第2光透過性容器10は、第1光透過性容器8の外に配置される容器であり、第1光透過性容器8と同様に光を透過する材質を用いて構成されればよい。この第2光透過性容器10の材質は、第1光透過性容器8と同じでも、異なっていてもよい。形状は、例えば
図1に示すように試験管型のものが例示できるが、形状にとくに制限はなく、円筒型や箱型、球型など目的に応じた形状が選択でき、また、第1光透過性容器8と相似形状でも、異なる形状でもよい。
【0022】
本発明において、第1光透過性容器の内側の気相部を形成する気体よりも第1光透過性容器の屈折率に近い液体で形成される液相部とは、第1光透過性容器との屈折率差が上記気体よりも小さくなるような液体で形成される部分のことであり、例えばそのような液体が充填されて形成された部分のことである。この液相部では、上記液体を常時流通させてもよく、封入してもよい。
図1、
図2に示したように、液相部11は、第1光透過性容器8と第2光透過性容器10の間に介在される。
【0023】
液相部11に液体、例えば水を流通させる場合には、通液する水の温度を下げることで、水の屈折率を上げ、第1光透過性容器との屈折率差をさらに小さくできる。また、水以外にも目的に応じて不燃性の液体かつ第1光透過性容器との屈折率差が小さい液体を使用することができる。また、目的に応じて水に不活性な液体を添加して使用してもよい。添加によって屈折率を変化させることが可能である。
【0024】
本発明においては、上記のような液相部11を第1光透過性容器8と第2光透過性容器10の間に介在させることにより、発光体6からの光の照射経路における反射によるエネルギーロスを抑制する。
【0025】
図6、
図7を用いて、互いに異なる屈折率n1、n2の媒体1、2の境界面での光の屈折、反射について説明する。光は、屈折率の異なる媒体の境界面で反射ロスを生じる。光の表面反射率は次式(1)で示され、境界面を形成する媒体の屈折率差が大きいほど反射ロスが大きいことが知られている。なお、ここでθ1は入射角、θ2は屈折角を示す。
表面反射率R=0.5×{tan(θ1−θ2)/tan(θ1+θ2)}
2+{sin(θ1−θ2)/sin(θ1+θ2)}
2 ・・・(1)
【0026】
つまり、光路上に屈折率差の大きい媒体境界面がある場合、光の反射によるロスが大きくなる。そこで、本発明では、第1光透過性容器8と第2光透過性容器10の間の空間に、なるべく屈折率の差が小さくなるような液体で形成される液相部11を介在させることにより、反射による光エネルギーロスを小さくするようにしている。
【0027】
例えば
図5に、
図1の光照射装置1により光照射を行う場合の、屈折、反射を伴う光路の一例を示す。
図5に示すように、発光ダイオード5の光軸21に沿って照射され、第1光透過性容器8の内面の法線22に対し所定の入射角23で入射された入射光は、第1光透過性容器8の内面で屈折して第1光透過性容器8の材質内を透過し、第1光透過性容器8の外面と液相部11との境界面とその法線24に対し入射角25で入射し、該境界面で屈折して液相部11内を透過し、液相部11と第2光透過性容器10との境界面で屈折して第2光透過性容器10の材質内を透過し、第2光透過性容器10の外面で屈折して透過光26として反応液3に照射される。図示例では、気相部9と第1光透過性容器8との境界面、第1光透過性容器8と液相部11との境界面、液相部11と第2光透過性容器10との境界面、第2光透過性容器10と反応液3との境界面で、それぞれ反射光27が生じることになるが、液相部11を、第1光透過性容器8との屈折率差が気体よりも小さくなるような液体で形成しておくことで、反射による光エネルギーロスを小さくすることができる。とくに、液相部11が仮に気体で形成されている場合に比べ、液相部11中を透過する光の第2光透過性容器10への入射光の容器面法線に対する入射角を小さく抑えることができるので、第1光透過性容器8と液相部11との境界面、液相部11と第2光透過性容器10との境界面における反射による光エネルギーロスを小さくすることができる。
【0028】
ここで、発光ダイオード5の光軸21とは、前述の平面基板上に搭載された発光ダイオード5から放射される光束の仮想的な中心線である。例えば、平面基板中に複数の発光ダイオードを等密度で配置して光を照射する場合、光軸は平面基板の重心から平面基板と垂直な方向に延びる線となる。
【0029】
容器面への光の入射角は、発光ダイオード5が配置された発光面と容器面の位置関係、具体的には、発光面と容器面のなす角によって決まる。発光面と容器面のなす角は、発光ダイオード5を配置した構造体13の形状と、容器の形状によって決まるため、該構造体13と容器の形状を調整することで、入射角を調整することができる。
【0030】
前述の(1)式によれば、光の反射率は、入射角によって変化し、入射角が小さいほど反射率は小さく、光のロスは小さくすることができる。
【0031】
第1光透過性容器8への入射角は、本発明では
、発光体の断面形状が星型であることも考慮して、
後述の表2にも示されるように、反射率がほとんど増加せず低いままに維持される10°以上
30°以下として
いる。
【0032】
すなわち、発光ダイオード5の光軸を第1光透過性容器8の内面の法線に対して
30°以下に設置す
る。これは、該光軸の中心と光透過性容器面8の法線の成す角、つまり光透過性容器面8への光の入射角が
30°以下となるよう、発光ダイオード5を配置することである。
【0033】
さらには、高屈折率の媒体側から低屈折率の媒体側へ光を入射する際、ある入射角以上では、入射光の全てが透過しなくなる全反射を起こすことが知られている。全反射を起こす最小入射角を臨界角と呼び、臨界角は入射側媒体屈折率n1と透過側媒体屈折率n2を用いて次式(2)で示される。臨界角以上の入射角で入射した光は透過することなく、境界面ですべて反射される。そのため、入射角が臨界角を超えないようにすることが反射ロスの抑制に重要である。ここで
臨界角θc = arcsin(n2/n1)・・・(2)
【0034】
このように、発光体6から照射された光を2つの光透過性容器8、10の外側にある反応液3へ有効に伝えることは、第1光透過性容器8と第2光透過性容器10の間の空間を、光透過性容器と屈折率が近い媒体とすることと、容器面への入射角度を小さくすることで達成できる。
【0035】
本発明においては、上記光透過性容器と屈折率が近い媒体として、液相部11を形成する液体を使用することが好ましい。なお、本発明において、不燃性液体とは消防法で指定される危険物に該当しない液体であり、光を透過する液体である。具体的には、エチレングリコール50%水溶液、シリコンオイル、水などが例示できる。
【0036】
液相部11を形成する液体と第1光透過性容器8との屈折率差としては、光透過性容器と空気との屈折率差よりも小さいほどよく、液相部11を形成する液体としては、水に糖などを溶解したものや、グリセリン水溶液など、水に溶解性物質を溶解して屈折率を調整したものでもよい。また、温度によって屈折率は変化するため、温度を調節することで屈折率を調整してもよい。
【0037】
また、上記液体に、特有波長の光を吸収する物質を添加することで、反応に不要な特定波長の光を除去してもよい。
【0038】
本発明においては、第1、第2光透過性容器は少なくとも一方が、屈折率1.4以上の材質で構成されていることが好ましい。このような材質としては、樹脂をはじめとする有機系材料でもガラスをはじめとする無機系材料のいずれでもよい。より具体的には、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネード、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、硼珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラスなどが挙げられる。
【0039】
液相部に充填される、水をはじめとする不燃性液体の屈折率は、一般に光透過性固体の屈折率よりも小さい。中でも、液相部との屈折率差が小さくなる材質が好ましいことから、光透過性容器は光透過性固体の中でも低い屈折率を持ち、かつ高い耐圧性、化学安定性を持つ硼珪酸ガラスを使用することがより好ましい。
【0040】
第1、第2光透過性容器には、特定波長の光を吸収する材質を用いてもよい。光反応に不要な波長を容器に吸収させることで光反応に必要な波長のみを反応液へ透過させることができる。
【0041】
本発明において、発光体6が気相部9で覆われているとは、発光体6と第1光透過性容器8の間の空間に気体が充填されている状態のことである。
【0042】
上記気相部9は、酸素を含んでいる場合、発光ダイオード5をはじめとする電子部品の酸化劣化の原因となる。そのため、発光体6の寿命を長くするためには、酸素濃度2%以下の気体、より好ましくは1.5%以下の気体であることが望ましい。
【0043】
気相部9を形成する気体としては、不活性ガスを用いることができ、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガス類が例示できるが、容易かつ安価に入手可能な不活性ガスとして窒素を用いることが好ましい。この気相部9については、気体を常時流しても、密封状態としてもよい。
【0044】
本発明においては、光の照射先が液体であって、炭素原子を含むものとすることができる。すなわち、本発明に係る光照射装置は光反応の光源に使用することができ、光の照射先は少なくとも1つは液体で構成される原料系とすることができる。原料となる液体は、炭素原子を含む液体であればとくに制限はなく、例えばアルカン、シクロアルカンなどの炭化水素類を例示できる。
【0045】
本発明において、シクロアルカンは、特にその炭素数は限定しないが、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカンが好ましい。特に、ε−カプロラクタムの原料となるシクロヘキサン、ω−ラウリルラクタムの原料となるシクロドデカンが好ましい。
【0046】
上記のシクロアルカンおよび光ニトロソ化剤を用いて、発光ダイオードの光照射による光化学反応にてシクロアルカノンオキシムが得られる。光ニトロソ化剤には、例えば、塩化ニトロシル、塩化ニトロシルと塩化水素との混合ガスが好ましい。その他、一酸化窒素と塩素との混合ガス、一酸化窒素と塩素と塩化水素との混合ガス、ニトローゼガスと塩素との混合ガス等のいずれも光反応系にて、塩化ニトロシルとして作用するので、これらニトロソ化剤の供給形態に限定されるものではない。また、塩化ニトロシルとクロロホルムを光化学反応させて得られるようなトリクロロニトロソメタンをニトロソ化剤として用いてもよい。光化学反応を塩化水素の存在下で行う場合、シクロアルカノンオキシムはその塩酸塩となるが、そのまま塩酸塩の形態でもよい。
【0047】
上記の光反応によって、シクロアルカンの炭素数に応じたシクロアルカノンオキシムを得ることができる。例えば、シクロヘキサンを用いた塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応ではシクロヘキサノンオキシムが得られる。また、シクロドデカンを用いた塩化ニトロシルによる光ニトロソ化反応ではシクロドデカノンンオキシムが得られる。
【0048】
<ラクタムの製造方法>
本発明に係る光照射装置を用いて、光化学反応を行い、得られたシクロアルカノンオキシムをベックマン転位することによってラクタムが得られる。例えば、シクロヘキサノンオキシムをベックマン転位する反応では以下の反応式[化1]で示すようにε−カプロラクタムが得られる。また、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位する反応ではω−ラウロラクタムが得られる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
実施例1、参考実施例1
発光ダイオードを光源とする発光体について、第1光透過性容器に屈折率1.49の硼珪酸ガラスを用い、気相部はN
2で形成し、第1光透過性容器を覆う液相部に水を配置し、第1光透過性容器から容器外面と液相部の境界面への入射角を変化させた場合の第1光透過性容器から液相部への光の透過率を算出した。表1に結果を示すように、高い透過率が得られた。液相部に水を配置した場合は入射角70度以上で全反射となった(参考実施例1)。
【0051】
比較例1、参考比較例1
液相部に、N
2を充填する以外は実施例1と同様にして透過率を算出した。結果を表1に示す。液相部に水を配置した場合と比較して、透過率は低くなった。液相部にN
2を充填した場合は入射角50度以上で全反射となった(参考比較例1)。
【0052】
【表1】
【0053】
また、液相部に水を配置した場合、N
2を充填した場合に比べ、全反射を起こす臨界角が大きくなるため、光をより有効に利用することができる。
【0054】
実施例2
発光ダイオードを光源とする発光体について、発光ダイオードを覆う気相部にN
2を用い、第1光透過性容器に屈折率1.49の硼珪酸ガラスを用いた。発光ダイオードの光軸上の光の気相部から第1光透過性容器内面への入射角を10°とし、気相部から第1光透過性容器への光の透過率を算出した。結果を表2に示す。
【0055】
実施例3〜
4、参考実施例5〜9
該入射角を20°〜80°にする以外は実施例2と同様にして光透過率を算出した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る光照射装置は効率の良い光照射が望まれるあらゆる分野に適用可能であり、とくに、その光照射装置を用いる光反応方法、その光反応方法を用いたラクタムの製造方法に好適なものである。
【符号の説明】
【0058】
1 光照射装置
2 反応容器
3 反応液
4 電源供給部
5 発光ダイオード
6 発光体
7 蓋
8 第1光透過性容器
9 気相部
10 第2光透過性容器
11 液相部
12 基板
13 構造体
21 光軸
22 第1光透過性容器の内面の法線
23 容器内面への入射角
24 容器外面の法線
25 容器外面への入射角
26 透過光
27 反射光